フィルターによる位相空間論

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フィルターによる位相空間論

本稿においては、フィルターの収束を用いた位相空間論の基本的議論を説明する。位相空間におけるフィルターは単純に述べれば点列を抽象化した概念である。位相空間論においてフィルターを用いるメリットは、位相的性質を収束を中心に扱うことと、超フィルターという強力な概念を駆使することで、収束に関わる性質(特に Hausdorff性 やコンパクト性)を上手く扱えることである。抽象的な位相空間を取り扱う一般位相の議論においては頻繁に用いられる。フィルターネットと同値な概念であり、同様にネットによる位相空間論も展開されるが、こちらは関数解析の議論において用いられることが多い。本稿においてはフィルターによるコンパクト性やHausdorff 性などの基本的な位相的性質の特徴づけを行い、フィルターにより比較的容易な証明が可能であるTychonoff の定理を示すことを目標とする。

1. フィルターの定義

定義1.1 (有限交叉族)

集合族 $\mathcal{F}$ が以下を満たすとき、有限交叉的であるといい、有限交叉的な集合族を有限交叉族という。

  • 任意の有限個の $F_0, \cdots , F_{n-1}\in\mathcal{F}$ について、 $F_0\cap F_1 \cdots \cap F_{n-1}\neq\emptyset$.

定義1.2 (フィルター)

$X$ を集合とする。$\mathcal{F}\subset 2^X$ が次の条件を満たすとき、$\mathcal{F}$ を集合 $X$ 上の(真の)フィルターと呼ぶ。

  • $(1)$ $X\in\mathcal{F}$ かつ $\emptyset \notin \mathcal{F}$.
  • $(2)$ 任意の $F_1,F_2\in \mathcal{F}$ に対し、$F_1\cap F_2\in \mathcal{F}$.
  • $(3)$ 任意の $F\in \mathcal{F}$ と $F\subset G\subset X$ なる任意の $G$ に対し、$G\in \mathcal{F}$.

例1.3

  • 無限集合 $X$ の補有限((補集合が有限集合になること))部分集合全体はフィルターである、これを Fréchet フィルターという。
  • 位相空間 $X$ の点 $x$ に対し、$x$ の近傍全体 $\mathcal{N}_x$ はフィルターである((近傍系または近傍フィルターと呼ばれる))。

定義1.4 (フィルターの細分と両立)

フィルター $\mathcal{F}, \mathcal{G}\subset 2^X$ について、包含関係 $\mathcal{F}\subseteq\mathcal{G}$ が成り立つとき、$\mathcal{G}$ を $\mathcal{F}$ の細分という。

フィルター $\mathcal{F}, \mathcal{G}\subset 2^X$ について以下が成り立つとき、$\mathcal{F}$ と $\mathcal{G}$ は両立しているという。

  • 任意の $F\in\mathcal{F}, G\in\mathcal{G}$ にたいして、 $F\cap G\neq \emptyset$.

定義1.5 (フィルターの生成と単項フィルター)

集合 $X$ 上の空でない有限交叉族 $\mathcal{F}\subseteq 2^X$ が与えられたとき、$\langle\mathcal{F}\rangle\colon =\{G\subseteq X | $ ある有限個の $F_0,\cdots ,F_{n-1}\in\mathcal{F}$ が存在して、$F_0\cap F_1\cap\cdots\cap F_{n-1}\subseteq G\}$ はフィルターになる。$\langle\mathcal{F}\rangle$ を $\mathcal{F}$ が生成するフィルターという。 $\langle\mathcal{F}\rangle$ は $\mathcal{F}$ の細分となる最小のフィルターであり。 特に点 $x\in X$ について $\langle\{\{x\}\}\rangle$ を $x$ が生成する単項フィルターという。

定義1.6 (フィルターの制限と拡張)

$X$ を集合、$A$ を $X$ の部分集合、 $\mathcal{F}$ を $X$ 上のフィルターとする。 このときもし、$A\in\mathcal{F}$ なら $\mathcal{F}$ の $A$ への制限 $\{F\cap A | F\in\mathcal{F}\}$ は $A$ 上のフィルターになる。さらに、$A$ 上のフィルター $\mathcal{G}$ のXへの拡張、$\{F\subseteq X | $ ある $G\in\mathcal{G}$ があって、$G\subseteq F\}$ は $X$ 上のフィルターとなる。制限と拡張は互いに逆写像であり、$A\in\mathcal{F}$ となる $X$ 上のフィルター全体と、$A$ 上のフィルター全体の間に全単射を定義してる。以降 $A\in\mathcal{F}$ を単に「 $\mathcal{F}$ は $A$ 上のフィルター」といい、$\mathcal{F}$ とその制限を同一視する。

補題1.7 (基本補題)

フィルター $\mathcal{F}, \mathcal{G}\subset 2^X$ にたいし以下の (1)、(2) は同値。

  • $(1)$ $\mathcal{F}$ と $\mathcal{G}$ は両立している.
  • $(2)$ $\mathcal{F}$ 、$\mathcal{G}$ は共通の細分を持つ.

証明

$(1)\Rightarrow (2)$

フィルター $\mathcal{F}$ と $\mathcal{G}$ は両立しているとする。このとき $\mathcal{F}\cup\mathcal{G}$ は有限交叉的なので、フィルター $\langle\mathcal{F}\cup\mathcal{G}\rangle$ が存在(($\langle\mathcal{F}\cup\mathcal{G}\rangle =\{F\cap G | F\in\mathcal{F}, G\in\mathcal{G}\}$))。これは $\mathcal{F}$ 、$\mathcal{G}$ の共通の細分である.

$(2)\Rightarrow (1)$

$\mathcal{F}$ 、$\mathcal{G}$ は共通の細分を持つとし、それを $\mathcal{H}$ とおく。このとき $F\in\mathcal{F}, G\in\mathcal{G}$ を任意に取ると、細分の定義から $F, G\in\mathcal{H} $ となる。$\mathcal{H}$ はフィルターなので、$F\cap G\in\mathcal{H} $ となり $F\cap G\neq\emptyset$.

定義1.8

両立するフィルター $\mathcal{F}, \mathcal{G}\subseteq 2^X$ にたいし、$\mathcal{F}\wedge\mathcal{G}$ を次のように定義する。

  • $\mathcal{F}\wedge\mathcal{G}\colon =\{F\cap G | F\in\mathcal{F}, G\in\mathcal{G}\}$

これは $\mathcal{F}, \mathcal{G}$ の共通するの最小の細分である。

定義1.9 (超フィルター)

自分自身以外の細分を持たないフィルターを超フィルターという。また単項フィルターでない超フィルターを非単項超フィルターまたは自由な超フィルターという.

命題1.10(超フィルターの特徴付け)

フィルター $\mathcal{U}\subseteq 2^X$ について以下は同値。

  • $(1)$ $\mathcal{U}$ は超フィルター.
  • $(2)$ 任意の $F\cup G\in\mathcal{U}$ にたいし、$F\in\mathcal{U}$ または $G\in\mathcal{U}$.
  • $(3)$ 任意の $A\subseteq X$ にたいし、$A\in\mathcal{U}$ または $(X\setminus A)\in\mathcal{U}$.

証明

  • $(1)\Rightarrow(2)$

$\mathcal{U}\subseteq 2^X$ を超フィルター とし、$(2)$の対偶を示す。$F\notin\mathcal{U}$ かつ $G\notin\mathcal{U}$ とする。$\mathcal{U}$ の細分は超フィルターの定義からそれ自身しかないが、$F\notin\mathcal{U}$ からそのようなものは $\langle\{F\}\rangle$ の細分となり得ない。補題1.7から $\langle\{F\}\rangle$ と $\mathcal{U}$ は両立しない。このことより、ある $U\in\mathcal{U}$ が存在して、$F\cap U=\emptyset$。同様に、ある $V\in\mathcal{U}$ が存在して、$G\cap V=\emptyset$。このことから $(F\cup G)\cap(U\cap V)=\emptyset$ となる、もし $F\cup G\in\mathcal{U}$ なら $\emptyset\in\mathcal{U}$ となって矛盾。よって $F\cup G\notin\mathcal{U}$。

  • $(2)\Rightarrow(3)$ $F=A, G=X\setminus A$ とすれば良い。
  • $(3)\Rightarrow(1)$

$\mathcal{U}\subseteq 2^X$ を $(3)$ を満たすフィルターとする。 $\mathcal{F}$ を $\mathcal{U}$ の細分とする。$F\in\mathcal{F}$ につてフィルターの定義から $X\setminus F\notin\mathcal{F}$ が成り立つ。$\mathcal{F}$ は $\mathcal{U}$ の細分なので、$X\setminus F\notin\mathcal{U}$。仮定から、$F\in\mathcal{U}$ となり $\mathcal{F}\subseteq\mathcal{U}$。以上から $\mathcal{U}$ は超フィルター。

定理1.11(超フィルターの存在)

任意のフィルターにたいし、その細分となる超フィルターが存在する。

証明

$\mathcal{F}$ を $X$ の上のフィルターとする。$\mathcal{F}$ の細分全体は集合の包含関係による順序によって帰納的順序集合である。よってZornの補題より $\mathcal{F}$ の細分で、集合の包含関係による順序に関して極大なものが取れる。それを $\mathcal{U}$ とする。$\mathcal{G}$ を $\mathcal{U}$ の細分とする。このとき $\mathcal{G}$ は $\mathcal{F}$ の細分でもある。よって $\mathcal{U}$ の極大性から $\mathcal{G} =\mathcal{U}$ となり、$\mathcal{U}$ は $\mathcal{F}$ の細分となる超フィルター。

定義1.12(写像によるフィルターの像)

$X, Y$ を集合、$\mathcal{F}$ を $X$ 上のフィルター、$f\colon X\to Y$ を写像とするとき、$f[\mathcal{F}]\colon =\{G\subseteq Y | f^{-1}(G)\in\mathcal{F}\}$ は $Y$ 上のフィルターである。$f[\mathcal{F}]$ を $\mathcal{F}$ の $f$ による像という。

命題1.13(写像による超フィルターの像)

$X, Y$ を集合、$\mathcal{U}$ を $X$ 上の超フィルター、$f\colon X\to Y$ を写像とするとき、$\mathcal{U}$ の $f$ による像 $f[\mathcal{U}]$ は $X$ 上の超フィルター。

証明

$\mathcal{U}$ を $X$ 上の超フィルター、$f\colon X\to Y$ を写像とする。 $A\cup B\in f[\mathcal{U}]$ となる $A,B\subseteq Y$ をとる。このとき、 $f^{-1}(A)\cup f^{-1}(B)=f^{-1}(A\cup B)\in\mathcal{U}$ となる。命題1.10より $f^{-1}(A)\in\mathcal{U}$ または、$ f^{-1}(B)\in \mathcal{U}$ となり、フィルターの像の定義から、$A\in f[\mathcal{U}]$ または、$B\in f[\mathcal{U}]$ となる。以上と命題1.10より $f[\mathcal{U}]$ は超フィルター。

2. 位相空間上のフィルターの収束点と堆積点

定義2.1 (フィルターの収束点と堆積点)

$X$ を位相空間、$\mathcal{F}$ を $X$ 上のフィルター、 $x\in X$ とする。$\mathcal{F}$ が $x$ の近傍系 $\mathcal{N}_x$ の細分となるとき、$x$ を $\mathcal{F}$ の収束点という。

また、$\mathcal{F}$ が $\mathcal{N}_x$ と両立するとき、$x$ を $\mathcal{F}$ の堆積点という。

$x$ が $\mathcal{F}$ の収束点であることを、$\mathcal{F}$ は $x$ に収束するといい、このことを、$\mathcal{F}\rightarrow x$ や、$\lim\mathcal{F} =x$ と表す。

命題2.2 (堆積点と細分)

$\mathcal{F}$ を位相空間 $X$ のフィルターとし、$x\in X$ とする。次は互いに同値である。

  • $(1)$ $x$ は $\mathcal{F}$ の堆積点である。
  • $(2)$ $\mathcal{F}$ の細分で $x$ に収束するものが存在する。

証明

堆積点と収束点の定義及び補題1.7から直ちに従う((補題1.7の $\mathcal{G}$ に $\mathcal{N}_x$ を代入せよ))。

命題2.3 (閉包のフィルターによる特徴付け)

$X$ を位相空間、$A\subset X$、$x\in X$ とする。次は互いに同値である。

  • $(1)$ $x\in\overline{A}$.
  • $(2)$ $x$ に収束する $A$ 上のフィルターが存在する。

証明

$(2)\Rightarrow(1)$

$\mathcal{F}$ を $x$ に収束する $A$ 上のフィルターとする。このとき、$\mathcal{N}_x\subseteq \mathcal{F}$ かつ $A\in \mathcal{F} $ なので、任意の $x$ の近傍 $V$ は $A$ と交わる。よって $x\in\overline{A}$。

$(1)\Rightarrow(2)$

$x\in\overline{A}$ を一つとる。このとき $\{B\subseteq X | $ ある $V\in\mathcal{N}_x$ が存在し、$A\cap V\subseteq B\}$ は $x$ に収束する $A$ 上のフィルターになる。

命題2.4(堆積点と閉包)

$\mathcal{F}$ を位相空間 $X$ のフィルターとする。このとき $\mathcal{F}$ の堆積点全体は $\bigcap_{F\in\mathcal{U}}\overline{F}$ と一致する。

証明

$\mathcal{F}$ を位相空間 $X$ のフィルターとする。$\mathcal{F}$ の堆積点 $x\in X$ と $F\in\mathcal{F}$ を固定。$x$ の近傍 $V\in\mathcal{N}_X$ を任意に取る。堆積点の定義から、$\mathcal{F}$ と $\mathcal{N}_X$ は両立するので、$F\cap V\neq\emptyset$。$V$ は任意なので閉包の定義から、$x\in\overline{F}$。逆も同様。

3. 連続性のフィルターによる特徴付け

命題3

$X,Y$ を位相空間、$x\in X$, $f:X\rightarrow Y$ とする。次は互いに同値である。

  • $(1)$ $f$ は $x$ において連続である。
  • $(2)$ $x$ に収束する $X$ の任意のフィルター $\mathcal{F}$ に対し、$Y$ のフィルター $f[\mathcal{F}]$ は $f(x)$ に収束する。

証明

$(1)\Rightarrow(2)$

$f$ は $x$ において連続であり、フィルター $\mathcal{F}$ は $x$ に収束するとする。今、$V\in\mathcal{N}_{f(x)}$ を一つとる。連続性より $f^{-1}(V)\in\mathcal{N}_x$ 更に収束の定義より $\mathcal{N}_x\mathcal{F}$ 。以上から $V\in f[\mathcal{F}]$、$V$ は任意なので、$\mathcal{N}_{f(x)}\subseteq f[\mathcal{F}]$ となり、$f[\mathcal{F}]$ は $f(x)$ に収束する。

$(2)\Rightarrow(1)$

$(2)$ を仮定する。今、$V\in\mathcal{N}_{f(x)}$ を一つとる。$\mathcal{N}_x$ は$x$ に収束するフィルターであるので、$f[\mathcal{N}_x]$ は $f(x)$ に収束する、フィルターの収束の定義より、$V\in f[\mathcal{N}_x]$ でありフィルターの像の定義から、$f^{-1}(V)\in\mathcal{N}_x$。$V\in\mathcal{N}_{f(x)}$ は任意だったので、$f$ は $x$ において連続である。

4. Hausdorffの分離公理とフィルターの収束点の一意性

命題4

位相空間 $X$ に対し、次は互いに同値である。

  • $(1)$ $X$ はHausdorff の分離公理を満たす。
  • $(2)$ $X$ 上の任意の収束するフィルターの収束点は唯一つである。

証明

$(1)\Rightarrow(2)$

$X$ をHausdorff 空間とし、 $x,y\in X$ を相異なる二点とする。このとき、ある $U\in \mathcal{N}_x, V\in\mathcal{N}_y$ が存在して、$U\cap V=\emptyset$。よって、$x,y$ の近傍系は両立せず、補題1.7から共通の細分を持たない。以上から $x,y$ は共通のフィルターの収束先にならない。

$(2)\Rightarrow(1)$

待遇を示す。$x,y\in X$ を近傍で分離できない相異なる二点とする。このとき $\mathcal{N}_x, \mathcal{N}_y$ は両立する。補題1.7より共通の細分を持ち、そのような細分は $x,y$ 両方を収束先に持つフィルターである。

5. コンパクト性のフィルターによる特徴付け

補題5.1

位相空間 $X$ について以下は同値。

  • $(1)$ $X$ はコンパクト.
  • $(2)$ $X$ の閉集合からなる有限交叉族の共通部分は空でない.

証明

$(1)\Rightarrow (2)$

閉集合からなる有限交叉族 $\mathcal{F}\subseteq 2^X$ について、$\mathcal{U}=\{X\setminus F|F \in \mathcal{F}\}$ とおく。このとき、$\mathcal{U}$ が開被覆ならば、$X$ のコンパクト性により $\mathcal{U}$ の有限個の要素 $X\setminus F_0,\cdots, X\setminus F_{n-1}$ について $X=(X\setminus F_0)\cup \cdots \cup (X\setminus F_{n-1})$ が成り立つが、ここから $F_0\cap \cdots \cap F_{n-1}=\emptyset $ がいえる、これは仮定に反する。よって$\mathcal{U}$ は開被覆でない。よって$\bigcap_{F\in \mathcal{F}} F=X\setminus (\bigcup_{U \in \mathcal{U}} U)$ は空でない。

$(2)\Rightarrow (1)$

開被覆 $\mathcal{U}$ について、$\mathcal{F}=\{X\setminus U|U \in \mathcal{U}\}$ とおく。このとき、$\bigcap_{F\in \mathcal{F}} F=X\setminus (\bigcup_{U \in \mathcal{U}} U)$ は空集合であるため $(2)$ の対偶から、ある $\mathcal{F}$ の有限個の要素 $X\setminus U_0,\cdots, X\setminus U_{n-1}$ について $(X\setminus U_0)\cap \cdots \cap (X\setminus U_{n-1})=\emptyset$ が成り立つ。以上から $X=U_0\cup \cdots \cup U_{n-1}$ がいえた。

定理5.2

位相空間 $X$ に対し、次は互いに同値である。

  • $(1)$ $X$ はコンパクト空間 である。
  • $(2)$ $X$ の任意のフィルターは堆積点を持つ。
  • $(3)$ $X$ の任意のフィルターは収束する細分を持つ。
  • $(4)$ $X$ の任意の超フィルターは収束する。

証明

  • $(1)\Rightarrow(2)$

$X$ をコンパクト空間とする。$\mathcal{F}$ をフィルターとすると、$\{\overline{F} | F\in\mathcal{F}\}$ は閉集合からなる有限交叉族となる。補題5.1から、これの共通部分 $\bigcap_{F\in\mathcal{U}}\overline{F}$ は空でない。命題2.4から $\mathcal{F}$ は集積点を持つ。

  • $(2)\Leftrightarrow(3)$ は命題2.2による。
  • $(3)\Leftrightarrow(4)$ は超フィルターの存在と超フィルターの細分は自分自身しか存在しないことによる。
  • $(2)\Rightarrow(1)$

位相空間 $X$ 上のフィルターは常に堆積点を持つとする。 今 $\mathcal{K}$ を $X$ の閉集合からなる有限交叉的族とする。仮定よりフィルター $\mathcal{F}\colon =\langle \mathcal{K}\rangle$ は堆積点 $x$ を持つ。$x\in\bigcap_{F\in\mathcal{F}}\overline{F}\subseteq\bigcap_{K\in\mathcal{K}}\overline{K}= \bigcap_{K\in\mathcal{K}}K$ 以上より、補題5.1より $X$ はコンパクト。

6. 始位相、直積位相、Tychonoff の定理

定義6.1(始位相)

$X, J$ を空でない集合とし、各 $j\in J$ に対し位相空間 $(X_j,\mathcal{O}_j)_{j\in J}$ と写像 $f_j:X\rightarrow X_j$ が与えられているとする。このとき、

$\{f_{j_0}^{-1}(U_0)\cap \ldots \cap f_{j_{n-1}}^{-1}(U_{n-1}):n\in\mathbb{N}, j_0,\cdots,j_{n-1}\in J, U_0\in\mathcal{O}_{j_0},\ldots,U_{n-1}\in \mathcal{O}_{j_{n-1}}\}$

の要素の合併で表される集合全体 $\mathcal{O}$ は $X$ の位相である。$\mathcal{O}$ は任意の $j\in J$ に対し $f_j:X\rightarrow X_j$ が連続となるような $X$ の位相のうち最弱のものとして特徴付けられる。$\mathcal{O}$ を $(f_j:X\rightarrow X_j)_{j\in J}$ から誘導される始位相と言う。

命題6.2(始位相におけるフィルターの収束の特徴付け)

$X$ に $(f_j:X\rightarrow X_j)_{j\in J}$ から誘導される始位相を入れる。$X$ 上のフィルター $\mathcal{F}$ と $x\in X$ に対し次は互いに同値である。

  • $(1)$ $\mathcal{F}\rightarrow x$.
  • $(2)$ 任意の $j\in J$ に対し $f_j[\mathcal{F}]\rightarrow f_j(x)$.

証明

  • $(1)\Rightarrow(2)$ 始位相の定義より各 $f_j:X\rightarrow X_j$ は連続でなので、命題3より成り立つ。
  • $(2)\Rightarrow(1)$

$(2)$ が成り立つとする。始位相の定義より $x$ の任意の近傍 $V$ に対し有限個の $j_0,\ldots,j_{n-1}\in J$ と開集合 $U_0\subset X_{j_0},\ldots,U_{n-1}\subset X_{j_{n-1}}$ で、

$x\in f_{j_0}^{-1}(U_0)\cap\ldots \cap f_{j_{n-1}}^{-1}(U_{n-1})\subset V$

なるものが取れる。各 $k\in \{0,\ldots,n-1\}$ に対し $U_k$ は $f_{j_k}(x)$ の開近傍であり、$(2)$ が成り立つので、$U_k\in f_k[\mathcal{F}]$、すなわち $f^{-1}(U_k)\in\mathcal{F}$。$\mathcal{F}$ は有限交叉点なので、$f_{j_0}^{-1}(U_0)\cap\ldots \cap f_{j_{n-1}}^{-1}(U_{n-1})\in\mathcal{F}$ となり、$f_{j_0}^{-1}(U_0)\cap\ldots \cap f_{j_{n-1}}^{-1}(U_{n-1})\subset V$ だったので、$V\in\mathcal{F}$ である。よって $\mathcal{F}\rightarrow x$ が成り立つ。

定義6.3(直積位相空間)

$J$ を空でない集合とし、各 $j\in J$ に対し位相空間 $X_j$ が与えられているとする。そして直積集合 $X=\prod_{j\in J}X_j$ を考え、各 $j\in J$ に対し $X$ から $X_j$ 上への自然な射影 $\pi_j:X\rightarrow X_j$ が与えられているとする。$(\pi_j:X\rightarrow X_j)_{j\in J}$ が $X$ に誘導する始位相による位相空間 $X$ を、位相空間の族 $(X_j)_{j\in J}$ の直積位相空間と言う。

命題6.4(直積位相空間におけるフィルターの収束の特徴付け)

位相空間の族 $(X_j)_{j\in J}$ の直積位相空間 $X=\prod_{j\in J}X_j$ を考え、各 $j\in J$ に対し $X$から $X_j$ 上への自然な射影を $\pi_j:X\rightarrow X_j$ とする。$X$ のフィルター$\mathcal{F}$ と $x\in X$ に対し、次は互いに同値である。

  • $(1)$ $\mathcal{F}\rightarrow x$.
  • $(2)$ 任意の $j\in J$ に対し $\pi_j[\mathcal{F}]\rightarrow \pi_j(x)$.

証明

直積位相の定義と命題6.2による。

定理6.5(Tychonoff の定理)

コンパクト空間の直積位相空間はコンパクト空間である。

証明

$(X_j)_{j\in J}$ をコンパクト空間の族とし、$X=\prod_{j\in J}X_j$ をその直積位相空間、各 $j\in J$ に対し $X$から $X_j$ 上への自然な射影を $\pi_j:X\rightarrow X_j$ とする。$X$ がコンパクト空間であることを示すには、定理5.2より、 $X$ の任意の超フィルター $\mathcal{F}$ が収束することを示せばよい。定理1.13より各 $j\in J$ に対し $\pi_j[\mathcal{F}]$ は $X_j$ の超フィルターであり、各 $X_j$ はコンパクトであるから定理5.2よりある $y_j\in X_j$ に収束する。そこで $y=(y_j)_{j\in J}\in X$ とおけば、命題6.4より $\mathcal{F}$ は $y$ に収束する。よって $X$ はコンパクトである。

関連項目