Vitaliの被覆定理

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$\newcommand{\F}{\mathcal{F}}$ $\newcommand{\G}{\mathcal{G}}$ $\newcommand{\R}{\mathbb{R}}$ $\newcommand{\Bb}{\overline{B}}$ $\newcommand{\H}{\mathcal{H}}$ $\newcommand{\Zp}{\mathbb{Z}_{\ge 1}}$ $\newcommand{\dist}{\operatorname{dist}}$ $\newcommand{\diam}{\operatorname{diam}}$ $\newcommand{\implies}{\ \Rightarrow\ }$

Vitaliの被覆定理は、主に測度論において用いられる幾何学の定理である。

主張

$X$ を距離空間とし、$t\gt 1$ とする。$E\subset X$ について、$E$ の拡大 $\widehat{E}$ を $$\widehat{E}\colon=\{x\in X\colon \dist(x,E)\le t\diam E\}$$ と定める。

(1) $\F\subset 2^{X\backslash\{\emptyset\}}$ が $\sup_{C\in\F}\diam C\lt\infty$ をみたすとすると、次をみたす $\G\subset\F$ が存在する:

  • $D,D'\in\G,D\neq D'\implies D\cap D'=\emptyset$。
  • 任意の $C\in\F$ について $D\in\G$ が存在し $C\cap D\neq\emptyset$ かつ $C\subset\widehat{D}$。とくに

$$\bigcup_{C\in\F}C\subset\bigcup_{D\in\G}\widehat{D}.$$ (2) $A\subset X$ とし、$X$ の閉集合からなる族 $\F$ が次の条件をみたすとする: $$任意の\ x\in X\ と\ \varepsilon\gt 0\ について\ C\in\F\ が存在して\ x\in C\ かつ\ \diam C\lt\varepsilon。\tag{*}\label{finecov}$$ $\delta\gt 0$ とすると次をみたす $\G\subset\F$ が存在する:

  • $\sup_{D\in\G}\diam D\le\delta$。
  • $D,D'\in\G,D\neq D'\implies D\cap D'=\emptyset$。
  • $\G$ の任意の有限部分集合 $\G'$ は

$$A\backslash\bigcup_{D\in\G'}D\subset\bigcup_{D\in\G\backslash\G'}\widehat{D}$$ をみたす。

証明

Proof.

(1)を示す。$\Omega\subset 2^\F$ を次をみたす $\H\subset\F$ からなる族とする:

  • $D,D'\in\H,D\neq D'\implies D\cap D'=\emptyset$。
  • 任意の $C\in\F$ について、任意の $D\in\H$ について $C\cap D=\emptyset$ あるいはある $D\in\H$ が存在して $C\cap D\neq\emptyset$ かつ $\diam C\le t\diam D$。

明らかに $\emptyset\in\Omega$。また $\Gamma\subset\Omega$ を包含順序に関する全順序部分集合とすると明らかに $\bigcup_{\H\in\Gamma}\H\in\Omega$。Zornの補題より $\Omega$ は包含順序に関する極大元 $\G$ をもつ。

任意の $C\in\F$ について $D\in\G$ が存在して $C\cap D\neq\emptyset$ かつ $\diam C\le t\diam D$ となることを示す。

そのような $D\in\G$ が存在しない $C\in\F$ からなる $\F$ の部分族を $\mathcal{E}$ とする。$\mathcal{E}\neq\emptyset$ であったとして $K\in\mathcal{E}$ を $\diam K\ge t^{-1}\sup_{C\in\mathcal{E}}\diam C$ となるようにとる。$\mathcal{E}$ の定義より $K\cap D\neq\emptyset$ かつ $\diam K\le t\diam D$ となる $D\in\G$ は存在せず、$\G\in\Omega$ より任意の $D\in\G$ について $K\cap D=\emptyset$。

また、$C\in\F$ とし、$D\in\G\cup\{K\}$ で $C\cap D\neq\emptyset$ かつ $\diam C\le t\diam D$ となるものが存在しないとすると、$\G\in\Omega$ より任意の $D\in\G$ について $C\cap D=\emptyset$。また $\mathcal{E}$ の定義より $C\in\mathcal{E}$ となり $K$ のとりかたより $\diam C\le t\diam K$ となり、仮定より $C\cap K=\emptyset$。

これより $\G\cup\{K\}\in\Omega$ となるが、任意の $D\in\G$ について $K\cap D=\emptyset$ であるから $K\notin\G$ でありこれは $\G$ の極大性に矛盾。

従って任意の $C\in\F$ について $D\in\G$ が存在して $C\cap D\neq\emptyset$ かつ $\diam C\le t\diam D$ となる。このとき $x\in C$ について $\dist(x,D)\le\diam C\le t\diam D$ となるので $C\subset\widehat{D}$ も成り立つ。

(2)を示す。$\F_\delta$ を $\{C\in\F\colon\diam C\le\delta\}$ とする。(1)より $\G\subset\F_\delta$ を

  • $D,D'\in\G,D\neq D'\implies D\cap D'=\emptyset$、かつ
  • 任意の $C\in\F_\delta$ について $D\in\G$ が存在し $C\cap D\neq\emptyset$ かつ $C\subset\widehat{D}$

となるようにとれる。

$\G'\subset\G$ を有限部分集合とすると $\bigcup_{D\in\G'}D$ は閉集合である。$x\in A\backslash\bigcup_{D\in\G'}D$ とし、$\varepsilon\in(0,\delta)$ を $B_\varepsilon(x)\subset X\backslash\bigcup_{D\in\G'}D$ となるようにとる。(\ref{finecov})より $x\in C$ かつ $\diam C\lt\varepsilon$ をみたす $C\in\F$ が存在し、$\varepsilon\lt\delta$ より $C\in\F_\delta$。また $C\subset B_\varepsilon(x)$ より $C\cap\bigcup_{D\in\G'}D=\emptyset$。$D\in\G$ を $C\cap D\neq\emptyset$ かつ $C\subset\widehat{D}$ となるようにとる。任意の $D'\in\G'$ について $C\cap D'=\emptyset$ であるから $D\notin\G'$ で、$x\in C\subset\widehat{D}$。これより $$A\backslash\bigcup_{D\in\G'}D\subset\bigcup_{D\in\G\backslash\G'}\widehat{D}$$ が成り立つ。

注意

  • $E\subset X$ について $\diam\widehat{E}\le(2t+1)\diam E$ が成り立つ。
  • とくに各 $C\in\F$ が閉球で $t=2$ の場合の主張がよく用いられる。このとき $C\in\F$ を $C=\Bb_{r}(x)$ と表すと $\widehat{C}=\Bb_{5r}(x)$ である。
  • (1)の条件 $\sup_{C\in\F}\diam C\lt\infty$ は外すことができない。例えば $X=\R^n$、$\F=\{\Bb_r(0)\colon r\gt 0\}$、$t=2$ とすると $C,C'\in\G,C\neq C'\implies C\cap C'=\emptyset$ をみたす $\G\subset\F$ は $\{B\}=\{\Bb_r(0)\}\ (r\gt 0)$ に限られるが、$R\gt 5r$ とすると $\Bb_R(0)\in\F$、$\Bb_R(0)\not\subset\widehat{B}$ である。
  • (\ref{finecov})をみたす $\F$ は $A$ に関するVitali class、$A$ のVitali被覆、$A$ の「細かい被覆」(fine cover)などと呼ばれる。
  • $X$ が可分で各 $C\in\F$ が内点をもつとき、$\G$ は高々可算である。実際、$Q\subset X$ を可算稠密部分集合とすると各 $D\in\G$ について $D\cap Q\neq\emptyset$ で、$q_D\in D\cap Q$ とすると $D,D'\in\G,D\neq D'\implies D\cap D'=\emptyset\implies q_D\neq q_{D'}$ となり、$D\mapsto q_D$ は $\G$ から $Q$ への単射となる。

参考文献

  • Lawrence C.Evans,Ronald F.Gariepy「Measure Theory and Fine Properties of Functions,Revised Edition」
  • Herbert Federer「Geometric Measure Theory」
  • Kenneth J.Falconer「The geometry of fractal sets」