超関数の定義と基本操作

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本稿においては、Euclid空間の開集合上の超関数の定義と超関数の基本的操作について述べる。超関数の基本的操作は、具体的には、局所可積分関数の超関数としての同一視、超関数の弱微分、滑らかな関数と超関数の積、超関数の変数変換などである。これらの操作の超関数空間の位相に関する連続性についても述べる。 $\mathbb{N}=\{1,2,3,\ldots\}$、$\mathbb{Z}_+=\{0,1,2,\ldots\}$ とする。

超関数とFourier変換、Sobolev空間

1. 多重指数、Leibnizルール

定義1.1(多重指数、多重二項定理)

$N\in \mathbb{N}$ に対し $\mathbb{Z}_+^N$の元を $N$ 次の多重指数と呼ぶことがある。多重指数 $\alpha\in \mathbb{Z}_+^N$ に対し、 $$ \lvert\alpha\rvert\colon=\alpha_1+\ldots+\alpha_N\in \mathbb{Z}_+ $$ を $\alpha$ の長さと言う。
多重指数 $\alpha\in \mathbb{Z}_+^N$ と $x=(x_1,\ldots,x_N)\in \mathbb{C}^N$ に対し、 $$ x^{\alpha}\colon=x_1^{\alpha_1}\ldots x_N^{\alpha_N}\in\mathbb{C} $$ と定義する。また $\mathbb{C}^N$ 値関数 $f=(f_1,\ldots, f_N)\colon X\ni p\mapsto (f_1(p),\ldots,f_N(p))\in \mathbb{C}^N$ と多重指数 $\alpha\in \mathbb{Z}_+^N$ に対し $f^{\alpha}\colon X\rightarrow\mathbb{C}$ を、 $$ f^{\alpha}(x)\colon=f_1^{\alpha_1}(x)\ldots f_N^{\alpha_N}(x)\quad(\forall x\in X) $$ と定義する。
開集合 $\Omega\subset \mathbb{R}^N$ 上で定義された $C^n$ 級関数 $f\colon\Omega\rightarrow\mathbb{C}$ と長さが $n$ 以下の多重指数 $\alpha\in \mathbb{Z}_+^N$ に対し、 $$ \partial^{\alpha}f\colon=\partial_1^{\alpha_1}\ldots\partial_N^{\alpha_N}f $$ と定義する[1]
多重指数 $\alpha,\beta\in \mathbb{Z}_+^N$ に対し多重指数 $\alpha+\beta\in \mathbb{Z}_+^N$ を、 $$ \alpha+\beta\colon=(\alpha_1+\beta_1,\ldots,\alpha_N+\beta_N) $$ と定義する。多重指数 $\alpha,\beta\in \mathbb{Z}_+^N$ に対し、 $$ \beta_1\leq \alpha_1,\ldots,\beta_N\leq \alpha_N $$ であることを $\beta\leq \alpha$ と表す。 $\beta\leq \alpha$ なる多重指数 $\alpha,\beta\in \mathbb{Z}_+^N$ に対し多重指数 $\alpha-\beta\in \mathbb{Z}_+^N$ を、 $$ \alpha-\beta\colon=(\alpha_1-\beta_1,\ldots,\alpha_N-\beta_N) $$ と定義する。
多重指数 $\alpha,\beta\in \mathbb{Z}_+^N$ で $\beta\leq\alpha$ なるものに対し、 $$ \begin{pmatrix}\alpha\\\beta\end{pmatrix}\colon=\begin{pmatrix}\alpha_1\\\beta_1\end{pmatrix}\ldots\begin{pmatrix}\alpha_N\\\beta_N\end{pmatrix} $$ を多重二項係数と言う。ただし、 $$ \begin{pmatrix}\alpha_k\\\beta_k\end{pmatrix}=\frac{\alpha_k!}{\beta_k!(\alpha_k-\beta_k)!}\quad(k=1,\ldots,N) $$ である。

注意1.2(多重二項定理)

任意の$x,y\in \mathbb{C}^N$ と任意の多重指数 $\alpha\in \mathbb{Z}_+^N$ に対し、 $$ (x+y)^\alpha=(x_1+y_1)^{\alpha_1}\ldots(x_N+y_N)^{\alpha_N}= \sum_{\beta\leq\alpha}\begin{pmatrix}\alpha\\\beta\end{pmatrix}x^{\beta}y^{\alpha-\beta} $$ である。

命題1.3(Leibnizルール)

$\Omega\subset \mathbb{R}^N$ を開集合とし、$f,g\colon\Omega\rightarrow\mathbb{C}$ を $C^n$ 級関数とする。このとき長さが $n$ の任意の多重指数 $\alpha\in \mathbb{Z}_+^N$ に対し、 $$ \partial^{\alpha}(fg)=\sum_{\beta\leq\alpha}\begin{pmatrix}\alpha\\\beta\end{pmatrix}\partial^{\beta}f\partial^{\alpha-\beta}g\quad\quad(*) $$ が成り立つ。

Proof.

  • $(1)$ $N=1$の場合。$(*)$ は、

$$ (fg)^{(n)}=\sum_{k=0}^{n}\begin{pmatrix}n\\k\end{pmatrix}f^{(k)}g^{(n-k)}\quad\quad(**) $$ である。これを $n$ に関する帰納法で示す。$n=1$ ならば明らかに成り立つ。 $(**)$ がある $n\in\mathbb{N}$ に対して成り立つとして $n+1$ の場合も成り立つことを示す。 $$ \begin{aligned} (fg)^{(n+1)}&=\left(\sum_{k=0}^{n}\begin{pmatrix}n\\k\end{pmatrix}f^{(k)}g^{(n-k)}\right)' =\sum_{k=0}^{n}\begin{pmatrix}n\\k\end{pmatrix}f^{(k+1)}g^{(n-k)}+ \sum_{k=0}^{n}\begin{pmatrix}n\\k\end{pmatrix}f^{(k)}g^{(n+1-k)}\\ &=\sum_{k=1}^{n+1}\begin{pmatrix}n\\k-1\end{pmatrix}f^{(k)}g^{(n+1-k)}+\sum_{k=0}^{n}\begin{pmatrix}n\\k\end{pmatrix}f^{(k)}g^{(n+1-k)}\\ &=\sum_{k=1}^{n}\left(\begin{pmatrix}n\\k\end{pmatrix}+\begin{pmatrix}n\\k-1\end{pmatrix}\right)f^{(k)}g^{(n+1-k)}+f^{(n+1)}g^{(0)}+f^{(0)}g^{(n+1)} \end{aligned} $$ である。ここで $1\leq k\leq n$ なる $n,k\in\mathbb{N}$ に対し、 $$ \begin{pmatrix}n\\k\end{pmatrix}+\begin{pmatrix}n\\k-1\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}n+1\\k\end{pmatrix} $$ であるから、 $$ \begin{aligned} (fg)^{(n+1)}&=\sum_{k=1}^{n}\begin{pmatrix}n+1\\k\end{pmatrix}f^{(k)}g^{(n+1-k)}+f^{(n+1)}g^{(0)}+f^{(0)}g^{(n+1)}\\ &=\sum_{k=0}^{n+1}\begin{pmatrix}n+1\\k\end{pmatrix}f^{(k)}g^{(n+1-k)} \end{aligned} $$ である。よって $(**)$ は $n+1$ の場合も成り立つ。

  • $(2)$ 一般の場合。$(1)$ を繰り返し用いれば、

$$ \begin{aligned} \partial^{\alpha}(fg)&=\partial_1^{\alpha_1}\ldots\partial_N^{\alpha_N}(fg) =\sum_{\beta_N\leq\alpha_N}\begin{pmatrix}\alpha_N\\\beta_N\end{pmatrix}\partial_{1}^{\alpha_1}\ldots\partial_{N-1}^{\alpha_{N-1}}\left(\left(\partial_N^{\beta_N}f\right)\left(\partial_N^{\alpha_N-\beta_N}g\right)\right)\\ &=\sum_{\substack{\beta_N\leq\alpha_N,\\\beta_{N-1}\leq\alpha_{N-1}}}\begin{pmatrix}\alpha_{N-1}\\\beta_{N-1}\end{pmatrix}\begin{pmatrix}\alpha_N\\\beta_N\end{pmatrix} \partial_{1}^{\alpha_1}\ldots\partial_{N-2}^{\alpha_{N-2}}\left(\left(\partial_{N-1}^{\beta_{N-1}}\partial_N^{\beta_N}f\right)\left(\partial_{N-1}^{\alpha_{N-1}-\beta_{N-1}}\partial_N^{\alpha_N-\beta_N}g\right)\right)\\ &=\ldots=\sum_{\beta\leq\alpha}\begin{pmatrix}\alpha\\\beta\end{pmatrix}\partial^{\beta}f\partial^{\alpha-\beta}g \end{aligned} $$ となる。

2. 距離空間の部分集合の間の距離に関する基本事項

定義2.1(距離空間の部分集合の間の距離)

$(X,d)$ を距離空間とする。任意の $E,F\subset X$ に対し $E$ と $F$ の距離を、 $$ d(E,F)\colon=\inf\{d(x,y):x\in E,y\in F\} $$ と定義する。ただし $E, F$ のうちいずれかが空ならば $d(E,F)=\infty$ とする。また任意の $x\in X$ と任意の $E\subset X$ に対し、 $$ d(x,E)\colon=d(\{x\},E) $$ と定義する。

命題2.2(距離空間の部分集合の間の距離に関する基本事項)

$(X,d)$ を距離空間とする。次が成り立つ。

  • $(1)$ 任意の $x\in X$ と任意の $E\subset X$ に対し $d(x,E)=0$ であることと $x\in \overline{E}$ であることは同値である。
  • $(2)$ 任意の $E\subset X$ と任意の $r\in (0,\infty)$ に対し、

$$ \{x\in X:d(x,E)<r\},\quad \{x\in X:d(x,E)>r\} $$ はそれぞれ $X$ の開集合である。

  • $(3)$ 任意の $E,F\subset X$ に対し $d(E,F)=d(\overline{E},F)$ である。
  • $(4)$ $K\subset X$ を空でないコンパクト集合、$V\subset X$ を開集合とし、$K\subset V$ とすると $d(K,X\backslash V)>0$ である。
Proof.

  • $(1)$ 

$$ d(x,E)=0\quad\Leftrightarrow\quad B(x,\epsilon)\cap E\neq\emptyset\quad(\forall \epsilon\in(0,\infty))\quad\Leftrightarrow\quad x\in\overline{E}. $$

  • $(2)$ 任意の $x_0\in \{x\in X:d(x,E)<r\}$ を取る。$d(y,x_0)<r-d(x_0,E)$ なる任意の $y\in X$ に対し、

$$ d(y,z)\leq d(y,x_0)+d(x_0,z)\quad(\forall z\in E) $$ であるから、 $$ d(y,E)\leq d(y,x_0)+d(x_0,E)<r-d(x_0,E)+d(x_0,E)=r $$ である。よって $B(x_0,r-d(x_0,E))\subset\{x\in X:d(x,E)<r\}$ であるから $\{x\in X:d(x,E)<r\}$ は開集合である。
任意の $x_0\in \{x\in X:d(x,E)>r\}$を取る。$d(y,x_0)<d(x_0,E)-r$ なる任意の $y\in X$ に対し、 $$ d(y,z)\geq d(x_0,z)-d(y,x_0)\quad(\forall z\in E) $$ であるから、 $$ d(y,E)\geq d(x_0,E)-d(y,x_0)>d(x_0,E)-(d(x_0,E)-r)=r $$ である。よって $B(x_0,d(x_0,E)-r)\subset\{x\in X:d(x,E)>r\}$ であるから $\{x\in X:d(x,E)>r\}$ は開集合である。

  • $(3)$ 任意の $x\in \overline{E}$ と任意の $y\in F$ を取り、$x$ に収束する $E$ の列 $(x_n)_{n\in\mathbb{N}}$ を取ると、

$$ \lvert d(x,y)-d(x_n,y)\rvert \leq d(x,x_n)\rightarrow0 $$ より、 $$ d(x,y)=\lim_{n\rightarrow\infty}d(x_n,y)\geq d(E,F) $$ である。よって $d(\overline{E},F)\geq d(E,F)$ である。逆の不等式は自明である。

  • $(4)$ $(2)$ より、

$$ U_n\colon=\left\{x\in X:d(x,X\backslash V)>\frac{1}{n}\right\}\quad(\forall n\in\mathbb{N}) $$ はそれぞれ開集合であり、$U_n\subset U_{n+1}$ $(\forall n\in\mathbb{N})$ である。また $K\subset V$ であり $X\backslash V$ は閉集合であるから $(1)$ より、 $$ K\subset \{x\in X:d(x,X\backslash V)>0\}=\bigcup_{n\in\mathbb{N}}U_n $$ である。よって $K$ のコンパクト性より $K\subset U_{m}$ なる $m\in\mathbb{N}$ が取れ、 $$ d(x,y)>\frac{1}{m}\quad(\forall x\in K,\forall y\in X\backslash V) $$ であるので、 $$ d(K,X\backslash V)\geq \frac{1}{m}>0 $$ である。

3. Fréchet空間 $\mathcal{E}(\Omega)$ とFréchet空間 $D_K(\Omega)$

命題3.1

$\Omega\subset \mathbb{R}^N$ を開集合とし、任意の $n\in\mathbb{N}$ に対し、 $$ \Omega_n\colon=\left\{x\in \mathbb{R}^N:\lvert x\rvert<n,\text{ }d(x,\mathbb{R}^N\backslash \Omega)>\frac{1}{n}\right\} $$ とおく。このとき $(\Omega_n)_{n\in\mathbb{N}}$ は $\Omega$ の開集合の単調増加列であり、 $$ \Omega=\bigcup_{n\in\mathbb{N}}\Omega_n $$ が成り立つ。また任意の $n\in\mathbb{N}$ に対し、 $$ \overline{\Omega_n}\subset\left\{x\in\mathbb{R}^N:\lvert x\rvert\leq n, \text{ } d(x,\mathbb{R}^N\backslash \Omega)\geq\frac{1}{n}\right\}\subset \Omega_{n+1} $$ が成り立ち $\overline{\Omega_n}$ はコンパクトである。

Proof.

命題2.2の $(1),(2)$ による。

定義3.2(コンパクト一様収束)

$X$ を位相空間、$Y$を距離空間とする。$X\rightarrow Y$ の写像からなるネット[2] $(f_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}$ が写像 $f\colon X\rightarrow Y$ にコンパクト一様収束するとは、任意のコンパクト集合 $K\subset X$ に対し $(f_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}$ が $K$ 上で $f$ に一様収束することを言う。

定義3.3($\mathcal{E}(\Omega)$ )

$\Omega\subset \mathbb{R}^N$ を開集合とする。命題3.2における $\Omega$ の開集合の単調増加列 $(\Omega_n)_{n\in\mathbb{N}}$ を考える。$\Omega$ 上の $C^\infty$ 級複素数値関数全体に各点ごとの演算を入れた $\mathbb{C}$ 上の線形空間 $C^\infty(\Omega)$ に対し $C^\infty(\Omega)$ 上のセミノルムの列 $(p_n)_{n\in\mathbb{N}}$ を、 $$ p_n\colon C^\infty(\Omega)\ni f\mapsto \underset{\lvert\alpha\rvert\leq n}{\rm max}\sup_{x\in \overline{\Omega_n}}\lvert\partial^{\alpha}f(x)\rvert\in [0,\infty)\quad(\forall n\in\mathbb{N}) $$ として定義する。$\Omega=\bigcup_{n\in\mathbb{N}}\Omega_n$ であることから $\{p_n\}_{n\in\mathbb{N}}$ は $C^\infty(\Omega)$ 上のセミノルムの分離族である。そこで $C^\infty(\Omega)$ に $\{p_n\}_{n\in\mathbb{N}}$ から誘導されるセミノルム位相を入れたセミノルム空間を $\mathcal{E}(\Omega)$ とする(セミノルム空間については(位相線形空間2:セミノルム位相と汎弱位相)の8を参照)。次の命題3.4より $\mathcal{E}(\Omega)$ はFréchet空間(位相線形空間4:Fréchet空間と関数解析の基本定理)であり、 $\mathcal{E}(\Omega)$ の列 $(f_i)_{i\in\mathbb{N}}$ が $f\in \mathcal{E}(\Omega)$ に収束することは、任意の $\alpha\in \mathbb{Z}_+^N$ に対し $(\partial^{\alpha}f_i)_{i\in\mathbb{N}}$ が $\partial^{\alpha}f$ にコンパクト一様収束することと同値である。

命題3.4($\mathcal{E}(\Omega)$ はFréchet空間)

$\Omega\subset \mathbb{R}^N$ を開集合とする。定義3.3におけるセミノルム空間 $\mathcal{E}(\Omega)$ について次が成り立つ。

  • $(1)$ $\mathcal{E}(\Omega)$ の列 $(f_i)_{i\in\mathbb{N}}$ が $f\in \mathcal{E}(\Omega)$ に収束することは、任意の多重指数 $\alpha\in \mathbb{Z}_+^N$ に対し $(\partial^{\alpha}f_i)_{i\in\mathbb{N}}$ が $\partial^{\alpha}f$ にコンパクト一様収束(定義3.2)することと同値である。
  • $(2)$ $\mathcal{E}(\Omega)$ はFréchet空間(位相線形空間4:Fréchet空間と関数解析の基本定理)である。
Proof.

  • $(1)$ 任意の$\alpha\in \mathbb{Z}_+^N$ に対し $(\partial^{\alpha}f_i)_{i\in\mathbb{N}}$ が $\partial^{\alpha}f$ にコンパクト一様収束するとする。任意の $n\in\mathbb{N}$ に対し $\overline{\Omega_n}$ はコンパクトであるから、

$$ p_n(f_i-f)=\underset{\lvert\alpha\rvert\leq n}{\rm max}\sup_{x\in \overline{\Omega_n}}\lvert\partial^{\alpha}f_i(x)-\partial^{\alpha}f(x)\rvert\rightarrow0\quad(i\rightarrow\infty) $$ である。よってセミノルム位相による収束の特徴付け(位相線形空間2:セミノルム位相と汎弱位相命題8.6の$(1)$)よりセミノルム空間 $\mathcal{E}(\Omega)$ の位相で $(f_i)_{i\in\mathbb{N}}$ は $f$ に収束する。
逆にセミノルム空間 $\mathcal{E}(\Omega)$ の位相で $(f_i)_{i\in\mathbb{N}}$ が $f$ に収束するとする。命題3.1より任意の多重指数 $\alpha\in \mathbb{Z}_+^N$ と任意のコンパクト集合 $K\subset \Omega$ に対し $K\subset \Omega_n$ かつ $\lvert\alpha\rvert\leq n$ を満たす $n\in\mathbb{N}$ が取れる。セミノルム位相による収束の特徴付け(位相線形空間2:セミノルム位相と汎弱位相命題8.6の$(1)$)より $\lim_{i\rightarrow\infty}p_n(f_i-f)=0$ であるから、 $$ \sup_{x\in K}\lvert\partial^{\alpha}f_i(x)-\partial^{\alpha}f(x)\rvert \leq \underset{\lvert\beta\rvert\leq n}{\rm max}\sup_{x\in \overline{\Omega_n}}\lvert\partial^{\beta}f_i(x)-\partial^{\beta}f(x)\rvert=p_n(f_i-f)\rightarrow0\quad(i\rightarrow\infty) $$ である。よって任意の $\alpha\in \mathbb{Z}_+^N$ に対し $(\partial^{\alpha}f_i)_{i\in\mathbb{N}}$ は $\partial^{\alpha}f$ にコンパクト一様収束する。

  • $(2)$ $(f_i)_{i\in\mathbb{N}}$ を $\mathcal{E}(\Omega)$ のCauchy列(位相線形空間4:Fréchet空間と関数解析の基本定理定義15.1)とする。このとき任意のコンパクト集合 $K\subset \Omega$ と任意の $\alpha\in \mathbb{Z}_+^N$ に対し $K\subset \Omega_n$ かつ $\lvert\alpha\rvert\leq n$ を満たす $n\in \mathbb{N}$ を取れば、

$$ \sup_{x\in K}\lvert\partial^{\alpha}f_i(x)-\partial^{\alpha}f_j(x)\rvert\leq p_n(f_i-f_j)\quad(\forall i,j\in \mathbb{N}) $$ であるから $(\partial^{\alpha}f_i)_{i\in\mathbb{N}}$ は $K$ 上で一様Cauchy条件を満たすので $K$ 上で一様収束する。連続関数列の一様収束極限は連続関数である(距離空間の位相の基本的性質の8を参照)ことと $K\subset \Omega$ の任意性から任意の $\alpha\in \mathbb{Z}_+^N$ に対し $(\partial^{\alpha}f_i)_{i\in\mathbb{N}}$ はある連続関数 $f_{\alpha}\in C(\Omega)$ にコンパクト一様収束することが分かる。$f\colon=f_0\in C(\Omega)$とおく。今、$f\in C^\infty(\Omega)=\mathcal{E}(\Omega)$ であることと任意の $\alpha\in \mathbb{Z}_+^N$ に対し $\partial^{\alpha}f=f_{\alpha}$ が成り立つことを示す。そこである $n\in \mathbb{Z}_+$ に対し、 $$ f\in C^n(\Omega),\quad \partial^{\alpha}f=f_{\alpha}\quad(\forall \alpha\in \mathbb{Z}_+^N:\lvert\alpha\rvert\leq n) $$ が成り立つと仮定する。$\lvert\alpha\rvert=n$ なる任意の $\alpha\in \mathbb{Z}_+^N$ と任意の $j\in \{1,\ldots,N\}$ を取り、 $$ \beta\colon=\alpha+e_j=\alpha+(0,\ldots,0,\overset{j\text{ 番目}}{1},0,\ldots,0)\in \mathbb{Z}_+^N $$ とおく。任意の $x\in \Omega$ と $\overline{B(x,\delta)}=\{y\in \mathbb{R}^N:\lvert y-x\rvert\leq \delta\}\subset \Omega$ なる任意の $\delta\in (0,\infty)$ を取る。このとき $0<\lvert h\rvert\leq\delta$ を満たす任意の $h\in \mathbb{R}$ に対し微積分学の基本定理より、 $$ \frac{\partial^{\alpha}f_i(x+he_j)-\partial^{\alpha}f_i(x)}{h} =\int_{0}^{1}\partial^{\beta}f_i(x+\theta he_j)d\theta\quad(\forall i\in \mathbb{N})\quad\quad(*) $$ である。コンパクト集合 $\overline{B(x,\delta)}$ 上で $(\partial^{\alpha}f_i)_{i\in\mathbb{N}}$ は $\partial^{\alpha}f$ に、 $(\partial^{\beta}f_i)_{i\in\mathbb{N}}$ は $f_{\beta}$ に一様収束するので、$(*)$ は $i\rightarrow\infty$ とすれば、 $$ \frac{\partial^{\alpha}f(x+he_j)-\partial^{\alpha}f(x)}{h} =\int_{0}^{1}f_{\beta}(x+\theta he_j)d\theta\quad(\forall i\in \mathbb{N})\quad\quad(**) $$ となる。よって $h\rightarrow0$ とすれば、優収束定理より、 $$ \partial_j\partial^{\alpha}f(x)=f_{\beta}(x) $$ が成り立つ。これより $\lvert\alpha\rvert=n$ なる任意の $\alpha\in \mathbb{Z}_+^N$ に対し $\partial^{\alpha}f\in C^1(\Omega)$ であり、 $$ \partial_j\partial^{\alpha}f=f_{\alpha+e_j}\quad(\forall j\in \{1,\ldots,N\}) $$ が成り立つので、 $$ f\in C^{n+1}(\Omega),\quad \partial^{\beta}f=f_{\beta}\quad(\forall \beta\in \mathbb{Z}_+^N:\lvert\beta\rvert=n+1) $$ が成り立つ。よって帰納法より $f\in C^\infty(\Omega)=\mathcal{E}(\Omega)$ であり、任意の多重指数 $\alpha\in \mathbb{Z}_+^N$ に対し $\partial^{\alpha}f=f_{\alpha}$ である。任意の $\alpha\in \mathbb{Z}_+^N$ に対し $(\partial^{\alpha}f_i)_{i\in\mathbb{N}}$ は $f_{\alpha}=\partial^{\alpha}f$ にコンパクト一様収束するので、$(1)$ より $\mathcal{E}(\Omega)$ の位相で $(f_i)_{i\in\mathbb{N}}$ は $f$ に収束する。ゆえに $\mathcal{E}(\Omega)$ はFréchet空間である。

注意3.5

Fréchet空間の位相は位相線形空間4:Fréchet空間と関数解析の基本定理の15より距離位相であるので第一可算である。よって $\mathcal{E}(\Omega)$ 上で定義され、位相空間に値を取る写像の連続性を示すには、連続性の点列による特徴付け(ネットによる位相空間論命題6.6)より、その写像が $\mathcal{E}(\Omega)$ の収束列を収束列に写すことを示せばよい。

命題3.6(Fréchet空間 $\mathcal{E}(\Omega)$ 上の基本的な連続線形写像)

$\Omega,\Omega'\subset \mathbb{R}^N$ を開集合とし、Fréchet空間 $\mathcal{E}(\Omega)$, $\mathcal{E}(\Omega')$を考える。次が成り立つ。

  • $(1)$ 任意の $\alpha\in \mathbb{Z}_+^N$ に対し、

$$ \mathcal{E}(\Omega)\ni f\mapsto \partial^{\alpha}f\in \mathcal{E}(\Omega) $$ は連続線形写像である。

  • $(2)$ 任意の $g\in \mathcal{E}(\Omega)$ に対し、

$$ \mathcal{E}(\Omega)\ni f\mapsto fg\in \mathcal{E}(\Omega) $$ は連続線形写像である。

  • $(3)$ $\Phi\colon\Omega\rightarrow\Omega'$ を $C^\infty$ 級同相写像とすると、

$$ \mathcal{E}(\Omega')\ni f\mapsto f\circ\Phi\in \mathcal{E}(\Omega) $$ は連続線形写像である。

Proof.

  • $(1)$ 命題3.4の$ (1)$ より自明である。
  • $(2)$ Leibnizルール(命題1.3)と命題3.4の $(1)$ による。
  • $(3)$ 任意の $f\in \mathcal{E}(\Omega')$ と任意の $\alpha\in \mathbb{Z}_+^N$ に対しチェインルールより $c_{\beta}\in C^\infty(\Omega)$ $(\beta\in \mathbb{Z}_+^N:\lvert\beta\rvert\leq \lvert\alpha\rvert)$ で、

$$ \partial^{\alpha}(f\circ\Phi)=\sum_{\lvert\beta\rvert\leq\lvert\alpha\rvert}c_{\beta}(\partial^{\beta}f)\circ\Phi $$ なるものが取れる。このことと命題3.4の $(1)$ による。

定義3.7(Fréchet空間 $D_K(\Omega)$)

$\Omega\subset \mathbb{R}^N$ を開集合とする。任意のコンパクト集合 $K\subset \Omega$ に対し、 $$ D_K(\Omega)\colon=\{f\in \mathcal{E}(\Omega):\text{supp}(f)\subset K\} $$ とおく。このとき $D_K(\Omega)$ はFréchet空間 $\mathcal{E}(\Omega)$ の閉部分空間である[3]から、$D_K(\Omega)$ は $\mathcal{E}(\Omega)$ の相対位相でFréchet空間である(位相線形空間4:Fréchet空間と関数解析の基本定理注意19.1を参照)。また $D_K(\Omega)$ の列 $(f_i)_{i\in\mathbb{N}}$ が $f\in D_K(\Omega)$ に $D_K(\Omega)$ の位相で収束することは、$K$ がコンパクトであることと命題3.4より、任意の多重指数 $\alpha\in \mathbb{Z}_+^N$ に対し $(\partial^{\alpha}f_i)_{i\in\mathbb{N}}$ が $\partial^{\alpha} f$ に一様収束することと同値である。

4. 超関数空間 $D'(\Omega)$

定義4.1(超関数空間 $D'(\Omega)$)

$\Omega\subset \mathbb{R}^N$ を開集合とする。超関数論の文脈では $\Omega$ 上で定義された台がコンパクトな $C^\infty$ 級関数全体 $C_c^\infty(\Omega)$ を、 $$ D(\Omega)\colon=C_c^\infty(\Omega)=\bigcup_{K\subset \Omega:\text{コンパクト}}D_K(\Omega) $$ と表し、これを $\Omega$ 上のテスト関数空間と言い、$D(\Omega)$ の元を $\Omega$ 上のテスト関数と言う。$D(\Omega)$ 上の線形汎関数 $$ u\colon D(\Omega)\rightarrow \mathbb{C} $$ で任意のコンパクト集合 $K\subset\Omega$ に対し、 $$ D_K(\Omega)\ni \varphi\mapsto u(\varphi)\in \mathbb{C} $$ がFréchet空間 $D_K(\Omega)$(定義3.7)上の連続線形汎関数であるようなものを $\Omega$ 上の超関数と言う。$\Omega$ 上の超関数全体を $D'(\Omega)$ と表す。$D'(\Omega)$ は各テスト関数ごとの演算で $\mathbb{C}$ 上の線形空間をなす。任意の $\varphi\in D(\Omega)$ に対し $D'(\Omega)$ 上の線形汎関数 $$ \iota(\varphi)\colon D'(\Omega)\ni u\mapsto u(\varphi)\in \mathbb{C} $$ を定義する。そして $D'(\Omega)$ 上の線形汎関数の分離族 $\{\iota(\varphi)\}_{\varphi\in D(\Omega)}$ が誘導する汎弱位相(位相線形空間2:セミノルム位相と汎弱位相の9を参照)を $D'(\Omega)$ に入れ、$D'(\Omega)$ を位相線形空間とみなす。この位相線形空間 $D'(\Omega)$ を $\Omega$ 上の超関数空間と言う。

注意4.2(超関数の収束)

$D'(\Omega)$ のネット $(u_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}$ が $u\in D'(\Omega)$ に収束することは、任意の $\varphi\in D(\Omega)$ に対し $(u_{\lambda}(\varphi))_{\lambda\in \Lambda}$ が $u(\varphi)$ に収束することと同値である(位相線形空間2:セミノルム位相と汎弱位相命題9.3を参照)。


命題4.3(超関数列の各点収束極限は超関数)

$\Omega\subset \mathbb{R}^N$ を開集合、$(u_i)_{i\in\mathbb{N}}$ を $D'(\Omega)$ の列とし、任意の $\varphi\in D(\Omega)$ に対し $(u_i(\varphi))_{i\in \mathbb{N}}$ が収束するとする。このとき、 $$ u(\varphi)\colon=\lim_{i\rightarrow\infty}u_i(\varphi)\quad(\forall \varphi\in D(\Omega)) $$ として定義される線形汎関数 $u\colon D(\Omega)\rightarrow\mathbb{C}$ は $D'(\Omega)$ に属する。

Proof.

任意のコンパクト集合 $K\subset \Omega$を取る。各 $i\in \mathbb{N}$ に対し、 $$ D_K(\Omega)\ni \varphi\mapsto u_i(\varphi)\in \mathbb{C} $$ はFréchet空間 $D_K(\Omega)$ 上の連続線形汎関数であるから、一様有界性定理(位相線形空間4:Fréchet空間と関数解析の基本定理系17.4)よりその各点収束極限である $$ D_K(\Omega)\ni \varphi\mapsto u(\varphi)\in\mathbb{C} $$ もFréchet空間 $D_K(\Omega)$ 上の連続線形汎関数である。よって $u\in D'(\Omega)$ である。

注意4.4(テスト関数空間の包含関係)

$\Omega_1,\Omega_2\subset \mathbb{R}^N$ を開集合とし、$\Omega_1\subset\Omega_2$ とする。$K\subset \Omega_1$ に対し $K$ が $\Omega_1$ においてコンパクトであることと $\Omega_2$ においてコンパクトであることは同値であるから、任意の $\varphi\in D(\Omega_1)$ に対し $\varphi$ を $\Omega_2$ 上に $0$拡張したもの $\widetilde{\varphi}\colon\Omega_2\rightarrow\mathbb{C}$ は $D(\Omega_2)$ に属し、$\text{supp}(\varphi)=\text{supp}(\widetilde{\varphi})$ である。そこで以後、$\varphi\in D(\Omega_1)$ と $\widetilde{\varphi}\in D(\Omega_2)$ を同一視して $D(\Omega_1)\subset D(\Omega_2)$ とみなす。

定義4.5(超関数の制限)

$\Omega_1,\Omega_2\subset \mathbb{R}^N$ を開集合とし、$\Omega_1\subset\Omega_2$ とする。任意の $u\in D'(\Omega_2)$ に対し $u|_{\Omega_1}\in D'(\Omega_1)$ を、 $$ u|_{\Omega_1}\colon D(\Omega_1)\ni \varphi\mapsto u(\varphi)\in \mathbb{C} $$ と定義する。

5. 変分学の基本補題、$L^1_{\rm loc}(\Omega)\subset D'(\Omega)$

定義5.1($L^p_{\rm loc}(\Omega)$)

$\Omega\subset \mathbb{R}^N$ を開集合とする。$\Omega$ 上の複素数値Borel関数全体において、 $$ f\sim g\quad \Leftrightarrow\quad f,g\text{ はLebesgue測度に関してa.e.で等しい} $$ なる同値関係 $\sim$ による $f$ の同値類を $[f]$ と表し、同値類全体を $L(\Omega)$ と表す。任意の $[f],[g]\in L(\Omega)$、任意の $\alpha\in \mathbb{C}$ に対し、 $$ [f]+[g]=[f+g],\quad \alpha[f]=[\alpha f],\quad [f][g]=[fg],\quad \overline{[f]}=[\overline{f}] $$ とおく(well-definedである)。前の二つを加法、スカラー倍として $L(\Omega)$ は $\mathbb{C}$ 上の線形空間である。 $\Omega$ の空でない開集合のLebesgue測度は正であるから、$\Omega$ 上の複素数値連続関数全体 $C(\Omega)$ に対し、 $$ C(\Omega)\ni f\mapsto [f]\in L(\Omega) $$ は単射である[4]。これより $f\in C(\Omega)$ に対しては、 $f$ と $[f]$ を同一視して、 $$ C(\Omega)\subset L(\Omega) $$ とみなす.
任意の $p\in [1,\infty]$ に対し $L(\Omega)$ の線形部分空間 $$ L^p_{\rm loc}(\Omega)\colon=\{[f]\in L(\Omega):\text{任意のコンパクト集合} K\subset \Omega\text{ に対し }[f\chi_K]\in L^p(\Omega)\} $$ を定義する。これを $\Omega$ 上の $p$ 乗局所可積分関数空間と言う。コンパクト集合のLebesgue測度は有限であることとHölderの不等式より、 $$ C(\Omega),\quad L^p_{\rm loc}(\Omega)\subset L^1_{\rm loc}(\Omega)\quad(\forall p\in[1,\infty]) $$ である。

補題5.2

$\Omega\subset \mathbb{R}^N$ を開集合とする。このとき任意の $[f]\in L^1(\Omega)$ に対し、 $$ \lVert f\rVert_1=\sup\left\{\left\lvert\int_{\Omega}f(x)\varphi(x)dx\right\rvert:\varphi\in D(\Omega),\text{ }\sup_{x\in \Omega}\lvert\varphi(x)\rvert\leq1\right\}\quad\quad(*) $$ が成り立つ。

Proof.

$(*)$ の右辺を $s$とおく。$s\leq \lVert f\rVert_1$ は自明である。逆の不等式を示す。任意の $\epsilon\in (0,\infty)$ を取り固定する。ベクトル解析4:Euclid空間内の多様体上の測度と積分系16.12の$(3)$ より、 $$ \lVert f-g\rVert_1<\frac{\epsilon}{3}\quad\quad(**) $$ を満たす $g\in D(\Omega)$ が取れる。そして各 $n\in\mathbb{N}$ に対し $(\frac{1}{n}\leq \lvert g\rvert)\subset (0<\lvert g\rvert)$ であり、$(\frac{1}{n}\leq \lvert g\rvert)$ はコンパクト集合で $(0<\lvert g\rvert)$ は開集合であるから、Urysohnの補題(ベクトル解析4:Euclid空間内の多様体上の測度と積分定理15.5)より、 $$ 0\leq\omega_n(x)\leq1\quad(\forall x\in \Omega),\quad \omega_n|_{(\frac{1}{n}\leq \lvert g\rvert)}=1,\quad \text{supp}(\omega_n)\subset (0<\lvert g\rvert)\quad\quad(***) $$ を満たす $\omega_n\in D(\Omega)$ が取れる。各 $n\in\mathbb{N}$ に対し $\varphi_n\colon\Omega\rightarrow\mathbb{C}$ を、 $$ \varphi_n(x)\colon=\left\{\begin{array}{cl}\frac{\lvert g(x)\rvert}{g(x)}\omega_n(x)&(x\in (0<\lvert g\rvert))\\ 0&(x\notin (0<\lvert g\rvert))\end{array}\right.\quad\quad(****) $$ と定義する。$(***)$ より $\text{supp}(\omega_n)\subset (0<\lvert g\rvert)$ であるから、 $$ \Omega=(0<\lvert g\rvert)\cup(\Omega\backslash \text{supp}(\omega_n)) $$ であり、$\varphi_n$ は $(0<\lvert g\rvert)$ 上で $C^\infty$ 級で $\Omega\backslash \text{supp}(\omega_n)$ 上で $0$ であるので $\varphi_n\in D(\Omega)$ である。また $\lvert\varphi_n(x)\rvert\leq1$ $(\forall x\in \Omega)$ である。そして $(***)$, $(****)$ より、 $$ \lim_{n\rightarrow\infty}g(x)\varphi_n(x)=\lim_{n\rightarrow\infty}\lvert g(x)\rvert\omega_n(x) =\lvert g(x)\rvert\quad(\forall x\in \Omega) $$ であるから、Lebesgue優収束定理より、 $$ \lVert g\rVert_1=\int_{\Omega}\lvert g(x)\rvert dx=\lim_{n\rightarrow\infty}\left\lvert\int_{\Omega}g(x)\varphi_n(x)dx\right\rvert $$ である。よって、 $$ \lVert g\rVert_1-\frac{\epsilon}{3}<\left\lvert\int_{\Omega}g(x)\varphi_n(x)dx\right\rvert $$ を満たす $n\in\mathbb{N}$ が取れる。これを $(**)$ と合わせて、 $$ \begin{aligned} \lVert f\rVert_1&\leq \lVert f-g\rVert_1+\lVert g\rVert_1<\frac{2}{3}\epsilon+\left\lvert\int_{\Omega}g(x)\varphi_n(x)dx\right\rvert\\ &\leq\frac{2}{3}\epsilon+\left\lvert\int_{\Omega}(g(x)-f(x))\varphi_n(x)dx\right\rvert+\left\lvert\int_{\Omega}f(x)\varphi_n(x)dx\right\rvert\\ &\leq\frac{2}{3}\epsilon+\lVert f-g\rVert_1+s<\epsilon+s \end{aligned} $$ を得る。$\epsilon\in(0,\infty)$ は任意であるから $\lVert f\rVert_1\leq s$ が成り立つ。

命題5.3(変分学の基本補題)

$\Omega\subset \mathbb{R}^N$ を開集合、$[f]\in L^1_{\rm loc}(\Omega)$ とする。もし、 $$ \int_{\Omega}f(x)\varphi(x)dx=0\quad(\forall \varphi\in D(\Omega))\quad\quad(*) $$ が成り立つならば $[f]=0$ である。

Proof.

命題3.1における $(\Omega_n)_{n\in\mathbb{N}}$ を考える。任意の $n\in\mathbb{N}$ について $\overline{\Omega_n}$ はコンパクトであるから、 $$ [f|_{\Omega_n}]\in L^1(\Omega_n)\quad(\forall n\in\mathbb{N}) $$ である。そして任意の $n\in\mathbb{N}$ に対し $(*)$ と注意4.4より、 $$ \int_{\Omega_n}f(x)\varphi(x)dx=0\quad(\forall \varphi\in D(\Omega_n)) $$ であるから、補題5.2より、 $$ \lVert f|_{\Omega_n}\rVert_1=\sup\left\{\left\lvert\int_{\Omega_n}f(x)\varphi(x)dx\right\rvert:\varphi\in D(\Omega_n),\sup_{x\in \Omega_n}\lvert \varphi(x)\rvert\leq 1\right\}=0 $$ である。$(\Omega_n)_{n\in\mathbb{N}}$ は単調増加列であり $\Omega=\bigcup_{n\in\mathbb{N}}\Omega_n$ であるから単調収束定理より、 $$ \int_{\Omega}\lvert f(x)\rvert dx=\sup_{n\in\mathbb{N}}\lVert f|_{\Omega_n}\rVert_1=0 $$ である。よって $[f]=0$ である。

定義5.4($L^1_{\rm loc}(\Omega)\subset D'(\Omega)$)

$\Omega\subset \mathbb{R}^N$ を開集合、$[f]\in L^1_{\rm loc}(\Omega)$ とし、線形汎関数 $$ u_{[f]}:D(\Omega)\ni \varphi\mapsto \int_{\Omega}f(x)\varphi(x)dx\in \mathbb{C} $$ を定義する。任意のコンパクト集合 $K\subset \Omega$ に対し、 $$ \lvert u_{[f]}(\varphi)\rvert\leq \lVert f|_K\rVert_1\lVert \varphi\rVert\quad(\forall \varphi\in D_K(\Omega)) $$ であるから、 $$ D_K(\Omega)\ni \varphi\mapsto u_{[f]}(\varphi)\in \mathbb{C} $$ はFréchet空間 $D_K(\Omega)$ 上の連続線形汎関数である。よって $u_{[f]}\in D'(\Omega)$ である。そして線形写像 $$ L^1_{\rm loc}(\Omega)\ni [f]\mapsto u_{[f]}\in D'(\Omega) $$ は、変分学の基本補題(命題5.3)より単射である。そこで以後、局所可積分関数 $[f]\in L^1_{\rm loc}(\Omega)$ と超関数 $u_{[f]}\in D'(\Omega)$ を同一視し、 $L^1_{\rm loc}(\Omega)\subset D'(\Omega)$ とみなす。

命題5.5($L^p$ 収束するならば弱収束)

$\Omega\subset \mathbb{R}^N$ を開集合、$p\in [1,\infty]$ とする。このとき、 $$ L^p(\Omega)\ni [f]\mapsto [f]\in D'(\Omega) $$ は $L^p$ ノルムと $D'(\Omega)$ の位相(定義4.1)に関して連続である。

Proof.

$L^p(\Omega)$ の列 $([f_i])_{i\in \mathbb{N}}$ が $[f]\in L^p(\Omega)$ に $L^p$ ノルムで収束するとする。$q$ を $p$ の共役指数とすると $D(\Omega)\subset L^q(\Omega)$ であるから、任意の $\varphi\in D(\Omega)$ に対しHölderの不等式より、 $$ \lvert[f_i](\varphi)-[f](\varphi)\rvert=\left\lvert\int_{\Omega}\lvert f_i(x)-f(x)\rvert\lvert\varphi(x)\rvert dx\right\rvert\leq \lVert [f_i]-[f]\rVert_p\lVert \varphi\rVert_q\rightarrow0\quad(i\rightarrow\infty) $$ である。よって $D'(\Omega)$ の位相で $([f_i])_{i\in\mathbb{N}}$ は $[f]$ に収束するから、連続性の点列による特徴付け(ネットによる位相空間論命題6.6)より $(*)$ は連続である。

6. 弱微分

命題6.1

$\Omega\subset \mathbb{R}^N$ を開集合とし、連続関数 $f\in C(\Omega)$ が第 $j$ 座標に関する連続な偏導関数 $\partial_jf\in C(\Omega)$ を持つとする。このとき、 $$ \partial_jf(\varphi)=-f(\partial_j\varphi)\quad(\forall \varphi\in D(\Omega)) $$ が成り立つ。

Proof.

任意の $\varphi\in D(\Omega)$ に対し $g\colon\mathbb{R}^N\rightarrow\mathbb{C}$ を、 $$ g(x)\colon=\left\{\begin{array}{cl}f(x)\varphi(x)&(x\in\Omega)\\0&(x\in \mathbb{R}^N\backslash \Omega)\end{array}\right. $$ と定義する。 $$ \mathbb{R}^N=\Omega\cup (\mathbb{R}^N\backslash \text{supp}(\varphi)) $$ であり、$g$ は $\mathbb{R}^N\backslash \text{supp}(\varphi)$ 上で $0$ であるから $g$ は第 $j$ 座標に関して偏導関数を持ち、$g,\partial_jg\in C(\mathbb{R}^N)$ である。また $\text{supp}(g)\subset \text{supp}(\varphi)$ より $\text{supp}(g)$ は有界なのでFubiniの定理と微積分学の基本定理より、 $$ \int_{\Omega}\partial_j(f\varphi)(x)dx=\int_{\mathbb{R}^N}\partial_jg(x)dx=0 $$ である。よって、 $$ \begin{aligned} \partial_jf(\varphi)&=\int_{\Omega}\partial_jf(x)\varphi(x)dx=\int_{\Omega}\partial_j(f\varphi)(x)dx-\int_{\Omega}f(x)\partial_j\varphi(x)dx\\ &=-\int_{\Omega}f(x)\partial_j\varphi(x)dx=-f(\partial_j\varphi) \end{aligned} $$ である。

定義6.2(弱微分)

$\Omega\subset \mathbb{R}^N$ を開集合とし、$u\in D'(\Omega)$ とする。命題3.6の $(1)$ より任意の $j\in \{1,\ldots,N\}$ に対し、 $$ D(\Omega)\ni \varphi\mapsto -u(\partial_j\varphi)\in \mathbb{C} $$ は $D'(\Omega)$ に属する。そこでこれを $\partial_ju\in D'(\Omega)$ と表し、$u$ の第 $j$ 座標に関する弱微分と言う。命題6.1より $f\in C(\Omega)$ で $\partial_jf\in C(\Omega)$ なるものに対し、$\partial_jf$ は $f$ の第 $j$ 座標に関する弱微分と一致する。
任意の $u\in D'(\Omega)$ と任意の多重指数 $\alpha\in \mathbb{Z}_+^N$ に対し、 $$ \partial^{\alpha}u\colon=\partial_1^{\alpha_1}\ldots\partial_N^{\alpha_N}u\in D'(\Omega) $$ と定義する。このとき、 $$ \partial^{\alpha}u(\varphi)=(-1)^{\lvert\alpha\rvert}u(\partial^{\alpha}\varphi)\quad(\forall \varphi\in D(\Omega)) $$ である。

命題6.3(弱微分の連続性)

任意の多重指数 $\alpha\in \mathbb{Z}_+^N$ に対し線形写像 $$ D'(\Omega)\ni u\mapsto \partial^{\alpha}u\in D'(\Omega)\quad\quad(*) $$ は連続である。

Proof.

$D'(\Omega)$ のネット $(u_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}$ が $u\in D'(\Omega)$ に収束するとする。このとき任意の $\varphi\in D(\Omega)$ に対し、 $$ \partial^{\alpha}u_{\lambda}(\varphi)=(-1)^{\lvert\alpha\rvert}u_{\lambda}(\partial^{\alpha}\varphi) \rightarrow (-1)^{\lvert\alpha\rvert}u(\partial^{\alpha}\varphi)=\partial^{\alpha}u(\varphi) $$ であるから $(\partial^{\alpha}u_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}$ は $\partial^{\alpha}u$ に収束する(注意4.2)。よってネットによる連続性の特徴付け(ネットによる位相空間論定理3)より $(*)$ は連続である。


7. $\mathcal{E}(\Omega)$ と $D'(\Omega)$ の積

定義7.1($\mathcal{E}(\Omega)$ と $D'(\Omega)$ の積)

$\Omega\subset \mathbb{R}^N$ を開集合とする。命題3.6の $(2)$ より任意の $u\in D'(\Omega)$ と $f\in \mathcal{E}(\Omega)$ に対し、 $$ D(\Omega)\ni \varphi\mapsto u(f\varphi)\in \mathbb{C} $$ は $D'(\Omega)$ に属する。そこでこれを $fu\in D'(\Omega)$ と表し、$f$ と $u$ の積と言う。任意の $f\in \mathcal{E}(\Omega)$ と $[g]\in L^1_{\rm loc}(\Omega)$ に対し、 $$ [g](f\varphi)=\int_{\Omega}g(x)f(x)\varphi(x)dx=[fg](\varphi)\quad(\forall \varphi\in D(\Omega)) $$ であるから、$f$ と $[g]$ の積は $[fg]$ である。


命題7.2($\mathcal{E}(\Omega)$ と $D'(\Omega)$ の積に関するLeibnizルール)

$\Omega\subset \mathbb{R}^N$ を開集合、$f\in \mathcal{E}(\Omega)$, $u\in D'(\Omega)$ とする。任意の $\alpha\in \mathbb{Z}_+^N$ に対し、 $$ \partial^{\alpha}(fu)=\sum_{\beta\leq\alpha}\begin{pmatrix}\alpha\\\beta\end{pmatrix}\partial^{\beta}f\partial^{\alpha-\beta}u $$ が成り立つ。

Proof.

任意の$j\in \{1,\ldots,N\}$ と任意の $\varphi\in D(\Omega)$ に対し、 $$ f\partial_j\varphi=\partial_j(f\varphi)-\partial_jf\varphi $$ であるから、 $$ \begin{aligned} \partial_j(fu)(\varphi)&=-fu(\partial_j\varphi)=-u(f\partial_j\varphi)=-u(\partial_j(f\varphi))+u(\partial_jf\varphi)\\ &=\partial_ju(f\varphi)+\partial_jfu(\varphi)= f\partial_ju(\varphi)+\partial_jfu(\varphi) \end{aligned} $$ である。よって、 $$ \partial_j(fu)=\partial_jfu+f\partial_ju $$ である。後は通常のLeibnizルール(命題1.3)と全く同様にして証明できる。

命題7.3($\mathcal{E}(\Omega)$ との積の連続性)

$\Omega\subset \mathbb{R}^N$ を開集合、$f\in \mathcal{E}(\Omega)$ とする。このとき線形写像 $$ D'(\Omega)\ni u\mapsto fu\in D'(\Omega)\quad\quad(*) $$ は連続である。

Proof.

$D'(\Omega)$ のネット $(u_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}$ が $u\in D'(\Omega)$ に収束するとする。このとき任意の $\varphi\in D(\Omega)$ に対し、 $$ fu_{\lambda}(\varphi)=u_{\lambda}(f\varphi) \rightarrow u(f\varphi)=fu(\varphi) $$ である(注意4.2)からネットによる連続性の特徴付け(ネットによる位相空間論定理3)より $(*)$ は連続である。

8. 超関数の変数変換

定義8.1(超関数の変数変換)

$\Omega_1,\Omega_2\subset \mathbb{R}^N$ を開集合、$\Phi\colon\Omega_1\rightarrow \Omega_2$ を $C^\infty$ 級同相写像とする。このとき同相写像であることから $\Phi\colon\Omega_1\rightarrow\Omega_2$ と $\Phi^{-1}\colon\Omega_2\rightarrow \Omega_1$ はそれぞれBorel集合をBorel集合に写す。また変数変換公式(測度と積分8:Lebesgue測度の基本的性質補題40.3)よりLebesgue測度 $0$ のBorel集合をLebesgue測度 $0$ のBorel集合に写す。よって $f,g\colon\Omega_2\rightarrow \mathbb{C}$ がLebesgue測度に関してa.e.で等しいBorel関数ならば $f\circ\Phi,g\circ\Phi\colon\Omega_1\rightarrow\mathbb{C}$ もLebesgue測度に関してa.e.で等しいBorel関数である。 これより任意の $[f]\in L(\Omega_2)$ に対し $[f]\circ\Phi\colon=[f\circ\Phi]\in L(\Omega_1)$(定義5.1を参照)が定義できる。
$[f]\in L^1_{\rm loc}(\Omega_2)$ とする。任意のコンパクト集合 $K\subset \Omega_1$ に対し $\Phi(K)\subset \Omega_2$ はコンパクト集合であり、$C^\infty$ 級関数 $$ \lvert {\rm det}{\Phi^{-1}}'\rvert\colon\Omega_2\ni x\mapsto \lvert {\rm det}{\Phi^{-1}}'(x)\rvert\in (0,\infty) $$ はコンパクト集合 $\Phi(K)$ 上で有界であるから変数変換公式より、 $$ \int_{K}\lvert f\circ\Phi(x)\rvert dx=\int_{\Phi(K)}\lvert f(x)\rvert \lvert {\rm det}{\Phi^{-1}}'(x)\rvert dx<\infty $$ である。よって $[f]\circ\Phi=[f\circ\Phi]\in L^1_{\rm loc}(\Omega_1)$ である。任意の $\varphi\in D(\Omega_1)$ に対し $\varphi\circ\Phi^{-1}\lvert {\rm det}{\Phi^{-1}}'\rvert\in D(\Omega_2)$ であるから変数変換公式より $[f]\circ\Phi\in L^1_{\rm loc}(\Omega_1)$ は $\Omega_1$ 上の超関数として、 $$ \begin{aligned} ([f]\circ\Phi)(\varphi)&=\int_{\Omega_1}(f\circ\Phi)(x)\varphi(x)dx=\int_{\Omega_2}f(x)(\varphi\circ\Phi^{-1})(x)\lvert {\rm det}{\Phi^{-1}}'(x)\rvert dx\\ &=[f]\left(\varphi\circ\Phi^{-1}\lvert {\rm det}{\Phi^{-1}}'\rvert\right)\quad(\forall \varphi\in D(\Omega_1))\quad\quad(*) \end{aligned} $$ を満たす。そこで今、$(*)$ と整合するように $\Omega'$ 上の超関数 $u\in D'(\Omega_2)$ に対し線形汎関数 $$ u\circ\Phi\colon D(\Omega_1)\rightarrow \mathbb{C} $$ を、 $$ (u\circ\Phi)(\varphi)\colon=u\left(\varphi\circ\Phi^{-1}\lvert {\rm det}{\Phi^{-1}}'\rvert\right)\quad(\forall \varphi\in D(\Omega_1)) $$ として定義する。命題3.6の$(2),(3)$より $u\circ\Phi$ は $\Omega_1$ 上の超関数である。$u\circ\Phi\in D'(\Omega_1)$ を $u$ の $\Phi$ による変数変換と言う。

注意8.2(超関数の変数変換の変数変換)

$\Omega_1,\Omega_2,\Omega_3 \subset \mathbb{R}^N$ を開集合、$\Phi\colon\Omega_1\rightarrow \Omega_2$、$\Psi\colon\Omega_2\rightarrow \Omega_3$ をそれぞれ $C^\infty$ 級同相写像とする。このとき任意の $u\in D'(\Omega_3)$ に対し、 $$ (u\circ\Psi)\circ\Phi=u\circ(\Psi\circ\Phi) $$ が成り立つ。実際、チェインルールより、 $$ \lvert{\rm det}(\Phi^{-1}\circ\Psi^{-1})'(x)\rvert=\lvert{\rm det}{\Phi^{-1}}'(\Psi^{-1}(x))\rvert\lvert{\rm det}{\Psi^{-1}}'(x)\rvert\quad(\forall x\in \Omega_3) $$ であるから、任意の $\varphi\in D(\Omega_1)$ に対し、 $$ \begin{aligned} (u\circ(\Psi\circ\Phi))(\varphi)&=u((\varphi\circ\Phi^{-1})\circ\Psi^{-1}\lvert{\rm det}(\Phi^{-1}\circ\Psi^{-1})'\rvert)\\ &=u((\varphi\circ\Phi^{-1}\lvert {\rm det}{\Phi^{-1}}'\rvert)\circ\Psi^{-1}\lvert {\rm det}{\Psi^{-1}}'\rvert)\\ &=(u\circ\Psi)(\varphi\circ\Phi^{-1}\lvert {\rm det}{\Phi^{-1}}'\rvert)\\ &=((u\circ\Psi)\circ\Phi)(\varphi) \end{aligned} $$ である。

命題8.3(超関数の変数変換に関するチェインルール)

$\Omega,\Omega'\subset \mathbb{R}^N$ を開集合、$\Phi=(\Phi_1,\ldots,\Phi_N)\colon\Omega\rightarrow\Omega'$ を $C^\infty$ 級同相写像とする。任意の $u\in D'(\Omega)$ に対し、 $$ \partial_j(u\circ\Phi)=\sum_{i=1}^{N}\partial_j\Phi_i\left((\partial_iu)\circ\Phi\right)\quad(j=1,\ldots,N)\quad\quad(*) $$ が成り立つ。

Proof.

任意の $j\in \{1,\ldots,N\}$ と任意の $\varphi\in D(\Omega)$ に対し、 $$ \partial_j(u\circ\Phi)(\varphi)=-(u\circ\Phi)(\partial_j\varphi)=-u( (\partial_j\varphi\circ\Phi^{-1})\lvert {\rm det}{\Phi^{-1}}'\rvert)\quad\quad(**) $$ である。チェインルールより、 $$ \partial_j\varphi=\partial_j( (\varphi\circ\Phi^{-1})\circ\Phi) =\sum_{i=1}^{N}(\partial_i(\varphi\circ\Phi^{-1})\circ\Phi)\partial_j\Phi_i $$ であるので、 $$ \partial_j\varphi\circ\Phi^{-1}=\sum_{i=1}^{N}\partial_i(\varphi\circ\Phi^{-1})(\partial_j\Phi_i)\circ\Phi^{-1} $$ である。よって $(**)$ より、 $$ \begin{aligned} \partial_j(u\circ\Phi)(\varphi)&=-u( (\partial_j\varphi\circ\Phi^{-1})\lvert {\rm det}{\Phi^{-1}}'\rvert) =-\sum_{i=1}^{N}u(\partial_i(\varphi\circ\Phi^{-1})( (\partial_j\Phi_i)\circ\Phi^{-1})\lvert {\rm det}{\Phi^{-1}}'\rvert)\\ &=\sum_{i=1}^{N}\partial_iu( (\varphi\circ\Phi^{-1})( (\partial_j\Phi_i)\circ\Phi^{-1})\lvert {\rm det}{\Phi^{-1}}'\rvert)\\ &+\sum_{i=1}^{N}u( (\varphi\circ\Phi^{-1})\partial_i( ( (\partial_j\Phi_i)\circ\Phi^{-1})\lvert {\rm det}{\Phi^{-1}}'\rvert))\\ &=\sum_{i=1}^{N}\partial_j\Phi_i( (\partial_iu)\circ\Phi)(\varphi)+\sum_{i=1}^{N}u( (\varphi\circ\Phi^{-1})\partial_i( ( (\partial_j\Phi_i)\circ\Phi^{-1})\lvert {\rm det}{\Phi^{-1}}'\rvert))\quad\quad(***) \end{aligned} $$ である。よって $(*)$ を示すにはこの右辺の第二項が $0$ であることを示せばよい。すなわち、 $$ \sum_{i=1}^{N}u\left( (\varphi\circ\Phi^{-1})\partial_i\left( ( (\partial_j\Phi_i)\circ\Phi^{-1})\lvert {\rm det}{\Phi^{-1}}'\rvert\right)\right)=0\quad\quad(****) $$ が成り立つことを示せばよい。任意の $f\in D(\Omega')$ に対し $(***)$ において $u\in D'(\Omega')$ を $f\in D(\Omega')\subset D'(\Omega')$ に置き換えれば、 $$ \partial_j(f\circ\Phi)(\varphi)=\sum_{i=1}^{N}\partial_j\Phi_i( (\partial_if)\circ\Phi)(\varphi)+\sum_{i=1}^{N}f( (\varphi\circ\Phi^{-1})\partial_i( ( (\partial_j\Phi_i)\circ\Phi^{-1})\lvert {\rm det}{\Phi^{-1}}'\rvert) )\quad\quad(*****) $$ となる。 一方、$f\circ\Phi\in D(\Omega)\subset D'(\Omega)$ の弱微分と通常の意味での偏微分は一致する(命題6.1を参照)のでチェインルールより、 $$ \partial_j(f\circ\Phi)(\varphi)=\sum_{i=1}^{N}\partial_j\Phi_i\left((\partial_if)\circ\Phi\right)(\varphi) $$ である。よって $(*****)$ より、 $$ \sum_{i=1}^{N}f\left((\varphi\circ\Phi^{-1})\partial_i\left(((\partial_j\Phi_i)\circ\Phi^{-1})\lvert {\rm det}{\Phi^{-1}}'\rvert\right)\right)=0 $$ である。これが任意の $f\in D(\Omega')$ に対して成り立つので変分学の基本補題(命題5.3)より $(****)$ が成り立つ。

定義8.4($\mathbb{R}^N$ 上の超関数の平行移動、スケール変換)

$u\in D'(\mathbb{R}^N)$ とする。任意の $y\in \mathbb{R}^N$ に対し $C^\infty$ 級同相写像 $$ \mathbb{R}^N\ni x\mapsto x-y\in \mathbb{R}^N $$ を考え、これによる $u$ の変数変換を $T_yu\in D'(\mathbb{R}^N)$ と表す。また任意の $r\in \mathbb{R}\backslash \{0\}$ に対し $C^\infty$ 級同相写像 $$ \mathbb{R}^N\ni x\mapsto rx\in \mathbb{R}^N $$ を考え、これによる $u$ の変数変換を $u_r\in D'(\mathbb{R}^N)$ と表す。命題8.3より任意の多重指数 $\alpha\in \mathbb{Z}_+^N$ に対し、 $$ \partial^{\alpha}T_yu=T_y\partial^{\alpha}u,\quad \partial^{\alpha}u_r=r^{\lvert \alpha\rvert}(\partial^{\alpha}u)_r $$ である。


命題8.5(超関数の変数変換の連続性)

$\Omega,\Omega'\subset \mathbb{R}^N$ を開集合、$\Phi:\Omega\rightarrow \Omega'$ を $C^\infty$ 級同相写像とする。このとき線形写像 $$ D'(\Omega')\ni u\mapsto u\circ\Phi\in D'(\Omega)\quad\quad(*) $$ は連続である。

Proof.

$D'(\Omega)$ のネット $(u_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}$ が $u\in D'(\Omega)$ に収束するとする。このとき任意の $\varphi\in D(\Omega)$ に対し、 $$ (u_{\lambda}\circ\Phi)(\varphi)=u_{\lambda}\left(\varphi\circ\Phi^{-1}\lvert {\rm det}{\Phi^{-1}}'\rvert\right) \rightarrow u\left(\varphi\circ\Phi^{-1}\lvert {\rm det}{\Phi^{-1}}'\rvert\right) =(u\circ\Phi)(\varphi) $$ である(注意4.2を参照)からネットによる連続性の特徴付け(ネットによる位相空間論定理3)より $(*)$ は連続である。


9. 超関数の台

命題9.1

$\Omega\subset \mathbb{R}^N$を開集合、$u\in D'(\Omega)$ とする。このとき、 $$ \{U\subset \Omega:U\text{ は開集合で任意の } \varphi\in D(U) \text{ に対し } u(\varphi)=0\}\quad\quad(*) $$ (注意4.4を参照)は集合の包含関係による順序に関して最大元を持つ。

Proof.

$(*)$ の要素全ての合併を $U_0$ とおき、$U_0$が $(*)$ に属することを示せばよい。任意の $\varphi\in D(U_0)$ を取る。$\text{supp}(\varphi)$ のコンパクト性より $(*)$ の有限個の要素 $U_1,\ldots,U_n$ が取れて、 $$ \text{supp}(\varphi)\subset \bigcup_{i=1}^{n}U_i $$ となる。そして $1$ の分割(ベクトル解析4:Euclid空間内の多様体上の測度と積分系15.6)より $h_i\in D(U_i)$ $(i=1,\ldots,n)$ で、 $$ \sum_{i=1}^{n}h_i(x)=1\quad(\forall x\in \text{supp}(\varphi)) $$ なるものが取れる。よって、 $$ \varphi=\sum_{i=1}^{n}\varphi h_i,\quad \varphi h_i\in D(U_i)\quad(i=1,\ldots,n) $$ であるから、 $$ u(\varphi)=\sum_{i=1}^{n}u(\varphi_i)=0 $$ である。ゆえに$U_0$は $(*)$ に属する。

定義9.2(超関数の台)

$\Omega\subset \mathbb{R}^N$ を開集合、$u\in D'(\Omega)$ とする。命題9.1の $(*)$ の最大元を $\Omega\backslash \text{supp}(u)$ とおく。このとき $\Omega$ の閉集合 $\text{supp}(u)$ を $u$ の台と言う、


命題9.3(超関数の台の基本性質)

$\Omega\subset \mathbb{R}^N$ を開集合とする。このとき、

  • $(1)$ 任意の $u\in D'(\Omega)$ と任意の $\alpha\in \mathbb{Z}_+^N$ に対し $\text{supp}(\partial^{\alpha}u)\subset \text{supp}(u)$ が成り立つ。
  • $(2)$ 任意の $u\in D'(\Omega)$ と任意の $f\in \mathcal{E}(\Omega)$ に対し $\text{supp}(fu)\subset \text{supp}(f)\cap \text{supp}(u)$ が成り立つ。
  • $(3)$ $\Omega'\subset \mathbb{R}^N$ を開集合、$\Phi\colon\Omega\rightarrow\Omega'$ を $C^\infty$ 級同相写像とすると、任意の $u\in D'(\Omega')$ に対し $\text{supp}(u\circ\Phi)=\Phi^{-1}(\text{supp}(u))$ が成り立つ。
  • $(4)$ 任意の $[f]\in L^1_{\rm loc}(\Omega)$ とその任意の代表元 $f\colon\Omega\rightarrow\mathbb{C}$ に対し超関数 $[f]\in D'(\Omega)$ の台 $\text{supp}([f])$ は関数 $f$ の台 $\text{supp}(f)$(つまり $\{x\in\Omega:f(x)\neq0\}$ の $\Omega$ における閉包)に含まれる。
  • $(5)$ 任意の $f\in C(\Omega)\subset L^1_{\rm loc}(\Omega)$ に対し $f$ の超関数としての台と関数としての台は一致する。
Proof.

  • $(1)$ 任意の $\varphi\in D(\Omega\backslash \text{supp}(u))$ に対し $\partial^{\alpha}\varphi\in D(\Omega\backslash\text{supp}(u))$ であるから、

$$ \partial^{\alpha}u(\varphi)=(-1)^{\lvert\alpha\rvert}u(\partial^{\alpha}\varphi)=0 $$ である。よって $\text{supp}(\partial^{\alpha}u)\subset \text{supp}(u)$ である。

  • $(2)$ 任意の$\varphi\in D(\Omega\backslash (\text{supp}(f)\cap\text{supp}(u)))$ に対し、

$$ \text{supp}(f\varphi)\subset \text{supp}(f)\cap (\Omega\backslash (\text{supp}(f)\cap\text{supp}(u)))\subset \Omega\backslash \text{supp}(u) $$ であるから $fu(\varphi)=u(f\varphi)=0$ である。よって $\text{supp}(fu)\subset \text{supp}(f)\cap \text{supp}(u)$ である。

  • $(3)$ 任意の $\varphi\in D(\Omega\backslash \Phi^{-1}(\text{supp}(u)) )=D(\Phi^{-1}(\Omega'\backslash \text{supp}(u) ) )$ に対し $\text{supp}(\varphi\circ\Phi^{-1})=\Phi(\text{supp}(\varphi) )\subset \Omega'\backslash \text{supp}(u)$ であるから、

$$ (u\circ\Phi)(\varphi)=u(\varphi\circ\Phi^{-1}\lvert {\rm det}{\Phi^{-1}}'\rvert)=0 $$ である。よって $\text{supp}(u\circ\Phi)\subset \Phi^{-1}(\text{supp}(u))$ である。逆の包含関係は注意8.2による。

  • $(4)$ 任意の $\varphi\in D(\Omega\backslash \text{supp}(f))$ に対し $\text{supp}(f\varphi)=\emptyset$ であるから $[f](\varphi)=0$ である。よって $\text{supp}([f])\subset \text{supp}(f)$ である。
  • $(5)$ $f$ の超関数としての台を $S$ とおくと変分学の基本補題(命題5.3)より $f$ は $\Omega\backslash S$ 上でLebesgue測度に関してa.e.で $0$ である。$\Omega\backslash S$ は開集合であり、$f$ は連続関数であるから $f$ は $\Omega\backslash S$ の任意の点で $0$ である。(実際、$\{x\in \Omega\backslash S: f(x)\neq0\}$ は $\Omega\backslash S$ の開集合であり $\Omega\backslash S$ の空でない開集合のLebesgue測度は正であるから、$\{x\in \Omega\backslash S\colon f(x)\neq0\}=\emptyset$ である。)よって $f$ の関数としての台は $S$ に含まれる。

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参考文献

  • Walter Rudin 「Functional Analysis」
  • 新井 仁之 「新・フーリエ解析と関数解析学」

脚注

  1. $C^n$ 級関数に対する $n$ 階までの偏微分は順序によらないことに注意(Euclid空間における微積分1の5を参照)。
  2. ネットについてはネットによる位相空間論を参照。
  3. 実際、任意の $f\in \overline{D_K(\Omega)}\subset \mathcal{E}(\Omega)$ に対し $f_i\rightarrow f$ なる $D_K(\Omega)$ の列 $(f_i)_{i\in\mathbb{N}}$ を取れば、任意の $x\in \Omega\backslash K$ に対し $f(x)=\lim_{i\rightarrow\infty}f_i(x)=0$ であるから $\text{supp}(f)\subset K$ である。よって $f\in D_K(\Omega)$ である。
  4. $f\in C(\Omega)$ とする。$[f]=0$ ならば $(\lvert f\rvert>0)$ のLebesgue測度は $0$ である。$f$ の連続性より $(\lvert f\rvert>0)$ は開集合であり、$\Omega$ の空でない開集合のLebesgue測度は正であるから $(\lvert f\rvert>0)=\emptyset$ でなければならない。