圏論の参考書

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圏論の参考書

ここでは圏論に関する標準的な教科書を紹介する。圏論の項目においても述べているが、圏論は数学を記述する言葉としての使用される側面もあれば、特定のクラスの圏自身の性質を研究する純粋理論もあり、両者において必要とされる知識は大きく異なる。以下においては、目標を明確化したうえで各分野に応じた教科書を紹介する。

言葉としての圏論

入門書

圏や関手、自然変換や圏同値などといった基礎的な圏論の言葉を理解するだけであれば、以下のような入門書を読む必要性は特にない。以下の節に述べるホモロジー代数など具体的な応用分野を対象にした圏論の本に最低限の解説があり、それらを読み始めれば十分である。ただし、数学的対象の取り扱いに不慣れな場合や、米田の補題Kan拡張といった初歩の圏の一般論を学習する場合には以下の圏論の教科書が有用と考える。AwodeyLeinsterは要求される数学的知識が少なく、初学者にも比較的読みやすい。また、Leinsterは各セクションを動画で解説したシリーズもYouTube上で公開されている。Mac Laneは圏論の教科書の定番として名高いものの、多くの数学の分野を元に具体例を紹介することから、数学の初学者には読みづらい可能性がある。また、辞書として用いるには現代的には若干内容に乏しい。Borceuxは説明内容が幅広い上に証明なども丁寧であるため、現在圏論の辞書として用いるには最も適した書籍であると思われる。Web上の文献としては、alg-d.comなどにKan拡張の理論などが解説されている。また前述のベーシック圏論の原著は著者がarXivにて公開されている。

著者名・タイトル 難易度 内容 書評
Lawvere and Schanuel「Conceptual Mathematics: A First Introduction to Categories」
Spivak「Category Theory for the Sciences」 open access (old version)
Awodey「圏論(邦訳)」 1 圏論の基本的な概念が述べられている。 圏論の入門書。圏論の基礎などと比較しても、具体例などが比較的容易であるため、数学が専門の方以外も読みやすい。アーベル圏など各種応用分野に関しては対象外だが、「圏論の言葉の感覚」を身につけるにはちょうどよい本。ただし、邦訳版には誤訳なども多く指摘されている点には注意。
Awodey「Category theory」 1 上述のものの原著。 上述の通り、邦訳には問題も多いため、可能な限り原著を読むことを推奨する。
Leinster「ベーシック圏論」 open access
Mac Lane「圏論の基礎」 2
Riehl「Category Theory in Context」 2 open access
Borceux「Handbook of Categorical Algebra」 1-2 少し深入りした圏論の基礎的なトピックが網羅的に取り扱われている。 基礎的な命題ほぼ全てに完全な証明がつけられている。ただし具体例の記述はほぼ皆無である。圏論をある程度専門的に使うならば、この本(特に2巻)は手元においていつでも参照できるようにするとよい。
alg-d「壱大整域」
Adamek, Herrlich and Strecker「Abstract and Concrete Categories: The Joy of Cats」 open access

読み物

著者名・タイトル 難易度 内容 書評
圏論の道案内
圏論の歩き方
雪田 修一「圏論入門 Haskellで計算する具体例から」
現代思想2020年7月号「圏論の世界」

より発展的な教科書

著者名・タイトル 難易度 内容 書評
Kashiwara and Schapira「Categories and Sheaves」
[Kelly「Basic Concepts of Enriched Category Theory」] 豊穣圏のほぼ唯一の教科書 open access
Dubuc「Kan Extensions in Enriched Category Theory」
Adamek and Rosicky「Locally Presentable and Accessible Categories」 局所表示可能圏および到達可能圏
Makkai and Pare「Accessible Categories: The Foundations of Categorical Model Theory」 Adamek-Rosickyとは異なる切り口で書かれている。特に、スケッチを主な道具として使う点と2-圏的な取り扱いが書かれている点が特色。
[Johnson & Yau「2-Dimensional Categories」] 2-圏(双圏)論の基礎 open access

ホモロジー代数で用いられる圏論

ホモロジー代数においては、加法圏アーベル圏導来圏といったクラスの圏が用いられる。アーベル圏などについては圏論の基礎においても記述があるが、河田などの標準的なホモロジー代数の本を直接読んでも問題はないだろう。圏論の基礎においては、アーベル圏上でもMono射の同値類を取ることで元を取らずとも同様の議論を行える手法を解説している点はユニークだが、実用面ではMitchellの埋め込み定理を認めるケースが多い。代数学の参考書のページも参照。

著者名・タイトル 難易度 内容 書評
河田敬義「ホモロジー代数」
Weibel「Introduction to Homological Algebra」
志甫淳「層とホモロジー代数」
Mitchell「Theory of categories」
清水勇二「圏と加群」
中岡宏行「圏論の技法」 ペーパー氏による書評

ホモトピー論で用いられる圏論

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圏論的論理学と(高次でない)トポス理論

著者名・タイトル 難易度 内容 書評
Adamek, Rosicky and Vitale「Algebraic Theories: A Categorical Introduction to General Algebra」 open access
Mac Lane and Moerdijk「Sheaves in Geometry and Logic: A First Introduction to Topos Theory」
Goldblatt「Topoi: The Categorial Analysis of Logic」
Barr and Wells「Toposes, Triples and Theories」 open access
Bell「Toposes and Local Set Theories: An Introduction」
Johnstone「Topos Theory」
Johnstone「Sketches of an Elephant: A Topos Theory Compendium」
Lambek and Scott「Introduction to Higher-Order Categorical Logic」
Jacobs「Categorical Logic and Type Theory」
Freyd and Scedrov「Categories, Allegories」

計算機科学で用いられる圏論

計算機科学においては、型理論、代数的データ型や再帰関数、プログラミング言語の表示的意味論の記述のために圏が用いられる。関連して実際によく使われる圏としてはCPORelAllegoryクライスリ圏・いわゆる“Hask”などが挙げられる。

著者名・タイトル 難易度 内容 書評
Benjamin C. Pierce, Basic Category Theory for Computer Scientists
Richard Bird and Oege De Moor, Algebra of Programming
Bart Jacobs, Introduction to Coalgebra: Towards Mathematics of States and Observation
Barr and Wells「Category Theory for Computing Science」 open access

$\infty$圏論で用いられる圏論

著者名・タイトル 難易度 内容 書評
Jacob Lurie, Higher Topos Theory
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参考にしたサイト