Tits系、BN対

提供: Mathpedia



Tits系は代数群の構造を調べるための基本的な道具である。



定義

定義 1

群 $G$ の二つの部分群 $B,N$ が以下の条件を満たすとする。

  • (1) $G$ は $B$ と $N$ によって生成される。
  • (2) $B\cap N$ は $N$ の正規部分群であり、$S$ は $W=N/B\cap N$ の位数 $2$ の元からなる生成系である。
  • (3) 任意の $s\in S$ と $w\in W$ に対して、

$$ C(s)C(w)\subset C(sw)\cup C(w). $$

  • (4) 任意の $s\in S$ に対して、$sBs\neq B$ である。

ただし、$C(w)$ は両側剰余類 $BwB$ である。このような条件を満足する四つ組 $(G,B,N,S)$ のことをTits系(Tits system)と呼ぶ。

Tits系の重要な例を一つ上げる。

例 1

$G=GL_{n}(\mathbb{R})$ とし $B$ を上三角行列のなす $G$ の部分群とする。$G$ はベクトル空間 $\mathbb{R}^{n}=\mathbb{R}e_{1}\oplus \cdots \oplus \mathbb{R}e_{n}$ に自然に作用している。ただし、$e_{1},\ldots, e_{n}$ は $\mathbb{R}^{n}$ の標準基底とする。$N$ は $\mathbb{R}e_{1},\ldots,\mathbb{R}e_{n}$ を置換する $G$ の部分群とする。$N$ は 各行各列に一つだけ $0$ でない成分があり、そうでない成分が $0$ であるような行列のなす群である。$B\cap N$ は対角行列のなすトーラス $$ B\cap N=\left\{ \left. \left( \begin{array}{cccc} x_{1} & 0 & \cdots & 0 \\ 0 & x_{2} & \cdots & 0 \\ \vdots & & \ddots & \vdots \\ 0 & \ldots & \ldots & x_{n} \end{array} \right)\right| x_{1},\ldots,x_{n}\in \mathbb{R}^{\times} \right\} $$ であり、$N/B\cap N$ は対称群 $S_{n}$ と同型である。$S_{n}$ の位数 $2$ の元からなる生成系 $\{(i,i+1)\mathrel{\vert} i=1,\ldots,n-1\}$ のことを $S$ と置く。$(G,B,N,S)$ はTits系になる。


定義 2

Tits系 $(G,B,N,S)$ に対して、$B$ を含んでいるような $G$ の部分群のことを $(G,B,N,S)$ の標準的放物型部分群(standard parabolic subgroup)という。

Bruhat分解

定理 1

Tits系 $(G,B,N,S)$ に対して、 $$ G=\coprod_{w\in W}C(w) $$ が成り立つ。この分解のことを $G$ のBruhat分解(Bruhat decomposition)と呼ぶ。

Proof.

合併 $$ \bigcup_{w\in W}C(w) $$ は $B,N$ を含む群なので、これは $G$ と等しい。この分解が無縁和であることを示そう。$C(v)=C(w)$ とし、$d=\mathrm{min}\{\ell_{S}(v),\ell_{S}(w)\}$ と置く。このとき $v=w$ であることを $d$ についての帰納法で示す。$d=0$ のとき、$C(v)=C(w)=B$ であり、これは $v,w$ の代表元が $B\cap N$ に入っていることを意味するので、$v=w=1$ が言える。$d>0$ とする。一般性を失うことなく $d=\ell_{S}(w)\leq \ell_{S}(v)$ としてよく、このとき $\ell_{S}(sw)=\ell_{S}(w)-1$ となるような $s\in S$ がある。$wB\subset C(w)=C(v)$ なので $$ C(sw)\subset sC(v)\subset C(sv)\cup C(v) $$ である。よって、$C(sw)=C(v)$ であるかまたは $C(sw)=C(sv)$ である。前者の場合は $C(sw)=C(w)$ なので、$d-1=\mathrm{min}\{\ell_{S}(sw),\ell_{S}(w)\}<d$ から $sw=w$ が得られ、帰納法の仮定に反する。後者の場合、帰納法により、$sw=sv$ が分かる。したがって、$v=w$ を得る。


命題 1

任意の $w\in W$ と $s\in S$ に対して、もし $\ell(sw)=\ell(w)+1$ なら $C(s)C(w)=C(sw)$ であり $\ell(sw)=\ell(w)-1$ なら $C(s)C(w)=C(w)\cup C(sw)$ である。

Proof.

$\ell(w)=0$ なら主張は自明である。$\ell(w)>0$ なら、$\ell(wt)<\ell(w)$ となる $t\in S$ がある。$\ell(sw)=\ell(w)+1$ のとき $C(s)C(w)=C(sw)$ となることをまず示そう。$w^{'}=wt$ と置く。 $$ \ell(w^{'})+1=\ell(w)\leq \ell(sw)=\ell(sw^{'}t)\leq \ell(sw^{'})+1 $$ なので帰納法の仮定から $$ C(s)C(w^{'})=C(sw^{'}) $$ となる。$C(s)C(w)\neq C(sw)$ と仮定する。$sBw\cap C(w)\neq \phi$ なので $sBw^{'}\cap C(w)t$ も空でない。さらに $C(w)t\subset C(w)\cup C(w^{'})$ なので $sBw^{'}\cap (C(w)\cup C(w^{'}))\neq \phi$ である。$C(s)C(w^{'})=C(sw^{'})$ なので定理 1 より $sw^{'}=w$ である。しかしこれは $$ \ell(w^{'})<\ell(w)<\ell(sw) $$ に矛盾する。したがって $C(s)(w)$ と $C(w)$ は交わらず、$C(s)C(w)=C(sw)$ であることが分かる。次に $\ell(sw)=\ell(w)-1$ の場合を考えよう。このとき $\ell(s(sw))=\ell(sw)+1$ なので、上で見たように $$ C(s)C(sw)=C(w) $$ である。このとき、 \begin{align} C(s)C(w)&=C(s)C(s)C(sw) \\ &=(C(s)\cup B)C(sw) \\ &=C(w)\cup C(sw) \end{align}

放物型部分群

命題 2

$(G,B,N,S)$ をTits系とすると、$(W,S)$ はCoxeter系になる。

Proof.

$s\in S$ と $w\in W$ が $\ell(sw)=\ell(w)-1$ を満たすとする。また $s_{1},\ldots,s_{n}\in S$ を $w=s_{1}\cdots s_{n}$ が最短表示であるように選ぶ。このとき交換条件をみたすことを示そう。つまり $$ sw=s_{1}\cdots \hat{s_{i}}\cdots s_{n} $$ となる $i$ が存在することを示す。仮定より $C(s)C(w)=C(sw)\cup C(w)$ かつ $C(w)=C(s_{1})\cdots C(s_{n})$ が成り立つ。$1\leq i\leq n$ を $\ell(ss_{1}\cdots s_{i})<\ell(ss_{1}\cdots s_{i-1})$ となるような最小の添え字に選べば \begin{align} C(s)C(w)&=C(s)C(s_{1})\cdots C(s_{i-1})C(s_{i})\cdots C(s_{n}) \\ &=C(ss_{1}\cdots s_{i-1})C(s_{i})\cdots C(s_{n}) \\ &=\left(C(ss_{1}\cdots s_{i})\cup C(ss_{1}\cdots s_{i-1}) \right)C(s_{i+1})\cdots C(s_{n}) \\ &\subset \bigcup \left(C(ss_{1}\cdots s_{i}s_{i_{1}}\cdots s_{i_{p}})\cup C(ss_{1}\cdots s_{i-1}s_{i_{1}}\cdots s_{i_{p}}) \right) \end{align} ここで、$i<i_{1}<\ldots <i_{p}\leq n$ を満たすような添え字を走る。$C(w)$ は最右辺に含まれるので $\ell(w)=n$ という事実と合わせて考えると $w=ss_{1}\cdots s_{i-1}s_{i+1}\cdots s_{n}$ であるかまたは $w=ss_{1}\cdots s_{i}s_{i+1}\cdots \widehat{s_{i+k}}\cdots s_{n}$ となる $k$ がある。どちらにせよ、$(W,S)$ は交換条件を満たすことが確認できる。


$I$ を $S$ の部分集合とすると、$(W_{I},I)$ はCoxeter系である。$P_{I}=BW_{I}B$ は $B$ を含む $G$ の部分群になる。すなわち $P_{I}$ は標準的放物型部分群になる。逆に、$P$ が標準的放物型部分群のとき、 $$ W_{I}=\{w\in W\mathrel{\vert}C(w)\subset P\} $$ と置くと、これは $W$ の放物型部分群であり、$I=S\cap W_{I}$ は $W_{I}$ の生成系である。つまり、$S$ の部分集合と $G$ の標準的放物型部分群は $1:1$ に対応する。$G$ の放物型部分群とは、$G$ の標準的放物型部分群と共役な群のことを意味する。$\Delta(G,B)$ を $G$ の放物型部分群全体のなす集合とする。

補題 1

もし $w\in W$ に対して $w=s_{1}\cdots s_{n}$ が最短表示なら $\langle C(w)\rangle=\langle C(s_{1}),\ldots,C(s_{n})\rangle=\langle B,wBw^{-1}\rangle$ が成り立つ。

Proof.

$w\in C(w)$ かつ $wB\subset C(w)$ より $\langle B,wBw^{-1}\rangle\subset \langle C(w)\rangle $ が分かる。さらに$w=s_{1}\cdots s_{n}$ は最短表示なので $\langle C(s_{1}),\ldots, C(s_{n}) \rangle$ である。よって、$C(s_{1}),\ldots ,C(s_{n})\subset \langle B,wBw^{-1} \rangle$ を示せばよい。実際、$\ell(s_{1}w)<\ell(w)$ なので、$C(w)\subset C(s_{1})C(w)$ となる。特に、$w=b_{1}s_{1}b_{2}wb_{3}$ となる $b_{1},b_{2},b_{3}\in B$ が存在する。特に $s_{1}=b_{1}^{-1}wb_{3}^{-1}w^{-1}b_{2}^{-1}\in \langle B,wBw^{-1}\rangle$ となるので $\langle B,s_{1}wBw^{-1}s_{1}\rangle\subset \langle B,wBw^{-1}\rangle$ となる。さらに帰納法により、この左辺は $C(s_{2}),\ldots,C(s_{n})$ を含む。よって、 $$ \langle C(s_{1}),\ldots,C(s_{n})\rangle\subset \langle B,wBw^{-1}\rangle $$ となる。

命題 3

任意の $P\in \Delta(G,B)$ に対して $N_{G}(P)=P$ が成り立つ。

Proof.

任意の $g\in G$ に対して、$N_{G}(gPg^{-1})=gN_{G}(P)g^{-1}$ なので、$P$ は標準的であるとしてよい。$x\in N_{G}(P)$ に対し $x\in C(w)$ となるような $w\in W$ がある。この $w$ に対して$\langle B,wBw^{-1} \rangle$ は $P$ に含まれるので、$x\in C(w)\in P$ となる。したがって $N_{G}(P)=P$ が分かる。


$B$ 適応準同型、$B$-$N$ 適応準同型

$(G,B,N,S)$ をTits系とし、$\widehat{G}$ を群とする。

定義 3

準同型 $\phi\colon G\longrightarrow \widehat{G}$ が以下の条件を満たすとき、$\phi$ は $B$ 適応準同型であるという。

  • (1) ${\rm Ker}(\phi)\subset B.$
  • (2) 任意の $g\in \widehat{G}$ に対して $h\in G$ が存在して $\phi(hBh^{-1})=g\phi(B)g^{-1}.$

この条件(2)の代わりに

  • (2') 任意の $g\in \widehat{G}$ に対して $h\in G$ が存在して $\phi(hBh^{-1})=g\phi(B)g^{-1}, \phi(hNh^{-1})=g\phi(N)g^{-1}.$

が成り立つとき、$\phi$ は $B$-$N$ 適応準同型であるという。


補題 2

$\phi$ が $B$ 適応準同型のとき、像 $\phi(G)$ は $\widehat{G}$ の正規部分群である。

Proof.

$G=\bigcup_{w\in W}\langle C(w)\rangle =\bigcup_{w\in W}\langle B,wBw^{-1}\rangle$ なので、$G$ は $B$ と共役な部分群たちによって生成されている。すなわち、任意の $a\in G$ に対して有限個の $(b_{i},k_{i})\in B\times G$ があり、 $$ a=\prod k_{i}b_{i}k_{i}^{-1} $$ となる。任意の $g\in \widehat{G}$ に対して、$g\phi(a)g^{-1}\in \psi(G)$ を示そう。$g_{i}=g\phi(k_{i})$ と置くと、$\phi$ は $B$ 適応準同型なので、$g_{i}\phi(B)g_{i}^{-1}=\phi(h_{i}Bh_{i}^{-1})$ となる $h_{i}\in G$ が存在する。このとき、 \begin{align} g^{-1}\phi(a)g&=\prod g_{i}\phi(b_{i})g_{i}^{-1} \\ &=\prod \phi(h_{i}b_{i}h_{i}^{-1})\in \phi(G) \end{align} であるから、$\phi$ の像は $\widehat{G}$ の正規部分群である。


$\phi$ が $B$ 適応準同型とすると $\Delta(G,B)$ への $\widehat{G}$ への作用を $$ \widehat{G}\times \Delta(G,B)\longrightarrow \Delta(G,B);(g,P)\longmapsto {}^{g}P:=\phi^{-1}(\phi(g)P\phi(g^{-1})) $$ と定める。$P\in \Delta(G,B)$ に対して、安定化群を ${\rm Stab}(P)=\{g\in \widehat{G}\mathrel{\vert} {}^{g}P=P\}$ と置くと $\phi^{-1}({\rm Stab}(P))=P$ である。また $B$ 適応準同型 $\phi$ は Bruhat細胞をBruhat細胞に写すので、 $$ \xi\colon \widehat{G}\longrightarrow \mathrm{Aut}(W,S) $$ を $$ \phi(C(\xi(g)w))=\phi(h)^{-1}g\phi(C(w))g^{-1}\phi(h) $$ となるように定めることができる。ただし、$g\in \widehat{G}$ に対して $h\in G$ を(2)を満たすように選んでいる。 $$ \widehat{G}_{0}={\rm Ker}(\xi), \Xi={\rm Im}\xi $$ と置く。

補題 3

$\phi$ が $B$ 適応準同型なら $\phi(G)\subset \widehat{G}_{0}$ かつ $\widehat{G}=\widehat{G}_{0}.{\rm Stab}(B)$ である。

Proof.

任意の $g\in \widehat{G}$ に対して $h\in G$ を $\phi(hBh^{-1})=g\phi(B)g^{-1}$ となるよう取れば、$\phi(h^{-1})g\in {\rm Stab}(B)$ である。よって $\widehat{G}=\widehat{G}_{0}.{\rm Stab}(B)$ である。


全射 ${\rm Stab}(B)\longrightarrow \widehat{G}/\widehat{G}_{0}$ の核を $\widehat{B}=\widehat{G}_{0}\cap {\rm Stab}(B)$ と書くことにする。

命題 4

$(\widehat{G}_{0},\widehat{B},\phi(N))$ はTits系であり、$\Delta(G,B)\simeq \Delta(\widehat{G}_{0},\widehat{B})$ である。

Proof.

まず $\widehat{G}_{0}=\widehat{B}\phi(N)\widehat{B}$ を示す。$g\in \widehat{G}_{0}={\rm Ker}(\xi)$ に対して $h\in G$ を $g^{-1}\phi(C(w))g=\phi(h^{-1}C(w)h), \forall w\in W$ となるように取ることができる。$G=BNB$ なので $h=b_{1}nb_{2}$ となるように $b_{1},b_{2}\in B, n\in N$ を取ると $$ g^{-1}\phi(C(w))g=\phi(b_{2}^{-1}n^{-1})\phi(C(w))\phi(nb_{2}) $$ であり $w=1$ のとき $\phi(G)\subset \widehat{G}_{0}$ だったので $g\phi(b_{2}^{-1}n^{-1})\in \widehat{B}$ である。このとき、 $$ g\in \widehat{B}\phi(n)\phi(b_{2})\subset \widehat{B}\phi(N)\widehat{B} $$ であることが示された。特に $\widehat{G}_{0}=\widehat{B}\phi(N)\widehat{B}$ である。次に $\widehat{B}\cap \phi(N)\triangleleft \phi(N)$ を示す。$x,y\in N$ とし $\phi(x)\in \widehat{B}$ とする。$\widehat{B}=\widehat{G}_{0}\cap {\rm Stab}(B)$ なので $\phi(xBx^{-1})=\phi(B)$ である。よって任意の $b_{1}\in B$ に対して $b_{2}\in B$ を $\phi(xb_{1}x^{-1}b_{2})=0$ となるように取ることができる。$xb_{1}x^{-1}b_{2}\in {\rm Ker}(\phi)\subset B$ かつ $N_{G}(B)=B$ なので $x\in B$ である。$x\in B\cap N\triangleleft N$ なので $\phi(y^{-1}xy)\in \phi(N)$ である。以上より $\widehat{B}\cap \phi(N)\triangleleft \phi(N)$ が示された。また $\phi$ が誘導する全射 $$ N/B\cap N \longrightarrow \phi(N)/\widehat{B}\cap \phi(N) $$ はwell-definedで同型である。実際、$\phi(B)\subset {\rm Stab}(B)$ なので well-definedであることが言えるし、$n\in N$ が $\phi(n)\in \widehat{B}$ を満たすなら、$nBn^{-1}=B$ つまり $n\in B$ なので単射性も言える。$\phi(S)$ を上の同型による $S$ の像とする。任意の $s\in S$ と $w\in W$ に対して、 $$ \phi^{-1}(\widehat{B}\phi(s)\widehat{B}\phi(w)\widehat{B})\subset C(sw)\cup C(w) $$ なので、$\widehat{B}\phi(s)\widehat{B}\phi(w)\widehat{B}\subset \widehat{B}\phi(sw)\widehat{B}\cup \widehat{B}\phi(w)\widehat{B}$ が成り立つので、$(\widehat{G}_{0},\widehat{B},\phi(N))$ は Tits系である。また、写像 $$ \Delta(G,B)\longrightarrow \Delta(\widehat{G}_{0},\widehat{B});P\longmapsto \phi(P).\widehat{B} $$ は全単射である。

Titsの建物(Building)との関係

Tits系の例