Hirzebruch曲面

同義語:Hirzebruch surface

概要

Hirzebruch曲面(Hirzebruch surface)とは、射影直線 $\mathbb{P}^1$ 上の局所自由層 $\mathcal{O}\oplus\mathcal{O}(-m)$($m\ge0$)の射影束 $\mathbb{F}_m$ である。$\mathbb{F}_0=\mathbb{P}^1\times\mathbb{P}^1$、$\mathbb{F}_1$ は $\mathbb{P}^2$ の 1 点の爆発で、$m>0$ では自己交点数が負の既約曲線が自己交点数 $-m$ の 1 本だけなので、曲面としての同型類は $m$ で決まる。複素数体上では、微分同相型とホモトピー型は $m$ の偶奇で決まり、交叉形式の偶奇がそれを見分ける。一方ホモトピー群は $m$ によらず $\pi_k(S^2)\oplus\pi_k(S^2)$ で、ホモトピー群では区別できない例になる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 射影束, 線織曲面, ホモトピー群, Chern類

Hirzebruch 曲面(Hirzebruch surface)は、射影直線 $\mathbb{P}^1$ 上の階数 $2$ の局所自由層 $\mathcal{O}\oplus\mathcal{O}(-m)$($m\ge0$)の射影束 $\mathbb{F}_m$ である。$\mathbb{P}^1$ の各点に射影直線が 1 本ずつ乗った曲面で、$\mathbb{F}_0=\mathbb{P}^1\times\mathbb{P}^1$、$\mathbb{F}_1$ は射影平面 $\mathbb{P}^2$ の 1 点の爆発である。線織曲面 の系「射影直線上の線織曲面」により、$\mathbb{P}^1$ 上の線織曲面はどれかの $\mathbb{F}_m$ と同型であり、Hirzebruch 曲面は有理曲面の分類の基本の例になる。名前は F. Hirzebruch にちなむ。
Hirzebruch 曲面は、どの「同じさ」で比べるかによって見え方が大きく変わる例でもある。曲面としての同型類は $m$ で決まり、すべて違う。ところが複素数体上で滑らかな多様体として見ると、$m$ の偶奇だけで決まり、$\mathbb{F}_m$ は $m$ が偶数なら $\mathbb{F}_0=S^2\times S^2$ と、奇数なら $\mathbb{F}_1$ と微分同相である。さらにホモトピー群は $m$ によらずすべて同じだが、$\mathbb{F}_0$ と $\mathbb{F}_1$ はホモトピー同値でない。この記事ではこれらを証明する。

定義

$k$ を代数閉体とする。射影束の規約は 射影束 と 線織曲面 に従う:局所自由層 $\mathcal{E}$ の射影束 $\mathbb{P}(\mathcal{E})$ の点は、ファイバーの 1 次元の商に対応する。

Hirzebruch 曲面

整数 $m\ge0$ について、$\mathbb{P}^1=\mathbb{P}^1_k$ 上の局所自由層 $\mathcal{E}_m:=\mathcal{O}\oplus\mathcal{O}(-m)$ の射影束
$$ \pi\colon\mathbb{F}_m:=\mathbb{P}(\mathcal{E}_m)\longrightarrow\mathbb{P}^1 $$
を第 $m$ Hirzebruch 曲面という。射影 $\mathcal{E}_m\to\mathcal{O}(-m)$ に対応する切断の像を $C_0$、$\pi$ のファイバーの類を $f$ と書く。

$\mathbb{F}_m$ は $k$ 上滑らかな射影曲面で、$\pi$ により $\mathbb{P}^1$ 上の線織曲面になる(射影束 の例「Hirzebruch 曲面の例」)。$\mathcal{E}_m$ は 線織曲面 の命題「正規化された局所自由層」の意味で正規化されていて、不変量は $e=m$ である(同記事の定理「不変量 $e$ の範囲」の 1)。したがって同記事の定理「線織曲面の交点形式と標準因子」($g=0$、$e=m$)から次が分かる。

Picard 群と交点数

$\operatorname{Pic}\mathbb{F}_m=\mathbb{Z}[C_0]\oplus\mathbb{Z}f$ であり、
$$ C_0^2=-m,\qquad C_0\cdot f=1,\qquad f^2=0,\qquad K_{\mathbb{F}_m}\equiv-2C_0-(m+2)f,\qquad K_{\mathbb{F}_m}^2=8 $$
である。

線織曲面 の定理「線織曲面の交点形式と標準因子」の 1〜3 に $g=0$、$e=m$ を代入する。1 の前半は $\operatorname{Pic}\mathbb{F}_m=\mathbb{Z}[C_0]\oplus\pi^*\operatorname{Pic}\mathbb{P}^1$ で、$\operatorname{Pic}\mathbb{P}^1\cong\mathbb{Z}$ は 1 点の類で生成され、その引き戻しはファイバーなので $\pi^*\operatorname{Pic}\mathbb{P}^1=\mathbb{Z}f$ である。$K^2=8(1-g)=8$ である。$\square$

座標で書くと次のようになる。

2 枚の座標による記述

$\mathbb{P}^1$ の斉次座標を $[u_0:u_1]$、$t:=u_1/u_0$、$s:=u_0/u_1$ とする。$\mathbb{F}_m$ は、$\mathbb{A}^1\times\mathbb{P}^1$ の 2 つの写し(座標 $(t,[y_0:y_1])$ と $(s,[y'_0:y'_1])$)を、$t\ne0$ の部分で
$$ s=\frac1t,\qquad[y'_0:y'_1]=[t^my_0:y_1] $$
により貼り合わせたものと同型である。$\pi$ は第 1 成分への射影であり、$C_0=\{y_0=0\}$ である。

$D_+(u_0)=\operatorname{Spec}k[t]$ の上で $\mathcal{O}(-m)$ は $u_0^{-m}$ を基底とする自由加群で、$D_+(u_1)$ の上では $u_1^{-m}$ を基底とする。共通部分では $u_0^{-m}=t^mu_1^{-m}$ である。$\mathcal{E}_m$ の基底を $D_+(u_0)$ の上で $(e_1,e_2)=(1,u_0^{-m})$、$D_+(u_1)$ の上で $(e_1,e'_2)=(1,u_1^{-m})$ とすると、$\mathbb{P}(\mathcal{E}_m)$ は $D_+(u_0)$ の上で $\operatorname{Proj}k[t][e_1,e_2]$、$D_+(u_1)$ の上で $\operatorname{Proj}k[s][e_1,e'_2]$ であり、斉次座標 $y_0:=e_1$、$y_1:=e_2$(と $y'_0:=e_1$、$y'_1:=e'_2$)をもつ。$e_2=t^me'_2$ なので $y_1=t^my'_1$、すなわち $[y'_0:y'_1]=[y_0:t^{-m}y_1]=[t^my_0:y_1]$ である。商 $\mathcal{E}_m\to\mathcal{O}(-m)$ は $e_1$ を $0$ に送るので、対応する切断は $y_0=0$ で与えられる。$\square$

$C_\infty:=\{y_1=0\}$ も切断で、$C_0$ と交わらない。$C_\infty\equiv aC_0+bf$ と書くと、$a=C_\infty\cdot f=1$、$0=C_\infty\cdot C_0=-m+b$ なので $C_\infty\equiv C_0+mf$、$C_\infty^2=m$ である。

曲面としての分類

Hirzebruch 曲面の同型類

$m,m'\ge0$ について、$\mathbb{F}_m$ と $\mathbb{F}_{m'}$ が $k$ 上の多様体として同型であることは、$m=m'$ と同値である。

既約曲線 $Y\subset\mathbb{F}_m$ の自己交点数の下限を $\mu(\mathbb{F}_m)$ とおく。同型写像は既約曲線を既約曲線に移し、交点数を保つので、$\mu$ は同型で変わらない。
$m>0$ なら、線織曲面 の命題「負の曲線と極小性」の 1($e=m>0$)により、自己交点数が負の既約曲線は $C_0$ だけで $C_0^2=-m$ であり、ほかの既約曲線の自己交点数は $0$ 以上である。よって $\mu(\mathbb{F}_m)=-m$ である。$m=0$ なら、同命題の 1 の不等式 $Y^2\ge ea^2$ により、$C_0$ とファイバー以外の既約曲線の自己交点数は $0$ 以上で、$C_0^2=0$、$f^2=0$ なので $\mu(\mathbb{F}_0)=0$ である。いずれの場合も $\mu(\mathbb{F}_m)=-m$ なので、$\mathbb{F}_m\cong\mathbb{F}_{m'}$ なら $m=m'$ である。逆は明らかである。$\square$

同じ主張は複素数体上の複素曲面としても成り立つ(BHPV04 V, Proposition 4.2、p. 191)。

小さい $m$ の Hirzebruch 曲面
  1. $\mathbb{F}_0$:$\mathcal{E}_0=\mathcal{O}^{\oplus2}$ なので $\mathbb{F}_0=\mathbb{P}^1\times\mathbb{P}^1$(2次曲面)である。2 つの射影のどちらでも線織曲面になり、$C_0$ と $f$ の役割は入れ替えられる。
  2. $\mathbb{F}_1$:$\mathbb{P}^2$ の 1 点の爆発と同型で、$C_0$ は例外曲線(自己交点数 $-1$ の $\mathbb{P}^1$)である(BHPV04 V §4、p. 191、線織曲面 の例「積と Hirzebruch 曲面」)。線織曲面 の命題「負の曲線と極小性」の 2 により、$\mathbb{F}_m$ が極小曲面でないのは $m=1$ のときに限る。
  3. $\mathbb{F}_2$:2 次錐の頂点を爆発したもので、頂点の逆像が $C_0$($C_0^2=-2$)である(線織曲面 の例「錐の頂点の爆発」)。一般に $m\ge2$ の $\mathbb{F}_m$ は、$\mathbb{P}^{m+1}$ の中で、$\mathbb{P}^m$ を張る有理正規曲線の上の錐の特異点を解消して得られる(BHPV04 V §4、p. 191)。

複素数体上の位相:微分同相型は $m$ の偶奇で決まる

以下 $k=\mathbb{C}$ とし、$\mathbb{F}_m$ を通常の位相で考える。$\mathbb{F}_m$ はコンパクトな 2 次元複素多様体なので、複素構造の向きをもつ滑らかな閉 $4$ 次元多様体である。$\mathbb{C}P^1$ は $S^2$ と微分同相である(Riemann球面)。prop-hz-charts の貼り合わせを一般化して考える。

行列による貼り合わせ

滑らかな写像 $g\colon\mathbb{C}^\times\to GL_2(\mathbb{C})$ について、$\mathbb{C}\times\mathbb{C}P^1$ の 2 つの写し(座標 $(t,y)$ と $(s,y')$)を、$t\ne0$ の部分で $(t,y)\sim(1/t,\ g(t)y)$ により貼り合わせた多様体を $X_g$ と書く。ここで $GL_2(\mathbb{C})$ は $\mathbb{C}P^1$ に斉次座標の列ベクトルへの掛け算で作用する。第 1 成分への射影 $p\colon X_g\to\mathbb{C}P^1$ は、ファイバー $\mathbb{C}P^1$ の滑らかなファイバー束である。

prop-hz-charts により、$g_m(t):=\begin{pmatrix}t^m&0\\0&1\end{pmatrix}$ とおくと $\mathbb{F}_m=X_{g_m}$ である。$g$ をスカラー倍の関数 $c(t)\in\mathbb{C}^\times$ 倍しても $\mathbb{C}P^1$ への作用は変わらないので、$X_{cg}=X_g$ である。

貼り合わせ関数の取り替え

$g,g'\colon\mathbb{C}^\times\to GL_2(\mathbb{C})$ を滑らかな写像とし、滑らかな写像 $H,K\colon\mathbb{C}\to GL_2(\mathbb{C})$ があって、すべての $t\in\mathbb{C}^\times$ で $g'(t)=K(1/t)\,g(t)\,H(t)$ をみたすとする。このとき $X_g$ と $X_{g'}$ は、$\mathbb{C}P^1$ への射影と両立する微分同相で移り合う。

$\Phi\colon X_g\to X_{g'}$ を、$t$ の写しの上で $(t,y)\mapsto(t,H(t)^{-1}y)$、$s$ の写しの上で $(s,y')\mapsto(s,K(s)y')$ と定める。$X_g$ で $(t,y)\sim(1/t,g(t)y)$ のとき、像は $(t,H(t)^{-1}y)$ と $(1/t,K(1/t)g(t)y)$ であり、$X_{g'}$ では
$$ (t,H(t)^{-1}y)\sim\bigl(1/t,\ g'(t)H(t)^{-1}y\bigr)=\bigl(1/t,\ K(1/t)g(t)y\bigr) $$
なので、$\Phi$ は矛盾なく定まる。各写しの上で $\Phi$ は滑らかで、$(t,y)\mapsto(t,H(t)y)$、$(s,y')\mapsto(s,K(s)^{-1}y')$ が滑らかな逆写像を与える。底の座標は動かさない。$\square$

微分同相型と偶奇

$m\ge2$ なら、$\mathbb{F}_m$ と $\mathbb{F}_{m-2}$ は、$\mathbb{C}P^1$ への射影と両立する微分同相で移り合う。したがって $\mathbb{F}_m$ は、$m$ が偶数なら $\mathbb{F}_0=\mathbb{C}P^1\times\mathbb{C}P^1\cong S^2\times S^2$ と、奇数なら $\mathbb{F}_1$ と微分同相である。

$u(t):=\begin{pmatrix}t^{-1}&0\\0&t\end{pmatrix}$ とおくと
$$ g_m(t)u(t)=\begin{pmatrix}t^{m-1}&0\\0&t\end{pmatrix}=t\,g_{m-2}(t) $$
なので $X_{g_mu}=X_{g_{m-2}}=\mathbb{F}_{m-2}$ である。$X_{g_mu}$ と $X_{g_m}=\mathbb{F}_m$ が lem-hz-glue の条件をみたすことを示す。
滑らかな $A$ の構成. 滑らかな写像 $A\colon\mathbb{C}^\times\to SL_2(\mathbb{C})$ で、$|t|\le1/2$ では $A(t)=u(t)$、$|t|\ge2$ では $A(t)=I$ となるものをとる。これは、$t=re^{i\theta}$ と書くと $u(t)=\operatorname{diag}(r^{-1},r)\operatorname{diag}(e^{-i\theta},e^{i\theta})$ で、後ろの因子が $SU(2)$ のループであり、$SU(2)$ が単連結(ユニタリ群 の定理「$\mathrm{SU}(n)$ の単連結性と $\mathrm{U}(n)$ の基本群」)なので定数ループに縮められることによる。

具体的な式を開く

$\varphi\in[0,\pi/2]$ について $a:=\cos^2\varphi\,e^{-i\theta}+\sin^2\varphi$、$b:=\sin\varphi\cos\varphi\,(1-e^{-i\theta})$ とおくと、$|a|^2+|b|^2=\cos^4\varphi+\sin^4\varphi+2\sin^2\varphi\cos^2\varphi=1$ なので $\Gamma(\theta,\varphi):=\begin{pmatrix}a&-\bar b\\b&\bar a\end{pmatrix}\in SU(2)$ であり、$\Gamma(\theta,0)=\operatorname{diag}(e^{-i\theta},e^{i\theta})$、$\Gamma(\theta,\pi/2)=I$ で、$\Gamma$ は $(e^{i\theta},\varphi)$ について滑らかである。滑らかな関数 $\lambda\colon(0,\infty)\to(0,\infty)$ を $r\le1/2$ で $\lambda(r)=r$、$r\ge1$ で $\lambda(r)=1$ となるように、滑らかな関数 $\kappa\colon(0,\infty)\to[0,\pi/2]$ を $r\le1$ で $0$、$r\ge2$ で $\pi/2$ となるようにとり、$A(re^{i\theta}):=\operatorname{diag}(\lambda(r)^{-1},\lambda(r))\,\Gamma(\theta,\kappa(r))$ と定めればよい。


$H$ と $K$. $H(t):=A(t)^{-1}u(t)$($t\ne0$)、$H(0):=I$ とおくと、$|t|\le1/2$ で $H=I$ なので $H$ は $\mathbb{C}$ 上で滑らかである。$K(s):=g_m(1/s)A(1/s)g_m(1/s)^{-1}$($s\ne0$)、$K(0):=I$ とおくと、$|s|\le1/2$ すなわち $|1/s|\ge2$ で $A(1/s)=I$ なので $K=I$ であり、$K$ も $\mathbb{C}$ 上で滑らかである。このとき $t\ne0$ で
$$ g_m(t)u(t)=g_m(t)A(t)H(t)=\bigl(g_m(t)A(t)g_m(t)^{-1}\bigr)g_m(t)H(t)=K(1/t)\,g_m(t)\,H(t) $$
である。lem-hz-glue により $\mathbb{F}_m=X_{g_m}$ と $X_{g_mu}=\mathbb{F}_{m-2}$ は微分同相である。後半は $m$ についての帰納法による。$\square$

この微分同相は正則でない($H$ と $K$ が $\bar t$ を含む)。正則にはできないことは、thm-hz-iso の複素曲面版(BHPV04 V, Proposition 4.2、p. 191)による。ベクトル束の言葉では、$\mathcal{O}(-1)\oplus\mathcal{O}(1)$ と $\mathcal{O}\oplus\mathcal{O}$ は正則ベクトル束としては同型でないが、位相的な複素ベクトル束としては同型である(Chern類 の例「反例:Chern類が等しいが同型でない束」の 2)。上の $u$ はこの違いを貼り合わせ関数で表したもので、直線束を掛けても射影束は変わらないので、$\mathcal{O}\oplus\mathcal{O}(-m)$ の次数 $-m$ を $2$ ずつずらせる。

ホモトピー群とコホモロジー

Hirzebruch 曲面のホモトピー群

$m\ge0$ とし、$\sigma\colon\mathbb{C}P^1\to\mathbb{F}_m$ を $C_0$ を像とする切断、$b_0\in\mathbb{C}P^1$、$x_0:=\sigma(b_0)$ とし、$i\colon\pi^{-1}(b_0)\to\mathbb{F}_m$ をファイバー($\mathbb{C}P^1$ と同型で、基点を $x_0$ とする)の包含とする。このとき $\mathbb{F}_m$ は単連結であり、$k\ge2$ について
$$ \pi_k(S^2)\oplus\pi_k(S^2)\longrightarrow\pi_k(\mathbb{F}_m,x_0),\qquad(\alpha,\beta)\longmapsto i_*\alpha+\sigma_*\beta $$
は同型である。

$\pi\colon\mathbb{F}_m\to\mathbb{C}P^1$ はファイバー $\mathbb{C}P^1$ のファイバー束なので、ホモトピー群の長完全列
$$ \cdots\to\pi_{k+1}(\mathbb{C}P^1)\xrightarrow{\partial}\pi_k(\mathbb{C}P^1)\xrightarrow{i_*}\pi_k(\mathbb{F}_m)\xrightarrow{\pi_*}\pi_k(\mathbb{C}P^1)\xrightarrow{\partial}\pi_{k-1}(\mathbb{C}P^1)\to\cdots $$
がある(HatAT Theorem 4.41、p. 376 と Proposition 4.48、p. 379)。$\pi\circ\sigma=\mathrm{id}$ なので $\pi_*\sigma_*=\mathrm{id}$ で、$\pi_*$ はすべての $k$ で全射である。完全性から、すべての $\partial$ は $0$ であり、$i_*$ はすべての $k$ で単射である。$k=1$ では $\pi_1(\mathbb{C}P^1)=0$ から $\pi_1(\mathbb{F}_m)=0$ である。$k\ge2$ では群はアーベル群(ホモトピー群 の命題「$n\geq2$のときホモトピー群はアーベル群である」)で、短完全列 $0\to\pi_k(\mathbb{C}P^1)\xrightarrow{i_*}\pi_k(\mathbb{F}_m)\xrightarrow{\pi_*}\pi_k(\mathbb{C}P^1)\to0$ は $\sigma_*$ で分裂する。よって $(\alpha,\beta)\mapsto i_*\alpha+\sigma_*\beta$ は同型である。$\square$

球面のホモトピー群 の表から、小さい $k$ では次のようになる。どの $m$ でも同じである。

$k$$\pi_k(S^2)$$\pi_k(\mathbb{F}_m)$生成元
$1$$0$$0$なし
$2$$\mathbb{Z}$$\mathbb{Z}^2$ファイバー $i$ と切断 $\sigma$
$3$$\mathbb{Z}$$\mathbb{Z}^2$$i\circ\eta$、$\sigma\circ\eta$($\eta$ は Hopf 写像)
$4$$\mathbb{Z}/2$$(\mathbb{Z}/2)^2$$i\circ\eta\circ E\eta$、$\sigma\circ\eta\circ E\eta$

$k=4$ の行の $E\eta\colon S^4\to S^3$ は Hopf 写像 $\eta\colon S^3\to S^2$ の懸垂である。懸垂 $E\colon\pi_3(S^2)\to\pi_4(S^3)\cong\mathbb{Z}/2$ は全射で、$\eta_*\colon\pi_4(S^3)\to\pi_4(S^2)$ は同型なので(球面のホモトピー群 の命題「Hopf束による $\pi_3(S^2)$ の計算」と、命題「球面の安定範囲」のあとの $E\colon\pi_3(S^2)\to\pi_4(S^3)$ の例)、$\eta\circ E\eta$ が $\pi_4(S^2)\cong\mathbb{Z}/2$ の生成元である。したがって $\pi_4(\mathbb{F}_m)$ の $0$ でない元はちょうど 3 つで、どれも位数 $2$ である。
ホモトピー群は $m$ によらないが、コホモロジー環は $m$ の偶奇を見分ける。

コホモロジー環と交叉形式

$h\in H^2(\mathbb{C}P^1;\mathbb{Z})$ を超平面類($\langle h,[\mathbb{C}P^1]\rangle=1$ となる生成元。Chern類 の記号)、$a:=\pi^*h$ とする。$\xi\in H^2(\mathbb{F}_m;\mathbb{Z})$ があって、$H^2(\mathbb{F}_m;\mathbb{Z})=\mathbb{Z}a\oplus\mathbb{Z}\xi$、$H^4(\mathbb{F}_m;\mathbb{Z})=\mathbb{Z}\,a\xi$ であり、
$$ a^2=0,\qquad \xi^2=-m\,a\xi $$
が成り立つ。したがって $\varepsilon:=\langle a\xi,[\mathbb{F}_m]\rangle\in\{1,-1\}$ とおくと、交叉形式 $Q(x,y):=\langle x\smile y,[\mathbb{F}_m]\rangle$ の基底 $(a,\xi)$ に関する行列は $\varepsilon\begin{pmatrix}0&1\\1&-m\end{pmatrix}$ である。

Chern類 の注意「射影束の規約と符号」のとおり、この記事の規約の $\mathbb{P}(\mathcal{E})$ は、ファイバーの直線の空間としての射影束の規約で $\mathbb{P}(\mathcal{E}^\vee)$ に当たる。$\mathcal{E}_m^\vee=\mathcal{O}\oplus\mathcal{O}(m)$ なので、$\mathbb{F}_m$ は複素ベクトル束 $E:=\mathcal{O}\oplus\mathcal{O}(m)$ の直線の射影束である。Chern類 の定理「射影束のコホモロジー」により、$H^*(\mathbb{F}_m;\mathbb{Z})$ は $\pi^*$ によって $H^*(\mathbb{C}P^1;\mathbb{Z})$ 上の自由加群で、ある $\xi\in H^2$ について $1,\xi$ が基底である。$H^*(\mathbb{C}P^1;\mathbb{Z})$ は $1,h$ を基底とするので、$H^2=\mathbb{Z}a\oplus\mathbb{Z}\xi$、$H^4=\mathbb{Z}a\xi$ である。$a^2=\pi^*(h^2)=0$ である。同記事の定義「射影束公式によるChern類」により $\xi^2+\pi^*c_1(E)\,\xi+\pi^*c_2(E)=0$ であり、同記事の例「射影空間上の直線束の直和」から $c_1(E)=mh$、$c_2(E)=0$ なので $\xi^2=-m\,a\xi$ である。
$\mathbb{F}_m$ は向き付けられた閉 $4$ 次元多様体なので、Poincaré双対性 の命題「整係数のカップ積の対」により $x\mapsto\langle x,[\mathbb{F}_m]\rangle$ は $H^4(\mathbb{F}_m;\mathbb{Z})\cong\mathbb{Z}$ から $\mathbb{Z}$ への同型であり、生成元 $a\xi$ の値 $\varepsilon$ は $\pm1$ である。行列はこれらから従う。$\square$

$\varepsilon$ の値(向きのとり方)は以下の議論に影響しない。

交叉形式の型
  1. $m$ が偶数なら $Q\cong H$(行列 $\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}$ の形式)で、すべての $x$ について $Q(x,x)$ は偶数である。
  2. $m$ が奇数なら $Q\cong\langle1\rangle\oplus\langle-1\rangle$ で、$Q(x,x)$ が奇数になる $x$ がある。
  3. $\mathbb{F}_m$ と $\mathbb{F}_{m'}$ がホモトピー同値であることは、$m\equiv m'\pmod2$ と同値である。

$x=\alpha a+\beta\xi$ について $Q(x,x)=\varepsilon(2\alpha\beta-m\beta^2)\equiv m\beta^2\pmod2$ である。
1:$m=2l$ のとき、基底 $(a,\ \xi+la)$ で $Q(a,a)=0$、$Q(a,\xi+la)=\varepsilon$、$Q(\xi+la,\xi+la)=\varepsilon(-2l+2l)=0$ なので行列は $\varepsilon\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}$ で、基底の片方の符号を変えれば $H$ になる。$Q(x,x)\equiv0$ である。
2:$m=2l+1$ のとき、$e_1:=\xi+(l+1)a$、$e_2:=\xi+la$ は $e_1-e_2=a$ なので $H^2$ の基底で、$Q(e_1,e_1)=\varepsilon$、$Q(e_2,e_2)=-\varepsilon$、$Q(e_1,e_2)=\varepsilon(-(2l+1)+l+(l+1))=0$ である。$Q(e_1,e_1)=\pm1$ は奇数である。
3:ホモトピー同値 $\phi\colon\mathbb{F}_{m'}\to\mathbb{F}_m$ はカップ積を保つ環同型 $\phi^*$ を誘導し、$H^4\cong\mathbb{Z}$ の生成元を生成元の $\pm1$ 倍に送るので、$Q_{\mathbb{F}_{m'}}(\phi^*x,\phi^*y)=\pm Q_{\mathbb{F}_m}(x,y)$ である。したがって「すべての $x$ で $Q(x,x)$ が偶数」という性質は保たれ、1・2 により $m\equiv m'\pmod2$ である。逆は thm-hz-diffeo による。$\square$

位相同型の型も決まる。$\mathbb{F}_m$ は単連結な閉 $4$ 次元多様体で $b_2=2$ である。$m$ が奇数なら交叉形式は $\langle1\rangle\oplus\langle-1\rangle$ で、$\mathbb{F}_m$ は滑らかなので PL 構造をもち(Whitehead三角形分割 の定理「Cairns–Whitehead の定理」)、Kirby–Siebenmann 不変量は $0$ である(Kirby–Siebenmann不変量 の定理「Kirby–Siebenmann の定理」の 1)。したがって Freedmanの定理 の系「$b_2\le2$ の単連結な閉 4 次元多様体」の表により、$\mathbb{F}_m$ は $\mathbb{C}P^2\#\overline{\mathbb{C}P^2}$ と同相である。$m$ が偶数なら $\mathbb{F}_m$ は thm-hz-diffeo により $S^2\times S^2$ と微分同相である。

同じホモトピー群をもつがホモトピー同値でない

$\mathbb{F}_0=S^2\times S^2$ と $\mathbb{F}_1$ は、prop-hz-homotopy によりすべての $k$ で $\pi_k$ が同型である。たとえば $\pi_4$ はどちらも $(\mathbb{Z}/2)^2$ で、ファイバーと切断に $\eta\circ E\eta$ を合成した 2 つの写像が生成する。しかし cor-hz-parity により、交叉形式は $\mathbb{F}_0$ で偶、$\mathbb{F}_1$ で奇なので、両者はホモトピー同値でない。ホモトピー群の同型だけからホモトピー同値は導けず、Whiteheadの定理 では同型を引き起こす写像が要る(同記事の注意「写像が与えられていることが要る」)。この例ではそのような写像は存在しない。

まとめと反例

$\mathbb{F}_m$ をどの意味で比べるかを表にまとめる。

比べ方$\mathbb{F}_m$ と $\mathbb{F}_{m'}$ が同じになる条件根拠
曲面(複素曲面)としての同型$m=m'$thm-hz-iso
微分同相・ホモトピー同値$m\equiv m'\pmod2$thm-hz-diffeo、cor-hz-parity
ホモトピー群の同型つねにprop-hz-homotopy
外す条件反例成り立たなくなること
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thm-hz-diffeo の「$m\equiv m'\pmod2$」$\mathbb{F}_0$ と $\mathbb{F}_1$微分同相であること
thm-hz-iso の「$m=m'$」(偶奇の一致だけにする)$\mathbb{F}_0$ と $\mathbb{F}_2$曲面として同型であること
Whiteheadの定理 の「同型を引き起こす写像があること」$\mathbb{F}_0$ と $\mathbb{F}_1$ホモトピー同値であること
極小性の条件「$m\ne1$」$\mathbb{F}_1$極小曲面であること($C_0$ が $(-1)$ 曲線)

1 行目と 3 行目は cor-hz-parity の 3、2 行目は thm-hz-iso($\mathbb{F}_0$ と $\mathbb{F}_2$ は thm-hz-diffeo により微分同相だが、曲面として同型でない)、4 行目は ex-hz-small の 2 による。

関連項目

参考文献

[1]
Wolf P. Barth, Klaus Hulek, Chris A. M. Peters, Antonius Van de Ven, Compact Complex Surfaces, Springer, 2004, V 章 §4(p. 191、Hirzebruch 曲面 $\Sigma_n$ の定義、$\Sigma_1$ が $\mathbb{P}_2$ の 1 点の爆発であること・錐の特異点解消としての記述、Proposition 4.2:$\Sigma_n$ が互いに双正則でないこと)
[2]
Allen Hatcher, Algebraic Topology, Cambridge University Press, 2002, Theorem 4.41(p. 376、ファイブレーションのホモトピー長完全列)、Proposition 4.48(p. 379、ファイバー束のホモトピー持ち上げ性質)

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