五項補題(five lemma)とは、アーベル圏で行が完全な二段五列の可換図式について、両端の縦射 $a_1$ がエピ射、$a_5$ がモノ射で、隣の縦射 $a_2,a_4$ が同型なら、中央の縦射 $a_3$ も同型になるという補題である。単射の側と全射の側の二つの四項補題に分けて図式追跡で証明し、一般のアーベル圏へは Mitchell の埋め込み定理で移す。系として短五項補題、右完全関手の自然変換が自由加群で同型なら有限表示加群でも同型になること、複体の短完全列の三つの射のうち二つが擬同型なら残りも擬同型であることが従う。両端の条件や行の完全性を外した反例も与え、長完全列どうしを比べるホモロジー代数の基本道具として位置づける。
五項補題は、行が完全な可換図式の中央の縦射が同型であることを、両隣と両端の縦射の性質から結論する補題である。ホモロジー代数では、2 つの長完全列を縦射で結んだ図式に当てて「一部の項で同型なら残りの項でも同型」を導く場面や、有限表示加群についての主張を自由加群の場合に帰着させる場面で使われる。この記事では、単射性と全射性を別々に述べた 2 つの四項補題として主張を分けて証明し、系と応用、仮定を外したときの反例を与える。
アーベル圏 $\mathcal A$ において、次の可換図式を考える。
$$
\xymatrix{
A_1 \ar[r]^{f_1} \ar[d]_{a_1} & A_2 \ar[r]^{f_2} \ar[d]_{a_2} & A_3 \ar[r]^{f_3} \ar[d]_{a_3} & A_4 \ar[r]^{f_4} \ar[d]_{a_4} & A_5 \ar[d]_{a_5}\\
B_1 \ar[r]_{g_1} & B_2 \ar[r]_{g_2} & B_3 \ar[r]_{g_3} & B_4 \ar[r]_{g_4} & B_5
}
$$
図式が可換であるとは、4 つの正方形がすべて可換、すなわち $i=1,2,3,4$ について
$$
g_i\circ a_i=a_{i+1}\circ f_i
$$
が成り立つことをいう。さらに上下 2 つの横列がいずれも $A_2,A_3,A_4$(下段では $B_2,B_3,B_4$)で完全列である、すなわち
$$
\operatorname{im}f_{i-1}=\ker f_i,\qquad \operatorname{im}g_{i-1}=\ker g_i\qquad(i=2,3,4)
$$
であるとする。両端 $A_1,A_5,B_1,B_5$ での完全性は仮定しない。
縦射のうち $a_3$ を中央の縦射、$a_2,a_4$ を隣の縦射、$a_1,a_5$ を両端の縦射と呼ぶことにする。完全性から特に $f_{i}\circ f_{i-1}=0$、$g_i\circ g_{i-1}=0$($i=2,3,4$)が成り立つ。
以下の証明では、まず $\mathcal A$ が環 $R$ 上の左加群の圏である場合に元を使って示す。加群の圏ではモノ射は単射準同型、エピ射は全射準同型、同型射は全単射準同型である。一般のアーベル圏への移し方は節「一般のアーベル圏での扱い」で述べる。
def-five-lemma-setup の設定で、$a_1$ がエピ射、$a_2$ と $a_4$ がモノ射ならば、$a_3$ はモノ射である。
$x\in A_3$ が $a_3(x)=0$ を満たすとして、$x=0$ を示す。
可換性 $g_3\circ a_3=a_4\circ f_3$ より $a_4(f_3(x))=g_3(a_3(x))=0$ であり、$a_4$ がモノ射であるから $f_3(x)=0$。上段の $A_3$ での完全性 $\ker f_3=\operatorname{im}f_2$ より、ある $y\in A_2$ で $x=f_2(y)$ となる。
このとき可換性 $g_2\circ a_2=a_3\circ f_2$ より $g_2(a_2(y))=a_3(f_2(y))=a_3(x)=0$。下段の $B_2$ での完全性 $\ker g_2=\operatorname{im}g_1$ より、ある $z\in B_1$ で $a_2(y)=g_1(z)$ となる。$a_1$ はエピ射であるから、ある $w\in A_1$ で $a_1(w)=z$ となる。
可換性 $g_1\circ a_1=a_2\circ f_1$ より
$$
a_2(f_1(w))=g_1(a_1(w))=g_1(z)=a_2(y)
$$
であり、$a_2$ がモノ射であるから $f_1(w)=y$。ゆえに $x=f_2(y)=f_2(f_1(w))=0$(上段の $A_2$ での完全性から $f_2\circ f_1=0$)。以上より $\ker a_3=0$ であり、$a_3$ はモノ射である。$\square$
証明で使った仮定を数えると、$a_4$ の単射性(1 回)、$A_3$・$B_2$・$A_2$ での完全性、$a_1$ の全射性、$a_2$ の単射性である。$a_5$ と $B_3,B_4,A_4$ での完全性は使っていない。
def-five-lemma-setup の設定で、$a_5$ がモノ射、$a_2$ と $a_4$ がエピ射ならば、$a_3$ はエピ射である。
$z\in B_3$ を任意にとり、$z\in\operatorname{im}a_3$ を示す。
$a_4$ はエピ射であるから、ある $w\in A_4$ で $a_4(w)=g_3(z)$ となる。可換性 $g_4\circ a_4=a_5\circ f_4$ と下段の完全性から従う $g_4\circ g_3=0$ により
$$
a_5(f_4(w))=g_4(a_4(w))=g_4(g_3(z))=0
$$
であり、$a_5$ がモノ射であるから $f_4(w)=0$。上段の $A_4$ での完全性 $\ker f_4=\operatorname{im}f_3$ より、ある $y\in A_3$ で $w=f_3(y)$ となる。
可換性 $g_3\circ a_3=a_4\circ f_3$ より $g_3(a_3(y))=a_4(f_3(y))=a_4(w)=g_3(z)$、すなわち $z-a_3(y)\in\ker g_3$。下段の $B_3$ での完全性 $\ker g_3=\operatorname{im}g_2$ より、ある $v\in B_2$ で $z-a_3(y)=g_2(v)$ となる。$a_2$ はエピ射であるから、ある $u\in A_2$ で $a_2(u)=v$ となり、可換性 $g_2\circ a_2=a_3\circ f_2$ より $g_2(v)=g_2(a_2(u))=a_3(f_2(u))$。ゆえに
$$
z=a_3(y)+a_3(f_2(u))=a_3\bigl(y+f_2(u)\bigr)
$$
であり、$a_3$ はエピ射である。$\square$
この証明が使うのは $a_4$ の全射性、$a_5$ の単射性、$B_4$($g_4\circ g_3=0$ の形で)・$A_4$・$B_3$ での完全性、$a_2$ の全射性であり、$a_1$ は使わない。2 つの四項補題は互いに双対である:図式の矢印の向きをすべて逆にすると、モノ射とエピ射が入れ替わり、一方の主張が他方の主張に移る。
def-five-lemma-setup の設定で、$a_1$ がエピ射、$a_5$ がモノ射、$a_2$ と $a_4$ が同型射ならば、$a_3$ は同型射である。特に $a_1,a_2,a_4,a_5$ がすべて同型射ならば $a_3$ は同型射である。
同型射はモノ射かつエピ射であるから、thm-five-lemma-four-mono により $a_3$ はモノ射、thm-five-lemma-four-epi により $a_3$ はエピ射である。
残るのは、アーベル圏ではモノ射かつエピ射である射が同型射であることである。加群の圏では全単射準同型の逆写像が準同型になることから明らかである。一般のアーベル圏では次のように示す。$f\colon A\to B$ をモノ射かつエピ射とする。$f$ はエピ射だから余核は $B\to0$ であり、その核は $\mathrm{id}_B\colon B\to B$ である。アーベル圏の公理(正規性:任意のモノ射は自身の余核の核である)により、$f$ は $\ker(\operatorname{coker}f)=\mathrm{id}_B$ と同型な $B$ 上の部分対象である。すなわち同型射 $\varphi\colon A\to B$ で $\mathrm{id}_B\circ\varphi=f$ となるものがあり、$f=\varphi$ は同型射である。$\square$
名前の「五項」は図式の各行の 5 つの対象に由来する。2 つの四項補題の主張はそれぞれ 4 本の縦射しか使わないので、四項補題(four lemma)と呼ばれる。五項補題は 2 つの四項補題を合わせたものである。この形の主張と「単射の側・全射の側に分ける」精密化は Wei94 Exercise 1.3.3(p. 13)にある。
上の証明は加群の元を使った。一般のアーベル圏 $\mathcal A$ では、次の手順で同じ結論が得られる。図式に現れる対象と射は有限個なので、それらを含み、核・余核・有限直和で閉じた小さい充満アーベル部分圏 $\mathcal A_0$ をとる。Mitchellの埋め込み定理 により、ある環 $R$ への充満忠実かつ完全な加法関手 $F\colon\mathcal A_0\to R\text{-}\mathbf{Mod}$ がある。同じ記事の系「完全な埋め込みは単射性・全射性・完全性を反映する」により、$F$ で写した図式も可換で行は同じ位置で完全であり、縦射がモノ射・エピ射・同型射であるかどうかも $F$ の前後で変わらない。したがって加群の場合の結論 ($F(a_3)$ がモノ射・エピ射・同型射) が $a_3$ 自身の性質として $\mathcal A$ に戻ってくる。この使い方は Wei94 の Snake Lemma 1.3.2 の後の注意(p. 12)と同じであり、埋め込み定理そのものは Wei94 Theorem 1.6.1(p. 25)で述べられている。
埋め込み定理を使わずに、元の代わりに「任意の対象 $T$ から来る射」を使い、全射で持ち上げるたびに始域をエピ射で取り替える議論でも証明できる。その判定法は 蛇の補題 の記事の補題「エピ射を介した持ち上げによる判定」にある。
四項補題(単射の側)では、$a_3$ の核の元 $x$ を右へ送ると $a_4$ の単射性で消え、完全性で左の $A_2$ から来る元になる。そこから下段へ降り、さらに左の $B_1$ へ逃がし、$a_1$ の全射性で上段の $A_1$ に持ち上げ、$a_2$ の単射性で元の位置に戻ると、$x$ が「2 回続けて写した像」すなわち $0$ であることが分かる。情報は右($a_4$)から入り、左($a_1$,$a_2$)で閉じる。全射の側はこの双対で、情報は左($a_2$)と右($a_4$,$a_5$)の両方から入る。
中央の縦射の同型性は、両端の縦射の弱い条件(エピ射・モノ射だけ)と、隣の縦射の強い条件(同型)から出る。両端が同型である必要はないが、両端の条件を完全に外すことはできない(節「反例」)。
2 つの短完全列 $0\to A'\xrightarrow{i}A\xrightarrow{p}A''\to0$、$0\to B'\xrightarrow{j}B\xrightarrow{q}B''\to0$ の間の射 $(\alpha,\beta,\gamma)$($j\circ\alpha=\beta\circ i$、$q\circ\beta=\gamma\circ p$)について、$\alpha$ と $\gamma$ がモノ射なら $\beta$ はモノ射、$\alpha$ と $\gamma$ がエピ射なら $\beta$ はエピ射、$\alpha$ と $\gamma$ が同型射なら $\beta$ は同型射である。
両端に零対象を足した 5 項の図式
$$
\xymatrix{
0 \ar[r] \ar[d] & A' \ar[r]^{i} \ar[d]_{\alpha} & A \ar[r]^{p} \ar[d]_{\beta} & A'' \ar[r] \ar[d]_{\gamma} & 0 \ar[d]\\
0 \ar[r] & B' \ar[r]_{j} & B \ar[r]_{q} & B'' \ar[r] & 0
}
$$
を考える。行は $A',A,A''$($B',B,B''$)で完全であり、零対象の間の射 $0\to0$ はモノ射かつエピ射である。$\alpha,\gamma$ がモノ射なら、thm-five-lemma-four-mono を $a_1=(0\to0)$(エピ射)、$a_2=\alpha$、$a_4=\gamma$ に当てて $\beta$ はモノ射。$\alpha,\gamma$ がエピ射なら、thm-five-lemma-four-epi を $a_5=(0\to0)$(モノ射)、$a_2=\alpha$、$a_4=\gamma$ に当てて $\beta$ はエピ射。両方を合わせ、thm-five-lemma の証明の後半により $\beta$ は同型射である。$\square$
特に、同じ $A$ と $B$ をもつ加群の拡大 $0\to B\to X\to A\to0$、$0\to B\to X'\to A\to0$ の間に、両端が恒等射である射 $X\to X'$ があれば、それは自動的に同型である。拡大の「同値」の関係が対称的であることは、この系から従う。
加法関手は有限直和を保つ:包含 $\iota_k\colon R\to R^n$ と射影 $\pi_k\colon R^n\to R$ の関係式 $\sum_k\iota_k\pi_k=\mathrm{id}$、$\pi_k\iota_l=\delta_{kl}\mathrm{id}$ は $F$ でも $G$ でも保たれる。$\eta$ の自然性 $\eta_{R^n}\circ F(\iota_k)=G(\iota_k)\circ\eta_R$ から、$F(R^n)\cong F(R)^n$、$G(R^n)\cong G(R)^n$ のもとで $\eta_{R^n}$ は $\eta_R$ の $n$ 個の直和になり、同型である。$R^m$ についても同様である。
与えられた完全列に $F,G$ を施すと、右完全性により行が完全な可換図式
$$
\xymatrix{
F(R^m) \ar[r] \ar[d]_{\eta_{R^m}} & F(R^n) \ar[r] \ar[d]_{\eta_{R^n}} & F(M) \ar[r] \ar[d]_{\eta_M} & 0 \ar[r] \ar[d] & 0 \ar[d]\\
G(R^m) \ar[r] & G(R^n) \ar[r] & G(M) \ar[r] & 0 \ar[r] & 0
}
$$
を得る(可換性は $\eta$ の自然性)。$a_1=\eta_{R^m}$、$a_2=\eta_{R^n}$ は同型、$a_4,a_5$ は $0\to0$ で同型だから、thm-five-lemma により $\eta_M$ は同型である。$\square$
この命題は、「自由加群で成り立つ自然な同型は、有限表示加群に広がる」という型の議論の基礎である。たとえば $F(M)=M\otimes_RN$、$G(M)$ を別の右完全関手としたとき、比較写像を $M=R$ で確かめれば有限表示加群全体で同型が分かる。
ホモロジーの記事の定理「複体の短完全列から得られる長完全列」により、上下の行にホモロジーの長完全列がある。$\alpha,\beta,\gamma$ が誘導する写像を縦に並べた図式
$$
\xymatrix{
H_n(A) \ar[r] \ar[d]_{\alpha_*} & H_n(B) \ar[r] \ar[d]_{\beta_*} & H_n(C) \ar[r]^{\partial} \ar[d]_{\gamma_*} & H_{n-1}(A) \ar[r] \ar[d]_{\alpha_*} & H_{n-1}(B) \ar[d]_{\beta_*}\\
H_n(A') \ar[r] & H_n(B') \ar[r] & H_n(C') \ar[r]_{\partial'} & H_{n-1}(A') \ar[r] & H_{n-1}(B')
}
$$
は可換である。接続準同型を含まない正方形はホモロジーの関手性から、接続準同型を含む正方形は $\partial'\circ\gamma_*=\alpha_*\circ\partial$ から可換である。
$[c]\in H_n(C)$ の代表元 $c$ を $b\in B_n$ に持ち上げ、$d b$ が $A_{n-1}$ の元 $a$ の像になるとき $\partial[c]=[a]$ である。$\beta(b)\in B'_n$ は $\gamma(c)$ の持ち上げであり、鎖写像なので $d\beta(b)=\beta(db)$ は $\alpha(a)$ の像である。よって $\partial'[\gamma(c)]=[\alpha(a)]=\alpha_*\partial[c]$。$\square$
特に、完全な複体(ホモロジーがすべて $0$ の複体)の短完全列 $0\to A_\bullet\to B_\bullet\to C_\bullet\to0$ では、3 つのうち 2 つが完全なら残りも完全である。これは零複体への射に上の命題を当てた場合である(Wei94 Exercise 1.3.1、p. 11 の主張)。
アーベル群の短完全列 $0\to\mathbb Z\xrightarrow{\ 2\ }\mathbb Z\to\mathbb Z/2\mathbb Z\to0$ から自身への射 $(\alpha,\beta,\gamma)$ で $\alpha=\mathrm{id}$、$\gamma=\mathrm{id}$ となるものを考える。$\beta\colon\mathbb Z\to\mathbb Z$ は整数 $c$ 倍の写像で、左の正方形の可換性 $\beta\circ2=2\circ\mathrm{id}$ から $2c=2$、すなわち $c=1$ となる。cor-five-lemma-short はこの $\beta$ が同型であることを、計算なしに保証する。
$R$ を可換環、$N,P$ を $R$ 加群とし、$F(M)=(M\otimes_RN)\otimes_RP$、$G(M)=M\otimes_R(N\otimes_RP)$、$\eta_M$ をテンソル積の結合の写像 $(m\otimes n)\otimes p\mapsto m\otimes(n\otimes p)$ とする。$F,G$ はともに右完全であり、$M=R$ のとき $\eta_R$ は $N\otimes_RP$ の恒等写像と同一視できるので同型である。prop-five-lemma-finitely-presented により、任意の有限表示加群 $M$ で $\eta_M$ は同型である。結合の同型は実際にはすべての $M$ で成り立つが(テンソル積の記事の命題「単位・可換・結合の同型」)、ここでは五項補題だけで有限表示の場合が得られることを見た。
五項補題の仮定を 1 つずつ外すと、結論が成り立たなくなる。
| 外す仮定 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 行の完全性 | 上段 $0\to0\to\mathbb Z\to0\to0$、下段がすべて $0$ | 外側の縦射は同型なのに $a_3\colon\mathbb Z\to0$ は同型でない |
| 図式の可換性 | 上下とも $0\to0\to\mathbb Z\xrightarrow{\mathrm{id}}\mathbb Z\to0$、$a_3=0$、$a_4=\mathrm{id}$ | 外側の縦射は同型なのに $a_3$ は同型でない |
| $a_1$ がエピ射 | ex-five-lemma-counter-a1 | $a_2,a_4,a_5$ は同型なのに $a_3$ はモノ射でない |
| $a_5$ がモノ射 | ex-five-lemma-counter-a5 | $a_1,a_2,a_4$ は同型なのに $a_3$ はエピ射でない |
| 縦射 $a_3$ が図式に入ること | $\mathbb Z/4\mathbb Z$ と $\mathbb Z/2\mathbb Z\oplus\mathbb Z/2\mathbb Z$ の拡大 | 両端が同じ短完全列でも中央の対象は同型とは限らない |
| $M$ の有限表示性(prop-five-lemma-finitely-presented) | $M=\mathbb Q$、$F(M)=M\otimes_{\mathbb Z}\prod_{n\ge1}\mathbb Z$、$G(M)=\prod_{n\ge1}M$ | $\eta_R$ は同型なのに $\eta_{\mathbb Q}$ は同型でない |
表の 1 行目では上段が $A_3=\mathbb Z$ で完全でない($\ker f_3=\mathbb Z\ne0=\operatorname{im}f_2$)。2 行目では 3 番目の正方形で $g_3\circ a_3=0$、$a_4\circ f_3=\mathrm{id}$ となり可換でない。どちらも行の他の位置・他の正方形は条件を満たし、$a_1,a_2,a_4,a_5$ は同型である。
上段を $\mathbb Z\xrightarrow{\ 2\ }\mathbb Z\to\mathbb Z/2\mathbb Z\to0\to0$、下段を $\mathbb Z\xrightarrow{\mathrm{id}}\mathbb Z\to0\to0\to0$ とし、縦射を $a_1=2\colon\mathbb Z\to\mathbb Z$、$a_2=\mathrm{id}_{\mathbb Z}$、$a_3\colon\mathbb Z/2\mathbb Z\to0$、$a_4=a_5=(0\to0)$ とする。
行の完全性:上段は $A_2$ で $\operatorname{im}2=2\mathbb Z=\ker(\mathbb Z\to\mathbb Z/2\mathbb Z)$、$A_3$ で射影が全射だから $\operatorname{im}f_2=\mathbb Z/2\mathbb Z=\ker(\mathbb Z/2\mathbb Z\to0)$、$A_4$ では $0$。下段は $B_2$ で $\operatorname{im}\mathrm{id}=\mathbb Z=\ker(\mathbb Z\to0)$、$B_3,B_4$ では $0$。可換性:左の正方形は $\mathrm{id}\circ2=2=\mathrm{id}\circ2$、ほかは終域が $0$。
$a_2,a_4,a_5$ は同型であり、$a_1=2$ だけがエピ射でない。このとき $a_3\colon\mathbb Z/2\mathbb Z\to0$ はモノ射でない。したがって thm-five-lemma-four-mono の「$a_1$ がエピ射」は、ほかの縦射をすべて同型にしても外せない。
上の反例と左右の役割を入れ替えた反例を作る。上段を $0\to0\to0\to\mathbb Q/\mathbb Z\xrightarrow{\mathrm{id}}\mathbb Q/\mathbb Z$、下段を $0\to0\to\mathbb Z/2\mathbb Z\xrightarrow{g_3}\mathbb Q/\mathbb Z\xrightarrow{\ 2\ }\mathbb Q/\mathbb Z$ とする。ここで $g_3$ は $1\bmod2\mapsto\tfrac12\bmod\mathbb Z$ で定まる単射である。縦射を $a_1=a_2=(0\to0)$、$a_3\colon0\to\mathbb Z/2\mathbb Z$、$a_4=\mathrm{id}$、$a_5=2$($\mathbb Q/\mathbb Z$ 上の 2 倍写像)とする。
行の完全性:上段は $A_4$ で $\ker\mathrm{id}=0=\operatorname{im}f_3$。下段は $B_3$ で $\ker g_3=0=\operatorname{im}g_2$、$B_4$ で $\ker(2)=\{0,\tfrac12\}=\operatorname{im}g_3$。可換性:右の正方形は $2\circ\mathrm{id}=2\circ\mathrm{id}$、3 番目の正方形は始域が $0$。
$a_1,a_2,a_4$ は同型、$a_5=2$ はエピ射だがモノ射でない(核は $\{0,\tfrac12\}$)。このとき $a_3\colon0\to\mathbb Z/2\mathbb Z$ はエピ射でない。したがって thm-five-lemma-four-epi の「$a_5$ がモノ射」は外せない。
短完全列 $0\to\mathbb Z/2\mathbb Z\xrightarrow{\ 2\ }\mathbb Z/4\mathbb Z\to\mathbb Z/2\mathbb Z\to0$ と $0\to\mathbb Z/2\mathbb Z\to\mathbb Z/2\mathbb Z\oplus\mathbb Z/2\mathbb Z\to\mathbb Z/2\mathbb Z\to0$(包含と射影)は両端の対象が同じだが、中央の $\mathbb Z/4\mathbb Z$ は位数 4 の元をもち、$\mathbb Z/2\mathbb Z\oplus\mathbb Z/2\mathbb Z$ はもたないので同型でない。五項補題は「両端が同型な図式を可換にする中央の縦射がある」ときにだけ、その縦射が同型だと結論する。両端の対象が同じという情報だけでは中央は決まらない。実際この 2 つの列の間には、両端が恒等射で図式を可換にする射 $\mathbb Z/4\mathbb Z\to\mathbb Z/2\mathbb Z\oplus\mathbb Z/2\mathbb Z$ は存在しない(あれば cor-five-lemma-short により同型になるから)。
$R=\mathbb Z$、$F(M)=M\otimes_{\mathbb Z}\prod_{n\ge1}\mathbb Z$、$G(M)=\prod_{n\ge1}M$、$\eta_M(m\otimes(x_n)_n)=(x_nm)_n$ とする。$F$ は右完全、$G$ は直積が完全列を保つので完全であり、$\eta_{\mathbb Z}$ は同型である。しかし $M=\mathbb Q$ では $\eta_{\mathbb Q}$ は全射でない。実際、$F(\mathbb Q)$ の元は有限和 $\sum_{k=1}^{s}q_k\otimes x^{(k)}$ であり、$q_k$ の分母の最小公倍数を $D$ とすると、その像 $\sum_k(x^{(k)}_nq_k)_n$ の各成分は $\tfrac1D\mathbb Z$ に入る。一方 $(\tfrac1n)_{n\ge1}\in\prod_n\mathbb Q$ の成分の分母は有界でないので、像に入らない。$\mathbb Q$ は有限生成でないので有限表示でもなく、prop-five-lemma-finitely-presented の仮定が外れている。
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