ベクトル空間

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この記事では、一般の体上のベクトル空間の基本的な性質について解説する。

定義

  • 集合 $V$
  • 体 $\K(\langle \K, +_{\K}, 0, \times_{\K}, 1\rangle)$
  • 二項演算 $+:V\times V\rightarrow V$
  • 二項演算 $\cdot :\K\times V\rightarrow V$
  • 要素 $\Bzr\in V$

による5つ組 $\langle V, \K, +, \cdot, \Bzr\rangle$ は、次の8つの公理を満たすとき$\K$ 上のベクトル空間 (vector space) または線形空間 (linear space)であるという。このとき $V$ を $K$-ベクトル空間、$K$-線形空間ともいう。とくに $\K=\R$ のとき、$V$ を実ベクトル空間、あるいは実線形空間という。なお、$k\in\K, \Bv\in V$ について $k\cdot\Bv$ を単に $k\Bv$ とあらわす。混同のおそれのない場合には $\K$ 上の演算 $+_{\K}$, $\times_{\K}$ も単に $+$, $\times$ であらわし、$\K$ 上の積 $a\times_{\K} b$ を単に $ab$ であらわす。

$(V1-V4)$ $\langle V, +, \Bzr\rangle$ はAbel群である。すなわち、
$(V1)$ (結合律) $V$ の任意の元 $\mathbf{x},\mathbf{y},\mathbf{z}$ に対して $(\mathbf{x} + \mathbf{y}) + \mathbf{z} = \mathbf{x} + (\mathbf{y} + \mathbf{z})$ が成り立つ。
$(V2)$ (可換律) $V$ の任意の元 $\mathbf{x},\mathbf{y}$ に対して $\mathbf{x} + \mathbf{y} = \mathbf{y} + \mathbf{x}$ が成り立つ。
$(V3)$ (単位元(零ベクトル)の性質) $V$ の任意の元 $\mathbf{x}$ に対して $\mathbf{x} + \mathbf{0} = \mathbf{0} + \mathbf{x} = \mathbf{x}$ が成り立つ。
$(V4)$ (逆元(逆ベクトル)の存在) $V$ の任意の元 $\mathbf{x}$ に対して $V$ のある元 $\mathbf{x}'$ が存在して $\mathbf{x} + \mathbf{x}' = \mathbf{x}' + \mathbf{x} = \mathbf{0}$ を満たす。
$(V5)$ (スカラーの加法に対する分配律) $K$ の任意の元 $a,b$ と $V$ の任意の元 $\mathbf{x}$ に対して $(a+_{\K} b)\mathbf{x} = a\mathbf{x} + b\mathbf{x}$ が成り立つ。
$(V6)$ (ベクトルの加法に対する分配律) $K$ の任意の元 $a$ と $V$ の任意の元 $\mathbf{x},\mathbf{y}$ に対して $a(\mathbf{x}+\mathbf{y}) = a\mathbf{x} + a\mathbf{y}$ が成り立つ。
$(V7)$ (スカラーの積とスカラー乗法の両立) $K$ の任意の元 $a,b$ と $V$ の任意の元 $\mathbf{x}$ に対して $(a\times_{\K} b)\cdot\mathbf{x} = a\cdot(b\cdot\mathbf{x})$ が成り立つ。
$(V8)$ (スカラー乗法の単位元の存在) $V$ の任意の元 $\mathbf{x}$ に対して $1\mathbf{x} = \mathbf{x}$ が成り立つ。

$V$ 上の二項演算 $+$ をベクトルの加法 (addition) 、$\cdot$ をスカラー乗法 (scalar multiplication)、$\Bzr\in V$ を零ベクトル (zero vector) という。

命題 1
$(1)$ $\Bu+\Bv=\Bu+\Bw$ ならば $\Bv=\Bw$ となる。とくに $\Bu+\Bv=\Bu$ となるベクトル $\Bv$ は零ベクトルに一致する。
$(2)$ 任意の $\Bv\in V$ について $0\Bv=\Bzr$ が成り立つ。
$(3)$ 任意の $k\in\K, \Bv\in V$ について $(-k)\Bv=-(k\Bv)$ が成り立つ。とくに 任意の $\Bv\in V$ について $(-1)\Bv=-\Bv$ が成り立つ。
Proof.

$(1)$ $\Bu+\Bv=\Bu+\Bw$ ならば $(V4)$, $(V1)$ より

$$\Bv=((-\Bu)+\Bu)+\Bv=(-\Bu)+(\Bu+\Bv)=(-\Bu)+(\Bu+\Bw)=((-\Bu)+\Bu)+\Bw=\Bw$$ となる。とくに $\Bu+\Bv=\Bu$ ならば $\Bu+\Bv=\Bu=\Bu+\Bzr$ より $\Bv=\Bzr$ となる。

$(2)$ $(V8)$, $(V5)$, $(V3)$ より

$$0\Bv+\Bv=0\Bv+1\Bv=1\Bv=\Bv$$ であるから、$(V4)$, $(V1)$ より $$0\Bv=0\Bv+(\Bv+(-\Bv))=(0\Bv+\Bv)+(-\Bv)=\Bv+(-\Bv)=\Bzr$$ となる。

$(3)$ $(V5)$, $(2)$ および $(V4)$ より

$$(-k)\Bv+k\Bv=(-k+k)\Bv=0\Bv=\Bzr=-(k\Bv)+k\Bv$$ となるから $(1)$ より $(-k)\Bv=-(k\Bv)$ となる。とくに $k=1$ のとき $(V8)$ より $(-1)\Bv=-(1\Bv)=-\Bv$ となる。

$\Bu, \Bv\in V$ について、ベクトルの減法 (subtraction) を $$\Bu+(-\Bv)=\Bu-\Bv$$ により定める。

命題 2
$(1)$ 任意の $\Bu, \Bv\in V$ について $\Bx+\Bv=\Bu \Longleftrightarrow \Bx=\Bu-\Bv$ が成り立つ。
$(2)$ 任意の $a, b\in\K, \Bv\in V$ について $a\Bv-b\Bv=(a-b)\Bv$ が成り立つ。
Proof.

$(1)$ $(V1)$, $(V4)$, $(V3)$ より

$$(\Bu-\Bv)+\Bv=\Bu+(-\Bv)+\Bv=\Bu+((-\Bv)+\Bv)=\Bu$$ となるから、命題 1 の $(1)$ より $$\Bx+\Bv=\Bu=(\Bu-\Bv)+\Bv \Longleftrightarrow \Bx=\Bu-\Bv$$ ば成り立つ。

$(2)$ 命題 1 の $(3)$ より

$$a\Bv-b\Bv=a\Bv+(-(b\Bv))=a\Bv+(-b)\Bv=(a-b)\Bv$$ となる。

部分空間

$V$ が $\K$ 上のベクトル空間、$W$ が $V$ の空でない部分集合で、

$\Bx, \By\in W$ ならば $\Bx+\By\in W$
$\Bx\in W, r\in\K$ ならば $r\Bx\in W$

となるとき、$W$ 自身も、$V$ における加法とスカラー乗法を $W$ に制限したものにより $\K$ 上のベクトル空間となる。 この $W$ を $V$ の部分ベクトル空間部分線形空間あるいは単に部分空間 (subspace) という。

3

$V=\K^n$ とし、 $$W=\{(a_1, \ldots, a_{n-1}, 0): a_1, \ldots, a_{n-1}\in\K\}$$ とおくと、$W$ は $V$ の部分空間となる。実際、 $(a_1, \ldots, a_{n-1}, 0), (b_1, \ldots, b_{n-1}, 0)\in W$ ならば $$(a_1, \ldots, a_{n-1}, 0)+(b_1, \ldots, b_{n-1}, 0)=(a_1+b_1, \ldots, a_{n-1}+b_{n-1}, 0)\in W$$ となり、また $k\in\K$, $(a_1, \ldots, a_{n-1}, 0)\in W$ ならば $$k(a_1, \ldots, a_{n-1}, 0)=(ka_1, \ldots, ka_{n-1}, 0)\in W$$ となる。

$V$ が体 $\K$ 上のベクトル空間のとき、$\Bv_1, \ldots, \Bv_r\in V$ について $$a_1\Bv_1+a_2\Bv_2+\cdots +a_r\Bv_r~(a_1, \ldots, a_r\in\K)$$ を $\Bv_1, \ldots, \Bv_r$ の線形結合 (linear combination) という。

$V$ の部分集合 $S$ に属するベクトルの線形結合であらわされるベクトル全体の集合 $$\span~S=\{a_1\Bv_1+\cdots +a_r\Bv_r: k\in\N, a_1, \ldots, a_r\in\K, \Bv_1, \ldots, \Bv_r\in S\}$$ は $V$ の部分空間となる。実際 $a_1\Bv_1+\cdots +a_r\Bv_r, b_1\Bv_1+\cdots +b_r\Bv_r\in\span~S$ に対し、 $$(a_1\Bv_1+\cdots +a_r\Bv_r)+(b_1\Bv_1+\cdots +b_r\Bv_r)=(a_1+b_1)\Bv_1+\cdots +(a_r+b_r)\Bv_r\in\span~S,$$ $k\in\K, a_1\Bv_1+\cdots +a_r\Bv_r\in \span~S$ に対し $$k(a_1\Bv_1+\cdots +a_r\Bv_r)=ka_1\Bv_1+\cdots +ka_r\Bv_r\in\span~S$$ となる。この部分空間 $\span~S$ を、$S$ の線形包 (linear span) という。

とくに $S=\{\Bv_1, \ldots, \Bv_r\}$ が有限集合であるとき、$S$ の線形包、すなわち $\Bv_1, \ldots, \Bv_r$ の線形結合であらわされる ベクトル全体の集合を $$\langle \Bv_1, \ldots, \Bv_r\rangle=\{a_1\Bv_1+\cdots +a_r\Bv_r: a_1, \ldots, a_r\in\K\}$$ とあらわす。これを $\Bv_1, \ldots, \Bv_r$ により生成される空間という。

また、あるベクトル空間 $U$ が $$U=\span~S$$ の形にあらわされるとき、$S$ は $U$ を生成するという。また、$S$ を $U$ の生成集合 (generating set) という。 $S=\{\Bv_1, \ldots, \Bv_r\}$ が有限集合であるとき、つまり $U=\langle \Bv_1, \ldots, \Bv_r\rangle$ のとき $U$ は有限生成 (finitely generated) であるといい、$\Bv_1, \ldots, \Bv_r$ を $U$ の生成元という。

4

$V=\K^n$ で、$\Be_1=(1, 0, \ldots, 0), \ldots, \Be_n=(0, 0, \ldots, 1)$ を $$\Be_i=(\delta_{i1}, \ldots, \delta_{in})~(i=1, \ldots, n),$$ ただし $\delta_{ij}$ は $i=j$ のとき $1$、それ以外のとき $0$ とすることにより定めると $\Be_1, \ldots, \Be_n$ は $V$ を生成する。実際 $\Bv=(a_1, \ldots, a_n)\in V$ は $$\Bv=a_1\Be_1+\cdots +a_n\Be_n$$ とあらわされる。

線形独立性とベクトル空間の基底

$V$ が体 $\K$ 上のベクトル空間のとき、$\Bv_1, \ldots, \Bv_r\in V$ が $\K$ 上線形独立 (linear independent) であるとは $$a_1\Bv_1+a_2\Bv_2+\cdots +a_r\Bv_r=\Bzr$$ となる $a_1, \ldots, a_r\in\K$ が $a_1=\cdots =a_r=0$ しかないことをいう。$\Bv_1, \ldots, \Bv_r\in V$ が線形独立でないとき、つまり 上記の等式が成り立つが $a_1, \ldots, a_r$ の、少なくともひとつは $0$ ではないような $a_1, \ldots, a_r\in\K$ が存在するとき、 $\Bv_1, \ldots, \Bv_r\in V$ を線形従属 (linear dependent) であるという。

5

$V=\K^n$ について、 4における $\Be_1, \ldots, \Be_n$ は $\K$ 上線形独立である。実際 $$a_1\Be_1+a_2\Be_2+\cdots +a_n\Be_n=(a_1, \ldots, a_n)$$ だから $$a_1\Be_1+a_2\Be_2+\cdots +a_n\Be_n=\Bzr\Longleftrightarrow a_1= \ldots =a_n=0$$ となる。

命題 6

$\Bv_1, \ldots, \Bv_n\in V$ が線形独立なベクトルとする。このとき $\Bw\in V$ について、

$\Bv_1, \ldots, \Bv_n, \Bw$ が線形従属 $\Longleftrightarrow \Bw\in\langle\Bv_1, \ldots, \Bv_n\rangle$,

言い換えれば、

$\Bv_1, \ldots, \Bv_n, \Bw$ が線形独立 $\Longleftrightarrow \Bw\not\in\langle\Bv_1, \ldots, \Bv_n\rangle$.
Proof.

$\Bw\in\langle\Bv_1, \ldots, \Bv_n\rangle$ ならば $\Bw=a_1\Bv_1+\cdots +a_n\Bv_n$ となる $a_1, \ldots, a_n\in\K$ がとれるから $$a_1\Bv_1+\cdots +a_n\Bv_n+(-1)\Bw=\Bzr$$ より $\Bv_1, \ldots, \Bv_n, \Bw$ は線形従属。 逆に $\Bv_1, \ldots, \Bv_n, \Bw$ が線形従属のとき $$a_1\Bv_1+\cdots +a_n\Bv_n+a_{n+1}\Bw=\Bzr$$ となる $a_1, \ldots, a_{n+1}\in\K$ で、その少なくともひとつは $0$ ではないものをとる。 $a_{n+1}=0$ のとき $$a_1\Bv_1+\cdots +a_n\Bv_n=\Bzr$$ で、なおかつ、$a_1, \ldots, a_n$ の少なくともひとつは $0$ ではないので、 $\Bv_1, \ldots, \Bv_n$ が線形従属となって仮定に反する。よって $a_{n+1}\neq 0$ なので $$\Bw=-\frac{1}{a_{n+1}}(a_1\Bv_1+\cdots +a_n\Bv_n)\in\langle\Bv_1, \ldots, \Bv_n\rangle.$$

$D\subset V$ が線形独立で、なおかつ $V$ を生成するとき $D$ は $V$ の基底 (basis) であるという。 ここで $D=\{\Bv_1, \ldots, \Bv_r\}$ であるとき、$\Bv_1, \ldots, \Bv_r$ は $V$ の基底であるともいう。

7

$V=\K^n$ について、 4における $\Be_1, \ldots, \Be_n$ は $\K$ 上線形独立かつ $V$ を生成するから、 $V$ の基底である。

一般的には、基底のとり方は一意的ではない。たとえば $(1, 1, 0)$, $(1, 0, 1)$, $(0, 1, 1)$ も $\K^3$ の基底となる。

有限生成なベクトル空間は、有限個のベクトルからなる基底をもつ。さらに強く、つぎのように、ベクトル空間の生成集合の部分集合で基底となるものが存在することがいえる。

定理 8

ベクトルの有限集合 $B=\{\Bv_1, \ldots, \Bv_n\}\subset V$ について、$B$ の線形独立な部分集合 $C$ で $$\span~B=\span~C$$ となるものがとれる。つまり、$B$ の部分集合で $\span~B$ の基底となるものが存在する。

Proof.

$B$ が零ベクトルを含むとき、$B_0=B\setminus\{\Bzr\}$ とおき、そうでないとき、 $B_0=B$ とおくと、$B_0$ は $B$ の部分集合で零ベクトルを含まず、 $\span~B=\span~B_0$ となる。

$B_0=\{\Bw_1, \ldots, \Bw_m\}$ とおく。$B_0$ 自身が線形独立ならば、$C=B_0$ ととれる。$B_0$ が線形独立でないとき、 $$a_1\Bw_1+\cdots +a_m\Bw_m=0$$ かつ、少なくともひとつは $0$ でない $a_1, \ldots, a_m\in\K$ がとれる。 $a_i\neq 0$ となる $i$ をひとつとり、それを $i(1)$ とおいて、$B_1=B_0\setminus\{\Bw_{i(1)}\}$ とおく。 $$\Bw_{i(1)}=-\frac{1}{a_{i(1)}}\sum_{j\neq i(1)}a_j\Bw_j\in \span~B_1$$ であるから、$\span~B=\span~B_1$ となる。 同様にして、$B_r$ が線形独立でなければ、 $$\span(B_r\setminus\{\Bw_{i(r)}\})=\span~B_r$$ となる $i(r)$ がとれるので、$B_{m+1}=B_m\setminus\{\Bw_{i(m)}\}$ とおく。

$B_1, \ldots, B_{m-2}$ がすべて線形従属のとき、$B_{m-1}=\{\Bw_j\}$ となる $j$ がとれるが、 $\Bw_j\in B_0$ なので、$\Bw_j\neq \Bzr$ であるから、$B_{m-1}$ は線形独立である。よって、 このようにして、$B_r$ が線形独立となる $r\in\{0, 1, \ldots, m-1\}$ がとれる。このとき $B_r$ は$B$ の線形独立な部分集合で、帰納的に $$\span~B_r=\span~B_0=\span~B$$ となる。


基底の基本的な性質を示すために、線形独立なベクトルの個数に関する一般的な定理を証明する。

定理 9

$B=\{\Bv_1, \ldots, \Bv_n\}\subset V$, $C=\{\Bw_1, \ldots,\Bw_m\}\subset V$ がともに線形独立で $$\Bw_1, \ldots, \Bw_m\in \span~B$$ となるとき、$m\leq n$.

Proof.

$m>n$ と仮定して矛盾を導く。まず、$r=1, \ldots, n$ について $$\span~B=\span\left(\{\Bw_1, \ldots, \Bw_r\}\cup B\setminus \{\Bv_{k(1)}, \ldots, \Bv_{k(r)})\}\right)\ \ (*)$$ となる、相異なる添字 $k(1), \ldots, k(r)$ がとれることを $r$ に関する帰納法で示す。

$C$ は線形独立だから $\Bw_1\neq \Bzr$ である。よって $$\Bw_1=\sum_{i=1}^n a_{1i}\Bv_i, a_{1k}\neq 0$$ となる $k$ をひとつとることができる。それを $k(1)$ とおく。このとき $$\Bv_{k(1)}=\frac{1}{a_{1, k(1)}}\left(\Bw_1-\sum_{i\neq k(1)} a_{1i}\Bv_i\right)\in \span\left(\{\Bw_1\}\cup B\setminus\{\Bv_{k(1)})\}\right)$$ となるので、 $$\span~B\subset \span(\{\Bw_1\}\cup B\setminus\{\Bv_{k(1)}\})$$ となる。一方、$\Bw_1\in \span~B$ なので $$\span(\{\Bw_1\}\cup B\setminus\{\Bv_{k(1)}\})=\span~B$$ が成り立つ。

$1\leq r\leq n-1$ かつ $\span~B=\span\left(\{\Bw_1, \ldots, \Bw_r\}\cup B\setminus \{\Bv_{k(1)}, \ldots, \Bv_{k(r)})\}\right)$ となる、相異なる添字 $k(1), \ldots, k(r)$ が存在するとする。仮定より $r+1\leq n<m$ だから、 $$\Bw_{r+1}\in \span~B=\span\left(\{\Bw_1, \ldots, \Bw_r\}\cup B\setminus \{\Bv_{k(1)}, \ldots, \Bv_{k(r)})\}\right)$$ となる。$C$ は線形独立だから $$\Bw_{r+1}=\sum_{j=1}^r b_{r+1, j}\Bw_j+\sum_{i\neq k(1), \ldots, k(r)} a_{r+1, i}\Bv_i, a_{r+1, k}\neq 0$$ となる $k$ が存在する(なお、$n\geq r+1$ なので、$\Bv_i$ に関する和は空和とはならない)。 それで、そのような $k$ をひとつとり、それを $k(r+1)$ とおくと $$\Bv_{k(r+1)}=\frac{1}{a_{r+1, k(r+1)}}\left(\Bw_{r+1}-\sum_{j=1}^r b_{r+1, j}\Bw_j-\sum_{i\neq k(1), \ldots, k(r+1)} a_{r+1, i}\right)$$ より $$\begin{split} \span~B= & \span\left(\{\Bw_1, \ldots, \Bw_r\}\cup B\setminus \{\Bv_{k(1)}, \ldots, \Bv_{k(r)})\}\right) \\ \subset & \span\left(\{\Bw_1, \ldots, \Bw_{r+1}\}\cup B\setminus \{\Bv_{k(1)}, \ldots, \Bv_{k(r+1)})\}\right) \end{split}$$ となる。一方、$\Bw_{r+1}\in \span~B$ なので、 $$\span~B=\span\left(\{\Bw_1, \ldots, \Bw_{r+1}\}\cup B\setminus \{\Bv_{k(1)}, \ldots, \Bv_{k(r+1)})\}\right)$$ が成り立つ。

ここから、帰納法により $r=1, \ldots, n$ について $(*)$ が成り立つ相異なる添字 $k(1), \ldots, k(r)$ がとれることがわかる。 とくに $$\span~B=\span\left(\{\Bw_1, \ldots, \Bw_n\}\cup B\setminus \{\Bv_{k(1)}, \ldots, \Bv_{k(n)})\}\right)$$ となるが、$k(1), \ldots, k(n)$ は相異なる添え字だから、それは $1, \ldots, n$ の並び替えでなければならず、 $$\span~B=\langle \Bw_1, \ldots, \Bw_n\rangle$$ となる。$m>n$ なので、 $$\Bw_{n+1}\in \span~B=\langle \Bw_1, \ldots, \Bw_n\rangle$$ となって $C$ が線形独立であるという仮定に矛盾する。よって $m\leq n$ でなければならない。

このことから、基底を構成するベクトルの個数は基底のとり方によらずベクトル空間によってのみ一意的に定まるという、 基底に関する最も重要な事実がただちに導かれる。

定理 10

$B=\{\Bv_1, \ldots, \Bv_n\}\subset V$, $C=\{\Bw_1, \ldots,\Bw_m\}\subset V$ がともに線形独立で $$\span~B=\span~C$$ となるとき、$m=n$.

Proof.

$B, C$ がともに線形独立で、$\Bv_1, \ldots, \Bv_n\in\span~C$, $\Bw_1, \ldots, \Bw_m\in\span~B$ だから、 定理 9 を $B, C$ を入れ替えて適用して、$m\leq n$ かつ $n\leq m$、 つまり $m=n$ がわかる。

$S$ が有限集合で $W$ の基底ならば、$\# S$ は $S$ のとり方によらず、一意的に定まる。 これを $W$ の $\K$ 上の次元 (dimension) といい、$\dim_\K V$ によりあらわす。

11

$V=\K^n$ について、 4における $\Be_1, \ldots, \Be_n$ は $V$ の基底だから、 $\dim_\K V=n$ となる。このことから、$\K^n$ の他の基底も、$n$ 個のベクトルからなることがわかる。


さらに、定理 8 より、定理 9 において $B$ が線形独立であるという仮定は撤去できる。

定理 12

$C=\{\Bw_1, \ldots,\Bw_m\}\subset V$ が線形独立で $$\Bw_1, \ldots, \Bw_m\in \langle \Bv_1, \ldots, \Bv_n\rangle$$ となるとき、$m\leq n$.

Proof.

定理 8 より $B\subset \{\Bv_1, \ldots, \Bv_n\}$ かつ $\span~B=\langle \Bv_1, \ldots, \Bv_n\rangle$ となる線形独立な集合 $B$ が存在する。 $\Bw_1, \ldots, \Bw_m\in\span~B$ となるから、定理 9 より、 $$m\leq \# B\leq n$$ となる。

このことから、$V$ の次元について、つぎの$2$つの事実が導かれる。

定理 13

$V$ の生成元の個数の最小値は $\dim V$ と一致する。

Proof.

$\Bv_1, \ldots, \Bv_n$ が $V$ を生成するベクトルで、個数が最小となるものとする。 このとき $\Bv_1, \ldots, \Bv_n$ は線形独立である。というのは $\Bv_1, \ldots, \Bv_n$ が線形従属ならば 定理 8 より $\span~B=\langle\Bv_1, \ldots, \Bv_n\rangle=V$ となる $\{\Bv_1, \ldots, \Bv_n\}$ の線形独立な部分集合 $B$ がとれるが、$\{\Bv_1, \ldots, \Bv_n\}$ は線形従属なので ため、$B$ は $\{\Bv_1, \ldots, \Bv_n\}$ の真部分集合でなければならず、$n$ の最小性に反するからである。 よって、$\Bv_1, \ldots, \Bv_n$ は $V$ の基底なので $\dim V=n$ となる。

逆に、$\dim V=n$ で $\Bv_1, \ldots, \Bv_n$ を $V$ の基底とし、 $\Bw_1, \ldots, \Bw_m$ が $V$ を生成するとすると、 $\Bv_1, \ldots, \Bv_n$ は線形独立でなおかつ $$\Bv_1, \ldots, \Bv_n\in \langle\Bw_1, \ldots, \Bw_m\rangle$$ なので、定理 12より$m\geq n$ となる。 もちろん $\Bv_1, \ldots, \Bv_n$ は $V$ を生成するから、$V$ の生成元の個数の最小値は $n$ に一致する。

定理 14

$V$ の部分集合で、線形独立なものの個数の最大値は $\dim V$ と一致する。

Proof.

$V$ の部分集合で、線形独立なものの個数の最大値を $n$ とし、$\Bv_1, \ldots, \Bv_n$ を、$V$ の線形独立なベクトルとする。 このとき、$\Bv_1, \ldots, \Bv_n$ は $V$ の基底となる。実際、任意の $\Bw\in V$ について、仮定より $n+1$ 個のベクトル $\Bv_1, \ldots, \Bv_n, \Bw$ は線形従属となるから、命題 6より $\Bw\in\langle\Bv_1, \ldots, \Bv_n\rangle$ となる。よって、$\dim V=n$ となる。

逆に、$\dim V=n$ で $\Bv_1, \ldots, \Bv_n$ を $V$ の基底とすると、$\Bv_1, \ldots, \Bv_n$ は線形独立、かつ $\Bw_1, \ldots, \Bw_m\in V$ が線形独立ならば定理 12より $m\leq n$ となる。よって、$V$ の部分集合で、線形独立なものの個数の最大値は $n$ に一致する。

よって、ベクトル空間の次元と同じ個数のベクトルの組については、次に示すように、線形独立であることと生成元であることが同値である。

定理 15

ベクトル空間 $V$ の次元が $n$ であるとき、つぎの条件は同値。

$(1)$ $\Bv_1, \ldots , \Bv_n$ は $V$ の基底。
$(2)$ $\Bv_1, \ldots , \Bv_n$ は線型独立。
$(3)$ $\Bv_1, \ldots , \Bv_n$ は $V$ を生成する。
Proof.

$(2)\Longrightarrow (1).$

$\Bv_1, \ldots, \Bv_n\in V$ が線形独立とする。 このとき、$\Bv_1, \ldots, \Bv_n$ が $V$ の生成元でなければ、$\langle\Bv_1, \ldots, \Bv_n\rangle$ に属さない $V$ のベクトル $\Bv_{n+1}$ が存在するが、 命題 6より $\Bv_1, \ldots, \Bv_{n+1}$ が線形独立となって、定理 14に矛盾する。

$(3)\Longrightarrow (1).$

$\Bv_1, \ldots, \Bv_n\in V$ が生成元であるとする。 このとき、$\Bv_1, \ldots, \Bv_n$ が線形従属ならば $$a_1\Bv_1+\cdots +a_n\Bv_n=\Bzr, a_i\neq 0$$ となる $a_1, \ldots, a_n\in\K$ が存在するので、 $$\Bv_i=\sum_{1\leq j\leq n, j\neq i}-\frac{a_j}{a_i}\Bv_j$$ となるから、$\Bv_1, \ldots, \Bv_n$ から $\Bv_i$ を取り除いたものも $V$ の生成元となるが、これは 定理 13に矛盾する。

$(1)\Longrightarrow (2)(3).$

$\Bv_1, \ldots, \Bv_n$ が $V$ の基底ならば、次元の定義から $n=\dim V$ となる。

また、有限次元ベクトル空間の線形独立なベクトルは基底へと拡張できることも重要な事実である。

定理 16

$V$ が有限次元のベクトル空間で、 $\Bv_1, \ldots, \Bv_k\in V$ が $\K$ 上線形独立なベクトルのとき、 $\Bv_1, \ldots, \Bv_k$ を含む $V$ の基底が存在する。

Proof.

$n=\dim V$ を $V$ の次元とする。

一般に、$\Bv_1, \ldots, \Bv_r~(k\leq r<n)$ を、$\Bv_1, \ldots, \Bv_k$ を含む $\K$ 上線形独立なベクトルとする。 このとき、$\Bv_1, \ldots, \Bv_{r+1}$ が $\K$ 上線形独立なベクトルとするように $\Bv_{r+1}$ をとれる。実際、 $r<n=\dim V$ なので 定理 13より $\langle\Bv_1, \ldots, \Bv_r\rangle$ は $V$ を生成しない。よって、 $\langle\Bv_1, \ldots, \Bv_r\rangle$ に属さない $V$ のベクトル $\Bv_{r+1}$ がとれる。 命題 6より $\langle\Bv_1, \ldots, \Bv_{r+1}\rangle$ は線形独立である。

よって、$V$ の $n$ 個のベクトル $\Bv_1, \ldots, \Bv_n$ で、$\K$ 上線型独立なものがとれるが、 $n=\dim V$ なので定理 15より $\Bv_1, \ldots, \Bv_n$ は $V$ の基底である。


ベクトル空間の和と直和

ベクトル空間 $V$ の部分空間の共通部分は次に示すように $V$ の部分空間であることがすぐにわかるが、 $V$ の部分空間の合併集合は一般には部分空間とはならない。たとえば $V=\K^3$ について $$A=\{(x, 0, 0): x\in\K\}, B=\{(0, y, 0): y\in\K\}$$ とおくと、$(1, 0, 0), (0, 1, 0)\in A\cup B$ だが $(1, 1, 0)\not\in A\cup B$ となる。 一方で、 $$C=\{(x, y, 0): x, y\in\K\}$$ とおくと、$C$ は $V$ の部分空間で、$A, B$ はともに $C$ の部分空間となる。

$V$ の部分空間 $A$, $B$ について、$A$ のベクトルと $B$ のベクトルの和であらわされるベクトル全体の集合を $A+B=\{\Bu+\Bv: \Bu\in A, \Bv\in B\}$ とあらわす。これを $A, B$ の和 (sum) という。

定理 17

$A, B$ がともに $V$ の部分空間であるとき、 $A+B$, $A\cap B$ はともに $V$ の部分空間である。

Proof.

$\Bw_1, \Bw_2\in A+B$ とすると、 $$\Bw_1=\Bu_1+\Bv_1, \Bw_2=\Bu_2+\Bv_2$$ となる $\Bu_1, \Bu_2\in A$, $\Bv_1+\Bv_2\in B$ が存在する。よって $$\Bw_1+\Bw_2=(\Bu_1+\Bv_1)+(\Bu_2+\Bv_2)=(\Bu_1+\Bu_2)+(\Bv_1+\Bv_2)\in A+B$$ となる。また、$\Bw\in A$, $k\in\K$ について $\Bw=\Bu+\Bv$ となる $\Bu\in A, \Bv\in B$ をとると $$k\Bw=k(\Bu+\Bv)=(k\Bu)+(k\Bv)\in A+B$$ となる。これらのことから、$A+B$ は $V$ の部分空間であることがわかる。

また、 $\Bu, \Bv\in A\cap B$ のとき、 $\Bu+\Bv\in A$ かつ $\Bu+\Bv\in B$ より $\Bu+\Bv\in A\cap B$ となる。 また $\Bv\in A\cap B$ と $k\in\K$ に対して $k\Bv\in A$ かつ $k\Bv\in B$ なので $k\Bv\in A\cap B$ となる。 これらのことから、$A\cap B$ も $V$ の部分空間であることがわかる。

18

$A=\{(x, 0, 0): x\in\K\}$, $B=\{(0, y, 0): y\in\K\}$, $C=\{(x, y, 0): x, y\in\K\}$ とおくと $C=A+B$ となる。 また $A=\{(x, y, 0): x, y\in\K\}$, $B=\{(x, 0, z): y\in\K\}$ とおくと $\K^3=A+B$ となる。

より一般に、ベクトル空間 $V$ の部分空間 $A_1, A_2, \ldots, A_n$ について、和を $$A_1+A_2+\cdots +A_n=\{\Bv_1+\Bv_2+\cdots +\Bv_n: \Bv_i\in A_i~(i=1, \ldots, n)\}$$ と定めると、これも $V$ の部分空間となり、 $$A_1+A_2+A_3=A_1+(A_2+A_3)=(A_1+A_2)+A_3$$ などがすぐにわかる。

部分空間の和と共通部分の次元については、次の関係式が成り立つ。

定理 19

$V$ がベクトル空間、$A$, $B$ が $V$ の有限次元の部分空間であるとき、 $$\dim(A+B)+\dim(A\cap B)=\dim A+\dim B.$$

Proof.

$A$, $B$ が有限次元であるから定理 14より、$A\cap B$ も有限次元である。 そこで $A\cap B$ の基底を一組とって、それを $\Bu_1, \ldots, \Bu_m$ とおく。

定理 16より、$\Bu_1, \ldots, \Bu_m$ を含む $A$ の基底 $\Bu_1, \ldots, \Bu_{m+n}$ が存在する。同様に、 $\Bu_1, \ldots, \Bu_m$ を含む $B$ の基底 $\Bu_1, \ldots, \Bu_m, \Bu_{m+n+1}, \ldots , \Bu_{m+n+\ell}$ が存在する。

$\Bu_1, \ldots, \Bu_{m+n+\ell}$ は $A+B$ の基底となることを示す。 任意の $\Bv+\Bw\in A+B~(\Bv\in A, \Bw\in B)$ について、 $$\Bv=a_1 \Bu_1+\cdots +a_{m+n}\Bu_{m+n}, \Bw=b_1 \Bu_1+\cdots +b_m\Bu_m+b_{m+1}\Bu_{m+n+1}+\cdots +b_{m+\ell}\Bu_{m+n+\ell}$$ とおくと、 $$\Bv+\Bw=(a_1+b_1) \Bu_1+\cdots +(a_m+b_m)\Bu_m+a_{m+1}\Bu_{m+1}+\cdots +a_{m+n}\Bu_{m+n}b_{m+1}\Bu_{m+n+1}+\cdots +b_{m+\ell}\Bu_{m+n+\ell}$$ とあらわされるので、$A+B$ は $\Bu_1, \ldots, \Bu_{m+n+\ell}$ により生成される。

そこで、$\Bu_1, \ldots, \Bu_{m+n+\ell}$ が線形独立であることを示す。 $$k_1 \Bu_1+\cdots +k_{m+n+ell}\Bu_{m+n+\ell}=\Bzr$$ となる $k_1, \ldots, k_{m+n+\ell}\in\K$ をとる。 $$\Bw=k_{m+n+1} \Bu_{m+n+1}+\cdots +k_{m+n+ell}\Bu_{m+n+\ell}$$ とおくと、 $$\Bw=-(k_1 \Bu_1+\cdots +k_{m+n}\Bu_{m+n})\in A$$ より、$\Bw\in A\cap B$ であるから、 $$\Bw=\ell_1 \Bu_1+\cdots +\ell_m \Bu_m$$ となる $\ell_1, \ldots, \ell_m\in\K$ がとれる。よって $$\ell_1 \Bu_1+\cdots +\ell_m \Bu_m-(k_{m+n+1} \Bu_{m+n+1}+\cdots +k_{m+n+ell}\Bu_{m+n+\ell})=\Bzr$$ となる。$\Bu_1, \ldots, \Bu_m, \Bu_{m+n+1}, \ldots , \Bu_{m+n+\ell}$ は $B$ の基底である線形独立であるから $k_{m+n+1}, \ldots, k_{m+n+\ell}$ がすべて $0$ となる。よって $$k_1 \Bu_1+\cdots +k_{m+n}\Bu_{m+n}=\Bzr$$ となるが、$\Bu_1, \ldots, \Bu_{m+n}$ は $A$ の基底であり線形独立であるから $k_1, \ldots, k_{m+n}$ もすべて $0$ となる。 よって、$k_1, \ldots, k_{m+n+\ell}$ はすべて $0$ でなければならない。 このことから $\Bu_1, \ldots, \Bu_{m+n+\ell}$ が線形独立であることがわかる。

よって、$\Bu_1, \ldots, \Bu_{m+n+\ell}$ は $A+B$ の基底なので $$\dim (A+B)=m+n+\ell$$ となり、 $$\dim(A+B)+\dim(A\cap B)=2m+n+\ell=\dim A+\dim B$$ となる。

20

$A=\{(x, y, 0): x, y\in\K\}$, $B=\{(x, 0, z): y\in\K\}$, $C=\{(x, 0, 0): x\in\K\} とおくと $A+B=\K^3, A\cap B=C$ となり、一方で $$\dim (A+B)+\dim (A\cap B)=\dim(\K^3)+\dim C=4=\dim A+\dim B$$ となる。

定理 19、より具体的に上記の例からわかるように、$\dim (A\cap B)>0$ のときには、和の次元と次元の和は一致しない。 一方で、和の次元と次元の和が一致する条件について、つぎの事実がわかる。

定理 21

$A, B$ がともに $V$ の有限次元の部分空間であるとき、つぎの条件は同値である。

$(1)$ $A\cap B=\{\Bzr\}$.
$(2)$ 任意の $\Bu\in A+B$ は、$\Bv+\Bw, \Bv\in A, \Bw\in B$ の形に一意的にあらわせる。
$(3)$ $\Bv_1, \ldots, \Bv_m\in A$ が線形独立で、$\Bw_1, \ldots, \Bw_n\in B$ も線形独立ならば、

$\Bv_1, \ldots, \Bv_m, \Bw_1, \ldots, \Bw_n$ も線形独立。

$(4)$ $\Bv_1, \ldots, \Bv_m$ が $A$ の基底、$\Bw_1, \ldots, \Bw_n$ が $B$ の基底ならば $\Bv_1, \ldots, \Bv_m, \Bw_1, \ldots, \Bw_n$ は $A+B$ の基底。
$(5)$ $\dim (A+B)=\dim A+\dim B$.
Proof.

$(1)\Longrightarrow (2).$

$A+B$ の定義より、$\Bu=\Bv+\Bw$ となる $\Bv\in A$ および $\Bw\in B$ が存在することは明らかなので、 一意性を示す。 $$\Bu=\Bv_1+\Bw_1=\Bv_2+\Bw_2$$ となる $\Bv_1, \Bv_2\in A$ および $\Bw_1, \Bw_2\in B$ をとる。このとき $$\Bv_1-\Bv_2=\Bw_2-\Bw_1\in A\cap B$$ なので、$(1)$ より $$\Bv_1-\Bv_2=\Bw_2-\Bw_1=\Bzr$$ つまり $\Bv_1=\Bv_2$ かつ $\Bw_1=\Bw_2$ となる。

$(2)\Longrightarrow (3).$

$\Bv_1, \ldots, \Bv_m\in A$ が線形独立で、$\Bw_1, \ldots, \Bw_n\in B$ も線形独立だが、 $\Bv_1, \ldots, \Bv_m, \Bw_1, \ldots, \Bw_n$ は線形従属とすると、 $$a_1 \Bv_1+\cdots +a_m \Bv_m+b_1 \Bw_1+\cdots +b_n\Bw_n=\Bzr$$ となる $a_1, \ldots, a_m, b_1, \ldots, b_n\in \K$ で、そのうち少なくともひとつは $0$ ではないものがとれる。 $a_1, \ldots, a_m$ のいずれかが $0$ ではないとすると、$\Bv_1, \ldots, \Bv_m$ が線形独立と仮定したことから $$a_1 \Bv_1+\cdots +a_m \Bv_m\neq \Bzr$$ となる。よって、 $$\Bv=a_1 \Bv_1+\cdots +a_m \Bv_m, \Bw=b_1 \Bw_1+\cdots +b_n\Bw_n$$ とおくと $\Bv\neq \Bzr$ で、 $$\Bzr=\Bv+\Bw, \Bv\in A, \Bw\in B$$ とあらわされる。しかし、明らかに $\Bzr=\Bzr+\Bzr, \Bzr\in A, \Bzr\in B$ とあらわされるので、これは $(2)$ に反する。

$(3)\Longrightarrow (4).$

$\Bv_1, \ldots, \Bv_m$ が $A$ の基底、$\Bw_1, \ldots, \Bw_n$ が $B$ の基底ならば、 任意の $\Bv+\Bw\in A+B~(\Bv\in A, \Bw\in B)$ について、 $$\Bv=a_1 \Bv_1+\cdots +a_m \Bv_m, \Bw=b_1 \Bw_1+\cdots +b_n\Bw_n$$ となる $a_1, \ldots, a_m, b_1, \ldots, b_n\in \K$ がとれるから、 $$\Bv+\Bw=a_1 \Bv_1+\cdots +a_m \Bv_m+b_1 \Bw_1+\cdots +b_n\Bw_n$$ と、$\Bv_1, \ldots, \Bv_m, \Bw_1, \ldots, \Bw_n$ の線形結合によりあらわされる。 よって、$\Bv_1, \ldots, \Bv_m, \Bw_1, \ldots, \Bw_n$ は $A+B$ を生成する。 一方 $(3)$ より $\Bv_1, \ldots, \Bv_m, \Bw_1, \ldots, \Bw_n$ は線形独立であるから、 $\Bv_1, \ldots, \Bv_m, \Bw_1, \ldots, \Bw_n$ は $A+B$ の基底である。

$(4)\Longrightarrow (5).$

$m=\dim A$, $n=\dim B$ とおくと、 $m$ 個のベクトルからなる$A$ の基底 $\Bv_1, \ldots, \Bv_m$ および $n$ 個のベクトルからなる $B$ の基底 $\Bw_1, \ldots, \Bw_n$ をとることができる。 このとき $(4)$ より $\Bv_1, \ldots, \Bv_m, \Bw_1, \ldots, \Bw_n$ は $A+B$ の基底なので $$\dim (A+B)=m+n=\dim A+\dim B.$$

$(5)\Longrightarrow (1).$

$\dim (A+B)=\dim A+\dim B$ ならば定理 19より $$\dim (A\cap B)=\dim A+\dim B-\dim (A+B)=0$$ より、$A\cap B$ に属するベクトルは $\Bzr$ しかない。

定理 21の条件が成り立つとき、$A+B$ を $A$ と $B$ の直和 (direct sum) といい、 $C$ が $A$ と $B$ の直和であることを $$C=A\oplus B$$ によりあらわす。


参考文献

Serge Lang, Linear Algebra, Third Edition, Undergraduate Texts in Mathematics, Springer, 1987, doi:10.1007/978-1-4757-1949-9 (eBook of the softcover reprint version).