四元数射影空間

同義語:quaternionic projective space

概要

四元数射影空間(quaternionic projective space)とは、四元数を右から掛ける右ベクトル空間 $\mathbb{H}^{n+1}$ の 1 次元部分空間の全体 $\mathbb{HP}^n$ で、単位球面 $S^{4n+3}$ を単位四元数の群 $S^3$ で割った $4n$ 次元の閉多様体である。次元 $0,4,\dots,4n$ に胞体を 1 つずつもち、$\mathbb{HP}^1$ は 4 次元球面になる。整数係数のコホモロジー環は $\mathbb{Z}[u]/(u^{n+1})$($u$ は 4 次)で、Poincaré 双対から求まる。$\mathbb{HP}^2$ が $S^4\vee S^8$ とホモトピー同値でないことから、四元数の Hopf 写像は定値写像とホモトピックでない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 四元数, 射影空間, CW複体, Poincaré双対

実数や複素数の代わりに四元数を係数にして射影空間を作ったものが 四元数射影空間(quaternionic projective space)$\mathbb{HP}^n$ である。$\mathbb{H}^{n+1}$ の $1$ 次元の四元数部分空間の全体で、$4n$ 次元の閉多様体になる。四元数の掛け算は可換でないので、スカラーを右から掛けるか左から掛けるかを決めて定義する。結合法則は必要であり、八元数では同じ構成ができない。
$\mathbb{HP}^n$ は次元 $0,4,8,\dots,4n$ に胞体を 1 つずつもち、整数係数のコホモロジー環は $\mathbb{Z}[u]/(u^{n+1})$($|u|=4$)である。$\mathbb{HP}^1$ は $4$ 次元球面であり、$\mathbb{HP}^2$ の $8$ 次元の胞体の貼り付け写像は四元数の Hopf 写像 $S^7\to S^4$ である。この記事では、多様体の構造と胞体の構造を確かめ、コホモロジー環を Poincaré双対 から求める。応用として、Hopf 写像が定値写像とホモトピックでないこと、コホモロジー群が同じで環が異なる空間の組を示す。$n\to\infty$ の極限は 無限次元射影空間 で扱う。

定義

$\mathbb{H}$ の共役を $q\mapsto\bar q$、絶対値を $|q|$ と書く($\overline{pq}=\bar q\,\bar p$、$q\bar q=|q|^2$)。$\mathbb{H}^{n+1}$ には四元数を右から掛けて右 $\mathbb{H}$ ベクトル空間の構造を入れ、$\|x\|^2:=\sum_i|x_i|^2$ とおく。

四元数射影空間

$n\ge0$ とする。単位球面 $S^{4n+3}=\{x\in\mathbb{H}^{n+1}\mid\|x\|=1\}$ 上の同値関係を「$y=x\lambda$ となる $\lambda\in\mathbb{H}$、$|\lambda|=1$ がある」で定め、その商空間を四元数射影空間 $\mathbb{HP}^n$ という。$x$ の類を $[x_0:\dots:x_n]$ と書く。点は $\mathbb{H}^{n+1}$ の $1$ 次元右部分空間 $x\mathbb{H}$ と一対一に対応する。

推移律は $(x\lambda)\mu=x(\lambda\mu)$、すなわち四元数の結合法則による。$\mathbb{H}^{n+1}\setminus\{0\}$ を $x\sim x\lambda$($\lambda\ne0$)で割っても、正規化 $x\mapsto x/\|x\|$ により同じ空間が得られる。左からの掛け算で割った空間とは、成分ごとの共役 $x\mapsto\bar x$ が同相写像を与えるので、どちらで定義しても同じである。$\mathbb{HP}^n\subset\mathbb{HP}^{n+1}$ を最後の成分が $0$ の点の全体とみる。

性質

多様体と胞体の構造

閉多様体の構造

$\mathbb{HP}^n$ はコンパクト Hausdorff 空間で、$U_i:=\{[x]\mid x_i\ne0\}$ と
$$ \psi_i\colon U_i\to\mathbb{H}^n,\qquad\psi_i([x]):=(x_jx_i^{-1})_{j\ne i} $$
は座標近傍系を与え、座標変換は $C^\infty$ 級である。したがって $\mathbb{HP}^n$ は $4n$ 次元の $C^\infty$ 級閉多様体である。また $\mathbb{HP}^1$ は $4$ 次元球面 $S^4$ と同相である。

コンパクト性は $S^{4n+3}$ の連続像であることから、Hausdorff 性は 無限次元射影空間 の定理「位相と胞体の構造」の 2 の証明(関数 $x_i\bar x_j$ で点を分ける)から従う。$(x_j\lambda)(x_i\lambda)^{-1}=x_j\lambda\lambda^{-1}x_i^{-1}=x_jx_i^{-1}$ なので $\psi_i$ は矛盾なく定まり、$\{x\mid x_i\ne0\}$ 上の連続写像から誘導されるので連続である。$U_i$ は開集合である(その逆像は開)。逆写像は $w\mapsto[w_0:\dots:1:\dots:w_n]$(第 $i$ 成分が $1$)で、連続である。座標変換 $\psi_k\circ\psi_i^{-1}$ は、$w_k\ne0$ となる点で $w\mapsto(w_jw_k^{-1})_{j\ne k}$($w_i:=1$)であり、成分は $\mathbb{R}^4$ の座標の多項式を $|w_k|^2$ で割ったもの($w_k^{-1}=\bar w_k/|w_k|^2$)なので $C^\infty$ 級である。
$n=1$ のとき、$\mathbb{HP}^1=U_0\sqcup\{[0:1]\}$ で $U_0\cong\mathbb{H}\cong\mathbb{R}^4$ である。$\mathbb{HP}^1$ はコンパクト Hausdorff で $U_0$ は開かつ稠密なので、$\mathbb{HP}^1$ は $\mathbb{R}^4$ の一点コンパクト化であり、$S^4$ と同相である(n次元球面 の命題「Euclid 空間の一点コンパクト化」)。

胞体の構造

$\mathbb{HP}^n$ は $\mathbb{HP}^{n-1}$ に、射影 $S^{4n-1}\to\mathbb{HP}^{n-1}$ を貼り付け写像として $4n$ 次元の胞体を 1 つ貼り付けた空間である。とくに $\mathbb{HP}^n$ は次元 $0,4,\dots,4n$ に胞体を 1 つずつもつ CW 複体で、$\mathbb{HP}^k$($k\le n$)は部分複体である。

無限次元射影空間 の定理「位相と胞体の構造」の 3 で $\mathbb{F}=\mathbb{H}$ とすればよい。特性写像は $D^{4n}\ni w\mapsto[w_0:\dots:w_{n-1}:\sqrt{1-|w|^2}\,]$ であり、第 $n$ 成分が $0$ でない点は、右から単位四元数を掛けて第 $n$ 成分を正の実数にする代表がただ 1 つに決まることから、開いた胞体と一対一に対応する。

Hat02 p. 222 も同じ構造を与えている。$n=2$ の貼り付け写像 $S^7\to\mathbb{HP}^1\cong S^4$、$(x_0,x_1)\mapsto[x_0:x_1]$ は四元数の Hopf 写像である(球面のホモトピー群 の命題「四元数の Hopf 束と $\pi_7(S^4)$」)。

ホモロジー群

$$ H_k(\mathbb{HP}^n;\mathbb{Z})\cong H^k(\mathbb{HP}^n;\mathbb{Z})\cong\begin{cases}\mathbb{Z}&(k=0,4,8,\dots,4n)\\0&(\text{それ以外})\end{cases} $$
であり、Euler 標数は $\chi(\mathbb{HP}^n)=n+1$ である。

胞体鎖複体(胞体ホモロジー)は次数 $4k$($0\le k\le n$)で $\mathbb{Z}$、それ以外で $0$ である。隣り合う次数の一方は必ず $0$ なので境界写像はすべて $0$ で、ホモロジーは鎖複体そのものになる(胞体ホモロジー の定理「胞体ホモロジーと特異ホモロジーの同型」)。ホモロジーが自由なので、普遍係数定理により $H^k\cong\operatorname{Hom}(H_k,\mathbb{Z})$ である。Euler 標数は偶数次元の胞体の個数 $n+1$ である。

コホモロジー環

四元数射影空間のコホモロジー環

$u\in H^4(\mathbb{HP}^n;\mathbb{Z})$ を生成元とすると、カップ積について
$$ H^*(\mathbb{HP}^n;\mathbb{Z})\cong\mathbb{Z}[u]/(u^{n+1}) $$
である。すなわち $0\le k\le n$ について $u^k$ が $H^{4k}(\mathbb{HP}^n;\mathbb{Z})$ を生成し、$u^{n+1}=0$ である。

Poincaré 双対で最上次を捉える

係数 $\mathbb{Z}$ を省略する。まず $\mathbb{HP}^n$ は向き付け可能である。実際 qps-prop-manifold により $4n$ 次元閉多様体で、連結な $S^{4n+3}$ の像なので連結であり、qps-cor-homology により $H_{4n}(\mathbb{HP}^n)\cong\mathbb{Z}\ne0$ であり、向き付け可能でない連結閉多様体の最上次の整係数ホモロジーは $0$ だからである(Hat02 Theorem 3.26, p. 236)。基本類を $[\mathbb{HP}^n]$ とする。
$n$ についての帰納法で示す。$n=1$ では $\mathbb{HP}^1\cong S^4$ で、$u^2\in H^8=0$ なので主張は成り立つ。$n\ge2$ とし、包含 $i\colon\mathbb{HP}^{n-1}\hookrightarrow\mathbb{HP}^n$ を考える。$\mathbb{HP}^{n-1}$ は $\mathbb{HP}^n$ の $(4n-1)$ 骨格なので $j\le4n-1$ で $H^j(\mathbb{HP}^n,\mathbb{HP}^{n-1})=0$ であり(Hat02 p. 203、Theorem 3.5 の証明)、対の長完全列から $i^*\colon H^j(\mathbb{HP}^n)\to H^j(\mathbb{HP}^{n-1})$ は $j\le4n-2$ で同型である。$4\le4n-2$ なので $i^*u$ は $H^4(\mathbb{HP}^{n-1})$ の生成元であり、$i^*$ は環準同型だから、帰納法の仮定により $k\le n-1$ について $i^*(u^k)=(i^*u)^k$ は $H^{4k}(\mathbb{HP}^{n-1})$ を生成する。$4k\le4n-4$ なので、$u^k$ は $H^{4k}(\mathbb{HP}^n)$ を生成する。
残る $k=n$ を示す。$H^*(\mathbb{HP}^n)$ は捩れをもたないので、Poincaré双対 の命題「整係数のカップ積の対」により、$\langle a,b\rangle:=(a\smile b)([\mathbb{HP}^n])$ で定まる対 $H^4\times H^{4n-4}\to\mathbb{Z}$ はユニモジュラーである。両辺は $u$ と $u^{n-1}$ で生成される階数 $1$ の自由加群なので、$u^n([\mathbb{HP}^n])=\langle u,u^{n-1}\rangle=\pm1$ である。普遍係数定理と $H_{4n}=\mathbb{Z}[\mathbb{HP}^n]$ により $\theta\mapsto\theta([\mathbb{HP}^n])$ は同型 $H^{4n}\to\mathbb{Z}$ なので、$u^n$ は $H^{4n}$ の生成元である。$u^{n+1}\in H^{4n+4}=0$ である。よって $u\mapsto u$ で定まる環準同型 $\mathbb{Z}[u]/(u^{n+1})\to H^*(\mathbb{HP}^n)$ は各次数で同型である。

同じ論法は $\mathbb{CP}^n$ に対して 複素射影空間 の定理「複素射影空間のコホモロジー環」の証明で使われており、その要点は Poincaré双対 の例「複素射影空間のコホモロジー環」にもある。Hat02 p. 222 は、$\mathbb{RP}^n$・$\mathbb{CP}^n$ に対する Theorem 3.19 の証明(p. 220)が $\mathbb{HP}^n$ にもそのまま通ると述べている。$n\to\infty$ では $H^*(\mathbb{HP}^\infty;\mathbb{Z})\cong\mathbb{Z}[u]$ となる(無限次元射影空間 の定理「無限次元射影空間のコホモロジー環」)。

複素射影空間からの引き戻し

$\mathbb{C}=\mathbb{R}+\mathbb{R}i\subset\mathbb{H}$ とみて、四元数を $q=a+jb$($a,b\in\mathbb{C}$)と書く。$\lambda\in\mathbb{C}$ について $(a+jb)\lambda=a\lambda+j(b\lambda)$ であり、$|a+jb|^2=|a|^2+|b|^2$ である。したがって
$$ \iota\colon\mathbb{C}^{2n+1}\to\mathbb{H}^{n+1},\qquad\iota(z_0,\dots,z_{2n}):=(z_0+jz_1,\ \dots,\ z_{2n-2}+jz_{2n-1},\ z_{2n}) $$
は実線形な等長写像で、右からの複素数倍と両立する($\iota(z\lambda)=\iota(z)\lambda$)。

$\mathbb{CP}^{2n}$ からの引き戻し

$n\ge1$ とし、$\pi\colon\mathbb{CP}^{2n}\to\mathbb{HP}^n$ を $\pi([z]):=[\iota(z)]$ で定める。

  1. $\pi$ は矛盾なく定まる連続写像である。$0\le r\le n$ について $\pi(\mathbb{CP}^{2r})\subset\mathbb{HP}^r$、$\pi(\mathbb{CP}^{2r-1})\subset\mathbb{HP}^{r-1}$($r\ge1$)であり、$\pi$ は $\mathbb{CP}^{2r}\setminus\mathbb{CP}^{2r-1}$ を $\mathbb{HP}^r\setminus\mathbb{HP}^{r-1}$ の上へ全単射に写す。
  2. $0\le r\le n$ について $\pi^*\colon H^{4r}(\mathbb{HP}^n;\mathbb{Z})\to H^{4r}(\mathbb{CP}^{2n};\mathbb{Z})$ は同型である。とくに生成元 $u$ を $\pi^*u=h^2$ となるように選べ($h$ は 複素射影空間 の超平面類)、$\pi^*(u^r)=h^{2r}$ である。
  3. $\gamma,\alpha$ をそれぞれ $u,h$ の $\mathbb{F}_3$ 係数への還元とすると、$H^*(\mathbb{HP}^n;\mathbb{F}_3)=\mathbb{F}_3[\gamma]/(\gamma^{n+1})$、$\pi^*\gamma=\alpha^2$ であり、$0\le r\le n$ で $\pi^*(\gamma^r)=\alpha^{2r}\ne0$ である。

要点:$\pi$ は胞体を胞体へ写し、$4r$ 次元の開いた胞体どうしを全単射に対応させる。そのため $4r$ 次元の胞体をつぶした球面どうしが同相になり、$H^{4r}$ の引き戻しが同型になる。$\mathbb{F}_3$ 係数の主張は、整数係数のコホモロジーが自由なので還元から従う。

詳しい証明を開く

1.$\iota$ は等長なので単位球面 $S^{4n+1}\subset\mathbb{C}^{2n+1}$ を $S^{4n+3}\subset\mathbb{H}^{n+1}$ へ写し、$\iota(z\lambda)=\iota(z)\lambda$ なので、絶対値 $1$ の複素数倍で移り合う点を単位四元数倍で移り合う点へ写す。$\mathbb{CP}^{2n}$ は $S^{4n+1}$ の商空間なので(複素射影空間 の定義の後の段落)、$\pi$ は矛盾なく定まり連続である。$z\in\mathbb{C}^{2r+1}\times\{0\}$ なら $\iota(z)$ の第 $r$ 成分は $z_{2r}$ で、それより後の成分は $0$ なので、$\pi(\mathbb{CP}^{2r})\subset\mathbb{HP}^r$ であり、さらに $z_{2r}=0$ なら $\pi([z])\in\mathbb{HP}^{r-1}$ である。$\mathbb{CP}^{2r}\setminus\mathbb{CP}^{2r-1}$ の点は $z_{2r}=1$ となる代表 $(z_0,\dots,z_{2r-1},1)$ をただ一つもち、$\mathbb{HP}^r\setminus\mathbb{HP}^{r-1}$ の点は第 $r$ 成分が $1$ の代表 $(q_0,\dots,q_{r-1},1)$ をただ一つもつ(右から $q_r^{-1}$ を掛ける)。$\pi$ はこの代表どうしを、実線形な全単射 $\mathbb{C}^{2r}\to\mathbb{H}^r$、$(z_0,\dots,z_{2r-1})\mapsto(z_0+jz_1,\dots,z_{2r-2}+jz_{2r-1})$ で対応させるので、全単射である。

2.$r=0$ では両辺とも連結な空間の $H^0\cong\mathbb{Z}$ で、$\pi^*$ は同型である。$r\ge1$ とする。1 により $\pi$ は対の写像 $(\mathbb{CP}^{2r},\mathbb{CP}^{2r-1})\to(\mathbb{HP}^r,\mathbb{HP}^{r-1})$ を与え、つぶした空間の間に連続な全単射 $\mathbb{CP}^{2r}/\mathbb{CP}^{2r-1}\to\mathbb{HP}^r/\mathbb{HP}^{r-1}$ を誘導する。前者はコンパクトで、後者は $4r$ 胞体を $1$ つもつ CW 複体(qps-prop-cw)なので Hausdorff であり、これは同相写像である。CW 対は良い対なので、相対コホモロジーはつぶした空間の被約コホモロジーと自然に同型であり(Hat02 Proposition 2.22、p. 124 のコホモロジー版)、$\pi^*\colon H^{4r}(\mathbb{HP}^r,\mathbb{HP}^{r-1})\to H^{4r}(\mathbb{CP}^{2r},\mathbb{CP}^{2r-1})$ は同型である。対の長完全列で、$\mathbb{HP}^{r-1}$ の $H^{4r-1}$ と $H^{4r}$ は $0$(qps-cor-homology)、$\mathbb{CP}^{2r-1}$ の $H^{4r-1}$ と $H^{4r}$ も $0$(複素射影空間 の命題「コホモロジー群と制限」の 1)なので、$H^{4r}(\mathbb{HP}^r,\mathbb{HP}^{r-1})\to H^{4r}(\mathbb{HP}^r)$ と $H^{4r}(\mathbb{CP}^{2r},\mathbb{CP}^{2r-1})\to H^{4r}(\mathbb{CP}^{2r})$ は同型である。さらに制限 $H^{4r}(\mathbb{HP}^n)\to H^{4r}(\mathbb{HP}^r)$ は qps-prf-ring の帰納法の段の同型の合成であり、$H^{4r}(\mathbb{CP}^{2n})\to H^{4r}(\mathbb{CP}^{2r})$ は同命題の 2 の同型の合成である。これらの写像はすべて $\pi$ と可換なので、$\pi^*\colon H^{4r}(\mathbb{HP}^n)\to H^{4r}(\mathbb{CP}^{2n})$ は同型である。$H^4(\mathbb{CP}^{2n})$ は $h^2$ で生成されるので(複素射影空間 の定理「複素射影空間のコホモロジー環」)、$\pi^*u=\pm h^2$ であり、必要なら $u$ を $-u$ に替えて $\pi^*u=h^2$ とできる。$\pi^*$ は環準同型なので $\pi^*(u^r)=h^{2r}$ である。

3.$X=\mathbb{HP}^n,\mathbb{CP}^{2n}$ の整係数ホモロジーは各次数で有限生成自由なので、普遍係数定理により $H^k(X;G)\cong\operatorname{Hom}(H_k(X),G)$ が自然に成り立つ。$\mathbb{Z}\to\mathbb{F}_3$ による係数の還元 $\rho$ は、この同一視で $\operatorname{Hom}(H_k(X),\mathbb{Z})\to\operatorname{Hom}(H_k(X),\mathbb{F}_3)$ にあたるので全射で、核は $3H^k(X;\mathbb{Z})$ である。$\rho$ はカップ積と引き戻しを保つので、qps-thm-ring から $H^*(\mathbb{HP}^n;\mathbb{F}_3)=\mathbb{F}_3[\gamma]/(\gamma^{n+1})$、同様に $H^*(\mathbb{CP}^{2n};\mathbb{F}_3)=\mathbb{F}_3[\alpha]/(\alpha^{2n+1})$ であり、2 から $\pi^*\gamma=\rho(\pi^*u)=\alpha^2$、$\pi^*(\gamma^r)=\alpha^{2r}$ である。$2r\le2n$ なので $\alpha^{2r}\ne0$ である。$\square$

2 から、$u^r$ が $H^{4r}(\mathbb{HP}^n;\mathbb{Z})$ を生成することが $\mathbb{CP}^{2n}$ の環からもう一度わかる($\pi^*$ は同型で、$h^{2r}$ は生成元)。$\mathbb{F}_3$ 係数のこの引き戻しを mod $3$ の Steenrod 冪と組み合わせると、$n>1$ の $\mathbb{HP}^n$ のどの自己写像も不動点をもつことが示せる(不動点性 の定理「四元数射影空間の不動点性」)。Hat02 Example 4L.4(p. 492)は、$\mathbb{CP}^\infty\to\mathbb{HP}^\infty$ の同じ商写像が $4$ 胞体を同相に写すことから同じ引き戻しを読んでいる。

環の構造から分かること

四元数の Hopf 写像は定値写像とホモトピックでない

$\mathbb{HP}^2$ は $S^4\vee S^8$ とホモトピー同値でない。したがって四元数の Hopf 写像 $h\colon S^7\to S^4$、$h(x_0,x_1)=[x_0:x_1]$ は定値写像とホモトピックでない。

qps-thm-ring により、$H^4(\mathbb{HP}^2;\mathbb{Z})$ の生成元 $u$ の平方は $H^8(\mathbb{HP}^2;\mathbb{Z})\cong\mathbb{Z}$ の生成元である。一方 $X=S^4\vee S^8$ では、カップ積 の命題「一点和のカップ積」により、$a\in H^4(X;\mathbb{Z})$ の平方は $S^4$ と $S^8$ への制限の平方の組 $\bigl((a|_{S^4})^2,(a|_{S^8})^2\bigr)$ に対応し、$H^8(S^4)=0$、$H^4(S^8)=0$ なので $0$ である。次数付き環の同型は $H^4$ の生成元を $H^4$ の生成元に写し、平方を保つので、二つの空間のコホモロジー環は同型でなく、ホモトピー同値でもない。
$h$ が定値写像とホモトピックなら、qps-prop-cw により $\mathbb{HP}^2=S^4\cup_he^8$ は、定値写像で $8$ 胞体を貼った $S^4\vee S^8$ とホモトピー同値になる(貼り付け写像をホモトピーで取り替えてもホモトピー型は変わらない。Hat02 Proposition 0.18, p. 16)。これは前半に反する。

$u^2$ が $\mathbb{HP}^2$ の $H^8$ を生成することは、$h$ の Hopf 不変量が $\pm1$ であることを意味する(コホモロジー環 の定義「Hopf 不変量」)。

コホモロジー群が同じで環が異なる空間

$X:=\mathbb{CP}^\infty/\mathbb{CP}^1$ と $Y:=S^6\times\mathbb{HP}^\infty$ の整係数コホモロジー群は、どちらも次数 $0$ と $4$ 以上の偶数で $\mathbb{Z}$、それ以外で $0$ である。しかし $X$ では $H^6$ の生成元の平方が $0$ でなく、$Y$ では $H^6$ のすべての元の平方が $0$ である。よって二つのコホモロジー環は同型でなく、$X$ と $Y$ はホモトピー同値でない(Hat02 §3.2 演習 13, p. 230)。

$Y$:$S^6$ は有限 CW 複体で $H^*(S^6;\mathbb{Z})=\mathbb{Z}[z]/(z^2)$、$|z|=6$ は各次数で有限生成自由なので、コホモロジー環 の定理「Künneth の定理(環の形)」と $H^*(\mathbb{HP}^\infty;\mathbb{Z})\cong\mathbb{Z}[u]$ により $H^*(Y;\mathbb{Z})\cong\mathbb{Z}[u,z]/(z^2)$ である($S^6\times\mathbb{HP}^\infty$ は $S^6$ がコンパクトなので CW 複体。Hat02 Theorem A.6, p. 524)。加法的な基底は $u^k$(次数 $4k$)と $zu^k$(次数 $4k+6$)で、$4$ 以上の偶数はちょうど一方の形に書けるので、群は主張のとおりである。$H^6$ は $z$ で生成され、$(mz)^2=m^2z^2=0$ である。
$X$:$\mathbb{CP}^1$ は $\mathbb{CP}^\infty$ の部分複体なので、商写像 $p\colon\mathbb{CP}^\infty\to X$ は $j\ge1$ で同型 $H^j(\mathbb{CP}^\infty,\mathbb{CP}^1)\cong H^j(X)$ を与え、$p^*$ はこれと対の長完全列の写像 $H^j(\mathbb{CP}^\infty,\mathbb{CP}^1)\to H^j(\mathbb{CP}^\infty)$ の合成である(Hat02 Proposition 2.22, p. 124 のコホモロジー版)。$j\ge4$ では $H^{j-1}(\mathbb{CP}^1)=H^j(\mathbb{CP}^1)=0$ なのでこの写像は同型であり、$j=1,2,3$ では $H^j(\mathbb{CP}^\infty,\mathbb{CP}^1)=0$ である($\mathbb{CP}^1$ は $3$ 骨格)。$H^*(\mathbb{CP}^\infty;\mathbb{Z})=\mathbb{Z}[c]$($|c|=2$)なので、群は主張のとおりで、$p^*$ は次数 $4$ 以上で同型な環準同型である。$H^6(X)$ の生成元 $b$ について $p^*b=\pm c^3$ であり、$p^*(b^2)=c^6\ne0$ から $b^2\ne0$ である。実際には $a:=(p^*)^{-1}(c^2)$ とおくと $b^2=a^3$ である。

束とホモトピー群

四元数の Hopf 束

射影 $S^{4n+3}\to\mathbb{HP}^n$ は、ファイバーを単位四元数の群 $S^3$ とするファイバー束である(Hat02 Example 4.46, p. 378。局所自明化は 無限次元射影空間 の命題「単位球面からの射影は束」と同じ式で与えられる)。$\pi_j(S^{4n+3})=0$($j\le4n+2$)なので、ホモトピー群の長完全列から $k\le4n+1$ で $\pi_k(\mathbb{HP}^n)\cong\pi_{k-1}(S^3)$ である。とくに $\mathbb{HP}^n$ は $3$ 連結で、$n\ge1$ なら $\pi_4(\mathbb{HP}^n)\cong\mathbb{Z}$ である。また、複素直線 $\ell\subset\mathbb{C}^{2n+2}=\mathbb{H}^{n+1}$ に四元数直線 $\ell\mathbb{H}$ を対応させる写像 $\mathbb{CP}^{2n+1}\to\mathbb{HP}^n$ はファイバー $S^2$ の束である(Leray–Hirschの定理 の例「複素射影空間 $\mathbb{CP}^3$ を $S^4$ 上の束とみる」($n=1$ の場合)、Hat02 §4.2 演習 35, p. 392)。

反例

外す条件反例成り立たなくなること
係数の結合法則(四元数を八元数 $\mathbb{O}$ に替える)$\mathbb{O}^3$ の単位球面上の関係 $y=x\lambda$同値関係であること(推移律)
$8$ 胞体の貼り付け写像が Hopf 写像であること定値写像で貼った $S^4\vee S^8$$u^2$ が $H^8$ を生成すること(qps-thm-ring)
$n$ が有限であること$\mathbb{HP}^\infty$$u^{n+1}=0$、閉多様体であること
反例の確かめ
  1. 八元数 の記事にあるとおり、$i,j,\ell\in\mathbb{O}$ について $(ij)\ell=-i(j\ell)\ne0$ である。$x=(1,i,0)$、$\lambda=j$、$\mu=\ell$ とおくと、$y:=x\lambda=(j,ij,0)$、$z:=y\mu=(j\ell,(ij)\ell,0)$ である。$z=x\nu$ なら第 $0$ 成分から $\nu=j\ell$、第 $1$ 成分から $(ij)\ell=i(j\ell)$ となり矛盾する。正規化しても同じなので、推移律が成り立たない。$\mathbb{O}\mathrm{P}^2$ は別の方法で構成される(Hat02 p. 222、Example 4.47)。
  2. qps-prf-hopf の前半による。
  3. 無限次元射影空間 の定理「無限次元射影空間のコホモロジー環」により、$H^*(\mathbb{HP}^\infty;\mathbb{Z})=\mathbb{Z}[u]$ ではどの $u^{n+1}$ も $0$ でない。どの次数にも $0$ でないコホモロジーがあるので、有限次元の閉多様体ではない(閉 $m$ 次元多様体のコホモロジーは $m$ より上で $0$。Poincaré双対 の定理「閉多様体の Poincaré 双対」)。

補足

文献

$\mathbb{HP}^n$ の定義・胞体の構造・コホモロジー環は Hat02 p. 222、Hopf 束は Example 4.46(p. 378)、群が同じで環が異なる例は §3.2 演習 13(p. 230)、$\mathbb{CP}^\infty$ からの商写像による引き戻しは Example 4L.4(p. 492)にある。向き付けは Theorem 3.26(p. 236)、貼り付け写像の取り替えは Proposition 0.18(p. 16)による。qps-prf-ring・qps-prf-hopf・qps-prf-same-groups・qps-prf-cp-pullback は、この記事で組み立てた証明である。

関連項目

参考文献

[1]
Allen Hatcher, Algebraic Topology, Cambridge University Press, 2002, Proposition 0.18(p. 16)、Proposition 2.22(p. 124)、Theorem 3.5 の証明(p. 203)、Theorem 3.19(p. 220)、p. 222(四元数射影空間)、§3.2 演習 13(p. 230)、Theorem 3.26(p. 236)、Example 4.46(p. 378)、Example 4.47(p. 379)、§4.2 演習 35(p. 392)、Example 4L.4(p. 492、複素射影空間から四元数射影空間への商写像による引き戻し)、Theorem A.6(p. 524)

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