位相空間論3:開基

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位相空間論3:開基

位相空間の開基の概念を定義する。ある点の近傍のうちいわば代表的なものを集めたものが基本近傍系であったのに対して、位相空間の開集合のうち代表的なものを集めたものが開基であるといえる。開基の一般化である準開基についてもこの章では取り上げる。また、開基ないし準開基を指定することにより位相を定義する方法も重要であり、ここで述べる。

入門テキスト「位相空間論」

  • 位相空間論3:開基



定義 3.1 (開基)

$X$ を位相空間とする。$X$ の部分集合族 $\mathcal{B}$ が $X$ の開基(open base)であるとは、次の二つの条件を満たすことをいう。

  • $\mathcal{B}$ の任意の要素は $X$ の開集合である。
  • $X$ の任意の開集合 $U$ と任意の $x\in U$ に対して、ある $B\in\mathcal{B}$ が存在して $x\in B\subset U$ となる。$\square$

命題 3.2 (開基であることの言い換え)

$X$ を位相空間とする。$X$ の部分集合族 $\mathcal{B}$ に対して、次の二つの条件は同値である。

  • (1) $\mathcal{B}$ は $X$ の開基である。
  • (2) $\mathcal{B}$ の任意の要素は開集合で、かつ、$X$ の任意の開集合 $U$ に対して、$\mathcal{B}$ の部分集合 $\mathcal{B}'$ であって $U=\bigcup_{B\in\mathcal{B}'} B$ となるものが存在する。
Proof.

まず、(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。$\mathcal{B}$ を $X$ の開基とする。すると、$\mathcal{B}$ の任意の要素は $X$ の開集合である。次に、$X$ の開集合 $U$ を任意に与える。このとき、各 $x\in U$ に対して、$B_x\in\mathcal{B}$ を $x\in B_x\subset U$ となるように選べる。すると、$U=\bigcup_{x\in U} B_x$ である(確かめよ)。よって、$\mathcal{B}'=\{B_x\,|\,x\in B\}$ とおけば $U=\bigcup_{B\in\mathcal{B}'} B$ である。

次に、(2) $\Rightarrow$ (1) を示す。(2) を仮定する。$\mathcal{B}$ が $X$ の開基であることを示そう。まず、(2) により、$\mathcal{B}$ の任意の要素は開集合である。次に、$U\subset X$ を開集合とし、$x\in U$ とする。(2) により、$\mathcal{B}$ の部分集合 $\mathcal{B}'$ であって、$U=\bigcup_{B\in\mathcal{B}'} B$ であるようなものが存在する。すると、ある $B\in\mathcal{B}'$ に対して、$x\in B$ であるが、この $B$ に対して、$B\in\mathcal{B}$, $x\in B\subset U$ である。よって、$\mathcal{B}$ は $X$ の開基である。

例 3.3 (開集合系自体は開基)

明らかな例であるが、位相空間 $(X, \mathcal{O})$ に対して、$X$ の開集合全体の集合 $\mathcal{O}$ は $X$ の開基である。$\square$

例 3.4 (距離空間の開基)

$(X, d)$ を距離空間とする。このとき、$X$ の開球体すべての集合を $\mathcal{B}$ とする。すなわち、 $$ \mathcal{B}=\{B(x,r)\,|\,x\in X,\, r>0\} $$ とする。このとき、$\mathcal{B}$ は $X$ の開基となることを示そう。まず、開球体は開集合であるから(命題 1.16)、$\mathcal{B}$ の任意の要素は確かに $X$ の開集合となる。次に、$U$ を $X$ の開集合とし、$x\in U$ とする。距離空間における開集合の定義により、ある $r>0$ が存在して $B(x, r)\subset U$ となる。$B(x, r)\in\mathcal{B}$ であるから、これで $\mathcal{B}$ が $X$ の開基であることが示された。

さらに、$\mathcal{B}$ の部分集合 $\mathcal{B}'$ を $$ \mathcal{B}'=\{B(x, 1/n)\,|\,x\in X,\, n\in\mathbb{N}\} $$ で定義する。このとき $\mathcal{B}'$ も $X$ の開基となる。このことの証明は、例 2.7において $\mathcal{V}_x$ が基本近傍系であることの証明と同様にできるから、ここでは省略する。$\square$

例 3.5 (Euclid空間の開基)

Euclid空間 $\mathbb{R}^n$ は距離空間であるから、例 3.4により、 $$ \mathcal{B}=\{B(x,r)\,|\,x\in\mathbb{R}^n, r>0\},\quad \mathcal{B}'=\{B(x,1/m)\,|\,x\in\mathbb{R}^n,\,m\in\mathbb{N}\} $$ は $\mathbb{R}^n$ の開基である。$\mathbb{R}^n$ は非可算集合だから、これらの開基はともに非可算である。

実は、$\mathbb{R}^n$ は可算な開基をもつ。このことを見るため、座標がすべて有理数であるような $\mathbb{R}^n$ の点全体のなす部分集合 $$ \mathbb{Q}^n=\{(x_1,\ldots, x_n)\in\mathbb{R}^n\,|\,x_1,\ldots, x_n\in\mathbb{Q}\} $$ を考える。$\mathbb{Q}$ は可算集合だから、$\mathbb{Q}^n$ も可算集合である。そこで、 $$ \mathcal{B}_0=\{B(x,1/m)\,|\,x\in\mathbb{Q}^n, m\in\mathbb{N}\} $$ と定める。$\mathcal{B}_0$ は、$\mathbb{R}^n$ の開集合からなる可算集合である。$\mathcal{B}_0$ が $\mathbb{R}^n$ の開基となっていることを確かめよう。そのため、任意の開集合 $U\subset\mathbb{R}^n$ と任意の $x=(x_1,\ldots, x_n)\in U$ を与える。ある $r>0$ に対して、$B(x,r)\subset U$ である。$m\in\mathbb{N}$ を、$1/m<r$ となるようにとる。各 $i=1,\ldots, n$ に対して、有理数 $y_i\in\mathbb{Q}$ を $x_i$ に十分近くとり、$|x_i-y_i|<1/2m\sqrt{n}$ となるようにする。このとき、 $$ d(x,y)^2=\sum_{i=1}^n (x_i-y_i)^2< n\cdot \frac{1}{(2m\sqrt{n})^2}=\left(\frac{1}{2m}\right)^2 $$ となるから、$d(x,y)<1/2m$ である。$B=B(y,1/2m)$ とおくと、$B\in\mathcal{B}_0$, $x\in B$ である。あとは、$B\subset U$ を示せばよい。そこで、$z\in B=B(y,1/2m)$ とする。$d(y, z)<1/2m$ であるから、$d(x, z)\leq d(x, y)+d(y, z)<1/2m+1/2m=1/m$ となる。よって、$1/m<r$ であったことにより、$z\in B(x,1/m)\subset B(x, r)\subset U$ である。これで、$B\subset U$ が示された。

特に $n=1$ の場合を考える。この場合、上の開基 $\mathcal{B}$ は、ちょうど $\mathbb{R}$ の開区間 $(a, b)=\{x\in\mathbb{R}\,|\,a<x<b\}$ の全体と一致する。したがって、開区間全体の集合 $\{(a, b)\,|\,a,b\in\mathbb{R},\, a<b\}$ は $\mathbb{R}$ の開基である。 $\square$

高々可算な開基をもつ位相空間は特に扱いやすく、名前がついている。

定義 3.6 (第二可算)

位相空間 $X$ が第二可算(second countable)である、あるいは第二可算公理を満たすとは、高々可算な $X$ の開基が存在することをいう。$\square$

例 3.5により、Euclid空間 $\mathbb{R}^n$ は第二可算な位相空間である。

命題 3.7 (第二可算ならば第一可算)

位相空間 $X$ が第二可算であるならば、$X$ は第一可算である。

Proof.

$X$ を第二可算な位相空間とする。第二可算性の定義によって、高々可算な $X$ の開基 $\mathcal{B}$ が存在する。このとき、各 $x\in X$ に対して、 $$ \mathcal{B}_x=\{B\in\mathcal{B}\,|\,x\in B\} $$ とおく。すると、$\mathcal{B}_x$ は $\mathcal{B}$ の部分集合なので高々可算である。あとは、$\mathcal{B}_x$ が $x$ の $X$ における基本近傍系となることを示せばよい。各 $B\in\mathcal{B}_x$ に対して $B$ は $x$ を要素にもつ開集合だから、$x$ の開近傍である。よって、$\mathcal{B}_x$ は $x$ の近傍からなる集合族となっている。次に、$V$ を $x$ の開近傍とする。このとき、$\mathcal{B}$ が $X$ の開基であることから、ある $B\in\mathcal{B}$ が存在して、$x\in B\subset V$ となる。このとき $x\in B$, $B\in\mathcal{B}$ であるから $B\in\mathcal{B}_x$ である。以上で、$\mathcal{B}_x$ が $x$ の $X$ における基本近傍系であることが示された。

命題 3.7 の逆は成立しない。

例 3.8 (第一可算であるが第二可算でない空間)

$X$ を任意の非可算集合とする(たとえば、$X=\mathbb{R}$ としてもよい)。この $X$ を離散位相によって位相空間とみなす。このとき、例 2.9でみたように、各 $x\in X$ に対して、$x$ のただ一つの近傍からなる集合 $\{\{x\}\}$ は $x$ の基本近傍系である。よって、各 $x$ に対して、高々可算な(実際には、ただ一つの要素からなる)$x$ の基本近傍系が取れるから、$X$ は第一可算である。

ところが、$X$ は第二可算ではない。これを示すため、$X$ の開基 $\mathcal{B}$ を任意に与える。$\mathcal{B}$ が非可算であることを示せばよい。各 $x\in X$ に対して、$\{x\}$ は $x$ を要素にもつ開集合だから、$\mathcal{B}$ が開基であることより $x\in B\subset \{x\}$ を満たす $B\in\mathcal{B}$ が存在するが、このとき明らかに $B=\{x\}$ でなければならない。よって、各 $x\in X$ に対して $\{x\}\in\mathcal{B}$ であるから、写像 $f\colon X\to\mathcal{B}$ が $f(x)=\{x\}$ で定義される。この $f$ は単射であり $X$ は非可算集合だから、$\mathcal{B}$ も非可算集合である。$\square$

位相空間の開基は次の性質をもつ。

命題 3.9 (開基のもつ性質)

位相空間 $X$ の任意の開基 $\mathcal{B}$ に対して、次の性質が成り立つ。

  • (OB1) 任意の $x\in X$ に対して、ある $B\in\mathcal{B}$ が存在して $x\in B$ となる。
  • (OB2) 任意の $B_1, B_2\in\mathcal{B}$ と $x\in B_1\cap B_2$ に対して、$B\in\mathcal{B}$ が存在して $x\in B\subset B_1\cap B_2$ が成り立つ。
Proof.

(OB1) を示すため、$x\in X$ とする。$X$ 自身は開集合であるから、開基の定義により $x\in B\subset X$ となる $B\in\mathcal{B}$ が存在する。これで (OB1) が示された。

次に (OB2) を示すため、$B_1, B_2\in\mathcal{B}$ と $x\in B_1\cap B_2$ を任意に与える。開基は開集合からなる集合だったから、$B_1, B_2$ は開集合である。よって、$B_1\cap B_2$ も開集合となる。$x\in B_1\cap B_2$ だから、開基の定義により $B\in\mathcal{B}$ であって $x\in B\subset B_1\cap B_2$ となるものが存在する。

基本近傍系のときと同じように、次の命題により、開基を指定することによって位相空間を定めることができる。

命題 3.10 (開基から位相空間を定める)

$X$ を集合とする。$X$ の部分集合からなる族 $\mathcal{B}$ が与えられ、条件 (OB1), (OB2) を満たすとする。このとき、$X$ 上の位相 $\mathcal{O}$ であって、$\mathcal{B}$ が位相空間 $(X, \mathcal{O})$ の開基となるものが一意的に存在する。この位相 $\mathcal{O}$ は具体的には $$ \mathcal{O}=\{U\subset X\,|\,\text{任意の }x\in U\text{ に対してある }B\in\mathcal{B}\text{ が存在して }x\in B\subset U\}\qquad (\star) $$ で与えられる。

Proof.

まず、そのような位相 $\mathcal{O}$ が存在することを示す。そのため、集合族 $\mathcal{O}$ を $(\star)$ によって定義する。 このとき、$\mathcal{O}$ が開集合系の公理 (O1)-(O3) を満たすことを示そう。

(O1) を示そう。$\emptyset\in\mathcal{O}$ が成り立つことは、$\forall x((x\in\emptyset)\rightarrow\cdots)$ の形の命題が常に真となることから分かる(命題 0.8注意 1.3命題 2.11のときと同様)。$X\in\mathcal{O}$ を示すため、$x\in X$ とする。(OB1) により、ある $B\in\mathcal{B}$ に対して $x\in B\subset X$ である。よって、$X\in\mathcal{O}$ である。

(O2) を示すため、$U_1, U_2\in\mathcal{O}$ とする。$U_1\cap U_2\in\mathcal{O}$ を示すため、$x\in U_1\cap U_2$ とする。各 $i=1, 2$ に対して、$B_i\in\mathcal{B}$ を $x\in B_i\subset U_i$ となるように取れる。すると、$x\in B_1\cap B_2\subset U_1\cap U_2$ である。(OB2) により、$B\in\mathcal{B}$ であって $x\in B\subset B_1\cap B_2$ となるものが存在する。すると $x\in B\subset U_1\cap U_2$ である。これで、$U_1\cap U_2\in\mathcal{O}$ が示され、(O2) が示された。

(O3) を示すため、$\{U_\lambda\,|\,\lambda\in \Lambda\}\subset\mathcal{O}$ とする。$x\in\bigcup_{\lambda\in \Lambda} U_\lambda$ とする。すると、ある $\lambda_0\in \Lambda$ に対して、$x\in U_{\lambda_0}$ である。$U_{\lambda_0}\in\mathcal{O}$ なので、ある $B\in \mathcal{B}$ に対して、$B\subset U_{\lambda_0}$ である。したがって、$B\subset\bigcup_{\lambda\in \Lambda} U_\lambda$ である。これで、$\bigcup_{\lambda\in \Lambda} U_\lambda\in\mathcal{O}$ が示され、(O3) が示された。

以上で、位相空間 $(X, \mathcal{O})$ が得られた。次に、$\mathcal{B}$ が位相空間 $(X, \mathcal{O})$ の開基となっていることを示す。まず、$\mathcal{B}$ の各要素が $(X, \mathcal{O})$ の開集合であること、つまり $\mathcal{B}\subset\mathcal{O}$ を示す。そのため、$U\in\mathcal{B}$ とし、$x\in U$ とする。$B=U$ とおけば、$B\in\mathcal{B}$ であって $x\in B\subset U$ である。よって、$U\in\mathcal{O}$ となる。これで $\mathcal{B}\subset\mathcal{O}$ が示された。次に、$U\in\mathcal{O}$ とし、$x\in U$ とする。このとき、$\mathcal{O}$ の定義により、$x\in B\subset U$ を満たす $B\in\mathcal{B}$ が存在する。以上により、$\mathcal{B}$ が $(X, \mathcal{O})$ の開基であることが示された。

最後に、条件を満たす位相の一意性を示そう。$X$ 上の位相 $\mathcal{O}_1$, $\mathcal{O}_2$ に対して、$\mathcal{B}$ が $(X, \mathcal{O}_1)$ の開基であると同時に $(X, \mathcal{O}_2)$ の開基でもあるとする。$\mathcal{O}_1\subset\mathcal{O}_2$ を示すため、$U\in\mathcal{O}_1$ とする。このとき、$U\in\mathcal{O}_2$ となること、つまり $U$ が位相空間 $(X, \mathcal{O}_2)$ の開集合であることを命題 2.4を用いて示す。そのため、$x\in U$ とする。$\mathcal{B}$ は $(X, \mathcal{O}_1)$ の開基だから、ある $B\in\mathcal{B}$ が存在して、$x\in B\subset U$ である。ところが、$\mathcal{B}$ は $(X, \mathcal{O}_2)$ の開基でもあり、$B\in\mathcal{B}$ であるから、$B$ は $(X, \mathcal{O}_2)$ の開集合であり、よって $B$ は $x$ の $(X, \mathcal{O}_2)$ における開近傍である。したがって、命題 2.4により、$U$ は $(X, \mathcal{O}_2)$ の開集合、つまり $U\in\mathcal{O}_2$ である。これで、$\mathcal{O}_1\subset\mathcal{O}_2$ が示された。全く同様に、$\mathcal{O}_2\subset\mathcal{O}_1$ も示されるから、結局 $\mathcal{O}_1=\mathcal{O}_2$ を得る。

注意 3.11 (集合族を開基として生成される位相)

命題 3.10での位相 $\mathcal{O}$ を、$\mathcal{B}$ を開基として生成される位相という。このとき、$\mathcal{O}$ は $\mathcal{B}$ を含む最小の位相($\mathcal{B}$ を含む最も粗い位相)となっている。

このことを示そう。まず、$\mathcal{B}\subset\mathcal{O}$ は、$\mathcal{B}$ が $(X, \mathcal{O})$ の開基であることから明らかに成立する。次に、$\mathcal{O}'$ を、$\mathcal{B}\subset\mathcal{O}'$ であるような $X$ 上の任意の位相とする。このとき、$\mathcal{O}\subset\mathcal{O}'$ を示したい。そのため、$U\in\mathcal{O}$ とする。命題 3.2より、$\mathcal{B}'\subset\mathcal{B}$ が存在して $$ U=\bigcup_{B\in\mathcal{B}'} B $$ である。ところが、$\mathcal{B}'\subset\mathcal{B}\subset\mathcal{O}'$ であったので、各 $B\in\mathcal{B}'$ は $\mathcal{O}'$ の要素である。よって、上の式の右辺は、$\mathcal{O}'$ の要素の和集合になっており、よって開集合系の公理から $\mathcal{O}'$ の要素である。したがって、$U\in\mathcal{O}'$ が成り立つ。これで、$\mathcal{O}\subset\mathcal{O}'$ が示され、$\mathcal{O}$ が $\mathcal{B}$ を含む最小の位相であることが分かった。$\square$

例 3.12 (Sorgenfrey 直線)

命題 3.10を使って、実数全体の集合 $\mathbb{R}$ に通常とは異なる位相を入れて、位相空間の例を構成しよう。実数 $a, b$ が $a<b$ を満たすとき、半開区間 $[a, b)$ を $[a, b)=\{x\in\mathbb{R}\,|\,a\leq x<b\}$ で定義する。半開区間全体の集合を $\mathcal{B}$ とする。すなわち、 $$ \mathcal{B}=\{[a, b)\,|\,a, b\in\mathbb{R},\,a<b\} $$ とする。このとき、$\mathcal{B}$ は条件 (OB1), (OB2) を満たす(確かめよ)。したがって、命題 3.10により、$\mathcal{B}$ を開基とする $\mathbb{R}$ 上の位相がただ一つ存在する。集合 $\mathbb{R}$ にこの位相を入れて得られる位相空間をSorgenfrey直線(Sorgenfrey line)という。

以下ではSorgenfrey直線を $\mathbb{S}$ で表す。各 $x\in\mathbb{S}$ に対して、次の $\mathcal{U}_x$ は $x$ の $\mathbb{S}$ における基本近傍系である。 $$ \mathcal{U}_x=\{[x, x+1/n)\,|\,n\in\mathbb{N}\} $$ 実際、$V$ を $x$ の $\mathbb{S}$ における開近傍とすると、$\mathcal{B}$ が $\mathcal{S}$ の開基であることから、$x\in [a, b)\subset V$ となる $a, b\in\mathbb{R}$ が存在する。このとき、$a\leq x<b$ である。さらに、$n\in\mathbb{N}$ を、$x+1/n\leq b$ となるように取れる。すると、$x\in [x, x+1/n)\subset [a, b)\subset V$ である。これで、$\mathcal{U}_x$ が $x$ の $\mathbb{S}$ における基本近傍系であることが示された。$\mathcal{U}_x$ は可算であるから、これでSorgenfrey直線 $\mathbb{S}$ は第一可算であることも分かった。

$\mathbb{R}$ の通常の位相を $\mathcal{O}_\mathbb{R}$ で表し、$\mathbb{S}$ の位相を $\mathcal{O}_\mathbb{S}$ で表す。このとき、 $$ \mathcal{O}_\mathbb{R}\subset \mathcal{O}_\mathbb{S} $$ であることを示そう。そのために、まず任意の開区間 $(a, b)=\{x\in\mathbb{R}\,|\,a<x<b\}$ を考える。$(a, b)=\bigcup_{a<x<b}[x, b)$ と表されるから、$(a, b)\in\mathcal{O}_\mathbb{S}$ である。よって、開区間全体の集合を $\mathcal{I}$ とすれば $\mathcal{I}\subset\mathcal{O}_\mathbb{S}$ である。ところが、例 3.5の最後の段落で述べたように、$\mathcal{I}$ は通常の位相を入れた $\mathbb{R}$ の開基である。よって注意 3.11により、$\mathcal{O}_\mathbb{R}$ は $\mathcal{I}$ を含む最小の位相だから、$\mathcal{O}_\mathbb{R}\subset\mathcal{O}_\mathcal{S}$ であることが分かった。こうして、Sorgenfrey 直線の位相は $\mathbb{R}$ の通常の位相よりも細かいことが分かった。

Sorgenfrey直線 $\mathbb{S}$ は第二可算ではない。これを示すため、$\mathbb{S}$ が高々可算な開基 $\mathcal{B}$ をもったとする。$\mathcal{B}$ の要素で空でなく下に有界であるもの全体を $\mathcal{B}'$ とし、写像 $f\colon\mathcal{B}'\to\mathbb{R}$ を、$f(B)=\inf B$ によって定義する。ここで、$\inf B$ は集合 $B$ の下限を表す。$\mathcal{B}'$ は高々可算であるから、像 $f(\mathcal{B}')$ は高々可算であるが、$\mathbb{R}$ は非可算なので、点 $x\in\mathbb{R}\setminus f(\mathbb{B}')$ が存在する。すると、$x\in B\subset [x, x+1)$ となる $B\in\mathcal{B}$ が存在するが、このとき $B$ は要素 $x$ をもち、下界 $x$ をもつから $B\in\mathcal{B}'$ であり、$x=\inf B=f(B)$ となる。これは $x\in\mathbb{R}\setminus f(\mathbb{B}')$ としていたことに反する。以上で、$\mathbb{S}$ は第二可算ではないことが示された。 $\square$

開基の条件をさらに弱めた準開基の概念を定義する。

定義 3.13 (準開基)

$X$ を位相空間、$\mathcal{S}$ を $X$ の部分集合族とする。$\mathcal{S}$ が $X$ の準開基(subbase)であるとは、$\mathcal{S}$ の有限個の要素の共通部分全体が $X$ の開基になること、つまり次の集合 $\mathcal{B}_\mathcal{S}$ が $X$ の開基になることをいう。 $$ \mathcal{B}_\mathcal{S}=\left\{\bigcap_{i=1}^n S_i\,\bigg|\,n\in\mathbb{N},\, S_1,\ldots, S_n\in\mathcal{S}\right\} $$ このとき $\mathcal{S}\subset\mathcal{B}_\mathcal{S}$ であるから、$\mathcal{S}$ の要素はすべて $X$ の開集合となることに注意する。また、$\mathcal{S}$ 自身が開基である場合は、$\mathcal{S}\subset\mathcal{B}_\mathcal{S}$ であることから $\mathcal{B}_\mathcal{S}$ も開基となる。よって、開基は常に準開基となる。$\square$

例 3.14 (実数直線の準開基)

$\mathbb{R}$ において、次の部分集合族を考える。 $$ \mathcal{S}=\{(a, +\infty)\,|\,a\in\mathbb{R}\}\cup\{(-\infty, b)\,|\,b\in\mathbb{R}\} $$ つまり、$\mathcal{S}$ を左右どちらかだけに無限な開区間の全体とする。このとき、$\mathcal{S}$ は $\mathbb{R}$ の準開基であることを示そう。

定義 3.13の $\mathcal{B}_\mathcal{S}$ を考え、これが $\mathbb{R}$ の開基であることを示そう。$\mathcal{S}$ の要素はすべて $\mathbb{R}$ の開集合なので、 その有限個の共通部分全体である $\mathcal{B}_\mathcal{S}$ の要素もすべて $\mathbb{R}$ の開集合である。 次に、$U\subset\mathbb{R}$ を開集合、$x\in U$ とする。すると、 ある $r>0$ に対して、$B=B(x,r)$ とおくとき $B=(x-r, x+r)\subset U$ であるが、ここで $$ B=(x-r, x+r)=(x-r, +\infty)\cap (-\infty, x+r) $$ であるから $B\in\mathcal{B}_\mathcal{S}$ である。これと $x\in B\subset U$ により、$\mathcal{B}_\mathcal{S}$ が $\mathbb{R}$ の開基であることが示された。 よって、$\mathcal{S}$ は $\mathbb{R}$ の準開基である。

命題 3.15 (準開基のもつ性質)

位相空間 $X$ の任意の準開基 $\mathcal{S}$ に対して、次の性質が成り立つ。

  • (SB) 任意の $x\in X$ に対して、ある $S\in\mathcal{S}$ が存在して $x\in S$ となる。
Proof.

$x\in X$ とする。$X$ 自身は開集合であるから、 定義 3.13 の $\mathcal{B}_\mathcal{S}$ の要素 $B$ が存在して、$x\in B\subset X$ となる。$\mathcal{B}_\mathcal{S}$ の定義から、ある $n\in\mathbb{N}$ と $S_1,\ldots, S_n\in\mathcal{S}$ に対して $B=\bigcap_{i=1}^n S_i$ と表すことができる。よって、$x\in B\subset S_1$ となるので、求める $S\in\mathcal{S}$ としては $S_1$ を取ればよい。

命題 3.15の(SB)は非常に弱い条件であるが、この(SB)を満たしさえすれば、集合族はある位相の準開基になることができる。つまり、次が成り立つ。

命題 3.16 (準開基から位相空間を定める)

$X$ を集合とする。$X$ の部分集合からなる族 $\mathcal{S}$ が与えられ、条件 (SB) を満たすとする。このとき、$X$ 上の位相 $\mathcal{O}$ であって、$\mathcal{S}$ が位相空間 $(X, \mathcal{O})$ の準開基となるものが一意的に存在する。

Proof.

与えられた $\mathcal{S}$ に対して、$\mathcal{B}_\mathcal{S}$ を定義 3.13の通りとする。すると、任意の $B_1, B_2\in\mathcal{B}_\mathcal{S}$ に対して $B_1\cap B_2\in\mathcal{B}_\mathcal{S}$ となることに注意する(確かめよ)。このことと、$\mathcal{S}$ が (SB) を満たすことから、$\mathcal{B}_\mathcal{S}$ が (OB1), (OB2) を満たすことが分かり、よって、命題 3.10により、$\mathcal{B}_\mathcal{S}$ を開基とする位相、すなわち $\mathcal{S}$ を準開基とする位相が一意的に存在することが分かる。

開集合系の公理 (O1)-(O3) は、集合に位相を定めるときには一つの大きな制約である。命題 3.16はある意味でその制約を大幅に緩和するものである。つまり、(O1)-(O3) を満たさない集合族 $\mathcal{S}$ についても、(それが非常に弱い条件 (SB) を満たしさえすれば)$\mathcal{S}$ に基づいて位相を定めることができるのである。

注意 3.17 (集合族を準開基として生成される位相)

命題 3.16 での位相 $\mathcal{O}$ を、$\mathcal{S}$ を準開基として生成される位相という。このとき、$\mathcal{B}_\mathcal{S}$ は $(X, \mathcal{O})$ の開基なのだから、$\mathcal{O}$ は $\mathcal{B}_\mathcal{S}$ を開基として生成される位相でもあることに注意する。

このときも注意 3.11のときと同様に、$\mathcal{O}$ は $\mathcal{S}$ を含む最小の位相($\mathcal{S}$ を含む最も粗い位相)となっている。このことを示そう。まず、$\mathcal{S}\subset\mathcal{O}$ は、$\mathcal{S}$ が $(X, \mathcal{O})$ の開基であることから明らかに成立する。次に、$\mathcal{O}'$ を、$\mathcal{S}\subset\mathcal{O}'$ であるような $X$ 上の任意の位相とする。すると、$\mathcal{B}_\mathcal{S}\subset\mathcal{O}'$ である。実際、$B\in\mathcal{B}_\mathcal{S}$ とすると $B=\bigcap_{i=1}^n S_i$, $S_i\in\mathcal{S}$ と表すことができるが、$\mathcal{S}\subset\mathcal{O}'$ により $S_i\in\mathcal{O}'$ であり、よって開集合系の公理により $B=\bigcap_{i=1}^n S_i\in\mathcal{O}'$ となる。これで、$\mathcal{B}_\mathcal{S}\subset\mathcal{O}'$ が示された。すでに注意したように、$\mathcal{O}$ は $\mathcal{B}_\mathcal{S}$ を開基として生成される位相だから、注意 3.11で示したことより、$\mathcal{O}\subset\mathcal{O}'$ である。これが示したいことであった。$\square$

(SB) を満たす集合族 $\mathcal{S}$ は、それ自体では開集合系の公理 (O1)-(O3) を満たさないかもしれない。$\mathcal{S}$ を準開基として生成される位相 $\mathcal{O}$ というのは、一言で言えば、(O1)-(O3) を満たすために最低限必要な集合を $\mathcal{S}$ に加えて得られる位相である。


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