局所副有限群の表現

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局所副有限群の基本的性質

局所副有限群とは、副有限群からなる単位元 $1$ の基本近傍系を持つような位相群のことである。これはまた、Hausdorffかつ局所コンパクトかつ完全不連結な位相群としても特徴づけることができる。いくつか例を挙げよう。

  1. $F$ を局所体とする。$\mathfrak{p}$ を $F$ の極大イデアルとすると、$GL_{n}(F)$ は局所副有限群であり、$1$ の基本近傍系として $\{1+\mathfrak{p}^{i}M_{n}(\mathscr{O}_{F})\}_{i\geq 1}$ を持つ。
  2. $F$ を局所体とし $I_{F}$ をその惰性群とする。$v\colon {\rm Gal}(F^{\rm sep}/F)\longrightarrow \widehat{\mathbb{Z}}$ を $F$ の剰余体の絶対Galois群への準同型とする。$v$ の核が $I_{F}$ であることが知られている。$W_{F}=\{\sigma \in \mathrm{Gal}(F^{\rm sep}/F)\mathrel{\vert} v(\sigma)\in \mathbb{Z}\}$ は $I_{F}$ を含む ${\rm Gal}(F^{\rm sep}/F)$ の部分群である。$W_{F}$ に $I_{F}$ が開部分群となるような位相を入れると、$W_{F}$ は局所副有限群となる。この位相群のことを局所体 $F$ の Weil群という。局所類体論により同相同型 $W_{F}^{\rm ab}\simeq F^{\times}$ が言える。
  3. $D$ を $F$ 上の中心単純代数とすると $GL_{r}(D)$ 等も局所副有限群である。

以降、$F$ を局所体とする。$F$ も加法群として、単位元 $0$ の基本近傍系 $\{\mathfrak{p}^{i}\}_{i\in \mathbb{Z}}$ を持ち、もちろん局所副有限群である。さらに $G$ は加算基を持つと仮定しよう。この仮定は一般論を展開する上で必ずしも必要ではないが、$G$ の商空間やその商測度の話をする際に、この仮定の下で煩雑な議論を回避することができる。我々が知りたい群、すなわち局所体上の代数群などはもちろんこの仮定を満足する。

定義 1

$G$ を局所副有限群とする。$G$ の指標とは連続な準同型 $\chi\colon G\longrightarrow \mathbb{C}^{\times}$ のことである。$G$ の指標がユニタリーであるとは、その像が単位円周 $S^{1}$ に含まれるもののことをいう。

もしも $G$ がコンパクトな開部分群の順極限として表せるような群ならば、$G$ の指標はユニタリーなものしかない。例えば $F$ は $F=\varinjlim_{i} \mathfrak{p}^{i}$ とコンパクト開部分群の合併として書けるので、$F$ の指標は必ずユニタリーである。乗法群 $F^{\times}$ は コンパクト開部分群 $\mathscr{O}_{F}^{\times}$ と離散群 $\mathbb{Z}$ の積なので、$F^{\times}$ の指標は $\mathscr{O}_{F}^{\times}$ のユニタリー指標とある準同型 $\mathbb{Z}\longrightarrow \mathbb{C}^{\times}$ の積で表せる。

定義 2

$F$ の指標 $\chi$ に対して $\mathfrak{p}^{d}\subset{\rm Ker}\chi$ を満たす最小の整数 $d$ のことを $\chi$ のレベルという。もし $\chi=1$ ならば、そのレベルを $-\infty$ と定義する。

命題 1

$F$ の非自明な指標 $\chi$ をとり、そのレベルを $d$ とする。このとき次のことが成り立つ。

  • (1) $a\in F$ に対して、$a\chi~\colon F\longrightarrow \mathbb{C}^{\times};x\longmapsto \chi(ax)$ のレベルは $d-v_{F}(a)$ である。
  • (2) $\widehat{F}$ を $F$ のユニタリー指標のなす群とすると、$a\longmapsto a\chi$ は $F$ から $\widehat{F}$ への同型を引き起こす。
Proof.

  • (1) この証明は簡単なので省略する。
  • (2) $F\longrightarrow \widehat{F};a\longmapsto a\chi$ が全単射であることを示せばよい。


$GL_{n}(F)$ について基本的な事実をここでおさらいしておこう。

Cartan分解

$t$ を $F$ の素元とし、$${\rm diag}(t^{a_{1}},\cdots,t^{a_{n}})=\left( \begin{array}{ccc} t^{a_{1}} & & \\ & \ddots & \\ & & t^{a_{n}} \end{array} \right)$$ とする。このとき、$GL_{n}(F)$ は $$GL_{n}(F)=\coprod_{a_{1}\leq \cdots \leq a_{n}} GL_{n}(\mathscr{O}_{F}){\rm diag}(t^{a_{1}},\cdots,t^{a_{n}}) GL_{n}(\mathscr{O}_{F}) $$という分解を持つ。この分解のことを $GL_{n}(F)$ のCartan分解という。

岩澤分解

$GL_{n}(F)$ の上三角行列全体のなすBorel部分群 $B$ を用いて、$GL_{n}(F)$ は $GL_{n}(F)=B GL_{n}(\mathscr{O}_{F})=GL_{n}(\mathscr{O}_{F})B$ という分解を持つ。この分解のことを $GL_{n}(F)$ の岩澤分解という。例えば、$n=2$ のとき $GL_{2}(F)$ の任意の元 $g=\left( \begin{array}{cc} a & b \\ c & d \end{array} \right)$ が $B GL_{n}(\mathscr{O}_{F})$ に属することを示そう。 $c=0$ ならば $g\in B$ であるから、$c\neq 0$ と仮定してよい。もし $d=0$ なら $w=\left( \begin{array}{cc} 0 & 1 \\ 1 & 0 \end{array} \right)$ を右から掛けて、$gw\in B$ となり $g=(gw)w\in B GL_{2}(\mathscr{O}_{F})$ となる。$c,d$ どちらも $0$ でない場合は、必要なら右から $w$ を掛けて、$v_{F}(c)\geq v_{F}(d)$ としてよく、このとき $g$ に右から $x=\left( \begin{array}{cc} 1 & 0 \\ -\frac{c}{d} & 1 \end{array} \right)$ を書けると、$gx\in B$ となる。$n>2$ の場合も同様にして $GL_{n}(F)=B GL_{n}(\mathscr{O}_{F})$ であることを確かめることができる。$GL_{n}(F)=GL_{n}(\mathscr{O}_{F})B$ も同様である。


- コメント: 岩澤分解から直ちに $\operatorname{c-Ind}_{P}^{G}={\rm Ind}_{P}^{G}$ が従う。またこの分解から、放物型部分群への有限生成な表現の制限が再び有限生成であることも従う。

Bruhat分解

$w$ を $1,\ldots,n$ の置換とし、これを $w=(\delta_{i,w(j)})_{ij}$ と見なすことで $n$ 次対称群 $S_{n}$ を $GL_{n}(F)$ の部分群と見なしたときの像を $W=W_{n}$ と書く。このとき $GL_{n}(F)=BWB$ となる。この分解のことを $GL_{n}(F)$ のBruhat分解という。例えば $n=2$ のときには、$GL_{2}(F)$ は $$ GL_{2}(F)=B\left( \begin{array}{cc} 1 & 0 \\ 0 & 1 \end{array} \right)B\coprod B\left( \begin{array}{cc} 0 & 1 \\ 1 & 0 \end{array} \right)B $$ と分解する。$n=3$ のときも $$ GL_{3}(F)=B\left( \begin{array}{ccc} 1 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & 1 \end{array} \right)B\coprod B \left( \begin{array}{ccc} 1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 1 \\ 0 & 1 & 0 \end{array} \right)B\coprod B \left( \begin{array}{ccc} 0 & 1 & 0 \\ 1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 1 \end{array} \right)B\coprod B \left( \begin{array}{ccc} 0 & 0 & 1 \\ 1 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & 0 \end{array} \right)B\coprod B \left( \begin{array}{ccc} 0 & 0 & 1 \\ 0 & 1 & 0 \\ 1 & 0 & 0 \end{array} \right)B\coprod B \left( \begin{array}{ccc} 0 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & 1 \\ 1 & 0 & 0 \end{array} \right) B $$ と分解する。


- コメント: 後に詳述するが、Bruhat分解は $p$ 進簡約群の表現を分解する際に用いられる。

Levi分解

$GL_{n}(F)$ の放物型部分群 $P$ のLevi分解についてもここに述べておく。$\alpha=(m_{1},\ldots,m_{r})$ が自然数 $m$ の分割であるとは $m=m_{1}+\cdots +m_{r}$ となることである。この $\alpha$ に対して $I_{1}=\{1,\ldots, m_{1} \},\cdots, I_{r}=\{m_{1}+\cdots +m_{r-1}+1,\ldots, m_{r}\}$ たちのことを $\alpha$ の区間という。$\alpha, \beta$ を $m$ の分割とする。$\alpha$ の各区間が $\beta$ の連続する区間たちの和集合となっているとき、$\beta$ は $\alpha$ の細分であるといい、$\beta<\alpha$ と書く。$P$ を $GL_{n}(F)$ の放物型部分群とすると、適当に共役を取って、$P$ はブロック上三角行列のなす部分群と見なせる。このとき、$n$ の分割 $\alpha=(n_{1},\dots, n_{r})$ であって、$P$ のLevi部分群が $G_{\alpha}=GL_{n_{1}}(F)\times \cdots \times GL_{n_{r}}(F)$ となるものが存在する。またこのとき $P$ の冪単部分群のことを $U_{\alpha}$ と書く。$G_{\alpha}$ は $U_{\alpha}$ を正規化する。例えば $n=3$ で $\alpha=(2,1)$ のとき、$G_{\alpha}$ は $$ G_{\alpha}=GL_{2}(F)\times GL_{1}(F)=\left\{\left. \left( \begin{array}{cc|c} a & b & 0 \\ c & d & 0 \\ \hline 0 & 0 & x \end{array} \right)\right| \left( \begin{array}{cc} a & b \\ c & d \end{array} \right)\in GL_{2}(F), x\in F^{\times} \right\} $$ となる。 $n$ の分割 $\alpha$ に対して、さらに $G_{\alpha}$ のブロック上三角行列のなす放物型部分群は、$\alpha$ の細分に対応している。

- コメント: Levi部分群は $GL_{n}(F)$ より小さい一般線形群の積である。$GL_{n}(F)$ の(非尖点的な)既約表現を調べる際、より小さいサイズの一般線形群たち $GL_{n_{1}}(F),\ldots, GL_{n_{r}}(F)$ の尖点表現を調べることが大切である。

Smooth表現の基礎 (I)

定義と基本的な性質

定義 3 (Smooth表現、許容表現)

局所副有限群 $G$ の表現について考察する。$V$ を複素数体 $\mathbb{C}$ 上のベクトル空間と準同型 $\pi\colon G\longrightarrow \mathrm{Aut}_{\mathbb{C}}(V)$ の組 $(\pi,V)$ のことを $G$ の表現と呼ぶ。$V$ の任意の元 $v$ に対して、その安定化群 ${\rm Stab}_{G}(v)=\{g\in G\mathrel{\vert}\pi(g)v=v\}$ が $G$ の開部分群となるとき、$(\pi,V)$ のことをsmooth表現または代数的表現という。$G$ はコンパクト開部分群からなる $1$ の基本近傍系を持つので、この条件は $K$ が $G$ のコンパクト開部分群を走るとき $$ V=\bigcup_{K} V^{K} $$ となることと同値である。ただし、$V^{K}:=\{v\in V\mathrel{\vert}\forall k\in K, \pi(k)v=v\}$ である。さらにもし任意のコンパクト開部分群 $K$ に対して、${\rm dim}_{\mathbb{C}}V^{K}<\infty$ であるとき、$(\pi,V)$ のことを $G$ の許容表現という。


$G$ の表現 $(\pi,V)$ に対して、 $$V^{\rm sm}=\bigcup_{K} V^{K}=\{v\in V\mathrel{\vert} {\rm Stab}_{G}(v)\subset G:{\text 開部分群}\}$$ とすると、これは $V$ の $G$ 安定な部分空間であり、$g\in G$ に対して、$\pi^{\rm sm}(g)=\pi(g)\vert_{V^{\rm sm}}$ とすると、$(\pi^{\rm sm},V^{\rm sm})$ は $G$ のsmooth表現となる。$(\pi^{\rm sm},V^{\rm sm})$ のことを $(\pi,V)$ の smoothパートという。

$(\pi_{1},V_{1})$ 及び $(\pi_{2},V_{2})$ を $G$ のsmooth表現とする。線形写像 $f\colon V_{1}\longrightarrow V_{2}$ が任意の $g\in G$ に対して、$f\circ \pi_{1}(g)=\pi_{2}(g)\circ f$ となるとき、$f$ は $G$ のsmooth表現の射であるという。 $G$ のsmooth表現全体のなすアーベル圏のことを ${\rm Rep}(G)$ などと記す。部分表現、商表現、既約表現などの概念は、通常の表現論と同様である。

定義 4
  1. $G$ のsmooth表現 $(\pi,V)$ が有限生成であるとは、ある $v_{1},\cdots,v_{n}\in V$ が存在して、$V$ がベクトル空間として、$\{\pi(g)v_{i}\mathrel{\vert} g\in G, i=1,...,n\}$ で生成されていることをいう。
  2. $G$ のsmooth表現 $(\pi,V)$ が完全可約であるとは、$G$ の既約表現の直和で書けることをいう。
補題 1 (Schurの補題)

$(\pi,V)$ を $G$ の既約表現とすると、${\rm End}_{G}(V)=\mathbb{C}$ である。

Proof.

スカラー倍は $G$ 射なので、$\mathbb{C}\subset {\rm End}_{G}(V)$ である。$f\colon V\longrightarrow V$ を $G$ 射とする。$0$ でない $v\in V$ を任意にとると既約性より、$V$ は $\{\pi(g)v\}_{g\in G}$ で生成されている。$v\in V^{K}$ となる $G$ のコンパクト開部分群 $K$ を取ると、$G/K$ の濃度は高々可算なので、$V$ の基底の濃度も高々可算である。${\rm End}_{G}(V)(\subset {\rm End}_{\mathbb{C}}(V))$ の次元も高々可算である。もしも $f\in {\rm End}_{G}(V)$ であって、スカラー倍写像でないようなものが取れるなら、$\{(f-a)^{-1}\mathrel{\vert} a\in \mathbb{C}\}\subset \mathbb{C}(f)$ は $\mathbb{C}$ 上線形独立でありながら、その濃度は非可算無限であり、しかも ${\rm End}_{G}(V)$ に含まれるので、矛盾する。以上より ${\rm End}_{G}(V)=\mathbb{C}$ が示された。


定義 5 (反傾表現)

$(\pi,V)$ を $G$ のsmooth表現とし、$V^{*}$ を $V$ の双対空間とする。自然な双線形写像 $V^{*}\times V\longrightarrow \mathbb{C}$ のことを $\langle~,~\rangle$ と書くことにする。準同型 $\pi^{*}\colon G\longrightarrow \mathrm{Aut}_{\mathbb{C}}(V^{*})$ を $\langle \pi^{*}(g)\check{v},v\rangle=\langle \check{v},\pi(g^{-1})v\rangle$ により定義する。$G$ の表現 $(\pi^{*},V^{*})$ のsmoothパートのことを $(\pi,V)$ の反傾表現といい、$(\check{\pi},\check{V})$ と表記する。


定義 6 (中心指標)

$Z$ を $G$ の中心とする。$Z$ の指標 $\chi$ に対して ${\rm Rep}(G,\chi)$ を $G$ のsmooth表現 $(\pi,V)$ であって、任意の $v\in V$ 及び $z\in Z$ に対して $$ \pi(z)v=\chi(z)v $$ となるよう対象全体のなす ${\rm Rep}(G)$ の部分圏とする。$G$ のsmooth表現 $(\pi,V)$ が ${\rm Rep}(G,\chi)$ に属するとき $\chi$ を $(\pi,V)$ の中心指標という。


補題 2

$(\pi,V)$ を ${\rm Rep}(G,\chi)$ の対象とし、$G^{0}$ を $G$ の開部分群であって、$G^{0}Z/Z$ がコンパクト群となるような群とする。このとき、$v\in V$ に対して $\pi(G^{0}Z)v=\{\pi(g)v\mathrel{\vert} g\in G^{0}Z\}$ は有限次元であり、$G^{0}Z$ の表現として完全可約である。

Proof.

$v\in V$ を固定するような $G$ のコンパクト開部分群 $K$ を取ると、$G^{0}Z/KZ$ は有限群になる。したがって、$\pi(G^{0}Z)v$ で生成された空間は有限次元になる。この空間は実質的に有限群の表現なので完全可約である。

後ほど、このような表現について詳しく述べる。ここでは、$(G,G^{0})$ の具体例を一つ紹介しよう。$G=GL_{n}(F)$ とし、 $$ G^{0}=\{g\in G\mathrel{\vert} {\rm det}(g)\in \mathscr{O}_{F}^{\times}\} $$ とすると $G^{0}$ は $G$ のコンパクト開部分群で生成されている。さらに $G^{0}Z/Z$ はコンパクトである。さらに $G^{0}$ は次のような性質を持つ。

  • (a) $G^{0}\cap Z=\{a1_{n}\mathrel{\vert} a\in F,a^{n}\in \mathscr{O}_{F}\}$ はコンパクトである。
  • (b) $G^{0}$ は $G$ の正規部分群であり、$G/G^{0}$ はアーベル群であり、$G/G^{0}Z$ は有限群である。

誘導表現

定義 7 (誘導表現)

$H$ を $G$ の閉部分群とする。$H$ のsmooth表現 $(\sigma,W)$ に対して、$G$ の表現 ${\rm Ind}_{H}^{G}\sigma=(\Sigma,X) $ を次のように定義する。まず、$X$ を次の二つの条件を満たす写像 $f\colon G\longrightarrow W$ 全体のなす空間とする。

  1. 任意の $h\in H$ と $g\in G$ に対して、$f(hg)=\sigma(h)f(g)$.
  2. $f$ に依存した $G$ のコンパクト開部分群 $K_{f}$ が存在し、任意の $g\in G$ に対して、$f$ は $gK_{f}$ 上定値 $f(g)$ をとる。

$f\in X$ と $g\in G$ に対して、$\Sigma(g)f$ を $\Sigma(g)f~\colon G\longrightarrow W; x\longmapsto f(xg)$ と定義すると、$(\Sigma,X)$ は $G$ のsmooth表現となり、アーベル圏の間の加法的な関手 ${\rm Ind}_{H}^{G}\colon {\rm Rep}(H)\longrightarrow {\rm Rep}(G)$ が定義できた。

例 1

$G=GL_{2}(F)$ とし $B$ を上三角行列のなすBorel部分群とする。 $$ \mathbb{P}^{1}(F)\times GL_{2}(F) \longrightarrow \mathbb{P}^{1}(F); \left( [x_{0}:x_{1}], \left( \begin{array}{cc} a & b \\ c & d \end{array} \right)\right) \longmapsto [ax_{0}+cx_{1}:bx_{0}+dx_{1}] $$ $1$ 次元射影空間に $GL_{2}(F)$ の右からの自然な作用があり、自然な同相 $B\backslash GL_{2}(F)\simeq \mathbb{P}^{1}(F)$ が考えられる。このとき、$B$ の自明な表現 $(1_{B},\mathbb{C})$ に対して $$ {\rm Ind}_{B}^{GL_{2}(F)} 1_{B}=(\Sigma, {\rm Fun}(\mathbb{P}^{1}(F))) $$ である。ただし ${\rm Fun}\mathbb{P}^{1}(F)$ は $\mathbb{P}^{1}(F)$ 上の複素数値関数のなす線形空間のことである。同様に $G=GL_{n}(F)$ とし、$H$ が分割 $(k,n-k)$ に対応する放物型部分群なら、${\rm Ind}_{H}^{G}1_{H}$ の表現空間は $n$ 次元線形空間の $k$ 次元部分空間をパラメーター付けるGrassmann多様体上の複素数値関数全体のなす線形空間である。$H$ が上三角行列のなすBorel部分群の場合には、${\rm Ind}_{H}^{G}1_{H}$ の表現空間は旗多様体上の複素数値関数全体のなす線形空間である。


命題 2 (Frobenius相互律)

${\rm Ind}_{H}^{G}\colon {\rm Rep}(H)\longrightarrow {\rm Rep}(G)$ は $G$ のsmooth表現を $H$ のsmooth表現とみなす自然な制限関手 ${\rm Res}_{H}^{G}\colon {\rm Rep}(G)\longrightarrow {\rm Rep}(H)$ の右随伴関手である。

Proof.

$(\sigma,W)$ と $(\pi,V)$ をそれぞれ $H$ と $G$ のsmooth表現とする。自然な同型 $$ {\rm Hom}_{G}(\pi,{\rm Ind}_{H}^{G}\sigma)\simeq {\rm Hom}_{H}({\rm Res}_{H}^{G}\pi,\sigma) $$ が存在することを示せばいい。${\rm Hom}_{G}(\pi,{\rm Ind}_{H}^{G}\sigma)$ の元 $\psi$ に ${\rm ev}_{1}\colon X\longrightarrow W;f\longmapsto f(1)$ を合成してできる準同型 ${\rm ev}_{1}\circ \psi\colon V\longrightarrow W$ は ${\rm Hom}_{H}({\rm Res}_{H}^{G}\pi,\sigma)$ の元である。${\rm Hom}_{H}({\rm Res}_{H}^{G}\pi,\sigma)$ の元 $\phi$ に対して、$V\longrightarrow X;v\longmapsto (g\longmapsto \phi(\pi(g)v))$ は $G$ 射であり、したがって ${\rm Hom}_{G}(\pi,{\rm Ind}_{H}^{G}\sigma)$ の元である。これらの操作が互いに逆であることを確認するのは容易である。したがって、 $$ {\rm Hom}_{G}(\pi,{\rm Ind}_{H}^{G}\sigma)\simeq {\rm Hom}_{H}({\rm Res}_{H}^{G}\pi,\sigma). $$


つづいて、コンパクト誘導表現を定義しよう。

定義 8 (コンパクト誘導表現)

$H$ を $G$ の閉部分群とし、$(\sigma,W)$ を ${\rm Rep}(H)$ の対象とする。${\rm Ind}_{H}^{G}\sigma=(\Sigma,X)$ の部分表現 $\operatorname{c-Ind}_{H}^{G}\sigma=(\Sigma,X_{c})$ を $f\in X$ であって、その台 ${\rm supp}(f)$ が modulo $H$ でコンパクトなもののなす部分表現とする。言い換えれば、${\rm supp}(f)\subset HC_{f}$ となるコンパクト集合 $C_{f}\subset G$ が存在するような $f\in X$ 全体のなす部分表現である。

補題 3

$H$ を $G$ の開部分群とし、$(\sigma,W)$ を $H$ のsmooth表現とする。ただし、$w\in W$ に対して、$f_{w}\in X_{c}$ を $f_{w}(h)=\sigma(h)v,~ (h\in H)$ かつ ${\rm supp}(f_{w})=H$ となるものとすると、$\operatorname{c-Ind}_{H}^{G}\sigma$ は $G$ の表現として $\{f_{w}\mathrel{\vert} w\in W\}$ で生成される。

Proof.

$H$ の表現として $w\longmapsto f_{w}$ は同型 $W\simeq \{f\in X_{c}\mathrel{\vert} {\rm supp}(f)=H\}$ を与えることは容易に確かめられる。$f\in X_{c}$ に対して、$G$ のコンパクト集合 $C_{f}$ が存在して ${\rm supp}(f)\subset HC_{f}$ となる。$H$ は $G$ の開集合で、$C_{f}$ はコンパクトなので、結局、有限個の $g_{1},...,g_{n}\in G$ が存在して、${\rm supp}(f)$ は $Hg_{i}$ たちの合併である。$f$ は $Hg_{i}$ 上で $hg_{i}\longmapsto \sigma(h)f(g_{i})$ となる。したがって $w_{i}=f(g_{i})$ とおけば、$f=\sum_{i} \Sigma(g_{i}^{-1})f_{w_{i}}$ と書ける。


命題 3

$H$ が $G$ の開部分群のとき、$\operatorname{c-Ind}_{H}^{G}\colon {\rm Rep}(H)\longrightarrow {\rm Rep}(G)$ は ${\rm Res}_{H}^{G}\colon {\rm Rep}(G)\longrightarrow {\rm Rep}(H)$ の左随伴関手である。

Proof.

$(\sigma,W)$ と $(\pi,V)$ をそれぞれ $H$ と $G$ のsmooth表現とする。自然な同型 $$ {\rm Hom}_{G}(\operatorname{c-Ind}_{H}^{G}\sigma,\pi)\simeq {\rm Hom}_{H}(\sigma,{\rm Res}_{H}^{G}\pi) $$ が存在することを確かめる。$W\longrightarrow X_{c};w\longmapsto f_{w}$ は ${\rm Hom}_{G}(\operatorname{c-Ind}_{H}^{G}\sigma,\pi)$ から ${\rm Hom}_{H}(\sigma,{\rm Res}_{H}^{G}\pi)$ への準同型を与える。また $H$ 射 $\psi\colon W\longrightarrow V$ に対して、$\Psi\colon X_{c}\longrightarrow V$ を $f_{w}\longmapsto \psi(w)$ とすると、$\psi\longmapsto \Psi$ は ${\rm Hom}_{H}(\sigma,{\rm Res}_{H}^{G}\pi)$ から ${\rm Hom}_{G}(\operatorname{c-Ind}_{H}^{G}\sigma,\pi)$ への準同型である。これらが互いに逆であることは簡単に確かめられる。

$H$ が $G$ の閉部分群のとき、$\operatorname{c-Ind}_{H}^{G}$ の $K$ 不変部分について見てみよう。$(\sigma,W)$ を $H$ のsmooth表現とし、$K$ を $G$ のコンパクト開部分群とする。このとき、$(\operatorname{c-Ind}_{H}^{G}\sigma)^{K}$ の元は関数 $G\longrightarrow W$ であって、その台が有限個の両側剰余類 $HgK$ の合併に含まれている。$f\in (X_{c})^{K}$ を ${\rm supp}(f)\subset HgK$ となるものとする。$H$ のコンパクト開部分群 $H\cap gKg^{-1}\subset H$ は作用 $\sigma$ で $f(g)\in W$ を固定する。よって、次のようなベクトル空間の同型が言えた。 $$ \{f\in (X_{c})^{K}\mathrel{\vert} {\rm supp}(f)\subset HgK\}\simeq W^{H\cap gKg^{-1}}. $$ これの有限個の直和をとって、 $$ (\operatorname{c-Ind}_{H}^{G}\sigma)^{K}\simeq \bigoplus_{HgK\in H\backslash G/K} W^{H\cap gKg^{-1}} $$ となる。また、$\operatorname{c-Ind}_{H}^{G}\sigma$ ではなく ${\rm Ind}_{H}^{G}\sigma$ の場合には、台が有限個とは限らない両側剰余類 $HgK$ の合併であるような関数 $f$ について考えていることになる。この場合も上記の $\operatorname{c-Ind}_{H}^{G}\sigma$ の場合とほぼ同様にして、 $$ ({\rm Ind}_{H}^{G}\sigma)^{K}\simeq \prod_{HgK\in H\backslash G/K} W^{H\cap gKg^{-1}} $$ となる。これらの主張を補題の形でまとめておこう。

補題 4

$H$ を $G$ の閉部分群とし $(\sigma,W)$ を ${\rm Rep}(H)$ の対象とすると $$(\operatorname{c-Ind}_{H}^{G}\sigma)^{K}\simeq \bigoplus_{HgK\in H\backslash G/K} W^{H\cap gKg^{-1}}, ({\rm Ind}_{H}^{G}\sigma)^{K}\simeq \prod_{HgK\in H\backslash G/K} W^{H\cap gKg^{-1}}$$ である。

このテキストで我々が興味があるのは $G=GL_{n}(F)$ で $H$ がその放物型部分群の場合である。この場合には $H\backslash G$ はコンパクトになり、コンパクト誘導表現と誘導表現は一致する。またこのとき、上記の補題より、${\rm Ind}_{H}^{G}$ は $H$ の許容表現を $G$ の許容表現へと写す。

命題 4

閉部分群 $H\subset G$ に対して $\operatorname{c-Ind}_{H}^{G}$ 及び ${\rm Ind}_{H}^{G}$ は完全関手である。

Proof.

まず、${\rm Ind}_{H}^{G}$ は左随伴関手を持つので、左完全である。 $(\sigma,W), (\tau,U)$ を $H$ のsmooth表現とし、$\psi\colon U\longrightarrow W$ を $H$ 全射とする。このとき、$\psi$ が誘導する $G$ の表現の間の射 $$ {\rm Ind}_{H}^{G} \tau \longrightarrow {\rm Ind}_{H}^{G} \sigma $$ が全射である。実際、任意の $f\in {\rm Ind}_{H}^{G}\sigma$ に対して $f$ を固定するような $G$ のコンパクト開部分群 $K$ を固定したとき、 $$ \prod_{HgK\in H\backslash G/K} U^{H\cap gKg^{-1}} \longrightarrow \prod_{HgK\in H\backslash G/K} W^{H\cap gKg^{-1}} $$ が全射であるから、$f\in {\rm Ind}_{H}^{G}\sigma$ に写る $\left({\rm Ind}_{H}^{G}\tau\right)^{K}$ の元が存在する。したがって、${\rm Ind}_{H}^{G}\colon {\rm rep}(H)\longrightarrow {\rm Rep}(G)$ は完全関手である。この証明の $\prod_{HgK\in H\backslash G/K}$ の箇所を $\bigoplus_{HgK\in H\backslash G/K}$ に代えるだけで、$\operatorname{c-Ind}_{H}^{G}\colon {\rm Rep}(H)\longrightarrow {\rm Rep}(G)$ の右完全性を証明することができる。$\operatorname{c-Ind}_{H}^{G}$ が左完全であることは、${\rm Ind}_{H}^{G}$ の左完全性からすぐに従う。

調和解析とHecke代数

Haar測度

ここでは、$G$ のHaar測度について説明する。コンパクトな台を持つ $G$ 上の局所定数関数全体のなす集合を $C_{c}^{\infty}(G)$ と書くことにする。 $$ C_{c}^{\infty}(G)=\{f\colon G\longrightarrow \mathbb{C}\mathrel{\vert}\text{局所定数的で } {\rm supp}(f) \text{ はコンパクト} \} $$ $f\in C_{c}^{\infty}(G)$ とする。任意の元 $g\in G$ に対して $f$ の $g$ での値 $f(g)$ は $g$ のある開近傍で変わらない。$G$ は局所副有限群なので、あるコンパクト開部分群 $K_{1},K_{2}$ が存在して、任意の $k_{1}\in K_{1},k_{2}\in K_{2}$ に対して $f(k_{1}g)=f(gk_{2})=f(g)$ となる。特に $C_{c}^{\infty}(G)$ は $K_{1}gK_{2}$ という形をした $G$ の両側剰余類の特性関数たちで生成されている。さらに、$K_{1}gK_{2}$ は $K_{1}$ のコンパクト性から有限個の元 $a_{1},\ldots,a_{n}\in K_{1}$ を適当に取れば、$K_{1}gK_{2}=\bigcup_{i} a_{i}gK_{2}$ と分割できる。同様に $b_{1},\ldots, b_{m}\in K_{2}$ を適当に取れば $K_{1}gK_{2}=\bigcup_{j} K_{1}gb_{j}$ という分割もある。したがって、$C_{c}^{\infty}(G)$ はコンパクト開部分群の左(あるいは右)剰余類の特性関数たちによって生成されている。 $$ \lambda, \rho\colon G\longrightarrow \mathrm{Aut}_{\mathbb{C}}(C_{c}^{\infty}(G)) $$ をそれぞれ、$g\in G,f\in C_{c}^{\infty}(G)$ に対して、 $$\hspace{5pt} \lambda(g)f\colon~ G\longrightarrow \mathbb{C};x\longmapsto f(g^{-1}x)$$ 及び $$\rho(g)f\colon G\longrightarrow \mathbb{C};x\longmapsto f(xg)$$ と定めると、$(\lambda,C_{c}^{\infty}(G))$ と $(\rho,C_{c}^{\infty}(G))$ はどちらも $G$ のsmooth表現である。


補題 5

$K$ を $G$ のコンパクト開部分群とし、$^{K}C_{c}^{\infty}(G)$ を $G$ のsmooth表現 $(\lambda,C_{c}^{\infty}(G))$ の $K$ 不変な部分空間とする。このとき、$(\rho,C_{c}^{\infty}(G))$ の部分表現 $(\rho,^{K}C_{c}^{\infty}(G))$ は $G$ の表現として、$\operatorname{c-Ind}_{K}^{G}1_{K}$ と同型である。ただし、$1_{K}$ は $K$ の自明な表現のこととする。

Proof.

$\operatorname{c-Ind}_{K}^{G}1_{K}$ の定義からただちに従う。

定理 1 (Haar測度の存在性と一意性)

$G$ 上には、$0$ でない右不変な汎関数 $$ I\colon C_{c}^{\infty}(G)\longrightarrow \mathbb{C};f\longmapsto \int_{G}f(g)dg $$ が定数倍を除いて一意的に存在する。

Proof.

$I$ が右不変であるとは、任意の $g\in G$ と $f\in C_{c}^{\infty}(G)$ に対して $I(\rho(g)f)=I(f)$ を満たすことを言う。$G$ は加算基を持つHausdorffな局所コンパクトな位相群なので、可算個のコンパクト開部分群の族 $\{K_{n}\}$ であって、$\cap_{n} K_{n}=1$ となるものが存在する。$(\lambda,C_{c}^{\infty}(G))$ は $G$ のsmooth表現なので、特に $$ C_{c}^{\infty}(G)=\varinjlim_{n} (^{K_{n}}C_{c}^{\infty}(G)) $$ となる。補題 5命題 3より同型 $$ {\rm Hom}_{G}(C_{c}^{\infty}(G),\mathbb{C})\simeq\varinjlim_{n}{\rm Hom}_{G}(^{K_{n}}C_{c}^{\infty}(G),1_{G})\simeq \varinjlim_{n} {\rm Hom}_{K}(1_{K_{n}},1_{K_{n}}) $$ を得る。Schurの補題より ${\rm dim}_{\mathbb{C}}{\rm Hom}_{K}(1_{K_{n}},1_{K_{n}})=1$ である。したがって各 $n\in \mathbb{N}$ に対して $^{K_{n}}C_{c}^{\infty}(G)$ 上の右 $G$ 不変な汎関数 $I_{n}$ で $I_{n}(\mathbb{I}_{K_{n}})=\dfrac{1}{[K_{1}:K_{n}]}$ となるものがただ一つ存在する。ただし、$\mathbb{I}_{K_{n}}$ は $K_{n}$ の特性関数のこと。このとき $I_{n+1}\vert_{^{K_{n}}C_{c}^{\infty}(G)}=I_{n}$ である。入射系 $\{I_{n}\}_{n\in \mathbb{N}}$ の極限が $I$ である。

右Haar測度と同様に左Haar測度についても、定数倍を除いて一意的に存在することを証明することが可能である。以降、左Haar測度を一つ固定して議論を進めよう。$G$ のコンパクトな開集合 $C$ に対して、$\mathbb{I}_{C}$ をその特性関数とする。このとき、 $$ \mu_{G}(C):=\int_{G} \mathbb{I}_{C}(g) dg $$ のことを $C$ の測度という。

注 1

我々はここで積分を $$ \int_{G} f(g) dg $$ のように書いているが、正しくは $G$ の左Haar測度 $\mu_{G}$ を一つ選んで固定し $$ \int_{G}f(g)d\mu_{G}(g) $$ などと書くべきである。


定義 9 (モジュラー関数)

$I$ を $G$ 上の左Haar測度とする。このとき $$ I(\rho(g))\colon C_{c}^{\infty}(G)\longrightarrow \mathbb{C};f\longmapsto I(\rho(g)f)=\int_{G}f(xg)dx $$ も $G$ 上の左Haar測度となるので、ある $\delta(g)\in \mathbb{C}^{\times}$ が存在して $\delta(g)I(\rho(g))=I$ となる。$\delta=\delta_{G}\colon G\longrightarrow \mathbb{C}^{\times}$ は準同型であり、この準同型のことを $G$ のモジュラー関数もしくはモジュラー指標という。モジュラー関数は、$G$ 上の測度の取り方に依存せずに決まる。もし $\delta_{G}=1$ なら局所副有限群 $G$ はユニモジュラーであるという。

$G$ のコンパクト開部分群 $K$ をとり、モジュラー関数を計算すると $$ \delta_{G}(g)=\dfrac{\mu_{G}(K)}{\mu_{G}(g^{-1}Kg)}=\dfrac{[K:g^{-1}Kg\cap K]}{[g^{-1}Kg:g^{-1}Kg\cap K]} $$ となる。この値は $K$ の取り方に依存しない。

モジュラー関数の例を二つほど列挙しよう。

例 2

$G=GL_{2}(F)$ とする。このとき、$g\in G$ に対して $\delta(g)$ を計算しよう。Cartan分解により、$g=g_{1}{\rm diag}(t^{a_{1}},t^{a_{2}})g_{2} ~ (a_{1}\leq a_{2}, g_{1}, g_{2}\in GL_{2}(\mathscr{O}_{F}))$ と書ける。$\delta(g_{1})=\delta(g_{2})=1$ なので初めから $g={\rm diag}(t^{a_{1}},t^{a_{2}})$ としてよい。ただし、$t$ は $F$ の素元である。このとき、$g^{-1}GL_{2}(\mathscr{O}_{F})g$ と $g^{-1}GL_{2}(\mathscr{O}_{F})g\cap GL_{2}(\mathscr{O}_{F})$ はそれぞれ $$\hspace{50pt} g^{-1}GL_{2}(\mathscr{O}_{F})g=\left\{\left( \begin{array}{cc} a & bt^{a_{2}-a_{1}} \\ ct^{a_{1}-a_{2}} & d \end{array} \right)\in GL_{2}(F)\mathrel{\vert}\left( \begin{array}{cc} a & b \\ c & d \end{array} \right)\in GL_{2}(\mathscr{O}_{F}) \right\}, $$ $$g^{-1}GL_{2}(\mathscr{O}_{F})g\cap GL_{2}(\mathscr{O}_{F})=\left\{\left( \begin{array}{cc} a & bt^{a_{2}-a_{1}} \\ ct^{a_{1}-a_{2}} & d \end{array} \right)\in GL_{2}(\mathscr{O}_{F})\mathrel{\vert}\left( \begin{array}{cc} a & b \\ c & d \end{array} \right)\in GL_{2}(\mathscr{O}_{F}) \right\} $$ となる。$GL_{2}(\mathscr{O}_{F})$ の $\mathbb{P}^{1}(\mathscr{O}_{F}/(t^{a_{2}-a_{1}}))$ への次のような作用を考える。 $$ GL_{2}(\mathscr{O}_{F})\times \mathbb{P}^{1}(\mathscr{O}_{F}/(t^{a_{2}-a_{1}}))\longrightarrow \mathbb{P}^{1}(\mathscr{O}_{F}/(t^{a_{2}-a_{1}})) ~; \left( \begin{array}{cc} a & b \\ c & d \end{array} \right)\times \left[ \begin{array}{c} x_{0} ~{\rm mod}~ t^{a_{2}-a_{1}}\\ x_{1} ~{\rm mod}~ t^{a_{2}-a_{1}} \end{array} \right]\longmapsto \left[ \begin{array}{c} ax_{0}+bx_{1} ~{\rm mod}~ t^{a_{2}-a_{1}}\\ cx_{1}+dx_{1} ~{\rm mod}~ t^{a_{2}-a_{1}} \end{array} \right]. $$ この作用は推移的であり、点 $\left[ \begin{array}{c} 0 ~{\rm mod}~ t^{a_{2}-a_{1}}\\ 1 ~{\rm mod}~ t^{a_{2}-a_{1}} \end{array} \right]$ の固定部分群は $g^{-1}GL_{2}(\mathscr{O}_{F})g\cap GL_{2}(\mathscr{O}_{F})$ であることが簡単に確かめられる。よって $$ \dfrac{GL_{2}(\mathscr{O}_{F})}{g^{-1}GL_{2}(\mathscr{O}_{F})g\cap GL_{2}(\mathscr{O}_{F})}\simeq \mathbb{P}^{1}(\mathscr{O}_{F}/(t^{a_{2}-a_{1}})) $$ であり、同じような考え方で $$ \dfrac{g^{-1}GL_{2}(\mathscr{O}_{F})g}{g^{-1}GL_{2}(\mathscr{O}_{F})g\cap GL_{2}(\mathscr{O}_{F})}\simeq \mathbb{P}^{1}(\mathscr{O}_{F}/(t^{a_{2}-a_{1}})) $$ も示せる。したがって $\delta(g)=1$ であり $GL_{2}(F)$ はユニモジュラーである。より一般に $GL_{n}(F)$ もそうである。


例 3

次の例題として、$GL_{2}(F)$ の上三角行列のなすBorel部分群 $B$ のモジュラー関数について考察しよう。$B$ のLevi部分群は $$ T =\left\{\left( \begin{array}{cc} a & 0 \\ 0 & b \end{array} \right) \mathrel{\vert} a, b\in F^{\times} \right\}\simeq F^{\times}\times F^{\times} $$ という形をしたトーラスであり、$B$ の冪単部分群は $$ \hspace{-50pt} U=\left\{\left( \begin{array}{cc} 1 & x \\ 0 & 1 \end{array} \right) \mathrel{\vert} x\in F \right\}\simeq F $$ である。$B$ の元は $s\in T, u\in U$ の積で書けて、$B$ のモジュラー関数は $$ \delta_{B}\colon B\longrightarrow \mathbb{C}^{\times};su\longmapsto \dfrac{\|s_{2}\|}{\|s_{1}\|} $$ である。ここで $s={\rm diag}(s_{1},s_{2})$ である。例えば、$B$ のコンパクト開部分群として $$ K =\left\{\left( \begin{array}{cc} a & x \\ 0 & b \end{array} \right) \mathrel{\vert} a, b\in \mathscr{O}_{F}^{\times}, x\in \mathscr{O}_{F} \right\} $$ というものを取ってくると、任意の $u\in U$ に対しては $u^{-1}Ku=K$ であり、$s=\left( \begin{array}{cc} s_{1} & 0 \\ 0 & s_{2} \end{array} \right)\in T$ に対しては $$ \delta_{B}(s)=\dfrac{[K:s^{-1}Ks\cap K]}{[s^{-1}Ks:s^{-1}Ks\cap K]}=\dfrac{\|s_{2}\|}{\|s_{1}\|} $$ となることが簡単な計算により確認できる。より一般に、$n$ の分割 $\alpha=(n_{1},\ldots, n_{r})$ に対応する $GL_{n}(F)$ の放物型部分群 $P_{\alpha}$ に対して、$\delta_{P_{\alpha}}$ は $U_{\alpha}$ 上自明であり、$x=(x_{1},\ldots, x_{r})\in GL_{n_{1}}(F)\times \cdots \times GL_{n_{r}}(F)$ に対しては $\delta_{P_{\alpha}}(x)=\prod_{i=1,\cdots,r}\|{\rm det}(x_{i}) \|^{\sum_{i<j}n_{j}-\sum_{i>j}n_{j}}$ となる。

定義 10 (直積測度)

$G_{1}, G_{2}$ を局所副有限群とすると、$G=G_{1}\times G_{2}$ も局所副有限群であり、$f^{1}_{i}\in C_{c}^{\infty}(G_{1}), f^{2}_{i}\in C_{c}^{\infty}(G_{2})$ を取り、$\sum_{i}f^{1}_{i}\otimes f^{2}_{i}\in C_{c}^{\infty}(G_{1})\otimes C_{c}^{\infty}(G_{2})$ に対して $$ (g_{1},g_{2})\longmapsto \sum_{i}f^{1}_{i}(g_{1})f^{2}_{i}(g_{2}) $$ は $C_{c}^{\infty}(G)$ の元である。このようにして $C_{c}^{\infty}(G_{1})\otimes C_{c}^{\infty}(G_{2})\longrightarrow C_{c}^{\infty}(G)$ を定める。一般の $C_{c}^{\infty}(G)$ の元は $f^{1}\otimes f^{2}$ という形の元で生成されるので、$C_{c}^{\infty}(G_{1})\otimes C_{c}^{\infty}(G_{2})\longrightarrow C_{c}^{\infty}(G)$ は同型である。また、$\mu_{1}, \mu_{2}$ をそれぞれ $G_{1}$ 及び $G_{2}$ の左Haar測度とすると、$G$ の 左Haar測度 $\mu$ を $$ \int_{G}f_{1}\otimes f_{2}((g_{1},g_{2}))d\mu(g):=\int_{G_{1}}f_{1}(g_{1})d\mu_{1}(g_{1}) \int_{G_{2}}f_{2}(g_{2})d\mu_{2}(g_{2}) $$ で与えられるものとして定義する。$\mu=\mu_{1}\otimes \mu_{2}$ と書く。

Hecke代数

$G$ が有限群のとき、$G$ の表現は自然に群環 $\mathbb{C}[G]$ 上の加群と見なせた。特に ${\rm Rep}(G)$ は $\mathbb{C}[G]$ 加群の圏と圏同値であった。$G$ が局所副有限群のときも、$G$ のsmooth表現を適当な代数上の加群と見なせれば何かと便利である。

定義 11 (Hecke代数)

$G$ を局所副有限群とし、$\mu_{G}$ を $G$ の左Haar測度とする。このとき、$C_{c}^{\infty}(G)$ の二つの元 $f_{1}, f_{2}$ に対して、その畳み込み積を \begin{align} (f_{1}*f_{2})(g):&=\int_{G} f_{1}(x)f_{2}(x^{-1}g) d\mu_{G}(x) \end{align} と定義すると、$f_{1}*f_{2}$ は再び $C_{c}^{\infty}(G)$ の元になる。$(C_{c}^{\infty}(G),*)$ のことを $G$ のHecke代数といい、$\mathcal{H}(G)$ と書く。$g^{-1}x$ をあらためて $x$ と置くと、畳み込み積は $$ f_{1}*f_{2}(g)=\int_{G}f_{1}(gx)f_{2}(x^{-1})dx $$ とも書くことができる。

補題 6

任意の局所副有限群 $G$ に対して、そのHecke代数 $\mathcal{H}(G)$ は結合代数である。

Proof.

$f_{1}, f_{2}, f_{3}\in \mathcal{H}(G)$ とし、$(f_{1}*f_{2})*f_{3}=f_{1}*(f_{2}*f_{3})$ を示す。 \begin{align} (f_{1}*f_{2})*f_{3}(g)&=\int_{G} (f_{1}*f_{2})(x)f_{3}(x^{-1}g) dg \\ &=\int_{G}\int_{G} f_{1}(y)f_{2}(y^{-1}x)f_{3}(x^{-1}g)dydx \\ &=\int_{G}\left(\int_{G} f_{1}(y)f_{2}(y^{-1}x)f_{3}(x^{-1}g)dx\right)dy \\ \end{align} $y^{-1}x$ を $z$ で置き換えると左不変性から $d(y^{-1}x)=dz$ かつ $x^{-1}g=z^{-1}y^{-1}g$ なので、上の式は \begin{align} \hspace{-77pt} \int_{G}\left(\int_{G} f_{1}(y)f_{2}(y^{-1}x)f_{3}(x^{-1}g)dx\right)dy &=\int_{G}\left(\int_{G} f_{1}(y)f_{2}(z)f_{3}(z^{-1}y^{-1}g)dz\right)dy \\ &=\int_{G} f_{1}(y)(f_{2}*f_{3})(y^{-1}g)dy \\ &=f_{1}*(f_{2}*f_{3})(g) \end{align} となる。したがって、$\mathcal{H}(G)$ は結合的である。


Hecke代数は左Haar測度の取り方に依存するが、二つの異なる左Haar測度から定まる二つのHecke代数の間には、定数倍の違いしかない。よって、今後も特に気にせず、Hecke代数と言えば、適当に左Haar測度をとったものとして議論を進める。

注 2

$G$ が非可換なら $\mathcal{H}(G)$ も非可換である。


$K$ を $G$ のコンパクト開部分群とし、$e_{K}=\mu_{G}(K)^{-1}\mathbb{I}_{K}$ とする。ただし $\mathbb{I}_{K}\colon G\longrightarrow \mathbb{C}$ は $K$ の特性関数のことである。$e_{K}$ は $\mathcal{H}(G)$ の冪等元である。すなわち、$e_{K}*e_{K}=e_{K}$ が成り立つ。実際、 \begin{align} e_{K}*e_{K}(g)&=\int_{G}e_{K}(x)e_{K}(x^{-1}g)dx \\ \end{align} であり、もし、$g\notin K$ なら $x$ と $x^{-1}g$ のどちらか一方は $K$ に入らず、被積分関数の値は $0$ である。もし $g\in K$ なら \begin{align} e_{K}*e_{K}(g)&=\int_{G}e_{K}(x)e_{K}(x^{-1}g)dx \\ &=\int_{K} \mu_{G}(K)^{-2}dx \\ &=\mu_{G}(K)^{-1} \end{align} となるので、$e_{K}*e_{K}=e_{K}$ である。

命題 5

$G$ を局所副有限群とし、$K$ をそのコンパクト開部分群とする。

  • (1) 任意の $f\in \mathcal{H}(G)$ に対して $f$ が左 $K$ 不変であるのは $f=e_{K}*f$ となるとき、またそのときに限る。
  • (2) 任意の $f\in \mathcal{H}(G)$ に対して $f$ が右 $K$ 不変であるのは $f=f*e_{K}$ となるとき、またそのときに限る。
  • (3) $\mathcal{H}(G,K)=e_{K}*\mathcal{H}(G)*e_{K}$ は単位元 $e_{K}$ を持つ単位的な代数である。
Proof.

  • (1). もし $f=e_{K}*f$ ならば $\mu_{G}$ の左不変性から

\begin{align} f(kg)&=e_{K}*f(kg) \\ &=\int_{G}e_{K}(x)f(x^{-1}kg)dx \\ &=\int_{G}e_{K}(kx)f(x^{-1}g)dx \\ &=\int_{G}e_{K}(x)f(x^{-1}g)dx \\ &=e_{K}*f(g)=f(g) ~(\forall k\in K, \forall g\in G). \end{align} 逆に $f$ が左 $K$ 不変ならば $f(g)=e_{K}*f(g)$ であることは容易に確かめられる。

  • (2) もし $f=f*e_{K}$ ならば

\begin{align} f(gk)&=f*e_{K}(gk) \\ &=\int_{G}f(x)e_{K}(x^{-1}gk)dx \\ &=\int_{G}f(x)e_{K}(x^{-1}g)dx \\ &=f*e_{K}(g)=f(g) ~(\forall k\in K, \forall g\in G) \end{align} となり、$f$ は右 $K$ 不変である。逆にもし $f$ が右 $K$ 不変なら \begin{align} \hspace{-70pt} f(g)&=\dfrac{1}{\mu_{G}(K)}\int_{K}f(g)dx \\ &=\dfrac{1}{\mu_{G}(K)}\int_{K}f(gx)dx \\ &=\dfrac{1}{\mu_{G}(g^{-1}K)}\int_{g^{-1}K}f(x)dx \\ &=\int_{G}f(x)e_{K}(x^{-1}g) dx \\ &=f*e_{K}(g) \end{align} となる。

  • (3) これは上の(1)と(2)からわかる。


$\mathcal{H}(G)$ は $K$ が $G$ のコンパクト開部分群全体を走るとき、 $$ \mathcal{H}(G)=\bigcup_{K} \mathcal{H}(G,K) $$ となる。実際、$f\in C_{c}^{\infty}(G)$ に対して、あるコンパクト開部分群 $K_{1}, K_{2}$ が存在して $f$ は左 $K_{1}$ 不変であり右 $K_{2}$ 不変である。このとき、$f\in \mathcal{H}(G,K_{1}\cap K_{2})$ であることが上記の命題からわかる。

次に、Hecke代数上の加群について見てみよう。

定義 12 (smooth加群)

$\mathcal{H}(G)$ 上の左加群 $M$ に対して、$M$ への $\mathcal{H}(G)$ の自然な作用を $$ \mathcal{H}(G)\times M\longrightarrow M; (f,m)\longmapsto f*m $$ と書くことにする。$M$ が(左)smooth加群であるとは、$M=\bigcup_{K} e_{K}*M$ となることを意味する。ここで $K$ は $G$ のコンパクト開部分群全体を走る。右smooth加群も同様に定義できる。今後、単に $\mathcal{H}(G)$ 加群と言えば、左smooth加群のことを指すものとする。

局所副有限群 $G$ に対して、$\mathcal{H}(G)$ 上のsmooth加群のなす圏は、$G$ のsmooth表現のなす圏と自然に圏同値になる。今からそのことを見ていこう。

補題 7

$M$ を $\mathcal{H}(G)$ 上の加群とすると、自然な射 $$ \mathcal{H}(G)\otimes_{\mathcal{H}(G)} M\longrightarrow M; \sum f_{i}\otimes m_{i} \longmapsto \sum f_{i}*m_{i} $$ は同型になる。

Proof.

$\mathcal{H}(G)$ が単位元を持たないので、$\mathcal{H}(G)\otimes_{\mathcal{H}(G)} M\simeq M$ という主張は非自明なものである。$M=\bigcup_{K} e_{K}*M$ なので、この射は全射である。$\sum_{i=1}^{r} f_{i}\otimes m_{i}$ をこの射の核の元とする。$\mathcal{H}(G)=\bigcup_{K} e_{K}*\mathcal{H}(G)*e_{K}$ かつ $M=\bigcup_{K} e_{K}*M$ なので、$f_{1},\ldots, f_{r}\in \mathcal{H}(G,K)$ かつ $m_{1},\ldots, m_{r}\in e_{K}*M$ となるコンパクト開部分群 $K$ が取れる。このとき、$\sum f_{i}\otimes m_{i}=\sum e_{K}*f_{i}*e_{K}\otimes e_{K}*m_{i}=e_{K}\otimes \sum f_{i}*m_{i}=0$ となるので、$\mathcal{H}(G)\otimes_{\mathcal{H}(G)} M\longrightarrow M; \sum f_{i}\otimes m_{i} \longmapsto \sum f_{i}*m_{i}$ は単射になる。


$(\pi,V)$ を $G$ のsmooth表現とし、$f\in \mathcal{H}(G), v\in V$ とする。このとき、 $$ \pi(f)v:=\int_{G} f(g)\pi(g)v dg $$ とすると、これは有限和で $\pi(f)v\in V$ となる。$f_{1}, f_{2}\in \mathcal{H}(G)$ に対して \begin{align} \pi(f_{1}*f_{2})v&=\int_{G}(f_{1}*f_{2})(g)\pi(g)vdg \\ &=\int_{G}\int_{G}f_{1}(x)f_{2}(x^{-1}g)\pi(g)vdxdg \\ &=\int_{G}f_{1}(x)\left(\int_{G} f_{2}(x^{-1}g)\pi(g)vdg \right)dx \\ &=\int_{G}f_{1}(x)\pi(x)\pi(f_{2})v dx \\ &=\pi(f_{1})\pi(f_{2})v \end{align} となるので、$\mathcal{H}(G)\longrightarrow {\rm End}_{G}(V)$ は代数の準同型になる。このようにして $G$ のsmooth表現を $\mathcal{H}(G)$ の加群と見なせる。また、$M$ を $\mathcal{H}(G)$ 上の加群としたとき、$G$ を同型 $\mathcal{H}(G)\otimes_{\mathcal{H}(G)} M\simeq M$ を通じて、第一成分の $\mathcal{H}(G)$ に左変換 $\lambda$ で作用させると、$M$ は $G$ のsmooth表現になる。

定理 2

上記の方法により ${\rm Rep}(G)$ は smooth $\mathcal{H}(G)$ 加群のなす圏 $\mathcal{H}(G)\text{-}{\rm Mod}$ と自然に圏同値である。

Proof.

$(\pi,V)$ を $G$ のsmooth表現とし、$g\in G, f\in \mathcal{H}(G)$ とする。任意の $v\in V$ に対して \begin{align} \pi(\lambda(g)f)v &=\int_{G}f(g^{-1}x)\pi(x)vdx \\ &=\int_{G}f(x)\pi(gx)vdx \\ &=\pi(g)\left(\int_{G}f(x)\pi(x)vdx\right) \\ &=\pi(g)(\pi(f)v) \end{align} となる。したがって $(\pi,V)$ を $\mathcal{H}(G)$ 加群と見なした後、再びそれを $G$ のsmooth表現と見なしたものは $(\pi,V)$ と同型であり、$\mathcal{H}(G)\text{-}{\rm Mod} \longrightarrow {\rm Rep}(G)$ は本質的に全射である。これが充満忠実であることを確かめよう。$(\pi_{1},V_{1})$ と $(\pi_{2},V_{2})$ を $G$ のsmooth表現とする。$\psi\colon V_{1}\longrightarrow V_{2}$ を $G$ 射とすると、$G$ 射の定義より任意の $g\in G$ に対して、$\psi\circ \pi_{1}(g)=\pi_{2}(g)\circ \psi$ となる。任意の $f\colon \mathcal{H}(G)$ に対して $\pi(f)v$ は有限個の $\pi(g)v$ たちの和なので、特に $\psi\circ \pi_{1}(f)=\pi_{2}(f)\circ \psi$ であるので、$\psi$ は $\mathcal{H}(G)$ 加群の準同型である。逆に $\mathcal{H}(G)$ 加群の準同型が $G$ 射であることも同様に確かめることができる。


補題 8

$K$ を $G$ のコンパクト開部分群とし、$(\pi,V)$ を $G$ のsmooth表現とすると、$\pi(e_{K})$ は自然な $K$ 射影 $V\longrightarrow V^{K}$ であり、${\rm Ker}(\pi(e_{K}))$ は $\{v-\pi(k)v\mathrel{\vert} v\in V, k\in K\}$ が生成する $V$ の部分空間 $V(K)$ と等しい。

Proof.

任意の $k\in K$ と $v\in V$ に対して、 $$ \pi(k)\pi(e_{K})v=\pi(e_{K})\pi(k)v=\pi(e_{K})v $$ なので、$\pi(e_{K})(V(K))=0$ であり $\pi(e_{K})$ は $K$ 射 $V\longrightarrow V^{K}$ である。$e_{K}$ は冪等元なので ${\rm Ker}(\pi(e_{K}))={\rm Im}({\rm id}_{V}-\pi(e_{K}))$ となるが、この元は $V(K)$ に属する。実際、任意の $v\in V$ と $k\in K$ に対して $K_{v}={\rm Stab}_{G}(v)\cap K$ とすると、 $$ v-\pi(e_{K})v=\sum_{s\in K/K_{v}}\left(\dfrac{1}{[K:K_{v}]}v-\dfrac{1}{[K:K_{v}]}\pi(s)v\right) \in V(K) $$ である。


次に $G$ の既約表現と $\mathcal{H}(G)$ 上の単純加群とを比較しよう。

命題 6
  • (1) $(\pi,V)$ を $G$ の既約表現とすると、$G$ の任意のコンパクト開部分群 $K$ に対して、$V^{K}=0$ であるかまたは $V^{K}$ は $\mathcal{H}(G,K)$ 上の単純加群になる。
  • (2) 次のような $1$対$1$対応が存在する。

$$ \left\{ (\pi,V)\in {\rm Rep}(G) \mathrel{\vert} \text{既約かつ } V^{K}\neq 0 \right\}/\simeq \longleftrightarrow \left\{ \text{単純 } \mathcal{H}(G,K) \text{ 加群} \right\}/\simeq $$

Proof.

  • (1) $(\pi,V)$ を $G$ の既約表現で $V^{K}\neq 0$ でないとすると $V^{K}=\pi(e_{K})V$ は $\mathcal{H}(G,K)$ 加群である。$M$ を $V^{K}$ の非自明な部分加群とすると、$\pi(\mathcal{H}(G))M$ は $V$ の部分表現となり、$V$ の既約性から、これは $V$ と等しい。したがって、

$$ V^{K}=\pi(e_{K})V=\pi(e_{K})\pi(\mathcal{H}(G))M=\pi(\mathcal{H}(G,K))M=M $$ となるので、$V^{K}$ は $\mathcal{H}(G,K)$ 上の単純加群である。

  • (2) $V^{K}\neq 0$ となる既約smooth表現 $(\pi,V)$ に対して、(1)より $V^{K}$ が単純 $\mathcal{H}(G,K)$ 加群になる。逆に $M$ を単純 $\mathcal{H}(G,K)$ 加群としたとき $V^{K}=M$ となる既約表現 $(\pi,V)$ を構成しよう。まず $U=\mathcal{H}(G)\otimes_{\mathcal{H}(G,K)} M$ とし、これを自然に $G$ のsmooth表現とみなす。$G$ は $U$ の第一成分の $\mathcal{H}(G)$ に左変換 $\lambda$ で作用している。このとき、

$$ U^{K}=e_{K}*\mathcal{H}(G)\otimes_{\mathcal{H}(G,K)} M\simeq M $$ となる。集合 $\{W\subset U\mathrel{\vert} W^{K}=0\}$ を考えると、これは包含関係により半順序集合となる。Zornの補題より、この集合の極大元 $X$ が存在する。$V=U/X$ が $M$ に対応する既約表現である。$V$ の同型類が $M$ の同型類にのみ依存することを示そう。$f\colon M\longrightarrow M^{'}$ を $\mathcal{H}(G,K)$ 加群の同型射とすると、これは $G$ 同型射 $$ {\rm id}\otimes f\colon U=\mathcal{H}(G)\otimes_{\mathcal{H}(G,K)} M \longrightarrow \mathcal{H}(G)\otimes_{\mathcal{H}(G,K)} M^{'}=U^{'} $$ に一意的に拡張できる。このとき、$X^{'}\subset U^{'}$ をこの同型による $X\subset U$ の像とすると、$X^{'}$ は $K$ 不変部分が消滅する $U^{'}$ の極大な部分空間であり、$U/X\simeq U^{'}/X^{'}$ となる。


補題 9

$G$ を局所副有限群とし $K$ をそのコンパクト開部分群とする。$f\in \mathcal{H}(G,K)$ が冪零でないなら、$\mathcal{H}(G,K)$ 上の単純加群 $M$ であって、$f\vert_{M}\neq 0$ となるものが存在する。

Proof.

複素数 $c\in \mathbb{C}^{\times}$ を $f-c$ が $\mathcal{H}(G,K)$ の中で可逆でないように取ることができる。この主張は $f\in \mathcal{C}$ なら自明である。仮に $f\notin \mathbb{C}$ の場合でも、Schurの補題の証明で見たように、$\{(f-c)^{-1}\mathrel{\vert} c\in \mathbb{C}^{\times} \}$ は $\mathbb{C}$ 上線形従属である。したがって $b_{1},\ldots,b_{n}\in \mathbb{C}^{\times}$ とすべてが $0$ ではないような $c_{1},\ldots,c_{n}\in \mathbb{C}$ が存在して $$ \sum_{i} c_{i}(f-b_{i})^{-1}=0 $$ となる。$\prod_{i} (f-b_{i})$ を掛けることにより、$f$ に関する複素数係数の方程式 $$ f^{m}(f-a_{1})^{m_{1}}\cdots (f-a_{r})^{m_{r}}=0 $$ を得る。$f$ は冪零でないので、ある $(f-a_{j})$ が零因子となり、$a=a_{j}$ と置くと $f-a$ は可逆でない。$M$ を $\mathcal{H}(G,K)$ の左剰余加群 $\mathcal{H}(G,K)/(f-a)\mathcal{H}(G,K)$ の既約商とすると $M$ は $f\in \mathcal{H}(G,K)$ がスカラー倍 $a\neq 0$ で作用するような単純 $\mathcal{H}(G,K)$ 加群である。

- コメント: 既約商を取るとき、$\mathcal{H}(G,K)$ が単位元を持つ連結代数であるという事実を使った。

命題 7 (分離補題)

$0$ でない任意の $f\in \mathcal{H}(G)$ に対して $G$ のある既約表現 $(\pi,V)$ が存在して $\pi(f)\neq 0$ となる。

Proof.

$f^{+}$ を $f^{+}(g)=\overline{f(g^{-1})}$ とする。$h=f^{+}*f$ とすると、$h^{+}=h$ であり、さらに \begin{align} h(1_{G})&=\int_{G}f(x)\overline{f(x)}dx \\ &=\int_{G}|f(x)|^{2}dx \end{align} なので $h\neq 0$ である。これを繰り返せば、$f$ が冪零でないことが確かめられる。よって上記の補題 9 より、$\mathcal{H}(G,K)$ の単純加群 $M$ で $f\vert_{M}\neq 0$ となるものがある。さらにこのような $M$ は $G$ の既約表現 $(\pi,V)$ で $V^{K}\neq 0$ となるものに対応していた。

Smooth表現の基礎 (II)

商測度と誘導表現の反傾

$G$ を局所副有限群、$H$ をその閉部分群とし $\delta_{G},\delta_{H}$ をそれぞれ $G$ 及び $H$ のモジュラー関数とする。$\theta_{H\backslash G}=\delta_{H}^{-1}\delta_{G}\vert_{H}\colon H\longrightarrow \mathbb{C}^{\times}$ とする。ここでの目標は、$H$ のsmooth表現 $(\sigma,W)$ に対して、$\operatorname{c-Ind}_{H}^{G}\sigma$ の反傾表現を調べることである。

命題 8

$\rho$ を $G$ の $C_{c}^{\infty}(G)$ への右作用とすると $$ \alpha\colon (\rho, C_{c}^{\infty}(G))\longrightarrow \operatorname{c-Ind}_{H}^{G}\theta_{H\backslash G}; f\longmapsto \left(x\longmapsto \int_{H}\delta_{G}^{-1}(h)f(hx)dh \right) $$ は $G$ の表現の間の全射である。

Proof.

まず $\alpha$ がwell-definedであることを示す。$k\in H$ と $x\in G$ に対して \begin{align} \alpha(f)(kx)&=\int_{H}\delta_{G}^{-1}(h)f(hkx)dh \\ &=\int_{H}\delta_{G}^{-1}(hk)\delta_{G}^{-1}(k^{-1})f((hk)x)\delta_{H}^{-1}(k)d(hk) \\ &=\theta_{H\backslash G}(k)\alpha(f)(x) \end{align} となる。ただし、ここで $H$ の左Haar測度 $\mu_{H}$ に関する $d\mu_{H}(h)=\delta_{H}(k)d\mu_{H}(hk)$ という性質を使った。また $\alpha(\rho(g)f)(x)=\Sigma(g)\alpha(f)(x)$ であることも簡単に確認できる。全射性を証明しよう。$G$ の任意のコンパクト開部分群 $K$ に対して、 $$ \alpha\colon C_{c}^{\infty}(G)^{K}\longrightarrow \bigoplus_{HgK\in H\backslash G/K} \left(\theta_{H\backslash G}\right)^{H\cap gKg^{-1}} $$ が全射であればよい。$\left(\theta_{H\backslash G}\right)^{H\cap gKg^{-1}}\simeq \mathbb{C}$ であり、$\bigoplus_{HgK\in H\backslash G/K} \left(\theta_{H\backslash G}\right)^{H\cap gKg^{-1}}$ の基底として、$(e_{g})_{HgK\in H\backslash G/K}$ というものがとれる。ただし、$e_{g}$ は $HgK\in H\backslash G/K$ 成分が $1$ で他の成分が $0$ であるようなベクトル $(0,\ldots,0,1,0\ldots)$ のことである。$\alpha(\mathbb{I}_{gK})=e_{g}$ であるので、$\alpha$ は全射である。


補題 10

$G$ の右不変な積分 $$ I\colon C_{c}^{\infty}(G)\longrightarrow \mathbb{C};f\longmapsto \int_{G}\delta_{G}^{-1}(g)f(g)dg $$ は $\alpha$ を経由する。

Proof.

$f\in C_{c}^{\infty}(G)$ を $\alpha(f)=0$ となる関数とする。$K$ を $f=f*e_{K}$ となるような $G$ のコンパクト開部分群とする。ある $g\in G$ が存在して ${\rm supp}(f)\subset HgK$ と仮定してよい。 このとき $f$ は有限個の $h_{i}gK ~(h_{1},\ldots,h_{r}\in H)$ の特性関数の線形結合として書ける。すなわち $$ f=\sum_{i=1}^{r}c_{i} \mathbb{I}_{h_{i}gK} $$ となる。$\alpha(f)=0$ という条件は $$ \mu_{H}(H\cap gKg^{-1})\sum_{i}c_{i}\delta_{G}^{-1}(g)=0 $$ を意味する。 $$ \int_{G}\delta_{G}^{-1}(g)f(g)dg=\sum_{i}\delta_{G}^{-1}(h_{i}g)f(h_{i}g)\mu_{h_{i}gK}=0 $$ なので、$I(f)=0$ となる。


定義 13 (商測度)

$I\colon C_{c}^{\infty}(G)\longrightarrow \mathbb{C}$ を右不変な積分としたとき $I$ は $$ c{\text -}{\rm Ind}_{H}^{G}\theta_{H\backslash G} \longrightarrow \mathbb{C} $$ を経由する。$f\in c{\text -}{\rm Ind}_{H}^{G}\theta_{H\backslash G}$ に対して、この写像による $f$ の像を$\int_{H\backslash G} f(x) d\mu_{H\backslash G}(x) $ とか $\int_{H\backslash G}f(g) \dfrac{d\mu_{G}}{d\mu_{H}}(g)$ 等と書く。定義より、任意の $f\in C_{c}^{\infty}(G)$ に対して $$ \int_{G}\delta_{G}^{-1}(x)f(x)d\mu_{G}(x)=\int_{H\backslash G} \alpha(f)(x) d\mu_{H\backslash G}(x)=\int_{H\backslash G} \int_{H}\delta_{G}^{-1}(h)f(hx)d\mu_{H}(h) d\mu_{H\backslash G}(x) $$ となる。左不変な積分の言葉に直すと $$ \int_{G}f(x)d\mu_{G}(x)=\int_{H\backslash G}\int_{H}\delta_{G}(x)f(hx)d\mu_{H}(h)d\mu_{H\backslash G}(x) $$ となる。

定理 3

$H$ のsmooth表現 $(\sigma,W)$ に対して自然な同型 $$ (c\text{-}{\rm Ind}_{H}^{G}\sigma)^{\vee}\simeq {\rm Ind}_{H}^{G}(\theta_{H\backslash G}\otimes \check{\sigma}) $$ が存在する。ただし、$(c\text{-}{\rm Ind}_{H}^{G}\sigma)^{\vee}$ は $c\text{-}{\rm Ind}_{H}^{G}\sigma$ の反傾表現のことである。

Proof.

自然なpairingを $$ \langle ~,~\rangle\colon \check{W}\times W\longrightarrow \mathbb{C} $$ と書くことにする。$\psi\in c{\text -}{\rm Ind}_{H}^{G}\sigma$ と $\Phi\in {\rm Ind}_{H}^{G}(\theta_{H\backslash G}\otimes \check{\sigma})$ に対して $$ (\Phi,\psi)=\int_{H\backslash G} \langle\Phi(x) ,\psi(x) \rangle d\mu_{H\backslash G}(x) $$ とすると、これは自然なpairing $$ (~,~)\colon {\rm Ind}_{H}^{G}(\theta_{H\backslash G}\otimes \check{\sigma}) \times c{\text -}{\rm Ind}_{H}^{G}\sigma \longrightarrow \mathbb{C} $$ を与える。$d\mu_{H\backslash G}$ の右不変性より $(\Sigma(g)\Psi,\Sigma(g)\psi)=(\Psi,\psi)$ なので、このpairingは $G$ 射 $$ {\rm Ind}_{H}^{G}(\theta_{H\backslash G}\otimes \check{\sigma}) \longrightarrow (c{\text -}{\rm Ind}_{H}^{G}\sigma)^{\vee} $$ を誘導する。これが同型であることを示そう。そのためには $G$ の任意のコンパクト開部分群 $K$ に対して、 $$ {\rm Ind}_{H}^{G}(\theta_{H\backslash G}\otimes \check{\sigma}) \longrightarrow (c{\text -}{\rm Ind}_{H}^{G}\sigma)^{\vee} $$ が誘導する $K$ 不変部分空間の間の線形写像が同型であることを言えば十分である。 \begin{align} {\rm Ind}_{H}^{G}(\theta_{H\backslash G}\otimes \check{\sigma})^{K} &\simeq \prod_{HgK\in H\backslash G/K}\check{W}^{H\cap gKg^{-1}} \\ &\simeq \left( \bigoplus_{HgK\in H\backslash G/K} W^{H\cap gKg^{-1}} \right)^{\vee} \\ &\simeq (c{\text -}{\rm Ind}_{H}^{G}\sigma)^{\vee,K} \end{align} となるので、 $$ {\rm Ind}_{H}^{G}(\theta_{H\backslash G}\otimes \check{\sigma}) \simeq (c{\text -}{\rm Ind}_{H}^{G}\sigma)^{\vee} $$ である。


定義 14

上記の設定の下で、さらに商空間 $H\backslash G$ がコンパクトであるとき、$H$ のsmooth表現 $\sigma$ に対して $i_{G,H}(\sigma)={\rm Ind}_{H}^{G}(\theta_{H\backslash G}^{-\frac{1}{2}}\otimes \sigma)$ とすると、$i_{G,H}(\check{\sigma})=i_{G,H}(\sigma)^{\vee}$ となる。$i_{G,H}(\sigma)$ のことを $\sigma$ の正規化された誘導表現と呼ぶ。

Jacquet-Langlandsの補題

$G$ を局所副有限群とし、$H$ をその閉部分群とする。$G$ のsmooth表現 $(\pi,V)$ と $H$ の指標 $\theta\colon H\longrightarrow \mathbb{C}^{\times}$ に対して $V(H,\theta)$ を $\{\pi(h)v-\theta(h)v \mathrel{\vert}h\in H,v\in V\}$ で生成された部分空間とし、$V_{H,\theta}=V/V(\theta)$ とする。$V_{H,\theta}$ は $H$ が指標 $\theta$ を経由して作用するような $V$ の最大の商空間である。

$$ N_{G}(H,\theta):=\{g\in G\mathrel{\vert} gHg^{-1}=H,\theta^{g}=\theta\} $$ とする。この群のことを $G$ の閉部分群 $H$ とその指標 $\theta$ の正規化群という。ただし、$\theta^{g}(h)=\theta(ghg^{-1})$ のことである。$\theta=1$ なら、これは単に $H$ の正規化群のことに他ならない。任意の $g\in N_{G}(H,\theta)$ に対して $\pi(g)(V(H,\theta))\subset V(H,\theta)$ なので $H_{G}(H,\theta)$ は $V_{H,\theta}$ に作用する。すなわち $$ J_{H,\theta}\colon {\rm Rep}(G) \longrightarrow {\rm Rep}N_{G}(H,\theta); (\pi,V) \longrightarrow (\theta, V_{H,\theta}) $$ という表現の圏の間にある関手が作れる。

補題 11 (Jacquet-Langlandsの補題)

$(\pi,V)$ を $G$ のsmooth表現とし、$G$ の閉部分群 $H$ がそのコンパクト部分群の合併であるとする。このとき、$v\in V$ に対して、$v$ が $V(H,\theta)$ に属するための必要十分条件は、$H$ のあるコンパクト開部分群 $N$ が存在して $$ \int_{N}\theta^{-1}(n)\pi(n)vdn=0 $$ となることである。

Proof.

$pi$ を $\theta^{-1}\pi$ に置き換えることによって、$\theta=1$ の場合に補題を示せば十分であることが分かる。まず十分性から確認する。$v\in V(H)$ なら、有限個の $v_{1},\ldots,v_{n}\in V$ 及び $h_{1},\ldots,h_{n}\in H$ が存在して $$ v=\sum (v_{i}-\pi(h_{i})v_{i}) $$ となる。したがって、 \begin{align} \int_{N}\pi(n)vdn&=\sum_{i=1}^{n}\int_{N}\left(\pi(n)v-\pi(nh_{i})v\right)dn \\ &=0 \\ \end{align} となる。必要条件であることは次のように示せる。$v$ を固定するような $H$ のコンパクト開部分群 $N_{1}$ で $N_{1}\lhd N$ となるものが取れる。このとき、$v\in V^{N_{1}}=V^{N_{1}}(N)\oplus V^{N}$ であり補題 8より $e_{N}\colon V^{N_{1}}\longrightarrow V^{N}$ という $N/N_{1}$ 射影が取れる。 $$ e_{N}(v)=\mu(N)^{-1}\int_{N}\pi(n)vdn=0 $$ なので、$v$ は ${\rm Ker}e_{N}=V(N)$ の元である。

コンパクト表現

定義 15 (コンパクト表現)

$G$ をユニモジュラーな局所副有限群とし、$(\pi,V)$ を $G$ のsmooth表現とする。任意の $v\in V$ と任意のコンパクト開部分群 $K\subset G$ に対して $$ D_{v,K}\colon G\longrightarrow V;g\longmapsto e_{K}(\pi(g^{-1})v) $$ の台 ${\rm supp}~ D_{v,K}$ がコンパクトであるとき、$(\pi,V)$ は $G$ のコンパクト表現という。

- コメント: コンパクト表現は、尖点表現を特徴づける際に必要になる。$G$ を $p$ 進体上の簡約代数群としたとき、$G$ の表現 $(\pi,V)$ が尖点表現であることと $\pi$ の $G^{0}$ への制限がコンパクト表現となることとは同値である。ただし、$G^{0}$ は $G^{0}Z/Z$ がコンパクトであるような $G$ の開部分群である。


定義 16 (行列係数)

$G$ のsmooth表現 $(\pi,V)$ とその反傾表現 $(\check{\pi},\check{V})$ に対して $v\in V$ と $\check{v}\in \check{V}$ から定まる $G$ 上の関数 $$ m_{\check{v},v}(g)=\langle\check{v},\pi(g^{-1})v\rangle =\langle\check{\pi}(g)\check{v},v\rangle $$ のことを $\pi$ の行列係数と呼ぶ。

命題 9

$G$ をユニモジュラーな局所副有限群とし、$(\pi,V)$ を $G$ のsmooth表現とする。このとき $(\pi,V)$ がコンパクト表現であるのは、$\pi$ のすべての行列係数の台がコンパクトであるとき、またそのときに限る。

Proof.

$(\pi,V)$ がコンパクト表現なら、$\check{v}\in \check{V}$ に対して、$\check{v}$ を固定するようなコンパクト開部分群 $K$ を取ると、任意の $v\in V$ に対して ${\rm supp}~ m_{\check{v},v}\subset {\rm supp}~ D_{v,K}$ である。実際、$g\notin {\rm supp}~ D_{v,K}$ を取ると $\pi(g^{-1})v\in {\rm Ker}(e_{K})=V(K)$ なので $v_{1},\ldots,v_{n}\in V$ と $k_{1},\ldots, k_{n}\in K$ を $$ \pi(g^{-1})v=\sum_{i=1}^{n} v_{i}-\pi(k_{i}) v_{i} $$ となるように取ることができる。このとき、 \begin{align} m_{\check{v},v}(g)&=\sum_{i=1}^{n}\langle \check{v},v_{i}-\pi(k_{i})v_{i} \rangle \\ &=\sum_{i=1}^{n}\left(\langle\check{v},v \rangle- \langle\check{\pi}(k_{i}^{-1})\check{v},v_{i} \rangle \right) \\ &=0 \end{align} 仮定より ${\rm supp}~ D_{v,K}$ はコンパクトなので、行列係数の台はコンパクトである。逆に、すべての行列係数の台がコンパクトであると仮定しよう。まず、 $$ D_{v,K}\colon G\longrightarrow V $$ の像が有限次元であることを示す。仮にそうでないとすると、無限個の $G$ の元 $g_{1},g_{2}\ldots$ が存在して、$D_{v,K}(g_{1}),D_{v,K}(g_{2}),\ldots$ は線形独立になる。基底の拡張定理により、$w_{1},w_{2},\ldots\in V$ を $D_{v,K}(g_{1}),D_{v,K}(g_{2}),\ldots,w_{1},w_{2},\ldots$ が $V^{K}$ の基底となるように選ぶ。さらに $\check{v}\in \check{V}^{K}$ を $\langle\check{v},D_{v,K}(g_{i})\rangle=1$ かつ $\langle\check{v},w_{i}\rangle=0$ となるように取ると、$g_{1},g_{2},\ldots$ たちはすべて ${\rm supp}~ m_{\check{v},v}$ に属することになる。 これは ${\rm supp}~ m_{\check{v},v}$ のコンパクト性に矛盾する。したがって、${\rm Im}(D_{v,K})$ は有限次元である。$g_{1},\ldots,g_{s}\in G$ を $D_{v,K}(g_{1}),\ldots,D_{v,K}(g_{s})$ が ${\rm Im}(D_{v,K})$ の基底になるように選ぶ。$\check{v}_{i}\in (V^{K})^{*}$ を $\langle \check{v}_{i}, D_{v,K}(g_{i})\rangle=1$ となるように選ぶと $$ {\rm supp}~D_{v,K} \subset \bigcup_{i=1}^{s} {\rm supp}~ m_{\check{v}_{i},v} $$ が成り立つことは簡単に確認できる。


 有限生成なコンパクト表現は許容表現である。

Proof.

$(\pi,V)$ を $G$ の有限生成なコンパクト表現とすると、$V$ が $\{\pi(g)v_{i}\mathrel{\vert} g\in G,i=1,\ldots,n\}$ で生成されているように有限個の元 $v_{1},\ldots,v_{n}\in V$ を取ることができる。$G$ の任意のコンパクト開部分群 $K$ に対して、$V^{K}$ は $\{ D_{v_{i},K}(g)\mathrel{\vert} g\in G,i=1,\ldots,n\}$ で生成されている。各 $D_{v_{i},K}$ の台はコンパクトなので、${\rm supp}~D_{v_{i},K}/K$ は有限集合であり、したがって $V^{K}$ は $\mathbb{C}$ 上有限次元である。


$(\pi,V)$ を $G$ のコンパクト表現とする。${\rm End}_{\mathbb{C}}(V)$ に $G\times G$ の作用を次のように定める。 $$ G\times G \times {\rm End}_{\mathbb{C}}(V) \longrightarrow {\rm End}_{\mathbb{C}}(V); ((g_{1},g_{2}),A)\longmapsto \pi(g_{1})A\pi(g_{2}^{-1}). $$ このとき ${\rm End}_{\mathbb{C}}(V)$ のsmoothパートを $L(V)$ と書くことにする。 $$ r\colon V\otimes \check{V} \longrightarrow L(V); v\otimes \check{v} \longmapsto (w\longmapsto \langle\check{v},w\rangle v) $$ は同型である。実際、$G$ の任意のコンパクト開部分群 $K$ に対して、 $$ {\rm dim}(V\otimes \check{V})^{K\times K}={\rm dim}L(V)^{K\times K}=({\rm dim}V^{K})^{2} $$ となり、$L(V)\simeq V\otimes \check{V}$ が分かる。特に、$L(V)$ は $G\times G$ の既約表現である。また $\mathcal{H}(G)$ にも $G\times G$ の作用が次のように入っている。 $$ G\times G\times \mathcal{H}(G) \longrightarrow \mathcal{H}(G) ;((g_{1},g_{2}),f)\longmapsto \lambda(g_{1})\rho(g_{2})f. $$ $G\times G$ の二つの表現 $L(V)\simeq V\otimes \check{V}$ と $\mathcal{H}(G)$ の間には次のような $G\times G$ 準同型がある。 $$ \hspace{-30pt} \pi\colon \mathcal{H}(G) \longrightarrow L(V) ; f\longmapsto \pi(f), \\ \phi\colon L(V) \longrightarrow \mathcal{H}(G) ; r(v\otimes \check{v}) \longmapsto m_{\check{v},v}. $$ ここで、$(\pi,V)$ がコンパクト表現であることから、その行列係数が $\mathcal{H}(G)$ の元になることに注意しよう。このときSchurの補題より $G$ の測度に依存した定数 $d(\pi)$ が存在して $\pi\phi=d(\pi){\rm id}$ となる。この $d(\pi)$ が $0$ でない。なぜなら $v\in V,\check{v}\in \check{V}$ を $m_{\check{v},v}\neq 0$ となるように選ぶと、命題 7より、既約表現 $(\tau,U)$ が存在して、$\tau(m_{\check{v},v})\neq 0$ となる。すなわち $u\in U$ で $\tau(m_{\check{v},v})u\neq 0$ となるものがある。 $$ \begin{xy} \xymatrix{ L(V) \ar[r] & \mathcal{H}(G) \ar[r]^{f\longmapsto \tau(f)u} & U } \end{xy} $$ の合成は $0$ でない。$G=G\times \{1\}\subset G\times G$ により $G$ を $G\times G$ の閉部分群と見なすと、$\mathcal{H}(G)$ と $L(V)$ は $G$ のsmooth表現になる。$G$ の作用はそれぞれ $$ G\times \mathcal{H}(G);(g,f)\longrightarrow \lambda(g)f, \\ G \times L(V) ; (g,A)\longrightarrow \pi(g)A $$ である。さらに $L(V)$ は $G$ の表現として $V$ の直和と同型である。実際、適当な濃度 $\gamma$ を用いて、ベクトル空間の同型 $\check{V} \simeq \bigoplus^{\gamma} \mathbb{C}$ が取れるので、$G\times \{1\}$ の表現として、$L(V)\simeq \bigoplus^{\gamma} V$ となる。$U$ は $L(V)$ の像なので、$(\tau,U)$ もまた $(\pi,V)$ の直和と同型であり、したがって $\pi(m_{\check{v},v})\neq 0$で、$d(\pi)\neq 0$ が分かる。

したがって、$G$ の表現の分解 $$ \mathcal{H}(G)\simeq L(V)\oplus L(V)^{\perp} $$ が得られる。$\pi\colon \mathcal{H}(G) \longrightarrow L(V)$ は代数の準同型なので、これは代数としての直和分解にもなっている。$e^{\pi}$ を $\mathcal{H}(G)$ から $L(V)$ への射影とする。

命題 10

$G$ の既約なコンパクト表現 $(\pi,V)$ と任意のsmooth表現 $(\tau,U)$ に対して、$e^{\pi}U=L(V)*U\subset U$ は $(\pi,V)$ と同型であるような表現の直和であり、$L(V)^{\perp}*U\subset U$ は $(\pi,V)$ と同型な既約な部分商を持つことはない。特に ${\rm Rep}(G)$ は $(\pi,V)$ と同型であるような表現が生成する圏 ${\rm Rep}^{\pi}(G)$ と $(\pi,V)$ を部分商として持たないような表現のなす圏 ${\rm Rep}_{\pi}(G)$ との直積圏である。

Proof.

$G$ 射の空間の間の自然な同型の列 \begin{align} {\rm Hom}_{\mathcal{H}(G)}(U,V) &\simeq {\rm Hom}_{\mathcal{H}(G)}(U,{\rm Hom}(\check{V},\mathbb{C})) \\ &\simeq {\rm Hom}_{\mathcal{H}(G)}(U,{\rm Hom}(\check{V},{\rm End}_{G}(V))) \\ &\simeq {\rm Hom}_{\mathcal{H}(G)}(U,{\rm Hom}_{\mathcal{H}(G)}(\check{V}\otimes V,V)) \\ &\simeq {\rm Hom}_{\mathcal{H}(G)}(U,{\rm Hom}_{\mathcal{H}(G)}(L(V),V)) \\ &\simeq {\rm Hom}_{\mathcal{H}(G)}(L(V)\otimes_{\mathcal{H}(G)} U,V) \\ &\simeq {\rm Hom}_{\mathcal{H}(G)}(e^{\pi}U,V) \end{align} があるので、$(\tau,U)$ から $(\pi,V)$ への任意の $G$ 射は $U$ の直和因子 $e^{\pi}U$ を経由する。特に、$L(V)^{\perp}*U$ は $V$ への非自明な $G$ 射を持たない。$L(V)^{\perp}*U$ の部分表現 $U^{'}$ が $V$ と同型であるような既約商を持つと仮定すると、非自明な準同型 $U^{'}\longrightarrow V$ は $e^{\pi}U^{'}$ を経由する。一方で $L(V)^{\perp}*U$ 上で、$e^{\pi}$ は $0$ 射として作用するので、$e^{\pi}U^{'}=0$ となり、$U^{'}$ が $V$ への非自明な準同型を持つことに矛盾する。したがって、$L(V)^{\perp}*U$ は $V$ と同型な部分商を持たないことがわかる。次に、$e^{\pi}U$ が $V$ と同型な表現の直和として記述できることを示そう。任意の $u\in U$ に対して、$L(V)*u$ は $e^{\pi}U$ の部分表現であり、$L(V)$ の商なので、$V$ の直和と同型である。$u\in U$ は任意の元だったので、$e^{\pi}U$ も $V$ の直和と同型となる。


上記の命題から、ユニモジュラーな局所副有限群 $G$ が既約なコンパクト表現を持てば、それに付随して、表現の圏の分解 $$ {\rm Rep}(G)={\rm Rep}^{\pi}(G)\times {\rm Rep}_{\pi}(G) $$ が得られる。

参考文献

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