写像、像、逆像、写像のグラフ

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写像、像、逆像、写像のグラフ

高校で学習した関数の概念を一般化した写像の定義と、その基本的な性質を述べる。

定義 1

$X,Y$ を集合とする。 各 $X$ の元 $x$ に対して $Y$ の元がただ一つ定まるような対応 $f$ が与えられたとき、その対応 $f$ を定義域 $X$ から終域 $Y$ への写像(map) といい $f \colon X \longrightarrow Y$ と書く。終域 $Y$ が数の集合やその直積であるとき、 $f$ は写像ではなく関数ということもある。

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写像の定義で要請されているのは次のふたつ。
(1)定義域の任意の元は必ず終域に何らかの対応先を持っていなければいけない。(数式などで明示できていなくてもよい)
(2)どんな定義域の元も終域にふたつの対応先を持ってはいけない。
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その一方で、次のふたつは許されている。
(3)どの定義域の元にも対応していないような終域の元があってもよい。
(4)ある定義域のふたつの元が値域の同じ元に対応していてもよい。
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(3)を許容しない写像を全射といい、(4)を許容しない写像を単射という。詳しくは単射、全射、全単射、逆写像を参照。
写像の定義を弱くして(1)を要請しないもの(関数解析の線型作用素など)や(2)を要請しないもの(複素解析の多価関数など)もある。また、「$X$ から $Y$ への写像全体」という集合をしばしば $\textrm{Map}(X,Y)$ と書くことがある。

以下、$f \colon X \longrightarrow Y$ を写像とする。

  • $a \in X$ が写像 $f$ によって $b \in Y$ に対応するとき、$b$ を $a$ の $f$ によるであるといい $b=f(a)$ と書く。

もちろん $f(a) \in Y$ である。また、値 $f(a)$ という用語は $Y$ が数の集合でなくても用いる。 IntroST-map6.jpg

  • $X'$、$Y'$ を集合とする。写像 $f' \colon X' \longrightarrow Y'$ と写像 $f$ が等しいとは、定義域と終域がそれぞれ一致し( $X=X'$ かつ $Y=Y'$ )、任意の $x \in X$( $=X'$ )に対し、$f(x)=f'(x)$ が成り立つことと定義する。
  • $A \subset X$ とする。$A$ の $f$ による を $f(A)= \{ f(a) \in Y \,|\, a \in A \}$ と定義する($f(A)$ は $Y$ の要素ではなく部分集合であることに注意 )。特に、$A=X$ のとき $f(X)$ を $f$ の像といい、代数学の文脈ではこれを $\textrm{Im}f$ とよく書かれる($\textrm{Im}$ は image の略)。

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一点集合 $\{ a \}$ の $f$ による像 $f( \{ a \} )$ (これは写像の定義(1)より一点集合である)と値 $f(a)$ を同一視して、 $f(a)$ を $a$ の $f$ による像ということもある。 しかし用語は混同したとしてもこれらが $Y$ の要素なのか部分集合なのかは区別しなければならない($f(a) \in Y$、$f( \{ a \} ) \subset Y$)。

  • $B \subset Y$ とする。$B$ の $f$ による逆像 を $f^{-1}(B)= \{ x \in X \,|\, f(x) \in B \}$ と定義する($f^{-1}(B)$ は $X$ の要素ではなく部分集合)。$1$ 点集合 $\{ b\} \subset Y$ の逆像 $f^{-1}(\{ b \})$ をしばしば$f^{-1}(b)$ と略記する。もちろん$f^{-1}(b) \subset X$ である。

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  • $X \times Y$ の部分集合 $\{ (x,f(x)) \in X \times Y \,|\, x \in X \}$ を $f$ のグラフという。(頂点とその間の辺からなる図形のこともグラフというがここでのグラフとは違うものである)
  • 集合 $X$ に対して、特別な写像 $\textrm{id}_X \colon X \longrightarrow X$ を $\textrm{id}_X(x)=x$ で定義する。この写像を $X$ の恒等写像 という。集合 $X$ がいちいち書く必要のないくらい明らかであるとき、恒等写像を単に $\textrm{id}$ と書く。

具体例

  • 写像 $f \colon \mathbb{R} \longrightarrow \mathbb{R}$ を $f(x)=x^2$ とする。

このとき定義域も終域も $\mathbb{R}$ であって、 $f(3)=9$、$f([0,3])=[0,9]$、$f^{-1}(9)= \{ 3,-3 \}$、$f^{-1}([1,4])=[-2,-1] \cup [1,2]$ などが成り立つ。 また、 $f$ の像は $f(\mathbb{R})=[0,\infty)$ である。

  • 集合 $X$ の点列 $\{ a_n \} _{n=1}^{\infty}$ は写像 $f \colon \mathbb{N} \longrightarrow X$ を考えることに他ならない。

つまり、$a(n)$ を $a_n$ と略記している。 集合 $X$ が数の集合のとき、点列のことをしばしば数列という。

  • 任意の集合 $X$ にたいして、写像 $f \colon \emptyset \longrightarrow X$ はひとつだけ存在する。それは定義域から元をとってくることができないので「何もしない」という写像である。
  • 逆に任意の集合 $X \ne \emptyset$ に対して、写像 $f \colon X \longrightarrow \emptyset$ は存在しない。終域から元をとれないため写像の定義(1)に反するためである。ただし$f \colon \emptyset \longrightarrow \emptyset$ は「何もしない」という写像がひとつだけ存在する。

基本的な性質

以下、$X$、$Y$ を集合とし、$A,A_1,A_2$ を $X$ の部分集合、$B,B_1,B_2$ を $Y$ の部分集合、$f \colon X \longrightarrow Y$ を写像とする。このとき以下が成り立つ。

  • $A_1 \subset A_2 \Rightarrow f(A_1) \subset f(A_2)$
  • $B_1 \subset B_2 \Rightarrow f^{-1}(B_1) \subset f^{-1}(B_2)$
  • $A \subset f^{-1}(B) \iff f(A) \subset B$
    • 圏論の言葉ではこれは順像関手と逆像関手は随伴の関係にあるという。これによって逆像が共通部分を保つことが従うとも思えたりもする、重要な関係式である。
  • $f(A_1 \cup A_2) = f(A_1) \cup f(A_2)$
  • $f^{-1}(B_1 \cup B_2) = f^{-1}(B_1) \cup f^{-1}(B_2)$
  • $f(A_1 \cap A_2) \subset f(A_1) \cap f(A_2)$
    • 逆の包含は一般的には成り立たない。例えば $f(x)=x^2$、$A_1=[-1,0]$、$A_2=[0,1]$。
    • $f$ が単射ならばこの式は等号が成立する。
  • $f^{-1}(B_1 \cap B_2) = f^{-1}(B_1) \cap f^{-1}(B_2)$

集合論の初歩

論理と命題 / 集合の基本的な用語、集合の演算 / 全称記号と存在記号 / 写像、像、逆像、写像のグラフ / 写像の合成、写像の拡大と制限 / 選択公理について / 単射、全射、全単射、逆写像 / 部分集合族、べき集合 / ( 演算と代数構造 ) / ( 関係、同値関係、商集合 ) / ( 初歩的な順序集合 ) / ( Zornの補題 ) / ( 集合の濃度

参考文献

関連項目