「位相空間論」一貫版

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「位相空間論」一貫版

《分割版である入門テキスト「位相空間論」もご覧ください。》

このテキストにおいては、現代数学のどの方面に進むにあたっても必要となる位相空間論の基本事項を、証明をつけた形で解説する。読者には、集合と写像の言葉への慣れを期待する。たとえば、和集合・共通部分などの集合の操作や、全射・単射・像・逆像などの概念には親しんでいるものとする。さらに、具体例を理解するためには、連続性の $\varepsilon$-$\delta$ 論法を用いた定義や、数列の収束の定義、実数の基本性質などを理解していることが望ましい。

現代数学では、点の集まりとしての集合に構造を付加することにより、多彩な概念を構成していく。例えば、代数学においては、集合に加法や乗法などの演算という構造を付加してなどといった概念を考える。位相空間は、集合にある種の構造を付加することで、写像の連続性や点列の収束など、ある種の「近さ」にまつわる議論を可能にしたものである。つまり、端的に言えば、位相空間とは「近さ」が定義される場所である。

座標平面 $\mathbb{R}^2$ の中には、我々が慣れ親しんだ数多くの図形、たとえば、線分、円、三角形、四角形がある。こうした図形には、自然に「近さ」の概念があると考えられるが、実際にこれらの図形は $\mathbb{R}^2$ からの相対位相という自然な方法で、位相空間とみなすことができる。しかし、図形を位相空間とみなすことは、同時に「近さ」以外の要素を捨象することでもある。その結果として、通常では同じとは思えない図形が、位相空間として同一(正式な用語では「同相」)となることがある。実際、いま述べた円、三角形、四角形はすべて互いに同相である。しかし、線分はこれらと同相ではない。このように、位相空間の立場では図形がかなり「粗く」分類されることになるが、この立場での図形の分類を目指す学問が位相幾何学である。

上に述べたことからも、位相空間論は幾何学の基礎として重要なことは推察されると思うが、位相空間論の重要性は幾何学に留まるものではない。数学の様々な分野で、直観的には図形とは思えない集合に位相空間の構造を与えることで、ある種の図形的考察が可能となる。一つ例を挙げれば、関数解析学においては、関数のなす集合に位相空間としての構造を与えることで「関数空間」をつくり、関数を点とする一種の図形として取り扱うことで解析学の問題解決に豊富な道具を提供している。

位相空間論0:Euclid空間の位相

はじめに、位相空間を定義する動機付けとして、Euclid空間 $\mathbb{R}^n$ の場合に、写像の連続性を開集合の概念を通して扱うことを考えてみる。ここでは、 $\varepsilon$-$\delta$ 論法を用いた連続性の定義にすでに触れていることが望ましい。


このテキストでは、$\mathbb{N}$ によって正の整数の全体を表す。$n\in\mathbb{N}$ に対して、Euclid空間 $\mathbb{R}^n$ とは、実数 $n$ 個の組 $(x_1,\ldots, x_n)$ の全体からなる集合である。$x=(x_1,\ldots, x_n)$, $y=(y_1,\ldots, y_n)\in\mathbb{R}^n$ と $t\in\mathbb{R}$ に対して、 $$ x\pm y=(x_1\pm y_1,\ldots, x_n\pm y_n), \quad tx=(tx_1,\ldots, tx_n) $$ と定義する。$x=(x_1,\ldots, x_n), y=(y_1,\ldots, y_n)\in\mathbb{R}^n$ に対して、 $x$ と $y$ のEuclid内積 $x\cdot y$ および $x$ のEuclidノルム $\|x\|$ を $$ x\cdot y=\sum_{i=1}^n x_iy_i,\quad \|x\|=\sqrt{x\cdot x}=\sqrt{\sum_{i=1}^n x_i^2} $$ で定義する。Euclidノルム $\|x\|$ は、$x$ と原点 $0=(0,\ldots,0)$ の間の通常の意味での距離であり、常に0以上の値をとる。このとき、次が成り立つ。

命題 0.1 (Cauchy-Schwarz の不等式)

$x, y\in\mathbb{R}^n$ に対して、$(x\cdot y)^2\leq \|x\|^2\|y\|^2$ である。

Proof.

$x=0$ の場合、不等式は明らかに成立するので $x\neq 0$ とする。 $t\in\mathbb{R}$ に対して $\varphi(t)=\|tx+y\|^2$ とおくと $$ \varphi(t)=t^2\|x\|^2+2 tx\cdot y+\|y\|^2 $$ である。$\varphi(t)$ は $t$ の2次関数であって、$t$ によらず 常に $\varphi(t)\geq 0$ である。 よって、その判別式は0以下である。これから、求める不等式が得られる。

命題 0.2 (Euclid空間のノルムの性質)

任意の $x, y\in\mathbb{R}^n$ に対して、$\|x+y\|\leq \|x\|+\|y\|$ が成り立つ。

Proof.

$x=(x_1,\ldots, x_n)$, $y=(y_1,\ldots, y_n)$ とすると、 $$ (\|x\|+\|y\|)^2-\|x+y\|^2=(\|x\|^2+2\|x\|\|y\|+\|y\|^2)-(\|x\|^2+2x\cdot y+\|y\|^2)=2(\|x\|\|y\|-x\cdot y) $$ であるが、命題 0.1により最右辺は0以上となる。よって、求める不等式が得られる。


一般に、二点 $x, y\in\mathbb{R}^n$ の間の距離 $d(x, y)$ は $$ d(x, y)=\|x-y\|=\sqrt{(x_1-y_1)^2+\cdots+(x_n-y_n)^2} $$ により定義される。すると、次が成り立つ。

命題 0.3 (Euclid距離の性質)

任意の $x, y, z\in\mathbb{R}^n$ に対して、次が成り立つ。

  • $d(x, y)=0\Longleftrightarrow x=y$
  • $d(x, y)=d(y, x)$
  • $d(x, z)\leq d(x, y)+d(y, z)$(三角不等式)
Proof.

はじめの二つの性質は明らかだろう。最後の三角不等式は、命題 0.2 により $$ d(x, z)=\|x-z\|=\|(x-y)+(y-z)\|\leq \|x-y\|+\|y-z\|=d(x, y)+d(y, z) $$ となることから分かる。

距離の概念を用いて、Euclid空間における開球体の概念が定義できる。

定義 0.4 (Euclid空間における開球体)

$x\in\mathbb{R}^n$ と $r>0$ に対して、$\mathbb{R}^n$ の部分集合 $B(x, r)$ を $$ B(x,r)=\{y\in\mathbb{R}^n\,|\,d(y,x)<r\} $$ により定義する。$B(x, r)$ を、$x$ を中心とする半径 $r$ の開球体という。$\square$

さて、Euclid空間の間の写像$f\colon \mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^m$ を考えよう。($n$ と $m$ は異なっていてもよい。)この写像 $f$ が $a\in\mathbb{R}^n$ において連続であることは、次のように定義されるのだった。

  • 写像 $f\colon \mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^m$ が点 $a\in\mathbb{R}^n$ において連続であるとは、任意の $\varepsilon>0$ に対して、$\delta>0$ であって次の条件を満たすものが存在することである:
「$d_{\mathbb{R}^n}(x,a)<\delta$ を満たすすべての $x\in\mathbb{R}^n$ に対して、$d_{\mathbb{R}^m}(f(x), f(a))<\varepsilon$ が成り立つ。」

ここで、定義域 $\mathbb{R}^n$ と終域 $\mathbb{R}^m$ の距離を区別するために、記号 $d_{\mathbb{R}^n}$ と $d_{\mathbb{R}^m}$ を用いた(これは本来必要な区別であるが、記号が煩雑になるのを避けるため、以下では両者を単に $d$ で表す)。

このように定義した上で、写像 $f\colon \mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^m$ が連続であることは、任意の $a\in\mathbb{R}^n$ に対して、$f$ が点 $a$ において連続であることと定義されるのだった(さきほど述べたのは、$a\in\mathbb{R}^n$ を固定したときに $f$ が点 $a$ において連続であることの定義である。いまは点を指定せずに $f$ そのものが連続であることの定義を述べたのである)。

さて、写像 $f\colon \mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^m$ の連続性は、開球体の言葉で言い換えると次のようになる(これが単なる言い換えにすぎないことを確認せよ。証明は省略する)。

命題 0.5 (開球体を用いた連続性の言い換え)

写像 $f\colon \mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^m$ が点 $a\in\mathbb{R}^n$ において連続であることは、次のことと同値である:

「任意の $\varepsilon>0$ に対して、ある $\delta>0$ が存在して $f(B_{\mathbb{R}^n}(a,\delta))\subset B_{\mathbb{R}^m}(f(a), \varepsilon)$ となる。」$\square$

ここでも、開球体が $\mathbb{R}^n$ 内のものか $\mathbb{R}^m$ 内のものかをはっきりさせるため、あえて添字に $\mathbb{R}^n$, $\mathbb{R}^m$ を付けて、$B_{\mathbb{R}^n}(a,\delta)$, $B_{\mathbb{R}^m}(f(a), \varepsilon)$ のような表記を用いた。

実は、連続性の概念は、次に導入する開集合の言葉によってより簡潔に言い表される。

定義 0.6 (Euclid空間における開集合)

$U$ を $\mathbb{R}^n$ の部分集合とする。$U$ が $\mathbb{R}^n$ の開集合であるとは、任意の $x\in Us$ に対して、ある $r>0$ が存在して $B(x, r)\subset U$ が成り立つことをいう。$\square$

つまり、$U$ が開集合とは、$U$ のどの点に対しても、その点を中心とする十分小さい開球体が $U$ に含まれていることである。すでに導入した開球体は開集合の例である。すなわち、

命題 0.7 (開球体は開集合である)

任意の $x\in\mathbb{R}^n$ と $r>0$ に対して、開球体 $B(x, r)$ は $\mathbb{R}^n$ の開集合である。

Proof.

$x\in\mathbb{R}^n,$ $r>0$ を任意に与える。$B(x, r)$ が開集合であることを示そう。$y\in B(x, r)$ とする。このとき、$B(y, r')\subset B(x, r)$ であるような $r'>0$ が存在することを示せばよい。$B(x, r)$ の定義により、$d(x, y)<r$ である。そこで、$r'=r-d(x, y)$ とおけば、$r'>0$ である。このとき、任意に $z\in B(y, r')$ を与えると、$d(y, z)<r'$ であるので、命題 0.3の三角不等式により、 $$ d(x, z)\leq d(x, y)+d(y, z)<d(x, y)+r'=r $$ である。よって、$z\in B(x, r)$ である。したがって、$B(y, r')\subset B(x, r)$ である。これで、$B(x, r)$ が開集合であることが示された。

平面 $\mathbb{R}^2$ の場合でいえば、上の結果は、円の内部 $$ \{(x,y)\in\mathbb{R}^2\,|\,(x-a)^2+(y-b)^2<r^2\} $$ が $\mathbb{R}^2$ の開集合であることを意味している。 このほかにも、例えば、「境界を含まない長方形」 $$ \{(x,y)\in\mathbb{R}^2\,|\,a<x<b,\, c<y<d\} $$ は $\mathbb{R}^2$ の開集合である(証明してみよ)。開集合の直観的なイメージとしては、ひとまずこのような平面内の「境界を含まない図形」を思い浮かべるのがよいだろう。

開集合は、次の性質をもつ。これは、後の位相空間の定義を理解するために重要である。

命題 0.8 (開集合の性質)

$\mathbb{R}^n$ の開集合について、以下のことが成り立つ。

  • (1) $\emptyset$ および $\mathbb{R}^n$ は $\mathbb{R}^n$ の開集合である。
  • (2) $\mathbb{R}^n$ の二個の開集合の共通部分は、再び $\mathbb{R}^n$ の開集合である。すなわち、$U_1, U_2$ が $\mathbb{R}^n$ の開集合であるならば、$U_1\cap U_2$ も $\mathbb{R}^n$ の開集合である。
  • (3) $\mathbb{R}^n$ の任意の個数の開集合の和集合は、再び $\mathbb{R}^n$ の開集合である。すなわち、以下が成り立つ:$\{U_\lambda\,|\,\lambda\in \Lambda\}$ を $\mathbb{R}^n$ の開集合を要素とする集合とする(有限集合でも、無限集合でもよい)。このとき、和集合 $\bigcup_{\lambda\in \Lambda} U_i$ も $\mathbb{R}^n$ の開集合である。
Proof.

(1) まず、$\mathbb{R}^n$ 自身が $\mathbb{R}^n$ の開集合であることを示す。$x\in \mathbb{R}^n$ を任意に与える。このとき、$B(x, r)\subset\mathbb{R}^n$ となるような $r>0$ を見つければよいが、この場合 $r$ は何でもよい。たとえば、$r=1$ とすれば $B(x, 1)\subset\mathbb{R}^n$ となり、$\mathbb{R}^n$ が $\mathbb{R}^n$ の開集合であることが示された。次に、$\emptyset$ が $\mathbb{R}^n$ の開集合であることを示す。示すべきことは、任意の $x\in\emptyset$ に対して、ある $r>0$ が存在して $B(x,r)\subset\emptyset$ となることである。これを論理式で書けば次のようになる。 $$ \forall x [(x\in\emptyset) \rightarrow \exists r (r>0 \wedge B(x, r)\subset \emptyset)] $$ いま、$x\in\emptyset$ は偽であるので、上の論理式の $[(x\in\emptyset) \rightarrow \cdots]$ は真の命題である($P$ が偽であるとき、$P\rightarrow Q$ は真となるのであった)。これがすべての $x$ について成り立つので、上の論理式は全体として真であり、したがって、$\emptyset$ は $\mathbb{R}^n$ の開集合である。

(2) $U_1, U_2$ を $\mathbb{R}^n$ の開集合とし、$x\in U_1\cap U_2$ とする。$i=1, 2$ に対して、$U_i$ が開集合であって $x\in U_i$ であることから、$r_i>0$ を $B(x, r_i)\subset U_i$ となるように取れる。そこで、$r=\mathrm{min}\{r_1, r_2\}$ とすると、$r>0$ である。すると、$i=1, 2$ に対して、$B(x, r)\subset B(x, r_i)\subset U_i$ であるから、$B(x, r)\subset U_1\cap U_2$ である。これで、$U_1\cap U_2$ が $\mathbb{R}^n$ の開集合であることが示された。

(3) $\{U_\lambda\,|\,\lambda\in \Lambda\}$ を $\mathbb{R}^n$ の開集合からなる集合とする。$x\in \bigcup_{\lambda\in \Lambda} U_\lambda$ とする。すると、ある $\lambda_0\in \Lambda$ に対して、$x\in U_{\lambda_0}$ である。$U_{\lambda_0}$ は開集合なので、$r>0$ を $B(x, r)\subset U_{\lambda_0}$ となるように取れる。$U_{\lambda_0}\subset \bigcup_{\lambda\in \Lambda} U_\lambda$ であるから、$B(x, r)\subset \bigcup_{\lambda\in \Lambda} U_\lambda$ である。これで、$\bigcup_{\lambda\in \Lambda} U_\lambda$ が $\mathbb{R}^n$ の開集合であることが示された。


さて、開集合の言葉を用いると、次のように写像の連続性を簡潔な言葉で言い表すことができる。

定理 0.10 (開集合を用いた写像の連続性の記述)

写像 $f\colon \mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^m$ に対して、次は同値である。

  • (1) $f$ は連続である。
  • (2) $\mathbb{R}^m$ の任意の開集合 $V$ に対して、その $f$ による逆像 $f^{-1}(V)$ は $\mathbb{R}^n$ の開集合である。
Proof.

まず、(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。$f\colon\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^m$ を連続写像とし、$V\subset\mathbb{R}^m$ を $\mathbb{R}^m$ の開集合とする。$f^{-1}(V)=\{x\in\mathbb{R}^n\,|\,f(x)\in V\}$ が $\mathbb{R}^n$ の開集合であることを示そう。そこで、$x\in f^{-1}(V)$ とする。このとき、$f(x)\in V$ で $V$ は $\mathbb{R}^m$ の開集合だから、ある $\varepsilon>0$ が存在して、$B_{\mathbb{R}^m}(f(x), \varepsilon)\subset V$ となる。いま、$f$ は連続であるから、とくに点 $x$ において連続である。したがって、命題 0.5により、$\delta>0$ が存在して、 $$ f(B_{\mathbb{R}^n}(x, \delta))\subset B_{\mathbb{R}^m}(f(x), \varepsilon) $$ となる。この式は、 $$ B_{\mathbb{R}^n}(x, \delta)\subset f^{-1}(B_{\mathbb{R}^m}(f(x), \varepsilon)) $$ と言い換えられる(確かめよ)。ところが、$B_{\mathbb{R}^m}(f(x), \varepsilon)\subset V$ であったから、$f^{-1}(B_{\mathbb{R}^m}(f(x), \varepsilon))\subset f^{-1}(V)$ である。以上により、$B_{\mathbb{R}^n}(x, \delta)\subset f^{-1}(V)$ である。これで、$f^{-1}(V)$ が $\mathbb{R}^n$ の開集合であることが示された。

次に、(2) $\Rightarrow$ (1) を示す。写像 $f\colon\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^m$ に対して、(2) を仮定する。$f$ が連続であることを示すため、任意に $a\in\mathbb{R}^n$ を与える。$f$ が $a$ において連続と分かればよいが、それを示すために命題 0.5を用いることにしよう。そこで、$\varepsilon>0$ を任意に与える。このときに、$\delta>0$ であって $f(B_{\mathbb{R}^n}(a,\delta))\subset B_{\mathbb{R}^m}(f(a),\varepsilon)$ であるようなものを見つければよい。いま、$V=B_{\mathbb{R}^m}(f(a), \varepsilon)$ とおけば、命題 0.7により $V$ は $\mathbb{R}^m$ の開集合である。よって、いま仮定している (2) により、$f^{-1}(V)$ は $\mathbb{R}^n$ の開集合である。ところが、$f(a)\in V$ であるから、$a\in f^{-1}(V)$ である。よって、ある $\delta>0$ に対して、 $$ B_{\mathbb{R}^n}(a, \delta)\subset f^{-1}(V) $$ である。これは、 $$ f(B_{\mathbb{R}^n}(a, \delta))\subset V $$ と言い換えられる(さきほども同様の議論があったことに注意せよ)。これは、$V$ の定義に戻れば $f(B_{\mathbb{R}^n}(a, \delta))\subset B_{\mathbb{R}^m}(f(a), \varepsilon)$ である。これで、$f$ が $a$ において連続であることが示された。$a\in\mathbb{R}^n$ は任意であったから、$f$ は連続であることが示された。

定理 0.10 は、(Euclid空間の間の)写像の連続性という性質が、距離を直接用いることなく、開集合の言葉だけで記述できることを示している。逆に言えば、どの集合が開集合であるかさえ知っていれば、距離も開球体も直接には使わずに、写像の連続性は定義できてしまう。

以下で定義される位相空間は、点の集合に対して、「どの部分集合が開集合であるか」というデータだけが与えられている。位相空間においては、距離や開球体という概念を定義することは一般にはできないが、それでも連続写像の概念が定義できる。つまり、定理 0.10における性質 (2) が成り立つ写像を連続写像と定義するのである。


位相空間論1:位相空間

この章は、このテキストの主題である位相空間の概念の定義からはじまる。位相空間は、点の集合に対して「どの部分集合が開集合か」というデータを付加しただけのものであるが、これが何らかの図形や空間を表した概念と思えることは今後明らかになっていくであろう。また、この章ではEuclid空間の距離の性質を抽象化して距離空間の概念を定義し、距離空間から位相空間が定まることを述べる。


定義 1.1 (位相空間の定義)

位相空間(topological space)とは、集合 $X$ と、$X$ の部分集合族 $\mathcal{O}$ との組 $(X, \mathcal{O})$ であって、以下の条件 (O1), (O2), (O3) を満たすものである。

  • (O1) $\emptyset\in\mathcal{O},$ $X\in\mathcal{O}$ である。
  • (O2) $U_1, U_2\in\mathcal{O}$ ならば $U_1\cap U_2\in\mathcal{O}$ である。
  • (O3) $\{U_\lambda\,|\,\lambda\in \Lambda\}\subset\mathcal{O}$ ならば $\bigcup_{\lambda\in \Lambda} U_\lambda\in\mathcal{O}$ である。

ここでの集合族 $\mathcal{O}$ を位相空間 $(X, \mathcal{O})$ の開集合系あるいは位相(topology)といい、$\mathcal{O}$ の要素を位相空間 $(X, \mathcal{O})$ の開集合(open set)という。また、$X$ の要素のことを、位相空間 $(X, \mathcal{O})$ の(point)という。集合 $X$ に対して位相 $\mathcal{O}$ を定めて位相空間 $(X, \mathcal{O})$ をつくることを、位相を定める、位相を入れるなどという。$\square$

正式には位相空間は $(X,\mathcal{O})$ という組のことであるが、通常は $\mathcal{O}$ を暗黙のうちに固定されたものとみなし、位相空間 $(X,\mathcal{O})$ と呼ぶかわりに、簡単に「位相空間 $X$」と呼ぶことが多い。

(O1) は空集合 $\emptyset$ と $X$ 自身が位相空間 $X$ の開集合であることを述べている。(O2) は $X$ の二個の開集合の共通部分が $X$ の開集合となることを述べている。(O3) は $X$ の任意個の開集合の和集合が $X$ の開集合となることを述べている。これらの条件は、Euclid空間の開集合については成り立っていたことに注意しよう(命題 0.8)。(O1)-(O3) を「開集合系の公理」と呼ぶこともある。

(O2) は次の条件に置き換えられる。

  • (O2') $U_1,\ldots, U_n\in\mathcal{O}$ ならば $U_1\cap\cdots\cap U_n\in\mathcal{O}$ である。

実際、(O2') で $n=2$ とすれば (O2) が得られるし、逆に (O2) から $n$ についての帰納法で (O2') を導くことができる。以下では、(O2') もいままでの (O1)-(O3) と同様によく用いられる。

続いて、位相空間の閉集合を定義する。

定義 1.2 (閉集合)

位相空間 $X$ の部分集合 $F\subset X$ が $X$ の閉集合(closed set)であるとは、その補集合 $X\setminus F$ が開集合であることをいう。$\square$

ここで、一般に集合 $A,$ $B$ に対して $A\setminus B$ は差集合 $\{x\in A\,|\,x\notin B\}$ を表す。 後に述べる距離空間においては、閉集合が「点列の収束について閉じた集合」と同じものになることが分かる。このことから、「閉」集合という名前に正当性があることが分かる。開集合系の公理 (O1)-(O3) から、次が分かる。

命題 1.3 (閉集合の満たす性質)

位相空間 $X$ に対して、その閉集合全体の族を $\mathcal{F}$ とすると、次のことが成り立つ。

  • (C1) $\emptyset\in\mathcal{F}$, $X\in\mathcal{F}$ である。
  • (C2) $F_1, F_2\in\mathcal{F}$ ならば $F_1\cup F_2\in\mathcal{F}$ である。
  • (C3) $\{F_\lambda\,|\,\lambda\in \Lambda\}\subset\mathcal{F}$ ならば $\bigcap_{\lambda\in \Lambda} F_\lambda\in\mathcal{F}$ である。

また、次のことも成り立つ。

  • (C2') $F_1,\ldots, F_n\in\mathcal{F}$ ならば $F_1\cup\cdots\cup F_n\in\mathcal{F}$ である。
Proof.

(C1)を示す。$X\setminus \emptyset=X$, $X\setminus X=\emptyset$ は (O1) により $X$ の開集合であるから、$\emptyset$ と $X$ は $X$ の閉集合である。

(C2)を示す。$F_1, F_2$ を $X$ の閉集合とすると、$X\setminus F_1, X\setminus F_2$ は $X$ の開集合である。 $X\setminus (F_1\cup F_n)=(X\setminus F_1)\cap(X\setminus F_n)$ であるから、(O2) により $X\setminus (F_1\cup F_2)$ は $X$ の開集合である。よって、$F_1\cup F_2$ は $X$ の閉集合である。

(C3)を示す。$\{F_\lambda\,|\,\lambda\in \Lambda\}(\neq\emptyset)$ を、$X$ の閉集合からなる族とする。このとき、$\{X\setminus F_\lambda\,|\,\lambda\in \Lambda\}$ は $X$ の開集合からなる族である。 $X\setminus \bigcap_{\lambda\in \Lambda} F_\lambda=\bigcup_{\lambda\in \Lambda} (X\setminus F_\lambda)$ であるから、(O3) により $X\setminus \bigcap_{\lambda\in \Lambda} F_\lambda$ は $X$ の開集合である。よって、$\bigcap_{\lambda\in \Lambda} F_\lambda$ は $X$ の閉集合である。

(C2')は、(C2)から $n$ についての帰納法によって導かれる。

注意 1.4 (ゼロ個の集合の共通部分)

(C3) において、$\Lambda=\emptyset$ の場合は $\bigcap_{\lambda\in \Lambda} F_\lambda=\bigcap_{\lambda\in \emptyset} F_\lambda$ は「ゼロ個の集合の共通部分」であるが、これの取り扱いには注意が必要である。共通部分の通常の定義に基づけば $$ x\in\bigcap_{\lambda\in\emptyset} F_\lambda \Longleftrightarrow \text{すべての }\lambda\in\emptyset\text{ に対して }x\in F_\lambda $$ である。そして、同値記号 $\Longleftrightarrow$ の右側の条件は、論理記号で書けば $$ \forall \lambda [\lambda\in\emptyset\rightarrow x\in F_\lambda] $$ であるから、$x$ によらず真である($\lambda\in\emptyset$ は偽なので、$\lambda\in\emptyset\rightarrow\cdots$ の形の命題は無条件に真となる)。したがって、どんな $x$ も $x\in\bigcap_{\lambda\in \emptyset} F_\lambda$ に属するから、$x\in\bigcap_{\lambda\in \emptyset} F_\lambda$ は「すべてのものの集合」となり、これは、集合論でよく知られているように、集合として存在するには大きすぎる。そのような理由で、ゼロ個の集合の共通部分は考えないのが通例であるが、いまの文脈では、考察しているものは $X$ の部分集合だけである。したがって、$x$ の動く範囲も $X$ の要素に限定して考えるのは自然である。そう考えれば、$\bigcap_{\lambda\in \emptyset} F_\lambda$ は「$X$ の要素すべての集合」すなわち $X$ となる。

以上のことを踏まえて、(C3) においては、$\Lambda=\emptyset$ のときは $\bigcap_{\lambda\in \emptyset} F_\lambda=X$ であると約束する。以降も、ゼロ個の集合の共通部分が現れた場合は、今回と同様の解釈をとる。$\square$

注意 1.5 (閉集合から位相空間を定める)

位相空間を定めるには、開集合のかわりに、閉集合の概念を最初に与えてもよい。このことを説明しよう。

集合 $X$ に対して、$X$ の部分集合族 $\mathcal{F}$ で条件 (C1)-(C3) を満たすものが与えられたとする。すると、$\mathcal{O}=\{X\setminus F\,|\,F\in\mathcal{F}\}$ と定めれば (O1)-(O3) が満たされ、$(X, \mathcal{O})$ は位相空間となる。しかも、この位相空間において $\mathcal{F}$ はちょうど閉集合の全体に一致する。

つまり、集合 $X$ に対して、部分集合族 $\mathcal{F}$ で (C1)-(C3) を満たすものを与え、その要素を閉集合と呼ぶことにすれば、その補集合を開集合と呼ぶことで、位相空間が定まるのである。今後説明するが、位相空間を定める方法には、このほかにも色々ある。$\square$


例 1.6 (離散位相)

$X$ を任意の集合とする。$\mathcal{O}_\delta$ を、$X$ のすべての部分集合からなる集合とすると、(O1)-(O3) がすべて成り立つ。このときの $\mathcal{O}_\delta$ を $X$ 上の離散位相(discrete topology)といい、位相空間 $(X, \mathcal{O}_\delta)$を離散空間(discrete space)という。言い換えれば、離散空間とは、すべての部分集合が開集合である位相空間である。これは、すべての部分集合が閉集合である位相空間と言っても良い。$\square$

例 1.7 (密着位相)

$X$ を任意の集合とする。$\mathcal{O}_i=\{\emptyset, X\}$ とすれば、(O1)-(O3) がすべて成り立つ。このときの $\mathcal{O}_i$ を $X$ 上の密着位相(indiscrete topology)といい、位相空間 $(X, \mathcal{O}_i)$ を密着空間(indiscrete space)という。$\square$

例 1.8 (補有限位相)

$X$ を任意の集合とする。$X$ の部分集合族 $\mathcal{F}$ を、$\mathcal{F}=\{X\}\cup\{F\subset X\,|\,F\text{ は有限集合}\}$ で定義しよう。すると、$\mathcal{F}$ は命題 1.3の (C1)-(C3) を満たすことがすぐに分かる。そこで、注意 1.5で述べた通り $\mathcal{O}_f=\{X\setminus F\,|\,F\in\mathcal{F}\}$ とすると、$(X, \mathcal{O}_f)$ は位相空間となる。具体的に書けば、 $$ \mathcal{O}_f=\{\emptyset\}\cup\{X\setminus F\,|\,F\text{ は }X\text{ の有限部分集合}\} $$ である。$\mathcal{F}$ は、$(X, \mathcal{O}_f)$ の閉集合の全体にちょうど一致する。$\mathcal{O}_f$ を $X$ 上の補有限位相(cofinite topology)という。$X$ が無限集合である場合は、$\mathcal{O}_f$ は $\mathcal{O}_\delta$ と $\mathcal{O}_i$ のどちらとも異なる。$\square$

例 1.9 (Euclid空間、とくに実数直線)

Euclid空間$\mathbb{R}^n$には開集合の概念が定義された(定義 0.6)。$\mathbb{R}^n$ の開集合全体の族を $\mathcal{O}_{\mathrm{Eucl}}$ と書こう。このとき、命題 0.8は $\mathcal{O}_{\mathrm{Eucl}}$ が (O1)-(O3) を満たすことを示している。よって、$(\mathbb{R}^n, \mathcal{O}_{\mathrm{Eucl}})$ は位相空間となる。以下では、断らない限り、$\mathbb{R}^n$ を常にこの方法で位相空間とみなし、単に $\mathbb{R}^n$ で表すことにする。

ここで、特に $n=1$ の場合を考えることで、実数直線 $\mathbb{R}=\mathbb{R}^1$ も位相空間とみなせることが分かる。$x\in \mathbb{R}$ に対してノルム $\|x\|$ は単なる絶対値 $|x|$ であり、$x, y\in\mathbb{R}$ に対して距離 $d(x, y)$ は $|x-y|$ である。よって、$x\in \mathbb{R}$ と $r>0$ に対して、開球体 $B(x,r)=\{y\in\mathbb{R}\,|\,|x-y|<r\}$ は開区間 $(x-r, x+r)$ のことである。したがって、$U\subset\mathbb{R}$ が $\mathbb{R}$ の開集合であることは、任意の $x\in U$ に対して $r>0$ が存在して $(x-r, x+r)\subset U$ となることと同値である。このことから、$-\infty\leq a<b\leq +\infty$ となる任意の $a, b$ に対して、開区間 $(a, b)=\{x\in\mathbb{R}\,|\,a<x<b\}$ は $\mathbb{R}$ の開集合であると分かる。次に $a<b$ となる $a, b\in\mathbb{R}$ に対して、閉区間 $[a, b]=\{x\in\mathbb{R}\,|\,a\leq x\leq b\}$ を考えよう。$\mathbb{R}\setminus [a, b]=(-\infty, a)\cup (b, +\infty)$ であり、この左辺は開集合の和集合として開集合となるから、閉区間 $[a, b]$ は $\mathbb{R}$ の閉集合である。また、$[a, +\infty)$ や $(-\infty, b]$ も $\mathbb{R}$ の閉集合である。 $\square$

定義 1.10 (位相の比較)

集合 $X$ に対して、二つの位相 $\mathcal{O}_1$, $\mathcal{O}_2$ が与えられているとする。すなわち、$X$ の部分集合族 $\mathcal{O}_1$, $\mathcal{O}_2$ がともに (O1)-(O3) を満たしているとする。$\mathcal{O}_1\subset\mathcal{O}_2$ であるとき、$\mathcal{O}_1$ は $\mathcal{O}_2$ より粗い(coarser)といい、$\mathcal{O}_2$ は $\mathcal{O}_1$ より細かい(finer)という。$\square$

例 1.11 (位相の比較の具体例)

集合 $X$ に対して、離散位相 $\mathcal{O}_\delta$ は密着位相 $\mathcal{O}_i$より細かい。$X$ 上のどんな位相も(とくに、補有限位相 $\mathcal{O}_f$ は)、離散位相より粗く、密着位相より細かい。$\square$

$\mathbb{R}^n$ 上のEuclid距離の性質(定義 0.3)を抽象化することで、距離空間の概念を定義しよう。

定義 1.12 (距離空間)

$X$ を集合とする。写像$d\colon X\times X\to [0,\infty)$ が任意の $x, y, z\in X$ に対して次の性質を満たすとき、組 $(X, d)$ を距離空間(metric space)という。

  • (D1) $d(x, y)=0\Longleftrightarrow x=y$
  • (D2) $d(x, y)=d(y, x)$
  • (D3) $d(x, z)\leq d(x, y)+d(y, z)$(三角不等式)

$d$ を $X$ 上の距離関数あるいは距離(distance function)という。$d$ が文脈から明らかな場合は、距離空間 $(X, d)$ を単に $X$ と書く。$\square$

三角不等式については、移項した形 $$ d(x, y)\geq d(x, z)-d(y, z) $$ をよく使われるので注意する。 もちろん、$\mathbb{R}^n$ の Euclid距離を $d$ とするとき $(\mathbb{R}^n, d)$ は距離空間である。

注意 1.13 (距離の制限)

距離空間 $(X, d)$ と $X$ の部分集合 $A$ が与えられているとき、制限 $d_A=d|_{A\times A}\colon A\times A\to [0,\infty)$ を考えれば、$(A, d_A)$ も再び距離空間となる。以下では、距離空間の部分集合はこの方法で距離空間とみなす。たとえば、$\mathbb{R}^n$ の部分集合は距離空間となる。$\square$

Euclid空間 $\mathbb{R}^n$ のEuclid距離から開集合が定義できて $\mathbb{R}^n$ を位相空間とみなせたのと全く同様にして(定義 0.6例 1.9参照)、距離空間においても開集合の概念を定義し、位相空間とみなすことができる。詳細は Euclid 空間の場合の繰り返しとなるので、証明などは一部略して述べよう。

定義 1.14 (距離空間における開球体)

$(X, d)$ を距離空間とする。$x\in X$ と $r>0$ に対して、$X$ の部分集合 $B_d(x, r)$ および $\overline{B}_d(x, r)$ を $$ B_d(x,r)=\{y\in X\,|\,d(x,y)<r\},\quad \overline{B}_d(x,r)=\{y\in X\,|\,d(x,y)\leq r\} $$ で定義し、それぞれ、$x$ を中心とする半径 $r$ の開球体(open ball)、閉球体(closed ball)という。 誤解のおそれのない場合、添字 $d$ を省略し、単に $B(x, r),$ $\overline{B}(x,r)$ と書く。$\square$

定義 1.15 (距離空間における開集合)

$(X, d)$ を距離空間とし、$U\subset X$ とする。$U$ が距離空間 $X$ の開集合であるとは、任意の $x\in U$ に対して、$r>0$ が存在して $B(x, r)\subset U$ が成り立つことをいう。

命題 1.16 (開球体は開集合、閉球体は閉集合である)

$(X, d)$ を距離空間とする。任意の $x\in X$ と$r>0$ に対して、開球体 $B(x, r)$ は $X$ の開集合である。また、閉球体 $\overline{B}(x,r)$ は $X$ の閉集合である。

Proof.

$B(x, r)$ が開集合であることの証明は、Euclid空間の場合の命題 0.7と全く同様なので省略する。$\overline{B}(x, r)$ が閉集合であることを示そう。そのためには、補集合 $X\setminus \overline{B}(x,r)$ が開集合であることを示せばよい。そこで、$y\in X\setminus\overline{B}(x,r)$ を任意に与える。すると、$d(x,y)>r$ であるから、$\varepsilon=d(x,y)-r$ とおくとき $\varepsilon>0$ である。$z\in B(y,\varepsilon)$ を任意に与える。すると、 $$ d(x,z)\geq d(x,y)-d(z,y)>d(x,y)-\varepsilon=d(x,y)-(d(x,y)-r)=r $$ であるから、$z\in X\setminus\overline{B}(x,r)$ である。よって、$B(y,\varepsilon)\subset X\setminus\overline{B}(x,r)$ であるから、$X\setminus\overline{B}(x,r)$ は $X$ の開集合である。

命題 1.17 (距離空間から位相空間が得られる)

$(X, d)$ を距離空間とし、$\mathcal{O}_d$ を $X$ の開集合全体の集合とする。このとき、$\mathcal{O}_d$ は開集合系の公理 (O1)-(O3) を満たす(証明は命題 0.8と同様)。したがって、$(X, \mathcal{O}_d)$ は位相空間となる。$\square$

このように距離空間 $(X, d)$ からは常に位相空間 $(X, \mathcal{O}_d)$ が得られる。$\mathcal{O}_d$ のことを $d$ が定める位相という。以下ではいつでも、距離空間をこの方法で位相空間とみなすことにする。

距離空間から位相空間が得られることは分かったが、では逆に位相空間 $(X, \mathcal{O})$ が先に与えられたときに、$X$ 上の距離関数 $d$ をうまく定義して、距離空間 $(X, d)$ から得られる位相空間 $(X, \mathcal{O}_d)$ をはじめの $(X, \mathcal{O})$ と一致させることはできるだろうか。それは一般には可能ではないが、それが可能であるとき、$(X, \mathcal{O})$ は距離化可能であるという。

定義 1.18 (距離化可能空間)

$(X, \mathcal{O})$ を位相空間とする。$X$ 上の距離 $d$ が存在して、$d$ が定める位相 $\mathcal{O}_d$ が $\mathcal{O}$ と一致するとき、$X$ は距離化可能(metrizable)であるという。

距離化可能な位相空間は、距離を用いて調べることができるので扱いやすい。位相空間がどのような条件のもとで距離化可能となるかについては、位相空間論の初期に盛んに研究され、多くの結果が知られている。

注意 1.19 (距離空間と距離化可能空間)

ここで、距離空間と距離化可能空間の概念上の違いに注意しておこう。距離空間と言った場合は距離が一つ指定されているのに対し、距離化可能空間と言った場合は指定されているのはあくまで位相のみであって、その位相を定める距離は(存在はするが)特定のものが指定されてはいない。次の例 1.20で離散空間が距離化可能であることを示すが、それはこの事情のよい説明になっている。離散空間そのものには特定の距離が指定されてはいないが、その位相を定めるようなうまい距離を定義することができるのである。$\square$

例 1.20 (離散空間は距離化可能)

$(X, \mathcal{O}_\delta)$ を離散空間とする(例 1.6)。つまり、$\mathcal{O}_\delta$ は $X$ の部分集合すべてからなる集合である。このとき、$(X, \mathcal{O}_\delta)$ が距離化可能となることを示そう。そのため、距離関数 $d\colon X\times X\to [0,\infty)$ を、$x=y$ のとき $d(x,y)=0$, $x\neq y$ のとき $d(x,y)=1$ とすることで定義する。このとき $d$ は距離の満たすべき定義 1.12の性質 (D1)-(D3) を満たす(確かめよ)。よって距離空間 $(X, d)$ が定まる。さらに、各 $x\in X$ に対して、半径 $1$ の開球体 $B_d(x,1)$ について $B_d(x,1)=\{x\}$ となる。したがって、命題1.16より、各 $x\in X$ に対して、一点集合 $\{x\}$ は $d$ の定める位相 $\mathcal{O}_d$ について開集合である。任意に $A\subset X$ を与えると、$A=\bigcup_{x\in A}\{x\}$ だから、$A$ は $\mathcal{O}_d$ について開集合である。よって、$\mathcal{O}_d$ は離散位相 $\mathcal{O}_\delta$ に一致するから、離散空間 $(X, \mathcal{O}_\delta)$ は距離化可能であることが分かった。$\square$


位相空間論2:近傍と基本近傍系

位相空間 $X$ の点 $x$に対して、 $x$ の近傍という概念を定義する。 $x$ の近傍とは直観的には「$x$ の十分近くの点をすべて含んでいる集合」であるが、その名に反して必ずしも小さい集合ではない。しかし、実際に数学的議論で重要になるのは小さい近傍のみであることが次第に明らかになるであろう。さらに、基本近傍系の概念を定義する。これは、ある点の近傍全体の中から、いわば代表的なものを集めてできた集合である。


定義 2.1 (近傍)

$X$ を位相空間とし、$x\in X$ とする。$X$ の部分集合 $V$ が $x$ の($X$ における)近傍(neighborhood)であるとは、ある開集合 $U\subset X$ に対して $x\in U\subset V$ であることをいう。さらに、$V$ が開集合(あるいは閉集合)であるとき、$V$ を $x$ の($X$ における)開近傍閉近傍)(open/closed neighborhood)という。$\square$

この定義から、$X$ 自身も $x$ の近傍であることに注意する(近傍は必ずしも小さくない!)。しかし、実際の議論では通常大きな近傍にはあまり意味はなく、小さい近傍に本質的な意味があることが多い。$\varepsilon$-$\delta$ 論法において、$\varepsilon$ や $\delta$ が小さい数のときが本質的だったのと同じである。

ある点の開近傍とは、その点を要素にもつ開集合にほかならない。つまり、次の命題が成り立つ。

命題 2.2 (開近傍の同値な言い換え)

$X$ を位相空間とし、$x\in X$ とする。$V\subset X$ に対して、次の二つは同値である。

  • (1) $V$ は $x$ の開近傍である。
  • (2) $V$ は開集合であり、かつ $x\in V$ である。
Proof.

まず、(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。$V\subset X$ を $x$ の開近傍とすると、$V$ は開集合である。しかも $V$ は $x$ の近傍なので、ある開集合 $U$ が存在して、$x\in U\subset V$ である。したがって、$x\in V$ も成り立つ。

次に、(2) $\Rightarrow$ (1) を示す。$V\subset X$ が開集合で、しかも $x\in V$ であるとする。このとき、$U=V$ とおけば、$U$ は開集合で $x\in U\subset V$ である。よって、$V$ は $x$ の開近傍である。

近傍の有限個の共通部分は、再び近傍となる。

命題 2.3 (近傍の有限個の共通部分)

$X$ を位相空間とし、$x\in X$ とする。任意の $n\in\mathbb{N}$ と $x$ の $X$ における近傍 $V_1,\ldots, V_n$ に対して、$V_1\cap\cdots\cap V_n$ は $x$ の $X$ における近傍である。

Proof.

近傍の定義により、各 $i=1,\ldots, n$ に対して、開集合 $U_i$ であって $x\in U_i\subset V_i$ となるようなものが取れる。すると $U_1\cap\cdots\cap U_n$ も開集合であって、$x\in U_1\cap\cdots\cap U_n\subset V_1\cap\cdots\cap V_n$ である。よって、$V_1\cap\cdots\cap V_n$ は $x$ の $X$ における近傍である。

次の命題は、位相空間の部分集合が開集合であることを示すために常套手段として用いられる。

命題 2.4 (開集合の判定条件)

位相空間 $X$ の部分集合 $U$ に対して、次の二つは同値である。

  • (1) $U$ は $X$ の開集合である。
  • (2) 任意の $x\in U$ に対して、$x$ の $X$ における近傍 $V$ であって $V\subset U$ となるものが存在する。
Proof.

まず、(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。$U\subset X$ を開集合とし、$x\in U$ とする。命題 2.2により、$U$ は $x$ の $X$ における開近傍となるから、$V=U$ とおけば、$V$ は $x$ の $X$ における開近傍で、$V\subset U$ を満たす。

次に、(2) $\Rightarrow$ (1) を示す。$U\subset X$ に対して (2) が成り立つとすると、各 $x\in U$ に対して、$x$ の近傍 $V_x$ であって $V_x\subset U$ となるものが選べる。さらに、近傍の定義から、各 $x\in U$ に対して、$x\in U_x\subset V_x$ を満たす開集合 $U_x$ が選べる。このとき、$U=\bigcup_{x\in U} U_x$ である(確かめよ)。よって、$U$ は開集合の和集合となるから、開集合となる。

位相空間 $X$ の点 $x$ の近傍には、一般に非常に多種多様なものがあり扱いが難しい。そこで、限られた種類の近傍に考察を限定することがしばしばある。そのときに役に立つのが基本近傍系の概念である。

定義 2.5 (基本近傍系)

$X$ を位相空間とし、$x\in X$ とする。$x$ の$X$ における近傍からなる集合族 $\mathcal{U}$ が $x$ の($X$ における)基本近傍系(neighborhood base)であるとは、$x$ の任意の近傍 $V$ に対して、ある $U\in\mathcal{U}$ が存在して $U\subset V$ が成り立つことをいう。$\square$

上の定義において、「任意の近傍 $V$」を「任意の開近傍 $V$」に変えても、定義としては同値になることに注意しよう(確かめよ)。

例 2.6 (近傍の全体は基本近傍系)

まず、つまらない例であるが、位相空間 $X$ の点 $x$ に対して、$x$ の近傍全体の集合を $\mathcal{U}$ とおけば、$\mathcal{U}$ は $x$ の $X$ における基本近傍系である。$\square$

例 2.7 (開近傍の全体は基本近傍系)

$X$ を位相空間、$x\in X$ とする。$\mathcal{U}$ を、$x$ の $X$ における開近傍全体の集合とすると、$\mathcal{U}$ は $x$ の $X$ における基本近傍系となる。実際、$x$ の近傍 $V$ を与えると、近傍の定義により $x\in U\subset V$ であるような開集合 $U$ が存在するが、$U$ は $x$ の開近傍である(命題 2.2)。これで、$\mathcal{U}$ が $x$ の $X$ における基本近傍系となることが示された。$\square$

例 2.8 (距離空間における基本近傍系)

$(X, d)$ を距離空間とする。このとき、$x\in X$ に対して次の集合族は $x$ の $X$ における基本近傍系である。 $$ \mathcal{U}_x=\{B(x,r)\,|\,r>0\} $$ 実際、$B(x,r)$ は $x$ を要素にもつ開集合なので(命題 1.16)、命題 2.2により $x$の開近傍である。よって、$\mathcal{U}_x$ は $x$ の近傍からなる集合である。次に、$x$ の任意の開近傍 $V$ を与える。すると、$x\in V$ で $V$ は開集合だから、距離空間における開集合の定義により、ある $r>0$ が存在して $B(x,r)\subset V$ である。$B(x,r)\in\mathcal{U}_x$ であるから、これで $\mathcal{U}_x$ が $x$ の $X$ における基本近傍系であることが示された。

また、次の集合族も $x$ の $X$ における基本近傍系である。 $$ \mathcal{V}_x=\{B(x,1/n)\,|\,n\in\mathbb{N}\} $$ 実際、これが $x$ の近傍からなる集合であることはさきほどと同様に示される。次に、$x$ の任意の開近傍 $V$ を与える。すると、ある $r>0$ に対して $B(x,r)\subset U$ である。いま、$n\in\mathbb{N}$ を十分大きく取れば $1/n<r$ であるので、$B(x,1/n)\subset B(x,r)\subset U$ となる。$B(x,1/n)\in\mathcal{V}_x$ なので、これで $\mathcal{V}_x$ が $x$ の $X$ における基本近傍系であることが示された。$\square$

例 2.9 (離散空間における基本近傍系)

$X$ を離散空間とする(例 1.6)。このとき、任意の点 $x$ に対して、一点からなる集合 $\{x\}$ は点 $x$ の開近傍である。そして、一個の近傍 $\{x\}$ だけからなる集合族 $\{\{x\}\}$ は、$x$ の $X$ における基本近傍系となる(確かめよ)。$\square$

上において、離散空間の各点 $x$ について一点集合 $\{x\}$ が $x$ の開近傍となる、という事実は、離散空間がその名の通り「点がそれぞれ孤立してバラバラである」という直観を補強してくれるものであろう。 一般に、位相空間 $X$ の点 $x$ は、$\{x\}$ が開集合であるときに孤立点(isolated point)であるという。

位相空間 $X$ の各点 $x\in X$ に対して、それぞれ $x$ の基本近傍系 $\mathcal{U}_x$ が与えられているという状況を考える。このとき、次が成り立つ。

命題 2.10 (基本近傍系のもつ性質)

位相空間 $X$ の各点 $x\in X$ に対して、$x$ の $X$ における基本近傍系 $\mathcal{U}_x$ が与えられているとする。このとき、次の性質が成り立つ。

  • (NB1) 任意の $x\in X$ に対して $\mathcal{U}_x\neq\emptyset$ である。
  • (NB2) 任意の $x\in X,$ $U\in\mathcal{U}_x$ に対して、$x\in U$ である。
  • (NB3) 任意の $x\in X,$ $U_1, U_2\in\mathcal{U}_x$ に対して、$V\in\mathcal{U}_x$ であって $V\subset U_1\cap U_2$ となるものが存在する。
  • (NB4) 任意の $x\in X,$ $U\in\mathcal{U}_x$ に対して、次のような $V\in\mathcal{U}_x$ が存在する:「任意の $y\in V$ に対して、$W\in\mathcal{U}_y$ が存在して $W\subset U$ となる。」
Proof.

(NB1) を示す。$x \in X$ とすると $X$ は $x$ の開近傍であるから、これに対して基本近傍系の定義から $U\in\mathcal{U}_x$ が存在することが分かる。したがって、$\mathcal{U}_x$ は空ではない。次に、(NB2) は基本近傍系および近傍の定義から明らかである。

(NB3) を示すため、$x\in X$, $U_1, U_2\in\mathcal{U}_x$ とする。$U_1$, $U_2$ は $x$ の近傍なので、$x\in V_i\subset U_i\,(i=1,2)$ となるような開集合 $V_i$ が存在する。すると、$V_1\cap V_2$ は $x$ の開近傍であるから、基本近傍系の定義により、$V\in\mathcal{U}_x$ であって $V\subset V_1\cap V_2\subset U_1\cap U_2$ となるものが存在する。これで (NB3) が示された。

(NB4) を示すため、$x\in X$, $U\in\mathcal{U}_x$ とする。$U$ は $x$ の近傍なので、$x\in U_0\subset U$ となるような開集合 $U_0$ が存在する。$U_0$ は $x$ の開近傍なので、$V\subset U_0$ となるような $V\in\mathcal{U}_x$ が存在する。この $V$ が求めるものであることを示そう。そこで、$y\in V$ とする。すると $y\in U_0$ で $U_0$ は開集合だから、$U_0$ は $y$ の開近傍である。よって、$W\subset U_0$ となるような $W\in\mathcal{U}_y$ が存在する。$U_0\subset U$ だったので、$W\subset U$ である。これで、$V$ が求めるものであることが分かり、(NB4) が示された。

この命題 2.10はやや複雑な形だが、基本近傍系を指定することで位相空間を定めるのに役に立つ。注意 1.5では、閉集合全体の集合を指定することで位相空間を定める方法を述べたが、次の命題 2.11から分かるように、それと同様のことが基本近傍系でもできるのである。(命題 2.11は証明が少々混み入っているので、初読の際は証明を読み飛ばしてもよい。)

命題 2.11 (基本近傍系から位相空間を定める)

$X$ を集合とする。各 $x\in X$ に対して、$X$ の部分集合からなる族 $\mathcal{U}_x$ が与えられ、条件 (NB1)-(NB4) を満たすとする。このとき、$X$ 上の位相 $\mathcal{O}$ であって、各 $x\in X$ に対して $\mathcal{U}_x$ が位相空間 $(X, \mathcal{O})$ における $x$ の基本近傍系となるものが一意的に存在する。

Proof.

まず、そのような位相 $\mathcal{O}$ が存在することを示そう。$\mathcal{O}$ を以下で定義する。 $$ \mathcal{O}=\{U\subset X\,|\,\text{任意の }x\in U\text{ に対してある }V\in\mathcal{U}_x\text{ が存在して }V\subset U\} $$ このとき、$\mathcal{O}$ が開集合系の公理 (O1)-(O3) を満たすことを示そう。

(O1) については、まず $\emptyset\in\mathcal{O}$ を示さなければならない。それには、任意の $x\in\emptyset$ に対してある $V\in\mathcal{U}_x$ が存在して $V\subset \emptyset$ となることを示す必要があるが、ここで $x\in\emptyset$ が偽であることから、示すべきことは真となる(命題 0.8および注意 1.3でも同様の議論を行った)。よって、$\emptyset\in\mathcal{O}$ である。次に、$X\in\mathcal{O}$ を示そう。そのため、$x\in X$ を任意に与える。(NB1)により、$V\in\mathcal{U}_x$ が少なくとも一つ存在する。このとき、もちろん $V\subset X$ である。$x\in X$ は任意だったので、$X\in\mathcal{O}$ が示された。

(O2) を示すため、$U_1, U_2\in\mathcal{O}$ とする。$U_1\cap U_2\in\mathcal{O}$ を示すため、$x\in U_1\cap U_2$ とする。$i=1,2$ に対して、$U_i\in\mathcal{O}$ であることより、$V_i\in\mathcal{U}_x$ であって $V_i\subset U_i$ となるものが存在する。(NB3) により、$W\in\mathcal{U}_x$ であって $W\subset V_1\cap V_2$ となるものが存在する。すると、$W\subset V_1\cap V_2\subset U_1\cap U_2$ である。$x\in U_1\cap U_2$ は任意だったので、$U_1\cap U_2\in\mathcal{O}$ が分かった。

(O3) を示すため、$\{U_\lambda\,|\,\lambda\in \Lambda\}\subset\mathcal{O}$ とする。$x\in\bigcup_{\lambda\in \Lambda} U_\lambda$ とする。すると、ある $\lambda_0\in \Lambda$ に対して、$x\in U_{\lambda_0}$ である。$U_{\lambda_0}\in\mathcal{O}$ なので、ある $V\in \mathcal{U}_x$ に対して、$V\subset U_{\lambda_0}$ である。したがって、$V\subset\bigcup_{\lambda\in \Lambda} U_\lambda$ である。これで、$\bigcup_{\lambda\in \Lambda} U_\lambda\in\mathcal{O}$ が示された。

以上で、位相空間 $(X, \mathcal{O})$ が得られた。 次に、各 $x\in X$ に対して、$\mathcal{U}_x$ がこの位相空間 $(X, \mathcal{O})$ における $x$ の基本近傍系となることを示す。まず、$U\in\mathcal{O}$, $x\in U$ とするときに、$V\in\mathcal{U}_x$ であって $x\in V\subset U$ となるものが存在することは $\mathcal{O}$ の定義から明らかである。問題は、$\mathcal{U}_x$ の各要素が $(X, \mathcal{O})$ における $x$ の近傍になっていることの証明である。そのため、$U\in\mathcal{U}_x$ とする。次のようにおく。 $$ U'=\{y\in U\,|\,\text{ある }V\in\mathcal{U}_y\text{ が存在して }V\subset U\} $$ 明らかに $x\in U'\subset U$ である。$U'\in\mathcal{O}$ であることをいうため、$y\in U'$ とする。$U'$ の定義により、$V\in\mathcal{U}_y$ であって $V\subset U$ となるものが存在する。さらに、(NB4) により、次のような $V'\in\mathcal{U}_y$ が存在する:「任意の $z\in V'$ に対して、$W\in\mathcal{U}_z$ が存在して、$W\subset V$ である。」すると $V'$ の取り方と (NB2) から $V'\subset V$ であり、よって $V'\subset U$ である。さらにこのとき、$V'\subset U'$ である。実際、$z\in V'$ とすると、いま述べたことから $z\in U$ であり、さらに、$W\in\mathcal{U}_z$ が存在して $W\subset V$ となり、よって $W\subset U$ である。よって、$z\in U'$ である。したがって、$V'\subset U'$ である。これで、$U'\in\mathcal{O}$ であることが示された。$x\in U'\subset U$ であったから、$U$ は $x$ の $(X, \mathcal{O})$ における近傍である。これで、$\mathcal{U}_x$ の各要素が $(X, \mathcal{O})$ における $x$ の近傍であることが示された。以上で、各 $x\in X$ に対して、$\mathcal{U}_x$ が $(X, \mathcal{O})$ における $x$ の基本近傍系であることが示された。

最後に、条件を満たす位相の一意性を示そう。そこで、$X$ 上の位相 $\mathcal{O}_1$, $\mathcal{O}_2$ がともに命題の条件を満たしたとする。$\mathcal{O}_1\subset\mathcal{O}_2$ を示すため、$U\in\mathcal{O}_1$ とする。このとき、$U\in\mathcal{O}_2$ となること、つまり $U$ が位相空間 $(X, \mathcal{O}_2)$ の開集合であることを命題 2.4を用いて示す。そのため、$x\in U$ とする。$\mathcal{U}_x$ は $x$ の $(X, \mathcal{O}_1)$ における基本近傍系だから、ある $V\in\mathcal{U}_x$ が存在して、$V\subset U$ である。ところが、$\mathcal{U}_x$ は $x$ の $(X, \mathcal{O}_2)$ における基本近傍系でもあり、$V\in\mathcal{U}_x$ であるから、$V$ は $x$ の $(X, \mathcal{O}_2)$ における近傍である。したがって、命題 2.4により、$U$ は $(X, \mathcal{O}_2)$ の開集合、つまり $U\in\mathcal{O}_2$ である。これで、$\mathcal{O}_1\subset\mathcal{O}_2$ が示された。全く同様に、$\mathcal{O}_2\subset\mathcal{O}_1$ も示されるから、結局 $\mathcal{O}_1=\mathcal{O}_2$ を得る。

どの点においても高々可算個の近傍からなる基本近傍系が存在するような位相空間には名前がついている。

定義 2.12 (第一可算)

位相空間 $X$ が第一可算(first countable)である、あるいは第一可算公理を満たすとは、任意の $x\in X$ に対して、高々可算な $x$ の基本近傍系 $\mathcal{U}$ が存在することをいう。$\square$

例 2.13 (距離空間は第一可算)

距離空間は第一可算である。実際、$X$ を距離空間とするとき、各 $x\in X$ に対して例 2.8の基本近傍系 $\mathcal{V}_x=\{B(x,1/n)\,|\,n\in\mathbb{N}\}$ は高々可算となるからである。また、例 2.9から分かるように離散空間も第一可算である(一点からなる集合も高々可算であることに注意)。この結果は、離散空間が距離化可能であるという例1.20の結果からも分かる。なお、距離化可能空間についてもその位相を定める距離の一つを選べば同じ議論ができるので、距離化可能空間は第一可算である。後に例 4.14において、第一可算だが距離化可能でない位相空間の例を与える。 $\square$

例 2.14 (補有限位相と第一可算性)

$X$ を無限集合とし、$X$ を補有限位相(例 1.8)によって位相空間と考える。$X$ が可算無限集合の場合、$X$ は第一可算となる。実際、このときは $X=\{p_i\,|\,i\in\mathbb{N}\}$(ただし、$i\neq j$ のとき $p_i\neq p_j$)と表すことができるが、$p_i$ の基本近傍系 $\mathcal{U}_i$ として $$ \mathcal{U}_i=\{\{p_i\}\cup(X\setminus\{p_1,\ldots, p_n\})\,|\,n\in\mathbb{N}\} $$ というものが取れる(確かめよ)。$\mathcal{U}_i$ は高々可算集合であるから、これで $X$ が第一可算であることが示された。

$X$ が非可算集合である場合、$X$ は第一可算ではないことを示そう。そのため、点 $p_0\in X$ を何でもよいので一つ固定する。$p_0$ が高々可算な基本近傍系をもたないことを示せばよい。もし、$p_0$ が高々可算な基本近傍系 $\mathcal{U}$ をもてば、$\mathcal{U}=\{U_i\,|\,i\in\mathbb{N}\}$ と表すことができる。各 $i$ に対して、$p_0\in V\subset U_i$ となる開集合 $V$ が存在するが、このとき補有限位相の定義より $X\setminus V$ は有限であり、よって $X\setminus U_i$ も有限である。したがって、和集合 $\bigcup_{i=1}^\infty (X\setminus U_i)=X\setminus \bigcap_{i=1}^\infty U_i$ は高々可算となるので、$X$ の非可算性により、$X\setminus (X\setminus \bigcap_{i=1}^\infty U_i)=\bigcap_{i=1}^\infty U_i$ は非可算である。よって、それから一点を除いた $\bigcap_{i=1}^\infty U_i\setminus \{p_0\}$ はもちろん空ではない。そこで、点 $p\in \bigcap_{i=1}^\infty U_i\setminus \{p_0\}$ を一つとる。このとき、$U=X\setminus \{p\}$ は $p_0$ の近傍であるが、どの $i$ に対しても $U_i\subset U$ は成立しない。実際、$p\in U_i$, $p\notin U$ となるからである。これは、$\mathcal{U}$ が $p_0$ の基本近傍系であることに反する。よって、$p_0$ は高々可算な基本近傍系をもたないので、$X$ は第一可算ではない。また、このことから $X$ が距離化可能でないことも分かる。もし距離化可能なら、例 2.13により、第一可算となってしまうからである。$\square$

後々のために次のことを示しておく。

命題 2.15 (第一可算空間の基本近傍系を減少列にとれること)

$X$ を第一可算な空間とする。このとき、各 $x\in X$ に対して、$x$ の $X$ における基本近傍系 $\{V_n\,|\,n\in\mathbb{N}\}$ であって各 $n\in\mathbb{N}$ に対して $V_{n+1}\subset V_n$ となるものが存在する。

Proof.

$X$ を第一可算空間とし、$x\in X$ とする。第一可算性の定義から、$x$ の高々可算な基本近傍系 $\mathcal{U}$ が存在する。$\mathcal{U}$ は高々可算なので、$\mathcal{U}=\{U_n\,|\,n\in\mathbb{N}\}$ と表すことができる。そこで、各 $n\in\mathbb{N}$ に対して $V_n=U_1\cap\cdots\cap U_n$ とおくと、命題 2.3により $V_n$ は $x$ の近傍であり、$V_{n+1}\subset V_n$ を満たす。$x$ の $X$ における近傍 $V$ を任意に与える。$\mathcal{U}$ は $x$ の $X$ における基本近傍系だから、ある $n\in\mathbb{N}$ に対して、$U_n\subset V$ である。定義により $V_n\subset U_n$ であるから、$V_n\subset V$ である。これで $\{V_n\,|\,n\in\mathbb{N}\}$ が $x$ の $X$ における基本近傍系であることが示された。

次に、位相空間における点列の収束の概念を定義する。これは、実数直線 $\mathbb{R}$ における数列の収束の一般化である。点列の収束が威力を発揮するのは主に第一可算な空間(たとえば距離空間)においてであるが、定義そのものは一般の位相空間で行うことができる。

位相空間 $X$ に対して、$X$ の点列とは、くだけた言い方では、$X$ の点からなる列 $x_1, x_2,\ldots$ のことで、これを $(x_n)_{n=1}^\infty$ で表す。正式には、$X$ の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ とは、$f(n)=x_n$ で定義される写像 $f\colon \mathbb{N}\to X$ のことである。点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ は $X$ の部分集合 $\{x_n\,|\,n\in\mathbb{N}\}$ とは違うものなので注意が必要である。

定義 2.16 (点列の収束)

$X$ を位相空間、$(x_n)_{n=1}^\infty$ を $X$ の点列とし、$x\in X$ とする。このとき、$(x_n)_{n=1}^\infty$ が $x$ に収束(converge)するとは、

$x$ の任意の近傍 $V$ に対して、ある $N\in\mathbb{N}$ が存在して、$n\geq N$ のとき常に $x_n\in V$ となる

ことをいう。このとき、$x$ は点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ の極限(limit) であるといい、$x_n\to x$ と書く。$\square$

なお、上の定義において、「任意の近傍 $V$」を「任意の開近傍 $V$」に置き換えても同値な定義となる(確かめよ。なお、このことは例 2.7とこの後の命題 2.18を組み合わせても分かる)。

注意 2.17 (点列の極限が一意的と限らないこと)

一般には、点列の極限が存在しても、それは一意的とは限らない。例えば $X=\{0, 1\}$ とし、$X$ を密着位相によって位相空間と考える。$X$ の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ を、すべての $n\in\mathbb{N}$ に対して $x_n=0$ とすることで定義する。このとき、$x_n\to 0$ かつ $x_n\to 1$ である。$\square$

この後で示されるように(命題 2.20)、距離空間においては点列の極限は存在すれば一意的となる。一般に、位相空間 $X$ の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ が一意的な極限 $x$ をもつとき、 $$ \lim_{n\to\infty} x_n=x $$ と書く。

次の命題で分かるように、ある点への点列の収束を議論するためには、その点の近傍すべては必要ではなく、基本近傍系を考えれば十分である。

命題 2.18 (基本近傍系と点列の収束)

$X$ を位相空間、$(x_n)_{n=1}^\infty$ を $X$ の点列、$x\in X$ とし、$\mathcal{U}$ を $x$ の $X$ における基本近傍系とする。このとき、$(x_n)_{n=1}^\infty$ が $x$ に収束するためには、

任意の $U\in\mathcal{U}$ に対して、ある $N\in\mathbb{N}$ が存在して、$n\geq N$ のとき常に $x_n\in U$ となる

ことが必要十分である。

Proof.

必要性は明らかである。十分性を示す。「任意の $U\in\mathcal{U}$ に対して、ある $N\in\mathbb{N}$ が存在して、$n\geq N$ のとき常に $x_n\in U$ となる」ことを仮定する。$x$ の近傍 $V$ を任意に与える。$\mathcal{U}$ は $x$ の基本近傍系なので、$U\in\mathcal{U}$ が存在して、$U\subset V$ となる。仮定により、$n\geq N$ のとき常に $x_n\in U$ であり、よって $x_n\in V$ である。したがって、$(x_n)_{n=1}^\infty$ は $x$ に収束する。

命題 2.19 (距離空間における点列の収束)

$X$ を距離空間とする。$X$ の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ と点 $x\in X$ に対して、次は同値である。

  • (1) $x_n\to x$ である。すなわち、$(x_n)_{n=1}^\infty$ は $x$ に収束する。
  • (2) 任意の $\varepsilon>0$ に対して、$N\in\mathbb{N}$ が存在して、$n\geq N$ のとき常に $d(x_n, x)<\varepsilon$ である。
  • (3) $d(x_n, x)\to 0$ である。すなわち、$\mathbb{R}$ の点列 $(d(x_n, x))_{n=1}^\infty$ が $0$ に収束する。
Proof.

$\{B(x,r)\,|\,r>0\}$ は $x$ の $X$ における基本近傍系だから、命題 2.18により、 (1) が成り立つこと、つまり $x_n\to x$ となることは、

任意の $\varepsilon>0$ に対して、ある $N\in\mathbb{N}$ が存在して、$n\geq N$ のとき常に $x_n\in B(x,\varepsilon)$

となることと同値である。$x_n\in B(x,\varepsilon)$ は $d(x_n,x)<\varepsilon$ と同値だから、これは言い換えれば (2) が成り立つということである。以上で、(1)と(2)の同値性が示された。

いま示された (1)と(2)の同値性を、$\mathbb{R}$ の点列 $(d(x_n, x))_{n=1}^\infty$ に適用すると、(3) が成り立つこと、つまり $d(x_n, x)\to 0$ であることは、

任意の $\varepsilon>0$ に対して、ある $N$ が存在して、$n\geq N$ のとき $|d(x_n, x)-0|<\varepsilon$

であことと同値であり、これは (2) と明らかに同値である。これで、(2)と(3)の同値性も示された。

命題 2.20 (距離空間における点列の極限は存在すれば一意的)

$(X, d)$ を距離空間、$(x_n)_{n=1}^\infty$ を $X$ の点列とし、$x, y\in X$ とする。もし、$x_n\to x$ かつ $x_n\to y$ ならば、$x=y$ である。

Proof.

$x_n\to x,$ $x_n\to y,$ $x\neq y$ であるとして矛盾を導こう。$x\neq y$ により、$r=d(x,y)$ とおくと $r>0$ である。$x_n\to x$ であるから、命題 2.19により $N_1\in\mathbb{N}$ が存在して、$n\geq N_1$ のとき常に $d(x_n,x)<r/2$ である。また、$x_n\to y$ であるから、同様に $N_2\in\mathbb{N}$ が存在して、$n\geq N_2$ のとき常に $d(x_n,y)<r/2$ である。このとき $N=\max\{N_1, N_2\}$ とおけば、 $$ r=d(x,y)\leq d(x,x_N)+d(x_N,y)<r/2+r/2=r $$ となり矛盾する。

最後に、Euclid 空間の部分集合における点列の収束について補足しておく。$A$ がEuclid空間 $\mathbb{R}^n$ の部分集合であるとき、$A$ は $\mathbb{R}^n$ のEuclid距離の制限(注意 1.13)により距離空間とみなすのであった。以下で見るように、$A$ における点列の収束は、座標に関する「成分ごとの収束」と同値である。

命題 2.21 (Euclid空間の部分集合における点列の収束)

$A$ をEuclid空間 $\mathbb{R}^n$ の部分集合とし、$(p_j)_{j=1}^\infty$ を $A$ の点列、$p=(x_1,\ldots,x_n)\in A$ とする。$p_j=(x_{1,j},\ldots, x_{n,j})\,(j\in\mathbb{N})$ とすると $\mathbb{R}$ の点列 $(x_{i,j})_{j=1}^\infty\,(i=1,\ldots,n)$ が得られるが、このとき次は同値である。

  • (1) $(p_j)_{j=1}^\infty$ は $p$ に収束する。
  • (2) 各 $i=1,\ldots,n$ に対して、$(x_{i,j})_{j=1}^\infty$ は $x_i$ に収束する。
Proof.

(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。$(p_j)_{j=1}^\infty$ が $p$ に収束すると仮定する。$i\in\{1,\ldots,n\}$ を任意に与える。このとき、$\mathbb{R}$ の点列 $(x_{i,j})_{j=1}^\infty$ が $x_i$ に収束していることを示そう。$\varepsilon>0$ を任意に与える。$N\in\mathbb{N}$ が存在して、$j\geq N$ のとき常に $\|p_j-p\|<\varepsilon$ となる。ここで、$\|\phantom{x}\|$ はEuclidノルムを表す。いま $$ |x_{i,j}-x_i|=\sqrt{(x_{i,j}-x_i)^2}\leq\sqrt{\sum_{i'=1}^n (x_{i',j}-x_{i'})^2}=\|p_j-p\| $$ であるから、$j\geq N$ のとき常に $|x_{i,j}-x_i|\leq\varepsilon$ となる。これで、$(x_{i,j})_{j=1}^\infty$ が $x_i$ に収束することが示された。

(2) $\Rightarrow$ (1) を示す。各 $i=1,\ldots,n$ に対して、$(x_{i,j})_{j=1}^\infty$ が $x_i$ に収束すると仮定する。$(p_j)_{j=1}^\infty$ が $p$ に収束することを示すため、$\varepsilon>0$ を任意に与える。各 $i=1,\ldots, n$ に対して、$N_i\in\mathbb{N}$ を取り、$j\geq N_i$ のとき常に $|x_{i,j}-x_i|<\varepsilon/\sqrt{n}$ となるようにできる。$N=\max\{N_1,\ldots, N_n\}$ としよう。このとき、$j\geq N$ ならば $$ \|p_j-p\|^2=\sum_{i=1}^n (x_{i,j}-x_i)^2<n\cdot(\varepsilon/\sqrt{n})^2=\varepsilon^2 $$ であり、よって $\|p_j-p\|<\varepsilon$ である。これで、$(p_j)_{j=1}^\infty$ が $p$ に収束することが示された。



位相空間論3:開基

位相空間の開基の概念を定義する。ある点の近傍のうちいわば代表的なものを集めたものが基本近傍系であったのに対して、位相空間の開集合のうち代表的なものを集めたものが開基であるといえる。開基の一般化である準開基についてもこの章では取り上げる。また、開基ないし準開基を指定することにより位相を定義する方法も重要であり、ここで述べる。



定義 3.1 (開基)

$X$ を位相空間とする。$X$ の部分集合族 $\mathcal{B}$ が $X$ の開基(open base)であるとは、次の二つの条件を満たすことをいう。

  • $\mathcal{B}$ の任意の要素は $X$ の開集合である。
  • $X$ の任意の開集合 $U$ と任意の $x\in U$ に対して、ある $B\in\mathcal{B}$ が存在して $x\in B\subset U$ となる。$\square$

命題 3.2 (開基であることの言い換え)

$X$ を位相空間とする。$X$ の部分集合族 $\mathcal{B}$ に対して、次の二つの条件は同値である。

  • (1) $\mathcal{B}$ は $X$ の開基である。
  • (2) $\mathcal{B}$ の任意の要素は開集合で、かつ、$X$ の任意の開集合 $U$ に対して、$\mathcal{B}$ の部分集合 $\mathcal{B}'$ であって $U=\bigcup_{B\in\mathcal{B}'} B$ となるものが存在する。
Proof.

まず、(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。$\mathcal{B}$ を $X$ の開基とする。すると、$\mathcal{B}$ の任意の要素は $X$ の開集合である。次に、$X$ の開集合 $U$ を任意に与える。このとき、各 $x\in U$ に対して、$B_x\in\mathcal{B}$ を $x\in B_x\subset U$ となるように選べる。すると、$U=\bigcup_{x\in U} B_x$ である(確かめよ)。よって、$\mathcal{B}'=\{B_x\,|\,x\in B\}$ とおけば $U=\bigcup_{B\in\mathcal{B}'} B$ である。

次に、(2) $\Rightarrow$ (1) を示す。(2) を仮定する。$\mathcal{B}$ が $X$ の開基であることを示そう。まず、(2) により、$\mathcal{B}$ の任意の要素は開集合である。次に、$U\subset X$ を開集合とし、$x\in U$ とする。(2) により、$\mathcal{B}$ の部分集合 $\mathcal{B}'$ であって、$U=\bigcup_{B\in\mathcal{B}'} B$ であるようなものが存在する。すると、ある $B\in\mathcal{B}'$ に対して、$x\in B$ であるが、この $B$ に対して、$B\in\mathcal{B}$, $x\in B\subset U$ である。よって、$\mathcal{B}$ は $X$ の開基である。

例 3.3 (開集合系自体は開基)

明らかな例であるが、位相空間 $(X, \mathcal{O})$ に対して、$X$ の開集合全体の集合 $\mathcal{O}$ は $X$ の開基である。$\square$

例 3.4 (距離空間の開基)

$(X, d)$ を距離空間とする。このとき、$X$ の開球体すべての集合を $\mathcal{B}$ とする。すなわち、 $$ \mathcal{B}=\{B(x,r)\,|\,x\in X,\, r>0\} $$ とする。このとき、$\mathcal{B}$ は $X$ の開基となることを示そう。まず、開球体は開集合であるから(命題 1.16)、$\mathcal{B}$ の任意の要素は確かに $X$ の開集合となる。次に、$U$ を $X$ の開集合とし、$x\in U$ とする。距離空間における開集合の定義により、ある $r>0$ が存在して $B(x, r)\subset U$ となる。$B(x, r)\in\mathcal{B}$ であるから、これで $\mathcal{B}$ が $X$ の開基であることが示された。

さらに、$\mathcal{B}$ の部分集合 $\mathcal{B}'$ を $$ \mathcal{B}'=\{B(x, 1/n)\,|\,x\in X,\, n\in\mathbb{N}\} $$ で定義する。このとき $\mathcal{B}'$ も $X$ の開基となる。このことの証明は、例 2.7において $\mathcal{V}_x$ が基本近傍系であることの証明と同様にできるから、ここでは省略する。$\square$

例 3.5 (Euclid空間の開基)

Euclid空間 $\mathbb{R}^n$ は距離空間であるから、例 3.4により、 $$ \mathcal{B}=\{B(x,r)\,|\,x\in\mathbb{R}^n, r>0\},\quad \mathcal{B}'=\{B(x,1/m)\,|\,x\in\mathbb{R}^n,\,m\in\mathbb{N}\} $$ は $\mathbb{R}^n$ の開基である。$\mathbb{R}^n$ は非可算集合だから、これらの開基はともに非可算である。

実は、$\mathbb{R}^n$ は可算な開基をもつ。このことを見るため、座標がすべて有理数であるような $\mathbb{R}^n$ の点全体のなす部分集合 $$ \mathbb{Q}^n=\{(x_1,\ldots, x_n)\in\mathbb{R}^n\,|\,x_1,\ldots, x_n\in\mathbb{Q}\} $$ を考える。$\mathbb{Q}$ は可算集合だから、$\mathbb{Q}^n$ も可算集合である。そこで、 $$ \mathcal{B}_0=\{B(x,1/m)\,|\,x\in\mathbb{Q}^n, m\in\mathbb{N}\} $$ と定める。$\mathcal{B}_0$ は、$\mathbb{R}^n$ の開集合からなる可算集合である。$\mathcal{B}_0$ が $\mathbb{R}^n$ の開基となっていることを確かめよう。そのため、任意の開集合 $U\subset\mathbb{R}^n$ と任意の $x=(x_1,\ldots, x_n)\in U$ を与える。ある $r>0$ に対して、$B(x,r)\subset U$ である。$m\in\mathbb{N}$ を、$1/m<r$ となるようにとる。各 $i=1,\ldots, n$ に対して、有理数 $y_i\in\mathbb{Q}$ を $x_i$ に十分近くとり、$|x_i-y_i|<1/2m\sqrt{n}$ となるようにする。このとき、 $$ d(x,y)^2=\sum_{i=1}^n (x_i-y_i)^2< n\cdot \frac{1}{(2m\sqrt{n})^2}=\left(\frac{1}{2m}\right)^2 $$ となるから、$d(x,y)<1/2m$ である。$B=B(y,1/2m)$ とおくと、$B\in\mathcal{B}_0$, $x\in B$ である。あとは、$B\subset U$ を示せばよい。そこで、$z\in B=B(y,1/2m)$ とする。$d(y, z)<1/2m$ であるから、$d(x, z)\leq d(x, y)+d(y, z)<1/2m+1/2m=1/m$ となる。よって、$1/m<r$ であったことにより、$z\in B(x,1/m)\subset B(x, r)\subset U$ である。これで、$B\subset U$ が示された。

特に $n=1$ の場合を考える。この場合、上の開基 $\mathcal{B}$ は、ちょうど $\mathbb{R}$ の開区間 $(a, b)=\{x\in\mathbb{R}\,|\,a<x<b\}$ の全体と一致する。したがって、開区間全体の集合 $\{(a, b)\,|\,a,b\in\mathbb{R},\, a<b\}$ は $\mathbb{R}$ の開基である。 $\square$

高々可算な開基をもつ位相空間は特に扱いやすく、名前がついている。

定義 3.6 (第二可算)

位相空間 $X$ が第二可算(second countable)である、あるいは第二可算公理を満たすとは、高々可算な $X$ の開基が存在することをいう。$\square$

例 3.5により、Euclid空間 $\mathbb{R}^n$ は第二可算な位相空間である。

命題 3.7 (第二可算ならば第一可算)

位相空間 $X$ が第二可算であるならば、$X$ は第一可算である。

Proof.

$X$ を第二可算な位相空間とする。第二可算性の定義によって、高々可算な $X$ の開基 $\mathcal{B}$ が存在する。このとき、各 $x\in X$ に対して、 $$ \mathcal{B}_x=\{B\in\mathcal{B}\,|\,x\in B\} $$ とおく。すると、$\mathcal{B}_x$ は $\mathcal{B}$ の部分集合なので高々可算である。あとは、$\mathcal{B}_x$ が $x$ の $X$ における基本近傍系となることを示せばよい。各 $B\in\mathcal{B}_x$ に対して $B$ は $x$ を要素にもつ開集合だから、$x$ の開近傍である。よって、$\mathcal{B}_x$ は $x$ の近傍からなる集合族となっている。次に、$V$ を $x$ の開近傍とする。このとき、$\mathcal{B}$ が $X$ の開基であることから、ある $B\in\mathcal{B}$ が存在して、$x\in B\subset V$ となる。このとき $x\in B$, $B\in\mathcal{B}$ であるから $B\in\mathcal{B}_x$ である。以上で、$\mathcal{B}_x$ が $x$ の $X$ における基本近傍系であることが示された。

命題 3.7 の逆は成立しない。

例 3.8 (第一可算であるが第二可算でない空間)

$X$ を任意の非可算集合とする(たとえば、$X=\mathbb{R}$ としてもよい)。この $X$ を離散位相によって位相空間とみなす。このとき、例 2.9でみたように、各 $x\in X$ に対して、$x$ のただ一つの近傍からなる集合 $\{\{x\}\}$ は $x$ の基本近傍系である。よって、各 $x$ に対して、高々可算な(実際には、ただ一つの要素からなる)$x$ の基本近傍系が取れるから、$X$ は第一可算である。

ところが、$X$ は第二可算ではない。これを示すため、$X$ の開基 $\mathcal{B}$ を任意に与える。$\mathcal{B}$ が非可算であることを示せばよい。各 $x\in X$ に対して、$\{x\}$ は $x$ を要素にもつ開集合だから、$\mathcal{B}$ が開基であることより $x\in B\subset \{x\}$ を満たす $B\in\mathcal{B}$ が存在するが、このとき明らかに $B=\{x\}$ でなければならない。よって、各 $x\in X$ に対して $\{x\}\in\mathcal{B}$ であるから、写像 $f\colon X\to\mathcal{B}$ が $f(x)=\{x\}$ で定義される。この $f$ は単射であり $X$ は非可算集合だから、$\mathcal{B}$ も非可算集合である。$\square$

位相空間の開基は次の性質をもつ。

命題 3.9 (開基のもつ性質)

位相空間 $X$ の任意の開基 $\mathcal{B}$ に対して、次の性質が成り立つ。

  • (OB1) 任意の $x\in X$ に対して、ある $B\in\mathcal{B}$ が存在して $x\in B$ となる。
  • (OB2) 任意の $B_1, B_2\in\mathcal{B}$ と $x\in B_1\cap B_2$ に対して、$B\in\mathcal{B}$ が存在して $x\in B\subset B_1\cap B_2$ が成り立つ。
Proof.

(OB1) を示すため、$x\in X$ とする。$X$ 自身は開集合であるから、開基の定義により $x\in B\subset X$ となる $B\in\mathcal{B}$ が存在する。これで (OB1) が示された。

次に (OB2) を示すため、$B_1, B_2\in\mathcal{B}$ と $x\in B_1\cap B_2$ を任意に与える。開基は開集合からなる集合だったから、$B_1, B_2$ は開集合である。よって、$B_1\cap B_2$ も開集合となる。$x\in B_1\cap B_2$ だから、開基の定義により $B\in\mathcal{B}$ であって $x\in B\subset B_1\cap B_2$ となるものが存在する。

基本近傍系のときと同じように、次の命題により、開基を指定することによって位相空間を定めることができる。

命題 3.10 (開基から位相空間を定める)

$X$ を集合とする。$X$ の部分集合からなる族 $\mathcal{B}$ が与えられ、条件 (OB1), (OB2) を満たすとする。このとき、$X$ 上の位相 $\mathcal{O}$ であって、$\mathcal{B}$ が位相空間 $(X, \mathcal{O})$ の開基となるものが一意的に存在する。この位相 $\mathcal{O}$ は具体的には $$ \mathcal{O}=\{U\subset X\,|\,\text{任意の }x\in U\text{ に対してある }B\in\mathcal{B}\text{ が存在して }x\in B\subset U\}\qquad (\star) $$ で与えられる。

Proof.

まず、そのような位相 $\mathcal{O}$ が存在することを示す。そのため、集合族 $\mathcal{O}$ を $(\star)$ によって定義する。 このとき、$\mathcal{O}$ が開集合系の公理 (O1)-(O3) を満たすことを示そう。

(O1) を示そう。$\emptyset\in\mathcal{O}$ が成り立つことは、$\forall x((x\in\emptyset)\rightarrow\cdots)$ の形の命題が常に真となることから分かる(命題 0.8注意 1.3命題 2.11のときと同様)。$X\in\mathcal{O}$ を示すため、$x\in X$ とする。(OB1) により、ある $B\in\mathcal{B}$ に対して $x\in B\subset X$ である。よって、$X\in\mathcal{O}$ である。

(O2) を示すため、$U_1, U_2\in\mathcal{O}$ とする。$U_1\cap U_2\in\mathcal{O}$ を示すため、$x\in U_1\cap U_2$ とする。各 $i=1, 2$ に対して、$B_i\in\mathcal{B}$ を $x\in B_i\subset U_i$ となるように取れる。すると、$x\in B_1\cap B_2\subset U_1\cap U_2$ である。(OB2) により、$B\in\mathcal{B}$ であって $x\in B\subset B_1\cap B_2$ となるものが存在する。すると $x\in B\subset U_1\cap U_2$ である。これで、$U_1\cap U_2\in\mathcal{O}$ が示され、(O2) が示された。

(O3) を示すため、$\{U_\lambda\,|\,\lambda\in \Lambda\}\subset\mathcal{O}$ とする。$x\in\bigcup_{\lambda\in \Lambda} U_\lambda$ とする。すると、ある $\lambda_0\in \Lambda$ に対して、$x\in U_{\lambda_0}$ である。$U_{\lambda_0}\in\mathcal{O}$ なので、ある $B\in \mathcal{B}$ に対して、$B\subset U_{\lambda_0}$ である。したがって、$B\subset\bigcup_{\lambda\in \Lambda} U_\lambda$ である。これで、$\bigcup_{\lambda\in \Lambda} U_\lambda\in\mathcal{O}$ が示され、(O3) が示された。

以上で、位相空間 $(X, \mathcal{O})$ が得られた。次に、$\mathcal{B}$ が位相空間 $(X, \mathcal{O})$ の開基となっていることを示す。まず、$\mathcal{B}$ の各要素が $(X, \mathcal{O})$ の開集合であること、つまり $\mathcal{B}\subset\mathcal{O}$ を示す。そのため、$U\in\mathcal{B}$ とし、$x\in U$ とする。$B=U$ とおけば、$B\in\mathcal{B}$ であって $x\in B\subset U$ である。よって、$U\in\mathcal{O}$ となる。これで $\mathcal{B}\subset\mathcal{O}$ が示された。次に、$U\in\mathcal{O}$ とし、$x\in U$ とする。このとき、$\mathcal{O}$ の定義により、$x\in B\subset U$ を満たす $B\in\mathcal{B}$ が存在する。以上により、$\mathcal{B}$ が $(X, \mathcal{O})$ の開基であることが示された。

最後に、条件を満たす位相の一意性を示そう。$X$ 上の位相 $\mathcal{O}_1$, $\mathcal{O}_2$ に対して、$\mathcal{B}$ が $(X, \mathcal{O}_1)$ の開基であると同時に $(X, \mathcal{O}_2)$ の開基でもあるとする。$\mathcal{O}_1\subset\mathcal{O}_2$ を示すため、$U\in\mathcal{O}_1$ とする。このとき、$U\in\mathcal{O}_2$ となること、つまり $U$ が位相空間 $(X, \mathcal{O}_2)$ の開集合であることを命題 2.4を用いて示す。そのため、$x\in U$ とする。$\mathcal{B}$ は $(X, \mathcal{O}_1)$ の開基だから、ある $B\in\mathcal{B}$ が存在して、$x\in B\subset U$ である。ところが、$\mathcal{B}$ は $(X, \mathcal{O}_2)$ の開基でもあり、$B\in\mathcal{B}$ であるから、$B$ は $(X, \mathcal{O}_2)$ の開集合であり、よって $B$ は $x$ の $(X, \mathcal{O}_2)$ における開近傍である。したがって、命題 2.4により、$U$ は $(X, \mathcal{O}_2)$ の開集合、つまり $U\in\mathcal{O}_2$ である。これで、$\mathcal{O}_1\subset\mathcal{O}_2$ が示された。全く同様に、$\mathcal{O}_2\subset\mathcal{O}_1$ も示されるから、結局 $\mathcal{O}_1=\mathcal{O}_2$ を得る。

注意 3.11 (集合族を開基として生成される位相)

命題 3.10での位相 $\mathcal{O}$ を、$\mathcal{B}$ を開基として生成される位相という。このとき、$\mathcal{O}$ は $\mathcal{B}$ を含む最小の位相($\mathcal{B}$ を含む最も粗い位相)となっている。

このことを示そう。まず、$\mathcal{B}\subset\mathcal{O}$ は、$\mathcal{B}$ が $(X, \mathcal{O})$ の開基であることから明らかに成立する。次に、$\mathcal{O}'$ を、$\mathcal{B}\subset\mathcal{O}'$ であるような $X$ 上の任意の位相とする。このとき、$\mathcal{O}\subset\mathcal{O}'$ を示したい。そのため、$U\in\mathcal{O}$ とする。命題 3.2より、$\mathcal{B}'\subset\mathcal{B}$ が存在して $$ U=\bigcup_{B\in\mathcal{B}'} B $$ である。ところが、$\mathcal{B}'\subset\mathcal{B}\subset\mathcal{O}'$ であったので、各 $B\in\mathcal{B}'$ は $\mathcal{O}'$ の要素である。よって、上の式の右辺は、$\mathcal{O}'$ の要素の和集合になっており、よって開集合系の公理から $\mathcal{O}'$ の要素である。したがって、$U\in\mathcal{O}'$ が成り立つ。これで、$\mathcal{O}\subset\mathcal{O}'$ が示され、$\mathcal{O}$ が $\mathcal{B}$ を含む最小の位相であることが分かった。$\square$

例 3.12 (Sorgenfrey 直線)

命題 3.10を使って、実数全体の集合 $\mathbb{R}$ に通常とは異なる位相を入れて、位相空間の例を構成しよう。実数 $a, b$ が $a<b$ を満たすとき、半開区間 $[a, b)$ を $[a, b)=\{x\in\mathbb{R}\,|\,a\leq x<b\}$ で定義する。半開区間全体の集合を $\mathcal{B}$ とする。すなわち、 $$ \mathcal{B}=\{[a, b)\,|\,a, b\in\mathbb{R},\,a<b\} $$ とする。このとき、$\mathcal{B}$ は条件 (OB1), (OB2) を満たす(確かめよ)。したがって、命題 3.10により、$\mathcal{B}$ を開基とする $\mathbb{R}$ 上の位相がただ一つ存在する。集合 $\mathbb{R}$ にこの位相を入れて得られる位相空間をSorgenfrey直線(Sorgenfrey line)という。

以下ではSorgenfrey直線を $\mathbb{S}$ で表す。各 $x\in\mathbb{S}$ に対して、次の $\mathcal{U}_x$ は $x$ の $\mathbb{S}$ における基本近傍系である。 $$ \mathcal{U}_x=\{[x, x+1/n)\,|\,n\in\mathbb{N}\} $$ 実際、$V$ を $x$ の $\mathbb{S}$ における開近傍とすると、$\mathcal{B}$ が $\mathcal{S}$ の開基であることから、$x\in [a, b)\subset V$ となる $a, b\in\mathbb{R}$ が存在する。このとき、$a\leq x<b$ である。さらに、$n\in\mathbb{N}$ を、$x+1/n\leq b$ となるように取れる。すると、$x\in [x, x+1/n)\subset [a, b)\subset V$ である。これで、$\mathcal{U}_x$ が $x$ の $\mathbb{S}$ における基本近傍系であることが示された。$\mathcal{U}_x$ は可算であるから、これでSorgenfrey直線 $\mathbb{S}$ は第一可算であることも分かった。

$\mathbb{R}$ の通常の位相を $\mathcal{O}_\mathbb{R}$ で表し、$\mathbb{S}$ の位相を $\mathcal{O}_\mathbb{S}$ で表す。このとき、 $$ \mathcal{O}_\mathbb{R}\subset \mathcal{O}_\mathbb{S} $$ であることを示そう。そのために、まず任意の開区間 $(a, b)=\{x\in\mathbb{R}\,|\,a<x<b\}$ を考える。$(a, b)=\bigcup_{a<x<b}[x, b)$ と表されるから、$(a, b)\in\mathcal{O}_\mathbb{S}$ である。よって、開区間全体の集合を $\mathcal{I}$ とすれば $\mathcal{I}\subset\mathcal{O}_\mathbb{S}$ である。ところが、例 3.5の最後の段落で述べたように、$\mathcal{I}$ は通常の位相を入れた $\mathbb{R}$ の開基である。よって注意 3.11により、$\mathcal{O}_\mathbb{R}$ は $\mathcal{I}$ を含む最小の位相だから、$\mathcal{O}_\mathbb{R}\subset\mathcal{O}_\mathcal{S}$ であることが分かった。こうして、Sorgenfrey 直線の位相は $\mathbb{R}$ の通常の位相よりも細かいことが分かった。

Sorgenfrey直線 $\mathbb{S}$ は第二可算ではない。これを示すため、$\mathbb{S}$ が高々可算な開基 $\mathcal{B}$ をもったとする。$\mathcal{B}$ の要素で空でなく下に有界であるもの全体を $\mathcal{B}'$ とし、写像 $f\colon\mathcal{B}'\to\mathbb{R}$ を、$f(B)=\inf B$ によって定義する。ここで、$\inf B$ は集合 $B$ の下限を表す。$\mathcal{B}'$ は高々可算であるから、像 $f(\mathcal{B}')$ は高々可算であるが、$\mathbb{R}$ は非可算なので、点 $x\in\mathbb{R}\setminus f(\mathbb{B}')$ が存在する。すると、$x\in B\subset [x, x+1)$ となる $B\in\mathcal{B}$ が存在するが、このとき $B$ は要素 $x$ をもち、下界 $x$ をもつから $B\in\mathcal{B}'$ であり、$x=\inf B=f(B)$ となる。これは $x\in\mathbb{R}\setminus f(\mathbb{B}')$ としていたことに反する。以上で、$\mathbb{S}$ は第二可算ではないことが示された。 $\square$

開基の条件をさらに弱めた準開基の概念を定義する。

定義 3.13 (準開基)

$X$ を位相空間、$\mathcal{S}$ を $X$ の部分集合族とする。$\mathcal{S}$ が $X$ の準開基(subbase)であるとは、$\mathcal{S}$ の有限個の要素の共通部分全体が $X$ の開基になること、つまり次の集合 $\mathcal{B}_\mathcal{S}$ が $X$ の開基になることをいう。 $$ \mathcal{B}_\mathcal{S}=\left\{\bigcap_{i=1}^n S_i\,\bigg|\,n\in\mathbb{N},\, S_1,\ldots, S_n\in\mathcal{S}\right\} $$ このとき $\mathcal{S}\subset\mathcal{B}_\mathcal{S}$ であるから、$\mathcal{S}$ の要素はすべて $X$ の開集合となることに注意する。また、$\mathcal{S}$ 自身が開基である場合は、$\mathcal{S}\subset\mathcal{B}_\mathcal{S}$ であることから $\mathcal{B}_\mathcal{S}$ も開基となる。よって、開基は常に準開基となる。$\square$

例 3.14 (実数直線の準開基)

$\mathbb{R}$ において、次の部分集合族を考える。 $$ \mathcal{S}=\{(a, +\infty)\,|\,a\in\mathbb{R}\}\cup\{(-\infty, b)\,|\,b\in\mathbb{R}\} $$ つまり、$\mathcal{S}$ を左右どちらかだけに無限な開区間の全体とする。このとき、$\mathcal{S}$ は $\mathbb{R}$ の準開基であることを示そう。

定義 3.13の $\mathcal{B}_\mathcal{S}$ を考え、これが $\mathbb{R}$ の開基であることを示そう。$\mathcal{S}$ の要素はすべて $\mathbb{R}$ の開集合なので、 その有限個の共通部分全体である $\mathcal{B}_\mathcal{S}$ の要素もすべて $\mathbb{R}$ の開集合である。 次に、$U\subset\mathbb{R}$ を開集合、$x\in U$ とする。すると、 ある $r>0$ に対して、$B=B(x,r)$ とおくとき $B=(x-r, x+r)\subset U$ であるが、ここで $$ B=(x-r, x+r)=(x-r, +\infty)\cap (-\infty, x+r) $$ であるから $B\in\mathcal{B}_\mathcal{S}$ である。これと $x\in B\subset U$ により、$\mathcal{B}_\mathcal{S}$ が $\mathbb{R}$ の開基であることが示された。 よって、$\mathcal{S}$ は $\mathbb{R}$ の準開基である。

命題 3.15 (準開基のもつ性質)

位相空間 $X$ の任意の準開基 $\mathcal{S}$ に対して、次の性質が成り立つ。

  • (SB) 任意の $x\in X$ に対して、ある $S\in\mathcal{S}$ が存在して $x\in S$ となる。
Proof.

$x\in X$ とする。$X$ 自身は開集合であるから、 定義 3.13 の $\mathcal{B}_\mathcal{S}$ の要素 $B$ が存在して、$x\in B\subset X$ となる。$\mathcal{B}_\mathcal{S}$ の定義から、ある $n\in\mathbb{N}$ と $S_1,\ldots, S_n\in\mathcal{S}$ に対して $B=\bigcap_{i=1}^n S_i$ と表すことができる。よって、$x\in B\subset S_1$ となるので、求める $S\in\mathcal{S}$ としては $S_1$ を取ればよい。

命題 3.15の(SB)は非常に弱い条件であるが、この(SB)を満たしさえすれば、集合族はある位相の準開基になることができる。つまり、次が成り立つ。

命題 3.16 (準開基から位相空間を定める)

$X$ を集合とする。$X$ の部分集合からなる族 $\mathcal{S}$ が与えられ、条件 (SB) を満たすとする。このとき、$X$ 上の位相 $\mathcal{O}$ であって、$\mathcal{S}$ が位相空間 $(X, \mathcal{O})$ の準開基となるものが一意的に存在する。

Proof.

与えられた $\mathcal{S}$ に対して、$\mathcal{B}_\mathcal{S}$ を定義 3.13の通りとする。すると、任意の $B_1, B_2\in\mathcal{B}_\mathcal{S}$ に対して $B_1\cap B_2\in\mathcal{B}_\mathcal{S}$ となることに注意する(確かめよ)。このことと、$\mathcal{S}$ が (SB) を満たすことから、$\mathcal{B}_\mathcal{S}$ が (OB1), (OB2) を満たすことが分かり、よって、命題 3.10により、$\mathcal{B}_\mathcal{S}$ を開基とする位相、すなわち $\mathcal{S}$ を準開基とする位相が一意的に存在することが分かる。

開集合系の公理 (O1)-(O3) は、集合に位相を定めるときには一つの大きな制約である。命題 3.16はある意味でその制約を大幅に緩和するものである。つまり、(O1)-(O3) を満たさない集合族 $\mathcal{S}$ についても、(それが非常に弱い条件 (SB) を満たしさえすれば)$\mathcal{S}$ に基づいて位相を定めることができるのである。

注意 3.17 (集合族を準開基として生成される位相)

命題 3.16 での位相 $\mathcal{O}$ を、$\mathcal{S}$ を準開基として生成される位相という。このとき、$\mathcal{B}_\mathcal{S}$ は $(X, \mathcal{O})$ の開基なのだから、$\mathcal{O}$ は $\mathcal{B}_\mathcal{S}$ を開基として生成される位相でもあることに注意する。

このときも注意 3.11のときと同様に、$\mathcal{O}$ は $\mathcal{S}$ を含む最小の位相($\mathcal{S}$ を含む最も粗い位相)となっている。このことを示そう。まず、$\mathcal{S}\subset\mathcal{O}$ は、$\mathcal{S}$ が $(X, \mathcal{O})$ の開基であることから明らかに成立する。次に、$\mathcal{O}'$ を、$\mathcal{S}\subset\mathcal{O}'$ であるような $X$ 上の任意の位相とする。すると、$\mathcal{B}_\mathcal{S}\subset\mathcal{O}'$ である。実際、$B\in\mathcal{B}_\mathcal{S}$ とすると $B=\bigcap_{i=1}^n S_i$, $S_i\in\mathcal{S}$ と表すことができるが、$\mathcal{S}\subset\mathcal{O}'$ により $S_i\in\mathcal{O}'$ であり、よって開集合系の公理により $B=\bigcap_{i=1}^n S_i\in\mathcal{O}'$ となる。これで、$\mathcal{B}_\mathcal{S}\subset\mathcal{O}'$ が示された。すでに注意したように、$\mathcal{O}$ は $\mathcal{B}_\mathcal{S}$ を開基として生成される位相だから、注意 3.11で示したことより、$\mathcal{O}\subset\mathcal{O}'$ である。これが示したいことであった。$\square$

(SB) を満たす集合族 $\mathcal{S}$ は、それ自体では開集合系の公理 (O1)-(O3) を満たさないかもしれない。$\mathcal{S}$ を準開基として生成される位相 $\mathcal{O}$ というのは、一言で言えば、(O1)-(O3) を満たすために最低限必要な集合を $\mathcal{S}$ に加えて得られる位相である。


位相空間論4:閉包と内部

位相空間の部分集合に対する重要な操作として、閉包と内部がある。直観的にいえば、閉包とは、部分集合に対してそれに「いくらでも近い」点を付け加えたものである(後の命題 4.5を見るとそれが納得できるであろう)。閉包はもとの集合より大きい最小の閉集合となるが、これに対して内部はもとの集合より小さい最大の開集合となる。



定義 4.1 (閉包)

$X$ を位相空間、$A$ を $X$ の部分集合とする。$A$ を含む $X$ の閉集合全体の集合を $\mathcal{F}_A$ とするとき、 共通部分 $\bigcap_{F\in \mathcal{F}_A} F$ を $A$ の $X$ における閉包(closure)といい、$\operatorname{Cl} A$ で表す。

$A$ の閉包の記号としては、この他にも $\overline{A}$ が広く用いられている。複数の位相空間を扱うときなどに、$X$ における閉包であることを強調する必要がある場合は $\operatorname{Cl}_X A$ と書く場合もある。 定義から明らかに、$A\subset\operatorname{Cl} A$ である。 $\operatorname{Cl} A$ の要素のことを、$A$ の触点(adherent point)ということがある。 また、各 $A\subset X$ に $\operatorname{Cl} A$ を対応させることで、 $X$ の冪集合 $\mathcal{P}(X)$ から $\mathcal{P}(X)$ への写像 $$ \operatorname{Cl}\colon \mathcal{P}(X)\to\mathcal{P}(X) $$ が定義される。これを $X$ の閉包作用素(closure operator)という ($X$ の部分集合全体の集合を $X$ の冪集合といい $\mathcal{P}(X)$ で表すのであった)。$\square$

閉集合の任意個の共通部分は常に閉集合となる(命題 1.3)ので、閉包 $\operatorname{Cl} A$ は閉集合である。 次の命題は、閉包を取り扱うときに常に用いられる。

命題 4.2 (閉包の最小性)

$X$ を位相空間、$A$ を $X$ の部分集合とする。$F$ が $A\subset F$ を満たす $X$ の閉集合であるならば $\operatorname{Cl} A\subset F$ である。 したがって、$\operatorname{Cl} A$ は $A$ を含む $X$ の閉集合のうち最小のものである。

Proof.

$A\subset X$ とし、$X$ の閉集合 $F$ が $A\subset F$ を満たすとする。このとき、定義 4.1の$\mathcal{F}_A$ に対して $F\in\mathcal{F}_A$ であるから、$\operatorname{Cl} A=\bigcap_{F'\in\mathcal{F}_A} F'\subset F$ である。$\operatorname{Cl} A$ は上で注意したように $X$ の閉集合であるから、 いま言えたことは、まさに、$\operatorname{Cl} A$ が $A$ を含む $X$ の閉集合のうち最小のものであることを示している。

注意 4.3 (閉集合の特徴づけ)

命題 4.2の後半の主張から、すぐに次のことが分かる。位相空間 $X$ の部分集合 $A$ が閉集合であることは、$A=\operatorname{Cl} A$ であることと同値である。$A\subset\operatorname{Cl} A$ はいつでも成り立つので、これは $\operatorname{Cl} A\subset A$ とも同値である。$\square$

命題 4.4 (閉包の単調性)

$X$ を位相空間とするとき、$X$ の部分集合 $A, B$ に対して $A\subset B$ ならば $\operatorname{Cl} A\subset\operatorname{Cl} B$ である。

Proof.

$A\subset B\subset X$ とする。$B\subset\operatorname{Cl} B$ であるから、$A\subset \operatorname{Cl} B$ である。$\operatorname{Cl} B$ は閉集合 であるから、命題 4.2により、$\operatorname{Cl} A\subset \operatorname{Cl} B$ である。

ある点が与えられた部分集合の閉包に属しているかどうか判定するには、次の命題を用いることが多い。

命題 4.5 (閉包に属する点の特徴づけ)

$X$ を位相空間とし、$A$ を $X$ の部分集合とする。$x\in A$ に対して、次は同値である。

  • (1) $x\in \operatorname{Cl} A$ である。
  • (2) $x$ の任意の近傍 $V$ に対して、$A\cap V\neq\emptyset$ である。
  • (3) $x$ の任意の開近傍 $V$ に対して、$A\cap V\neq\emptyset$ である。
  • (4) $x$ のある基本近傍系 $\mathcal{V}$ が存在して、任意の $V\in\mathcal{V}$ に対して $A\cap V\neq\emptyset$ である。
Proof.

(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。$x\in \operatorname{Cl} A$ とする。(2) がもし成り立たなければ、$x$ のある近傍 $V$ に対して、$V\cap A=\emptyset$ である。近傍の定義から、開集合 $U$ で $x\in U\subset V$ となるものが存在するが、このとき $U\cap A=\emptyset$ であるから、$A\subset X\setminus U$ である。$X\setminus U$ は閉集合だから、命題 4.2により $\operatorname{Cl} A\subset X\setminus U$ であり、よって、$x\in X\setminus U$ である。これは、$x\in U$ であったことに反する。よって、(2) は成り立つ。

(2) $\Rightarrow$ (3) は明らかである。

(3) $\Rightarrow$ (4) は、$x$ の基本近傍系 $\mathcal{V}$ として $x$ の開近傍全体の集合をとれば、直ちに正しいことが分かる。

(4) $\Rightarrow$ (1) を示す。(4) のような $x$ の基本近傍系 $\mathcal{V}$ が存在するにもかかわらず $x\notin \operatorname{Cl} A$ であったとして矛盾を導こう。このとき、$X\setminus \operatorname{Cl} A$ は $x$ の開近傍であるから、ある $V\in\mathcal{V}$ に対して $x\in V\subset X\setminus \operatorname{Cl} A$ である。すると $V\cap \operatorname{Cl} A=\emptyset$ であるから、$V\cap A=\emptyset$ である。これは、基本近傍系 $\mathcal{V}$ の取り方に反する。

例 4.6 (上限・下限と閉包)

$A$ を実数直線 $\mathbb{R}$ の空でない部分集合とする。このとき、$A$ が上に有界ならば上限 $\sup A\in\mathbb{R}$ が存在するが、このとき、$\sup A\in\operatorname{Cl}_\mathbb{R} A$ となる。このことを、命題 4.5(4)の条件を用いて示そう。

$s=\sup A$ とおく。$\{(s-r, s+r)\,|\,r>0\}$ が $s$ の基本近傍系であることに注意すれば、任意の $r>0$ に対して $A\cap (s-r, s+r)\neq\emptyset$ となること示せばよいことが分かる。そこで $r>0$ を任意に与える。$s-r$ は $A$ の上界ではなく $s$ は $A$ の上界なので、$s-r<a\leq s$ となるような $a\in A$ が存在する。すると、$a\in A\cap (s-r, s+r)$ であるので、$A\cap (s-r, s+r)\neq\emptyset$ である。これで、$s\in\operatorname{Cl}_\mathbb{R} A$ が示された。

まったく同様にして、$A$ が下に有界な空でない $\mathbb{R}$ の部分集合であるとき、$\inf A\in\operatorname{Cl}_\mathbb{R} A$ であることが分かる。

$A$ が($\mathbb{R}$ の)閉集合であるときは、注意 4.3により $A=\operatorname{Cl}_\mathbb{R} A$ である。したがって、$A$ が上に有界な空でない閉集合であるときは $\sup A\in A$ であり、$A$ が下に有界な空でない閉集合であるときは $\inf A\in A$ である。$\square$

距離空間においては、閉包は点列の収束を用いて次のように記述できる。

命題 4.7 (距離空間における閉包)

$X$ を距離空間とし、$A$ を $X$ の部分集合とする。$x\in X$ に対して、次は同値である。

  • (1) $x\in \operatorname{Cl} A$ である。
  • (2) $x$ に収束するような $A$ の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ が存在する。
Proof.

(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。$x\in\operatorname{Cl} A$ とする。命題 4.5により、各 $n\in\mathbb{N}$ に対して $B(x, 1/n)\cap A\neq\emptyset$ である。そこで、各 $n\in\mathbb{N}$ に対して $x_n\in B(x, 1/n)\cap A$ を選べば、$A$ の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ が得られる。$\{B(x,1/n)\,|\,n\in\mathbb{N}\}$ が $x$ の基本近傍系であることに注目すれば、命題 2.18により、$x_n\to x$ であることが分かる。

(2) $\Rightarrow$ (1) を示す。$(x_n)_{n=1}^\infty$ を、$x$ に収束するような $A$ の点列とする。このとき $x\in \operatorname{Cl} A$ であることを、命題 4.5 (2) の条件を確かめることで示そう。そこで、$V$ を $x$ の近傍とする。$x_n\to x$ なので、ある $N\in\mathbb{N}$ が存在して、$n\geq N$ のとき常に $x_n\in V$ である。すると、とくに $x_N\in V$ である。$(x_n)_{n=1}^\infty$ は $A$ の点列であったので、$x_N\in V\cap A$ である。よって、$V\cap A\neq\emptyset$ である。これが $x$ の任意の近傍 $V$ に対して成り立つので、$x\in\operatorname{Cl} A$ である。

次は、距離空間において閉集合が「点列の収束について閉じた集合」と同じものになることを示している。このことは、閉集合という用語を正当化するものと言えるだろう。

命題 4.8 (距離空間における閉集合の特徴づけ)

$X$ を距離空間とし、$A$ を $X$ の部分集合とするとき、次は同値である。

  • (1) $A$ は $X$ の閉集合である。
  • (2) $A$ の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ に対して、$(x_n)_{n=1}^\infty$ が $X$ の点 $x$ に収束するならば、$x\in A$ である。
Proof.

(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。$A$ を $X$ の閉集合とすると、注意 4.3により、$A=\operatorname{Cl} A$ である。$A$ の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ が $X$ の点 $x$ に収束するとする。このとき、命題 4.7により $x\in \operatorname{Cl} A$ であるから、$x\in A$ である。

(2) $\Rightarrow$ (1) を示す。(2) を仮定しよう。このとき $A=\operatorname{Cl} A$ を示せばよいが、$A\subset\operatorname{Cl} A$ はいつでも成り立つので、$\operatorname{Cl} A\subset A$ をいえば十分である(注意 4.3を参照)。そこで、$x\in\operatorname{Cl} A$ とする。このとき、命題 4.7により、$A$ の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ で $x$ に収束するものが存在する。(2) により、このとき $x\in A$ である。これで $\operatorname{Cl} A\subset A$ が示された。

例 4.9 (閉包の具体例)

(1) $X$ を離散空間とする。このときは、任意の $A\subset X$ に対して、$A$ そのものが $X$ の閉集合なので $A=\operatorname{Cl} A$ である。

(2) $X$ を密着空間とする。このときは、閉集合が $\emptyset$ と $X$ の二つしかない。よって、$A\subset X$ が空でなければ $\operatorname{Cl} A=X$ である。また、$\operatorname{Cl} \emptyset=\emptyset$ である。

(3) 無限集合 $X$ を補有限位相(例 1.8)によって位相空間と見なす。このときは、$X$ の閉集合は $X$ の有限部分集合すべてと、$X$ そのものである。よって、$A\subset X$ が有限集合のときは、$\operatorname{Cl} A=A$ である。一方、$A$ が無限集合のときは、$\operatorname{Cl} A=X$ である。

(4) $X=\mathbb{R}$ とする。$A$ を開区間 $(-1, 1)$ とするとき、$\operatorname{Cl} A=[-1, 1]$ であることを示そう。そのためには、(i) $x>1$ のとき $x\notin\operatorname{Cl} A$ (ii) $x<-1$ のとき $x\notin\operatorname{Cl} A$ (iii) $1\in\operatorname{Cl} A$ (iv) $-1\in\operatorname{Cl} A$ の四つを示せばよい。ここでは、(i) と (iii) のみ示そう((ii) は (i) と、(iv) は (iii) と、それぞれ同様である)。(i) を見るため、$x>1$ とする。このとき開区間 $U=(1,+\infty)$ を考えると、$U$ は $x$ の開近傍で $U\cap A=\emptyset$ であるから、命題 4.5により $x\notin \operatorname{Cl} A$ である。(iii) を見るためには、点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ を $x_n=1-1/n$ で定義するとき $x_n\to 1$ となることに注目する。$(x_n)_{n=1}^\infty$ は $A$ の点列だから、命題 4.7により $1\in\operatorname{Cl} A$ である。この例にも見られるように、$\mathbb{R}$(あるいは一般に $\mathbb{R}^n$)における閉包は、直観的には集合に「境界の点」を付け加えたものであるということができ、視覚的に分かりやすい。

(5) $X=\mathbb{R}^n$ に対して、各座標が有理数であるような点全体のなす部分集合 $\mathbb{Q}^n$ を考える。このとき、$\operatorname{Cl} \mathbb{Q}^n=\mathbb{R}^n$ となることを示そう。$\operatorname{Cl} \mathbb{Q}^n\subset\mathbb{R}^n$ は明らかなので、$\mathbb{R}^n\subset\operatorname{Cl} \mathbb{Q}^n$ であることを示せばよい。そこで、$d$ でEuclid距離を表すことにし、$x=(x_1,\ldots, x_n)\in\mathbb{R}^n$ とする。$x$ の基本近傍系として、$\mathcal{V}=\{B_d(x,r)\,|\,r>0\}$ を考え、これについて命題 4.5(4)の条件を用いることで $x\in\operatorname{Cl} \mathbb{Q}^n$ を示そう。任意に $V\in\mathcal{V}$ を与える。ある $r>0$ に対して、$V=B_d(x,r)$ である。各 $i=1,\ldots, n$ に対して、有理数 $y_i\in\mathbb{Q}$ を $x_i$ に十分近くとり、$|x_i-y_i|<r/\sqrt{n}$ となるようにする。すると、$y=(y_1,\ldots, y_n)$ に対して $y\in\mathbb{Q}^n$ であり、簡単な計算により $d(x,y)<r$ を得る。よって、$y\in B_d(x,r)\cap\mathbb{Q}^n=V\cap\mathbb{Q}^n$ となる。よって、$V\cap\mathbb{Q}^n\neq\emptyset$ であるから、命題 4.5(4)により $x\in\operatorname{Cl}\mathbb{Q}^n$ である。$\square$

上の例の(5)のように、閉包が空間全体となるような部分集合は特に重要であるため、それを表す用語がある。

定義 4.10 (稠密)

$X$ を位相空間とする。$X$ の部分集合 $A$ が($X$ において)稠密(dense)であるとは、$\operatorname{Cl} A=X$ が成り立つことをいう。$\square$

命題 4.11 (部分集合が稠密であることの言い換え)

$X$ を位相空間、$A$ を $X$ の部分集合とするとき、次は同値である。

  • (1) $A$ は $X$ において稠密である。
  • (2) $X$ の任意の空でない開集合 $U$ に対して $U\cap A\neq\emptyset$ である。
Proof.

(1)$\Rightarrow$(2) を示す。$A$ が $X$ において稠密、つまり $\operatorname{Cl} A=X$ であるとして、$U$ を $X$ の空でない開集合とする。$U$ は空でないから $x\in U$ が存在する。このとき、$U$ は $x$ の開近傍であり、$x\in X=\operatorname{Cl} A$ であるから、命題 4.5により、$U\cap A\neq\emptyset$ である。

(2)$\Rightarrow$(1) を示す。(2) が成り立つとして、$A$ が $X$ において稠密であること、すなわち $X=\operatorname{Cl} A$ を示す。そのためには、$X\subset\operatorname{Cl} A$ を示せば十分である。そこで、$x\in X$ とする。$x$ の開近傍 $U$ を任意に与えると、$x\in U$ により $U$ は空でない開集合だから、(2)により、$U\cap A\neq\emptyset$ である。したがって、命題 4.5により、$x\in\operatorname{Cl} A$ である。これで、$X\subset\operatorname{Cl} A$ が示された。

例 4.12 (稠密な部分集合の例)

例 4.9(5)により、$\mathbb{R}^n$ において $\mathbb{Q}^n$ は稠密である。とくに、$\mathbb{R}$ において $\mathbb{Q}$ は稠密である。$\square$

定義 4.13 (可分)

位相空間 $X$ が可分(separable)であるとは、$X$ の高々可算な部分集合 $A$ であって $X$ において稠密なものが存在することをいう。$\square$

$\mathbb{Q}^n$ は高々可算集合であるから、例 4.12 により $\mathbb{R}^n$ は可分な位相空間であるが、より一般に次の結果がある。

命題 4.14 (第二可算ならば可分)

位相空間 $X$ が第二可算であるとする。このとき、$X$ は可分である。

Proof.

位相空間 $X$ が第二可算であるとすると、$X$ の高々可算な開基 $\mathcal{B}$ が存在する。各 $B\in\mathcal{B}\setminus \{\emptyset\}$ に対して、点 $x_B\in B$ を選び、$A=\{x_B\,|\,B\in\mathcal{B}\setminus \{\emptyset\}\}$ とおく。$A$ は高々可算集合であるから、あとは $A$ が $X$ において稠密であること、つまり $X=\operatorname{Cl} A$ を示せばよい。そのためには、$X\subset \operatorname{Cl} A$ が言えればよい。そこで、$x\in X$ とする。$x\in\operatorname{Cl} A$ を、命題 4.5(3)の条件を使って示すため、$x$ の開近傍 $V$ を任意に与える。すると、$x\in B\subset V$ となる $B\in\mathcal{B}$ が存在する。このとき、$x\in B$ により $B\neq\emptyset$ だから、$x_B\in B$ が定義される。$x_B\in V\cap A$ なので、$V\cap A\neq\emptyset$ である。これで命題 4.5(3)の条件により $x\in\operatorname{Cl} A$ が示された。よって $X\subset \operatorname{Cl} A$ となり、$A$ が $X$ において稠密であることが示された。

次の結果により、距離空間については第二可算性と可分性は同値な性質となる。

命題 4.15 (距離空間が可分ならば第二可算)

距離空間 $(X, d)$ が可分であるとする。このとき、$(X, d)$ は第二可算である。

Proof.

距離空間 $(X, d)$ が可分であるとすると、高々可算な集合 $A\subset X$ であって $X$ において稠密なものが存在する。このとき、 $$ \mathcal{B}=\{B(a,1/n)\,|\,a\in A,\,n\in\mathbb{N}\} $$ とおけば $\mathcal{B}$ が $X$ の開基となることを示そう。$\mathcal{B}$ は高々可算であるから、これが言えれば $X$ の第二可算性が示されて証明は終わる。さて、そこで $U$ を $X$ の開集合とし、$x\in U$ とする。$x\in B\subset U$ となる $B\in\mathcal{B}$ を見つければよい。まず、$r>0$ を $B(x,r)\subset U$ となるように取る。$n\in\mathbb{N}$ を、$1/n<r$ であるように取ると、$x\in X=\operatorname{Cl} A$ により $B(x,1/2n)\cap A\neq\emptyset$ である。そこで、$a\in B(x,1/2n)\cap A$ を一つ取る。すると、$d(a,x)<1/2n$ であるから、$x\in B(a,1/2n)$ である。また、$B(a,1/2n)\subset B(x,1/n)$ である。実際、$y\in B(a,1/2r)$ とすれば、$d(y,x)\leq d(y,a)+d(a,x)<1/2n+1/2n=1/n$ であるから、$y\in B(x,1/n)$ となる。以上から $$ x\in B(a,1/2n)\subset B(x,1/n)\subset B(x,r)\subset U $$ である。$B(a,1/2n)\in\mathcal{B}$ であるから、これで $\mathcal{B}$ が $X$ の開基となることが示された。

例 4.16 (可分だが第二可算でない例、第一可算だが距離化可能でない例)

$X$ を集合とし、これを補有限位相(例 1.8)により位相空間とみなす。このとき、$X$ は可分であることを示そう。 $X$ が高々可算の場合は、$X$ 自身が高々可算な稠密集合となるからよい。そこで、$X$ が非可算であるとする。このときは、 可算無限部分集合 $A\subset X$ を取ることができる。$A$ が $X$ において稠密である。実際、$X$ の閉集合は $X$ の有限部分集合あるいは $X$ 自身だから、このとき $A$ を含む $X$ の閉集合は $X$ 自身しかあり得ない。よって、$A$ を含む最小の閉集合であるところの $\operatorname{Cl} A$ は $X$ でなければならない。 これで $A$ は $X$ の稠密な部分集合であることが分かり、$X$ は可分であることが分かった。

一方、$X$ が非可算であるとき、$X$ は第一可算とならないことを例 2.14で示している。このことと命題 3.7より、$X$ は第二可算でもない。したがって、非可算集合に補有限位相を入れたものは、可分であるが第二可算ではない位相空間の例となっている。

可分だが第二可算ではない位相空間のもう一つの例として、Sorgenfrey直線 $\mathbb{S}$(例 3.12)がある。実際、$\mathbb{S}$ の高々可算な稠密な部分集合として $\mathbb{Q}$ が取れる(確かめよ)。一方、$\mathbb{S}$ が第二可算でないことは例 3.12で示した。$\mathbb{S}$ が可分だが第二可算でないという事実と命題 4.16により、$\mathbb{S}$ は距離化可能ではないことが分かる。かくして、$\mathbb{S}$ は第一可算であるが距離化可能ではない位相空間であると分かった。 $\square$

閉包作用素を指定することで位相空間を定めることができる。そのときに用いられる性質が次のものである。

命題 4.17 (閉包作用素の性質)

位相空間 $X$ の閉包作用素 $\operatorname{Cl}\colon\mathcal{P}(X)\to\mathcal{P}(X)$ は次の性質を満たす。

  • (CO1) $\operatorname{Cl} \emptyset=\emptyset$
  • (CO2) $A\subset\operatorname{Cl} A$
  • (CO3) $\operatorname{Cl}(A\cup B)=\operatorname{Cl} A\cup\operatorname{Cl} B$
  • (CO4) $\operatorname{Cl} \operatorname{Cl} A=\operatorname{Cl} A$
Proof.

(CO1)は、$\emptyset$ が閉集合であることから分かる。(CO2)は、閉包の定義から明らかである。

(CO3)を示すため、$A, B\subset X$ とする。命題 4.4により $\operatorname{Cl} A\subset \operatorname{Cl}(A\cup B)$ および $\operatorname{Cl} B\subset \operatorname{Cl}(A\cup B)$ が成り立つので、$\operatorname{Cl} A\cup\operatorname{Cl} B\subset \operatorname{Cl}(A\cup B)$ である。一方、(CO2)により $A\cup B\subset\operatorname{Cl} A\cup\operatorname{Cl} B$ である。命題 1.3の(C2)により $\operatorname{Cl} A\cup\operatorname{Cl} B$ は閉集合だから、命題 4.2により $\operatorname{Cl} (A\cup B)\subset \operatorname{Cl} A\cup \operatorname{Cl} B$ である。

(CO4)を示すため、$A\subset X$ とする。$\operatorname{Cl} A\subset\operatorname{Cl} A$ という明らかな包含関係に注目する。ここでの右辺 $\operatorname{Cl} A$ は閉集合なので、命題 4.2により$\operatorname{Cl} \operatorname{Cl} A\subset \operatorname{Cl} A$ である。逆向きの包含 $\operatorname{Cl} A\subset \operatorname{Cl} \operatorname{Cl} A$ は(CO2)から直ちに分かる。

命題 4.18 (閉包作用素から位相空間を定める)

集合 $X$ に対して写像 $\operatorname{Cl}\colon\mathcal{P}(X)\to\mathcal{P}(X)$ が与えられ、命題 4.17の条件(CO1)-(CO4)を満たしているとする。このとき、$X$ 上の位相 $\mathcal{O}$ であって、$\operatorname{Cl}$ が位相空間 $(X, \mathcal{O})$ の閉包作用素となるようなものがただ一つ存在する。

証明

写像 $\operatorname{Cl}\colon\mathcal{P}(X)\to\mathcal{P}(X)$ が(CO1)-(CO4)を満たすとする。 まず、そのような位相 $\mathcal{O}$ が存在することを示そう。そのため、はじめに $\mathcal{F}$ を以下で定義する。 $$ \mathcal{F}=\{A\subset X\,|\,A=\operatorname{Cl} A \} $$ $\mathcal{F}$ が命題 1.3の(C1)-(C3)を満たすことを確認しよう。

まず、(C1)を示す。(CO1)により $\emptyset\in\mathcal{F}$ である。また、(CO2)により $X\subset\operatorname{Cl} X\subset X$ となるので、$X\in\mathcal{F}$ である。(C2)を示すため、$F_1, F_2\in\mathcal{F}$ とする。(CO3)により、$\operatorname{Cl}(F_1\cup F_2)=\operatorname{Cl} F_1\cup\operatorname{Cl} F_2=F_1\cup F_2$ であるから、$F_1\cup F_2\in\mathcal{F}$ である。(C3)を示す前に、次が成り立つことに注意しておく。 $$ A\subset B\subset X \Longrightarrow \operatorname{Cl} A\subset\operatorname{Cl} B\qquad(\star) $$ これを見るため、$A\subset B\subset X$ とする。 このとき $A\cup B=B$ なので、(CO3)により$\operatorname{Cl}A\cup\operatorname{Cl} B=\operatorname{Cl}(A\cup B)=\operatorname{Cl} B$ であり、したがって $\operatorname{Cl} A\subset\operatorname{Cl} B$ である。

さて、(C3)を示すため、$\{F_\lambda\,|\,\lambda\in \Lambda\}\subset\mathcal{F}$ とする。$\lambda\in \Lambda$ を任意に固定すると、$\bigcap_{\mu\in \lambda} F_\mu\subset F_\lambda$ であるから、これに上で示したことを適用して、$\operatorname{Cl}\, \bigcap_{\mu\in I} F_\mu\subset \operatorname{Cl} F_\lambda=F_\lambda$ を得る。これがすべての $\lambda\in \Lambda$ について成り立つので、$\operatorname{Cl} \bigcap_{\mu\in I} F_\mu\subset \bigcap_{\lambda\in \Lambda} F_\lambda$ である。逆向きの包含は (CO2) から成り立つので、$\operatorname{Cl} \bigcap_{\lambda\in \Lambda} F_\lambda=\bigcap_{\lambda\in \Lambda} F_\lambda$ であり、よって $\bigcap_{\lambda\in \Lambda} F_\lambda\in\mathcal{F}$ である。

以上により、$\mathcal{F}$ は(C1)-(C3)を満たす。よって、$\mathcal{F}$の要素の補集合全体の集合 $$ \mathcal{O}=\{X\setminus F\,|\,F\in\mathcal{F}\} $$ は(O1)-(O3)を満たし、$(X, \mathcal{O})$ は位相空間となって $\mathcal{F}$ は $(X, \mathcal{O})$ の閉集合全体の集合になることが分かる。

次に、$\mathrm{Cl}$ が位相空間 $(X, \mathcal{O})$ における閉包作用素に一致することを示そう。混乱を防ぐため、位相空間 $(X, \mathcal{O})$ における閉包作用素は $\mathrm{Cl}_{\mathcal{O}}$ で表す。示すべきことは、任意の $A\subset X$ に対して $\operatorname{Cl}A=\mathrm{Cl}_{\mathcal{O}} A$ となることである。そこで、$A\subset X$ を任意に与える。(CO2)により、$A\subset \operatorname{Cl} A$ であるが、いま(CO4)により$\operatorname{Cl}\operatorname{Cl}A=\operatorname{Cl}A$ なので、$\operatorname{Cl}A\in\mathcal{F}$ つまり $\operatorname{Cl}A$ は $(X, \mathcal{O})$ の閉集合である。よって、命題 4.2により、$\mathrm{Cl}_{\mathcal{O}} A\subset\operatorname{Cl}A$ である。逆向きの包含を示すため、任意の $x\in\operatorname{Cl}A$ を与える。$x$ の $(X, \mathcal{O})$ における開近傍 $V$ を任意に与えると、$X\setminus V=\operatorname{Cl}(X\setminus V)$ である。もし、$V\cap A=\emptyset$ であれば、$A\subset X\setminus V$ であるから、さきほど示した性質 $(\star)$ により、$x\in \operatorname{Cl}A\subset\operatorname{Cl}(X\setminus V)=X\setminus V$ となり、$x\in V$ であることに反する。よって、$V\cap A\neq\emptyset$ であるから、命題 4.5(3)により、$x\in\mathrm{Cl}_{\mathcal{O}} A$ である。以上で、$\operatorname{Cl}A=\mathrm{Cl}_{\mathcal{O}} A$ が示された。

最後に、条件を満たす位相の一意性を示そう。そこで、$X$ 上の位相 $\mathcal{O}_1$, $\mathcal{O}_2$ に対して、$\mathrm{Cl}$ が $(X, \mathcal{O}_1)$ の閉包作用素であると同時に $(X, \mathcal{O}_2)$ の閉包作用素でもあるとする。$\mathcal{O}_1\subset\mathcal{O}_2$ を示すため、$U\in\mathcal{O}_1$ とする。$X\setminus U$ は $(X, \mathcal{O}_1)$ の閉集合であり、$\mathrm{Cl}$ は $(X, \mathcal{O}_1)$ の閉包作用素なので、$X\setminus U=\operatorname{Cl}(X\setminus U)$ である。$\mathrm{Cl}$ は $(X, \mathcal{O}_2)$ の閉包作用素でもあるので、この式は注意 4.3により $X\setminus U$ が $(X, \mathcal{O}_2)$ の閉集合であることを意味し、したがって $U\in\mathcal{O}_2$ である。以上から、$\mathcal{O}_1\subset\mathcal{O}_2$ である。全く同様に、$\mathcal{O}_2\subset\mathcal{O}_1$ も成り立つから、$\mathcal{O}_1=\mathcal{O}_2$ である。$\square$

次に、閉包と双対的な操作として、部分集合の内部の概念を導入する。

定義 4.19 (内部)

$X$ を位相空間、$A$ を $X$ の部分集合とする。$A$ に含まれる $X$ の開集合全体の集合を $\mathcal{U}_A$ とするとき、和集合 $\bigcup_{U\in \mathcal{U}_A} U$ を $A$ の $X$ における内部(interior)といい、$\operatorname{Int} A$ で表す。$\square$

$A$ の内部の記号としては、この他にも $A^\circ$ を用いる文献もある。複数の位相空間を扱うときなどに、$X$ における内部であることを強調する必要がある場合は $\operatorname{Int}_X A$ と書く場合もある。定義から明らかに、$\operatorname{Int} A\subset A$ である。 $\operatorname{Int} A$ の要素のことを、$A$ の内点(interior point)という。 また、各 $A\subset X$ に $\operatorname{Int} A$ を対応させることで、 $X$ の冪集合 $\mathcal{P}(X)$ から $\mathcal{P}(X)$ への写像 $$ \operatorname{Int}\colon \mathcal{P}(X)\to\mathcal{P}(X) $$ が定義される。これを $X$ の内部作用素(interior operator)という。$\square$

開集合の任意個の和集合は常に開集合であるから、内部 $\operatorname{Int} A$ は開集合である。

命題 4.20 (内部の最大性)

$X$ を位相空間、$A$ を $X$ の部分集合とする。$U$ が $U\subset A$ を満たす $X$ の開集合であるならば $U\subset \operatorname{Int} A$ である。 したがって、$\operatorname{Int} A$ は $A$ に含まれる $X$ の開集合のうち最大のものである。

証明

$A\subset X$ とし、$X$ の開集合 $U$ が $U\subset A$ を満たすとする。このとき、定義 4.19の $\mathcal{U}_A$ に対して $U\in\mathcal{U}_A$ であるから、$U\subset \bigcup_{U'\in\mathcal{U}_A} U'=\operatorname{Int} A$ である。$\operatorname{Int} A$ は上で注意したように $X$ の開集合であるから、 いま言えたことは、まさに、$\operatorname{Int} A$ が $A$ に含まれる $X$ の開集合のうち最大のものであることを示している。$\square$

注意 4.21 (開集合の特徴づけ)

命題 4.20の後半の主張から、すぐに次のことが分かる。位相空間 $X$ の部分集合 $A$ が開集合であることは、$A=\operatorname{Int} A$ であることと同値である。$\square$

次の関係を用いると、内部に関する様々な主張は、閉包に関する主張から導かれることが分かる。

命題 4.22 (内部と閉包との関係)

$X$ を位相空間とするとき、任意の $A\subset X$ に対して $\operatorname{Int} A=X\setminus \operatorname{Cl}(X\setminus A)$ である。

証明

二つの包含関係 $\operatorname{Int} A\subset X\setminus \operatorname{Cl}(X\setminus A)$ および $X\setminus \operatorname{Cl}(X\setminus A)\subset \operatorname{Int} A$ を示そう。

まず、$\operatorname{Int} A\subset A$ であるから、$X\setminus A\subset X\setminus \operatorname{Int} A$ である。よって、命題 4.2により、$\operatorname{Cl}(X\setminus A)\subset X\setminus \operatorname{Int} A$ である。したがって、$\operatorname{Int} A\subset X\setminus \operatorname{Cl}(X\setminus A)$ である。 一方、$X\setminus A\subset\operatorname{Cl}(X\setminus A)$ であるから、$X\setminus \operatorname{Cl}(X\setminus A)\subset A$ である。よって、命題 4.20により、$X\setminus \operatorname{Cl}(X\setminus A)\subset \operatorname{Int} A$ である。$\square$

命題 4.23 (内部の単調性)

$X$ を位相空間とするとき、$X$ の部分集合 $A, B$ に対して $A\subset B$ ならば $\operatorname{Int} A\subset\operatorname{Int} B$ である。

証明

閉包の単調性(命題 4.4)と命題 4.22を組み合わせれば分かる。$\square$

命題 4.24 (内部に属する点の特徴づけ)

$X$ を位相空間とし、$A$ を $X$ の部分集合とする。$x\in A$ に対して、次は同値である。

  • (1) $x\in \operatorname{Int} A$ である。
  • (2) $x$ のある近傍 $V$ に対して、$V\subset A$ である。
  • (3) $A$ は $x$ の近傍である。

証明

(1) $\Rightarrow$ (2) は、$x$ の近傍 $V$ として $\operatorname{Int} A$ を取れることから分かる。

(2) $\Rightarrow$ (3) を示す。$x$ のある近傍 $V$ に対して $V\subset A$ であるとする。このとき、$X$ の開集合 $U$ で $x\in U\subset V$ となるものが存在する。すると $U\subset A$ であるから、$A$ は $x$ の近傍である。

(3) $\Rightarrow$ (1) を示す。$A$ が $x$ の近傍であるとすると、ある開集合 $U$ に対して、$x\in U\subset A$ である。よって、命題 4.20により、$U\subset \operatorname{Int} A$ である。$\square$

命題 4.25 (内部作用素の性質)

位相空間 $X$ の閉包作用素 $\operatorname{Int}\colon\mathcal{P}(X)\to\mathcal{P}(X)$ は次の性質を満たす。

  • (IO1) $\operatorname{Int} X=X$
  • (IO2) $\operatorname{Int} A\subset A$
  • (IO3) $\operatorname{Int}(A\cap B)=\operatorname{Int} A\cap\operatorname{Int} B$
  • (IO4) $\operatorname{Int} \operatorname{Int} A=\operatorname{Int} A$

証明

閉包作用素の性質(命題 4.17)と命題 4.22を組み合わせれば分かる。$\square$

命題 4.26 (内部作用素から位相空間を定める)

集合 $X$ に対して写像 $\operatorname{Int}\colon\mathcal{P}(X)\to\mathcal{P}(X)$ が与えられ、命題 4.25の条件(IO1)-(IO4)を満たしているとする。このとき、$X$ 上の位相 $\mathcal{O}$ であって、$\operatorname{Int}$ が位相空間 $(X, \mathcal{O})$ の内部作用素となるようなものがただ一つ存在する。

証明

$\operatorname{Cl}\colon\mathcal{P}(X)\to\mathcal{P}(X)$ を $\operatorname{Cl} A=X\setminus \operatorname{Int}(X\setminus A)$ により定義すれば、$\operatorname{Cl}$ は (CO1)-(CO4) を満たすから、$X$ 上の位相 $\mathcal{O}$ であって $\operatorname{Cl}$ が位相空間 $(X, \mathcal{O})$ の閉包作用素となるものがただ一つ存在する。$\operatorname{Cl}$ が $(X, \mathcal{O})$ の閉包作用素であることと $\operatorname{Int}$ が $(X, \mathcal{O})$ の内部作用素であることは命題 4.22により同値であるから、示すべき主張が得られる。$\square$

最後に、閉包と内部を用いてすぐに定義される境界の概念にふれよう。

定義 4.27 (境界)

位相空間 $X$ の部分集合 $A$ に対して、差集合 $\operatorname{Cl} A\setminus \operatorname{Int} A$ を $A$ の $X$ における境界(frontier)といい、$\operatorname{Fr} A$ と表す。$\square$

境界 $\operatorname{Fr} A$ は文献によって様々な記号で表され、他には $\partial A$, $\operatorname{Bd} A$ などもよく用いられる。$X$ における境界であることを強調する必要がある場合は $\operatorname{Fr}_X A$ と書く場合もある。 定義と命題 4.22により、 $$ \operatorname{Fr} A=\operatorname{Cl} A\cap(X\setminus \operatorname{Int} A)=\operatorname{Cl} A\cap\operatorname{Cl}(X\setminus A) $$ である。よって、$\operatorname{Fr} A$ は常に $X$ の閉集合である。さらに、上の式と命題 4.5から、次が直ちに導かれる(証明は省略する)。

命題 4.28 (境界に属する点の特徴づけ)

$X$ を位相空間とし、$A$ を $X$ の部分集合とする。$x\in A$ に対して、次は同値である。 -(1) $x\in \operatorname{Fr} A$ である。 -(2) $x$ の任意の近傍 $V$ に対して、$A\cap V\neq\emptyset$ かつ $(X\setminus A)\cap V\neq\emptyset$ である。 -(3) $x$ の任意の開近傍 $V$ に対して、$A\cap V\neq\emptyset$ かつ $(X\setminus A)\cap V\neq\emptyset$ である。 -(4) $x$ のある基本近傍系 $\mathcal{V}$ が存在して、任意の $V\in\mathcal{V}$ に対して $A\cap V\neq\emptyset$ かつ $(X\setminus A)\cap V\neq\emptyset$ である。$\square$


例 4.29 (内部と境界の例)

(1) $X=\mathbb{R}^2$ とし、$A$ を平面 $\mathbb{R}^2$ の原点 $0=(0,0)$ を中心する半径 $1$ の閉円板とする。すなわち、 $$ A=\overline{B}_{d_{\mathbb{R}^2}}(0,1)=\{x\in\mathbb{R}^2\,|\,{d_{\mathbb{R}^2}}(x,0)\leq 1\}=\{x\in\mathbb{R}^2\,|\,\|x\|\leq 1\}=\{(x_1, x_2)\in\mathbb{R}^2\,|\,x_1^2+x_2^2\leq 1\} $$ とする。ここで、${d_{\mathbb{R}^2}}$ は $\mathbb{R}^2$ 上のEuclid距離、$\|\phantom{x}\|$ はEuclidノルムとする。命題 1.16により、$A$ は $\mathbb{R}^2$ の閉集合である。 よって、$\operatorname{Cl} A=A$ である。次に、$\operatorname{Int} A$ を求めよう。 いま少なくとも $\operatorname{Int} A\subset A$ だから、$A$ の各点 $x$ に対して、$x$ が $\operatorname{Int} A$ に属しているかどうかを判定するという方針をとる。まず、${d_{\mathbb{R}^2}}(x, 0)<1$ の場合を考える。このときは、開円板 $U=B_{d_{\mathbb{R}^2}}(0,1)$ が $x$ の開近傍となり、$U\subset A$ であるから、命題 4.24により $x\in\operatorname{Int} A$ である。次に、${d_{\mathbb{R}^2}}(x, 0)=1$ の場合を考える。このときは $x\notin \operatorname{Int} A$ であることを示そう。そのためには、命題 4.24により、$x$ のいかなる近傍 $V$ に対しても、$V$ が $A$ に含まれないことを示せばよい。そこで、$x$ の近傍 $V$ を任意に与えると、ある $r>0$ が存在して、$B(x,r)\subset V$ である。$y=(1+r/2)x$ とおけば、${d_{\mathbb{R}^2}}(y,x)=\|y-x\|=(r/2)\|x\|=(r/2)\cdot 1=r/2<r$ により $y\in B(x,r)\subset V$ である。一方、${d_{\mathbb{R}^2}}(y,0)=\|y\|=(1+r/2)\|x\|=(1+r/2)\cdot 1=1+r/2>1$ であるから、$y\notin A$ である。以上により、$y\in V\setminus A$ であるので、$V$ は $A$ に含まれない。したがって、$x\notin\operatorname{Int} A$ である。こうして、 $$ \operatorname{Int} A=B_{d_{\mathbb{R}^2}}(0,1)=\{x\in\mathbb{R}^2\,|\,{d_{\mathbb{R}^2}}(x,0)<1\}=\{x\in\mathbb{R}^2\,|\,\|x\|<1\}=\{(x_1, x_2)\in\mathbb{R}^2\,|\,x_1^2+x_2^2<1\} $$ となることが分かった。$\operatorname{Cl} A=A$ であったから、$A$ の境界 $\operatorname{Fr} A=\operatorname{Cl} A\setminus\operatorname{Int} A=A\setminus\operatorname{Int} A$ は単位円周となる。すなわち、 $$ \operatorname{Fr} A=\{x\in\mathbb{R}^2\,|\,{d_{\mathbb{R}^2}}(x,0)=1\}=\{x\in\mathbb{R}^2\,|\,\|x\|=1\}=\{(x_1, x_2)\in\mathbb{R}^2\,|\,x_1^2+x_2^2=1\} $$ である。

(2) $X=\mathbb{R}^3$ とし、 $$ B=\{(x_1, x_2, x_3)\in\mathbb{R}^3\,|\,x_1^2+x_2^2\leq 1,\,x_3=0\} $$ とする。$B$ は $\mathbb{R}^3$ 内の平面 $P=\{(x_1, x_2, x_3)\in\mathbb{R}^3\,|\,x_3=0\}$ に含まれる閉円板である。$B$ は $\mathbb{R}^3$ の閉集合である。このことを示すには、例えば、$B=P\cap \overline{B}_{d_{\mathbb{R}^3}}(0,1)$ であることに注目すればよい。ここで、${d_{\mathbb{R}^3}}$ は $\mathbb{R}^3$ のEuclid距離を表す。$\overline{B}_d(0,1)$ は閉球体だから $\mathbb{R}^3$ の閉集合で(命題 1.16)、$P$ は $\mathbb{R}^3$ の閉集合であることは、たとえば $\mathbb{R}^3\setminus P$ が開集合であることから分かる(詳細は読者にゆだねる)。したがって、それらの共通部分である $B$ は $\mathbb{R}^3$ の閉集合である。よって、$B=\operatorname{Cl} B$ である。

次に、$\operatorname{Int} B=\emptyset$ であることを示そう。$\operatorname{Int} B\subset B$ はいつでも成り立つから、それを言うには、$B$ のいかなる点も $\operatorname{Int} B$ に属していないことを言えばよい。そこで、任意に $x=(x_1, x_2, x_3)\in B$ を与える。$B$ の定義から、$x_3=0$ であり、よって $x=(x_1, x_2, 0)$ である。$x$ の近傍 $V$ を任意に与える。すると、$r>0$ が存在して、$B_{d_{\mathbb{R}^3}}(x,r)\subset V$ である。このとき、$x'=(x_1, x_2, r/2)$ とおけば、$d_{\mathbb{R}^3}(x, x')=r/2<r$ なので、$x'\in B_{d_{\mathbb{R}^3}}(x,r)\subset V$ であるが、一方で $x'$ の第 3 座標 $r/2$ は $0$ でないから、$x'\notin B$ である。よって、$V$ は $B$ に含まれない。これが $x$ の任意の近傍 $V$ について成り立つから、命題 4.24により $x\notin\operatorname{Int} B$ である。これで、$\operatorname{Int} B=\emptyset$ が示された。

以上より、$B$ の境界 $\operatorname{Fr} B$ は $\operatorname{Fr} B=\operatorname{Cl} B\setminus\operatorname{Int} B=B\setminus\emptyset=B$ である。

(1) の$A$ と (2) の $B$ は一見どちらも同じような閉円板であるが、内部 $\operatorname{Int} A$ と $\operatorname{Int} B$ には大きな違いが生じていることに注意する。これは、内部を考えるときに全空間を $\mathbb{R}^2$ と考えるか $\mathbb{R}^3$ と考えるかの違いに由来している。$\square$


位相空間論5:連続写像

ここから、複数の位相空間の間の写像が扱うことを始める。まず、連続写像を導入する。これは非常に基本的な概念であって、通常、位相空間の間の写像としては連続写像のみを考えると言っても良いほどである。連続写像は微積分で考えられていた連続関数の一般化であり、直観的には「近くの点を近くの点に写す」写像である。その定義は非常に簡潔に述べられるが、すぐには直観的な意味が読み取りづらいかもしれない。続いて、同相写像を連続な全単射であって逆も連続となるものとして定義する。二つの位相空間の間に同相写像が存在するとき、その二つの位相空間は同相であるというが、同相な位相空間は実質的に同じものとみなすことができる。



定義 5.1 (連続写像)

$X,$ $Y$ を位相空間とする。写像 $f\colon X\to Y$ が連続写像(continuous map)であるとは、$Y$ の任意の開集合 $V$ に対して、逆像 $f^{-1}(V)$ が $X$ の開集合となることをいう。$\square$

$(X, \mathcal{O})$, $(Y, \mathcal{O}')$ のように開集合系を明示的に書いている場合(とくに同じ集合に複数の位相を考えていて混乱のおそれのある場合)には、「連続写像 $f\colon (X, \mathcal{O})\to (Y, \mathcal{O}')$」のような表現も用いる。

連続写像に関して、まず次の基本性質を挙げる。

命題 5.2 (恒等写像と合成)

次のことが成り立つ。

  • (1) 任意の位相空間 $X$ に対して、恒等写像 $\operatorname{id}_X\colon X\to X$ は連続である。
  • (2) $X, Y, Z$ が位相空間であり、$f\colon X\to Y$, $g\colon Y\to Z$ が連続であるとき、合成写像 $g\circ f\colon X\to Z$ は連続である。

証明

(1) $V$ を $X$ の開集合とすると、$\operatorname{id}_X^{-1}(V)=V$ なので $\operatorname{id}_X^{-1}(V)$ も $X$ の開集合である。よって、$\operatorname{id}_X\colon X\to X$ は連続である。

(2) $f\colon X\to Y$, $g\colon Y\to Z$ を連続写像とし、$W$ を $Z$ の開集合とする。すると、$g^{-1}(W)$ は $Y$ の開集合であり、よって $f^{-1}(g^{-1}(W))$ は $X$ の開集合である。ところが、$(g\circ f)^{-1}(V)=f^{-1}(g^{-1}(W))$ であるから、$(g\circ f)^{-1}(W)$ は $X$ の開集合である。よって、$g\circ f\colon X\to Z$ は連続である。$\square$

写像 $f\colon X\to Y$ が定値写像(constant map)であるとは、ある $c\in Y$ が存在して、任意の $x\in X$ に対して $f(x)=c$ となることをいう。このとき、$f$ を $c$ への定値写像という。

命題 5.3 (定値写像は連続)

$X,$ $Y$ を位相空間とする。任意の定値写像 $f\colon X\to Y$ は連続である。

証明

$f\colon X\to Y$ が $c$ への定値写像であるとする。$V$ を $Y$ の開集合とすると、$c\in V$ のとき $f^{-1}(V)=X$, $c\notin V$ のとき $f^{-1}(V)=\emptyset$ だから、いずれにしても $f^{-1}(V)$ は $X$ の開集合である。よって、$f$ は連続である。$\square$

連続写像の定義で、「開集合」を「閉集合」に変えても同じことである。すなわち、次が成り立つ。

命題 5.4 (連続写像の閉集合を用いた言い換え)

$X,$ $Y$ を位相空間とする。写像 $f\colon X\to Y$ に対して次は同値である。

  • (1) $f$ は連続である。
  • (2) $Y$ の任意の閉集合 $F$ に対して、$f^{-1}(F)$ は $X$ の閉集合である。

証明

(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。$f$ を連続写像とし、$F$ を $Y$ の閉集合とする。すると、$Y\setminus F$ は $Y$ の開集合なので、$f$ が連続写像であることから $f^{-1}(Y\setminus F)$ は $X$ の開集合である。$f^{-1}(Y\setminus F)=X\setminus f^{-1}(F)$ であるから、$X\setminus f^{-1}(F)$ は $X$ の開集合であり、よって、$f^{-1}(F)$ は $X$ の閉集合である。

(2) $\Rightarrow$ (1) の証明は、 (1) $\Rightarrow$ (2) とほぼ同様であるので省略する。$\square$

例 5.5 (離散空間・密着空間と連続写像)

$X$ が離散空間であるとき、任意の位相空間 $Y$ に対して、任意の写像 $f\colon X\to Y$ は連続である。また、$Y$ が密着空間であるとき、任意の位相空間 $X$ に対して、任意の写像 $f\colon X\to Y$ は連続である。$\square$

定義 5.6 (写像の点における連続性)

$X,$ $Y$ を位相空間とし、$x\in X$ とする。写像 $f\colon X\to Y$ が $x$ において連続であるとは、$f(x)$ の $Y$ における任意の近傍 $V$ に対して、$x$ の $X$ における近傍 $U$ が存在して $f(U)\subset V$ となることをいう。$\square$

写像の連続性を示すことは、次の命題により、点ごとの連続性を示すことに帰着される。これは連続性の証明でよく使われる手段である。

命題 5.7 (連続性と点における連続性との関係)

$X,$ $Y$ を位相空間とする。写像 $f\colon X\to Y$ に対して、次は同値である。

  • (1) $f$ は連続である。
  • (2) 任意の $x\in X$ に対して、$f$ は $x$ において連続である。

証明

(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。$f\colon X\to Y$ が連続であるとして、$x\in X$ とする。$f$ が $x$ において連続であることを示そう。そこで、$f(x)$ の近傍 $V$ を任意に与える。近傍の定義から、$f(x)\in V'\subset V$ となるような $Y$ の開集合 $V'$ が存在する。このとき、$f$ の連続性から $f^{-1}(V')$ は $X$ の開集合である。$f(x)\in V'$ により $x\in f^{-1}(V')$ であるから、$U=f^{-1}(V')$ とおけば $U$ は $x$ の開近傍で、$f(U)\subset V'\subset V$ を満たす。

(2) $\Rightarrow$ (1) を示す。(2) が成り立つとして、$V$ を $Y$ の開集合とする。このとき、$f^{-1}(V)$ が $X$ の開集合であることを示せばよいが、そのために命題 2.4を使う。そこで、$x\in f^{-1}(V)$ とする。このとき、$f(x)\in V$ により $V$ は $f(x)$ の開近傍だから、(2) により $x$ の $X$ における近傍 $U$ であって $f(U)\subset V$ となるものが存在する。これは $U\subset f^{-1}(V)$ を意味する。こうして、任意の $x\in f^{-1}(V)$ に対して $x$ の近傍 $U$ であって $U\subset f^{-1}(V)$ となるものが存在すると分かったので、命題 2.4により $f^{-1}(V)$ は $X$ の開集合である。$\square$

さらに、点における連続性を確かめるには、何らかの基本近傍系に属する近傍だけに着目する方法が有効である。

命題 5.8 (点における連続性の同値な言い換え)

$X,$ $Y$を位相空間とし、$f\colon X\to Y$ を写像とする。また、$x\in X$ とし、$\mathcal{U}$ を $x$ の $X$ における基本近傍系、$\mathcal{V}$ を $f(x)$ の $Y$ における基本近傍系とする。このとき、次は同値である。

  • (1) $f$ は $x$ において連続である。
  • (2) 任意の $V\in\mathcal{V}$ に対して、$U\in\mathcal{U}$ が存在して、$f(U)\subset V$ となる。

証明

(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。$f$ が $x$ において連続であるとして、$V\in\mathcal{V}$ とする。$V$ は $f(x)$ の $Y$ における近傍であるから、$x$ の $X$ における近傍 $U'$ が存在して、$f(U')\subset V$ となる。$\mathcal{U}$ は $x$ の $X$ における基本近傍系だから、$U\in\mathcal{U}$ が存在して $U\subset U'$ である。このとき、$f(U)\subset f(U')\subset V$ である。これで (2) が示された。

(2) $\Rightarrow$ (1) を示すため、(2) が成り立つとする。$f$ が $x$ において連続であることを示すため、$f(x)$ の近傍 $V$ を任意に与える。$\mathcal{V}$ は $f(x)$ の $Y$ における基本近傍系だから、$V'\in\mathcal{V}$ で $V'\subset V$ となるものが存在する。(2) により、$U\in\mathcal{U}$ が存在して $f(U)\subset V'$ となる。すると $U$ は $x$ の $X$ における近傍であって、$f(U)\subset V$ である。$\square$


命題 5.9 (距離空間の間の写像の連続性)

$(X, d),$ $(Y, d')$ を距離空間とする。写像 $f\colon X\to Y$ に対して、次は同値である。

  • (1) $f$ は連続である。
  • (2) 任意の $x\in X$ と $\varepsilon>0$ に対して、$\delta>0$ が存在して $f(B_d(x,\delta))\subset B_{d'}(f(x),\varepsilon)$ が成り立つ。$\square$
  • (3) 任意の $x\in X$ と $\varepsilon>0$ に対して、$\delta>0$ が存在して、次が成り立つ。
「$x'\in X,$ $d(x, x')<\delta$ ならば $d'(f(x), f(x'))<\varepsilon$ である。」

証明

各 $x\in X$ に対して $x$ の基本近傍系として $\{B_d(x,r)\,|\,r>0\}$ が取れ、各 $y\in Y$ に対して $y$ の基本近傍系として $\{B_{d'}(Y,r)\,|\,r>0\}$ が取れるので、命題 5.7命題 5.8により (1) $\Rightarrow$ (2) が分かる。(3) は (2) の単純な言い換えである。$\square$

この命題により、たとえばEuclid空間の間の写像については、微積分における $\varepsilon$-$\delta$ 論法を用いた連続性の定義と、定義 5.1における連続写像の定義とが同値なものになっていることが分かる。 微積分において、多くの関数が連続であることを知っているが、これにより、さまざまな連続写像の例が得られる(例 5.11)。


ここで、Euclid空間の部分集合への写像が連続となることが、「座標ごとに連続」となることと同値であることを見ておく。これは具体例を扱うときにはしばしば無意識に用いられることが多い。

命題 5.10 (Euclid空間の部分集合への写像の連続性)

$X$ を距離空間、$A$ をEuclid空間 $\mathbb{R}^n$ の部分集合とする($A$ は注意 1.13の通り、Euclid距離の制限により距離空間と見なす)。写像 $f\colon X\to A$ に対して、$f_i\colon X\to\mathbb{R}\,(i=1,\ldots, n)$ を $f(x)=(f_1(x),\ldots, f_n(x))\,(x\in X)$ で定まる写像とすると、次は同値である。

  • (1) $f\colon X\to A$ は連続である。
  • (2) 各 $i=1,\ldots, n$ に対して、$f_i\colon X\to\mathbb{R}$ は連続である。

証明

(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。$f\colon X\to A$ を連続とし、$i\in\{1,\ldots,n\}$ であるような $i$ を任意に与える。$f_i\colon X\to \mathbb{R}$ が連続であることを、命題 5.9の条件(3)を用いて示す。そこで、$x\in X$, $\varepsilon>0$ とする。$f$ は連続だから、$\delta>0$ が存在して、$x'\in X,$ $d(x,x')<\delta$ のとき常に $\|f(x)-f(x')\|<\varepsilon$ となる。ここで、$\|\phantom{x}\|$ は $\mathbb{R}^n$ のEuclidノルムを表す。$|f_i(x)-f_i(x')|=\sqrt{(f_i(x)-f_i(x'))^2}\leq\sqrt{\sum_{j=1}^n (f_j(x)-f_j(x'))^2}=\|f(x)-f(x')\|$ であるから、$d(x,x')<\delta$ のとき常に $|f_i(x)-f_i(x')|<\varepsilon$ となる。これで、$f_i\colon X\to\mathbb{R}$ の連続性が示された。

(2) $\Rightarrow$ (1) を示す。各 $i=1,\ldots,n$ に対して $f_i\colon X\to\mathbb{R}$ が連続であるとする。$f\colon X\to A$ が連続であることを、命題 5.9の条件(3)を用いて示す。そこで、$x\in X$, $\varepsilon>0$ とする。各 $i=1,\ldots,n$ に対して、$f_i$ の連続性により $\delta_i>0$ であって $x'\in X,$ $d(x, x')<\delta_i$ のとき常に $|f_i(x)-f_i(x')|<\varepsilon/\sqrt{n}$ となるものが存在する。$\delta=\min\{\delta_1,\ldots,\delta_n\}>0$ としよう。すると、$x'\in X$, $d(x, x')<\delta$ のとき $$ \|f(x)-f(x')\|^2=\sum_{i=1}^n |f_i(x)-f_i(x')|<n\cdot(\varepsilon/\sqrt{n})^2=\varepsilon^2 $$ となるから、$\|f(x)-f(x')|<\varepsilon$ である。これで、$f\colon X\to A$ の連続性が示された。$\square$

実数直線 $\mathbb{R}$ への写像は、慣習的に、関数(function)という言葉で呼ぶことが多い。$\mathbb{R}$ への連続写像は、連続関数(continuous function)と呼ばれることが多い。

注意 5.11 (射影関数は連続)

$A$ を $\mathbb{R}^n$ の部分集合とするとき、各 $i=1,\ldots, n$ に対して、射影関数 $p_i\colon A\to\mathbb{R}$ を $$ p_i(x_1,\ldots, x_n)=x_i $$ によって定義できる。射影関数 $p_i$ は連続となる。実際、命題 5.10において $X$ を $A$ とし、$f$ を恒等写像 $\operatorname{id}\colon A\to A$ とすれば、$f$ は連続であり、$f_i=p_i$ となるから、$p_i$ は連続と分かる。$\square$


例 5.12 (実数の四則演算、多項式関数などは連続)

微積分での連続性の知識から連続と分かる写像の例を挙げよう。$\mathbb{R}$ の加法、減法、乗法はそれぞれ写像 $$ {+}\colon \mathbb{R}^2\to\mathbb{R},\quad (x, y)\mapsto x+y;\qquad-\colon \mathbb{R}^2\to\mathbb{R},\quad (x, y)\mapsto x-y;\qquad\cdot\colon \mathbb{R}^2\to\mathbb{R},\quad (x, y)\mapsto x\cdot y $$ を定めるが、これらの写像は連続である。より一般に、多項式関数は連続である。すなわち、任意の非負整数 $m$ および $a_1,\ldots, a_m\in\mathbb{R}$ に対して、 $$ f(x)=a_0+a_1 x+\cdots+a_mx^m $$ で定義される写像 $f\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}$ は連続である。このことは、加法 $+$ と乗法 $\cdot$ の連続性から論理的に導かれる。実際、次の命題が成り立つ。

命題 $X$ を距離空間とし、$f, g\colon X\to\mathbb{R}$ を連続関数とする。このとき、和 $f+g\colon X\to\mathbb{R}$ および積 $f\cdot g\colon X\to\mathbb{R}$ は再び連続関数である。ただし、$(f+g)(x)=f(x)+g(x)$, $(f\cdot g)(x)=f(x)\cdot g(x)\,(x\in X)$ と定義する。
証明 どちらも証明は同様なので、$f+g$ についてのみ示す。まず、$F\colon X\to\mathbb{R}^2$ を $F(x)=(f(x), g(x))$ で定義する。命題 5.10により、$F$ は連続である。すると、$f+g$ は連続写像の合成として $f+g=+\circ F$ と表されるので、$f+g$ は連続である。$\square$

関数 $\operatorname{id}_\mathbb{R}\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R},\,x\mapsto x$ は連続であり(命題 5.2)、定数 $a\in\mathbb{R}$ に対する $a$ への定値写像 $\mathbb{R}\to\mathbb{R},\,x\mapsto a$ は連続である(命題 5.3)。多項式関数は、これらの関数の和や積を有限回繰り返し取ったものだから、連続である。

さらに一般に、多変数多項式関数も連続である。つまり、任意の $n\in\mathbb{N}$ と非負整数 $m$ および $a_{i_1,\ldots, i_n}\in\mathbb{R}\,(i_1,\ldots, i_n\geq 0,\, i_1+\cdots+i_n\leq m)$ に対して、 $$ f(x_1,\ldots, x_n)=\sum_{k=0}^m\,\sum_{\substack{i_1+\cdots+i_n=k \\ i_1,\ldots, i_n\geq 0}} a_{i_1,\ldots,i_n} x_1^{i_1}\cdots x_n^{i_n} $$ により定義される写像 $f\colon\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}$ は連続である。このことの証明は、$+,$ $\cdot$ と定値写像および射影関数 $p_i\colon\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}$ の連続性(注意 5.11)に帰着される。

除法については、$\mathbb{R}\times(\mathbb{R}\setminus\{0\})=\{(x,y)\in\mathbb{R}^2\,|\,y\neq 0\}$ を定義域とする写像 $$ {/}\colon \mathbb{R}\times(\mathbb{R}\setminus\{0\})\to\mathbb{R},\quad (x, y)\mapsto x/y $$ が定まる。この写像も連続である。ただし、この場合は $\mathbb{R}\times(\mathbb{R}\setminus\{0\})$ 上の距離としては $\mathbb{R}^2$ のEuclid距離の制限を考える(注意 1.13参照)。

この他にも、指数関数、対数関数、三角関数、逆三角関数、絶対値 $|\phantom{x}|\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R},\,x\mapsto |x|,$ 平方根 $\sqrt{\phantom{x}}\colon [0,\infty)\to [0,\infty),\, x\mapsto\sqrt{x}$ など様々な関数が連続であることを、微積分の知識として知っているであろう。 これらの関数は、命題 5.9により、そのまま位相空間の間の連続写像と考えることができる。さらに、いままで述べた関数を組み合わせたもの、例えば $$ (x,y,z)\mapsto \sin(x^2 y^3+|z-1|)+\sqrt{\log(1+x^4+y^2+e^{z^2})} $$ などの連続性も多項式関数の連続性を示したのと同様の論法で連続であることが分かる。もちろん、除法が関係する場合などは、定義域を適切に定めなければならない。

最後に、2 個の値の最大値および最小値を取る関数 $$ \max\colon \mathbb{R}^2\to\mathbb{R},\,(x, y)\,\mapsto \max\{x, y\}, \quad\min\colon \mathbb{R}^2\to\mathbb{R},\,(x, y)\,\mapsto \min\{x, y\} $$ も連続であることに注意しておく。実際、関数 $\max,$ $\min$ は $$ \max\{ x, y\}=\frac{1}{2}(x+y+|x-y|),\quad\min\{ x, y\}=\frac{1}{2}(x+y-|x-y|) $$ と、すでに連続であると知っている関数の組み合わせによって書けるからである。 $\square$


命題 5.13 (等式や不等式で定義された集合)

$X$ を位相空間、$f\colon X\to\mathbb{R}$ を連続関数とする。このとき、次の集合は $X$ の閉集合である。 $$ \{x\in X\,|\,f(x)=0\},\quad\{x\in X\,|\,f(x)\geq 0\} $$ また、次の集合は $X$ の開集合である。 $$ \{x\in X\,|\,f(x)>0\} $$

証明

$\{x\in X\,|\,f(x)=0\}=f^{-1}(\{0\})$ と書けることに注意する。$\{0\}$ は $\mathbb{R}$ の閉集合だから、命題 5.4により、$f^{-1}(\{0\})$ は $X$ の閉集合である。よって、$\{x\in X\,|\,f(x)=0\}$ は $X$ の閉集合である。同様に、$[0,+\infty)=\{t\in\mathbb{R}\,|\, t\geq 0\}$ が $\mathbb{R}$ の閉集合であることにより、$f^{-1}([0,+\infty))=\{x\in X\,|\,f(x)\geq 0\}$ は $X$ の閉集合である。また、$(0,+\infty)=\{t\in\mathbb{R}\,|\, t>0\}$ が $\mathbb{R}$ の開集合であることにより、$f^{-1}({}(0,+\infty){})=\{x\in X\,|\,f(x)>0\}$ は $X$ の開集合である。$\square$

例 5.14 (Euclid空間の閉集合や開集合)

例 5.12命題 5.13を組み合わせれば、Euclid空間内のさまざまな図形が閉集合あるいは開集合になっていることが分かる。 たとえば、 $$ A_1=\{(x,y)\in\mathbb{R}^2\,|\,y\geq x^2\}=\{(x,y)\in\mathbb{R}^2\,|\,y-x^2\geq 0\} $$ は $\mathbb{R}^2$ の閉集合である。実際、$f(x, y)=y-x^2$ で定義される関数 $f\colon\mathbb{R}^2\to\mathbb{R}$ は2変数の多項式関数だから、例 5.12によって連続である。このとき $A_1=\{(x,y)\in\mathbb{R}^2\,|\,f(x, y)\geq 0\}$ だから、命題 5.13により $A_1$ は閉集合である。このほかにも、 $$ A_2=\{(x,y,z)\in\mathbb{R}^3\,|\,z=x^2-y^2\},\quad A_3=\left\{(x_1,\ldots, x_n)\in\mathbb{R}^n\,\bigg|\,\sum_{i=1}^n x_i^2\leq 1,\,x_n\geq 0\right\} $$ はそれぞれ $\mathbb{R}^3,$ $\mathbb{R}^n$ の閉集合である($A_3$ については、$\{(x_1,\ldots, x_n)\in\mathbb{R}^n\,|\,1-\sum_{i=1}^n x_i^2\geq 0\}$ と $\{(x_1,\ldots, x_n)\in\mathbb{R}^n\,|\,x_n\geq 0\}$ の共通部分と考えればよい)。 一般に、Euclid空間において、その部分集合を定義する式がすべて多項式を等号 $=$ あるいは等号付き不等号 $\leq$, $\geq$ で結んだものである場合、その集合は閉集合となる。 また、 $$ A_4=\{(x,y)\in\mathbb{R}^2\,|\,x+y>0,\,y>x^3,\,x^2+y^2<1\} $$ は $\mathbb{R}^2$ の開集合である。一般に、Euclid空間において、その部分集合を定義する式の個数が有限個で、しかもそれらがすべて多項式を真の不等号 $<$, $>$ で結んだものである場合、その集合は開集合となる(ここで、なぜ有限個という条件が必要なのかを考えよ。式に無限個にしたときに開集合とならない具体例を考えてみよ)。 $\square$

写像の連続性を確かめるには、終域の開基あるいは準開基に属する開集合の逆像が開集合であれば十分である。

命題 5.15 (準開基を用いた連続性の判定)

$X,$ $Y$ を位相空間、$\mathcal{S}$ を $Y$ の準開基とする。このとき、写像 $f\colon X\to Y$ に対して次は同値である。

  • (1) $f\colon X\to Y$ は連続である。
  • (2) 任意の $V\in\mathcal{S}$ に対して $f^{-1}(V)$ は $X$ の開集合である。

(蛇足ながら、開基は準開基であるので、この命題は $\mathcal{S}$ が $Y$ の開基であるときにも適用できる。)

証明

(1) $\Rightarrow$ (2)は、$\mathcal{S}$ の要素がすべて $Y$ の開集合であることから明らかである。

(2) $\Rightarrow$ (1) を示す。(2) を仮定し、$V$ を $Y$ の開集合とする。$f^{-1}(V)$ が $X$ の開集合であることを示したい。準開基の定義から、$\mathcal{S}$ の要素の有限個の共通部分の全体を $\mathcal{B}_\mathcal{S}$ とすると、$\mathcal{B}_\mathcal{S}$ は $Y$ の開基である。よって、命題 3.2により、$V$ は $\mathcal{B}_\mathcal{S}$ の要素の和集合として書ける。すなわち、$\{B_\lambda\,|\,\lambda\in \Lambda\}\subset \mathcal{B}_\mathcal{S}$ が存在して、$V=\bigcup_{\lambda\in \Lambda} B_\lambda$ と書ける。よって $f^{-1}(V)=\bigcup_{\lambda\in \Lambda}f^{-1}(B_\lambda)$ となるから、各 $\lambda\in \Lambda$ に対して $f^{-1}(B_\lambda)$ が $X$ の開集合であると分かればよい。したがって、初めから、$V$ が $\mathcal{B}_\mathcal{S}$ の要素であるときに $f^{-1}(V)$ が $X$ の開集合であることを示せば十分である。このときは、ある $S_1,\ldots, S_n \mathcal{S}$ によって $V=S_1\cap\cdots\cap S_n$ と書ける。すると、$f^{-1}(V)=f^{-1}(S_1)\cap\cdots\cap f^{-1}(S_n)$ であるが、$f^{-1}(S_1),\ldots, f^{-1}(S_n)$ はいま仮定している (2) により $X$ の開集合であるから、$f^{-1}(V)$ は $X$ の開集合である。$\square$

写像の連続性は、閉包の言葉を使って述べることもできる。

命題 5.16 (閉包を用いた連続性の特徴づけ)

$X$, $Y$ を位相空間とする。写像 $f\colon X\to Y$ に対して、次は同値である。

  • (1) $f\colon X\to Y$ は連続である。
  • (2) 任意の $A\subset X$ に対して、$f(\operatorname{Cl}_X A)\subset \operatorname{Cl}_Y f(A)$ である。
  • (3) 任意の $B\subset Y$ に対して、$\operatorname{Cl}_X f^{-1}(B)\subset f^{-1}(\operatorname{Cl}_Y B)$ である。

(ここで、$X$ と $Y$ の閉包作用素を区別のためにそれぞれ $\operatorname{Cl}_X,$ $\operatorname{Cl}_Y$で表した。)

証明

(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。$f$ を連続写像とし、$A\subset X$ とする。$\operatorname{Cl}_Y f(A)$ は $Y$ の閉集合であるから、$f$ の連続性と命題 5.5により、$f^{-1}(\operatorname{Cl}_Y f(A))$ は $X$ の閉集合である。いま、$A\subset f^{-1}(f(A))\subset f^{-1}(\operatorname{Cl}_Y f(A))$ であるから、命題 4.2により、$\operatorname{Cl}_X A\subset f^{-1}(\operatorname{Cl}_Y f(A))$ である。これは、示すべき式 $f(\operatorname{Cl}_X A)\subset \operatorname{Cl}_Y f(A)$ を意味している。

(2) $\Rightarrow$ (3) を示す。(2) を仮定し、$B\subset Y$ とする。(2) において $A=f^{-1}(B)$ とすることにより、$f(\operatorname{Cl}_X f^{-1}(B))\subset \operatorname{Cl}_Y f(f^{-1}(B))$ を得る。これと $f(f^{-1}(B))\subset B$ および命題 4.4により、$f(\operatorname{Cl}_X f^{-1}(B))\subset \operatorname{Cl}_Y B$ である。これは、示すべき式 $\operatorname{Cl}_X f^{-1}(B)\subset f^{-1}(\operatorname{Cl}_Y B)$ を意味している。

(3) $\Rightarrow$ (1) を示す。(3) を仮定する。(1) つまり $f$ の連続性を示すために、命題 5.5を用いる。そこで、$F$ を $Y$ の閉集合とする。(3)において $B=F$ とすれば、注意 4.3により、$\operatorname{Cl}_X f^{-1}(F)\subset f^{-1}(\operatorname{Cl}_Y F)=f^{-1}(F)$ である。よって、再び注意 4.3を用いることで、$f^{-1}(F)$ が $X$ の閉集合であることが分かる。$\square$

命題 5.17 (連続写像と点列の収束)

$X,$ $Y$ を位相空間、$f\colon X\to Y$ を写像、$(x_n)_{n=1}^\infty$ は $X$ の点列とし、$x\in X$ とする。$f$ が $x$ において連続であり、$(x_n)_{n=1}^\infty$ が $x$ に収束するならば、$Y$ の点列 $(f(x_n))_{n=1}^\infty$ は $f(x)$ に収束する。

証明

$f\colon X\to Y$ が $x\in X$ において連続であり、$X$ の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ が $x$ に収束するとする。$Y$ の点列 $(f(x_n))_{n=1}^\infty$ が $f(x)$ に収束することを示すため、$f(x)$ の近傍 $V$ を任意に与える。$f\colon X\to Y$ は $x$ において連続だから、$x$ の $X$ における近傍 $U$ で $f(U)\subset V$ となるものが存在する。$(x_n)_{n=1}^\infty$ が $x$ に収束することから、ある $N\in\mathbb{N}$ が存在して、$n\geq N$ のとき常に $x_n\in U$ である。したがって、$n\geq N$ のとき常に $f(x_n)\in f(U)\subset V$ である。これで、$(f(x_n))_{n=1}^\infty$ が $f(x)$ に収束することが示された。$\square$


考えている空間が第一可算空間(たとえば、距離空間)の場合、連続性は点列の収束の言葉でも述べることができる。

命題 5.18 (点列を用いた点における連続性の特徴づけ)

$X$ を第一可算空間、$Y$ を位相空間とする。写像 $f\colon X\to Y$ と点 $x\in X$ に対して、次は同値である。

  • (1) $f$ は $x$ において連続である。
  • (2) $x$ に収束する $X$ の任意の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ に対して、$Y$ の点列 $(f(x_n))_{n=1}^\infty$ は $f(x)$ に収束する。

証明

(1) $\Rightarrow$ (2) は命題 5.17からすぐに分かる。

(2) $\Rightarrow$ (1) を示す。対偶を証明しよう。そこで、(1) の否定、つまり $f$ が $x$ において連続でないことを仮定する。$X$ は第一可算だから、命題 2.15により、$x$ の $X$ における基本近傍系 $\mathcal{U}=\{U_n\,|\,n\in\mathbb{N}\}$ で各 $n\in\mathbb{N}$ に対して $U_{n+1}\subset U_n$ となるもの(したがって、$m\geq n$ のとき常に $U_m\subset U_n$ となるもの)が存在する。$f(x)$ の $Y$ における基本近傍系 $\mathcal{V}$ として、$f(x)$ の $Y$ における近傍すべての集合をとると、命題 5.8(2)の否定が成り立つことにより、次が分かる。

$f(x)$ の $Y$ における近傍 $V$ が存在して、任意の $n\in\mathbb{N}$ に対して $f(U_n)\not\subset V$ となる。

そこで、各 $n\in\mathbb{N}$ に対して $x_n\in U_n$ を $f(x_n)\notin V$ となるように選ぶ。このとき、点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ は $x$ に収束する。実際、任意の $n\in\mathbb{N}$ に対して、$i\geq n$ のとき常に $x_i\in U_i\subset U_n$ となるので、命題 2.18により $(x_n)_{n=1}^\infty$ は $x$ に収束することが分かる。ところが、$Y$ の点列 $(f(x_n))_{n=1}^\infty$ は $y$ に収束しない。実際、$y$ の近傍として $V$ をとると、任意の $n\in\mathbb{N}$ に対して $f(x_n)\notin V$ となるからである。このような $X$ の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ が存在することは、(2) の否定が成り立つことを示している。$\square$

命題 5.19 (点列を用いた点における連続性の特徴づけ)

$X,$ $Y$ を距離空間とする。写像 $f\colon X\to Y$ と点 $x\in X$ に対して、次は同値である。

  • (1) $f$ は $x$ において連続である。
  • (2) $x$ に収束する $X$ の任意の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ に対して、$Y$ の点列 $(f(x_n))_{n=1}^\infty$ は $f(x)$ に収束する。

証明

距離空間は第一可算だから、これは命題 5.18の特別な場合である。$\square$

同相写像の概念を定義する。これは線形代数や群論での同型写像に相当するものであり、位相空間 $X,$ $Y$ に対して同相写像 $f\colon X\to Y$ が存在するときに $X$ と $Y$ は「実質的に同じ」位相空間であると見なされる。

定義 5.20 (同相写像)

$X,$ $Y$ を位相空間とする。写像 $f\colon X\to Y$ が同相写像(homeomorphism)であるとは、$f$ が連続な全単射であって、かつ逆写像 $f^{-1}\colon Y\to X$ が連続であることをいう。同相写像 $f\colon X\to Y$ が少なくとも一つ存在するとき、位相空間 $X$ と $Y$ は同相(homeomorphic)であるといい、これを記号 $X\approx Y$ で表す。

位相空間が同相であることは、「図形を曲げたり伸ばしたり縮めたりして移り合うことができること」と説明されることがある。これはもちろん厳密な説明ではないが、以下の例では、$X$ を伸び縮みさせて $Y$ にする様子が想像しやすいであろう。

例 5.21 (同相写像の例・その1)

$X=[0,1)$, $Y=[0,\infty)$ とする。これらを $\mathbb{R}$ のEuclid距離の制限(注意 1.13)により距離空間と考え、位相空間とみなす。$f\colon X\to Y$ を $$ f(x)=\frac{x}{1-x}\quad(x\in X) $$ で定めれば、$f$ は連続である。さらに、$g\colon Y\to X$ を $$ f^{-1}(y)=\frac{y}{y+1}\quad(y\in Y) $$ で定義すると、$g$ も連続であり、$g\circ f=\operatorname{id}_X,$ $f\circ g=\operatorname{id}_Y$ を満たすことが確認できる。よって、$f$ は全単射であり、その逆写像 $f^{-1}$ は $g$ である。以上により、$f\colon X\to Y$ は連続な全単射で、連続な逆写像 $f^{-1}=g\colon Y\to X$ をもつから、$f$ は同相写像である。したがって、$X=[0,1)$ と $Y=[0,\infty)$ は同相である。

例 5.22 (同相写像の例・その2)

$X$, $Y$ を平面 $\mathbb{R}^2$ の次のような部分集合とする。 $$ \begin{aligned} X&=\{(x_1, x_2)\in\mathbb{R}\,|\,x_1^2+x_2^2\leq 1\},\,\\ Y&=\{(x_1, x_2)\in\mathbb{R}\,|\,-1\leq x_1\leq 1,\,-1\leq x_2\leq 1\}=\{(x_1, x_2)\in\mathbb{R}^2\,|\,\max\{|x_1|, |x_2|\}\leq 1\} \end{aligned} $$ $X$ は原点を中心とする半径1の閉円板、$Y$ は一辺2の(境界も含んだ)正方形である。$X$ と $Y$ が同相であることを示そう。ここでも、$X$ や $Y$ は $\mathbb{R}^2$ のEuclid距離 $d$ の制限により距離空間と考え、位相空間とみなす。

まず、準備として、$x=(x_1, x_2)\in\mathbb{R}^2$ に対して $$ \|x\|_2=\sqrt{x_1^2+x_2^2},\quad \|x\|_\infty=\max\{|x_1|, |x_2|\} $$ と定義する($\|\phantom{x}\|_2$ はEuclidノルムであり、$d(x,0)=\|x\|_2$ を満たす)。これらはともに、性質 $$ \|cx\|_2=|c|\|x\|,\quad \|cx\|_\infty=|c|\|x\|_\infty\qquad(c\in\mathbb{R},\,x\in\mathbb{R}^2) \qquad(\star) $$ を満たす。また、不等式 $$ \|x\|_\infty\leq \|x\|_2\leq \sqrt{2}\|x\|_\infty \qquad(\star\star) $$ が成り立つことが、簡単な計算により示される。そして、$X$, $Y$ は $$ X=\{x\in\mathbb{R}^2\,|\,\|x\|_2\leq 1\},\quad Y=\{x\in\mathbb{R}^2\,|\,\|x\|_\infty\leq 1\} $$ と表される。そこで、写像 $f\colon X\to Y$ を $$ f(x)= \begin{cases} \dfrac{\|x\|_2}{\|x\|_\infty}x & x\neq 0\text{ のとき}\\ 0 & x=0\text{ のとき} \end{cases} $$ で定義する。$f$ が実際に $X$ の点を $Y$ の点に写していることは上で述べた性質 $(\star)$ を用いて確認できる。さらに、$x\notin X\setminus\{0\}$ のとき、$f$ が $x$ において連続であることは、微積分の知識によって分かる通りである。$f$ が $0$ において連続であることを確認しよう。そのため、任意の $\varepsilon>0$ を与える。$\delta=\varepsilon/\sqrt{2}>0$ とおき、$d(x,0)=\|x\|_2<\delta$ となる $x\in X$ を任意に与える。もし、$x=0$ ならば $d(f(x),f(0))=d(f(0),f(0))=0<\varepsilon$ である。$x\neq 0$ とすると、不等式 $(\star\star)$ により $$ \|f(x)\|_2=\left\|\frac{\|x\|_2}{\|x\|_\infty}x\right\|_2=\frac{ {\|x\|_2}^2}{\|x\|_\infty}\leq \frac{ {\|x\|_2}^2}{\|x\|_2/\sqrt{2}}=\sqrt{2}\|x\|_2 $$ となるので、 $$ d(f(x), f(0))=d(f(x), 0)=\|f(x)\|_2\leq\sqrt{2}\|x\|_2<\sqrt{2}\delta=\varepsilon $$ を得る。これで、すべての点 $x\in X$ に対して $f$ は $x$ において連続と分かったので、命題 5.7により、$f\colon X\to Y$ の連続性が確かめられた。

さらに、$g\colon Y\to X$ が $$ g(y)= \begin{cases} \dfrac{\|y\|_\infty}{\|y\|_2}y & y\neq 0\text{ のとき}\\ 0 & y=0\text{ のとき} \end{cases} $$ によって定義されること(つまり、$y\in Y$ に対して上の $g(y)$ が確かに $X$ の点であること)が示される。さらに $g$ が連続であることも、$f$ の連続性と同様に示される。そして、$g$ が $f$ の逆写像であることが確かめられる。こうして、$f\colon X\to Y$ は連続全単射であって逆写像 $g=f^{-1}$ が連続だと分かったので、$f$ は同相写像である。よって、$X$ と $Y$ は同相である。$\square$

注意 5.23 (連続全単射は同相写像とは限らない)

位相空間の間の写像 $f\colon X\to Y$ が同相写像であることの定義で、「$f^{-1}\colon Y\to X$ が連続である」という条件を忘れてはならない。例えば、$X$ と $Y$ は集合としてはともに $\mathbb{R}$ であるとし、$X$ には離散位相を入れ、$Y$ には通常のEuclid距離から定まる位相を入れる。そして、$f\colon X\to Y$ を恒等写像 $\operatorname{id}_\mathbb{R}$ とすれば、$f$ は確かに連続な全単射であるが、$f^{-1}$ は連続ではない。したがって、$f$ は同相写像ではない。全単射かつ連続な写像であっても逆写像は連続とは限らないのである。

線形代数を学んだ人は、$V, W$ がベクトル空間で $f\colon V\to W$ が全単射かつ線形写像であれば、$f^{-1}\colon W\to V$ も線形写像となることを知っているであろう。いま見たように、これに対応する事実は位相空間については成り立たないので注意が必要である。$\square$

注意 5.24 (同相写像は開集合の一対一対応・位相的性質)

位相空間 $X,$ $Y$ の間の写像 $f\colon X\to Y$ が同相写像であるという条件は

  • (i) $f\colon X\to Y$ は全単射である
  • (ii) $f\colon X\to Y$ は連続である
  • (iii) $f^{-1}\colon Y\to X$ は連続である

という三つの要素からなっている。(i)の条件は、$f$ が $X$ の点と $Y$ の点との一対一対応を与えることを述べている。(ii)の条件は、連続写像の定義によれば

(1) $\,V\subset Y$ が開集合 $\Longrightarrow$ $f^{-1}(V)\subset X$ も開集合

が成り立つことなのであった。さらに (iii)の条件も、連続写像の定義に基づけば 「$U\subset X$ が開集合 $\Longrightarrow$ $(f^{-1})^{-1}(U)\subset Y$ も開集合」 と書けるが、$f^{-1}$ による逆像 $(f^{-1})^{-1}(U)$ とは $f$ による像 $f(U)$ のことだから、結局これは、

(2) $\,U\subset X$ が開集合 $\Longrightarrow$ $f(U)\subset Y$ も開集合

ということを意味している。(1) は、$Y$ の開集合を $f^{-1}$ で写せば $X$ の開集合になることを述べ、(2) は $X$ の開集合を $f$ で写せば $Y$ の開集合になることを述べている。よって、(1) と (2) が同時に成り立つということは、$f$ が $X$ の開集合と $Y$ の開集合の間の一対一対応を与えているということである。つまり、同相写像 $f\colon X\to Y$ とは、

  • $X$ の点と $Y$ の点との一対一対応を与える写像(つまり、全単射)であって、
  • 同時に $X$ の開集合と $Y$ の開集合との一対一対応をも与えている写像

のことであるといえる。

そもそも位相空間は集合に開集合系(=どの部分集合が開集合かというデータ)を定めることで定義された。同相写像 $f\colon X\to Y$ があるということは、まさに、位相空間の定義に関係するすべてのデータを一斉に($f$ により)一対一対応させることができることを意味する。このことから、同相写像 $f\colon X\to Y$ があるとき、我々は $X$ と $Y$ とを( $X$ の点 $x$ を $Y$ の点 $f(x)$ と同じと思うことで)位相空間として同一視することが許される。

我々は位相空間において、閉集合、近傍、基本近傍系、開基、準開基、閉包、内部、境界という概念を定義してきた。これらは開集合の概念を出発点として、次々と派生してきたものである。同相写像はこのような諸概念の間にも一対一対応をもたらす。例えば、基本近傍系と閉包について、同相写像 $f\colon X\to Y$ がもたらす対応を具体的に見てみよう。

(基本近傍系の場合) $\mathcal{U}$ が点 $x(\in X)$ の $X$ における基本近傍系であるとしよう。このとき、$\mathcal{U}$ を $f$ で写したもの、つまり $\{f(U)\,|\,U\in\mathcal{U}\}$ は点 $f(x)$ の $Y$ における基本近傍系である(このことを確かめよ)。また、同様に、$\mathcal{V}$ が点 $y(\in Y)$ の $Y$ における基本近傍系であれば、それを $f^{-1}$ で写したもの $\{f^{-1}(V)\,|\,V\in\mathcal{V}\}$ は点 $f^{-1}(y)$ の $X$ における基本近傍系である。
(閉包の場合)この場合は一対一対応という言葉はふさわしくないかもしれないが、$X$ で閉包をとる操作と $Y$ で閉包をとる操作が次のように $f$ を通して対応する。$X,$ $Y$ における閉包作用素を $\operatorname{Cl}_X,$ $\operatorname{Cl}_Y$ で表す。このとき、任意の $A\subset X$ に対して $f(\operatorname{Cl}_X A)=\operatorname{Cl}_Y f(A)$ である。つまり、$f$ による像をとる操作と閉包をとる操作が交換可能である。このことは、$f$ が $X$ の閉集合と $Y$ の閉集合の間の一対一対応を与えていることと、閉包が閉集合のみを用いて定義される概念であることから分かる(詳細が気になる人は確かめてみよ)。同様に、$B\subset Y$ に対して $f^{-1}(\operatorname{Cl}_Y B)=\operatorname{Cl}_X f^{-1}(B)$ も成り立つ。

このように、同相写像 $f\colon X\to Y$ があるとき、$f$ と $f^{-1}$ を用いて、$X$ と $Y$ の一方で定義された概念を(より正確には、開集合を基にして定義された概念を)他方へと相互翻訳することができる。

位相空間の性質であって、同相写像によって保たれるようなものを位相的性質と呼ぶ。正確に述べれば、位相空間の性質 $\mathrm{P}$ が位相的性質(topological property)であるとは、位相空間 $X$ と $Y$ が同相であるとき(つまり同相写像 $f\colon X\to Y$ が存在するとき)、$X$ が性質 $\mathrm{P}$ をもつならば、$Y$ もまた性質 $\mathrm{P}$ をもつことをいう。位相的性質の例としては、いままでに述べたものの中でも、距離化可能性、第一可算性、第二可算性、可分性を挙げることができる。さらには、「離散空間であること」、「密着空間であること」も位相的性質である。一つの例として、次のことを確かめてみよう。

命題 可分性は位相的性質である。
証明 $X$ と $Y$ が同相な位相空間であるとし、$X$ が可分であると仮定する。このとき $Y$ が可分であることを示そう。仮定から、同相写像 $f\colon X\to Y$ および高々可算な $X$ の稠密な部分集合 $A$ が存在する。稠密であることの定義により、$\operatorname{Cl}_X A=X$ である。さきほど見た対応により、$f(\operatorname{Cl}_X A)=\operatorname{Cl}_Y f(A)$ であるが、この左辺は $f(X)=Y$ であるから、$\operatorname{Cl}_Y f(A)=Y$ を得る。これは、$f(A)$ が $Y$ において稠密であることを意味する。$A$ は高々可算で、$f$ は全単射だから $f(A)$ も高々可算である。よって、$Y$ は高々可算な稠密部分集合 $f(A)$ をもつので、可分である。

何らかの性質が位相的性質であることの証明は、その性質を定義する概念の一つ一つを同相写像を通して翻訳していくことに尽きる。同相写像は開集合を保つ写像だから、開集合の言葉だけで定義された概念は翻訳できる。また同相写像はそもそも全単射であるから、集合の濃度についての概念も翻訳できる(実際、上では高々可算という概念が現れた)。このテキストで現れる位相空間についての性質は、基本的に位相的性質に限られるが、そのことの確認はいま述べたような単純な翻訳作業であるから省略する。ただし、距離空間についての性質には、位相的性質と勘違いしやすいものがあるので、必要に応じて注意を喚起することにする。例えば、距離空間には有界性という性質が次のように定義される。距離空間 $(M, d)$ が有界(bounded)であるとは、ある実数 $C>0$ が存在して、任意の $x,y\in M$ に対して $d(x,y)\leq C$ が成り立つことをいう。例 5.21における $X=[0,1)$ は有界であり、$Y=[0,\infty)$ は有界でないが、それにもかかわらず $X$ と $Y$ は同相である。このことは有界性が位相的性質でないことを示している。いま見た現象は、有界性が距離を用いて定義された概念であることに関係している。距離は開集合を定めるが、開集合についての知識だけから距離を復元することはできない。そのため、距離を用いて定義された概念は、必ずしも位相的性質とならないのである。$\square$

例 5.25 (位相的性質の比較による非同相の証明)

位相空間 $X,$ $Y$ が同相であることを証明するには、定義通りに考えて同相写像 $f\colon X\to Y$ を実際に構成するという方法がある。これに対して $X,$ $Y$ が同相でないことの証明には工夫が必要である。ここで有効となるのが、適切な位相的性質に着目するという考え方である。いま、ある位相的性質 $\mathrm{P}$ があって、位相空間 $X$ は性質 $\mathrm{P}$ をもち、$Y$ は性質 $\mathrm{P}$ をもたないとしよう。このとき、$X$ と $Y$ は同相ではあり得ないことが結論される。というのも、もし $X$ と $Y$ が同相であれば、$X$ が位相的性質 $\mathrm{P}$ をもつことにより、$Y$ も性質 $\mathrm{P}$ をもたなければならず矛盾するからである。 非同相の証明は、ほぼ常に、いま述べた「位相的性質の比較」という原理によってなされると言ってもよい。

一つの例として、通常の位相をもつ実数直線 $\mathbb{R}$ とSorgenfrey直線 $\mathbb{S}$(例 3.12)が同相でないことを示そう。そのために、第二可算性という位相的性質に着目する。$\mathbb{R}$ は第二可算であった(例 3.5)。これに対して、$\mathbb{S}$ は第二可算ではない(例 3.12)。したがって、上に述べたことにより、$\mathbb{R}$ と $\mathbb{S}$ は同相でない。この他にも、今まで例に挙げた位相空間の位相的性質を比較することによって、様々な非同相性証明ができるはずである。

なお、上の例で $\mathbb{S}$ は集合としての $\mathbb{R}$ に特別な位相を入れたものであったから、恒等写像 $\operatorname{id}\colon \mathbb{R}\to\mathbb{S}$ がある。この $\operatorname{id}$ は連続写像ではないので(確かめよ)、同相写像ではないが、それだけでは $\mathbb{R}$ と $\mathbb{S}$ が同相でないことの証明にはならないので注意する。いま示せたのは、単に $\mathbb{R}$ から $\mathbb{S}$ へのある一つの写像が同相写像でないということである。$\mathbb{R}$ と $\mathbb{S}$ が同相でないことをいうには、$\mathbb{R}$ から $\mathbb{S}$ へのいかなる写像も同相写像になり得ないことが言えなければならない。$\square$

最後に、開写像と閉写像の概念を導入し、同相写像との関係を述べよう。

定義 5.26 (開写像・閉写像)

$X,$ $Y$ を位相空間とし、$f\colon X\to Y$ を写像とする。$f$ が開写像(open map)であるとは、$X$ の任意の開集合 $U\subset X$ に対して、$f(U)$ が $Y$ の開集合であることをいう。また、$f$ が閉写像(closed map)であるとは、$X$ の任意の閉集合 $F\subset X$ に対して、$f(F)$ が $Y$ の閉集合であることをいう。

命題 5.27 (同相写像と開写像・閉写像)

$X$, $Y$ を位相空間とし、$f\colon X\to Y$ を写像とする。次は同値である。

  • (1) $f$ は同相写像である。
  • (2) $f$ は連続な全単射であって、かつ開写像である。
  • (3) $f$ は連続な全単射であって、かつ閉写像である。

証明 (1) $\Rightarrow$ (2) を示す。$f$ が同相写像であるとする。このとき、$f$ は連続な全単射である。$f$ が開写像であることをいうため、$U$ を $X$ の開集合とする。いま、$f^{-1}\colon Y\to X$ は連続であるから、$(f^{-1})^{-1}(U)=f(U)$ は $Y$ の開集合である。

(2) $\Rightarrow$ (3) を示す。$f$ が連続な全単射であり、かつ開写像であるとする。$f$ が閉写像であることをいうため、$F$ を $X$ の閉集合とする。このとき、$X\setminus F$ は $X$ の開集合であり、よって$f(X\setminus F)$ は $Y$ の開集合である。ところが、$f\colon X\to Y$ は全単射であるから、$f(X\setminus F)=f(X)\setminus f(F)=Y\setminus f(F)$ である。よって、$Y\setminus f(F)$ は $Y$ の開集合だから $f(F)$ は $Y$ の閉集合である。

(3) $\Rightarrow$ (1) を示す。$f$ が連続な全単射であり、かつ閉写像であるとする。 このとき $f^{-1}\colon Y\to X$ が連続であることを示せばよい。そのために命題 5.4を使おう。そこで、$F$ を $X$ の閉集合とする。$f(F)$ は $Y$ の閉集合であるが、$f(F)=(f^{-1})^{-1}(F)$ であるから、$(f^{-1})^{-1}(F)$ は $Y$ の閉集合である。よって、命題 5.4により $f^{-1}$ は連続である。$\square$


位相空間論6:相対位相

この章から始まる3つの章では、与えられた位相空間から新しい位相空間をつくる方法について取り上げる。まず、この章では、相対位相について述べる。これは、位相空間の部分集合に位相を定める標準的な方法であり、位相空間の最も基本的な構成法である。合わせて、相対位相の写像バージョンである埋め込みについても述べる。



$(X, \mathcal{O})$ を位相空間とし、$A$ を $X$ の部分集合とする。$X$ の位相を基にして $A$ に位相に定める良い方法を考えたい。いま、$A$ と $X$ の間には、包含写像 $$ i\colon A\to X $$ が $i(a)=a\,(a\in A)$ により定義される。$A$ に定める位相は、少なくともこの包含写像 $i$ が連続であるように決めるべきであろう。例えば、極端な場合として、$A$ に離散位相(考え得る最も細かい位相)を入れれば、$i\colon A\to X$ は連続である(例 5.5)。しかし、離散位相では $X$ の位相と $A$ の位相に関連性がないから不都合である。そこで、$i$ が連続となるという制約のもとで、$A$ の位相を可能な限り粗くすることを試みる。いま、$i$ が連続であるという条件は、定義に従って書き下せば

$X$ の任意の開集合 $U$ に対して、$i^{-1}(U)=U\cap A$ が $A$ の開集合である

となる。したがって、$i$ が連続になることは、集合族 $$ \mathcal{O}_A=\{U\cap A\,|\,U\in\mathcal{O}\} $$ の要素がすべて開集合であることと同値である。そこで、$\mathcal{O}_A$ を開集合の全体として、$A$ に位相を定めることができないかを考えてみる。それができれば、$A$ は $i$ を連続とする必要最小限度の開集合だけをもつことになるだろう。言い換えれば、$A$ は $i$ を連続とする最も粗い位相をもつことになるだろう。問題は、$\mathcal{O}_A$ が開集合系の公理 (O1)-(O3) を満たすかどうかであるが、それは以下の命題で見るように実際に成り立つ。

命題 6.1 (集合族 $\mathcal{O}_A$ は開集合系の公理を満たす)

位相空間 $(X, \mathcal{O})$ と部分集合 $A\subset X$ に対して、上で定義された $A$ の部分集合族 $\mathcal{O}_A$ は $A$ 上の位相を定める。すなわち、$\mathcal{O}_A$ は開集合系の公理 (O1)-(O3) を満たす。

証明

(O1) を示すには、$\emptyset,\, A\in\mathcal{O}_A$ を示せばよい。まず、$\emptyset\in\mathcal{O}$ であり $\emptyset=\emptyset\cap A$ であるから、$\emptyset\in\mathcal{O}_A$ である。また、$X\in\mathcal{O}$ であり $A=X\cap A$ であるから、$A\in\mathcal{O}_A$ である。

(O2) を示す。そのため、$V_1,\,V_2\in\mathcal{O}_A$ とする。$\mathcal{O}_A$ の定義により、各 $i=1, 2$ に対して、$U_i\in\mathcal{O}$ であって $V_i=U_i\cap A$ となるものが存在する。すると、$V_1\cap V_2=(U_1\cap A)\cap (U_2\cap A)=(U_1\cap U_2)\cap A$ であるが、$U_1\cap U_2\in\mathcal{O}$ であるから、$V_1\cap V_2\in\mathcal{O}_A$ である。

最後に (O3) を示す。そのため、$\{V_\lambda\,|\,\lambda\in \Lambda\}\subset\mathcal{O}_A$ とする。$\mathcal{O}_A$ の定義により、各 $\lambda\in \Lambda$ に対して、$U_\lambda\in \mathcal{O}$ を $U_\lambda\cap A=V_\lambda$ となるように選べる。すると、$\bigcup_{\lambda\in \Lambda} V_\lambda=\bigcup_{\lambda\in \Lambda} (U_\lambda\cap A)=(\bigcup_{\lambda\in \Lambda} U_\lambda)\cap A$ であるが、$\bigcup_{\lambda\in \Lambda} U_\lambda\in\mathcal{O}$ であるから、$\bigcup_{\lambda\in \Lambda} V_\lambda\in\mathcal{O}_A$ である。$\square$

定義 6.2 (相対位相)

$(X, \mathcal{O})$ を位相空間とし、$A$ を $X$ の部分集合とする。$A$ の部分集合族 $$ \mathcal{O}_A=\{U\cap A\,|\,U\in\mathcal{O}\} $$ は命題 6.1により開集合系の公理 (O1)-(O3) を満たすから、$(A, \mathcal{O}_A)$ は位相空間となる。このとき、$\mathcal{O}_A$ を $A$ の $X$ からの相対位相(relative topology)といい、$(A, \mathcal{O}_A)$ を $(X, \mathcal{O})$ の部分空間(subspace)という。

以下では、位相空間 $X$ の部分集合 $A$ に対して、特に断りのない限り、$A$ を $X$ からの相対位相によって位相空間とみなす。いままでの議論から、次が成り立つ。

命題 6.3 (相対位相と包含写像)

$(X, \mathcal{O})$ を位相空間、$A$ を $X$ の部分集合とする。$A$ の $X$ からの相対位相 $\mathcal{O}_A$ は、包含写像 $i\colon A\to X$ を連続とする $A$ 上の位相の中で、最も粗い位相である。つまり、次の二つが成り立つ。

  • $i\colon A\to X$ は、$(A, \mathcal{O}_A)$ から $(X, \mathcal{O})$ への連続写像となる。
  • $i$ が $(A, \mathcal{O}')$ から $(X, \mathcal{O})$ への連続写像となるような $A$ 上の任意の位相 $\mathcal{O}'$ に対して、$\mathcal{O}_A\subset\mathcal{O}'$ である。$\square$

命題 6.4 (連続写像の制限)

$X,$ $Y$ を位相空間、$A$ を $X$ の部分集合とする。$f\colon X\to Y$ が連続写像であるとき、制限 $f|_A\colon A\to Y$ も(相対位相に関して)連続である。

証明

命題 6.3により、包含写像 $i\colon A\to X$ は連続写像であり、$f|_A=f\circ i$ であるから、$f|_A$ は連続写像の合成となり、よって連続である。$\square$

位相空間 $X$ において $B\subset A\subset X$ であるとき、$B$ は $X$ の部分空間とも $A$ の部分空間とも考えることができるが、そのどちらで考えても位相は同じになる。すなわち、

命題 6.5 (部分空間の推移性)

$X$ を位相空間とし、$B\subset A\subset X$ とする。$B$ の $A$ からの相対位相 $\mathcal{O}_{A,B}$ と $B$ の $X$ からの相対位相 $\mathcal{O}_{X,B}$ は一致する。

証明

まず、$\mathcal{O}_{A,B}\subset\mathcal{O}_{X,B}$ を示す。$W\in\mathcal{O}_{A,B}$ とする。$A$ のある開集合 $V$ に対して、$W=V\cap B$ となる。さらに、$X$ のある開集合 $U$ に対して、$V=U\cap A$ となる。すると、$W=V\cap B=(U\cap A)\cap B=U\cap B$ であるから、$W\in\mathcal{O}_{X,B}$ である。次に、$\mathcal{O}_{X,B}\subset\mathcal{O}_{A,B}$ を示す。$W\in\mathcal{O}_{X,B}$ とする。$X$ のある開集合 $U$ に対して、$W=U\cap B$ である。このとき、$V=U\cap A$ とおけば、$V$ は $A$ の開集合であって、$V\cap B=(U\cap A)\cap B=U\cap B=W$ である。よって、$W\in\mathcal{O}_{A,B}$ である。$\square$

上の命題 6.5は、特に断りなく暗黙のうちに使われることが多いので注意する。

命題 6.6 (相対位相に関する閉集合)

$X$ を位相空間とし、$A$ を $X$ の部分集合とする。部分空間 $A$ の閉集合全体の集合は $$ \mathcal{F}_A=\{F\cap A\,|\,F\text{ は }X\text{ の閉集合}\} $$ となる。

証明

$H$ を部分空間 $A$ の閉集合とすると、$A\setminus H$ は $A$ の開集合であるから、$X$ の開集合 $U$ が存在して、$A\setminus H=U\cap A$ となる。このとき、$F=X\setminus U$ とおけば、$F$ は $X$ の閉集合であって、$H=A\setminus (A\setminus H)=A\setminus (U\cap A)=A\setminus U=A\cap (X\setminus U)=A\cap F$ である。よって $H\in\mathcal{F}_A$ となる。

逆に、$H\in\mathcal{F}_A$ とすると、$X$ の閉集合 $F$ で $H=F\cap A$ となるものが存在する。$U=X\setminus F$ とおくと、$U$ は $X$ の開集合であって、$U\cap A$ は $A$ の開集合である。ところが、$H=F\cap A=(X\setminus U)\cap A=A\setminus U=A\setminus (U\cap A)$ であるから、$H$ は $A$ の閉集合である。$\square$

上の命題から、$X$ の部分空間 $A$ とは、$X$ の閉集合 $F$ を用いて $F\cap A$ の形で書ける集合を閉集合とする位相空間であるということもできる。部分空間における開集合・閉集合を扱うときには、次の二つの命題が基本的である。

命題 6.7 (開集合の開集合・閉集合の閉集合)

開集合の開集合は開集合であり、閉集合の閉集合は閉集合である。すなわち、$U$ が位相空間 $X$ の開集合であり、$V$ が部分空間 $U$ の開集合であるならば、$V$ は $X$ の開集合となる。また、$F$ が位相空間 $X$ の閉集合であり、$H$ が部分空間 $F$ の閉集合であるならば、$H$ は $X$ の閉集合である。

証明

$U$ を位相空間 $X$ の開集合、$V$ を部分空間 $U$ の開集合とする。このとき、$X$ の開集合 $V'$ が存在して、$V=V'\cap U$ となる。$V'$ も $U$ も $X$ の開集合なので、$V'\cap U$ は $X$ の開集合であり、よって $V$ は $X$ の開集合となる。閉集合についての主張も、命題 6.6を用いれば同様に示される。$\square$

命題 6.8 (部分空間と開集合・閉集合)

$X$ を位相空間とし、$B\subset A\subset X$ とする。$B$ が $X$ の開集合であれば、$B$ は $A$ の開集合である。また、$B$ が $X$ の閉集合であれば、$B$ は $A$ の閉集合である。

証明

$B$ が $X$ の開集合とすると、$B\subset A$ により $B=B\cap A$ であるから、$B$ は $A$ の開集合である。閉集合についての主張も、命題 6.6を用いれば同様に示される。$\square$


さて、$(X, d)$ を距離空間とし、$A$ を $X$ の部分集合とする。このとき、$A$ に位相を定める自然な方法が二通りある。 一つ目は次のようなものである。距離空間 $(X, d)$ は位相空間 $(X, \mathcal{O}_d)$ を定める(命題 1.17)ので、その相対位相を考えることで、$A$ に位相 $(\mathcal{O}_d)_A$ が定まる。また、二つ目は次のようなものである。距離 $d$ の制限 $d_A=d|_{A\times A}$ は $A$ 上の距離となるから(注意 1.13)、距離空間 $(A, d_A)$ が得られ、これから $A$ に位相 $\mathcal{O}_{d_A}$ が定まる。ところが、実際にはこの二通りの位相は実際には一致するので、区別する必要がない。つまり、次が成り立つ。


命題 6.9 (距離空間の部分集合上の位相)

$(X, d)$ を距離空間とし、$A$ を $X$ の部分集合とする。$(X, d)$ が定める位相空間 $(X, \mathcal{O}_d)$ の部分空間 $(A, (\mathcal{O}_d)_A)$ と、 $d$ を制限することで得られる距離空間 $(A, d_A)$ が定める位相空間 $(A, \mathcal{O}_{d_A})$ に対して、 $$ (\mathcal{O}_d)_A=\mathcal{O}_{d_A} $$ である。

証明

まず、$(\mathcal{O}_d)_A\subset \mathcal{O}_{d_A}$ を示す。そのため、$V\in(\mathcal{O}_d)_A$ とする。すると、$U\in\mathcal{O}_d$ であって $V=U\cap A$ となるものが存在する。$x\in V$ を任意に与える。すると $x\in U$ だから、ある $r>0$ が存在して、$B_d(x,r)\subset U$ である。距離の制限の定義 $d_A=d|_{A\times A}$ により、$B_{d_A}(x,r)=B_d(x,r)\cap A$ となるから、$B_{d_A}(x,r)\subset U\cap A=V$ である。これで、$V\in\mathcal{O}_{d_A}$ が示された。

次に、$\mathcal{O}_{d_A}\subset (\mathcal{O}_d)_A$ を示す。そのため、$V\in\mathcal{O}_{d_A}$ とする。各 $x\in V$ に対して、$r_x>0$ を $B_{d_A}(x, r_x)\subset V$ つまり $B_d(x, r_x)\cap A\subset V$ となるように選べる。$U=\bigcup_{x\in V} B_d(x, r_x)$ とおくと $U\in\mathcal{O}_d$ である。さらに、$U\cap A=(\bigcup_{x\in V} B_d(x, r_x))\cap A=\bigcup_{x\in V} (B_d(x, r_x)\cap A)\subset V$ である。一方、$U$ の定義より $V\subset U$ であり、また $V\in\mathcal{O}_{d_A}$ から $V\subset A$ なので $V\subset U\cap A$ である。以上により、$V=U\cap A$ であるから、$V\in(\mathcal{O}_d)_A$ である。$\square$

注意 6.10 (命題 6.9 の証明についての注意)

命題 6.9の証明の後半部分、つまり $\mathcal{O}_{d_A}\subset (\mathcal{O}_d)_A$ の証明は、以下のような方法もある。まず、$(A, \mathcal{O}_{d_A})$ は $d_A$ に関する開球体の全体 $$ \mathcal{B}=\{B_{d_A}(x,r)\,|\,x\in A,\,r<0\} $$ を開基にもつことを思い出そう(例 3.4)。このとき、$B_{d_A}(x,r)=B_d(x,r)\cap A$ により、$\mathcal{B}\subset (\mathcal{O}_{d})_A$ であることがすぐに分かる。ところが、いま $\mathcal{O}_{d_A}$ は $\mathcal{B}$ を開基として生成される位相(注意 3.11)であるから、$\mathcal{O}_{d_A}$ は $\mathcal{B}$ を含む最小の位相である。この最小性により、$\mathcal{O}_{d_A}\subset (\mathcal{O}_{d})_A$ である。$\square$

第一可算性(定義 2.12)や第二可算性(定義 3.6)は部分空間に引き継がれる。つまり、次が成り立つ。

命題 6.11 (第一・第二可算な空間の部分空間は第一・第二可算)

第一可算(あるいは第二可算)な位相空間の部分空間は第一可算(あるいは第二可算)である。

証明

まず、第一可算の場合を示す。$X$ を第一可算な位相空間とし、$A\subset X$ とする。$x\in A$ を任意に与える。$x$ が $A$ において高々可算な基本近傍系をもつことを示せばよい。$X$ は第一可算だから、$x$ は $X$ における高々可算な基本近傍系 $\mathcal{U}=\{U_n\,|\,n\in\mathbb{N}\}$ をもつ。各 $n\in\mathbb{N}$ に対して、$x\in U'_n\subset U_n$ となるような $X$ の開集合 $U'_n$ を選べば $\{U'_n\,|\,n\in\mathbb{N}\}$ も $x$ の $X$ における基本近傍系である。したがって、はじめから各 $n\in\mathbb{N}$ に対して $U_n$ は開集合であると仮定してよい。このとき、$\mathcal{V}=\{U\cap A\,|\,U\in\mathcal{U}\}$ とおくと、$\mathcal{V}$ は $x$ の $A$ における開近傍からなる高々可算な族であるが、この $\mathcal{V}$ が $x$ の $A$ における基本近傍系であることを示そう。そのため、$x$ の $A$ における開近傍 $V$ を任意に与える。すると、$X$ の開集合 $\tilde{V}$ が存在して $V=\tilde{V}\cap A$ である。このとき $\tilde{V}$ は $x$ の $X$ における開近傍なので、ある $n\in\mathbb{N}$ が存在して $U_n\subset \tilde{V}$ となる。したがって、$U_n\cap A\subset\tilde{V}\cap A=V$ である。$U_n\cap A\in\mathcal{V}$ であるから、これで $\mathcal{V}$ が $x$ の $A$ における基本近傍系であることが示された。$\mathcal{V}$ は高々可算であるから、 $A$ が第一可算であることが証明された。

次に、第二可算の場合を示す。$X$ を第二可算な位相空間とし、$A\subset X$ とする。$A$ が高々可算な開基をもつことを示せばよい。$X$ は第二可算であるから、$X$ の高々可算な開基 $\mathcal{B}$ が存在する。すると、$\mathcal{B}'=\{B\cap A\,|\,B\in\mathcal{B}\}$ は $A$ の開集合からなる高々可算な族であるが、$\mathcal{B}'$ が $A$ の開基となることを示そう。そのため、$A$ の開集合 $V$ と $x\in V$ を任意に与える。すると、$X$ の開集合 $\tilde{V}$ であって $V=\tilde{V}\cap A$ となるものが存在する。すると $x\in\tilde{V}$ であり $\mathcal{B}$ は $X$ の開基であるから、$B\in\mathcal{B}$ であって $x\in B\subset \tilde{V}$ となるものが存在する。このとき $x\in B\cap A\subset \tilde{V}\cap A=V$ であり、$B\cap A$ は $\mathcal{B}'$ の要素であるから、$\mathcal{B}'$ が $A$ の開基であることが示された。$\mathcal{B}'$ は高々可算であるから、$A$ が第二可算であることが証明された。$\square$


次の命題は、場合分けによって定義された写像の連続性を示すのに有用である。

命題 6.12 (連続写像の貼り合わせ)

$X,$ $Y$ を位相空間、$f\colon X\to Y$ を写像とする。

  • (1) $\{U_\lambda\,|\,\lambda\in \Lambda\}$ を $X$ の開集合からなる族で、$X=\bigcup_{\lambda\in \Lambda} U_\lambda$ を満たすものとする。このとき、各 $\lambda\in \Lambda$ に対して $f|_{U_\lambda}\colon U_\lambda\to Y$ が連続ならば、$f\colon X\to Y$ は連続である。
  • (2) $\{F_1,\ldots, F_n\}$ を $X$ の閉集合からなる有限な族で、$X=\bigcup_{i=1}^n F_i$ を満たすものとする。このとき、各 $i=1,\ldots, n$ に対して $f|_{F_i}\colon F_i\to Y$ が連続ならば、$f\colon X\to Y$ は連続である。

証明

(1) $V$ を $Y$ の開集合とする。仮定から、任意の $\lambda\in \Lambda$ に対して $(f|_{U_\lambda})^{-1}(V)=f^{-1}(V)\cap U_\lambda$ は $U_\lambda$ の開集合である。命題 6.7により、$f^{-1}(V)\cap U_\lambda$ は $X$ の開集合となる。よって、和集合 $\bigcup_{\lambda\in \Lambda}(f^{-1}(V)\cap U_\lambda)$ は $X$ の開集合である。ところが、$f^{-1}(V)=f^{-1}(V)\cap X=f^{-1}(V)\cap(\bigcup_{\lambda\in \Lambda} U_\lambda)=\bigcup_{\lambda\in \Lambda}(f^{-1}(V)\cap U_\lambda)$ であるから、$f^{-1}(V)$ は $X$ の開集合となる。よって、$f$ は連続である。

(2) 命題 5.4を用いて示す。$H$ を $Y$ の閉集合とする。仮定から、任意の $i=1,\ldots,n$ に対して $(f|_{F_i})^{-1}(H)=f^{-1}(H)\cap F_i$ は $F_i$ の閉集合である。命題 6.7により、$f^{-1}(H)\cap F_i$ は $X$ の閉集合となる。よって、有限和 $\bigcup_{i=1}^n (f^{-i}(H)\cap F_i)$ は $X$ の閉集合である。ところが、$f^{-1}(H)=f^{-1}(H)\cap X=f^{-1}(H)\cap(\bigcup_{i=1}^n F_i)=\bigcup_{i=1}^n(f^{-1}(H)\cap F_i)$ であるから、$f^{-1}(H)$ は $X$ の閉集合となる。よって、命題 5.4により、$f$は連続である。$\square$


例 6.13 (道の合成)

一般に位相空間 $X$ に対して、連続写像 $f\colon [0, 1]\to X$ を $X$ における(path)といい、$f(0),$ $f(1)$ をそれぞれ道 $f$ の始点終点と呼ぶ。いま、二つの道 $f, g\colon [0,1]\to X$ に対して、$f$ の終点と $g$ の始点が一致している、つまり、$f(1)=g(0)$ であるとしよう。このとき、$f$ と $g$ を「つなぐ」ことで、一つの道 $h\colon [0,1]\to X$ を次のように定義することができる。 $$ h(t)= \begin{cases} f(2t) & 0\leq t\leq 1/2\text{ のとき}\\ g(2t-1) & 1/2\leq t\leq 1\text{ のとき} \end{cases} $$ $t=1/2$ のとき $f(2t)=f(1)=g(0)=g(2t-1)$ であるからこの定義に問題はない。$h$ の連続性は次のように示される。$h|_{[0,1/2]}$ および $h|_{[1/2,1]}$ はそれぞれ連続写像の合成の形で与えられるから連続である。そして、$[0,1]=[0,1/2]\cup [1/2,1]$ であって $[0,1/2]$ および $[1/2,1]$ は $[0,1]$ の閉集合であるから、命題 6.12(2)により $h$ は連続である。 $\square$

相対位相と点列の収束との関係について、少し注意しておこう。$X$ を位相空間、$A$ を $X$ の部分集合とするとき、$A$ の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ が点 $x\in A$ に収束することには、二通りの定義が考えられる。

  • (1) $(x_n)_{n=1}^\infty$ を $X$ の点列と考え、$X$ の位相に関して $(x_n)_{n=1}^\infty$ が $x$ に収束する。すなわち、$x$ の $X$ における任意の開近傍 $U$ に対して、ある $N\in\mathbb{N}$ が存在して $n\geq N$ のとき常に $x_n\in U$ となる。
  • (2) $(x_n)_{n=1}^\infty$ を $A$ の点列と考え、$A$ の $X$ からの相対位相に関して $(x_n)_{n=1}^\infty$ が $x$ に収束する。すなわち、$x$ の $A$ における任意の開近傍 $V$ に対して、ある $N\in\mathbb{N}$ が存在して $n\geq N$ のとき常に $x_n\in V$ となる。

この二通りの可能な定義は、次で命題で見るように実際には同値となるので、区別しなくてよい。

命題 6.14 (部分集合内の点列の収束の定義の同値性)

$A$ を位相空間 $X$ の部分集合、$(x_n)_{n=1}^\infty$ を $A$ の点列とし、$x\in A$ とする。このとき、上に挙げた「$(x_n)_{n=1}^\infty$ が $x$ に収束する」ことの二通りの定義 (1), (2) は同値である。

証明

(1)$\Rightarrow$(2) を示す。$A$ の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ が (1) の意味で $x\in A$ に収束したとする。このとき、(2) の意味でも収束していることを示すため、$V$ を $A$ における $x$ の開近傍とする。相対位相の定義から、ある開集合 $U$ が存在して、$V=U\cap A$ である。このとき、$U$ は $x$ の $X$ における開近傍となっている。いま $(x_n)_{n=1}^\infty$ は (1) の意味で $x\in A$ に収束しているから、$N\in\mathbb{N}$ が存在して、$n\geq N$ のとき常に $x_n\in U$ である。ところが、$(x_n)_{n=1}^\infty$ は $A$ の点列であるから、このとき、$n\geq N$ のとき常に $x_n\in U\cap A=V$ であることが分かる。これで、$(x_n)_{n=1}^\infty$ は (2) の意味でも $x$ に収束していることが示された。

(2)$\Rightarrow$(1) を示す。$A$ の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ が (2) の意味で $x\in A$ に収束したとする。このとき、(1) の意味でも収束していることを示すため、$U$ を $X$ における $x$ の開近傍とする。相対位相の定義から、$V=U\cap A$ とおけば $V$ は $A$ の開集合で、$x$ の $A$ における開近傍となっている。いま $(x_n)_{n=1}^\infty$ は (2) の意味で $x\in A$ に収束しているから、$N\in\mathbb{N}$ が存在して、$n\geq N$ のとき常に $x_n\in V$ である。$V\subset U$ であるから、このとき、$n\geq N$ のとき常に $x_n\in U$ も成り立つ。これで、$(x_n)_{n=1}^\infty$ は (1) の意味でも $x$ に収束していることが示された。$\square$


部分空間における閉包は、元の位相空間における閉包によって記述できる。

命題 6.15 (部分空間における閉包)

$X$ を位相空間とし、$B\subset A\subset X$ とする。このとき、$B$ について、部分空間 $A$ における閉包 $\operatorname{Cl}_A B$ と、$X$ における閉包 $\operatorname{Cl}_X B$ を考えることができるが、これらの間に次の関係がある。 $$ \operatorname{Cl}_A B=A\cap \operatorname{Cl}_X B $$

証明

$\operatorname{Cl}_X B$ は $X$ の閉集合であるから、命題 6.6により、$A\cap \operatorname{Cl}_X B$ は $A$ の閉集合である。一方、$B\subset A$ かつ $B\subset\operatorname{Cl}_X B$ であるから、$B\subset A\cap\operatorname{Cl}_X B$ である。したがって、部分空間 $A$ において命題 4.2を用いることで、$\operatorname{Cl}_A B\subset A\cap\operatorname{Cl}_X B$ を得る。逆の包含 $A\cap\operatorname{Cl}_X B\subset\operatorname{Cl}_A B$ を示すため、$x\in A\cap\operatorname{Cl}_X B$ とする。$x\in\operatorname{Cl}_A B$ を、命題 4.5を用いて示そう。そのため $x$ の $A$ における開近傍 $V$ を任意に与える。すると、$X$ における開集合 $U$ で $V=U\cap A$ となるものが存在する。このとき、$U$ は $x$ の開近傍であり、$x\in\operatorname{Cl}_X B$ であるから、命題 4.5により $U\cap B\neq\emptyset$ である。$B\subset A$ なので $U\cap B=U\cap B\cap A=(U\cap A)\cap B=V\cap B$ であり、したがって、$V\cap B\neq\emptyset$ である。これが $x$ の $A$ における任意の開近傍 $V$ について成り立つので、$x\in\operatorname{Cl}_A B$ である。これで、$A\cap\operatorname{Cl}_X B\subset\operatorname{Cl}_A B$ が示された。$\square$

例 6.16 (部分空間における開集合・閉集合)

$\mathbb{R}$ の部分空間 $X=[-1, 1)$ を考える。このとき $X$ の部分集合として $$ A=[-1,0),\quad B=[0,1) $$ を考えよう。$A$ は $\mathbb{R}$ の開集合ではないが、$\mathbb{R}$ の開集合 $(-\infty, 0)$ を用いて $A=(-\infty, 0)\cap X$ と表されることから、$A$ は $X$ の開集合である。また、$B$ は $\mathbb{R}$ の閉集合ではないが、$\mathbb{R}$ の閉集合 $[0,+\infty)$ を用いて $B=[0,\infty)\cap X$ と表されるので、$B$ は $X$ の閉集合である。

また、 $$ C=\{-1+1/n\,|\,n\in\mathbb{N}\}\cup\{1-1/n\,|\,n\in\mathbb{N}\} $$ という $X$ の部分集合を考えよう。$C$ の $\mathbb{R}$ における閉包は(命題 4.5を用いて分かるように) $\operatorname{Cl}_{\mathbb{R}} C=C\cup\{-1, 1\}$ であるから、$C$ の $X$ における閉包は、命題 6.15により $\operatorname{Cl}_X C=X\cap \operatorname{Cl}_{\mathbb{R}} C=X\cap (C\cup\{-1, 1\})=C\cup\{-1\}$ である。$\square$

$A$ が位相空間 $X$ の部分空間であるとし、$f\colon Y\to X$ を位相空間 $Y$ からの連続写像とする。このとき、$f(Y)\subset A$ であれば、$f$ の終域を $A$ に制限することによって、写像 $f^A\colon Y\to A$ が得られる(この $f^A$ のことも $f$ で表す場合が多いが、厳密にはこれらは区別されるべきものであり、ここではあえて別の記号を用いる)。このとき、$f^A\colon Y\to A$ は、再び連続であると言えるだろうか。もし、これが成り立たなければ、写像の連続性を論じるときに終域をどの集合にとるかに注意を払う必要があることになるが、幸運にもそういうことはない。

命題 6.17 (部分空間の普遍性)

$X,$ $Y$ を位相空間とし、$A$ を $X$ の部分空間とする。連続写像 $f\colon Y\to X$ が $f(Y)\subset A$ を満たすとする。$f$ の終域を $A$ に制限して得られる写像を $f^A\colon Y\to A$ とすると、$f^A\colon Y\to A$ は連続である。

証明

$i\colon A\to X$ を包含写像とすると、$i\circ f^A=f$ であることに注意する。 $f^A$ の連続性を示すため、$V$ を $A$ の開集合とする。すると、$X$ の開集合 $U$ で $U\cap A=V$ となるものが存在する。これは言い換えると $i^{-1}(U)=V$ である。よって、$f_A^{-1}(V)=f_A^{-1}(i^{-1}(U))=(i\circ f^A)^{-1}(U)=f^{-1}(U)$ である。$f$ は連続なので、$f^{-1}(U)$ は $Y$ の開集合である。よって、$f_A^{-1}(V)$ は $Y$ の開集合となる。これで、$f^A$ の連続性が示された。$\square$

上では、$f\colon Y\to X$ と $f^A\colon Y\to A$ を別の記号で書いて区別した。もちろんこれは本来必要な区別であるが、記号をむやみに煩雑にしないために、実際にはこの二つを同じ記号で表すこともある。そのような場合は、たとえば「連続写像 $f\colon Y\to X$ について $f(Y)\subset A$ が成り立つので、$f$ は $A$ への連続写像 $f\colon Y\to A$ と見なせる」などのように書く。

位相空間 $X,$ $Y$ について、実際には $X\subset Y$ ではないが $X$ を $Y$ の部分空間と同一視したいという状況がしばしばある。そのような状況で用いられる概念が以下で定義する埋め込みである。


定義 6.18 (埋め込み)

$X,$ $Y$ を位相空間、$f\colon X\to Y$ を連続写像とする。$f$ が埋め込み(embedding)であるとは、$f$ が単射であって、$f$ の終域を像 $f(X)$ に制限して得られる連続全単射 $\hat{f}\colon X\to f(X)$ が同相写像となることをいう。

上の定義で「連続全単射 $\hat{f}$」と述べたが、ここでの $\hat{f}$ の連続性は命題 6.16から保証されていることである。なお、可微分多様体の理論などでは、「埋め込み」という語をより狭い意味で用いる。このことから、区別のためにここで定義した埋め込みを位相的埋め込み(topological embedding)と呼ぶこともある。

明らかな場合として、$X$ が $Y$ の部分空間である場合、包含写像 $i\colon X\to Y$ は埋め込みとなる。以下では、図形的意味の分かりやすい $\mathbb{R}^2$ への埋め込みの例を挙げる。

例 6.20 (埋め込みの例)

(1) $X=[0,1],$ $Y=\mathbb{R}^2$ とする。$f\colon X\to Y$ を $f(x)=(2x,3x)$ で定義すると、$f$ は埋め込みであることを示そう。まず、$f$ が連続な単射であることは明らかである。$f$ の終域を制限して得られる全単射 $\hat{f}\colon X\to f(X)$ が同相写像であることを示せばよいが、まず $\hat{f}$ は命題 6.16により連続である。あとは、$\hat{f}^{-1}\colon f(X)\to X$ が連続であることが言えればよい。そのため $g\colon\mathbb{R}^2\to \mathbb{R}$ を $g(x,y)=x/2$ で定義しよう。$g$ は連続であるから、$g$ の制限 $g|_{f(X)}\colon f(X)\to\mathbb{R}$ は連続である(命題 6.4)。すぐに確かめられる通り、$\hat{f}^{-1}\colon f(X)\to X$ は、この $g|_{f(X)}$ の終域を $X$ に制限したものだから、命題 6.16により連続である。これで $f\colon X\to Y$ は埋め込みであることが示された。

いまの議論は少し持って回った感じだが、$\hat{f}^{-1}\colon f(X)\to X$ が連続であることを言うために、より広い定義域と終域をもった、連続であることが明らかな写像 $g\colon\mathbb{R}^2\to\mathbb{R}$ を持ってきたという訳である。$\hat{f}^{-1}$ が $\hat{f}^{-1}(x,y)=x/2$ という式で与えられていることが $\hat{f}^{-1}$ の連続性のいわば根本的な理由であり、定義域や終域の取り換えは形式を整えるためのものともいえる。以後、この種の議論は表に出さず、例えば「$\hat{f}^{-1}$ は定義式から連続である」のように書くことにしよう。なお、この例が埋め込みであることの証明は、この後で大幅に簡略化される(例 11.15)。

(2) $X=Y=\mathbb{R}^2$ とする。$\mathbb{R}^2$ のEuclidノルムを $\|\phantom{x}\|$ で表し、連続写像 $f\colon X\to Y$ を $$ f(x)=\frac{1}{1+\|x\|}x $$ で定義する。$\mathring{D}^2=\{y\in\mathbb{R}^2\,|\,\|y\|<1\}$ とおけば、$f(X)\subset\mathring{D}^2$ となること が直ちに分かる。$g\colon \mathring{D}^2\to X$ を $$ g(y)=\frac{1}{1-\|y\|}y $$ で定義すると $g$ も連続である。さらに、任意の $x\in X$ に対して $g(f(x))=x$ となり、任意の $y\in \mathring{D}^2$ に対して $f(g(y))=y$ となることが確かめられる。よって、$f(X)=\mathring{D}^2$ であって、$f$ の終域を $\mathring{D}^2$ に制限して得られる連続写像 $\hat{f}\colon X\to f(X)=\mathring{D}^2$ は全単射で、$g$ は $\hat{f}$ の連続な逆写像を与えている。したがって、$f\colon X\to Y$ は埋め込みである。

(3) $X=\mathbb{R}$, $Y=\mathbb{R}^2$ とする。$f\colon X\to Y$ を $$ f(x)=\left(\frac{2x}{x^2+1}, \frac{x^2-1}{x^2+1}\right) $$ で定義すると、$f$ は埋め込みであることを示そう。この写像の図形的意味は以下の通りである。平面 $\mathbb{R}^2$ 内で単位円周 $S^1=\{(x, y)\in\mathbb{R}^2\,|\,x^2+y^2=1\}$ とその点 $p_0=(0,1)$ を考える。$x\in\mathbb{R}$ に対して点 $(x,0)\in\mathbb{R}^2$ を考え、$(x,0)$ と $p_0$ を通る直線を $\ell$ とすると、$\ell$ と $S^1$ との $p_0$ 以外の交点が $f(x)$ である(確かめよ)。

$f$ が連続となることは、定義式から直ちに分かる。また、$f(X)=S^1\setminus\{p_0\}$ である。実際、上の定義(あるいは、図形的意味)から任意の $x\in\mathbb{R}=X$ に対して $f(x)\in S^1\setminus\{p_0\}$ であるので、$f(X)\subset S^1\setminus\{p_0\}$ である。他方、$g\colon S^1\setminus\{p_0\}\to\mathbb{R}$ を $$ g(x,y)=\frac{x}{1-y} $$ で定めれば、任意の $(x,y)\in S^1\setminus\{p_0\}$ に対して $f(g(x,y))=(x,y)$ が成り立つ。よって、$S^1\setminus\{p_0\}\subset f(X)$ も成り立ち、$f(X)=S^1\setminus\{p_0\}$ が示された。すぐに検証できるように任意の $x\in\mathbb{R}$ に対して $g(f(x))=x$ であるから、$f$ は単射であって(実際、$x, x'\in \mathbb{R}$ に対して $f(x)=f(x')$ ならば $x=g(f(x))=g(f(x'))=x'$ となるので)、その終域を像に制限して得られる全単射 $\hat{f}\colon \mathbb{R}\to S^1\setminus\{p_0\}$ に対して $\hat{f}^{-1}=g\colon S^1\setminus\{p_0\}\to\mathbb{R}$ である。$g$ は定義式から連続であるので、$\hat{f}^{-1}$ は連続である。

ここで、$\hat{f}^{-1}\colon S^1\setminus\{p_0\}\to\mathbb{R}$ が連続であることを図形的に奇異に感じる人もいるかもしれない。実際、この写像は $p_0$ の近くの点を $\mathbb{R}$ の「左の彼方」と「右の彼方」にある遠く隔たった点に写している。しかし、$\hat{f}^{-1}$ の定義域からはそもそも $p_0$ が除かれているので、$\hat{f}^{-1}$ の連続性を言うために $p_0$ における連続性は問題にならないのである。$\square$

例 6.20 (埋め込みでない例)

連続な単射であるが埋め込みになっていない例を挙げよう。$X=[0,1),$ $Y=\mathbb{R}^2$ とする。$f\colon X\to Y$ を、$f(x)=(\cos 2\pi x, \sin 2\pi x)$ で定義すると、$f$ は連続な単射であって、像 $f(X)$ は単位円周 $S^1=\{(x,y)\in\mathbb{R}^2\,|\,x^2+y^2=1\}$ となる。そこで、$f$ の終域を $f(X)=S^1$ に制限することで、連続な全単射 $\hat{f}\colon [0,1)\to S^1$ が得られる。このとき、逆 $\hat{f}^{-1}\colon S^1\to [0,1)$ は点 $a=(1,0)$ において連続でない。これは直観的に見やすいことであるが、ここでは命題 5.19を用いて示そう。$S^1$ の点列 $(p_n)_{n=1}^\infty$ を、 $$ p_n=(\cos(2\pi(1-1/n)), \sin(2\pi(1-1/n)) $$ で定める。すると、$2\pi(1-1/n)\to 2\pi$ であることと $\cos,$ $\sin$ の連続性、命題 5.19、および命題 2.21により、$(p_n)_{n=1}^\infty$ は $(\cos 2\pi, \sin 2\pi)=(1,0)=a$ に収束することが分かる。しかし、$\hat{f}^{-1}(p_n)=1-1/n$ であるから、点列 $(\hat{f}^{-1}(p_n))_{n=1}^\infty$ は $\hat{f}^{-1}(a)=0$ には収束しない。したがって、命題 5.19によって、$\hat{f}^{-1}\colon S^1\to [0,1)$ は$a$ において連続でなく、したがって $\hat{f}^{-1}$ は連続でないことが示された。よって、$f\colon X\to Y$ は埋め込みではない連続な単射である。

なお、$\hat{f}\colon [0,1)\to S^1$ は連続な全単射だが同相写像ではない例となっていることに注意する(注意 5.23参照)。$\square$

命題 6.21 (埋め込みの特徴づけ)

$X,$ $Y$ を位相空間、$f\colon X\to Y$ を連続な単射とするとき、次は同値である。

  • (1) $f$ は埋め込みである。
  • (2) $X$ の任意の開集合 $U$ に対して、$f(U)$ は $f(X)$ の開集合である。
  • (3) $X$ の任意の閉集合 $F$ に対して、$f(F)$ は $f(X)$ の閉集合である。
  • (4) 任意の位相空間 $Z$ と写像 $g\colon Z\to X$ に対して、$f\circ g\colon Z\to Y$ が連続ならば $g$ も連続である。

証明

$\hat{f}\colon X\to f(X)$ を、$f$ の終域を $f(X)$ に制限して得られる連続全単射とする。このとき、定義により、$f$ が埋め込みであることは $\hat{f}$ が同相写像であることと同値である。(2), (3) の条件はそれぞれ、$\hat{f}$ が開写像、閉写像であることを述べている。よって、命題 5.27により、(1)-(3) の同値性が分かる。

(1) $\Rightarrow$ (4) を示す。$f$ を埋め込みとすると、$\hat{f}\colon X\to f(X)$ は同相写像である。$Z$ を位相空間、$g\colon Z\to X$ を写像とし、$f\circ g\colon Z\to Y$ が連続になるとする。$f\circ g(Z)=f(g(Z))\subset f(X)$ だから、$f\circ g$ の終域を $f(X)$ に制限することで連続写像 $h\colon Z\to f(X)$ を得る。すると、連続写像の合成として $\hat{f}^{-1}\circ h\colon Z\to X$ は連続だが、この $\hat{f}^{-1}\circ h$ は定義から $g$ と一致する。よって、$g$ は連続である。

最後に、(4) $\Rightarrow$ (1) を示す。(4) が成り立つとしよう。このとき $\hat{f}\colon X\to f(X)$ が同相写像であることを示せばよく、それには $\hat{f}^{-1}\colon f(X)\to X$ が連続だと言えればよい。そこで、$Z=f(X),$ $g=\hat{f}^{-1}$ に対して (4) を適用する。いま、$f\circ\hat{f}^{-1}\colon f(X)\to Y$ は包含写像に一致するから連続である。よって、$\hat{f}^{-1}\colon f(X)\to X$ は連続である。$\square$

命題 6.22 (写像の合成と埋め込み)

$X,$ $Y,$ $Z$ を位相空間とし、$f\colon X\to Y$, $g\colon Y\to Z$ を連続写像とする。このとき、次が成り立つ。

  • (1) $f,$ $g$ が埋め込みならば、$g\circ f$ も埋め込みである。
  • (2) $g\circ f$ が埋め込みならば、$f$ も埋め込みである。

証明

(1) を示す。$f,$ $g$ を埋め込みとする。$f,$ $g$ は連続な単射であるから、$g\circ f\colon X\to Z$ も連続な単射である。命題 6.21の条件(4)を用いて、$g\circ f$ が埋め込みであることを示そう。そこで、$W$ を任意の位相空間とし、写像 $h\colon W\to X$ に対して $g\circ f\circ h\colon W\to Z$ が連続であると仮定する。$g$ は埋め込みだから、命題 6.21(1) $\Rightarrow$ (4)により $f\circ h\colon W\to Y$ は連続である。さらに、$f$ は埋め込みだから、再び命題 6.21(1) $\Rightarrow$ (4)により $h\colon W\to X$ は連続である。したがって、命題 6.21(4) $\Rightarrow$ (1)により $g\circ f\colon X\to Z$ は埋め込みである。

(2) を示す。$g\circ f$ を埋め込みとする。このとき $g\circ f$ は単射であるが、このことから $f\colon X\to Y$ は単射と分かる。実際、$x, x'\in X$ に対して $f(x)=f(x')$ であるとすると、$g\circ f(x)=g\circ f(x')$ であるから、$g\circ f$ の単射性から $x=x'$ となる。したがって、$f$ は連続な単射である。命題 6.21の条件(4)を用いて、$f$ が埋め込みであることを示そう。そこで、$W$ を任意の位相空間とし、写像 $h\colon W\to X$ に対して $f\circ h\colon W\to Y$ が連続であるとする。すると、$g\circ f\circ h\colon W\to Z$ も連続である。$g\circ f$ は埋め込みだから、命題 6.21(1) $\Rightarrow$ (4)により$h\colon W\to Z$ は連続である。したがって、命題 6.21(4) $\Rightarrow$ (1)により $f\colon X\to Y$ は埋め込みである。$\square$

命題 6.23 (開写像・閉写像と埋め込み)

$f\colon X\to Y$ を連続な単射とする。$f\colon X\to Y$ が開写像あるいは閉写像であるならば、$f$ は埋め込みである。

証明

$f\colon X\to Y$ が連続な単射であって、$f$ が開写像であるとする。命題 6.21(2)の条件を用いて、$f$ が埋め込みであることを示そう。$U$ を $X$ の開集合とする。$f$ は開写像なので、$f(U)$ は $Y$ の開集合である。$f(U)=f(U)\cap f(X)$ なので、$f(U)$ は $f(X)$ の開集合でもある。よって、命題 6.21(2) $\Rightarrow$ (1)により、$f$ は埋め込みである。同様に、$f$ が閉写像のときも命題 6.21(3)の条件から $f$ が埋め込みであることが示される。$\square$

定義 6.24 (開埋め込み・閉埋め込み)

連続な単射 $f\colon X\to Y$ が開写像あるいは閉写像であるとき、$f\colon X\to Y$ を開埋め込み(open embedding)あるいは閉埋め込み(closed embedding)という。これらは命題 6.23により埋め込みである。$\square$

命題 6.25 (開埋め込み・閉埋め込みであるための条件)

$X,$ $Y$ を位相空間、$f\colon X\to Y$ を埋め込みとする。$f$ が開埋め込み(あるいは閉埋め込み)であるためには、$f(X)$ が $Y$ の開集合(あるいは閉集合)であることが必要十分である。

証明

どちらも同様なので、開埋め込みの場合のみ示す。まず、必要性を示す。$f\colon X\to Y$ を開埋め込みとすると、$f$ は開写像であり $X$ 自身は $X$ の開集合だから、$f(X)$ は $Y$ の開集合である。次に十分性を示すため、$f\colon X\to Y$ が埋め込みであって $f(X)$ が $Y$ の開集合であるとする。$U$ を $X$ の開集合とすると、命題 6.21により $f(U)$ は $f(X)$ の開集合であるが、$f(U)$ は $Y$ の開集合であるから、命題 6.7により、$f(U)$ は $Y$ の開集合となる。 よって、$f\colon X\to Y$ は開写像であるから、$f\colon X\to Y$ は開埋め込みである。$\square$

上の命題を用いて確かめられるように、例 6.19 (1) は閉埋め込みの例であり、例 6.19 (2) は開埋め込みの例となっている。例 6.19 (3) は開埋め込みでも閉埋め込みでもない埋め込みの例を与えている。ここで、開写像と閉写像という概念は終域をどこにとるかに依存することに注意しておこう。埋め込み $f\colon X\to Y$ は、例 6.19 (3) のように一般には開写像でも閉写像でもないのであるが、終域を制限した $\hat{f}\colon X\to f(X)$ は、命題 5.27により、開写像かつ閉写像となる。$\square$


位相空間論7:商位相

続いて、商位相について述べよう。商位相は、位相空間を「貼り合わせて」新しい位相空間を作るのに必要な概念である。商位相の写像バージョンであり、埋め込みと双対な概念である商写像についても合わせて述べる。


はじめに、同値関係と商集合について復習しておく。

$\sim$ を $X$ 上の二項関係とする。すなわち、任意の $x, y\in X$ に対して、$x\sim y$ であるか、そうでないかが定まっているとする。$\sim$ が $X$ 上の同値関係(equivalence relation)であるとは、次の三性質が成り立つことである。

  • (E1) $x\sim x$
  • (E2) $x\sim y$ ならば $y\sim x$
  • (E3) $x\sim y$, $y\sim z$ ならば $x\sim z$

(E1)は反射律(reflexivity)、(E2)は対称律(symmetry)、(E3)は推移律(transitivity)と呼ばれる。 このとき、各 $x\in X$ に対して、$X$ の部分集合 $\{y\in X\,|\,x\sim y\}$ を $x$ の $\sim$ に関する同値類(equivalence class)といい、$[x]$ で表す。このとき、同値類全体の集合 $\{[x]\,|\,x\in X\}$ を $X$ の $\sim$ による商集合(quotient set)といい、$X/\mathord{\sim}$ で表す。全射 $p\colon X\to X/\mathord{\sim}$ が $p(x)=[x]$ で定義され、この $p$ を射影と呼ぶ。

$\xi$ を $\tilde{X}$ の要素とすると、$\xi$ はある $x\in X$ によって $\xi=[x]$ の形に書くことができるが、このような $x$ を $\xi$ の代表元(representative)という。$\xi$ の代表元は一般には何通りもあるので注意する。実際、$x$ が $\xi$ の代表元であって $y\in X,$ $y\sim x$ ならば $y$ も $\xi$ の代表元である。

さて、以下では $(X, \mathcal{O})$ を位相空間とし、$X$ 上の同値関係 $\sim$ が与えられたとする。このとき、$X$ の位相を基にして商集合 $\overline{X}=X/\mathord{\sim}$ に位相を定める良い方法を考えたい。そのような位相は、少なくとも射影 $p\colon X\to \overline{X}$ が連続であるように定めるべきであろう。そこで、極端な場合として、$\overline{X}$ に密着位相(考え得る最も粗い位相)を入れれば、$p$ は連続である(例 5.5)。しかし、密着位相では $X$ の位相が何も反映されていない。そこで、$p$ が連続となるという制約のもとで、$\overline{X}$ の位相を可能な限り細かくすることを考える。いま、$p$ が連続であるという条件は、定義により

$\overline{X}$ の任意の開集合 $V$ に対して、$p^{-1}(V)$ が $X$ の開集合である

という条件である。したがって、$p$ が連続であることは、 $\overline{X}$ のすべての開集合が集合族 $$ \overline{\mathcal{O}}=\{V\subset \overline{X}\,|\,p^{-1}(V)\in\mathcal{O}\} $$ に属していることと同値である。そこで、$\overline{\mathcal{O}}$ を開集合の全体として、$\overline{X}$ に位相を定めることができないかを考えてみる。それができれば、$\overline{X}$ は $p$ を連続とする最も細かい位相をもつことになるだろう(実際、$\overline{X}$ の開集合のうちに $\overline{\mathcal{O}}$ に属していないものがあれば、$p$ は連続とはなり得ないから)。問題は、$\overline{\mathcal{O}}$ が開集合系の公理 (O1)-(O3) を満たすかどうかであるが、それは以下の命題で見るように実際に成り立つ。

命題 7.1 (集合族 $\overline{\mathcal{O}}$ は開集合系の公理を満たす)

位相空間 $(X, \mathcal{O})$ と $X$ 上の同値関係 $\sim$ に対して、上で定義された $\overline{X}=X/\mathord{\sim}$ の部分集合族 $\overline{\mathcal{O}}$ は $\overline{X}$ 上の位相を定める。すなわち、$\overline{\mathcal{O}}$ は開集合系の公理 (O1)-(O3) を満たす。

証明

$p\colon X\to \overline{X}$ を射影とする。まず、(O1) を示す。$p^{-1}(\emptyset)=\emptyset\in\mathcal{O}$ であるから、$\emptyset\in\overline{\mathcal{O}}$ である。また、$p^{-1}(\overline{X})=X\in\mathcal{O}$ であるから、$\overline{X}\in\overline{\mathcal{O}}$ である。

次に、(O2) を示すため、$V_1, V_2\in\overline{\mathcal{O}}$ とする。すると $p^{-1}(V_1), p^{-1}(V_2)\in\mathcal{O}$ であるから、$p^{-1}(V_1\cap V_2)=p^{-1}(V_1)\cap p^{-1}(V_2)\in\mathcal{O}$ である。よって、$V_1\cap V_2\in\overline{\mathcal{O}}$ である。

最後に、(O3) を示すため、$\{V_\lambda\,|\,\lambda\in \Lambda\}\subset\overline{\mathcal{O}}$ とする。すると、各 $\lambda\in \Lambda$ に対して、$p^{-1}(V_\lambda)\in\mathcal{O}$ であるから、$p^{-1}(\bigcup_{\lambda\in \Lambda} V_\lambda)=\bigcup_{\lambda\in \Lambda} p^{-1}(V_\lambda)\in\mathcal{O}$ である。よって、$\bigcup_{\lambda\in \Lambda} V_\lambda\in\overline{\mathcal{O}}$ である。$\square$

定義 7.2 (商位相)

$(X, \mathcal{O})$ を位相空間とし、$\sim$ を $X$ 上の同値関係とする。商集合 $\overline{X}=X/\mathord{\sim}$ の部分集合族 $$ \overline{\mathcal{O}}=\{V\subset\overline{X}\,|\,p^{-1}(V)\in\mathcal{O}\} $$ は命題 7.1により開集合系の公理 (O1)-(O3) を満たすから、$(\overline{X}, \overline{\mathcal{O}})$ は位相空間となる。ただし、$p\colon X\to\overline{X}$ は射影とする。このとき、$\overline{\mathcal{O}}$ を $\overline{X}$ 上の商位相(quotient topology)といい、$(\overline{X}, \overline{\mathcal{O}})$ を $(X, \mathcal{O})$ の商空間(quotient space)という。

以下では、位相空間 $X$ 上の同値関係 $\sim$ に対して、商集合 $X/\mathord{\sim}$ は、特に断りのない限り商位相によって位相空間とみなす。いままでの議論から、次が成り立つ。

命題 7.3 (商位相と射影)

$(X, \mathcal{O})$ を位相空間とし、$\sim$ を $X$ 上の同値関係とする。商集合 $\overline{X}=X/\mathord{\sim}$ 上の商位相 $\overline{\mathcal{O}}$ は、射影 $p\colon X\to\overline{X}$ を連続とする $\overline{X}$ 上の位相の中で、最も細かい位相である。つまり、次の二つが成り立つ。

  • $p\colon X\to \overline{X}$ は、$(X, \mathcal{O})$ から $(\overline{X}, \overline{\mathcal{O}})$ への連続写像となる。
  • $p$ が $(X, \mathcal{O})$ から $(\overline{X}, \overline{\mathcal{O}}')$ への連続写像となるような $\overline{X}$ 上の任意の位相 $\overline{\mathcal{O}}'$ に対して、$\overline{\mathcal{O}}'\subset\overline{\mathcal{O}}$ である。$\square$

命題 7.4 (商位相に関する閉集合)

$X$ を位相空間とし、$\sim$ を $X$ 上の同値関係とする。$p\colon X\to X/\mathord{\sim}$ を射影とすると、商空間 $X/\mathord{\sim}$ の閉集合全体の集合は $$ \overline{\mathcal{F}}=\{F\subset\overline{X}\,|\,p^{-1}(F)\text{ は }X\text{ の閉集合}\} $$ となる。

証明

$F$ を商空間 $\overline{X}$ の閉集合とすると、$\overline{X}\setminus F$ は $\overline{X}$ の開集合だから、$p^{-1}(\overline{X}\setminus F)$ は $X$ の開集合である。$X\setminus p^{-1}(F)=p^{-1}(\overline{X}\setminus F)$ だから、$X\setminus p^{-1}(F)$ は $X$ の開集合であり、よって $p^{-1}(F)$ は $X$ の閉集合だから、$F\in\overline{\mathcal{F}}$ である。この議論を逆にたどることにより、$F\in\overline{\mathcal{F}}$ ならば $F$ が $\overline{X}$ の閉集合となることも分かる。$\square$

上の命題から、$\overline{X}=X/\mathord{\sim}$ 上の商位相は、$p^{-1}(F)$ が $X$ の閉集合であるような $\overline{X}$ の部分集合 $F$ を閉集合とする位相であるということもできる。

商集合からの写像の定め方について復習しておこう。$X,$ $Y$ を集合とし、$\sim$ を $X$ 上の同値関係とする。写像 $f\colon X\to Y$ が次の条件を満たすとする。

$x\sim x'$ ならば $f(x)=f(x')$ である。

このとき、商集合 $X/\mathord{\sim}$ からの写像 $\overline{f}\colon X/\mathord{\sim}\to Y$ を $$ \overline{f}([x])=f(x)\quad (x\in X) $$ により定義することができる(ただし、$[x]$ は $x$ の $\sim$ に関する同値類を表す)。これは、$p\colon X\to X/\mathord{\sim}$ を射影とするときに、$\overline{f}$ を $\overline{f}\circ p=f$ となる唯一の写像 $\overline{f}$ として定義したと言ってもよい。この $\overline{f}\colon X/\mathord{\sim}\to Y$ を $f$ により誘導される写像という。

命題 7.5 (商空間の普遍性)

$X,$ $Y$ を位相空間とし、$\sim$ を $X$ 上の同値関係として $\overline{X}=X/\mathord{\sim}$ を商空間とする。連続写像 $f\colon X\to Y$ が条件「$x\sim x'$ ならば $f(x)=f(x')$」を満たすとする。このとき、$f$ により誘導される写像 $\overline{f}\colon \overline{X}\to Y$ が $\overline{f}([x])=f(x)\,(x\in X)$ により定まるが、この $\overline{f}\colon \overline{X}\to Y$ は連続である。

証明

$p\colon X\to \overline{X}$ を射影とすると、定義により、$\overline{f}\circ p=f$ であることに注意する。$\overline{f}\colon \overline{X}\to Y$ の連続性を示すため、$V$ を $Y$ の開集合とする。すると、$f^{-1}(V)$ は $X$ の開集合であるが、$f^{-1}(V)=(\overline{f}\circ p)^{-1}(V)=p^{-1}(\overline{f}^{-1}(V))$ であるから、$p^{-1}(\overline{f}^{-1}(V))$ は $X$ の開集合である。よって、商位相の定義により、$\overline{f}^{-1}(V)$ は $\overline{X}$ の開集合である。これで、$\overline{f}$ の連続性が示された。$\square$

例 7.6 (商空間の普遍性による連続写像の構成)

単位閉区間 $[0,1]$ 上の同値関係 $\sim$ を $$ s\sim t \Longleftrightarrow s=t\text{ または }\{s, t\}=\{0, 1\} $$ により定義しよう。すると、$[0, 1]/\mathord{\sim}$ は直観的には、$[0, 1]$ の両端点 $0,$ $1$ を「くっつけた」ものである。$S^1=\{(x,y)\in\mathbb{R}^2\,|\,x^2+y^2=1\}$ を単位円周とするとき、連続写像 $f\colon [0,1]\to S^1$ を $f(t)=(\cos 2\pi t, \sin 2\pi t)$ により定義すると、$f(0)=(1,0)=f(1)$ であるから、条件「$s\sim t$ ならば $f(s)=f(t)$」が成り立つ。よって、$f$ により誘導される写像 $\overline{f}\colon [0,1]/\mathord{\sim}\to S^1$ が定義され、しかも命題 7.5により $\overline{f}$ は連続となる。 このように、商空間を定義域とする連続写像を構成するときは、命題 7.5が非常によく使用される。

さらに、三角関数の性質から確かめられるように、$\overline{f}\colon [0,1]/\mathord{\sim}\to S^1$ は実際には全単射となる。この連続全単射 $\overline{f}$ は、実際には同相写像となるのだが、それを示すにはさらなる概念を用意した方が効率的なので、後に第11章で証明することにしたい(例 11.15)。ともあれ、この事実を認めれば、「区間 $[0,1]$ の両端をくっつけた」ものである $[0,1]/\mathord{\sim}$ が円周 $S^1$ と同一視されることになり、直観ともよく調和する。$\square$

例 7.7 (実数直線の距離化可能でない商空間)

実数直線 $\mathbb{R}$ 上の次のような同値関係 $\sim$ を考える。 $$ x\sim y \Longleftrightarrow x=y\text{ または }x, y\in\mathbb{Z} $$ $X=\mathbb{R}/\mathord{\sim}$ とし、$p\colon \mathbb{R}\to X$ を射影とする。$p(\mathbb{Z})$ は $X$ のただ一つの点からなるが、その点を $p_0$ と書くことにしよう。$X$ は $\mathbb{Z}$ を一点 $p_0$ に同一視して得られる $\mathbb{R}$ の商空間である。

このとき、$X$ が第一可算でないことを示そう。もし、$X$ が第一可算であれば、$p_0$ の高々可算な基本近傍系 $\{V_n\,|\,n\in\mathbb{N}\}$ が存在する。各 $n\in\mathbb{N}$ に対して $V_n$ は開集合であるとしてよい。すると、$p^{-1}(V_n)$ は $\mathbb{R}$ の開集合で $\mathbb{Z}\subset p^{-1}(V_n)$ である。よって、各 $n\in\mathbb{N}$ に対して $0<r_n<1/2$ となる $r_n$ であって $[n-r_n, n+r_n]\subset p^{-1}(V_n)$ を満たすようなものが存在する。$W=(-\infty, 1/2)\cup\bigcup_{n=1}^\infty (n-r_n, n+r_n)$ とおくと、$p^{-1}(p(W))$ だから、$p(W)$ は $X$ の開集合で、$p_0$ の開近傍となる。$\{V_n\,|\,n\in\mathbb{N}\}$ は $p_0$ の基本近傍系なので、ある $n\in\mathbb{N}$ に対して $V_n\subset p(W)$ であり、したがって $p^{-1}(V_n)\subset p^{-1}(p(W))=W$ である。ところが、$n+r_n\in p^{-1}(V_n)\setminus W$ であるから矛盾する。これで、$X$ が第一可算でないこと(より詳しく、$p_0$ が高々可算な基本近傍系をもたないこと)が示された。よって、$X$ は、距離空間 $\mathbb{R}$ の商空間であるにもかかわらず、距離化可能ではない。$\square$

上の例は、距離空間の商空間が必ずしも距離化可能でないことを示している。これは距離空間の範囲内にとどまる限り、自由に商空間を考えることはできないことを示している。また、距離空間 $(X, d)$ の商空間が「運よく」距離化可能になったとしても、その位相を定める距離を $d$ をもとに構成することは容易でないことが多い。このような事情は、距離空間に限らず一般の位相空間を考える積極的な動機の一つとなっている。

位相空間 $X,$ $Y$ について、$Y=X/\mathord{\sim}$ の形でない場合でも、適切な全射 $f\colon X\to Y$ があるとき、$Y$ を $X$ の商空間であるかのように考え、$f$ を射影であるかのように考えたいことがある。このときの「適切な全射」を定式化したのが、商写像の概念である。

商写像を定義する前に、次の考察をしておく。一般に集合の間の写像 $f\colon X\to Y$ が与えられたとき、$X$ 上の同値関係 $\sim_f$ を $$ x\sim_f x' \Longleftrightarrow f(x)=f(x') $$ により定義すると、$f$ により誘導される写像 $\overline{f}\colon X/\mathord{\sim}_f\to Y$ が定まり、この $\overline{f}$ は単射である。さらに、$f$ が全射であれば、$\overline{f}$ は全単射となる。

定義 7.8 (商写像)

$X,$ $Y$ を位相空間とし、$f\colon X\to Y$ を連続写像とする。$f$ が商写像(quotient map)であるとは、$f$ が全射であって、上で定義した連続全単射 $\overline{f}\colon X/\mathord{\sim}_f\to Y$ が同相写像となることをいう。

上の定義で「連続全単射 $\overline{f}$」と述べたが、$\overline{f}$ の連続性は命題 7.5により保証されていることである。明らかな場合として、$\sim$ が $X$ 上の同値関係のとき $p\colon X\to X/\mathord{\sim}$ を射影とすると、$p$ は商写像である。実際、このとき同値関係 $\sim_p$ は $\sim$ と一致し、しかも連続全単射 $\overline{p}\colon X/\mathord{\sim}_p\to X/\mathord{\sim}$ は単なる恒等写像だから $\overline{p}$ は同相写像となっている。

商写像を上の定義のまま扱うのは少々難しいので、次にその言い換えを述べよう。

命題 7.9 (商写像の特徴づけ)

$X,$ $Y$ を位相空間、$f\colon X\to Y$ を連続な全射とするとき、次は同値である。

  • (1) $f$ は商写像である。
  • (2) $Y$ の任意の部分集合 $A$ に対して、$f^{-1}(A)$ が $X$ の開集合ならば $A$ は $Y$ の開集合である。
  • (3) $Y$ の任意の部分集合 $A$ に対して、$f^{-1}(A)$ が $X$ の閉集合ならば $A$ は $Y$ の閉集合である。
  • (4) 任意の位相空間 $Z$ と写像 $g\colon Y\to Z$ に対して、$g\circ f\colon X\to Z$ が連続ならば $g$ も連続である。

証明

$\overline{f}\colon X/\mathord{\sim}_f\colon Y$ を前に定義した通り、$f$ により誘導される連続全単射とする。すると、$p_f\colon X\to X/\mathord{\sim}_f$ を射影とするとき $\overline{f}\circ p_f=f$ である。

(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。$f$ を商写像として、$A\subset Y$ とし、$f^{-1}(A)$ が $X$ の開集合であると仮定する。いま、$f^{-1}(A)=(\overline{f}\circ p_f)^{-1}(A)=p_f^{-1}(\overline{f}^{-1}(A))$ であるから、$p_f^{-1}(\overline{f}^{-1}(A))$ は $X$ の開集合であり、よって、商位相の定義により、$\overline{f}^{-1}(A)$ は $X/\mathord{\sim}_f$ の開集合である。$\overline{f}\colon X/\mathord{\sim}_f\colon Y$ は同相写像なので、とくに開写像であり(命題 5.27)、よって $A=\overline{f}(\overline{f}^{-1}(A))$ は $Y$ の開集合である。

(2) $\Leftrightarrow$ (3) は、任意の $A\subset Y$ について成り立つ式 $f^{-1}(Y\setminus A)=X\setminus f^{-1}(A)$ から簡単に示される。

(2) $\Rightarrow$ (4) を示す。(2) を仮定し、位相空間 $Z$ と写像 $g\colon Y\to Z$ で $g\circ f\colon X\to Z$ が連続となるものを任意に与える。このとき、$g$ が連続となることを示せばよい。そこで、$Z$ の開集合 $V$ を任意に与える。いま、$g\circ f$ の連続性により $f^{-1}(g^{-1}(V))=(g\circ f)^{-1}(V)$ は開集合なので、(2) により $g^{-1}(V)$ は $Y$ の開集合である。よって、$g$ は連続である。

(4) $\Rightarrow$ (1) を示す。(4) を仮定するとき、連続全単射 $\overline{f}\colon X/\mathord{\sim}_f\colon Y$ が同相写像であることを示せばよい。それには、$\overline{f}^{-1}\colon Y\to X/\mathord{\sim}_f$ が連続といえればよい。ところが、合成 $\overline{f}^{-1}\circ f\colon X\to X/\mathord{\sim}_f$ は定義により $p_f$ に等しいから、連続である。よっていま仮定している (4) により、$\overline{f}^{-1}$ は連続である。$\square$

ここでは商写像の定義を埋め込みとの双対性を重視した形で与えたが、他の多くの文献では、商写像の定義として命題 7.9の条件(2)あるいは(3)を用いている。証明に用いるのにはこの形の方が便利であろう。

命題 7.10 (写像の合成と商写像)

$X,$ $Y,$ $Z$ を位相空間とし、$f\colon X\to Y$, $g\colon Y\to Z$ を連続写像とする。このとき、次が成り立つ。

  • (1) $f,$ $g$ が商写像ならば、$g\circ f$ も商写像である。
  • (2) $g\circ f$ が商写像ならば、$g$ も商写像である。

証明

(1) $f,$ $g$ を商写像とする。命題 7.9の条件(2)を用いて、$g\circ f\colon X\to Z$ が商写像であることを示そう。$f,$ $g$ は連続な全射だから、$g\circ f$ は連続な全射である。$A\subset Z$ として、$(g\circ f)^{-1}(A)$ が $X$ の開集合であるとする。$(g\circ f)^{-1}(A)=f^{-1}(g^{-1}(A))$ であって $f$ は商写像なので、$g^{-1}(A)$ は $Y$ の開集合である。$g$ は商写像なので、$A$ は $Z$ の開集合である。よって、命題 7.9(2) $\Rightarrow$ (1)により、$g\circ f$ は商写像である。

(2) $g\circ f\colon X\to Z$ を商写像とする。このとき、$g\colon Y\to Z$ は全射である。実際、任意に $z\in Z$ を与えると、$g\circ f$ の全射性により $x\in X$ が存在して $z=g\circ f(x)=g(f(x))$ となるからである。命題 7.9の条件(2)を用いて、$g\colon Y\to Z$ が商写像であることを示そう。$A\subset Z$ として、$g^{-1}(A)$ が $Y$ の開集合であるとする。$f$ は商写像だから、命題 7.9(1) $\Rightarrow$ (2)により、$(g\circ f)^{-1}(A)=f^{-1}(g^{-1}(A))$ は $X$ の開集合である。よって、命題 7.9(2) $\Rightarrow$ (1)により、$g\circ f$ は商写像である。$\square$


命題 7.11 (開写像・閉写像と商写像)

$X,$ $Y$ を位相空間とし、$f\colon X\to Y$ を連続な全射とする。$f$ が開写像あるいは閉写像であるならば、$f$ は商写像である。

証明

$f\colon X\to Y$ を連続な全射とする。$f$ が開写像であるとして、命題 7.9の条件(2)を用いて $f$ が商写像であることを示そう。$A\subset Y$ として、$f^{-1}(A)$ が $X$ の開集合であるとする。このとき、$f$ の全射性より $A=f(f^{-1}(A))$ であるが、$f$ は開写像であるから、$f(f^{-1}(A))$ は $Y$ の開集合である。よって、$A$ は $Y$ の開集合である。命題 7.9(2) $\Rightarrow$ (1)により、$f$ は商写像である。$f$ が閉写像である場合も、命題 7.9の条件(3)を用いることで、同様に $f$ が商写像であることが示される。$\square$

例 7.12 (開写像として得られる商写像)

連続写像 $f\colon \mathbb{R}^2\to\mathbb{R}$ を $f(x,y)=x$ で定義する。$f$ は明らかに全射である。この $f$ が開写像であり、したがって商写像にもなることを示そう。そこで、$U\subset\mathbb{R}^2$ を開集合とする。$f(U)$ が $\mathbb{R}$ の開集合であることを示すため、$x\in f(U)$ を任意に与える。すると、$f$ の定義によりある $y\in \mathbb{R}$ が存在して $(x,y)\in U$ となる。$U$ は開集合なので、$B((x,y),r)\subset U$ となるような $r>0$ が存在する。すると $B(x,r)=f(B{(}(x,y),r{)})\subset f(U)$ である。よって、命題 2.4により、$f(U)$ は $\mathbb{R}$ の開集合である。これで、$f$ が開写像であることが分かり、よって命題 7.11により $f$ が商写像であることが分かった。$\square$

最後に、部分空間をとる操作と商写像との関係について述べる。$f\colon X\to Y$ を商写像とし、$A$ を $X$ の部分空間とする。このとき、$f|_A\colon A\to Y$ の終域を $f(A)$ に制限したものを、ここでは $f|_A^{f(A)}\colon A\to f(A)$ と表すことにしよう。このとき $f|_A^{f(A)}$ は連続な全射であるが、これが再び商写像になるかどうかを考える。

命題 7.13 (部分空間と商写像)

$X,$ $Y$ を位相空間とし、$f\colon X\to Y$ を商写像として、$A\subset X$ とする。次の各場合に、$f|_A^{f(A)}\colon A\to f(A)$ は商写像となる。

  • (1) $f$ が開写像で、$A$ が $X$ の開集合である場合。
  • (2) $f$ が閉写像で、$A$ が $X$ の閉集合である場合。
  • (3) $A=f^{-1}(f(A))$ で、$A$ が $X$ の開集合である場合。
  • (4) $A=f^{-1}(f(A))$ で、$A$ が $X$ の閉集合である場合。

証明

(1) 商写像 $f\colon X\to Y$ が開写像であるとし、$A\subset X$ を開集合とする。このとき、$f|_A^{f(A)}\colon A\to f(A)$ が開写像であることを示そう。$U$ を $A$ の開集合とすると、命題 6.7により、$U$ は $X$ の開集合でもある。$f$ は開写像なので、$f(U)$ は $Y$ の開集合である。よって、$f|_A^{f(A)}(U)=f(U)=f(U)\cap f(A)$ は $f(A)$ の開集合である。よって、$f|_A^{f(A)}\colon A\to f(A)$ は開写像であるから、命題 7.11により、商写像となる。

(2) (1) と同様である。

(3) $A=f^{-1}(f(A))$ で、$A$ が $X$ の開集合であるとする。$g=f|_A^{f(A)}\colon A\to f(A)$ が商写像であることを示すため、$B\subset f(A)$ とし、$g^{-1}(B)$ が $A$ の開集合であると仮定する。$g$ の定義から、$g^{-1}(B)=f^{-1}(B)\cap A=f^{-1}(B)\cap f^{-1}(f(A))=f^{-1}(B\cap f(A))=f^{-1}(B)$ であるので、$f^{-1}(B)$ は $A$ の開集合である。$f$ は商写像であるから、命題 7.9(1) $\Rightarrow$ (2)により、$B$ は $Y$ の開集合である。$B\subset f(A)$ なので、命題 6.8により $B$ は $f(A)$ の開集合である。よって、命題 7.9(2) $\Rightarrow$ (1)により、$g=f|_A^{f(A)}$ は商写像である。

(4) (3) と同様である。命題 7.9 の (2) の代わりに (3) の条件を使えばよい。$\square$


例 7.14 (部分空間と商写像が交換しない例)

$f\colon \mathbb{R}^2\to\mathbb{R}$ を、例 7.12の通り、$f(x,y)=x$ で定義される連続写像とする。この $f$ は商写像となるのであった。$A$ を、次のような $\mathbb{R}^2$ の部分集合とする。 $$ A=\{(0,0)\}\cup\{(x,y)\in\mathbb{R}^2\,|\,xy=1,\,x\geq 0\} $$ このとき、$f(A)=[0,\infty)$ であるが、$g=f|_A^{f(A)}\colon A\to [0,\infty)$ は商写像ではない。それを示すため、$B=f(A)\setminus\{0\}=(0,\infty)$ という $f(A)$ の部分集合を考えよう。 $$ g^{-1}(B)=f^{-1}(B)\cap A=\{(x,y)\in\mathbb{R}^2\,|\,xy=1,\,x\geq 0\} $$ であるので、$g^{-1}(B)$ は $\mathbb{R}^2$ の閉集合である。$g^{-1}(B)\subset A$ なので、命題 6.8により $g^{-1}(B)$ は $A$ の閉集合でもある。もし、$g$ が商写像であれば、命題 7.9(1) $\Rightarrow$ (3)により、$B=(0,\infty)$ は $f(A)=[0,\infty)$ の閉集合でなければならないが、すると命題 6.15により$0\in f(A)\cap \operatorname{Cl}_\mathbb{R} B=\operatorname{Cl}_{f(A)} B=B$ となるから矛盾する。$\square$

注意 7.15 (同値関係の場合)

$X$ を位相空間、$\sim$ を $X$ 上の同値関係として、$p\colon X\to X/\mathord{\sim}$ を射影とする。$A$ を $X$ の部分集合とすると、$\sim$ を $A$ に制限することで、$A$ 上の同値関係 $\sim_A$ が得られる(つまり、$a, b\in A$ に対して、$a\sim_A b$ であるのは $a\sim b$ のときと定義すれば、$\sim_A$ は $A$ 上の同値関係となる)。このとき自然な全単射 $$ \varphi\colon A/\mathord{\sim}_A\to p(A) $$ が、$a\in A$ の $\sim_A$ に関する同値類を、$a$ の $\sim$ に関する同値類に写すことによって定義される。

命題 この全単射 $\varphi$ は連続である。
証明 包含写像 $i\colon A\to X$ について、合成 $p\circ i\colon A\to X/\mathord{\sim}$ を考えると、これは連続であって、$a, a'\in A$ に対して「$a\sim_A a'\Longrightarrow p\circ i(a)=p\circ i(a')$」を満たすので、$p\circ i$ により誘導される写像 $\tilde{\varphi}\colon A/\mathord{\sim}_A\to X/\mathord{\sim}$ がある。命題 7.5により $\tilde{\varphi}$ は連続であるが、定義から $\varphi$ は $\tilde{\varphi}$ の終域を $p(A)$ に制限したものなので、命題 6.17により $\varphi$ は連続である。

$p\colon X\to X/\mathord{\sim}$ は商写像であるので、$q=p|_A^{p(A)}\colon A\to p(A)$ を考えれば、これが商写像であるための条件は命題 7.13によって与えられる。ところで、$q$ が商写像であるということは、定義により $q$ が誘導する写像 $\bar{q}\colon A/\mathord{\sim}_q\to p(A)$ が同相写像であるということであるが、このとき定義から $\sim_q$ は $\sim_A$ と一致し、$\bar{q}$ は $\varphi$ と一致する。つまり $q=p|_A^{p(A)}\colon A\to p(A)$ が商写像であることは、上の自然な連続全単射 $\varphi\colon A/\mathord{\sim}_A\to p(A)$ が同相写像であることと同値である。

そこで、いま考察した場合について命題 7.13を述べれば以下のようになる。

命題 7.16 (部分空間と商空間との交換)

$\sim$ を位相空間 $X$ 上の同値関係とし、$\sim$ を $X$ の部分集合 $A$ に制限したものを $\sim_A$ とする。$p\colon X\to X/\mathord{\sim}$ を射影とする。注意 7.15における自然な連続全単射 $\varphi\colon A/\mathord{\sim}_A\to p(A)$ は、次の各場合に同相写像となる。

  • (1) $f$ が開写像で、$A$ が $X$ の開集合である場合。
  • (2) $f$ が閉写像で、$A$ が $X$ の閉集合である場合。
  • (3) $A=f^{-1}(f(A))$ で、$A$ が $X$ の開集合である場合。
  • (4) $A=f^{-1}(f(A))$ で、$A$ が $X$ の閉集合である場合。$\square$

$\varphi$ の定義域 $A/\mathord{\sim}_A$ は、$X$ の部分空間 $A$ の商空間であり、終域 $p(A)$ は、$X$ の商空間 $X/\mathord{\sim}$ の部分空間である。$\varphi$ が同相写像であるということは、この二つが同一視できるということである。したがって、上の命題は、部分空間と商空間とが交換可能となるための十分条件を述べていると解釈できる。


位相空間論8:直積位相と直和位相

いくつかの位相空間が与えられたとき、その直積に位相を定める方法について述べよう。まず、扱いが易しい有限個の位相空間の直積について説明したのち、一般の直積について述べることにする。さらに、直積位相と双対的な概念である直和位相について述べる。


有限個の位相空間 $(X_1, \mathcal{O}_1),\ldots, (X_n, \mathcal{O}_n)\,(n\in\mathbb{N})$ が与えられたとする。このとき、直積集合 $$ X=X_1\times\cdots\times X_n=\{(x_1,\ldots, x_n)\,|\,x_1\in X_1,\ldots, x_n\in X_n\} $$ に位相を与える方法を考えよう。 各 $i=1,\ldots, n$ に対して、$X$ から $X_i$ への射影 $p_i\colon X\to X_i$ が $p_i(x_1,\ldots,x_n)=x_i$ により定まる。直積集合 $X$ の位相は、これらの射影 $p_i\,(i=1,\ldots,n)$ がすべて連続となるように入れるべきであろう。最も極端な場合として、$X$ に離散位相を入れればその要請は満たされるが、それでは $X_i$ の位相が反映されないから、$p_i$ がすべて連続であるという制約のもとで、$X$ の位相を可能な限り粗くすることを試みる。

射影 $p_i\,(i=1,\ldots,n)$ がすべて連続であるという条件は、集合族 $$ \mathcal{S}=\{p_i^{-1}(U)\,|\,i\in\{1,\ldots, n\},\,U\in\mathcal{O}_i\} $$ の要素が、すべて $X$ の開集合であるという条件と同値である。そこで、$X$ の開集合の全体を $\mathcal{S}$ として $X$ に位相を定めることができると都合が良いのであるが、相対位相や商位相の場合とは異なり、$\mathcal{S}$ はそれ自身では開集合系の公理 (O1)-(O3) を必ずしも満たさない。しかし、$\mathcal{S}$ は命題 3.15の性質(SB)を明らかに満たしているので、命題 3.16により、$\mathcal{S}$ を準開基として生成される位相 $\mathcal{O}$ を考えることができる。この $\mathcal{O}$ が、$X$ 上の直積位相と呼ばれるものである。この位相 $\mathcal{O}$ は、$\mathcal{S}$ の有限個の要素の共通部分全体を $\mathcal{B}_\mathcal{S}$ とするとき、$\mathcal{B}_\mathcal{S}$ を開基として生成される位相のことであった(注意 3.17)。$\mathcal{O}_i$ が有限個の共通部分について閉じていることと、逆像 $p_i^{-1}$ をとる操作が共通部分と交換することから、$\mathcal{B}_\mathcal{S}$ は $$ \begin{aligned} \mathcal{B}_\mathcal{S}&=\left\{\bigcap_{i=1}^n p_i^{-1}(U_i)\,\bigg|\,U_1\in\mathcal{O}_1,\ldots, U_n\in\mathcal{O}_n\right\}\\ &=\{U_1\times\cdots\times U_n\,|\,U_1\in\mathcal{O}_1,\ldots, U_n\in\mathcal{O}_n\} \end{aligned} $$ と表される(確かめよ)。以上を正式な定義の形にまとめよう。

定義 8.1 (有限個の空間の直積位相)

$n\in\mathbb{N}$ とし、$(X_1 ,\mathcal{O}_1),\ldots, (X_n, \mathcal{O}_n)$ を位相空間とする。直積集合 $X=X_1\times\cdots\times X_n$ の部分集合族 $$ \mathcal{S}=\{p_i^{-1}(U)\,|\,i\in\{1,\ldots, n\},\,U\in\mathcal{O}_i\} $$ を準開基として生成される位相 $\mathcal{O}$ を $X$ 上の直積位相(product topology)といい、このときの位相空間 $(X, \mathcal{O})$ を $X_1,\ldots, X_n$ の直積空間(product space)という。この直積位相 $\mathcal{O}$ は、$p_i\colon X\to X_i$ を射影とするとき、$X$ の部分集合族 $$ \mathcal{B}_\mathcal{S}=\{U_1\times\cdots\times U_n\,|\,U_1\in\mathcal{O}_1,\ldots, U_n\in\mathcal{O}_n\} $$ を開基として生成される位相でもある。$\square$

以下では断りのない限り、有限個の位相空間 $(X_i, \mathcal{O}_i)\,(i=1,\ldots, n)$ に対して、直積集合 $X_1\times\cdots\times X_n$ にはこの直積位相を入れるものとする。

注意 8.2 (直積空間の開集合)

上の定義から、直積空間 $X=X_1\times\cdots\times X_n$ において、$\mathcal{B}_\mathcal{S}$ の要素、つまり $$ U_1\times\cdots\times U_n\text{(ただし } U_i\text{ は }X_i\text{ の開集合)} $$ という形の集合はすべて開集合である。このような集合の全体が直積空間 $X$ の開基をなすのだから、命題 3.2から、$X$ の任意の開集合は上のような形の開集合の(一般には無限個の)和集合として表される。したがって、$X$ の開集合の一般的な形は $$ \bigcup_{\lambda\in\Lambda} (U_{\lambda, 1}\times\cdots\times U_{\lambda, n})\text{(ただし } U_{\lambda, i}\text{ は }X_i\text{ の開集合)} $$ のようになる。

命題 8.3 (直積位相と射影)

$(X_1, \mathcal{O}_1),\ldots, (X_n, \mathcal{O}_n)$ を位相空間とする。直積集合 $X=X_1\times\cdots\times X_n$ 上の直積位相 $\mathcal{O}$ は、すべての $i\in\{1,\ldots, n\}$ に対して射影 $p_i\colon X\to X_i$ を連続とする $X$ 上の位相の中で、最も粗い位相である。つまり、次の二つが成り立つ。

  • すべての $i\in\{1,\ldots, n\}$ に対して、$p_i$ は $(X, \mathcal{O})$ から $(X_i, \mathcal{O}_i)$ への連続写像となる。
  • すべての $i\in\{1,\ldots, n\}$ に対して $p_i$ が $(X, \mathcal{O}')$ から $(X_i, \mathcal{O}_i)$ への連続写像となるような $X$ 上の任意の位相 $\mathcal{O}'$ に対して、$\mathcal{O}\subset\mathcal{O}'$ である。

証明

定義 8.1およびその前の議論で用いていた記号をそのまま用いる。$\mathcal{S}\subset\mathcal{O}$ であるから、定義 8.1の前の議論により、各 $i$ に対して $p_i\colon X\to X_i$ は $(X, \mathcal{O})$ から $(X_i, \mathcal{O}_i)$ への連続写像となる。よって、第一の性質が成り立つ。第二の性質を示すため、$\mathcal{O}'$ を、すべての $i\in\{1,\ldots,n\}$ に対して $p_i$ が $(X, \mathcal{O}')$ から $(X_i, \mathcal{O}_i)$ への連続写像となるような $X$ 上の位相とする。すると、定義 8.1の前の議論により、$\mathcal{S}\subset\mathcal{O}'$ であるが、注意 3.17でみたように、$\mathcal{O}$ は $\mathcal{S}$ を含む最小の位相であったので、$\mathcal{O}\subset\mathcal{O}'$ である。$\square$

直積空間 $X$ の部分集合が開集合であるかを判定するには、次の事実が良く用いられる。

命題 8.4 (直積空間での開集合の判定条件)

$X_1,\ldots, X_n$ を位相空間とする。直積空間 $X=X_1\times\cdots\times X_n$ の部分集合 $U$ に対して、次は同値である。

  • (1) $U$ は開集合である。
  • (2) 任意の $(x_1,\ldots, x_n)\in U$ に対して、$x_i\in U_i$ となる $X_i$ の開集合 $U_i\,(i=1,\ldots,n)$ が存在して $U_1\times\cdots\times U_n\subset U$ となる。

証明

定義 8.1およびその前の議論で用いていた記号をそのまま用いる。

(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。$U$ を $X$ の開集合とし、$x=(x_1,\ldots, x_n)\in U$ とする。$\mathcal{B}_\mathcal{S}$ は $X$ の開基だから、ある $V\in\mathcal{B}_\mathcal{S}$ に対して $x\in V\subset U$ となるが、$\mathcal{B}_\mathcal{S}$ の定義により、$X_i$ の開集合 $U_i\,(i=1,\ldots,n)$ が存在して、$V=U_1\times\cdots\times U_n$ である。この $U_i\,(i=1,\ldots,n)$ が条件を満たす。

(2) $\Rightarrow$ (1) は、$U_1\times\cdots\times U_n$($U_i$ は $X_i$ の開集合)の形の集合が $X$ の開集合であることに注意すれば、命題 2.4からすぐに分かる。$\square$

直積空間について、次の事実は基本的である。

命題 8.5 (直積空間の普遍性)

$X=X_1\times\cdots\times X_n$ を直積空間とし、$Y$ を位相空間とする。$p_i\colon X\to X_i\,(i=1,\ldots, n)$ を射影とするとき、写像 $f\colon Y\to X$ に対して、次は同値である。

  • (1) $f$ は連続である。
  • (2) 各 $i\in\{1,\ldots, n\}$ に対して、$p_i\circ f\colon Y\to X_i$ は連続である。

証明

(1) $\Rightarrow$ (2) は、射影 $p_i$ の連続性(命題 8.3)と、連続写像の合成が連続であることから分かる。

(2) $\Rightarrow$ (1) を示す。各 $i$ に対して $p_i\circ f\colon Y\to X_i$ が連続であるとする。 命題 5.15によれば、$f\colon Y\to X$ が連続であることを示すには、定義 8.1における $X$ の準開基 $\mathcal{S}$ に属する $V$ について、$f^{-1}(V)$ が $Y$ の開集合になることを示せば十分である。すなわち、ある $i\in\{1,\ldots,n\}$ と $X_i$ の開集合 $U$ に対して $V=p_i^{-1}(U)$ と表されるような $V$ に対して、$f^{-1}(V)$ が $Y$ の開集合となることを示せばよい。 いま、 $$ f^{-1}(V)=f^{-1}(p_i^{-1}(U))=(p_i\circ f)^{-1}(U) $$ であるが、$p_i\circ f$ は仮定から連続なので、$(p_i\circ f)^{-1}(U)$ は $Y$ の開集合となる。よって、$f^{-1}(V)$ は $Y$ の開集合である。$\square$

注意 8.6 (直積空間への連続写像のつくり方)

命題 8.5は、実際には、次のような形で使われることが多い。$f_i\colon Y\to X_i\,(i=1,\ldots, n)$ を連続写像とする。このとき写像 $f\colon Y\to X$ が $$ f(y)=(f_1(y),\ldots, f_n(y))\quad(y\in Y) $$ により定義されるが、このとき $f\colon Y\to X$ は連続となる。実際、定義により各 $i$ に対して $p_i\circ f=f_i$ であり、これは連続であるから、命題 8.5の(2) $\Rightarrow$ (1)により $f$ は連続となる。$\square$


距離空間の有限個の直積空間は、次の命題で分かるように距離化可能な位相空間となる。

命題 8.7 (距離空間の有限個の直積)

$(X_1, d_1),\ldots, (X_n, d_n)$ を距離空間とする。このとき、次で定義される $d^{(1)}, d^{(2)}, d^{(\infty)}$ はいずれも直積集合 $X=X_1\times\cdots\times X_n$ 上の距離となる。 $$ \begin{aligned} d^{(1)}(x, y)&=\sum_{i=1}^n d_i(x_i, y_i)\\ d^{(2)}(x, y)&=\sqrt{\sum_{i=1}^n d_i(x_i, y_i)^2}\\ d^{(\infty)}(x, y)&=\max\{d_i(x_i, y_i)\,|\,i=1,\ldots, n\}\\ \end{aligned} $$ ただし、$x=(x_1,\ldots, x_n)$, $y=(y_1,\ldots, y_n)$ とする。さらに、これらの距離が定める $X$ 上の位相は、いずれも直積位相に一致する。

証明

まず、$d^{(1)}, d^{(2)}, d^{(\infty)}$ がそれぞれ $X$ 上の距離となることを示す。いずれも、距離の満たすべき性質のうち三角不等式以外は明らかに満たしているので、三角不等式のみを証明しよう。$d^{(1)}, d^{(\infty)}$ については三角不等式も簡単である。実際、$d^{(1)}$ に関しては、$x=(x_1,\ldots, x_n),\, y=(y_1,\ldots, y_n),\, z=(z_1,\ldots, z_n)\in X$ に対して、$d_i$ が三角不等式を満たすことより $$ d^{(1)}(x,z)=\sum_{i=1}^n d_i(x_i, z_i)\leq \sum_{i=1}^n (d_i(x_i, y_i)+d_i(y_i, z_i))=\sum_{i=1}^n d_i(x_i, y_i)+\sum_{i=1}^n d_i(y_i, z_i)=d^{(1)}(x,y)+d^{(1)}(y, z) $$ となるから三角不等式は成り立つ。 次に $d^{(\infty)}$ については、各 $i$ に対して、$d_i(x_i, y_i)\leq d_i(x_i, y_i)+d_i(y_i, z_i)\leq d^{(\infty)}(x, y)+d^{(\infty)}(y, z)$ となることに注意すれば、 $$ d^{(\infty)}(x,y)=\max\{d(x_i, y_i)\,|\,i=1,\ldots, n\}\leq d^{(\infty)}(x, y)+d^{(\infty)}(y, z) $$ となり、やはり三角不等式は成り立つ。問題は $d^{(2)}$ についてである。まず、Cauchy-Schwarz の不等式(命題 0.1)により、 $$ \sum_{i=1}^n d(x_i, y_i)d(y_i, z_i)\leq \sqrt{\left(\sum_{i=1}^n d(x_i, y_i)^2\right)\left(\sum_{i=1}^n d(y_i, z_i)^2\right)}=d^{(2)}(x,y)d^{(2)}(y,z) $$ であることに注意しよう。これを用いると、 $$ \begin{aligned} &\phantom{=}(d^{(2)}(x, y)+d^{(2)}(y, z))^2-(d^{(2)}(x, z))^2\\ &= \sum_{i=1}^n (d_i(x_i, y_i)^2+d_i(y_i, z_i)^2)+2d^{(2)}(x,y)d^{(2)}(y,z)-\sum_{i=1}^n d_i(x_i, z_i)^2\\ &= \sum_{i=1}^n (d_i(x_i, y_i)+d_i(y_i, z_i))^2-\sum_{i=1}^n d_i(x_i, z_i)^2+2\left(d^{(2)}(x,y)d^{(2)}(y,z)-\sum_{i=1}^n d_i(x_i, y_i)d_i(y_i, z_i)\right)\\ &\geq 0 \end{aligned} $$ となるから、$d^{(2)}(x, y)+d^{(2)}(y, z)\geq d^{(2)}(x, z)$ であり、$d^{(2)}$ についても三角不等式は成り立つ。

さらに、これらの距離が定める位相がすべて直積位相に一致することを示そう。まず、 $$ d^{(\infty)}(x, y)\leq d^{(1)}(x,y)\leq n d^{(\infty)}(x,y) $$ が成り立つことから、恒等写像 $\operatorname{id}\colon (X, d^{(1)})\to (X, d^{(\infty)})$ および $\operatorname{id}\colon (X, d^{(\infty)})\to (X, d^{(1)})$ が連続であることが分かる。これは、$\operatorname{id}\colon (X, d^{(1)})\to (X, d^{(\infty)})$ が同相写像であることを示しているから、$d^{(1)}$ と $d^{(\infty)}$ の定める $X$ 上の位相は等しい。また、 $$ d^{(\infty)}(x, y)\leq d^{(2)}(x,y)\leq \sqrt{n} d^{(\infty)}(x,y) $$ が成り立つことから、同様にして、$d^{(2)}$ と $d^{(\infty)}$ の定める $X$ 上の位相が等しいことも分かる。これで、$d^{(1)}, d^{(2)}, d^{(\infty)}$ の定める $X$ 上の位相がすべて一致することが分かった。あとは、この位相(たとえば、$d^{(\infty)}$ の定める位相)が、$X$ 上の直積位相 $\mathcal{O}$ に一致することを言えばよい。

各 $i$ に対して、 $$ d_i(p_i(x), p_i(y))=d_i(x_i, y_i)\leq d^{(\infty)}(x, y)\quad(x, y\in X) $$ という不等式が成り立つので、射影 $p_i\colon (X, d^{(\infty)})\to (X_i, d_i)$ は連続である。これは、$f$ を恒等写像 $\operatorname{id}\colon (X, d^{(\infty)})\to (X, \mathcal{O})$ とすれば、$p_i\circ f\colon (X, d^{(\infty)})\to (X_i, d_i)$ が各 $i$ について連続となることを意味している。よって、命題 8.5により、$f$ は連続である。すなわち、$\operatorname{id}\colon (X, d^{(\infty)})\to (X, \mathcal{O})$ は連続である。

あとは、逆向きの恒等写像 $$ \operatorname{id}\colon (X, \mathcal{O})\to (X, d^{(\infty)})\quad(\star) $$ が連続であると言えればよい。この連続性を示すため、命題 5.15を用いることにしよう。$(X, d^{(\infty)})$ の開基としては開球体の全体 $$ \{B_{d^{(\infty)}}(x,r)\,|\,x\in X, r>0\} $$ が取れるのであった(例 3.4)。よって、$(\star)$ が連続であることを言うためには、任意の $x\in X$ と $r>0$ に対して $\operatorname{id}^{-1}(B_{d^{(\infty)}}(x,r))=B_{d^{(\infty)}}(x,r)$ が直積空間 $(X, \mathcal{O})$ の開集合であると言えればよい。そこで、$x=(x_1,\ldots, x_n)\in X$ および $r>0$ を任意に与える。このとき $y=(y_1,\ldots, y_n)\in X$ に対して $$ \begin{aligned} d^{(\infty)}(x, y)<r &\Longleftrightarrow \max\{d_i(x_i, y_i)\,|\,i=1,\ldots,n\}<r \\ &\Longleftrightarrow \text{すべての }i\in\{1,\ldots,n\}\text{ に対して }d_i(x_i, y_i)<r \end{aligned} $$ となるから、 $$ \begin{aligned} B_{d^{(\infty)}}(x,r)&=\{y\in X\,|\,d^{(\infty)}(x, y)<r\}\\ &=\{y\in X\,|\, \text{すべての }i\in\{1,\ldots,n\}\text{ に対して }d_i(x_i, y_i)<r\}\\ &=B_{d_1}(x_1,r)\times\cdots\times B_{d_n}(x_n,r) \end{aligned} $$ である。この最右辺は、$(X_i, d_i)$ の開集合の直積の形だから、確かに直積空間 $(X, \mathcal{O})$ の開集合である(注意 8.2)。よって、$B_{d^{(\infty)}}(x,r)$ は $(X, \mathcal{O})$ の開集合である。これで、$(\star)$ が連続であることが示され、$\operatorname{id}\colon (X, d^{(\infty)})\to (X, \mathcal{O})$ が同相写像であることが分かった。したがって、$d^{(\infty)}$ が定める位相は直積位相 $\mathcal{O}$ と一致することが分かり、これですべての証明が終わった。$\square$

命題 8.8 ($\mathbb{R}^n$ のEuclid位相は直積位相と一致)

$\mathbb{R}^n$ のEuclid距離から定まる位相は、$\mathbb{R}^n=\mathbb{R}\times\cdots\times\mathbb{R}$ と見たときの直積位相と一致する。

証明

$\mathbb{R}$ の通常の距離を $d$ で表す。命題 8.7において $(X_i, d_i)=(\mathbb{R}, d)\,(i=1,\ldots,n)$ としたときの $\mathbb{R}^n=\mathbb{R}\times\cdots\times\mathbb{R}$ 上の距離 $d^{(2)}$ は直ちに分かるようにEuclid距離と一致する。したがって、命題 8.7により、$\mathbb{R}^n$ 上のEuclid距離が定める位相は、直積位相と一致する。$\square$

注意 8.9 ($\mathbb{R}^n$ のいくつかの距離)

命題 8.8の証明では、実数直線の通常の距離 $d$ をもとに、命題 8.7の距離 $d^{(2)}$ として $\mathbb{R}^n$ 上のEuclid距離が得られることを用いたが、その代わりに距離 $d^{(1)}$ や $d^{(\infty)}$ を考えると、それぞれ $\mathbb{R}^n$ 上の距離として $$ d^{(1)}(x,y)=\sum_{i=1}^n |x_i-y_i|,\quad d^{(\infty)}(x,y)=\max \{|x_i-y_i|\,|\,i=1,\ldots,n\} $$ が得られる。ここで、$x=(x_1,\ldots, x_n),\,y=(y_1,\ldots, y_n)\in\mathbb{R}^n$ とする。これらの距離 $d^{(1)}$, $d^{(\infty)}$ の定める位相も、$\mathbb{R}^n$ の直積位相に等しい。$\square$

例 8.10 (実数値連続関数から四則演算で得られる関数は連続)

$X$ を位相空間とし、$f, g\colon X\to\mathbb{R}$ を連続関数とする。このとき $f$ と $g$ の $f+g$ と $f-g$ と $f\cdot g$ を $$ (f+g)(x)=f(x)+g(x),\quad (f-g)(x)=f(x)-g(x),\quad (f\cdot g)(x)=f(x)\cdot g(x) $$ により定義する。これらの関数は連続であることを示そう。そのため、$F\colon X\to\mathbb{R}^2$ を $F(x)=(f(x), g(x))$ で定義する。命題 8.8により、$\mathbb{R}^2$ の(Euclid距離から定まる)位相は $\mathbb{R}^2=\mathbb{R}\times\mathbb{R}$ と見たときの直積位相と一致するのだから、$F$ は注意 8.6により連続である。一方、例 5.12で注意したように、実数の加法、減法、乗法が定める写像 $$ {+}\colon \mathbb{R}^2\to\mathbb{R},\quad (x, y)\mapsto x+y;\qquad-\colon \mathbb{R}^2\to\mathbb{R},\quad (x, y)\mapsto x-y;\qquad\cdot\colon \mathbb{R}^2\to\mathbb{R},\quad (x, y)\mapsto x\cdot y $$ はそれぞれ連続である。このとき $f+g$ は合成写像 $+\circ F$ に等しいから連続である。同様に、$f-g,$ $f\cdot g$ も連続と分かる。

さらに、$g(X)\subset\mathbb{R}\setminus\{0\}$ のときは、 $f/g$ を $(f/g)(x)=f(x)/g(x)$ により定義できる。このときは $g$ を $\mathbb{R}\setminus\{0\}$ への連続写像 $g\colon X\to\mathbb{R}\setminus\{0\}$ と見なすことができ、上の $F$ も $\mathbb{R}\times(\mathbb{R}\setminus\{0\})$ への連続写像 $F\colon X\to \mathbb{R}\times(\mathbb{R}\setminus\{0\})$ と見なせる。一方、例 5.12で注意したように、実数の除法が定める写像 $$ {/}\colon \mathbb{R}\times(\mathbb{R}\setminus\{0\})\to\mathbb{R},\quad (x, y)\mapsto x/y $$ は連続である。このとき $f/g$ は合成写像 $/\circ F$ に等しいから連続である。$\square$

続いて、有限と限らない個数の位相空間の直積について述べよう。$(X_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ を、位相空間の(添字付けられた)族とするとき、直積集合 $$ X=\prod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda=\{(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}\,|\,\text{ すべての }\lambda\in\Lambda\text{ に対して }x_\lambda\in X_\lambda\} $$ に位相を入れることを考える(ただし、$\Lambda\neq\emptyset$ とする。このテキストでは直積を考える場合は常にこれを仮定する)。この場合も、各 $\lambda\in\Lambda$ に対して、射影 $p_\lambda\colon X\to X_\lambda$ が $p_\lambda((x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda})=x_\lambda$ により定義される。つまり、$p_\lambda$ は直積集合 $X$ の要素にその第 $\lambda$ 成分を対応させる写像である。有限個の直積のときと同様、$X$ 上の直積位相は射影 $p_\lambda\,(\lambda\in\Lambda)$ をすべて連続するような最も粗い位相として定義される。具体的には、$X$ の部分集合族 $$ \mathcal{S}=\{p_\lambda^{-1}(U)\,|\,\lambda\in\Lambda,\,U\text{ は }X_\lambda\text{ の開集合}\} $$ を考えれば、$p_\lambda\,(\lambda\in\Lambda)$ がすべて連続であることと $\mathcal{S}$ の要素がすべて $X$ の開集合であることが同値となり、しかも $\mathcal{S}$ は条件(SB)を明らかに満たすので、$\mathcal{S}$ を準開基として生成される位相 $\mathcal{O}$ を考える。この $\mathcal{O}$ が直積位相である。改めて述べれば、


定義 8.11 (一般の直積位相)

$(X_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ を位相空間の族とし、$X=\prod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ をその直積集合として、各 $\lambda\in\Lambda$ に対して $p_\lambda\colon X\to X_\lambda$ を射影とする。このとき、$X$ の部分集合族 $$ \mathcal{S}=\{p_\lambda^{-1}(U)\,|\,\lambda\in\Lambda,\,U\text{ は }X_\lambda\text{ の開集合}\} $$ を準開基として生成される $X$ 上の位相を直積位相といい、この位相を入れて得られる位相空間 $X=\prod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ を直積空間という。

今後断りのない限り、位相空間の族 $(X_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ に対して直積集合 $\prod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ には直積位相を導入する。$\Lambda=\{1, \ldots, n\}$ の場合は、上の直積位相の定義は、いままでの有限個の直積位相の定義と一致する。

注意 8.12 (一般の直積位相の開基)

準開基の定義により、$\mathcal{S}$ の有限個の要素の共通部分の全体を $\mathcal{B}_\mathcal{S}$ とすると、$\mathcal{B}_\mathcal{S}$ は直積空間 $X=\prod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ の開基となる。 具体的には、$\mathcal{B}_\mathcal{S}$ は次のような集合となる(確かめよ)。 $$ \mathcal{B}_\mathcal{S}=\left\{\bigcap_{i=1}^n p_{\lambda_i}^{-1}(U_i)\,\bigg|\,n\in\mathbb{N},\,\lambda_i\in\Lambda,\,i\neq j{ のとき }\lambda_i\neq\lambda_j,\,U_i\text{ は }X_{\lambda_i}\text{ の開集合}\right\} $$ つまり、$\mathcal{B}_\mathcal{S}$ は、有限個の相異なる添字 $\lambda_1,\ldots,\lambda_n\in\Lambda\,(n\in\mathbb{N})$ を選び、各 $i\in\{1,\ldots, n\}$ に対して $X_{\lambda_i}$ の開集合 $U_i$ を選ぶと $\bigcap_{i=1}^n p_{\lambda_i}^{-1}(U_i)$ と書けるような集合の全体である。これは有限個の直積の場合よりも複雑となっているので注意が必要である。

特に注意したいのは、$U_\lambda$ を $X_\lambda$ の開集合とするときに $\prod_{\lambda\in\Lambda} U_\lambda$ という形の集合が必ずしも直積空間 $X$ の開集合ではないことである(ただし、有限個の $\lambda$ を除いて $U_\lambda=X_\lambda$ であるときは、この集合は上の $\mathcal{B}_\mathcal{S}$ に属するので開集合となる)。これは少々不自然に感じられるかもしれないが、この位相の定め方によって直積空間は非常に良い性質を満たすものになっている。

次の三つの命題(命題 8.13-8.15)の証明は、有限個の直積の場合(命題 8.3-8.5)と同様にして示されるので、証明を省略する。読者自身で確かめてほしい。

命題 8.13 (一般の直積位相と射影)

$(X_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ を位相空間の族とする。直積集合 $X=\prod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ 上の直積位相 $\mathcal{O}$ は、すべての $\lambda\in\Lambda$ に対して射影 $p_\lambda\colon X\to X_\lambda$ を連続とする $X$ 上の位相の中で、最も粗い位相である。つまり、次の二つが成り立つ。

  • すべての $\lambda\in\Lambda$ に対して、$p_\lambda$ は $(X, \mathcal{O})$ から $X_\lambda$ への連続写像となる。
  • すべての $\lambda\in\Lambda$ に対して $p_\lambda$ が $(X, \mathcal{O}')$ から $X_\lambda$ への連続写像となるような $X$ 上の任意の位相 $\mathcal{O}'$ に対して、$\mathcal{O}\subset\mathcal{O}'$ である。$\square$

命題 8.14 (一般の直積空間での開集合の判定条件)

直積空間 $X=\prod_{\lambda\in\Lambda}$ の部分集合 $U$ に対して、次は同値である。

  • (1) $U$ は開集合である。
  • (2) 任意の $x=(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}\in U$ に対して、有限個の相異なる $\lambda_1,\ldots,\lambda_n\in\Lambda$ および $x_{\lambda_i}\in U_i$ となる $X_{\lambda_i}$ の開集合 $U_i\,(i=1,\ldots,n)$ が存在して $\bigcap_{i=1}^n p_{\lambda_i}^{-1}(U_i)\subset U$ となる。$\square$

命題 8.15 (一般の直積空間の普遍性)

$X=\prod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ を直積空間とし、$Y$ を位相空間とする。$p_\lambda\colon X\to X_\lambda\,(\lambda\in\Lambda)$ を射影とするとき、写像 $f\colon Y\to X$ に対して、次は同値である。

  • (1) $f$ は連続である。
  • (2) 各 $\lambda\in\Lambda$ に対して、$p_\lambda\circ f\colon Y\to X_\lambda$ は連続である。$\square$

注意 8.16 (一般の直積空間への連続写像のつくり方)

命題 8.15は実際には、次のような形で使われることが多い。各 $\lambda\in\Lambda$ に対して連続写像 $f_\lambda\colon Y\to X_\lambda$ が与えられているとする。このとき写像 $f\colon Y\to X$ が $$ f(y)=(f_\lambda(y))_{\lambda\in\Lambda} \quad(y\in Y) $$ により定義されるが、このとき $f\colon Y\to X$ は連続となる。実際、定義により各 $\lambda$ に対して $p_\lambda\circ f=f_\lambda$ であり、これは連続であるから、命題 8.15の(2) $\Rightarrow$ (1)により $f$ は連続となる。$\square$

命題 8.17 (直積からの射影は開写像)

$X=\prod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ を直積空間とするとき、各 $\lambda\in\Lambda$ に対して、射影 $p_\lambda\colon X\to X_\lambda$ は開写像である。

証明

$U$ を直積空間 $X$ の開集合とし、$V=p_\lambda(U)$ とする。$V$ が $X_\lambda$ の開集合であることを示すために、$u\in V$ を任意に与える。ある $x=(x_\mu)_{\mu\in\Lambda}\in U$ が存在して、$p_\lambda(x)=u$ となる。つまり、$x_\lambda=u$ となる。$U$ は直積空間 $X$ の開集合なので、命題 8.14により、有限個の相異なる $\lambda_1,\ldots,\lambda_n\in\Lambda$ と $X_{\lambda_i}$ の開集合 $U_i\,(i=1,\ldots, n)$ が存在して、$W=\bigcap_{i=1}^n p_{\lambda_i}^{-1}(U_i)$ とおくとき $x\in W\subset U$ となる。すると $$ u=p_{\lambda}(x)\in p_\lambda(W)\subset p_\lambda(U)\quad (\star) $$ である。ここから、(1) ある $i$ について $\lambda=\lambda_i$ である場合、(2) $\lambda\notin\{\lambda_1,\ldots,\lambda_n\}$ である場合の二通りに場合分けする。

(1) の場合、$p_\lambda(W)=p_{\lambda_i}(W)=U_i$ となるから、$(\star)$ により $u\in U_i\subset p_\lambda(U)$ である。

(2) の場合、$p_\lambda(W)=X_\lambda$ となるから、$(\star)$ により $u\in X_\lambda\subset p_\lambda(U)$ である。

結局、(1) の場合 $O=U_i$ とし、(2) の場合 $O=X_\lambda$ とすれば、$O$ は $u$ の $X_\lambda$ における開近傍であって、$O\subset p_\lambda(U)$ となる。よって、命題 2.4により $p_\lambda(U)$ は $X_\lambda$ の開集合である。$\square$

$(X_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ を位相空間の族とし、各 $\lambda\in\Lambda$ に対して $X_\lambda$ の部分集合 $A_\lambda$ が与えられているとする。このとき、直積集合 $\prod_{\lambda\in\Lambda} A_\lambda$ には二通りの位相の入れ方がある。一つは、直積空間 $\prod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ の部分空間として位相を入れる方法で、もう一つは、$A_\lambda$ を $X_\lambda$ の部分空間とみて、その直積空間として位相を入れる方法である。この二つの位相は、次の命題のとおり、実際には一致するので区別の必要がない。

命題 8.18 (直積位相と相対位相の交換可能性)

$(X_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ を位相空間の族とし、各 $\lambda\in\Lambda$ に対して $A_\lambda\subset X_\lambda$ が与えられているとする。このとき、直積集合 $A=\prod_{\lambda\in\Lambda} A_\lambda$ には、直積空間 $X=\prod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ からの相対位相 $\mathcal{O}_1$ と、$X_\lambda$ からの相対位相をもつ $A_\lambda$ の直積空間としての位相 $\mathcal{O}_2$ をもつが、このとき $\mathcal{O}_1=\mathcal{O}_2$ である。

証明

恒等写像 $\operatorname{id}\colon (A, \mathcal{O}_1)\to (A, \mathcal{O}_2)$ および $\operatorname{id}\colon (A, \mathcal{O}_2)\to (A, \mathcal{O}_1)$ の連続性を示せばよい。

まず、$\operatorname{id}\colon (A, \mathcal{O}_1)\to (A, \mathcal{O}_2)$ の連続性を示す。$\mathcal{O}_1$ は直積空間 $X=\prod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ からの相対位相なので、包含写像 $i\colon (A, \mathcal{O}_1)\to X$ は連続である。また、射影 $p_{\lambda}\colon X\to X_\lambda$ も連続である。よって、合成 $p_{\lambda}\circ i\colon (A, \mathcal{O}_1)\to X_\lambda$ は連続である。ところが、定義からこの合成 $p_{\lambda}\circ i$ の像は $X_\lambda$ の部分空間 $A_\lambda$ に含まれているので、$p_{\lambda}\circ i$ の終域を $A_\lambda$ に制限したものを $f_\lambda\colon (A, \mathcal{O}_1)\to A_\lambda$ と書けば、命題 6.17により $f_\lambda$ も連続となる。そこで、$f\colon (A, \mathcal{O}_1)\to (A, \mathcal{O}_2)$ を $f(a)=(f_\lambda(a))\,(a\in A)$ により定義すれば、$\mathcal{O}_2$ が $A=\prod_{\lambda\in\Lambda} A_\lambda$ 上の直積位相であったことから、注意 8.16によって $f\colon (A, \mathcal{O}_1)\to (A, \mathcal{O}_2)$ は連続である。しかし、定義をさかのぼると分かるように、この $f$ は恒等写像 $\operatorname{id}$ に他ならない。よって、$\operatorname{id}\colon (A, \mathcal{O}_1)\to (A, \mathcal{O}_2)$ は連続である。

次に、$\operatorname{id}\colon (A, \mathcal{O}_2)\to (A, \mathcal{O}_1)$ の連続性を示す。いま、$\mathcal{O}_2$ は $A=\prod_{\lambda\in\Lambda} A_\lambda$ 上の直積位相なので、射影 $p'_\lambda\colon (A, \mathcal{O}_2)\to A_\lambda$ は連続である。また、包含写像 $i_\lambda\colon A_\lambda\to X_\lambda$ も連続である。したがって、合成 $i_\lambda\circ p'_\lambda\colon (A, \mathcal{O}_2)\to X_\lambda$ は連続である。そこで、$g\colon (A, \mathcal{O}_2)\to X=\prod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ を $g(a)=(i_\lambda\circ p'_\lambda(a))$ で定義すれば、注意 8.16によって $g$ は連続となる。定義により、$g$ の像は $A$ に含まれているので、$g$ の終域を $A$ に制限した $g^A$ を考えることができるが、$A$ 上の位相 $\mathcal{O}_1$ は $X$ からの相対位相であったから、$g^A\colon (A, \mathcal{O}_2)\to (A, \mathcal{O}_1)$ は連続となる。ところが、定義をさかのぼると、$g^A$ は恒等写像 $\operatorname{id}$ に他ならない。 よって、$\operatorname{id}\colon (A, \mathcal{O}_2)\to (A, \mathcal{O}_1)$ は連続である。$\square$

上の命題 8.18は、今後は特に断りなく、暗黙のうちに使われることがあるので注意しておく。

注意 8.12で述べたように、無限個の位相空間の直積空間 $X=\prod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ においては、開集合 $U_\lambda\subset X_\lambda\,(\lambda\in\Lambda)$ の直積 $\prod_{\lambda\in\Lambda} U_\lambda$ は必ずしも開集合とはならない。しかし、閉集合の直積については、次の命題のとおり閉集合となる。

命題 8.19 (閉集合の直積は閉集合)

$X=\prod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ を直積空間とし、各 $\lambda\in\Lambda$ に対して、$F_\lambda$ は $X_\lambda$ の閉集合であるとする。このとき、$\prod_{\lambda\in\Lambda} F_\lambda$ は $X$ の閉集合である。

証明

射影 $p_\lambda\colon X\to X_\lambda$ は連続だから、$p_\lambda^{-1}(F_\lambda)$ は各 $\lambda\in\Lambda$ に対して $X$ の閉集合となる。$\prod_{\lambda\in\Lambda} F_\lambda=\bigcap_{\lambda\in\Lambda} p_\lambda^{-1}(F_\lambda)$ なので $\prod_{\lambda\in\Lambda} F_\lambda$ も $X$ の閉集合である。$\square$

命題 8.20 (直積と閉包との関係)

$X=\prod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ を直積空間とし、各 $\lambda\in\Lambda$ に対して $X_\lambda$ の部分集合 $A_\lambda$ が与えられているとする。このとき、 $$ \operatorname{Cl}_X \prod_{\lambda\in\Lambda} A_\lambda=\prod_{\lambda\in\Lambda} \operatorname{Cl}_{X_\lambda} A_\lambda $$ である。

証明

右辺 $\prod_{\lambda\in\Lambda} \operatorname{Cl}_{X_\lambda} A_\lambda$ は命題 8.19により $X$ の閉集合であって $\prod_{\lambda\in\Lambda} A_\lambda$ を含んでいるから、命題 4.2により、$\operatorname{Cl}_X \prod_{\lambda\in\Lambda} A_\lambda\subset \prod_{\lambda\in\Lambda} \operatorname{Cl}_{X_\lambda} A_\lambda$ である。

逆の包含を示すため、$x=(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}\in \prod_{\lambda\in\Lambda} \operatorname{Cl}_{X_\lambda} A_\lambda$ を任意に与える。$x\in \operatorname{Cl}_X \prod_{\lambda\in\Lambda} A_\lambda$ を示すため、命題 4.5を用いよう。$x$ の $X$ における開近傍 $V$ を任意に与える。注意 8.12(における直積空間の開基の記述)により、有限個の相異なる $\lambda_1,\ldots,\lambda_n\in\Lambda$ と $X_{\lambda_i}$ の開集合 $U_i$ が存在して、$x\in\bigcap_{i=1}^n p_{\lambda_i}^{-1}(U_i)\subset V$ となる。各 $i=1,\ldots,n$ に対して、$U_i$ は $x_{\lambda_i}$ の開近傍であり、$x_{\lambda_i}\in \operatorname{Cl}_{X_{\lambda_i}} A_{\lambda_i}$ であるから、命題 4.5により $U_i\cap A_{\lambda_i}\neq\emptyset$ である。よって、点 $a_{\lambda_i}\in U_i\cap A_{\lambda_i}$ を選ぶことができる。また、$\lambda\in\Lambda\setminus\{\lambda_1,\ldots,\lambda_n\}$ のとき、$x_\lambda\in \operatorname{Cl}_{X_\lambda} A_\lambda$ なので、とくに $\operatorname{Cl}_{X_\lambda} A_\lambda\neq\emptyset$ であり、よって $A_\lambda\neq\emptyset$ なので点 $a_\lambda\in A_\lambda$ を選ぶことができる。こうして、$a=(a_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ が得られるが、つくり方から $a\in \bigcap_{i=1}^n p_{\lambda_i}^{-1}(U_i)\cap \prod_{\lambda\in\Lambda} A_\lambda$ である。よって、$a\in V\cap \prod_{\lambda\in\Lambda} A_\lambda$ なので $V\cap \prod_{\lambda\in\Lambda} A_\lambda\neq\emptyset$ である。よって、命題 4.5により $x\in\operatorname{Cl}_X \prod_{\lambda\in\Lambda} A_\lambda$ である。$\square$

直積空間において点列が収束することは、その点列を各成分に射影したものが収束することと同値である。正確に述べると、次のようになる。

命題 8.21 (直積空間における点列の収束)

$X=\prod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ を直積空間とし、$p_\lambda\colon X\to X_\lambda$ を射影とする。$X$ の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ と $x\in X$ に対して、次は同値である。

  • (1) $(x_n)_{n=1}^\infty$ は $x$ に収束する。
  • (2) 各 $\lambda\in\Lambda$ に対して、$(p_\lambda(x_n))_{n=1}^\infty$ は $p_\lambda(x)$ に収束する。

証明

(1)$\Rightarrow$(2) は、射影 $p_\lambda\colon X\to X_\lambda$ の連続性と命題 5.17により分かる。

(2)$\Rightarrow$(1) を示す。各 $\lambda\in\Lambda$ に対して $(p_\lambda(x_n))_{n=1}^\infty$ が $p_\lambda(x)$ に収束するとする。このとき、$(x_n)_{n=1}^\infty$ が $x$ に収束することを示すため、$x$ の $X$ における開近傍 $V$ を任意に与える。すると、有限個の $\lambda_1,\ldots,\lambda_k\in\Lambda$ と $p_{\lambda_i}(x)$ の $X_{\lambda_i}$ における開近傍 $V_i\,(i=1,\ldots, k)$ が存在して、$x\in\bigcap_{i=1}^k p_{\lambda_i}^{-1}(V_i)\subset V$ となる。いま、各 $i\in\{1,\ldots, k\}$ に対して、$(p_{\lambda_i}(x_n))_{n=1}^\infty$ は $p_{\lambda_i}(x)$ に収束するから、$N_i\in\mathbb{N}$ が存在して、$n\geq N_i$ のとき常に $p_{\lambda_i}(x_n)\in V_i$ つまり $x_n\in p_{\lambda_i}^{-1}(V_i)$ である。そこで、$N=\max\{N_1,\ldots, N_k\}\in\mathbb{N}$ とおく。すると、$n\geq N$ のとき常に $x_n\in\bigcap_{i=1}^k p_{\lambda_i}^{-1}(V_i)$ であり、したがって $x_n\in V$ である。これで、$(x_n)_{n=1}^\infty$ が $x$ に収束することが示された。$\square$

第一可算性(定義 2.12)や第二可算性(定義 3.6)は、可算個の位相空間の直積については保たれるが、非可算個の直積については一般には保たれない。

命題 8.22 (第一・第二可算な空間の可算個の直積は第一・第二可算)

$(X_i)_{i=1}^\infty$ を第一可算(あるいは第二可算)な位相空間の族とする。このとき、直積空間 $\prod_{i=1}^\infty X_i$ も第一可算(または第二可算)となる。

証明

$X=\prod_{i=1}^\infty X_i$ とおき、$p_i\colon X\to X_i\,(i\in\mathbb{N})$ を射影とする。

まず、第一可算の場合を示す。$x=(x_i)_{i\in\mathbb{N}}\in X$ とする。各 $i\in\mathbb{N}$ に対して、$X_i$ は第一可算であるから $x_i$ の $X_i$ における高々可算な基本近傍系 $\mathcal{U}_i$ を選ぶことができる。命題 14.1の証明と同じように、$\mathcal{U}_i$ は $X_i$ の開集合からなるとしてよい。このとき $X$ の部分集合族 $\mathcal{U}$ を $$ \mathcal{U}=\left\{\bigcap_{i=1}^n p_i^{-1}(U_i)\,\bigg|\,n\in\mathbb{N},\,U_i\in\mathcal{U}_i\,(i=1,\ldots,n)\right\} $$ で定めると、$\mathcal{U}$ は高々可算である。また、$\mathcal{U}$ の要素はすべて $x$ の $X$ における開近傍である。$\mathcal{U}$ が $x$ の $X$ における基本近傍系であることを示すため、$x$ の $X$ における開近傍 $V$ を任意に与える。すると、有限個の $i_1,\ldots, i_k\in\mathbb{N}$(ただし、$i_1<\cdots<i_k$)および $x_{i_j}$ の $X_{i_j}$ における開近傍 $V_{i_j}$ が存在して $$ x\in\bigcap_{j=1}^\infty p_{i_j}^{-1}(V_{i_j})\subset V $$ が成り立つ。$n=i_k$ と定義し、各 $i\in\{1,\ldots, n\}\setminus\{i_1,\ldots,i_k\}$ に対して $V_i=X_i$ とする。すると、各 $i\in\{1,\ldots, n\}$ に対して $V_i$ は $x_i$ の $X_i$ における開近傍であるから、$U_i\in\mathcal{U}_i$ を $x_i\in U_i\subset V_i$ となるように取れる。このとき、$U=\bigcap_{i=1}^n p_i^{-1}(U_i)$ とおけば $U\in\mathcal{U}$ で、 $$ x\in U\subset \bigcap_{i=1}^n p_i^{-1}(V_i)=\bigcap_{j=1}^\infty p_{i_j}^{-1}(V_{i_j})\subset V $$ が成り立つ。これで、$\mathcal{U}$ が $x$ の $X$ における高々可算な基本近傍系であることが示され、$X=\prod_{i=1}^n X_i$ が第一可算であることが示された。

次に、第二可算の場合を示す。各 $i\in\mathbb{N}$ に対して、$X_i$ は第二可算であるから $X_i$ の高々可算な開基 $\mathcal{B}_i$ を選ぶことができる。このとき、 $X$ の部分集合族 $\mathcal{B}$ を $$ \mathcal{B}=\left\{\bigcap_{i=1}^n p_i^{-1}(B_i)\,\bigg|\,n\in\mathbb{N},\,B_i\in\mathcal{B}_i\,(i=1,\ldots,n)\right\} $$ で定めると、$\mathcal{B}$ は $X$ の開集合からなる高々可算な族である。このとき $\mathcal{B}$ が $X$ の開基となることが、第一可算のときの証明と同様の議論によって示される。したがって、$X=\prod_{i=1}^n X_i$ は第二可算である。$\square$


例 8.23 (第一・第二可算性は非可算個の直積では保たれない)

$\Lambda$ を非可算集合とし、各 $\lambda\in\Lambda$ に対して $X_\lambda$ を二点集合 $\{0, 1\}$ に離散位相を入れたものとする。このとき $X_\lambda$ は明らかに第二可算(よって命題 3.7により第一可算)であるが、直積空間 $X=\prod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ は第一可算とならない(よって命題 3.7により第二可算にもならない)ことを示そう。

$p_\lambda\colon X\to X_\lambda$ を射影とし、$\mathbf{0}\in X$ をすべての $\lambda\in\Lambda$ に対して $p_\lambda(\mathbf{0})=0$ となるような点とする。$\mathbf{0}$ が $X$ において高々可算な基本近傍系をもたないことを示そう。そのため、$\mathcal{U}=\{U_n\,|\,n\in\mathbb{N}\}$ が $\mathbf{0}$ の $X$ における基本近傍系であるとして矛盾を導く。各 $n\in\mathbb{N}$ に対して、$U_n$ は直積空間 $X=\prod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ における $\mathbf{0}$ の近傍なので、有限集合 $F_n\subset\Lambda$ を $\bigcap_{\lambda\in F_n} p_\lambda^{-1}(\{0\})\subset U_n$ となるように選べる。すると、$\bigcup_{n=1}^\infty F_n$ は $\Lambda$ の高々可算な部分集合だが、$\Lambda$ は非可算であるから、$\lambda_0\in\Lambda\setminus\bigcup_{n=1}^\infty F_n$ が存在する。そこで $\mathbf{0}$ の $X$ における近傍 $V$ として $V=p_{\lambda_0}^{-1}(\{0\})$ を考える。すると、ある $n\in\mathbb{N}$ に対して $U_n\subset V$ となるはずである。いま $x_0\in X$ を $$ p_\lambda(x_0)= \begin{cases} 1 \quad& \lambda=\lambda_0\text{ のとき}\\ 0 \quad& \lambda\in\Lambda\setminus\{\lambda_0\}\text{ のとき} \end{cases} $$ で定まる点とすると $\lambda_0\notin F_n$ であることから $x_0\in U_n$ であり、したがって $x_0\in V$ である。しかし、$p_{\lambda_0}(x)=1\neq 0$ であるから、これは $V$ の定義 $V=p_{\lambda_0}^{-1}(\{0\})$ に反する。これで、$\mathbf{0}$ が $X$ において高々可算な基本近傍系をもたないことが示され、よって $X$ は第一可算ではないことが示された。$\square$

最後に、直和位相について述べよう。まず、直和集合について復習する。集合の(添字づけられた)族 $(X_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ に対して、直和集合 $\coprod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ とは、次で定義される集合である。 $$ \coprod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda=\bigcup_{\lambda\in\Lambda} (X_\lambda\times\{\lambda\}) $$ この定義は、「$X_\lambda$ たちが互いに交わっていたとしても、交わりがないと思って和集合をとる」ということを意図している。上の定義での $X_\lambda\times\{\lambda\}$ は $X_\lambda$ のいわばコピーである。$\lambda\neq\mu$ のとき $X_\lambda\times\{\lambda\}$ と $X_\mu\times\{\mu\}$ は交わらないことに注意すれば、$X_\lambda$ のコピーたちは互いに交わらないから、あとはその和集合をとれば直和集合の定義が完成する。いま $X_\lambda$ を $X_\lambda\times\{\lambda\}$ に置き換えたのは、交わりをなくすための一つの便利な方法であるに過ぎず、この方法を使う必然性は特にない。直和集合の定義で重要なのは、$X_\lambda$ のコピーと考えられる集合たちの、互いに交わりのない和集合になっていることである。

直和集合 $X=\coprod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ に対しては写像 $i_\lambda\colon X_\lambda\to X$ が $$ i_\lambda (x)=(x,\lambda) $$ により定義される。この $i_\lambda$ を包含写像(inclusion)と呼ぶ。これは厳密にはいままでの意味での包含写像とは異なる概念だが、混乱のおそれはないであろう。

さて、この状況で、$X_\lambda$ が位相空間になっている場合を考える。このとき、直和集合 $X=\coprod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ に適切な方法で位相を定めたい。例によって、各 $\lambda\in\Lambda$ に対して包含写像 $i_\lambda\colon X_\lambda\to X$ が連続となるという条件を課すが、この条件は $$ \mathcal{O}=\{U\subset X\,|\,\text{ すべての }\lambda\in\Lambda\text{ に対して }i_\lambda^{-1}(U)\text{ が }X_\lambda\text{ の開集合 }\} $$ という $X$ の部分集合族を考えたとき、$X$ の開集合がすべて $\mathcal{O}$ に属していることと同値である。そこで、$\mathcal{O}$ を $X$ の開集合の全体として $X$ に位相を定めることができれば、$X$ は $i_\lambda$ をすべて連続とするような最も細かい位相をもつことになる。次の命題で見るように、$\mathcal{O}$ は実際に開集合系の公理 (O1)-(O3) を満たし、これが直和位相と呼ばれるものである。

命題 8.24 (集合族 $\mathcal{O}$ は開集合系の公理を満たす)

位相空間の族 $(X_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ に対して直和集合 $X=\coprod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ を考えるとき、上で定めた $X$ の部分集合族 $\mathcal{O}$ は $X$ 上の位相を定める。すなわち、$\mathcal{O}$ は開集合系の公理 (O1)-(O3) を満たす。

証明

(O1) を示す。各 $\lambda\in\Lambda$ に対して $i_\lambda^{-1}(\emptyset)=\emptyset$ および $i_\lambda^{-1}(X)=X_\lambda$ は $X_\lambda$ の開集合なので、$\emptyset, X\in\mathcal{O}$ である。

(O2) を示すため、$U_1, U_2\in\mathcal{O}$ とする。すると、各 $\lambda\in\Lambda$ に対して $i_\lambda^{-1}(U_1),$ $i_\lambda^{-1}(U_2)$ は $X_\lambda$ の開集合であるから、$i_\lambda^{-1}(U_1\cap U_2)=i_\lambda^{-1}(U_1)\cap i_\lambda^{-1}(U_2)$ も $X_\lambda$ の開集合である。よって、$U_1\cap U_2\in\mathcal{O}$ である。

(O3) を示すため、$\{U_j\,|\,j\in I\}\subset\mathcal{O}$ とする。すると、各 $\lambda\in\Lambda$ および $j\in I$ に対して $i_\lambda^{-1}(U_j)$ は $X_\lambda$ の開集合である。よって、各 $\lambda\in\Lambda$ に対して $i_\lambda^{-1}(\bigcup_{j\in I} U_j)=\bigcup_{j\in I}i_\lambda^{-1}(U_j)$ は $X_\lambda$ の開集合であるので、$\bigcup_{j\in I} U_j\in\mathcal{O}$ である。$\square$

定義 8.25 (直和位相)

$(X_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ を位相空間の族とし、$X=\coprod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ をその直和集合として、各 $\lambda\in\Lambda$ に対して $i_\lambda\colon X_\lambda\to X$ を包含写像とする。このとき、$X$ の部分集合族 $$ \mathcal{O}=\{U\subset X\,|\,\text{ すべての }\lambda\in\Lambda\text{ に対して }i_\lambda^{-1}(U)\text{ が }X_\lambda\text{ の開集合 }\} $$ は命題 8.24により $X$ 上の位相を定める。この位相 $\mathcal{O}$ を $X$ 上の直和位相といい、位相空間 $(X, \mathcal{O})$ を直和空間(topological sum)という。$\square$

直観的には、位相空間 $X_\lambda$ たちを「互いに交わらないように並べた」ものが直和空間 $X=\coprod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ である。上の定義は、直和空間 $X$ の開集合とは、元々の各空間 $X_\lambda$ の開集合を並べたものであるということを述べている。いままでの議論から、次が成り立つ。

命題 8.26 (直和位相と包含写像)

$(X_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ を位相空間の族とする。直和集合 $X=\coprod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ 上の直和位相 $\mathcal{O}$ は、すべての $\lambda\in\Lambda$ に対して包含写像 $i_\lambda\colon X_\lambda\to X$ を連続とするような $X$ 上の位相の中で、最も細かい位相である。つまり、次の二つが成り立つ。

  • すべての $\lambda\in\Lambda$ に対して、$i_\lambda\colon X_\lambda\to X$ は $X_\lambda$ から $(X, \mathcal{O})$ への連続写像となる。
  • すべての $\lambda\in\Lambda$ に対して $i_\lambda$ が $X_\lambda$ から $(X, \mathcal{O}')$ への連続写像となるような $X$ 上の任意の位相 $\mathcal{O}'$ に対して、$\mathcal{O}'\subset\mathcal{O}$ である。$\square$

次の命題で分かるように、開集合の時と同様に、直和空間の閉集合も各空間の閉集合を並べたものになる。

命題 8.27 (直和空間の閉集合)

直和空間 $X=\coprod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ の部分集合 $F$ に対して、次は同値である。

  • (1) $F$ は $X$ の閉集合である。
  • (2) 各 $\lambda\in\Lambda$ に対して、$i_\lambda^{-1}(F)$ は $X_\lambda$ の閉集合である。

証明

(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。$F$ を $X$ の閉集合とする。このとき $X\setminus F$ は $X$ の開集合なので、各 $\lambda\in\Lambda$ に対して $X_\lambda\setminus i_\lambda^{-1}(F)=i_\lambda^{-1}(X\setminus F)$ は $X_\lambda$ の開集合であり、よって $i_\lambda^{-1}(F)$ は $X_\lambda$ の閉集合である。

(2) $\Rightarrow$ (1) を示す。各 $\lambda\in\Lambda$ に対して $i_\lambda^{-1}(F)$ が $X_\lambda$ の閉集合であるとする。このとき、各 $\lambda\in\Lambda$ に対して $i_\lambda^{-1}(X\setminus F)=X_\lambda\setminus i_\lambda^{-1}(F)$ は $X_\lambda$ の開集合であるから、$X\setminus F$ は $X$ の開集合である。よって、$F$ は $X$ の閉集合である。$\square$

直和空間についての次の性質は基本的である。

命題 8.28 (直和空間の普遍性)

$X=\coprod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ を直和空間とし、$Y$ を位相空間とする。$i_\lambda\colon X_\lambda\to X\,(\lambda\in\Lambda)$ を包含写像とするとき、写像 $f\colon X\to Y$ に対して、次は同値である。

  • (1) $f$ は連続である。
  • (2) 各 $\lambda\in\Lambda$ に対して、$f\circ i_\lambda \colon X_\lambda \to Y$ は連続である。

証明

(1) $\Rightarrow$ (2) は、包含写像 $i_\lambda\colon X_\lambda\to X$ が連続であることと、連続写像の合成が連続であることから分かる。

(2) $\Rightarrow$ (1) を示す。$f\colon X\to Y$ に対して (2) を仮定し、$V$ を $Y$ の開集合とする。各 $\lambda\in\Lambda$ に対して、 $$ i_\lambda^{-1}(f^{-1}(V))=(f\circ i_\lambda)^{-1}(V) $$ であるが、いま仮定している (2) により $(f\circ i_\lambda)^{-1}(V)$ は $X_\lambda$ の開集合である。よって、各 $\lambda\in\Lambda$ に対して、$i_\lambda^{-1}(f^{-1}(V))$ は $X_\lambda$ の開集合である。したがって、$f^{-1}(V)$ は $X$ の開集合である。これで、$f$ の連続性が示された。$\square$

注意 8.29 (直和空間からの連続写像のつくり方)

命題 8.28は実際には、次のような形で使われることが多い。各 $\lambda\in\Lambda$ に対して連続写像 $f_\lambda\colon X_\lambda\to Y$ が与えられているとする。このとき写像 $f\colon X\to Y$ が $$ f(x, \lambda)=f_\lambda(x)\quad(\lambda\in\Lambda,\,x\in X_\lambda) $$ により定義されるが、このとき $f\colon X\to Y$ は連続となる。実際、定義により各 $\lambda$ に対して $f\circ i_\lambda=f_\lambda$ であり、これは連続であるから、命題 8.28の(2) $\Rightarrow$ (1)により $f$ は連続となる。$\square$


位相空間論9:コンパクト性

コンパクト性は、位相空間がある意味で「有限な大きさをもつ」ことを表した概念であり、位相空間論でも最も重要な位置を占めるものである。Euclid空間 $\mathbb{R}^n$ の部分空間に関しては、コンパクトであることと有界な閉集合であることが同値になることが示される。


コンパクト性の定義を述べるため、まず、位相空間の被覆の定義を述べる。

定義 9.1 (被覆)

$X$ を位相空間とする。$X$ の部分集合族 $\mathcal{A}$ が $X$ の被覆(cover)であるとは、$\mathcal{A}$ の要素すべての和集合が $X$ に一致すること、すなわち$X=\bigcup_{A\in\mathcal{A}} A$ が成り立つことをいう。被覆 $\mathcal{A}$ の要素がすべて $X$ の開集合であるとき、$\mathcal{A}$ を $X$ の開被覆(open cover)であるという。被覆 $\mathcal{A}$ の部分集合 $\mathcal{B}$ が再び $X$ の被覆であるとき、$\mathcal{B}$ を $\mathcal{A}$ の部分被覆(subcover)という。$\square$

上で述べた中で、特に重要なものが開被覆の概念である。改めて述べれば、位相空間 $X$ の開被覆とは、$X$ の開集合からなる族 $\mathcal{U}$ であって、$X=\bigcup_{U\in\mathcal{U}} U$ となるようなもののことである。これを用いて、位相空間のコンパクト性は次のように定義される。

定義 9.2 (コンパクト性)

位相空間 $X$ がコンパクト(compact)であるとは、$X$ の任意の開被覆に対して、その有限な部分被覆が存在することをいう。$\square$

すなわち、位相空間 $X$ がコンパクトであるとは、開被覆 $\mathcal{U}$ が任意に与えられたとき、$\mathcal{U}$ の有限個の要素 $U_1, \ldots, U_n$ を取り出し $\{U_1,\ldots, U_n\}$ が $X$ の被覆であるようにできること、つまり $X=\bigcup_{i=1}^n U_i$ となるようにできることをいう。なお、コンパクト性は、開集合の言葉で書かれていることから分かるように位相的性質(注意 5.24)である。つまり、$X,$ $Y$ が同相な位相空間であって $X$ がコンパクトならば $Y$ もコンパクトとなる。コンパクトな位相空間をコンパクト空間(compact space)という。(以下では、位相空間を単に空間(space)と呼ぶこともある。例えば、第二可算な空間、距離化可能空間、などのように言う。)

例 9.3 (有限な位相空間はコンパクト)

位相空間 $X$ が集合として有限集合であれば、$X$ はコンパクトである。実際、このときある $n$ に対して $X=\{x_1,\ldots, x_n\}$ と表すことができる。$X$ の開被覆 $\mathcal{U}$ を任意に与えると、各 $i=1,\ldots,n$ に対して $U_i\in\mathcal{U}$ を $x_i\in U_i$ となるように取れる。このとき、$\{U_1,\ldots, U_n\}$ は $\mathcal{U}$ の有限な部分被覆である。したがって、$X$ はコンパクトである。$\square$

例 9.4 (実数直線やEuclid空間はコンパクトでない)

実数直線 $\mathbb{R}$ はコンパクトでない。このことを示すには、$\mathbb{R}$ のある開被覆 $\mathcal{U}$ であって、有限な部分被覆をもたないようなものが存在することを示せばよい。そこで、$\mathcal{U}=\{(-m,m)\,|\,m\in\mathbb{N}\}$ という $\mathbb{R}$ の開被覆を考える。この開被覆 $\mathcal{U}$ が有限な部分被覆をもたないことを示せばよい。 そこで、$\mathcal{U}$ が有限な部分被覆 $\mathcal{V}$ をもったとして矛盾を導こう。$\mathcal{V}$ は、ある有限個の $m_1,\ldots,m_k\in\mathbb{N}$ を用いて $\mathcal{V}=\{(-m_i, m_i)\,|\,i=1,\ldots,k\}$ と表される。そこで、$m=\max\{m_i\,|\,i=1,\ldots,k\}$ とおけば、$\bigcup_{V\in\mathcal{V}} V=\bigcup_{i=1}^k (-m_i, m_i)=(-m,m)$ となるから、$m\in\mathbb{R}\setminus\bigcup_{V\in\mathcal{V}} V$ である。したがって、$\bigcup_{V\in\mathcal{V}} V\neq\mathbb{R}$ となるから、これは $\mathcal{V}$ が $\mathbb{R}$ の被覆であることに反する。これで、$\mathbb{R}$ の開被覆 $\mathcal{U}$ に有限な部分被覆が存在しないことが示され、よって $\mathbb{R}$ はコンパクトでないことが示された。

より一般に、Euclid空間 $\mathbb{R}^n$ はコンパクトではない。それを示すには、$\mathbb{R}^n$ の開被覆 $\mathcal{U}$ として、原点を中心とする開球体による開被覆 $\mathcal{U}=\{B(0,m)\,|\,m\in\mathbb{N}\}$ を考え、さきほどと同様に議論すればよい。$\square$

例 9.5 (補有限位相はコンパクト)

$X$ を集合とし、これを補有限位相(例 1.8)により位相空間とみなす。このとき、$X$ がコンパクトとなることを示そう。 そこで、$X$ の開被覆 $\mathcal{U}$ を任意に与える。$\mathcal{U}$ が有限な部分被覆をもつことを示したい。空集合 $\emptyset$ が $\mathcal{U}$ に属している場合は、$\mathcal{U}\setminus\{\emptyset\}$ ももちろん $X$ の開被覆となるから、はじめから $\emptyset\notin\mathcal{U}$ としてよい。このとき、補有限位相の定義より、 $$ \mathcal{U}=\{X\setminus F_\lambda\,|\,\lambda\in\Lambda\} $$ と表すことができる。ただし、$F_\lambda$ は $X$ の有限部分集合である。$\Lambda=\emptyset$ の場合は $\mathcal{U}$ が $X$ の被覆であることにより $X=\emptyset$ なので、$\emptyset (\subset\mathcal{U})$ が $\mathcal{U}$ の有限な部分被覆である。よって、$\Lambda\neq\emptyset$ としてよいので、一つ $\lambda\in\Lambda$ を取り固定する。このとき、$F_\lambda=\{x_1,\ldots, x_n\}$ と表すことができる。$\mathcal{U}$ は $X$ の被覆なので、各 $i=1,\ldots, n$ に対して $x_i\in X\setminus F_{\lambda_i}$ となるような $\lambda_i\in\Lambda$ が取れる。そこで、 $$ \mathcal{U}'=\{X\setminus F_\lambda\}\cup\{X\setminus F_{\lambda_i}\,|\,i=1,\ldots,n\} $$ とおけば、$\mathcal{U}'$ は $\mathcal{U}$ の有限な部分被覆である。これで $X$ がコンパクトとなることが示された。$\square$


位相空間の部分集合には、断りのない限り相対位相を考えるのであった。このことから、位相空間の部分集合についても、自動的にコンパクト性の概念が定義されていることになる。すなわち、位相空間 $X$ の部分集合 $K$ がコンパクトであるとは、$K$ が $X$ からの相対位相についてコンパクトになることである。このような状況では、$K$ は $X$ のコンパクト集合(compact set)である、という言い方をすることもある。

定義 9.6 (部分集合の被覆)

$X$ を位相空間とし、$A$ を $X$ の部分集合とする。$\mathcal{U}$ が $A$ の $X$ における開被覆であるとは、$\mathcal{U}$ の要素がすべて $X$ の開集合であって、かつ $A\subset\bigcup_{U\in\mathcal{U}} U$ となることをいう。また、$\mathcal{U}$ が $A$ の $X$ における開被覆であるとき、$\mathcal{V}$ が $\mathcal{U}$ の部分被覆であるとは、$\mathcal{V}\subset\mathcal{U}$ であって、かつ $\mathcal{V}$ が $A$ の $X$ における開被覆であることをいう。$\square$

この用語は少々紛らわしいので注意する。位相空間 $X$ の部分集合 $A$ に対して、「$A$ の開被覆」と言った場合、その要素は部分空間 $A$ の開集合であるが、「$A$ の $X$ における開被覆」と言った場合は、その要素は $X$ の開集合である。

命題 9.7 (部分集合のコンパクト性の特徴づけ)

$X$ を位相空間とし、$A$ を $X$ の部分集合とする。このとき、次は同値である。

  • (1) $A$ は($X$ からの相対位相について)コンパクトである。
  • (2) $A$ の $X$ における任意の開被覆は、有限な部分被覆をもつ。

証明

(1) $\Rightarrow$ (2) $A$ がコンパクトであるとする。(2) を示すため、$\mathcal{U}$ を $A$ の $X$ における開被覆とする。このとき、$\mathcal{V}=\{U\cap A\,|\,U\in\mathcal{U}\}$ とおけば、$\mathcal{V}$ は $A$ の開被覆である。よって、$A$ のコンパクト性から $\mathcal{V}$ は有限部分被覆 $\mathcal{V}'=\{V_1,\ldots, V_n\}$ をもつ。$\mathcal{V}'\subset\mathcal{V}$ だから、各 $i=1,\ldots,n$ に対して $V_i$ はある $U_i\in\mathcal{U}$ を用いて $V_i=U_i\cap A$ と表される。いま $(\bigcup_{i=1}^n U_i)\cap A=\bigcup_{i=1}^n (U_i\cap A)=\bigcup_{i=1}^n V_i=A$ なので、$A\subset \bigcup_{i=1}^n U_i$ である。よって、$\{U_1,\ldots,U_n\}$ は $\mathcal{U}$ の有限な部分被覆であるから、これで (2) が示された。

(2) $\Rightarrow$ (1) $X$ の部分集合 $A$ に対して (2) が成り立つとする。$A$ がコンパクトであることをいうため、$A$ の開被覆 $\mathcal{V}$ を任意に与える。$\mathcal{V}=\{V_\lambda\,|\,\lambda\in\Lambda\}$ と添字づければ、各 $\lambda\in\Lambda$ に対して $V_\lambda$ は部分空間 $A$ の開集合だから、$X$ の開集合 $U_\lambda$ を選んで $U_\lambda\cap A=V_\lambda$ とできる。このとき、$A\subset\bigcup_{\lambda\in\Lambda} U_\lambda$ なので $\mathcal{U}=\{U_\lambda\,|\,\lambda\in\Lambda\}$ は $A$ の $X$ における開被覆である。よって、(2) により、$\mathcal{U}$ の有限個の要素 $U_{\lambda_1},\ldots, U_{\lambda_n}$ で $A\subset \bigcup_{i=1}^n U_{\lambda_i}$ となるものが存在する。このとき $\mathcal{V}'=\{U_{\lambda_i}\cap A\,|\,i=1,\ldots,n\}=\{V_{\lambda_i}\,|\,i=1,\ldots,n\}$ とおくと、$\mathcal{V}'$ は $\mathcal{V}$ の有限な部分被覆である。$\square$

命題 9.8 (コンパクト集合の有限和はコンパクト)

$X$ を位相空間とし、$K_1,\ldots, K_n\subset X$ がそれぞれコンパクトであるとする。このとき、$\bigcup_{i=1}^n K_i$ はコンパクトである。

証明

$n=1$ の場合は明らかである。$n=2$ の場合を示せば、あとは帰納法で一般の場合が示されるから、あとは $n=2$ の場合のみ考えればよい。命題 9.7を用いて、$K_1\cup K_2$ がコンパクトとなることを示そう。$\mathcal{U}$ を $K_1\cup K_2$ の $X$ における開被覆とする。すると、$\mathcal{U}$ は $K_1$ の $X$ における開被覆だから、命題 9.7により有限個の $U_1,\ldots, U_k\in\mathcal{U}$ が存在して、$K_1\subset \bigcup_{i=1}^k U_i$ となる。同様に、有限個の $V_1,\ldots, V_l\in\mathcal{U}$ が存在して、$K_2\subset \bigcup_{j=1}^l V_j$ となる。このとき、$K_1\cup K_2\subset \bigcup_{i=1}^k U_i\cup\bigcup_{j=1}^l V_j$ である。よって、命題 9.7により、$K_1\cup K_2$ はコンパクトである。$\square$

命題 9.9 (コンパクト空間の閉集合はコンパクト)

$X$ をコンパクト空間とし、$F$ を $X$ の閉集合とする。このとき、$F$ はコンパクトである。

証明

$F$ をコンパクト空間 $X$ の閉集合とする。命題 9.7を用いて、$F$ がコンパクトとなることを示そう。$\mathcal{U}$ を $F$ の $X$ における開被覆とする。このとき、$\mathcal{V}=\mathcal{U}\cup\{X\setminus F\}$ は $X$ の開被覆である。よって、$X$ のコンパクト性により、$\mathcal{V}$ の有限部分被覆 $\mathcal{V}'$ が存在する。$\mathcal{U}'=\mathcal{V}'\setminus\{X\setminus F\}$ とおけば、$\mathcal{U}'$ は $\mathcal{U}$ の有限な部分被覆である。よって 命題 9.7により、$F$ はコンパクトである。$\square$

命題 9.10 (コンパクト空間の連続像はコンパクト)

$X$ をコンパクト空間、$Y$ を位相空間とし、$f\colon X\to Y$ を連続写像とする。このとき、$f(X)$ はコンパクトである。

証明

$f\colon X\to Y$ をコンパクト空間 $X$ からの連続写像とする。命題 9.10を用いて、$f(X)$ がコンパクトとなることを示そう。$\mathcal{U}=\{U_\lambda\,|\,\lambda\in\Lambda\}$ を $f(X)$ の $Y$ における開被覆とする。すると、$\{f^{-1}(U_\lambda)\,|\,\lambda\in\Lambda\}$ は $X$ の開被覆となるから、その有限な部分被覆 $\{f^{-1}(U_{\lambda_1}),\ldots, f^{-1}(U_{\lambda_n})\}$ が存在する。このとき、すぐに確かめられるように、$\{U_{\lambda_1},\ldots, U_{\lambda_n}\}$ は $\mathcal{U}$ の有限な部分被覆を与えている。よって、命題 9.10により $f(X)$ はコンパクトである。$\square$

コンパクト性は開被覆の言葉で定義されたが、場合によっては補集合をとって閉集合によって定式化するのが便利である。それを述べるための用語を定義する。

定義 9.11 (有限交叉的な集合族)

$X$ を位相空間とし、$\mathcal{A}$ をその部分集合族とする。$\mathcal{A}$ が有限交叉的である、あるいは有限交叉性(finite intersection property)をもつとは、任意の有限部分集合 $\mathcal{A}'\subset\mathcal{A}$ に対して $\bigcap_{A\in\mathcal{A}'} A\neq\emptyset$ となることをいう。$\square$

命題 9.12 (コンパクト性と有限交叉的な閉集合族)

位相空間 $X$ に対して、次は同値である。

  • (1) $X$ はコンパクトである。
  • (2) $X$ の閉集合からなる任意の有限交叉的な族 $\mathcal{F}$ に対して、$\bigcap_{F\in\mathcal{F}}F\neq\emptyset$ である。

証明

(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。$X$ をコンパクト空間とし、$\mathcal{F}$ を $X$ の閉集合からなる有限交叉的な族とする。$\bigcap_{F\in\mathcal{F}} F=\emptyset$ であったとして矛盾を導こう。このとき $\bigcup_{F\in\mathcal{F}} (X\setminus F)=X\setminus \bigcap_{F\in\mathcal{F}} F=X\setminus\emptyset=X$ であるから、$\mathcal{U}=\{X\setminus F\,|\,F\in\mathcal{F}\}$ は $X$ の開被覆である。$X$ はコンパクトであるから、$\mathcal{U}$ は有限な部分被覆 $\mathcal{U}'$ をもつが、$\mathcal{U}'$ は $F_1,\ldots, F_n\in\mathcal{F}$ を用いて $\mathcal{U}'=\{X\setminus F_i\,|\,i=1,\ldots,n\}$ という形に表される。すると $X\setminus \bigcap_{i=1}^n F_i=\bigcup_{i=1}^n (X\setminus F_i)=X$ であるから、$\bigcap_{i=1}^n F_i=\emptyset$ である。これは、$\mathcal{F}$ が有限交叉的であることに反する。

(2) $\Rightarrow$ (1) を示す。(2) を仮定し、$X$ がコンパクトでないとして矛盾を導こう。このとき開被覆 $\mathcal{U}$ であって、有限な部分被覆をもたないようなものが存在する。$\mathcal{F}=\{X\setminus U\,|\,U\in\mathcal{U}\}$ は閉集合からなる族である。いま、有限個の $F_1,\ldots, F_n\in\mathcal{F}$ を任意に与えると、ある $U_i\in\mathcal{U}$ に対して $F_i=X\setminus U_i\,(i=1,\ldots,n)$ となるが、このとき $\mathcal{U}$ の取り方から $\bigcup_{i=1}^n U_n\neq X$ なので、$\bigcap_{i=1}^n F_i=\bigcap_{i=1}^n (X\setminus U_i)=X\setminus \bigcup_{i=1}^n U_i\neq\emptyset$ となる。したがって、$\mathcal{F}$ は有限交叉的な族であるから、(2) により、$\bigcap_{F\in\mathcal{F}} F\neq\emptyset$ である。すると、$X\setminus \bigcup_{U\in\mathcal{U}} U=\bigcap_{U\in\mathcal{U}} (X\setminus U)=\bigcap_{F\in\mathcal{F}} F\neq\emptyset$ であるから、$\bigcup_{U\in\mathcal{U}} U\neq X$ であり、これは $\mathcal{U}$ が $X$ の被覆であることに反する。$\square$

命題 9.13 (コンパクト空間の空でない閉集合の減少列の交わりは空でない)

$X$ をコンパクト空間、$(F_i)_{i=1}^\infty$ を $X$ の空でない閉集合の列で、各 $i\in\mathbb{N}$ に対して $F_{i+1}\subset F_i$ を満たすものとする。このとき、$\bigcap_{i=1}^\infty F_i$ は空でない。

証明

$\mathcal{F}=\{F_i\,|\,i\in\mathbb{N}\}$ とおくと、$\mathcal{F}$ は $X$ の閉集合からなる族であるが、$\mathcal{F}$ は有限交叉的である。実際、任意に有限個の $i_1,\ldots,i_n\in\mathbb{N}$ を与えると、$i_0=\max\{i_1,\ldots,i_n\}$ とおくとき、仮定により $F_{i_1}\cap\cdots\cap F_{i_n}=F_{i_0}\neq\emptyset$ となる。したがって、$X$ のコンパクト性と命題 9.12により、$\bigcap_{F\in\mathcal{F}} F\neq\emptyset$ である。すなわち、$\bigcap_{i=1}^\infty F_i\neq\emptyset$ である。$\square$

例 9.14 (命題 9.13 でコンパクト性は本質的)

命題 9.13の主張は、$X$ がコンパクトであるという仮定なしには成り立たない。たとえば、$\mathbb{R}$ はコンパクトでない空間であるが(例 9.4)、$\mathbb{R}$ の空でない閉集合 $F_i$ として $F_i=[i, \infty)\,(i\in\mathbb{N})$ を考えると、$F_{i+1}\subset F_i$ であるが $\bigcap_{i=1}^\infty F_i=\emptyset$ である。$\square$


位相空間の開基が与えられているとき、コンパクト性を判定するには、開基の要素による被覆だけを考慮すれば十分である。

命題 9.15 (開基と部分集合のコンパクト性)

$X$ を位相空間とし、$A$ をその部分集合とする。$\mathcal{B}$ を $X$ の開基とするとき、以下は同値である。

  • (1) $A$ はコンパクトである。
  • (2) $\mathcal{V}\subset\mathcal{B}$ であるような $A$ の $X$ における任意の開被覆 $\mathcal{V}$ は有限な部分被覆をもつ。

証明

(1) $\Rightarrow$ (2) は命題 9.7から明らかである。(2) $\Rightarrow$ (1) を示そう。(2) を仮定し、$A$ の $X$ における開被覆 $\mathcal{U}$ を任意に与える。各 $x\in A$ に対して、$x\in U_x$ であるような $U_x\in\mathcal{U}$ を選び、さらに $x\in B_x\subset U_x$ となるような $B_x\in\mathcal{B}$ を選ぶ。このとき、$\mathcal{V}=\{B_x\,|\,x\in X\}$ は $A$ の $X$ における開被覆だから、 (2) により有限な部分被覆 $\{B_{x_i}\,|\,i=1,\ldots,n\}$ をもつ。このとき、$\{U_{x_i}\,|\,i=1,\ldots,n\}$ は $\mathcal{U}$ の有限な部分被覆となる。したがって、命題 9.7により、$A$ はコンパクトである。$\square$

上で $A=X$ の場合を考えると、次を得る。

命題 9.16 (開基とコンパクト性)

$\mathcal{B}$ を位相空間 $X$ の開基とするとき、以下は同値である。

  • (1) $X$ はコンパクトである。
  • (2) $\mathcal{V}\subset\mathcal{B}$ であるような $X$ の任意の開被覆 $\mathcal{V}$ は有限な部分被覆をもつ。$\square$

実数直線において有界閉区間がコンパクトになることを示そう。この事実はコンパクト空間の様々な例の基盤をなしているものであり、証明にもそれなりの手数がかかる。そこで、いままでの「命題」にかえて「定理」の題名をつけることにしよう。

定理 9.17 (有界閉区間はコンパクト)

$a,$ $b$ を $a<b$ であるような実数とする。このとき、閉区間 $[a, b]=\{x\in\mathbb{R}\,|\,a\leq x\leq b\}$ はコンパクトである。

証明

命題 9.7を用いて証明しよう。 そこで、$[a, b]$ の $\mathbb{R}$ における開被覆 $\mathcal{V}$ を任意に与える。閉区間 $[a, x]$ が $\mathcal{V}$ の有限個の要素で覆われているような $x\in [a,b]$ の全体を $S$ としよう。すなわち、 $$ S=\left\{x\in [a, b]\,\bigg|\, \mathcal{V}\text{ の有限部分集合 }\mathcal{V}'\text{ で }[a, x]\subset \bigcup_{V\in\mathcal{V}'} V\text{ となるものが存在する}\right\} $$ とする。ただし、ここでは $[a,a]=\{a\}$ と定義する。このとき、$b\in S$ であることを示せばよい。

$a\in S$ であるから、$S\neq\emptyset$ である。そこで、$x_0=\sup S$ とすると、$a\leq x_0\leq b$ である。$a\in V$ となるような $V\in\mathcal{V}$ を選ぶと、$a<a'\leq b$ となる $a'$ で $[a, a']\subset V$ となるものが存在する。このとき $[a, a']$ は $\mathcal{V}$ の一個の要素 $V$ で覆われているから、$a'\in S$ となり、よって $x_0=\sup S\geq a'>a$ である。したがって、$a<x_0\leq b$ である。

次に、$x_0=b$ であることを示そう。そうでないとすると、$a<x_0<b$ である。$x_0\in V$ となるような $V\in\mathcal{V}$ を選ぶと、$a<a'<x_0<b'<b$ かつ $[a', b']\subset V$ となるような $a', b'$ が存在する。このとき、$x_0$ は $S$ の上界だが $a'$ は $S$ の上界ではないので、ある $a'<a^{\prime\prime}\leq x_0$ となる $a^{\prime\prime}$ が存在して、$[a, a^{\prime\prime}]$ は $\mathcal{V}$ の有限個の要素で覆われる。ところが、$[a', b']$ は $\mathcal{V}$ の一個の要素 $V$ で覆われているので、$[a, a^{\prime\prime}]\cup[a', b']=[a, b']$ も $\mathcal{V}$ の有限個の要素で覆われる。したがって、$b'\in S$ となる。よって、$x_0<b'\leq \sup S=x_0$ となり、矛盾する。これで、$x_0=b$ が示された。

最後に、$b\in S$ を示そう。これは、ほぼ前段落の議論の繰り返しである。$b\in V$ となるような $V\in\mathcal{V}$ を選ぶと、$a<b'<b(=x_0)$ となる $b'$ で $[b', b]\subset V$ となるものが存在する。このとき $b'$ は $S$ の上界ではなく $b$ は $S$ の上界だから、ある $b'<b^{\prime\prime}\leq b$ となる $b^{\prime\prime}$ が存在して、$[a, b^{\prime\prime}]$ は $\mathcal{V}$ の有限個の要素で覆われる。ところが、$[b', b]$ は $\mathcal{V}$ の一個の要素 $V$ で覆われているので、$[a, b^{\prime\prime}]\cup[b', b]=[a, b]$ は $\mathcal{V}$ の有限個の要素で覆われる。したがって、$b\in S$ である。$\square$

二つのコンパクト空間の直積がコンパクトになることを示そう。

定理 9.18 (二個のコンパクト空間の直積はコンパクト)

$X,$ $Y$ がコンパクト空間であるとき、直積空間 $X\times Y$ はコンパクトである。

証明

$X,$ $Y$ をコンパクト空間とする。$X\times Y$ は開基として $$ \mathcal{B}=\{U\times V\,|\,U\text{ は }X\text{ の開集合, }V\text{ は }Y\text{ の開集合 }\} $$ をもつのであった。したがって、命題 9.16によれば、$X\times Y$ のコンパクト性を示すには、$\mathcal{B}$ の要素からなる任意の開被覆が有限な部分被覆をもつと言えれば十分である。そこで、$\mathcal{U}$ を $$ \mathcal{U}=\{U_\lambda\times V_\lambda\,|\,\lambda\in\Lambda\} $$ という形の $X\times Y$ の開被覆とする。ここで、$U_\lambda,$ $V_\lambda$ はそれぞれ $X,$ $Y$ の開集合とする。このとき、$\mathcal{U}$ が有限な部分被覆をもつことを示せばよい。

さて、$x\in X$ を固定すると、$\{x\}\times Y$ は $Y$ と同相なのでコンパクトであり、$\mathcal{U}$ は $\{x\}\times Y$ の $X\times Y$ における開被覆である。よって、命題 9.7により、有限個の $\lambda_{x,1},\ldots,\lambda_{x,n(x)}\in\Lambda$ を選んで $$ \{x\}\times Y\subset \bigcup_{i=1}^{n(x)} (U_{\lambda_{x,i}}\times V_{\lambda_{x,i}}) $$ とできる。このとき、すべての $i\in\{1,\ldots,n(x)\}$ に対して $(U_{\lambda_{x,i}}\times V_{\lambda_{x,i}})\cap(\{x\}\times Y)\neq\emptyset$ であるとしてよい。すると、$U_x=\bigcap_{i=1}^{n(x)} U_{\lambda_{x,i}}$ とおくとき $U_x$ は $x$ の開近傍となる。$\{U_x\,|\,x\in X\}$ はコンパクト空間 $X$ の開被覆だから、有限個の $x_1,\ldots, x_n\in X$ が存在して、$X=\bigcup_{i=1}^n U_{x_i}$ となる。このとき $$ \mathcal{U}'=\{U_{\lambda_{x_i, j}}\times V_{\lambda_{x_i, j}}\,|\,i\in\{1,\ldots, n\}, j\in\{1,\ldots, n(x_i)\}\} $$ とおけば、$\mathcal{U}'$ が $\mathcal{U}$ の有限な部分被覆であることを示そう。定義から、$\mathcal{U}'$ が $\mathcal{U}$ の有限部分集合であることは明らかである。したがって、$\mathcal{U}'$ が $X\times Y$ の被覆であることを示せばよい。そこで、$(x,y)\in X\times Y$ とする。$X=\bigcup_{i=1}^n U_{x_i}$ なので、ある $i\in\{1,\ldots, n\}$ が存在して、$x\in U_{x_i}$ である。$\{x_i\}\times Y\subset \bigcup_{j=1}^{n(x_i)} (U_{\lambda_{x_i,j}}\times V_{\lambda_{x_i,j}})$ なので、ある $j\in\{1,\ldots, n(x_i)\}$ が存在して、$(x_i, y)\in U_{\lambda_{x_i,j}}\times V_{\lambda_{x_i,j}}$ となる。とくに、$y\in V_{\lambda_{x_i, j}}$ である。一方、$U_{x_i}$ の定義により $U_{x_i}\subset U_{\lambda_{x_i, j}}$ なので、$x\in U_{\lambda_{x_i, j}}$ である。したがって、$(x, y)\in U_{\lambda_{x_i, j}}\times V_{\lambda_{x_i,j}}\in\mathcal{U}'$ となる。これで、$\mathcal{U}'$ は被覆となることが分かり、したがって $\mathcal{U}'$ は $\mathcal{U}$ の有限部分被覆となることが分かった。以上で、$X\times Y$ のコンパクト性が示された。$\square$

系 9.19 (有限個のコンパクト空間の直積はコンパクト)

$X_1,\ldots, X_n$ をコンパクト空間とするとき、直積空間 $X_1\times\cdots\times X_n$ はコンパクトである。

証明

$X_1\times\cdots\times X_{n+1}$ と $(X_1\times\cdots\times X_n)\times X_{n+1}$ は、対応 $$ (x_1,\ldots, x_{n+1})\mapsto ((x_1,\ldots, x_n), x_{n+1}) $$ により同相となる(この事実を示すには、注意 8.6を用いて、この対応とその逆対応とがそれぞれ連続写像であることを確認すればよい)。このことを用いれば、示すべき主張は定理 9.18から $n$ についての帰納法によって証明される。$\square$

Euclid空間 $\mathbb{R}^n$ の部分集合 $A$ が有界(bounded)であるとは、ある $R>0$ が存在して、原点 $0$ を中心とする半径 $R$ の開球体 $B(0,R)$ に $A$ が含まれることをいう。

定理 9.20 ($\mathbb{R}^n$ のコンパクト集合)

$\mathbb{R}^n$ の部分集合 $A$ に対して、次は同値である。

  • (1) $A$ はコンパクトである。
  • (2) $A$ は $\mathbb{R}^n$ の有界な閉集合である。

証明

(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。対偶をとり、$A$ が有界でないかまたは $A$ が閉集合でないならば、$A$ がコンパクトでないことを示そう。まず、$A$ が有界でないとする。このときは $$ \{B(0,i)\,|\,i\in\mathbb{N}\} $$ は $A$ の $\mathbb{R}^n$ における開被覆で、有限な部分被覆をもたない。よって、$A$ はコンパクトでない。次に、$A$ が $\mathbb{R}^n$ の閉集合でないとする。このときは 点 $p\in\operatorname{Cl} A\setminus A$ が存在する。$p\notin A$ であることから $$ \mathcal{U}=\{\mathbb{R}^n\setminus \overline{B}(p,1/i)\,|\,i\in\mathbb{N}\} $$ は $A$ の $\mathbb{R}^n$ における開被覆となる。しかも、$\mathcal{U}$ は有限な部分被覆をもたない。実際、もし $\mathcal{U}$ が有限部分被覆をもったとすれば、ある $i\in\mathbb{N}$ に対して $A\subset \mathbb{R}^n\setminus\overline{B}(p,1/i)$ である。これから $A\cap B(p,1/i)=\emptyset$ でなければならないが、これは命題 4.5により $p\in\operatorname{Cl} A$ であることに反する。よって、$\mathcal{U}$ は $A$ の $\mathbb{R}^n$ における開被覆であって有限な部分被覆をもたないから、$A$ はコンパクトでない。以上で、$A$ が有界でないときも、$A$ が閉集合でないときも、$A$ はコンパクトでないことが示された。よって、(1) $\Rightarrow$ (2) の対偶が証明された。

(2) $\Rightarrow$ (1) を示す。$A$ を $\mathbb{R}^n$ の有界閉集合とする。このとき、$A$ は有界だから、ある $R>0$ が存在して、$A\subset B(0,R)$ である。さらに、$B(0, R)$ は閉区間 $[-R, R]$ を $n$ 個直積した $[-R, R]^n=[-R, R]\times\cdots\times [-R, R]$ に含まれるから、$A\subset [-R, R]^n$ である。定理 9.17により、$[-R, R]$ はコンパクトであるから、系 9.19 により $[-R, R]^n$ はコンパクトである。$A$ は $\mathbb{R}^n$ の閉集合であるから、命題 6.8により、$A$ は $[-R, R]^n$ の閉集合である。したがって、命題 9.9により、$A$ はコンパクトである。$\square$


例 9.21 ($n$ 次元球面、$n$ 次元球体はコンパクト)

$n$ 次元単位球面 $$ S^n=\{(x_1,\ldots, x_{n+1})\in\mathbb{R}^{n+1}\,|\,x_1^2+\cdots+x_{n+1}^2=1\} $$ は、$\mathbb{R}^{n+1}$ の有界な閉集合であるからコンパクトである。同様に、$n$ 次元単位閉球体 $$ D^n=\{(x_1,\ldots, x_n)\in\mathbb{R}^n\,|\,x_1^2+\cdots+x_n^2\leq 1\} $$ も、$\mathbb{R}^n$ の有界な閉集合であるからコンパクトである。 $\square$

次の命題は、「有界な閉区間上の連続関数は最大値をとる」という微積分の定理の一般化である。

命題 9.22 (コンパクト空間上の実数値連続関数は最大値をとる)

$X$ を空でないコンパクト空間とし、$f\colon X\to\mathbb{R}$ を連続関数とする。このとき、$f$ は最大値および最小値をとる。すなわち、$x_0\in X$ および $x_1\in X$ が存在して、任意の $x\in X$ に対して $f(x_0)\leq f(x)\leq f(x_1)$ が成り立つ。

証明

$X$ を空でないコンパクト空間、$f\colon X\to\mathbb{R}$ を連続とすると、像 $f(X)$ は $\mathbb{R}$ の空でないコンパクト集合である。よって、定理 9.20により、$f(X)$ は $\mathbb{R}$ の空でない有界な閉集合である。したがって、例 4.6により、$m=\inf f(X),$ $M=\sup f(X)$ とおけば $m, M\in f(X)$ であり、よって $x_0, x_1\in X$ であって $f(x_0)=m,$ $f(x_1)=M$ となるものが存在する。$m,$ $M$ はそれぞれ $f(X)$ の下界、上界であるから、任意の $x\in X$ に対して $m\leq f(x)\leq M$ すなわち $f(x_0)\leq f(x)\leq f(x_1)$ である。$\square$

次の命題の証明には、定理 9.18の証明と似た議論が含まれていることに注意しよう。

命題 9.23 (コンパクト空間に沿った射影は閉写像)

$X$ を位相空間、$Y$ をコンパクト空間とする。このとき、直積空間 $X\times Y$ からの射影 $p\colon X\times Y\to X$ は閉写像である。

証明

$F\subset X\times Y$ を閉集合とする。$p(F)$ が $X$ の閉集合であることを示そう。そのためには $X\setminus p(F)$ が開集合であることを示せばよい。そこで、$x\in X\setminus p(F)$ を任意に与える。すると、 $(\{x\}\times Y)\cap F=p^{-1}(x)\cap F=\emptyset$ であるから、$\{x\}\times Y\subset (X\times Y)\setminus F$ である。よって、各 $y\in Y$ に対して、$(x,y)$ は直積空間 $X\times Y$ の開集合 $(X\times Y)\setminus F$ の要素であるから、$X$ の開集合 $U_y$ と $Y$ の開集合 $V_y$ を $$ (x,y)\in U_y\times V_y\subset (X\times Y)\setminus F $$ となるように選べる。すると、$\{x\}\times Y\subset\bigcup_{y\in Y} (U_y\times V_y)$ であるから、$\{x\}\times Y$ のコンパクト性により、有限個の $y_1,\ldots, y_n\in Y$ を $$ \{x\}\times Y\subset \bigcup_{i=1}^n (U_{y_i}\times V_{y_i}) $$ となるように選べる。すると $Y=\bigcup_{i=1}^n V_{y_i}$ である。また、$U=\bigcap_{i=1}^n U_{y_i}$ とおけば、$U$ は $x$ の開近傍である。さらに、 $$ p^{-1}(U)=U\times Y\subset \bigcup_{i=1}^n (U_{y_i}\times V_{y_i})\subset\bigcup_{y\in Y} (U_y\times V_y)\subset (X\times Y)\setminus F $$ である。よって、$U\cap p(F)=\emptyset$ つまり $U\subset X\setminus p(F)$ であるから、$X\setminus p(F)$ が $X$ の開集合、つまり $p(F)$ が $X$ の閉集合であることが示された。$\square$

実は、上の命題 9.23で述べた性質は、コンパクト性を特徴づけている。つまり、次のことが成り立つ。

定理 9.24 (閉写像によるコンパクト性の特徴づけ)

位相空間 $Y$ に対して、次の二つの条件は同値である。

  • (1) $Y$ はコンパクト空間である。
  • (2) 任意の位相空間 $X$ に対して、射影 $p\colon X\times Y\to X$ は閉写像である。

証明

(1) $\Rightarrow$ (2) は、命題 9.23そのものである。

(2) $\Rightarrow$ (1) を、対偶をとることで証明する。そこで、$Y$ をコンパクトでない空間とする。目標は、位相空間 $X$ と閉集合 $A\subset X\times Y$ であって、射影 $p\colon X\times Y\to X$ について $p(A)$ が $X$ の閉集合でないものを構成することである。$Y$ はコンパクトでないから、命題 9.12により、$Y$ の閉集合からなる有限交叉的な族 $\mathcal{F}$ であって、$\bigcap_{F\in\mathcal{F}} F=\emptyset$ となるものが存在する。$\mathcal{F}$ の要素の有限個の共通部分全体を $\mathcal{F}'$ とすると、$\mathcal{F}'$ も有限交叉的であって、$\bigcap_{F\in\mathcal{F}'} F=\emptyset$ である。さらに、$\mathcal{F}'$ は有限個の共通部分について閉じている。つまり、$F_1,\ldots, F_n\in\mathcal{F}'$ ならば $\bigcap_{i=1}^n F_i\in\mathcal{F}'$ である。そこで、$\mathcal{F}$ を $\mathcal{F}'$ に置き換えて、はじめから、$\mathcal{F}$ は有限個の共通部分について閉じているとしてよい。

$\mathcal{F}$ に属していない点 $\infty$ を考え、集合 $X=\mathcal{F}\cup\{\infty\}$ を考える。この $X$ に位相を導入して位相空間を作ろう。ただし、このままでは記号が少し分かりにくいので、$F\in\mathcal{F}$ を $X$ の点と思うときは $p_F$ と書くことにしよう。この記号によれば $X=\{p_F\,|\,F\in\mathcal{F}\}\cup\{\infty\}$ である。各 $F\in\mathcal{F}$ に対して、$X$ の部分集合 $U_F$ を $$ U_F=\{p_{F'}\,|\,F'\in\mathcal{F},\,F'\subset F\}\cup\{\infty\} $$ で定義する。その上で、$X$ の部分集合族 $\mathcal{B}$ を $$ \mathcal{B}=\{\{p_F\}\,|\,F\in\mathcal{F}\}\cup\{U_F\,|\,F\in\mathcal{F}\} $$ で定義する。いま、$\mathcal{F}$ は有限個の共通部分について閉じていたから、$F, F'\in\mathcal{F}$ に対して $U_{F\cap F'}$ が定義され、しかも簡単に確かめられるように $U_F\cap U_{F'}=U_{F\cap F'}$ となる。よって、$\mathcal{B}$ は命題 3.9の条件(OB1), (OB2)を満たすことが分かる。そこで、$\mathcal{B}$ を開基として生成される位相を $X$ に与える(命題 3.10)。このとき、直積空間 $X\times Y$ の次のような部分集合 $A$ を考える。 $$ A=\{(p_F, y)\,|\,F\in\mathcal{F},\, y\in F\} $$ このとき、$A$ が $X\times Y$ の閉集合であることを示そう。そのためには $(X\times Y)\setminus A$ が開集合であるといえればよい。そこで $u\in (X\times Y)\setminus A$ を任意に与える。このとき、(i) $u=(p_F, y)$ の形であるか、(ii) $u=(\infty, y)$ の形であるかで場合分けしよう。

(i) の場合、$y\notin F$ なので、$V=\{p_F\}\times (X\setminus F)$ とおけば $V$ は $u$ の開近傍で、$V\subset (X\times Y)\setminus A$ を満たす。

(ii) の場合、$\bigcap_{F\in\mathcal{F}} F=\emptyset$ であったことから、$F\in\mathcal{F}$ であって $y\notin F$ となるものが存在する。そこで、$V=U_F\times (X\setminus F)$ とおけば $V$ は $u$ の開近傍である。さらに、$V\subset (X\times Y)\setminus A$ となることもすぐに確かめられる。

以上により、いずれにしても $u$ の開近傍 $V$ で $V\subset (X\times Y)\setminus A$ となるものが存在することが分かったので、$(X\times Y)\setminus A$ は $X\times Y$ の開集合、つまり $A$ は $X\times Y$ の閉集合であると分かった。

$\mathcal{F}$ は有限交叉的であるから、$\emptyset\notin\mathcal{F}$ である。このことから、射影 $p\colon X\times Y\to X$ について $p(A)=\{p_F\,|\,F\in\mathcal{F}\}=X\setminus\{\infty\}$ である。あとは、$X\setminus\{\infty\}$ が $X$ の閉集合でないこと、つまり $\{\infty\}$ が $X$ の開集合でないことを示せば証明が終わる。もし、$\{\infty\}$ が $X$ の開集合なら、ある $F\in\mathcal{F}$ が存在して、$\{\infty\}=U_F$ となる。しかし、$p_F\in U_F\setminus\{\infty\}$ であるからこれは成り立ち得ない。よって、$\{\infty\}$ は $X$ の開集合ではなく、これで証明が終わった。$\square$

注意 9.25 (集合に新しい点を付加できること)

上の議論では、$\mathcal{F}$ に属していない点 $\infty$ を新たに付け加えるという操作を行ったが、このような $\infty$ が実際に存在することを証明しておこう。一般に集合 $S$ が与えられたときに、ある集合 $u$ であって $u\notin S$ となるものが存在することを示せばよい。いま、$S$ の冪集合 $\mathcal{P}(S)$ を考えると、集合論でよく知られているように $\mathcal{P}(S)$ は $S$ よりも濃度が大きいから、$\mathcal{P}(S)\not\subset S$ である。そこで、$\mathcal{P}(S)\setminus S$ から一つ要素を取ってそれを $u$ とすればよい。$\square$


位相空間論10:連結性

連結性とは、直観的には位相空間が「つながっている」ことを表す概念である。例えば、実数直線 $\mathbb{R}$ は連結であるのに対して、それから一点を除いて得られる部分空間 $\mathbb{R}\setminus\{0\}$ は連結ではないことが示される。後者の空間 $\mathbb{R}\setminus\{0\}$ は直観的に $(-\infty, 0)$ と $(0, +\infty)$ の二つの「つながった部分」に分かれることが見て取れるが、このように空間を構成する「つながった部分」も正確に定義することができ、連結成分と呼ばれる。



定義 10.1 (連結性)

位相空間 $X$ が連結(connected)であるとは、$X$ が次の2つの条件を満たすことをいう。

  • (1) $X$ は空集合ではない。
  • (2) $X=U\cup V$ かつ $U\cap V=\emptyset$ を満たす $X$ の空でない開集合 $U,$ $V$ が存在しない。$\square$

上の定義の (2) は、位相空間 $X$ を「二つの離れた部分 $U,$ $V$ に切り離すことができない」という状況を表したものと考えられる。なお、条件 (1) は、文献によっては仮定しないことがある。この条件 (1) を入れておくと、位相空間が連結であることが、後で説明する連結成分がちょうど一個であることと同値になる。連結性は、開集合の言葉で書かれていることから分かるように位相的性質(注意 5.24)である。つまり、$X$ と $Y$ が同相な位相空間で、$X$ が連結ならば、$Y$ も連結である。

位相空間 $X$ の部分集合 $A$ が $X$ の開集合であると同時に閉集合であるとき、$A$ を $X$ の開かつ閉集合(clopen set)という。位相空間の定義から、空集合 $\emptyset$ と $X$ は常に $X$ の開かつ閉集合である。以下のように、位相空間が連結であることには何通りかの言い方がある。

命題 10.2 (連結性の言い換え)

空でない位相空間 $X$ に対して、次は同値である。

  • (1) $X$ は連結である。
  • (2) $X=F\cup H$ かつ $F\cap H=\emptyset$ となる $X$ の空でない閉集合 $F,$ $H$ が存在しない。
  • (3) $X$ は $\emptyset,$ $X$ 以外の開かつ閉集合をもたない。
  • (4) 連続写像 $f\colon X\to\{0,1\}$ は定値写像に限る。ただし、$\{0,1\}$ は離散位相をもつとする。

証明

$X$ を空でない位相空間とする。

(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。対偶を示すため、(2) の否定が成り立つとすると $X=F\cup H,$ $F\cap H=\emptyset$ となるような $X$ の空でない閉集合 $F,$ $H$ が存在する。このとき、$U=X\setminus F$, $V=X\setminus H$ とすると $U,$ $V$ は開集合であるが、$U=H,$ $V=F$ なので $X=U\cup V,$ $U\cap V=\emptyset$ であり $U,$ $V$ は空でない。よって、$X$ は連結でない。

(2) $\Rightarrow$ (3) を示す。対偶を示すため、(3) の否定が成り立つとすると、$\emptyset\neq A\neq X$ であるような $X$ の開かつ閉集合 $A$ が存在する。このとき、$F=A,$ $H=X\setminus A$ とおけば、$F,$ $H$ は空でない閉集合で、$F\cup H=X,$ $F\cap H=\emptyset$ となる。よって (2) の否定が成り立つ。

(3) $\Rightarrow$ (4) を示す。対偶を示すため、定値写像でない $f\colon X\to\{0, 1\}$ が存在すると仮定する。$A=f^{-1}(\{0\})=\{x\in X\,|\,f(x)=0\}$ とおこう。$\{0\}$ は $\{0, 1\}$ の開かつ閉集合であるので、$A=f^{-1}(\{0\})$ は $X$ の開かつ閉集合となる。もし $A=X$ なら $f$ は $0$ への定値写像となり $f$ の取り方に反するので、$A\neq X$ である。また、もし $A=\emptyset$ なら $f$ は $1$ への定値写像となり、やはり $f$ の取り方に反するので $A\neq\emptyset$ である。以上により、(3) の否定が成り立つ。

(4) $\Rightarrow$ (1) を示す。対偶を示すため、$X$ が連結でないとすると、$X$ の空でない開集合 $U,$ $V$ で $X=U\cup V,$ $U\cap V=\emptyset$ となるものが存在する。写像 $f\colon X\to \{0,1\}$ を $x\in U$ のとき $f(x)=0$ とし、$x\in V$ のとき $f(x)=1$ とすることで定義すれば、$f^{-1}(\{0\})=U$ と $f^{-1}(\{1\})=V$ はともに開集合である。これと $f^{-1}(\emptyset)=\emptyset,$ $f^{-1}(\{0,1\})=X$ により、$f$ による $\{0, 1\}$ のすべての開集合の逆像が $X$ の開集合となるので、$f$ は連続である。しかも、$f$ は定値写像ではない。よって、(4) の否定が成り立つ。$\square$

上の証明ですべて対偶をとって示していたことからも分かるように、連結性よりもむしろその否定の方が、論証の上ではしばしば扱いやすい。以後では、写像 $f\colon X\to Y$ と $y\in Y$ に対して、一点集合 $\{y\}$ の逆像 $f^{-1}(\{y\})$ を $f^{-1}(y)$ と略記する。この記法によれば上の証明での $f^{-1}(\{0\}),$ $f^{-1}(\{1\})$ はそれぞれ $f^{-1}(0),$ $f^{-1}(1)$ となる。

例 10.3 (離散位相・密着位相・補有限位相の場合)

まず、ごく簡単な例を挙げよう。一点だけからなる位相空間は連結である。二点以上からなる離散空間は、連結でない。空でない密着空間は、連結である。$X$ が無限集合である場合、$X$ に補有限位相を入れたものは連結である。$\square$

位相空間の部分集合については、断りのない限り相対位相を考えることにしていた。このことから、位相空間の部分集合についても、自動的に連結性の概念が定義されていることになる。つまり、位相空間 $X$ の部分集合 $A$ が連結であるとは、$A$ が $X$ からの相対位相について連結になることである。このとき、$A$ は $X$ の連結集合(connected set)であると言うこともある。

命題 10.4 (部分集合の連結性の特徴づけ)

$X$ を位相空間とし、$A$ を $X$ の空でない部分集合とする。このとき、次は同値である。

  • (1) $A$ は($X$ からの相対位相について)連結である。
  • (2) $A$ の空でない部分集合 $B,$ $C$ であって条件
$A=B\cup C,\, B\cap \operatorname{Cl}_X C=C\cap \operatorname{Cl}_X B=\emptyset\quad(\star)$

を満たすものは存在しない。

証明

(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。対偶を示すため、(2) の否定が成り立つこと、つまり $A$ の空でない部分集合 $B,$ $C$ であって ($\star$) を満たすものが存在することを仮定しよう。すると、$A=B\cup C$ および $B\cap C=\emptyset$ が成り立つ。さらに、命題 6.15を用いると $$ \operatorname{Cl}_A B=A\cap \operatorname{Cl}_X B=(B\cup C)\cap\operatorname{Cl}_X B=(B\cap\operatorname{Cl}_X B)\cup (C\cap\operatorname{Cl}_X B)=B\cup\emptyset=B $$ となるから、$B$ は $A$ の閉集合である。同様に、$C$ は $A$ の閉集合である。以上から、命題 10.2(2) の条件により、$A$ は連結でないことが分かる。

(2) $\Rightarrow$ (1) を示す。やはり対偶を示すため、$A$ が連結でないと仮定する。すると、命題 10.2(2) の条件により、$A$ の空でない閉集合 $B,$ $C$ であって $A=B\cup C,$ $B\cap C=\emptyset$ となるものが存在する。いま、$B$ が $A$ の閉集合であることと命題 6.15により $B=\operatorname{Cl}_A B=A\cap\operatorname{Cl}_X B$ である。これと $B\cap C=\emptyset$ により、 $$ C\cap \operatorname{Cl}_X B=(C\cap A)\cap\operatorname{Cl}_X B=C\cap(A\cap\operatorname{Cl}_X B)=C\cap B=\emptyset $$ となる。同様に、$B\cap\operatorname{Cl}_X C=\emptyset$ であることも分かる。以上から $B,$ $C$ は条件 $(\star)$ を満たすので、(2) の否定が示された。$\square$

例 10.5 (連結でない空間)

$\mathbb{R}$ の部分空間 $A=[0,2)\setminus\{1\}$ を考えると、$A$ は連結でない。実際、$B=[0,1),$ $C=(1,2)$ とおくと、$B,$ $C$ は空でなく、$A=B\cup C,$ $B\cap C=\emptyset$ である。さらに、$\operatorname{Cl}_\mathbb{R} B=[0,1],$ $\operatorname{Cl}_\mathbb{R} C=[1,2]$ であるから、$B\cap\operatorname{Cl}_\mathbb{R} A=C\cap\operatorname{Cl}_\mathbb{R} B=\emptyset$ である。よって、命題 10.4により、$A$ は連結でない。

もちろん、連結性の定義に従っても $A$ が連結でないことは確かめられる。実際、$U=[0,1),$ $V=(1,2)$ とおけば、$U=(\infty, 1)\cap A,\, V=(1,2)\cap A$ と表されることから $U,$ $V$ はそれぞれ $A$ の空でない開集合で、しかも $A=U\cup V,$ $U\cap V=\emptyset$ である。したがって、$A$ は連結でない。$\square$

有界閉区間が連結であることを証明しよう。これはコンパクト性と並んで有界閉区間のもつ重要な性質である。

定理 10.6 (有界閉区間の連結性)

$a,$ $b$ を $a<b$ であるような実数とする。このとき、閉区間 $[a, b]=\{x\in\mathbb{R}\,|\,a\leq x\leq b\}$ は連結である。

証明

$a\in[a, b]$ であるから、$[a, b]$ は空でない。$[a, b]$ が連結でなかったとしよう。すると、$[a, b]$ の空でない閉集合 $F,$ $H$ であって、$F\cup H=[a,b],$ $F\cap H=\emptyset$ であるようなものが存在する(命題 10.2(2)の条件を用いた)。$[a, b]$ は $\mathbb{R}$ の閉集合であるから、$F,$ $H$ は $\mathbb{R}$ の閉集合でもあることに注意する。 $a\in F$ または $a\in H$ であるが、必要なら $F,$ $H$ を入れ換えて、$a\in F$ であるとしてよい。いま $H\neq\emptyset$ であるので、下限 $\inf H$ が存在する。そこで、$c=\inf H$ と定義しよう。$a$ は $H$ の下界であるから、下限の定義により $a\leq c$ である。また、$H$ は $[a, b]$ の空でない部分集合だから $b$ より大きい数は $H$ の下界になり得ないが、いま $c$ は $H$ の一つの下界なのだから $c\leq b$ である。結局、$c\in [a, b]$ である。

$c\in H$ となることを示そう。$H$ は $\mathbb{R}$ の閉集合であったから、そのためには $c\in\operatorname{Cl}_\mathbb{R} H$ を言えばよい。そこで、$\varepsilon>0$ を任意に与える。$c$ は $H$ の下界で $c+\varepsilon$ は $H$ の下界でないから、$u\in H$ で $c\leq u<c+\varepsilon$ を満たすものが存在する。したがって、$[c, c+\varepsilon)\cap H\neq\emptyset$ であり、よって $(c-\varepsilon, c+\varepsilon)\cap H\neq\emptyset$ である。これが任意の $\varepsilon>0$ に対して成り立つので、命題 4.5により、$c\in \operatorname{Cl}_\mathbb{R} H$ である。これで $c\in H$ が示された。

次に、$c\in F$ となることを示そう。もし、$c=a$ なら、$a\in F$ だからこれは成り立っている。そこで、$a<c\leq b$ とする。この場合、$c$ が $H$ の下界であることから $[a, c)\cap H=\emptyset$ である。よって、$[a, c)\subset [a, b]\setminus H=F$ である。したがって、$[a, c]=\operatorname{Cl}_\mathbb{R} [a, c)\subset\operatorname{Cl}_\mathbb{R} F=F$ であり、よって、$c\in F$ である。

以上により、$c\in H$ かつ $c\in F$ であるから、$c\in F\cap H$ である。これは、$F\cap H=\emptyset$ であることに反する。これで、$[a, b]$ が連結であることが示された。$\square$

命題 10.7 (共通点をもつ連結集合の和集合)

$X$ を位相空間とし、$\{A_\lambda\,|\,\lambda\in\Lambda\}$ を $X$ の連結な部分集合からなる族(ただし、$\Lambda\neq\emptyset$)とする。このとき、$\bigcap_{\lambda\in\Lambda} A_\lambda\neq\emptyset$ であるならば $\bigcup_{\lambda\in\Lambda} A_\lambda$ は連結である。

証明

点 $p\in\bigcap_{\lambda\in\Lambda} A_\lambda$ を一つ取り固定する。$A=\bigcup_{\lambda\in\Lambda} A_\lambda$ とおく。各 $\lambda\in\Lambda$ に対して、$A_\lambda$ は連結であるから空でない。このことと $\Lambda\neq\emptyset$ により、$A$ は空でない。$A$ の連結性を示すため、命題 10.2(4)の条件を用いる。そこで、$f\colon A\to\{0,1\}$ を連続写像とする。$f$ が定値写像であることを言えばよい。それを言うには、任意の $x, y\in A$ に対して $f(x)=f(y)$ を示せばよい。そこで、$x, y\in A$ とする。ある $\lambda, \mu\in\Lambda$ に対して、$x\in A_\lambda,$ $y\in A_\mu$ である。いま $A_\lambda$ と $A_\mu$ は連結だから、命題 10.2(1)$\Rightarrow$(4) により、制限 $f|_{A_\lambda},$ $f|_{A_\mu}$ はそれぞれ定値写像である。よって、$x, p\in A_\lambda$ であることから $f(x)=f(p)$ を得て、$p, y\in A_\mu$ であることから $f(p)=f(y)$ を得る。以上から、$f(x)=f(y)$ が得られる。これで $f$ が定値写像であることが分かり、命題 10,2(4)$\Rightarrow$(1) により $A$ は連結であることが分かった。$\square$


実数直線 $\mathbb{R}$ の部分集合が連結であることは、それが区間であることと同値である。正確に述べれば、次が成り立つ。

命題 10.8 ($\mathbb{R}$ の連結部分集合)

実数直線 $\mathbb{R}$ の部分集合 $A$ に対して、次は同値である。

  • (1) $A$ は連結である。
  • (2) $A$ は次のうちのいずれかである。
    • (i) $[a, b]\,(-\infty<a\leq b<+\infty)$
    • (ii) $[a, b)\,(-\infty<a<b\leq+\infty)$
    • (iii) $(a, b]\,(-\infty\leq a<b<+\infty)$
    • (iv) $(a, b)\,(-\infty\leq a<b\leq+\infty)$

ここで、(i) においては $[a, a]=\{a\}$ とする。

証明

(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。$A$ を $\mathbb{R}$ の連結な部分集合とする。連結性の定義から $A$ は空ではない。そこで、$a=\inf A,$ $b=\sup A$ とすると、$a\leq b$ である。ただし、$A$ が下に有界でないときは $a=-\infty$ とし、$A$ が上に有界でないときは $b=+\infty$ とする。すると $A\subset [a, b]$ である。$a=b$ のときは $A=\{a\}$ となるから (i) の場合となる。$a<b$ であるとき、ある $c\in (a, b)$ に対して $c\notin A$ であれば、$U=A\cap (-\infty, c),$ $V=A\cap (c,+\infty)$ とおくとき $U,$ $V$ は $A$ の空でない開集合で、$A=U\cup V,$ $U\cap V=\emptyset$ となるから $A$ の連結性に反する。よって、$(a, b)\subset A$ である。あとは、$a,$ $b$ が $A$ に属するか否かに応じて、(i)-(iv) のどれかの場合になる。すなわち、$a\in A,$ $b\in A$ のときは (i) が成り立ち、$a\in A,$ $b\notin A$ のときは (ii) が成り立ち、$a\notin A,$ $b\in A$ のときは (iii) が成り立ち、$a\notin A,$ $b\notin A$ のときは (iv) が成り立つ。

(2) $\Rightarrow$ (1) を示す。(i) の場合は定理 10.6により $A$ は連結である。(ii) の場合、各 $c\in (a, b)$ に対して定理 10.6により $[a,c]$ は連結であって $a\in \bigcap_{c\in (a,b)} [a,c],$ $[a,b)=\bigcup_{c\in (a, b)} [a,c]$ であるから、命題 10.7により $A=[a, b)$ は連結である。(iii) の場合も同様に $A=(a,b]$ は連結であると分かる。(iv) の場合は、$a<c_0<b$ となる $c_0$ を一つ選べば、 $$ (a, b)=\bigcup_{c\in (a, c_0),\,c'\in (c_0, b)} [c, c'] $$ と表されることから、やはり命題 10.7により $A=(a, b)$ は連結であることが分かる。$\square$

注意 10.9 (実数直線は連結)

とくに開区間 $(-\infty,+\infty)$ は $\mathbb{R}$ そのものだから、上の命題 10.8により $\mathbb{R}$ は連結となる。

命題 10.10 (連結空間の連続像は連結)

$X$ を連結な位相空間、$Y$ を位相空間とし、$f\colon X\to Y$ を連続写像とする。このとき、$f(X)$ は連結である。

証明

$f\colon X\to Y$ を連結な位相空間 $X$ からの連続写像とする。連結性の定義により $X$ は空でないから、$f(X)$ は空でない。$f(X)$ が連結であることを示すため、命題 10.2(4)の条件を使おう。$g\colon f(X)\to\{0,1\}$ を連続写像とする。$\hat{f}\colon X\to f(X)$ を $f$ の終域を $f(X)$ に制限して得られる連続写像とすると、$g\circ\hat{f}\colon X\to\{0,1\}$ は $X$ の連結性と命題 10.2(1)$\Rightarrow$(4)により定値写像である。このことから、$g$ は定値写像であることが分かる。実際、$y, y'\in f(X)$ とすると、$y=f(x)$, $y'=f(x')$ となる $x, x'\in X$ が存在するが、このとき $g(y)=g(f(x))=g\circ \hat{f}(x)=g\circ \hat{f}(x')=g(f(x'))=g(y')$ である。よって、$g$ は定値写像であり、したがって命題 10.2(4)$\Rightarrow$(1)により $f(X)$ は連結である。$\square$


命題 10.11 (連結性と閉包)

$X$ を位相空間、$A$ を $X$ の連結な部分集合とする。このとき、$X$ の部分集合 $B$ が $A\subset B\subset \operatorname{Cl}_X A$ を満たすならば $B$ は連結である。$\square$

証明

連結性の定義から $A$ は空でないから、$B$ も空でないことに注意する。まず、$B=\operatorname{Cl}_X A$ である特別な場合に命題を証明する。命題 10.2(4)を用いて $\operatorname{Cl}_X A$ の連結性を示すため、$f\colon \operatorname{Cl}_X A\to\{0, 1\}$ を連続写像とする。$f|_A\colon A\to\{0,1\}$ は $A$ の連結性と命題 10.2により定値写像である。例えば、$f|_A$ が $0$ への定値写像であるとしよう($1$ への定値写像であっても同様である)。このとき、$A\subset f^{-1}(0)$ であり、$f^{-1}(0)$ は $\operatorname{Cl}_X A$ の閉集合であるから $X$ の閉集合でもある。よって、命題 4.2により$\operatorname{Cl}_X A\subset f^{-1}(0)$ であるが、これは $f\colon\operatorname{Cl}_X A\to\{0,1\}$ が $0$ への定値写像であることを意味する。したがって命題 10.2により、$\operatorname{Cl}_X A$ は連結である。

次に、一般の $A\subset B\subset\operatorname{Cl}_X A$ を満たす $B$ について、$B$ が連結であることを示す。いま命題 6.15により $$ \operatorname{Cl}_B A=B\cap \operatorname{Cl}_X A=B $$ であることに注意しよう。さきほど示したことで $X$ を $B$ とすれば、$\operatorname{Cl}_B A$ は連結と分かる。したがって、$B$ は連結である。$\square$

連結な位相空間の直積は連結となる。これは任意個の直積について成立するが、まず比較的簡単な有限個の直積の場合を証明してから、一般の場合を証明する。

命題 10.12 (連結な位相空間の有限個の直積は連結)

有限個の連結な位相空間 $X_1,\ldots, X_n\, (n\in\mathbb{N})$ に対して、直積空間 $X_1\times\cdots\times X_n$ は連結である。

証明

$n=1$ の場合は明らかである。$n=2$ の場合を考える。連結性の定義により、$X_1\neq\emptyset$ であるから、$x_{1,0}\in X_1$ を取って固定する。各 $x_2\in X_2$ に対して、 $$ Y_{x_2}=(X_1\times\{x_2\})\cup (\{x_{1,0}\}\times X_2) $$ とおく。$X_1\times\{x_2\},$ $\{x_{1,0}\}\times X_2$ はそれぞれ $X_1,$ $X_2$ と同相だから、それぞれ連結であり、$(X_1\times\{x_2\})\cap(\{x_{1,0}\}\times X_2)=\{(x_{1,0}, x_2)\}\neq\emptyset$ なので、命題 10.7により $Y_{x_2}$ は連結である。連結性の定義により $X_2\neq\emptyset$ であって $\{x_{1,0}\}\times X_2\subset \bigcap_{x_2\in X_2} Y_{x_2}$ であるから、$\bigcap_{x_2\in X_2} Y_{x_2}\neq\emptyset$ である。さらに、$X_1\times X_2=\bigcup_{x_2\in X_2} Y_{x_2}$ であるから、命題 10.7により $X_1\times X_2$ は連結である。これで、$n=2$ の場合が示された。

$n\geq 3$ の場合は、$X_1\times\cdots\times X_n$ と $(X_1\times\cdots\times X_{n-1})\times X_n$ が同相であることを使えば、$n=2$ の場合を用いて帰納法によって示される。$\square$


命題 10.13 (連結な位相空間の直積は連結)

連結な位相空間からなる族 $(X_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ に対して、直積空間 $\prod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ は連結である。

証明

$X=\prod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ とおき、各 $\lambda\in\Lambda$ に対して $p_\lambda\colon X\to X_\lambda$ を射影とする。各 $\lambda\in\Lambda$ に対して、 連結性の定義により $X_\lambda\neq\emptyset$ だから点 $x_{\lambda,0}\in X_\lambda$ を一つ選び固定する。$x_0=(x_{\lambda,0})_{\lambda\in\Lambda}\in X$ とする。とくに $X$ は $x_0$ を要素にもつから空ではない。$\Lambda$ の空でない有限部分集合全体の集合を $\mathcal{F}$ と書くことにしよう。各 $F\in\mathcal{F}$ に対して、 $$ X_F=\{(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}\in X\,|\,\text{ 任意の }\lambda\in \Lambda\setminus F\text{ に対して }x_\lambda=x_{\lambda_0}\} $$ とする。すると $X_F$ は有限個の連結な空間の直積 $\prod_{\lambda\in F} X_\lambda$ と同相であるから、命題 10.12により $X_F$ は連結である。さらに、$x_0\in\bigcap_{F\in\mathcal{F}} X_F$ であるから、$\bigcap_{F\in\mathcal{F}} X_F\neq\emptyset$ である。よって、$X'=\bigcup_{F\in\mathcal{F}} X_F$ とおくと $X'$ は命題 10.7により連結である。

最後に、$X'$ が $X$ において稠密であること、すなわち $X=\operatorname{Cl}_X X'$ であることを示そう。これが言えれば、命題 10.11により $X$ が連結であることが示される。そこで、$x=(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}\in X$ を任意に与え、$x$ の近傍 $V$ を任意に与える。すると、有限個の相異なる $\lambda_1,\ldots,\lambda_n\in\Lambda\,(n\in\mathbb{N})$ と $x_{\lambda_i}$ の $X_{\lambda_i}$ における開近傍 $U_i$ が存在して $\bigcap_{i=1}^n p_{\lambda_i}^{-1}(U_i)\subset V$ となる。このとき $F=\{\lambda_1,\ldots,\lambda_n\}\in\mathcal{F}$ とおき、$x'\in X$ を $$ p_\lambda(x')= \begin{cases} x_\lambda & \lambda\in F\text{ のとき}\\ x_{\lambda,0} & \lambda\in\Lambda\setminus F\text{ のとき} \end{cases} $$ によって定義すれば、$x'\in X_F\cap \bigcap_{i=1}^n p_{\lambda_i}^{-1}(U_i)\subset X'\cap V$ である。よって、$X'\cap V\neq\emptyset$ である。$V$ は $x$ の任意の近傍であったから、$x\in\operatorname{Cl}_X X'$ となる。これで $X\subset \operatorname{Cl}_X X'$ が示された。逆の包含 $\operatorname{Cl}_X X'\subset X$ は明らかだから、これで $X=\operatorname{Cl}_X X'$ が分かり、$X$ が連結であることが示された。$\square$

連結性は、位相空間が「つながっている」ことを、いわば「二つの離れた部分に切り離せない」こととして定式化したものであった。これとは別の方法として、「つながっている」ことを「どの二つの点の間もその空間の中の曲線で結ぶことができる」こととして定式化することもできる。それが次に説明する弧状連結性である。

一般に位相空間 $X$ に対して、連続写像 $f\colon [0, 1]\to X$ を $X$ におけるといい、$f(0),$ $f(1)$ をそれぞれ道 $f$ の始点終点と呼ぶのであった(例 6.13)。

定義 10.14 (弧状連結性)

位相空間 $X$ が弧状連結(path-connected)であるとは、$X$ が空集合でなく、かつ任意の $x, y\in X$ に対して、$x$ を始点とし $y$ を終点とする $X$ 内の道が存在することをいう。$\square$

位相空間 $X$ の部分集合 $A$ が弧状連結であるということは、もちろん、$A$ が $X$ からの相対位相について弧状連結であることを意味する。弧状連結性も位相的性質の一つである。

命題 10.15 (弧状連結ならば連結)

弧状連結な位相空間は連結である。

証明

$X$ を弧状連結な位相空間とする。弧状連結性の定義から $X$ は空集合ではない。$X$ が連結でなかったとすると、$X$ の空でない開集合 $U,$ $V$ であって $X=U\cup V,$ $U\cap V=\emptyset$ となるものが存在する。点 $x\in U$ および $y\in V$ をそれぞれ一つ取り固定する。$X$ は弧状連結であったから、$X$ 内の道 $f\colon [0,1]\to X$ であって $f(0)=x,$ $f(1)=y$ となるものが存在する。このとき、$U'=f^{-1}(U),$ $V'=f^{-1}(V)$ とおけば、$U',$ $V'$ は $[0,1]$ の開集合である。しかも、$0\in U',$ $1\in V'$ であるから $U',$ $V'$ は空でなく、$U'\cup V'=[0,1],$ $U'\cap V'=\emptyset$ である。これは、定理 10.6により $[0,1]$ が連結であることに反する。$\square$

連結性について成り立つ性質の中には、弧状連結性についても同様に成り立つものもある。次の二つの命題はそのようなものである。

命題 10.16 (弧状連結な空間の連続像は弧状連結)

$X$ を弧状連結な位相空間、$Y$ を位相空間、$f\colon X\to Y$ を連続写像とする。このとき、$f(X)$ は弧状連結である。

証明

$f\colon X\to Y$ を弧状連結な空間 $X$ からの連続写像とする。$X$ は弧状連結性の定義から空でないので、$f(X)$ も空でない。$f(X)$ の弧状連結性を示すため、$y, y'\in f(X)$ を任意に与える。すると $x, x'\in X$ であって $f(x)=y,$ $f(x')=y'$ となるものが存在する。$X$ は弧状連結だから、連続写像 $\alpha\colon [0,1]\to X$ で $\alpha(0)=x,$ $\alpha(1)=x'$ となるものが存在する。このとき、$f$ の終域を $f(X)$ に制限した連続写像を $\hat{f}\colon X\to f(X)$ とすれば $\hat{f}\circ\alpha\colon [0,1]\to f(X)$ は連続写像で、$\hat{f}\circ \alpha(0)=f(x)=y,$ $\hat{f}\circ \alpha(1)=f(x')=y$ となる。これで、$f(X)$ の弧状連結性が示された。$\square$

命題 10.17 (共通点をもつ弧状連結集合の和集合)

$X$ を位相空間とし、$\{A_\lambda\,|\,\lambda\in\Lambda\}$ を $X$ の弧状連結な部分集合からなる族(ただし、$\Lambda\neq\emptyset$)とする。このとき、$\bigcap_{\lambda\in\Lambda} A_\lambda\neq\emptyset$ であるならば $\bigcup_{\lambda\in\Lambda} A_\lambda$ は弧状連結である。

証明

点 $p\in\bigcap_{\lambda\in\Lambda} A_\lambda$ を一つ取り固定する。$A=\bigcup_{\lambda\in\Lambda} A_\lambda$ とおき、各 $\lambda\in\Lambda$ に対して、$i_\lambda\colon A_\lambda\to A$ を包含写像とする。各 $\lambda\in\Lambda$ に対して、$A_\lambda$ は弧状連結であるから空でない。このことと $\Lambda\neq\emptyset$ により、$A$ は空でない。$A$ の弧状連結性を示すため、任意に $x, y\in A$ を与える。ある $\lambda, \mu\in \Lambda$ が存在して、$x\in A_\lambda,$ $y\in A_\mu$ となる。すると $x, p\in A_\lambda$ であるから、$A_\lambda$ 内の道 $f\colon [0,1]\to A_\lambda$ が存在して、$f(0)=x,$ $f(1)=p$ となる。また、$p, y\in A_\mu$ であるから、$A_\mu$ 内の道 $g\colon [0,1]\to A_\mu$ が存在して、$g(0)=p,$ $g(1)=y$ となる。$i_\lambda\circ f\colon [0,1]\to A$ を再び $f$ で表す。同様に、$i_\mu\circ g\colon [0,1]\to A$ も再び $g$ で表す。このとき、$f(1)=p=g(0)$ なので、例 6.13で見たように、$A$ 内の道 $f, g\colon [0,1]\to A$ をつなぐことで、一つの道 $h\colon[0,1]\to A$ を $$ h(t)= \begin{cases} f(2t) & 0\leq t\leq 1/2\text{ のとき}\\ g(2t-1) & 1/2\leq t\leq 1\text{ のとき} \end{cases} $$ により定義できる。$h$ は $x$ を始点とし $y$ を終点とする $A$ 内の道だから、これで $A$ の弧状連結性が示された。$\square$


例 10.18 (空でない凸集合は弧状連結)

Euclid空間 $\mathbb{R}^n$ の部分集合 $A$ が凸集合(convex set)であるとは、任意の $x, y\in A$ と $t\in [0,1]$ に対して $(1-t)x+ty\in A$ が成り立つことをいう。図形的には、ある集合 $A\subset\mathbb{R}^n$ が凸集合であるとは、$A$ の点を両端とする線分が必ず $A$ に含まれることを意味している。

$\mathbb{R}^n$ の部分集合が空でない凸集合であるならば、$A$ は弧状連結である。実際、任意の $x, y\in A$ に対して、$f(t)=(1-t)x+ty$ により連続写像 $f\colon [0,1]\to A$ が定義され、これが $x$ を始点とし $y$ を終点とする $A$ 内の道を与えるからである。

実数直線 $\mathbb{R}$ において命題 10.8 (2)(i)-(iv) の部分集合はそれぞれ明らかに $\mathbb{R}$ の凸集合である。したがってそれらは弧状連結である。このことと命題 10.15から、$\mathbb{R}$ の部分集合について連結であることと弧状連結であることは同値であると分かる。しかし、この後例 10.21で見るように、$\mathbb{R}^2$ の部分集合には連結だが弧状連結ではないものがある。$\square$

例 10.19 (Euclid 空間内の球体は弧状連結)

Euclid空間 $\mathbb{R}^n$ における Euclidノルムを $\|\phantom{x}\|$ で表す。$n$ 次元単位閉球体 $$ D^n=\{x\in\mathbb{R}^n\,|\,\|x\|\leq 1\} $$ は凸集合である。実際、$x, y\in D^n,$ $t\in [0,1]$とすると $t\geq 0,\,$ $1-t\geq 0,\,$ $\|x\|, \|y\|\leq 1$ なので、 $$ \|(1-t)x+ty\|\leq\|(1-t)x\|+\|ty\|=(1-t)\|x\|+t\|y\|\leq (1-t)+t=1 $$ となり、よって $(1-t)x+ty\in D^n$ となるからである。したがって、例 10.18により $D^n$ は弧状連結であり、したがって命題 10.15により連結である。同様の議論により、$n$ 次元単位開球体 $$ \mathring{D}^n=\{x\in\mathbb{R}^n\,|\,\|x\|<1\} $$ も凸集合であることが分かる。よって、$\mathring{D}^n$ も弧状連結であり、したがって命題 10.15により連結である。

一般に、任意の $a\in\mathbb{R}^n$ と $r>0$ に対して、$\mathbb{R}^n$ 内の開球体および閉球体 $$ B(a,r)=\{x\in\mathbb{R}^n\,|\,\|x-a\|<r\},\quad\overline{B}(a,r)=\{x\in\mathbb{R}^n\,|\,\|x-a\|\leq r\} $$ が凸集合であることも同様に示される。よってこれらも弧状連結であり、したがって命題 10.15により連結となる。$\square$

例 10.20 (1次元以上の球面は弧状連結)

$n\geq 1$ とする。Euclid空間 $\mathbb{R}^{n+1}$ 内の $n$ 次元単位球面 $$ S^n=\left\{(x_1,\ldots,x_{n+1})\in\mathbb{R}^{n+1}\,\bigg|\,\sum_{i=1}^{n+1} x_i^2=1\right\} $$ が弧状連結であることを証明しよう。$S^n$ の部分集合 $D^n_+,$ $D^n_-$ を $$ D^n_+=\{(x_1,\ldots, x_{n+1})\in S^n\,|\,x_{n+1}\geq 0\},\quad D^n_-=\{(x_1,\ldots, x_{n+1})\in S^n\,|\,x_{n+1}\leq 0\} $$ で定義すると、$S^n=D^n_+\cup D^n_-$ である。また、$(1,0,\ldots,0)\in D^n_+\cap D^n_-$ なので、$D^n_+\cap D^n_-\neq\emptyset$ である。あとは、$D^n_+$ と $D^n_-$ がそれぞれ弧状連結だと言えれば、命題 10.17から $S^n$ の弧状連結性が示される。

そこで、連続写像 $f\colon D^n\to D^n_+$ を $$ f(x_1,\ldots, x_n)=\left(x_1,\ldots, x_n, \sqrt{1-\sum_{i=1}^n x_i^2}\right) $$ により定義する。これは全単射であり、逆 $f^{-1}\colon D^n_+\to D^n$ は $f^{-1}(x_1,\ldots, x_{n+1})=(x_1,\ldots, x_n)$ で与えられるから連続である。よって、$f$ は同相写像であり、$D^n$ と $D^n_+$ は同相であると分かる。例 10.19により $D^n$ は弧状連結であったから、$D^n_+$ も弧状連結である($f$ が同相写像であることまで使わなくても、$f$ が連続な全射であることに注意すれば、命題 10.16により $D^n_+=f(D^n)$ は弧状連結と分かる)。同様にして、$D^n_-$ も弧状連結と分かる。以上で、$S^n$ の弧状連結性が示された。

なお、$n=0$ のときは $S^0$ は $\mathbb{R}=\mathbb{R}^1$ の部分集合 $\{1, -1\}$ である。よって、$S^0$ は空でない開集合 $\{0\},$ $\{1\}$ の交わりのない和集合に書けるから、$S^0$ は連結ではなく、したがって命題 10.15により弧状連結でもない。$\square$

連結性と弧状連結性が実際に違う概念であることは、次の例から分かる。

例 10.21 (連結だが弧状連結でない例)

平面 $\mathbb{R}^2$ の次の部分集合 $A,$ $B$ を考える。 $$ A=\{0\}\times[-1,1],\quad B=\{(x,\sin(1/x))\,|\,0<x\leq 1\} $$ このとき $X=A\cup B$ とおくと $X$ は連結であるが弧状連結でないことを示そう。

まず、$B$ は連結である。実際、連続写像 $f\colon (0,1]\to B$ を $f(x)=(x, \sin(1/x))$ で定めれば、$f((0,1])=B$ であるから、$(0,1]$ が連結であること(命題 10.8)に注意すれば、 命題 10.10により $B$ は連結と分かる。

次に、$X\subset\operatorname{Cl}_{\mathbb{R}^2} B$ であることを示そう。そのためには、$A\subset\operatorname{Cl}_{\mathbb{R}^2} B$ を言えば十分である。そこで、$p\in A$ を任意に与える。ある $t\in[-1, 1]$ に対して、$p=(0,t)$ と表すことができる。$p$ の $\mathbb{R}^2$ における近傍 $V$ を任意に与える。$\varepsilon>0$ を十分小さくとると、$U=(-\varepsilon, \varepsilon)\times(t-\varepsilon, t+\varepsilon)$ とおくとき $U\subset V$ である。$N\in\mathbb{N}$ を、$1/2\pi N<\varepsilon$ となるように取る。中間値の定理により、$t=\sin \theta$ となる $\theta\in[\pi/2, 3\pi/2]$ が存在する。このとき、$(1/(2\pi N+\theta), t)\in U\cap B$ であるから、$U\cap B\neq\emptyset$ よって $V\cap B\neq\emptyset$ である。したがって、$p\in \operatorname{Cl}_{\mathbb{R}^2} B$ であり、これで $A\subset\operatorname{Cl}_{\mathbb{R}^2} B$ が示され、よって $X\subset\operatorname{Cl}_{\mathbb{R}^2} B$ であることが分かった。

いま示されたことから $B\subset X\subset\operatorname{Cl}_{\mathbb{R}^2} B$ となるので、$B$ の連結性とも合わせれば命題 10.11により $X$ は連結であると分かる。

次に、$X$ が弧状連結でないことを示そう。$X$ の二点 $a=(0,0)$ と $b=(1,\sin 1)$ を考える。$a$ を始点とし $b$ を終点とする $X$ 内の道 $f\colon [0,1]\to X$ が存在したとして矛盾を導こう。連続写像 $p\colon X\to\mathbb{R}$ を $p(x,y)=x$ で定義する。すると $p\circ f(0)=p(a)=0,$ $p\circ f(1)=p(b)=1$ である。 $$ t_0=\sup\{t\in [0,1]\,|\,p\circ f([0,t])=\{0\}\} $$ とする。すると $(p\circ f)^{-1}(0)$ は $[0, 1]$ の閉集合であって $[0,t_0)\subset (p\circ f)^{-1}(0)$ だから、命題 4.2により $[0, t_0]=\operatorname{Cl}_{[0,1]} [0,t_0)\subset (p\circ f)^{-1}(0)$ であり、よって $t_0\in(p\circ f)^{-1}(0)$ だから $p\circ f(t_0)=0$ である。これと $p\circ f(1)=1$ により、$t_0<1$ である。ある $s_0\in [-1,1]$ を用いて、$f(t_0)=(0,s_0)$ と表すことができる。(i) $s_0\neq 1$ の場合と (ii) $s_0=1$ の場合に分けて考えよう。

(i) の場合、$U=X\setminus([0,1]\times\{1\})$ は $f(t_0)$ の $X$ における開近傍である。よって、$\delta>0$ が存在して、$f([t_0, t_0+\delta))\subset U$ となる。$t_0$ の定義により、$t_0<t_1<t_0+\delta$ となる $t_1$ が存在して $p\circ f(t_1)>0$ となる。そこで、$N\in\mathbb{N}$ を $0<1/(2N+1/2)\pi<p\circ f(t_1)$ となるようにとる。いま $p\circ f(t_0)=0$ であるから、中間値の定理により、$t_0<t_2<t_1$ となる $t_2$ が存在して $p\circ f(t_2)=1/(2N+1/2)\pi$ となる。このとき $f(t_2)=(1/(2N+1/2)\pi, \sin (2N+1/2)\pi)=(1/(2N+1/2)\pi, 1)$ となるから、$f(t_2)\notin U$ となる。これは、$f({[t_0, t_0+\delta)})\subset U$ であったことに反する。

(ii) の場合は、(i) の場合の議論を次のように修正する。$U$ としては代わりに $U=X\setminus([0,1]\times\{-1\})$ を考え、$\delta$, $t_1$ は (i) と同様に取った上で、$N\in\mathbb{N}$ は $0<1/(2N-1/2)\pi<p\circ f(t_1)$ となるように取る。中間値の定理により $t_0<t_2<t_1$ となる $t_2$ が存在して $p\circ f(t_2)=1/(2N-1/2)\pi$ となるが、このとき $f(t_2)=(1/(2N-1/2)\pi, -1)\notin U$ となり、これから矛盾が得られる。

以上で、$a$ を始点として $b$ を終点とする $X$ 内の道が存在しないことが示されたので、$X$ が弧状連結でないことが示された。$\square$

注意 10.22 (連結だが弧状連結でない例についての注意)

例 10.21における $\mathbb{R}^2$ の部分集合 $X=A\cup B$ について、$X\subset \operatorname{Cl}_{\mathbb{R}^2} B$ を示した。この結果だけでも $X$ の連結性を示すには十分であったが、実際にはこの包含は等号であって、$X=\operatorname{Cl}_{\mathbb{R}^2} B$ が成り立つ。このことを示しておこう。そのためには、$\operatorname{Cl}_{\mathbb{R}^2} B\subset X$ を示せばよいのであるが、いま $B\subset X$ であるから、命題 4.2により、あとは $X$ が $\mathbb{R}^2$ の閉集合であることを示せば十分である。

そのためには、補集合 $\mathbb{R}^2\setminus X$ が $\mathbb{R}^2$ の開集合であるといえればよいが、それは $$ \mathbb{R}^2\setminus X=U_1\cup U_2\cup U_3\cup U_4 $$ と表すことで確認できる。ただし、 $$ \begin{aligned} U_1 &=\{(x,y)\in(0,\infty)\times\mathbb{R}\,|\,y>\sin(1/x)\}\\ U_2 &=\{(x,y)\in(0,\infty)\times\mathbb{R}\,|\,y<\sin(1/x)\}\\ U_3 &=\{(x,y)\in\mathbb{R}^2\,|\,x<0\text{ または }x>1\}\\ U_4 &=\{(x,y)\in\mathbb{R}^2\,|\,y<-1\text{ または }y>1\} \end{aligned} $$ とする。$U_3,$ $U_4$ は命題 5.13により $\mathbb{R}^2$ の開集合である。また、$U_1,$ $U_2$ は命題 5.13により $(0,\infty)\times \mathbb{R}$ の開集合であるが、$(0,\infty)\times \mathbb{R}$ は $\mathbb{R}^2$ の開集合であるので、命題 6.7により $U_1,$ $U_2$ は $\mathbb{R}^2$ の開集合である。以上により、$\mathbb{R}^2\setminus X$ は $\mathbb{R}^2$ の開集合 $U_1, U_2, U_3, U_4$ の和集合となるので、開集合となる。よって、$X$ は $\mathbb{R}^2$ の閉集合であり、これで $X=\operatorname{Cl}_{\mathbb{R}^2} B$ となることが分かった。

$X$ は明らかに $\mathbb{R}^2$ の有界な部分集合である。したがって、いま示した $X$ が $\mathbb{R}^2$ の閉集合であることを合わせれば、定理 9.20により $X$ はコンパクトであることも分かる。$\square$

注意 10.23 (弧状連結集合の閉包は必ずしも弧状連結ではない)

命題 10.11により連結な集合の閉包は常に連結となるが、このことは弧状連結性については成り立たない。実際、例 10.21における $B$ は、弧状連結な空間 $(0,1]$ の連続像となるので、弧状連結である。また、注意 10.22で見たように $X=\operatorname{Cl}_{\mathbb{R}^2} B$ である。しかし、例 10.21で示した通り、$X$ は弧状連結ではないのであった。$\square$

連結成分の概念を定義する。これは章の冒頭に述べたように位相空間の「つながった部分」を正確に定義したものである。

定義 10.24 (連結成分)

$X$ を位相空間とし、$x\in X$ とする。このとき、$X$ における $x$ の連結成分(connected component)とは、$x$ を要素にもつ $X$ の連結部分集合すべての和集合のことをいい、これを $C_X(x)$ で表す。すなわち、 $$ \mathcal{A}=\{A\subset X\,|\,A\text{ は連結で }x\in A\} $$ とおき、$\mathcal{A}=\{A_\lambda\,|\,\lambda\in\Lambda\}$ と添字づけるとき、$X$ における $x$ の連結成分 $C_X(x)$ は $C_X(x)=\bigcup_{\lambda\in\Lambda} A_\lambda$ で定義される。

位相空間 $X$ の部分集合 $C$ が $X$ の連結成分であるとは、ある $x\in X$ に対して $C=C_X(x)$ となることをいう。$\square$

ここでの $C_X(x)$ という記号はこのテキストのみの記号である。多くの文献では連結成分に特別の記号を与えない。なお、上の集合族 $\mathcal{A}$ は、空ではない。実際、常に $\{x\}\in\mathcal{A}$ となるからである。よって、$\mathcal{A}=\{A_\lambda\,|\,\lambda\in\Lambda\}$ と表したときの $\Lambda$ も空ではない。

命題 10.25 (連結成分の基本性質)

$X$ を位相空間とするとき、次が成り立つ。

  • (1) 各 $x\in X$ に対して、連結成分 $C_X(x)$ は $x$ を要素にもつ $X$ の連結部分集合のうち最大のものである。
  • (2) $x, y\in X$ に対して、$C_X(x)\cap C_X(y)\neq\emptyset$ ならば $C_X(x)=C_X(y)$ である。
  • (3) 各 $x\in X$ に対して、連結成分 $C_X(x)$ は $X$ の閉集合である。

証明

(1) 定義 10.24で用いた記号を用いる。上で見たように $\Lambda\neq\emptyset$ であり、しかも $x\in\bigcap_{\lambda\in\Lambda } A_\lambda$ であるから、$x\in C_X(x)$ であって、命題 10.7により $C_X(x)=\bigcup_{\lambda\in\Lambda} A_\lambda$ は連結である。また、$x$ を要素にもつ $X$ の任意の連結部分集合は、ある $\lambda\in\Lambda$ について $A_\lambda$ の形となるので、$C_X(x)$ に含まれる。したがって、$C_X(x)$ は $x$ を要素にもつ $X$ の連結部分集合のうち最大のものである。

(2) $x, y\in X,$ $C_X(x)\cap C_X(y)\neq\emptyset$ とする。(1)により、$C_X(x)$ と $C_X(y)$ は連結だから、命題 10.7により、$C_X(x)\cup C_X(y)$ は連結である。ところが、$x\in C_X(x)\cup C_X(y)$ なので、(1)における最大性から、$C_X(x)\cup C_X(y)\subset C_X(x)$ である。よって、$C_X(y)\subset C_X(x)$ である。同様に、$C_X(x)\subset C_X(y)$ も成り立つので、$C_X(x)=C_X(y)$ である。

(3) (1)により $C_X(x)$ は連結だから、命題 10.11により閉包 $\operatorname{Cl} C_X(x)$ は連結である。よって(1)における最大性から、$\operatorname{Cl} C_X(x)\subset C_X(x)$ である。よって、$\operatorname{Cl} C_X(x)=C_X(x)$ なので、$C_X(x)$ は $X$ の閉集合である。$\square$

命題 10.25(1)-(3)により、$X$ の連結成分の全体は、$X$ を互いに交わらない連結閉集合に分割する。

命題 10.26 (連結成分がちょうど一個であることと連結性)

$X$ を位相空間とする。次は同値である。

  • (1) $X$ は連結である。
  • (2) $X$ の連結成分がちょうど一個存在する。

証明

(1)$\Rightarrow$(2) を示す。$X$ を連結とする。$X$ は空でないから $x\in X$ が存在する。$C_X(x)$ は $X$ の連結成分だから、$X$ は少なくとも一個の連結成分をもつ。次に、$X$ の連結成分が高々一個であることを示すため、$x, y\in X$ とする。$C_X(x)=C_X(y)$ であることを示したい。$X$ の連結性と命題 10.25(1)により $X\subset C_X(x)$ なので、$C_X(x)=X$ である。まったく同様に $C_X(y)=X$ も分かるから、$C_X(x)=C_X(y)$ である。これで、$X$ の連結成分が高々一個であることも分かったので、$X$ の連結成分はちょうど一個存在することが示された。

(2)$\Rightarrow$(1) を示す。$X$ の連結成分がちょうど一個存在するとする。その連結成分を $C$ としよう。$X$ は連結成分の互いに交わりのない和集合に分割されるのだから、$C$ がただ一つの連結成分であることにより $X=C$ である。よって、$X$ は連結である。$\square$

位相空間の連結成分への分割は、簡単な場合には次の命題によって求められる。

命題 10.27 (開連結成分への分割)

$X$ を位相空間とし、$(A_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ は $X$ の連結な開集合からなる族で、$\lambda\neq\mu$ のとき $A_\lambda\cap A_\mu=\emptyset$ であり、$X=\bigcup_{\lambda\in\Lambda} A_\lambda$ であるとする。このとき、$X$ の連結成分全体の集合は $\{A_\lambda\,|\,\lambda\in\Lambda\}$ に等しい。

証明

まず、$X$ の任意の連結成分が $\{A_\lambda\,|\,\lambda\in\Lambda\}$ に属していることを示す。そのため、$X$ の連結成分 $C$ を任意に与える。ある $x\in X$ に対して、$C=C_X(x)$ である。$X=\bigcup_{\lambda\in\Lambda} A_\lambda$ なので、ある $\lambda\in\Lambda$ が存在して、$x\in A_\lambda$ である。$A_\lambda$ は連結なので、命題 10.26(1)により、$A_\lambda\subset C_X(x)$ である。もし、$A_\lambda\neq C_X(x)$ であれば、$U=A_\lambda,$ $V=C_X(x)\setminus A_\lambda$ とおくとき $U,$ $V$ は空でなく、$U\cup V=C_X(x),$ $U\cap V=\emptyset$ である。また、$U=A_\lambda$ は $X$ の開集合なので $C_X(x)$ の開集合でもあり、また $$ V=C_X(x)\cap\bigcup_{\mu\in\Lambda\setminus\{\lambda\}} A_\mu $$ となることから $V$ も $C_X(x)$ の開集合である。このような $U,$ $V$ が存在することは $C_X(x)$ の連結性に反する。よって、$A_\lambda=C_X(x)$ である。

次に、$\{A_\lambda\,|\,\lambda\in\Lambda\}$ の各要素が $X$ の連結成分であることを示す。任意に $\lambda\in\Lambda$ を与える。$A_\lambda$ は連結であるから、とくに空ではない。そこで、$x\in A_\lambda$ を一つとり固定する。$A_\lambda$ は連結なので、命題 10.26(1)により、$A_\lambda\subset C_X(x)$ である。この後は、前段落とまったく同じ議論により、$A_\lambda=C_X(x)$ でなければならないことが言える。よって、$A_\lambda$ は $X$ の連結成分である。$\square$

例 10.28 (連結成分の簡単な例)

$X=\mathbb{R}\setminus\{0\}$ とする。このとき、命題 10.27により、$X$ の連結成分が $A=(-\infty, 0)$ と $B=(0, +\infty)$ のちょうど二個であることが分かる。実際、$A,$ $B$ はともに $\mathbb{R}\setminus\{0\}$ の開集合で、それぞれ命題 10.8により連結であり、$A\cap B=\emptyset,$ $X=A\cup B$ となるからである。

また、$Y=\{(x,y)\in\mathbb{R}^2\,|\,xy=1\}$ とする。 $$ C=\{(x,y)\in\mathbb{R}^2\,|\,xy=1, x>0\}, \quad D=\{(x,y)\in\mathbb{R}^2\,|\,xy=1, x<0\} $$ とおけば、やはり $C,$ $D$ はともに $Y$ の開集合であり、$C\cap D=\emptyset,$ $Y=C\cup D$ である。また、連続写像 $f\colon (0,\infty)\to\mathbb{R}^2$ を $f(x)=(x,1/x)$ で定めれば $f({(0,\infty)})=C$ となるので、命題 10.10により $C$ は連結である。同様に、$D$ も連結である。以上から、命題 10.27により、$Y$ の連結成分は $C,$ $D$ のちょうど二個である。$\square$

例 10.29 ($\mathbb{Q}$ の連結成分)

有理数全体の集合 $\mathbb{Q}$ に $\mathbb{R}$ からの相対位相を入れる。このとき、$\mathbb{Q}$ の二点以上からなる部分集合は決して連結ではない。実際、$A\subset\mathbb{Q}$ が異なる二点 $x, y$ をもち $x<y$ であるとすると、無理数 $\alpha$ で $x<\alpha<y$ となるものが存在する(たとえば、$\alpha=x+(y-x)/\sqrt{2}$ とおけばよい)。そこで、$U=A\cap(-\infty,\alpha),$ $V=A\cap(\alpha,+\infty)$ とおけば、$U,$ $V$ は $A$ の空でない開集合で、$U\cap V=\emptyset,$ $U\cup V=A$ となるから $A$ は連結でない。

いま示したことから、とくに、各 $x\in\mathbb{Q}$ に対して、$x$ を要素にもつ $\mathbb{Q}$ の連結部分集合は $\{x\}$ に限り、よって、$C_\mathbb{Q}(x)=\{x\}$ である。したがって、$\mathbb{Q}$ の連結成分はすべて一点からなる集合である。 ところで、簡単に確かめられるように、$\mathbb{Q}$ において一点からなる集合は開集合ではない。このことから、一般に位相空間の連結成分は必ずしも開集合にはならないことが分かる。

$\mathbb{Q}$ のように、どの連結成分も一点からなるような位相空間は完全不連結(totally disconnected)であるという。$\square$

連結性のかわりに弧状連結性を使っても、連結成分と似たものを定義できる。それが弧状連結成分の概念である。それを定義する準備として、次の命題を示す。

命題 10.30 (道で結べるという関係は同値関係)

$X$ を位相空間とする。$X$ 上の二項関係 $\sim$ を $$ x\sim y \Longleftrightarrow x\text{ を始点とし }y\text{ を終点とする }X\text{ 内の道が存在する} $$ と定義する。このとき、$\sim$ は $X$ 上の同値関係である。

証明

まず、反射律を示すため、$x\in X$ とする。$f\colon [0,1]\to X$ を $f(t)=x\,(t\in [0,1])$ で定めれば $f$ は $x$ を始点かつ終点とする $X$ 内の道である。よって、$x\sim x$ である。

次に、対称律を示すため、$x, y\in X$ とし、$x\sim y$ とする。すると、$X$ 内の道 $f\colon [0,1]\to X$ で $x$ を始点とし $y$ を終点とするものが存在する。このとき、$X$ 内の道 $g\colon [0,1]\to X$ を $g(t)=f(1-t)\,(t\in [0,1])$ で定義すれば、$g$ は $y$ を始点とし $x$ を終点とする。よって、$y\sim x$ である。

最後に、推移律を示すため、$x, y, z\in X$ とし、$x\sim y,$ $y\sim z$ とする。すると、$X$ 内の道 $f\colon [0,1]\to X$ で $x$ を始点とし $y$ を終点とするものが存在する。また、$X$ 内の道 $g\colon [0,1]\to X$ で $y$ を始点とし $z$ を終点とするものが存在する。このとき、$f$ と $g$ とをつないでできる道 $h\colon [0,1]\to X$ が $$ h(t)= \begin{cases} f(2t) & 0\leq t\leq 1/2\text{ のとき}\\ g(2t-1) & 1/2\leq t\leq 1\text{ のとき} \end{cases} $$ により定義され(例 6.13)、$h$ は $x$ を始点とし $z$ を終点とする。よって、$x\sim z$ である。$\square$

定義 10.31 (弧状連結成分)

位相空間 $X$ と $x\in X$ に対して、命題 10.30の同値関係 $\sim$ に関する $x$ の同値類を $X$ における $x$ の弧状連結成分(path-component)といい、$P_X(x)$ で表す。つまり、 $$ P_X(x)=\{y\in X\,|\,x\text{ を始点とし }y\text{ を終点とする }X\text{ 内の道が存在する}\} $$ とする。$X$ の部分集合 $C$ が、ある $x\in X$ に対して $C=P_X(x)$ と表されるとき、$C$ を $X$ の弧状連結成分という。

弧状連結成分 $P_X(x)$ は命題 10.30の $\sim$ に関する同値類なので、任意の $y, z\in P_X(x)$ に対して $y\sim z$ である。したがって、$P_X(x)$ は弧状連結である。任意の位相空間 $X$ は $X$ の弧状連結成分の互いに交わりのない和集合に分割される。なお、$P_X(x)$ も、$C_X(x)$ と同様にこのテキストのみの記号である。

次の命題は、弧状連結成分の定義から明らかである。

命題 10.32 (弧状連結成分がちょうど一個であることと弧状連結性)

$X$ を位相空間とする。次は同値である。

  • (1) $X$ は弧状連結である。
  • (2) $X$ の弧状連結成分がちょうど一個存在する。$\square$

ある点の連結成分と弧状連結成分には次の包含関係がある。

命題 10.33 (弧状連結成分より連結成分の方が大きい)

$X$ を位相空間とし、$x\in X$ とする。このとき、$P_X(x)\subset C_X(x)$ である。

証明

$P_X(x)$ は弧状連結、したがって命題 10.15により連結である。このことと $x\in P_X(x)$ から、命題 10.25(1)により $P_X(x)\subset C_X(x)$ が成り立つ。$\square$

連結成分への分割が分かっている場合、弧状連結成分への分割を求めるには、次が手掛かりとなる。

命題 10.34 (連結成分が弧状連結成分になる場合)

$X$ を位相空間とし、$C$ を $X$ の連結成分とする。もし、$C$ が弧状連結であれば、$C$ は $X$ の弧状連結成分である。

証明

$X$ の連結成分 $C$ が弧状連結であるとする。任意の $x\in C$ に対して、命題 10.33により $P_X(x)\subset C_X(x)=C$ である。したがって、 $$ C=\bigcup_{x\in C} P_X(x) $$ となる。このとき、任意の $x, y\in C$ に対して $P_X(x)=P_X(y)$ でなければならない。実際、ある $x, y\in C$ に対して $P_X(x)\neq P_X(y)$ であれば、$x$ を始点とし $y$ を終点とする $X$ 内の道は(よって $C$ 内の道も)存在せず、これは $C$ の弧状連結性に反するからである。したがって、$x\in C$ を一つ固定すれば $C=P_X(x)$ であり、これは $C$ が $X$ の弧状連結成分であることを意味する。$\square$

例 10.34 (弧状連結成分の例)

(1) 例 10.28の $X=\mathbb{R}\setminus\{0\}$ においては、$X$ の連結成分 $A=(-\infty, 0)$ と $B=(0, +\infty)$ はそれぞれ弧状連結であるから、命題 10.34により、$A,$ $B$ はそのまま $X$ の弧状連結成分となる。同様に、例 10.28の $Y=\{(x,y)\in\mathbb{R}^2\,|\,xy=1\}$ の連結成分 $C,$ $D$ も弧状連結であるから、$C,$ $D$ は $X$ の弧状連結成分となる。例 10.29では $\mathbb{Q}$ の連結成分は一点集合 $\{x\}\,(x\in\mathbb{Q})$ であると分かったが、一点集合は弧状連結なので、これらは $\mathbb{Q}$ の弧状連結成分にもなることが分かる。最後の例は、位相空間の弧状連結成分が必ずしも開集合とはならないことを示している。

(2) 例 10.21における連結だが弧状連結でない $\mathbb{R}^2$ の部分集合 $X=A\cup B$ を考える。$X$ は連結であるから、$X$ の連結成分は $X$ の一個だけである。例 10.21においては、$a=(0,0)\in A$ と $b=(1,\sin 1)\in B$ に対して、$a$ を始点とし $b$ を終点とする $X$ 内の道が存在しないことを示した。$A$ と $B$ はそれぞれ弧状連結であるから、結局 $X$ の弧状連結成分は $A$ と $B$ のちょうど二個であることが分かる。この例から、位相空間の連結成分への分割と弧状連結成分への分割は必ずしも一致しないことが分かる。いま弧状連結成分 $B$ は $X$ の閉集合ではない。このことから、一般に位相空間の弧状連結成分は必ずしも閉集合とならないことが分かる(これに対して、命題 10.25(3)により連結成分は必ず閉集合になることに注意せよ)。


最後に、連結性をうまく利用して二つの位相空間が同相でないことを証明できる例を紹介しておこう。

例 10.35 (連結性を用いた非同相の証明)

単位閉区間 $[0,1]$ と単位円周 $S^1=\{(x, y)\in\mathbb{R}^2\,|\,x^2+y^2=1\}$ が同相でないことを証明しよう。これらはともに連結であるから、直接に連結性を用いても同相でないことは証明できない。そこで、あえて適切な一点を取り除くことで一方の連結性を失わせるのが巧妙な方法である。

同相写像 $h\colon [0,1]\to S^1$ が存在したとして矛盾を導こう。中点 $1/2\in [0,1]$ に注目する。すると、$h$ の定義域を $[0,1]\setminus\{1/2\}$ に制限し、終域を $S^1\setminus\{h(1/2)\}$ に制限することで、同相写像 $\hat{h}\colon [0,1]\setminus\{1/2\}\to S^1\setminus\{h(1/2)\}$ が得られる。いま、$\hat{h}$ の定義域 $[0,1]\setminus\{1/2\}=[0,1/2)\cup(1/2,1]$ は連結ではないのに対して、$S^1\setminus\{h(1/2)\}$ は連結である(実際、$h(1/2)=(\cos \theta, \sin \theta)$ と表せば、$f(t)=(\cos(2\pi t+\theta), \sin(2\pi t+\theta))$ で定義される $f\colon (0,1)\to S^1\setminus \{h(1/2)\}$ は連続な全射だから、開区間 $(0,1)$ の連結性により $S^1\setminus\{h(1/2)\}$ も連結となる)。したがって、$\hat{h}$ は連結でない空間から連結な空間への同相写像となり、これは矛盾である。$\square$

上の方法の一般化として、適切な点を除いた上で連結成分の個数を比較する方法もある。

例 10.36 (連結成分の個数を用いた非同相の証明)

実数直線 $X=\mathbb{R}$ と $Y=\{(x,y)\in\mathbb{R}^2\,|\,xy=0\}$ が同相でないことを示そう。同相写像 $h\colon Y\to X$ が存在したとして矛盾を導く。点 $(0,0)\in Y$ に注目する。$h$ の定義域を $Y\setminus\{(0,0)\}$ に制限し、終域を $X\setminus\{h(0,0)\}$ に制限することで、同相写像 $\hat{h}\colon Y\setminus\{(0,0)\}\to X\setminus\{h(0,0)\}$ が得られる。ところが、$\hat{h}$ の定義域 $Y\setminus\{(0,0)\}$ の連結成分の個数は $4$ 個であるのに対し、終域 $X\setminus\{h(0,0)\}$ は $X=\mathbb{R}$ から一点を除いたものなので、連結成分の個数は $2$ 個である(これらのことは、命題 10.27を用いて示すことができる)。同相な二つの位相空間の連結成分の個数は同じでなければならないから、これは矛盾である。$\square$


位相空間論11:分離公理 (1)

位相空間に課せられている条件は開集合系の公理のみであり、これだけから証明できる興味深い性質は少ない。しかし、位相空間において点あるいは部分集合の対を「開集合によって分離」できると仮定すると様々な性質が証明できて便利なことが多い。そのような分離が可能であるという条件は様々な種類のものが考えられており、分離公理と総称される。とくに重要な分離公理は、二つの異なる点が開集合により分離できるというHausdorff性($T_2$ 分離公理)であり、これとコンパクト性の間の関係がこの章の中心的な話題である。


定義 11.1 ($T_0$ から $T_2$ までの分離公理)

$X$ を位相空間とする。次のように定義する。

  • $X$ が $T_0$ 空間である、あるいは $T_0$ 分離公理を満たすとは、任意の異なる二点 $x, y\in X$ に対して、$X$ の開集合 $U$ であって「$x\in U$ かつ $y\notin U$」または「$y\in U$ かつ $x\notin U$」となるものが存在することをいう。
  • $X$ が $T_1$ 空間である、あるいは $T_1$ 分離公理を満たすとは、任意の異なる二点 $x, y\in X$ に対して、$X$ の開集合 $U$ であって $x\in U$ かつ $y\notin U$ となるものが存在することをいう。
  • $X$ が $T_2$ 空間である、あるいは $T_2$ 分離公理を満たすとは、任意の異なる二点 $x, y\in X$ に対して、$X$ の開集合 $U, V$ であって $x\in U,$ $y\in V,$ $U\cap V=\emptyset$ を満たすものが存在することをいう。$T_2$ 空間のことをHausdorff空間と呼ぶことが多い。

定義から明らかに、$T_2$ 空間は $T_1$ 空間であり、$T_1$ 空間は $T_0$ 空間である。これらの逆は、次の例から分かるように成り立たない。

例 11.2 ($T_0$ から $T_2$ までの分離公理の間の反例)

(1) まず、$T_0$ 空間ではない位相空間が存在する。たとえば、$X$ を二個以上の要素をもつ集合とし、$X$ に密着位相(例 1.7)を導入すれば、これは $T_0$ 空間ではない位相空間である。

(2) $T_0$ 空間であって $T_1$ 空間ではないものの例を挙げる。$X=\{0, 1\}$ とし、$\mathcal{O}=\{\emptyset, \{0\}, X\}$ を開集合系とする $X$ 上の位相を考える。これは確かに開集合系の公理 (O1)-(O3) を満たし、$(X, \mathcal{O})$ は $T_0$ 空間となるが、$T_1$ 空間ではない。

(3) $T_1$ 空間であって $T_2$ 空間ではないものの例を挙げる。$X$ を無限集合とし、$X$ に補有限位相(例 1.8)を導入すると、$X$ は $T_1$ 空間であるが、$T_2$ 空間ではない。


命題 11.3 ($T_0,$ $T_1,$ $T_2$ 分離公理は部分空間に遺伝する)

$T_0,$ $T_1,$ $T_2$ 空間の任意の部分空間は、それぞれ $T_0,$ $T_1,$ $T_2$ 空間となる。

証明

どの場合もほとんど同様に証明できるので、ここでは $T_2$ 空間の場合を証明する。$X$ を $T_2$ 空間とし、$A$ を $X$ の部分空間とする。$x, y\in A$ を異なる点とする。$X$ は $T_2$ 空間なので、$X$ の開集合 $U,$ $V$ であって $x\in U,$ $y\in V,$ $U\cap V=\emptyset$ となるものが存在する。このとき、$U'=U\cap A,$ $V'=V\cap A$ とおけば $U',$ $V'$ は $A$ の開集合であって、$x\in U',$ $y\in V',$ $U'\cap V'=\emptyset$ を満たす。よって、$A$ は $T_2$ 空間となる。$\square$

命題 11.4 ($T_0,$ $T_1,$ $T_2$ 分離公理は直積空間に遺伝する)

$(X_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ を、$T_0$ (あるいは $T_1,$ $T_2$ )空間の族とする。このとき、直積空間 $\prod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ は、$T_0$ (あるいは $T_1,$ $T_2$ )空間となる。

証明

やはり、どの場合もほとんど同様に証明できるので、ここでは $T_2$ 空間の場合を証明する。$(X_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ を $T_2$ 空間の族とする。$X=\prod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ とし、各 $\lambda\in\Lambda$ に対して $p_\lambda\colon X\to X_\lambda$ を射影とする。$x, y\in X$ を異なる点とすると、$p_{\lambda_0}(x)\neq p_{\lambda_0}(y)$ となるような $\lambda_0\in\Lambda$ を取ることができる。$X_{\lambda_0}$ は $T_2$ 空間なので、$X_{\lambda_0}$ の開集合 $U,$ $V$ であって $p_{\lambda_0}(x)\in U,$ $p_{\lambda_0}(y)\in V,$ $U\cap V=\emptyset$ となるようなものが存在する。$\tilde{U}=p_{\lambda_0}^{-1}(U),$ $\tilde{V}=p_{\lambda_0}^{-1}(V)$ とすると、$\tilde{U},$ $\tilde{V}$ は $X$ の開集合であって、$x\in\tilde{U},$ $y\in\tilde{V},$ $\tilde{U}\cap\tilde{V}=\emptyset$ である。よって、$X$ は $T_2$ 空間である。$\square$


命題 11.5 ($T_1$ 分離公理と一点が閉集合であることの同値性)

$X$ を位相空間とするとき、次は同値である。

  • (1) $X$ は $T_1$ 空間である。
  • (2) 任意の $x\in X$ に対して、$\{x\}$ は $X$ の閉集合である。

証明

(1)$\Rightarrow$(2) を示す。$X$ を $T_1$ 空間とし、$x\in X$ とする。$\{x\}$ が閉集合であること、つまり $X\setminus\{x\}$ が開集合であることを示せばよい。命題 2.4を用いてこれを示そう。そこで $y\in X\setminus\{x\}$ を任意に与える。$X$ は $T_1$ 空間なので、$y\in U$ かつ $x\notin U$ となるような $X$ の開集合 $U$ が存在する。すると、$U$ は $y$ の開近傍であって $U\subset X\setminus\{x\}$ である。よって、命題 2.4により $X\setminus\{x\}$ は $X$ の開集合である。

(2)$\Rightarrow$(1) を示す。(2) を仮定し、$x, y\in X$ を異なる点とする。(2) により $\{y\}$ は $X$ の閉集合なので、$U=X\setminus\{y\}$ とおくと $U$ は $X$ の開集合である。このとき $x\in U$, $y\notin U$ である。これで、$X$ が $T_1$ 空間であることが示された。$\square$


数学で扱われるかなり多くの位相空間はHausdorff空間、つまり $T_2$ 空間となっている。例えば、距離空間はHausdorff空間となる。

命題 11.6 (距離空間はHausdorff空間)

距離空間はHausdorff空間である。

証明

$(X, d)$ を距離空間とし、$x, y\in X$ を異なる二点とする。すると、$r=d(x,y)$ とおくとき $r>0$ である。$U=B(x,r/2),$ $V=B(y,r/2)$ とおくと、$U,$ $V$ は $X$ の開集合で $x\in U,$ $y\in V$ である。さらに、$U\cap V=\emptyset$ である。このことを示すため、$U\cap V\neq\emptyset$ であったとして矛盾を導こう。このとき点 $z\in U\cap V=B(x,r/2)\cap B(y,r/2)$ が存在する。すると $d(x,z)<r/2$, $d(z,y)=d(y,z)<r/2$ であるから、$d(x,y)\leq d(x,z)+d(z,y)<r/2+r/2=r$ となり、$d(x,y)=r$ であることに反する。これで、$U\cap V=\emptyset$ であることが示され、$X$ が Hausdorff 空間であることが示された。$\square$

Hausdorff 空間であることの次のような言い換えは有用である。一般に、位相空間 $X$ に対して、直積空間 $X\times X$ の部分集合 $\Delta_X=\{(x,y)\in X\times X\,|\,x=y\}$ を対角集合(diagonal set)という。

命題 11.7 (Hausdorff空間と閉対角集合)

$X$を位相空間とするとき、次は同値である。

  • (1) $X$ はHausdorff空間である。
  • (2) 直積空間 $X\times X$ において、対角集合 $\Delta_X=\{(x,y)\in X\times X\,|\,x=y\}$ は閉集合である。

証明

(1)$\Rightarrow$(2) を示す。$X$ をHausdorff空間とする。$\Delta_X$ が $X\times X$ の閉集合であることを示すため、$(X\times X)\setminus\Delta_X$ が $X\times X$ の開集合であることを示す。これを命題 8.4を用いて示すため、$(x,y)\in (X\times X)\setminus\Delta_X$ を任意に与える。$\Delta_X$ の定義により $x\neq y$ であるから、$x\in U$ および $y\in V$ となるような $X$ の開集合 $U,$ $V$ であって $U\cap V=\emptyset$ であるようなものが存在する。このとき $(U\times V)\cap\Delta_X=\emptyset$ である。これを示すため、$(U\times V)\cap\Delta_X\neq\emptyset$ であったとし、点 $(x', y')\in (U\times V)\cap\Delta_X$ を取ろう。すると、$x'\in U$, $y'\in V$, $x'=y'$ であるから、$x'\in U\cap V$ となり、これは $U\cap V=\emptyset$ であったことに反する。この矛盾により $(U\times V)\cap\Delta_X=\emptyset$ が示され、よって$U\times V\subset (X\times X)\setminus\Delta_X$ となることが分かった。したがって、命題 8.4により、$(X\times X)\setminus\Delta_X$ が $X\times X$ の開集合である。よって、$\Delta_X$ は $X\times X$ の閉集合である。

(2)$\Rightarrow$(1) を示す。$\Delta_X$ が $X\times X$ の閉集合であるとする。$X$ がHausdorff空間であることを示すため、$x, y\in X$ を異なる二点とする。すると、$(x, y)\in(X\times X)\setminus\Delta_X$ である。$(X\times X)\setminus \Delta_X$ は直積空間 $X\times X$ の開集合であるから、命題 8.4により、$x\in U,$ $y\in V$ となる $X$ の開集合 $U,$ $V$ が存在して $U\times V\subset (X\times X)\setminus\Delta_X$ である。つまり、$(U\times V)\cap\Delta_X=\emptyset$ である。もし、$U\cap V\neq\emptyset$ であるとすれば、点 $z\in U\cap V$ を取ると $(z,z)\in (U\times V)\cap\Delta_X$ となり $(U\times V)\cap\Delta_X=\emptyset$ であったことに反する。よって、$U\cap V=\emptyset$ である。これで、$X$ がHausdorff空間であることが示された。$\square$

命題 11.8 (Hausdorff空間への二つの連続写像の値の一致する点の集合は閉)

$X$ を位相空間、$Y$ をHausdorff空間、$f, g\colon X\to Y$ を連続写像とする。このとき、集合 $$ \{x\in X\,|\,f(x)=g(x)\} $$ は $X$ の閉集合である。

証明

$X'=\{x\in X\,|\,f(x)=g(x)\}$ とおく。 Hausdorff空間 $Y$ への連続写像 $f, g\colon X\to Y$ が与えられたとする。$F\colon X\to Y\times Y$ を $F(x)=(f(x), g(x))$ で定義すれば、$F$ は連続写像である(注意 8.6による)。いま、命題 11.7により対角集合 $\Delta_Y=\{(y,y')\in Y\times Y\,|\,y=y'\}$ は $Y\times Y$ の閉集合であるから、$F^{-1}(\Delta)$ は $X$ の閉集合である。ところが、定義により $X'=F^{-1}(\Delta_Y)$ なので、$X'$ は $X$ の閉集合である。$\square$

命題 11.9 (稠密な部分集合で一致する Hausdorff 空間への二つの連続写像は一致)

$X$ を位相空間、$Y$ をHausdorff空間、$f, g\colon X\to Y$ を連続写像とする。もし、ある稠密な部分集合 $D\subset X$ に対して $f$ と $g$ の $D$ への制限が等しい、すなわち $f|_D=g|_D$ が成り立つならば、$f=g$ である。

証明

$X'=\{x\in X\,|\,f(x)=g(x)\}$ とおくと、命題 11.9により $X'$ は $X$ の閉集合である。いま、$f|_D=g|_D$ なので、$D\subset X'$ である。よって、命題 4.2により、$\operatorname{Cl} D\subset X'$ である。$D$ は $X$ において稠密だから、$\operatorname{Cl} D=X$ であり、よって $X\subset X'$ となるから $X'=X$ である。これは、すべての $x\in X$ に対して $f(x)=g(x)$ であること、すなわち $f=g$ であることを意味している。$\square$


位相空間における点列の極限は一般には存在したとしても一意的ではないが(注意 2.17)Hausdorff空間においては一意的となる。

命題 11.10 (Hausdorff空間の点列の極限は一意的)

$X$ をHausdorff空間、$(x_n)_{n=1}^\infty$ を $X$ の点列とし、$x, y\in X$ とする。$x,$ $y$ がともに $(x_n)_{n=1}^\infty$ の極限であるならば、$x=y$ である。

証明

Hausdorff空間 $X$ の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ が異なる二点 $x,$ $y$ を極限にもったとして矛盾を導こう。このとき、Hausdorff空間の定義により、$x$ の開近傍 $U$ と $y$ の開近傍 $V$ で $U\cap V=\emptyset$ となるものが存在する。$(x_n)_{n=1}^\infty$ は $x$ に収束するから、ある $N_1\in\mathbb{N}$ が存在して、$n\geq N_1$ のとき常に $x_n\in U$ である。同様に、$(x_n)_{n=1}^\infty$ は $y$ に収束するから、ある $N_2\in\mathbb{N}$ が存在して、$n\geq N_2$ のとき常に $x_n\in V$ である。そこで、$N=\max\{N_1, N_2\}$ とおくと、$x_N\in U\cap V$ となる。これは、$U\cap V=\emptyset$ であったことに反する。$\square$

Euclid空間 $\mathbb{R}^n$ においてコンパクトな部分集合は閉集合であったが(定理 9.20)、一般にHausdorff空間においても同じことが成り立つ。

定理 11.11 (Hausdorff空間のコンパクト集合は閉集合)

$X$ をHausdorff空間、$K$ を $X$ のコンパクトな部分集合とする。このとき、$K$ は $X$ の閉集合である。

証明

$K$ をHausdorff空間 $X$ のコンパクト集合とする。このとき、$X\setminus K$ が $X$ の開集合であることを示せばよい。そのために命題 2.4を用いよう。$x\in X\setminus K$ を任意に与える。各 $y\in K$ に対して、$y\neq x$ であることと $X$ のHausdorff性から、$x$ の $X$ における開近傍 $U_y$ と $y$ の $X$ における開近傍 $V_y$ を $U_y\cap V_y=\emptyset$ であるように選べる。$K$ はコンパクトで $K\subset\bigcup_{y\in Y} V_y$ であるから、有限個の $y_1,\ldots,y_n\in K$ で $K\subset\bigcup_{i=1}^n V_{y_i}$ となるものが存在する。$U=\bigcap_{i=1}^n U_{y_i}$ とおくと、$U$ は $x$ の開近傍であって、$U\cap\bigcup_{i=1}^n V_{y_i}=\emptyset$ となる。したがって、$U\cap K=\emptyset$ すなわち $U\subset X\setminus K$ である。これで、命題 2.4により $X\setminus K$ が $X$ の開集合であることが示され、よって $K$ は $X$ の閉集合であることが分かった。$\square$

例 11.12 (Hausdorffでない空間ではコンパクト集合は閉とは限らない)

定理 11.11において、$X$ がHausdorff空間であるという条件は外すことができない。このことを見るため、$X=\mathbb{N}$ とし、$X$ に補有限位相を入れて位相空間とみなそう。これはHausdorff空間ではなく、閉集合は有限部分集合と $X$ そのものに限られる。$A$ を、正の偶数全体のなす $X$ の部分集合とすると、$A$ は閉集合ではない。しかし、$A$ はコンパクトである。これを示すため、$A$ の $X$ における開被覆 $\mathcal{U}$ を任意に与える。すると、$U\in\mathcal{U}$ であって $2\in U$ となるようなものが存在する。補有限位相の定義により、$X$ の有限部分集合 $F$ が存在して、$U=X\setminus F$ である。このとき $F\cap A$ は有限であって、各 $x\in F\cap A$ に対して、$x\in U_x$ となる $U_x\in\mathcal{U}$ が存在する。このとき、$\{U\}\cup\{U_x \,|\, x\in F\cap A\}$ は $\mathcal{U}$ の有限部分被覆となる。よって、$A$ はコンパクトとなる。以上で、$A$ は $X$ のコンパクト集合だが閉集合でないことが示された。$\square$

定理 11.11から導かれる次の一連の結果はとくに重要である。

定理 11.13 (コンパクト空間からHausdorff空間への連続写像)

コンパクト空間からHausdorff空間への連続写像は閉写像である。

証明

$X$ をコンパクト空間、$Y$ をHausdorff空間とし、$f\colon X\to Y$ を連続写像とする。$f$ が閉写像であることを示すため、$F$ を $X$ の閉集合とする。$X$ はコンパクトであるから、命題 9.9により、$F$ もコンパクトである。よって、命題 9.10により、$f(F)$ もコンパクトである。$Y$ はHausdorff空間であるから、定理 10.12により、$f(F)$ は $Y$ の閉集合である。以上で $f$ が閉写像であることが示された。$\square$

系 11.14 (コンパクト空間からHausdorff空間への連続全単射)

コンパクト空間からHausdorff空間への連続な全単射は同相写像である。

証明

$f\colon X\to Y$ をコンパクト空間 $X$ からHausdorff空間 $Y$ への連続な全単射とする。定理 11.13により、$f$ は閉写像であるから、命題 5.27により、$f$ は同相写像である。$\square$

系 11.15 (コンパクト空間からHausdorff空間への連続全射)

コンパクト空間からHausdorff空間への連続な全射は商写像である。

証明

これは定理 11.13命題 7.11から直ちに導かれる。$\square$

系 11.16 (コンパクト空間からHausdorff空間への連続単射)

コンパクト空間からHausdorff空間への連続な単射は閉埋め込みである。

証明

これは定理 11.13と閉埋め込みの定義(定義 6.24)から直ちに導かれる。$\square$

例 11.17 (単位閉区間の埋め込み)

例 6.19においては、$f\colon [0,1]\to\mathbb{R}^2$ を $f(x)=(2x, 3x)$ で定義すると、$f$ は埋め込みとなることを述べたが、このことの証明はいまや大幅に短縮される。$f$ は定義から連続な単射であり、定義域の $[0,1]$ はコンパクト空間であり(定理 9.17)、終域の $\mathbb{R}^2$ は距離空間、よってHausdorff空間である(命題 11.6)から、系 11.16によって $f$ は閉埋め込み(したがって、とくに埋め込み)である。$\square$

例 11.18 (単位閉区間の商空間としての円周)

単位閉区間 $[0, 1]$ における同値関係 $\sim$ を、 $$ s\sim t \Longleftrightarrow x=y\text{ または }\{s, t\}=\{0, 1\} $$ により定義する。$S^1=\{(x,y)\in\mathbb{R}^2\,|\,x^2+y^2=1\}$ を単位円周とするとき、連続写像 $f\colon [0,1]\to S^1$ を $f(t)=(\cos 2\pi t, \sin 2\pi t)$ で定義すると、$f$ により誘導される写像 $\overline{f}\colon [0,1]/\mathord{\sim}\to S^1$ は連続な全単射となるのだった(例 7.6)。

いまや、この $\overline{f}$ が同相写像であることを簡単に証明することができる。$[0,1]$ はコンパクトであるから(定理 9.17)、その連続像である $[0,1]/\mathord{\sim}$ はコンパクトである(命題 9.10)。また、$S^1$ は $\mathbb{R}^2$ のEuclid距離の制限により距離空間となっているから、Hausdorff空間である(命題 11.6)。よって、$\overline{f}$ はコンパクト空間からHausdorff空間への連続全単射であるから、同相写像である(系 11.14)。$\square$

例 11.19 (実数直線の商空間としての円周)

例 11.18の記号を引き続き用いる。連続写像 $g\colon\mathbb{R}\to S^1$ を $g(t)=(\cos 2\pi t, \sin 2\pi t)$ により定義する。このとき、$i\colon [0,1]\to\mathbb{R}$ を包含写像とすれば、$g\circ i=f$ である。さて、連続写像 $f\colon [0,1]\to S^1$ は、定理 11.13により閉写像であり、かつ全射であるので、命題 7.11により、商写像である。よって、命題 7.10(2)により、$g$ も商写像と分かる。したがって、商写像の定義(定義 7.8)により、$\mathbb{R}$ 上の同値関係 $\sim'$ を $s\sim' t \Longleftrightarrow g(s)=g(t)$ で定義し、$g$ により誘導される写像を $\bar{g}\colon \mathbb{R}/\mathord{\sim'}\to S^1$ とするとき、$\bar{g}$ は同相写像である。$g$ の定義から、$\sim'$ は $$ s\sim' t \Longleftrightarrow s-t\in\mathbb{Z} $$ で与えられる関係である。結局、$S^1$ はこの同値関係 $\sim'$ による $\mathbb{R}$ の商空間 $\mathbb{R}/\mathord{\sim'}$ とも同相であることが分かった。この様子は、直線 $\mathbb{R}$ を「コイルのように巻いて」円周 $S^1$ を作ったと考えると理解しやすいであろう。

例 11.20 (実数直線から円周への射影は開写像)

例 11.19の記号を引き続き用いる。以下では、$g\colon\mathbb{R}\to S^1$ が開写像となることを示そう。

準備として、整数 $n\in\mathbb{Z}$ に対して、連続写像 $\sigma_n\colon \mathbb{R}\to\mathbb{R}$ を $\sigma_n(t)=t+n$ で定める。このとき $\sigma_n$ は同相写像である。実際、$\sigma_n$ は逆写像として $\sigma_{-n}$ をもち、これも連続であるからである。

さて、$g$ が開写像であることを示すため、$U$ を $\mathbb{R}$ の開集合とする。$g(U)$ が $S^1$ の開集合であることを示せばよいが、$g$ は例 11.19で示したように商写像であったから、命題 7.9により、$g^{-1}(g(U))$ が $\mathbb{R}$ の開集合であることを示せばよい。ところが、$g$ の定義から $$ g^{-1}(g(U))=\bigcup_{n\in\mathbb{Z}}\sigma_n(U) $$ である。いま、$\sigma_n$ が同相写像(したがって開写像)であることから $\sigma_n(U)$ は $\mathbb{R}$ の開集合である。よって、その和集合である $g^{-1}(g(U))$ も開集合である。これで、$g$ が開写像であることが示された。$\square$

最後に、Hausdorff空間のコンパクト集合について、いくつかの事実を示しておこう。Hausdorff空間の定義は任意の異なる二点が開集合で分離されるというものであったが、実際には、二つの交わらないコンパクト集合を分離することもできる。

定理 11.21 (Hausdorff空間のコンパクト集合は開集合で分離される)

$H,$ $K$ をHausdorff空間 $X$ のコンパクト集合とし、$H\cap K=\emptyset$ であるとする。このとき、$X$ の開集合 $U,$ $V$ であって $H\subset U,$ $K\subset V,$ $U\cap V=\emptyset$ となるものが存在する。

証明

この証明は二つの段階に分かれる。まず、$H$ が一点からなる特別の場合に証明する。そこで、$H=\{x\}$ とする。$X$ はHausdorff空間であるから、各 $y\in K$ に対して、$X$ の開集合 $U_y,$ $V_y$ であって $x\in U_y,$ $y\in V_y,$ $U_y\cap V_y=\emptyset$ となるものが選べる。すると、$K\subset\bigcup_{y\in K} V_y$ である。$K$ はコンパクトなので、有限個の $y_1,\ldots,y_n\in K$ が存在して、$K\subset \bigcup_{i=1}^n V_{y_i}$ となる。このとき、$U=\bigcap_{i=1}^n U_{y_i},$ $V=\bigcup_{i=1}^n V_{y_i}$ とおけば $U,$ $V$ は $X$ の開集合で、$x\in U,$ $K\subset V,$ $U\cap V=\emptyset$ である。

次に、一般の場合を証明する。すでに示したことにより、各 $x\in H$ に対して、$X$ の開集合 $U_x,$ $V_x$ であって $x\in U_x,$ $K\subset V_x,$ $U_x\cap V_x=\emptyset$ であるようなものが選べる。すると、$H\subset\bigcup_{x\in H} U_x$ である。$H$ はコンパクトなので、有限個の $x_1,\ldots, x_n\in H$ が存在して、$H\subset \bigcup_{i=1}^n U_{x_i}$ となる。このとき、$U=\bigcup_{i=1}^n U_{x_i},$ $V=\bigcap_{i=1}^n V_{x_i}$ とおけば、$U,$ $V$ は $X$ の開集合で、$H\subset U,$ $K\subset V,$ $U\cap V=\emptyset$ である。$\square$

定理 11.22 (Hausdorff空間のコンパクト集合の減少列)

$X$ をHausdorff空間とし、$(K_i)_{i=1}^\infty$ を $X$ の空でないコンパクト集合とし、各 $i\in\mathbb{N}$ に対して $K_{i+1}\subset K_i$ であるとする。このとき、共通部分 $\bigcap_{i=1}^\infty K_i$ は空でない。さらに、各 $i\in\mathbb{N}$ に対して $K_i$ が連結であるならば、$\bigcap_{i=1}^\infty K_i$ も連結である。

証明

各 $i\in\mathbb{N}$ に対して、$K_i$ はHausdorff空間 $X$ のコンパクト集合なので、定理 11.11により $K_i$ は $X$ の閉集合である。いま、仮定から $K_i\subset K_1$ なので、$K_i$ は $K_1$ の閉集合でもある(命題 6.8)。したがって、$(K_i)_{i=1}^\infty$ はコンパクト空間 $K_1$ の空でない閉集合からなる族である。よって、命題 9.13により、$\bigcap_{i=1}^n K_i\neq\emptyset$ である。以下では、$K=\bigcap_{i=1}^n K_i\neq\emptyset$ とおく。$K$ はコンパクト空間 $K_1$ の閉集合なので、命題 9.9によりコンパクトである。

さらに、各 $i\in\mathbb{N}$ に対して $K_i$ が連結であると仮定する。$K$ が連結であることを示そう。$K\neq\emptyset$ であることはすでに分かっている。もし、$K$ が連結でないとすると、$K$ の空でない閉集合 $F_1,$ $F_2$ であって $K=F_1\cup F_2,$ $F_1\cap F_2=\emptyset$ であるものが存在する。$F_1,$ $F_2$ はコンパクト空間 $K$ の閉集合なのでコンパクトである。したがって、$X$ がHausdorff空間であることと定理 11.21により、$X$ の開集合 $U_1,$ $U_2$ が存在して $F_1\subset U_1,$ $F_2\subset U_2,$ $U_1\cap U_2=\emptyset$ となる。すると、$\{U_1\cup U_2\}\cup\{X\setminus K_i\,|\,i\in\mathbb{N}\}$ はコンパクト集合 $K_1$ の $X$ における開被覆なので、有限な部分被覆をもつ。したがって、ある $n\in\mathbb{N}$ が存在して $$ K_1\subset (U_1\cap U_2)\cup\bigcup_{i=1}^n (X\setminus K_i)=(U_1\cup U_2)\cup(X\setminus K_n) $$ となるが、これと $K_n\subset K_1$ から $K_n\subset U_1\cup U_2$ が分かる。いま $V_i=U_i\cap K_n\,(i=1,2)$ とおくと、$V_1,$ $V_2$ は $K_n$ の開集合で、$V_1\cup V_2=K_n,$ $V_1\cap V_2=\emptyset$ である。しかも、$\emptyset\neq F_i=U_i\cap K\subset U_i\cap K_n=V_i$ だから $V_i\neq\emptyset$ である。これは、$K_n$ が連結であることに反している。これで、$K$ が連結であることが示された。$\square$


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位相空間論12:分離公理(2)

Hausdorff性よりも強い分離公理として、正則性($T_3$ 分離公理)と正規性($T_4$ 分離公理)がある。とくに正規性に関しては、閉集合同士を「連続関数で分離」できることを主張するUrysohnの補題や、連続関数の拡張定理であるTietzeの拡張定理を導くものであり重要である。


定義 12.1 (正則性と正規性)

$X$ を位相空間とするとき、次のように定義する。

  • $X$ が正則空間(regular space)である、あるいは $T_3$ 空間である、$T_3$ 分離公理を満たすとは、$X$ が $T_1$ 空間であって、かつ、$X$ の点 $x$ と $X$ の閉集合 $F$ に対して $x\notin F$ ならば、$X$ の開集合 $sU,$ $V$ であって $x\in U,$ $F\subset V,$ $U\cap V=\emptyset$ となるものが存在することをいう。
  • $X$ が正規空間(normal space)である、あるいは $T_4$ 空間である、$T_4$ 分離公理を満たすとは、$X$ が $T_1$ 空間であって、かつ、$X$ の閉集合 $F,$ $H$に対して $F\cap H=\emptyset$ ならば、$X$ の開集合 $U,$ $V$ であって $F\subset U,$ $H\subset V,$ $U\cap V=\emptyset$ となるものが存在することをいう。

注意 12.2 (分離公理の間の含意)

命題 11.5で述べたように、$T_1$ 空間においては一点からなる集合は閉集合である。正則空間および正規空間の定義では $T_1$ 空間であることを課しているから、正規空間は正則空間であり、正則空間はHausdorff空間であることが直ちに分かる。

例 12.3 (Hausdorff空間であるが正則空間でない例)

$X=\mathbb{R}$ とし、$X$ の位相を次で定める。$A=\{1/n\,|\,n\in\mathbb{N}\}$ とする。$X$ の部分集合族 $\mathcal{B}$ を $$ \mathcal{B}=\{(a,b)\,|\,a,b\in\mathbb{R},\,a \lt b\}\cup\{(a,b)\setminus A\,|\,a,b\in\mathbb{R},\,a \lt b\} $$ とおくと、$\mathcal{B}$ は命題 3.9の性質 (OB1), (OB2)を満たすことが確かめられる。したがって、命題 3.10により、$\mathcal{B}$ を開基とするような $X$ の位相が定まるので、その位相を $X$ に与える。

$X$ はHausdorff空間となる。実際、$x, y\in X$ を異なる二点とし、たとえば $x \lt y$ であるとすると、$r=(y-x)/2$ とおくとき $U=(x-r, x+r)$, $V=(y-r, y+r)$ は $\mathcal{B}$ に属するからそれぞれ $X$ の開集合で、$x\in U,$ $y\in V,$ $U\cap V=\emptyset$ を満たす。

次に、$X$ が正則空間でないことを示そう。$A$ は $X$ の閉集合で、$0\notin A$ であることに注意する。$X$ の開集合 $U,$ $V$ で $0\in U,$ $A\subset V,$ $U\cap V=\emptyset$ となるものが存在しないことを示そう。そこで、そのような $U,$ $V$ が存在したとする。$\mathcal{B}$ は $X$ の開基だから、ある $B\in\mathcal{B}$ が存在して、$0\in B\subset U$ である。$B=(a,b)$ の形の場合は、$a \lt 0 \lt b$ であるから、ある $n\in\mathbb{N}$ に対して $1/n \lt b$ である。よって、$1/n\in B\cap A\subset U\cap V$ となり、$U\cap V=\emptyset$ に反する。次に $B=(a,b)\setminus A$ の場合も、やはり $a \lt 0 \lt b$ であるから、ある $n\in\mathbb{N}$ に対して $1/n \lt b$ である。いま $1/n\in A\subset V$ であるので、ある $B'\in\mathcal{B}$ が存在して $1/n\in B'\subset V$ である。このときは $1/n\in A$ であることより $B'=(a',b')$ の形でなければならない。$a^{\prime\prime}\in\mathbb{R}$ を、$\max\{a',1/(n+1)\} \lt a^{\prime\prime} \lt 1/n$ となるように取れば、$a^{\prime\prime}\in B\cap B'\subset U\cap V$ となり、やはり $U\cap V=\emptyset$ に反する。これで、$X$ が正則空間ではないことが示された。$\square$

正則空間であるが正規空間ではない例は後で与える(例 12.19)。

命題 12.4 (正則空間であることの言い換え)

$X$ を $T_1$ 空間とするとき、次は同値である。

  • (1) $X$ は正則空間である。
  • (2) $X$ の任意の点 $x$ と $x$ の任意の開近傍 $U$ に対して、$x$ の開近傍 $V$ で $\operatorname{Cl} V\subset U$ となるものが存在する。

証明

(1)$\Rightarrow$(2) を示す。$X$ を正則空間とし、$U$ を $X$ の点 $x$ の開近傍とする。$F=X\setminus U$ とおくと $F$ は $X$ の閉集合で $x\notin F$ であるから、正則空間の定義により、$X$ の開集合 $V,$ $W$ であって $x\in V,$ $F\subset W,$ $V\cap W=\emptyset$ となるものが存在する。このとき、$X\setminus W$ は閉集合で $V\subset X\setminus W$ なので、$\operatorname{Cl} V\subset X\setminus W$ である。ところが、$X\setminus W\subset X\setminus F=U$ なので、$\operatorname{Cl} V\subset U$ である。

(2)$\Rightarrow$(1) を示す。 (2)が成り立つとし、$x$ を $T_1$ 空間 $X$ の点とする。$F$ を $X$ の閉集合とし、$x\notin F$ とする。このとき、$U=X\setminus F$ とおくと $U$ は $x$ の開近傍であるから、(2)により $x$ の開近傍 $V$ で $\operatorname{Cl} V\subset U$ となるものが存在する。$W=X\setminus\operatorname{Cl} V$ とおけば $W$ は $X$ の開集合であり、このとき $x\in V,$ $F\subset W,$ $V\cap W=\emptyset$ である。$\square$

命題 12.5 (正則性は部分空間に遺伝する)

正則空間の任意の部分空間は正則空間である。

証明

$X$ を正則空間とし、$A\subset X$ とする。正則空間の定義により、$X$ は $T_1$ 空間であるから、命題 11.3により部分空間 $A$ も $T_1$ 空間である。$A$ が正則空間であるために命題 11.4を用いよう。$x\in A$ とし、$U$ を $x$ の $A$ における開近傍とする。$X$ の開集合 $\tilde{U}$ を $U=\tilde{U}\cap A$ となるようにとれば、$\tilde{U}$ は $x$ の $X$ における開近傍だから、$X$ の正則性と命題 11.4により、$x$ の $X$ における開近傍 $\tilde{V}$ で $\operatorname{Cl}_X \tilde{V}\subset \tilde{U}$ となるものが存在する。$V=\tilde{V}\cap A$ とおくと、$V$ は $x$ の $A$ における開近傍である。さらに、命題 6.15を用いると $$ \operatorname{Cl}_A V=A\cap(\operatorname{Cl}_X V)\subset A\cap (\operatorname{Cl}_X \tilde{V})\subset A\cap\tilde{U}=U $$ となる。以上から、命題 11.4により、$A$ は正則空間である。$\square$


命題 12.6 (正則性は直積空間に遺伝する)

正則空間からなる族 $(X_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ に対して、直積空間 $\prod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ は正則空間である。

証明

$X=\prod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ とおき、各 $\lambda\in\Lambda$ に対して $p_\lambda\colon X\to X_\lambda$ を射影とする。正則空間の定義により、各 $\lambda\in\Lambda$ に対して $X_\lambda$ は $T_1$ 空間であるから、命題 11.4により、直積空間 $X$ は $T_1$ 空間である。$X$ が正則空間であることを示すために命題 11.4を用いよう。$x\in X$ とし、$U$ を $x$ の $X$ における開近傍とする。すると、有限個の $\lambda_1,\ldots,\lambda_n\in\Lambda$ と $p_{\lambda_i}(x)$ の $X_{\lambda_i}$ における開近傍 $U_i\,(i=1,\ldots,n)$ が存在して $x\in\bigcap_{i=1}^n p_{\lambda_i}^{-1}(U_i)\subset U$ となる。各 $i=1,\ldots,n$ に対して $X_{\lambda_i}$ は正則空間だから、命題 11.4により、$p_{\lambda_i}(x)$ の $X_{\lambda_i}$ における開近傍 $V_i$ が存在して $\operatorname{Cl}_{X_{\lambda_i}} V_i\subset U_i$ となる。そこで、$V=\bigcap_{i=1}^n p_{\lambda_i}^{-1}(V_i)$ とおくと、$V$ は $x$ の $X$ における開近傍である。しかも、 $$ V\subset\bigcap_{i=1}^n p_{\lambda_i}^{-1}(\operatorname{Cl}_{X_{\lambda_i}}V_i) $$ であって $\bigcap_{i=1}^n p_{\lambda_i}^{-1}(\operatorname{Cl}_{X_{\lambda_i}}V_i)$ が $X$ の閉集合であることから、 $$ \operatorname{Cl}_X V\subset \bigcap_{i=1}^n p_{\lambda_i}^{-1}(\operatorname{Cl}_{X_{\lambda_i}}V_i)\subset \bigcap_{i=1}^n p_{\lambda_i}^{-1}(U_i)\subset U $$ となる。よって、命題 11.4により、$X$ は正則空間である。$\square$

正規空間については、命題 12.5命題 12.6に対応する命題は成り立たない。つまり、正規空間の部分空間は必ずしも正規空間ではなく、正規空間の直積空間は必ずしも正規空間とはならない。これらのことを示す例は後で挙げる(例 12.19, 12.20)。しかし、正規空間の閉集合は正規空間であるといえる。

命題 12.7 (正規空間の閉集合は正規空間)

$X$ を正規空間とし、$F$ を $X$ を閉集合とする。このとき、$F$ は正規空間である。

証明

$F$ を正規空間 $X$ の閉集合とする。$X$ は $T_1$ 空間なので、命題 11.3により、$F$ は $T_1$ 空間である。$H_1,$ $H_2$ を $F$ の閉集合とする。$F$ は $X$ の閉集合だったので、$H_1,$ $H_2$ は $X$ の閉集合でもある。よって、$X$ の正規性により、$X$ の開集合 $U_1,$ $U_2$ であって $H_1\subset U_1,$ $H_2\subset U_2,$ $U_1\cap U_2=\emptyset$ となるものが存在する。$U'_i=U_i\cap F\,(i=1,2)$ とおけば $U'_i$ は $F$ の閉集合で、$H_i\subset U'_i\,(i=1,2),$ $U'_1\cap U'_2=\emptyset$ である。これで、$F$ が正規空間であることが示された。$\square$

命題 12.8 (正規空間であることの言い換え)

$X$ を $T_1$ 空間とするとき、次は同値である。

  • (1) $X$ は正規空間である。
  • (2) $X$ の閉集合 $F$ と開集合 $U$ に対して $F\subset U$ ならば、$X$ の開集合 $V$ で $F\subset V$ かつ $\operatorname{Cl} V\subset U$ となるものが存在する。
  • (3) $X$ の開集合 $U_1,$ $U_2$ に対して $X=U_1\cup U_2$ ならば、$F_1\subset U_1,$ $F_2\subset U_2$ となる $X$ の閉集合 $F_1,$ $F_2$ で $X=F_1\cup F_2$ となるものが存在する。

証明

(1)$\Leftrightarrow$(2) の証明は命題 12.4とまったく同様なので、省略する。

(1)$\Rightarrow$(3) を示す。$X$ を正規空間とし、$X$ の開集合 $U_1,$ $U_2$ に対して $X=U_1\cup U_2$ とする。$H_i=X\setminus U_i\,(i=1,2)$ とすれば、$H_i$ は閉集合で、$H_1\cap H_2=\emptyset$ である。よって、$X$ の正規性により $H_i\subset V_i$ となる開集合 $V_i\,(i=1,2)$ で $V_1\cap V_2=\emptyset$ となるものが存在する。このとき、$F_i=X\setminus V_i\,(i=1,2)$ とおけば $F_i$ は閉集合で、$F_i\subset U_i,$ $F_1\cup F_2=X$ である。

(3)$\Rightarrow$(1) を示す。$T_1$ 空間 $X$ が(3)を満たすとする。$X$ の正規性を示すため、$H_1,$ $H_2$ が $X$ の閉集合で $H_1\cap H_2=\emptyset$ を満たすとする。$U_i=X\setminus H_i\,(i=1,2)$ とおけば、$U_i$ は $X$ の開集合で $X=U_1\cup U_2$ である。よって、いま仮定している(3)により、$X$ の閉集合 $F_i\,(i=1,2)$ で $F_i\subset U_i,$ $F_1\cup F_2=X$ となるものが存在する。このとき $V_i=X\setminus F_i\,(i=1,2)$ とおけば $V_i$ は $X$ の開集合で $H_i\subset V_i,$ $V_1\cap V_2=\emptyset$ である。これで、$X$ の正規性が示された。$\square$

距離空間が正規空間となることを示すため、準備として次の定義をする。

定義 12.9 (距離空間における点と集合との距離)

$(X, d)$ を距離空間、$x\in X$ とし、$A$ を $X$ の空でない部分集合とする。このとき、 $$ d(x, A)=\inf\{d(x,y)\,|\,y\in A\} $$ と定義し、これを $x$ と $A$ との距離という。定義から、常に $d(x, A)\geq 0$ である。

命題 12.10 (距離がゼロであることと閉包の点であることは同値)

$(X, d)$ を距離空間、$x\in X$ とし、$A$ を $X$ の空でない部分集合とする。このとき、次は同値である。

  • (1) $d(x, A)=0$
  • (2) $x\in\operatorname{Cl}_X A$

とくに、$A$ が $X$ の閉集合である場合は、$d(x, A)=0$ であることと $x\in A$ は同値である。

証明

(1)$\Rightarrow$(2) を示す。$d(x, A)=0$ とすると、各 $n\in\mathbb{N}$ に対して、$y_n\in A$ であって $d(x, y_n) \lt 1/n$ となるものが選べる。すると、$(y_n)_{n=1}^\infty$ は $A$ の点列であって、$x$ に収束する。よって、命題 4.7により、$x\in\operatorname{Cl}_X A$ である。

(2)$\Rightarrow$(1) を示す。$x\in\operatorname{Cl}_X A$ とすると、命題 4.7により、$A$ の点列 $(y_n)_{n=1}^\infty$ であって $x$ に収束するものが存在する。任意に $\varepsilon>0$ を与える。すると、ある $n\in\mathbb{N}$ に対して $d(x,y_n) \lt \varepsilon$ である。このとき $y_n\in A$ により $0\leq d(x, A)\leq d(x, y_n) \lt \varepsilon$ である。これが任意の $\varepsilon>0$ について成り立つので、$d(x, A)=0$ である。

$A$ が $X$ の閉集合である場合は $A=\operatorname{Cl}_X A$ であるから、最後の主張も成り立つ。$\square$

命題 12.11 (集合からの距離関数の連続性)

$(X, d)$ を距離空間とし、$A$ を $X$ の空でない部分集合とする。関数 $d_A\colon X\to\mathbb{R}$ を $$ d_A(x)=d(x, A) $$ で定義すると、$d_A$ は連続である。

証明

$x, x'\in X$ と $y\in A$ に対して、$d(x,A)\leq d(x,y)\leq d(x,x')+d(x',y)$ であるので、$d(x,A)-d(x,x')\leq d(x',y)$ である。 これが任意の $y\in A$ に対して成り立つので、$d(x, A)-d(x,x')\leq d(x', A)$ である。 したがって、$d(x,A)-d(x',A)\leq d(x,x')$ である。同様にして、$d(x',A)-d(x,A)\leq d(x,x')$ も成り立つので、 任意の $x, x'\in X$ に対して $$ \abs{d_A(x)-d_A(x')} = \abs{d(x,A)-d(x',A)} \leq d(x,x') $$ である。

この不等式を用いれば、$d_A$ の連続性は命題 5.9からすぐに導かれる。念のため、詳細を述べる。 $x\in X,$ $\varepsilon>0$ を任意に与える。$\delta=\varepsilon$ とおくと、$d(x,x') \lt \delta$ となる任意の $x'\in X$ に対して、上の不等式により $$ \abs{d_A(x)-d_A(x')} \leq d(x,x') \lt \delta = \varepsilon $$ となる。よって、命題 5.9により $d_A$ は連続である。$\square$

命題 12.12 (距離空間の正規性)

距離空間は正規空間である。

証明

$(X, d)$ を距離空間とする。命題 11.6により $X$ はHausdorff空間なので、$T_1$ 空間となる。$X$ の正規性を示すため、$F,$ $H$ を $X$ の閉集合で $F\cap H=\emptyset$ となるものとする。このとき、$X$ の開集合 $U,$ $V$ で $F\subset U,$ $H\subset V,$ $U\cap V=\emptyset$ となるものが存在することを示したい。もし、$F=\emptyset$ ならば、$U=\emptyset,$ $V=X$ とすればよいので、$F\neq\emptyset$ であるとしてよい。同様に、$H\neq\emptyset$ であるとしてよいことも分かる。$x\in X$ に対して、 命題 12.10により、$d(x, F)=0$ となるのは $x\in F$ のときに限り、$d(x, H)=0$ となるのは $x\in H$ のときに限る。ところが、$F\cap H=\emptyset$ であったから、任意の $x\in X$ に対して $d(x, F)+d(x, H)>0$ であることが分かる。このことに注意すると、関数 $f\colon X\to\mathbb{R}$ を $$ f(x)=\frac{d(x,F)}{d(x,F)+d(x,H)} $$ で定義でき、しかも命題 12.11により $f$ は連続となる。定義から、$x\in F$ のとき $f(x)=0$ であり、$x\in H$ のとき $f(x)=1$ となるので、$U=f^{-1}( (-\infty,1/2) ),$ $V=f^{-1}( (1/2,+\infty) )$ とおけば $F\subset U,$ $H\subset V$ であり、$U,$ $V$ は $X$ の開集合で $U\cap V=\emptyset$ となる。以上で、$X$ の正規性が示された。$\square$

正規空間において有限開被覆が「縮められる」ことを述べた次の命題は、しばしば有効に用いられる。

命題 12.13 (正規空間の有限開被覆は縮められる)

$X$ を正規空間とし、$\{U_1,\ldots, U_n\}$ を $X$ の開被覆とする。このとき、$X$ の開被覆 $\{V_1,\ldots, V_n\}$ であって、各 $i=1,\ldots,n$ に対して $\operatorname{Cl} V_i\subset U_i$ を満たすものが存在する。

証明

$\{U_1,\ldots, U_n\}$ を正規空間 $X$ の開被覆とする。$F_1=X\setminus(U_2\cup U_3\cup\cdots\cup U_n)$ とおくと $F_1$ は $X$ の閉集合で $F_1\subset U_1$ を満たす。よって命題 12.8により $X$ の開集合 $V_1$ であって $F_1\subset V_1$ かつ $\operatorname{Cl} V_1\subset U_1$ となるものが存在する。すると、$\{V_1, U_2, U_3,\ldots, U_n\}$ は $X$ の開被覆である。次に、$F_2=X\setminus(V_1\cup U_3\cup\cdots\cup U_n)$ とおくと $F_2$ は $X$ の閉集合で $F_2\subset U_2$ を満たす。よって命題 12.8により $X$ の開集合 $V_2$ であって $F_2\subset V_2$ かつ $\operatorname{Cl} V_2\subset U_2$ となるものが存在する。すると、$\{V_1, V_2, U_3,\ldots, U_n\}$ は $X$ の開被覆である。この操作を $n$ 回繰り返すことで、$X$ の開被覆 $\{V_1, V_2,\ldots, V_n\}$ であって各 $i=1,\ldots, n$ に対して $\operatorname{Cl} V_i\subset U_i$ であるようなものが得られる。$\square$

距離空間に加えて、コンパクトHausdorff空間も正規空間となる。

定理 12.14 (コンパクトHausdorff空間は正規)

コンパクトHausdorff空間は正規空間である。

証明

$X$ をコンパクトHausdorff空間とし、$F,$ $H$ を $X$ の閉集合とする。命題 9.9により、$F,$ $H$ はコンパクトである。$X$ はHausdorff空間なので、 定理 11.21により、$X$ の開集合 $U,$ $V$ であって $F\subset U,$ $H\subset V,$ $U\cap V=\emptyset$ となるものが存在する。$\square$

次のUrysohnの補題は正規空間の重要性を示すものである。これは正規空間に交わらない二つの閉集合が与えられたとき、それらを「連続関数により分離」することができるということを主張する。

定理 12.15 (Urysohnの補題)

$X$ を $T_1$ 空間とするとき、次は同値である。

  • (1) $X$ は正規空間である。
  • (2) $X$ の閉集合 $F,$ $H$ に対して $F\cap H=\emptyset$ ならば、連続関数 $f\colon X\to [0,1]$ が存在して、任意の $x\in F$ に対して $f(x)=0$ となり、任意の $x\in H$ に対して $f(x)=1$ となる。

証明

まず、(2)$\Rightarrow$(1) を示す。$T_1$ 空間 $X$ が(2)を満たすとし、$X$ の閉集合 $F,$ $H$ が $F\cap H=\emptyset$ を満たすとする。このとき (2) により連続関数 $f\colon X\to [0,1]$ で $x\in F$ のとき $f(x)=0$ となり $x\in H$ のとき $f(x)=1$ となるものが存在する。$U=f^{-1}( [0,1/2) ),$ $V=f^{-1}( (1/2,1] )$ とおけば $U,$ $V$ は $X$ の開集合で、$F\subset U,$ $H\subset V,$ $U\cap V=\emptyset$ となる。したがって、$X$ は正規空間である。

次に、(1)$\Rightarrow$(2) を示す。$X$ を正規空間とし、$X$ の閉集合 $F,$ $H$ が $F\cap H=\emptyset$ を満たすとする。 $D$ を、有限な二進小数表示をもつ有理数全体とする。すなわち、 $$ D=\left\{\frac{m}{2^n}\,\big|\,m\in\mathbb{Z},\,n\in\mathbb{N}\right\} $$ とする。以下では、各 $r\in D$ に対して $X$ の開集合 $U_r$ を定める。まず、$U_1=X\setminus H$ とする。命題 12.8を用いて、$X$ の開集合 $U_0$ を $F\subset U_0\subset \operatorname{Cl} U_0\subset U_1$ となるように取る。再び、命題 12.8を用いて、$X$ の開集合 $U_{1/2}$ を $$ \operatorname{Cl} U_0\subset U_{1/2}\subset\operatorname{Cl} U_{1/2}\subset U_1 $$ となるように取る。さらに命題 12.8を用いて、$X$ の開集合 $U_{1/4},$ $U_{3/4}$ を $$ \begin{gathered} \operatorname{Cl} U_0\subset U_{1/4}\subset\operatorname{Cl} U_{1/4}\subset U_{1/2},\\ \operatorname{Cl} U_{1/2}\subset U_{3/4}\subset\operatorname{Cl} U_{3/4}\subset U_1 \end{gathered} $$ となるように取る。一般に、$U_{i/2^n}\,(i=1,\ldots, 2^n-1)$ が $$ \operatorname{Cl} U_{(i-1)/2^n}\subset U_{i/2^n}\subset\operatorname{Cl} U_{i/2^n}\subset U_{(i+1)/2^n} $$ が満たされるように定義されたとき、$X$ の開集合 $U_{(2i-1)/2^{n+1}}\,(i=1,\ldots,2^n)$ を、命題 12.8を用いて $$ \operatorname{Cl} U_{(i-1)/2^n}=\operatorname{Cl} U_{(2i-2)/2^{n+1}}\subset U_{(2i-1)/2^{n+1}}\subset\operatorname{Cl} U_{(2i-1)/2^{n+1}} \subset U_{2i/2^{n+1}}=U_{i/2^n} $$ となるように取る。

この帰納的な構成により、$0\leq r\leq 1$ であるようなすべての $r\in D$ に対して $U_r$ が定まる。さらに、$r \lt 0$ のときは $U_r=\emptyset$ とし、$r>1$ のときは $U_r=X$ とすれば、すべての $r\in D$ に対して $U_r$ が定まり、 $$ r, r'\in D,\, r \lt r'\text{ のとき }\operatorname{Cl} U_r\subset U_{r'}\quad(\star) $$ を満たす。

さて、関数 $f\colon X\to [0,1]$ を次で定める。$x\in X$ に対して集合 $D(x)$ を $$ D(x)=\{r\in D\,|\,x\in U_r\} $$ で定め、$f(x)$ を $$ f(x)=\inf D(x)=\inf \{r\in D\,|\,x\in U_r\} $$ により定義する。$x\in X$ を固定するとき、集合 $D(x)$ には $1$ より大きい実数はすべて属しており、$0$ より小さい実数は属していないので、下限の定義により $0\leq f(x)\leq 1$ である。これが任意の $x\in X$ に対して成り立つので、$f$ は確かに $[0,1]$ に値をもつ写像となっている。この $f$ が求める連続写像であることを以下では示していく。

$x\in F$ のとき $f(x)=0$ となることを示そう。$x\in F$ を任意に与える。$F\subset U_0$ であったから、$x\in U_0$ すなわち $0\in D(x)$ であるから、$f(x)=\inf D(x)\leq 0$ であり、したがって、$f(x)=0$ である。

次に、$x\in H$ のとき $f(x)=1$ となることを示そう。$x\in H$ を任意に与える。$U_1=X\setminus H$ であったから、$(\star)$ により $r\leq 1$ であるような任意の $r\in D$ に対して $x\notin U_r$ である。したがって、$D(x)\subset (1,+\infty)$ なので $1$ は $D(x)$ の下界の一つであり、よって $f(x)=\inf D(x)\geq 1$ だから $f(x)=1$ である。

あとは、$f$ の連続性を示せばよい。そのためには、命題 5.15により、 $\mathbb{R}$ の任意の開区間 $V$ に対して、$f^{-1}(V)$ が $X$ の開集合であることを示せばよい。そのため、$V=(a, b)$ を開区間とし、$x\in f^{-1}(V)$ とする。このとき、$x$ の開近傍 $W$ であって、$W\subset f^{-1}(V)$ となるものが存在することを示せばよい。いま、$a \lt f(x) \lt b$ であるので、ある $p, q\in D$ であって $a \lt p \lt f(x) \lt q \lt b$ となるものが存在する。$W=U_q\setminus\operatorname{Cl} U_p$ とおこう。$W$ は $X$ の開集合である。あとは、(1) $x\in W$ であること、および (2) $W\subset f^{-1}(V)$ であることを示せばよい。

(1) を示そう。いま $\inf D(x)=f(x) \lt q$ であるので、ある $q' \lt q$ となる $q'\in D$ が存在して $x\in U_{q'}$ である。したがって、$(\star)$ により $x\in U_q$ である。また、$p \lt p' \lt f(x)$ となるような $p'\in D$ を取れば、$p' \lt f(x)=\inf D(x)$ により $x\notin U_{p'}$ であるが、一方 $(\star)$ より $\operatorname{Cl} U_p\subset U_{p'}$ であるので $x\notin \operatorname{Cl} U_p$ である。以上から、$x\in U_q\setminus\operatorname{Cl} U_p=W$ である。

次に (2) を示そう。$W\subset f^{-1}(V)$ を示すため、任意に $x'\in W=U_q\setminus \operatorname{Cl} U_p$ を与える。いま、$x'\in U_q$ であるから、$q\in D(x')$ であり、したがって、$f(x)=\inf D(x')\leq q$ である。次に、$x'\notin\operatorname{Cl} U_p$ であるから、$x'\notin U_p$ であり、よって $(\star)$ により $r\leq p$ であるような任意の $r\in D$ に対して $x'\notin U_r$ となる。したがって、$D(x')\subset (p, +\infty)$ だから $p\leq\inf D(x')=f(x')$ である。以上から、$p\leq f(x')\leq q$ なので、$a \lt f(x') \lt b$ すなわち $x'\in f^{-1}( (a,b) )=f^{-1}(V)$ である。 これで $W\subset f^{-1}(V)$ が示された。

これで $f\colon X\to [0,1]$ が連続であることが分かり、定理の証明が終わった。$\square$

次に、正規空間の閉集合で定義された実数値連続関数が、空間全体で定義された連続関数に拡張できるというTietzeの拡張定理を証明しよう。その準備のため、連続関数の一様収束についての命題を示しておく。

$X$ を位相空間とし、$f_n\colon X\to\mathbb{R}\,(n\in\mathbb{N})$ を関数とする。このとき、関数列 $(f_n)_{n=1}^\infty$ が関数 $f\colon X\to\mathbb{R}$ に一様収束する(uniformly convergent)とは、任意の $\varepsilon>0$ に対して、$N\in\mathbb{N}$ が存在して $n\geq N$ のときは常に任意の $x\in X$ に対して $|f_n(x)-f(x)| \lt \varepsilon$ となることをいう。

命題 12.16 (連続関数の一様収束極限は連続)

$X$ を位相空間、$(f_n)_{n=1}^\infty$ を連続関数 $f_n\colon X\to\mathbb{R}$ からなる列とする。$(f_n)_{n=1}^\infty$ が関数 $f\colon X\to\mathbb{R}$ に一様収束するならば、$f$ は連続である。

証明

連続関数 $f_n\colon X\to\mathbb{R}$ の列 $(f_n)_{n=1}^\infty$ が $f\colon X\to\mathbb{R}$ に一様収束するとする。このとき、$f$ が連続であることを示そう。$x_0\in X$ を任意に与える。このとき $f$ が $x_0$ において連続であることを示せばよい。そこで、任意の $\varepsilon>0$ を与える。このとき、$x_0$ の $X$ における開近傍 $U$ であって、任意の $x\in U$ に対して $|f(x)-f(x_0)| \lt \varepsilon$ となるものが存在することを示せばよい。

まず、一様収束の定義により、ある $N\in\mathbb{N}$ が存在して、$n\geq N$ のとき常に任意の $x\in X$ に対して $|f_n(x)-f(x)| \lt \varepsilon/3$ となる。したがって、とくに $n=N$ として、任意の $x\in X$ に対して $|f_N(x)-f(x)| \lt \varepsilon/3$ となる。

次に、$f_N$ は連続であるから、とくに $x_0$ において連続である。したがって、$x_0$ の開近傍 $U$ が存在して、任意の $x\in U$ に対して $|f_N(x)-f_N(x_0)| \lt \varepsilon/3$ となる。以上から、任意の $x\in U$ に対して、 $$ \begin{aligned} \abs{f(x)-f(x_0)} & \leq \abs{f(x)-f_N(x)} + \abs{f_N(x)-f_N(x_0)} + \abs{f_N(x_0)-f(x_0)} \\ & \lt \varepsilon/3+\varepsilon/3+\varepsilon/3=\varepsilon \end{aligned} $$ である。これで求める $x_0$ の開近傍 $U$ が得られ、$f$ の $x_0$ における連続性が示された。$x_0\in X$ は任意であったから、$f$ の連続性が示された。$\square$

定理 12.17 (Tietzeの拡張定理)

$X$ を正規空間、$F$ を $X$ の閉集合とし、$f\colon F\to [a, b]$ を閉区間 $[a, b]=\{t\in\mathbb{R}\,|\,a\leq t\leq b\}$ への連続関数とする($-\infty \lt a \lt b \lt +\infty$)。このとき、連続関数 $\tilde{f}\colon X\to [a, b]$ であって $\tilde{f}|_F=f$ となるものが存在する。

証明

記法を簡単にするため、$[a, b]=[-1, 1]$ の場合に証明する。どんな閉区間 $[a, b]$ も $[-1, 1]$ と同相だから、この特別な場合から一般の場合はすぐに導かれる。

まず、次のことに注意しておく。$c>0$ とするとき、連続関数 $f_0\colon F\to\mathbb{R}$ が任意の $x\in F$ に対して $|f_0(x)|\leq c$ を満たすならば、連続関数 $g\colon X\to\mathbb{R}$ であって、 $$ \abs{g(x)} \leq\frac{1}{3}c\quad(x\in X)\qquad(\star) $$ および $$ \abs{f_0(x)-g(x)} \leq\frac{2}{3}c\quad(x\in F)\qquad(\star\star) $$ を満たすものが存在する。このことを示すため、$A=f_0^{-1}([-c,-c/3]),$ $B=f_0^{-1}([c/3,c])$ とおく。$A,$ $B$ は $F$ の閉集合だから、$X$ の閉集合である。しかも、$A\cap B=\emptyset$ である。よって、Urysohn の補題(定理 12.15)により、連続関数 $k\colon X\to [0,1]$ であって $x\in A$ のとき $k(x)=0$ であり $x\in B$ のとき $k(x)=1$ となるようなものが存在する。このとき、連続関数 $g\colon X\to\mathbb{R}$ を $$ g(x)=\frac{2}{3}c\left(k(x)-\frac{1}{2}\right) $$ により定めれば、$(\star)$ が成り立つことは直ちに分かる。$(\star\star)$ を場合分けによって確かめよう。$x\in A$ の場合は $f_0(x)\in[-c, -c/3],$ $g(x)=-c/3$ だから $|f_0(x)-g(x)|\leq 2c/3$ であり、$x\in B$ の場合は $f_0(x)\in [c/3, c],$ $g(x)=c/3$ だから $|f_0(x)-g(x)|\leq 2c/3$ である。残る $x\in F\setminus (A\cup B)$ の場合は、$f_0(x)\in (-c/3, c/3),$ $g(x)\in [-c/3, c/3]$ であるからやはり $|f_0(x)-g(x)|\leq 2c/3$ である。これで、$(\star\star)$ も確かめられた。

さて、$f\colon F\to [-1,1]$ を連続関数とする。連続関数 $g_n\colon X\to\mathbb{R}\,(n\in\mathbb{N})$ を $$ \abs{g_n(x)} \leq\frac{1}{3}\left(\frac{2}{3}\right)^{n-1}\quad(x\in X)\qquad(\sharp) $$ および $$ \abs{f(x)-\sum_{i=1}^n g_i(x)} \leq \left(\frac{2}{3}\right)^n\quad(x\in F)\qquad(\sharp\sharp) $$ を満たすように、帰納的に構成する。$g_1$ を得るには、前段落の注意を、$f_0=f,$ $c=1$ の場合に適用すればよい。$g_1,\ldots, g_n$ がすでに定義され、$(\sharp)$ および $(\sharp\sharp)$ を満たしているとしよう。前段落の注意を、$f_0=f-\sum_{i=1}^n g_i|_F$ および $c=(2/3)^n$ の場合に適用すれば、$g_{n+1}$ であって $(\sharp)$ および $(\sharp\sharp)$ を満たすものが得られる。これで、帰納的な構成が終わった。

$(\sharp)$ により、各 $x\in X$ に対して無限級数 $\sum_{n=1}^\infty g_n(x)=\lim_{n\to\infty} \sum_{i=1}^n g_i(x)$ は収束するので、$\tilde{f}(x)=\sum_{n=1}^\infty g_n(x)$ と定義する。このとき、 $$ \abs{\tilde{f}(x)} = \abs{\sum_{n=1}^\infty g_n(x)} \leq\sum_{n=1}^\infty \abs{g_n(x)} \leq\sum_{n=1}^\infty \frac{1}{3}\left(\frac{2}{3}\right)^{n-1}=1 $$ となるから、写像 $\tilde{f}\colon X\to [-1,1]$ が定まる。しかも各 $x\in X,$ $n\in\mathbb{N}$ に対して $$ \abs{\tilde{f}(x)-\sum_{i=1}^n g_i(x)} \leq \sum_{i=n+1}^\infty \abs{g_i(x)} \leq\sum_{i=n+1}^\infty \frac{1}{3}\left(\frac{2}{3}\right)^{i-1}=\left(\frac{2}{3}\right)^n $$ であり、この最右辺は $x$ に依存せず $n\to\infty$ のとき $0$ に収束することから、 連続関数列 $(\sum_{i=1}^n g_i(x))_{n=1}^\infty$ は $\tilde{f}$ に一様収束することが分かる。よって命題 12.16により、$\tilde{f}\colon X\to [-1,1]$ は連続である。 さらに、$(\sharp\sharp)$ において $n\to\infty$ とすると、$x\in F$ のとき $f(x)=\tilde{f}(x)$ であることが分かる。このことは $\tilde{f}|_F=f$ を意味している。以上で定理は証明された。$\square$

上で述べたTietzeの拡張定理は、閉区間 $[a, b]$ に値をとる連続関数についての主張であったが、$\mathbb{R}$ に値をとる連続関数についても同様のことが成り立つ。

定理 12.18 ($\mathbb{R}$ に値をとる関数に対する Tietze の拡張定理)

$X$ を正規空間、$F$ を $X$ の閉集合とし、$f\colon F\to\mathbb{R}$ を連続関数とする。このとき、連続関数 $\tilde{f}\colon X\to \mathbb{R}$ であって $\tilde{f}|_F=f$ となるものが存在する。

証明

$f\colon F\to\mathbb{R}$ を、正規空間 $X$ の閉集合 $F$ で定義された連続関数とする。同相写像 $h\colon \mathbb{R}\to (-1,1)$ を一つ取り固定する。たとえば、そのような $h$ としては、 $$ h(x)=\frac{x}{1+\abs x}\quad(x\in\mathbb{R}) $$ で定義されるものがある。実際、この $h$ の逆写像 $h^{-1}\colon (-1,1)\to\mathbb{R}$ は $$ h^{-1}(y)=\frac{y}{1-\abs y} $$ で定義され、$h,$ $h^{-1}$ はともに連続である。$g=h\circ f\colon X\to (-1,1)$ とする。$g$ を $[-1,1]$ への連続写像であると見なし、これにさきほど示したTietzeの拡張定理(定理 12.17)を用いると、連続関数 $\tilde{g}\colon X\to [-1,1]$ であって $\tilde{g}|_F=g$ となるものが得られる。このとき、任意の $x\in F$ に対して $\tilde{g}(x)=g(x)=h(f(x))\in(-1,1)$ であるので、$H=\tilde{g}^{-1}(\{1, -1\})$ とおくと $F\cap H=\emptyset$ であり、$H$ は $X$ の閉集合である。よって、Urysohnの補題(定理 12.15)により、ある連続関数 $\alpha\colon X\to [0,1]$ であって、$x\in F$ のとき $\alpha(x)=1$ であり、$x\in H$ のとき $\alpha(x)=0$ であるようなものが存在する。そこで、連続関数 $\tilde{f}_0\colon X\to\mathbb{R}$ を $$ \tilde{f}_0(x)=\alpha(x)\tilde{g}(x) $$ で定めると、任意の $x\in X$ に対して $\tilde{f}_0(x)\in (-1,1)$ である。実際、$x\in H$ のときは $\alpha(x)=0$ により $\tilde{f}_0(x)=0$ であり、$x\in X\setminus H$ のときは $\alpha(x)\in [0,1],$ $\tilde{g}(x)\in (-1,1)$ により $\tilde{f}_0(x)=\alpha(x)\tilde{g}(x)\in (-1,1)$ となるからである。したがって、$\tilde{f}_0$ を $(-1,1)$ への連続写像 $\tilde{f}_0\colon X\to (-1,1)$ と考えることができる。そこで、連続関数 $\tilde{f}\colon X\to \mathbb{R}$ を $$ \tilde{f}=h^{-1}\colon\tilde{f}_0 $$ により定義すると、これは、$\tilde{f}|_F=f$ を満たしている。実際、$x\in F$ とすると、$\alpha(x)=1$ であるので、$\tilde{f}_0(x)=\alpha(x)\tilde{g}(x)=1\cdot g(x)=g(x)=h(f(x))$ であり、したがって $\tilde{f}(x)=h^{-1}\circ\tilde{f}_0(x)=f(x)$ となるからである。これで、定理は証明された。$\square$

最後に、二つの例を挙げる。一つ目の例は、正規空間の部分空間が正規空間とならない例である。これは正則空間であるが正規空間でないものの例も与えている。

例 12.19 (正規空間の部分空間が正規とならない例、正則だが正規でない空間の例)

正規空間 $X$ とその正規でない部分空間 $Y$ の例を挙げよう。 $I=J=[0,1]$ とし、$I$ の位相は通常の $[0, 1]$ の位相($\mathbb{R}$ からの相対位相)とする。したがって、$I$ はコンパクトHausdorff空間である。$J$ の位相を定めるため $$ \mathcal{O}_J=\{[0,1]\setminus F\,|\,F\text{ は }(0,1]\text{ の有限部分集合 }\}\cup\mathcal{P}((0,1]) $$ とおく。ここで、$\mathcal{P}((0,1])$ は $(0,1]$ の冪集合、すなわち $(0,1]$ の部分集合全体の集合を表す。 $\mathcal{O}_J$ が開集合系の公理を満たすことはすぐに確かめられるので、$J$ に $\mathcal{O}_J$ を開集合系として位相を定める。このとき、$J$ もコンパクトHausdorff空間になることがやはり簡単に確かめられる。

$X=I\times J$ とする。$I$ も $J$ もコンパクトHausdorff空間であるから、 定理 9.18命題 11.4により $X$ はコンパクトHausdorff空間であり、したがって定理 12.14により $X$ は正規空間である。

$Y=X\setminus\{(0,0)\}$ とする。以下では $Y$ が正規空間ではないことを示す。$\tilde{A}=I\times\{0\},$ $\tilde{B}=\{0\}\times J$ はそれぞれ $X$ の閉集合である。よって、$A=\tilde{A}\cap Y= (0,1]\times\{0\}$ および $B=\tilde{B}\cap Y=\{0\}\times (0,1]$ は $Y$ の閉集合である。このとき、$Y$ の開集合 $U,$ $V$ であって $A\subset U,$ $B\subset V,$ $U\cap V=\emptyset$ となるものが存在しないことを示そう。

そこで、$A\subset U,$ $B\subset V$ となる $Y$ の開集合 $U,$ $V$ を任意に与える。$Y$ は $X$ の開集合なので、$U,$ $V$ は $X$ の開集合でもある。各 $x\in (0,1]$ に対して、$V$ は点 $(0,x)$ の $X=I\times J$ における開近傍なので、$n_x\in\mathbb{N}$ を $[0,1/n_x)\times\{x\}\subset V$ であるように選べる。そこで、各 $n\in\mathbb{N}$ に対して $J_n=\{x\in (0,1]\,|\, n_x=n\}$ とおけば、 $$ \bigcup_{n=1}^\infty J_n=(0,1] $$ である。もし、すべての $n\in\mathbb{N}$ に対して $J_n$ が有限であれば、上の式から $(0,1]$ は高々可算でなければならず、$(0,1]$ が非可算集合であることに矛盾する。したがって、ある $n$ に対して、$J_n$ は無限集合となる。さて、この $n$ に対して、$(1/2n, 0)\in A$ なので、$U$ は $(1/2n, 0)$ の $X=I\times J$ における近傍である。よって、ある $\varepsilon>0$ と有限集合 $F\subset (0,1]$ が存在して、 $$ (1/2n-\varepsilon, 1/2n+\varepsilon)\times([0,1]\setminus F)\subset U $$ である。$J_n$ は無限集合で $F$ は有限集合であるから、$x\in J_n\setminus F$ が存在するが、この $x$ に対して、$(1/2n, x)\in U\cap V$ である。実際、$x\in [0,1]\setminus F$ であるから $(1/2n, x)\in U$ であることは上の式から明らかである。また、$x\in J_n$ により $n_x=n$ であるから、$[0, 1/n)\times\{x\}\subset V$ であり、したがって $(1/2n, x)\in V$ も成り立つ。以上により、$(1/2n, x)\in U\cap V$ であるから、$U\cap V\neq\emptyset$ である。これで、$A\subset U,$ $B\subset V,$ $U\cap V=\emptyset$ となる $Y$ の開集合 $U,$ $V$ は存在しないことが示された。よって、$Y$ は正規空間ではない。

なお、この $Y$ は正則空間だが正規空間ではないものの例にもなっている。実際、$X$ は正規空間、したがって正則空間となるので、命題 12.5により、その部分空間 $Y$ も自動的に正則空間となるからである。$\square$

次の例は、正規空間の直積空間が正規空間にならない例である。この例の説明では、集合の濃度についての多少の知識を仮定する。集合 $X$ の濃度を $|X|$ で表す。また、位相空間 $X,$ $Y$ に対して、$X$ から $Y$ への連続写像全体の集合を $C(X, Y)$ で表し、集合 $S,$ $T$ に対して、$S$ から $T$ への写像全体の集合を $T^S$ で表す。

例 12.20 (正規空間の直積が正規でない例)

$\mathbb{S}$ をSorgenfrey直線(例 3.12)とする。まず、$\mathbb{S}$ が正規空間となることを証明しよう。そのため、まず次の事実に注意する。半開区間 $[a, b),$ $[c, d)$ について $[a, b)\cap [c, d)\neq\emptyset$ ならば、$a\in [c, d)$ または $c\in [a, b)$ である。このことは、簡単な場合分けによって示されるので、証明を省略する。

$\mathbb{S}$ の正規性を示すため、$F,$ $H$ を $\mathbb{S}$ の閉集合とし、$F\cap H=\emptyset$ であるとする。このとき、各 $x\in F$ に対して、$\mathbb{S}\setminus H$ は $x$ の $\mathbb{S}$ における開近傍であるから、$r_x>0$ を $[x, x+r_x)\cap H=\emptyset$ であるように選べる。同様に、各 $y\in H$ に対して、$\mathbb{S}\setminus F$ は $y$ の $\mathbb{S}$ における開近傍であるから、$s_y>0$ を $[y, y+s_y)\cap F=\emptyset$ であるように選べる。$U=\bigcup_{x\in F} [x, x+r_x),$ $V=\bigcup_{y\in H} [y, y+s_y)$ は $\mathbb{S}$ の開集合であり、$F\subset U,$ $H\subset V$ を満たす。もし、$U\cap V\neq\emptyset$ であったとすれば、ある $x\in F$ と $y\in H$ に対して $[x, x+r_x)\cap [y, y+s_y)\neq\emptyset$ であるが、ここで前段落で述べた事実を使うと、$x\in [y, y+s_y)$ または $y\in [x, x+r_x)$ となることが分かる。ところが、前者の場合は $F\cap [y, y+s_y)\neq\emptyset$ となって $s_y$ の取り方に矛盾し、後者の場合は $[x, x+r_x)\cap H\neq\emptyset$ となって $r_x$ の取り方に矛盾する。いずれにしても矛盾するから、$U\cap V=\emptyset$ である。これで、$\mathbb{S}$ が正規空間であることが示された。

$\mathbb{S}$ を二つ直積したもの $\mathbb{S}^2=\mathbb{S}\times\mathbb{S}$ を考える。以下では $\mathbb{S}^2$ が正規空間とならないことを示す。これが言えれば、正規空間同士の直積が正規空間でない例が得られたことになる。

この証明では $\mathbb{S}^2$ 上の実数値連続関数全体の集合 $C(\mathbb{S}^2, \mathbb{R})$ の濃度に着目する。まず、この濃度を上から評価するため、有理点全体の集合 $\mathbb{Q}^2=\mathbb{Q}\times\mathbb{Q}\subset \mathbb{S}^2$ に注目する。$\mathbb{Q}$ は可算集合であるから、$\mathbb{Q}^2$ は可算集合である。また、$\mathbb{Q}^2$ は $\mathbb{S}^2$ において稠密である(このことは、半開区間 $[a, b)$ が必ずある有理数を要素にもつことに着目すれば示せる)。したがって、$\mathbb{R}$ がHausdorff空間であることに注意すると、 命題 11.9から次が分かる。「連続関数 $f, g\colon \mathbb{S}^2\to\mathbb{R}$ に対して $f|_{\mathbb{Q}^2}=g|_{\mathbb{Q}^2}$ ならば $f=g$ である。」このことは、写像 $\rho\colon C(\mathbb{S}^2, \mathbb{R})\to C(\mathbb{Q}^2, \mathbb{R})$ を $\rho(f)=f|_{\mathbb{Q}^2}$ で定義するとき、$\rho$ が単射であることを意味している。このような単射が存在することは、濃度についての不等式 $$ \cardinal{C(\mathbb{S}^2, \mathbb{R})}\leq \cardinal{C(\mathbb{Q}^2, \mathbb{R})} $$ が成立することを意味する。ところで、$\mathbb{Q}^2$ から $\mathbb{R}$ への連続写像全体の集合 $C(\mathbb{Q}^2, \mathbb{R})$ は $\mathbb{Q}^2$ から $\mathbb{R}$ への(連続とは限らない)写像全体の集合 $\mathbb{R}^{\mathbb{Q}^2}$ に含まれるから、 $$ \cardinal{C(\mathbb{Q}^2, \mathbb{R})}\leq \cardinal{\mathbb{R}^{\mathbb{Q}^2} } $$ である。ところで、$\mathbb{Q}^2$ の濃度は可算無限濃度 $\aleph_0$ であり、$\mathbb{R}$ の濃度は $2^{\aleph_0}$ であるから、 $$ \cardinal{\mathbb{R}^{\mathbb{Q}^2} }=(2^{\aleph_0})^{\aleph_0}=2^{\aleph_0\cdot\aleph_0}=2^{\aleph_0} $$ となる。以上を合わせて、$|C(\mathbb{S}^2, \mathbb{R})|$ の上からの評価 $$ \cardinal{C(\mathbb{S}^2, \mathbb{R})} \leq 2^{\aleph_0}\qquad(\star) $$ が得られた。

さて、$|C(\mathbb{S}^2, \mathbb{R})|$ の下からの評価をつくるため、$\mathbb{S}^2$ の次の部分集合に着目する。 $$ A=\{(x,y)\in\mathbb{S}\times\mathbb{S}\,|\,x+y=0\} $$ すると、この $A$ は $\mathbb{S}^2$ の閉集合である。実際、$\mathbb{S}$ の位相は $\mathbb{R}$ の通常の位相より細かい(例 3.12)から、$\mathbb{S}^2$ の位相は $\mathbb{R}^2$ の通常の位相よりも細かい。$A$ は $\mathbb{R}^2$ の通常の位相について閉集合だから、より細かい $\mathbb{S}^2$ の位相についても閉集合になっている。

次に、$A$ を $\mathbb{S}^2$ の部分空間と考えると、これは離散空間となっている。これを見るため、点 $(x, -x)\in A$ を任意に与えよう。$(x, -x)$ の $\mathbb{S}^2$ における開近傍として $U=[x, x+1)\times [-x, -x+1)$ を取ると、$U\cap A=\{(x, -x)\}$ となるから、$\{(x, -x)\}$ は $A$ の開集合である。したがって、$A$ の任意の一点からなる部分集合は $A$ の開集合である。$A$ のどんな部分集合も、一点からなる集合の和集合として表されるから、$A$ の任意の部分集合は $A$ の開集合である。すなわち、$A$ は離散空間である。

$A$ は離散空間だから、$A$ から $\mathbb{R}$ への写像はすべて連続である。すなわち $C(A, \mathbb{R})=\mathbb{R}^A$ である。また、$A$ から $\mathbb{R}$ へは $(x, -x)\mapsto x$ により定まる全単射があるから、$A$ の濃度は $\mathbb{R}$ の濃度と同じで $2^{\aleph_0}$ である。以上から、 $$ \cardinal{C(A, \mathbb{R})}=\cardinal{\mathbb{R}^A}=(2^{\aleph_0})^{2^{\aleph_0}}=2^{\aleph_0\cdot 2^{\aleph_0}}=2^{2^{\aleph_0}} $$

を得る。いま、$\mathbb{S}^2$ が正規空間であったとすれば、Tietzeの拡張定理(定理 12.18)により、任意の連続写像 $f\colon A\to\mathbb{R}$ に対して連続写像 $E(f)\colon \mathbb{S}^2\to\mathbb{R}$ であって $E(f)|_{A}=f$ となるものが選べる。これにより写像 $E\colon C(A,\mathbb{R})\to C(\mathbb{S}^2, \mathbb{R})$ が得られるが、$E$ は単射である。実際、$f, g\in C(A, \mathbb{R})$ に対して $E(f)=E(g)$ であるとすると、$f=E(f)|_A=E(g)|_A=g$ となるからである。このような単射 $E$ が存在することは、 $$ \cardinal{C(A, \mathbb{R})}\leq\cardinal{C(\mathbb{S}^2,\mathbb{R})} $$ を意味する。以上から、 $$ \cardinal{C(\mathbb{S}^2, \mathbb{R})}\geq 2^{2^{\aleph_0}}\qquad(\star\star) $$ が結論される。一般に濃度 $\kappa$ について $\kappa \lt 2^\kappa$ であるから、$\kappa=2^{\aleph_0}$ とすると $2^{\aleph_0} \lt 2^{2^{\aleph_0}}$ である。したがって $(\star)$ と $(\star\star)$ は互いに矛盾する。この矛盾により、$\mathbb{S}^2$ は正規空間でないことが示された。$\square$


位相空間論13:距離空間の位相(1)

この章では、距離空間の位相的取り扱いでしばしば用いられる諸性質について取り扱う。特に、いわば「すき間のない」距離空間である完備距離空間の性質について扱う。ただし、完備性は開集合の言葉だけでは記述できない距離に依存した概念であって、位相的性質ではないので注意が必要である。また、写像に関しては、一様連続写像の概念について述べる。


まず、改めて距離空間についての基本的な用語を確認しておこう。 $(X, d)$ を距離空間とする。$x\in X,$ $r>0$ とするとき、 $$ B_d(x,r)=\{y\in X\,|\,d(x,y)<r\},\quad \overline{B}_d(x,r)=\{y\in X\,|\,d(x,y)\leq r\} $$ をそれぞれ $x$ を中心とする半径 $r$ の開球体、閉球体といい(定義 1.14)、混乱のおそれのない場合はこれらを単に $B(x,r),$ $\overline{B}(x,r)$ で表す。距離空間 $(X, d)$ も混乱のおそれのない場合は単に $X$ で表すことがある。距離空間 $X$ は位相空間と見なすことができ、開球体、閉球体はそれぞれ $X$ の開集合、閉集合である(定義 1.16)。さらに、$x\in X$ を固定するとき $\{B(x,r)\,|\,r>0\}$ および $\{B(x,1/n)\,|\,n\in\mathbb{N}\}$ は $x$ の $X$ における基本近傍系となる(例 2.8)。

なお、以下では三角不等式 $d(x,z)\leq d(x,y)+d(y,z)$ を移項した形 $$ d(x,y)\geq d(x,z)-d(y,z) $$ も使われることがあるので注意しておく。次の事実は基本的である。

命題 13.1 (距離関数の連続性)

$(X, d)$ を距離空間とするとき、距離 $d\colon X\times X\to\mathbb{R}$ は直積空間 $X\times X$ から実数直線 $\mathbb{R}$ への連続関数である。

証明

$(x, y)\in X\times X$ とする。$(x, y)\in X$ における $d$ の連続性を示すため、$\varepsilon>0$ を任意に与える。このとき $$ d(B(x, \varepsilon/2)\times B(y, \varepsilon/2))\subset (d(x,y)-\varepsilon, d(x,y)+\varepsilon)\quad(\star) $$ であることを示せばよい。そこで、$x'\in B(x, \varepsilon/2)$ および $y'\in B(y, \varepsilon/2)$ を任意に与える。いま $$ d(x', y')-d(x, y)\leq d(x', x)+d(x, y)+d(y, y')-d(x, y)=d(x, x')+d(y, y')<\varepsilon/2+\varepsilon/2=\varepsilon $$ である。上の式で $x$ と $x'$ を入れ換え、$y$ と $y'$ を入れ換えれば同様に $d(x, y)-d(x',y')<\varepsilon$ も得られるから、結局 $$ |d(x', y')-d(x, y)|<\varepsilon $$ となる。これは $d(x', y')\in (d(x,y)-\varepsilon, d(x,y)+\varepsilon)$ を意味するから、$(\star)$ が示された。$\square$

定義 13.2 (集合の間の距離)

$(X, d)$ を距離空間とし、$A,$ $B$ を $X$ の空でない部分集合とする。このとき、$A$ と $B$ との間の距離 $d(A, B)$ を $$ d(A, B)=\inf\{d(x,y)\,|\,x\in A,\,y\in B\} $$ で定義する。

注意 13.3 (距離がゼロである二つの閉集合は必ずしも交わらない)

距離空間 $(X, d)$ において、もし $A, B\subset X$ に対して $A\cap B\neq\emptyset$ であれば、定義から $d(A, B)=0$ である。このことの逆は、たとえ $A,$ $B$ が $X$ の閉集合であるとしても正しくない。例えば、$X=\mathbb{R}^2$ とし、 $$ A=\{(x,y)\in\mathbb{R}^2\,|\,xy=1\},\quad B=\{(x,y)\in\mathbb{R}^2\,|\,y=0\} $$ とすると、$d(A, B)=0$ であるが $A\cap B=\emptyset$ である。しかし、次の命題(の対偶)から分かるように、$A,$ $B$ の少なくとも一方がコンパクトであれば、このようなことは起こらない。$\square$

命題 13.4 (交わらないコンパクト集合と閉集合の距離は正)

$(X, d)$ を距離空間とし、$A$ を $X$ の空でないコンパクト集合とし、$B$ を $X$ の空でない閉集合とする。もし、$A\cap B=\emptyset$ であるならば、$d(A, B)>0$ である。

証明

各 $x\in A$ に対して、$X\setminus B$ は $x$ の $X$ における開近傍となるから、$r_x>0$ を $B(x, r_x)\subset X\setminus B$ となるように選べる。このとき、$\{B(x, r_x/2)\,|\,x\in A\}$ はコンパクト集合 $A$ の $X$ における開被覆であるから、有限個の点 $x_1,\ldots, x_n\in X$ が存在して $A\subset \bigcup_{i=1}^n B(x_i, r_{x_i}/2)$ となる。$r=\min\{r_{x_1}/2,\ldots, r_{x_n}/2\}>0$ とおこう。任意に $x\in A,$ $y\in B$ を与える。このとき、ある $i\in\{1,\ldots,n\}$ に対して $x\in B(x_i, r_{x_i}/2)$ すなわち $d(x_i,x)<r_{x_i}/2$ である。一方、$B(x_i, r_{x_i})\subset X\setminus B$ であるから、$d(x_i, y)\geq r_{x_i}$ である。よって、 $$ d(x,y)\geq d(x_i, y)-d(x_i, x)\geq r_{x_i}-r_{x_i}/2=r_{x_i}/2\geq r $$ である。これが任意の $x\in A,$ $y\in B$ について成り立つので、$d(A, B)\geq r>0$ である。$\square$

コンパクト距離空間の開被覆について、次の定理が基本的である。

定理 13.5 (Lebesgue数の存在)

$(X, d)$ をコンパクト距離空間とし、$\mathcal{U}$ を $X$ の開被覆とする。このとき、ある $\delta>0$ が存在して、次が成り立つ:「任意の $x\in X$ に対して、ある $U\in \mathcal{U}$ が存在して $B(x,\delta)\subset U$ となる。」(このような $\delta$ を開被覆 $\mathcal{U}$ のLebesgue数 (Lebesgue number)という。)

証明

各 $x\in X$ に対して、$U_x\in\mathcal{U}$ を $x\in U_x$ となるように選び、次に $r_x>0$ を $B(x, r_x)\subset U_x$ となるように選ぶ。すると、$\{B(x, r_x/2)\,|\,x\in X\}$ はコンパクト空間 $X$ の開被覆であるから、有限個の点 $x_1,\ldots, x_n\in X$ を取り $X=\bigcup_{i=1}^n B(x_i, r_{x_i}/2)$ とできる。

$\delta=\min\{r_{x_1}/2,\ldots,r_{x_n}/2\}>0$ とおく。$\delta$ が定理の条件を満たすことを示そう。そのため、$x\in X$ を任意に与える。$i\in\{1,\ldots,n\}$ で $x\in B(x_i, r_{x_i}/2)$ すなわち $d(x, x_i)<r_{x_i}/2$ となるものが存在する。このとき $B(x,\delta)\subset U_{x_i}$ となることを示そう。そのため、$y\in B(x,\delta)$ とする。すると $d(x,y)<\delta\leq r_{x_i}/2$ なので、 $d(y, x_i)\leq d(y,x)+d(x,x_i)<r_{x_i}/2+r_{x_i}/2=r_{x_i}$ であるから、$y\in B(x_i, r_{x_i})\subset U_{x_i}$ である。これで、$B(x,\delta)\subset U_{x_i}$ が示され、定理は証明された。$\square$

実数直線 $\mathbb{R}$ の基本的な性質として「任意のCauchy列は収束する」というものがある。このことを復習しておこう。実数列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ がCauchy列であるとは、任意の $\varepsilon>0$ に対して、$N\in\mathbb{N}$ が存在して $$ n,m\geq N \Longrightarrow |x_n-x_m|<\varepsilon $$ が成立することである。このような実数列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ は必ずある実数に収束するのであった。ある実数列が Cauchy列であると分かるためには、その列の極限が何であるか知っている必要はない。したがって、この性質は、極限が未知である実数列に対して極限の存在を保証するものとして重要である。

距離空間においても、まったく同様にしてCauchy列の概念を定義できる。そして、$\mathbb{R}$ のときのように任意のCauchy列が収束するような距離空間を、完備な距離空間という。

定義 13.6 (Cauchy列)

$(X, d)$ を距離空間とし、$(x_n)_{n=1}^\infty$ を $X$ の点列とする。このとき、$(x_n)_{n=1}^\infty$ が $(X, d)$ のCauchy列(Cauchy sequence)であるとは、任意の $\varepsilon>0$ に対して、$N\in\mathbb{N}$ が存在して $$ n, m\geq N\Longrightarrow d(x_n, x_m)<\varepsilon $$ が成立することをいう。$\square$

この定義は、もちろん、$X=\mathbb{R}$ の場合にはすでに述べた実数列がCauchy列であることの定義と一致する。

定義 13.7 (完備性)

距離空間 $(X, d)$ が完備(complete)であるとは、$(X,d)$ の任意のCauchy列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ に対して、ある $x\in X$ が存在して $(x_n)_{n=1}^\infty$ が $x$ に収束することをいう。$\square$

例 13.8 ($\mathbb{R}$ は完備であるが $\mathbb{Q}$ は完備でない)

すでに述べたことから、$\mathbb{R}$ は(通常の距離に関して)完備な距離空間となる。 $\mathbb{Q}$ は、$\mathbb{R}$ の距離の制限によって距離空間とみなされるが、この $\mathbb{Q}$ は完備ではないことを示そう。

$\sqrt{2}$ の十進小数展開 $\sqrt{2}=1.4142\cdots$ を小数第 $n$ 位までで打ち切って得られる有理数を $x_n$ とすれば、 $$ x_1=1.4,\quad x_2=1.41,\quad x_3=1.414,\cdots $$ という $\mathbb{Q}$ の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ が得られる。$(x_n)_{n=1}^\infty$ はCauchy列である。これを示すため、$\varepsilon>0$ を任意に与える。これに対して $N\in\mathbb{N}$ を $10^{-N}<\varepsilon$ となるように十分大きく取る。すると、$n, m\geq N$ のとき $x_n$ と $x_m$ は少なくとも小数第 $n$ 位まで一致するから $|x_n-x_m|\leq 10^{-N}<\varepsilon$ である。よって、$(x_n)_{n=1}^\infty$ は $\mathbb{Q}$ のCauchy列である。$\mathbb{Q}$ が完備でないことを言うには、このCauchy列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ が $\mathbb{Q}$ のいかなる点にも収束しないことが言えればよい。

そこで、Cauchy列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ がある $x\in\mathbb{Q}$ に収束したとして矛盾を導こう。実数 $\sqrt{2}$ はよく知られているように無理数だから、$\sqrt{2}\neq x$ である。そこで、$\varepsilon=|x-\sqrt{2}|/2$ とおくと、$\varepsilon>0$ である。$(x_n)_{n=1}^\infty$ は $x$ に収束すると仮定しているので、ある $N_1\in\mathbb{N}$ が存在して、$n\geq N_1$ のとき常に $|x_n-x|<\varepsilon$ である。次に、$N_2\in\mathbb{N}$ を、$10^{-N_2}<\varepsilon$ となるように十分小さくとる。数列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ のつくり方から、$n\geq N_2$ のとき $|x_n-\sqrt{2}|\leq 10^{-N_2}<\varepsilon$ である。そこで、$N=\max\{N_1, N_2\}$ とおけば、$|x_N-x|<\varepsilon,$ $|x_N-\sqrt{2}|<\varepsilon$ なので、 $$

$$ となり、矛盾する。これで、$\mathbb{Q}$ のCauchy列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ が $\mathbb{Q}$ のいかなる点にも収束しないことが示されたので、$\mathbb{Q}$ は完備でないと分かった。$\square$ 距離空間 $(X, d)$ と部分集合 $A\subset X$ に対して、$d$ の制限 $d|_{A\times A}$ は $A$ 上の距離となる。$A$ はこの $d|_{A\times A}$ によって距離空間と見なすことにしているのだった(注意 1.13)。

命題 13.9 (完備距離空間の閉集合は完備)

$(X, d)$ を完備距離空間とし、$A$ を $X$ の閉集合とする。 このとき $A$ も完備距離空間となる。

証明

$A$ を完備距離空間 $(X, d)$ の閉集合とする。$d_A=d|_{A\times A}$ とおくとき、$(A, d_A)$ が完備であることを示せばよい。そこで、$(x_n)_{n=1}^\infty$ を $(A, d_A)$ のCauchy列とする。これを $X$ の点列とみなせば、$(x_n)_{n=1}^\infty$ は $(X, d)$ のCauchy列でもあるから、$(X, d)$ の完備性により、ある $x\in X$ が存在して、$(x_n)_{n=1}^\infty$ は $x$ に収束する。すなわち、次が成り立つ(命題 2.19参照)。

任意の $\varepsilon>0$ に対して、$N\in\mathbb{N}$ が存在して、$n\geq N$ のとき常に $d(x_n,x)<\varepsilon$ である。$\quad (\star)$

いま、$(x_n)_{n=1}^\infty$ は $A$ の点列であり、$A$ は $X$ の閉集合であったので、 命題 4.8により $x\in A$ である。したがって、$d_A(x_n, x)$ を考えることができそれは $d(x_n, x)$ に等しい。よって、$(\star)$ により次が成り立つ。

任意の $\varepsilon>0$ に対して、$N\in\mathbb{N}$ が存在して、$n\geq N$ のとき常に $d_A(x_n,x)<\varepsilon$ である。

これは、$A$ の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ が $(A,d_A)$ において $x$ に収束していることを示している(命題 2.19参照)。これで $(A, d_A)$ が完備であることが示された。$\square$


命題 13.10 (距離空間の完備な部分集合は閉集合)

$(X, d)$ を距離空間、$A$ を $X$ の部分集合とする。もし、$A$ が完備であるならば、$A$ は $X$ の閉集合である。

証明

再び、$d|_{A\times A}=d_A$ とする。$A$ が $X$ の閉集合であることを、命題 4.8を用いて証明する。$(x_n)_{n=1}^\infty$ を $A$ の点列とし、$(x_n)_{n=1}^\infty$ が $X$ の点 $x$ に収束するとする。このとき、$x\in A$ を証明すればよい。 まず、$(x_n)_{n=1}^\infty$ は $(A, d_A)$ のCauchy列である。これを示すため、$\varepsilon>0$ を任意に与える。$(x_n)_{n=1}^\infty$ は $x$ に収束するから、$N\in\mathbb{N}$ が存在して、$n\geq N$ のとき常に $d(x_n, x)<\varepsilon/2$ である。このとき、任意の $n, m\geq N$ に対して $$ d_A(x_n, x_m)=d(x_n, x_m)\leq d(x_n, x)+d(x, x_m)<\varepsilon/2+\varepsilon/2=\varepsilon $$ である。これで、$(x_n)_{n=1}^\infty$ は $(A, d_A)$ のCauchy列であることが分かった。いま、$A$ つまり $(A, d_A)$ は完備であるから、ある $x'\in A$ が存在して、$(x_n)_{n=1}^\infty$ は $x'$ に収束する。以上で $(x_n)_{n=1}^\infty$ は $x$ に収束し、同時に $x'$ にも収束することが言えた。いま、$X$ は距離空間なのでHausdorff空間である(命題 11.6)。したがって、命題 11.10により、$x=x'$ である。いま、$x'\in A$ であったから、$x\in A$ である。以上から、命題 4.8によって $A$ が $X$ の閉集合であることが示された。$\square$

とくに注意すべきこととして、完備性は位相的性質ではない。つまり、$(X, d)$ と $(Y, d')$ が距離空間であり、$(X,d)$ が完備であるとき、$X$ と $Y$ が同相であったとしても $(Y, d')$ が完備になるとは限らない。それは次の例から分かる。

例 13.11 (完備性は位相的性質ではない)

$X=[0,\infty)$ と $Y=[0, 1)$ を考える。これらはともに $\mathbb{R}$ の部分集合だから、$\mathbb{R}$ からの距離の制限により距離空間とみなせる。$X$ と $Y$ は同相である。実際、$h\colon X\to Y$ を $$ h(x)=\frac{x}{1+x} $$ で定めると、$h$ は連続で、その逆 $h^{-1}\colon Y\to X$ は $h^{-1}(y)=y/(1-y)$ で与えられ $h^{-1}$ も連続だから、$h$ は同相写像となる。

$\mathbb{R}$ は完備距離空間であり $X$ は $\mathbb{R}$ の閉集合だから、命題 13.9により、$X$ は完備である。一方、$Y$ は $\mathbb{R}$ の閉集合ではないので、命題 13.10により $Y$ は完備ではあり得ない。$\square$

定義 13.12 (等長埋め込み、等長写像)

$(X, d),$ $(Y, d')$ を距離空間とする。写像 $f\colon X\to Y$ が等長埋め込み(isometric embedding)であるとは、任意の $x_1, x_2\in X$ に対して $$ d'(f(x_1), f(x_2))=d(x_1, x_2) $$ が成り立つことをいう。等長埋め込み $f\colon X\to Y$ がさらに全射であるとき、$f$ を等長写像(isometry)という。等長写像 $f\colon X\to Y$ が存在するとき、$(X, d)$ と $(Y', d')$ は等長(isomettric)であるという。$\square$

定義から、等長埋め込み $f\colon X\to Y$ は単射である。実際、$x_1, x_2\in X$ に対して $f(x_1)=f(x_2)$ とすると、$0=d'(f(x_1), f(x_2))=d(x_1, x_2)$ となり、したがって $x_1=x_2$ となるからである。さらに、等長埋め込み $f\colon X\to Y$ は連続である。実際、$x\in X$, $\varepsilon>0$ とすると、$\delta=\varepsilon$ とおくとき、$d(x, x')<\delta$ となる任意の $x'\in X$ に対して $d'(f(x), f(x'))=d(x, x')<\delta=\varepsilon$ となるから、命題 5.9により $f$ は連続である。

注意 13.13 (等長写像は同相写像、等長埋め込みは埋め込み)

$f\colon X\to Y$ が等長写像であるとすると、さきほど見たことにより $f$ は連続な全単射であるが、逆写像 $f^{-1}\colon Y\to X$ も等長写像であるから、$f^{-1}$ も連続となる。よって、$f\colon X\to Y$ は同相写像である。つまり、等長写像は常に同相写像である。

$g\colon X\to Y$ が等長埋め込みであるとき、$g$ の終域を $g(X)$ に制限した写像を $\hat{g}\colon X\to g(X)$ とすると、$\hat{g}$ は等長写像であり、よって上のことから $\hat{g}$ は同相写像である。したがって、$g\colon X\to Y$ は埋め込みである。つまり、等長埋め込みは常に埋め込みである。

一般に、等長埋め込み $g\colon X\to Y$ が与えられているとき、$x\in X$ と $g(x)\in g(X)$ を同一視して考えれば、$X\subset Y$ であると考え、$X$ の距離 $d$ は $Y$ の距離 $d'$ を $X$ に制限して得られるものと考えることができる。$\square$


$\mathbb{Q}$ は完備ではないが、$\mathbb{R}$ はそれを稠密な部分集合にもつ完備距離空間である。より一般に、距離空間 $X$ に対しては $X$ を稠密な部分集合にもつような完備距離空間 $\tilde{X}$ をつくることができる。それが $X$ の完備化と呼ばれるものである。以下でこれを正式に定義しよう。

定義 13.14 (完備化)

$(X, d)$ を距離空間とする。$(X, d)$ の完備化とは、完備距離空間 $(\tilde{X}, \tilde{d})$ と等長埋め込み $\iota\colon X\to\tilde{X}$ との組 $((\tilde{X}, \tilde{d}), \iota)$ であって、$\iota(X)$ が $X'$ において稠密であるようなものをいう。

完備化の定義において、「$X$ が $\tilde{X}$ の稠密な部分集合である」というのは厳密には正しくない。しかし、$X$ を等長埋め込み $\iota$ の像 $\iota(X)$ と同一視したと考えれば、$X$ は $\tilde{X}$ の稠密な部分集合であると思うことができる。実は、以下で行う完備化の構成がスムーズにできるようにするためには、このような等長埋め込みを介した定義の方が便利なのである。

定理 13.15 (完備化の存在)

$(X, d)$ を距離空間とする。このとき、$(X, d)$ の完備化は存在する。

証明

以下では、誤解のおそれのない場合、$X$ の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ のことを簡単に $(x_n)$ と書く。$(X, d)$ のCauchy列全体の集合を $\mathcal{C}$ とおく。$(x_n),$ $(y_n)\in\mathcal{C}$ に対して、$(x_n)\sim(y_n)$ であることを $$ (x_n)\sim(y_n) \Longleftrightarrow \lim_{n\to\infty} d(x_n, y_n)=0 $$ により定義すると、$\sim$ が集合 $\mathcal{C}$ 上の同値関係となることを示そう。$\sim$ が反射律と対称律を満たすことはそれぞれ明らかである。$\sim$ が推移律を満たすことを示すため、$(x_n), (y_n), (z_n)\in\mathcal{C}$ に対して $(x_n)\sim(y_n),$ $(y_n)\sim(z_n)$ とする。$(x_n)\sim(z_n)$ つまり $\lim_{n\to\infty} d(x_n, z_n)=0$ を示すため、$\varepsilon>0$ を任意に与える。いま、$(x_n)\sim(y_n)$ つまり $\lim_{n\to\infty} d(x_n, y_n)=0$ であるので、ある $N_1\in\mathbb{N}$ が存在して、$n\geq N_1$ のとき常に $d(x_n, y_n)<\varepsilon/2$ である。また、$(y_n)\sim(z_n)$ であることから、同様にある $N_2\in\mathbb{N}$ が存在して、$n\geq N_2$ のとき常に $d(y_n, z_n)<\varepsilon/2$ である。そこで、$N=\max\{N_1, N_2\}$ とおくと、$n\geq N$ のとき常に $$ 0\leq d(x_n, z_n)\leq d(x_n, y_n)+d(y_n, z_n)<\varepsilon/2+\varepsilon/2=\varepsilon $$ となる。よって、$\lim_{n\to\infty} d(x_n, z_n)=0$ であるから、$(x_n)\sim(z_n)$ である。これで $\sim$ の推移性が示され、$\sim$ が $\mathcal{C}$ 上の同値関係であることが示された。

$\tilde{X}$ を、$\mathcal{C}$ の $\sim$ による商集合とする。つまり、 $$ \tilde{X}=\mathcal{C}/\mathord{\sim} $$ とする。Cauchy列 $(x_n)\in \mathcal{C}$ の $\sim$ に関する同値類を $[(x_n)]$ で表す。$[(x_n)]$ は $\tilde{X}$ の要素である。

以下では、集合 $\tilde{X}$ 上の距離 $\tilde{d}$ を定義する。そのため $\xi=[(x_n)],$ $\eta=[(y_n)]\in \tilde{X}$ に対して、

$$ \tilde{d}(\xi, \eta)=\lim_{n\to\infty} d(x_n, y_n)\quad(\star) $$ と定義したい。この定義が意味をもつためには、右辺の極限が存在すること、およびその極限が代表元 $(x_n),$ $(y_n)$ の選び方によらず、同値類 $\xi,$ $\eta$ のみによって決まることを示さなければならない。

まず、$(\star)$ の右辺の極限が存在することを示そう。そこで $(x_n), (y_n)\in\mathcal{C}$ とする。このとき、$a_n=d(x_n, y_n)\in\mathbb{R}$ とおけば $(a_n)_{n=1}^\infty$ が $\mathbb{R}$ のCauchy列となることを示せばよい。そこで $\varepsilon>0$ とする。$(x_n),$ $(y_n)$ は $(X, d)$ のCauchy列であるから、$N\in\mathbb{N}$ が存在して、$n, m\geq N$ のとき常に $d(x_n, x_m)<\varepsilon/2,$ $d(y_n, y_m)<\varepsilon/2$ となる。したがって、$n, m\geq N$ のとき $$ \begin{aligned} a_n-a_m&=d(x_n, y_n)-d(x_m, y_m)\\ &\leq d(x_n, x_m)+d(x_m, y_m)+d(y_m, y_n)-d(x_m, y_m)\\ &= d(x_n, x_m)+d(y_m, y_n)\\ &<\varepsilon/2+\varepsilon/2=\varepsilon \end{aligned} $$ となる。同様に、$a_m-a_n<\varepsilon$ も言えるから、結局 $n, m\geq N$ のとき $|a_n-a_m|<\varepsilon$ であることが分かる。これで、$(a_n)_{n=1}^\infty$ が $\mathbb{R}$ のCauchy列であることが示され、$(\star)$ の右辺の極限が存在することが示された。

次に、$(\star)$ の右辺の極限が代表元 $(x_n),$ $(y_n)$ の選び方によらないことを示す。そのため、$(x_n), (x'_n), (y_n), (y'_n)\in\mathcal{C}$ として $(x_n)\sim (x'_n),$ $(y_n)\sim (y'_n)$ であると仮定する。このとき $\lim_{n\to\infty} d(x_n, y_n)=\lim_{n\to\infty} d(x'_n, y'_n)$ を示せばよい。そのため、任意の $\varepsilon>0$ を与える。$(x_n)\sim (x'_n),$ $(y_n)\sim (y'_n)$ であるから、$N\in\mathbb{N}$ が存在して、$n\geq N$ のとき常に $d(x_n, x'_n)<\varepsilon/2,$ $d(y_n, y'_n)<\varepsilon/2$ である。よって、$n\geq N$ のとき $$ \begin{aligned} d(x_n, y_n)-d(x'_n, y'_n) &\leq d(x_n, x'_n)+d(x'_n, y'_n)+d(y'_n, y_n)-d(x'_n, y'_n)\\ &=d(x_n, x'_n)+d(y'_n, y_n)\\ &<\varepsilon/2+\varepsilon/2=\varepsilon \end{aligned} $$ となる。$n\to\infty$ として、 $$ \lim_{n\to\infty} d(x_n, y_n)-\lim_{n\to\infty} d(x'_n, y'_n)\leq\varepsilon $$ を得る。同様にして、$\lim_{n\to\infty} d(x'_n, y'_n)-\lim_{n\to\infty} d(x_n, y_n)\leq\varepsilon$ も得られるから、結局 $$

\leq\varepsilon

$$ となる。これが任意の $\varepsilon>0$ について成り立つので、$\lim_{n\to\infty} d(x_n, y_n)=\lim_{n\to\infty} d(x'_n, y'_n)$ である。これで、$(\star)$ の右辺の極限が代表元 $(x_n),$ $(y_n)$ の取り方によらないことが示された。

以上で写像 $\tilde{d}\colon\tilde{X}\times\tilde{X}\to [0, \infty)$ が定義された。次に、これが集合 $\tilde{X}$ 上の距離であること、つまり定義 1.12の(D1)-(D3)を満たすことを示す。

まず、(D1)が成り立つこと、つまり $\xi, \eta\in\tilde{X}$ に対して $$ \tilde{d}(\xi, \eta)=0\Longleftrightarrow \xi=\eta $$ であることを示そう。まず、$\Longleftarrow$ を示す。そのため、$\xi=\eta\in\tilde{X}$ とする。このとき、$\xi$ の代表元 $(x_n)$ を一つ選ぶと、$(x_n)$ は同時に $\eta$ の代表元でもある。よって、$\tilde{d}(\xi, \eta)=\lim_{n\to\infty} (x_n, x_n)=0$ である。次に、$\Rightarrow$ を示す。そのため、$\xi=[(x_n)], \eta=[(y_n)]\in\tilde{X}$ に対して $\tilde{d}(\xi, \eta)=0$ とする。すると、定義から $\lim_{n\to\infty} d(x_n, y_n)\to 0$ である。しかし、これは $(x_n)\sim (y_n)$ を意味するから、$\xi=[(x_n)]=[(y_n)]=\eta$ である。

(D2)が成り立つこと、つまり $\xi, \eta\in\tilde{X}$ に対して $\tilde{d}(\xi, \eta)=\tilde{d}(\eta, \xi)$ であることは明らかである。

(D3)が成り立つこと、つまり $\tilde{d}$ について三角不等式が成り立つことを示そう。$\xi=[(x_n)],$ $\eta=[(y_n)],$ $\zeta=[(z_n)]$ とする。すると、$d$ についての三角不等式により、各 $n\in\mathbb{N}$ に対して $$ d(x_n, z_n)\leq d(x_n, y_n)+d(y_n, z_n) $$ となる。この両辺で $n\to\infty$ とすると、求める三角不等式 $\tilde{d}(\xi, \zeta)\leq \tilde{d}(\xi, \eta)+\tilde{d}(\eta, \zeta)$ が得られる。

以上で、距離空間 $(\tilde{X}, \tilde{d})$ が得られた。写像 $\iota\colon X\to\tilde{X}$ を次で定義しよう。$x\in X$ に対して、$(c^x_n)_{n=1}^\infty$ を $x, x, x,\ldots$ という点列とする。つまり、任意の $n\in\mathbb{N}$ に対して $c^x_n=x$ と定義する。このとき、$(c^x_n)$ は明らかに $X$ のCauchy列となるから、$[(c^x_n)]\in\tilde{X}$ を考えることができる。そこで、$\iota\colon X\to\tilde{X}$ を $$ \iota(x)=[(c^x_n)] $$ で定義する。

$\iota\colon X\to\tilde{X}$ は等長埋め込みである。実際、$x, y\in X$ とすると $$ \begin{aligned} \tilde{d}(\iota(x), \iota(y))&=\tilde{d}([(c^x_n)], [(c^y_n)])=\lim_{n\to\infty} d(c^x_n, c^y_n)\\ &=\lim_{n\to\infty} d(x,y)=d(x,y) \end{aligned} $$ となるからである。

さらに、像 $\iota(X)$ は $\tilde{X}$ の稠密な部分集合であること、つまり $\tilde{X}=\operatorname{Cl}_{\tilde{X}} \iota(X)$ であることを示そう。それには $\tilde{X}\subset \operatorname{Cl}_{\tilde{X}} \iota(X)$ を示せばよい。そのため、任意に $\xi\in \tilde{X}$ を与える。$\xi\in \operatorname{Cl}_{\tilde{X}} \iota(X)$ を命題 4.5の条件を用いて示すため、$\varepsilon>0$ を任意に与える。$B_{\tilde{d}}(\xi, \varepsilon)\cap\iota(X)\neq\emptyset$ を示せばよい。つまり、$x\in X$ であって $\tilde{d}(\xi, \iota(x))<\varepsilon$ となるものを見つければよい。$\xi$ はある $(x_n)\in\mathcal{C}$ を用いて $\xi=[(x_n)]$ と表すことができる。$(x_n)$ は $(X, d)$ のCauchy列なので、ある $N\in\mathbb{N}$ が存在して $n, m\geq N$ のとき常に $d(x_n, x_m)<\varepsilon/2$ となる。このとき $x=x_N$ とおくと、$n\geq N$ のとき常に $d(x_n, x)<\varepsilon/2$ となるので、 $$ \begin{aligned} \tilde{d}(\xi, \iota(x))&=\tilde{d}([(x_n)], [(c^x_n)])=\lim_{n\to\infty} d(x_n, c^x_n)\\ &=\lim_{n\to\infty} d(x_n, x)\leq\varepsilon/2<\varepsilon \end{aligned} $$ となる。よって $x\in X$ は求める性質を満たすから、$\iota(X)$ が $\tilde{X}$ の稠密な部分集合であることが示された。

最後に、$(\tilde{X}, \tilde{d})$ が完備距離空間であることを示そう。そのため、$(\xi_n)_{n=1}^\infty$ を $(\tilde{X}, \tilde{d})$ のCauchy列とする。すでに示したように $\iota(X)$ は $\tilde{X}$ において稠密であるから、$\xi_n\in\operatorname{Cl}_{\tilde{X}} \iota(X)$ であり、したがって $B_{\tilde{d}}(\xi_n, 1/n)\cap \iota(X)\neq\emptyset$ である。よって、$x_n\in X$ を $\tilde{d}(\xi_n, \iota(x_n))<1/n$ となるように選べる。このとき、$(x_n)\in\mathcal{C}$ であること、つまり $(x_n)$ が $(X, d)$ のCauchy列であることを示そう。そのため、$\varepsilon>0$ を任意に与える。$(\xi_n)_{n=1}^\infty$ は $(\tilde{X}, \tilde{d})$ のCauchy列であるので、$N\in\mathbb{N}$ が存在して、$n, m\geq N$ のとき常に $\tilde{d}(\xi_n, \xi_m)<\varepsilon/3$ となる。$N$ を必要なら大きく取り換え、$1/N\leq\varepsilon/3$ が成り立つとしてよい。さて、$n, m\geq N$ なる $n, m$ を任意に与える。このとき、$\iota$ が等長埋め込みであることにより $$ \begin{aligned} d(x_n, x_m)&=\tilde{d}(\iota(x_n), \iota(x_m))\\ &\leq\tilde{d}(\iota(x_n), \xi_n)+\tilde{d}(\xi_n, \xi_m)+\tilde{d}(\xi_m, \iota(x_m))\\ &<1/n+\varepsilon/3+1/m\leq 1/N+\varepsilon/3+1/N\\ &\leq\varepsilon/3+\varepsilon/3+\varepsilon/3=\varepsilon \end{aligned} $$ となる。これで、$(x_n)$ が $(X, d)$ のCauchy列であること、つまり $(x_n)\in\mathcal{C}$ が示された。そこで、$\xi=[(x_n)]\in\tilde{X}$ とする。このとき、$(\xi_n)_{n=1}^\infty$ が $(\tilde{X}, \tilde{d})$ において $\xi$ に収束することを示そう。そのため、任意に $\varepsilon>0$ を与える。$(x_n)$ は $(X,d)$ におけるCauchy列であるから、$N\in\mathbb{N}$ が存在して、$n, m\geq N$ のとき常に $d(x_n, x_m)<\varepsilon/2$ となる。さらに、必要なら $N$ を大きく取り換えて、$1/N<\varepsilon/2$ であるとしてよい。$m\geq N$ を任意に与えると、 $$ \begin{aligned} \tilde{d}(\xi, \iota(x_m)) &=\tilde{d}([(x_n)], [(c^{x_m}_n)])=\lim_{n\to\infty}d(x_n, c^{x_m}_n)\\ &=\lim_{n\to\infty} d(x_n, x_m)\leq\varepsilon/2 \end{aligned} $$ であり、かつ $$ d(\iota(x_m), \xi_m)<1/m\leq 1/N<\varepsilon/2 $$ であるから、 $$ \tilde{d}(\xi, \xi_m)\leq \tilde{d}(\xi, \iota(x_m))+d(\iota(x_m), \xi_m)<\varepsilon/2+\varepsilon/2=\varepsilon $$ となる。これで、$(\xi_n)_{n=1}^\infty$ が $(\tilde{X}, \tilde{d})$ において $\xi$ に収束することが示され、$(\tilde{X}, \tilde{d})$ の完備性が証明された。

以上で、距離空間 $(X, d)$ の完備化 $((\tilde{X}, \tilde{d}), \iota)$ が得られた。$\square$

距離空間 $(X, d)$ の完備化は正式には $((\tilde{X}, \tilde{d}), \iota)$ という対のことであるが、$X$ を $\iota(X)$ と同一視して $X\subset\tilde{X}$ であると見なした上で、単に $(\tilde{X}, \tilde{d})$ あるいは $\tilde{X}$ のことを $X$ の完備化と呼ぶ場合が多い。距離空間の完備化はある意味での一意性も成り立つが、その証明は後で行う(定理 13.27)。

定義 13.16 (直径)

$(X, d)$ を距離空間とする。$X$ の空でない部分集合 $A$ に対して $$ \operatorname{diam} A=\sup\{d(x,y)\,|\,x,y\in A\} $$ と定義し、これを $A$ の直径(diameter)と呼ぶ。$\operatorname{diam} A$ は $+\infty$ を含む非負の実数値を取る。なお、便宜的に $\operatorname{diam} \emptyset=0$ と定義する。$\operatorname{diam} A<+\infty$ であるとき、$A$ は $X$ の有界(bounded)な部分集合であるという。

$X$ 自身も $X$ の部分集合なので、$\operatorname{diam} X$ が定義される。$\operatorname{diam} X<+\infty$ であるとき、距離空間 $(X, d)$ は有界であるという。$\square$

なお、定理 9.20の前でEuclid空間 $\mathbb{R}^n$ の部分集合の有界性をすでに定義しているが、このときの定義と上の定義は、次の命題により矛盾していない。

命題 13.17 (有界性の同値な定義)

$(X, d)$ を距離空間とし、$X\neq\emptyset$ とする。このとき、$X$ の部分集合 $A$ に対して次は同値である。

  • (1) $A$ は有界である。
  • (2) 任意の $x\in X$ に対して $R>0$ が存在して $A\subset B_d(x, R)$ である。
  • (3) ある $x\in X$ に対して $R>0$ が存在して $A\subset B_d(x, R)$ である。

証明

(1)$\Rightarrow$(2)を示す。$A$ を有界とすると、$M=\operatorname{diam} A$ とおくとき $M<+\infty$ である。$x\in X$ を任意に与える。ある $R>0$ に対して $A\subset B_d(x, R)$ であることを示そう。$A=\emptyset$ であれば $A\subset B_d(x,1)$ となるから、$A\neq\emptyset$ であるとする。すると、$a_0\in A$ が存在する。このとき、任意の $a\in A$ に対して $d(x, a)\leq d(x, a_0)+d(a_0, a)\leq d(x, a_0)+M$ である。そこで $R=d(x, a_0)+M+1$ とおけば、任意の $a\in A$ に対して $d(x, a)<R$ である。これは $A\subset B_d(x, R)$ を意味する。

(2)$\Rightarrow$(3)は($X\neq\emptyset$ であることから)明らかである。

(3)$\Rightarrow$(1)を示す。ある $x\in X$ と $R>0$ に対して $A\subset B_d(x, R)$ が成り立つとする。$a, b\in A$ を任意に与えると $d(a, b)\leq d(a, x)+d(x, b)<R+R=2R$ となる。したがって、$\operatorname{diam} A\leq 2R<+\infty$ であるから、$A$ は有界である。$\square$


命題 13.18 (完備距離空間における直径が0に収束する閉集合の減少列)

$(X, d)$ を完備距離空間、$(F_n)_{n=1}^\infty$ を $X$ の空でない閉集合からなる列で、各 $n\in\mathbb{N}$ に対して $F_{n+1}\subset F_n$ を満たし、かつ $\lim_{n\to\infty} \operatorname{diam} F_n=0$ となるようなものとする。このとき、$\bigcap_{n=1}^\infty F_n$ はちょうど一つの点からなる集合である。

証明

まず、$\bigcap_{n=1}^\infty F_n$ は高々一つの点からなること、すなわち、$\bigcap_{n=1}^\infty F_n$ が二つ以上の点をもつことはない、ということを示そう。そこで、$x, y\in\bigcap_{n=1}^\infty$ とし、$x\neq y$ であったとする。すると、$r=d(x,y)>0$ である。いま、$\operatorname{diam} F_n\to 0$ であるから、ある $n\in\mathbb{N}$ に対して $\operatorname{diam} F_n<r$ である。このとき $x, y\in F_n$ であるから、 $$ r=d(x, y)\leq\operatorname{diam} F_n<r $$ となり矛盾する。

あとは、$\bigcap_{n=1}^\infty F_n\neq\emptyset$ を示せばよい。各 $n\in\mathbb{N}$ に対して $F_n\neq\emptyset$ であったので、$x_n\in F_n$ を選べる。こうして $X$ の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ が得られるが、$(x_n)_{n=1}^\infty$ がCauchy列であることを示そう。そこで、$\varepsilon>0$ を任意に与える。$\operatorname{diam} F_n\to 0$ であるから、ある $N\in\mathbb{N}$ が存在して $\operatorname{diam} F_N<\varepsilon$ である。$n, m\geq N$ となる $n, m$ を任意に与える。このとき、$x_n\in F_n\subset F_N,$ $x_m\in F_m\subset F_N$ であるから、 $d(x_n, x_m)\leq\operatorname{diam} F_N<\varepsilon$ である。これで、$(x_n)_{n=1}^\infty$ がCauchy列であることが示された。$(X, d)$ は完備であるから、$(x_n)_{n=1}^\infty$ はある点 $x$ に収束する。 このとき、$x\in\bigcap_{n=1}^\infty F_n$ となることを示そう。そのため、任意に $n\in\mathbb{N}$ を与える。すると、点列 $(x_{n+i-1})_{i=1}^\infty$ は $F_n$ の点列で、$x$ に収束する。$F_n$ は $X$ の閉集合であったから、$x\in F_n$ である。$n\in\mathbb{N}$ は任意であったから、これで $x\in\bigcap_{n=1}^\infty F_n$ が示された。よって、$\bigcap_{n=1}^\infty F_n\neq\emptyset$ である。$\square$

完備距離空間について成り立つ次の定理は幅広い応用をもっている。

定理 13.19 (Baireのカテゴリー定理)

$(X, d)$ を完備距離空間とし、各 $n\in\mathbb{N}$ に対して $U_n$ が $X$ の稠密な開集合であるとする。このとき、$\bigcap_{n=1}^\infty U_n$ は $X$ の稠密な部分集合である。

証明

$x\in X$ とし、$\varepsilon>0$ とする。このとき、$B(x,\varepsilon)\cap\bigcap_{n=1}^\infty U_n\neq\emptyset$ であることを示せばよい(定理 13.15の証明で、$\iota(X)$ が $\tilde{X}$ の稠密な部分集合であることを示したときと同様である)。

$U_1$ は $X$ において稠密であるから、点 $x_1\in B(x,\varepsilon/2)\cap U_1$ が存在する。$U_1$ は開集合であるから、$\varepsilon_1>0$ を、$\varepsilon_1<\varepsilon/2$ かつ $B(x_1, \varepsilon_1)\subset B(x, \varepsilon/2)\cap U_1$ であるように取れる。 次に、$U_2$ は $X$ において稠密であるから、点 $x_2\in B(x_1, \varepsilon_1/2)\cap U_2$ が存在する。$U_2$ は開集合であるから、$\varepsilon_2>0$ を、$\varepsilon_2<\varepsilon/4$ かつ $B(x_2, \varepsilon_2)\subset B(x_1, \varepsilon_1/2)\cap U_2$ であるように取れる。

この操作を繰り返すことで、$X$ の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ と正の実数の列 $(\varepsilon_n)_{n=1}^\infty$ を $$ B(x_n,\varepsilon_n)\subset B(x_{n-1}, \varepsilon_{n-1}/2)\cap U_n, \quad\varepsilon_n<\varepsilon/2^n \quad(n\in\mathbb{N}) $$ となるように取れる(ただし、$x_0=x,$ $\varepsilon_0=\varepsilon$ とする)。いま、$F_n=\overline{B}(x_n, \varepsilon_n/2)\,(n=0,1,2,\ldots)$ とおけば、$F_n$ は空でない閉集合で、各 $n\in\mathbb{N}$ に対して $$ \begin{aligned} F_n&=\overline{B}(x_n, \varepsilon_n/2)\subset B(x_n, \varepsilon_n)\\ &\subset B(x_{n-1}, \varepsilon_{n-1}/2)\subset \overline{B}(x_{n-1}, \varepsilon_{n-1}/2)=F_{n-1} \end{aligned} $$ である。しかも、$\operatorname{diam} F_n\leq \varepsilon_n<\varepsilon/2^n\,(n\in\mathbb{N})$ であるから $\operatorname{diam} F_n\to 0$ である。したがって、命題 13.18により、$\bigcap_{n=0}^\infty F_n=\bigcap_{n=0}^\infty \overline{B}(x_n, \varepsilon_n/2)$ はちょうど一つの点 $x_\infty$ からなる。

$x_\infty\in F_0=\overline{B}(x_0, \varepsilon_0/2)=\overline{B}(x, \varepsilon/2)$ であるから、$x_\infty\in B(x, \varepsilon)$ である。次に $n\in\mathbb{N}$ を任意に与える。 $$ F_n=\overline{B}(x_n, \varepsilon_n/2)\subset B(x_n, \varepsilon_n)\subset U_n $$ であるから、$x_\infty\in F_n\subset U_n$ である。これが任意の $n\in\mathbb{N}$ に対して成り立つので $x_\infty\in\bigcap_{n=1}^\infty U_n$ である。したがって、$x_\infty\in B(x, \varepsilon)\cap\bigcap_{n=1}^\infty U_n$ である。これで $B(x,\varepsilon)\cap\bigcap_{n=1}^\infty U_n\neq\emptyset$ が示されたので、証明が終わった。$\square$

Baireのカテゴリー定理は次の形で用いられることも多い。位相空間 $X$ における部分集合 $A$ の内部(定義 4.19)を $\operatorname{Int}_X A$ または $\operatorname{Int} A$ と表すのであった。

系 13.20 (Baireのカテゴリー定理の帰結)

$(X, d)$ を完備距離空間とし、$X\neq\emptyset$ とする。$(A_n)_{n=1}^\infty$ を $X$ の部分集合の列で $\bigcup_{n=1}^\infty A_n=X$ を満たすものとする。このとき、ある $n\in\mathbb{N}$ が存在して、$\operatorname{Int}\operatorname{Cl} A_n\neq\emptyset$ となる。

証明

結論を否定し、任意の $n\in\mathbb{N}$ に対して $\operatorname{Int}\operatorname{Cl} A_n=\emptyset$ であるとする。このとき、$U_n=X\setminus \operatorname{Cl} A_n$ とおくと、$U_n$ は $X$ の開集合であり、また命題 4.22により、 $$ \emptyset=\operatorname{Int} \operatorname{Cl} A_n=\operatorname{Int} (X\setminus U_n)=X\setminus \operatorname{Cl} U_n $$ であるから $\operatorname{Cl} U_n=X$ となり、$U_n$ は $X$ において稠密と分かる。したがって、定理 13.19により、$\bigcap_{n=1}^\infty U_n$ も $X$ において稠密である。ところが、 $$ \bigcap_{n=1}^\infty U_n=\bigcap_{n=1}^\infty (X\setminus \operatorname{Cl} A_n)=X\setminus \bigcup_{n=1}^\infty \operatorname{Cl} A_n=X\setminus X=\emptyset $$ であるから、これは空集合 $\emptyset$ が $X$ において稠密であることを意味している。$X\neq\emptyset$ としていたから、これは起こり得ない。$\square$

一般に、位相空間 $X$ の部分集合 $A$ に対して、$\operatorname{Int} \operatorname{Cl} A=\emptyset$ が成り立つとき $A$ は($X$ において)全疎(nowhere dense)であるという。この用語を使うと、系 13.20は次のように述べることができる。

系 13.21 (完備距離空間と全疎集合)

空でない完備距離空間は、可算個の全疎集合の和集合に表すことができない。$\square$

完備距離空間について成り立つもう一つの特筆すべき定理として、次のBanachの不動点定理がある。

定理 13 (局所コンパクトHausdorff空間.22 (Banachの不動点定理)

$(X, d)$ を完備距離空間とし、$X\neq\emptyset$ とする。写像 $f\colon X\to X$ が、ある定数 $c$ (ただし、$0<c<1$)に対して次を満たすとする。 $$ d(f(x), f(y))\leq cd(x,y)\quad(\star) $$ このとき、$f$ はただ一つの不動点をもつ。すなわち、$x\in X$ がただ一つ存在して $f(x)=x$ を満たす。

証明

まず、$f$ は連続であることに注意しておく。実際、任意の $\varepsilon>0,$ $x\in X$ を与えるとき、$\delta=\varepsilon$ とおくと、$d(x, x')<\delta$ となる任意の $x'\in X$ に対して $(\star)$ により $d(f(x), f(x'))\leq cd(x,x')\leq d(x,x')<\delta=\varepsilon$ となるからである。

$X\neq\emptyset$ であることを用いて $x_1\in X$ を一つ取り固定する。$x_2=f(x_1),\,x_3=f(x_2),\ldots, x_{n+1}=f(x_n),\ldots$ により $X$ の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ を定める。すると、各 $n,m\in\mathbb{N}$ に対して $d(x_{n+1}, x_{m+1})=d(f(x_n), f(x_m))\leq cd(x_n, x_m)$ であるから、これを繰り返し用いて、任意の $n,m,i\in\mathbb{N}$ に対して $$ d(x_{n+i}, x_{m+i})\leq c^id(x_n, x_m)\quad(\star) $$ となる。

さて、$(x_n)_{n=1}^\infty$ が $(X,d)$ のCauchy列であることを示そう。そこで $\varepsilon>0$ を任意に与える。$N\in\mathbb{N}$ を十分大きくとり、 $$ \frac{c^N d(x_1, x_2)}{1-c}<\varepsilon $$ となるようにする。$n\geq m\geq N$ となる $n, m$ を任意に与える。すると $(\star)$ により $$ \begin{aligned} d(x_m, x_n)&\leq c^{m-1}d(x_1, x_{n-m+1})<c^N\sum_{i=1}^{n-m+1} d(x_i, x_{i+1})\\ &<c^N\sum_{i=1}^{n-m+1} c^{i-1} d(x_1, x_2)<\frac{c^N d(x_1, x_2)}{1-c}<\varepsilon \end{aligned} $$ となる。よって、$(x_n)_{n=1}^\infty$ は $(X, d)$ のCauchy列である。$(X, d)$ は完備であるから、$(x_n)_{n=1}^\infty$ はある点 $x\in X$ に収束する。最初に注意したように $f$ は連続であるから、命題 5.19により $(f(x_n))_{n=1}^\infty$ は $f(x)$ に収束する。ところが、$f(x_n)=x_{n+1}$ であるから、$(x_{n+1})_{n=1}^\infty$ は $f(x)$ に収束する。よって、$(x_n)_{n=1}^\infty$ も $f(x)$ に収束する。かくして、$(x_n)_{n=1}^\infty$ は $x$ にも $f(x)$ にも収束するから、命題 11.10により $x=f(x)$ である。

あとは、$x=f(x)$ を満たす $x\in X$ が一意的であることを示せばよい。そこで、$x, x'\in X$ とし、$x=f(x),$ $x'=f(x')$ を満たすとする。このとき $(\star)$ により $$ d(x, x')=d(f(x), f(x'))\leq cd(x, x')\leq d(x, x') $$ であるから、$d(x, x')=cd(x, x')$ である。よって、$(1-c)d(x,x')=0$ であるが、$0<c<1$ であったから $d(x,x')=0$ であり、したがって $x=x'$ である。$\square$

$0<c<1$ であるようなある定数 $c$ に対して上の定理の $(\star)$ を満たす写像 $f\colon X\to X$ を縮小写像(contraction mapping)という。そのため、上の定理は縮小写像の原理(contraction principle)とも呼ばれる。

さて、距離空間の間の一様連続写像の概念を定義する。

定義 13.23 (一様連続性)

$(X, d),$ $(Y, d')$ を距離空間とするとき、写像 $f\colon X\to Y$ が一様連続(uniformly continuous)であるとは、任意の $\varepsilon>0$ に対して、$\delta>0$ が存在して、次が成り立つことをいう:

「$x, x'\in X,$ $d(x, x')<\delta$ ならば $d'(f(x), f(x'))<\varepsilon$ である。」

連続写像と一様連続写像の違いには注意が必要である。命題 5.9によれば、距離空間 $(X,d),$ $(Y,d')$ に対して、$f\colon X\to Y$ が連続写像であることは次と同値なのであった:

任意の $x\in X$ と $\varepsilon>0$ に対して、$\delta>0$ が存在して、次が成り立つ。「$x'\in X,$ $d(x, x')<\delta$ ならば $d'(f(x), f(x'))<\varepsilon$ である。」

上においては、$\delta$ を $x$ と $\varepsilon$ の両方に依存した形で取ることができるのに対して、さきほどの一様連続性の定義では、$\delta$ を $\varepsilon$ のみに依存した形で取れなければならない。したがって、$\delta$ の取り方についての要求は一様連続性の方が厳しいものになっている($\varepsilon$ を固定して $x$ を動かしたとき、連続性の場合は $\delta$ が変化することが許されるのに対して、一様連続性の場合はそれが許されないのだから、確かに一様連続性の方が $\delta$ の取り方に厳しい要請を課している!)。よって写像 $f\colon X\to Y$ に対して一様連続性は連続性よりも強い条件である。つまり、一様連続写像はすべて連続写像である。

例 13.24 (連続だが一様連続でない写像)

$X=(0,+\infty)$ として、連続写像 $f\colon X\to X$ を $f(x)=1/x$ で定める。このとき、$f$ は一様連続ではないことを示そう。そのためには、$\varepsilon=1$ とおくとき、一様連続性の定義にあるような $\delta>0$ が存在しないことを示せばよい。もし、そのような $\delta>0$ が存在すれば、

$x, x'\in X,$ $|x-x'|<\delta$ ならば $|f(x)-f(x')|<1(=\varepsilon)\quad(\star)$

となるはずである。$n\in\mathbb{N}$ を十分大きく取り、$1/n<\delta$ となるようにしよう。いま $x=1/n,$ $x'=1/(n+1)$ とおけば、$|x-x'|<1/n-1/(n+1)<1/n<\delta$ である。しかし、$|f(x)-f(x')|=|n-(n+1)|=1$ となるから、$|f(x)-f(x')|<1$ は成立しない。これは、$(\star)$ が成立することに反する。よって、$f\colon X\to X$ は一様連続ではない。$\square$

定理 13.25 (コンパクト距離空間から距離空間への連続写像は一様連続)

$(X, d),$ $(Y,d')$ を距離空間、$f\colon X\to Y$ を連続写像とする。$X$ がコンパクトならば、$f$ は一様連続である。

証明

$f$ が一様連続であることを示すため、$\varepsilon>0$ を任意に与える。$f$ は連続であるから、 $$ \mathcal{U}=\{f^{-1}(B_{d'}(y,\varepsilon/2))\,|\,y\in Y\} $$ は $X$ の開被覆である。$X$ はコンパクトな距離空間であるから、定理 13.5により、開被覆 $\mathcal{U}$ のLebesgue数 $\delta>0$ が存在する。つまり、$\delta>0$ が存在して以下を満たす:「任意の $x\in X$ に対して $y\in Y$ であって $B_d(x,\delta)\subset f^{-1}(B_{d'}(y,\varepsilon/2))$ となるものが存在する。」この $\delta$ が一様連続性の定義を満たすことを示すため、$x, x'\in X$ で $d(x, x')<\delta$ を満たすものを任意に与える。このとき、$\delta$ の取り方から、ある $y\in Y$ が存在して $B_d(x,\delta)\subset f^{-1}(B_{d'}(y,\varepsilon/2))$ である。いま $x, x'\in B_d(x,\delta)$ なので、$x, x'\in f^{-1}(B_{d'}(y,\varepsilon/2))$ であり、よって $f(x), f(x')\in B_{d'}(y,\varepsilon/2)$ である。したがって、 $$ d'(f(x), f(x'))\leq d'(f(x),y)+d'(y,f(x'))<\varepsilon/2+\varepsilon/2=\varepsilon $$ である。これで、$f\colon X\to Y$ が一様連続であることが示された。$\square$

命題 13.26 (一様連続写像はCauchy列をCauchy列にうつす)

$(X, d),$ $(Y, d')$ を距離空間とし、$f\colon X\to Y$ を一様連続写像とする。$(x_n)_{n=1}^\infty$ が $(X, d)$ のCauchy列ならば、$(f(x_n))_{n=1}^\infty$ は $(Y, d')$ のCauchy列である。

証明

$(f(x_n))_{n=1}^\infty$ が $(Y, d')$ のCauchy列であることを示すため、$\varepsilon>0$ とする。$f\colon X\to Y$ は一様連続であるから、ある $\delta>0$ が存在して、$x, x'\in X,$ $d(x, x')<\delta$ ならば $d'(f(x), f(x'))<\varepsilon$ となる。$(x_n)_{n=1}^\infty$ は $(X, d)$ のCauchy列であるから、ある $N\in\mathbb{N}$ が存在して、$n,m\geq N$ のとき常に $d(x_n, x_m)<\delta$ となる。このとき、$\delta$ の取り方から、$n,m\geq N$ のとき常に $d'(f(x_n), f(x_m))<\varepsilon$ である。これで、$(f(x_n))_{n=1}^\infty$ がCauchy列であることが示された。$\square$

定理 13.27 (完備距離空間に値をとる一様連続写像の稠密部分集合からの拡張)

$(X,d)$ を距離空間、$A$ を $X$ の稠密な部分集合とし、$(Y,d')$ を完備距離空間とする。また、$f\colon A\to Y$ を一様連続写像とする。このとき、$f$ は $X$ 上の一様連続写像に一意的に拡張できる。すなわち、一様連続写像 $\tilde{f}\colon X\to Y$ であって $\tilde{f}|_A=f$ となるものが一意的に存在する。

証明

一様連続写像は連続写像であるから、命題 11.9により、定理の主張のような一様連続写像 $\tilde{f}\colon X\to Y$ は存在すれば一意的であることが分かる。したがって、あとはそのような一様連続写像 $\tilde{f}\colon X\to Y$ が存在することを示せばよい。

$x\in X$ を任意に与える。$A$ は $X$ において稠密であるから、命題 4.7により、$A$ の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ で $x_n\to x$ となるものが存在する。このとき、$(x_n)_{n=1}^\infty$ は $A$ のCauchy列である。これを示すため、$\varepsilon>0$ とする。$x_n\to x$ だから、$N\in\mathbb{N}$ が存在して、$n\geq N$ のとき常に $d(x_n, x)<\varepsilon/2$ である。このとき、$n, m\geq N$ ならば $d(x_n, x_m)\leq d(x_n, x)+d(x, x_m)<\varepsilon/2+\varepsilon/2=\varepsilon$ である。よって、$(x_n)_{n=1}^\infty$ は $A$ のCauchy列である。したがって、命題 13.26により、$(f(x_n))_{n=1}^\infty$ は $(Y, d')$ のCauchy列であるから、$(Y, d')$ の完備性により、極限 $\lim_{n\to\infty} f(x_n)\in Y$ が存在する。

この極限 $\lim_{n\to\infty} f(x_n)\in Y$ が $x_n\to x$ となる $A$ の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ の取り方によらないことを示そう。そこで、$(x'_n)_{n=1}^\infty$ を $x'_n\to x$ となるもう一つの $A$ の点列とする。このとき、$y=\lim_{n\to\infty} f(x_n),$ $y'=\lim_{n\to\infty} f(x'_n)$ とおいて $y=y'$ を示そう。そのため、任意の $\varepsilon>0$ を与える。$f$ は一様連続なので、ある $\delta>0$ が存在して、$d(a, a')<\delta$ となる任意の $a, a'\in A$ に対して $d'(f(a), f(a'))<\varepsilon/3$ である。いま、$x_n\to x,$ $x'_n\to x,$ $f(x_n)\to y,$ $f(x'_n)\to y'$ なので、$N\in\mathbb{N}$ が存在して $n\geq N$ のとき常に $$ d(x_n, x)<\delta/2, \quad d(x'_n, x)<\delta/2,\quad d'(f(x_n),y)<\varepsilon/3,\quad d'(f(x'_n),y')<\varepsilon/3 $$ となる。よって、$n\geq N$ のとき $d(x_n, x'_n)\leq d(x_n, x)+d(x, x'_n)<\delta/2+\delta/2=\delta$ であり、したがって $d'(f(x_n), f(x'_n))<\varepsilon/3$ となるから $$ d'(y,y')\leq d'(y, f(x_n))+d'(f(x_n), f(x'_n))+d'(f'(x'_n), y')<\varepsilon/3+\varepsilon/3+\varepsilon/3=\varepsilon $$ となる。これが任意の $\varepsilon>0$ について成り立つので、$d'(y,y')=0$ であり、よって $y=y'$ である。

以上から、この極限 $\lim_{n\to\infty} f(x_n)$ は最初に与えた $x\in X$ のみによって定まるので、これを $\tilde{f}(x)$ とおけば、写像 $\tilde{f}\colon X\to Y$ が定まる。

このとき、$\tilde{f}|_A=f$ である。これを示すため、$x\in X$ とする。このときは、$x$ に収束する $A$ の点列として、$c^x_n=x\,(n\in\mathbb{N})$ で定義される点列 $(c^x_n)_{n=1}^\infty$ が取れる。したがって、$\tilde{f}(x)=\lim_{n\to\infty} f(c^x_n)=\lim_{n\to\infty} f(x)=f(x)$ となる。これで、$\tilde{f}|_A=f$ が示された。

最後に、$\tilde{f}\colon X\to Y$ が一様連続となることを示そう。そのため、$\varepsilon>0$ を任意に与える。$f\colon A\to Y$ は一様連続なので、$\delta>0$ が存在して、$a, a'\in A,$ $d(a, a')<\delta$ ならば $d'(f(a), f(a'))<\varepsilon/3$ となる。そこで、$d(x, x')<\delta/3$ であるような $x, x'\in X$ を任意に与える。$A$ の点列 $(x_n),$ $(x'_n)$ で $x_n\to x,$ $x'_n\to x'$ となるようなものを取る。すると、$f(x_n)\to\tilde{f}(x),$ $f(x'_n)\to\tilde{f}(x')$ も成り立つから、$N\in\mathbb{N}$ を十分大きく取るとき $$ d(x_N, x)<\delta/3,\quad d(x'_N, x')<\delta/3,\quad d'(f(x_N), \tilde{f}(x))<\varepsilon/3,\quad d'(f(x'_N), \tilde{f}(x'))<\varepsilon/3 $$ となる。すると、 $$ d(x_N, x'_N)\leq d(x_N, x)+d(x, x')+d(x', x'_N)<\delta/3+\delta/3+\delta/3=\delta $$ であるから、$\delta$ の取り方により $d'(f(x_N), f(x'_N))<\varepsilon/3$ である。したがって、 $$ d(\tilde{f}(x), \tilde{f}(x'))\leq d'(\tilde{f}(x), f(x_N))+d'(f(x_N), f(x'_N))+d'(f(x'_N), \tilde{f}(x'))<\varepsilon/3+\varepsilon/3+\varepsilon/3=\varepsilon $$ となり、これで $\tilde{f}$ の一様連続性が示された。$\square$

定理 13.28 (完備化の一意性)

$(X, d)$ を距離空間とするとき、$(X, d)$ の完備化は次の意味で一意的である:$((\tilde{X}, \tilde{d}), \iota)$ と $((\tilde{X}', \tilde{d}'), \iota')$ がともに $(X, d)$ の完備化であるならば、等長写像 $\Phi\colon \tilde{X}\to\tilde{X}'$ であって $\Phi\circ\iota=\iota'$ となるものがただ一つ存在する。

証明

$( (\tilde{X}, \tilde{d}), \iota)$ と $( (\tilde{X}', \tilde{d}'), \iota')$ をともに $(X, d)$ の完備化とする。$\iota\colon X\to\tilde{X}$ と $\iota'\colon X\to\tilde{X}'$ は等長埋め込みだから、等長埋め込み $\varphi\colon \iota(X)\to\tilde{X}'$ が $\varphi(\iota(x) )=\iota'(x)$ により定義される。等長埋め込みは明らかに一様連続であるから、$\tilde{X}'$ の完備性により $\varphi$ に定理 13.27を適用でき、一様連続写像 $\Phi\colon \tilde{X}\to\tilde{X}'$ で $\Phi|_{\iota(X)}=\varphi$ となるものが一意的に存在すると分かる。この $\Phi$ は $\Phi\circ\iota=\iota'$ を満たすことが定義からすぐに分かる。

$\Phi$ が等長写像であることを示そう。そのため、次の写像 $f, g\colon\tilde{X}\times\tilde{X}\to\mathbb{R}$ を考える。 $$ f(\xi, \eta)=\tilde{d}(\xi, \eta),\quad g(\xi, \eta)=\tilde{d}'(\Phi(\xi), \Phi(\eta))\qquad(\xi, \eta\in\tilde{X}) $$ このとき $f, g$ はともに命題 13.1により連続である。さらに、$f|_{\iota(X)\times\iota(X)}=g|_{\iota(X)\times\iota(X)}$ である。実際、$x, y\in X$ のとき、$\varphi$ が等長埋め込みであることより $$ \begin{aligned} f(\iota(x), \iota(x)) &=\tilde{d}(\iota(x), \iota(y))=\tilde{d}'(\varphi(\iota(x)), \varphi(\iota(y)))\\ &=\tilde{d}'(\iota'(x), \iota'(y))=\tilde{d}'(\Phi(\iota(x)), \Phi(\iota(y)))\\ &=g(\iota(x), \iota(y)) \end{aligned} $$ となるからである。ところが $\iota(X)$ は $\tilde{X}$ において稠密だから、$\iota(X)\times\iota(X)$ は $\tilde{X}\times\tilde{X}$ において稠密である(命題 8.20から分かる)。よって、命題 11.9により、$f=g$ である。このことは、$\Phi$ が等長写像であることを示している。

最後に、$\Phi$ の一意性を示すため、もう一つの等長写像 $\Phi'\colon\tilde{X}\to\tilde{X}'$ が $\Phi'\circ\iota=\iota'$ を満たしたとする。すると任意の $x\in X$ に対して $\Phi(\iota(x))=\iota'(x)=\Phi'(\iota(x))$ なので、$\Phi|_{\iota(X)}=\Phi'|_{\iota(X)}$ である。$\Phi,$ $\Phi'$ は連続であり $\iota(X)$ は $\tilde{X}$ において稠密なので、再び命題 11.9により $\Phi=\Phi'$ である。これで定理は証明された。$\square$

最後に、一様同相写像の概念にふれておく。

定義 13.29 (一様同相写像)

$(X, d),$ $(Y, d')$ を距離空間とする。$f\colon X\to Y$ が一様同相写像(uniform homeomorphism)であるとは、$f$ が全単射な一様連続写像であって、逆 $f^{-1}\colon Y\to X$ も一様連続であることをいう。一様同相写像 $f\colon X\to Y$ が存在するとき、二つの距離空間 $(X, d)$ と $(Y, d')$ は一様同相(uniformly homeomorphic)であるという。

一様同相写像の定義は、同相写像の定義で「連続写像」となっているところをすべて「一様連続写像」に置き換えたものである。一様連続写像は連続写像であるから、一様同相写像は同相写像である。なお、一様同相写像 $f\colon X\to Y$ においては、定義域 $X$ と終域 $Y$ はそれぞれ距離空間でなければならないことに注意する(実際には、「一様空間」というより広い枠組みでも一様同相写像は定義されるが、ここではふれない)。

完備性は位相的性質ではない、つまり同相写像では保たれないことをすでに述べたが(例 13.11)、一様同相写像では保たれる。すなわち、次が成り立つ。

命題 13.30 (完備性は一様同相で不変な性質である)

$(X, d),$ $(Y, d')$ を距離空間とする。$(X, d)$ が完備であり、$(X, d)$ と $(Y, d')$ が一様同相であるならば、$(Y, d')$ も完備である。

証明

$(X, d)$ と $(Y, d')$ は一様同相なので、一様同相写像 $f\colon X\to Y$ が存在する。$(Y, d')$ の完備性を示すため、$(y_n)_{n=1}^\infty$ を $(Y, d')$ のCauchy列とする。いま、$f^{-1}\colon Y\to X$ は一様連続だから、命題 13.26により、$(f^{-1}(y_n))_{n=1}^\infty$ は $(X, d)$ のCauchy列である。よって、$(X, d)$ の完備性により、ある $x\in X$ に対して $f^{-1}(y_n)\to x$ となる。$f$ は一様連続、とくに連続であるから、このとき命題 5.19により $y_n=f(f^{-1}(y_n))\to f(x)$ となる。これで、$(Y, d')$ の完備性が示された。$\square$

一様同相写像ではない同相写像の例としては、例 13.11の同相写像 $h\colon [0, \infty)\to [0, 1)$ が挙げられる。実際、$[0, \infty)$ は完備であり $[0, 1)$ は完備ではないからである。


位相空間論14:距離空間の位相(2)

この章では、前の章に続いて距離空間に関連した事柄を述べる。とくに、距離空間がコンパクトであるためのいくつかの同値な条件を取り上げる。また、距離空間の可算個の直積空間が距離化可能となることを示し、その応用として位相空間が距離化可能であるための一つの十分条件を与えるUrysohnの距離化定理を証明する。



位相空間がある意味で「可算な大きさをもつ」ことを示す性質として、第二可算性(定義 3.6)と可分性(定義 4.13)をすでに取り上げた。このような性質として、もう一つLindelöf性がある。Lindelöf性はコンパクト性の直接の一般化である。

定義 14.1 (Lindelöf空間)

位相空間 $X$ がLindelöf空間であるとは、$X$ の任意の開被覆に対して、その高々可算な部分被覆が存在することをいう。$\square$

コンパクト性の定義(定義 9.2)での「有限な部分被覆」を「高々可算な部分被覆」に弱めたものが上の定義である。したがって、コンパクト空間はLindelöf空間となる。以下の二つの命題は、コンパクト性のときと同様に証明できることなので、証明を省略する。

命題 14.2 (部分集合のLindelöf性の特徴づけ)

$X$ を位相空間とし、$A$ を $X$ の部分集合とする。このとき、次は同値である。

  • (1) $A$ は($X$ からの相対位相について)Lindelöf空間である。
  • (2) $A$ の $X$ における任意の開被覆は、高々可算な部分被覆をもつ。

証明

命題 9.7と同様に証明できる。$\square$

命題 14.3 (Lindelöf空間の閉集合はLindelöf空間)

$X$ をLindelöf空間、$A$ を $X$ の閉集合とする。このとき、$A$ はLindelöf空間である。

証明

命題 14.2を用いれば、命題 9.9と同様に証明できる。$\square$

命題 14.4 (第二可算な空間はLindelöf空間)

第二可算な位相空間はLindelöf空間である。

証明

$X$ を第二可算な位相空間とすると、$X$ は高々可算な開基 $\mathcal{B}$ をもつ。$X$ がLindelöf空間であることを示すため、$X$ の開被覆 $\mathcal{U}$ を任意に与える。このとき $$ \mathcal{B}'=\{B\in\mathcal{B}\,|\,\text{ ある }U\in\mathcal{U}\text{ に対して }B\subset U\} $$ とおけば、$\mathcal{B}'\subset\mathcal{B}$ であるから $\mathcal{B}'$ は高々可算である。さらに、各 $B\in\mathcal{B}'$ に対して、$U_B\in\mathcal{U}$ を $B\subset U_B$ となるように選べる。このとき、$\mathcal{U}'=\{U_B\,|\,B\in\mathcal{B}'\}$ とおけば $\mathcal{U}'$ は $\mathcal{U}$ の高々可算な部分集合であるが、この $\mathcal{U}'$ が $X$ の被覆となることを示そう。そのため $x\in X$ とする。$\mathcal{U}$ は $X$ の被覆であるから、ある $U\in\mathcal{U}$ が存在して $x\in U$ である。次に、$\mathcal{B}$ は $X$ の開基であって $U$ は $X$ の開集合であるから、ある $B\in\mathcal{B}$ が存在して $x\in B\subset U$ である。すると、$\mathcal{B}'$ の定義により $B\in\mathcal{B}'$ であるから、$U_B$ が定義され、$B\subset U_B$ を満たす。すると $x\in U_B\in\mathcal{U}'$ である。これで、$\mathcal{U}'$ が $X$ の被覆であることが示された。結局、任意に与えられた $X$ の開被覆 $\mathcal{U}$ が高々可算な部分被覆 $\mathcal{U}'$ をもつことが示されたから、$X$ はLindelöf空間である。$\square$


定理 14.5 (距離空間について第二可算・可分・Lindelöfは同値)

$(X, d)$ を距離空間とするとき、次は同値である。

  • (1) $X$ は第二可算である。
  • (2) $X$ は可分である。
  • (3) $X$ はLindelöf空間である。

証明

命題 4.14命題 4.15により、(1)と(2)は同値である。また、命題 14.4では、(1)$\Rightarrow$(3)が成り立つことを示した。よって、あとは(3)$\Rightarrow$(1)を示せばよい。そこで、距離空間 $(X, d)$ がLindelöf空間であるとする。各 $n\in\mathbb{N}$ に対して、$(X, d)$ の半径 $2^{-n}$ の開球体すべてからなる $X$ の開被覆 $$ \mathcal{U}_n=\{B(x, 2^{-n})\,|\,x\in X\} $$ を考える。$X$ はLindelöf空間なので、各 $n\in\mathbb{N}$ に対して $\mathcal{U}_n$ は高々可算な部分被覆 $\mathcal{V}_n$ を選べる。このとき、$\mathcal{B}=\bigcup_{n=1}^\infty \mathcal{V}_n$ とおけば $\mathcal{B}$ は $X$ の開集合からなる高々可算な族である。このとき、$\mathcal{B}$ が $X$ の開基であることを示そう。そのため、$X$ の開集合 $U$ と $x\in U$ を任意に与える。すると、ある $n\in\mathbb{N}$ に対して、$B(x, 2^{-n})\subset U$ である。$\mathcal{V}_{n+1}$ は $X$ の開被覆だから、ある $V\in\mathcal{V}_{n+1}$ に対して $x\in V$ である。$V\in\mathcal{V}_{n+1}\subset\mathcal{U}_{n+1}$ であるので、ある $x'\in X$ が存在して $V=B(x', 2^{-(n+1)})$ である。すると、$V\subset B(x, 2^{-n})$ である。実際、$y\in V$ を任意に与えると、$d(x',y)<2^{-(n+1)}$ であるが、一方 $x\in V$ により $d(x', x)<2^{-(n+1)}$ であり、したがって $d(x, y)\leq d(x,x')+d(x',y)<2^{-(n+1)}+2^{-(n+1)}=2^{-n}$ となり、よって $y\in B(x, 2^{-n)}$ である。したがって、$V\subset B(x, 2^{-n})\subset U$ であり、よって $x\in V\subset U$ である。$V\in\mathcal{V}_{n+1}\subset\mathcal{B}$ であるから、これで $\mathcal{B}$ が $X$ の開基であることが示された。$\mathcal{B}$ は高々可算であったから、$X$ が第二可算であることが示された。$\square$

系 14.6 (コンパクトな距離空間は第二可算)

コンパクトな距離空間は第二可算である。

証明

コンパクトな距離空間は明らかにLindelöf空間であるから、定理 14.5により第二可算となる。$\square$

系 14.7 (可分距離空間、およびLindelöf距離空間の部分空間)

可分な距離空間の任意の部分空間は可分である。また、Lindelöf空間である距離空間の任意の部分空間はLindelöf空間となる。

証明

距離空間については、可分性やLindelöf性は定理 14.5により第二可算性と同値である。ところが、命題 6.11により、第二可算性は部分空間に引き継がれるから、上の主張は成り立つ。$\square$

例 14.8 (可分性やLindelöf性は部分空間に必ずしも引き継がれない)

一般の位相空間については、可分な空間の部分空間は必ずしも可分ではないし、Lindelöf空間の部分空間は必ずしもLindelöf空間とはならない。これらのことを示す例を挙げよう。

まず、例 12.20において考えたSorgenfrey直線 $\mathbb{S}$ を二つ直積したもの $\mathbb{S}^2=\mathbb{S}\times\mathbb{S}$ を考える。例 12.20で述べたように、$\mathbb{Q}^2$ は $\mathbb{S}^2$ の可算な稠密部分集合である。したがって、$\mathbb{S}^2$ は可分である。また、例 12.20では、$\mathbb{S}^2$ の部分集合 $$ A=\{(x,y)\in\mathbb{S}\times\mathbb{S}\,|\,x+y=0\} $$ が $\mathbb{S}^2$ の部分空間として離散空間となることを述べた。$A$ は非可算な離散空間であるから、可分ではない。

次に、$Y$ を非可算集合とし、$Y$ に属していない点 $\infty$ を考えて $X=Y\cup\{\infty\}$ とする。$U\subset X$ に対して、$U$ が開集合であるのは $U\subset Y$ であるかまたは $X\setminus U$ が高々可算集合であるときと定義する。すると開集合系の公理が満たされることが確かめられ、$X$ は位相空間となる。このとき、$X$ がLindelöf空間となることが簡単に確かめられる。さらに、$Y$ は $X$ の部分空間と見たときに離散空間である。$Y$ は非可算な離散空間であるから、Lindelöf空間ではない。実際、$\{\{y\}\,|\,y\in Y\}$ は $Y$ の開被覆であって高々可算な部分被覆をもたない。$\square$

続いて、距離空間の全有界性の概念について述べる。

定義 14.9 ($\varepsilon$ 稠密)

$(X, d)$ を距離空間とし、$A\subset X$ とする。$A$ が $(X, d)$ において $\varepsilon$ 稠密($\varepsilon$-dense)であるとは、任意の $x\in X$ に対して $a\in A$ が存在して $d(x, a)<\varepsilon$ となることをいう。

定義から明らかに、$A$ が $(X, d)$ において $\varepsilon$ 稠密であることは $\bigcup_{a\in A} B(a, \varepsilon)=X$ が成立することと同値である。

定義 14.10 (全有界)

距離空間 $(X, d)$ が全有界(totally bounded)であるとは、任意の $\varepsilon>0$ に対して、$X$ の有限部分集合 $F$ が存在して $(X, d)$ において $\varepsilon$ 稠密となること、つまり $\bigcup_{a\in F} B(a,\varepsilon)=X$ となることをいう。$\square$

命題 14.11 (全有界距離空間は有界)

$(X, d)$ を全有界な距離空間とする。このとき、$(X, d)$ は有界である。

証明

全有界性の定義で $\varepsilon=1$ とすることで、$X$ の有限部分集合 $F$ で $X=\bigcup_{a\in F} B(a,1)$ となるものが存在することが分かる。$F$ は有限集合だから、 $$ M=\max\{d(a,b)\,|\,a, b\in F\}\in [0,\infty) $$ が存在する。$x, y\in X$ を任意に与える。$a, b\in F$ を $x\in B(a,1),$ $y\in B(b,1)$ となるように取れば、 $$ d(x, y)\leq d(x, a)+d(a, b)+d(b, y)\leq 1+M+1=M+2 $$ となる。したがって、$\operatorname{diam} X\leq M+2<\infty$ であるから、$X$ は有界である。$\square$

例 14.12 (全有界な距離空間と、そうでない距離空間)

命題 14.11により、有界でない距離空間は、すべて全有界ではない。たとえばEuclid空間 $\mathbb{R}^n$ は全有界ではない。

閉区間 $[a, b]$(ただし、$-\infty<a<b<+\infty$)は全有界である。これを示すために、任意の $\varepsilon>0$ を与えよう。$n\in\mathbb{N}$ を $(b-a)/n<\varepsilon$ となるようにとり、 $$ F=\{a+(b-a)i/n\,|\,i=0,1,\ldots, n\} $$ とおけば、$F$ は $[a, b]$ の有限部分集合で、$[a, b]$ において $\varepsilon$ 稠密となる。

有界な距離空間は必ずしも全有界ではない。たとえば、$X$ を無限集合とし、$X$ 上の距離 $d$ を、$x=y$ のとき $d(x,y)=0$ とし、$x\neq y$ のとき $d(x, y)=1$ とすることで定める(例 1.20参照)。このとき任意の $x, y\in X$ に対して $d(x, y)\leq 1$ なので、$(X, d)$ は有界である。 一方、任意の $x\in X$ に対して $B(x,1)=\{x\}$ となるから、任意の有限集合 $F\subset X$ に対して $\bigcup_{x\in F} B(x,1)=F\neq X$ となる。このことは $(X, d)$ は $\varepsilon=1$ に対して全有界性の定義を満たさないことを意味するので、$(X, d)$ は全有界ではない。$\square$

命題 14.13 (全有界距離空間の部分集合は全有界)

$(X, d)$ を全有界な距離空間とする。このとき、任意の $A\subset X$ に対して $A$ は全有界となる。

証明

$\varepsilon>0$ を任意に与える。$A$ の部分集合 $F$ であって $A$ において $\varepsilon$ 稠密であるものを見つければよい。いま $(X, d)$ は全有界であるから、$X$ の部分集合 $F_0$ であって $(X, d)$ において $\varepsilon/2$ 稠密であるものが存在する。さらに、$F_1$ を $$ F_1=\{x\in F_0\,|\,\text{ある }a\in A{ に対して }d(x, a)<\varepsilon/2\} $$ と定義し、各 $x\in F_1$ に対して $a_x\in A$ を $d(x, a_x)<\varepsilon/2$ であるように取る。このとき $F=\{a_x\,|\,x\in F_1\}$ とおけば、$F$ は $A$ の有限部分集合である。$F$ が $A$ において $\varepsilon$ 稠密であることを示すため、$a\in A$ を任意に与える。$F_0$ は $(X, d)$ において $\varepsilon/2$ 稠密であったから、ある $x\in F_0$ に対して $d(x, a)<\varepsilon/2$ である。すると、$a\in A$ であることから $F_1$ の定義により $x\in F_1$ である。したがって $a_x$ が定義され、$d(a, a_x)\leq d(a, x)+d(x, a_x)<\varepsilon/2+\varepsilon/2=\varepsilon$ である。これで $F$ が $A$ において $\varepsilon$ 稠密であることが分かり、$A$ の全有界性が示された。$\square$


命題 14.14 (全有界部分集合の閉包は全有界)

$(X, d)$ を距離空間とし、$A\subset X$ が全有界であるとする。このとき閉包 $\operatorname{Cl} A$ も全有界である。

証明

$\varepsilon>0$ を任意に与える。$A$ は全有界なので、有限集合 $F\subset A$ であって、$A$ において $\varepsilon/2$ 稠密なものが存在する。このとき、$F$ が $\operatorname{Cl} A$ において $\varepsilon$ 稠密であることを示そう。そこで、$x\in\operatorname{Cl} A$ を任意に与える。すると、$B(x, \varepsilon/2)\cap A\neq\emptyset$ であるので、点 $y\in B(x, \varepsilon/2)\cap A$ を一つ取り固定する。$F$ は $A$ において $\varepsilon/2$ 稠密なので、$z\in F$ が存在して $d(y,z)<\varepsilon/2$ である。すると、$d(x, z)<\varepsilon/2+\varepsilon/2=\varepsilon$ である。$z\in F$ であるから、これで $F$ が $\operatorname{Cl} A$ において $\varepsilon$ 稠密であることが示された。$\square$

完備性と同じように、全有界性も位相的性質ではない。つまり、二つの距離空間が同相であっても、一方が全有界で、他方が全有界でないことが起こり得る。このことは以下の例から分かる。

注意 14.15 (全有界性は位相的性質ではない)

例 13.11と同様に、$X=[0,\infty)$ と $Y=[0, 1)$ を考える。例 13.11で見たように、$X$ と $Y$ は同相である。$X$ は有界ではないから、全有界ではない。一方、例 14.12により $[0,1]$ は全有界であり、$Y$ はその部分集合であるので、命題 14.13により $Y$ は全有界である。$\square$

命題 14.16 (全有界性は一様同相によって保たれる)

$(X, d)$ と $(Y, d')$ を距離空間とし、$(X, d)$ は全有界であるとする。このとき、一様連続写像 $f\colon X\to Y$ であって全射であるものが存在すれば、$(Y, d')$ も全有界である。とくに、$(X, d)$ と $(Y, d')$ が一様同相であれば、$(Y, d')$ も全有界である。

証明

$(X, d)$ を全有界な距離空間、$(Y, d')$ を距離空間とし、$f\colon X\to Y$ を距離空間 $(Y, d')$ への全射な一様連続写像とする。$(Y, d')$ の全有界性を示すため、$\varepsilon>0$ を任意に与える。$f$ の一様連続性により、$\delta>0$ が存在して、$x, x'\in X,\, d(x, x')<\delta$ のとき常に $d'(f(x), f(x'))<\varepsilon$ となる。$(X, d)$ の全有界性により、$X$ の有限部分集合 $F$ が存在して、$F$ は $(X, d)$ において $\delta$ 稠密となる。このとき、$f(F)$ は $Y$ の有限部分集合であるが、$f(F)$ が $(Y, d')$ において $\varepsilon$ 稠密であることを示そう。そこで、$y\in Y$ を任意に与える。いま $f$ は全射であるから、ある $x\in X$ が存在して $f(x)=y$ である。$F$ は $(X,d)$ において $\delta$ 稠密なので、$a\in F$ が存在して、$d(x,a)<\delta$ となる。すると、$d'(y,f(a))=d'(f(x),f(a))<\varepsilon$ である。$f(a)\in f(F)$ であるから、これで $f(F)$ が $(Y, d')$ において $\varepsilon$ 稠密であることが示され、$(Y, d')$ が全有界であることが示された。$\square$

続いて、点列の部分列と点列コンパクト性の概念について述べる。

定義 14.18 (部分列)

$X$ を位相空間とし、$(x_n)_{n=1}^\infty$ を $X$ の点列とする。$X$ の点列 $(x'_n)_{n=1}^\infty$ が $(x_n)_{n=1}^\infty$ の部分列(subsequence)であるとは、$1\leq k_1<k_2<\cdots$ であるような整数列 $(k_n)_{n=1}^\infty$ が存在して、各 $n\in\mathbb{N}$ に対して $x'_n=x_{k_n}$ となることをいう。$\square$

定義 14.19 (点列コンパクト)

位相空間 $X$ が点列コンパクト(sequentially compact)であるとは、$X$ の任意の点列が収束する部分列をもつことをいう。すなわち、$X$ の任意の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ に対して、$(x_n)_{n=1}^\infty$ の部分列 $(x'_n)_{n=1}^\infty$ と点 $x\in X$ が存在して $x'_n\to x$ となることをいう。$\square$


定理 14.20 (距離空間がコンパクトであるための同値な条件)

$(X, d)$ を距離空間とするとき、以下は同値である。

  • (1) $X$ はコンパクトである。
  • (2) $X$ は点列コンパクトである。
  • (3) $X$ は全有界かつ完備である。

証明

(1)$\Rightarrow$(2)を示す。距離空間 $(X, d)$ がコンパクトであるとして、$X$ の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ を任意に与える。$(x_n)_{n=1}^\infty$ が収束する部分列をもつことを示そう。各 $n\in\mathbb{N}$ に対して、$X$ の閉集合 $F_n$ を $$ F_n=\operatorname{Cl} \{x_k\,|\,k\geq n\} $$ で定義する。すると、$F_n$ は空でなく $F_{n+1}\subset F_n$ であるから、命題 9.13により $\bigcap_{n=1}^\infty F_n\neq\emptyset$ である。そこで、点 $x\in\bigcap_{n=1}^\infty F_n$ を一つ取り固定する。$x\in F_1$ であるから、$B(x,1)\cap\{x_k\,|\,k\geq 1\}\neq\emptyset$ である。よって、$k_1\in\mathbb{N}$ が存在して $x_{k_1}\in B(x,1)$ となる。次に、$x\in F_{k_1+1}$ であるから、$B(x, 1/2)\cap\{x_k\,|\,k\geq k_1+1\}\neq\emptyset$ である。よって、$k_2>k_1$ が存在して $x_{k_2}\in B(x,1/2)$ となる。さらに、$x\in F_{k_2+1}$ であるから、$B(x, 1/3)\cap\{x_k\,|\,k\geq k_2+1\}\neq\emptyset$ である。よって、$k_3>k_2$ が存在して $x_{k_3}\in B(x,1/3)$ となる。

この操作を繰り返して、整数列 $1\leq k_1<k_2<k_3<\cdots$ を $x_{k_i}\in B(x,1/i)\,(i\in\mathbb{N})$ となるように選べる。すると、$(x_{k_i})_{i=1}^\infty$ は $(x_n)_{n=1}^\infty$ の部分列であって $x$ に収束する。

(2)$\Rightarrow$(3)を示す。距離空間 $(X,d)$ が点列コンパクトであるとしよう。まず $(X,d)$ の全有界性を示すため、$(X, d)$ が全有界でなかったと仮定しよう。すると $\varepsilon>0$ が存在して、いかなる有限集合 $F\subset X$ に対しても $\bigcup_{x\in F} B(x,\varepsilon)\neq X$ である。このときとくに $F=\emptyset$ とすることで $X\neq\emptyset$ が分かるから、$x_1\in X$ を一つ取り固定する。次に $F=\{x_1\}$ として $B(x_1,\varepsilon)\neq X$ が分かるから、$x_2\in X\setminus B(x_2,\varepsilon)$ を一つ取る。一般に、$x_1,\ldots, x_n\in X$ まで取られたとき、$F=\{x_1,\ldots, x_n\}$ として $\bigcup_{i=1}^n B(x_i,\varepsilon)\neq X$ が分かるので、$x_{n+1}\in X\setminus\bigcup_{i=1}^n B(x_i,\varepsilon)$ を一つ取る。 この操作により、点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ が得られる。この点列のつくり方から $$ d(x_i, x_j)\geq\varepsilon\quad(i, j\in\mathbb{N},\,i\neq j)\qquad(\star) $$ である。もし、$(x_n)_{n=1}^\infty$ のある部分列 $(x'_n)_{n=1}^\infty$ がある点 $x\in X$ に収束したとすれば、$N\in\mathbb{N}$ が存在して、$n\geq N$ のとき常に $d(x'_n, x)<\varepsilon/2$ である。したがって、 $$ d(x'_N, x'_{N+1})\leq d(x'_N, x)+d(x, x'_{N+1})<\varepsilon/2+\varepsilon/2=\varepsilon $$ である。しかし、$(x'_n)_{n=1}^\infty$ は $(x_n)_{n=1}^\infty$ の部分列であったから、$i<j$ であるようなある $i, j\in\mathbb{N}$ を用いて $x'_N=x_i,$ $x'_{N+1}=x_j$ と表せる。すると $d(x_i, x_j)<\varepsilon$ となり、これは $(\star)$ に反する。これで $(x_n)_{n=1}^\infty$ が収束する部分列をもたないことが分かったが、これは $(X, d)$ を点列コンパクトとしていたことに反する。この矛盾により $(X, d)$ は全有界であることが示された。

次に、$(X, d)$ の完備性を示す。そのため、$(x_n)_{n=1}^\infty$ を $(X, d)$ のCauchy列としよう。$(X, d)$ は点列コンパクトであるから、$(x_n)_{n=1}^\infty$ の部分列 $(x_{k_n})_{n=1}^\infty$ と $x\in X$ が存在して $(x_{k_n})_{n=1}^\infty$ は $x$ に収束する。ただし、$(k_n)_{n=1}^\infty$ は $1\geq k_1<k_2<\cdots$ となる整数列である。このとき $(x_n)_{n=1}^\infty$ が $x$ に収束していることを示そう。そのため $\varepsilon>0$ とする。$(x_n)_{n=1}^\infty$ は $(X, d)$ のCauchy列であるから、$N\in\mathbb{N}$ が存在して $n, m\geq N$ のとき常に $d(x_n, x_m)<\varepsilon/2$ である。他方 $(x_{k_n})_{n=1}^\infty$ は $x$ に収束するから、$N'\in\mathbb{N}$ が存在して $n\geq N'$ のとき常に $d(x_{k_n}, x)<\varepsilon/2$ となる。 必要なら $N'$ を大きく取り換えて $N'\geq N$ であるとしてよい。すると、$k_{N'}\geq N'\geq N$ であることから、$n\geq N$ のとき $$ d(x_n, x)\leq d(x_n, x_{k_N'})+d(x_{k_N'}, x)<\varepsilon/2+\varepsilon/2=\varepsilon $$ となる。これで、$(x_n)_{n=1}^\infty$ が $x$ に収束することが示され、$(X, d)$ の完備性が示された。

(3)$\Rightarrow$(1)を示す。$(X, d)$ が全有界かつ完備な距離空間であるとする。$X$ がコンパクトであることを背理法によって証明する。もし、$X$ がコンパクトでないとすれば、$X$ の開被覆 $\mathcal{U}$ であって有限な部分被覆をもたないものが存在する。いま $(X, d)$ は全有界なので、各 $n\in\mathbb{N}$ に対して、有限集合 $F_n\subset X$ が存在して $X=\bigcup_{x\in F_n} B(x, 2^{-n})$ となる。

さて、$X=\bigcup_{x\in F_1} B(x, 2^{-1})$ であることに注目する。もし、どの $x\in F_1$ に対しても $B(x, 2^{-1})$ が $\mathcal{U}$ の有限個の要素によって覆われるならば、$F_1$ の有限性により、$X$ そのものが $\mathcal{U}$ の有限個の要素で覆われ、これは $\mathcal{U}$ が有限な部分被覆をもたないとしていたことに反する。したがって、$x_1\in F_1$ が存在して、$B(x_1, 2^{-1})$ は $\mathcal{U}$ の有限個の要素では覆われない。次に $$ F'_2=\{x\in F_2\,|\,B(x, 2^{-2})\cap B(x_1, 2^{-1})\neq\emptyset\} $$ とおく。すると $$ B(x_1, 2^{-1})\subset\bigcup_{x\in F'_2} B(x, 2^{-2}) $$ である。もし、どの $x\in F_2$ に対しても $B(x, 2^{-2})$ が $\mathcal{U}$ の有限個の要素によって覆われるならば、上の式と $F'_2$ の有限性により、$B(x_1, 2^{-1})$ が $\mathcal{U}$ の有限個の要素で覆われることになり、$x_1$ の取り方に反する。よって、ある $x_2\in F_2$ が存在して、$B(x_2, 2^{-2})$ は $\mathcal{U}$ の有限個の要素では覆われない。次に、 $$ F'_3=\{x\in F_3\,|\,B(x, 2^{-3})\cap B(x_2, 2^{-2})\neq\emptyset\} $$ とおく。すると $$ B(x_2, 2^{-2})\subset\bigcup_{x\in F'_3} B(x, 2^{-3}) $$ である。さきほどと同様の議論により、ある $x_3\in F'_3$ が存在して、$B(x_3, 2^{-3})$ は $\mathcal{U}$ の有限個の要素では覆われない。

この操作を繰り返すことにより、点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ が得られ、各 $n\in\mathbb{N}$ に対して次の性質を満たす。

  • (i) $B(x_n, 2^{-n})$ は $\mathcal{U}$ の有限個の要素では覆われない。
  • (ii) $B(x_n, 2^{-n})\cap B(x_{n+1}, 2^{-(n+1)})\neq\emptyset$ である。

(ii) により、$d(x_n, x_{n+1})\leq 2^{-n}+2^{-(n+1)}<2^{-n}+2^{-n}=2^{-(n-1)}$ であるから、一般に $n\geq m$ のとき $$ d(x_n, x_m)=\sum_{i=m}^{n-1} d(x_{i+1}, x_i)<\sum_{i=m}^{n-1} 2^{-(i-1)}<2^{-(m-2)} $$ である。$(x_n)_{n=1}^\infty$ がCauchy列であることを示すため、任意に $\varepsilon>0$ を与える。$N\in\mathbb{N}$ を $2^{-(N-2)}<\varepsilon$ となるように取れば、上で示したことより $n, m\geq N$ のとき、 $$ d(x_n, x_m)<\max\{2^{-(m-2)}, 2^{-(n-2)}\}\leq 2^{-(N-2)}<\varepsilon $$ である。これで $(x_n)_{n=1}^\infty$ がCauchy列であることが示された。$(X, d)$ は完備であるとしていたから、$(x_n)_{n=1}^\infty$ はある $x\in X$ に収束する。$\mathcal{U}$ は $X$ の開被覆であったから、ある $U\in\mathcal{U}$ に対して $x\in U$ である。$N\in\mathbb{N}$ を $B(x, 2^{-N})\subset U$ となるように取る。$(x_n)_{n=1}^\infty$ は $x$ に収束するから、ある $N'\in\mathbb{N}$ が存在して、$n\geq N'$ のとき常に $d(x, x_n)<2^{-(N+1)}$ である。$N'$ を必要なら大きく取り換え、$N'\geq N+1$ としてよい。すると $$ B(x_{N'}, 2^{-N'})\subset B(x, 2^{-N})\quad(\star\star) $$ となる。これを示すため、$y\in B(x_{N'}, 2^{-N'})$ とする。すると $$ d(x, y)\leq d(x, x_{N'})+d(x_{N'}, y)<2^{-(N+1)}+2^{-N'}\leq 2^{-(N+1)}+2^{-(N+1)}=2^{-N} $$ となる。よって、$y\in B(x, 2^{-N})$ である。これで $(\star\star)$ が示された。$(\star\star)$ と $B(x, 2^{-N})\subset U$ により、$B(x_{N'}, 2^{-N'})$ は $\mathcal{U}$ の一個の要素 $U$ で覆われていることになるが、これは (i) に反する。この矛盾により、$X$ がコンパクトであることが証明された。$\square$

系 14.21 (全有界性と完備化がコンパクトであることは同値)

$(X, d)$ を距離空間とし、$((\tilde{X}, \tilde{d}), \iota)$ をその完備化とする。このとき、次は同値である。

  • (1) $(X, d)$ は全有界である。
  • (2) $(\tilde{X}, \tilde{d})$ はコンパクトである。

証明

(1)$\Rightarrow$(2)を示す。$(X, d)$ を全有界とする。$\iota\colon X\to\tilde{X}$ は等長埋め込みであって $\iota(X)$ が $\tilde{X}$ において稠密であることから、命題 14.14により、$(\tilde{X}, \tilde{d})$ も全有界である。$(\tilde{X}, \tilde{d})$ は完備であるから、定理 14.20により $\tilde{X}$ はコンパクトである。

(2)$\Rightarrow$(1)を示す。$(\tilde{X}, \tilde{d})$ がコンパクトであるとすると、定理 14.20により $(\tilde{X}, \tilde{d})$ は全有界であるから、その部分集合 $\iota(X)$ も命題 14.13により全有界である。$\iota\colon X\to\tilde{X}$ は等長埋め込みであるから、$(X, d)$ も全有界である。$\square$

系 14.22 (全有界な距離空間は第二可算)

$(X, d)$ を距離空間とする。$(X, d)$ が全有界ならば、$X$ は第二可算である。

証明

$(X, d)$ の完備化 $((\tilde{X}, \tilde{d}), \iota)$ を考えると、$(\tilde{X}, \tilde{d})$ は系 14.21によりコンパクトである。よって、$\tilde{X}$ はLindelöf空間となるから、定理 14.5により、$\tilde{X}$ は第二可算である。$\iota\colon X\to\tilde{X}$ は等長埋め込みだから、$X$ は $\tilde{X}$ の部分空間 $\iota(X)$ と同相であるが、$\tilde{X}$ の第二可算性と命題 6.11により $\iota(X)$ は第二可算であるから、$X$ は第二可算である。$\square$


命題 14.23 (距離を $1$ との最小値をとって修正すること)

$(X, d)$ を距離空間とする。このとき $d'\colon X\times X\to\mathbb{R}$ を $$ d'(x,y)=\min\{1, d(x,y)\} $$ により定義すれば、$d'$ も $X$ 上の距離となり、$d'$ は $d$ と同じ位相を $X$ に定める。さらに、$(X, d)$ が完備であるならば、$(X, d')$ も完備である。

証明

まず、$d'$ が $X$ 上の距離となることを示そう。定義 1.12の(D1)-(D3) のうち、三角不等式(D3)以外は明らかに満たされているので、三角不等式のみを示す。$x, y, z\in X$ とすると、 $$ \begin{aligned} d'(x,y)+d'(y,z) &=\min\{1, d(x,y)\}+\min\{1, d(y,z)\}\\ &=\min\{1+1, 1+d(y,z), d(x,y)+1, d(x,y)+d(y,z)\}\\ &\geq\min\{1, d(x,y)+d(y,z)\}\\ &\geq\min\{1, d(x,z)\}\\ &=d'(x,z) \end{aligned} $$ となる。よって、$d'$ は三角不等式を満たし、$X$ 上の距離となる。なお、上の式変形の第二の等号では、一般に実数 $a, b, c, d$ に対して $\min\{a,b\}+\min\{c,d\}=\min\{a+c, a+d, b+c, b+d\}$ であることを用いた。

ここで、$d$ と $d'$ の関係について注意しておく。$\varepsilon$ が $0<\varepsilon\leq 1$ を満たすとき、$x, y\in X$ に対して $d(x,y)<\varepsilon$ と $d'(x,y)<\varepsilon$ は同値である。したがって、そのような $\varepsilon$ に対しては、$d$ と $d'$ についての半径 $\varepsilon$ の開球体は等しい。つまり、$0<\varepsilon\leq 1$ のとき任意の $x\in X$ に対して $B_d(x, \varepsilon)=B_{d'}(x, \varepsilon)$ である。

さて、$d'$ が $d$ と同じ位相を $X$ に定めることを示そう。そこで、$U$ を $(X, d)$ の開集合とする。$U$ が $(X, d')$ の開集合でもあることを示すため、$x\in U$ とする。すると、ある $\varepsilon>0$ が存在して $B_d(x, \varepsilon)\subset U$ である。この $\varepsilon$ は小さく取って $0<\varepsilon\leq 1$ を満たすようにできる。すると、上に注意したことから $B_{d'}(x, \varepsilon)=B_d(x, \varepsilon)$ であるので、$B_{d'}(x, \varepsilon)\subset U$ である。これで、$U$ が $(X, d')$ の開集合であることが示された。これで、$(X, d)$ の任意の開集合は $(X, d')$ の開集合となることが分かった。同様にして、$(X, d')$ の任意の開集合が $(X, d)$ の開集合となることも分かる。これで、$d'$ が $d$ と同じ位相を $X$ に定めることが示された。

最後に、$(X, d)$ が完備であるとして、$(X, d')$ が完備であることを示そう。$(x_n)_{n=1}^\infty$ を $(X, d')$ のCauchy列とする。$(x_n)_{n=1}^\infty$ が $(X, d)$ のCauchy列であることを示すため、$\varepsilon>0$ を任意に与える。$\varepsilon'=\min\{1, \varepsilon\}$ とおこう。$(x_n)_{n=1}^\infty$ は $(X, d')$ のCauchy列なので、$N\in\mathbb{N}$ が存在して、$n, m\geq N$ のとき常に $d'(x_n, x_m)<\varepsilon'$ である。いま $0<\varepsilon'\leq 1$ なので、前の注意により、$n, m\geq N$ のとき常に $d(x_n, x_m)<\varepsilon'$ となり、したがって $d(x_n, x_m)<\varepsilon$ となる。これで、$(x_n)_{n=1}^\infty$ が $(X, d)$ のCauchy列であることが示された。したがって、$(x_n)_{n=1}^\infty$ はある $x\in X$ に、$(X, d)$ において収束する。ところが、$d$ と $d'$ は $X$ に同じ位相を定めるのだから、$(x_n)_{n=1}^\infty$ は $(X, d')$ においても $x$ に収束している(点列の収束は、距離を用いずに位相のみを用いて定義される概念であったことに注意する。定義 2.16参照)。これで、$(X, d')$ は完備となることが示された。$\square$

定理 14.24 (可算個の距離空間の直積は距離化可能で完備性も保たれる)

各 $i\in\mathbb{N}$ に対して $(X_i, d_i)$ を距離空間とする。このとき、直積空間 $X=\prod_{i=1}^\infty X_i$ は距離化可能である。すなわち、$X$ 上の距離 $d$ であって $d$ の定める位相が直積位相に一致するものが存在する。さらに、各 $i\in\mathbb{N}$ に対して $(X_i, d_i)$ が完備である場合は、そのような距離 $d$ として完備なものが取れる。

証明

各 $i\in\mathbb{N}$ に対して $p_i\colon X\to X_i$ を射影とする。 命題 14.23により、$d_i$ を $d'_i(x, y)=\min\{1, d_i(x,y)\}\,(x, y\in X_i)$ で定義される $d'_i$ に置き換えてもよい。この置き換えにより、はじめから任意の $i\in\mathbb{N}$ および $x, y\in X_i$ に対して $d_i(x,y)\leq 1$ が成り立っていると仮定してよい。そこで $d\colon X\times X\to [0,\infty)$ を $$ d(x, y)=\sum_{i=1}^\infty 2^{-i} d_i(p_i(x), p_i(y))\quad(\star) $$ で定義すれば、右辺は確かに収束する。さらに、$d$ は $X$ 上の距離となることがすぐに確かめられる。

$d$ の定める $X$ 上の位相が、$X$ 上の直積位相と一致することを示そう。そのため、$U\subset X$ を $(X, d)$ の開集合とする。$U$ が直積位相についての開集合であることを示すため、$x\in U$ とする。ある $\varepsilon>0$ に対して、$B_d(x, \varepsilon)\subset U$ である。$n\in\mathbb{N}$ を十分大きくとり、$2^{-n}<\varepsilon/2$ であるようにする。このとき、$V=\bigcap_{i=1}^{n} p_i^{-1}(B_{d_i}(p_i(x), \varepsilon/2))$ とおけば $V$ は直積位相に関する $x$ の開近傍である。 $V\subset B_d(x, \varepsilon)$ を示すため、$y\in V$ を任意に与える。すると $$ \begin{aligned} d(x,y)&=\sum_{i=1}^\infty 2^{-i} d(p_i(x), p_i(y))\\ &=\sum_{i=1}^{n} 2^{-i} d(p_i(x), p_i(y))+\sum_{i=n+1}^\infty 2^{-i} d(p_i(x), p_i(y))\\ &\leq \sum_{i=1}^{n} 2^{-i}\cdot \varepsilon/2 +\sum_{i=n+1}^\infty 2^{-i}\cdot 1\\ &<\varepsilon/2+2^{-n}<\varepsilon/2+\varepsilon/2=\varepsilon \end{aligned} $$ となるので、$y\in B_d(x,\varepsilon)$ である。よって、$V\subset B_d(x,\varepsilon)$ であり、したがって $V\subset U$ であることが分かった。$V$ は直積位相に関する $x$ の開近傍であったから、これで $U$ が直積位相について開集合であることが示された。以上で、$(X, d)$ の任意の開集合が直積位相についての開集合となることが分かった。

次に、$U\subset X$ を直積位相についての開集合とする。$U$ が $(X, d)$ についての開集合であることを示すため、$x\in U$ とする。すると、有限個の $i_1,\ldots, i_k\in\mathbb{N}$ と $p_{i_j}(x)$ の $X_{i_j}$ における開近傍 $V_j\,(j=1,\ldots, k)$ が存在して、$\bigcap_{j=1}^k p_{i_j}^{-1}(V_j)\subset U$ である。各 $j\in\{1,\ldots, k\}$ に対して、$\varepsilon_j>0$ を $B_{d_{i_j}}(p_{i_j}(x), \varepsilon_j)\subset V_j$ となるように取る。 $$ \varepsilon=\min\{2^{-i_j}\varepsilon_j\,|\,j=1,\ldots, k\} $$ とおくとき $B_d(x,\varepsilon)\subset U$ を示そう。そのため $y\in B_d(x,\varepsilon)$ とする。このとき、任意の $j\in\{1,\ldots, k\}$ に対して $$ \begin{aligned} d_{i_j}(p_{i_j}(x), p_{i_j}(y))&=2^{i_j}\cdot 2^{-i_j} d_{i_j}(p_{i_j}(x), p_{i_j}(y))\leq 2^{i_j} d(x,y)\\ &<2^{i_j}\varepsilon\leq 2^{i_j}\cdot 2^{-i_j}\varepsilon_j=\varepsilon_j \end{aligned} $$ であり、したがって $p_{i_j}(y)\in B_{d_{i_j}}(p_{i_j}(x), \varepsilon_j)\subset V_j$ である。よって、$y\in \bigcap_{j=1}^k p_{i_j}^{-1}(V_j)\subset U$ である。これで、$B_d(x,\varepsilon)\subset U$ が示され、$U$ が $(X, d)$ の開集合であることが示された。以上で、$X$ の直積位相についての任意の開集合が $(X, d)$ の開集合となることが分かった。こうして、$d$ の定める $X$ 上の位相は直積位相と一致することが分かった。

最後に、各 $i\in\mathbb{N}$ に対して $(X_i, d_i)$ が完備な場合を考える。この場合も命題 14.23により、$d_i$ の代わりに $d'_i(x,y)=\min\{1, d_i(x,y)\}$ で定義される $d'_i$ を考えれば $d'_i$ は $d_i$ と同じ位相を定め、しかも $(X_i, d'_i)$ は再び完備である。そこで、$d_i$ を $d'_i$ に置き換えることで、すべての $i\in\mathbb{N},$ $x,y\in X_i$ に対して $d_i(x,y)\leq 1$ であるとしてよい。$X$ 上の距離 $d$ をさきほどのように $(\star)$ により定義するとき、$(X, d)$ が完備であることを示そう。そのため、$(x_n)_{n=1}^\infty$ を $(X, d)$ のCauchy列とする。このとき、各 $i\in\mathbb{N}$ に対して、$(p_i(x_n))_{n=1}^\infty$ が $(X_i, d_i)$ のCauchy列であることを示そう。そのため、$\varepsilon>0$ とする。$(x_n)_{n=1}^\infty$ は $(X, d)$ のCauchy列であるから、$N\in\mathbb{N}$ が存在して、$n, m\geq N$ のとき常に $d(x_n, x_m)<2^{-i}\varepsilon$ である。すると、$n, m\geq N$ のとき $$ d_i(p(x_n), p(x_m))=2^i\cdot 2^{-i} d_i(p(x_n), p(x_m))\leq 2^i d(x_n, x_m)<2^i\cdot 2^{-i}\varepsilon=\varepsilon $$ である。これで、$(p_i(x_n))_{n=1}^\infty$ が $(X_i, d_i)$ のCauchy列であることが分かった。$(X_i, d_i)$ は完備だから、$(p_i(x_n))_{n=1}^\infty$ はある点 $y_i\in X_i$ に収束する。そこで、$y=(y_i)_{i=1}^\infty\in X$ とおく。すると、各 $i\in\mathbb{N}$ に対して $(p_i(x_n))_{n=1}^\infty$ は $p_i(y)=y_i$ に収束しているから、命題 8.21により、$(x_n)_{n=1}^\infty$ は $y$ に収束する。$(x_n)_{n=1}^\infty$ は $(X, d)$ の任意のCauchy列であったから、これで $(X, d)$ が完備であることが示された。$\square$

注意 14.25 (距離空間の可算個の直積の位相を定める距離)

上の証明で分かるように、各 $i\in\mathbb{N}$ に対して $(X_i, d_i)$ が距離空間であるとき、直積空間 $\prod_{i=1}^\infty X_i$ の位相を定める具体的な距離 $d$ としては、$p_i\colon X\to X_i$ を射影として $$ d(x, y)=\sum_{i=1}^\infty 2^{-i}\min\{1, d_i(p_i(x), p_i(y))\}\quad(x, y\in X) $$ というものが取れる。そして、すべての $i\in\mathbb{N}$ に対して $(X_i, d_i)$ が完備であれば、$(X, d)$ も完備となる。$\square$

次に、Urysohnの距離化定理を証明するための準備として、いくつかの命題を示しておく。

命題 14.26 (正則Lindelöf空間は正規)

$X$ を正則なLindelöf空間とする。このとき $X$ は正規空間である。

証明

$X$ を正則なLindelöf空間とする。まず $X$ は正則空間だから、とくに $T_1$ 空間である。$F,$ $H$ を $X$ の閉集合で $F\cap H=\emptyset$ を満たすものとする。このとき、$X$ の開集合 $U,$ $V$ で $F\subset U,$ $H\subset V,$ $U\cap V=\emptyset$ であるものを見つければよい。$X$ の正則性と命題 12.4により、各 $x\in F$ に対して、$x$ の開近傍 $U_x$ であって $\operatorname{Cl} U_x\subset X\setminus H$ となるものが選べる。また、同様に、各 $y\in H$ に対して、$y$ の開近傍 $V_y$ であって $\operatorname{Cl} V_y\subset X\setminus F$ となるものが選べる。いま、$\{U_x\,|\,x\in F\}$ は $F$ の $X$ における開被覆であるが、命題 14.3により $F$ はLindelöf空間であるから、命題 14.2により、$\{U_x\,|\,x\in F\}$ は高々可算な部分被覆をもつ。すなわち、$x_i\in F\,(i\in\mathbb{N})$ が存在して、$F\subset\bigcup_{i=1}^\infty U_{x_i}$ となる。同様に、$y_i\in H\,(i\in\mathbb{N})$ が存在して、$H\subset \bigcup_{i=1}^\infty V_{y_i}$ となる。以下では、簡単のために $U_{x_i}$ を $U_i$ と書き、$V_{y_i}$ を $V_i$ と書こう。さて、 $$ U=\bigcup_{i=1}^\infty \left(U_i\setminus \bigcup_{k=1}^i \operatorname{Cl} V_k\right),\quad V=\bigcup_{j=1}^\infty \left(V_j\setminus \bigcup_{k=1}^j \operatorname{Cl} U_k\right) $$ と定義する。すると $U,$ $V$ はそれぞれ $F,$ $H$ を含む $X$ の開集合である。$U\cap V=\emptyset$ を示すため、点 $p\in U\cap V$ が存在したとしよう。すると、$p\in U$ であることから、ある $i\in\mathbb{N}$ に対して $$ p\in U_i\setminus \bigcup_{k=1}^i \operatorname{Cl} V_k\quad(\star) $$ である。また、$p\in V$ であることから、ある $j\in\mathbb{N}$ に対して $$ p\in V_j\setminus \bigcup_{k=1}^j \operatorname{Cl} U_k\quad(\star\star) $$ である。もし $i\geq j$ であれば、$(\star)$ により $p\notin \operatorname{Cl} V_j$ であるから $p\notin V_j$ となり、$(\star\star)$ に反する。また、もし $i\leq j$ であれば、$(\star\star)$ により $p\notin \operatorname{Cl} U_i$ であるから $p\notin U_i$ となり、$(\star)$ に反する。以上で、$i\geq j,$ $i\leq j$ のどちらの場合も矛盾を生じたので、$U\cap V=\emptyset$ が結論される。これで証明が終わった。$\square$

命題 14.27 (直積空間への埋め込み)

$X$ を位相空間、$(Y_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ を位相空間の族とし、$Y=\prod_{\lambda\in\Lambda} Y_\lambda$ を直積空間とする。 各 $\lambda\in\Lambda$ に対して連続写像 $f_\lambda\colon X\to Y_\lambda$ が与えられているとき、連続写像 $f\colon X\to Y$ が $$ f(x)=(f_\lambda(x))_{\lambda\in\Lambda}\quad (x\in X) $$ によって定義されるが(注意 8.16)、このとき次の条件(1), (2)が同時に成り立つならば、$f$ は埋め込みである。

  • (1) 任意の異なる $x, x'\in X$ に対して、ある $\lambda\in\Lambda$ が存在して $f_\lambda(x)\neq f_\lambda(x')$ である。
  • (2) $X$ の任意の開集合 $U$ および $x\in U$ に対して、ある $\lambda\in\Lambda$ が存在して $f_\lambda(x)\notin \operatorname{Cl}_{Y_\lambda} f_\lambda(X\setminus U)$ である。

証明

各 $\lambda\in\Lambda$ に対して $p_\lambda\colon Y\to Y_\lambda$ を射影とする。すると、$p_\lambda\circ f=f_\lambda$ が成立する。

まず、$f\colon X\to Y$ が単射であることを示すため、$x, x'\in X,$ $x\neq x'$ とする。条件(1)により、ある $\lambda\in\Lambda$ が存在して、$f_\lambda(x)\neq f_\lambda(x')$ である。このことは $p_\lambda(f(x))\neq p_\lambda(f(x'))$ を意味するから、$f(x)\neq f(x')$ でなければならない。よって、$f$ は単射である。

$f$ の終域を $f(X)$ に取り換えて得られる連続全単射 $\hat{f}\colon X\to f(X)$ を考える。$f$ が埋め込みであることを示すには、この $\hat{f}$ が同相写像であることを示せばよく、そのためには命題 5.27により、$\hat{f}$ が開写像であることを示せばよい。 そこで、$U\subset X$ を開集合とする。このとき、$\hat{f}(U)=f(U)$ が $f(X)$ の開集合であることを示そう。そこで、$y\in f(U)$ を任意に与える。このとき $f(U)$ の開集合 $W$ で $y\in W\subset f(U)$ となるものを見つければよい。まず、ある $x\in U$ が存在して $y=f(x)$ である。このとき、条件(2)により、ある $\lambda\in\Lambda$ が存在して $$ p_\lambda(y)=p_\lambda(f(x))=f_\lambda(x)\notin \operatorname{Cl}_{Y_\lambda} f_\lambda(X\setminus U) $$ である。そこで、$V=Y_\lambda\setminus\operatorname{Cl} f_\lambda(X\setminus U)$ とおけば、$V$ は $Y_\lambda$ の開集合で、$p_\lambda(y)\in V$ である。$W=f(X)\cap p_\lambda^{-1}(V)$ とおけば $W$ は $f(X)$ の開集合であり、$y\in W$ である。さらに、$W\subset f(U)$ であることを示そう。そのため $y'\in W$ を任意に与える。$W\subset f(X)$ なので $y'\in f(X)$ であり、よってある $x'\in X$ に対して $f(x')=y'$ である。また、$W\subset p_\lambda^{-1}(V)$ なので $y'\in p_\lambda^{-1}(V)$ すなわち $p_\lambda(y')\in V$ であるが、いま $p_\lambda(y')=p_\lambda(f(x'))=f_\lambda(x')$ なので、$f_\lambda(x')\in V$ である。ところが、$V=Y_\lambda\setminus\operatorname{Cl} f_\lambda(X\setminus U)$ であったから、$f_\lambda(x')\notin f_\lambda(X\setminus U)$ である。よって、$x'\in X\setminus U$ ではあり得ず、したがって $x'\in U$ であるから、$y'=f(x')\in f(U)$ であることが分かった。これで、$W\subset f(U)$ であることが示された。これで、$f(U)$ が開集合であることが示され、$\hat{f}\colon X\to f(X)$ が開写像であることが分かったので、$f\colon X\to Y$ が埋め込みであることが証明された。$\square$

定理 14.28 (Urysohnの距離化定理)

第二可算な正則空間は距離化可能である。

証明

$X$ を第二可算な正則空間とする。以下では、$X$ からある距離化可能な空間 $Y$ への埋め込み $f\colon X\to Y$ を構成する。これができれば、$X$ は距離化可能な空間 $Y$ の部分空間 $f(X)$ と同相となる。$Y$ の位相を定める距離 $d$ を一つ取れば、$d$ の $f(X)$ への制限により $f(X)$ は距離化可能であるから、それと同相な $X$ も距離化可能と分かって証明が終わる。

最初に $X$ は正規空間となることを示しておこう。$X$ は第二可算であるから、命題 14.4により $X$ はLindelöf空間である。さらに、$X$ は正則空間としていたので、命題 14.26により $X$ は正規空間である。

さて、$X$ は第二可算であるから、$X$ の高々可算な開基 $\mathcal{B}$ が存在する。$\mathcal{B}\times\mathcal{B}$ の次のような部分集合 $\Lambda$ を考える。 $$ \Lambda=\{(B, B')\in\mathcal{B}\times\mathcal{B}\,|\,\operatorname{Cl} B'\subset B\} $$ すると $\Lambda$ は高々可算集合である。$X$ は正規空間であるから、各 $(B, B')\in\Lambda$ に対して、Urysohnの補題(定理 12.15)により、連続関数 $f_{(B, B')}\colon X\to [0,1]$ であって $x\in\operatorname{Cl} B'$ のときは $f_{(B, B')}(x)=1$ であり $x\in X\setminus B$ のときは $f_{(B, B')}(x)=0$ となるようなものが存在する。さて、各 $(B, B')\in\Lambda$ に対して $Y_{(B, B')}=[0,1]$ とおき、直積空間 $$ Y=\prod_{(B, B')\in\Lambda} Y_{(B, B')} $$ を考える。$Y_{(B, B')}=[0,1]$ は距離化可能であり、$\Lambda$ は高々可算集合であるから、$Y$ は定理 14.24により距離化可能な空間である。さらに、連続写像 $f\colon X\to Y$ を $$ f(x)=(f_{(B,B')}(x))_{(B,B')\in\Lambda}\quad(x\in X) $$ により定義できる(注意 8.16)。

このとき $f\colon X\to Y$ が埋め込みであることを、命題 14.27を用いて示そう。まず命題 14.27の条件(1)を示すため、$x, x'\in X,$ $x\neq x'$ とする。$X$ は正則空間、とくに $T_1$ 空間であるから、$x\in U$ かつ $x'\notin U$ となるような開集合 $U$ が存在する。$\mathcal{B}$ は $X$ の開基であるから、ある $B\in\mathcal{B}$ が存在して、$x\in B\subset U$ となる。さらに、$X$ は正則空間であるから、命題 12.4により、$x$ の開近傍 $V$ が存在して $\operatorname{Cl} V\subset B$ となる。$\mathcal{B}$ は $X$ の開基であるから、ある $B'\in\mathcal{B}$ が存在して、$x\in B'\subset V$ となる。すると $\operatorname{Cl} B'\subset\operatorname{Cl} V\subset B$ であるから、$(B, B')\in\Lambda$ である。よって、$f_{(B, B')}\colon X\to [0,1]$ が定義されるが、このとき $x\in B'\subset\operatorname{Cl} B'$ および $x'\in X\setminus U\subset X\setminus B$ であることから $f_{(B',B)}(x)=1,$ $f_{(B',B)}(x')=0$ である。したがって、$f_{(B,B')}(x)\neq f_{(B,B')}(x')$ である。これで、条件(1)は示された。

次に、命題 14.27の条件(2)を示す。そのため、$U$ を $X$ の開集合とし、$x\in U$ とする。さきほどの全く同様の議論により、$B, B'\in\mathcal{B}$ を $x\in B'$ および $\operatorname{Cl} B'\subset B\subset U$ を満たすように取ることができる。すると $(B, B')\in\Lambda$ であるから $f_{(B,B')}$ を考えることができるが、いま $X\setminus U\subset X\setminus B$ であることにより $f_{(B,B')}(X\setminus U)\subset\{0\}$ である。$\{0\}$ は $Y_{(B,B')}=[0,1]$ の閉集合であるから、$\operatorname{Cl} f_{(B,B')}(X\setminus U)\subset\{0\}$ である。一方、$x\in B'\subset\operatorname{Cl} B'$ であるので、$f_{(B,B')}(x)=1$ である。よって、$f_{(B, B')}(x)\notin \operatorname{Cl} f_{(B,B')}(X\setminus U)$ である。これで、条件(2)も示された。

以上で、命題 14.27により $f\colon X\to Y$ は埋め込みであることが分かった。$Y$ は距離化可能であったから、最初に注意したことにより $X$ が距離化可能であることが分かり、証明が終わった。$\square$

注意 14.29 (Hilbert 立方体への埋め込み)

単位閉区間 $[0,1]$ を可算無限個直積したもの $[0,1]^\mathbb{N}$ をHilbert立方体(Hilbert cube)という。つまり、Hilbert立方体とは、各 $i\in\mathbb{N}$ に対して $Y_i=[0,1]$ としたときの直積空間 $\prod_{i\in\mathbb{N}} Y_i$ のことである。 定理 14.28の証明における $Y=\prod_{(B, B')\in\Lambda} Y_{(B, B')}$ は、単位閉区間を高々可算個直積して得られる空間である。したがって、定理 14.28の証明から、任意の第二可算な正則空間 $X$ は Hilbert立方体に埋め込めるということが分かる。$\square$

Hilbert立方体はコンパクトな空間となる。第16章で示される「コンパクト空間の任意の個数の直積空間はコンパクトである」という強力な結果(Tychonoffの定理)を用いれば、これは直ちに分かることであるが、ここでは可算個のコンパクト距離空間の直積がコンパクトとなることを、定理 14.20を利用して示しておく。もちろん、この事実だけでもHilbert立方体のコンパクト性を示すには十分である。

命題 14.30 (コンパクト距離空間の可算直積)

各 $i\in\mathbb{N}$ に対して $(X_i, d_i)$ をコンパクト距離空間とする。このとき、直積空間 $X=\prod_{i=1}^\infty X_i$ はコンパクトである。とくに、Hilbert立方体 $[0,1]^\mathbb{N}$ はコンパクトである。

証明

各 $i\in\mathbb{N}$ に対して $p_i\colon X\to X_i$ を射影とする。定理 14.24により、$X$ は距離化可能である。より詳しく、注意 14.25により、$X$ の位相を定める距離 $d$ として、次のものが取れる。 $$ d(x, y)=\sum_{i=1}^\infty 2^{-i}\min\{1, d_i(p_i(x), p_i(y))\}\quad(x, y\in X) $$ いま、$(X_i, d_i)$ はコンパクトであるから定理 14.20により $(X_i, d_i)$ は完備である。したがって、注意 14.25で述べたことから、$(X, d)$ も完備である。さて、定理 14.20により、$X$ がコンパクトであることを示すには、$(X, d)$ が全有界かつ完備であることを示せばよい。したがって、あとは $(X, d)$ が全有界であることを示せばよい。

そこで、$\varepsilon>0$ を任意に与える。$N\in\mathbb{N}$ を十分大きく取り、$2^{-N}<\varepsilon/2$ となるようにする。$i=1,\ldots,N$ に対して、定理 14.20により$(X_i, d_i)$ は全有界であるから、有限集合 $F_i\subset X_i$ が存在して $$ X_i=\bigcup_{a\in F_i} B_{d_i}(a, \varepsilon/2) $$ となる。各 $i>N$ に対して点 $*_i\in X_i$ を(何でもよいので)選んでおき、集合 $F\subset X$ を $$ F=\{x\in X\,|\,i\leq N\text{ のときは }p_i(x)\in F_i,\;i>N\text{ のときは }p_i(x)=*_i\} $$ で定めれば $F$ は有限集合である。このとき $\bigcup_{a\in F} B_d(a, \varepsilon)=X$ となることを示そう。そのため $x\in X$ を任意に与える。 各 $i\leq N$ に対して、$a_i\in F_i$ を $d_i(p_i(x), a_i)<\varepsilon/2$ となるように取れる。そこで、$a\in F$ を $$ p_i(a)= \begin{cases} a_i & i\leq N\text{ のとき}\\ {*}_i & i>N\text{ のとき} \end{cases} $$ により定義しよう。このとき、 $$ \begin{aligned} d(x, a)&=\sum_{i=1}^\infty 2^{-i}\min\{1, d_i(p_i(x), p_i(a))\\ &=\sum_{i=1}^N 2^{-i}\min\{1, d_i(p_i(x), a_i)\}+\sum_{i=N+1}^\infty 2^{-i}\min\{1, d_i(p_i(x), *_i)\}\\ &<\sum_{i=1}^N 2^{-i}\cdot\varepsilon/2+2^{-N}\\ &<\varepsilon/2+\varepsilon/2=\varepsilon \end{aligned} $$ となる。これで $x\in B_d(a, \varepsilon)$ が示され、よって $\bigcup_{a\in A} B_d(a, \varepsilon)=X$ であることが分かった。これで、$(X, d)$ は全有界であることが分かり、証明が終わった。$\square$

位相空間 $X$ が全有界に距離化可能であるとは、$X$ の位相を定めるような $X$ 上の距離 $d$ であって $(X, d)$ が全有界となるようなものが存在することをいう。

系 14.31 (可分な距離化可能空間であることの同値条件)

$X$ を位相空間とするとき、次は同値である。

  • (1) $X$ は第二可算な正則空間である。
  • (2) $X$ は第二可算な距離化可能空間である。
  • (3) $X$ は可分な距離化可能空間である。
  • (4) $X$ はLindelöf空間かつ距離化可能空間である。
  • (5) $X$ はHilbert立方体 $[0,1]^\mathbb{N}$ への埋め込みをもつ。
  • (6) $X$ はあるコンパクトな距離化可能空間への埋め込みをもつ。
  • (7) $X$ は全有界に距離化可能である。

証明

(1)$\Rightarrow$(2)は定理 14.28から分かる。(2)$\Rightarrow$(1)は、距離空間は正規空間であり(命題 12.12)、したがって正則空間となることから分かる。また、(2), (3), (4) の同値性は定理 14.5から分かる。(1)$\Rightarrow$(5)は、すでに注意 14.29で見た通りである。(5)$\Rightarrow$(6) は、命題 14.30定理 14.24から分かる。

(6)$\Rightarrow$(2)を示す。あるコンパクトな距離化可能空間 $Y$ に対して、埋め込み $f\colon X\to Y$ が存在すると仮定する。このとき $Y$ は系 14.6により第二可算であるから、命題 6.11により、その部分空間 $f(X)$ は第二可算である。また、$Y$ の位相を定める距離 $d$ を一つ取り、$d$ を $f(X)$ に制限すればそれは $f(X)$ の位相を定める距離となるから、$f(X)$ は距離化可能である。したがって、$f(X)$ は第二可算かつ距離化可能であるから、それと同相な $X$ も第二可算かつ距離化可能である。

(6)$\Rightarrow$(7)を示す。あるコンパクトな距離化可能空間 $Y$ に対して、埋め込み $f\colon X\to Y$ が存在すると仮定する。$Y$ の位相を定める距離 $d$ を一つ選ぼう。すると、定理 14.20により、$(Y, d)$ は全有界である。したがって、$d$ の $f(X)$ への制限を $d_{f(X)}$ と書くとき、$(f(X), d_{f(X)})$ は命題 14.13により全有界である。ところが、$f$ の終域を $f(X)$ に制限した写像 $\hat{f}\colon X\to f(X)$ は同相写像であるから、$X$ 上の距離 $d_X$ を $d_X(x, x')=d_{f(X)}(f(x), f(x'))\,(x, x'\in X)$ により定義すれば、$d_X$ は $X$ の位相を定める距離となっている。しかも、$\hat{f}$ は $(X, d_X)$ から $(f(X), d_{f(X)})$ への等長写像を与えるから、$(X, d_X)$ も全有界となる。よって、$X$ は全有界に距離化可能である。

(7)$\Rightarrow$(2)は系 14.22から分かる。

以上で、(1)-(7) の同値性が証明された。$\square$


位相空間論15:局所コンパクト空間

Euclid空間 $\mathbb{R}^n$ はコンパクトではないが、その各点は閉円板というコンパクトな近傍をもつ。このように、どの点もコンパクトな近傍をもつというEuclid空間の性質を抽出して、局所コンパクト空間の概念が得られる。局所コンパクトHausdorff空間には様々な良い性質がある。たとえば完備距離空間と同じようにBaireのカテゴリー定理が成り立ち、また一点コンパクト化という方法で一点を付加してコンパクトHausdorff空間を得ることができる。


定義 15.1 (局所コンパクト空間)

位相空間 $X$ が局所コンパクト(locally compact)であるとは、任意の $x\in X$ に対して、$x$ の $X$ における近傍であってコンパクトなものが存在することをいう。

例 15.2 (局所コンパクト空間と、そうでない空間の例)

Euclid空間 $\mathbb{R}^n$ は局所コンパクトである。実際、任意の $x\in\mathbb{R}^n$ に対して、$x$ を中心とする半径が $1$ の閉球体 $\overline{B}(x, 1)$ は $x$ のコンパクトな近傍となるからである。より一般に、$\mathbb{R}^n$ の任意の開集合 $U$ も局所コンパクトである。実際、$x\in U$ とすると、十分小さい $\varepsilon>0$ を取れば $\overline{B}(x,\varepsilon)$ は $U$ に含まれるが、この $\overline{B}(x, \varepsilon)$ は $x$ の $U$ におけるコンパクトな近傍を与えるからである。

局所コンパクトでない空間の例としては、例えば有理数全体の集合 $\mathbb{Q}$ に、$\mathbb{R}$ からの相対位相を入れたものが挙げられる。$\mathbb{Q}$ が局所コンパクトでないことを示すため、$0$ が $\mathbb{Q}$ においてコンパクトな近傍をもたないことを示そう。そこで、$C$ が $0$ の $\mathbb{Q}$ におけるコンパクトな近傍であったとして矛盾を導く。$C$ は $0$ の $\mathbb{Q}$ における近傍であるから、$r>0$ が存在して、$(-r, r)\cap\mathbb{Q}\subset C$ となる。無理数 $\alpha$ を、$\alpha\in (-r, r)$ となるように一つ取り固定する(たとえば、十分大きい $N\in\mathbb{N}$ に対して $\alpha=\sqrt{2}/N$ とおけばよい )。$\alpha$ の $\mathbb{R}$ における開近傍 $U$ を任意に与える。すると $U\cap (-r, r)$ は $\alpha$ の $\mathbb{R}$ における開近傍であるから、$\mathbb{Q}$ の $\mathbb{R}$ における稠密性により $U\cap (-r,r)\cap\mathbb{Q}\neq\emptyset$ であり、したがって $U\cap C\neq\emptyset$ である。$U$ は $\alpha$ の $\mathbb{R}$ における任意の開近傍であったから、$\alpha\in\operatorname{Cl}_\mathbb{R} C$ である。いま $C$ はHausdorff空間 $\mathbb{R}$ のコンパクト集合であるから、定理 11.11により、$C$ は $\mathbb{R}$ の閉集合である。よって、$\operatorname{Cl}_\mathbb{R} C=C$ であるので、$\alpha\in C$ である。ところが $C\subset\mathbb{Q}$ であるから、これは $\alpha$ が無理数であったことに反する。これで、$\mathbb{Q}$ が局所コンパクトでないことが示された。$\square$


定理 15.3 (Hausdorff空間が局所コンパクトであることの同値な条件)

$X$ をHausdorff空間とするとき、次は同値である。

  • (1) $X$ は局所コンパクトである。
  • (2) 任意の $x\in X$ と $x$ の $X$ における任意の開近傍 $U$ に対して、$x$ の $X$ における開近傍 $V$ であって $\operatorname{Cl}_X V\subset U$ かつ $\operatorname{Cl}_X V$ がコンパクトであるようなものが存在する。

証明

(2)$\Rightarrow$(1) を示す。(2) を仮定して、$x\in X$ とする。$x$ のコンパクトな近傍が存在することを示そう。いま、$X$ は $x$ の開近傍なので、(2)により $x$ の開近傍 $V$ であって $\operatorname{Cl}_X V$ がコンパクトとなるものが存在する。このとき、$\operatorname{Cl}_X V$ は $x$ のコンパクトな近傍である。

(1)$\Rightarrow$(2) を示す。$X$ を局所コンパクトHausdorff空間とし、$x\in X$ として $U$ を $x$ の $X$ における開近傍とする。このとき、$x$ の $X$ における開近傍 $V$ であって $\operatorname{Cl}_X V\subset U$ かつ $\operatorname{Cl}_X V$ がコンパクトとなるものが存在することを示せばよい。いま、$X$ は局所コンパクトなので、$x$ の $X$ におけるコンパクトな近傍 $K$ が存在する。$K$ は $x$ の $X$ における近傍なので、$X$ の開集合 $W$ であって $x\in W\subset K$ であるものが存在する。さて、いま $X$ はHausdorff空間であるから、その部分空間 $K$ もHausdorff空間であり、よって $K$ はコンパクトHausdorff空間である。したがって、定理 12.14により、$K$ は正規空間であり、とくに正則空間となる。$W\cap U$ は $X$ の開集合であって $K$ に含まれるから、$K$ の開集合である。よって、$W\cap U$ は $x$ の $K$ における開近傍となるので、$K$ の正則性と命題 12.4により、$x$ の $K$ における開近傍 $V$ であって、$\operatorname{Cl}_K V\subset W\cap U$ となるものが存在する。この $V$ が求める $x$ の $X$ における開近傍であることを示そう。

まず、$V$ は $K$ の開集合であるが、$V\subset W\subset K$ なので $V$ は $W$ の開集合でもある。しかし、$W$ は $X$ の開集合であったから、$V$ は $X$ の開集合となる。よって、$V$ は $x$ の $X$ における開近傍となっている。次に、$\operatorname{Cl}_K V$ はコンパクト空間 $K$ の閉集合なので命題 9.9によりコンパクトであるが、$X$ はHausdorff空間なので、定理 11.11により $\operatorname{Cl}_K V$ は $X$ の閉集合となる。このことと $V\subset \operatorname{Cl}_K V$ により、$\operatorname{Cl}_X V\subset \operatorname{Cl}_K V$ である。一方、命題 6.15により $\operatorname{Cl}_K V=K\cap \operatorname{Cl}_X V\subset\operatorname{Cl}_X V$ であるから、$\operatorname{Cl}_X V=\operatorname{Cl}_K V$ である。したがって、$\operatorname{Cl}_X V$ はコンパクト空間 $K$ の閉集合 $\operatorname{Cl}_K V$ に一致するからコンパクトとなり(命題 9.9)、しかも $\operatorname{Cl}_X V\subset W\cap U\subset U$ となる。これで、$V$ が求める $x$ の $X$ における開近傍であることが示された。$\square$

系 15.4 (局所コンパクトHausdorff空間は正則空間)

任意の局所コンパクトHausdorff空間は正則空間である。

証明

定理 15.3命題 12.5から直ちに分かる。$\square$

系 15.5 (局所コンパクトHausdorffであることは開集合・閉集合に継承される)

$X$ を局所コンパクトHausdorff空間とする。$A$ が $X$ の開集合あるいは閉集合であるならば、$A$ も局所コンパクトHausdorff空間である。

証明

$X$ はHausdorff空間なので、その部分空間である $A$ もHausdorff空間である。$A$ が局所コンパクトであることを示そう。

$A$ が閉集合であるとき、任意に $x\in A$ を与える。$X$ は局所コンパクトであるから、$x$ の $X$ におけるコンパクトな近傍 $K$ が存在する。このとき $K\cap A$ は $K$ の閉集合であるから、命題 9.9によりコンパクトである。しかも、$K\cap A$ は $x$ の $A$ における近傍である。よって、$K\cap A$ は $x$ の $A$ におけるコンパクトな近傍となるから、$A$ は局所コンパクトである。

次に、$A$ が開集合であるとして、任意に $x\in A$ を与える。すると、$A$ は $x$ の $X$ における開近傍であるから、$X$ が局所コンパクトHausdorff空間であることと定理 15.3により、$x$ の $X$ における開近傍 $V$ で $\operatorname{Cl}_X V$ はコンパクトで $\operatorname{Cl}_X V\subset A$ となるものが存在する。このとき $V=V\cap A$ だから $V$ は $x$ の $A$ における開近傍でもあり、よって $\operatorname{Cl}_X V$ は $x$ の $A$ におけるコンパクトな近傍である。したがって、$A$ は局所コンパクトである。$\square$

定義 15.6 (実数値連続関数の台)

$X$ を位相空間、$f\colon X\to\mathbb{R}$ を連続関数とする。このとき、 $$ \operatorname{supp} f=\operatorname{Cl}_X\{x\in X\,|\,f(x)\neq 0\} $$ とおき、$\operatorname{supp} f$ を $f$ の(support)と呼ぶ。定義から、$\operatorname{supp} f$ は $X$ の閉集合である。$\square$

定理 15.7 (局所コンパクトHausdorff空間におけるUrysohnの補題)

$X$ を局所コンパクトHausdorff空間、$K$ を $X$ のコンパクト集合、$U$ を $K\subset U$ であるような $X$ の開集合とする。このとき、 連続関数 $f\colon X\to [0,1]$ であって、$x\in K$ のとき $f(x)=1$ であり、しかも台 $\operatorname{supp} f$ が $U$ に含まれる コンパクト集合となるものが存在する。

証明

定理 15.3により、各 $x\in K$ に対して、$x$ の開近傍 $V_x$ であって $\operatorname{Cl} V_x$ がコンパクトで $\operatorname{Cl} V_x\subset U$ であるようなものが選べる。すると $\{V_x\,|\,x\in K\}$ は $K$ の $X$ における開被覆である。$K$ はコンパクトであるから、有限個の $x_1,\ldots, x_n\in K$ であって $K\subset\bigcup_{i=1}^n V_{x_i}$ となるものが存在する。$V=\bigcup_{i=1}^n V_i$ とおけば、$V$ は $X$ の開集合で $K\subset V$ である。しかも、$\operatorname{Cl} V=\bigcup_{i=1}^n \operatorname{Cl} V_{x_i}$ であり $\operatorname{Cl} V_{x_i}$ はコンパクトだから、命題 9.8により $\operatorname{Cl} V$ はコンパクトであり、しかも $\operatorname{Cl} V\subset U$ である。$X$ はHausdorff空間であるから、$\operatorname{Cl} V$ はコンパクトHausdorff空間であり、よって定理 12.14により $\operatorname{Cl} V$ は正規空間となる。

さて、$K$ はHausdorff空間 $X$ のコンパクト集合だから、定理 11.11により $X$ の閉集合であり、よって、$K$ は $\operatorname{Cl} V$ の閉集合でもある。また、$\operatorname{Cl} V\setminus V$ も $\operatorname{Cl} V$ の閉集合であり、$(\operatorname{Cl} V\setminus V)\cap K=\emptyset$ である。$\operatorname{Cl} V$ は正規空間であるから、Urysohnの補題(定理 12.15)により、連続関数 $g\colon \operatorname{Cl} V\to [0,1]$ であって、$x\in K$ のとき $g(x)=1$ であり、$x\in\operatorname{Cl} V\setminus V$ のとき $g(x)=0$ であるようなものが存在する。そこで、関数 $f\colon X\to [0,1]$ を次のように場合分けにより定義する。 $$ f(x)= \begin{cases} g(x) & x\in \operatorname{Cl} V\text{ のとき}\\ 0 & x\in X\setminus \operatorname{Cl} V\text{ のとき} \end{cases} $$ すると、制限 $f|_{\operatorname{Cl} V}$ は $g$ に一致するから連続であり、$f|_{X\setminus V}$ は $0$ を値とする定数関数だから連続である。$\operatorname{Cl} V,$ $X\setminus V$ は $X$ の閉集合で $\operatorname{Cl} V\cup(X\setminus V)=X$ を満たすから、命題 6.12により、$f$ は連続である。

あとは、この $f$ について $\operatorname{supp} f$ が $U$ に含まれるコンパクト集合であることを示せばよい。そこで、$W=\{x\in X\,|\,f(x)\neq 0\}$ とおく。このとき、$\operatorname{supp} f=\operatorname{Cl} W$ である。$f$ の定め方から、$W\subset V$ であるので、$\operatorname{supp} f\subset \operatorname{Cl} V$ である。いま、$\operatorname{Cl} V$ はコンパクトであり、$\operatorname{supp} f$ は $X$ の閉集合であるから、$\operatorname{supp} f$ はコンパクト空間 $\operatorname{Cl} V$ の閉集合となり、よって $\operatorname{supp} f$ は命題 9.9によりコンパクトとなる。さらに、$\operatorname{Cl} V\subset U$ であったから、$\operatorname{supp} f\subset U$ である。$\square$

定理 15.8 (局所コンパクトHausdorff空間におけるBaireのカテゴリー定理)

$X$ を局所コンパクトHausdorff空間とし、各 $n\in\mathbb{N}$ に対して $U_n$ が $X$ の稠密な開集合であるとする。このとき、$\bigcap_{n=1}^\infty U_n$ は $X$ の稠密な部分集合である。

証明

$x\in X$ とし、$V$ を $x$ の $X$ における開近傍とする。このとき、$V\cap\bigcap_{n=1}^\infty U_n\neq\emptyset$ であることを示せばよい。まず、$U_1$ が $X$ において稠密であることから、点 $x_1\in V\cap U_1$ が存在する。$X$ は局所コンパクトHausdorff空間なので、定理 15.3により、$x_1$ の開近傍 $V_1$ であって、$\operatorname{Cl} V_1$ がコンパクトで $\operatorname{Cl} V_1\subset V\cap U_1$ となるものが存在する。次に、$U_2$ が $X$ において稠密であることから、点 $x_2\in V_1\cap U_2$ が存在する。再び定理 15.3により、$x_2$ の開近傍 $V_2$ であって $\operatorname{Cl} V_2$ がコンパクトで $\operatorname{Cl} V_2\subset V_1\cap U_2$ となるものが存在する。$U_3$ が $X$ において稠密であることから、$x_3\in V_2\cap U_3$ が存在する。定理 15.3により、$x_3$ の開近傍 $V_3$ であって $\operatorname{Cl} V_3$ がコンパクトで $\operatorname{Cl} V_3\subset V_2\cap U_3$ であるものが存在する。この操作を繰り返して、$X$ の空でない開集合の列 $(V_n)_{n\in\mathbb{N}}$ を、各 $n\in\mathbb{N}$ に対して以下を満たすように取れる。

  • (1) $\operatorname{Cl} V_n$ はコンパクト
  • (2) $\operatorname{Cl} V_n\subset V_{n-1}\cap U_n$(ただし、$V_0=V$ とする)

すると、(1)(2)と定理 11.22により $\bigcap_{n=1}^\infty \operatorname{Cl} V_n\neq\emptyset$ である。そこで、点 $x\in \bigcap_{n=1}^\infty \operatorname{Cl} V_n$ を一つ取れば、(2)により $x\in V\cap\bigcap_{n=1}^\infty U_n$ であり、よって $V\cap\bigcap_{n=1}^\infty U_n\neq\emptyset$ である。これで、$\bigcap_{n=1}^\infty U_n$ が $X$ において稠密であることが示された。$\square$

次の二つの系は、完備距離空間についてのBaireのカテゴリー定理(定理 13.19)からその系(系 13.20および系 13.21)を導いたのと同様に導かれる。

系 15.9 (局所コンパクトHausdorff空間に対するBaire のカテゴリー定理の帰結)

$X$ を局所コンパクトHausdorff空間とし、$X\neq\emptyset$ とする。$(A_n)_{n=1}^\infty$ を $X$ の部分集合の列で $\bigcup_{n=1}^\infty A_n=X$ を満たすものとする。このとき、ある $n\in\mathbb{N}$ が存在して、$\operatorname{Int}\operatorname{Cl} A_n\neq\emptyset$ となる。$\square$

系 15.10 (局所コンパクトHausdorff空間と全疎集合)

空でない局所コンパクトHausdorff空間は、可算個の全疎集合の和集合に表すことができない。$\square$

次に、局所コンパクトHausdorff空間に一点を付加してコンパクトHausdorff空間を得る操作である一点コンパクト化について述べよう。

定義 15.11 (一点コンパクト化)

$X$ をコンパクトでない局所コンパクトHausdorff空間とする。このとき、$X$ に属していない一点 $\infty$ を考え、$X^+=X\cup\{\infty\}$ とおく。集合 $X^+$ の部分集合 $U$ が、次のどちらかを満たすとき、$U$ は $X^+$ の開集合であると定義しよう。

  • (1) $U$ は $X$ の開集合である。
  • (2) $\infty\in U$ であり、かつ、$X^+\setminus U$ はコンパクトである。

すると、次の命題で見るように開集合系の公理が満たされ、$X^+$ は $X$ を稠密な部分空間にもつコンパクトHausdorff空間となることが分かる。この $X^+$ を $X$ の一点コンパクト化(one-point compactification)という(なお、$X$ に属していない点 $\infty$ が実際に取れることについては注意 9.25を参照)。

命題 15.12 (一点コンパクト化の定義の正当化)

$X$ をコンパクトでない局所コンパクトHausdorff空間とするとき、上の定義のもとで、$X^+=X\cup\{\infty\}$ の開集合の全体は開集合系の公理を満たし、$X^+$ は位相空間となる。さらに、$X^+$ はコンパクトHausdorff空間となり、$X$ はその部分空間となる。また、$X$ は $X^+$ において稠密である。

証明

まず、空集合 $\emptyset$ は $X$ の開集合なので、$X^+$ の開集合である。$\infty\in X^+$ であって $X^+\setminus X^+=\emptyset$ はコンパクトだから、$X^+$ 自身も $X^+$ の開集合である。

次に、$U, V$ を $X^+$ の開集合とする。$U\cap V$ が $X^+$ の開集合であることを示そう。$U$ も $V$ も $X$ の開集合であれば、$U\cap V$ も $X$ の開集合であるから、$U\cap V$ は $X^+$ の開集合である。また、$U$ も $V$ も $\infty$ を要素にもち $X^+\setminus U,$ $X^+\setminus V$ がコンパクトであれば、$U\cap V$ も $\infty$ を要素にもち $X^+\setminus (U\cap V)=(X^+\setminus U)\cup(X^+\setminus V)$ はコンパクトであるから、$U\cap V$ は $X^+$ の開集合である。また、$U$ が $X$ の開集合で $\infty\in V$ であり $X^+\setminus V$ がコンパクトである場合は、$X$ がHausdorff空間であることにより $X^+\setminus V$ は $X$ の閉集合であるから、$X\setminus (X^+\setminus V)=X\cap V$ は $X$ の開集合であり、よって $U\cap V=(U\cap X)\cap V=U\cap(X\cap V)$ は $X$ の開集合であり、したがって $U\cap V$ は $X$ の開集合である。

さらに、$(U_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ を $X^+$ の開集合からなる族とする。このとき $U=\bigcup_{\lambda\in\Lambda} U_\lambda$ が $X^+$ の開集合であることを示そう。いま、$\Lambda=\Lambda_1\cup\Lambda_2,$ $\lambda_1\cap\Lambda_2=\emptyset$ と表し、$\lambda\in\Lambda_1$ のときは $U_\lambda$ は $X$ の開集合であり、$\lambda\in\Lambda_2$ のときは $\infty\in U_\lambda$ であって $X^+\setminus U_\lambda$ がコンパクトであるようにできる。このとき、 $$ U_1=\bigcup_{\lambda\in\Lambda_1} U_\lambda,\quad U_2=\bigcup_{\lambda\in\Lambda_2} U_\lambda $$ とおけば $U=U_1\cup U_2$ である。また、$U_1$ は $X$ の開集合である。もし、$\Lambda_2=\emptyset$ であれば、$U=U_1$ であるから、$U$ は $X$ の開集合であり、したがって $X^+$ の開集合であることが分かる。そこで、以下では $\Lambda_2\neq\emptyset$ であるとし、$\lambda_0\in\Lambda_2$ を一つ固定しておく。すると $\infty\in U_{\lambda_0}\subset U_2$ であり、 $$ X^+\setminus U_2=\bigcap_{\lambda\in\Lambda_2}(X^+\setminus U_\lambda)\quad(\star) $$ である。いま、任意の $\lambda\in\Lambda_2$ に対して $X^+\setminus U_\lambda$ はHausdorff空間 $X$ のコンパクト集合だから、$X$ の閉集合となる。したがって、$\bigcap_{\lambda\in\Lambda_2}(X^+\setminus U_\lambda)$ はコンパクト空間 $X^+\setminus U_{\lambda_0}$ の閉集合となるから、コンパクトとなる。よって、上の式 $(\star)$ により、$X^+\setminus U_2$ はコンパクトとなる。すると、$\infty\in U_1\cup U_2=U$ であり、$X^+\setminus U=(X\setminus U_1)\cap(X^+\setminus U_2)$ と書けるから $X^+\setminus U$ はコンパクト空間 $X^+\setminus U_2$ の閉集合としてコンパクトとなる。したがって、$U$ は $X$ の開集合である。以上で、$X^+$ の開集合の定義が開集合系の公理を満たすことが確かめられ、$X^+$ が位相空間となることが分かった。

$X$ が $X^+$ の部分空間となっていることを確かめよう。まず、$U$ を $X$ の開集合とすると、$U$ は $X^+$ の開集合でもあり $U=U\cap X$ であるから、$U$ は $X$ 上の $X^+$ からの相対位相についても開集合である。逆に、$U$ が $X$ 上の $X^+$ からの相対位相について開集合であると仮定すると、$X^+$ の開集合 $V$ が存在して、$U=V\cap X$ となる。$V$ が $X$ の開集合であれば、$U=V$ により $U$ も $X$ の開集合である。$\infty\in V$ であって $X^+\setminus V$ がコンパクトである場合は、$X$ がHausdorff空間であることにより $X^+\setminus V$ は $X$ の閉集合であり、よって $U=V\cap X=V\setminus\{\infty\}=X\setminus(X^+\setminus V)$ は $X$ の開集合である。これで、$X$ の位相は $X^+$ からの相対位相に一致することが分かり、$X$ が $X^+$ の部分空間であることが示された。

$X^+$ がHausdorff空間であることを示そう。$x, y\in X^+,$ $x\neq y$ とする。$x$ と $y$ の $X^+$ における開近傍であって交わりが空であるものを見つけたい。$x, y\in X$ である場合は、$X$ がHausdorff空間であることにより、$X$ の開集合 $U,$ $V$ であって $x\in U,$ $y\in V,$ $U\cap V=\emptyset$ となるものが存在する。このとき $U,$ $V$ は $X^+$ の開集合でもあるから、$U,$ $V$ は求める開近傍となる。$x\in X,$ $y=\infty$ である場合、$X$ が局所コンパクトであることから、$x$ の $X$ におけるコンパクト近傍 $K$ が存在する。このとき、$x$ の $X$ における開近傍 $U$ で $U\subset K$ となるものが存在し、このとき $U$ は $X^+$ の開集合でもある。また $V=X^+\setminus K$ とおけば $V$ は $X^+$ の開集合で $y=\infty\in V$ である。しかも、$U\cap V=\emptyset$ である。これで、$X^+$ がHausdorff空間であることが示された。

次に、$X^+$ がコンパクトであることを示そう。そのため、$\mathcal{U}=\{U_\lambda\,|\,\lambda\in\Lambda\}$ を $X^+$ の開被覆とする。すると、$\Lambda=\Lambda_1\cup\Lambda_2,$ $\Lambda_1\cap\Lambda_2=\emptyset$ と表し、$\lambda\in\Lambda_1$ のときは $U_\lambda$ は $X$ の開集合であり $\lambda\in\Lambda_2$ のときは $\infty\in U_\lambda$ で $X^+\setminus U_\lambda$ がコンパクトであるようにできる。$\mathcal{U}$ が $X^+$ の開被覆であることから、ある $\lambda\in\Lambda$ に対して $\infty\in U_\lambda$ である。したがって $\Lambda_2\neq\emptyset$ でなければならない。そこで、$\lambda_0\in\Lambda_2$ を一つ固定する。このとき、$K=X^+\setminus U_{\lambda_0}$ とおくと $K$ は $X$ のコンパクト集合であり、よって $K$ は $X^+$ のコンパクト集合である。$\mathcal{U}$ は $K$ の $X^+$ における開被覆であるから、有限個の $\lambda_1,\ldots,\lambda_n\in\Lambda$ が存在して $K\subset\bigcup_{i=1}^n U_{\lambda_i}$ となる。よって、$X^+=U_{\lambda_0}\cup\bigcup_{i=1}^n U_{\lambda_i}$ である。これで、$X^+$ がコンパクトであることが示された。

最後に、$X$ が $X^+$ において稠密であることを示そう。そのためには、$\infty\in\operatorname{Cl}_{X^+} X$ であることさえ示せばよい。 そのため、$\infty$ の $X^+$ における開近傍 $U$ を任意に与える。すると $X^+\setminus U$ はコンパクトであるが、$X$ はコンパクトではないとしていたので $X^+\setminus U\neq X$ である。これは $U\cap X\neq\emptyset$ を意味する。これで $\infty\in\operatorname{Cl}_{X^+} X$ であることが示された。$\square$

命題 15.13 (一点コンパクト化との同相写像)

$X$ をコンパクトでない局所コンパクトHausdorff空間、$Y$ をコンパクトHausdorff空間とし、$y_0\in Y$ とする。$h\colon X\to Y\setminus\{y_0\}$ が同相写像であるとき、$\tilde{h}\colon X^+\to Y$ を $\tilde{h}|_X=h$ および $\tilde{h}(\infty)=y_0$ で定めれば、$\tilde{h}$ も同相写像となる。

証明

$\tilde{h}\colon X^+\to Y$ は明らかに全単射である。もし、$\tilde{h}$ が連続であることが示されれば、$X^+$ がコンパクトで $Y$ がHausdorff空間であることにより、 系 11.14により $\tilde{h}$ は同相写像であると分かる。そこで、以下では $\tilde{h}$ の連続性を示そう。そのため、$Y$ の開集合 $V$ を任意に与える。$y_0\notin Y$ であれば、$\tilde{h}^{-1}(V)=h^{-1}(V)$ であり $h^{-1}(V)$ は $h$ の連続性により $X$ の開集合であるから、$\tilde{h}^{-1}(V)$ は $X$ の開集合であり、したがって $X^+$ の開集合である。$y_0\in Y$ であれば、$\infty\in\tilde{h}^{-1}(V)$ であり、$X^+\setminus\tilde{h}^{-1}(V)=X\setminus h^{-1}(V)=h^{-1}(Y\setminus V)$ となる。$Y\setminus V$ はコンパクト空間 $Y$ の閉集合としてコンパクトとなり、$h^{-1}$ は連続であるから、$h^{-1}(Y\setminus V)$ はコンパクトである。よって、$X^+\setminus\tilde{h}^{-1}(V)$ はコンパクトである。よって、$\tilde{h}^{-1}(V)$ は $X^+$ の開集合である。以上で、$\tilde{h}$ が連続であることが示された。$\square$

例 15.14 ($n$ 次元Euclid空間の一点コンパクト化は $n$ 次元球面と同相)

$n$ 次元単位球面 $$ S^n=\{(x_1,\ldots, x_{n+1})\in\mathbb{R}^{n+1}\,|\,x_1^2+\cdots+x_{n+1}^2=1\} $$ の「北極」に当たる点 $p_0=(0,\ldots,0,1)\in S^n$ を考える。$\mathbb{R}^n$ の点 $(x_1,\ldots, x_n)$ を $\mathbb{R}^{n+1}$ の点 $(x_1,\ldots, x_n,0)$ と同一視することで $\mathbb{R}^n\subset\mathbb{R}^{n+1}$ であると見なそう。各 $x\in\mathbb{R}^n$ に対して、$x$ と $p_0$ を通る $\mathbb{R}^{n+1}$ 内の直線は、$S^n$ とただ一つの点で交わる。その交点を $h(x)$ とおくと、全単射 $h\colon \mathbb{R}^n\to S^n\setminus\{p_0\}$ が得られる。実際に $h$ を式で表せば、$x=(x_1,\ldots, x_n)\in\mathbb{R}^n$ に対して $\|x\|=\sqrt{x_1^2+\cdots+x_n^2}$ とするとき $$ h(x)=\left(\dfrac{2}{\|x\|^2+1}x, \dfrac{\|x\|^2-1}{\|x\|^2+1}\right) $$ となり、$h$ は連続と分かる。また、逆写像 $h^{-1}\colon S^n\setminus\{p_0\}\to\mathbb{R}^n$ は $$ h^{-1}(y_1,\ldots,y_{n+1})=\left(\dfrac{y_1}{1-y_{n+1}},\ldots,\dfrac{y_n}{1-y_{n+1}}\right) $$ で与えられ、$h^{-1}$ も連続と分かる。以上により、$h\colon\mathbb{R}^n\to S^n\setminus\{p_0\}$ は同相写像である。 よって、命題 15.13により、$\tilde{h}\colon(\mathbb{R}^n)^+\to S^n$ を $\tilde{h}|_{\mathbb{R}^n}=h$ および $\tilde{h}(\infty)=p_0$ で定めれば $\tilde{h}$ は同相写像である。したがって、Euclid空間 $\mathbb{R}^n$ の一点コンパクト化 $(\mathbb{R}^n)^+$ は $n$ 次元球面 $S^n$ と同相である。

なお、上で得られた同相写像 $h^{-1}\colon S^n\setminus\{p_0\}\to\mathbb{R}^n$ は立体射影(stereographic projection)の名で知られている。$\square$

命題 15.15 (Hausdorff空間の局所コンパクト部分集合はその閉包の中で開集合)

$X$ をHausdorff空間とし、$Y\subset X$ とする。$Y$ が $X$ からの相対位相について局所コンパクトであるならば、$Y$ は $\operatorname{Cl}_X Y$ の開集合である。

証明

最初に、$X=\operatorname{Cl}_X Y$ である場合、つまり $Y$ が $X$ において稠密である場合に証明する。 このときは、$Y$ が $X$ の開集合であることを示せばよい。そこで、$y\in Y$ を任意に与える。$y$ の $X$ における開近傍 $V$ であって $V\subset Y$ となるものが存在することを示せばよい。$X$ はHausdorff空間であるから、その部分空間 $Y$ もHausdorff空間であり、よって $Y$ は局所コンパクトHausdorff空間である。したがって、定理 15.3により、$y$ の $Y$ における開近傍 $U$ であって $\operatorname{Cl}_Y U$ がコンパクトであるようなものが存在する。$X$ における開集合 $V$ を、$U=V\cap Y$ となるように取る。すると、$V$ は $y$ の $X$ における開近傍である。このとき、 $$ \operatorname{Cl}_Y U=\operatorname{Cl}_X U\qquad(\star) $$ となることを証明しよう。まず、$\operatorname{Cl}_Y U=Y\cap \operatorname{Cl}_X U\subset\operatorname{Cl}_X U$ であるから、$\operatorname{Cl}_Y U\subset\operatorname{Cl}_X U$ である。他方、$\operatorname{Cl}_Y U$ はHausdorff空間 $X$ のコンパクト集合だから、定理 11.11により、$X$ の閉集合である。このことと $U\subset\operatorname{Cl}_Y U$ により、$\operatorname{Cl}_X U\subset\operatorname{Cl}_Y U$ である。以上で、$(\star)$ が証明された。次に、 $$ \operatorname{Cl}_X U=\operatorname{Cl}_X V\qquad(\star\star) $$ となることを証明しよう。まず、$U=V\cap Y\subset V$ であるから、$\operatorname{Cl}_X U\subset\operatorname{Cl}_X V$ である。逆の包含を示すため、$x\in\operatorname{Cl}_X V$ とする。$x$ の $X$ における開近傍 $W$ を任意に与えると、$W\cap V\neq\emptyset$ である。よって、$Y$ が $X$ において稠密であることと命題 4.11により、$W\cap U=W\cap V\cap Y\neq\emptyset$ である。$W$ は $x$ の $X$ における任意の開近傍であったから、これで $x\in\operatorname{Cl}_X U$ が示された。これで、$(\star\star)$ が証明された。$(\star)$ と $(\star\star)$ により、 $$ \operatorname{Cl}_Y U=\operatorname{Cl}_X V $$ である。この式から、$V\subset\operatorname{Cl}_X V=\operatorname{Cl}_Y U\subset Y$ となり、$V\subset Y$ である。$V$ は $y$ の $X$ における開近傍であるから、これで $Y$ が $X$ の開集合であることが示された。

次に、$Y$ が $X$ において稠密とは限らない一般の場合について証明する。このときは、$Z=\operatorname{Cl}_X Y$ とおけば、 $$ \operatorname{Cl}_Z Y=Z\cap \operatorname{Cl}_X Y=Z $$ であるから $Y$ は $Z$ において稠密である。しかも、$Z$ は $X$ の部分空間であるからHausdorff空間である。したがって、すでに示した場合から、$Y$ は $Z$ の開集合である。すなわち、$Y$ は $\operatorname{Cl}_X Y$ の開集合である。$\square$

命題 15.16 (局所コンパクトHausdorff空間の部分集合が局所コンパクトであるための条件)

$X$ を局所コンパクトHausdorff空間とし、$Y$ を $X$ の部分集合とするとき、次は同値である。

  • (1) $Y$ は $X$ からの相対位相について局所コンパクトである。
  • (2) $X$ の開集合 $U$ と $X$ の閉集合 $F$ が存在して $Y=U\cap F$ と表される。

証明

(1)$\Rightarrow$(2) を示す。(1) を仮定すると、命題 15.15により $F=\operatorname{Cl}_X Y$ とおくと $Y$ は $F$ の開集合である。すなわち、$X$ のある開集合 $U$ に対して $Y=U\cap F$ となる。$F$ は $X$ の閉集合であるから、(2)が成り立つことが示された。

(2)$\Rightarrow$(1) を示す。(2) のように $Y=U\cap F$ と表されたとしよう。$F$ は $X$ の閉集合なので、系 15.5から $U$ は($X$ からの相対位相について)局所コンパクトHausdorff空間である。$Y=U\cap F$ は $F$ の開集合だから、再び系 15.5から $Y$ は局所コンパクトHausdorff空間となる。$\square$

最後に、局所コンパクト性が重要となる例として、直積空間と商写像との関係について述べる。

定義 15.16 (連続写像の直積)

$f\colon X\to X'$ および $g\colon Y\to Y'$ を連続写像とする。このとき写像 $f\times g \colon X\times Y\to X'\times Y'$ を $$ (f\times g)(x, y)=(f(x), g(y))\quad (x\in X,\, y\in Y) $$ により定義すると、$f\times g$ は連続となる。実際、$p_X\colon X\times Y\to X$ と $p_Y\colon X\times Y\to Y$ を射影とすると、$f\times g$ の定義は $$ (f\times g)(u)=(f\circ p_X(u), g\circ p_Y(u))\quad (u\in X\times Y) $$ と書くことができ、$f\circ p_X,$ $g\circ p_Y$ は連続だから、注意 8.6を用いて、$f\times g$ は連続となることが分かる。$f\times g$ を $f$ と $g$ の直積という。

命題 15.17 (直積空間の開集合とコンパクト集合)

$X, Y$ を位相空間とし、$U$ を直積空間 $X\times Y$ の開集合とする。$K$ が $X$ のコンパクト集合であるとき、 $$ V=\{y\in Y\,|\,K\times\{y\}\subset U\} $$ は $Y$ の開集合である。

証明

$F=(K\times Y)\setminus U$ とおくと、$F$ は $K\times Y$ の閉集合である。$p\colon K\times Y\to Y$ を射影とすると、命題 9.23により $p$ は閉写像である。よって、$p(F)$ は $Y$ の閉集合であるが、$y\in Y$ に対する同値性 $$ \begin{aligned} y\in p(F) &\iff \text{ある }x\in K{ に対して }(x,y)\in F\\ &\iff \text{ある }x\in K{ に対して }(x,y)\notin U\\ &\iff K\times\{y\}\not\subset U\\ &\iff y\notin V \end{aligned} $$ により $V=Y\setminus p(F)$ であるから、$V$ は $Y$ の開集合である。$\square$

定理 15.18 (局所コンパクトHausdorff空間との直積と商写像)

$X$ を局所コンパクトHausdorff空間、$Y, Z$ を位相空間とし、$f\colon Y\to Z$ を商写像とする。このとき、直積 $\operatorname{id}_X\times f\colon X\times Y\to X\times Z$ は商写像である。

証明

記号を簡単にするため $F=\operatorname{id}_X\times f$ とおく。$f$ は商写像なので全射であるから、$F$ も全射である。$W\subset X\times Z$ とし、$F^{-1}(W)$ が $X\times Y$ の開集合であるとする。このとき $W$ が $X\times Z$ の開集合であることを示せば、命題 7.9によって $F$ が商写像であることが示され証明が終わる。

そこで、$(x_0, z_0)\in W$ を任意に与える。$f$ は全射であるから、$y_0\in Y$ であって $f(y_0)=z_0$ となるものが存在する。すると $F(x_0,y_0)=(\operatorname{id}_X\times f)(x_0, y_0)=(x_0, f(y_0))=(x_0, z_0)\in W$ なので、$(x_0, y_0)\in F^{-1}(W)$ である。$F^{-1}(W)$ は $X\times Y$ の開集合であるから、$x_0$ の $X$ における開近傍 $U_0$ と $y_0$ の $Y$ における開近傍 $V_0$ であって $U_0\times V_0\subset F^{-1}(W)$ となるものが存在する。さらに、$X$ は局所コンパクトHausdorff空間であるから、定理 15.3により、$x_0$ の $X$ における開近傍 $U$ であって、$\operatorname{Cl} U$ がコンパクトであって $\operatorname{Cl} U\subset U_0$ となるものが存在する。すると、$\operatorname{Cl} U\times\{y_0\}\subset U_0\times V_0\subset F^{-1}(W)$ である。命題 15.17により、 $$ V=\{y\in Y\,|\,\operatorname{Cl} U\times\{y\}\subset F^{-1}(W)\} $$ は $Y$ の開集合である。しかも、$y_0 \in V$ であるから、$z_0=f(y_0)\in f(V)$ であり、よって $$ (x_0, z_0)\in U\times f(V)\subset\operatorname{Cl} U\times f(V)=(\operatorname{id}_X\times f)(\operatorname{Cl} U\times V)=F(\operatorname{Cl} U\times V)\subset W $$ である。あとは、$f(V)$ が $Z$ の開集合であることを示せばよい。そのためには $V=f^{-1}(f(V))$ を示せばよい。実際、これが言えれば $f^{-1}(f(V))$ は $Y$ の開集合であるから、$f\colon Y\to Z$ が商写像であったことと命題 7.9により $f(V)$ は $Z$ の開集合となる。$V\subset f^{-1}(f(V))$ は明らかである。逆の包含を示すため、$y\in f^{-1}(f(V))$ としよう。すると、$f(y)\in f(V)$ であるから、$y'\in V$ であって $f(y')=f(y)$ となるものが存在する。$y'\in V$ であるから、$V$ の定義により $\operatorname{Cl} U\times\{y'\}\subset F^{-1}(W)$ であり、よって $$ \begin{aligned} F(\operatorname{Cl} U\times\{y\})&=(\operatorname{id}_X\times f)(\operatorname{Cl} U\times\{y\})\\ &=\operatorname{Cl} U\times\{f(y)\}\\ &=\operatorname{Cl} U\times\{f(y')\}\\ &=F(\operatorname{Cl} U\times\{y'\})\\ &\subset W \end{aligned} $$ となるから、$\operatorname{Cl} U\times\{y\}\subset F^{-1}(W)$ である。すなわち、$y\in V$ である。これで、$f^{-1}(f(V))=V$ が示され、証明が終わった。$\square$

例 15.19 (商写像と恒等写像との直積が商写像でない例)

定理 15.18の結論は、$X$ が局所コンパクトHausdorff空間であるという仮定なしには成り立たない。そのことを示す例を挙げよう。$X=\mathbb{R}\setminus\{1/i\,|\,i\in\mathbb{N}\},$ $Y=\mathbb{R}$ とおき、$X$ の位相は $\mathbb{R}$ からの相対位相とする。$Y$ 上の同値関係 $\sim$ を、 $$ x\sim y\iff x=y\text{ または }(x\in\mathbb{Z}\text{ かつ }y\in\mathbb{Z}) $$ により定義し、$Z=Y/\mathord{\sim}$ を商空間として $f\colon Y\to Z$ を射影とする。すると $f$ は商写像であるが、このとき直積 $F=\operatorname{id}_X\times f\colon X\times Y\to X\times Z$ が商写像でないことを示そう。そのためには、命題 7.9により、$X\times Z$ のある部分集合 $B$ であって、$F^{-1}(B)$ は $X\times Y$ の閉集合であるが $B$ が $X\times Z$ の閉集合でないようなものが存在することを示せばよい。まず、 $$ A=\{(x,y)\in X\times Y\,|\,xy=1\text{ かつ }y\geq 0\} $$ とおけば、$A$ は $X\times Y$ の閉集合である。$A$ の点 $(x, y)$ の第二成分 $y$ は整数になり得ないことに注意すれば、$F^{-1}(F(A))=A$ であることが分かる。そこで、$B=F(A)\subset X\times Z$ とおけば、$F^{-1}(B)=A$ となるので $F^{-1}(B)$ は $X\times Y$ の閉集合である。ところが、$B$ は $X\times Z$ の閉集合ではない。それを示すためには $\operatorname{Cl}_{X\times Z} B\neq B$ を言えばよく、そのためには $(0, f(0))\in \operatorname{Cl}_{X\times Z} B\setminus B$ を示せばよい。まず、$A\cap(\{0\}\times Y)=\emptyset$ であることから、$(0, f(0))\notin B$ であることが分かる。$(0, f(0))\in\operatorname{Cl}_{X\times Z} B$ を示すため、$0$ の $X$ における開近傍 $U$ と $f(0)$ の $Z$ における開近傍 $V$ を任意に与える。すると、ある $n\in\mathbb{N}$ に対して $(-1/n, 1/n)\cap X\subset U$ である。また $f^{-1}(V)$ は$Y=\mathbb{R}$ の開集合で $f^{-1}(f(0))=\mathbb{Z}$ を含むから、$0<\delta<1$ となる $\delta$ が存在して $n+\delta\in f^{-1}(V)$ となる。このとき $(1/(n+\delta), n+\delta)\in A\cap (U\times f^{-1}(V))=A\cap F^{-1}(U\times V)$ であるから、$A\cap F^{-1}(U\times V)\neq\emptyset$ であり、よって $B\cap (U\times V)=F(A)\cap (U\times V)\neq\emptyset$ である。これで $(0, f(0))\in \operatorname{Cl}_{X\times Z} B$ が示され、$F=\operatorname{id}_X\times f\colon X\times Y\to X\times Z$ が商写像でないことが示された。

この結果と定理 15.18から、$X$ は局所コンパクトではあり得ないことが分かるが、実際、$0$ の $X$ におけるコンパクトな近傍が存在しないことが次のようにして示せる。$K$ が $0$ の $X$ におけるコンパクトな近傍であったとして矛盾を導こう。$K$ は $0$ の近傍なので、ある $n\in\mathbb{N}$ が存在して $(-1/n, 1/n)\cap X\subset K$ である。したがって、$(1/(n+1), 1/n)\subset K$ である。$K$ は $\mathbb{R}$ のコンパクトな部分集合なので、$K$ は $\mathbb{R}$ の閉集合である。よって、$1/n\in\operatorname{Cl}_\mathbb{R} (1/(n+1), 1/n)\subset \operatorname{Cl}_\mathbb{R} K=K\subset X$ となり、$1/n\in X$ が得られるが、$X$ の定義により $1/n\notin X$ であるから矛盾する。$\square$


位相空間論16:Tychonoff の定理

この章では、任意の個数のコンパクト空間の直積空間がコンパクト空間になることを主張するTychonoffの定理を証明する。これは位相空間論で最も重要な定理の一つである。



まず、Tychonoffの定理の証明の準備として、それ自身興味深いAlexanderの準開基定理を証明する。この定理は、コンパクト性を証明するときには、ある準開基に属する開集合からなる開被覆のみを考えれば十分であることを述べている。

Alexanderの準開基定理を示すためには、ある種の超越的な議論を必要とするが、それはZornの補題を用いるという形でなされる。Zornの補題は位相空間論というより集合論に属する事項だが、自己完結的に述べるためにここで証明することにする。まず、そのために必要な順序集合に関する用語を復習しておこう。

集合 $X$ 上の二項関係 $\leq$ が次の条件(1)-(3)を満たすとき、組 $(X, \leq)$ を順序集合(ordered set)という。

  • (1) 任意の $x\in X$ に対して $x\leq x$
  • (2) $x\leq y,$ $y\leq z$ ならば $x\leq z$
  • (3) $x\leq y,$ $y\leq x$ ならば $x=y$

$x\leq y$ かつ $x\neq y$ であるとき、$x<y$ と書く。さらに、$\leq$ が次の(4)を満たすとき、$(X, \leq)$ を全順序集合(totally ordered set)という。

  • (4) 任意の $x, y\in X$ に対して $x\leq y$ または $y\leq x$

$(X, \leq)$ を順序集合とし、$A\subset X$ とする。$A$ の要素 $a$ が $A$ の最小元(the smallest element)であるとは、任意の $b\in A$ に対して $a\leq b$ が成り立つことをいう。$A$ の最小元は必ずしも存在しないが、存在すれば一意的である。同様にして、$A$ の最大元(the largest element)の概念も定義される。$X$ の要素 $x$ が $A$ の($X$ における)上界(upper bound)であるとは、任意の $a\in A$ に対して $a\leq x$ であることをいう。より強く、任意の $a\in A$ に対して $a<x$ が成り立つとき、$x$ を $A$ の($X$ における)真の上界と呼ぶことにする。

順序集合 $(X, \leq)$ が整列集合(well-ordered set)であるとは、$X$ の任意の空でない部分集合 $A$ に対して、$A$ の最小元が存在することをいう。このとき、とくに $x, y\in X$ に対して $\{x, y\}$ は最小元をもつから、整列集合は全順序集合となる。

$(X, \leq)$ を順序集合とするとき、$X$ の要素 $x$ が $X$ の極大元(maximal element)であるとは、$x\leq y$ となるような $X$ の要素 $y$ が $x$ のみに限られることをいう。これは、$x<y$ となるような $X$ の要素 $y$ が存在しないことと言い換えられる。

順序集合 $(X, \leq)$ と部分集合 $A\subset X$ が与えられているとする。このとき、$A$ 上の二項関係 $\leq_A$ を $\leq$ の制限として定義すると、$(A, \leq_A)$ は再び順序集合となる。この $(A, \leq_A)$ が全順序集合、あるいは整列集合となるとき、$A$ を $X$ の全順序部分集合、あるいは整列部分集合という。

定理 16.1 (Zornの補題)

$(X, \leq)$ を順序集合とし、$X$ の任意の全順序部分集合 $A$ に対して、$A$ の $X$ における上界が存在すると仮定する。このとき、$X$ は極大元をもつ。

証明

$X$ が極大元をもたなかったとして矛盾を導こう。このとき、$X$ の任意の全順序部分集合 $A$ に対して、$A$ は $X$ において真の上界をもつ。実際、仮定により $A$ には上界 $x$ が存在するが、$X$ に極大元がないとしているから $x<y$ となる $y\in X$ が存在し、この $y$ は $A$ の真の上界を与える。そこで、各全順序部分集合 $A\subset X$ に対してその真の上界 $u(A)$ を一つ選んでおく。

$C\subset X$ と $x\in C$ に対して、$C_x=\{y\in C\,|\,y<x\}$ とおき、$C_x$ を $C$ の $x$ における切片と呼ぶ。$C$ が以下の条件を満たすとき、$C$ を $X$ におけるであると呼ぶことにする。

  • (1) $C$ は $X$ の整列部分集合である。
  • (2) 各 $x\in C$ に対して、$x=u(C_x)$ である。

このとき、次の主張が成り立つ。

主張 $\;\; X$ における任意の鎖 $C, C'$ に対して、$C=C'$ であるか、または $C$ と $C'$ の一方は他方のある切片に一致する。

この主張の証明は後で行う。この主張が成り立つとして証明を続けよう。$X$ における鎖全体の集合を $\{C_\lambda\,|\,\lambda\in\Lambda\}$ と表し、$C=\bigcup_{\lambda\in\Lambda} C_\lambda$ とおく。

このとき、$C$ が鎖であることを証明しよう。まず、$C$ が $X$ の整列部分集合であることを示すため、$A\subset C$ を空でない部分集合とする。すると、ある $\lambda\in\Lambda$ に対して $A\cap C_\lambda\neq\emptyset$ である。よって、$C_\lambda$ が $X$ の整列部分集合であったことから、$A\cap C_\lambda$ は最小元 $x_0$ をもつ。$x_0$ が $A$ の最小元であることを示すため、$x\in A$ とする。ある $\mu\in\Lambda$ に対して、$x\in C_\mu$ である。もし、$C_\mu=C_\lambda$ であれば、$x\in A\cap C_\lambda$ であるから $x_0\leq x$ である。$C_\mu\neq C_\lambda$ であれば、主張により、(i) ある $y\in C_\mu$ に対して $C_\lambda=(C_\mu)_y$ であるか、(ii) ある $z\in C_\lambda$ に対して $C_\mu=(C_\lambda)_z$ であるかのどちらかである。(i) の場合、(i-a) $y\leq x$ であるか (i-b) $x<y$ であるかの二通りの場合に分けて考えよう。(i-a) の場合は、$x_0\in C_\lambda=(C_\mu)_y$ により $x_0<y\leq x$ であり、よって $x_0<x$ である。(i-b) の場合は、$x\in (C_\mu)_y=C_\lambda$ であるから、$x\in A\cap C_\lambda$ であり、よって $x_0\leq x$ である。次に、(ii) の場合は $C_\mu\subset C_\lambda$ なので、$x\in C_\lambda$ となり、よって $x\in A\cap C_\lambda$ となるから $x_0\leq x$ である。以上から、いずれの場合も $x_0\leq x$ であることが分かり、$x_0$ が $A$ の最小元であることが示され、$C$ が $X$ の整列部分集合であることが分かった。

次に、各 $x\in C$ に対して $x=u(C_x)$ であることを示そう。$x\in C$ とすると、ある $\lambda\in\Lambda$ に対して $x\in C_\lambda$ である。このとき $C_x=(C_\lambda)_x$ であることを示そう。$C_\lambda\subset C$ であることから $(C_\lambda)_x\subset C_x$ は明らかだから、$C_x\subset (C_\lambda)_x$ であることを示す。そこで $y\in C_x$ であるとする。つまり、$y\in C$ かつ $y<x$ とする。このとき、ある $\mu\in\Lambda$ に対して $y\in C_\mu$ である。$C_\lambda=C_\mu$ であれば、$y\in C_\lambda$ だから $y\in(C_\lambda)_x$ である。そうでないときは、(i) ある $z\in C_\mu$ に対して $C_\lambda=(C_\mu)_z$ であるか、(ii) ある $w\in C_\lambda$ に対して $C_\mu=(C_\lambda)_w$ であるかのどちらかである。(i) の場合、$x\in C_\lambda=(C_\mu)_z$ により $x<z$ であり、$y\in C_x$ により $y<x$ であるから $y<z$ である。$y\in C_\mu$ であったから、$y\in (C_\mu)_z=C_\lambda$ であり、よって $y\in (C_\lambda)_x$ である。(ii) の場合は、$C_\mu\subset C_\lambda$ なので $y\in C_\lambda$ であり、よって $y\in (C_\lambda)_x$ である。以上で、$C_x\subset (C_\lambda)_x$ であることが示され、よって $C_x=(C_\lambda)_x$ であることが分かった。$C_\lambda$ は鎖であるから $u(C_x)=u((C_\lambda)_x)=x$ である。これで、$C$ が鎖であることが証明された。

$\tilde{C}=C\cup \{u(C)\}$ とおくと、すぐに確かめられるように $\tilde{C}$ は鎖となる。$C$ の定義により、$\tilde{C}\subset C$ でなければならないが、一方で $u(C)\in\tilde{C},$ $u(C)\notin C$ であるから、これは矛盾である。この矛盾により、$X$ が極大元をもつことが証明された。$\square$

主張の証明

$C, C'$ を $X$ における鎖とする。$C\neq C'$ とすると、$C$ と $C'$ の一方が他方のある切片に一致することを示そう。$C\not\subset C'$ が成り立つとして一般性を失わない。このとき、ある $x_1\in C$ に対して $C'=C_{x_1}$ であることを示せばよい。まず、$C\setminus C'\neq\emptyset$ であり $C$ が整列集合であることから、$C\setminus C'$ の最小元 $x_1$ が存在する。このとき $$ C_{x_1}\subset C'\quad(\star) $$ である。もし、これが真の包含関係であれば、$C'$ が整列集合であることから $C'\setminus C_{x_1}$ の最小元 $x_2$ が存在する。すると、 $$ C'_{x_2}\subset C_{x_1}\quad(\star\star) $$ である。もし、これが真の包含関係であれば、$C$ が整列集合であることから $C_{x_1}\setminus C'_{x_2}$ の最小元 $x_3$ が存在する。すると、 $$ C_{x_3}\subset C'_{x_2}\quad(\sharp) $$ である。

ところが、この包含関係 $(\sharp)$ は実際には等号となり $C_{x_3}=C'_{x_2}$ が成り立つ。それを示すため、$x\in C'_{x_2}$ としよう。いま $(\star)$ により $x_3\in C_{x_1}\subset C'$ である。よって $x, x_3$ はともに $X$ の整列(とくに全順序)部分集合 $C'$ に属しているから、(i)$x<x_3$ と (ii)$x_3\leq x$ のどちらかが成り立つ。いま、(ii)が成り立ったとすれば、$x<x_2$ であることにより $x_3<x_2$ である。よって、$x_3\in C'_{x_2}$ であるが、これは $x_3$ の取り方に反する。よって、(i)が成り立つ。$(\star\star)$ により $x\in C'_{x_2}\subset C_{x_1}\subset C$ であるから、(i) が成り立つことは $x\in C_{x_3}$ を意味する。これで、$(\sharp)$ の逆向きの包含関係 $C'_{x_2}\subset C_{x_3}$ が示されたから、$C_{x_3}=C'_{x_2}$ が証明された。

したがって、$C, C'$ がともに鎖であることにより、$x_3=u(C_{x_3})=u(C'_{x_2})=x_2$ を得る。すると $x_2=x_3\in C_{x_1}$ となり、これは $x_2$ の取り方に反する。この矛盾は、包含関係 $(\star\star)$ が実際には等号であること、つまり $C'_{x_2}=C_{x_1}$ であることを意味する。再び、$C, C'$ が鎖であることにより、$x_2=u(C'_{x_2})=u(C_{x_1})=x_1$ を得る。すると $x_1=x_2\in C'$ となり、$x_1$ の取り方に反する。この矛盾は、包含関係 $(\star)$ が実際には等号であること、つまり $C'=C_{x_1}$ を意味する。これが示したいことであった。$\square$

注意 16.2 (Zornの補題のもう一つのバージョン)

Zornの補題(定理 16.1)には、「空でない」という語句を二回挿入した次のバージョンもあり、実際上よく用いられる。

$(X, \leq)$ を空でない順序集合とし、$X$ の任意の空でない全順序部分集合 $A$ に対して、$A$ の $X$ における上界が存在すると仮定する。このとき、$X$ は極大元をもつ。$\quad(\heartsuit)$

定理 16.1から $(\heartsuit)$ が導かれることを見てみよう。定理 16.1を仮定し、$(X, \leq)$ を空でない(つまり $X\neq\emptyset$ であるような)順序集合とする。$X$ の任意の空でない全順序部分集合 $A$ に対して、$A$ の $X$ における上界が存在すると仮定する。このとき $X$ が極大元をもつことを示したい。いま定理 16.1を仮定しているから、そのためには、$X$ の任意の(空でもよい)全順序部分集合 $A$ に対して、$A$ の $X$ における上界が存在することを言えばよい。$A$ が空でない場合の上界の存在はすでに仮定しているから、あとは空集合 $\emptyset$ が上界をもつことを示せばよい。ところが、いま $X\neq\emptyset$ であるから、少なくとも一つの要素 $x_0\in X$ が存在する。この $x_0$ は $\emptyset$ の上界である($x\in X$ に対して、「$x$ が $\emptyset$ の上界である」という命題を論理式で表すと $\forall y (y\in\emptyset\rightarrow y\leq x)$ となり、これは $y\in\emptyset$ が偽であることにより $x\in X$ が何であっても真である。とくに、$x$ が $x_0$ のときもこの命題は真となる。つまり $x_0$ は $\emptyset$ の上界である)。これで、$(\heartsuit)$ が導かれた。$\square$


定理 16.3 (Alexanderの準開基定理)

位相空間 $X$ に対して、次は同値である。

  • (1) $X$ はコンパクトである。
  • (2) $X$ の準開基 $\mathcal{S}$ が存在して、$\mathcal{U}\subset \mathcal{S}$ を満たす $X$ の任意の開被覆 $\mathcal{U}$ は有限部分被覆をもつ。

証明

(1)$\Rightarrow$(2)は明らかである。

(2)$\Rightarrow$(1)を示す。(2)で存在が主張されているような $X$ の準開基 $\mathcal{S}$ を取る。$X$ がコンパクトでないと仮定しよう。すると、$X$ の開被覆 $\mathcal{U}_0$ であって有限部分被覆をもたないようなものが存在する。そこで、 $$ \Phi=\{\mathcal{U}\,|\,\mathcal{U}\text{ は }X\text{ の開被覆であって有限部分被覆をもたない}\} $$ とおく。$\mathcal{U}, \mathcal{V}\in\Phi$ に対して $\mathcal{U}\leq\mathcal{V}$ であるとは $\mathcal{U}\subset\mathcal{V}$ であることと定義すれば、$(\Phi, \leq)$ は順序集合となる。この順序集合にZornの補題の注意 16.2で述べたバージョンを適用したい。まず、$\mathcal{U}_0\in \Phi$ なので $\Phi\neq\emptyset$ である。

$\Phi'\subset\Phi$ を $\Phi$ の空でない全順序部分集合とする。$\Phi'=\{\mathcal{U}_\lambda\,|\,\lambda\in\Lambda\}$ と表せば、$\Lambda\neq\emptyset$ である。 $$ \mathcal{U}=\bigcup_{\lambda\in\Lambda} \mathcal{U}_\lambda $$ とおく。$\mathcal{U}\in\Phi$ を示そう。まず、各 $\lambda\in\Lambda$ に対して $\mathcal{U}_\lambda$ が $X$ の開被覆であることと $\Lambda\neq\emptyset$ により $\mathcal{U}$ は $X$ の開被覆である。次に、$\mathcal{U}$ の有限部分集合 $\{U_1,\ldots, U_n\}$ を任意に与える。すると、各 $i\in\{1,\ldots,n\}$ に対して $\lambda_i\in\Lambda$ が存在して $U_i\in\mathcal{U}_{\lambda_i}$ である。$\{\mathcal{U}_{\lambda_1},\ldots,\mathcal{U}_{\lambda_n}\}\subset \Phi'$ であり $\Phi'$ は $\Phi$ の全順序部分集合であるから、$\{\mathcal{U}_{\lambda_1},\ldots,\mathcal{U}_{\lambda_n}\}$ には最大元が存在する。番号を付け替えることで、その最大元が $\mathcal{U}_{\lambda_1}$ であるとしてよい。すると、各 $i\in\{1,\ldots,n\}$ に対して $U_i\in\mathcal{U}_{\lambda_i}\subset\mathcal{U}_{\lambda_1}$ であり、よって $\{U_1,\ldots, U_n\}\subset\mathcal{U}_{\lambda_1}$ である。いま $\mathcal{U}_{\lambda_1}\in\Phi'\subset\Phi$ なので、$\Phi$ の定義により $\{U_1\ldots, U_n\}$ は $X$ の被覆ではない。これで、$\mathcal{U}\in\Phi$ であることが示された。$\mathcal{U}$ の定義により、任意の $\lambda\in\Lambda$ に対して $\mathcal{U}_\lambda\subset\mathcal{U}$ つまり $\mathcal{U}_\lambda\leq\mathcal{U}$ であるから、$\mathcal{U}$ は $\Phi'$ の $\Phi$ における上界である。

したがって、順序集合 $(\Phi, \leq)$ はZornの補題の注意 16.2で述べたバージョン $(\heartsuit)$ の仮定を満たすので、$(\Phi, \leq)$ には極大元が存在する。そこで、その極大元の一つを $\mathcal{V}=\{V_\lambda\,|\,\lambda\in\Lambda\}$ とする。すると、もちろん $\mathcal{V}\cap\mathcal{S}\subset\mathcal{S}$ である。よって、もし $\mathcal{V}\cap\mathcal{S}$ が $X$ の被覆であれば、$\mathcal{S}$ の取り方により $\mathcal{V}\cap\mathcal{S}$ は有限部分被覆をもつから、$\mathcal{V}$ が有限部分被覆をもつことになり、$\mathcal{V}\in\Phi$ であることに反する。よって、$\mathcal{V}\cap\mathcal{S}$ は $X$ の被覆ではない。すなわち、$\mathcal{V}\cap\mathcal{S}=\{V_\lambda\,|\,\lambda\in\Lambda'\}$(ここで $\Lambda'\subset\Lambda$)と表すとき、$\bigcup_{\lambda\in\Lambda'} V_\lambda\neq X$ である。よって、点 $x\in X\setminus\bigcup_{\lambda\in\Lambda'} V_\lambda$ が存在する。$\mathcal{V}\in\Phi$ により $\mathcal{V}$ は $X$ の被覆なので、$\lambda_0\in\Lambda$ であって $x\in V_{\lambda_0}$ となるものが存在する。$\mathcal{S}$ は $X$ の準開基であるから、$S_1,\ldots, S_n\in\mathcal{S}$ であって、$x\in \bigcap_{i=1}^n S_i \subset V_{\lambda_0}$ となるものが存在する。もし、ある $i\in\{1,\ldots,n\}$ に対して $S_i\in\mathcal{V}$ であったとすれば、$S_i\in\mathcal{V}\cap\mathcal{S}$ であるから、ある $\lambda\in\Lambda'$ に対して $S_i=V_\lambda$ となるから、$x\in S_i\subset\bigcup_{\lambda\in\Lambda'} V_\lambda$ となり、$x$ の取り方に反する。よって、すべての $i\in\{1,\ldots,n\}$ に対して $S_i\notin\mathcal{V}$ である。したがって、$\mathcal{V}$ の $(\Phi, \leq)$ における極大性により、各 $i\in\{1,\ldots,n\}$ に対して $\mathcal{V}\cup\{S_i\}$ は有限部分被覆 $\mathcal{V}_i$ をもつことが分かる。もし、$\mathcal{V}_i\subset\mathcal{V}$ であれば、$\mathcal{V}$ が有限部分被覆 $\mathcal{V}_i$ をもつことになり $\mathcal{V}\in\Phi$ に反するので、$S_i\in\mathcal{V}_i$ である。よって、各 $i\in\{1,\ldots,n\}$ に対して $\mathcal{V}_i=\{S_i, V_{\lambda_{i,1}},\ldots, V_{\lambda_{i,k_i}}\}$ という形に書くことができる。このとき、 $$ X\setminus\bigcup_{i=1}^n\bigcup_{j=1}^{k_i} V_{\lambda_{i,j}}=\bigcap_{i=1}^n\left(X\setminus\bigcup_{j=1}^{k_i} V_{\lambda_{i,j}}\right)\subset\bigcap_{i=1}^n S_i\subset V_{\lambda_0} $$ であるから、結局、 $$ \mathcal{V}_0=\{V_{\lambda_0}\}\cup\{V_{\lambda_{i,j}}\,|\,i=1,\ldots,n,\,j=1,\ldots, k_i\} $$ とおくとき $\mathcal{V}_0$ は $\mathcal{V}$ の有限部分被覆となる。これは、$\mathcal{V}\in\Phi$ であることに反する。$\square$

Alexanderの準開基定理を用いて、Tychonoffの定理が次のように証明される。

定理 16.4 (Tychonoffの定理)

$(X_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ をコンパクト空間からなる族とするとき、直積空間 $\prod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ はコンパクトである。

証明

$X=\prod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ とし、$p_\lambda\colon X\to X_\lambda$ を射影とする。$X$ 上の直積位相は、次のような $\mathcal{S}$ を準開基にもつのであった(定義 8.11)。 $$ \mathcal{S}=\bigcup_{\lambda\in\Lambda}\mathcal{S}_\lambda,\quad\text{ただし }\mathcal{S}_\lambda=\{p_\lambda^{-1}(U)\,|\,U\text{ は }X_\lambda\text{ の開集合 }\} $$ Alexanderの準開基定理(定理 16.3)を用いて、$X$ がコンパクトであることを証明しよう。そこで、$\mathcal{U}$ を $X$ の開被覆であって $\mathcal{U}\subset\mathcal{S}$ であるようなものとする。$\mathcal{U}$ が有限な部分被覆をもつことを示せばよい。このとき、$\mathcal{U}_\lambda=\mathcal{U}\cap\mathcal{S}_\lambda$ とおけば、$\mathcal{U}=\bigcup_{\lambda\in\Lambda} \mathcal{U}_\lambda$ となる。さらに、各 $\lambda\in\Lambda$ に対して $X_\lambda$ の開集合からなる族 $\mathcal{V}_\lambda$ を $$ \mathcal{U}_\lambda=\{p_\lambda^{-1}(V)\,|\,V\in\mathcal{V}_\lambda\}\quad(\sharp) $$ となるように取れる。いま、いかなる $\lambda\in\Lambda$ に対しても $\mathcal{V}_\lambda$ が $X_\lambda$ の開被覆でなかったと仮定しよう。すると、各 $\lambda\in\Lambda$ に対して点 $x_\lambda\in X_\lambda\setminus\bigcup_{V\in\mathcal{V}_\lambda} V$ が選べる。そこで、点 $x=(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}\in X$ を考えると、各 $\lambda\in\Lambda$ に対して、$(\sharp)$ により $x\notin\bigcup_{U\in\mathcal{U}_\lambda} U$ である。ところが、$\mathcal{U}=\bigcup_{\lambda\in\Lambda} \mathcal{U}_\lambda$ であったから、これは $x\notin\bigcup_{U\in\mathcal{U}} U$ を意味する。これは、$\mathcal{U}$ が$X$ の被覆であったことに反する。したがって、ある $\lambda\in\Lambda$ が存在して、$\mathcal{V}_\lambda$ は $X_\lambda$ の開被覆である。いま、$X_\lambda$ はコンパクトであるから、ある有限個の $V_1,\ldots, V_n\in\mathcal{V}_\lambda$ であって $X_\lambda=\bigcup_{i=1}^n V_i$ となるものが存在する。したがって、$X=\bigcup_{i=1}^n p_\lambda^{-1}(V_i)$ である。$p_\lambda^{-1}(V_i)\in\mathcal{U}_\lambda\subset\mathcal{U}$ であるから、これは $\mathcal{U}$ が有限な部分被覆をもつことを示している。これで、$X$ がコンパクトであることが示された。$\square$