対数構造(log structure)とは、スキーム $X$ の上のモノイドの層 $M$ と、構造層の乗法モノイドへの射 $\alpha\colon M\to\mathcal{O}_X$ の組で、$\alpha$ が単元の逆像を $\mathcal{O}_X^\times$ と同型に写すもののことである。任意の前対数構造には普遍性をもつ付随する対数構造があり、特性層 $M/\mathcal{O}_X^\times$ の茎はシャープモノイドになる。座標超平面の和の外で可逆な関数の層は $\mathbb{N}^r$ を図表にもつ対数構造で、その原点への引き戻しが標準的な対数点である。退化した多様体に隠れた滑らかさを与える道具として使われる。
スキーム $X$ の上の関数 $f$ が、ある閉集合 $D$ の外では可逆で、$D$ の上で零になるとする。$f$ を「$\log f$ をとってよい関数」として記録しておくと、$D$ に沿って $f$ が退化していく様子を、$D$ の上でも代数的に扱える。この記録の仕方を公理化したものが対数構造である。対数構造は、$X$ の構造層の乗法モノイドへのモノイドの層の射で、単元の部分では構造層と一致するものとして定義される。
この記事では、対数構造と付随する対数構造を定義し、付随する対数構造の普遍性を証明する。特性層の茎がシャープモノイドであることを示し、例として閉集合の補集合で可逆な関数からなる対数構造を扱う。アフィン空間の座標超平面の和については、特性層の茎が $\mathbb{N}^r$ になること、および $\mathbb{N}^r$ からの写像がその対数構造の図表を与えることを証明する。最後に、引き戻しとして標準的な対数点を計算する。
この記事では、モノイドは単位元をもつ可換モノイドとし、積で書く(シャープモノイド の記事の加法記法とは記法だけが異なる)。スキーム $X$ の構造層 $\mathcal{O}_X$ を積についてのモノイドの層とみなし、その単元の層を $\mathcal{O}_X^\times$ と書く。層は Zariski位相 で考える(文献では エタール位相 で考えることが多い。下の注意)。
$X$ をスキームとする。$X$ の上の前対数構造(pre-log structure)とは、モノイドの層 $M$ とモノイドの層の射 $\alpha\colon M\to\mathcal{O}_X$ の組 $(M,\alpha)$ である。前対数構造が対数構造(log structure)であるとは、$\alpha$ の制限
$$
\alpha^{-1}(\mathcal{O}_X^\times)\longrightarrow\mathcal{O}_X^\times
$$
が同型であることをいう。対数構造をもつスキーム $(X,M)$ を対数スキームという。前対数構造の射 $(M,\alpha)\to(N,\beta)$ は、$\beta\circ\varphi=\alpha$ をみたすモノイドの層の射 $\varphi\colon M\to N$ である。
対数構造では、同型 $\alpha^{-1}(\mathcal{O}_X^\times)\cong\mathcal{O}_X^\times$ により $\mathcal{O}_X^\times$ を $M$ の部分層とみなす。商モノイドの層 $\overline{M}:=M/\mathcal{O}_X^\times$(前層 $U\mapsto M(U)/\mathcal{O}_X^\times(U)$ の層化。茎は $M_x/\mathcal{O}_{X,x}^\times$)を $M$ の特性層(characteristic)という。
包含 $\mathcal{O}_X^\times\hookrightarrow\mathcal{O}_X$ は対数構造で、自明な対数構造という。特性層は自明なモノイド $\{1\}$ の層である。恒等写像 $\mathcal{O}_X\to\mathcal{O}_X$ も対数構造である($\alpha^{-1}(\mathcal{O}_X^\times)=\mathcal{O}_X^\times$)。
$(X,M)$ を対数スキーム、$x\in X$ とする。
茎をとる操作は逆像 $\alpha^{-1}$ と可換なので、$\alpha_x^{-1}(\mathcal{O}_{X,x}^\times)\to\mathcal{O}_{X,x}^\times$ は同型である。
1:$\mathcal{O}_{X,x}^\times$ は $M_x$ の部分群なので単元からなる。逆に $m\in M_x$ が単元で $mm'=1$ なら $\alpha(m)\alpha(m')=1$ なので $\alpha(m)$ は単元であり、$m\in\alpha_x^{-1}(\mathcal{O}_{X,x}^\times)=\mathcal{O}_{X,x}^\times$ である。
2:1 により $\overline{M}_x$ は $M_x$ をその単元群で割ったもの、すなわち sharp化である。$\overline{m}\,\overline{m'}=1$ なら $mm'=u\in\mathcal{O}_{X,x}^\times$ で、$m\cdot(m'u^{-1})=1$ より $m$ は単元、1 により $m\in\mathcal{O}_{X,x}^\times$ なので $\overline{m}=1$ である。$\square$
前対数構造から対数構造を作るには、$\alpha$ で単元に写る部分を $\mathcal{O}_X^\times$ に取り替える。
$(M,\alpha)$ を前対数構造とし、$Q:=\alpha^{-1}(\mathcal{O}_X^\times)\subset M$ とおく。開集合 $U$ ごとに $M(U)\times\mathcal{O}_X^\times(U)$ の上の関係を
$$
(m,g)\sim(m',g')\iff q m=q' m',\ \ \alpha(q)^{-1}g=\alpha(q')^{-1}g'\ \text{となる}\ q,q'\in Q(U)\ \text{がある}
$$
で定め、前層 $U\mapsto(M(U)\times\mathcal{O}_X^\times(U))/{\sim}$ の層化を $M^a$ とする。$\alpha^a(m,g):=\alpha(m)g$ とおいた $(M^a,\alpha^a)$ を、$(M,\alpha)$ に付随する対数構造という。
$\sim$ は積と両立する同値関係である。反射律と対称律は明らかで、推移律は、$(q,q')$ と $(r,r')$ が 2 つの関係を与えるとき $(rq,q'r')$ が合成の関係を与えることから従う($Q$ の像は可換な群 $\mathcal{O}_X^\times$ に入る)。$(qm,\alpha(q)^{-1}g)\sim(m,g)$ が成り立つので、$M^a$ は $Q\to M$ と $Q\to\mathcal{O}_X^\times$ の押し出しをモノイドの層の中でとったものにあたる。$\alpha^a$ は $\alpha(qm)\alpha(q)^{-1}g=\alpha(m)g$ により代表元によらない。
$(M,\alpha)$ を前対数構造とする。
1:層化は茎を変えないので、点 $x$ の茎 $M^a_x=(M_x\times\mathcal{O}_{X,x}^\times)/{\sim}$ で確かめる($Q_x=\alpha_x^{-1}(\mathcal{O}_{X,x}^\times)$)。$\alpha^a(m,g)=\alpha(m)g$ が単元なら $\alpha(m)$ が単元なので $m\in Q_x$ であり、$(m,g)\sim(1,\alpha(m)g)$($q=1$、$q'=m$)である。よって $(\alpha^a)^{-1}(\mathcal{O}^\times)$ は $(1,g)$ の類からなり、$\alpha^a(1,g)=g$ なので $\mathcal{O}^\times$ の上へ写る。$(1,g)\sim(1,g')$ なら $q=q'$ となる $q\in Q_x$ について $\alpha(q)^{-1}g=\alpha(q)^{-1}g'$、すなわち $g=g'$ なので単射でもある。$\alpha^a(m,1)=\alpha(m)$ なので $M\to M^a$ は前対数構造の射である。
2:$N$ の中で $\mathcal{O}_X^\times$ を $\beta^{-1}(\mathcal{O}_X^\times)$ と同一視し、$\psi(m,g):=\varphi(m)g$ と定める。$q\in Q$ なら $\beta(\varphi(q))=\alpha(q)$ は単元なので $\varphi(q)\in\beta^{-1}(\mathcal{O}^\times_X)$ はこの同一視で $\alpha(q)$ にあたる。したがって $(m,g)\sim(m',g')$ を与える $q,q'$ について $\varphi(m)g=\varphi(qm)\alpha(q)^{-1}g=\varphi(q'm')\alpha(q')^{-1}g'=\varphi(m')g'$ となり、$\psi$ は前層の段階で定まり、層化に延びる。$\beta\psi(m,g)=\alpha(m)g=\alpha^a(m,g)$ である。一意性は、$(m,g)=(m,1)\cdot(1,g)$ で、$(m,1)$ の行き先は $\varphi(m)$、$(1,g)$ の行き先は対数構造の射である以上 $g$ に決まることから従う。最後の主張は、$\varphi=\mathrm{id}_M$ に 2 を使って得る $M^a\to M$ が $M\to M^a$ の逆になることによる。$\square$
$D\subset X$ を閉集合、$U:=X\setminus D$ とする。開集合 $V$ について
$$
M_D(V):=\{f\in\mathcal{O}_X(V)\mid f|_{V\cap U}\in\mathcal{O}_X^\times(V\cap U)\}
$$
とおくと、$M_D$ は $\mathcal{O}_X$ の部分モノイドの層で、包含 $M_D\hookrightarrow\mathcal{O}_X$ は対数構造である。実際 $M_D\cap\mathcal{O}_X^\times=\mathcal{O}_X^\times$(単元は $V\cap U$ でも単元)なので、$\alpha^{-1}(\mathcal{O}_X^\times)=\mathcal{O}_X^\times$ である。$X$ が正則で $D$ が因子のとき、これを $D$ に付随する対数構造という(ACG10 Example 2.7)。$D=\emptyset$ なら自明な対数構造である。
次の定理は、正規交叉の典型である座標超平面の和について、この対数構造を具体的に決める。
$k$ を体、$X=\mathbb{A}^n_k=\operatorname{Spec}k[x_1,\dots,x_n]$、$0\le r\le n$、$D:=V(x_1\cdots x_r)$ とし、$M_D$ を ex-log-divisorial の対数構造とする。点 $x\in X$ に対し $T(x):=\{i\le r\mid x\in V(x_i)\}$ とおく。
1:$\mathcal{O}_{X,x}$ は一意分解整域 $k[x_1,\dots,x_n]$ の素イデアルでの局所化なので一意分解整域であり、$i\in T(x)$ の $x_i$ はその素元である。$f\in M_{D,x}$ を、$x$ の開近傍 $V$ の上で定義され $V\setminus D$ で可逆な関数の芽とし、$\mathcal{O}_{X,x}$ で素元分解する。$f$ の素因子 $p$ が、どの $x_i$($i\in T(x)$)とも同伴でないとする。$p$ は多項式環の素元で $x$ の素イデアルに属するものと同伴にとれ、それを改めて $p$ と書くと、$Z:=V(p)$ は $x$ を通る既約な超曲面である。$Z\subset D$ なら $Z$ は既約なので $Z\subset V(x_i)$(ある $i\le r$)となり、$x_i\in\sqrt{(p)}=(p)$ から $p$ と $x_i$ が同伴になって矛盾する。よって $Z$ の生成点 $\eta$ は $D$ に属さない。$\eta$ は $x$ に特殊化するので $x$ のすべての開近傍に含まれ、$\eta\in V\setminus D$ である。一方 $f\in(p)$ なので $f$ は $\mathcal{O}_{X,\eta}$ の単元でなく、$V\setminus D$ で可逆であることに反する。したがって $f=u\prod_{i\in T(x)}x_i^{a_i}$($u$ は単元)である。逆にこの形の芽は、$u$ が可逆な近傍で $D$ の外に可逆なので $M_{D,x}$ に属する。表し方の一意性は素元分解の一意性による。
2:$x_i\in M_D(X)$ なので $e_i\mapsto x_i$ は前対数構造の射 $\mathbb{N}^r\to M_D$ であり、thm-log-associated の 2 により対数構造の射 $\Phi\colon(\mathbb{N}^r)^a\to M_D$、$(a,g)\mapsto g\,x^a$ が定まる($x^a:=\prod_ix_i^{a_i}$)。茎ごとに同型であることを示す。点 $x$ で $S:=\{1,\dots,r\}\setminus T(x)$ とおくと、$i\in S$ の $x_i$ は $x$ で単元なので $Q_x=\beta_x^{-1}(\mathcal{O}_{X,x}^\times)=\mathbb{N}^S$ である。1 により $\Phi_x$ は全射である。$\Phi_x(a,g)=\Phi_x(a',g')$ とすると、1 の一意性から $a$ と $a'$ の $T(x)$ 成分は等しく、それを $c$ とし、$S$ 成分を $b,b'$ とする。$(a,g)\sim(c,x^bg)$、$(a',g')\sim(c,x^{b'}g')$ であり、$gx^a=g'x^{a'}$ から $x^c$ を約して $x^bg=x^{b'}g'$ を得るので、$(a,g)\sim(a',g')$ である。$\square$
1 は、$\overline{M}_{D,x}$ の階数が $x$ を通る $D$ の成分の個数に等しいことを意味する。2 のように、モノイド $P$ からの写像 $P\to\Gamma(X,M)$ で、付随する対数構造が $M$ に一致するものを $M$ の図表(chart)という(ACG10 Definition 2.12)。局所的に有限生成で消去的なモノイドの図表をもつ対数構造を fine、さらにモノイドを saturated(シャープモノイド の定義「integral・fine・saturatedモノイド」)にとれるものを fs という。座標超平面の和の対数構造は $\mathbb{N}^r$ を図表にもつので fs である。
$f\colon Y\to X$ をスキームの射、$(M,\alpha)$ を $X$ の対数構造とする。逆像層の射 $f^{-1}M\to f^{-1}\mathcal{O}_X\to\mathcal{O}_Y$ は $Y$ の前対数構造で、それに付随する対数構造を $f^*M$ と書き、$M$ の引き戻しという。対数スキームの射 $(Y,N)\to(X,M)$ は、スキームの射 $f$ と対数構造の射 $f^\flat\colon f^*M\to N$ の組である(ACG10 Definition 2.9)。
$k$ を体とし、$\operatorname{Spec}k$ の上の前対数構造
$$
\mathbb{N}\times k^\times\longrightarrow k,\qquad(a,u)\longmapsto u\cdot0^a\qquad(0^0:=1)
$$
を考える。$k^\times$ の逆像は $\{(0,u)\}\cong k^\times$ なので、これは対数構造である。これを標準的な対数点という。特性層は $\mathbb{N}$ で、点の上に「退化の向き」を 1 つ記録している。
これは $X=\mathbb{A}^1_k=\operatorname{Spec}k[t]$、$D=V(t)$ の対数構造 $M_D$ の、原点 $i\colon\operatorname{Spec}k\to X$ への引き戻しである。実際 $i^{-1}M_D$ は茎 $M_{D,0}=\{ut^a\}$ で、$k$ への写像は $ut^a\mapsto u(0)0^a$ である(thm-log-coordinate の 1)。$k^\times$ に写る部分は $\mathcal{O}_{X,0}^\times$ で、付随する対数構造では $(ut^a,g)\sim(t^a,u(0)g)$ となる。$(t^a,g)\sim(t^{a'},g')$ なら $qt^a=q't^{a'}$($q,q'\in\mathcal{O}_{X,0}^\times$)から $a=a'$、$q=q'$、したがって $g=g'$ である。よって $(ut^a,g)\mapsto(a,u(0)g)$ は $i^*M_D$ と標準的な対数点の同型を与える(ACG10 Example 2.11 は $r$ 本の座標超平面について同じ計算を述べている)。
$t$ が $0$ になる点では関数としての $t$ は消えてしまうが、対数点の $\mathbb{N}$ の生成元は「$t$ の痕跡」として残る。対数スキームの上では、$M$ の元 $m$ に対して形式的な微分 $d\log m$($\alpha(m)$ が単元なら $d\alpha(m)/\alpha(m)$ に一致するもの)を考えることができ、対数的な微分形式や対数的な滑らかさの理論が展開される(ACG10 §3)。たとえば $k[x_1,\dots,x_n]/(x_1\cdots x_r)$ のスペクトル(正規交叉多様体)は特異だが、$e_i\mapsto x_i$ の図表の対数構造を入れ、対角写像 $\mathbb{N}\to\mathbb{N}^r$ で標準的な対数点の上の対数スキームとみると、対数的に滑らかになる(ACG10 Example 3.7・3.13)。こうした「隠れた滑らかさ」が、モジュライ空間の境界や半安定な退化の研究で対数構造を使う理由である(ACG10 §1)。
注意(位相). 正規交叉であることはエタール位相で局所的な性質であり、Zariski 局所的には座標超平面の和の形にならない正規交叉因子もある。そのため文献では対数構造をエタール位相で定義することが多い(ACG10 Definition 2.2 と Example 2.7 の後の注意)。対数構造・付随する対数構造・引き戻しの定義は、層をエタール位相の層に置き換えても同じ形で述べられる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $\alpha^{-1}(\mathcal{O}_X^\times)\to\mathcal{O}_X^\times$ が同型であること | $\operatorname{Spec}k$($k\ne\mathbb{F}_2$)の上の $\mathbb{N}\to k$、$a\mapsto1$ | $\mathbb{N}$ の単元群は $\{0\}$ で $k^\times$ と異なり、prop-log-char-sharp の 1 が崩れる |
| def-log-associated で $Q$ について割ること | $\mathbb{A}^1_k$ の上の $\mathbb{N}\times\mathcal{O}^\times\to\mathcal{O}$、$(a,g)\mapsto gt^a$(割らずに直積のまま) | $t\ne0$ の点では $(1,1)$ も $(0,t)$ も単元 $t$ に写り、$\alpha^{-1}(\mathcal{O}^\times)\to\mathcal{O}^\times$ が単射でない(thm-log-associated の 1 が崩れる) |
| thm-log-coordinate の 2 の $e_i\mapsto x_i$ | $\mathbb{A}^1_k$、$D=V(t)$ で $e_1\mapsto t^2$ | 付随する対数構造の原点の茎の像は $\{ut^{2a}\}$ で、$t\in M_{D,0}$ に届かず、$M_D$ と同型にならない |
3 行目:$t$ の零点の外では $t^2$ も単元なので、写像 $(\mathbb{N})^a\to M_D$ は原点の外では同型だが、原点では $\Phi_0(a,g)=gt^{2a}$ となり全射でない。
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