分離公理

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分離公理

位相空間における分離公理とは「位相空間内の交わりを持たない2つの閉集合を分離する開集合がどれだけあるか」という観点において位相空間を分類する公理である。分離の手法には「開集合による分離」と「 $[0,1]$ 区間への連続関数による分離」があり、後者のほうが前者より一般に強い条件となる。幾何学や関数解析で用いられる空間は開集合が十分に多くの開集合が存在するため、完全正規空間であるケースが多い。例えば距離空間完全正規空間であり、証明は極めて非自明であるがCW複体完全正規空間である。その一方で、代数幾何学において用いられるスキームなどは $T_1$ 空間の条件も一般的には満たさず、その位相的性質が大きく異なることが一目瞭然であろう。

本稿で解説されていない分離公理については、Encyclopedia of Separtion Axioms Wiki (外部リンク: https://wikiwiki.jp/sepaxiom/weakly%20separated )などを参照されたい。

定義

$T_0$

位相空間 $X$ が $T_0$ であるとは、任意の異なる二点 $x,y \in X$ について、ある開集合 $U$ が存在して、「$x \in U$ かつ $y \notin U$」または「$y \in U$ かつ $x \notin U$」が成り立つようにできることをいう。

$T_1$

位相空間 $X$ が $T_1$ であるとは、任意の異なる二点 $x,y \in X$ について、ある開集合 $U$ が存在して、$x \in U$ かつ $y \notin U$ とできることをいう。

$T_2$

位相空間 $X$ が $T_2$ であるとは、任意の異なる二点 $x,y \in X$ について、ある開集合 $U,V$ が存在して、$x \in U$ かつ $y \in V$ かつ $U\cap V=\emptyset$ とできることをいう。

$T_2$ 空間のことを、ハウスドルフ空間ともいう。

ウリゾーン

位相空間 $X$ がウリゾーンであるとは、任意の異なる二点 $x,y \in X$ について、ある開集合 $U,V$ が存在して、$x \in U$ かつ $y \in V$ かつ $\overline{U}\cap \overline{V}=\emptyset$ とできることをいう。

正則

位相空間 $X$ が正則であるとは、$T_0$ であって、任意の点 $x \in X$ と閉集合 $x \notin F \subset X$ について、ある開集合 $U,V$ が存在して、$x \in U$ かつ $F \subset V$ かつ $U\cap V=\emptyset$ とできることをいう。正則空間について、これを $T_3$ 空間であるともいう。

正規

位相空間 $X$ が正規であるとは、$T_1$ であって、任意の閉集合 $F,G \subset X$ であって $F\cap G=\emptyset$ であるものについて、ある開集合 $U,V$ が存在して、$F \subset U$ かつ $G \subset V$ かつ $U\cap V=\emptyset$ とできることをいう。正規空間について、これを $T_4$ 空間であるともいう。

$T_5$

位相空間 $X$ が $T_5$ であるとは、任意の $X$ の部分空間が正規であることをいう。

$T_6$

位相空間 $X$ が $T_6$ であるとは、正規であってかつ任意の閉集合が $G_\delta$-集合であることをいう。

  • 実数空間 $\mathbb{R}$ は $T_6$ 空間である。
  • $(\omega_1+1)\times (\omega +1)$ はコンパクト空間であるため、正規空間であるが、$T_5$ 空間でない。
  • $(\omega_1+1)\times (\omega +1)-\{(\omega_1,\omega)\}$ は正則空間であるが、正規空間ではない。
  • Sierpinski 空間は $T_0$ 空間であるが、 $T_1$ 空間ではない。また $T_4$ であるが、$T_3$ ではない。
  • 二元以上の集合に密着位相を入れたものは $T_0$ 空間でない。

公理間の関係

定義より、「ウリゾーン $\Rightarrow$ $T_2$ $\Rightarrow$ $T_1$ $\Rightarrow$ $T_0$」 が成り立つ。

次に、「正則 $\Rightarrow$ ウリゾーン」を示す。そのために以下の補題を示す。

  • $X$ が正則空間ならば、$X$ の点は閉集合である。

$x\in X$ について、$x$ が閉点でなかったと仮定して矛盾を導く。このとき $x$ の閉包 $\overline{\{x\}}$ は $x$ と異なる点 $y$ を含む。このとき $y$ を含み $x$ を含まない $X$ の開集合 $U$ が存在するならば、$\overline{\{x\}}-U$ は $\overline{\{x\}}$ よりも小さい $x$ を含む閉集合となり矛盾する。よって、$X$ の $T_0$ 性より、ある開集合 $V$ であって $x$ を含み $y$ を含まないものを取れる。よって、(先程と同様の議論により) $y$ の閉包には $x$ が含まれないことが示される。 ここで、$X$ は $T_3$ であり、かつ $x\notin \overline{\{y\}}$ であるため、特に、開集合 $W$ であって $x$ を含まず $\overline{\{y\}}$ を含むものが存在する。このとき $y\in W$ が成り立つことに注意すると、$W$ は $y$ を含み $x$ を含まない開集合となり、これは矛盾する。よって、$x$ は閉点である。

以下、「正則 $\Rightarrow$ ウリゾーン」を示す。$X$ を正則空間とする。異なる点 $x,y\in X$ に対して、$y$ は閉集合であるため、$X$ の $T_3$ 性より、$U\cap V=\emptyset$ なる開集合であって $x\in U$ かつ $y\in V$ が成り立つものが取れる(この時点で $X$ の $T_2$ 性が示される)。このとき、$X-U$ は閉集合であるため、$V$ の閉包は $X-U$ に含まれる。さらに $X$ の $T_3$ 性により、$U_1\cap V_1=\emptyset$ なる開集合であって $x\in U_1$ かつ $X-U \subset V_1$ が成り立つものが取れる。このとき、$X-V_1$ は閉集合であるため、$U_1$ の閉包は $X-V_1$ に含まれる。ここで、$x\in U_1$ かつ $y\in V$ であり、$\overline{U_1}\cap \overline{V}\subset (X-V_1)\cap (X-U)\subset (X-V_1)\cap V_1=\emptyset$ が成り立つ。よって $X$ はウリゾーン空間である。

「正規 $\Rightarrow$ 正則」について、正規空間は $T_1$ 空間であるので、点は閉集合である。このとき、正規性は $T_3$ 性を導く。

部分空間、積空間への性質の継承

本節においては、$T_0$ 性・$T_1$ 性・$T_2$ 性・正則性・正規性について、その性質が部分空間や積空間を取る操作のもとで保たれるかということについて調べる。

部分空間への遺伝

$T_0$ 空間 $X$ の部分空間 $Y$ は $T_0$ 空間であろうか?結論から言えば、$Y$ は $T_0$ 空間となる。実際、異なる $Y$ の二点 $y_1,y_2\in Y$ について、$X$ の開集合 $U$ であってどちらか一方のみを含むものが存在するが、このとき $Y\cap U$ は $Y$ の開集合であるため、結局 $Y$ は $T_0$ 空間となる。

$T_1$ 空間 $X$ の部分空間 $Y$ は $T_1$ 空間であろうか?ほぼ同様の手順を辿ることで $Y$ が $T_1$ 空間であることが示される。実際、異なる $Y$ の二点 $y_1,y_2\in Y$ について、$X$ の開集合 $U$ であって $y_1$ のみを含むものが存在するが、このとき $Y\cap U$ は $Y$ の開集合であるため、結局 $Y$ は $T_1$ 空間となる。

$T_2$ 空間 $X$ の部分空間 $Y$ は $T_2$ 空間であろうか?異なる $Y$ の二点 $y_1,y_2\in Y$ について、$y_1\in U_1$ かつ $y_2 \in U_2$ であって $U_1 \cap U_2$ なるものが存在するが、このとき $U_1\cap Y$ と $U_2\cap Y$ は $Y$ の開集合であり二点を分離する。$Y$ は $T_2$ 空間となる。

以上の議論により、以下が示される。

定理 1 ($T_0$, $T_1$, $T_2$ の遺伝性)

$T_0$ 性、$T_1$ 性、$T_2$ 性は部分空間に遺伝する。

ここまでの概念は、すべて異なる点どうしについての分離性に関するものであった。次は正則性について考える。正則空間 $X$ の部分空間 $Y$ は 正則空間であろうか?

$Y$ の点 $y$ と閉集合 $F'$ について、$y \notin F$ であるとする。このとき、$Y$ の位相の定め方より、$Y$ の閉集合 $F$ であって $F'=F\cap Y$ なるものが存在する。このとき、ここが重要な部分であるが、$y \notin F$ が成り立つ(実際、$y \in F$ ならば $y \in F \cap Y=F'$ が成り立ちこれは仮定に反するためである)。このとき、$X$ において $y$ と $F$ とを分離する開集合を取ってくれば、その開集合を $Y$ に制限したものは $y$ と $F'$ とを分離する。

定理 2 (正則性の遺伝)

正則性は部分空間に遺伝する。

この流れのままに正規性についても議論してしまいたくなるが、ここで上記の例を再掲する。

  • $(\omega_1+1)\times (\omega +1)$ はコンパクト空間であるため、正規空間であるが、$T_5$ 空間でない。
  • $(\omega_1+1)\times (\omega +1)-\{(\omega_1,\omega)\}$ は 正則空間であるが、正規空間ではない。

正規性が部分空間に遺伝しない理由について考えると、以下のようなものが挙げられる:$Y$ の交わらない閉集合 $F'$, $G'$ を取ったとき、$X$ の閉集合であって $F'=F\cap Y$ かつ $G'=G\cap Y$ が成り立つようなものを取ることができる。ここで、$F$ と $G$ とが交わらないならば $X$ の正規性により $F$ と $G$ を分離できるが、必ずしも $F\cap G$ が空集合となるように $F$ と $G$ を取れるとは限らないため、上記の議論のもとで $Y$ の正規性を言うことができない。

事実 3 (正規性の非遺伝)

正規性は部分空間に遺伝しない。

ここで $T_5$ 性の定義を確認されたい。$T_5$ 性は定義より明らかに部分集合に遺伝する。

積空間への継承