フィルター余極限と有限極限の交換(filtered colimits commute with finite limits)とは、有限圏 $\mathcal I$ と小さいフィルター圏 $\mathcal J$ と関手 $F\colon\mathcal I\times\mathcal J\to\mathbf{Set}$ について、比較写像 $\operatorname{colim}_j\lim_iF(i,j)\to\lim_i\operatorname{colim}_jF(i,j)$ が全単射になるという定理である。フィルター余極限では、有限個の元を共通の添字の上で表せ、有限個の等式も共通の添字の先で成り立たせられることから従う。逆に、すべての有限極限と交換する余極限の添字の圏はフィルター圏に限られる。群のフィルター余極限や前層の茎の計算に使われる。
集合 $S$ の部分集合の増大列 $A_0\subset A_1\subset\cdots$ と $B_0\subset B_1\subset\cdots$ について、$\bigcup_n(A_n\cap B_n)=\bigl(\bigcup_nA_n\bigr)\cap\bigl(\bigcup_nB_n\bigr)$ が成り立つ。右辺の元 $s$ は、ある $A_m$ とある $B_{m'}$ に入り、列が増大するので $n=\max(m,m')$ について $A_n\cap B_n$ に入るからである。共通部分は $S$ 上の引き戻し(極限)、増大列の和集合は余極限なので、この等式は「余極限をとってから極限をとる」と「極限をとってから余極限をとる」が一致することを述べている。
一般には極限と余極限は交換しない。たとえば 2 つの集合の対の直和と直積では、$(A_1\times B_1)\sqcup(A_2\times B_2)$ と $(A_1\sqcup A_2)\times(B_1\sqcup B_2)$ は異なる。しかし、上の例のように余極限の添字が「どの有限個の位置にも共通の先がある」フィルター圏 で、極限の添字が 有限 の圏なら、集合の圏では両者が一致する。これが フィルター余極限と有限極限の交換(filtered colimits commute with finite limits)である(thm-fc-main)。逆に、有限極限といつも交換する余極限の添字の圏はフィルター圏に限られる(thm-fc-converse)。この定理から、群のフィルター余極限が台の集合の余極限で計算できること、有限集合からの写像の集合がフィルター余極限と交換することなどが従う。
圏はすべて小さい圏とし、射の合成は $g\circ f$(先に $f$)と書く。関手 $G\colon\mathcal I\to\mathbf{Set}$ の極限は
$$
\lim_{i}G(i)=\Bigl\{(x_i)_i\in\prod_iG(i)\ \Bigm|\ \mathcal I\text{ のすべての射 }u\colon i\to i'\text{ について }G(u)(x_i)=x_{i'}\Bigr\}
$$
で与えられる(極限(圏論) の例「集合の圏の極限:整合する族」)。関手 $X\colon\mathcal J\to\mathbf{Set}$ の余極限は、非交和 $\coprod_jX(j)$ を「射 $v\colon j\to k$ ごとに $(j,x)$ と $(k,X(v)(x))$ を同一視する」関係が生成する同値関係で割った集合であり(余極限(圏論) の命題「余積と余等化子による構成」)、$(j,x)$ の類を $[j,x]$ と書く。
圏 $\mathcal J$ が フィルター圏(filtered category)であるとは、次の 3 条件を満たすことをいう。
フィルター圏の定義は Ind対象 の定義「フィルター圏」と同じであり、KS06 Definition 3.1.1(p. 72)、Mac98 IX.1(p. 211)による。有向集合を、$j\le k$ のときだけ射 $j\to k$ がただ 1 つある圏とみたものはフィルター圏である。フィルター圏の上の余極限を フィルター余極限 という。積・等化子・引き戻し・終対象(空の圏の極限)はどれも有限極限である。
フィルター余極限には、同値関係の具体形がある。$\mathcal J$ がフィルター圏なら、$[j,x]=[k,y]$ であることと、射 $u\colon j\to l$、$v\colon k\to l$ で $X(u)(x)=X(v)(y)$ となるものがあることは同値である(Ind対象 の補題「フィルター余極限の具体形」、KS06 Proposition 3.1.3, p. 73)。
関手 $F\colon\mathcal I\times\mathcal J\to\mathbf{Set}$ について、写像
$$
\kappa\colon\operatorname*{colim}_{j}\,\lim_{i}F(i,j)\longrightarrow\lim_{i}\,\operatorname*{colim}_{j}F(i,j),\qquad \bigl[j,(x_i)_i\bigr]\longmapsto\bigl([j,x_i]\bigr)_i
$$
を 比較写像 という。
$\kappa$ は定義される。$u\colon i\to i'$ について、$\operatorname{colim}_jF(u,j)$ は $[j,x]\mapsto[j,F(u,j)(x)]$ であり、$F(u,j)(x_i)=x_{i'}$ なので右辺の元は極限に入る。$v\colon j\to k$ で $(x_i)_i$ を $(F(i,v)(x_i))_i$ に送っても、各成分の類 $[k,F(i,v)(x_i)]=[j,x_i]$ は変わらない。$\kappa$ は、極限と余極限の普遍性から得られる標準的な射と同じものである(Mac98 IX.2, p. 215)。
フィルター余極限 $\operatorname{colim}_jX(j)$ の元は「十分先の段階 $j$ で現れる元」であり、2 つの元が等しいとは「十分先の段階で等しくなる」ことである。有限極限の元は、有限個の元の組で有限個の等式を満たすものである。有限個の元はそれぞれ十分先で現れ、有限個の等式もそれぞれ十分先で成り立つので、フィルター圏の条件で「十分先」を 1 つにまとめれば、全部が同じ段階で実現する。極限の添字が無限なら無限個の「十分先」をまとめられず、余極限の添字がフィルター圏でなければそもそも「十分先」が共通にとれない。反例の表の各行は、このどちらかが崩れる場合である。
フィルター圏の条件は、有限個の対象・射について繰り返し使える。
$\mathcal J$ をフィルター圏、$\mathcal D$ を有限圏、$\varphi\colon\mathcal D\to\mathcal J$ を関手とする。このとき $\mathcal J$ の対象 $k$ と射 $s_d\colon\varphi(d)\to k$($d\in\mathcal D$)で、$\mathcal D$ のすべての射 $t\colon d\to d'$ について $s_{d'}\circ\varphi(t)=s_d$ となるものがある。
要点:対象には条件 2 を、平行な射には条件 3 を、有限回ずつ使う。
条件 2 を有限回使うと($\mathcal D$ が空なら条件 1 で)、対象 $k_0$ と射 $a_d\colon\varphi(d)\to k_0$ がとれる。$\mathcal D$ の射 $t\colon d\to d'$ ごとに、$a_{d'}\circ\varphi(t)$ と $a_d$ は平行な射 $\varphi(d)\to k_0$ なので、条件 3 により $h_t\colon k_0\to k_t$ で $h_t a_{d'}\varphi(t)=h_ta_d$ となるものがある。条件 2 を有限回使って $c_t\colon k_t\to k_1$ をとると、$c_th_t$($t$ は有限個)はすべて平行な射 $k_0\to k_1$ である。平行な射 $g_1,\dots,g_r\colon k_0\to k_1$ については、条件 3 で $g_1,g_2$ を等しくする $w_1$ をとり、次に $w_1g_1,w_1g_3$ を等しくする $w_2$ をとる、と繰り返して、$wg_1=\cdots=wg_r$ となる $w\colon k_1\to k$ が得られる。$h:=wc_th_t$($t$ によらない)とおき $s_d:=h\circ a_d$ と定めると、$s_{d'}\varphi(t)=wc_th_ta_{d'}\varphi(t)=wc_th_ta_d=s_d$ である。$\square$
この補題は KS06 Lemma 3.1.2(p. 72)の、フィルター圏ならば有限圏からの関手に余錐があるという向きにあたる。次の系が、主定理の証明で使う形である。
$\mathcal J$ をフィルター圏、$X_1,\dots,X_r\colon\mathcal J\to\mathbf{Set}$ を関手とする。
1:$\xi_m=[j_m,z_m]$ と表し、条件 2 を有限回($M=0$ なら条件 1)使って射 $v_m\colon j_m\to k$ をとり、$x_m:=X_{n_m}(v_m)(z_m)$ とおく。2:フィルター余極限の具体形により、各 $m$ について射 $u_m,v_m\colon j\to l_m$ で $X_{n_m}(u_m)(x_m)=X_{n_m}(v_m)(y_m)$ となるものがある。対象 $0,1,\dots,M$ をもち、恒等射のほかに $m=1,\dots,M$ ごとに 2 本の射 $0\to m$ だけをもつ有限圏 $\mathcal D$ と、$0\mapsto j$、$m\mapsto l_m$、2 本の射を $u_m,v_m$ に送る関手 $\varphi$ に lem-fc-cocone を使うと、$s_0\colon j\to k$ と $s_m\colon l_m\to k$ で $s_mu_m=s_0=s_mv_m$ となるものがある。$s:=s_0$ とおくと $X_{n_m}(s)(x_m)=X_{n_m}(s_m)X_{n_m}(u_m)(x_m)=X_{n_m}(s_m)X_{n_m}(v_m)(y_m)=X_{n_m}(s)(y_m)$ である。$\square$
Mac98 IX.2(p. 216)の証明の始めの 2 つの観察が、この系の 1 と 2 にあたる。
$\mathcal I$ を有限圏、$\mathcal J$ を小さいフィルター圏、$F\colon\mathcal I\times\mathcal J\to\mathbf{Set}$ を関手とする。このとき比較写像
$$
\kappa\colon\operatorname*{colim}_{j}\,\lim_{i}F(i,j)\longrightarrow\lim_{i}\,\operatorname*{colim}_{j}F(i,j)
$$
は全単射である。
要点:右辺の元は有限個の類の組で、それが極限に入る条件も有限個の等式である。cor-fc-finite により、これらの類を 1 つの対象 $k$ の上の代表で表し、等式をすべて $k$ の上で成り立たせられるので、代表の組が左辺の元を与える。
全射。 $\xi=(\xi_i)_i$ を右辺の元とする。$\mathcal I$ の対象は有限個なので、cor-fc-finite の 1 により、対象 $j$ と $x_i\in F(i,j)$ で $\xi_i=[j,x_i]$ となるものがとれる($\mathcal I$ が空でも $j$ がとれる)。$\mathcal I$ の射 $u\colon i\to i'$ について、$\xi$ が極限の元であることから $[j,F(u,j)(x_i)]=\xi_{i'}=[j,x_{i'}]$ が $\operatorname{colim}_jF(i',j)$ で成り立つ。$\mathcal I$ の射は有限個なので、cor-fc-finite の 2(関手 $F(i',-)$ たちと組 $(F(u,j)(x_i),x_{i'})$ に使う)により、射 $s\colon j\to k$ で、すべての $u\colon i\to i'$ について $F(i',s)(F(u,j)(x_i))=F(i',s)(x_{i'})$ となるものがある。$y_i:=F(i,s)(x_i)\in F(i,k)$ とおくと、$F$ が $\mathcal I\times\mathcal J$ 上の関手であることから $F(u,k)(y_i)=F(u,k)F(i,s)(x_i)=F(i',s)F(u,j)(x_i)=F(i',s)(x_{i'})=y_{i'}$ である。よって $y=(y_i)_i\in\lim_iF(i,k)$ であり、$\kappa([k,y])=([k,y_i])_i=([j,x_i])_i=\xi$ である。
単射。 $\kappa([j,x])=\kappa([j',x'])$ とする。条件 2 で射 $v\colon j\to l$、$v'\colon j'\to l$ をとり、$x,x'$ をそれぞれ $(F(i,v)(x_i))_i$、$(F(i,v')(x'_i))_i$ に取り替えても類は変わらないので、$j=j'$ としてよい。すると各 $i$ について $[j,x_i]=[j,x'_i]$ であり、$\mathcal I$ の対象は有限個なので、cor-fc-finite の 2 により射 $s\colon j\to k$ で、すべての $i$ について $F(i,s)(x_i)=F(i,s)(x'_i)$ となるものがある。これは $\lim_iF(i,j)$ から $\lim_iF(i,k)$ への写像が $x$ と $x'$ を同じ元に送ることを意味するので、$[j,x]=[j,x']$ である。$\square$
この定理は Mac98 IX.2 Theorem 1(pp. 215–216)、KS06 Theorem 3.1.6 の (a)⇒(b)(p. 74)である。後者は、有限極限が有限個の積と等化子から作れることを使って、積と等化子の場合に分けて示している。ここでは有限圏の極限を直接扱った。二項積の場合は 共終関手 の系「フィルター余極限と直積」でもある。
関手の圏 $\operatorname{Fun}(\mathcal J,\mathbf{Set})$ の極限は対象ごとに計算されるので、定理は「余極限をとる関手 $\operatorname{colim}\colon\operatorname{Fun}(\mathcal J,\mathbf{Set})\to\mathbf{Set}$ は有限極限を保つ」と言い換えられる(KS06 Theorem 3.1.6 の (b) の言い換え、p. 74)。
小さい圏 $\mathcal J$ について、すべての有限圏 $\mathcal I$ と関手 $F\colon\mathcal I\times\mathcal J\to\mathbf{Set}$ で比較写像 $\kappa$ が全単射になるなら、$\mathcal J$ はフィルター圏である。
要点:表現可能関手 $\operatorname{Hom}_{\mathcal J}(a,-)$ の余極限は 1 点集合なので、$\kappa$ の右辺に元がある。$\kappa$ の全射性から左辺にも元があり、それがフィルター圏の条件を与える。
表現可能関手の余極限。 $\mathcal J$ の対象 $a$ について $\operatorname{colim}_j\operatorname{Hom}_{\mathcal J}(a,j)$ は 1 点である。実際、元 $(j,f)$($f\colon a\to j$)は、射 $f$ によって $(a,\mathrm{id}_a)$ と同一視される($\operatorname{Hom}(a,f)(\mathrm{id}_a)=f$)ので、類はただ 1 つで、$(a,\mathrm{id}_a)$ があるので空でない。
条件 1。 $\mathcal I$ を空の圏とする。空の圏の極限は 1 点集合なので、$\kappa$ の右辺は 1 点、左辺は値がすべて 1 点の関手の余極限である。$\mathcal J$ が空ならこの余極限は空集合で、$\kappa$ は全単射にならない。
条件 2。 対象 $a,b$ をとり、$\mathcal I$ を 2 対象の離散圏 $\{1,2\}$、$F(1,j)=\operatorname{Hom}(a,j)$、$F(2,j)=\operatorname{Hom}(b,j)$ とする。右辺は 1 点の直積で空でないので、左辺 $\operatorname{colim}_j\bigl(\operatorname{Hom}(a,j)\times\operatorname{Hom}(b,j)\bigr)$ も空でない。よってある $k$ について射 $a\to k$、$b\to k$ がある。
条件 3。 平行な射 $u,v\colon a\to b$ をとる。$\mathcal I$ を対象 $0,1$ と恒等射以外の 2 本の射 $\sigma,\tau\colon0\to1$ からなる圏とし、$F(0,j)=\operatorname{Hom}(b,j)$、$F(1,j)=\operatorname{Hom}(a,j)$、$F(\sigma,j)=(-)\circ u$、$F(\tau,j)=(-)\circ v$ とする(右からの合成は $j$ について自然である)。$\lim_iF(i,j)$ は $h\circ u=h\circ v$ となる $h\colon b\to j$ の集合と 1 対 1 であり、右辺は 1 点から 1 点への 2 つの写像の等化子なので 1 点である。左辺が空でないので、$w\circ u=w\circ v$ となる $w\colon b\to k$ がある。$\square$
この逆は KS06 Theorem 3.1.6 の (b)⇒(a)(p. 74)である。そこでは KS06 Lemma 3.1.2 を介しているが、ここでは条件 1〜3 を直接取り出した。
有限集合 $T$ を離散圏とみて $\mathcal I=T$、$F(t,j)=Y(j)$($Y\colon\mathcal J\to\mathbf{Set}$)とすると、$\lim_tF(t,j)=Y(j)^T$ なので、thm-fc-main は、フィルター圏 $\mathcal J$ について
$$
\operatorname*{colim}_j\operatorname{Hom}(T,Y(j))\xrightarrow{\ \cong\ }\operatorname{Hom}\bigl(T,\operatorname*{colim}_jY(j)\bigr)
$$
が全単射であることを含む。これは Ind対象 の補題「有限集合のコンパクト性」の主張である。
フィルター圏 $\mathcal J$ 上の関手 $X,Y\colon\mathcal J\to\mathbf{Set}$ と自然変換 $\alpha\colon X\Rightarrow Y$ で、各 $\alpha_j$ が単射であるものについて、余極限の間の写像 $\operatorname{colim}\alpha$ は単射である。
写像 $f\colon A\to B$ が単射であることは、対角写像 $A\to A\times_BA$、$a\mapsto(a,a)$ が全単射であることと同値である。引き戻し $X(j)\times_{Y(j)}X(j)$ は有限極限なので、thm-fc-main により $\operatorname{colim}_j\bigl(X(j)\times_{Y(j)}X(j)\bigr)\cong L_X\times_{L_Y}L_X$($L_X=\operatorname{colim}X$、$L_Y=\operatorname{colim}Y$)であり、この同一視で各段の対角写像の余極限は $\operatorname{colim}\alpha$ の対角写像になる。各段の対角写像は全単射なので、その余極限も全単射であり、$\operatorname{colim}\alpha$ は単射である。$\square$
添字がフィルター圏でないと成り立たない。2 本の平行な射 $\sigma,\tau\colon0\to1$ の圏の上で、$X(0)=\emptyset$、$X(1)=\{0,1\}$ とし、$Y(0)=\{*\}$、$Y(1)=\{0,1\}$、$Y(\sigma)(*)=0$、$Y(\tau)(*)=1$ とする。$\alpha_0$ を空写像、$\alpha_1$ を恒等写像とすると $\alpha$ は自然変換で成分は単射だが、余極限は余等化子なので $\operatorname{colim}X=\{0,1\}$、$\operatorname{colim}Y$ は 1 点であり、$\operatorname{colim}\alpha$ は単射でない。
位相空間 $S$ の点 $s$ の開近傍全体は、包含の逆向きで有向集合になる(2 つの近傍の共通部分が共通の先)。集合に値をとる前層 $P$ の茎 $P_s=\operatorname{colim}_{U\ni s}P(U)$ はフィルター余極限である。前層の有限個の図式 $P_i$($i\in\mathcal I$、$\mathcal I$ は有限圏)の極限は開集合ごとに $(\lim_iP_i)(U)=\lim_iP_i(U)$ で計算されるので、thm-fc-main により $(\lim_iP_i)_s\cong\lim_i(P_i)_s$ である。たとえば前層のファイバー積の茎は茎のファイバー積であり、前層の射が単射なら茎の写像も単射である(ex-fc-injective)。
フィルター圏 $\mathcal J$ から群の圏への関手 $G$ について、台の集合の余極限 $L=\operatorname{colim}_jG(j)$ には、thm-fc-main の全単射 $\operatorname{colim}_j\bigl(G(j)\times G(j)\bigr)\cong L\times L$ を通して乗法 $L\times L\to L$ が定まり、$L$ は群になって、群の圏での余極限になる。つまり忘却関手 $\mathbf{Grp}\to\mathbf{Set}$ はフィルター余極限を作り出す(Mac98 IX.1 Proposition 2, pp. 212–213)。結合律などの公理は有限個の積の間の写像の等式なので、交換の全単射を通して $L$ に移る。乗法の定め方から各 $G(j)\to L$ は準同型であり、群の余錐 $G(j)\to T$ から集合の余極限の普遍性で得る写像 $L\to T$ も、$L$ の 2 元を共通の $G(j)$ の元で表せば準同型であることが分かる。同様に、環 $R$ 上の加群の圏でもフィルター余極限は有限極限と交換する(KS06 Corollary 3.1.7, p. 75。この記事では証明しない)。有向集合の上の加群の場合は 帰納極限 の定理「帰納極限の完全性」である。
thm-fc-main の仮定を 1 つずつ外すと、比較写像は全単射でなくなる。どの行も外した条件以外の仮定は満たしている。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $\mathcal I$ が有限 | $\mathcal I=\mathbb N$(離散圏)、$\mathcal J=(\mathbb N,\le)$、$F(i,n)=\{0,1,\dots,n\}$(射は包含) | $\kappa$ は単射だが全射でない(有界な列だけが像に入る) |
| 条件 1(対象をもつ) | $\mathcal J$ も $\mathcal I$ も空の圏 | 左辺は空集合、右辺は 1 点で、$\kappa$ は全射でない |
| 条件 2(共通の先) | $\mathcal J$ を 2 対象の離散圏、$\mathcal I$ を 2 対象の離散圏、$F$ の値をすべて 1 点 | 左辺は 2 点、右辺は 4 点で、$\kappa$ は全射でない |
| 条件 3(平行な射を等しくする) | $\mathcal J$ を 2 本の平行な射 $\sigma,\tau\colon0\to1$ の圏、$\mathcal I$ を 2 対象の離散圏、$F(i,0)=F(i,1)=\{0,1\}$、$F(i,\sigma)=\mathrm{id}$、$F(i,\tau)$ を $0,1$ の入れ替え | 左辺は 2 点、右辺は 1 点で、$\kappa$ は単射でない |
1 行目:$(\mathbb N,\le)$ は有向集合なのでフィルター圏である。包含の増大列の余極限は和集合なので、$\operatorname{colim}_nF(i,n)=\mathbb N$、右辺は $\mathbb N^{\mathbb N}$ である。左辺は $\bigcup_n\{0,\dots,n\}^{\mathbb N}$、すなわち有界な列の集合で、$\kappa$ はその包含である。列 $i\mapsto i$ は像に入らない。
2 行目:空の圏は条件 2・3 を自明に満たす。空の圏の上の余極限は空集合、空の圏の上の極限は 1 点集合である。
3 行目:2 対象の離散圏は対象をもち、平行な射は恒等射どうしだけなので条件 1・3 を満たすが、2 つの対象から共通の対象への射はない。左辺は $(\{*\}\times\{*\})\sqcup(\{*\}\times\{*\})$、右辺は $(\{*\}\sqcup\{*\})\times(\{*\}\sqcup\{*\})$ である。
4 行目:この $\mathcal J$ は対象をもち、$0,1$ には $\sigma$ と $\mathrm{id}_1$ で共通の先 $1$ がある(同じ対象どうしは恒等射でよい)ので条件 1・2 を満たす。$h\sigma=h\tau$ となる $h\colon1\to k$ は $\mathrm{id}_1$ しかないので条件 3 を満たさない。この圏の上の余極限は $X(\sigma),X(\tau)\colon X(0)\to X(1)$ の余等化子である。$\{0,1\}$ 上で恒等写像と入れ替えの余等化子は 1 点なので右辺は 1 点である。左辺は $\{0,1\}^2$ 上で恒等写像と $(a,b)\mapsto(1-a,1-b)$ の余等化子で、類は $\{(0,0),(1,1)\}$ と $\{(0,1),(1,0)\}$ の 2 つである。
3 行目は Mac98 IX.2(p. 215)が挙げる、直和と直積が交換しない例の特別な場合である。
極限どうし、余極限どうしはいつも交換する($\lim_i\lim_jF\cong\lim_j\lim_iF$ など。Mac98 IX.2, pp. 214–215。この記事では証明しない)。この記事の定理は、種類の違う極限と余極限が交換する代表的な場合である。集合の圏の代わりに一般の圏を考えると、フィルター余極限と有限極限が交換するかどうかは圏による。加群の圏では交換する(ex-fc-groups)。
極限と余極限の役割を入れ替えた主張、すなわち「集合の圏で、余フィルター圏(反対圏がフィルター圏である圏)上の極限は有限余極限と交換する」は成り立たない。$X_n:=\{m\in\mathbb N\mid m\ge n\}$ と包含 $X_{n+1}\to X_n$ の極限は共通部分 $\emptyset$ である。1 点集合 $\{*\}$ への 2 つの写像による押し出し $\{*\}\sqcup_{A}\{*\}$ は、$A$ が空でなければ 1 点、$A=\emptyset$ なら 2 点である。したがって $\lim_n\bigl(\{*\}\sqcup_{X_n}\{*\}\bigr)$ は 1 点の列の極限で 1 点だが、$\{*\}\sqcup_{\lim_nX_n}\{*\}$ は 2 点である。
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する