可微分多様体

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微分多様体

可微分多様体微分可能多様体または微分多様体(かびぶんたようたい,びぶんかのうたようたい、びぶんたようたい,differentiable manifold, differential manifold)とは、微分構造を持つ位相多様体のことである。 微分幾何の主要な研究対象である。 ベクトル場,テンソル場,微分形式(テンソル解析微分形式参照)などの分析を通じて様々な結果が得られる。 この記事では定義と簡単な例をいくつか紹介する。

定義

大雑把に言うと位相多様体は、座標が貼られた位相空間である。 座標とは目盛りのついた網目のことで、網目の目盛り達を指定することで座標が貼られている領域のただ一つの点を指定できるようになっているもののことである。 座標は $\mathbb{R}^n$ の開近傍への連続な写像として定式化される。 一般には単一の座標でその空間の全てを覆うことはできないため、いくつかの座標を張り合わせる必要がある。 このとき座標が重なっている部分では座標を乗り換えるための座標変換が定義されていなくてはならない。 この座標変換が微分可能なものが微分多様体である。

厳密な定義は次である。 Mをパラコンパクトハウスドルフ位相空間とする。

(i) $M$ の開近傍系 $\{U_i\}_{i\in\Lambda}$ で $M=\bigcup_i U_i$ となるものが存在する。

(ii) ある $n\in\mathbb{N}$ があり、 各 $U_i$ に対して、$\mathbb{R}^n$ の開近傍 $W_i$ と同相写像 $\varphi_i\colon U_i\rightarrow W_i$ が存在する。

(iii) $U_i\cap U_j\ne\phi$ に対して、$\varphi_j\circ\varphi_i^{-1}\colon\varphi_i(U_i\cap U_j)\rightarrow\varphi_j(U_i\cap U_j)$ は $C^r$ 級である。

このとき、$M$ を $C^r$ 級微分多様体(differentiable manifold of class $C^r$)という。 特に $r=\infty$ のとき、$C^\infty$ 級微分多様体または滑らかな多様体(smooth manifold)という。 $r=\omega$ のときは、解析的多様体(analytic manifold)という。 またこのとき、微分多様体 $M$ の次元は ${\rm dim}$ を $n$ と定義する。

上の条件を満たす $(U_i,\varphi_i)_{i\in\Lambda}$ を$C^r$ 級アトラス(atlas of class $C^r$)または$C^r$級座標近傍系(system of coordinate neighborhoods of class $C^r$)という。

微分構造

微分多様体 $M$ の2つの $C^r$ 級アトラス $\mathcal{A}=(U_i,\varphi_i)_{i\in A},\ \mathcal{B}=(V_j,\psi_j)_{j\in B}$ が同値であるとは、これらの和集合 $\mathcal{A}\cup\mathcal{B}$ が再び $M$ の $C^r$ 級アトラスを定めることである。

微分多様体 $M$ の $C^r$ 級アトラス $\mathcal{A}$ と同値なアトラス全ての和集合 $\mathcal{M}(\mathcal{A})$ を $\mathcal{A}$ から定まる極大アトラス(maximal atlas)または極大座標近傍系という。 また $\mathcal{A}$ を $\mathcal{A}$ から定まる $C^r$ 級の微分構造(differentiable structure of class $C^r$)という。

2つの $C^r$ 級アトラス $\mathcal{A},\ \mathcal{B}$ が同値であるための必要十分条件は $\mathcal{M}(\mathcal{A})=\mathcal{M}(\mathcal{B})$ となることである。

微分多様体の例

1. アフィン空間

$\mathbb{R}^n$ は自明に解析的多様体と見なせる。 $\mathbb{R}^n$ を微分多様体とみなしたものをアフィン空間(affine space)という。

2. $n$ 次元球面

$n$ 次元球面 $S^n\colon=\{(x^1,\cdots,x^{n+1})\in\mathbb{R}^{n+1};\ (x^1)^2+\cdots+(x^{n+1})^2=r^2 \}$ は解析的多様体と見なせる。

3. $n$ 次元実射影空間

$n$ 次元実射影空間 $P\mathbb{R}^n$ は $\mathbb{R}^{n+1}\backslash\{0\}$ を同値類 $(x^1,\cdots,x^{n+1})\sim (ax^1,\cdots,ax^{n+1}),\ a(\ne0)\in\mathbb{R}$ で類別した空間であり、これは解析的多様体と見なせる。

4. トーラス

$T^n=S^1\times\cdots\times S^1$ は解析的多様体である。

5. 開部分多様体

$C^r$ 級微分多様体 $M$ の開集合を $U$ とすると、$M$ のアトラスを $U$ に制限することで $U$ は $C^r$ 級微分多様体となる。$U$ を $M$ の開部分多様体(open submanifold)という。

6. 積多様体

2つの $C^r$ 級微分多様体 $M,N$ に対して、直積集合 $M\times N$ には $C^r$ 級微分多様体の構造が定まる。 これを積多様体(product manifold)という。

関連項目