伊藤の定理(指標次数)

同義語:Itôの定理(指標次数)Itô's theorem on character degrees

概要

伊藤の定理(指標次数)(Itô's theorem on character degrees)とは、有限群 $G$ が可換な正規部分群 $A$ をもつとき、$G$ の複素既約表現の次数が指数 $[G:A]$ を割り切るという定理である。次数が位数 $\lvert G\rvert$ を割る Frobenius の結果、中心 $Z(G)$ の指数を割る Schur の結果を強めたもので、1951 年に伊藤昇が示した。証明は、可換正規部分群への制限が同時固有空間に分かれて推移的に置換されることから、既約表現をスカラーで作用する場合か、より小さい部分群からの誘導の場合に帰着させる。$A$ の正規性や可換性を外すと結論は成り立たない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 既約表現, 指標(表現論), 誘導表現, 正規部分群, 代数的整数

有限群 $G$ の複素既約表現の次数は、群の構造から強い制約を受ける。Frobenius は 1896 年に、次数が群の位数 $\lvert G\rvert$ を割り切ることを示し、Schur は 1904 年にこれを中心 $Z(G)$ の指数 $[G:Z(G)]$ に改めた。伊藤の定理(Itô's theorem on character degrees)は、これをさらに進めて、
$$ A\ \text{が}\ G\ \text{の可換な正規部分群なら、既約表現の次数は}\ [G:A]\ \text{を割り切る} $$
と主張する。名古屋大学の伊藤昇(Noboru Itô)が 1951 年に示した(Frobenius と Schur の結果との関係も含めて Ito51 p. 5。論文の主張は「各極大可換正規部分群の指数を割る」という形だが、可換正規部分群は極大なものに含まれるので同じことである)。確率解析の 伊藤の公式 の伊藤清(Kiyosi Itô)とは別人である。
たとえば 4 次対称群 $S_4$ では、$\{e,(1\,2)(3\,4),(1\,3)(2\,4),(1\,4)(2\,3)\}$ が可換な正規部分群で指数は $6$ なので、既約表現の次数は $1,2,3,6$ のどれかに限られる。実際の次数は $1,1,2,3,3$ である。中心は自明なので、Schur の結果からは「$24$ を割る」としか言えない。
この記事では、次数が $\lvert G\rvert$ を割ること、スカラーで作用する部分群の指数を割ること(Schur の結果を含む)、可換正規部分群への制限の二分法(Clifford の議論)を順に証明し、それらを組み合わせて伊藤の定理を示す。最後に、仮定を外すと結論が崩れる例を挙げる。

結果次数が割り切る数証明の鍵
Frobenius(prop-ito-frobenius)$\lvert G\rvert$中心指標の値が代数的整数
Schur(cor-ito-schur)$[G:Z(G)]$直積群へのテンソル積(Tate の議論)
伊藤(thm-ito-main)$[G:A]$($A$ は可換正規)制限の二分法と帰納法

定理の主張

この記事を通して、$G$ は有限群、表現は $\mathbb{C}$ 上の有限次元表現とする。表現 $(\rho,V)$ の指標を $\chi$、次数を $\chi(1)=\dim V$ と書く。

伊藤の定理

$A$ を有限群 $G$ の可換な正規部分群とする。$G$ の任意の複素既約表現の次数は、$A$ の指数 $[G:A]$ を割り切る。

証明の組み立て

証明は節「伊藤の定理の証明」にある。次数が位数を割ること(prop-ito-frobenius)からスカラーで作用する部分群の場合(prop-ito-scalar)を導き、可換正規部分群への制限の二分法(prop-ito-clifford)で一般の場合をそこへ帰着させる。

$A=\{e\}$ とすると Frobenius の結果(prop-ito-frobenius)、$A=Z(G)$ とすると Schur の結果(cor-ito-schur)になる。ただし証明では、この二つを先に示して使う。

正規な可換 Sylow 部分群

素数 $p$ について、$G$ の Sylow $p$ 部分群 $P$ が可換で正規なら、$G$ のどの既約表現の次数も $p$ で割り切れない。

thm-ito-main を $A=P$ に使うと、次数は $[G:P]$ を割る。Sylow 部分群の定義により $[G:P]$ は $p$ と互いに素なので、次数も $p$ と互いに素である。$\square$

素数指数の可換正規部分群

$G$ が指数が素数 $p$ の可換な正規部分群をもつなら、$G$ の既約表現の次数は $1$ か $p$ である。

thm-ito-main により次数は $p$ を割る。$\square$

次数は群の位数を割る

既約表現 $(\rho,V)$ を群環 $\mathbb{C}[G]$ 上に線形に延ばした写像も $\rho$ と書く(群環)。$G$ の共役類 $C$ について、類和 $e_C:=\sum_{x\in C}x\in\mathbb{C}[G]$ はすべての $g\in G$ と可換である($ge_Cg^{-1}=e_C$)。したがって $\rho(e_C)$ は $\rho(G)$ と可換であり、既約表現 の定理「Schur の補題」により、ある $\omega_\chi(C)\in\mathbb{C}$ について $\rho(e_C)=\omega_\chi(C)\,\mathrm{id}_V$ となる。跡をとると、$g\in C$ について
$$ \omega_\chi(C)=\frac{\lvert C\rvert\,\chi(g)}{\chi(1)} $$
である。$C\mapsto\omega_\chi(C)$ を $\chi$ の中心指標という。

中心指標の値は代数的整数

既約指標 $\chi$ と共役類 $C$ について、$\omega_\chi(C)$ は代数的整数である。

要点:類和たちの整数係数の 1 次結合は積で閉じ、$\omega_\chi$ はその積を保つので、代数的整数 の定理「有限生成加群による特徴づけ」の 3 が使える。

詳しい証明を開く

共役類を $C_1,\dots,C_h$、類和を $e_i:=e_{C_i}$、$\omega_i:=\omega_\chi(C_i)$ とおく。積 $e_ie_j$ における $z\in G$ の係数は $a_{ij}(z):=\#\{(x,y)\in C_i\times C_j\mid xy=z\}$ であり、$0$ 以上の整数である。$g\in G$ について $(x,y)\mapsto(gxg^{-1},gyg^{-1})$ は $C_i\times C_j$ の全単射で、$xy=z$ を $gxg^{-1}gyg^{-1}=gzg^{-1}$ に移すので、$a_{ij}(gzg^{-1})=a_{ij}(z)$ である。よって $a_{ij}$ は各共役類の上で一定で、その値を $a_{ijk}$($z\in C_k$ での値)とおくと $e_ie_j=\sum_ka_{ijk}e_k$ である。

$\rho\colon\mathbb{C}[G]\to\operatorname{End}(V)$ は積を保つので、$\omega_i\omega_j\,\mathrm{id}=\rho(e_i)\rho(e_j)=\rho(e_ie_j)=\sum_ka_{ijk}\omega_k\,\mathrm{id}$、すなわち $\omega_i\omega_j=\sum_ka_{ijk}\omega_k$ である。$M:=\mathbb{Z}\omega_1+\cdots+\mathbb{Z}\omega_h\subset\mathbb{C}$ は有限生成で、単位元の類 $\{e\}$ について $\omega_\chi(\{e\})=1$ なので $M\ne\{0\}$ である。上の式から $\omega_iM\subset M$ なので、代数的整数 の定理「有限生成加群による特徴づけ」の 3 ⇒ 1 により $\omega_i$ は代数的整数である。$\square$

次数は位数を割る(Frobenius)

$G$ の既約表現の次数 $\chi(1)$ は $\lvert G\rvert$ を割り切る。

指標(表現論) の定理「第一直交関係」により $\langle\chi,\chi\rangle=1$ であり、指標(表現論) の命題「双対・テンソル積・逆元での値」の 3 により $\overline{\chi(g)}=\chi(g^{-1})$ である。共役類 $C_i$ の代表元を $g_i$ として和を類ごとにまとめると
$$ \frac{\lvert G\rvert}{\chi(1)}=\frac{1}{\chi(1)}\sum_{g\in G}\chi(g)\chi(g^{-1})=\sum_{i=1}^h\frac{\lvert C_i\rvert\chi(g_i)}{\chi(1)}\,\chi(g_i^{-1})=\sum_{i=1}^h\omega_\chi(C_i)\,\chi(g_i^{-1}) $$
となる。$\chi(g_i^{-1})$ は $1$ の冪根の和(同じ命題の 3)なので代数的整数であり、lem-ito-central と 代数的整数 の定理「代数的整数全体のなす環」により右辺は代数的整数である。左辺は有理数なので、代数的整数 の命題「有理数である代数的整数は整数」により整数である。$\square$

この証明は Ser77 §6.5 の Proposition 16 とその Corollary 1・2(p. 52)の筋道である。

スカラーで作用する部分群の指数

次数が $\lvert G\rvert$ を割ることを、群の直積に当てはめると、より細かい情報が取り出せる。そのために、直積群のテンソル積表現を使う。

直積群のテンソル積表現

$G_1,\dots,G_m$ を有限群、$(\rho_i,V_i)$ を $G_i$ の既約表現とする。$G_1\times\cdots\times G_m$ を $V_1\otimes\cdots\otimes V_m$ に
$$ (g_1,\dots,g_m)\cdot(v_1\otimes\cdots\otimes v_m):=\rho_1(g_1)v_1\otimes\cdots\otimes\rho_m(g_m)v_m $$
で作用させた表現は既約である。

基底を $V_i$ の基底のテンソル積にとると、指標(表現論) の命題「双対・テンソル積・逆元での値」の 1 の証明と同じ計算で、指標は $\chi(g_1,\dots,g_m)=\chi_1(g_1)\cdots\chi_m(g_m)$ である。よって
$$ \langle\chi,\chi\rangle=\frac{1}{\prod_i\lvert G_i\rvert}\sum_{g_1,\dots,g_m}\prod_{i=1}^m\lvert\chi_i(g_i)\rvert^2=\prod_{i=1}^m\langle\chi_i,\chi_i\rangle=1 $$
であり、指標(表現論) の系「重複度・同値の判定・既約性の判定」の 3 により既約である。$\square$

スカラーで作用する部分群の指数

$(\rho,V)$ を $G$ の既約表現、$A$ を $G$ の部分群とし、各 $a\in A$ について $\rho(a)$ がスカラー倍写像であるとする。このとき $\dim V$ は $[G:A]$ を割り切る。

$A$ は正規でなくてよい。$\rho(a)=\lambda(a)\,\mathrm{id}_V$ と書くと、$\lambda\colon A\to\mathbb{C}^\times$ は準同型である。

要点:$m$ 個の直積 $G^m$ のテンソル積表現 $V^{\otimes m}$ では、$A^m$ のうち「$\lambda$ の値の積が $1$」の元が自明に作用するので、その分だけ小さい群の既約表現になる。そこに prop-ito-frobenius を使い、$m\to\infty$ とする(Tate の議論)。

詳しい証明を開く

$n:=\dim V$、$r:=[G:A]$ とし、$c:=\lvert\lambda(A)\rvert$ を像 $\lambda(A)\subset\mathbb{C}^\times$ の位数とする。$m\ge1$ を固定し、$G^m=G\times\cdots\times G$ の表現 $\rho^{\boxtimes m}$ を $V^{\otimes m}$ 上に lem-ito-tensor のように作る。これは既約で、次数は $n^m$ である。

$(a_1,\dots,a_m)\in A^m$ は $V^{\otimes m}$ にスカラー $\lambda(a_1)\cdots\lambda(a_m)$ 倍で作用する。準同型 $\mu\colon A^m\to\lambda(A)$、$(a_i)\mapsto\lambda(a_1)\cdots\lambda(a_m)$ は全射($(a,e,\dots,e)\mapsto\lambda(a)$)なので、その核 $H_0$ の位数は $\lvert A\rvert^m/c$ である。$H_0$ は表現の核 $K:=\ker\rho^{\boxtimes m}$ に含まれる。$K$ は $G^m$ の正規部分群で、$V^{\otimes m}$ は $G^m/K$ の既約表現とみなせる($G^m$ の不変部分空間と $G^m/K$ の不変部分空間は同じ)。prop-ito-frobenius により $n^m$ は $\lvert G^m/K\rvert$ を割る。Lagrange の定理により $\lvert H_0\rvert$ は $\lvert K\rvert$ を割るので、$\lvert G^m/K\rvert$ は $\lvert G\rvert^m/\lvert H_0\rvert=\lvert G\rvert^mc/\lvert A\rvert^m=r^mc$ を割る。よってすべての $m\ge1$ について $n^m$ は $r^mc$ を割る。

$r/n=u/v$($u,v$ は互いに素な正の整数)と既約分数で書くと、$r^mc/n^m=u^mc/v^m$ は整数であり、$u^m$ と $v^m$ は互いに素なので $v^m$ は $c$ を割る。$v\ge2$ なら $v^m>c$ となる $m$ があって矛盾するので、$v=1$、すなわち $n$ は $r$ を割る。$\square$

次数は中心の指数を割る(Schur)

$G$ の既約表現の次数は $[G:Z(G)]$ を割り切る。

既約表現 の系「中心はスカラーで作用する」により、$Z(G)$ の元はスカラー倍で作用する。prop-ito-scalar を $A=Z(G)$ に使えばよい。$\square$

伊藤の論文の補題も、部分群がスカラーで作用するときに次数がその指数を割ることを述べている(Ito51 p. 5。そこでは表現行列の成分が代数的整数であることを仮定に加え、Schur の関係式から示している)。cor-ito-schur とテンソル積による証明は Ser77 §6.5 の Proposition 17(p. 53)にある。

可換正規部分群への制限の二分法

$A$ を $G$ の可換な正規部分群とする。$A$ の 1 次元の指標(準同型 $\lambda\colon A\to\mathbb{C}^\times$)の全体を $\widehat A$ と書く。$g\in G$ と $\lambda\in\widehat A$ について $(g\lambda)(a):=\lambda(g^{-1}ag)$ とおくと、$A$ が正規なので $g\lambda\in\widehat A$ であり、これは $G$ の $\widehat A$ への作用である。

可換正規部分群への制限の二分法

$A$ を $G$ の可換な正規部分群、$(\rho,V)$ を $G$ の既約表現とし、$\lambda\in\widehat A$ について
$$ V_\lambda:=\{v\in V\mid \text{すべての}\ a\in A\ \text{について}\ \rho(a)v=\lambda(a)v\} $$
とおく。$\Lambda:=\{\lambda\in\widehat A\mid V_\lambda\ne0\}$ とする。

  1. $V=\bigoplus_{\lambda\in\Lambda}V_\lambda$ であり、$g\in G$ について $\rho(g)V_\lambda=V_{g\lambda}$ である。
  2. $\Lambda$ は $\widehat A$ の一つの $G$ 軌道である。
  3. $\lambda_0\in\Lambda$ を一つとり、$T:=\{g\in G\mid g\lambda_0=\lambda_0\}$ とおく。$T$ は $A$ を含む部分群で、$V_{\lambda_0}$ は $T$ の既約表現であり、$V\cong\operatorname{Ind}_T^GV_{\lambda_0}$ である。
    とくに、次のどちらかが成り立つ。
  • (a) $\Lambda=\{\lambda_0\}$ で、各 $a\in A$ について $\rho(a)=\lambda_0(a)\,\mathrm{id}_V$ である。
  • (b) $V$ は、$A$ を含む真部分群 $T\subsetneq G$ の既約表現から誘導された表現と同型である。

要点:$\rho(a)$ たちは互いに可換で対角化できるので $V$ は同時固有空間 $V_\lambda$ に分かれ、$G$ はそれらを推移的に置換する。あとは 誘導表現 の系「推移的に置換される直和分解」を使う。

詳しい証明を開く

1:各 $\rho(a)$ は対角化できる(指標(表現論) の命題「双対・テンソル積・逆元での値」の 3)。$A$ は可換なので $\rho(a)$ たちは互いに可換であり、可換な対角化可能な線形写像の族は同時に対角化できる(一つの $\rho(a)$ の固有空間は他の $\rho(a')$ で保たれるので、$A$ の生成元について順に固有空間を細かく分ければよい)。同時固有ベクトル $v$ について $\rho(a)v=\lambda(a)v$ とおくと、$\rho$ が準同型なので $\lambda\in\widehat A$ であり、$v\in V_\lambda$ である。よって $\sum_\lambda V_\lambda=V$ である。和が直和であることは、$\lambda$ の相異なる値に対する固有空間が独立であることからわかる:$\lambda\ne\mu$ なら $\lambda(a)\ne\mu(a)$ となる $a$ があり、$V_\lambda$ と $V_\mu$ は $\rho(a)$ の異なる固有値の固有空間に含まれる。有限個の相異なる $\lambda_1,\dots,\lambda_k$ について $\sum_jv_j=0$($v_j\in V_{\lambda_j}$)とすると、$k$ についての帰納法で、$a$ を $\lambda_1(a)\ne\lambda_k(a)$ にとり $(\rho(a)-\lambda_k(a))$ を掛けて項を減らせば、すべての $v_j=0$ が従う。

$v\in V_\lambda$、$g\in G$、$a\in A$ について $\rho(a)\rho(g)v=\rho(g)\rho(g^{-1}ag)v=\lambda(g^{-1}ag)\rho(g)v=(g\lambda)(a)\rho(g)v$ なので $\rho(g)V_\lambda\subset V_{g\lambda}$ である。$g^{-1}$ についても同じことを言えば等号を得る。

2:$\lambda_0\in\Lambda$ の軌道 $G\lambda_0$ について $U:=\bigoplus_{g\lambda_0}V_{g\lambda_0}$ は 1 により $G$ で保たれ、$0$ でないので、既約性から $U=V$ である。よって $\Lambda=G\lambda_0$ である。

3:1 の直和の成分は互いに異なる $0$ でない部分空間で、$\rho(g)$ はそれらを置換し、2 によりその置換は推移的である。$\rho(g)V_{\lambda_0}=V_{\lambda_0}$ は $V_{g\lambda_0}=V_{\lambda_0}$、すなわち $g\lambda_0=\lambda_0$ と同値なので、誘導表現 の系「推移的に置換される直和分解」により $V\cong\operatorname{Ind}_T^GV_{\lambda_0}$ である。$a\in A$ なら $(a\lambda_0)(a')=\lambda_0(a^{-1}a'a)=\lambda_0(a')$ なので $A\subset T$ である。$V_{\lambda_0}$ が $T$ の表現として $U_1\oplus U_2$(ともに $0$ でない)と分かれたとすると、誘導表現 の命題「推移律と直和」の 2 により $V\cong\operatorname{Ind}_T^GU_1\oplus\operatorname{Ind}_T^GU_2$ となり、$V$ の既約性に反する。有限群の複素表現は完全可約なので(群の表現 の定理「有限群の実・複素表現の完全可約性」)、$V_{\lambda_0}$ は既約である。

最後に、$\Lambda$ が 1 点なら $T=G$ で $V=V_{\lambda_0}$ となり (a) である。$\Lambda$ が 2 点以上なら $T\ne G$ であり、3 から (b) である。$\square$

これは正規部分群への制限を調べる Clifford の議論の、可換正規部分群の場合である。Ser77 §8.1 の Proposition 24(p. 61)は、$V_\lambda$ の代わりに同型類ごとの成分(isotypic な成分)を使って、一般の正規部分群について同じ二分法を述べている。

伊藤の定理の証明

$\lvert G\rvert$ についての帰納法で示す。$(\rho,V)$ を $G$ の既約表現とし、prop-ito-clifford を当てる。
(a) の場合、$A$ の各元はスカラー倍で作用するので、prop-ito-scalar により $\dim V$ は $[G:A]$ を割る。
(b) の場合、$V\cong\operatorname{Ind}_T^GU$ となる部分群 $A\subset T\subsetneq G$ と $T$ の既約表現 $U$ がある。$A$ は $T$ の可換な正規部分群で、$\lvert T\rvert<\lvert G\rvert$ なので、帰納法の仮定により $\dim U$ は $[T:A]$ を割る。誘導表現 の命題「剰余類による分解」の 3 により $\dim V=[G:T]\dim U$ であり、これは $[G:T][T:A]=[G:A]$ を割る。$\square$

同じ証明が Ser77 §8.1 の Proposition 24 の Corollary(pp. 61–62)にある。帰納法の中で (a) の場合に Schur の結果ではなく prop-ito-scalar が要るのは、$\rho(A)$ は $\rho(G)$ の中心に入っても、$A$ そのものが $G$ の中心に入るとは限らないからである($\rho$ が忠実でないとき)。Ser77 は $\rho(G)$ と $\rho(A)$ に移って Schur の結果を使っている。

正規でない可換部分群

$A$ が正規でないと、次数は $[G:A]$ を割るとは限らない(下の反例の表の 1 行目)。しかし大きさの評価は残る。

可換部分群の指数による上からの評価

$A$ を $G$ の可換な部分群(正規とは限らない)とすると、$G$ の既約表現の次数は $[G:A]$ 以下である。

$(\rho,V)$ を既約表現とする。$A$ は可換なので、prf-ito-clifford の 1 の前半(同時対角化。$A$ の正規性は使わない)により、$\rho(a)v=\lambda(a)v$($a\in A$)となる $\lambda\in\widehat A$ と $0$ でない $v$ がある。すなわち $\operatorname{Res}^G_AV$ は 1 次元の表現 $\lambda$ を含み、$\langle\lambda,\operatorname{Res}^G_A\chi\rangle_A\ge1$ である。Frobenius相互律 の定理「指標の Frobenius 相互律」により $\langle\operatorname{Ind}_A^G\lambda,\chi\rangle_G\ge1$ なので、$V$ は $\operatorname{Ind}_A^G\lambda$ の既約成分として現れる(指標(表現論) の系「重複度・同値の判定・既約性の判定」の 1)。よって $\dim V\le\dim\operatorname{Ind}_A^G\lambda=[G:A]$ である。$\square$

Ser77 §3.1 の Theorem 9 の Corollary(p. 25)は、$V$ が $1$ 次元の $A$ 不変部分空間 $W$ の移り先 $\rho(g)W$ の和であり、それが $[G:A]$ 個以下しかないことから同じ評価を示している。

例

次数の決定に使う
  1. 二面体群.位数 $2n$($n\ge3$)の二面体群では、回転のなす巡回部分群が指数 $2$ の可換な正規部分群なので、cor-ito-prime-index により既約表現の次数は $1$ か $2$ である。
  2. 4 次交代群.$V_4:=\{e,(1\,2)(3\,4),(1\,3)(2\,4),(1\,4)(2\,3)\}$ は $A_4$ の可換な正規部分群で指数は $3$ なので、次数は $1$ か $3$ である。$A_4$ の共役類は $\{e\}$、$V_4\setminus\{e\}$、長さ $3$ の巡回置換の二つの類の計 $4$ 個なので、既約表現も $4$ 個ある(指標(表現論) の定理「既約指標は類関数の正規直交基底」)。次数の平方和は $12$ なので(同じ記事の系「正則表現の分解」)、$1$ が $a$ 個、$3$ が $b$ 個として $a+b=4$、$a+9b=12$ から次数は $1,1,1,3$ である。
  3. 4 次対称群.同じ $V_4$ は $S_4$ でも正規で、指数は $6$ である。$S_4$ の共役類は置換の型ごとの $5$ 個で、1 次元の表現は自明表現と符号の $2$ 個である(1 次元の表現は交換子部分群 $A_4$ の上で自明で、$S_4/A_4$ は位数 $2$)。残る $3$ 個の次数は $6$ の約数で $2$ 以上、平方の和は $24-2=22$ なので、$4+9+9$ の分け方しかなく、次数は $1,1,2,3,3$ である。中心は自明なので、Schur の結果(cor-ito-schur)からは「$24$ を割る」としか言えない。
  4. Heisenberg 群.素数 $p$ について、$\mathbb{F}_p$ 成分の行列 $\begin{pmatrix}1&x&z\\0&1&y\\0&0&1\end{pmatrix}$ のなす位数 $p^3$ の群 $H_p$ を考える。$x=0$ の行列の全体 $A$ は、準同型 $H_p\to\mathbb{F}_p$(行列を $x$ に送る)の核なので正規であり、$A$ の中では積が $(y,z)$ の和になるので可換である。指数は $p$ なので、次数は $1$ か $p$ である。$H_p$ は可換でないので次数 $p$ の既約表現がある(すべての既約表現が 1 次元なら、既約表現の個数 $=\lvert H_p\rvert=$ 共役類の個数となり、どの共役類も 1 点で可換になる)。中心は $x=y=0$ の行列の全体で指数は $p^2$ なので、Schur の結果からは「$p^2$ を割る」としか言えない。

反例:仮定を外すと崩れること

外す条件反例成り立たなくなること
$A$ が正規$G=S_3$、$A=\{e,(1\,2)\}$(可換、正規でない、指数 $3$)2 次元の既約表現の次数 $2$ が $[G:A]=3$ を割らない
$A$ が可換$G=S_4$、$A=A_4$(正規、可換でない、指数 $2$)標準表現の次数 $3$ が $[G:A]=2$ を割らない
係数体が代数閉体$G=A=\mathbb{Z}/3\mathbb{Z}$、$\mathbb{R}^2$ 上の $120^\circ$ 回転による表現$\mathbb{R}$ 上の既約表現の次数 $2$ が $[G:A]=1$ を割らない
反例の確かめ

1 行目:$(1\,2)(1\,3)(1\,2)=(2\,3)$ なので $A$ は正規でない。$S_3$ の 2 次元の既約表現(既約表現 の定理「3 次対称群の既約表現」)の次数 $2$ は $3$ を割らない。prop-ito-bound の評価 $2\le3$ は成り立っている。
2 行目:$A_4$ は $S_4$ の指数 $2$ の部分群なので正規であり、$(1\,2\,3)(1\,2\,4)=(1\,3)(2\,4)$、$(1\,2\,4)(1\,2\,3)=(1\,4)(2\,3)$ なので可換でない。$S_4$ の標準表現は既約で次数は $3$ である(既約表現 の定理「標準表現の既約性」)。
3 行目:生成元を $120^\circ$ 回転 $R$ に送る表現は、$R$ が実の固有ベクトルをもたないので $\mathbb{R}$ 上既約である(指標(表現論) の節「条件を外したときの反例」の 2 行目)。この表現では $A=G$ の元がスカラー倍で作用しないので、prop-ito-clifford の 1 の同時対角化が $\mathbb{R}$ 上ではできないことが崩れる原因である。$\mathbb{C}$ 上では 1 次元の表現 2 個に分かれ、定理と矛盾しない。

補足

冪零群の表現. prop-ito-clifford の (b) は、既約表現をより小さい群の既約表現からの誘導に帰着させる。これを繰り返すと、Sylow 部分群の直積である有限冪零群などでは、すべての既約表現が部分群の 1 次元の表現から誘導されることが示される(Ser77 §8.5 の Theorem 16、pp. 66–67。この記事では証明しない)。この事実は、指標を誘導指標の整数係数の 1 次結合で書く Brauerの誘導定理 で使われる。
次数の 3 つの制約の比較. prop-ito-frobenius・cor-ito-schur・thm-ito-main はどれも「次数は $[G:A]$ を割る」の形で、$A$ がそれぞれ $\{e\}$、$Z(G)$、可換正規部分群である。$Z(G)$ は可換正規なので、伊藤の定理がいちばん強い。一方、prop-ito-scalar は $A$ の正規性も可換性も仮定しない代わりに、表現ごとに「$A$ がスカラーで作用する」ことを要求する。

関連項目

参考文献

[2]
Jean-Pierre Serre, Linear Representations of Finite Groups, Graduate Texts in Mathematics 42, Springer, 1977, §3.1 Theorem 9 の Corollary(p. 25)、§6.5 Proposition 16 と Corollary 1・2(p. 52)、Proposition 17(p. 53)、§8.1 Proposition 24 とその Corollary(pp. 61–62)、§8.5 Theorem 16(pp. 66–67)

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