モチーフ的安定ホモトピー圏(motivic stable homotopy category)とは、基礎スキーム $S$ 上の滑らかなスキームの基点付き $\mathbb{A}^1$ ホモトピー圏を、射影直線 $(\mathbb{P}^1,\infty)$ とのスマッシュ積が可逆になるように安定化した圏 $\mathrm{SH}(S)$ であり、対象はモチーフ的スペクトルである。$\mathbb{P}^1$ は単体的な円周と乗法群のスマッシュ積にあたるので、球面とコホモロジー論は二重の添字 $(p,q)$ をもち、モチーフ的コホモロジーや代数的 K 理論がこの圏の対象で表される。$\mathbb{P}^1$ の 3 つのスマッシュ積の巡回置換は、基本行列による線形なホモトピーを通して $\mathbb{A}^1$ ホモトピー圏で恒等射に等しく、この性質が対称モノイダル構造を支える。
前提知識: A¹ホモトピー論, スペクトル(ホモトピー論), スマッシュ積, 射影直線, 交代群
基礎スキーム $S$ 上のモチーフ的安定ホモトピー圏(motivic stable homotopy category)$\mathrm{SH}(S)$ は、$S$ 上の滑らかなスキームの基点付き $\mathbb A^1$ ホモトピー圏を、射影直線 $(\mathbb P^1,\infty)$ とのスマッシュ積が可逆になるように安定化した圏である。位相空間の安定ホモトピー圏が球面 $S^1$ による懸垂を可逆にして得られるのと同じように作られるが、代数幾何には単体的な円周 $S^1_s$ と乗法群 $\mathbb G_m$ という二種類の「円周」があり、$\mathbb P^1$ はその両方のスマッシュ積にあたる。このため $\mathrm{SH}(S)$ の球面とコホモロジー論は二つの添字 $(p,q)$ をもち、モチーフ的コホモロジーや代数的 K 理論はこの圏の対象で表される。
安定化した圏がスマッシュ積をもつ対称モノイダル圏になるためには、$\mathbb P^1$ の 3 つのスマッシュ積の巡回置換がホモトピー圏で恒等射になることが鍵になる。主定理(thm-mot-permutation)はこれを、$\mathbb P^1$ と同型な $T=\mathbb A^1/(\mathbb A^1-\{0\})$ の $n$ 個のスマッシュ積への線形な作用を使って証明する。偶置換は恒等射と $\mathbb A^1$ ホモトピックであり、奇置換は一つの因子の符号反転 $x\mapsto-x$ と $\mathbb A^1$ ホモトピックである。安定化の構成、対称モノイダル構造の存在、表現対象は所在を示して述べる。
以下、$S$ を有限 Krull 次元の Noether スキーム、$\mathrm{Sm}/S$ を $S$ 上滑らかな有限型スキームの圏とし、空間とは $\mathrm{Sm}/S$ 上の単体的 Nisnevich 層をいう。集合値の層は各段が同じ単体的層とみなす。基点付きの空間の $\mathbb A^1$ ホモトピー圏を $\mathcal H_\bullet(S)$ と書く(A¹ホモトピー論 の圏 $\mathcal H(S)$ の基点付き版。MV99 §3、p. 109)。基点付き空間 $K,L$ のスマッシュ積 $K\wedge L$ は $K\times L$ を $K\vee L$ でつぶした層であり、$K_+$ は $K$ に基点を非交和で付け加えたものである。
層 $X$ とその部分層 $U$ について、$X/U$ は押し出し $*\leftarrow U\to X$ の層、すなわち $U$ を一点につぶした基点付きの層を表す。次の三つの空間を使う(MV99 §3、pp. 110–111)。
基点付き空間 $T'$ を一つ固定する。$T'$ スペクトル $E$ とは、基点付き空間の列 $E_i$($i\ge0$)と基点付きの射 $e_i\colon T'\wedge E_i\to E_{i+1}$ の組である。射 $E\to F$ は、$e_i$ と可換な基点付きの射 $E_i\to F_i$ の列である。$T'=(\mathbb P^1,\infty)$ のものをモチーフ的スペクトルという。
$T'$ スペクトルの間には、ホモトピー類の余極限を比べる安定弱同値が定まり、安定弱同値を逆にした圏を $\mathcal H_\bullet(S)[\![T'^{-1}]\!]$ と書く(Voe98 §5 Definition 5.1、p. 592)。基点付き空間 $X$ の懸垂スペクトル $\Sigma^\infty_{T'}X$ は $(\Sigma^\infty_{T'}X)_i:=T'^{\wedge i}\wedge X$、$e_i=\mathrm{id}$ で定める。有限型の空間 $X$ と $T'$ スペクトル $E$ について
$$
\operatorname{Hom}_{\mathcal H_\bullet(S)[\![T'^{-1}]\!]}\bigl(\Sigma^\infty_{T'}X,E\bigr)\cong\operatorname*{colim}_n\operatorname{Hom}_{\mathcal H_\bullet(S)}\bigl(T'^{\wedge n}\wedge X,E_n\bigr)
$$
が成り立ち(同 Theorem 5.2、p. 593)、懸垂スペクトルの間の射は「$T'$ による懸垂を十分に施したあとの射」である。
$$
\mathrm{SH}(S):=\mathcal H_\bullet(S)\bigl[\bigl[(\mathbb P^1,\infty)^{-1}\bigr]\bigr]
$$
を $S$ 上のモチーフ的安定ホモトピー圏(安定 $\mathbb A^1$ ホモトピー圏)という(Voe98 Definition 5.7、p. 594)。$\Sigma^\infty:=\Sigma^\infty_{(\mathbb P^1,\infty)}$ と書く。
$\mathrm{SH}(S)$ は加法的な三角圏で(同 Proposition 5.4(p. 593)。$(\mathbb P^1,\infty)$ が $S^1_s\wedge S^1_t$ の模型であることは Definition 5.7 の直前の説明による)、スマッシュ積による対称モノイダル構造をもち、$\Sigma^\infty X\wedge\Sigma^\infty Y\cong\Sigma^\infty(X\wedge Y)$ となる(同 Theorem 5.6、pp. 593–594)。この記事ではこれらを証明しない。Theorem 5.6 の仮定は「$T'$ の 3 つのスマッシュ積の巡回置換が $\mathcal H_\bullet(S)[T'^{-1}]$ で恒等射に等しい」ことであり、$T'=(\mathbb P^1,\infty)$ についてこの仮定を確かめるのが次節の主定理である。$\mathrm{SH}(S)$ では $\Sigma^\infty(S^1_s)$ と $\Sigma^\infty(S^1_t)$ がともに可逆になり、すべての整数 $n$ について $S^n_s$、$S^n_t$ が、したがってすべての整数 $p,q$ について球面 $S^{p,q}:=S^{p-q}_s\wedge S^q_t$ が定まる(同 (16)、p. 595)。対象 $E$ は二重次数のコホモロジー論
$$
E^{p,q}(X):=\operatorname{Hom}_{\mathrm{SH}(S)}\bigl(\Sigma^\infty X,\ S^{p,q}\wedge E\bigr)
$$
を定める(同 §6、p. 595)。$S^{2,1}\cong\Sigma^\infty(\mathbb P^1,\infty)$ による懸垂は $(p,q)$ を $(2,1)$ だけずらす。
集合値の層 $X,Y$ とその部分層 $U\subset X$、$V\subset Y$ について、$U\times Y\cup X\times V$ は $X\times Y$ の二つの部分層の合併($U\times Y\sqcup X\times V\to X\times Y$ の像)を表す。$X/\emptyset=X_+$ である。
基点付きの層の同型
$$
(X/U)\wedge(Y/V)\cong(X\times Y)/(U\times Y\cup X\times V)
$$
があり、$X\times Y$ からの商写像と両立する。とくに $V=\emptyset$ なら $(X/U)\wedge Y_+\cong(X\times Y)/(U\times Y)$ である。
集合 $A\supset B$、$C\supset D$ については、$A/B$ は $A\setminus B$ に基点を加えた集合なので、左辺は $(A\setminus B)\times(C\setminus D)$ に基点を加えた集合である。右辺は $A\times C$ から $B\times C\cup A\times D$ を除いた集合、すなわち同じ $(A\setminus B)\times(C\setminus D)$ に基点を加えた集合であり、どちらも $A\times C$ からの商写像と両立する。前層については切断ごとにこれを当てればよい。層の商・スマッシュ積・部分層の合併は、前層での同じ構成を層化したものであり、層化は有限極限と有限余極限を保つ(Stacks00WJ Lemma 7.10.15)ので、前層での同型が層の同型を与える。$\square$
$\mathbb A^n_S$ の座標を $x_1,\ldots,x_n$ とし、零切断の補集合 $\mathbb A^n-\{0\}=\bigcup_iD(x_i)$ が表す層も同じ記号で書く。$Y\in\mathrm{Sm}/S$ と $v\in\mathbb A^n(Y)=\Gamma(Y,\mathcal O_Y)^n$ について、$v$ が $\mathbb A^n-\{0\}$ を経由することは、$Y$ の各点 $y$ で剰余体の値 $v(y)\in\kappa(y)^n$ が $0$ でないことと同値である。
$n\ge1$ について $T^{\wedge n}\cong\mathbb A^n/(\mathbb A^n-\{0\})$ であり、$\sigma\in\mathfrak S_n$ が因子を並べ替える自己同型 $(t_1,\ldots,t_n)\mapsto(t_{\sigma^{-1}(1)},\ldots,t_{\sigma^{-1}(n)})$ は、この同型のもとで置換行列 $P_\sigma$($P_\sigma e_i=e_{\sigma(i)}$)による座標の並べ替えが誘導する自己同型に対応する。
$n$ についての帰納法による。lem-mot-smash-quotient により
$$
T^{\wedge n}\wedge T\cong\mathbb A^{n+1}/\bigl((\mathbb A^n-\{0\})\times\mathbb A^1\cup\mathbb A^n\times(\mathbb A^1-\{0\})\bigr)
$$
である。$Y$ 上の点 $v=(v',v_{n+1})$ が右辺の合併に入るのは、Nisnevich 局所的に $v'(y)\ne0$ または $v_{n+1}(y)\ne0$ となるとき、すなわち各点で $v(y)\ne0$ のときであり(開被覆は Nisnevich 被覆で、Nisnevich 被覆は全射)、これは $v$ が $\mathbb A^{n+1}-\{0\}$ を経由することと同値である。因子の並べ替えは $\mathbb A^n$ の座標の並べ替えに対応する。$\square$
$M\in\mathrm{GL}_n(\mathbb Z)$ は $S$ 上の射 $\mathbb A^n\to\mathbb A^n$、$v\mapsto Mv$ を定める。$M$ は各剰余体の上で可逆なので $v(y)\ne0$ と $Mv(y)\ne0$ は同値であり、$M$ は $\mathbb A^n-\{0\}$ を保つ。よって $M$ は基点付きの自己同型 $M_*\colon T^{\wedge n}\to T^{\wedge n}$ を誘導する。$\varepsilon\colon T\to T$ を $x\mapsto-x$($n=1$、$M=(-1)$)が誘導する自己同型とする。
基点付きの層の射 $\varphi_0,\varphi_1\colon K\to L$ の間の基点付き初等 $\mathbb A^1$ ホモトピーとは、射 $H\colon K\wedge(\mathbb A^1)_+\to L$ で、$i_0,i_1\colon K\to K\wedge(\mathbb A^1)_+$($t=0,1$ での切断が誘導する射)について $H\circ i_0=\varphi_0$、$H\circ i_1=\varphi_1$ となるものをいう。初等 $\mathbb A^1$ ホモトピーが生成する同値関係を $\simeq$ と書き、$\varphi_0\simeq\varphi_1$ のとき$\mathbb A^1$ ホモトピックという。
$\varphi\simeq\varphi'$ なら任意の $\psi$ について $\psi\circ\varphi\simeq\psi\circ\varphi'$ と $\varphi\circ\psi\simeq\varphi'\circ\psi$ が成り立つ(初等ホモトピー $H$ に $\psi\circ H$、$H\circ(\psi\wedge\mathrm{id})$ を対応させる)。
$\mathbb A^1$ ホモトピックな基点付きの射は、$\mathcal H_\bullet(S)$ で等しい。
初等ホモトピーの場合に示せばよい。射影 $\mathbb A^1_S\to S$ が誘導する $\pi\colon K\wedge(\mathbb A^1)_+\to K\wedge S_+=K$ を考える。$\mathbb A^1_S\to S$ は $\mathbb A^1$ 弱同値であり(A¹ホモトピー論 の命題「射影は $\mathbb{A}^1$弱同値」で $X=S$ とする)、基点を加える関手は $\mathbb A^1$ 弱同値を保ち(MV99 §3、p. 109)、$K$ とのスマッシュ積も $\mathbb A^1$ 弱同値を保つ(同 Lemma 2.13、p. 110)。よって $\pi$ は $\mathcal H_\bullet(S)$ で同型である。$\pi\circ i_0=\pi\circ i_1=\mathrm{id}_K$ なので $\mathcal H_\bullet(S)$ で $i_0=\pi^{-1}=i_1$ となり、$\varphi_0=H\circ i_0=H\circ i_1=\varphi_1$ である。$\square$
$S$ 上の射 $H\colon\mathbb A^n\times\mathbb A^1\to\mathbb A^n$ が $(\mathbb A^n-\{0\})\times\mathbb A^1$ を $\mathbb A^n-\{0\}$ の中へ写すなら、$H_0:=H(-,0)$ と $H_1:=H(-,1)$ が $T^{\wedge n}$ に誘導する基点付きの射は $\mathbb A^1$ ホモトピックである。
仮定により $H$ は商 $(\mathbb A^n\times\mathbb A^1)/((\mathbb A^n-\{0\})\times\mathbb A^1)\to\mathbb A^n/(\mathbb A^n-\{0\})$ を誘導する。lem-mot-smash-quotient($V=\emptyset$)と cor-mot-tn により左辺は $T^{\wedge n}\wedge(\mathbb A^1)_+$ であり、これが $H_0$ と $H_1$ の間の初等ホモトピーである。$\square$
$i\ne j$、$a\in\mathbb Z$ について、$(i,j)$ 成分が $a$ で他は単位行列と同じ行列を基本行列 $E_{ij}(a)$ という(基本行列)。基本行列の有限個の積の全体を $\mathrm{E}_n(\mathbb Z)$ と書く。
$n\ge1$ とする。
1. $M=E_{ij}(a)$ のとき、$H(v,t):=E_{ij}(ta)v=v+ta\,v_je_i$ は多項式で与えられる $S$ 上の射 $\mathbb A^n\times\mathbb A^1\to\mathbb A^n$ である。各点で $E_{ij}(ta)$ は逆行列 $E_{ij}(-ta)$ をもつので、$v(y)\ne0$ なら $H(v,t)(y)\ne0$ であり、$H$ は $(\mathbb A^n-\{0\})\times\mathbb A^1$ を $\mathbb A^n-\{0\}$ へ写す。$H_0=\mathrm{id}$、$H_1=E_{ij}(a)$ なので、lem-mot-linear-homotopy により $E_{ij}(a)_*\simeq\mathrm{id}$ である。$M=M'M''$ で $M'_*\simeq\mathrm{id}$、$M''_*\simeq\mathrm{id}$ なら、上の注意により $M_*=M'_*M''_*\simeq M''_*\simeq\mathrm{id}$ となる。基本行列の個数についての帰納法で 1 が従う。
2. $i\ne j$ について $R_{ij}:=E_{ij}(-1)E_{ji}(1)E_{ij}(-1)$ とおく。$e_i,e_j$ の張る平面で計算すると
$$
\begin{pmatrix}1&-1\\0&1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1&0\\1&1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1&-1\\0&1\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}0&-1\\1&0\end{pmatrix}
$$
なので、$R_{ij}$ は $e_i\mapsto e_j$、$e_j\mapsto-e_i$ で他の基底を動かさない。相異なる $i,j,k$ について $R_{ij}R_{jk}$ は $e_i\mapsto R_{ij}e_i=e_j$、$e_j\mapsto R_{ij}e_k=e_k$、$e_k\mapsto R_{ij}(-e_j)=e_i$ と写すので、3 サイクル $(i\ j\ k)$ の置換行列に等しい。$n\ge3$ なら偶置換は 3 サイクルの積なので(交代群 の定理「3 サイクルによる生成」)、$P_\sigma\in\mathrm E_n(\mathbb Z)$ となり、cor-mot-tn と 1 により $\sigma_*\simeq\mathrm{id}$ である。$n\le2$ の偶置換は恒等置換だけである。巡回置換は 3 サイクルなので、lem-mot-homotopic-equal により最後の主張が従う。
3. $D_k$ を第 $k$ 座標だけを $-1$ 倍する対角行列とする。$R_{12}D_2$ は $e_1\mapsto e_2$、$e_2\mapsto R_{12}(-e_2)=e_1$ と写すので $P_{(1\,2)}=R_{12}D_2$ である。また $R_{12}^2=D_1D_2$ なので $D_1=R_{12}^2D_2$ である。$\sigma$ が奇置換なら $\sigma\circ(1\ 2)$ は偶置換で、$P_\sigma=P_{\sigma\circ(1\,2)}P_{(1\,2)}^{-1}=P_{\sigma\circ(1\,2)}P_{(1\,2)}$ だから
$$
P_\sigma=P_{\sigma\circ(1\,2)}R_{12}D_2=\bigl(P_{\sigma\circ(1\,2)}R_{12}R_{12}^{-2}\bigr)D_1=\bigl(P_{\sigma\circ(1\,2)}R_{12}^{-1}\bigr)D_1
$$
である。$R_{12}^{-1}=E_{12}(1)E_{21}(-1)E_{12}(1)\in\mathrm E_n(\mathbb Z)$ であり、2 の証明より $P_{\sigma\circ(1\,2)}\in\mathrm E_n(\mathbb Z)$ なので、括弧の中は $\mathrm E_n(\mathbb Z)$ に属する($n=2$ では $\sigma\circ(1\ 2)$ は恒等置換)。1 と上の注意により $\sigma_*\simeq(D_1)_*$ であり、$(D_1)_*=\varepsilon\wedge\mathrm{id}_{T^{\wedge(n-1)}}$ である。最後の主張は lem-mot-homotopic-equal による。$\square$
$T\cong(\mathbb P^1,\infty)$ なので、2 は $(\mathbb P^1,\infty)$ の 3 つのスマッシュ積の巡回置換が $\mathcal H_\bullet(S)$ で、したがって $\mathcal H_\bullet(S)[(\mathbb P^1,\infty)^{-1}]$ でも恒等射に等しいことを示す。これが Voe98 Theorem 5.6 の仮定であり、$\mathrm{SH}(S)$ の対称モノイダル構造はこの性質に支えられている。Voe98 Lemma 4.4(p. 588)は同じ性質を $(S^1_s\wedge S^1_t)^{\wedge3}$ について述べている。位相空間の球面では $S^1\wedge S^1\cong S^2$ の入れ替えは鏡映で、写像度は $-1$ である(Hat02 §2.2 の写像度の性質 (e)、p. 134)。3 は、この符号の役割を $T$ では $\varepsilon$ が担うことを示している。
この節の主張はこの記事では証明しない。
$S=\operatorname{Spec}\mathbb C$ とする。$\mathbb A^1_{\mathbb C}$ は $\mathcal H(\mathbb C)$ で一点と同型だが、$\mathbb P^1_{\mathbb C}$ はそうでない。実際、同型なら複素実現 $t_{\mathbb C}$ により $\mathbb P^1(\mathbb C)\cong S^2$ と一点がホモトピー同値になるが、$H_2(S^2;\mathbb Z)\cong\mathbb Z\ne0$ である。基点付きの同型は基点を忘れても同型なので、$(\mathbb P^1,\infty)\cong T$ も $\mathcal H_\bullet(\mathbb C)$ で一点と同型でない。安定化は、この自明でない対象とのスマッシュ積を可逆にする操作である。
この記事の補題と主定理の言い方の条件を外す。2 行目は、主定理の 2 を単体的円周 $S^1_s$ のスマッシュ積に移した類似の主張(偶置換は恒等射に等しい)について、偶置換の条件を外したものである。$T\wedge T$ の入れ替えそのものについては、主定理の 3 が $\varepsilon\wedge\mathrm{id}_T$ との一致を与える。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $H$ が $(\mathbb A^n-\{0\})\times\mathbb A^1$ を $\mathbb A^n-\{0\}$ へ写す | $2$ が可逆な $S$ 上の $\mathbb A^2$ の線分 $H(v,t)=((1-t)I+tP_{(1\,2)})v$ | $H$ が $T\wedge T$ 上の初等 $\mathbb A^1$ ホモトピーを誘導すること(lem-mot-linear-homotopy) |
| 置換が偶置換 | $S=\operatorname{Spec}\mathbb C$ での $S^1_s\wedge S^1_s$ の入れ替え | 置換が $\mathcal H_\bullet(S)$ で恒等射に等しいこと(thm-mot-permutation の 2 の単体的円周版) |
1 行目:$t=1/2$ では $H(v,1/2)=\tfrac12(v_1+v_2,\ v_1+v_2)$ であり、$v=(1,-1)$ は $\mathbb A^2-\{0\}$ の点だが $0$ に写る。よって $H$ は $(\mathbb A^2-\{0\})\times\mathbb A^1$ を $\mathbb A^2-\{0\}$ へ写さず、商 $T\wedge T\wedge(\mathbb A^1)_+$ からの射を誘導しない。$H_0=\mathrm{id}$、$H_1=P_{(1\,2)}$ なので、この線分から入れ替えと恒等射のホモトピーを得ることはできない(この線分を使わず、thm-mot-permutation の 3 のように基本行列で結ぶ必要がある)。
2 行目:$S^1_s\wedge S^1_s$ は単体的集合 $S^1\wedge S^1$ の定数層で、各段は $\operatorname{Spec}\mathbb C$ の有限個の非交和である。複素実現はこれを単体的集合 $S^1\wedge S^1$ の幾何学的実現 $S^2$ に、入れ替えを $S^2$ の鏡映に送る。鏡映の写像度は $-1$ なので恒等写像とホモトピックでない(Hat02 §2.2 の性質 (c)・(e)、p. 134)。$t_{\mathbb C}$ は関手なので、入れ替えは $\mathcal H(\mathbb C)$ で、したがって $\mathcal H_\bullet(\mathbb C)$ でも恒等射に等しくない。$T\wedge T$ の入れ替えについては、thm-mot-permutation の 3 が $\varepsilon\wedge\mathrm{id}_T$ との一致を与える。
表の 1 行目で $2$ の可逆性を仮定したのは、$\det((1-t)I+tP_{(1\,2)})=(1-t)^2-t^2=1-2t$ が、$2=0$ となる基礎の上では定数 $1$ になり、線分が $\mathbb A^2-\{0\}$ を保ってしまうからである。
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