位相空間論9:コンパクト性

提供: Mathpedia

位相空間論9:コンパクト性

コンパクト性は、位相空間がある意味で「有限な大きさをもつ」ことを表した概念であり、位相空間論でも最も重要な位置を占めるものである。Euclid空間 $\mathbb{R}^n$ の部分空間に関しては、コンパクトであることと有界な閉集合であることが同値になることが示される。


入門テキスト「位相空間論」

  • 位相空間論9:コンパクト性


コンパクト性の定義を述べるため、まず、位相空間の被覆の定義を述べる。

定義 9.1 (被覆)

$X$ を位相空間とする。$X$ の部分集合族 $\mathcal{A}$ が $X$ の被覆(cover)であるとは、$\mathcal{A}$ の要素すべての和集合が $X$ に一致すること、すなわち$X=\bigcup_{A\in\mathcal{A}} A$ が成り立つことをいう。被覆 $\mathcal{A}$ の要素がすべて $X$ の開集合であるとき、$\mathcal{A}$ を $X$ の開被覆(open cover)であるという。被覆 $\mathcal{A}$ の部分集合 $\mathcal{B}$ が再び $X$ の被覆であるとき、$\mathcal{B}$ を $\mathcal{A}$ の部分被覆(subcover)という。$\square$

上で述べた中で、特に重要なものが開被覆の概念である。改めて述べれば、位相空間 $X$ の開被覆とは、$X$ の開集合からなる族 $\mathcal{U}$ であって、$X=\bigcup_{U\in\mathcal{U}} U$ となるようなもののことである。これを用いて、位相空間のコンパクト性は次のように定義される。

定義 9.2 (コンパクト性)

位相空間 $X$ がコンパクト(compact)であるとは、$X$ の任意の開被覆に対して、その有限な部分被覆が存在することをいう。$\square$

すなわち、位相空間 $X$ がコンパクトであるとは、開被覆 $\mathcal{U}$ が任意に与えられたとき、$\mathcal{U}$ の有限個の要素 $U_1, \ldots, U_n$ を取り出し $\{U_1,\ldots, U_n\}$ が $X$ の被覆であるようにできること、つまり $X=\bigcup_{i=1}^n U_i$ となるようにできることをいう。なお、コンパクト性は、開集合の言葉で書かれていることから分かるように位相的性質(注意 5.24)である。つまり、$X,$ $Y$ が同相な位相空間であって $X$ がコンパクトならば $Y$ もコンパクトとなる。コンパクトな位相空間をコンパクト空間(compact space)という。(以下では、位相空間を単に空間(space)と呼ぶこともある。例えば、第二可算な空間、距離化可能空間、などのように言う。)

例 9.3 (有限な位相空間はコンパクト)

位相空間 $X$ が集合として有限集合であれば、$X$ はコンパクトである。実際、このときある $n$ に対して $X=\{x_1,\ldots, x_n\}$ と表すことができる。$X$ の開被覆 $\mathcal{U}$ を任意に与えると、各 $i=1,\ldots,n$ に対して $U_i\in\mathcal{U}$ を $x_i\in U_i$ となるように取れる。このとき、$\{U_1,\ldots, U_n\}$ は $\mathcal{U}$ の有限な部分被覆である。したがって、$X$ はコンパクトである。$\square$

例 9.4 (実数直線やEuclid空間はコンパクトでない)

実数直線 $\mathbb{R}$ はコンパクトでない。このことを示すには、$\mathbb{R}$ のある開被覆 $\mathcal{U}$ であって、有限な部分被覆をもたないようなものが存在することを示せばよい。そこで、$\mathcal{U}=\{(-m,m)\,|\,m\in\mathbb{N}\}$ という $\mathbb{R}$ の開被覆を考える。この開被覆 $\mathcal{U}$ が有限な部分被覆をもたないことを示せばよい。 そこで、$\mathcal{U}$ が有限な部分被覆 $\mathcal{V}$ をもったとして矛盾を導こう。$\mathcal{V}$ は、ある有限個の $m_1,\ldots,m_k\in\mathbb{N}$ を用いて $\mathcal{V}=\{(-m_i, m_i)\,|\,i=1,\ldots,k\}$ と表される。そこで、$m=\max\{m_i\,|\,i=1,\ldots,k\}$ とおけば、$\bigcup_{V\in\mathcal{V}} V=\bigcup_{i=1}^k (-m_i, m_i)=(-m,m)$ となるから、$m\in\mathbb{R}\setminus\bigcup_{V\in\mathcal{V}} V$ である。したがって、$\bigcup_{V\in\mathcal{V}} V\neq\mathbb{R}$ となるから、これは $\mathcal{V}$ が $\mathbb{R}$ の被覆であることに反する。これで、$\mathbb{R}$ の開被覆 $\mathcal{U}$ に有限な部分被覆が存在しないことが示され、よって $\mathbb{R}$ はコンパクトでないことが示された。

より一般に、Euclid空間 $\mathbb{R}^n$ はコンパクトではない。それを示すには、$\mathbb{R}^n$ の開被覆 $\mathcal{U}$ として、原点を中心とする開球体による開被覆 $\mathcal{U}=\{B(0,m)\,|\,m\in\mathbb{N}\}$ を考え、さきほどと同様に議論すればよい。$\square$

例 9.5 (補有限位相はコンパクト)

$X$ を集合とし、これを補有限位相(例 1.8)により位相空間とみなす。このとき、$X$ がコンパクトとなることを示そう。 そこで、$X$ の開被覆 $\mathcal{U}$ を任意に与える。$\mathcal{U}$ が有限な部分被覆をもつことを示したい。空集合 $\emptyset$ が $\mathcal{U}$ に属している場合は、$\mathcal{U}\setminus\{\emptyset\}$ ももちろん $X$ の開被覆となるから、はじめから $\emptyset\notin\mathcal{U}$ としてよい。このとき、補有限位相の定義より、 $$ \mathcal{U}=\{X\setminus F_\lambda\,|\,\lambda\in\Lambda\} $$ と表すことができる。ただし、$F_\lambda$ は $X$ の有限部分集合である。$\Lambda=\emptyset$ の場合は $\mathcal{U}$ が $X$ の被覆であることにより $X=\emptyset$ なので、$\emptyset (\subset\mathcal{U})$ が $\mathcal{U}$ の有限な部分被覆である。よって、$\Lambda\neq\emptyset$ としてよいので、一つ $\lambda\in\Lambda$ を取り固定する。このとき、$F_\lambda=\{x_1,\ldots, x_n\}$ と表すことができる。$\mathcal{U}$ は $X$ の被覆なので、各 $i=1,\ldots, n$ に対して $x_i\in X\setminus F_{\lambda_i}$ となるような $\lambda_i\in\Lambda$ が取れる。そこで、 $$ \mathcal{U}'=\{X\setminus F_\lambda\}\cup\{X\setminus F_{\lambda_i}\,|\,i=1,\ldots,n\} $$ とおけば、$\mathcal{U}'$ は $\mathcal{U}$ の有限な部分被覆である。これで $X$ がコンパクトとなることが示された。$\square$


位相空間の部分集合には、断りのない限り相対位相を考えるのであった。このことから、位相空間の部分集合についても、自動的にコンパクト性の概念が定義されていることになる。すなわち、位相空間 $X$ の部分集合 $K$ がコンパクトであるとは、$K$ が $X$ からの相対位相についてコンパクトになることである。このような状況では、$K$ は $X$ のコンパクト集合(compact set)である、という言い方をすることもある。

定義 9.6 (部分集合の被覆)

$X$ を位相空間とし、$A$ を $X$ の部分集合とする。$\mathcal{U}$ が $A$ の $X$ における開被覆であるとは、$\mathcal{U}$ の要素がすべて $X$ の開集合であって、かつ $A\subset\bigcup_{U\in\mathcal{U}} U$ となることをいう。また、$\mathcal{U}$ が $A$ の $X$ における開被覆であるとき、$\mathcal{V}$ が $\mathcal{U}$ の部分被覆であるとは、$\mathcal{V}\subset\mathcal{U}$ であって、かつ $\mathcal{V}$ が $A$ の $X$ における開被覆であることをいう。$\square$

この用語は少々紛らわしいので注意する。位相空間 $X$ の部分集合 $A$ に対して、「$A$ の開被覆」と言った場合、その要素は部分空間 $A$ の開集合であるが、「$A$ の $X$ における開被覆」と言った場合は、その要素は $X$ の開集合である。

命題 9.7 (部分集合のコンパクト性の特徴づけ)

$X$ を位相空間とし、$A$ を $X$ の部分集合とする。このとき、次は同値である。

  • (1) $A$ は($X$ からの相対位相について)コンパクトである。
  • (2) $A$ の $X$ における任意の開被覆は、有限な部分被覆をもつ。

証明

(1) $\Rightarrow$ (2) $A$ がコンパクトであるとする。(2) を示すため、$\mathcal{U}$ を $A$ の $X$ における開被覆とする。このとき、$\mathcal{V}=\{U\cap A\,|\,U\in\mathcal{U}\}$ とおけば、$\mathcal{V}$ は $A$ の開被覆である。よって、$A$ のコンパクト性から $\mathcal{V}$ は有限部分被覆 $\mathcal{V}'=\{V_1,\ldots, V_n\}$ をもつ。$\mathcal{V}'\subset\mathcal{V}$ だから、各 $i=1,\ldots,n$ に対して $V_i$ はある $U_i\in\mathcal{U}$ を用いて $V_i=U_i\cap A$ と表される。いま $(\bigcup_{i=1}^n U_i)\cap A=\bigcup_{i=1}^n (U_i\cap A)=\bigcup_{i=1}^n V_i=A$ なので、$A\subset \bigcup_{i=1}^n U_i$ である。よって、$\{U_1,\ldots,U_n\}$ は $\mathcal{U}$ の有限な部分被覆であるから、これで (2) が示された。

(2) $\Rightarrow$ (1) $X$ の部分集合 $A$ に対して (2) が成り立つとする。$A$ がコンパクトであることをいうため、$A$ の開被覆 $\mathcal{V}$ を任意に与える。$\mathcal{V}=\{V_\lambda\,|\,\lambda\in\Lambda\}$ と添字づければ、各 $\lambda\in\Lambda$ に対して $V_\lambda$ は部分空間 $A$ の開集合だから、$X$ の開集合 $U_\lambda$ を選んで $U_\lambda\cap A=V_\lambda$ とできる。このとき、$A\subset\bigcup_{\lambda\in\Lambda} U_\lambda$ なので $\mathcal{U}=\{U_\lambda\,|\,\lambda\in\Lambda\}$ は $A$ の $X$ における開被覆である。よって、(2) により、$\mathcal{U}$ の有限個の要素 $U_{\lambda_1},\ldots, U_{\lambda_n}$ で $A\subset \bigcup_{i=1}^n U_{\lambda_i}$ となるものが存在する。このとき $\mathcal{V}'=\{U_{\lambda_i}\cap A\,|\,i=1,\ldots,n\}=\{V_{\lambda_i}\,|\,i=1,\ldots,n\}$ とおくと、$\mathcal{V}'$ は $\mathcal{V}$ の有限な部分被覆である。$\square$

命題 9.8 (コンパクト集合の有限和はコンパクト)

$X$ を位相空間とし、$K_1,\ldots, K_n\subset X$ がそれぞれコンパクトであるとする。このとき、$\bigcup_{i=1}^n K_i$ はコンパクトである。

証明

$n=1$ の場合は明らかである。$n=2$ の場合を示せば、あとは帰納法で一般の場合が示されるから、あとは $n=2$ の場合のみ考えればよい。命題 9.7を用いて、$K_1\cup K_2$ がコンパクトとなることを示そう。$\mathcal{U}$ を $K_1\cup K_2$ の $X$ における開被覆とする。すると、$\mathcal{U}$ は $K_1$ の $X$ における開被覆だから、命題 9.7により有限個の $U_1,\ldots, U_k\in\mathcal{U}$ が存在して、$K_1\subset \bigcup_{i=1}^k U_i$ となる。同様に、有限個の $V_1,\ldots, V_l\in\mathcal{U}$ が存在して、$K_2\subset \bigcup_{j=1}^l V_j$ となる。このとき、$K_1\cup K_2\subset \bigcup_{i=1}^k U_i\cup\bigcup_{j=1}^l V_j$ である。よって、命題 9.7により、$K_1\cup K_2$ はコンパクトである。$\square$

命題 9.9 (コンパクト空間の閉集合はコンパクト)

$X$ をコンパクト空間とし、$F$ を $X$ の閉集合とする。このとき、$F$ はコンパクトである。

証明

$F$ をコンパクト空間 $X$ の閉集合とする。命題 9.7を用いて、$F$ がコンパクトとなることを示そう。$\mathcal{U}$ を $F$ の $X$ における開被覆とする。このとき、$\mathcal{V}=\mathcal{U}\cup\{X\setminus F\}$ は $X$ の開被覆である。よって、$X$ のコンパクト性により、$\mathcal{V}$ の有限部分被覆 $\mathcal{V}'$ が存在する。$\mathcal{U}'=\mathcal{V}'\setminus\{X\setminus F\}$ とおけば、$\mathcal{U}'$ は $\mathcal{U}$ の有限な部分被覆である。よって 命題 9.7により、$F$ はコンパクトである。$\square$

命題 9.10 (コンパクト空間の連続像はコンパクト)

$X$ をコンパクト空間、$Y$ を位相空間とし、$f\colon X\to Y$ を連続写像とする。このとき、$f(X)$ はコンパクトである。

証明

$f\colon X\to Y$ をコンパクト空間 $X$ からの連続写像とする。命題 9.10を用いて、$f(X)$ がコンパクトとなることを示そう。$\mathcal{U}=\{U_\lambda\,|\,\lambda\in\Lambda\}$ を $f(X)$ の $Y$ における開被覆とする。すると、$\{f^{-1}(U_\lambda)\,|\,\lambda\in\Lambda\}$ は $X$ の開被覆となるから、その有限な部分被覆 $\{f^{-1}(U_{\lambda_1}),\ldots, f^{-1}(U_{\lambda_n})\}$ が存在する。このとき、すぐに確かめられるように、$\{U_{\lambda_1},\ldots, U_{\lambda_n}\}$ は $\mathcal{U}$ の有限な部分被覆を与えている。よって、命題 9.10により $f(X)$ はコンパクトである。$\square$

コンパクト性は開被覆の言葉で定義されたが、場合によっては補集合をとって閉集合によって定式化するのが便利である。それを述べるための用語を定義する。

定義 9.11 (有限交叉的な集合族)

$X$ を位相空間とし、$\mathcal{A}$ をその部分集合族とする。$\mathcal{A}$ が有限交叉的である、あるいは有限交叉性(finite intersection property)をもつとは、任意の有限部分集合 $\mathcal{A}'\subset\mathcal{A}$ に対して $\bigcap_{A\in\mathcal{A}'} A\neq\emptyset$ となることをいう。$\square$

命題 9.12 (コンパクト性と有限交叉的な閉集合族)

位相空間 $X$ に対して、次は同値である。

  • (1) $X$ はコンパクトである。
  • (2) $X$ の閉集合からなる任意の有限交叉的な族 $\mathcal{F}$ に対して、$\bigcap_{F\in\mathcal{F}}F\neq\emptyset$ である。

証明

(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。$X$ をコンパクト空間とし、$\mathcal{F}$ を $X$ の閉集合からなる有限交叉的な族とする。$\bigcap_{F\in\mathcal{F}} F=\emptyset$ であったとして矛盾を導こう。このとき $\bigcup_{F\in\mathcal{F}} (X\setminus F)=X\setminus \bigcap_{F\in\mathcal{F}} F=X\setminus\emptyset=X$ であるから、$\mathcal{U}=\{X\setminus F\,|\,F\in\mathcal{F}\}$ は $X$ の開被覆である。$X$ はコンパクトであるから、$\mathcal{U}$ は有限な部分被覆 $\mathcal{U}'$ をもつが、$\mathcal{U}'$ は $F_1,\ldots, F_n\in\mathcal{F}$ を用いて $\mathcal{U}'=\{X\setminus F_i\,|\,i=1,\ldots,n\}$ という形に表される。すると $X\setminus \bigcap_{i=1}^n F_i=\bigcup_{i=1}^n (X\setminus F_i)=X$ であるから、$\bigcap_{i=1}^n F_i=\emptyset$ である。これは、$\mathcal{F}$ が有限交叉的であることに反する。

(2) $\Rightarrow$ (1) を示す。(2) を仮定し、$X$ がコンパクトでないとして矛盾を導こう。このとき開被覆 $\mathcal{U}$ であって、有限な部分被覆をもたないようなものが存在する。$\mathcal{F}=\{X\setminus U\,|\,U\in\mathcal{U}\}$ は閉集合からなる族である。いま、有限個の $F_1,\ldots, F_n\in\mathcal{F}$ を任意に与えると、ある $U_i\in\mathcal{U}$ に対して $F_i=X\setminus U_i\,(i=1,\ldots,n)$ となるが、このとき $\mathcal{U}$ の取り方から $\bigcup_{i=1}^n U_n\neq X$ なので、$\bigcap_{i=1}^n F_i=\bigcap_{i=1}^n (X\setminus U_i)=X\setminus \bigcup_{i=1}^n U_i\neq\emptyset$ となる。したがって、$\mathcal{F}$ は有限交叉的な族であるから、(2) により、$\bigcap_{F\in\mathcal{F}} F\neq\emptyset$ である。すると、$X\setminus \bigcup_{U\in\mathcal{U}} U=\bigcap_{U\in\mathcal{U}} (X\setminus U)=\bigcap_{F\in\mathcal{F}} F\neq\emptyset$ であるから、$\bigcup_{U\in\mathcal{U}} U\neq X$ であり、これは $\mathcal{U}$ が $X$ の被覆であることに反する。$\square$

命題 9.13 (コンパクト空間の空でない閉集合の減少列の交わりは空でない)

$X$ をコンパクト空間、$(F_i)_{i=1}^\infty$ を $X$ の空でない閉集合の列で、各 $i\in\mathbb{N}$ に対して $F_{i+1}\subset F_i$ を満たすものとする。このとき、$\bigcap_{i=1}^\infty F_i$ は空でない。

証明

$\mathcal{F}=\{F_i\,|\,i\in\mathbb{N}\}$ とおくと、$\mathcal{F}$ は $X$ の閉集合からなる族であるが、$\mathcal{F}$ は有限交叉的である。実際、任意に有限個の $i_1,\ldots,i_n\in\mathbb{N}$ を与えると、$i_0=\max\{i_1,\ldots,i_n\}$ とおくとき、仮定により $F_{i_1}\cap\cdots\cap F_{i_n}=F_{i_0}\neq\emptyset$ となる。したがって、$X$ のコンパクト性と命題 9.12により、$\bigcap_{F\in\mathcal{F}} F\neq\emptyset$ である。すなわち、$\bigcap_{i=1}^\infty F_i\neq\emptyset$ である。$\square$

例 9.14 (命題 9.13 でコンパクト性は本質的)

命題 9.13の主張は、$X$ がコンパクトであるという仮定なしには成り立たない。たとえば、$\mathbb{R}$ はコンパクトでない空間であるが(例 9.4)、$\mathbb{R}$ の空でない閉集合 $F_i$ として $F_i=[i, \infty)\,(i\in\mathbb{N})$ を考えると、$F_{i+1}\subset F_i$ であるが $\bigcap_{i=1}^\infty F_i=\emptyset$ である。$\square$


位相空間の開基が与えられているとき、コンパクト性を判定するには、開基の要素による被覆だけを考慮すれば十分である。

命題 9.15 (開基と部分集合のコンパクト性)

$X$ を位相空間とし、$A$ をその部分集合とする。$\mathcal{B}$ を $X$ の開基とするとき、以下は同値である。

  • (1) $A$ はコンパクトである。
  • (2) $\mathcal{V}\subset\mathcal{B}$ であるような $A$ の $X$ における任意の開被覆 $\mathcal{V}$ は有限な部分被覆をもつ。

証明

(1) $\Rightarrow$ (2) は命題 9.7から明らかである。(2) $\Rightarrow$ (1) を示そう。(2) を仮定し、$A$ の $X$ における開被覆 $\mathcal{U}$ を任意に与える。各 $x\in A$ に対して、$x\in U_x$ であるような $U_x\in\mathcal{U}$ を選び、さらに $x\in B_x\subset U_x$ となるような $B_x\in\mathcal{B}$ を選ぶ。このとき、$\mathcal{V}=\{B_x\,|\,x\in X\}$ は $A$ の $X$ における開被覆だから、 (2) により有限な部分被覆 $\{B_{x_i}\,|\,i=1,\ldots,n\}$ をもつ。このとき、$\{U_{x_i}\,|\,i=1,\ldots,n\}$ は $\mathcal{U}$ の有限な部分被覆となる。したがって、命題 9.7により、$A$ はコンパクトである。$\square$

上で $A=X$ の場合を考えると、次を得る。

命題 9.16 (開基とコンパクト性)

$\mathcal{B}$ を位相空間 $X$ の開基とするとき、以下は同値である。

  • (1) $X$ はコンパクトである。
  • (2) $\mathcal{V}\subset\mathcal{B}$ であるような $X$ の任意の開被覆 $\mathcal{V}$ は有限な部分被覆をもつ。$\square$

実数直線において有界閉区間がコンパクトになることを示そう。この事実はコンパクト空間の様々な例の基盤をなしているものであり、証明にもそれなりの手数がかかる。そこで、いままでの「命題」にかえて「定理」の題名をつけることにしよう。

定理 9.17 (有界閉区間はコンパクト)

$a,$ $b$ を $a<b$ であるような実数とする。このとき、閉区間 $[a, b]=\{x\in\mathbb{R}\,|\,a\leq x\leq b\}$ はコンパクトである。

証明

命題 9.7を用いて証明しよう。 そこで、$[a, b]$ の $\mathbb{R}$ における開被覆 $\mathcal{V}$ を任意に与える。閉区間 $[a, x]$ が $\mathcal{V}$ の有限個の要素で覆われているような $x\in [a,b]$ の全体を $S$ としよう。すなわち、 $$ S=\left\{x\in [a, b]\,\bigg|\, \mathcal{V}\text{ の有限部分集合 }\mathcal{V}'\text{ で }[a, x]\subset \bigcup_{V\in\mathcal{V}'} V\text{ となるものが存在する}\right\} $$ とする。ただし、ここでは $[a,a]=\{a\}$ と定義する。このとき、$b\in S$ であることを示せばよい。

$a\in S$ であるから、$S\neq\emptyset$ である。そこで、$x_0=\sup S$ とすると、$a\leq x_0\leq b$ である。$a\in V$ となるような $V\in\mathcal{V}$ を選ぶと、$a<a'\leq b$ となる $a'$ で $[a, a']\subset V$ となるものが存在する。このとき $[a, a']$ は $\mathcal{V}$ の一個の要素 $V$ で覆われているから、$a'\in S$ となり、よって $x_0=\sup S\geq a'>a$ である。したがって、$a<x_0\leq b$ である。

次に、$x_0=b$ であることを示そう。そうでないとすると、$a<x_0<b$ である。$x_0\in V$ となるような $V\in\mathcal{V}$ を選ぶと、$a<a'<x_0<b'<b$ かつ $[a', b']\subset V$ となるような $a', b'$ が存在する。このとき、$x_0$ は $S$ の上界だが $a'$ は $S$ の上界ではないので、ある $a'<a^{\prime\prime}\leq x_0$ となる $a^{\prime\prime}$ が存在して、$[a, a^{\prime\prime}]$ は $\mathcal{V}$ の有限個の要素で覆われる。ところが、$[a', b']$ は $\mathcal{V}$ の一個の要素 $V$ で覆われているので、$[a, a^{\prime\prime}]\cup[a', b']=[a, b']$ も $\mathcal{V}$ の有限個の要素で覆われる。したがって、$b'\in S$ となる。よって、$x_0<b'\leq \sup S=x_0$ となり、矛盾する。これで、$x_0=b$ が示された。

最後に、$b\in S$ を示そう。これは、ほぼ前段落の議論の繰り返しである。$b\in V$ となるような $V\in\mathcal{V}$ を選ぶと、$a<b'<b(=x_0)$ となる $b'$ で $[b', b]\subset V$ となるものが存在する。このとき $b'$ は $S$ の上界ではなく $b$ は $S$ の上界だから、ある $b'<b^{\prime\prime}\leq b$ となる $b^{\prime\prime}$ が存在して、$[a, b^{\prime\prime}]$ は $\mathcal{V}$ の有限個の要素で覆われる。ところが、$[b', b]$ は $\mathcal{V}$ の一個の要素 $V$ で覆われているので、$[a, b^{\prime\prime}]\cup[b', b]=[a, b]$ は $\mathcal{V}$ の有限個の要素で覆われる。したがって、$b\in S$ である。$\square$

二つのコンパクト空間の直積がコンパクトになることを示そう。

定理 9.18 (二個のコンパクト空間の直積はコンパクト)

$X,$ $Y$ がコンパクト空間であるとき、直積空間 $X\times Y$ はコンパクトである。

証明

$X,$ $Y$ をコンパクト空間とする。$X\times Y$ は開基として $$ \mathcal{B}=\{U\times V\,|\,U\text{ は }X\text{ の開集合, }V\text{ は }Y\text{ の開集合 }\} $$ をもつのであった。したがって、命題 9.16によれば、$X\times Y$ のコンパクト性を示すには、$\mathcal{B}$ の要素からなる任意の開被覆が有限な部分被覆をもつと言えれば十分である。そこで、$\mathcal{U}$ を $$ \mathcal{U}=\{U_\lambda\times V_\lambda\,|\,\lambda\in\Lambda\} $$ という形の $X\times Y$ の開被覆とする。ここで、$U_\lambda,$ $V_\lambda$ はそれぞれ $X,$ $Y$ の開集合とする。このとき、$\mathcal{U}$ が有限な部分被覆をもつことを示せばよい。

さて、$x\in X$ を固定すると、$\{x\}\times Y$ は $Y$ と同相なのでコンパクトであり、$\mathcal{U}$ は $\{x\}\times Y$ の $X\times Y$ における開被覆である。よって、命題 9.7により、有限個の $\lambda_{x,1},\ldots,\lambda_{x,n(x)}\in\Lambda$ を選んで $$ \{x\}\times Y\subset \bigcup_{i=1}^{n(x)} (U_{\lambda_{x,i}}\times V_{\lambda_{x,i}}) $$ とできる。このとき、すべての $i\in\{1,\ldots,n(x)\}$ に対して $(U_{\lambda_{x,i}}\times V_{\lambda_{x,i}})\cap(\{x\}\times Y)\neq\emptyset$ であるとしてよい。すると、$U_x=\bigcap_{i=1}^{n(x)} U_{\lambda_{x,i}}$ とおくとき $U_x$ は $x$ の開近傍となる。$\{U_x\,|\,x\in X\}$ はコンパクト空間 $X$ の開被覆だから、有限個の $x_1,\ldots, x_n\in X$ が存在して、$X=\bigcup_{i=1}^n U_{x_i}$ となる。このとき $$ \mathcal{U}'=\{U_{\lambda_{x_i, j}}\times V_{\lambda_{x_i, j}}\,|\,i\in\{1,\ldots, n\}, j\in\{1,\ldots, n(x_i)\}\} $$ とおけば、$\mathcal{U}'$ が $\mathcal{U}$ の有限な部分被覆であることを示そう。定義から、$\mathcal{U}'$ が $\mathcal{U}$ の有限部分集合であることは明らかである。したがって、$\mathcal{U}'$ が $X\times Y$ の被覆であることを示せばよい。そこで、$(x,y)\in X\times Y$ とする。$X=\bigcup_{i=1}^n U_{x_i}$ なので、ある $i\in\{1,\ldots, n\}$ が存在して、$x\in U_{x_i}$ である。$\{x_i\}\times Y\subset \bigcup_{j=1}^{n(x_i)} (U_{\lambda_{x_i,j}}\times V_{\lambda_{x_i,j}})$ なので、ある $j\in\{1,\ldots, n(x_i)\}$ が存在して、$(x_i, y)\in U_{\lambda_{x_i,j}}\times V_{\lambda_{x_i,j}}$ となる。とくに、$y\in V_{\lambda_{x_i, j}}$ である。一方、$U_{x_i}$ の定義により $U_{x_i}\subset U_{\lambda_{x_i, j}}$ なので、$x\in U_{\lambda_{x_i, j}}$ である。したがって、$(x, y)\in U_{\lambda_{x_i, j}}\times V_{\lambda_{x_i,j}}\in\mathcal{U}'$ となる。これで、$\mathcal{U}'$ は被覆となることが分かり、したがって $\mathcal{U}'$ は $\mathcal{U}$ の有限部分被覆となることが分かった。以上で、$X\times Y$ のコンパクト性が示された。$\square$

系 9.19 (有限個のコンパクト空間の直積はコンパクト)

$X_1,\ldots, X_n$ をコンパクト空間とするとき、直積空間 $X_1\times\cdots\times X_n$ はコンパクトである。

証明

$X_1\times\cdots\times X_{n+1}$ と $(X_1\times\cdots\times X_n)\times X_{n+1}$ は、対応 $$ (x_1,\ldots, x_{n+1})\mapsto ((x_1,\ldots, x_n), x_{n+1}) $$ により同相となる(この事実を示すには、注意 8.6を用いて、この対応とその逆対応とがそれぞれ連続写像であることを確認すればよい)。このことを用いれば、示すべき主張は定理 9.18から $n$ についての帰納法によって証明される。$\square$

Euclid空間 $\mathbb{R}^n$ の部分集合 $A$ が有界(bounded)であるとは、ある $R>0$ が存在して、原点 $0$ を中心とする半径 $R$ の開球体 $B(0,R)$ に $A$ が含まれることをいう。

定理 9.20 ($\mathbb{R}^n$ のコンパクト集合)

$\mathbb{R}^n$ の部分集合 $A$ に対して、次は同値である。

  • (1) $A$ はコンパクトである。
  • (2) $A$ は $\mathbb{R}^n$ の有界な閉集合である。

証明

(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。対偶をとり、$A$ が有界でないかまたは $A$ が閉集合でないならば、$A$ がコンパクトでないことを示そう。まず、$A$ が有界でないとする。このときは $$ \{B(0,i)\,|\,i\in\mathbb{N}\} $$ は $A$ の $\mathbb{R}^n$ における開被覆で、有限な部分被覆をもたない。よって、$A$ はコンパクトでない。次に、$A$ が $\mathbb{R}^n$ の閉集合でないとする。このときは 点 $p\in\operatorname{Cl} A\setminus A$ が存在する。$p\notin A$ であることから $$ \mathcal{U}=\{\mathbb{R}^n\setminus \overline{B}(p,1/i)\,|\,i\in\mathbb{N}\} $$ は $A$ の $\mathbb{R}^n$ における開被覆となる。しかも、$\mathcal{U}$ は有限な部分被覆をもたない。実際、もし $\mathcal{U}$ が有限部分被覆をもったとすれば、ある $i\in\mathbb{N}$ に対して $A\subset \mathbb{R}^n\setminus\overline{B}(p,1/i)$ である。これから $A\cap B(p,1/i)=\emptyset$ でなければならないが、これは命題 4.5により $p\in\operatorname{Cl} A$ であることに反する。よって、$\mathcal{U}$ は $A$ の $\mathbb{R}^n$ における開被覆であって有限な部分被覆をもたないから、$A$ はコンパクトでない。以上で、$A$ が有界でないときも、$A$ が閉集合でないときも、$A$ はコンパクトでないことが示された。よって、(1) $\Rightarrow$ (2) の対偶が証明された。

(2) $\Rightarrow$ (1) を示す。$A$ を $\mathbb{R}^n$ の有界閉集合とする。このとき、$A$ は有界だから、ある $R>0$ が存在して、$A\subset B(0,R)$ である。さらに、$B(0, R)$ は閉区間 $[-R, R]$ を $n$ 個直積した $[-R, R]^n=[-R, R]\times\cdots\times [-R, R]$ に含まれるから、$A\subset [-R, R]^n$ である。定理 9.17により、$[-R, R]$ はコンパクトであるから、系 9.19 により $[-R, R]^n$ はコンパクトである。$A$ は $\mathbb{R}^n$ の閉集合であるから、命題 6.8により、$A$ は $[-R, R]^n$ の閉集合である。したがって、命題 9.9により、$A$ はコンパクトである。$\square$


例 9.21 ($n$ 次元球面、$n$ 次元球体はコンパクト)

$n$ 次元単位球面 $$ S^n=\{(x_1,\ldots, x_{n+1})\in\mathbb{R}^{n+1}\,|\,x_1^2+\cdots+x_{n+1}^2=1\} $$ は、$\mathbb{R}^{n+1}$ の有界な閉集合であるからコンパクトである。同様に、$n$ 次元単位閉球体 $$ D^n=\{(x_1,\ldots, x_n)\in\mathbb{R}^n\,|\,x_1^2+\cdots+x_n^2\leq 1\} $$ も、$\mathbb{R}^n$ の有界な閉集合であるからコンパクトである。 $\square$

次の命題は、「有界な閉区間上の連続関数は最大値をとる」という微積分の定理の一般化である。

命題 9.22 (コンパクト空間上の実数値連続関数は最大値をとる)

$X$ を空でないコンパクト空間とし、$f\colon X\to\mathbb{R}$ を連続関数とする。このとき、$f$ は最大値および最小値をとる。すなわち、$x_0\in X$ および $x_1\in X$ が存在して、任意の $x\in X$ に対して $f(x_0)\leq f(x)\leq f(x_1)$ が成り立つ。

証明

$X$ を空でないコンパクト空間、$f\colon X\to\mathbb{R}$ を連続とすると、像 $f(X)$ は $\mathbb{R}$ の空でないコンパクト集合である。よって、定理 9.20により、$f(X)$ は $\mathbb{R}$ の空でない有界な閉集合である。したがって、例 4.6により、$m=\inf f(X),$ $M=\sup f(X)$ とおけば $m, M\in f(X)$ であり、よって $x_0, x_1\in X$ であって $f(x_0)=m,$ $f(x_1)=M$ となるものが存在する。$m,$ $M$ はそれぞれ $f(X)$ の下界、上界であるから、任意の $x\in X$ に対して $m\leq f(x)\leq M$ すなわち $f(x_0)\leq f(x)\leq f(x_1)$ である。$\square$

次の命題の証明には、定理 9.18の証明と似た議論が含まれていることに注意しよう。

命題 9.23 (コンパクト空間に沿った射影は閉写像)

$X$ を位相空間、$Y$ をコンパクト空間とする。このとき、直積空間 $X\times Y$ からの射影 $p\colon X\times Y\to X$ は閉写像である。

証明

$F\subset X\times Y$ を閉集合とする。$p(F)$ が $X$ の閉集合であることを示そう。そのためには $X\setminus p(F)$ が開集合であることを示せばよい。そこで、$x\in X\setminus p(F)$ を任意に与える。すると、 $(\{x\}\times Y)\cap F=p^{-1}(x)\cap F=\emptyset$ であるから、$\{x\}\times Y\subset (X\times Y)\setminus F$ である。よって、各 $y\in Y$ に対して、$(x,y)$ は直積空間 $X\times Y$ の開集合 $(X\times Y)\setminus F$ の要素であるから、$X$ の開集合 $U_y$ と $Y$ の開集合 $V_y$ を $$ (x,y)\in U_y\times V_y\subset (X\times Y)\setminus F $$ となるように選べる。すると、$\{x\}\times Y\subset\bigcup_{y\in Y} (U_y\times V_y)$ であるから、$\{x\}\times Y$ のコンパクト性により、有限個の $y_1,\ldots, y_n\in Y$ を $$ \{x\}\times Y\subset \bigcup_{i=1}^n (U_{y_i}\times V_{y_i}) $$ となるように選べる。すると $Y=\bigcup_{i=1}^n V_{y_i}$ である。また、$U=\bigcap_{i=1}^n U_{y_i}$ とおけば、$U$ は $x$ の開近傍である。さらに、 $$ p^{-1}(U)=U\times Y\subset \bigcup_{i=1}^n (U_{y_i}\times V_{y_i})\subset\bigcup_{y\in Y} (U_y\times V_y)\subset (X\times Y)\setminus F $$ である。よって、$U\cap p(F)=\emptyset$ つまり $U\subset X\setminus p(F)$ であるから、$X\setminus p(F)$ が $X$ の開集合、つまり $p(F)$ が $X$ の閉集合であることが示された。$\square$

実は、上の命題 9.23で述べた性質は、コンパクト性を特徴づけている。つまり、次のことが成り立つ。

定理 9.24 (閉写像によるコンパクト性の特徴づけ)

位相空間 $Y$ に対して、次の二つの条件は同値である。

  • (1) $Y$ はコンパクト空間である。
  • (2) 任意の位相空間 $X$ に対して、射影 $p\colon X\times Y\to X$ は閉写像である。

証明

(1) $\Rightarrow$ (2) は、命題 9.23そのものである。

(2) $\Rightarrow$ (1) を、対偶をとることで証明する。そこで、$Y$ をコンパクトでない空間とする。目標は、位相空間 $X$ と閉集合 $A\subset X\times Y$ であって、射影 $p\colon X\times Y\to X$ について $p(A)$ が $X$ の閉集合でないものを構成することである。$Y$ はコンパクトでないから、命題 9.12により、$Y$ の閉集合からなる有限交叉的な族 $\mathcal{F}$ であって、$\bigcap_{F\in\mathcal{F}} F=\emptyset$ となるものが存在する。$\mathcal{F}$ の要素の有限個の共通部分全体を $\mathcal{F}'$ とすると、$\mathcal{F}'$ も有限交叉的であって、$\bigcap_{F\in\mathcal{F}'} F=\emptyset$ である。さらに、$\mathcal{F}'$ は有限個の共通部分について閉じている。つまり、$F_1,\ldots, F_n\in\mathcal{F}'$ ならば $\bigcap_{i=1}^n F_i\in\mathcal{F}'$ である。そこで、$\mathcal{F}$ を $\mathcal{F}'$ に置き換えて、はじめから、$\mathcal{F}$ は有限個の共通部分について閉じているとしてよい。

$\mathcal{F}$ に属していない点 $\infty$ を考え、集合 $X=\mathcal{F}\cup\{\infty\}$ を考える。この $X$ に位相を導入して位相空間を作ろう。ただし、このままでは記号が少し分かりにくいので、$F\in\mathcal{F}$ を $X$ の点と思うときは $p_F$ と書くことにしよう。この記号によれば $X=\{p_F\,|\,F\in\mathcal{F}\}\cup\{\infty\}$ である。各 $F\in\mathcal{F}$ に対して、$X$ の部分集合 $U_F$ を $$ U_F=\{p_{F'}\,|\,F'\in\mathcal{F},\,F'\subset F\}\cup\{\infty\} $$ で定義する。その上で、$X$ の部分集合族 $\mathcal{B}$ を $$ \mathcal{B}=\{\{p_F\}\,|\,F\in\mathcal{F}\}\cup\{U_F\,|\,F\in\mathcal{F}\} $$ で定義する。いま、$\mathcal{F}$ は有限個の共通部分について閉じていたから、$F, F'\in\mathcal{F}$ に対して $U_{F\cap F'}$ が定義され、しかも簡単に確かめられるように $U_F\cap U_{F'}=U_{F\cap F'}$ となる。よって、$\mathcal{B}$ は命題 3.9の条件(OB1), (OB2)を満たすことが分かる。そこで、$\mathcal{B}$ を開基として生成される位相を $X$ に与える(命題 3.10)。このとき、直積空間 $X\times Y$ の次のような部分集合 $A$ を考える。 $$ A=\{(p_F, y)\,|\,F\in\mathcal{F},\, y\in F\} $$ このとき、$A$ が $X\times Y$ の閉集合であることを示そう。そのためには $(X\times Y)\setminus A$ が開集合であるといえればよい。そこで $u\in (X\times Y)\setminus A$ を任意に与える。このとき、(i) $u=(p_F, y)$ の形であるか、(ii) $u=(\infty, y)$ の形であるかで場合分けしよう。

(i) の場合、$y\notin F$ なので、$V=\{p_F\}\times (X\setminus F)$ とおけば $V$ は $u$ の開近傍で、$V\subset (X\times Y)\setminus A$ を満たす。

(ii) の場合、$\bigcap_{F\in\mathcal{F}} F=\emptyset$ であったことから、$F\in\mathcal{F}$ であって $y\notin F$ となるものが存在する。そこで、$V=U_F\times (X\setminus F)$ とおけば $V$ は $u$ の開近傍である。さらに、$V\subset (X\times Y)\setminus A$ となることもすぐに確かめられる。

以上により、いずれにしても $u$ の開近傍 $V$ で $V\subset (X\times Y)\setminus A$ となるものが存在することが分かったので、$(X\times Y)\setminus A$ は $X\times Y$ の開集合、つまり $A$ は $X\times Y$ の閉集合であると分かった。

$\mathcal{F}$ は有限交叉的であるから、$\emptyset\notin\mathcal{F}$ である。このことから、射影 $p\colon X\times Y\to X$ について $p(A)=\{p_F\,|\,F\in\mathcal{F}\}=X\setminus\{\infty\}$ である。あとは、$X\setminus\{\infty\}$ が $X$ の閉集合でないこと、つまり $\{\infty\}$ が $X$ の開集合でないことを示せば証明が終わる。もし、$\{\infty\}$ が $X$ の開集合なら、ある $F\in\mathcal{F}$ が存在して、$\{\infty\}=U_F$ となる。しかし、$p_F\in U_F\setminus\{\infty\}$ であるからこれは成り立ち得ない。よって、$\{\infty\}$ は $X$ の開集合ではなく、これで証明が終わった。$\square$

注意 9.25 (集合に新しい点を付加できること)

上の議論では、$\mathcal{F}$ に属していない点 $\infty$ を新たに付け加えるという操作を行ったが、このような $\infty$ が実際に存在することを証明しておこう。一般に集合 $S$ が与えられたときに、ある集合 $u$ であって $u\notin S$ となるものが存在することを示せばよい。いま、$S$ の冪集合 $\mathcal{P}(S)$ を考えると、集合論でよく知られているように $\mathcal{P}(S)$ は $S$ よりも濃度が大きいから、$\mathcal{P}(S)\not\subset S$ である。そこで、$\mathcal{P}(S)\setminus S$ から一つ要素を取ってそれを $u$ とすればよい。$\square$


次に読む

関連項目