2次拡大

同義語:二次拡大quadratic extension

概要

2次拡大(quadratic extension)とは、体の拡大 $L/K$ で拡大次数 $[L:K]$ が $2$ のものである。2 次拡大はつねに正規拡大であり、分離的なら Galois 拡大で、Galois 群は共役 $\sigma$ からなる位数 $2$ の群になる。分離的でないのは標数 $2$ で平方根を添加した場合に限る。ノルム $N(\beta)=\beta\sigma(\beta)$ が $1$ の元は $\gamma/\sigma(\gamma)$ の形に書け(Hilbert の定理 90 の 2 次の場合)、標数が $2$ でないとき、$K(\sqrt a,\sqrt b)$ が $4$ 次になるのは $a,b,ab$ がどれも平方でないときで、その中の 2 次拡大はちょうど 3 つである。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 拡大次数, 2次方程式, Galois拡大, 線形写像

体の拡大 $L/K$ で、$L$ が $K$ 上 $2$ 次元のベクトル空間になるものを 2 次拡大 という。実数体に $\sqrt{-1}$ を添加した複素数体、有理数体に $\sqrt2$ を添加した $\mathbb{Q}(\sqrt2)$、有限体 $\mathbb{F}_q$ とその $2$ 次の拡大 $\mathbb{F}_{q^2}$ がその例である。2 次拡大は、体の拡大のうちで最も小さく、しかも最も具体的に計算できるものであり、Galois 理論の多くの現象(共役、ノルム、Galois 群、中間体)が手で計算できる形で現れる。
標数が $2$ でない体 $K$ の 2 次拡大は、$K$ の平方でない元 $d$ の平方根の添加 $K(\sqrt d)$ であり、$K(\sqrt d)$ と $K(\sqrt{d'})$ が $K$ 上同型であることと $d'/d$ が平方であることは同値である(2次方程式 の定理「2 次拡大と平方類」)。この記事では、その先にある構造を調べる。2 次拡大が分離的なら Galois 拡大で、Galois 群は共役 $\sigma$ だけからなる位数 $2$ の群であること、分離的でないのは標数 $2$ の特別な場合に限ること、ノルムとトレースの性質とノルムが $1$ の元の形(Hilbert の定理 90 の 2 次の場合)、どの元が拡大で平方になるか、そして 2 つの平方根を添加した拡大の次数と、その中にある 2 次拡大がちょうど 3 つであることを証明する。

定義

2 次拡大

体の拡大 $L/K$ が 2 次拡大(quadratic extension)であるとは、拡大次数 $[L:K]$ が $2$ であることをいう。

$L/K$ が 2 次拡大なら、$K$ に属さない任意の $\alpha\in L$ について $L=K(\alpha)$ であり、$\alpha$ の $K$ 上の最小多項式は $2$ 次式 $x^2+bx+c$ である(拡大次数 の命題「次数 1 と 2 の拡大」の 2)。逆に、$K$ の上の既約な 2 次式 $f$ について $K[x]/(f)$ は 2 次拡大である。2 次拡大はつねに正規拡大である。実際、$\alpha$ のもう 1 つの根 $\alpha'=-b-\alpha$ も $L$ に属する(正規拡大 の命題「2 次拡大の正規性」)。この $\alpha'$ を $\alpha$ の 共役 という。
$\beta\in L$ に対し、$\beta$ 倍の写像 $m_\beta\colon L\to L$、$x\mapsto\beta x$ は $K$ 上の線形写像である。

ノルムとトレース

2 次拡大 $L/K$ と $\beta\in L$ について、$m_\beta$ の行列式と跡を
$$ N_{L/K}(\beta):=\det m_\beta,\qquad \operatorname{Tr}_{L/K}(\beta):=\operatorname{tr}m_\beta $$
と書き、$\beta$ の ノルム、トレース という。どちらも $K$ の元である。

たとえば $L=K(\sqrt d)$ で基底 $1,\sqrt d$ をとると、$\beta=u+v\sqrt d$ について $m_\beta(1)=u+v\sqrt d$、$m_\beta(\sqrt d)=vd+u\sqrt d$ なので、$m_\beta$ の行列は $\begin{pmatrix}u&vd\\v&u\end{pmatrix}$ であり、
$$ N_{L/K}(u+v\sqrt d)=u^2-dv^2,\qquad \operatorname{Tr}_{L/K}(u+v\sqrt d)=2u $$
である。

直感

2 次拡大 $L=K(\alpha)$ の元は $u+v\alpha$($u,v\in K$)と一意に書け、$\alpha$ を共役 $\alpha'$ に取り替える操作 $u+v\alpha\mapsto u+v\alpha'$ が、$K$ を動かさない体の同型になる。$\mathbb{C}/\mathbb{R}$ では複素共役であり、ノルムは絶対値の 2 乗 $z\bar z=\lvert z\rvert^2$、トレースは実部の 2 倍 $z+\bar z$ である。一般の 2 次拡大でも、ノルムとトレースは「元とその共役の積と和」であり、$\beta$ の最小多項式 $x^2-\operatorname{Tr}(\beta)x+N(\beta)$ の係数として現れる。
ただし標数 $2$ では、$\alpha'=\alpha$ となることがある。$x^2-c$ の根は $(x-\alpha)^2=x^2-\alpha^2$ により重根になるからである。このときは共役による取り替えが恒等写像になり、拡大は分離的でない。標数 $2$ でも $x^2+x+c$ の形の方程式の根を添加した拡大(Artin–Schreier拡大)は分離的で、共役は $\alpha\mapsto\alpha+1$ である。

例

代表的な 2 次拡大
  1. $\mathbb{C}/\mathbb{R}$:$\mathbb{C}=\mathbb{R}(i)$、共役は複素共役 $a+bi\mapsto a-bi$、$N(a+bi)=a^2+b^2$、$\operatorname{Tr}(a+bi)=2a$ である。$\mathbb{R}$ の 2 次拡大は同型を除いてこれだけである(2次方程式 の例「平方類と 2 次拡大の例」)。
  2. $\mathbb{Q}(\sqrt d)/\mathbb{Q}$($d$ は $0,1$ でなく平方因子をもたない整数):共役は $a+b\sqrt d\mapsto a-b\sqrt d$、$N(a+b\sqrt d)=a^2-db^2$ である。$d=-1$ では Gauss整数 のノルム $a^2+b^2$ が、$d=2$ では Pell 型の方程式 $a^2-2b^2=\pm1$ の左辺が現れる。
  3. 有限体:$q$ を素数冪とすると、$\mathbb{F}_{q^2}/\mathbb{F}_q$ は 2 次拡大で、共役は $x\mapsto x^q$ である。実際、これは $\mathbb{F}_{q^2}$ の自己同型で(Frobenius 写像 $x\mapsto x^p$ の冪。有限体 の命題「Frobenius写像の性質」)、$x^q=x$ となる $x$ は多項式 $x^q-x$ の高々 $q$ 個の根であり、$\mathbb{F}_q$ の元がちょうどそれにあたるので(同じ記事の系「有限体における $x^q=x$」)、$\mathbb{F}_q$ の元を動かさず、恒等写像でもない。ノルムは $N(x)=x\cdot x^q=x^{q+1}$ である。$\mathbb{F}_{q^2}^\times$ は位数 $q^2-1$ の巡回群なので(有限体 の定理「有限体の乗法群の構造」)、$x\mapsto x^{q+1}$ の像は位数 $(q^2-1)/(q+1)=q-1$ の部分群、すなわち $\mathbb{F}_q^\times$ 全体であり、ノルムは全射である。
  4. 標数 $2$ の分離的な例:$\mathbb{F}_4=\mathbb{F}_2(\omega)$($\omega^2+\omega+1=0$)。共役は $\omega\mapsto\omega+1=\omega^2$ である。
  5. 標数 $2$ の分離的でない例:$K=\mathbb{F}_2(t)$(有理関数体)、$L=K(s)$、$s^2=t$。$x^2-t$ は $K$ で既約($t$ は $K$ の平方でない)で、$L$ では $(x-s)^2$ と重根をもつ。

共役と Galois 群

2 次拡大の自己同型と分離性

$L/K$ を 2 次拡大、$\alpha\in L\setminus K$ の最小多項式を $f=x^2+bx+c$ とし、$\alpha':=-b-\alpha$ とおく。

  1. $L$ の $K$ 上の自己同型 $\tau$ は $\tau(\alpha)\in\{\alpha,\alpha'\}$ で決まる。$\alpha'\neq\alpha$ なら、$\sigma(u+v\alpha):=u+v\alpha'$($u,v\in K$)は $K$ 上の自己同型で、$\operatorname{Aut}(L/K)=\{\mathrm{id},\sigma\}$、$\sigma^2=\mathrm{id}$ である。
  2. 次の 4 条件は同値である。(a) $L/K$ は分離拡大である。(b) $\alpha'\neq\alpha$。(c) $\lvert\operatorname{Aut}(L/K)\rvert=2$。(d) $L/K$ は Galois拡大 である。$K$ の標数が $2$ でなければ、これらはつねに成り立つ。標数が $2$ なら、(b) は $b\neq0$ と同値である。
  3. 標数が $2$ で $b=0$ なら、すべての $\beta\in L$ について $\beta^2\in K$ であり、$L/K$ は純非分離拡大、$\operatorname{Aut}(L/K)=\{\mathrm{id}\}$ である。
共役を基底で書く

1:$\tau(f(\alpha))=f(\tau(\alpha))$($f$ の係数は $K$ の元)なので $\tau(\alpha)$ は $f$ の根であり、$L[x]$ で $f=(x-\alpha)(x-\alpha')$ なので $\tau(\alpha)\in\{\alpha,\alpha'\}$ である。$\tau(u+v\alpha)=u+v\tau(\alpha)$ なので $\tau$ は $\tau(\alpha)$ で決まる。$\alpha'\neq\alpha$ とする。$K$ 上の環準同型 $K[x]\to L$、$x\mapsto\alpha'$ の核は $f$ を含み、$f$ は既約なので核は $(f)$ であり、単射 $K[x]/(f)\to L$ が得られる。両辺とも $K$ 上 $2$ 次元なので全単射である。同じく $x\mapsto\alpha$ から同型 $K[x]/(f)\cong L$ が得られ、前者に後者の逆を合成したものが $\sigma$ であり、$\sigma$ は $K$ 上の自己同型である。$\sigma^2(\alpha)=\sigma(-b-\alpha)=-b-\alpha'=\alpha$ なので $\sigma^2=\mathrm{id}$ である。
2:(b) と (c) の同値は 1 による($\alpha'=\alpha$ なら $\tau(\alpha)=\alpha$ しかなく、$\tau=\mathrm{id}$)。(a) なら $\alpha$ の最小多項式 $f$ の 2 つの根 $\alpha,\alpha'$ は異なるので (b) である。(b) を仮定し、$\beta\in L$ をとる。$\beta\in K$ なら最小多項式は 1 次式である。$\beta\notin K$ なら $\beta=u+v\alpha$($v\neq0$)と書け、$\sigma(\beta)=u+v\alpha'\neq\beta$ も $\beta$ の最小多項式の根である(1 の前半と同じ理由)。最小多項式は 2 次なので $(x-\beta)(x-\sigma(\beta))$ であり、根は異なる。よって (a) である。(c) と (d) の同値は、$[L:K]=2$ と Galois拡大 の定理「有限次Galois拡大の特徴づけ」の 1 と 2 の同値による。
標数が $2$ でなければ、$\alpha'=\alpha$ は $2\alpha=-b$、すなわち $\alpha=-b/2\in K$ を意味して矛盾するので、(b) が成り立つ。標数が $2$ なら $-b=b$、$-\alpha=\alpha$ なので $\alpha'=\alpha+b$ であり、$\alpha'\neq\alpha$ は $b\neq0$ と同値である。
3:$b=0$ なら $\alpha^2=-c=c\in K$ である。$\beta=u+v\alpha$ について、標数 $2$ では $2uv\alpha=0$ なので $\beta^2=u^2+v^2\alpha^2\in K$ である。よって各元の $2$ 乗が $K$ に入り、$L/K$ は純非分離拡大である。$\alpha'=-\alpha=\alpha$ なので、1 により $\operatorname{Aut}(L/K)=\{\mathrm{id}\}$ である。$\square$

分離的な 2 次拡大 $L/K$ の自己同型 $\sigma$ を $L/K$ の 共役(conjugation)といい、$\operatorname{Gal}(L/K)=\{\mathrm{id},\sigma\}$ は位数 $2$ の巡回群である。$\sigma$ は $\alpha$ の選び方によらない(恒等写像でない唯一の $K$ 上の自己同型である)。標数 $2$ の分離的な 2 次拡大は $y^2+y=c$($c\in K$)の形の方程式の根の添加(Artin–Schreier拡大)であり、分離的でない 2 次拡大は $K$ の平方でない元の平方根の添加である(2次方程式 の命題「標数が 2 の体での標準形」)。

ノルムとトレース

ノルムとトレースの性質

$L/K$ を 2 次拡大、$\beta,\gamma\in L$、$a\in K$ とする。

  1. $N(\beta\gamma)=N(\beta)N(\gamma)$、$\operatorname{Tr}(\beta+\gamma)=\operatorname{Tr}(\beta)+\operatorname{Tr}(\gamma)$、$\operatorname{Tr}(a\beta)=a\operatorname{Tr}(\beta)$、$N(a)=a^2$、$\operatorname{Tr}(a)=2a$ である。
  2. $\beta\notin K$ なら、$\beta$ の最小多項式は $x^2-\operatorname{Tr}(\beta)x+N(\beta)$ である。
  3. $L/K$ が分離的で $\sigma$ をその共役とすると、$N(\beta)=\beta\sigma(\beta)$、$\operatorname{Tr}(\beta)=\beta+\sigma(\beta)$ である。分離的でなければ、$N(\beta)=\beta^2$、$\operatorname{Tr}(\beta)=0$ である。
  4. $N(\beta)=0$ であることと $\beta=0$ であることは同値である。
2 × 2 行列で計算する

1:$m_{\beta\gamma}=m_\beta\circ m_\gamma$、$m_{\beta+\gamma}=m_\beta+m_\gamma$、$m_{a\beta}=am_\beta$ と、行列式の乗法性・跡の線形性による。$a\in K$ なら $m_a=aI$ なので $N(a)=a^2$、$\operatorname{Tr}(a)=2a$ である。
2:$\beta$ の最小多項式を $x^2+px+q$ とする。$1,\beta$ は $L$ の基底で、$m_\beta(1)=\beta$、$m_\beta(\beta)=\beta^2=-q-p\beta$ なので、$m_\beta$ の行列は $\begin{pmatrix}0&-q\\1&-p\end{pmatrix}$ であり、$N(\beta)=q$、$\operatorname{Tr}(\beta)=-p$ である。
3:分離的なとき、$\beta\notin K$ なら prf-qext-galois の 2 により最小多項式は $(x-\beta)(x-\sigma(\beta))=x^2-(\beta+\sigma(\beta))x+\beta\sigma(\beta)$ なので、2 と係数を比べればよい。$\beta\in K$ なら $\sigma(\beta)=\beta$ で、1 の $N(\beta)=\beta^2$、$\operatorname{Tr}(\beta)=2\beta$ と一致する。分離的でないとき、標数は $2$ で、thm-qext-galois の 3 により $\beta^2\in K$ である。$\beta\notin K$ なら最小多項式は $x^2-\beta^2$ なので、2 から $\operatorname{Tr}(\beta)=0$、$N(\beta)=-\beta^2=\beta^2$ である。$\beta\in K$ なら 1 により $N(\beta)=\beta^2$、$\operatorname{Tr}(\beta)=2\beta=0$ である。
4:$\beta\neq0$ なら $m_{\beta^{-1}}$ が $m_\beta$ の逆写像なので $\det m_\beta\neq0$ である。$N(0)=0$ は明らか。$\square$

1 と 4 から、ノルムは乗法群の準同型 $N\colon L^\times\to K^\times$ を与える。その核、すなわちノルムが $1$ の元は、次のように共役による商として書ける。

ノルムが 1 の元

$L/K$ を分離的な 2 次拡大、$\sigma$ をその共役とする。$\beta\in L^\times$ について、$N(\beta)=1$ であることと、ある $\gamma\in L^\times$ で $\beta=\gamma/\sigma(\gamma)$ と書けることは同値である。

和をとって不動点を作る

$\beta=\gamma/\sigma(\gamma)$ なら、prop-qext-norm の 3 と $\sigma^2=\mathrm{id}$ により $N(\beta)=\beta\sigma(\beta)=\frac{\gamma}{\sigma(\gamma)}\cdot\frac{\sigma(\gamma)}{\gamma}=1$ である。
逆に $N(\beta)=\beta\sigma(\beta)=1$ とする。$\theta\in L$ に対し $\gamma:=\theta+\beta\sigma(\theta)$ とおくと
$$ \beta\sigma(\gamma)=\beta\sigma(\theta)+\beta\sigma(\beta)\theta=\beta\sigma(\theta)+\theta=\gamma $$
である。したがって $\gamma\neq0$ となる $\theta$ があれば $\beta=\gamma/\sigma(\gamma)$ である。$\beta\neq-1$ なら $\theta=1$ で $\gamma=1+\beta\neq0$ である。$\beta=-1$ なら、$\theta=\alpha\in L\setminus K$ をとると $\gamma=\alpha-\sigma(\alpha)\neq0$ である(thm-qext-galois の 2 の (b))。$\square$

これは、Galois 群が巡回群である Galois 拡大についての Hilbertの定理90(定理「ノルムが 1 の元の特徴づけ(巡回版)」)の、次数 $2$ の場合である。

ノルムが 1 の元の表示
  1. $\mathbb{Q}(\sqrt2)/\mathbb{Q}$ で $\beta=3+2\sqrt2$ は $N(\beta)=9-8=1$ を満たす。証明の手順で $\gamma=1+\beta=4+2\sqrt2$ とおくと、$\gamma/\sigma(\gamma)=\frac{4+2\sqrt2}{4-2\sqrt2}=\frac{(4+2\sqrt2)^2}{16-8}=\frac{24+16\sqrt2}{8}=3+2\sqrt2$ である。
  2. $\mathbb{Q}(i)/\mathbb{Q}$ では、$N(x+yi)=x^2+y^2=1$ となる有理数の組、すなわち単位円上の有理点が、$\gamma=m+ni$ により
    $$ \frac{m+ni}{m-ni}=\frac{(m+ni)^2}{m^2+n^2}=\frac{m^2-n^2}{m^2+n^2}+\frac{2mn}{m^2+n^2}i $$
    とすべて表される($m,n$ は同時に $0$ でない整数としてよい。分母を払って $\gamma$ を整数倍しても商は変わらない)。
  3. $\mathbb{F}_{q^2}/\mathbb{F}_q$ では $N(x)=x^{q+1}$ なので、ノルムが $1$ の元は $x^{q+1}=1$ の解で、巡回群 $\mathbb{F}_{q^2}^\times$ の中にちょうど $q+1$ 個ある。

平方になる元と 2 つの平方根の添加

この節では $K$ の標数は $2$ でないとし、$K^\times$ の元の平方の全体を $(K^\times)^2$ と書く。

拡大で平方になる元

$d\in K^\times$ が $K$ の平方でないとし、$L=K(\sqrt d)$ とする。このとき
$$ K^\times\cap(L^\times)^2=(K^\times)^2\cup d\,(K^\times)^2 $$
である。すなわち、$K$ の元で $L$ の中で平方になるのは、$K$ の平方とその $d$ 倍に限る。

係数を比べる

右辺が左辺に含まれることは、$e^2$ と $de^2=(e\sqrt d)^2$($e\in K^\times$)から分かる。逆に $c\in K^\times$ が $c=(u+v\sqrt d)^2=u^2+dv^2+2uv\sqrt d$($u,v\in K$)と書けたとすると、基底 $1,\sqrt d$ の係数を比べて $2uv=0$ である。$2\neq0$ なので $u=0$ または $v=0$ であり、$v=0$ なら $c=u^2$、$u=0$ なら $c=dv^2$ である(どちらも $c\neq0$ なので $u$ または $v$ は $0$ でない)。$\square$

同じ計算は 2次方程式 の定理「2 次拡大と平方類」の証明にも現れる。この補題を 2 回使うと、2 つの平方根を添加した体が完全に分かる。

2 つの平方根の添加

$a,b\in K^\times$ とし、$K$ を含む体 $\Omega$ の中に $\alpha^2=a$、$\beta^2=b$ となる $\alpha,\beta$ があるとする。$M:=K(\alpha,\beta)$ とおく。

  1. $[M:K]=4$ であることと、$a$、$b$、$ab$ のどれも $(K^\times)^2$ に属さないことは同値である。
  2. $[M:K]=4$ なら、$M/K$ は Galois 拡大で、$\rho\mapsto(\rho(\alpha)/\alpha,\ \rho(\beta)/\beta)$ は群の同型 $\operatorname{Gal}(M/K)\cong\{\pm1\}\times\{\pm1\}$ を与える。
  3. $[M:K]=4$ なら、$M$ の部分体 $F\supset K$ で $[F:K]=2$ となるものは $K(\alpha)$、$K(\beta)$、$K(\alpha\beta)$ のちょうど 3 つであり、これらは互いに異なる。
補題を 2 段に使う

1:$a$ が平方なら $\alpha\in K$ で $M=K(\beta)$、$[M:K]\le2$ である。$b$ も同様である。$ab=e^2$($e\in K^\times$)なら $\beta=\pm e/\alpha\in K(\alpha)$($\beta^2=b=e^2/a=(e/\alpha)^2$)なので $M=K(\alpha)$ である。逆に $a,b,ab$ のどれも平方でないとする。$a$ は平方でないので $L:=K(\alpha)$ は 2 次拡大である。$b$ が $L$ の平方なら lem-qext-squares により $b\in(K^\times)^2$ か $b\in a(K^\times)^2$ で、後者なら $ab=a^2(b/a)\in(K^\times)^2$ となる。どちらも仮定に反するので $b$ は $L$ の平方でなく、$\beta\notin L$、$[M:L]=2$ である。拡大次数 の定理「次数の乗法性」により $[M:K]=4$ である。
2:$[M:K]=4$ とし、$L=K(\alpha)$ とする。$\tau\in\operatorname{Aut}(L/K)$($\tau(\alpha)=\pm\alpha$。thm-qext-galois の 1 により 2 つある)と $\varepsilon\in\{\pm1\}$ に対し、$\tilde\tau(u+v\beta):=\tau(u)+\tau(v)\varepsilon\beta$($u,v\in L$)とおく。$1,\beta$ は $M$ の $L$ 上の基底なので $\tilde\tau$ は well-defined な全単射で、加法を保つ。乗法については
$$ (u+v\beta)(u'+v'\beta)=(uu'+vv'b)+(uv'+vu')\beta $$
と $\tau(b)=b$、$\varepsilon^2=1$ から $\tilde\tau$ が積を保つことが分かる。こうして $\alpha\mapsto\pm\alpha$、$\beta\mapsto\pm\beta$ の 4 通りの $K$ 上の自己同型が得られる(標数が $2$ でないので $\alpha\neq-\alpha$、$\beta\neq-\beta$ であり、4 つは異なる)。逆に $K$ 上の自己同型 $\rho$ は $\alpha,\beta$ をそれぞれ $\pm\alpha,\pm\beta$ に移し($\rho(\alpha)^2=a$)、$\rho(\alpha),\rho(\beta)$ で決まるので、ちょうど 4 つである。$\lvert\operatorname{Aut}(M/K)\rvert=4=[M:K]$ なので、Galois拡大 の定理「有限次Galois拡大の特徴づけ」により $M/K$ は Galois 拡大である。$\rho(\alpha)=\varepsilon_1\alpha$、$\rho'(\alpha)=\varepsilon'_1\alpha$ なら $\rho'\rho(\alpha)=\varepsilon_1\varepsilon'_1\alpha$ なので($\beta$ も同様)、写像 $\rho\mapsto(\rho(\alpha)/\alpha,\rho(\beta)/\beta)$ は準同型で、単射であり、位数が等しいので同型である。
3:$K(\alpha)$、$K(\beta)$、$K(\alpha\beta)$ は $a,b,ab$ が平方でないので 2 次拡大である。逆に $F$ を $[F:K]=2$ の中間体とすると、標数が $2$ でないので $F=K(\gamma)$、$\gamma^2=c\in K$ で $c$ は $K$ の平方でない(拡大次数 の命題「次数 1 と 2 の拡大」の 3)。$c$ は $M$ の平方である。$M=L(\beta)$ で $b$ は $L$ の平方でない(1 の証明)ので、lem-qext-squares を $M/L$ に使うと $c=y^2$ または $c=by^2$($y\in L^\times$)である。前者なら $y^2=c\in K$ なので、同じ補題を $L/K$ に使って $c\in(K^\times)^2\cup a(K^\times)^2$。後者なら $y^2=c/b\in K$ なので $c\in b(K^\times)^2\cup ab(K^\times)^2$。$c$ は平方でないので、$c\in a(K^\times)^2$、$b(K^\times)^2$、$ab(K^\times)^2$ のどれかであり、$c=ae^2$ なら $\gamma=\pm e\alpha$ で $F=K(\alpha)$、ほかも同様に $F=K(\beta)$ または $F=K(\alpha\beta)$ である。最後に、たとえば $K(\alpha)=K(\beta)$ なら $b$ が $K(\alpha)$ の平方となり、1 の証明と同じく矛盾する。$K(\alpha)=K(\alpha\beta)$ なら $ab$ が $K(\alpha)$ の平方となり、補題から $ab\in(K^\times)^2$ か $ab\in a(K^\times)^2$、すなわち $ab$ か $b$ が平方となって矛盾する。$K(\beta)=K(\alpha\beta)$ も同様である。$\square$

$\mathbb{Q}(\sqrt2,\sqrt3)$

$a=2$、$b=3$、$ab=6$ はどれも有理数の平方でないので、$[\mathbb{Q}(\sqrt2,\sqrt3):\mathbb{Q}]=4$ であり、Galois 群は $\sqrt2\mapsto\pm\sqrt2$、$\sqrt3\mapsto\pm\sqrt3$ の 4 つの自己同型からなる。2 次の部分体は $\mathbb{Q}(\sqrt2)$、$\mathbb{Q}(\sqrt3)$、$\mathbb{Q}(\sqrt6)$ の 3 つだけである。たとえば $\mathbb{Q}(\sqrt{12})=\mathbb{Q}(\sqrt3)$ は $12=3\cdot2^2$ による。4 つの自己同型は $\sqrt2+\sqrt3$ を $\pm\sqrt2\pm\sqrt3$ の 4 つの異なる値に移すので、$\sqrt2+\sqrt3$ はどの 2 次の部分体にも入らず、$\mathbb{Q}(\sqrt2,\sqrt3)=\mathbb{Q}(\sqrt2+\sqrt3)$ である。

平方根を $n$ 個添加した体 $K(\sqrt{a_1},\dots,\sqrt{a_n})$ の次数は、$a_1,\dots,a_n$ の類が $K^\times/(K^\times)^2$ の中で生成する部分群の位数に等しい。これは Kummer理論 の定理「Kummer理論の基本定理」の、$2$ 乗根を添加する場合であり、同じ記事の例「双 2 次体と 3 重 2 次体」に $\mathbb{Q}(\sqrt2,\sqrt3,\sqrt5)$ の計算がある。

条件を外した反例

外す条件反例成り立たなくなること
拡大の次数が $2$($3$ にする)$\mathbb{Q}(\sqrt[3]2)/\mathbb{Q}$正規拡大であること(共役が拡大の中にあること)
拡大が分離的(thm-qext-galois)$\mathbb{F}_2(t)(\sqrt t)/\mathbb{F}_2(t)$自己同型が 2 つあり Galois 拡大であること
標数が $2$ でない(lem-qext-squares)$K=\mathbb{F}_2(t)$、$L=K(\sqrt t)$$K^\times\cap(L^\times)^2=(K^\times)^2\cup t(K^\times)^2$
$ab$ が平方でない(thm-qext-biquadratic の 1)$K=\mathbb{Q}$、$a=2$、$b=8$$[M:K]=4$
反例:表の各行の確かめ

1 行目では $x^3-2$ の実数でない根が実数体の部分体 $\mathbb{Q}(\sqrt[3]2)$ に入らない。2・3 行目は $t$ の平方根を添加した分離的でない拡大で、2 行目では自己同型が恒等写像だけになり、3 行目では $1+t$ が反例になる。4 行目は $\sqrt8=2\sqrt2$ による。

詳細

1 行目:$x^3-2$ は Eisenstein の判定法($p=2$)で既約なので $[\mathbb{Q}(\sqrt[3]2):\mathbb{Q}]=3$ である。$x^3-2$ の根は $\sqrt[3]2$ と $\sqrt[3]2\,e^{\pm2\pi i/3}$ で、後の 2 つは実数でないので、実数体の部分体 $\mathbb{Q}(\sqrt[3]2)$ に入らない。よって $x^3-2$ は $\mathbb{Q}(\sqrt[3]2)$ で 1 次式の積に分解せず、正規拡大でない。

2 行目:$t$ は $K=\mathbb{F}_2(t)$ の平方でない($0$ でない元 $f/g$ の平方の、分子と分母の次数の差は偶数だが、$t$ では $1$)。$x^2-t$ は $L$ で $(x-\sqrt t)^2$ となって重根をもち、thm-qext-galois の 3 により $\operatorname{Aut}(L/K)=\{\mathrm{id}\}$ で、Galois 拡大でない。

3 行目:$(1+\sqrt t)^2=1+t$ なので $1+t\in K^\times\cap(L^\times)^2$ である。$1+t$ は $K$ の平方でない(2 行目と同じく、$0$ でない平方は $\mathbb{F}_2(t^2)$ に属する。実際 $(f/g)^2=f(t)^2/g(t)^2$ で、標数 $2$ では $f(t)^2=f^{(2)}(t^2)$($f^{(2)}$ は $f$ の係数を $2$ 乗した多項式)だからである。$1+t\in\mathbb{F}_2(t^2)$ なら $t\in\mathbb{F}_2(t^2)$ となり、次に述べる $t\notin\mathbb{F}_2(t^2)$ に反する)。$1+t\in t(K^\times)^2$ なら $(1+t)/t=1+t^{-1}$ が $\mathbb{F}_2(t^2)$ に属することになるが、$t^{-1}=(1+t^{-1})+1$ から $t^{-1}\in\mathbb{F}_2(t^2)$、したがって $t\in\mathbb{F}_2(t^2)$ となる。しかし $t=f(t^2)/g(t^2)$($f,g$ は多項式、$g\neq0$)なら $tg(t^2)=f(t^2)$ で、左辺は奇数次の項だけ、右辺は偶数次の項だけからなるので両辺とも $0$ となり、$g\neq0$ に反する。よって $t\notin\mathbb{F}_2(t^2)$ である。よって右辺の集合に $1+t$ は入らない。

4 行目:$2$、$8$ はどちらも平方でないが、$ab=16=4^2$ は平方である。$\sqrt8=2\sqrt2$ なので $M=\mathbb{Q}(\sqrt2)$ で、$[M:\mathbb{Q}]=2$ である。

補足

2 次体と 2 次形式

$\mathbb{Q}$ の 2 次拡大 $\mathbb{Q}(\sqrt d)$ は 2 次体と呼ばれ、代数的整数論の最初の対象である。ノルム $N(x+y\sqrt d)=x^2-dy^2$ は 2 変数の 2次形式 であり、$c\in K^\times$ が $K(\sqrt d)$ のノルムであるかどうか($x^2-dy^2=c$ が $K$ で解けるかどうか)は、2 次形式の理論の基本的な問題になる。

文献

標数が $2$ でない体の 2 次拡大が平方根の添加であることは DF04 §13.2 の例「Quadratic Extensions over Fields of Characteristic $\neq2$」(p. 522)、$F(\sqrt{D_1},\sqrt{D_2})$ の次数が $D_1D_2$ が平方かどうかで $4$ か $2$ になることは同節 Exercise 8(p. 530)、それが Klein の四元群を Galois 群とする Galois 拡大であることは §14.2 Exercise 15(p. 582)、巡回拡大でノルムが $1$ の元が $\alpha/\sigma(\alpha)$ の形であること(Hilbert の定理 90)は同節 Exercise 23(p. 583)にある。この記事の定理は、引用した記事の定理を除いて記事の中で証明した。

関連項目

参考文献

[1]
David S. Dummit and Richard M. Foote, Abstract Algebra, 3rd ed., John Wiley & Sons, 2004, §13.2 例「Quadratic Extensions over Fields of Characteristic ≠ 2」(p. 522)・Exercise 8(p. 530)、§14.2 Exercises 15・23(pp. 582–583)

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