六演算

概要

六演算(six operations)とは、複素代数多様体(より一般に層別空間)の間の射 $f\colon X\to Y$ に対して構成可能複体の導来圏の上に定まる6つの関手 $\{f^*,Rf_*,f_!,f^!,\otimes^{\mathbf L},R\mathcal{H}om\}$ の総称——逆像・導来順像・例外的順像・例外的逆像・導来テンソル積・導来内部Homのことをいう。$(f^*,Rf_*)$、$(f_!,f^!)$、$(\otimes^{\mathbf L},R\mathcal{H}om)$ がそれぞれ随伴対をなし、固有射で $f_!=Rf_*$ となり、射影公式と固有基底変換を満たすなど、整合的な公理系(Grothendieckの形式主義)をなす。Verdier双対性とともに層係数コホモロジーの計算を統制し、20世紀後半以降の代数幾何・表現論・特異点論で広く用いられる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 圏, アーベル圏, 三角圏, 導来圏, 偏屈層, 交叉コホモロジー, 米田の補題

定義

以下、$X,Y$ は複素代数多様体(または、より一般に有限次元の局所コンパクトな層別空間)、$f\colon X\to Y$ は代数的射(層別と両立する連続写像)とし、係数は $\mathbb Q$ とする。$D^b_c(X)$ は $X$ 上の $\mathbb Q$ 加群の層の複体のうち構成可能複体(各コホモロジー層が層別の各層に制限すると局所定数層になる複体)からなる有界導来圏を表し、偏屈層の記事と同じ設定である。位相多様体の上の演算とその公式は KS85 §1.3、複素代数多様体の構成可能複体が演算で閉じることは MS21 Theorem 2.5(p. 7)、開集合と閉集合への分解の形式は BBD82 1.4 にある。スキームのエタール位相での同じ形式は SGA4 XVII・XVIII で作られた。

四演算:逆像・順像・テンソル積・内部Hom

射 $f\colon X\to Y$ に対し、順像 $f_*$($X$ 上の層 $\mathcal F$ に対して $U\mapsto\mathcal F(f^{-1}(U))$ で定まる $Y$ 上の層)の右導来関手 $Rf_*\colon D^b(X)\to D^b(Y)$ を導来順像という。上の設定では $Rf_*$ は構成可能複体を構成可能複体に送り、$Rf_*\colon D^b_c(X)\to D^b_c(Y)$ を誘導する(MS21 Theorem 2.5 (b)、p. 7)。これに加え、逆像 $f^*\colon D^b_c(Y)\to D^b_c(X)$(茎が $(f^*\mathcal F)_x=\mathcal F_{f(x)}$ となるので完全関手であり、導来する必要がない。KS85 §1.3、p. 23)、および $D^b_c(X)$ 上の導来テンソル積 $-\otimes^{\mathbf L}-\colon D^b_c(X)\times D^b_c(X)\to D^b_c(X)$ とその内部Hom $R\mathcal{H}om(-,-)\colon D^b_c(X)^{\mathrm{op}}\times D^b_c(X)\to D^b_c(X)$ が定まる(構成可能性が保たれることは MS21 Theorem 2.5 (a)(d)、p. 7)。$(f^*,Rf_*)$ は随伴対をなす:
$$ \operatorname{Hom}_{D^b_c(X)}(f^*G,F)\cong\operatorname{Hom}_{D^b_c(Y)}(G,Rf_*F) $$
(自然な同型。KS85 1.3.5 の最初の公式、p. 27)。$(-\otimes^{\mathbf L}-,R\mathcal{H}om(-,-))$ もまた随伴対をなす:$\operatorname{Hom}(F\otimes^{\mathbf L}G,H)\cong\operatorname{Hom}(F,R\mathcal{H}om(G,H))$(この記事では証明しない。KS06 Theorem 18.6.4 (vii) の式 (18.6.7)、p. 451)。

例外的順像・例外的逆像

交叉コホモロジーで導入した開埋め込みの!拡張 $j_!$ を一般の射 $f\colon X\to Y$ に拡張したもの——例外的順像(exceptional pushforward、コンパクト台をもつ順像とも呼ばれる)$f_!\colon D^b_c(X)\to D^b_c(Y)$ が存在する($f$ が固有射のときは $f_!=Rf_*$(MS21 Theorem 2.5 (b)、p. 7)、$f$ が開埋め込みのときは!拡張すなわち零拡張そのものに一致する(BBD82 1.4.1、p. 43))。$f_!$ の右随伴として例外的逆像(exceptional pullback)$f^!\colon D^b_c(Y)\to D^b_c(X)$ が定まる:
$$ \operatorname{Hom}_{D^b_c(X)}(f_!F,G)\cong\operatorname{Hom}_{D^b_c(Y)}(F,f^!G) $$
($f_!$ が常に右随伴を持つことの構成はこの記事では扱わない。位相多様体の場合は KS85 Theorem 1.3.1(p. 26)、エタール位相の場合は SGA4 XVIII 定理 3.1.4)。これら $\{Rf_*,f^*,f_!,f^!,\otimes^{\mathbf L},R\mathcal{H}om\}$ の6つの関手の全体を、(Grothendieckの)六演算(six operations)と呼ぶ。

直感

六演算の枠組みは、「空間を動かす」演算($f^*,Rf_*,f_!,f^!$)と「一つの空間の上で係数をいじる」演算($\otimes^{\mathbf L},R\mathcal{H}om$)を統一的に扱う。$f^*$ と $Rf_*$ は素朴な引き戻し・押し出しであるのに対し、$f_!,f^!$ は「コンパクト台」を尊重する修正版であり、両者は $f$ が固有射(コンパクト台の条件が自動的に満たされる)のときに一致する。この「二種類の順像・逆像」が生まれる理由は、$f^*\dashv Rf_*$ の随伴と $f_!\dashv f^!$ の随伴が独立した公理であり、一方を満たす関手が他方を自動的には満たさないためである。偏屈層・交叉コホモロジーで用いた $j_!,Rj_*$(開埋め込みの場合)は、この六演算の特別な場合に他ならない。
違いが最もはっきり見えるのは、複素平面 $\mathbb C$ から原点を除いた $\mathbb C^\times$ の埋め込みである。下の節「穴あき平面での計算」で、$j_!$ と $Rj_*$ の原点での茎、および原点の包含 $i$ についての $i^*$ と $i^!$ を実際に計算する。

性質

右随伴の一意性

関手 $F\colon\mathcal C\to\mathcal D$ が2つの右随伴 $G,G'\colon\mathcal D\to\mathcal C$ を持つならば、$G$ と $G'$ は自然同型である。

仮定より、自然な全単射 $\operatorname{Hom}_{\mathcal D}(FX,Y)\cong\operatorname{Hom}_{\mathcal C}(X,GY)$($X,Y$ について自然)と $\operatorname{Hom}_{\mathcal D}(FX,Y)\cong\operatorname{Hom}_{\mathcal C}(X,G'Y)$ が存在する。これらを合成すると、各 $Y$ について自然な全単射
$$ \operatorname{Hom}_{\mathcal C}(X,GY)\cong\operatorname{Hom}_{\mathcal C}(X,G'Y) $$
($X$ について自然)が得られる。すなわち、反対圏 $\mathcal C^{\mathrm{op}}$ から $\mathbf{Set}$ への関手として $\operatorname{Hom}_{\mathcal C}(-,GY)\cong\operatorname{Hom}_{\mathcal C}(-,G'Y)$ である。米田の補題(の全充満性)により、この自然同型は一意な同型 $\varphi_Y\colon GY\xrightarrow{\cong}G'Y$ から引き起こされたものである。もとの随伴同型の $Y$ に関する自然性から、$\varphi_Y$ 自身も $Y$ の射と両立する($Y$ に関して自然である)ことが従う。ゆえに自然変換 $\varphi\colon G\Rightarrow G'$ は自然同型である。$\blacksquare$

開埋め込みでの例外的逆像

$j\colon U\hookrightarrow X$ が開埋め込みであるとき、$j^!\cong j^*$(例外的逆像は通常の逆像に一致する)である。

$j$ が開埋め込みのとき、$j_!$(!拡張)は $j^*$(制限)の左随伴である(BBD82 1.4.2.1、p. 44。$(j_!,j^*,Rj_*)$ は順に随伴な 3 つの関手をなす):$\operatorname{Hom}_{D^b_c(X)}(j_!F,G)\cong\operatorname{Hom}_{D^b_c(U)}(F,j^*G)$。一方def-exceptional-operationsにより $j^!$ は $j_!$ の右随伴として定義される:$\operatorname{Hom}_{D^b_c(X)}(j_!F,G)\cong\operatorname{Hom}_{D^b_c(U)}(F,j^!G)$。ゆえに $j^*$ と $j^!$ はいずれも $j_!$ の右随伴であり、lem-adjoint-uniquenessによりこれらは自然同型 $j^!\cong j^*$ である。$\blacksquare$

射影公式と固有基底変換

$f\colon X\to Y$ を射とする。
(1)(射影公式)$F\in D^b_c(X)$、$G\in D^b_c(Y)$ に対し、自然同型
$$ f_!(F\otimes^{\mathbf L}f^*G)\cong f_!F\otimes^{\mathbf L}G $$
が成り立つ。
(2)(固有基底変換)射 $g\colon Y'\to Y$ に対し、ファイバー積 $X':=X\times_YY'$ と射影 $g'\colon X'\to X$、$f'\colon X'\to Y'$ からなるデカルト平方を考えると、自然同型
$$ g^*\circ f_!\cong f'_!\circ g'^* $$
が成り立つ。

証明はこの記事では扱わない。位相多様体の場合は KS85 1.3.5 の射影公式と基底変換の公式(p. 28)、スキームのエタール位相では SGA4 XVII 定理 5.2.6($Rf_!$ は基底変換と可換)と命題 5.2.9(射影公式)にある。(2) は $f$ が固有射のときには $Rf_*$ についての基底変換 $g^*\circ Rf_*\cong Rf'_*\circ g'^*$ を与えるが、$f$ が固有でない一般の射に対して $Rf_*$ はこの形の基底変換を満たさず(下のex-six-operations-base-change-failure)、これが $f_!$ を導入する理由の一つである。

Verdier双対関手と双対化複体

$a\colon X\to\{*\}$ を構造射とする。$\omega_X:=a^!(\mathbb Q)\in D^b_c(X)$ を $X$ の双対化複体(dualizing complex)と呼ぶ。$F\in D^b_c(X)$ に対し
$$ \mathbb D_X(F):=R\mathcal{H}om(F,\omega_X) $$
を $F$ のVerdier双対(Verdier dual)と呼び、$\mathbb D_X\colon D^b_c(X)^{\mathrm{op}}\to D^b_c(X)$ をVerdier双対関手と呼ぶ。

六演算の交換公式とVerdier双対性

$f\colon X\to Y$ を射とするとき
$$ \mathbb D_X\circ f^!\cong f^*\circ\mathbb D_Y,\qquad \mathbb D_Y\circ Rf_*\cong f_!\circ\mathbb D_X,\qquad \mathbb D_X\circ\mathbb D_X\cong\operatorname{id} $$
が成り立つ(いずれも $D^b_c$ の対象として自然同型)。これらは偏屈層で述べた「Verdier双対が $\operatorname{Perv}(X)$ を保つ」という事実の一般化である。

証明はこの記事では扱わない。複素代数多様体の構成可能複体については MS21 Corollary 2.11(p. 10)、層別された位相空間については BBD82 2.1.16(p. 62。Verdier 双対は $D_c$ の対合的な自己同値で、局所閉な層の和の包含 $j$ について $j_!$ と $j_*$、$j^*$ と $j^!$ を入れ替える)にある。第3の同型 $\mathbb D_X\circ\mathbb D_X\cong\operatorname{id}$(双対性の反射性)は対象の構成可能性に依存する主張であり、構成可能とは限らない複体の導来圏 $D^b(X)$ 上では一般に成り立たない(Verdier双対の記事の命題「反例:無限次元の茎では二重双対が戻らない」)。一方、$f^!\circ\mathbb D_Y\cong\mathbb D_X\circ f^*$ および $Rf_*\circ\mathbb D_X\cong\mathbb D_Y\circ f_!$ の形の同型は茎の有限次元性を使わずに成り立ち(位相多様体では KS85 1.3.5 の公式 $f^!R\mathcal{H}om(F,F')\cong R\mathcal{H}om(f^{-1}F,f^!F')$ と $Rf_*R\mathcal{H}om(G,f^!F)\cong R\mathcal{H}om(Rf_!G,F)$ に双対化複体を代入したもの、pp. 27–28。複素代数多様体の弱構成可能な複体については MS21 Corollary 2.11 (1)、p. 10)、定理に述べた前2つの形はこれらに反射性を合わせて得られる。

開集合と閉集合への分解

六演算のうち最もよく使われるのは、空間を開集合とその補集合に分けたときの関係である。以下、$j\colon U\hookrightarrow X$ を開集合の包含、$i\colon Z\hookrightarrow X$ をその補集合 $Z=X\setminus U$ の包含とする。$i$ は閉埋め込みで固有なので $i_!=i_*=Ri_*$ である。

開集合と閉集合の完全三角形

$F\in D^b_c(X)$ に対し、自然な完全三角形
$$ j_!j^*F\longrightarrow F\longrightarrow i_*i^*F\xrightarrow{+1},\qquad i_*i^!F\longrightarrow F\longrightarrow Rj_*j^*F\xrightarrow{+1} $$
がある。ここで中央の射は随伴の余単位 $j_!j^*F\to F$・単位 $F\to i_*i^*F$、および余単位 $i_*i^!F\to F$・単位 $F\to Rj_*j^*F$ である。さらに $j^*i_*=0$、$i^*j_!=0$、$i^!Rj_*=0$ が成り立つ。

この記事では証明しない。層の段階の完全列 $0\to j_!j^*\mathcal F\to\mathcal F\to i_*i^*\mathcal F\to0$ と、$Z$ に台をもつ切断の関手を使った完全列から導来して得られる(BBD82 1.4.1–1.4.2.1、pp. 43–44)。$i^*j_!=0$ と $i^!Rj_*=0$ は $j^*i_*=0$ から随伴によって従う(同 1.4.2.1、p. 44)。層の段階の完全列そのものは コンパクト台の順像の記事の定理「開集合と閉集合の完全列」にある。

2 つ目の三角形の $i^!F$ は「$Z$ に台をもつコホモロジー」を表す。たとえば $X$ 上の定数層 $\mathbb Q_X$ について $H^k(X,i_*i^!\mathbb Q_X)=H^k_Z(X;\mathbb Q)=H^k(X,X\setminus Z;\mathbb Q)$ である(MS21 Example 2.7 (2)、p. 8)。したがって 2 つ目の三角形は、対 $(X,X\setminus Z)$ のコホモロジー長完全列を層の言葉で書いたものである。

穴あき平面での計算

ここでは $X=\mathbb C$、$U=\mathbb C^\times=\mathbb C\setminus\{0\}$、$Z=\{0\}$ とし、$j\colon U\hookrightarrow\mathbb C$、$i\colon\{0\}\hookrightarrow\mathbb C$ を包含とする。1 点の上の $D^b_c(\{0\})$ は有限次元 $\mathbb Q$ ベクトル空間の有界複体の導来圏であり、点 $0$ での茎をとる関手 $G\mapsto G_0$ は完全なので、$D^b_c(\mathbb C)\to D^b_c(\{0\})$ を与え、$\mathcal H^q(G_0)=\mathcal H^q(G)_0$ をみたす。

穴あき平面の順像の茎

上の記号のもとで、$(j_!\mathbb Q_U)_0=0$ であり、
$$ \mathcal H^q\bigl((Rj_*\mathbb Q_U)_0\bigr)\cong\begin{cases}\mathbb Q&(q=0,1)\\0&(q\ne0,1)\end{cases} $$
である。さらに単位 $\mathbb Q_{\mathbb C}\to Rj_*j^*\mathbb Q_{\mathbb C}=Rj_*\mathbb Q_U$ が原点の茎に誘導する $\mathbb Q=(\mathbb Q_{\mathbb C})_0\to\mathcal H^0\bigl((Rj_*\mathbb Q_U)_0\bigr)$ は同型である。

$j_!\mathbb Q_U$ は零拡張なので、$U$ の外の点 $0$ での茎は $0$ である。
次に $\mathcal H^q\bigl((Rj_*\mathbb Q_U)_0\bigr)=(R^qj_*\mathbb Q_U)_0$ を計算する。高次順像の記事の定理「開集合上のコホモロジーとの関係」により
$$ (R^qj_*\mathbb Q_U)_0\cong\varinjlim_{V\ni0}H^q(V\cap U;\mathbb Q) $$
である($V$ は $0$ の開近傍を動く)。円板 $D_\varepsilon=\{|z|<\varepsilon\}$ の族は $0$ の近傍の基本系をなすので、帰納極限は $\varepsilon\to0$ についてとればよい。$D_\varepsilon\cap U=D_\varepsilon\setminus\{0\}$ は多様体なので、層コホモロジーの記事の定理「de Rham の定理と特異コホモロジーとの比較」の 2 により $H^q(D_\varepsilon\setminus\{0\};\mathbb Q)$ は特異コホモロジーに一致し、この同型は制限写像と可換である。
$D_\varepsilon\setminus\{0\}$ は円周 $S^1$ とホモトピー同値である:$r(z)=\varepsilon z/(2|z|)$ は半径 $\varepsilon/2$ の円周への写像で、$h_t(z)=(1-t)z+t\,r(z)$ は $D_\varepsilon\setminus\{0\}$ の中の($h_t(z)$ は $z$ の正の実数倍なので $0$ にならず、絶対値は $|z|$ と $\varepsilon/2$ の間にある)ホモトピーで恒等写像と $r$ を結ぶ。よって $H^q(D_\varepsilon\setminus\{0\};\mathbb Q)\cong H^q(S^1;\mathbb Q)$ は $q=0,1$ で $\mathbb Q$、ほかで $0$ である。さらに $\varepsilon'<\varepsilon$ のとき包含 $D_{\varepsilon'}\setminus\{0\}\hookrightarrow D_\varepsilon\setminus\{0\}$ はホモトピー同値である(半径 $\varepsilon'/2$ の円周への上と同じ形の写像 $r'$ が、両方の空間で恒等写像とホモトピックになる)。したがって帰納系の遷移写像はすべて同型であり、帰納極限は各 $D_\varepsilon\setminus\{0\}$ のコホモロジーに等しい。
最後に $q=0$ の写像を見る。$\mathbb Q=(\mathbb Q_{\mathbb C})_0\to(j_*\mathbb Q_U)_0=\varinjlim_\varepsilon H^0(D_\varepsilon\setminus\{0\};\mathbb Q)$ は定数関数の制限である。$D_\varepsilon\setminus\{0\}$ は連結なので、その上の局所定数関数は定数だけであり、定数 $1$ の制限は生成元に移る。よってこの写像は同型である。$\square$

原点の例外的逆像

原点の包含 $i\colon\{0\}\hookrightarrow\mathbb C$ について
$$ i^*\mathbb Q_{\mathbb C}\cong\mathbb Q,\qquad i^!\mathbb Q_{\mathbb C}\cong\mathbb Q[-2] $$
である。とくに閉埋め込み $i$ では $i^!\not\cong i^*$ である。

$i^*\mathbb Q_{\mathbb C}$ は原点での茎なので $\mathbb Q$ である。
$F=\mathbb Q_{\mathbb C}$ にprop-six-operations-recollement の 2 つ目の三角形を使うと、$j^*\mathbb Q_{\mathbb C}=\mathbb Q_U$ なので完全三角形
$$ i_*i^!\mathbb Q_{\mathbb C}\longrightarrow\mathbb Q_{\mathbb C}\longrightarrow Rj_*\mathbb Q_U\xrightarrow{+1} $$
がある。原点の茎をとる関手は完全なので完全三角形を完全三角形に送り、$(i_*G)_0=G$ だから、$D^b_c(\{0\})$ の完全三角形 $i^!\mathbb Q_{\mathbb C}\to\mathbb Q\to(Rj_*\mathbb Q_U)_0\xrightarrow{+1}$ を得る。そのコホモロジーの長完全列
$$ \cdots\to\mathcal H^{k-1}(\mathbb Q)\to\mathcal H^{k-1}\bigl((Rj_*\mathbb Q_U)_0\bigr)\to\mathcal H^k(i^!\mathbb Q_{\mathbb C})\to\mathcal H^k(\mathbb Q)\xrightarrow{\ \alpha_k\ }\mathcal H^k\bigl((Rj_*\mathbb Q_U)_0\bigr)\to\cdots $$
で、$\mathcal H^k(\mathbb Q)$ は $k=0$ のときだけ $\mathbb Q$ である。prop-six-operations-punctured-stalk により $\alpha_0$ は同型で、$\mathcal H^q\bigl((Rj_*\mathbb Q_U)_0\bigr)$ は $q=0,1$ のときだけ $\mathbb Q$ である。これを代入すると

  • $k\le0$:$\mathcal H^{k-1}\bigl((Rj_*\mathbb Q_U)_0\bigr)=0$ で、$\alpha_k$ は単射($k=0$ では同型、$k<0$ では $0\to0$)なので $\mathcal H^k(i^!\mathbb Q_{\mathbb C})=0$。
  • $k=1$:$\alpha_0$ が全射で $\mathcal H^1(\mathbb Q)=0$ なので $\mathcal H^1(i^!\mathbb Q_{\mathbb C})=0$。
  • $k=2$:$\mathcal H^1(\mathbb Q)=\mathcal H^2(\mathbb Q)=0$ なので $\mathcal H^2(i^!\mathbb Q_{\mathbb C})\cong\mathcal H^1\bigl((Rj_*\mathbb Q_U)_0\bigr)=\mathbb Q$。
  • $k\ge3$:両隣が $0$ なので $\mathcal H^k(i^!\mathbb Q_{\mathbb C})=0$。
    体上の複体はコホモロジーのずらしの直和に同型なので(分解定理の記事の命題「体上の複体の分解」)、$i^!\mathbb Q_{\mathbb C}\cong\mathbb Q[-2]$ である。$\square$
双対化複体からの確認

prop-six-operations-origin-shriek は双対化複体と整合する。$\mathbb C$ は実 2 次元の向き付けられた多様体なので $\omega_{\mathbb C}=a^!\mathbb Q\cong\mathbb Q_{\mathbb C}[2]$ である(MS21 Example 2.7 (3)、p. 8)。一方、$(a\circ i)_!\cong a_!\circ i_!$ の右随伴をとると $i^!a^!\cong(a\circ i)^!=\operatorname{id}^!$ であり、$i^!\omega_{\mathbb C}\cong\mathbb Q$ となる。これと $i^!(\mathbb Q_{\mathbb C}[2])=(i^!\mathbb Q_{\mathbb C})[2]$ を比べると、$i^!\mathbb Q_{\mathbb C}\cong\mathbb Q[-2]$ が再び得られる。$\mathbb C^n$ の原点なら同じ理由で $i^!\mathbb Q\cong\mathbb Q[-2n]$ である。

例

固有射での例外的順像

$f$ が固有射であるとき $f_!=Rf_*$ である(def-exceptional-operationsの性質)。とくに $f$ が閉埋め込みであるときも $f_!=Rf_*$ となり、開埋め込みの場合と対照的である:開埋め込み $j\colon\mathbb C^\times\hookrightarrow\mathbb C$ では、prop-six-operations-punctured-stalk により原点の茎が $(j_!\mathbb Q_U)_0=0$ と $\mathcal H^0\bigl((Rj_*\mathbb Q_U)_0\bigr)=\mathbb Q$ で異なるので、$j_!\ne Rj_*$ である。

コンパクト台のコホモロジー

構造射 $a\colon X\to\{*\}$ について $H^k(X;\mathbb Q)=\mathcal H^k(Ra_*\mathbb Q_X)$、コンパクト台のコホモロジーは $H^k_c(X;\mathbb Q)=\mathcal H^k(a_!\mathbb Q_X)$ である(MS21 Example 2.7 (1)、p. 8)。$X$ がコンパクトなら $a$ は固有なので両者は一致する。$X=\mathbb C$ では、thm-six-operations-duality の 2 つ目の同型を $f=a$、$F=\omega_{\mathbb C}=\mathbb D_{\mathbb C}\mathbb Q_{\mathbb C}$ に使い、3 つ目の同型 $\mathbb D_{\mathbb C}\mathbb D_{\mathbb C}\mathbb Q_{\mathbb C}\cong\mathbb Q_{\mathbb C}$ と合わせると $\mathbb D(Ra_*\omega_{\mathbb C})\cong a_!\mathbb Q_{\mathbb C}$ である。$\omega_{\mathbb C}\cong\mathbb Q_{\mathbb C}[2]$(MS21 Example 2.7 (3)、p. 8)で $\mathbb C$ は可縮なので $Ra_*\omega_{\mathbb C}\cong\mathbb Q[2]$ であり、1 点での Verdier 双対はベクトル空間の双対なので $a_!\mathbb Q_{\mathbb C}\cong\mathbb D(\mathbb Q[2])=\mathbb Q[-2]$、すなわち $H^2_c(\mathbb C;\mathbb Q)=\mathbb Q$ でほかは $0$ である。これは $\mathbb R^2$ のコンパクト台のコホモロジーの古典的な計算と一致する。

反例

反例:固有でない射の順像は基底変換と可換でない

$f=j\colon U=\mathbb C^\times\hookrightarrow\mathbb C$、$g=i\colon\{0\}\hookrightarrow\mathbb C$ とすると、ファイバー積は $X'=U\times_{\mathbb C}\{0\}=\emptyset$ なので、$Rf'_*g'^*\mathbb Q_U=0$ である。一方 $g^*Rj_*\mathbb Q_U=(Rj_*\mathbb Q_U)_0$ は、prop-six-operations-punctured-stalk により次数 $0,1$ のコホモロジーが $\mathbb Q$ で、$0$ でない。したがって $g^*\circ Rf_*\cong Rf'_*\circ g'^*$ は成り立たない。$j$ は固有でない(原点の閉円板 $\{|z|\le1\}$ の逆像 $\{0<|z|\le1\}$ はコンパクトでない)。
同じ状況で例外的順像を使うと、$g^*j_!\mathbb Q_U=(j_!\mathbb Q_U)_0=0=f'_!g'^*\mathbb Q_U$ となり、thm-six-operations-projection-base-change の (2) と整合する。固有性を外すと $Rf_*$ の基底変換が崩れ、それを直すのが $f_!$ である。

外す条件反例成り立たなくなること
射が固有であること開埋め込み $j\colon\mathbb C^\times\hookrightarrow\mathbb C$(ex-six-operations-base-change-failure)$j_!=Rj_*$、および $Rj_*$ の基底変換
埋め込みが開であること原点の包含 $i\colon\{0\}\hookrightarrow\mathbb C$(prop-six-operations-origin-shriek)$i^!\cong i^*$(開埋め込みではcor-exceptional-pullback-open-immersion)
構成可能性(茎の有限次元性)1 点の上の無限次元ベクトル空間(Verdier双対の記事の命題「反例:無限次元の茎では二重双対が戻らない」)$\mathbb D\circ\mathbb D\cong\operatorname{id}$

2 行目は、cor-exceptional-pullback-open-immersion の証明が「$j_!$ が $j^*$ の左随伴である」ことだけを使っていたことを示している。閉埋め込み $i$ では $i_!=i_*$ の左随伴は $i^*$、右随伴は $i^!$ であり、定数層 $\mathbb Q_{\mathbb C}$ に対しては両者の値が $[-2]$ だけずれる($i^*\mathbb Q_{\mathbb C}=\mathbb Q$、$i^!\mathbb Q_{\mathbb C}=\mathbb Q[-2]$)。

関連項目

参考文献

[3]
Masaki Kashiwara, Pierre Schapira, Microlocal study of sheaves, Société Mathématique de France, 1985, §1.3(p. 23)、Theorem 1.3.1(p. 26)、1.3.5 の公式(pp. 27–28)
[4]
Laurenţiu G. Maxim, Jörg Schürmann, Constructible sheaf complexes in complex geometry and applications, arXiv:2105.13069v2(2021), 2021, 頁は arXiv:2105.13069v2 による。Theorem 2.5(p. 7)、Example 2.7(p. 8)、Corollary 2.11(p. 10)

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