Tutte多項式

同義語:Tutte polynomialタット多項式

概要

Tutte多項式(Tutte polynomial)とは、ループと平行辺を許す有限グラフ $G$ に対し、空のグラフで $1$、ループで $y$ 倍、橋で $x$ 倍、それ以外の辺 $e$ で $T(G-e)+T(G/e)$ とする削除縮約の規則で決まる 2 変数多項式 $T(G;x,y)$ である。規則の使う順序によらないことは、辺の部分集合にわたるランク生成関数が同じ規則を満たすことから従う。$T(G;1,1)$ は連結なグラフの全域木の個数で、彩色多項式・流れ多項式・信頼性多項式は $T$ に値を代入して得られる。平面グラフ図とその双対グラフ $G^{*}$ について $T(G^{*};x,y)=T(G;y,x)$ が成り立つ。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 全域木, 彩色多項式, 多重グラフ, 双対グラフ

グラフの不変量の多くは、辺 $e$ を除いたグラフ $G-e$ と、$e$ を縮めたグラフ $G/e$ の値から計算できる。全域木の個数 $\tau$ は $\tau(G)=\tau(G-e)+\tau(G/e)$ を満たし(全域木 の定理「削除と縮約の漸化式」)、彩色多項式は $P_G=P_{G-e}-P_{G/e}$ を満たす(彩色多項式 の定理「削除縮約の公式」)。Tutte 多項式 $T(G;x,y)$ は、こうした漸化式を最も一般的な形で記録する 2 変数の多項式である。橋(除くと連結成分が増える辺)では $x$ を、ループでは $y$ を掛け、それ以外の辺では $T(G-e)+T(G/e)$ と分ける。
この規則は、どの辺から順に使うかを決めていないので、答えが順序によらないこと(well-definedness)を示す必要がある。この記事では、辺の部分集合 $A$ 全体にわたる和
$$ \sum_{A\subset E}(x-1)^{r(E)-r(A)}(y-1)^{|A|-r(A)} $$
(ランク生成関数)が同じ規則を満たすことを示して、それを証明する。そのうえで、変数に値を代入すると、全域木の個数 $T(G;1,1)$、彩色多項式、流れ多項式(至る所 $0$ でない流れの個数)、信頼性多項式(辺がランダムに壊れても連結である確率)が得られることを証明する。最後に、平面グラフの双対グラフ $G^{*}$ について $T(G^{*};x,y)=T(G;y,x)$ を示す。

設定

この記事のグラフは、全域木 の記事の定義「ループを許す多重グラフと基本用語」のとおり、有限集合 $V\neq\emptyset$、有限集合 $E$、各辺 $e$ に端点の集合 $\partial(e)$($V$ の 1 元または 2 元の部分集合)を対応させる写像の組 $G=(V,E,\partial)$ とする。ループと平行辺を許し、平行辺は区別する。辺の削除 $G-e$ と、ループでない辺の縮約 $G/e$ は、同じ記事の定義「辺の削除と縮約」による。縮約で平行辺やループが生じうる。
$A\subset E$ について、全域部分グラフ $(V,A)$ の連結成分の個数を $c(A)$ と書き、
$$ r(A):=|V|-c(A) $$
を $A$ の階数(rank)という。$c(G):=c(E)$ とする。辺を 1 本加えると連結成分は減らないか 1 つ減るだけなので、$A\subset B$ なら $r(A)\le r(B)$ であり、$r(A)\le|A|$ である。
ループでない辺 $e$ で $c(E\setminus\{e\})>c(E)$ となるものを橋という。このとき $e$ の両端は $(V,E\setminus\{e\})$ の異なる成分にあり、$c(E\setminus\{e\})=c(E)+1$ である。ループでも橋でもない辺を通常の辺という。

削除・縮約と階数

辺 $e$ と $B\subset E\setminus\{e\}$ をとる。$G-e$ と $G/e$ での階数をそれぞれ $r_{G-e}$、$r_{G/e}$ と書く。

  1. $r_{G-e}(B)=r(B)$ である。
  2. $e$ がループでなければ $r_{G/e}(B)=r(B\cup\{e\})-1$ である。
  3. $e$ が橋なら $r(E\setminus\{e\})=r(E)-1$ であり、$r_{G/e}(B)=r(B)$ である。
  4. $e$ がループなら $r(B\cup\{e\})=r(B)$ である。

要点:削除では $(V,B)$ が変わらず、縮約は $e$ の両端を 1 点にまとめるので連結成分が対応する。

詳しい証明を開く

1 は $G-e$ と $G$ の頂点集合が同じで、$(V,B)$ が同じグラフであることによる。4 はループが異なる頂点をつながないことによる。

2:$\partial(e)=\{u,v\}$ とし、$G/e$ の頂点集合を $V'$、まとめた頂点を $z$ とする。$u,v\mapsto z$、ほかの頂点はそのままとする写像 $\pi\colon V\to V'$ を考える。$(V,B\cup\{e\})$ の歩道の頂点を $\pi$ で写し、$e$ を通る箇所を $z$ に縮めると $(V',B)$ の歩道になる。逆に $(V',B)$ の歩道は、$z$ を $u$ か $v$ に戻し、必要なところに $e$ をはさめば $(V,B\cup\{e\})$ の歩道になる(全域木 の定理「削除と縮約の漸化式」の証明と同じ操作)。よって $\pi$ は $(V,B\cup\{e\})$ の連結成分と $(V',B)$ の連結成分の一対一対応を与え、$c_{G/e}(B)=c(B\cup\{e\})$ である。$|V'|=|V|-1$ なので主張を得る。

3:前半は橋の定義から従う。$B\subset E\setminus\{e\}$ なので、$e$ の両端 $u,v$ は $(V,B)$ でも異なる成分にある。$e$ を加えるとその 2 つの成分がつながるので $c(B\cup\{e\})=c(B)-1$ であり、2 から $r_{G/e}(B)=r(B\cup\{e\})-1=r(B)$ である。$\square$

定義と well-definedness

ランク生成関数

グラフ $G$ のランク生成関数を
$$ R(G;x,y):=\sum_{A\subset E}(x-1)^{r(E)-r(A)}(y-1)^{|A|-r(A)} $$
と定める。設定で見たとおり指数は $0$ 以上なので、$R(G;x,y)$ は整数係数の 2 変数多項式である。

$|A|-r(A)$ は $A$ の退化次数(nullity)とも呼ばれ、$(V,A)$ の独立な閉路の個数を表す。$r(E)-r(A)$ は $A$ に辺を足して $E$ の連結成分までつなぐのに必要な辺の本数である。

削除縮約の漸化式

ランク生成関数は次を満たす。

  1. $E=\emptyset$ なら $R(G)=1$。
  2. $e$ がループなら $R(G)=y\,R(G-e)$。
  3. $e$ が橋なら $R(G)=x\,R(G/e)$。
  4. $e$ が通常の辺なら $R(G)=R(G-e)+R(G/e)$。

1:和は $A=\emptyset$ の項だけで、$r(\emptyset)=0$ なので $1$ である。
以下、$e\in E$ を固定し、$R(G)$ の和を $e\notin A$ の部分 $S_0$ と $e\in A$ の部分 $S_1$ に分ける。$S_0$ では $A=B\subset E\setminus\{e\}$、$S_1$ では $A=B\cup\{e\}$ と書く。
$S_0$ について.lem-tp-rank の 1 により $r(B)=r_{G-e}(B)$ である。$e$ が橋でなければ $c(E\setminus\{e\})=c(E)$ なので $r_{G-e}(E\setminus\{e\})=r(E)$ であり、$S_0$ の各項は $R(G-e)$ の項と一致して $S_0=R(G-e)$ である。$e$ が橋なら $r(E)=r_{G-e}(E\setminus\{e\})+1$ なので、各項に $(x-1)$ が 1 つ余分に付き、$S_0=(x-1)R(G-e)$ である。
$S_1$ について($e$ がループでないとき).lem-tp-rank の 2 を $B$ と $B=E\setminus\{e\}$ に使うと、$r(E)-r(B\cup\{e\})=r_{G/e}(E\setminus\{e\})-r_{G/e}(B)$、$|B\cup\{e\}|-r(B\cup\{e\})=|B|-r_{G/e}(B)$ である。よって $S_1=R(G/e)$ である。
$S_1$ について($e$ がループのとき).lem-tp-rank の 4 と 1 により $r(B\cup\{e\})=r(B)=r_{G-e}(B)$、また $r(E)=r_{G-e}(E\setminus\{e\})$ なので、$S_1$ の各項は $R(G-e)$ の項に $(y-1)$ を掛けたものであり、$S_1=(y-1)R(G-e)$ である。
まとめ.通常の辺では $R(G)=S_0+S_1=R(G-e)+R(G/e)$ で 4 を得る。ループでは $S_0=R(G-e)$ なので $R(G)=y\,R(G-e)$ で 2 を得る。橋では lem-tp-rank の 3 と 1 により、$B\subset E\setminus\{e\}$ について $r_{G/e}(B)=r_{G-e}(B)$、$r_{G/e}(E\setminus\{e\})=r_{G-e}(E\setminus\{e\})$ なので $R(G/e)=R(G-e)$ である。よって $R(G)=(x-1)R(G/e)+R(G/e)=x\,R(G/e)$ で 3 を得る。$\square$

削除縮約による定義の well-definedness

有限グラフ $G$(ループと平行辺を許す)に 2 変数の多項式 $T(G;x,y)$ を対応させる規則で、thm-tp-recursion の 1〜4 の $R$ を $T$ に置き換えた等式を、すべてのグラフとすべての辺について満たすものは、ただ 1 つ存在する。それは $T(G;x,y)=R(G;x,y)$ である。

存在は thm-tp-recursion が与える。ただ 1 つであることを、辺の本数についての帰納法で示す。$T$ と $T'$ がともに規則を満たすとする。辺がなければ規則 1 により $T(G)=T'(G)=1$ である。辺があれば 1 本の辺 $e$ をとる。$e$ はループ・橋・通常の辺のどれかで、対応する規則 2〜4 の右辺は辺の本数が 1 少ない $G-e$ や $G/e$ の値で書かれている。帰納法の仮定によりそれらの値は $T$ と $T'$ で一致するので、$T(G)=T'(G)$ である。$\square$

Tutte多項式

thm-tp-well-defined のただ 1 つの規則 $T(G;x,y)$ を、$G$ の Tutte 多項式(Tutte polynomial)という。

規則 2〜4 をどの辺の順に使って計算しても、結果は同じ多項式 $R(G;x,y)$ になる。これが削除縮約による定義の well-definedness の意味である。削除縮約による定義は EM08 Definition 2(p. 5)、ランク生成関数による表示は同 Definition 3(p. 6)にある。ランク生成関数は階数 $r$ だけで書けているので、同じ式でマトロイドの Tutte 多項式も定義される。
規則をくり返すと、最後には橋とループだけからなるグラフに行き着く。橋が $i$ 本、ループが $j$ 本だけのグラフでは、規則 2・3 をくり返して $T=x^iy^j$ である。どの段階でも係数は足し合わされるだけなので、$T(G;x,y)$ の係数はすべて $0$ 以上の整数である。これはランク生成関数の形($x-1$、$y-1$ の冪の和)からは見えない性質である。

積の公式

$G\sqcup H$ を互いに交わらない 2 つのグラフの和、$G\cdot H$ を $G$ の頂点 $a$ と $H$ の頂点 $b$ を同一視して得られるグラフとする。このとき
$$ T(G\sqcup H)=T(G\cdot H)=T(G)\,T(H) $$
である。

要点:どちらのグラフでも階数が $G$ の部分と $H$ の部分の和になる。

詳しい証明を開く

辺の集合は $E(G)\sqcup E(H)$ で、$A=A_G\sqcup A_H$ と分けると、どちらのグラフでも $r(A)=r_G(A_G)+r_H(A_H)$ である。実際、$G\sqcup H$ では連結成分の個数も頂点数も和になる。$G\cdot H$ では、$(V,A)$ の連結成分は $a$ と $b$ を含む 2 つの成分が 1 つになるだけなので $c(A)=c_G(A_G)+c_H(A_H)-1$ であり、頂点数も $|V(G)|+|V(H)|-1$ だからである。$|A|=|A_G|+|A_H|$ とあわせると、ランク生成関数の各項が $G$ の項と $H$ の項の積に分かれる。$\square$

例

三角形と木
  1. 木.$m$ 本の辺をもつ木(あるいは森)では、どの辺も橋なので、規則 3 をくり返して $T=x^m$ である。辺が 1 本のグラフ $K_2$ では $T=x$、1 頂点にループが 1 本のグラフでは $T=y$ である。
  2. 二重辺と三重辺.2 頂点を 2 本の平行辺で結んだグラフでは、どちらの辺も通常の辺である。1 本を除くと $K_2$、縮めると 1 頂点にループ 1 本なので $T=x+y$ である。3 本の平行辺で結んだグラフ $\Theta$ では、1 本を除くと二重辺、縮めると 1 頂点にループ 2 本なので $T(\Theta)=x+y+y^2$ である。
  3. 三角形.$K_3$ の辺 $e$ は通常の辺である。$K_3-e$ は 2 本の辺の道で $T=x^2$、$K_3/e$ は二重辺で $T=x+y$ なので
    $$ T(K_3;x,y)=x^2+x+y $$
    である。ランク生成関数でも確かめられる。$r(E)=2$ で、$A=\emptyset$ が $(x-1)^2$、1 辺の 3 通りが $3(x-1)$、2 辺の 3 通りが $3$、3 辺が $(y-1)$ を与え、和は $x^2-2x+1+3x-3+3+y-1=x^2+x+y$ である。

三角形と三重辺 $\Theta$ の多項式は $x$ と $y$ を入れ換えた形になっている。$\Theta$ は三角形の双対グラフ(双対グラフ の記事の例「双対グラフの例」の 2)であり、これは thm-tp-duality の最初の例である。

グラフ$T(G;x,y)$$T(1,1)$$T(2,1)$$T(1,2)$
$m$ 辺の木$x^m$$1$$2^m$$1$
$K_3$$x^2+x+y$$3$$7$$4$
$C_4$$x^3+x^2+x+y$$4$$15$$5$
$K_4$ から 1 辺を除いたもの$x^3+2x^2+x+2xy+y+y^2$$8$$24$$14$
$K_4$$x^3+3x^2+2x+4xy+2y+3y^2+y^3$$16$$38$$38$

$K_4$ から 1 辺を除いたグラフの全域木が $8$ 個、$K_4$ の全域木が $16$ 個であることは、行列木定理 の例「4 頂点の例」と Cayleyの公式 に合う(thm-tp-counting)。$C_n$($n\ge3$)では、1 辺を除くと道、縮めると $C_{n-1}$($C_2$ は二重辺)なので、帰納法で $T(C_n)=x^{n-1}+x^{n-2}+\dots+x+y$ である。

特殊化

全域部分グラフの数え上げ

森と退化次数

$A\subset E$ について、$|A|=r(A)$ であることと、$(V,A)$ が森(閉路をもたないグラフ)であることは同値である。

要点:森なら辺の本数の公式から等式が出て、閉路があればその辺を除いても階数が変わらない。

詳しい証明を開く

$(V,A)$ が森なら、全域木 の記事の命題「木と森の辺の本数」により $|A|=|V|-c(A)=r(A)$ である。森でなければ閉路があり、閉路上の辺 $f$ を除いても連結成分は変わらない(同じ記事の補題「閉路上の辺を除いても連結成分は変わらない」)。よって $r(A\setminus\{f\})=r(A)$ で、$|A|-r(A)=1+|A\setminus\{f\}|-r(A\setminus\{f\})\ge1$ である。$\square$

$c(A)=c(E)$ となる森 $A$ を、$G$ の極大全域森という。$G$ が連結なら、極大全域森は全域木にほかならない。

全域部分グラフの数え上げ
  1. $T(G;1,1)$ は $G$ の極大全域森の個数に等しい。とくに $G$ が連結なら、$T(G;1,1)=\tau(G)$(全域木の個数)である。
  2. $T(G;2,1)$ は、$(V,A)$ が森となる $A\subset E$ の個数に等しい。
  3. $T(G;1,2)$ は、$c(A)=c(G)$ となる $A\subset E$ の個数に等しい。とくに $G$ が連結なら、連結な全域部分グラフの個数である。
  4. $T(G;2,2)=2^{|E|}$ である。

多項式 $R(G;x,y)$ に $x=1$ を代入すると、$(x-1)^{r(E)-r(A)}$ は指数が $0$ の項だけが $1$ になり、ほかは $0$ になる。$y=1$ も同様である。したがって $T(1,1)$ は $r(A)=r(E)$ かつ $|A|=r(A)$ となる $A$ の個数、$T(2,1)$ は $|A|=r(A)$ となる $A$ の個数、$T(1,2)$ は $r(A)=r(E)$ となる $A$ の個数、$T(2,2)$ は $A$ の総数である。$r(A)=r(E)$ は $c(A)=c(E)$ と同じであり、lem-tp-forest により $|A|=r(A)$ は $(V,A)$ が森であることと同じである。$\square$

$\tau$ の削除縮約の漸化式(全域木)と、ループ・橋での振る舞い(ループはどの全域木にも入らず、橋はすべての全域木に入る)を合わせれば、prf-tp-well-defined と同じ帰納法で 1 の後半を導くこともできる(連結なグラフからループや通常の辺を除いても、橋や通常の辺を縮めても連結なグラフが残るので、帰納法は連結なグラフの中で進む)。行列式で $\tau(G)$ を計算する 行列木定理 は、$T(G;1,1)$ の値を多項式時間で与えている。連結なグラフについての 1〜4 は EM08 Theorem 3(p. 9)である。

彩色多項式

ループを許すグラフ $G$ と正の整数 $k$ について、写像 $\varphi\colon V\to\{1,\dots,k\}$ で、どの辺の両端も異なる色になるものの個数を $P(G;k)$ と書く。ループがあれば $P(G;k)=0$ であり、平行辺は条件を変えない。$G$ が単純グラフなら、$P(G;k)$ は 彩色多項式 の $P_G(k)$ である。

部分集合による展開(Whitney)

正の整数 $k$ について
$$ P(G;k)=\sum_{A\subset E}(-1)^{|A|}k^{c(A)} $$
が成り立つ。

要点:辺ごとに「両端が同じ色」という条件をとり、包除原理を当てる。

詳しい証明を開く

すべての写像 $\varphi\colon V\to\{1,\dots,k\}$ の集合を $X$、辺 $e$ の両端の色が等しい写像の集合を $X_e$ とする(ループ $e$ では $X_e=X$)。$P(G;k)$ はどの $X_e$ にも属さない写像の個数なので、包除原理 により $\sum_{A\subset E}(-1)^{|A|}\bigl|\bigcap_{e\in A}X_e\bigr|$ である($A=\emptyset$ の共通部分は $X$)。$\bigcap_{e\in A}X_e$ は $A$ のどの辺の両端も同じ色の写像、すなわち $(V,A)$ の各連結成分の上で一定の写像の集合で、その個数は $k^{c(A)}$ である。$\square$

彩色多項式との関係

$$ P(G;k)=(-1)^{r(E)}\,k^{c(G)}\,T(G;1-k,0). $$

右辺に $T=R$ の式を代入すると、$A$ の項は
$$ (-1)^{r(E)}k^{c(E)}(-k)^{r(E)-r(A)}(-1)^{|A|-r(A)}=(-1)^{2r(E)-2r(A)+|A|}\,k^{c(E)+r(E)-r(A)}=(-1)^{|A|}k^{c(A)} $$
である。ここで $c(E)+r(E)=|V|$、$|V|-r(A)=c(A)$ を使った。lem-tp-whitney から主張が従う。$\square$

たとえば $K_3$ では $(-1)^2k\,\bigl((1-k)^2+(1-k)\bigr)=k(k-1)(k-2)$、$m$ 辺の木では $(-1)^mk(1-k)^m=k(k-1)^m$ で、彩色多項式 の例「基本的なグラフの彩色多項式」と一致する。ループがあると $T$ は因子 $y$ をもつので $y=0$ で $0$ になり、$P=0$ と合う。彩色多項式 の削除縮約の公式 $P_G=P_{G-e}-P_{G/e}$ は、通常の辺については、$T$ の規則 4 を $x=1-k$、$y=0$ で書き直したものにあたる。lem-tp-whitney と thm-tp-chromatic は EM08 Theorem 10(p. 13)と Theorem 12(p. 14)である。

流れ多項式

$\Gamma$ を位数 $k$ の有限アーベル群とし、$G$ の各辺に向きを付けて、辺 $e$ の始点を $i(e)$、終点を $t(e)$ とする(ループでは $i(e)=t(e)$)。写像 $f\colon E\to\Gamma$ が、すべての頂点 $v$ で
$$ \sum_{t(e)=v}f(e)=\sum_{i(e)=v}f(e) $$
(入ってくる量と出ていく量が等しい)を満たすとき、$f$ を $\Gamma$-流れ という。ループは両辺に同じ量を加えるので条件に影響しない。どの辺でも $f(e)\neq0$ である $\Gamma$-流れを至る所 $0$ でない流れといい、その個数を $F(G;\Gamma)$ と書く。辺 $e$ の向きを逆にして $f(e)$ を $-f(e)$ に替えると一対一に対応するので、$F(G;\Gamma)$ は向きの付け方によらない。

流れの個数

$A\subset E$ について、全域部分グラフ $(V,A)$ の $\Gamma$-流れはちょうど $k^{|A|-r(A)}$ 個ある。

要点:$(V,A)$ の極大全域森 $Q$ をとると、$A\setminus Q$ の値は自由に選べ、$Q$ の値はそれから一意に決まる。

詳しい証明を開く

頂点への写像 $b\colon V\to\Gamma$ と辺への写像 $g$ について、$(\delta g)(v):=\sum_{t(e)=v}g(e)-\sum_{i(e)=v}g(e)$ とおく。各辺は始点と終点(同じ成分にある)に $-g(e)$ と $+g(e)$ を与えるので、$\delta g$ の和は各連結成分の上で $0$ である。$f$ が流れであることは $\delta f=0$ と同じである。

主張:森 $Q$ と、$(V,Q)$ の各連結成分の上で和が $0$ の $b$ について、$\delta g=b$ となる $g\colon Q\to\Gamma$ はただ 1 つある。$|Q|$ についての帰納法で示す。$Q=\emptyset$ なら成分は 1 点ずつなので $b=0$ で、$g$ は空の写像だけである。$Q\neq\emptyset$ なら、辺をもつ木の成分の葉 $\ell$ と、$\ell$ に接する $Q$ の唯一の辺 $d$ をとり、他端を $w$ とする。$\ell$ での条件から $g(d)$ は $\pm b(\ell)$ にただ 1 通りに決まる。$Q':=Q\setminus\{d\}$ とし、$b'$ を $b'(\ell):=0$、$b'(w):=b(w)-(d\text{ が }w\text{ に与える量})$、ほかは $b$ と定めると、$d$ が $\ell$ と $w$ に与える量の和は $0$ なので、$b'$ は $(V,Q')$ の各成分の上で和が $0$ になる。帰納法の仮定から $\delta g'=b'$ となる $g'\colon Q'\to\Gamma$ がただ 1 つあり、$g'$ と $g(d)$ を合わせたものが求める $g$ で、ほかにはない。

流れの数え上げ:$(V,A)$ の各連結成分に 全域木 の定理「全域木の存在」を使い、極大全域森 $Q\subset A$ をとる。$c(Q)=c(A)$ なので lem-tp-forest により $|Q|=r(A)$ である。$A\setminus Q$ 上の値 $g_0$ を任意に選ぶと、$f$ が流れであることは $\delta(f|_Q)=-\delta g_0$ と同じで、右辺は各成分の上で和が $0$ である($(V,Q)$ と $(V,A)$ の成分は同じ)。主張により $f|_Q$ はただ 1 つに決まる。よって流れの個数は $k^{|A\setminus Q|}=k^{|A|-r(A)}$ である。$\square$

流れ多項式との関係

位数 $k$ の有限アーベル群 $\Gamma$ について
$$ F(G;\Gamma)=(-1)^{|E|-r(E)}\,T(G;0,1-k) $$
が成り立つ。とくに $F(G;\Gamma)$ は群の構造によらず位数 $k$ だけで決まる。$F(G;k):=F(G;\Gamma)$ は $k$ の多項式であり、流れ多項式(flow polynomial)という。

$\Gamma$-流れ全体の集合を $Y$、$f(e)=0$ となる流れの集合を $Y_e$ とする。$S\subset E$ について、$\bigcap_{e\in S}Y_e$ は $E\setminus S$ の上の流れ($S$ では $0$)と同じなので、lem-tp-flow-count によりその個数は $k^{|A|-r(A)}$($A=E\setminus S$)である。包除原理 により
$$ F(G;\Gamma)=\sum_{S\subset E}(-1)^{|S|}\Bigl|\bigcap_{e\in S}Y_e\Bigr|=\sum_{A\subset E}(-1)^{|E|-|A|}k^{|A|-r(A)} $$
である。一方、主張の右辺に $T=R$ の式を代入すると、$A$ の項は $(-1)^{|E|-r(E)}(-1)^{r(E)-r(A)}(-k)^{|A|-r(A)}=(-1)^{|E|+|A|-2r(A)}k^{|A|-r(A)}$ で、符号は $(-1)^{|E|-|A|}$ に等しい。$\square$

$K_3$ では $(-1)^{3-2}(0+0+1-k)=k-1$ である。三角形の流れは向きをそろえると 3 辺で同じ値をとるので、$0$ でない値の選び方 $k-1$ 通りと一致する。橋があれば規則 3 により $T$ は $x$ で割り切れるので $T(0,y)=0$ であり、橋のあるグラフ(たとえば木)には至る所 $0$ でない流れがない。$K_4$ では $(k-1)(k-2)(k-3)$ になり、$\mathbb Z/4\mathbb Z$ でも $\mathbb Z/2\mathbb Z\times\mathbb Z/2\mathbb Z$ でも $6$ 個である。thm-tp-flow は EM08 Theorem 14(p. 16)で、同書は削除縮約による証明の概略を述べている。

信頼性多項式

$0\le p\le1$ とし、$G$ の各辺が独立に確率 $p$ で残り、確率 $1-p$ で壊れるとする。残った辺の集合を $A$ とするとき、$c(A)=c(G)$ となる確率($G$ が連結なら、残った辺で $G$ が連結のままである確率)
$$ \mathrm{Rel}(G;p):=\sum_{c(A)=c(G)}p^{|A|}(1-p)^{|E|-|A|} $$
を $G$ の信頼性多項式(reliability polynomial)という。

信頼性多項式との関係

$0\le p< 1$ について
$$ \mathrm{Rel}(G;p)=(1-p)^{|E|-r(E)}\,p^{r(E)}\,T\Bigl(G;1,\frac1{1-p}\Bigr) $$
が成り立つ。

prf-tp-counting と同じく、$T(G;1,y)$ では $r(A)=r(E)$(すなわち $c(A)=c(G)$)の項だけが残り、$T(G;1,y)=\sum_{c(A)=c(G)}(y-1)^{|A|-r(E)}$ である。$y=1/(1-p)$ では $y-1=p/(1-p)$ なので、右辺の $A$ の項は $(1-p)^{|E|-r(E)}p^{r(E)}\bigl(p/(1-p)\bigr)^{|A|-r(E)}=p^{|A|}(1-p)^{|E|-|A|}$ である。$\square$

$K_3$ では $(1-p)p^2\bigl(2+\frac1{1-p}\bigr)=3p^2-2p^3$ で、3 辺がすべて残るか、ちょうど 1 辺だけ壊れる確率 $p^3+3p^2(1-p)$ に等しい。連結なグラフについての thm-tp-reliability は EM08 Definition 8(p. 19)と Theorem 17(p. 20)である。

平面グラフの双対性

平面グラフ図と双対グラフの約束は 双対グラフ の記事のとおりとする。$G$ は平面に描いた有限単純グラフ(平面グラフ図)、$G^{*}$ はその双対グラフで、頂点は $G$ の面、辺は $G$ の各辺 $e$ に 1 本ずつ置いた $e^{*}$ である。$G^{*}$ はループや平行辺をもちうるが、Tutte 多項式はそれらを許すグラフで定義されている。$G^{*}$ は連結である(同じ記事の系「双対グラフの連結性」)。

双対性

平面グラフ図 $G$ とその双対グラフ $G^{*}$ について
$$ T(G^{*};x,y)=T(G;y,x) $$
が成り立つ。

$e\mapsto e^{*}$ で $E(G^{*})$ を $E:=E(G)$ と同一視し、$G^{*}$ の階数を $r^{*}$ と書く。$A\subset E$ について、$H:=(V,A)$ の面の個数を $h(A)$ とする。
$G^{*}$ から $A^{*}$ の辺を除いたグラフ(頂点はすべて残し、辺は $(E\setminus A)^{*}$)の連結成分の個数は $h(A)$ に等しい(双対グラフ の記事の補題「部分グラフの面と双対の成分」)。$H$ に 平面グラフ の記事の命題「連結成分の個数を入れたEulerの公式」を使うと $h(A)=1+c(A)-|V|+|A|$ である。$A=E$ とすると $G^{*}$ の頂点数は $h(E)=1+c(E)-|V|+|E|$ なので
$$ r^{*}(E\setminus A)=h(E)-h(A)=\bigl(c(E)-c(A)\bigr)+\bigl(|E|-|A|\bigr) $$
である。とくに $A=\emptyset$ で $c(\emptyset)=|V|$ から $r^{*}(E)=|E|-r(E)$ である。$B:=E\setminus A$ とおくと、$r(E)+c(E)=|V|=r(A)+c(A)$ を使って
$$ r^{*}(E)-r^{*}(B)=|A|-r(A),\qquad |B|-r^{*}(B)=c(A)-c(E)=r(E)-r(A) $$
を得る。$A\mapsto B=E\setminus A$ は $E$ の部分集合全体の全単射なので
$$ T(G^{*};x,y)=\sum_{B\subset E}(x-1)^{r^{*}(E)-r^{*}(B)}(y-1)^{|B|-r^{*}(B)}=\sum_{A\subset E}(x-1)^{|A|-r(A)}(y-1)^{r(E)-r(A)}=T(G;y,x) $$
である。$\square$

双対性からの帰結

平面グラフ図 $G$ について次が成り立つ。

  1. $G$ が連結なら、$G^{*}$ の全域木の個数は $G$ の全域木の個数に等しい。
  2. 正の整数 $k$ について、$G$ の面を $k$ 色で塗り分ける方法の個数は $k\,F(G;k)$ である。

1:$G$ と $G^{*}$ はどちらも連結なので、thm-tp-counting と thm-tp-duality により $\tau(G^{*})=T(G^{*};1,1)=T(G;1,1)=\tau(G)$ である。
2:面の塗り分けは $G^{*}$ の頂点彩色と同じである(双対グラフ の記事の命題「面の塗り分けと双対の頂点彩色」)。thm-tp-chromatic を $G^{*}$ に使うと、$c(G^{*})=1$、$r^{*}(E)=|E|-r(E)$ なので、thm-tp-duality と thm-tp-flow により $P(G^{*};k)=(-1)^{|E|-r(E)}k\,T(G;0,1-k)=k\,F(G;k)$ である。$\square$

1 は 双対グラフ の系「全域木の補集合は双対の全域木」からも分かる。2 は、面の彩色(地図の塗り分け)と流れが双対の関係にあることを述べている。たとえば $K_4$ は自己双対(双対グラフ の例の 3)で、表の $T(K_4)$ は $x$ と $y$ について対称であり、$P(K_4;k)=k(k-1)(k-2)(k-3)=k\,F(K_4;k)$ となる。thm-tp-duality は EM08 Proposition 2(p. 6)で、同書は階数の関係を確かめれば従うと述べている。

反例の表

外す条件・替える条件反例成り立たなくなること
$G$ が連結(thm-tp-counting の 1 の後半)離れた 2 つの三角形 $K_3\sqcup K_3$$T(G;1,1)=\tau(G)$(prop-tp-product より $T=(x^2+x+y)^2$、$T(1,1)=9$ だが全域木はない)
流れの値を有限アーベル群にとる(thm-tp-flow)$K_3$ で値を $\{\pm1,\pm2\}\subset\mathbb Z$ にとる整数の流れ個数が $(-1)^{3-2}T(K_3;0,-2)=2$ であること(整数の流れは $4$ 個)
規則 4 の $e$ が通常の辺であること(thm-tp-recursion の 4)$K_2$$R(G)=R(G-e)+R(G/e)$($R(K_2)=x$ だが右辺は $R(K_2-e)+R(K_2/e)=1+1=2$)
「$G\cong G'$」を「$T(G)=T(G')$」に弱める4 頂点の道 $P_4$ と星 $K_{1,3}$同型であること(どちらも木で $T=x^3$)
反例の確認

2 行目:辺を $0\to1$、$1\to2$、$0\to2$ と向けると、流れは $f(01)=f(12)=a$、$f(02)=-a$ の形である。$\mathbb Z/3\mathbb Z$ では $a\in\{1,2\}$ の $2$ 個、整数で値を $\{\pm1,\pm2\}$ に限ると $a\in\{\pm1,\pm2\}$ の $4$ 個である。整数の流れの個数は群の流れの個数と一般には異なる。3 行目:$K_2$ のただ 1 本の辺 $e$ は橋なので、thm-tp-recursion の 3 により $R(K_2)=x\,R(K_2/e)=x$ である。一方 $K_2-e$ と $K_2/e$ は辺のないグラフで $R=1$ なので、4 の等式は橋では成り立たない。4 行目:Tutte 多項式はグラフを同型を除いて決めない。$m$ 辺の木はすべて $x^m$ をもつ。

関連項目

参考文献

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する