類体論

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類体論

  • コメント この記事は現在執筆中につき未完成。現環境下では可換図式を書くのが難しいので、以下の内容は中途半端なものになってしまいました。今後のアップデートで、さらに加筆修正予定です。

類体論(class field theory)とは、局所体または大域体のアーベル拡大の様子を記述する理論である。本稿では、局所体のアーベル拡大を調べる局所類体論、大域体のアーベル拡大を調べる大域類体論の主張を説明し、これら古典理論の一般化について触れる。

定義

ここでは、類体論を説明する上で、必要最小限の定義を与えるが、詳しい性質などについて触れない部分も多々ある。各概念の詳しい説明は代数的整数論の項を参照してください。

局所体と大域体

体 $K$ が大域体(global field)であるとは、$K$ が有理数体 $\mathbb{Q}$ または有限体上の一変数関数体 $\mathbb{F}_{p}(t)$ の有限次拡大体であることを言う。 また、$K$ が非アルキメデス局所体、または単に局所体(local field)であるとは、同様に $K$ が $p$ 進数体 $\mathbb{Q}_{p}$ または有限体上の一変数ローラン級数体 $\mathbb{F}_{p}({(t)})$ の有限次拡大体であることを言う。

有限素点と離散付値

$v$ が体 $K$ の離散付値(discreate valuation)であるとは、全射な写像 $$v\colon K\longrightarrow \mathbb{Z}\cup \{\infty \}$$ であって、次の条件を満たすもののことである。

  1. $x\in K$ に対して $v(x)=\infty$ となるのは $x=0$ のみである。
  2. 任意の $x,y \in K$ に対して $v(xy)=v(x)+v(y)$ が成り立つ。
  3. 任意の $x,y \in K$ に対して $v(x+y)\geq {\rm Inf}({v(x),v(y)})$ が成り立つ。

  • 例えば $K=\mathbb{Q}$ のとき、有理素数 $p$ に対して、有理数 $x\in \mathbb{Q}$ が $x=p^{n}\frac{a}{b}$ ($a$ と $b$ は互いに素で共に $p$ で割れない) という形で表示できたとき、 $v(x)=n$ と定めると $v$ は $\mathbb{Q}$ の離散付値になる。 $\mathbb{Q}$ の離散付値はこのようにして、必ずある素数から定まるものに限られることが知られている。
  • $K=\mathbb{C}({(T)})$ のとき、ローラン級数 $f(T)=\sum_{n\in \mathbb{Z}} a_{n}T^{n}$ に対して、$v(f)$ を $a_{n}\neq 0$ となる最小の $n$ として定めると $v$ は $\mathbb{C}({(T)})$ の離散付値になる。

大域体 $K$ の整数環 $\mathscr{O}_{K}$ の極大イデアルのことを $K$ の有限素点(finite place)と言う。上の例において、素数から有理数体 $\mathbb{Q}$ の離散付値を作ったのと同様に、$K$ の有限素点から離散付値を作ることができる。このようにして、しばしば大域体の離散付値と有限素点は同値な意味で用いられる。

無限素点

代数体 $K$ の無限素点(infinity place)とは、体の埋め込み $K\longrightarrow \mathbb{C}$ の複素共役類のことである。

  • $\mathbb{Q}(i)$ の $\mathbb{C}$ への埋め込みは二つあり、それぞれ、

$$ a+bi \longmapsto a+bi, $$ $$ a+bi \longmapsto a-bi $$ である。これらは互いに共役なので、$\mathbb{Q}(i)$の無限素点は一つである。

  • $\mathbb{Q}(\zeta_{8})$の $\mathbb{C}$ への埋め込みは四つあり、それぞれ、

$$ (1). \quad \zeta_{8} \longmapsto \zeta_{8}, $$ $$ (2). \quad \zeta_{8} \longmapsto \zeta_{8}^{3}, $$ $$ (3). \quad \zeta_{8} \longmapsto \zeta_{8}^{5}, $$ $$ (4). \quad \zeta_{8} \longmapsto \zeta_{8}^{7} $$ である。このうち $(1)$ と $(4)$、$(2)$ と $(3)$ は互いに共役なので、$\mathbb{Q}(\zeta_{8})$ は二つの無限素点を持つ。

無限素点の像が実数体 $\mathbb{R}$ に収まるもののことを実素点、そうでないものを複素素点と言う。

代数体の完備化とその位相

  • $K$ を代数体とし、$v$ をその離散付値とする。 $a$ を $1$ より大きい適当な実数とする。このとき、$x,y\in K$ に対して、$d(x,y)=a^{-v(x-y)}$ とすると、これは $K$ 上の距離となる。こうして出来た距離空間 $K$ を完備化して得られる空間を $K_{v}$ と書くことにすると、これは $K$ の演算を自然に延長して、体の構造を持つ。体 $K_{v}$ のことを体 $K$ の有限素点 $v$ での完備という。
  • $K_{v}$ は、位相体として、局所コンパクトかつHausdorffである。
  • $K_{v}$ は、$K$ の離散付値 $v$ の自然に延長を持ち、

$$ \mathscr{O}_{K_{v}}=\{x\in K \mathrel{\vert} v(x)\geq 0\}, $$ $$ \mathfrak{m}_{v}=\{x\in K \mathrel{\vert} v(x)>0\} $$ はそれぞれ、$K_{v}$ の極大コンパクト部分位相環とその極大イデアルである。 $\mathscr{O}_{K_{v}}$ のことを $K_{v}$ の整数環とよぶ。 $\mathfrak{m}_{v}$は $v(x)=1$ となる元 $x\in K_{v}$ で生成される。このような $x$ のことを $v$ の素元(uniformizer)といい、しばしば $\pi_{v}$ と記される。剰余体 $k_{v}=\mathscr{O}_{K_{v}}/\mathfrak{m}_{v}$ は有限体である。

$K_{v}$ は加法群として、開部分群の族 $\{\mathfrak{m}_{v}^{n}\}_{n\geq 0}$ を $0$ の基本近傍系として持つ。また、乗法群 $K_{v}^{\times}$ は $$ K_{v}^{\times} \simeq \mathscr{O}_{K_{v}}^{\times}\times \mathbb{Z} $$ と分解し、単数群 $\mathscr{O}_{K_{v}}^{\times}$ は 開部分群の族 $\{1+\mathfrak{m}_{v}^{n}\}_{n\geq 1}$ を $1$ の基本近傍系として持つ。特に $K_{v}^{\times}$ は局所コンパクトな位相群であり、 $\mathscr{O}_{K_{v}}^{\times}$ はその極大コンパクトな部分位相群である。

  • このフィルトレーションに付随して完全列

$$ 0 \longrightarrow \mathscr{O}_{K_{v}}^{\times} \longrightarrow K_{v}^{\times} \longrightarrow \mathbb{Z} \longrightarrow 0 $$

$$ 0 \longrightarrow 1+\mathfrak{m}_{v} \longrightarrow \mathscr{O}_{K_{v}}^{\times} \longrightarrow k_{v}^{\times} \longrightarrow 0 $$

$$ 0 \longrightarrow 1+\mathfrak{m}_{v}^{n+1} \longrightarrow 1+\mathfrak{m}_{v}^{n} \longrightarrow k_{v} \longrightarrow 0 $$ がある。特に $k_{v}$ の標数が $p$ なら、各 $1+\mathfrak{m}_{v}^{n}$ は 副 $p$ 群(pro- $p$ group)である。

  • $K$ の無限素点 $v$ に対して、$v$ が実素点のとき、$K_{v}=\mathbb{R}$、$v$ が複素素点のとき、$K_{v}=\mathbb{C}$ であると約束する。

代数体のアデール環とイデール群、イデール類群

  • $K$ を代数体とし、$S$ を $K$ の素点の有限集合とし、無限素点をすべて含むものとする。このとき、

$$ \mathbb{A}_{K}(S)=\prod_{v\in S} K_{v} \times \prod_{v\notin S} \mathscr{O}_{K} $$ とし、$S$ が $K$ のこのような素点の有限集合全体を走るとき、$\mathbb{A}_{K}(S)$ の帰納的極限を $K$ のアデール環(adele ring)といい、$\mathbb{A}_{K}$ とかく。

  • コメント こうした一見めんどうな積のことを制限積と言う。これは局所コンパクト性という位相的に良い性質を崩さないための措置である。Tychonoffの定理により、コンパクト空間の積は、再びコンパクトになるが、局所コンパクト空間の積は、同様とはならない。しかし制限積は、局所コンパクト性を保存してくれる。アデール環の局所コンパクト性は、$p$ 進解析跡公式の理論を展開する土台となってくれる。
  • $K$ のアデール環は局所コンパクトな位相環である。
  • 制限積の手法により、イデール群も定義できる。$S$ を$K$ の素点の有限集合とし、無限素点をすべて含むものとする。このとき、

$$ \mathbb{I}_{K}(S)=\prod_{v\in S} K_{v}^{\times} \times \prod_{v\notin S} \mathscr{O}_{K}^{\times} $$ とし、$S$ が $K$ のこのような素点の有限集合全体を走るとき、$\mathbb{I}_{K}(S)$ の帰納的極限を $K$ のイデール群(idele group)といい、$\mathbb{I}_{K}$ とかく。

  • $K$ のイデール群は局所コンパクトな位相群である。
  • $K$ の乗法群からイデール群への対角射

$$ K^{\times} \longrightarrow \mathbb{I}_{K}; x \longmapsto (x,x,\cdots) $$ による商を ${\bf C}_{K}$ とかき、$K$ のイデール類群(idele class group)という。

主張

局所類体論

相互写像

$L/K$ を局所体の有限次アーベル拡大とする。このとき、自然な同型 $$ K^{\times}/{\rm N}_{L/K}(L^{\times}) \simeq {\rm Gal}(L/K) $$ がある。

類体の存在定理

局所体 $K$ の有限次アーベル拡大体のノルム群は、 $K^{\times}$ の指数有限な開部分群であり、$K^{\times}$ の指数有限な開部分群は、そのようなものに限る。

以上より、次のことが言えた。

主結果

局所体 $K$ の乗法群 $K^{\times}$ から、そのGalois群のアーベル商への連続な単射準同型 $$ \psi_{K}\colon K^{\times} \longrightarrow {\rm Gal}(K^{\rm ab}/K) $$ であって、その像が稠密となるものがある。$\psi_{K}$ はさらに、次のような図式を可換にする。

  1. 有限次アーベル拡大 $L/K$ に対して、

\[ \EMxymatrix{ L^{\times} \ar[r] \ar[d] & {\rm Gal}(L^{\rm ab}/L) \ar[d] \\ K^{\times} \ar[r] & {\rm Gal}(K^{\rm ab}/K) } \]

大域類体論

相互写像

$L/K$ を代数体の有限次アーベル拡大とする。このとき、自然な同型 $$ {\bf C}_{K}/{\rm N}_{L/K}({\bf C}_{L}) \simeq {\rm Gal}(L/K) $$ がある。

類体の存在定理

代数体 $K$ のイデール類群 ${\bf C}_{K}$ の指数有限な部分群は必ず、$K$ のある有限次アーベル拡大体のイデール類群のノルムとなる。

で、何が嬉しいの?

  • コメント 数学辞典Mathpediaでは、皆さまの「類体論を学んで・使って嬉しかった」体験を募集中です。皆さまのご応募をお待ちしております。
  • コメント 執筆者は自身の兄に「 $4$ で割って $1$ 余る素数は平方数の和で書けるんだよ(ドヤッ」と語ったことがあった。それを聞いた兄は言った。「ふーん。良かったね」

ここでは、類体論の結果を使うことによって、数学、そして整数論はどのような結果を得てきたかについて軽く触れたい。

種々の一般化

これまで、類体論の主張について見てきたが、現在、この整数論の古典的な結果は様々な方向へと拡張し深化している。以下では、類体論の種々の一般化について軽く触れよう。以下の説明はすべて大雑把なため、より詳しい説明については、各該当項目に求められたい。

高次元化

ここでは、上記で述べた古典的な類体論の高次元バージョンについて軽く説明する。詳しい説明は高次元類体論を参照。

定義

  • $K$ が $n$ 次元局所体であるとは、$K$ が離散付値 $v$ に関して完備であり、その剰余体が $n-1$ 次元局所体であるようなものとして帰納的に定義することができる。ただし、有限体のことを $0$ 次元局所体と約束する。したがって、我々が今まで扱ってきた局所体とは、$1$ 次元局所体である。
  • 体 $K$ の $n$ 次Milnor K群を次のようにして定義する。

$$ {\rm K}^{\rm M}_{n}(K)=T_{n}(K)/I_{n}(K) $$ ただし、$T_{n}(K)$ は 乗法群の $n$ 回テンソル $K^{\times}\bigotimes \cdots \bigotimes K^{\times}$ であり、$I_{n}(K)$ は $\{a_{1}\otimes \cdots \otimes a_{n} \mathrel{\vert} {\text ある} i\neq j {\text に対して} a_{i}+a_{j}=1 \}$ で生成される $T_{n}(K)$ の部分群とする。

主結果

$n$ 次元局所体 $K$ に対して、群準同型 $$ {\rm K}_{n}^{\rm M}(K)\longrightarrow {\rm Gal}(K^{\rm ab}/K) $$ が存在して、 $K$ の任意の有限次アーベル拡大体 $L$ に対して、自然な同型 $$ {\rm K}_{n}^{\rm M}(K)/{\rm N}_{L/K}({\rm K}_{n}^{\rm M}(L)) \simeq {\rm Gal}(L/K) $$ を誘導する。

他にも次元の降下との兼ね合いなどとも両立して、上手く振る舞う。高次元類体論を参照。

非可換化

類体論は、上記のように、局所体や大域体のアーベル拡大について、かなり詳しい情報を我々に教えてくれる。しかし、そうでない拡大についての情報は類体論からは分からないという欠点もある。1960年代、非アーベルな拡大を表現論的に理解しようという試みがR.\ Langlandsによって提唱された。ここでは、それについて少し触れたい。なお、詳しい説明は$p$ 進簡約群の表現Langlands対応を参照。

定義

  • 位相群 $G$ が局所副有限群であるとは、$G$ が副有限群からなる $1$ の基本近傍系を持つことをいう。局所副有限群はまた、局所コンパクトかつHausdorffかつ完全不連結な位相群としても特徴づけられる。
  • $(\pi,V)$ が局所副有限群 $G$ のsmooth表現であるとは、$V$ の任意の元 $v$ に対して、$G$ のコンパクト開部分群 $K$ が存在して、すべての $k\in K$ に対して $\pi(k)v=v$ となることをいう。

* 例

  1. 局所体 $K$ に対して、$GL_{d}(K)$ は局所副有限群である。
  2. 局所体 $K$ に対して、そのWeil群 ${\rm W}_{K}$ は局所副有限群である。
  • Weil群については説明が必要だろう。これは群としては、$K$ の絶対Galois群 ${\rm Gal}(K^{\rm sep}/K)$ の部分群

$$ \{\sigma \in {\rm Gal}(K^{\rm sep}/K) \mathrel{\vert} \epsilon(\sigma) \in \mathbb{Z} \} $$ であって、その位相は、惰性群 $I_{K}$ を開部分群とするような位相群である。すなわち、部分集合 $U\subset {\rm W}_{K}$ が開であるのは、任意の $g\in {\rm W}_{K}$ に対して、 $$ \{h\in I_{K} \mathrel{\vert} gh\in U \} $$ が $I_{K}$ の開集合であるとして、${\rm W}_{K}$ に位相を定義した。

$W_{K}$ のある種の表現(Weil Deligne表現)は、Galois群の表現と非常に近しい関係にある。Langlands対応とは、一般線形群 $GL_{d}(K)$ と ${\rm W}_{K}$ の表現同士がbijectiveに対応していることを主張する理論である。

主結果

説明

類体の構成問題

局所体の完全分岐な拡大は、Lubin-Tate形式群に付随する冪級数の等分点を添加することによって与えられることが知られている。また、関数体についてはDrinfeld加群の等分点が、類体の構成問題において重要な役割を果たす。一般の代数体に関して、これほどの結果はまだないが、虚二次体やCM体については、解決されている。虚二次体の場合には、虚数乗法を持つ楕円曲線の等分点、CM体の場合には虚数乗法を持つAbel多様体の等分点が、その役割を果たす。詳しくは虚数乗法類体の構成問題を参照。

関連項目