多重ゼータ値入門~連結和法の観点から~

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$\newcommand{\bk}{\boldsymbol{k}}$ $\newcommand{\bl}{\boldsymbol{l}}$ $\newcommand{\be}{\boldsymbol{e}}$ $\newcommand{\bh}{\boldsymbol{h}}$ $\newcommand{\emp}{\varnothing}$ $\newcommand{\sh}{\text{ш}}$ $\newcommand{\ue}{\uparrow}$ $\newcommand{\hidari}{\leftarrow}$ $\newcommand{\shita}{\downarrow}$ $\newcommand{\hof}{\mathfrak{H}}$

本項では、多重ゼータ値の間に成り立つ多様な関係式について論じる。Eulerの結果 $\zeta(3)=\zeta(1,2)$ に始まるこの研究は多重ゼータ値という対象を考えるにあたって中核となる思想である。分野を問わず様々な道具を用いて関係式族が証明されてきたが、本記事では近年導入された 連結和法 という手法を用いて統一的な観点で証明を記述することを目標とする。 連結和法 (connected sum method) とはSeki-Yamamoto[SY]において導入された等式証明の手法である。等式 $A=B$ を示す際、連結和法においては連結和 (connected sum) という対象 $\{Z(i)\}_{i=0}^n$ を導入する。これは条件

  • $Z(0)=A,\quad Z(n)=B$
  • $Z(i)=Z(i+1)$

という構造を満たすものであり、それぞれの条件を境界条件 (boundary condition)、輸送関係式 (transport relation) と呼ぶ。連結和はしばしば $A$ と $B$ の定義にある要素を特別な因子で繋いだものとなっており、その因子をコネクター (connector) と呼ぶ。

Hoffman代数

インデックスに関する言葉遣いは多重ゼータ値#インデックスに関する記号と定義を参照。

定義 1 (Hoffman代数)

有理係数二変数非可換多項式環 $\mathbb{Q}\langle x,y\rangle$ を $\hof$ と書き、その部分代数 $\hof^1$ と $\hof^0$ を $$\hof^1=\mathbb{Q}+y\hof\supset\hof^0=\mathbb{Q}+y\hof x$$ で定める。正整数 $k$ に対し $z_k=yx^{k-1}$ と書くことにすると、$\hof^1$ のword (モニックな単項式) とインデックスは $(k_1,\ldots,k_r)\leftrightarrow z_{k_1}\cdots z_{k_r}$ という形で一対一対応し、以降これを指して単にwordとインデックスの対応という。

定義 2 (調和積)

双線形な積 $\ast:\hof^1\times\hof^1\to\hof^1$ を以下の規則で定める:

  • $1\ast w=w\ast 1=w$
  • $w_1z_k\ast w_2z_l=(w_1z_k\ast w_2)z_l+(w_1\ast w_2z_l)z_k+(w_1\ast w_2)z_{k+l}$

ここで $w,w_1,w_2$ は $\hof^1$ のwordで、$k,l$ は正整数である。この積 $\ast$ を調和積 (harmonic product, stuffle product) という。

    • $\bk,~\bl$ に対応する $\hof^1$ のwordを $w_1,~w_2$ としたとき、調和積 $w_1\ast w_2$ を $\bk\ast\bl$ と書く。
定義 3 (調和積のvariant)

$w,w_1,w_2,k,l$ は上と同じ仮定とする。調和積と同様に

  • $1~\bar{\ast}~w=w~\bar{\ast}~1=w$
  • $w_1z_k~\bar{\ast}~w_2z_l=(w_1z_k~\bar{\ast}~w_2)z_l+(w_1~\bar{\ast}~w_2z_l)z_k-(w_1~\bar{\ast}~w_2)z_{k+l}$

という帰納的規則で双線形な積 $\bar{\ast}:\hof^1\times\hof^1\to\hof^1$ を定める。またこれらを用いて

  • $w_1z_k\circledast w_2z_l=(w_1\ast w_2)z_{k+l}$
  • $w_1z_k~\bar{\circledast}~w_2z_l=(w_1~\bar{\ast}~w_2)z_{k+l}$

のようにして二つの積 $\circledast,~\bar{\circledast}$ を定める。

定義 4 (シャッフル積)

双線形な積 $\sh:\hof\times\hof\to\hof$ を以下の規則で定める:

  • $1~\sh~w=w~\sh~1=w$
  • $w_1u_1~\sh~w_2u_l=(w_1u_1~\sh~w_2)u_2+(w_1~\sh~w_2u_2)u_1$

ここで $w,w_1,w_2$ は $\hof^1$ のwordで、$u_1,u_2\in\{x,y\}$ である。この積 $\sh$ をシャッフル積 (shuffle product) という。

  • $\bk,~\bl$ に対応する $\hof^1$ のwordを $w_1,~w_2$ としたとき、シャッフル積 $w_1~\sh~w_2$ を $\bk~\sh~\bl$ と書く。

多重ゼータ値

定義 5 (多重ゼータ値)

許容インデックス $\bk=(k_1,\ldots,k_r)$ に対し

$$\zeta(\bk)=\sum_{0 < n_1 < \cdots < n_r} \frac{1}{n_1^{k_1}\cdots n_r^{k_r}}$$

で定まる実数 $\zeta(\bk)$ を多重ゼータ値 (multiple zeta value, MZV) という。

定理 6 (反復積分表示)

$i=0,1$ に対し $$\omega_0(t)=\frac{1}{t},\qquad\omega_1(t)=\frac{dt}{1-t}$$ とおき、$\varepsilon_1,\ldots,\varepsilon_k\in\{0,1\}$ ($k\ge 1$) に対し $$I(\varepsilon_1,\ldots,\varepsilon_k)=\int_{0<t_1<\cdots<t_k<1} \prod_{i=1}^k \omega_i(t_i)$$ とおく。このとき許容インデックス $(k_1,\ldots,k_r)$ に対し $$\zeta(k_1,\ldots,k_r)=I(1,\underbrace{0,\ldots,0}_{k_1-1},\ldots,1,\underbrace{0,\ldots,0}_{k_r-1})$$ が成り立つ。

双対性

定義 7 (双対性の連結和)

インデックス $\bk=(k_1, \ldots,k_r),~\bl=(l_1,\ldots,l_s)$ ($r,s\ge 1$) に対し双対性の連結和を $$Z^D(\bk;\bl)=\sum_{\substack{0<m_1<\cdots<m_r\\0<n_1<\cdots<n_s}} \left(\prod_{i=1}^r \frac{1}{m_i^{k_i}}\right)\cdot\frac{m_r!n_s!}{(m_r+n_s)!}\cdot\left(\prod_{j=1}^s \frac{1}{n_j^{l_j}}\right)$$ で定める。

  • 因子 $m_r!n_s!/(m_r+n_s)!$ がコネクターである。
  • 明らかに対称性 $Z^D(\bk;\bl)=Z^D(\bl;\bk)$ が成り立つ。
命題 8 (双対性の輸送関係式)

空でないインデックス $\bk,~\bl$ に対し以下が成り立つ。

  • (D1) $\bl\neq\emp$ のとき $Z^D(\bk_{\to};\bl)=Z^D(\bk;\bl_{\ue})$
  • (D2) $\bk\neq\emp$ のとき $Z^D(\bk_{\ue};\bl)=Z^D(\bk;\bl_{\to})$
証明

対称性より片方を示せば十分である。望遠鏡和 (telescoping sum) の計算により非負整数 $m,n$ に対し $$\begin{aligned}\sum_{a=m+1}^{\infty} \frac{1}{a}\frac{a!n!}{(a+n)!}&=\sum_{a=m+1}^{\infty} \frac{1}{n}\left(\frac{(a-1)!n!}{(a+n-1)!}-\frac{a!n!}{(a+n)!}\right)\\&=\frac{1}{m}\frac{m!n!}{(m+n)!}\end{aligned}$$ が成り立つことから定理を得る。

命題 9 (双対性の境界条件)

許容インデックス $\bk$ に対し $Z^D(\bk;\emp)=Z^D(\emp;\bk)=\zeta(\bk)$ である。

定理 10 (双対性)

許容インデックス $\bk$ に対し $\zeta(\bk)=\zeta(\bk^{\dagger})$ が成り立つ。

証明

各 $Z^D(\bk;\bl)$ に対し次のルールからなるアルゴリズムを考える:

  • $\bk$ が許容的なときは (D2) を使う。
  • $\bk$ が空でもなく許容的でもないときは (D1) を使う。
  • $\bk=\emp$ のときはそこで止める。

始点を $Z^D(\bk;\emp)$ としてこのアルゴリズムを実行することで定理が得られる。

調和関係式

定義 11 (調和関係式の連結和)

インデックス $\bk=(k_1,\ldots,k_r),~\bl=(l_1,\ldots,l_s),~\bh=(h_1,\ldots,h_p)$ ($r,s\ge 1,~p\ge 0$) に対し、調和関係式の連結和を $$Z^{\ast}(\bk;\bl;\bh)=\sum_{\substack{0<r_1<\cdots<r_p\\r_p=m_1<\cdots<m_r\\r_p=n_1<\cdots<n_s}} \left(\prod_{i=1}^r \frac{1}{m_i^{k_i}}\right)\cdot m_1n_1\left(\prod_{f=1}^p \frac{1}{r_f^{h_f}}\right)\cdot\left(\prod_{j=1}^s \frac{1}{n_j^{l_j}}\right)$$ で定める。

  • 明らかに対称性 $Z^{\ast}(\bk;\bl;\bh)=Z^{\ast}(\bl;\bk;\bh)$ が成り立つ。
命題 12 (調和関係式の輸送関係式)

空でないインデックス $\bk,~\bl$ とインデックス $\bh$ に対し以下が成り立つ。

  • (HP1) $Z^{\ast}({}_{\hidari}\bk;{}_{\hidari}\bl;\bh)=Z^{\ast}(\bk;{}_{\hidari}\bl;\bh_{\to})+Z^{\ast}({}_{\hidari}\bk;\bl;\bh_{\to})+Z^{\ast}(\bk;\bl;\bh_{\to\ue})$
  • (HP2) $Z^{\ast}({}_{\ue}\bk;\bl;\bh)=Z^{\ast}(\bk;\bl;\bh_{\ue})$
証明

和の取り方を変更すればよい。

命題 13 (調和関係式の境界条件)

許容インデックス $\bk,~\bl$ に対し $Z^{\ast}({}_{\hidari}\bk;{}_{\hidari}\bl;\emp)=\zeta(\bk)\zeta(\bl)$ である。また、非負整数 $h$ と許容インデックス $\bh$、空でないインデックス $\bh'$ に対し $Z^{\ast}(1;h+1,\bh;\bh')=\zeta(\bh'_{\ue^h},\bh)$ である。

定理 14 (調和関係式)

許容インデックス $\bk,~\bl$ に対し $\zeta(\bk)\zeta(\bl)=\zeta(\bk\ast\bl)$ が成り立つ。

証明

各 $Z^{\ast}(\bk;\bl;\bh)$ に対し次のルールからなるアルゴリズムを考える:

  • $\overleftarrow{\bk},\overleftarrow{\bl}$ が $(1)$ でも許容的でもないときは (HP1) を使う。
  • $\overleftarrow{\bk}$ が許容的なときは (HP2) を使う。
  • $\overleftarrow{\bl}$ が $(1)$ かあるいは許容的なときは対称性 $Z^{\ast}(\bk;\bl;\bh)=Z^{\ast}(\bl;\bk;\bh)$ を使う。
  • $\bk=(1)$ のときはそこで止める。

始点を $Z^{\ast}({}_{\hidari}\bk;{}_{\hidari}\bl;\emp)$ としてこのアルゴリズムを実行することで定理が得られる。

シャッフル関係式

定義 15 (シャッフル関係式の連結和)

インデックス $\bk=(k_1,\ldots,k_r),~\bl=(l_1,\ldots,l_s),~\bh=(h_1,\ldots,h_p)$ ($r,s\ge 1,~p\ge 0$) に対し、シャッフル関係式の連結和を $$Z^{\sh}(\bk;\bl;\bh)=\sum_{\substack{0<m_1<\cdots<m_r\\0<n_1<\cdots<n_s\\m_r+n_s=r_1<\cdots<r_p}} \left(\prod_{i=1}^r \frac{1}{m_i^{k_i}}\right)\cdot m_rn_sr_1\left(\prod_{f=1}^p \frac{1}{r_f^{h_f}}\right)\cdot\left(\prod_{j=1}^s \frac{1}{n_j^{l_j}}\right)$$ で定める。

  • 明らかに対称性 $Z^{\sh}(\bk;\bl;\bh)=Z^{\sh}(\bl;\bk;\bh)$ が成り立つ。
命題 16 (シャッフル関係式の輸送関係式)

インデックス $\bk,~\bl$ と空でないインデックス $\bh$ に対し以下が成り立つ。

  • (SP1) $Z^{\sh}(\bk_{\ue};\bl_{\ue};\bh)=Z^{\sh}(\bk;\bl_{\ue};\bh_{\ue})+Z^{\sh}(\bk_{\ue};\bl;\bh_{\ue})$
  • (SP2) $Z^{\sh}(\bk_{\to};\bl;{}_{\ue}\bh)=Z^{\sh}(\bk_{\ue};\bl;{}_{\hidari}\bh)$
証明

部分分数分解 \[\frac{1}{ab}=\left(\frac{1}{a}+\frac{1}{b}\right)\frac{1}{a+b}\] よりわかる。

命題 17 (シャッフル関係式の境界条件)

許容インデックス $\bk,~\bl$ に対し $Z^{\sh}(\bk_{\ue};\bl_{\ue};1)=\zeta(\bk)\zeta(\bl)$ である。また、インデックス $\bh,~\bh'$ に対し $Z^{\sh}(\emp;\bh_{\ue};{}_{\hidari}\bh')=\zeta(\bh,\bh')$ である。

定理 18 (シャッフル関係式)

許容インデックス $\bk,~\bl$ に対し $\zeta(\bk)\zeta(\bl)=\zeta(\bk~\sh~\bl)$ が成り立つ。

証明

各 $Z^{\sh}(\bk;\bl;\bh)$ に対し次のルールからなるアルゴリズムを考える:

  • $\bk,~\bl$ が許容的なときは (SP1) を使う。
  • $\bk$ が $\emp$ でも許容的でもないときは (SP2) を使う。
  • $\bl$ が $\emp$ かあるいは許容的でないときは対称性 $Z^{\sh}(\bk;\bl;\bh)=Z^{\sh}(\bl;\bk;\bh)$ を使う。
  • $\bk=\emp$ のときはそこで止める。

始点を $Z^{\sh}(\bk_{\ue};\bl_{\ue};1)$ としてこのアルゴリズムを実行することで定理が得られる。

巡回和公式

定義 19 (巡回和公式の連結和)

インデックス $\bk$ に対し、巡回和公式の連結和を $$Z^O(\bk)=\sum_{0 < n_1 < \cdots < n_r} \left(\prod_{i=1}^r \frac{1}{n_i^{k_i}}\right)\cdot \frac{n_1}{n_r-n_1}$$ で定める。

  • $\bk$ の成分のうちどれかが $2$ 以上であればこれは収束する。
命題 20 (巡回和公式の輸送関係式)

インデックス $\bk$ に対し以下が成り立つ。

  • (CS1) $Z^O(\bk_{\ue})=Z^O({}_{\ue}\bk)-\zeta(\bk_{\ue})$
  • (CS2) $Z^O(\bk_{\to})=Z^O({}_{\hidari}\bk)+\zeta(\bk_{\ue})$
証明

部分分数分解 $$\frac{1}{n'(n'-n)}=\frac{1}{n(n'-n)}-\frac{1}{nn'}$$ よりわかる。

定理 21 (巡回和公式)

任意のインデックスの巡回同値類 $\alpha$ に対し $$\sum_{\bk\in\alpha}\zeta(\bk_{\ue})=\sum_{\bk\in\alpha}\sum_{j=0}^{k_r-2}\zeta(j+1,\bk_{\shita^j})$$ が成り立つ。ここで $k_r$ は $\bk$ の最後の成分である。

証明

各 $Z^O(\bk)$ に対し次のルールからなるアルゴリズムを考える:

  • $\bk$ が許容的なときは (CS1) を使う。
  • $\bk$ が許容的でないときは (CS2) を使う。
  • $\bk$ が始点に一致したときはそこで止める。

始点を $Z^O({}_{\hidari}\bk)$ としてこのアルゴリズムを実行することで定理が得られる。

Hoffman関係式

定義 22 (Hoffman関係式の連結和)

インデックス $\bk=(k_1, \ldots,k_r),~\bl=(l_1,\ldots,l_s)$ ($r,s\ge 1$) に対しHoffman関係式の連結和を $$Z^H(\bk;\bl)=\sum_{0<m_1<\cdots<m_r<n_1<\cdots<n_s} \left(\prod_{i=1}^r \frac{1}{m_i^{k_i}}\right)\cdot\frac{m_r}{n_1-m_r}\cdot\left(\prod_{j=1}^s \frac{1}{n_j^{l_j}}\right)$$ で定める。

命題 23 (Hoffman関係式の輸送関係式)

インデックス $\bk$ と許容インデックス $\bl=(l_1,\ldots,l_s)$ に対し以下が成り立つ。

  • (H1) $Z^H(\bk_{\ue};\bl)=Z^H(\bk;{}_{\ue}\bl)+\zeta(\bk,{}_{\ue}\bl)$
  • (H2) $Z^H(\bk_{\to};\bl)=Z^H(\bk;{}_{\hidari}\bl)+\zeta(\bk,{}_{\ue}\bl)$

ただし (H1) は $\bl=(1)$ にも有効である。

証明

部分分数分解 $$\frac{1}{m(n-m)}=\frac{1}{n(n-m)}+\frac{1}{mn}$$ よりわかる。

命題 24 (Hoffman関係式の境界条件)

許容インデックス $\bk$ に対し

  • $\displaystyle Z^H(\bk;1)=\sum_{i=0}^{\mathrm{dep}(\bk)-1}\zeta(\bk_i,{}_{\ue}(\bk^i))+\sum_{i=0}^{\mathrm{dep}(\bk)-1}\zeta(\bk_i,{}_{\hidari}(\bk^i))$
  • $Z^H(1;\bk)=\zeta({}_{\hidari}\bk)$

である。

定理 25 (Hoffman関係式)

許容インデックス $\bk=(k_1,\ldots,k_r)$ に対し $$\sum_{i=0}^{r-1}\zeta(\bk_i,{}_{\ue}(\bk^i))=\sum_{i=1}^r\sum_{j=1}^{k_i-1} \zeta((\bk_i)_{\shita^j},j+1,\bk^i)$$ が成り立つ。

証明

各 $Z^H(\bk;\bl)$ に対し次のルールからなるアルゴリズムを考える:

  • $\bk$ が許容的なときは (H1) を使う。
  • $\bk$ が $(1)$ でも許容的でないときは (H2) を使う。
  • $\bk=(1)$ のときはそこで止める。

始点を $Z^H(\bk;1)$ としてこのアルゴリズムを実行することで定理が得られる。

Appendix A. 延長と$q$-類似

定義 26

実数 $0<q<1$ と許容インデックス $\bk=(k_1,\ldots,k_r)$ に対し $$\zeta_q(\bk)=\sum_{0<n_1<\cdots<n_r}\frac{q^{(k_1-1)n_1+\cdots+(k_r-1)n_r}}{[n_1]^{k_1}\cdots[n_r]^{k_r}}$$ とおく。ここで $[n]=\frac{1-q^n}{1-q}$ と書いた。また、これを用いて非負整数 $h$ に対し $$O^q_h(\bk)=\sum_{\substack{e_1,\ldots,e_r\ge 0\\e_1+\cdots+e_r=h}}\zeta_q(k_1+e_1,\ldots,k_r+e_r)$$ とおく。

定義 27

インデックス $\bk=(k_1, \ldots,k_r),~\bl=(l_1,\ldots,l_s)$ ($r,s\ge 1$) と不定元 $x$ に対し $$Z^x_q(\bk;\bl)=\sum_{\substack{0<m_1<\cdots<m_r\\0<n_1<\cdots<n_s}} \left(\prod_{i=1}^r \frac{q^{(k_j-1)n_j}}{([m_i]-q^{m_i}x)[m_i]^{k_i-1}}\right)\cdot\frac{q^{m_rn_s}[m_r;x][n_s;x]}{[m_r+n_s;x]}\cdot\left(\prod_{j=1}^s \frac{q^{(l_j-1)n_j}}{([n_j]-q^{n_j}x)[n_j]^{l_j-1}}\right)$$ で定める。ここで $[n;x]=\prod_{i=1}^n([i]-q^ix)$ と書いた。

命題 28

空でないインデックス $\bk,~\bl$ に対し以下が成り立つ。

  • (qxD1) $\bl\neq\emp$ のとき $Z^x_q(\bk_{\to};\bl)=Z^x_q(\bk;\bl_{\ue})$
  • (qxD2) $\bk\neq\emp$ のとき $Z^x_q(\bk_{\ue};\bl)=Z^x_q(\bk;\bl_{\to})$
証明

対称性より片方を示せば十分である。望遠鏡和の計算により非負整数 $m,n$ に対し $$\begin{aligned}\sum_{a=m+1}^{\infty} \frac{q^{an}}{[a]-q^ax}\frac{[a;x][n;x]}{[a+n;x]}&=\sum_{a=m+1}^{\infty} \frac{q^n}{[n]}\left(q^{(a-1)n}\frac{[a-1;x][n;x]}{[a+n-1;x]}-q^{an}\frac{[a;x][n;x]}{[a+n;x]}\right)\\&=\frac{q^n}{[n]}q^{mn}\frac{[m;x][n;x]}{[m+n;x]}\end{aligned}$$ が成り立つことから定理を得る。

命題 29

許容インデックス $\bk$ に対し $$Z^x_q(\bk;\emp)=Z^x_q(\emp;\bk)=\sum_{h=0}^{\infty} O^q_h(\bk)x^h$$ である。

定理 30

許容インデックス $\bk$ と非負整数 $h$ に対し $O_h(\bk)=O_h(\bk^{\dagger})$ が成り立つ。

証明

各 $Z^x_q(\bk;\bl)$ に対し次のルールからなるアルゴリズムを考える:

  • $\bk$ が許容的なときは (qxD2) を使う。
  • $\bk$ が空でもなく許容的でもないときは (qxD1) を使う。
  • $\bk=\emp$ のときはそこで止める。

始点を $Z^x_q(\bk;\emp)$ としてこのアルゴリズムを実行することで定理が得られる。

Appendix B. 二重大野関係式

定義 31

非負整数 $h_1,h_2$ と許容インデックス $\bk$ に対し $$O_{h_1,h_2}(\bk )=\sum_{\substack{e_1,\ldots,e_r\ge 0\\e_1+\cdots +e_r=h_1}} \sum_{f_1,\ldots,f_r\ge 0\atop{f_1+\cdots +f_r=h_2}}\zeta_q(k_1+e_1+f_1,\ldots,k_r+e_r+f_r),$$ $$O(\bk )=\sum_{h_1,h_2=0}^{\infty} O_{h_1,h_2}(\bk )\xi^{h_1}\eta^{h_2}$$ とおく。ここで $\xi,\eta$ は十分に小さい非負実数である。

補題 32

許容インデックス $\bk$ に対し $O(\bk)$ は収束する。

証明

簡単な級数の変形 $$\begin{aligned}O(\bk )&=\sum_{h_1,h_2=0}^{\infty} O_{h_1,h_2}(\bk )\xi^{h_1}\eta^{h_2}\\&=\sum_{h_1,h_2=0}^{\infty} \sum_{e_1,\ldots,e_r\ge 0\atop{e_1+\cdots +e_r=h_1}}\sum_{f_1,\ldots,f_r\ge 0\atop{f_1+\cdots +f_r=h_2}}\sum_{0 < n_1 < \cdots < n_r} \left(\prod_{i=1}^r \frac{q^{(k_i+e_i+f_i-1)n_i}}{[n_i]^{k_i+e_i+f_i}}\right)\xi^{h_1}\eta^{h_2}\\&=\sum_{0 < n_1 < \cdots < n_r}\sum_{e_1,\ldots,e_r\ge 0}\sum_{f_1,\ldots,f_r\ge 0} \left(\prod_{i=1}^r \frac{q^{(k_i-1)n_i}}{[n_i]^{k_i}}\left(\frac{q^{n_i}}{[n_i]}\right)^{e_i+f_i}\right)\xi^{e_1+\cdots+e_r}\eta^{f_1+\cdots+f_r}\\&=\sum_{0 < n_1 < \cdots < n_r} \prod_{i=1}^r \frac{q^{(k_i-1)n_i}}{[n_i]^{k_i}}\frac{1}{1-q^{n_i}\xi/[n_i]}\frac{1}{1-q^{n_i}\eta/[n_i]}\\&=\sum_{0 < n_1 < \cdots < n_r} \prod_{i=1}^r \frac{q^{(k_i-1)n_i}}{[n_i]^{k_i-2}([n_i]-q^{n_i}\xi)([n_i]-q^{n_i}\eta)}\end{aligned}$$ により、正整数 $m$ と正実数 $x$ に対して成り立つ不等式 $$\frac{1}{[m]-q^mx}\le \frac{1}{1-x}\frac{1}{[m]}$$ を使うと $O(\bk )\le (1-\xi)^{-r}(1-\eta)^{-r}\zeta_q(\bk )$ を得るが、$\bk $ が許容インデックスのとき $\zeta_q(\bk )$ は収束するので補題を得る。

定義 33

非負整数 $m,n$ に対し $$c(m,n)=q^{mn}\frac{[m;\xi][m;\eta][n;\xi][n;\eta]}{[m]![n]![m+n;\xi+\eta+(1-q)\xi\eta]}$$ とおき、インデックス $\bk=(k_1,\ldots,k_r),~\bl=(l_1,\ldots,l_s)$ ($r,s\ge 0$) に対し $$Z(\bk ;\bl)=\sum_{0=m_0 < m_1 < \cdots < m_r\atop{0=n_0 < n_1 < \cdots < n_r}} \left(\prod_{i=1}^r \frac{q^{(k_i-1)m_i}}{[m_i]^{k_i-2}([m_i]-q^{m_i}\xi)([m_i]-q^{m_i}\eta)}\right)\cdot c(m_r,n_s)\cdot\left(\prod_{j=1}^s \frac{q^{(l_j-1)n_j}}{[n_j]^{k_j-2}([n_j]-q^{n_j}\xi)([n_i]-q^{n_j}\eta)}\right)$$ とおく。ここで $[n]!=[n;0]$ とおいた。

補題 34

正整数 $n$ に対し $$\lim_{m\to\infty} c(m,n)=0$$ である。

証明

$0\le \delta\le 1$ に対し $q^i\delta\le q^{i-1}=[i-1]-[i]$ なので $[i-1]\le [i]-q^i\delta\le [i]$ が成り立つことから、正整数 $a$ に対し $(1-q\delta)[a-1]!\le [a;\delta]\le [a]!$ がわかる。この事実より $$c(m,n)\le \frac{q^{mn}[m]!}{(1-q(\xi+\eta+(1-q)\xi\eta))[m+n-1]!}\frac{[n;\xi][n;\eta]}{[n]!}$$ となるが、$1/[m+n-1]! \le 1$ が成り立つことで $c(m,n)q^{-mn}$ が $m$ によらない定数で抑えられる。

命題 35

$\bl\neq\varnothing$ のとき $$Z(\bk _{\rightarrow};\bl)=Z(\bk ;\bl_{\uparrow})+\xi\eta~ Z(\bk _{\rightarrow\uparrow}~;\bl_{\uparrow})$$ であり、$\bk \neq\varnothing$ のとき $$Z(\bk _{\uparrow};\bl)=Z(\bk ;\bl_{\rightarrow})-\xi\eta~ Z(\bk _{\uparrow};\bl_{\rightarrow\uparrow}~)$$ が成り立つ。

証明

正整数 $a,n$ に対し

$$\begin{aligned} [a]([a+n]-q^{a+n}(\xi+\eta+(1-q)\xi\eta))-q^n([a]-q^a\xi)([a]-q^a\eta)&=[a][a+n]-(1-q^a)q^{a+n}\xi\eta-q^n[a]^2+q^{n+2a}\xi\eta\\&=\frac{(1-q^a)(1-q^{a+n})-q^n(1-q^a)^2}{(1-q)^2}-q^{a+n}\xi\eta\\&=[a][n]-q^{a+n}\xi\eta\end{aligned}$$

より、$c(m,n)$ の差分が

$$\begin{aligned}c(a-1,n)-c(a,n)&=q^{(a-1)n}\frac{[a-1;\xi][a-1;\eta][n;\xi][n;\eta]}{[a-1]![n]![a+n-1;\gamma]}-q^{an}\frac{[a;\xi][a;\eta][n;\xi][n;\eta]}{[a]![n]![a+n;\gamma]}\\&=\left(q^{-n}\frac{[a]([a+n]-q^{a+n}\gamma)}{([a]-q^a\xi)([a]-q^a\eta)}-1\right)c(a,n)\\&=\frac{[a][n]-q^{a+n}\xi\eta}{q^n([a]-q^a\xi)([a]-q^a\eta)}c(a,n)\end{aligned}$$

と計算できる。ここで $\xi+\eta+(1-q)\xi\eta$ を $\gamma$ と書いた (今後も $\gamma$ といえばこれを意味するものとする)。したがって

$$\begin{aligned}\sum_{a=m+1}^{\infty} \frac{[a]}{([a]-q^{a}\xi)([a]-q^{a}\eta)}c(a,n)&=\sum_{a=m+1}^{\infty} \frac{1}{[n]}\left(q^nc(a-1,n)-q^nc(a,n)+\frac{q^{a+n}\xi\eta}{q^n([a]-q^a\xi)([a]-q^a\eta)}c(a,n)\right)\\&=\frac{q^n}{[n]}c(m,n)+\frac{\xi\eta}{[n]}\sum_{a=m+1}^{\infty} \frac{q^a}{([a]-q^a\xi)([a]-q^a\eta)}\end{aligned}$$

が成り立ち、命題の一本目の等式がいえる。二本目も対称性 $Z(\bk ;\bl)=Z(\bl;\bk )$ から $$\begin{aligned}Z(\bk _{\uparrow};\bl)&=Z(\bl_{\rightarrow};\bk )-\xi\eta~ Z(\bl_{\rightarrow\uparrow}~;\bk )\\&=Z(\bk ;\bl_{\rightarrow})-\xi\eta~ Z(\bk ;\bl_{\rightarrow\uparrow}~)\end{aligned}$$ のように従う。

補題 36

インデックス $\bk$ と $\bl$ が

  1. 両方空でない
  2. 片方が空で、もう片方が許容的

のいずれかを満たすとき $Z(\bk;\bl)$ は収束する。

証明

定義より $Z(\emp;\emp)$ は収束しているので以下 $(\bk,\bl)\neq(\emp,\emp)$ とする。また、変数を明示した記法 $c_q(m,n;\xi,\eta)$ や $Z_q(\bk ;\bl;\xi,\eta)$ を用いることとする。不等式 $(1-q\delta)[a-1]!\le [a;\delta]\le [a]!$ を用いると $$\begin{aligned}c_q(m,n;\xi,\eta)&=q^{mn}\frac{[m;\xi][m;\eta][n;\xi][n;\eta]}{[m]![n]![m+n;\xi+\eta+(1-q)\xi\eta]}\\&\le q^{mn}\frac{[m]!^2[n]!^2}{[m]![n]!(1-q\gamma)[m+n-1]!}\\&\le q^{mn}\frac{[m]!^2[n]!^2}{[m]![n]!(1-q\gamma)(1-q^{m+n})[m+n-1]!}\\&=q^{mn}\frac{[m]!^2[n]!^2}{[m]![n]!(1-q\gamma)(1-q)[m+n]!}\\&=c_q(m,n;0,0)\end{aligned}$$ という議論が成り立つが、$Y(\bk ;\bl)=Z_q(\bk ;\bl;0.0)$ とおくと、不等式 $$\frac{1}{[m]-q^mx}\le \frac{1}{1-x}\frac{1}{[m]}$$ により $$Z_q(\bk ;\bl;\xi,\eta)\le \frac{1}{(1-q)(1-q\gamma)}\frac{1}{(1-\xi)^{\mathrm{dep}(\bk )}(1-\eta)^{\mathrm{dep}(\bl)}}Y(\bk ;\bl)$$ がわかる。したがって問題は $Y(\bk ;\bl)$ の収束性に帰着されるが、命題 35 より $$\begin{aligned}Y(\bk _{\rightarrow};\bl)&=Y(\bk ;\bl_{\uparrow})\\ Y(\bk _{\uparrow};\bl)&=Y(\bk ;\bl_{\rightarrow})\end{aligned}$$ となる。したがって $\bk,~\bl$ が両方空でないときある許容インデックス $\bh$ を用いて $Y(\bk ;\bl)=\cdots=Y(\emp;\bh)$ という形に書けて、ゆえに問題は補題の 2. に帰着される。しかし定義より $Y(\varnothing;\bh_{\uparrow})=\zeta_q(\bh_{\uparrow})$ であり、この右辺は収束するため補題は正しい。

37

$\bk ,\bl$ が空でないとき

$$\begin{aligned}Z(\bk _{\rightarrow\uparrow}~;\bl)&=Z(\bk ;\bl_{\rightarrow\uparrow}~)\\ Z(\bk _{\uparrow\rightarrow};\bl)&=Z(\bk ;\bl_{\uparrow\rightarrow})\end{aligned}$$

が成り立つ。

証明

命題 35 より $$Z(\bk _{\rightarrow\uparrow}~;\bl)=Z(\bk _{\rightarrow};\bl_{\rightarrow})-\xi\eta ~Z(\bk _{\rightarrow\uparrow}~;\bl_{\rightarrow\uparrow})$$ であり、$$\begin{aligned}\displaystyle Z(\bk _{\rightarrow};\bl_{\rightarrow})-\xi\eta ~Z(\bk _{\rightarrow\uparrow}~;\bl_{\rightarrow\uparrow}~)&=Z(\bk ;\bl_{\uparrow\rightarrow})+\xi\eta ~Z(\bk _{\rightarrow\uparrow}~;\bl_{\rightarrow\uparrow}~)-\xi\eta ~Z(\bk _{\rightarrow\uparrow}~;\bl_{\rightarrow\uparrow}~)\end{aligned}$$ がいえる。二つ目も同様に $$\begin{aligned}Z(\bk _{\uparrow\rightarrow};\bl)&=Z(\bk _{\uparrow};\bl_{\uparrow})+\xi\eta ~Z(\bk _{\uparrow\rightarrow\uparrow}~;\bl_{\uparrow})\\&=Z(\bk _{\uparrow};\bl_{\uparrow})+\xi\eta ~Z(\bk _{\uparrow\rightarrow\uparrow}~;\bl_{\uparrow})\\&=Z(\bk ;\bl_{\uparrow\rightarrow})-\xi\eta ~Z(\bk _{\uparrow};\bl_{\uparrow\rightarrow\uparrow}~)+\xi\eta ~Z(\bk _{\uparrow\rightarrow\uparrow}~;\bl_{\uparrow})\end{aligned}$$ という変形から証明が完成する。

補題 38

実数 $\delta$ に対し $\delta'=1+(1-q)\delta$ とおく。また、非負整数 $N$ と実数 $a$ に対し $$(a;q)_m=\prod_{i=0}^{N-1} (1-aq^i)$$ を $q$-Pochhammer記号とし、$(a;q)_{\infty}=\lim_{m\to\infty} (a;q)_m$ とおく。このとき空でない $\bk$ に対し $$Z(\bk ;1)=\frac{(q\xi';q)_{\infty}(q\eta';q)_{\infty}}{(q;q)_{\infty}(q\xi'\eta';q)_{\infty}}O(\bk _{\uparrow})$$ が成り立ち、とくにこれは収束する。

証明

定義より $$\begin{aligned}\gamma'&=1+(1-q)\gamma\\&=1+(1-q)(\xi+\eta+(1-q)\xi\eta)\\&=(1+(1-q)\xi)(1+(1-q)\eta)\\&=\xi'\eta'\end{aligned}$$ であり、$$\begin{aligned}[m;\delta]&=\prod_{i=1}^m ([m]-q^m\delta)\\&=(1-q)^{-m}\prod_{i=1}^m (1-q^m-q^m\delta)\\&=(1-q)^{-m}\prod_{i=1}^m (1-q^{m-1}(1+(1-q)\delta))\\&=(1-q)^{-m}(q\delta';q)_m\end{aligned}$$ であることに注意する。さて正整数 $m$ に対し $$\begin{aligned} \sum_{n=1}^{\infty} c(m,n)\frac{[n]}{([n]-q^n\xi)([n]-q^n\eta)}&=\sum_{n=1}^{\infty} c(m,n)\frac{(1-q)^n(1-q)}{(1-q^n\xi')(1-q^n\eta')}\\&=\sum_{n=1}^{\infty} q^{mn}\frac{(1-q)^{-2m-2n}(q\xi';q)_m(q\eta';q)_m(q\xi';q)_n(q\eta';q)_n}{(1-q)^{-2m-2n}(q;q)_m(q;q)_n(q\xi'\eta';q)_{m+n}}\frac{(1-q)^n(1-q)}{(1-q^n\xi')(1-q^n\eta')}\\&=\sum_{n=1}^{\infty} (1-q)q^mq^{m(n-1)}\frac{(q\xi';q)_m(q\eta';q)_m(q\xi';q)_{n-1}(q\eta';q)_{n-1}}{(q;q)_m(q;q)_{n-1}(q\xi'\eta';q)_{m+n}}\\&=\sum_{n=1}^{\infty} (1-q)q^mq^{m(n-1)}\frac{(q\xi';q)_m(q\eta';q)_m(q\xi';q)_{n-1}(q\eta';q)_{n-1}}{(q;q)_m(q;q)_{n-1}(q\xi'\eta';q)_{m+1}(q^{m+2}\xi'\eta';q)_{n-1}}\\&=(1-q)q^m\frac{(q\xi';q)_m(q\eta';q)_m}{(q;q)_m(q\xi'\eta';q)_{m+1}}{}_2\phi_1\left(\begin{matrix}q\xi',q\eta'\\ q^{m+2}\xi'\eta'\end{matrix};q,q^m\right)\end{aligned}$$ という変形が可能である。ここで ${}_2\phi_1$ は $q$-超幾何級数 $$ {}_2\phi_1\left(\begin{matrix}a,b\\ c\end{matrix};q,z\right)=\sum_{n=0}^{\infty} \frac{(a;q)_n(b;q)_n}{(c;q)_n(q;q)_n}z^n$$

である。Heine の和公式 $${}_2\phi_1\left(\begin{matrix}a,b\\ c\end{matrix};q,\frac{c}{ab}\right)=\frac{(c/a;q)_{\infty}(c/b;q)_{\infty}}{(c;q)_{\infty}(c/ab;q)_{\infty}}$$ において $a\mapsto q\xi',\,b\mapsto q\eta',\,c\mapsto q^{m+2}\xi'\eta'$ とすることで $$\begin{aligned} \sum_{n=1}^{\infty} c(m,n)\frac{[n]}{([n]-q^n\xi)([n]-q^n\eta)}&=(1-q)q^m\frac{(q\xi';q)_m(q\eta';q)_m}{(q;q)_m(q\xi'\eta';q)_{m+1}}{}_2\phi_1\left(\begin{matrix}q\xi',q\eta'\\ q^{m+2}\xi'\eta'\end{matrix};q,q^m\right)\\&=(1-q)q^m\frac{(q\xi';q)_m(q\eta';q)_m}{(q;q)_m(q\xi'\eta';q)_{m+1}}\frac{(q^{m+1}\xi';q)_{\infty}(q^{m+1}\eta';q)_{\infty}}{(q^{m+2}\xi'\eta';q)_{\infty}(q^m;q)_{\infty}}\\&=\frac{q^m}{[m]}\frac{(q\xi';q)_{\infty}(q\eta';q)_{\infty}}{(q;q)_{\infty}(q\xi'\eta';q)_{\infty}}\end{aligned}$$ となり、示すべき等式の左辺にこの事実を適用することで補題が得られる。

定義 39

非空インデックス $\bk ,\bl$ に対応するwordをそれぞれ $w,w'$ としたとき $Z(w;w')=Z(\bk ;\bl)$ とおき、$\mathbb{Q}$ 双線型写像になるよう $y\hof$ に拡張する。また、$(y\hof)[ [\lambda] ]$ の元 $w=\sum_{i=0}^{\infty} w_i\lambda^i,~w'=\sum_{i=0}^{\infty} w'_i\lambda^i$ に対し $$Z(w;w')=\sum_{i,j=0}^{\infty} Z(w_i;w'_j)(\xi\eta)^{i+j}$$ とおいて、$Z$ の定義域を拡張する。

補題 40

$\varepsilon=\xi\eta~O(2)$ と書いたとき $\varepsilon<1$ が成り立つように $\xi,\eta$ をとる。また、$$\tau_{\lambda}(x)=(1+yx\lambda)^{-1}y,\quad\tau_{\lambda}(y)=x(1+yx\lambda),\quad\tau_{\lambda}(\lambda)=\lambda$$ とおき、$A$ の $\mathbb{Q}$ 反自己同型になるよう $\tau_{\lambda}$ を拡張する。このとき $w,w'\in yA$ に対し $Z(w;w')$ は絶対収束し、また $u\in A$ に対し関係式 $Z(wu;w')=Z(w;w\tau_{\lambda}(u))$ が成り立つ。

証明

まず収束性を示す。線型性より $$w=yu_1(1+yx\lambda)^{-1}u_2(1+yx\lambda)^{-1}\cdots u_n(1+yx\lambda)^{-1}u_{n+1},$$ $$w'=yu'_1(1+yx\lambda)^{-1}u'_2(1+yx\lambda)^{-1}\cdots u'_m(1+yx\lambda)^{-1}u'_{m+1}$$ という形の元について示せばよい。ここで各 $u_i,u'_j$ は $\hof$ のwordとした。このとき定義より $$w=\sum_{i_1,\ldots,i_n\ge 0} yu_1(-yx)^{i_1}u_2(-yx)^{i_2}\cdots u_n(-yx)^{i_n}u_{n+1}\lambda^{i_1+\cdots+i_n},$$ $$w'=\sum_{j_1,\ldots,j_m\ge 0} yu'_1(-yx)^{j_1}u'_2(-yx)^{j_2}\cdots u_m(-yx)^{j_m}u'_{m+1}\lambda^{j_1+\cdots+j_m}$$ と書けて、$Z$ の定義を思い出せば $$Z(w;w')=\sum_{i_1,\ldots,i_{n+m}\ge 0} Z(w_{i_1,\ldots,i_n};w'_{i_{n+1},\ldots,i_{n+m}})(-\xi\eta)^{i_1+\cdots+i_{n+m}}$$ となる。ここで $$\begin{aligned}w_{i_1,\ldots,i_n}&=yu_1(yx)^{i_1}u_2(yx)^{i_2}\cdots u_n(yx)^{i_n}u_{n+1}\\w'_{i_{n+1},\ldots,i_{n+m}}&=yu'_1(yx)^{i_1}u'_2(yx)^{i_2}\cdots u'_m(yx)^{i_m}u'_{m+1}\end{aligned}$$ とおいた。ところで不等式 $$Z(w_{i_1,\ldots,i_n};w'_{i_{n+1},\ldots,i_{n+m}})\le O(2)^{i_1+\cdots+i_{n+m}}Z(yu_1\cdots u_{n+1};yu'_1\cdots u'_{m+1})$$ が成り立つことが簡単に確認できて、$Z(w_{i_1,\ldots,i_n};w'_{i_{n+1},\ldots,i_{n+m}})\ge 0$ より $$ \sum_{i_1,\ldots,i_{n+m}\ge 0} Z(w_{i_1,\ldots,i_n};w'_{i_{n+1},\ldots,i_{n+m}})(\xi\eta)^{i_1+\cdots+i_{n+m}}$$ の収束を言えばよいということになる。上に挙げた不等式と最初に要求した条件 $\varepsilon=\xi\eta~O(2)<1$ を使えば $$\begin{aligned}\sum_{i_1,\ldots,i_{n+m}\ge 0} Z(w_{i_1,\ldots,i_n};w'_{i_{n+1},\ldots,i_{n+m}})(\xi\eta)^{i_1+\cdots+i_{n+m}}&\le \sum_{i_1,\ldots,i_{n+m}\ge 0} Z(yu_1\cdots u_{n+1};yu'_1\cdots u'_{m+1})\varepsilon^{i_1+\cdots+i_{n+m}}\\&=\left(\frac{1}{1-\varepsilon}\right)^{n+m}Z(yu_1\cdots u_{n+1};yu'_1\cdots u'_{m+1})\end{aligned}$$ となり、中身が word である $Z(yu_1\cdots u_{n+1};yu'_1\cdots u'_{m+1})$ の収束性は補題 36よりわかる。次に $Z(wu;w')=Z(w;w\tau_{\lambda}(u))$ を示すが、絶対収束性より $w,w'$ をword、$u$ を $x,y$ のいずれかと限定しても問題はない。このとき命題 35の主張 $$Z(\bk _{\rightarrow};\bl)=Z(\bk ;\bl_{\uparrow})+\xi\eta~ Z(\bk _{\rightarrow\uparrow}~;\bl_{\uparrow})$$ は $$Z(wy;w')=Z(w;w'x)+\xi\eta~Z(wyx;wx)$$ と言い換えられ、 37で得られた $$Z(\bk _{\rightarrow\uparrow}~;\bl)=Z(\bk ;\bl_{\rightarrow\uparrow}~)$$ と $Z$ の定義より $$\begin{aligned}Z(w;w'x)+\xi\eta~Z(wyx;wx)&=Z(w;w'x)+\xi\eta~Z(w;w'xyx)\\&=Z(w;w'x(1+yx\lambda))\end{aligned}$$ となる。一方で $\tau_{\lambda}(y)=x(1+yx\lambda)$ が $\tau_{\lambda}$ の定義であったから $u=y$ の場合が証明できた。最後に $u=x$ の場合を示す: 命題 35で得た $$Z(\bk _{\uparrow};\bl)=Z(\bk ;\bl_{\rightarrow})-\xi\eta~ Z(\bk _{\uparrow};\bl_{\rightarrow\uparrow}~)$$ を $N$ ($\ge 0$) 回使うことで $$\begin{aligned} Z(wx;w')&=Z(w;w'y)-\xi\eta~Z(wx;w'yx)\\&=Z(w;w'y)-\xi\eta~Z(w;w'yxy)+(\xi\eta)^2Z(wx;w'(yx)^2)\\&=\cdots\\&=\sum_{i=0}^N Z(w;w'(yx)^iy)(-\xi\eta)^i+Z(wx;w'(yx)^{N+1})(-\xi\eta)^{N+1}\end{aligned}$$ がわかる。先ほどと同様の評価 $$\begin{aligned}Z(w;w'(yx)^iy)&\le Z(w;w'y)O(2)^i\\ Z(wx;w'(yx)^{N+1})&\le Z(wx;w')O(2)^{N+1}\end{aligned}$$ から $$\begin{aligned}\sum_{i=0}^N Z(w;w'(yx)^iy)(-\xi\eta)^i&\le \sum_{i=0}^N Z(w;w'y)(-\varepsilon)^i\\&=\frac{1+\varepsilon^{N+1}}{1+\varepsilon}Z(wx;w'y)\end{aligned}$$ は $N \to\infty$ としても収束する。一方、最後の項は $$\begin{aligned}Z(wx;w'(yx)^{N+1})(-\xi\eta)^{N+1}\le Z(wx;w')(-\varepsilon)^{N+1}\end{aligned}$$ と変形できるので $N\to\infty$ で $0$ に収束し、以上の事実から $$\begin{aligned}Z(wx;w')&=\lim_{N\to\infty}\left(\sum_{i=0}^N Z(w;w'(yx)^iy)(-\xi\eta)^i+Z(wx;w'(yx)^{N+1})(-\xi\eta)^{N+1}\right)\\&=\sum_{i=0}^{\infty} Z(w;w'(yx)^iy)(-\xi\eta)^i\end{aligned}$$ である。最後の和の中身は $Z$ の双線型性より $Z(w;w'(-yx)^iy)(\xi\eta)^i=Z(w;w'(-yx\lambda)^iy)$ と書けて、ゆえに $Z(w;w'(1+yx\lambda)^{-1}y)$ となるが、これは $\tau_{\lambda}$ の定義より $Z(w;w'\tau_{\lambda}(x))$ に等しい。

定理 41

$w\in A$ に対し $O(ywx)=O(y\tau_{\lambda}(w)x)$ が成り立つ。

証明

省略のため、記号 $$c_{\xi,\eta}=\frac{(q\xi';q)_{\infty}(q\eta';q)_{\infty}}{(q\xi'\eta';q)_{\infty}(q;q)_{\infty}}$$ を用いる。補題 38より $O(ywx)=c_{\xi,\eta}Z(yw;y)$ であるが、補題 40より $c_{\xi,\eta}Z(yw;y)=c_{\xi,\eta}Z(y;y\tau_{\lambda}(w))$ となって、対称性よりこれは $O(y\tau_{\lambda}(w)x)$ に等しい。

定理 42

非負整数 $d,n_0,\ldots,n_{2d}$ に対し $$\bk =(\{2\}^{n_0},1,\{2\}^{n_1},3,\ldots,\{2\}^{n_{2d-2}},1,\{2\}^{n_{2d-1}},3,\{2\}^{n_{2d}})$$ とおくと、任意の非負整数 $h_1,h_2$ に対し $O_{h_1,h_2}(\bk)=O_{h_1,h_2}(\bk^{\dagger})$ が成り立つ。

証明

$\bk$ が与えられた要件を満たすとき $$ \bk =(1)_{(\uparrow\rightarrow)^{n_0}(\rightarrow\uparrow)^{n_1+1}\cdots (\rightarrow\uparrow)^{n_{2d-1}+1}(\uparrow\rightarrow)^{n_{2d}}\uparrow}$$ となり、ゆえに 37より $$\begin{aligned}O(\bk )&=O((1)_{(\uparrow\rightarrow)^{n_0}(\rightarrow\uparrow)^{n_1+1}\cdots (\rightarrow\uparrow)^{n_{2d-1}+1}(\uparrow\rightarrow)^{n_{2d}}\uparrow}~\,)\\&=c_{\xi,\eta}Z((1)_{(\uparrow\rightarrow)^{n_0}(\rightarrow\uparrow)^{n_1+1}\cdots (\rightarrow\uparrow)^{n_{2d-1}+1}(\uparrow\rightarrow)^{n_{2d}}}~\,;1)\\&=c_{\xi,\eta}Z((1)_{(\uparrow\rightarrow)^{n_0}(\rightarrow\uparrow)^{n_1+1}\cdots (\rightarrow\uparrow)^{n_{2d-1}+1}(\uparrow\rightarrow)^{n_{2d}-1}}~\,;1_{\uparrow\rightarrow})\end{aligned}$$ のような変形が可能になる。同様の手続きを繰り返して $$\begin{aligned}O(\bk )&=c_{\xi,\eta}Z(1;1_{(\uparrow\rightarrow)^{n_{2d}}(\rightarrow\uparrow)^{n_{2d-1}+1}\cdots (\rightarrow\uparrow)^{n_1+1}(\uparrow\rightarrow)^{n_0}}~\,)\end{aligned}$$ がわかる。得られた等式の係数を比較することで定理を得る。

参考文献

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