円板定理

同義語:Palaisの円板定理等質性の補題(多様体)disc theoremdisk theoremhomogeneity lemma

概要

円板定理(disc theorem)とは、連結な $n$ 次元多様体 $M$ に滑らかに埋め込まれた 2 つの閉円板 $f,g\colon D^n\to M$ は、$M$ が向き付け可能なら向きをそろえたとき、向き付け不可能なら無条件に、$M$ のコンパクト台のイソトピーで一方を他方に移せるという定理である。Palais と Cerf が 1960 年に独立に証明した。円板を平行移動・線形化・一般線形群の中の道で動かし、その速度のベクトル場の流れで空間全体を動かす局所の議論と、連結性による議論で証明される。連結な多様体の点を任意の点に移す等質性はその系であり、連結和が円板の選び方によらずに決まることの根拠になる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 向き付け可能多様体, ベクトル場の流れ, 隆起関数, 逆関数定理

平面の中に閉円板を滑らかに置く方法はいくらでもある。中心の位置、大きさ、形(楕円のように歪めたもの)を変えられるし、裏返して置くこともできる。しかし裏返すことを除けば、どの置き方も平面を少しずつ滑らかに動かす変形で互いに移り合う。円板定理(disc theorem)は、これがどの連結な多様体でも成り立つことを述べる:連結な $n$ 次元多様体 $M$ に滑らかに埋め込まれた 2 つの $n$ 次元閉円板は、向きをそろえれば、$M$ 全体の滑らかな変形(コンパクト台のイソトピー)で一方を他方に移せる。$M$ が向き付け不可能なら、向きの条件も要らない。Palais と Cerf が 1960 年に独立に証明した(Kos93 Ch. X §7 (7.1)、p. 219)。
この定理から、連結な多様体では「円板をどこに、どう置くか」が本質的に選択にならない。2 つの多様体からそれぞれ円板をくり抜いて境界の球面どうしを貼り合わせる連結和が、円板の選び方によらずに決まるのはこのためである(境界に沿った貼り合わせと連結和)。この記事では、平行移動・線形化・一般線形群の中の道で円板を $\mathbb{R}^n$ の中で動かし、その動きを $\mathbb{R}^n$ 全体の変形に延ばす局所の議論を示してから、連結性と向きを使って大域的な主張を証明する。

定義

この記事では、多様体は Hausdorff かつ第 2 可算で境界のないものとし、「滑らか」は $C^\infty$ 級を指す。$n\ge1$ とし、$\mathbb{R}^n$ の開球 $B_\rho:=\{x\mid\lvert x\rvert<\rho\}$、閉円板 $D^n:=\{x\mid\lvert x\rvert\le1\}$、鏡映 $r(x^1,x^2,\dots,x^n):=(-x^1,x^2,\dots,x^n)$ を使う。多様体の開集合 $U$ から開集合 $V$ への微分同相写像を、$U$ の開埋め込みともいう。

滑らかな円板

$M$ を $n$ 次元の多様体とする。写像 $f\colon D^n\to M$ が滑らかな円板であるとは、ある $\rho>1$ と開埋め込み $F\colon B_\rho\to M$($B_\rho$ から $M$ の開集合への微分同相写像)で $F\vert_{D^n}=f$ となるものがあることをいう。$f(0)$ を円板の中心という。
$M$ が向き付けられているとき、$f$ が向きを保つとは、$f$ の延長 $F$ が向きを保つ(正の向きの局所座標で書いた $F$ の Jacobi 行列式が正である)ことをいい、そうでないとき向きを逆にするという。

$B_\rho$ は連結なので、$F$ の Jacobi 行列式の符号は $B_\rho$ 全体で一定である(向き付け可能多様体 の定理「連結な多様体の向きは 2 つ」の証明と同じく、符号が正の点の集合と負の点の集合はともに開集合)。その符号は原点での微分 $dF_0$ で決まり、$dF_0$ は $f$ の $D^n$ の内部での値だけで決まるので、向きを保つかどうかは延長 $F$ の取り方によらない。$f$ が向きを保つことと $f\circ r$ が向きを逆にすることは同値である。

コンパクト台のイソトピー

$M$ を多様体とする。滑らかな写像 $H\colon\mathbb{R}\times M\to M$、$(s,x)\mapsto H_s(x)$ が次をみたすとき、$H$ を $M$ のコンパクト台のイソトピーという。
(i) 各 $s$ で $H_s$ は $M$ の微分同相写像である。
(ii) $s\le0$ で $H_s=\mathrm{id}_M$、$s\ge1$ で $H_s=H_1$ である。
(iii) $M$ のコンパクト集合 $C$ があって、すべての $s$ で $H_s$ は $C$ の外の点を動かさない。
$M$ の 2 つの滑らかな円板 $f,g$ について、コンパクト台のイソトピー $H$ で $H_1\circ f=g$ となるものがあるとき、$f\simeq g$ と書く。

条件 (ii) は、変形を時刻 $[0,1]$ に収めるための約束である。

イソトピーで移り合う関係

$\simeq$ は $M$ の滑らかな円板の上の同値関係である。

反射律は $H_s=\mathrm{id}$ でよい。推移律:$H_1\circ f=g$、$K_1\circ g=h$ なら、$s\mapsto K_s\circ H_s$ はコンパクト台のイソトピーで(台は 2 つのコンパクト集合の和に含まれる)、$K_1\circ H_1\circ f=h$ である。対称律:$\widehat H(s,x):=(s,H_s(x))$ は $\mathbb{R}\times M$ の全単射で、その微分は $\begin{pmatrix}1&0\\ \ast&dH_s\end{pmatrix}$ の形で可逆なので、逆関数定理 により局所的に微分同相であり、したがって微分同相写像である。その逆写像は $(s,y)\mapsto(s,H_s^{-1}(y))$ なので、$(s,y)\mapsto H_s^{-1}(y)$ は滑らかであり、コンパクト台のイソトピーになる。$H_1^{-1}\circ g=f$ である。$\square$

円板定理

円板定理

$M$ を連結な $n$ 次元の多様体とし、$f,g\colon D^n\to M$ を滑らかな円板とする。

  1. $M$ が向き付け可能で、$M$ に向きを 1 つ入れたとき $f$ と $g$ がともに向きを保つかともに向きを逆にするなら、$f\simeq g$ である。
  2. $M$ が向き付け不可能なら、つねに $f\simeq g$ である。
    したがって、どちらの場合も $M$ の微分同相写像 $\Phi$ で $\Phi\circ f=g$ となり、コンパクト集合の外の点を動かさないものがある。$M$ が向き付けられているとき、$\Phi$ は向きを保つ。
定理の読み方

定理は、連結な多様体の中の円板の置き方が、向きを除いて一通りであることを述べる。向きの条件は 1 で本質的で、外すと結論は成り立たない(ex-disk-counterexamples)。

1 の条件は $M$ の向きの選び方によらない(向きを反転すると $f$ と $g$ の両方の判定が入れ替わる)。1 で向きの条件を外すと結論は成り立たない(ex-disk-counterexamples の 1 行目)。証明は、$\mathbb{R}^n$ の中での局所的な主張(lem-disk-local)を作ってから、連結性で全体に広げる。

$\mathbb{R}^n$ の中での変形

まず、開埋め込みの滑らかな族として円板を動かせば、その動きは $\mathbb{R}^n$ 全体のコンパクト台のイソトピーに延びることを示す。考え方は、動いている円板の各点の速度をベクトル場とみて、隆起関数で遠くを $0$ に切り、その流れで空間全体を動かすことである。

円板のイソトピーの延長

$\rho>1$、$\varepsilon>0$ とし、$\varphi\colon(-\varepsilon,1+\varepsilon)\times B_\rho\to\mathbb{R}^n$、$(t,x)\mapsto\varphi_t(x)$ を滑らかな写像で、各 $t$ で $\varphi_t$ が $B_\rho$ の開埋め込みであるものとする。$\mathbb{R}^n$ のコンパクト台のイソトピー $H$ で、$H_1\circ\varphi_0=\varphi_1$ が $D^n$ の上で成り立つものがある。

要点:時刻の変数を 1 つ増やした $\mathbb{R}\times\mathbb{R}^n$ の上に、円板の軌跡の上では $(1,\partial_t\varphi_t)$ に等しく、それ以外ではほぼ $(1,0)$ のベクトル場 $Z$ を作る。$Z$ の流れで $\{0\}\times\mathbb{R}^n$ を $\{s\}\times\mathbb{R}^n$ へ運んだ写像が $H_s$ であり、円板の各点は流れに沿って $\varphi_s$ の位置へ運ばれる。

詳しい証明を開く

段 1(時刻の付け替え).滑らかな関数 $\lambda\colon\mathbb{R}\to[0,1]$ で、$(-\infty,0]$ で $0$、$[1,\infty)$ で $1$ となるものをとり(隆起関数 の例「滑らかな階段関数」)、$\psi_t:=\varphi_{\lambda(t)}$($t\in\mathbb{R}$)とおく。$\psi$ は $\mathbb{R}\times B_\rho$ の上で滑らかで、$t\le0$ で $\psi_t=\varphi_0$、$t\ge1$ で $\psi_t=\varphi_1$ であり、$\partial_t\psi=0$ となる。

段 2(速度のベクトル場).$G(t,x):=(t,\psi_t(x))$ は $\mathbb{R}\times B_\rho$ の単射で、微分 $\begin{pmatrix}1&0\\ \ast&D\psi_t(x)\end{pmatrix}$ は可逆なので、逆関数定理 により $G$ は開集合 $W:=G(\mathbb{R}\times B_\rho)\subset\mathbb{R}^{n+1}$ の上への微分同相写像である。$W$ の上で $X(t,y):=\partial_t\psi\bigl(G^{-1}(t,y)\bigr)$ とおくと $X$ は滑らかで、$t\notin(0,1)$ では $X(t,y)=0$ である。$K:=G([0,1]\times D^n)$ は $W$ のコンパクト集合なので、隆起関数 の定理「コンパクト集合に対する隆起関数」により、$K$ の近傍で $1$、台がコンパクトで $W$ に含まれる滑らかな関数 $\beta$ がある。$Y:=\beta X$($W$ の外では $0$)は $\mathbb{R}^{n+1}$ の上の滑らかな $\mathbb{R}^n$ 値関数で、台はコンパクトである。台を $[a,b]\times C$($C\subset\mathbb{R}^n$ はコンパクト)に含め、$\mathbb{R}^{n+1}$ のベクトル場 $Z(t,y):=(1,Y(t,y))$ を考える。

段 3($Z$ は完備).$Z$ の極大流れの定義域は $\{0\}\times\mathbb{R}^{n+1}$ を含む開集合なので、コンパクト集合 $[a-1,b+1]\times C$ に対してある $\delta>0$ があり、この集合の点から出る積分曲線は $(-\delta,\delta)$ で定義される。それ以外の点 $(t_0,y_0)$ については、$y_0\notin C$ なら $s\mapsto(t_0+s,y_0)$ がすべての $s$ で、$y_0\in C$ かつ $t_0\notin[a-1,b+1]$ なら同じ曲線が $\lvert s\rvert<1$ で積分曲線である(その上で $Y=0$)。よってすべての点の積分曲線は $(-\min\{\delta,1\},\min\{\delta,1\})$ で定義され、ベクトル場の流れ の定理「完備性の判定」の (R1) により $Z$ は完備である。

段 4(イソトピー).$Z$ の流れを $\Psi$ とする。$Z$ の第 1 成分は $1$ なので $\Psi_s(0,y)=(s,H_s(y))$ と書け、$H\colon\mathbb{R}\times\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^n$ は滑らかである(同記事の定理「流れの基本定理」)。$\Psi_s$ は $\{0\}\times\mathbb{R}^n$ を $\{s\}\times\mathbb{R}^n$ の上へ全単射に写し、逆は $\Psi_{-s}$ なので、$H_s$ は微分同相写像である。$y\notin C$ なら $s\mapsto(s,y)$ が $(0,y)$ を通る積分曲線なので $H_s(y)=y$ である。また $\Psi_s(0,y)$ が積分曲線であることから $\partial_sH_s(y)=Y\bigl(s,H_s(y)\bigr)$ であり、これは $s\le0$ と $s\ge1$ で $0$ なので、$s\le0$ で $H_s=H_0=\mathrm{id}$、$s\ge1$ で $H_s=H_1$ である。よって $H$ はコンパクト台のイソトピーである。

段 5(円板の点の軌跡).$x\in D^n$ について $\gamma(s):=(s,\psi_s(x))$ とおくと $\gamma'(s)=(1,X(\gamma(s)))$ である。$0\le s\le1$ では $\gamma(s)\in K$ で $\beta=1$、それ以外では $X(\gamma(s))=0=Y(\gamma(s))$ なので、$\gamma'(s)=Z(\gamma(s))$ がすべての $s$ で成り立つ。$\gamma(0)=(0,\varphi_0(x))$ なので、積分曲線の一意性(同記事の補題「積分曲線の一意性」)により $\gamma(s)=\Psi_s(0,\varphi_0(x))$、すなわち $H_s(\varphi_0(x))=\psi_s(x)$ である。$s=1$ として $H_1\circ\varphi_0=\varphi_1$ を $D^n$ の上で得る。$\square$

次に、円板の微分の部分を動かす道を用意する。

一般線形群の中の道

$A,B$ を $n$ 次の実正則行列とし、$\det A$ と $\det B$ は同符号とする。滑らかな写像 $P_1,\dots,P_m\colon\mathbb{R}\to\mathrm{GL}_n(\mathbb{R})$ で、$P_1(0)=A$、$P_i(1)=P_{i+1}(0)$($1\le i< m$)、$P_m(1)=B$ となるものがある。

$r$ も行列とみる。$\det A<0$ なら $Ar$、$Br$ について道を作り、右から $r$ を掛ければよいので、$\det A,\det B>0$ としてよい。また $A$ と $B$ をそれぞれ単位行列 $I$ と結べば、$B$ 側の道を逆にたどってつなげばよい。
$A$ の列に Gram–Schmidt の方法を使うと $A=QR$($Q$ は直交行列、$R$ は対角成分が正の上三角行列)と書ける。$P(s):=Q\bigl((1-\lambda(s))R+\lambda(s)I\bigr)$($\lambda$ は prf-disk-extension の段 1 の関数で、値は $[0,1]$)の括弧の中はすべての $s\in\mathbb{R}$ で対角成分が正の上三角行列なので $P(s)$ は正則であり、$P$ は $A$ と $Q$ を結ぶ。$\det Q=\det A/\det R>0$ なので $\det Q=1$ である。
直交行列は有限個の鏡映 $\rho_u(x)=x-2\langle x,u\rangle u$($u$ は単位ベクトル)の積である(写像度 の命題「直交変換の写像度」の証明の中で示されている)。$\det\rho_u=-1$ なので、$Q=\rho_{u_1}\rho_{u_2}\cdots\rho_{u_{2k}}$ と偶数個の積に書ける。$n=1$ なら $Q=I$ である。$n\ge2$ とし、2 つの単位ベクトル $u,v$ について $\rho_u\rho_v$ を $I$ と結ぶ。$v=\pm u$ なら $\rho_v=\rho_u$ で $\rho_u\rho_v=I$ である。そうでなければ、$u,v$ の張る平面の中で $v$ に直交する単位ベクトル $w$ と $0<\theta<\pi$ を $u=\cos\theta\,v+\sin\theta\,w$ となるようにとり、$v(s):=\cos(s\theta)v+\sin(s\theta)w$ とおく。$s\mapsto\rho_u\rho_{v(s)}$ は滑らかで、$\rho_u\rho_v$ と $\rho_u^2=I$ を結ぶ。これを $Q$ の先頭の組から順に使い、$Q\mapsto\rho_{u_3}\cdots\rho_{u_{2k}}\mapsto\cdots\mapsto I$ と結ぶ。$\square$

これで、座標近傍の中の円板について定理が示せる。$M$ の開集合 $U$ から $\mathbb{R}^n$ の上への微分同相写像 $\phi\colon U\to\mathbb{R}^n$ を、以下 全体座標と呼ぶ。どの点も連結な全体座標の定義域に含まれる(座標近傍を開球に縮め、開球 $B_\rho$ と $\mathbb{R}^n$ の微分同相写像 $x\mapsto x/\sqrt{\rho^2-\lvert x\rvert^2}$ を合成すればよい)。中心が $U$ に入る滑らかな円板 $f$ について、延長 $F$ は $0$ の近くを $U$ に写すので $\det D(\phi\circ F)(0)$ が定まる。その符号を、$f$ の $\phi$ に関する符号という($dF_0$ だけで決まるので延長の取り方によらない)。

座標近傍の中の円板

$\phi\colon U\to\mathbb{R}^n$ を $M$ の全体座標とし、$f,g$ を像が $U$ に含まれる滑らかな円板で、$\phi$ に関する符号が等しいものとする。このとき $f\simeq g$ であり、イソトピーとして $U$ のコンパクト集合の外の点を動かさないものがとれる。

$f(D^n)$ はコンパクトなので、$f$ の延長 $F$ の定義域を小さくして $F(B_\rho)\subset U$ としてよい($F^{-1}(U)$ は $D^n$ を含む開集合なので、ある $B_\rho$($\rho>1$)を含む)。$g$ の延長 $G$ も同様にし、共通の $\rho$ をとる。$a:=\phi\circ F$、$b:=\phi\circ G$ は $B_\rho$ から $\mathbb{R}^n$ への開埋め込みである。$\mathbb{R}^n$ のコンパクト台のイソトピー $H$ を $\phi^{-1}\circ H_s\circ\phi$($U$ の上)と恒等写像($U$ の外)でつなぐと、$H_s$ が恒等写像でない点はコンパクト集合 $\phi^{-1}(C)$ に含まれ、これは $M$ の閉集合なので、$M$ のコンパクト台のイソトピーになる。したがって、$\mathbb{R}^n$ の中の滑らかな円板として $a\vert_{D^n}\simeq b\vert_{D^n}$ を示せばよい。
段 1(線形化).$\varepsilon>0$ と $\rho'>1$ を $(1+\varepsilon)\rho'<\rho$ となるようにとり、$(t,x)\in(-\varepsilon,1+\varepsilon)\times B_{\rho'}$ について($\lvert\sigma tx\rvert<(1+\varepsilon)\rho'<\rho$ なので右辺は定まる)
$$ a_t(x):=a(0)+\int_0^1Da(\sigma tx)\,x\,d\sigma $$
とおく。$a_t$ は $(t,x)$ について滑らかで、$t\ne0$ では $a_t(x)=a(0)+\bigl(a(tx)-a(0)\bigr)/t$、$t=0$ では $a_0(x)=a(0)+Da(0)x$ である。$t\ne0$ の $a_t$ は、$x\mapsto tx$、$a$、アフィン同型の合成なので開埋め込みであり、$a_0$ は可逆なアフィン写像である。lem-disk-extension により、$a_0\vert_{D^n}\simeq a_1\vert_{D^n}=a\vert_{D^n}$ である。同様に $b\vert_{D^n}\simeq b_0\vert_{D^n}$、$b_0(x)=b(0)+Db(0)x$ である。
段 2(アフィン写像どうし).$\det Da(0)$ と $\det Db(0)$ は仮定により同符号なので、lem-disk-gl の $P_1,\dots,P_m$ で $Da(0)$ と $Db(0)$ を結ぶ。$x\mapsto\bigl((1-t)a(0)+tb(0)\bigr)+Da(0)x$、および $x\mapsto b(0)+P_i(t)x$($i=1,\dots,m$)は、どれも可逆なアフィン写像の滑らかな族なので、lem-disk-extension を順に使って $a_0\vert_{D^n}\simeq b_0\vert_{D^n}$ を得る。
lem-disk-equivalence の推移律から $a\vert_{D^n}\simeq b\vert_{D^n}$ である。$\square$

段 1 の $a_t$ は、円板を中心に向かって $t$ 倍に縮めてから $1/t$ 倍に拡大し直したもので、$t\to0$ で微分 $Da(0)$ に近づく。円板の「形」の情報は中心での微分に集約され、残るのは $\mathrm{GL}_n(\mathbb{R})$ のどちらの連結成分にいるかという符号だけである。

円板定理の証明

円板定理

段 1(円板を縮める).滑らかな円板 $g$ とその延長 $G\colon B_\rho\to M$、$0<\varepsilon\le1$ について、$g_\varepsilon(x):=G(\varepsilon x)$ とおくと $g\simeq g_\varepsilon$ である。実際、$\theta\colon B_\rho\to\mathbb{R}^n$ を上の微分同相写像とすると $\phi:=\theta\circ G^{-1}$ は $G(B_\rho)$ の全体座標で、$g$ と $g_\varepsilon$ の像はともに $G(B_\rho)$ に含まれ、$\phi$ に関する符号はどちらも $\det D\theta(0)$ の符号である($g_\varepsilon$ では $\varepsilon^n$ 倍になるだけ)。よって lem-disk-local による。
段 2(同じ座標近傍の中).$\phi\colon U\to\mathbb{R}^n$ を全体座標とし、$g,g'$ を中心が $U$ に入り $\phi$ に関する符号が等しい滑らかな円板とすると、$g\simeq g'$ である。実際、延長の連続性と $D^n$ のコンパクト性から、小さい $\varepsilon$ で $g_\varepsilon(D^n)$、$g'_\varepsilon(D^n)$ は $U$ に含まれ、符号は変わらないので、段 1 と lem-disk-local と推移律による。また、$p\in U$ を中心とし $\phi$ に関する符号が $\pm$ の円板は、$x\mapsto\phi^{-1}(\phi(p)+x)$ と $x\mapsto\phi^{-1}(\phi(p)+r(x))$ として存在する。
段 3(向き付けられた場合).$M$ に向きを入れる。$f,g$ がともに向きを逆にするなら $f\circ r$、$g\circ r$ はともに向きを保ち、$H_1\circ f\circ r=g\circ r$ から $H_1\circ f=g$ が従うので、$f,g$ はともに向きを保つとしてよい。各点は、向きを保つ連結な全体座標の定義域に含まれる(向きを逆にするなら $r$ を合成する)。そのような $\phi\colon U\to\mathbb{R}^n$ について、中心が $U$ に入る円板の $\phi$ に関する符号が正であることと、円板が向きを保つことは同値である。
$$ A:=\{p\in M\mid p\text{ を中心とする向きを保つ滑らかな円板はすべて }f\simeq\text{ をみたす}\} $$
とおく。段 2 により、中心が $U$ に入る向きを保つ円板はすべて互いに $\simeq$ で移り合うので、$U\subset A$ か $U\cap A=\emptyset$ のどちらかである。よって $A$ と $M\setminus A$ はともに開集合である。$f$ は $f(0)$ を中心とする向きを保つ円板なので、$f(0)$ のまわりの $U$ は $A$ に含まれ、$A\ne\emptyset$ である。$M$ は連結なので $A=M$ であり、$g\simeq f$ である。
段 4(向き付け不可能な場合).$p$ を中心とする円板 $g$(延長 $G$)について、$dG_0(e_1),\dots,dG_0(e_n)$ が定める $T_pM$ の向きを $o(g)$ と書き、
$$ S(p):=\{o(g)\mid g\text{ は }p\text{ を中心とする滑らかな円板で }g\simeq f\} $$
とおく。$S(p)$ は $T_pM$ の 2 つの向きの一部である。連結な全体座標 $\phi\colon U\to\mathbb{R}^n$ と $p\in U$ について、$\phi$ の座標基底が定める $T_pM$ の向きを $o^\phi_p$ とすると、$p$ を中心とする円板 $g$ の $\phi$ に関する符号が正であることは $o(g)=o^\phi_p$ と同値である。段 2 により、$p,p'\in U$ について
$$ o^\phi_p\in S(p)\iff o^\phi_{p'}\in S(p'),\qquad-o^\phi_p\in S(p)\iff-o^\phi_{p'}\in S(p') $$
である。したがって $S(p)$ の元の個数 $k(p)\in\{0,1,2\}$ は各 $U$ の上で一定であり、$\{k=0\}$、$\{k=1\}$、$\{k=2\}$ はどれも開集合である。$M$ は連結なので、どれか 1 つが $M$ に一致する。$o(f)\in S(f(0))$ なので $k(f(0))\ge1$ である。
$k\equiv1$ と仮定する。各点 $p$ に、$S(p)=\{o^\phi_p\}$ となる連結な全体座標 $\phi$ をとる(逆なら $r\circ\phi$ に替える)。上の同値により、定義域のすべての点 $q$ で $S(q)=\{o^\phi_q\}$ である。このような 2 つの全体座標 $\phi$、$\psi$ の定義域の共通部分の点 $q$ では $o^\phi_q=S(q)=o^\psi_q$ なので、座標変換 $\psi\circ\phi^{-1}$ の Jacobi 行列式は正である。したがってこれらは向き付けられた座標近傍系をなし(向き付け可能多様体 の定義「向き付け可能多様体」)、$M$ が向き付け不可能であることに反する。よって $k\equiv2$ である。$g(0)$ では $S(g(0))\ni o(g)$ なので、$g(0)$ を中心とし $o(g')=o(g)$、$g'\simeq f$ となる円板 $g'$ がある。$g$ と $g'$ は中心が同じで同じ符号をもつので段 2 により $g\simeq g'$ であり、$g\simeq f$ である。
段 5(向きを保つこと).$M$ が向き付けられているとき、$x\in M$ を固定し、$s$ ごとに $dH_s$ が $x$ で向きを保つなら $\epsilon(s)=1$、逆にするなら $\epsilon(s)=-1$ とおく。$s_0$ の近くでは $x$ と $H_{s_0}(x)$ のまわりの正の向きの局所座標で $H_s$ の Jacobi 行列式を書くと、$s$ について連続で $0$ にならないので、$\epsilon$ は局所定数である。$\mathbb{R}$ は連結で $\epsilon(0)=1$ なので $\epsilon(1)=1$ であり、$\Phi:=H_1$ は向きを保つ。$\square$

段 3 と段 4 は同じ考え方である。「$f$ と移り合う円板の向き」を各点で集めると、それは座標近傍の中で連続に変わる。向き付け可能な場合は向きを保つ円板だけが集まり、向き付け不可能な場合は、一方の向きだけが集まるとすればそれが $M$ の向きを与えてしまうので、両方の向きが集まる。
$\Phi$ は $f(D^n)$ を $g(D^n)$ の上へ写すので、補集合 $M\setminus f(\operatorname{Int}D^n)$ を $M\setminus g(\operatorname{Int}D^n)$ の上へ写し、境界の球面の上では $g\circ f^{-1}$ に一致する。これが連結和の構成の出発点である(境界に沿った貼り合わせと連結和)。

等質性

$M$ を連結な多様体、$p,q\in M$ とする。$M$ のコンパクト台のイソトピー $H$ で $H_1(p)=q$ となるものがある。

$M$ が向き付け可能なら向きを 1 つ入れ、$p$、$q$ を中心とする向きを保つ滑らかな円板 $f$、$g$ をとる(段 2・段 3 のとおり正の向きの全体座標から作れる)。向き付け不可能なら、$p$、$q$ を中心とする任意の滑らかな円板をとる。thm-disk-main により $H_1\circ f=g$ となる $H$ があり、$H_1(p)=H_1(f(0))=g(0)=q$ である。$\square$

この系は Mil97 §4(p. 22)の等質性の補題(homogeneity lemma。$N$ の内部の 2 点を、恒等写像に滑らかにイソトピックな微分同相写像で移す)と同じ趣旨であり、同書は $\mathbb{R}^n$ の単位球の中で点を滑らせるベクトル場の流れで直接証明している。

例

球面の半球

$S^n\subset\mathbb{R}^n\times\mathbb{R}$ の 2 つの滑らかな円板を
$$ k(x):=\Bigl(\frac{2x}{1+\lvert x\rvert^2},\ \frac{1-\lvert x\rvert^2}{1+\lvert x\rvert^2}\Bigr),\qquad k'(x):=\Bigl(\frac{2x}{1+\lvert x\rvert^2},\ \frac{\lvert x\rvert^2-1}{1+\lvert x\rvert^2}\Bigr) $$
とする(立体射影の逆写像を $D^n$ に制限したもので、それぞれ閉じた上半球・下半球の上への写像)。$k'=\tau\circ k$、$\tau(y,z)=(y,-z)$ であり、$\tau$ は $S^n$ の標準の向きを反転する($\det\tau=-1$ なので、向き付け可能多様体 の例「球面と等位集合」の体積形式 $\sigma_p(v)=\det(p,v)$ について $\tau^*\sigma=-\sigma$)。したがって $k$ と $k'$ の一方だけが向きを保ち、thm-disk-main により $k\simeq k'\circ r$ である。
この場合はイソトピーを具体的に書ける。$(y^1,z)$ 平面の角 $\pi\lambda(s)$ の回転を $R_s$($\lambda$ は prf-disk-extension の段 1 の関数)とすると、$R_s$ はコンパクトな $S^n$ のイソトピーで、$R_1(y,z)=(-y^1,y^2,\dots,y^n,-z)$ なので $R_1\circ k(x)=k'(r(x))$ である。上半球を裏返しながら下半球へ回すと、向きをそろえた下半球の円板になる。

平面と Möbius の帯
  1. $\mathbb{R}^n$ の中の円板 $f(x)=c+Ax$($A$ は正則行列)は、$\det A>0$ なら包含写像 $D^n\hookrightarrow\mathbb{R}^n$ と $\simeq$ で移り合う(lem-disk-local を恒等写像の全体座標で使う)。$\det A<0$ なら移り合わない(ex-disk-counterexamples の 1 行目)。
  2. 開いた Möbius の帯 $N=\bigl(\mathbb{R}\times(-1,1)\bigr)/\langle\tau\rangle$、$\tau(x,y)=(x+1,-y)$ は向き付け不可能である(向き付け可能多様体 の例「商として得られる多様体」の 3)。したがって $N$ の任意の滑らかな円板 $f$ について $f\simeq f\circ r$ である。直観的には、円板を中心線に沿って一周滑らせると、$\tau$ で $y$ の符号が変わるので裏返って戻ってくる。

反例と注意

外す条件反例成り立たなくなること
$f$ と $g$ の向きがそろっている$\mathbb{R}^n$ の包含写像 $\iota\colon D^n\hookrightarrow\mathbb{R}^n$ と $\iota\circ r$$\iota\simeq\iota\circ r$
$M$ が連結$M=\mathbb{R}^n\sqcup\mathbb{R}^n$ の、異なる連結成分に中心をもつ 2 つの円板$f\simeq g$
円板がコンパクト(閉円板)$\mathbb{R}^n$ の開埋め込み $\mathrm{id}_{\mathbb{R}^n}$ と $x\mapsto x/\sqrt{1+\lvert x\rvert^2}$微分同相写像 $\Phi$ で $\Phi\circ\mathrm{id}=$ 後者となるものがある
円板が滑らかAlexander の角付き球面(horned sphere)が囲む $\mathbb{R}^3$ の中の球体(位相的な埋め込み $D^3\to\mathbb{R}^3$ の像)$\mathbb{R}^3$ の同相写像で標準の $D^3$ をその像に写すものがある
反例の確認

1 行目:$H_1\circ\iota=\iota\circ r$ となるコンパクト台のイソトピー $H$ があったとする。$D^n$ の内部で $H_1=r$ なので $\det DH_1(0)=\det r=-1$ である。一方、$s\mapsto\det DH_s(0)$ は連続で、$H_s$ は微分同相写像なので $0$ にならず、$s=0$ で $1$ なので、$s=1$ でも正である。これは矛盾である。満たす性質は「$\mathbb{R}^n$ は連結で、$\iota$、$\iota\circ r$ は滑らかな円板」、破れている仮定は thm-disk-main の 1 の「ともに向きを保つかともに逆にする」である。
2 行目:$H_1\circ f=g$ なら、$s\mapsto H_s(f(0))$ は $f(0)$ と $g(0)$ を結ぶ連続な道なので、両者は同じ連結成分にある。
3 行目:$\Phi\circ\mathrm{id}=G$、$G(x):=x/\sqrt{1+\lvert x\rvert^2}$ なら $\Phi=G$ だが、$G$ の像は開球 $B_1$ で、$\Phi$ は全射なので矛盾である。$G$ は $\mathbb{R}^n$ から $B_1$ への微分同相写像(逆写像 $y\mapsto y/\sqrt{1-\lvert y\rvert^2}$)なので、どちらも向きを保つ開埋め込みである。閉円板は $M$ の中に余白を残して置かれるので、その外で変形を $0$ に切れる。開円板では、Kos93 Ch. III (3.6)(p. 52)のように $\mathbb{R}^n$ 全体への延長を仮定すれば同じ結論が成り立つ(同書は開円板の場合を先に示し、閉円板の場合をそこから導いている)。
4 行目:Alexander の角付き球面 $S\subset\mathbb{R}^3$ は $S^2$ と同相な部分集合で、閉球体 $B$ の位相的な埋め込み $f\colon B\to\mathbb{R}^3$ の像 $f(B)$ の境界であり、$\mathbb{R}^3\setminus f(B)$ は単連結でない(Hat02 Example 2B.2、pp. 170–172。この記事では証明しない)。$\mathbb{R}^3\setminus D^3$ は $S^2\times(1,\infty)$ と同相で単連結なので、$\mathbb{R}^3$ の同相写像で $D^3$ を $f(B)$ に写すものはない。位相的な埋め込みでは、円板の置き方は 1 通りではない。

補足

  • 一般の形:Hir76 Ch. 8 Theorem 3.1(pp. 185–186)は、$0\le k\le n$ について $k$ 次元の円板の埋め込み $D^k\to M$ を扱い($k=n$ で $M$ が向き付け可能なときだけ向きの条件を置く)、$M$ が境界をもつ場合も含めている($k=n$ で $M$ が境界をもたない場合は Ben19 Proposition 7.8、p. 145 も同じ主張を述べる)。Kos93 Ch. III (3.6) Corollary(p. 52)は、2 つの埋め込みが小さい円板の上で一致すればイソトピーをそこで動かさないようにとれることも述べる。互いに交わらない有限個の円板の組についても同じ主張が成り立つ(2 つの組は $M$ が境界をもたない場合に Hir76 Ch. 8 Theorem 3.2、p. 186、有限個の組は Kos93 Ch. III (3.7)、p. 52)。この記事ではこれらを証明しない。
  • イソトピーの延長:lem-disk-extension は、コンパクトな部分多様体のイソトピーが多様体全体のコンパクト台のイソトピーに延びるというイソトピー延長定理(Hir76 Ch. 8 Theorem 1.3・1.4、p. 180、Ben19 Proposition 7.2、pp. 140–141)の、余次元 $0$ の円板の場合である。一般の場合も、速度のベクトル場を延ばして流れをとるという同じ考え方で証明される。
  • 使われる場面:円板定理により、連結和はくり抜く円板の選び方によらずに決まり(Ben19 Proposition 7.9、p. 146)、ハンドルを貼り付けた結果は貼り付ける写像のイソトピー類だけで決まる(同 Proposition 7.15、p. 150)。

関連項目

参考文献

[1]
Antoni A. Kosinski, Differential Manifolds, Pure and Applied Mathematics 138, Academic Press, 1993, Ch. III (3.6) Corollary(円板定理。R. Palais による。開円板の場合と、小さい円板の上で動かさない場合を含む)・(3.7) Corollary(有限個の円板、p. 52);Ch. X §7 Historical Note (7.1)(円板定理は Cerf と Palais が独立に証明し 1960 年に出版、p. 219)
[2]
Morris W. Hirsch, Differential Topology, Graduate Texts in Mathematics 33, Springer, 1976, Ch. 8 §1 Theorem 1.3・1.4(イソトピー延長定理、p. 180);§3 Theorem 3.1(円板のイソトピー、pp. 185–186)・Theorem 3.2(交わらない 2 つの円板の組、p. 186)
[4]
Riccardo Benedetti, Lectures on Differential Topology, arXiv:1907.10297, arXiv:1907.10297v1(2019-07-24。のち AMS Graduate Studies in Mathematics 218 として刊行)。Proposition 7.2(Thom の補題、イソトピーの延長、pp. 140–141)、Proposition 7.8(円板の一意性、p. 145)、Proposition 7.9(連結和の一意性、p. 146)、Proposition 7.15(ハンドルの貼り付けは貼り付ける写像のイソトピー類で決まる、p. 150)
[5]
Allen Hatcher, Algebraic Topology, Cambridge University Press, 2002, §2.B Example 2B.2(Alexander の角付き球面。外側の成分が単連結でない、pp. 170–172)

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