半位相群(semitopological group)とは、群に位相が与えられ、左右の平行移動 $x\mapsto ax$、$x\mapsto xa$ がすべて連続であるもの、すなわち積が各変数ごとに連続であるもののことである。これに逆元の連続性を加えたものが準位相群、積の 2 変数での連続性を要求したものがパラ位相群であり、両方を満たすものがちょうど位相群である。半位相群では平行移動が同相写像なので、積が $(e,e)$ で連続なら積は全体で連続になり、逆元をとる写像が $e$ で連続ならそれも全体で連続になる。有限な半位相群は位相群であり、局所コンパクトな Hausdorff 半位相群も位相群になる(Ellis の定理)。
半位相群は、群に位相を入れ、積を「片方の変数を固定するごとに」連続にしたものである。位相群では積 $(x,y)\mapsto xy$ が 2 変数の写像として連続で、逆元をとる写像も連続であることを要求するが、半位相群は左右の平行移動 $x\mapsto ax$、$x\mapsto xa$ の連続性だけを要求する。これに逆元の連続性を加えたものが準位相群、積の 2 変数での連続性を要求したものがパラ位相群であり、両方を満たすものがちょうど位相群である。
半位相群でも平行移動は同相写像なので、位相は単位元の近傍で決まる。この記事では、積や逆元が単位元で連続でありさえすれば全体で連続になることを証明し、3 つのクラスの違いを例で示す。局所コンパクトな Hausdorff 半位相群は自動的に位相群になる(Ellis の定理)。
群 $G$ の単位元を $e$、積を $\mu\colon G\times G\to G$、$\mu(x,y)=xy$、逆元をとる写像を $\iota\colon G\to G$、$\iota(x)=x^{-1}$ と書く。$a\in G$ について、左移動を $L_a(x):=ax$、右移動を $R_a(x):=xa$ と書く。$G\times G$ には直積位相を入れる。
$a\in G$ について $L_a=\mu\circ j_a$($j_a(x)=(a,x)$ は連続)なので、パラ位相群は半位相群である。したがって 4 つの段階は次の表のように並ぶ。位相群であることは、準位相群かつパラ位相群であることと同値である。
| 名前 | 平行移動の連続性 | 逆元 $\iota$ の連続性 | 積 $\mu$ の 2 変数での連続性 |
|---|---|---|---|
| 半位相群 | 要求する | 要求しない | 要求しない |
| 準位相群 | 要求する | 要求する | 要求しない |
| パラ位相群 | 要求する(積の連続性から従う) | 要求しない | 要求する |
| 位相群 | 要求する(積の連続性から従う) | 要求する | 要求する |
部分集合 $A,B\subset G$ と $g\in G$ について $AB:=\{ab\mid a\in A,\ b\in B\}$、$gA:=\{g\}A$、$Ag:=A\{g\}$、$A^{-1}:=\{a^{-1}\mid a\in A\}$ と書き、$\overline A$ で閉包を表す。点 $g$ の近傍全体を $\mathcal N(g)$ と書く。
$G$ を半位相群とする。
1:$L_a$ は連続で、逆写像 $L_{a^{-1}}$ も連続なので同相写像である。$R_a$ も同様であり、共役は $L_a\circ R_{a^{-1}}$ なので同相写像である。2:$AU=\bigcup_{a\in A}L_a(U)$ は開集合の和集合である。同相写像は閉包を閉包に写すので $\overline{gA}=L_g(\overline A)=g\overline A$ である。$UA$、$\overline{Ag}$ も同様である。3:$L_g$ は $e$ を $g$ に写す同相写像なので、$e$ の近傍を $g$ の近傍に、$g$ の近傍を $L_{g^{-1}}$ で $e$ の近傍に写す。$R_g$ についても同様である。4:$T_1$ なら $\{e\}$ は閉集合である。逆に $\{e\}$ が閉なら、$\{g\}=L_g(\{e\})$ も閉集合である。$\square$
半位相群の公理は「点 $g$ のまわりは、平行移動で単位元のまわりと同じに見える」ことだけを述べている。$\mathbb{R}$ 上の関数で、各変数については連続だが 2 変数では連続でないもの($f(x,y)=xy/(x^2+y^2)$、$f(0,0)=0$ など)があるように、積が各変数ごとに連続であっても 2 変数で連続とは限らない。半位相群・準位相群・パラ位相群は、位相群の公理のどの部分が残りから従わないかを調べるための枠組みである。
その一方、群構造の一様さのために、連続性は単位元の 1 点で調べれば足りる(thm-stg-identity)。また、空間に十分な「大きさの制限」があると公理の欠けた部分が自動的に回復する。有限群の場合(prop-stg-finite)と、局所コンパクトな Hausdorff 空間の場合(thm-stg-ellis)がその例である。
$\mathbb{Z}_{\mathrm{cof}}$ を、整数の加法群に余有限位相を入れたものとする。直積 $G:=\mathbb{R}_L\times\mathbb{Z}_{\mathrm{cof}}$ に直積位相を入れると、$G$ は半位相群であるが、準位相群でもパラ位相群でもない。
実際、$L_{(a,b)}=L_a\times L_b$ は連続写像の直積なので連続であり、$R_{(a,b)}$ も同様である(一般の直積については prop-stg-constructions の 2)。$j(x):=(x,0)$、$k(y):=(0,y)$ はそれぞれ $\mathbb{R}_L$、$\mathbb{Z}_{\mathrm{cof}}$ から $G$ への連続写像で、射影を $p$、$q$ とすると、$\mathbb{R}_L$ の逆元をとる写像は $p\circ\iota_G\circ j$、$\mathbb{Z}_{\mathrm{cof}}$ の加法は $q\circ\mu_G\circ(k\times k)$ に等しい。$\iota_G$ が連続なら前者が連続になり例「位相群・準位相群・パラ位相群」の 3 に反し、$\mu_G$ が連続なら後者が連続になり同じ例の 2 に反する。
有限群 $G$ が半位相群ならば、$G$ は位相群である。さらに、$e$ を含む最小の開集合 $U$ は正規部分群であり、$G$ の開集合は $U$ の剰余類の和集合にほかならない。
$G$ の部分集合は有限個しかないので、$e$ を含む開集合全体の共通部分 $U$ は開集合であり、$e$ を含む最小の開集合である。prop-stg-translations の 1 により $L_g$、$R_g$ は開集合の包含関係を保つ同相写像なので、$gU$ と $Ug$ はどちらも $g$ を含む最小の開集合であり、$gU=Ug$ である。$u\in U$ なら $U$ は $u$ を含む開集合なので $uU\subset U$ である。よって $UU\subset U$ であり、$x\mapsto ux$ は有限集合 $U$ から $U$ への単射なので全単射で、$ux=e$ となる $x\in U$ があるから $u^{-1}\in U$ である。したがって $U$ は部分群で、$gU=Ug$ から正規部分群である。開集合 $W$ は、各点 $w\in W$ について $wU\subset W$ を満たすので剰余類の和集合であり、逆に剰余類 $gU$ は開集合である。
積:$W$ を $ab$ を含む開集合とすると $abU\subset W$ であり、$aU$、$bU$ はそれぞれ $a$、$b$ の近傍で $(aU)(bU)=a(Ub)U=abUU=abU\subset W$ である。逆元:$W$ を $a^{-1}$ を含む開集合とすると $a^{-1}U\subset W$ であり、$(aU)^{-1}=U^{-1}a^{-1}=Ua^{-1}=a^{-1}U\subset W$ である。よって $\mu$、$\iota$ は連続である。$\square$
$G$ を半位相群とする。
1:$(a,b)\in G\times G$ とし、$W$ を $ab$ の近傍とする。prop-stg-translations の 1 により $L_{a^{-1}}\circ R_{b^{-1}}$ は $ab$ を $e$ に写す同相写像なので、$W':=a^{-1}Wb^{-1}$ は $e$ の近傍である。$\mu$ は $(e,e)$ で連続なので、$e$ の近傍 $U,V$ で $UV\subset W'$ となるものがある。$aU$ は $a$ の近傍、$Vb$ は $b$ の近傍であり(prop-stg-translations の 3)、
$$
(aU)(Vb)=a(UV)b\subset aW'b=W
$$
である。よって $\mu$ は $(a,b)$ で連続である。
2:$a\in G$ とし、$W$ を $a^{-1}$ の近傍とする。$R_a$ は $a^{-1}$ を $e$ に写す同相写像なので、$Wa$ は $e$ の近傍である。$\iota$ は $e$ で連続なので、$e$ の近傍 $U$ で $U^{-1}\subset Wa$ となるものがある。$aU$ は $a$ の近傍であり、$u\in U$ について $(au)^{-1}=u^{-1}a^{-1}\in(Wa)a^{-1}=W$ である。よって $\iota$ は $a$ で連続である。
3:$x\in G$ とし、$W$ を $f(x)$ の近傍とする。$H$ の左移動は同相写像なので $f(x)^{-1}W$ は $H$ の単位元 $f(e)$ の近傍であり、$e$ の近傍 $N$ で $f(N)\subset f(x)^{-1}W$ となるものがある。$xN$ は $x$ の近傍で、$f(xN)=f(x)f(N)\subset W$ である。よって $f$ は $x$ で連続である。
最後の主張は、1 と 2 から従う(逆向きは定義から明らかである)。$\square$
この定理の 1 と 2 で、半位相群であるという仮定は外せない。平行移動が連続でないと、単位元での様子を他の点へ運べないからである(ex-stg-not-semitopological)。
整数の加法群 $\mathbb{Z}$ と $c\in\mathbb{Z}$ について、$c$ を含まない部分集合と $\mathbb{Z}$ 自身を開集合とする位相 $\tau_c$ を考える(和集合は、$\mathbb{Z}$ を含むなら $\mathbb{Z}$、含まないなら $c$ を含まない集合であり、有限個の共通部分も同様なので位相である)。$c$ の近傍は $\mathbb{Z}$ だけで、$c$ 以外の点 $x$ については $\{x\}$ が開集合である。$x\ne c$ について $\{x\}$ は開集合であるが、左移動 $L_{x-c}$ による逆像は $\{c\}$ で開集合でないので、$L_{x-c}$ は連続でなく、$(\mathbb{Z},\tau_c)$ は半位相群でない。それでも単位元での連続性は成り立ちうる。
$G$ を半位相群とする。
1:$h\in H$ について、$L_h$ の $H$ への制限は連続で値が $H$ に入るので、$H$ に値をとる写像として連続である。$R_h$ も同様である。
2:$a=(a_i)$ について $L_a=\prod_iL_{a_i}$ であり、各成分が連続なので直積位相の普遍性により連続である。$R_a$ も同様である。$i\in I$ を固定し、$j\colon G_i\to\prod G_k$ を第 $i$ 成分以外を単位元とする埋め込み、$p\colon\prod G_k\to G_i$ を射影とすると、$j$ と $p$ は連続で、$G_i$ の逆元をとる写像は $p\circ\iota\circ j$、積は $p\circ\mu\circ(j\times j)$ に等しい。よって直積の $\iota$($\mu$)が連続なら $G_i$ の $\iota$($\mu$)も連続である。
3:$e\in H\subset\overline H$ である。$h\in H$ について、prop-stg-translations の 2 により $h\overline H=\overline{hH}=\overline H$ なので、$H\overline H\subset\overline H$ である。次に $b\in\overline H$ について、$Hb\subset\overline H$ だから $\overline Hb=\overline{Hb}\subset\overline H$ である。よって $\overline H\,\overline H\subset\overline H$ である。$H$ が正規なら、共役 $c_g(x)=gxg^{-1}$ は同相写像なので $g\overline Hg^{-1}=\overline{gHg^{-1}}=\overline H$ である。
4:$U\subset G$ が開集合なら $\pi^{-1}(\pi(U))=UN$ は開集合なので(prop-stg-translations の 2)、商位相の定義により $\pi(U)$ は開集合である。$g\in G$ について $L_{gN}\circ\pi=\pi\circ L_g$ なので、$G/N$ の開集合 $W$ について $\pi^{-1}(L_{gN}^{-1}(W))=L_g^{-1}(\pi^{-1}(W))$ は開集合であり、商位相の定義により $L_{gN}^{-1}(W)$ は開集合である。$R_{gN}$ も同様である。$\pi$ は商写像として連続な準同型である。$\square$
3 で $\overline H$ は積と単位元について閉じているが、部分群になるとは限らない。例「位相群・準位相群・パラ位相群」の 4 の $\mathbb{Z}$ では、閉集合は $\emptyset$、$\mathbb{Z}$ と $\mathbb{Z}_{\le n}$ であり、$\overline{\{0\}}=\mathbb{Z}_{\le0}$ は $-1$ を含むがその逆元 $1$ を含まない。準位相群では閉包は部分群になる(準位相群 の定理「準位相群の基本性質」)。
prop-stg-translations の 4 のとおり、半位相群が $T_1$ であることは $\{e\}$ が閉集合であることと同値である。しかし位相群と違い、$T_0$・$T_1$・Hausdorff の 3 条件は同値にならない。例「位相群・準位相群・パラ位相群」の 4 の $\mathbb{Z}$ は $T_0$ であるが $T_1$ でなく、同じ例の 2 の無限群の余有限位相は $T_1$ であるが Hausdorff でない(余有限位相 の記事の例「反例:$T_1$ だが Hausdorff でない空間」)。
局所コンパクト(局所コンパクト空間)な Hausdorff 半位相群は位相群である。
この記事では証明しない。証明は次の 2 段からなる。まず、Namioka の定理(Nam74 Theorem 3.1、p. 523)を、$G$ が $G$ 自身に左からの積で作用する場合に当てると、局所コンパクトな Hausdorff 半位相群の積 $\mu$ が 2 変数で連続であること、すなわち $G$ がパラ位相群であることが従う(定理の仮定は、$G$ が strongly countably complete かつ正則で、作用される空間が局所コンパクトかつ正則であることである。局所コンパクトな Hausdorff 空間は正則であり、strongly countably complete であることは同論文 p. 517 に述べられている)。次に、局所コンパクトな Hausdorff パラ位相群では逆元をとる写像が連続である(Ell57 Theorem、p. 373)。積の連続性については Namioka の証明は Baire の範疇定理型の議論による。
コンパクトな Hausdorff パラ位相群の場合は、パラ位相群 の記事で完全に証明している(定理「コンパクトな Hausdorff パラ位相群は位相群」)。有限群の場合は、Hausdorff 性なしに prop-stg-finite が成り立つ。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 半位相群であること(thm-stg-identity の 1) | $(\mathbb{Z},\tau_0)$ | $(e,e)$ での連続性から $\mu$ の連続性が従うこと |
| 半位相群であること(thm-stg-identity の 2) | $(\mathbb{Z},\tau_1)$ | $e$ での連続性から $\iota$ の連続性が従うこと |
| 定義域が半位相群であること(thm-stg-identity の 3) | 恒等写像 $(\mathbb{Z},\tau_1)\to(\mathbb{Z},\text{離散位相})$ | $e$ での連続性から $f$ の連続性が従うこと |
| 有限群であること(prop-stg-finite) | $\mathbb{R}_L$ の加法群 | 位相群であること |
| 局所コンパクトであること(thm-stg-ellis) | $\mathbb{R}_L$ の加法群 | 位相群であること |
| Hausdorff であること(thm-stg-ellis) | $\mathbb{Z}_{\mathrm{cof}}$ | 位相群であること |
1〜3 行目は ex-stg-not-semitopological による。4・5 行目:$\mathbb{R}_L$ の加法群は位相群でない(例「位相群・準位相群・パラ位相群」の 3)。$\mathbb{R}_L$ は Hausdorff であり(通常の位相より細かい。Sorgenfrey直線 の命題「通常の位相より真に細かい」)、局所コンパクトでない(同記事の系「コンパクト性の各種条件の不成立」)。6 行目:無限集合上の余有限位相はコンパクトなので(余有限位相 の命題「部分集合のコンパクト性」)各点がコンパクト近傍をもち(局所コンパクト空間 の定義から Hausdorff 性を除いた条件。同記事の定義は Hausdorff 性を含む)、$\mathbb{Z}_{\mathrm{cof}}$ は半位相群であるが位相群でない(例「位相群・準位相群・パラ位相群」の 2)。
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