玉河数(Tamagawa number)とは、数論の 2 つの量の名前である。1 つは局所体上のアーベル多様体の局所玉河数 $c_v$ で、Néron モデルの成分群の有理点の個数であり、楕円曲線では非特異点に還元する点の部分群 $E_0(K)$ の指数 $[E(K):E_0(K)]$ に等しい。もう 1 つは大域体上の線型代数群 $G$ の玉河数 $\tau(G)$ で、アデール群の玉河測度による $G(K)\backslash G(\mathbb{A}_K)$ の体積であり、$\tau(\mathbb{G}_a)=1$、$\tau(\mathrm{SO}_q)=2$($q$ が 2 変数以上の正定値形式のとき、Siegel の質量公式)、連結・単連結な半単純群では $1$ と予想される(Weil の予想)。前者は Birch–Swinnerton-Dyer 予想の主要項に現れる。
玉河数(Tamagawa number)という名前は、数論の 2 つの場面で使われる。1 つは、局所体上の楕円曲線やアーベル多様体の 局所玉河数 $c_v$ で、Néronモデル の特殊ファイバーの連結成分の群(成分群)の有理点の個数である。楕円曲線では、非特異点に還元する点の部分群 $E_0(K)$ の指数 $[E(K):E_0(K)]$ に等しく、Birch–Swinnerton-Dyer予想 の主要項の公式に $\prod_pc_p$ として現れる。もう 1 つは、大域体上の線型代数群 $G$ の 玉河数 $\tau(G)$ で、アデール群 $G(\mathbb{A})$ の標準的な測度(玉河測度)による $G(K)\backslash G(\mathbb{A})$ の体積である。玉河恒夫が標準的な測度の存在に気づき、Weil が二次形式の Siegel の質量公式をこの言葉で書き直した(GL18 p. 24、p. 31)。
2 つは別の量だが、どちらも「微分形式の定める測度で測った体積」という同じ考え方から来ている。この記事では、局所玉河数を定義し、楕円曲線について有限性と局所体積の公式を証明する。次に代数群の玉河数を定義し、$\mathbb{Q}$ 上の加法群の玉河数が $1$ であること、乗法群には玉河測度が存在しないことを証明する。
以下この節では、$K$ を非アルキメデス的局所体(完備な離散付値環 $R$ の分数体で、剰余体 $k$ が $q$ 個の元からなる有限体のもの)、$v$ を正規付値、$\pi$ を一意化元とする。$K$ 上のアーベル多様体 $A$ の $R$ 上の Néron モデルを $\mathcal{A}$、特殊ファイバー $\mathcal{A}_k$ の単位成分を $\mathcal{A}_k^0$ とし、成分群を $\Phi=\mathcal{A}_k/\mathcal{A}_k^0$ と書く($k$ 上の有限エタール群スキーム。Néronモデル の定義の後の段落)。
$A$ の局所玉河数(local Tamagawa number)を、成分群の $k$ 有理点の個数
$$
c(A/K):=\#\Phi(k)
$$
と定める。$F$ が大域体、$A$ が $F$ 上のアーベル多様体、$v$ が $F$ の有限素点のとき、完備化 $F_v$ の上の $c_v(A):=c(A\otimes_FF_v/F_v)$ を $v$ での局所玉河数という。Tamagawa 因子とも呼ばれる。
楕円曲線 $E$ では、$R$ 上の極小 Weierstrass 方程式(半安定還元 の定義「極小Weierstrass方程式と還元の型」)を法 $\pi$ で還元した曲線を $\tilde E$、その非特異点の集合を $\tilde E_{\mathrm{ns}}(k)$、$\tilde E_{\mathrm{ns}}(k)$ に還元する点のなす $E(K)$ の部分群を $E_0(K)$ とする。$R$ は完備なので Hensel 局所環であり、$k$ は有限体なので、Néronモデル の定理「極小正則モデルと極小Weierstrassモデルとの関係」の 3 により
$$
c(E/K)=[E(K):E_0(K)]
$$
である(この同一視はこの記事では証明しない)。以下、楕円曲線についてはこの右辺を使う。
$A$ が $R$ 上良い還元をもつならば $c(A/K)=1$ である。したがって、大域体 $F$ 上のアーベル多様体について、$c_v(A)\ne1$ となる素点 $v$ は有限個であり、積 $\prod_vc_v(A)$ は有限の積である。
局所玉河数が有限であることは成分群が有限であることから従うが、楕円曲線では Néron モデルを使わずにコンパクト性だけで示せる。
$K$ 上の楕円曲線 $E$ について、$E_0(K)$ は $E(K)$ の指数有限の開部分群である。
$K$ には $v$ による位相を入れ、$\mathbb{P}^2(K)$ には各標準アフィン開集合 $\{X_i\ne0\}\cong K^2$ の位相から定まる位相を入れる。
段 1($E(K)$ はコンパクト)。 $R$ はコンパクトである(完備で、$R/\pi^nR$ がすべて有限なので、$R=\varprojlim R/\pi^nR$ は有限集合の射影極限)。$\mathbb{P}^2(K)$ の点は、成分がすべて $R$ に入り少なくとも 1 つが単元である座標 $(X_0:X_1:X_2)$(原始的な座標)で表せるので、$\mathbb{P}^2(K)$ はコンパクト集合 $\{(X_0,X_1,X_2)\in R^3: \text{どれかが } R^\times\}$ の連続写像による像であり、コンパクトである。$E(K)$ は斉次多項式の零点集合なので閉集合であり、コンパクトである。
段 2($E_0(K)$ は開集合)。 点の原始的な座標を法 $\pi$ で還元する写像 $\rho\colon\mathbb{P}^2(K)\to\mathbb{P}^2(k)$ は、原始的な座標を法 $\pi$ で変えない近い点で値が変わらないので、局所定数である。$E_0(K)=E(K)\cap\rho^{-1}(\tilde E_{\mathrm{ns}}(k))$ なので、$E_0(K)$ は $E(K)$ の開集合である。
段 3(剰余類への分割)。 $E_0(K)$ は部分群である(Sil09 Proposition VII.2.1、p. 188)。点 $P\in E(K)$ による平行移動 $Q\mapsto Q+P$ は代数多様体の射なので、アフィン開集合の上では座標の多項式(の比)で与えられ、$E(K)$ の同相写像である。したがって剰余類 $P+E_0(K)$ はすべて開集合であり、$E(K)$ はそれらの互いに交わらない和である。コンパクト集合の開被覆なので有限個で覆われ、剰余類は有限個である。$\square$
剰余類の個数は、還元の型で次のように決まる。
$E$ が分裂乗法的還元をもつならば、$E(K)/E_0(K)$ は位数 $v(\Delta)$ の巡回群である($\Delta$ は極小方程式の判別式)。それ以外の場合、$E(K)/E_0(K)$ の位数は $4$ 以下である。
剰余体が有限体でないと、$\#\Phi(k)$ と $[E(K):E_0(K)]$ は一致しないことがある。Néronモデル の例「反例:剰余体が実数体の非分裂乗法的還元」では、$K=\mathbb{R}((t))$ 上の $E\colon y^2=x^3-x^2-t^2$ について $E(K)=E_0(K)$ だが $\Phi(\mathbb{R})\cong\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ である。この例は $R=\mathbb{R}[\![t]\!]$ が完備という仮定は満たすが、剰余体 $\mathbb{R}$ が有限体でないので、$c(E/K)=[E(K):E_0(K)]$ という同一視が成り立たなくなる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 良い還元(prop-tamagawa-number-good) | $y^2+xy=x^3+p^n$、$n\ge2$(ex-tamagawa-number-examples) | $c_p=1$ |
| 剰余体が有限体 | $\mathbb{R}((t))$ 上の $y^2=x^3-x^2-t^2$(ex-tamagawa-number-nonfinite-residue) | $\#\Phi(k)=[E(K):E_0(K)]$ |
| $G$ の指標が自明 | $\mathbb{G}_m$(prop-tamagawa-number-gm) | 玉河測度が存在すること |
| $G$ が連結 | 交代群 $A_5$ を定数群とみたもの(完全群なので指標は自明。GL18 Example 1.2.4.6) | 玉河測度が存在すること |
| $G$ が単連結(conj-tamagawa-number-weil) | $n\ge3$ 変数の正定値 2 次形式 $q$ の $\mathrm{SO}_q$(thm-tamagawa-number-siegel) | $\tau(G)=1$($\tau(\mathrm{SO}_q)=2$) |
Birch–Swinnerton-Dyer 予想に局所玉河数が現れる理由は、楕円曲線の局所的な体積の計算にある。局所体 $K$ 上の滑らかな代数多様体 $X$ と最高次の微分形式 $\omega$ に対し、局所座標 $f_1,\dots,f_n$ で $\omega=g\,df_1\wedge\cdots\wedge df_n$ と書いて $|g|$ 倍した座標の測度を貼り合わせると、$X(K)$ 上の測度 $\mu_\omega$ が定まる(GL18 Construction 1.2.3.5、p. 22)。ここで $K$ の測度は $\mu(R)=1$ と正規化し、$|x|$ は $\mu(xU)=|x|\mu(U)$ で定める($|\pi|=q^{-1}$)。
$E$ を $K$ 上の楕円曲線、$y^2+a_1xy+a_3y=x^3+a_2x^2+a_4x+a_6$ を極小方程式、$\omega=dx/(2y+a_1x+a_3)$ を不変微分とする。このとき
$$
\mu_\omega\bigl(E(K)\bigr)=c(E/K)\cdot\frac{\#\tilde E_{\mathrm{ns}}(k)}{q}
$$
である。
$\mathfrak{m}=\pi R$ とし、$E_1(K)$ を $\tilde E$ の無限遠点に還元する点のなす部分群とする。
段 1($E_1(K)$ の体積)。 $z=-x/y$ とおくと、$z\mapsto(x(z),y(z))$ は $\mathfrak{m}$ から $E_1(K)$ への全単射で、逆写像は $(x,y)\mapsto-x/y$ である(Sil09 IV.1(p. 119)と Proposition VII.2.2(p. 191))。$x(z)$、$y(z)$ は $\mathfrak{m}$ 上で収束する Laurent 級数で与えられるので、この全単射は同相写像である。不変微分は
$$
\omega=\bigl(1+a_1z+(a_1^2+a_2)z^2+\cdots\bigr)\,dz
$$
と展開され、係数は $\mathbb{Z}[a_1,\dots,a_6]\subset R$ に属する(Sil09 IV.1、pp. 118–119)。$z\in\mathfrak{m}$ では括弧の中の値は $1+\mathfrak{m}$ に入るので絶対値は $1$ であり、$\mu_\omega$ は $E_1(K)$ 上で座標 $z$ の測度そのものである。よって $\mu_\omega(E_1(K))=\mu(\mathfrak{m})=q^{-1}$ である。
段 2(平行移動での不変性)。 点 $P$ による平行移動 $\tau_P$ は $E$ の同型で $\tau_P^*\omega=\omega$ を満たす(Sil09 Proposition III.5.1、p. 76)。$\mu_\omega$ は座標変換のもとで $\omega$ の変換と両立するように定義されているので、$\tau_P$ は $\mu_\omega$ を保つ。とくに $E_1(K)$ のどの剰余類の体積も $q^{-1}$ である。
段 3(指数の積)。 $E_0(K)/E_1(K)\cong\tilde E_{\mathrm{ns}}(k)$ である(Sil09 Proposition VII.2.1、p. 188)。したがって
$$
[E(K):E_1(K)]=[E(K):E_0(K)]\,[E_0(K):E_1(K)]=c(E/K)\cdot\#\tilde E_{\mathrm{ns}}(k)
$$
であり、$E(K)$ はこの個数の $E_1(K)$ の剰余類の互いに交わらない和なので、段 1・2 から主張が従う。$\square$
$E$ が良い還元をもてば $c=1$、$\tilde E_{\mathrm{ns}}=\tilde E$ なので、$\mu_\omega(E(K))=\#\tilde E(k)/q$ は剰余体上の点の個数だけで決まる。悪い還元の素点では、この「素朴な体積」$\#\tilde E_{\mathrm{ns}}(k)/q$ からのずれが $c$ である。$\mathbb{Q}$ 上の楕円曲線で $K=\mathbb{Q}_p$ が良い還元の素点なら、$N_p=\#\tilde E(\mathbb{F}_p)$、$a_p=p+1-N_p$ として $L$ 関数の $p$ 因子の $s=1$ での値の逆数は $1-a_pp^{-1}+p^{-1}=N_p/p$ であり、これがちょうど $\mu_\omega(E(\mathbb{Q}_p))$ に等しい。Birch–Swinnerton-Dyer予想 の強い形の主要項に、実周期 $\Omega$ と並んで悪い素点の $c_p$ が現れることは、局所体積のこの比較で説明できる。
この節では $K$ を大域体(代数体、または有限体上の曲線の関数体)、$M_K$ を素点全体、$K_v$ を完備化、$\mathbb{A}_K$ をアデール環とする。$K$ は $\mathbb{A}_K$ の離散部分環である。各 $K_v$ の加法的 Haar 測度を、$K_v=\mathbb{R}$ なら Lebesgue 測度、$K_v=\mathbb{C}$ なら Lebesgue 測度の $2$ 倍、非アルキメデス的なら整数環の体積が $1$ になるように正規化する(GL18 Notation 1.2.3.1、p. 21)。
$G$ を $K$ 上の $n$ 次元の線型代数群、$\omega$ を $K$ 上定義された $0$ でない左不変 $n$ 形式とする。空でない有限集合 $S\subset M_K$(アルキメデス的な素点をすべて含む)と $S$ 整数環 $\mathcal{O}_S$ 上の滑らかな群スキーム $\mathcal{G}$(生成ファイバーが $G$)をとる。無限積
$$
\prod_{v\notin S}\mu_{\omega,v}\bigl(\mathcal{G}(\mathcal{O}_v)\bigr)
$$
が $0$ でない実数に絶対収束するとき、$G$ は玉河測度をもつといい、各 $\mu_{\omega,v}$ の積として定まる $G(\mathbb{A}_K)$ 上の左不変測度を $\mu^{\mathrm{un}}$ と書く。$\mu^{\mathrm{un}}$ が $G(K)\backslash G(\mathbb{A}_K)$ に誘導する測度での全体積を $\tau^{\mathrm{un}}(G)$ とし、
$$
\tau(G):=\frac{\tau^{\mathrm{un}}(G)}{\tau^{\mathrm{un}}(\mathbb{G}_a)^n}
$$
を $G$ の玉河数(Tamagawa number)という。
この定義は GL18 Construction 1.2.4.2・Definition 1.2.4.12(pp. 24–27)による。$\mu^{\mathrm{un}}$ は $S$、$\mathcal{G}$、$\omega$ の取り方によらない。$\omega$ を $\lambda\omega$($\lambda\in K^\times$)に替えると各 $\mu_{\omega,v}$ は $|\lambda|_v$ 倍になるが、積公式 $\prod_v|\lambda|_v=1$ により全体は変わらない(同書 p. 25)。$\omega$ が $\mathcal{G}$ 上で至る所 $0$ にならない形式に延びるとき、$\mu_{\omega,v}(\mathcal{G}(\mathcal{O}_v))=\#\mathcal{G}(\kappa(v))/\#\kappa(v)^n$($\kappa(v)$ は剰余体)である(同書 Example 1.2.3.8、p. 23)。これは prop-tamagawa-number-volume の良い還元の場合と同じ形である。$K=\mathbb{Q}$ では $\tau^{\mathrm{un}}(\mathbb{G}_a)=1$(thm-tamagawa-number-ga)なので、$\tau(G)=\tau^{\mathrm{un}}(G)$ である。$\tau^{\mathrm{un}}(\mathbb{G}_a)^n$ で割って正規化した測度は、有限次拡大 $K/K_0$ による Weil制限 $\operatorname{Res}_{K/K_0}G$ と両立し、$\tau(G)$ は $G(\mathbb{A}_K)$ を $K_0$ 上の群のアデール点と見ても変わらない(GL18 Remark 1.2.4.15、p. 27)。
$K=\mathbb{Q}$、$G=\mathbb{G}_a$、$\omega=dx$ とする。$D:=[0,1)\times\prod_p\mathbb{Z}_p\subset\mathbb{A}_{\mathbb{Q}}$ は $\mathbb{Q}\backslash\mathbb{A}_{\mathbb{Q}}$ の基本領域である。すなわち、すべての $a\in\mathbb{A}_{\mathbb{Q}}$ はただ 1 通りに $a=r+d$($r\in\mathbb{Q}$、$d\in D$)と書ける。したがって
$$
\tau(\mathbb{G}_a)=\tau^{\mathrm{un}}(\mathbb{G}_a)=\mu^{\mathrm{un}}(D)=1
$$
である。
$\mathbb{G}_a$ の整モデルとして $\mathbb{Z}$ 上の加法群をとると、$\omega=dx$ は至る所 $0$ にならず、$\mu_{\omega,p}(\mathbb{Z}_p)=1$ なので無限積は $1$ に収束し、$\mu^{\mathrm{un}}$ は各成分の正規化された測度の積である。
存在。 $a=(a_\infty,(a_p)_p)$ とする。アデールの定義から、$a_p\notin\mathbb{Z}_p$ となる素数 $p$ の集合 $T$ は有限である。$p\in T$ について $a_p=\sum_{i\ge-m}c_ip^i$($c_i\in\{0,\dots,p-1\}$)と展開し、主要部 $r_p:=\sum_{i<0}c_ip^i\in\mathbb{Z}[1/p]$ をとると $a_p-r_p\in\mathbb{Z}_p$ である。$r':=\sum_{p\in T}r_p\in\mathbb{Q}$ とおく。素数 $\ell$ について、$p\ne\ell$ なら $r_p\in\mathbb{Z}[1/p]\subset\mathbb{Z}_\ell$ なので、$a_\ell-r'$ は($\ell\in T$ なら $a_\ell-r_\ell$、$\ell\notin T$ なら $a_\ell$ と)$\mathbb{Z}_\ell$ の元の差だけ異なり、$\mathbb{Z}_\ell$ に属する。次に $n:=\lfloor a_\infty-r'\rfloor\in\mathbb{Z}$ とおくと、$n$ はすべての $\mathbb{Z}_\ell$ に属するので、$r:=r'+n$ について $a-r\in D$ である。
一意性。 $r+d=r'+d'$($r,r'\in\mathbb{Q}$、$d,d'\in D$)なら、$s:=r-r'=d'-d$ はすべての素数 $\ell$ で $\mathbb{Z}_\ell$ に属するので $s\in\mathbb{Z}$ であり、実成分は $|s|<1$ を満たすので $s=0$ である。
体積。 $\mathbb{A}_{\mathbb{Q}}$ は互いに交わらない平行移動 $r+D$($r\in\mathbb{Q}$)の和であり、$\mathbb{Q}$ は離散なので、商 $\mathbb{Q}\backslash\mathbb{A}_{\mathbb{Q}}$ の誘導測度での全体積は $\mu^{\mathrm{un}}(D)=\operatorname{Leb}([0,1))\cdot\prod_p\mu_p(\mathbb{Z}_p)=1$ である。$\square$
一般の代数体 $K$ では $\tau^{\mathrm{un}}(\mathbb{G}_a)=\sqrt{|\Delta_K|}$($\Delta_K$ は判別式)であり(GL18 Example 1.2.4.10、p. 26)、$\tau(\mathbb{G}_a)=1$ は定義の正規化によって成り立つ。$\mathbb{F}_q$ 上の種数 $g$ の曲線の関数体では $\tau^{\mathrm{un}}(\mathbb{G}_a)=q^{g-1}$ である(同書 Example 1.2.4.11、pp. 26–27)。いずれもこの記事では証明しない。
$K=\mathbb{Q}$、$G=\mathbb{G}_m$、$\omega=dx/x$ とする。$\mathbb{Z}$ 上の乗法群を整モデルにとると、$\mu_{\omega,p}(\mathbb{Z}_p^\times)=1-p^{-1}$ であり、$\prod_p(1-p^{-1})$ は $0$ に発散する。したがって $\mathbb{G}_m$ は玉河測度をもたない。
$\mathbb{Z}_p^\times$ 上では $|1/x|_p=1$ なので $\mu_{\omega,p}(\mathbb{Z}_p^\times)=\mu_p(\mathbb{Z}_p\setminus p\mathbb{Z}_p)=1-p^{-1}$ である。素数 $p\le N$ について $(1-p^{-1})^{-1}=\sum_{k\ge0}p^{-k}$ を掛け合わせると、素因数分解の一意性により、展開には $N$ 以下のすべての正の整数 $m$ の $1/m$ が現れるので
$$
\prod_{p\le N}(1-p^{-1})^{-1}\ \ge\ \sum_{m=1}^N\frac1m\ \longrightarrow\ \infty\quad(N\to\infty)
$$
である。よって部分積 $\prod_{p\le N}(1-p^{-1})$ は $0$ に収束し、有限個の因子を除いても同じなので、どの $S$ についても無限積は $0$ でない実数に収束しない。$\square$
有限群 $G$($0$ 次元の代数群)でも、各因子が $\#G$ になるので $\#G\ge2$ なら無限積は発散する(GL18 Example 1.2.4.6、p. 26)。一般に、線型代数群 $G$ が玉河測度をもつことは、$G$ が連結で $G$ から $\mathbb{G}_m$ への指標が自明であることと同値である(同書 Remark 1.2.4.7、p. 26。この記事では証明しない)。とくに連結な半単純群は玉河測度をもつ。玉河数 $\tau(G)$ が有限であることも知られている(同書 Warning 1.2.4.16(pp. 27–28)が挙げる文献による。この記事では証明しない)。乗法群のように指標をもつ群では、局所因子に収束因子を掛けて定義を修正する方法がある(同書 Remark 1.2.4.8)。
$q$ を $n\ge2$ 変数の正定値な整係数 2 次形式とすると、$\tau(\mathrm{SO}_q)=2$ である。$n\ge3$ のとき、$\mathrm{SO}_q$ の普遍被覆 $\mathrm{Spin}_q$ について $\tau(\mathrm{Spin}_q)=1$ である。
GL18 Theorem 1.2.5.3(p. 29)と Theorem 1.2.6.1(p. 31)による(この記事では証明しない)。前者は $q$ と同じ種に属する 2 次形式の類 $q'$ についての和 $\sum_{q'}1/\#\mathrm{O}_{q'}(\mathbb{Z})$ を局所因子の積で表す Smith–Minkowski–Siegel の質量公式の書き直しで(同書 Proposition 1.2.5.1、p. 28)、Weil が玉河数の言葉で証明し直した。$\tau(\mathrm{SO}_q)=2$ の「$2$」は、$\mathrm{SO}_q$ が単連結でないことによる(同書 p. 30)。
$K$ を大域体、$G$ を $K$ 上の連結・半単純・単連結な代数群とすると、$\tau(G)=1$ である。
GL18 Conjecture 1.2.6.4(p. 31)による定式化である。同書 p. 31 によれば、代数体の場合は Langlands(分裂群)、Lai(準分裂群)の結果を経て Kottwitz が一般に証明した(Hasse 原理の仮定のもとで。この仮定は現在では成り立つことが知られている)。関数体の場合は、Gaitsgory–Lurie が GL18 で、曲線上の主 $G$ 束のモジュライ $\mathrm{Bun}_G(X)$ のコホモロジーについての積公式(同書 Theorem 4.1.2.1)を定式化し、それから予想が従うことを示している。その積公式の証明は同書では与えられず、続編に回されている(同書 p. 8、Warning 1.6.0.1、pp. 69–70)。名前に「予想」が残っているが、代数体の場合は定理である。
| 局所玉河数 $c_v$ | 代数群の玉河数 $\tau(G)$ | |
|---|---|---|
| 対象 | 局所体上のアーベル多様体(楕円曲線) | 大域体上の線型代数群 |
| 定義 | Néron モデルの成分群の有理点の個数 | $G(K)\backslash G(\mathbb{A}_K)$ の玉河測度での体積 |
| 微分形式との関係 | $\mu_\omega(E(K))=c\cdot\#\tilde E_{\mathrm{ns}}(k)/q$ | 局所因子 $\mu_{\omega,v}(\mathcal{G}(\mathcal{O}_v))=\#\mathcal{G}(\kappa(v))/\#\kappa(v)^n$ の積 |
| 代表的な値 | 良い還元で $1$、分裂乗法的還元で $v(\Delta)$ | $\tau(\mathbb{G}_a)=1$、$\tau(\mathrm{SO}_q)=2$、単連結半単純群で $1$(Weil の予想。代数体では定理) |
| 現れる場所 | Birch–Swinnerton-Dyer予想 の主要項 | Siegel の質量公式 |
Tate は、Birch と Swinnerton-Dyer の予想が、Siegel が 2 次形式の算術に用い、玉河・Kneser・Weil らが線型代数群に適用した方法を楕円曲線に当てはめようとする試みから生まれたと述べている(Tat66 §1、p. 415)。
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