Sylowの定理

提供: Mathpedia

Sylowの定理

Sylowの定理は、有限群論における最も重要な定理のひとつである。この定理は、Sylow部分群と呼ばれる部分群の存在を示し、その数を決定する手がかりを与える。

一般に、有限群 $G$ が与えられたとき、その部分群 $H$ の位数 $\# H$ が $\# G$ の位数を割り切ることはLagrangeの定理として知られている。一方、$\# G$ の約数が与えられたとき、その値を位数とする部分群は必ずしも存在しない。例えば、位数 $12$ の $4$ 次交代群 $A_4$ は位数 $6$ の部分群をもたない。部分群の振る舞いが有限群の考察に果たす重要性を鑑みるとき、具体的な位数をもつ部分群の存在を保証するSylowの定理の重要性は大きい。

具体的にSylowの定理が道具として使われる様子は有限群の分類(位数1~100)などの記事で見られる。

Sylow部分群

$p$ を素数とする。有限群 $G$ の位数を $\# G = p^s \cdot m$、ここで $m$ は $p$ を割り切らない整数、と表すとき、$G$ の位数 $p^s$ の部分群を $G$ の $p$-Sylow部分群という。Sylow $p$ 部分群と呼ばれる場合もある。

Sylowの定理

$p$ を素数とする。有限群 $G$ に対し、以下が成り立つ。

  1. $G$ は $p$-Sylow部分群をもつ。
  2. $p$ の冪を位数とする $G$ の部分群は、$G$ のある $p$-Sylow部分群に包まれる。
  3. $G$ の $p$-Sylow部分群は互いに共役である、すなわち $P$、$Q$ がともに $G$ の $p$-Sylow部分群ならば $Q = gPg^{-1}$ なる $g \in G$ が存在する。特に、$G$ の $p$-Sylow部分群は互いに同型である。
  4. $G$ の $p$-Sylow部分群の数を $k_p$ と表すとき、$k_p$ は $\# G$ の約数で、$k_p \equiv 1 \pmod{p}$ を満たす。

WielandtによるSylow部分群の存在証明

補題

素数 $p$ と $p$ で割り切れない整数 $m$ と非負整数 $s$ について、$_{p^sm}C_{p^s}$ は $p$ の倍数ではない。

証明 簡単な初等整数論的議論により示される。

Sylow部分群の存在

有限群 $G$ と素数 $p$ について、$p$-Sylow部分群は存在する。

証明 群 $G$ の位数が $p^sm$ であるとする。ただし、$p$ は素数、$m$ は $p$ で割り切れない整数、$s$ は非負整数であるとする。

集合 $X$ を、群 $G$ の部分集合であって濃度が $p^s$ であるもの全体として取る。このとき、$X$ には次のように $G$ の作用が入る。

  • $A\in X$ について、$A \cdot g = \{ag|a\in A\}$

上記の作用のもとで $X$ を 軌道分解すると、$X$ の要素数は $p$ の倍数ではないため、ある $X$ の軌道の濃度は $p$ の倍数ではない。そのような軌道を一つ選び $\mathcal{O}$ とおく。$\mathcal{O}$ の任意の要素 $B$ を選んだとき、$\mathrm{Stab}(B)$ を $B\cdot g=B$ なる $g$ 全体のなす $G$ の部分群とすると、$|\mathcal{O}|=|G|/|\mathrm{Stab}(B)|$ より、$|\mathrm{Stab}(B)|$ は $p^s$ の倍数である。

ここで、$B$ は $G$ の部分集合であり、濃度 $p^s$ である。よって、$B\cdot g=B$ なる $g\in G$ は高々 $p^s$ 個しか存在しない。よって$|\mathrm{Stab}(B)| \leq p^s$ である。従って、$|\mathrm{Stab}(B)|=p^s$ である。よって $\mathrm{Stab}(B)$ は $G$ の $p$-Sylow部分群である。

動画解説