長完全列

同義語:long exact sequenceコホモロジー長完全列

概要

長完全列(long exact sequence)とは、各項で前の写像の像が次の写像の核に一致し、次数を追って続く列である。複体の短完全列 $0\to A^\bullet\to B^\bullet\to C^\bullet\to0$ からは、接続準同型 $\delta\colon H^n(C^\bullet)\to H^{n+1}(A^\bullet)$ を介してコホモロジーの長完全列が得られ、これは短完全列の射について自然である。隣り合う項が消えていれば、間の写像が単射・全射・同型であることが読み取れる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 複体, ホモロジー, 完全列, 加群

短い列から次数をまたぐ列へ

長完全列(long exact sequence)は、複数の次数にわたって続く完全列である。ホモロジー代数で中心になるのは、複体の短完全列から作られる長完全列である。三つの複体が各次数で短完全列をなしていても、同じ次数のコホモロジーだけを並べて短完全列になるとは限らない。足りない部分を一つ次の次数につなぐ接続準同型が現れ、全体を長い完全列にする。
接続準同型は、ある複体のサイクルを真ん中の複体へ持ち上げ、その微分を別の複体の中で読み直す操作である。抽象的な定理だが、短い具体例では整数の $2$ 倍写像として現れ、群の大きさや写像の単射性・全射性を決定する。層コホモロジー、位相空間の相対コホモロジー、Ext 群の計算でも同じ形の列を使う。本記事ではコチェイン複体の記法で接続準同型を作り、完全性を各箇所で証明し、計算上の読み方と注意点を扱う。

定義と成立条件

$R$ を単位元を持つ環とし、$R$ 加群のコチェイン複体 $A^\bullet,B^\bullet,C^\bullet$ を考える。コチェイン複体では微分が次数を一つ上げ、$d_A^{n+1}d_A^n=0$ である。$n$ 次コホモロジーは
$$ H^n(A^\bullet)=\ker(d_A^n\colon A^n\to A^{n+1}) /\operatorname{im}(d_A^{n-1}\colon A^{n-1}\to A^n) $$
であり、$B,C$ についても同じように定める。鎖複体の記法では微分が次数を下げるので、後述の接続写像の行き先は $H_{n-1}$ になる。
複体の射 $i\colon A^\bullet\to B^\bullet$ と $q\colon B^\bullet\to C^\bullet$ があり、すべての整数 $n$ で
$$ 0\longrightarrow A^n\xrightarrow{i^n}B^n\xrightarrow{q^n}C^n \longrightarrow0 $$
が短完全列なら、$0\to A^\bullet\xrightarrow iB^\bullet\xrightarrow qC^\bullet\to0$ を複体の短完全列という。ここでは各 $i^n$ が単射、各 $q^n$ が全射、$\operatorname{im}i^n=\ker q^n$ であり、さらに $i,q$ は微分と可換である。この「さらに」がなければコホモロジーの誘導写像は定まらない。

長完全列

対象と射が両方向または片方向へ続く列で、各対象において入る射の像が出る射の核と等しいものを長完全列という。複体の短完全列に付随するコホモロジーの長完全列は、各次数の自然な写像と接続準同型 $\delta^n$ を交互につないだ
$$ \cdots\longrightarrow H^n(A)\xrightarrow{H^n(i)}H^n(B) \xrightarrow{H^n(q)}H^n(C)\xrightarrow{\delta^n} H^{n+1}(A)\longrightarrow\cdots $$
である。完全性は、この表示のすべての位置で成り立つ。

通常の「長い完全列」という言葉は、項数が多い完全列全般にも使える。上の構成を指すときは「短完全列に付随するコホモロジーの長完全列」と言えば曖昧さがない。一般のアーベル圏でも同じ定理が成り立ち、元を取る代わりに蛇の補題で接続射を構成する(StacksLES Lemma 12.13.12)。以下の元による証明は、加群やアーベル群の場合の具体的な姿である。

接続準同型の構成

$[c]\in H^n(C)$ を取り、$c\in C^n$ をコサイクルの代表とする。$q^n$ は全射なので $q^n(b)=c$ となる $b\in B^n$ を選べる。$q$ が複体の射であることから
$$ q^{n+1}(d_B^n b)=d_C^n(q^n b)=d_C^n c=0 $$
である。従って $d_B^n b$ は $\ker q^{n+1}=\operatorname{im}i^{n+1}$ に入り、一意の $a\in A^{n+1}$ により $d_B^n b=i^{n+1}(a)$ と書ける。さらに
$$ i^{n+2}(d_A^{n+1}a)=d_B^{n+1}i^{n+1}(a) =d_B^{n+1}d_B^n b=0 $$
であり、$i^{n+2}$ が単射なので $d_A^{n+1}a=0$ である。そこで $\delta^n([c])=[a]$ と定める。
式で要点を表すと、「$c$ を $b$ に持ち上げる → $b$ の微分を取る → $A$ の元 $a$ として読み直す → $[a]$ を取る」である。$c$ の微分は零でも、選んだ持ち上げ $b$ の微分まで零になるとは限らない。そのずれが接続準同型の値である。これが零なら、$b$ を $A$ の元だけ修正して、コサイクルの持ち上げにできる。

接続準同型は選択によらない

上の $\delta^n\colon H^n(C)\to H^{n+1}(A)$ は、$b$ の選び方と $c$ のコホモロジー類の代表の選び方によらない加群準同型である。

接続準同型の一意性

まず同じ $c$ の別の持ち上げを $b'$ とする。$q^n(b'-b)=0$ だから $b'-b=i^n(u)$ と書ける。$d_B b=i(a)$、$d_B b'=i(a')$ なら、$i(a'-a)=d_Bi(u)=i(d_Au)$ である。$i$ の単射性により $a'-a=d_Au$ で、$a,a'$ は同じコホモロジー類を表す。
次に同じ類の別の代表を $c'=c+d_Cv$ とする。$q^{n-1}$ は全射なので $q^{n-1}(w)=v$ となる $w\in B^{n-1}$ を選ぶ。$b+d_Bw$ は $c'$ の持ち上げであり、その微分は $d_Bb+d_B^2w=d_Bb$ だから、得られる $a$ は変わらない。二つの類の和に対しては持ち上げを足せば対応する $a$ も足され、スカラー倍も同様である。従って $\delta^n$ は選択によらない加群準同型である。

この証明は、代表を替えた場合と持ち上げを替えた場合を分ける点が大切である。一方だけを確認しても、コホモロジー類の写像が定義できたことにはならない。別の文献では接続準同型の符号を逆に定める場合もある。列の完全性に符号は影響しないが、他の自然な写像との可換性には符号規約が影響する。

なぜすべての位置で完全か

複体の短完全列の長完全列

複体の短完全列 $0\to A^\bullet\xrightarrow iB^\bullet\xrightarrow qC^\bullet\to0$ に対し、上で定義した $\delta^n$ を入れたコホモロジーの列は、すべての次数で完全である。

長完全列の完全性

三種類の位置を順に調べればよい。まず $H^n(B)$ において、$q i=0$ なので $\operatorname{im}H^n(i)\subseteq\ker H^n(q)$ である。逆に、$b\in B^n$ がコサイクルで、$[q(b)]=0$ とする。$q(b)=d_Cv$ となる $v\in C^{n-1}$ を選び、$q^{n-1}$ の全射性で $v=q(w)$ と持ち上げる。すると $q(b-d_Bw)=0$ だから $b-d_Bw=i(a)$ と書ける。$d_B(b-d_Bw)=0$ と $i$ の単射性から $d_Aa=0$ である。$[b]=H^n(i)[a]$ となり、この位置で完全である。
次に $H^n(C)$ において、$[b]\in H^n(B)$ がコサイクルであれば $c=q(b)$ の持ち上げをその $b$ 自身とでき、$d_Bb=0$ だから $\delta^nH^n(q)[b]=0$ である。逆に $\delta^n[c]=0$ とする。$q(b)=c$ を選び $d_Bb=i(a)$ と書くと、$[a]=0$ なので $a=d_Au$ となる $u\in A^n$ がある。$b-i(u)$ は微分が零で、像は $c$ のままである。従って $[c]=H^n(q)[b-i(u)]$ となり、この位置でも完全である。
最後に $H^{n+1}(A)$ において、接続準同型から来た $[a]=\delta^n[c]$ は $i(a)=d_Bb$ と表されるので $H^{n+1}(i)[a]=0$ である。逆に $a\in A^{n+1}$ がコサイクルで、$H^{n+1}(i)[a]=0$ なら、$i(a)=d_Bb$ となる $b\in B^n$ がある。$d_Cq(b)=q(d_Bb)=q i(a)=0$ だから $c=q(b)$ は $C$ のコサイクルであり、構成どおり $\delta^n[c]=[a]$ となる。以上で三種類すべての位置の像と核が一致し、次数 $n$ は任意なので列全体が完全である。

この証明で必要なのは、各次数の列の単射・全射・像と核の一致、微分との可換性、微分の二乗が零という条件だけである。複体が有界であることや、列が各次数で分裂することは仮定していない。次数が端で尽きる場合には、存在しない項を零として同じ長完全列を読む。

整数を使った接続写像の計算

接続写像が形式的な零写像とは限らないことを、二項複体で確かめる。$B^0=B^1=\mathbb Z$、$d_B^0$ を $2$ 倍写像とし、他の項は零とする。$A$ は $A^1=\mathbb Z$ のみ非零で、$A^1\to B^1$ を恒等写像とする。$C$ は $C^0=\mathbb Z$ のみ非零で、$B^0\to C^0$ を恒等写像とする。各次数で
$$ 0\to A^n\to B^n\to C^n\to0 $$
は短完全列であり、$i,q$ は複体の射である。次数 $0$ の $C$ のコサイクル $c\in\mathbb Z$ を $B^0$ の同じ整数 $b=c$ に持ち上げると、その微分は $2c\in B^1=A^1$ である。従って
$$ \delta^0\colon H^0(C)=\mathbb Z\longrightarrow H^1(A)=\mathbb Z, \qquad c\longmapsto2c $$
となる。これは零写像でも全射でもない。
$B$ のコホモロジーは $H^0(B)=\ker(2\colon\mathbb Z\to\mathbb Z)=0$ と $H^1(B)=\operatorname{coker}(2)=\mathbb Z/2\mathbb Z$ である。従って長完全列の非零部分は
$$ 0\longrightarrow\mathbb Z\xrightarrow{\;2\;}\mathbb Z \longrightarrow\mathbb Z/2\mathbb Z\longrightarrow0 $$
になる。左の $\mathbb Z$ は $H^0(C)$、右の $\mathbb Z$ は $H^1(A)$ である。接続写像の像は偶数全体、その次の写像の核も偶数全体なので、完全性を直接目で確認できる。
この例では各次数の短完全列は加群として分裂する。次数 $0$ と次数 $1$ では、一方の端が零だから明らかである。しかし、複体全体として $B^\bullet\cong A^\bullet\oplus C^\bullet$ にはならない。もしそうなら $B$ の微分は直和の微分に対応し、ここでは零になってしまう。実際の $d_B^0=2$ は非零である。次数ごとの分裂と、複体としての分裂は別であり、前者だけから $\delta=0$ と結論してはならない。

自然性と分裂した場合

三つの複体の短完全列から別の短完全列への可換な射があるとき、対応する長完全列の各矢印も可換になる。特に接続準同型は、右端の複体のコホモロジーから左端の複体の一つ次のコホモロジーへの写像として自然に振る舞う。これを接続写像の自然性という(StacksLES)。

接続準同型の自然性

二つの複体の短完全列と、それらを結ぶ可換な射 $(u,v,w)$ があるとする。このときすべての $n$ で
$$ H^{n+1}(u)\,\delta^n=\delta'^{\,n}\,H^n(w) $$
が成り立つ。右辺の $\delta'$ は下側の短完全列から作る接続準同型である。

自然性

$[c]\in H^n(C)$ を取り、$q(b)=c$、$d_Bb=i(a)$ とする。可換性から $q'(v(b))=w(c)$ なので、$v(b)$ は $w(c)$ の持ち上げである。また $d_{B'}v(b)=v(d_Bb)=v i(a)=i'u(a)$ である。従って下側の列で $[w(c)]$ から作る接続類は $[u(a)]$ である。これは $H^{n+1}(u)(\delta^n[c])$ に等しい。任意の $[c]$ について成り立つから式が従う。

自然性は、複体を別の複体で計算し直した場合に、接続準同型の値が比較写像と両立することを保証する。ただし縦の三本の写像が単なる群準同型であればよいわけではない。短完全列の横の写像とも、各複体の微分とも可換である必要がある。

複体として分裂すると接続写像は零

短完全列が複体の射 $s\colon C^\bullet\to B^\bullet$ によって分裂し、$q s=\operatorname{id}_{C^\bullet}$ を満たすなら、すべての接続準同型 $\delta^n$ は零である。

分裂した場合

$c$ を $C^n$ のコサイクルとし、持ち上げに $b=s(c)$ を選ぶ。$s$ は複体の射だから $d_Bb=d_Bs(c)=s(d_Cc)=0$ である。接続準同型の構成では $d_Bb=i(a)$ なので $a=0$ と選べる。従って $\delta^n[c]=0$ である。これは全次数のすべての類について成り立つ。

なお逆向きに「全 $\delta^n$ が零だから複体の短完全列は分裂する」とは、一般には言えない。長完全列はコホモロジー上の障害を測るのであって、次数ごとの分裂や複体の射としての切断の存在をすべて記録するわけではない。例えば次数 $0$ にだけ非分裂な加群の短完全列を置いた三つの複体では、行き先の $H^1(A)$ が零だから $\delta^0=0$ だが、元の加群の列は非分裂のままである。

消滅判定と端の読み方

長完全列は、未知の群を一度に全部計算するより、隣の群の消滅から写像の性質を読むと使いやすい。固定した $n$ について
$$ H^{n-1}(C)\xrightarrow{\delta^{n-1}}H^n(A) \xrightarrow{H^n(i)}H^n(B) \xrightarrow{H^n(q)}H^n(C) \xrightarrow{\delta^n}H^{n+1}(A) $$
を抜き出す。$H^{n-1}(C)=0$ なら $H^n(i)$ は単射、$H^n(C)=0$ なら $H^n(i)$ は全射である。従って $H^{n-1}(C)=H^n(C)=0$ なら $H^n(A)\cong H^n(B)$ となる。対称的に $H^n(A)=H^{n+1}(A)=0$ なら $H^n(B)\cong H^n(C)$ である。
この言い方には一つ注意がある。例えば $H^{n-1}(C)=0$ だけで $H^n(A)\to H^n(B)$ が同型とは限らない。単射性と全射性は、長完全列の左側と右側にある別々の群の消滅で決まる。消滅の次数を一つ取り違えると結論も変わる。必要な五項を毎回書き出すのが安全である。
$A$ が全次数で非輪状なら、長完全列から $H^n(B)\to H^n(C)$ は全次数で同型になる。つまり $B^\bullet\to C^\bullet$ は擬同型である。同様に $C$ が非輪状なら $A^\bullet\to B^\bullet$ が擬同型となる。この判定は、商複体または部分複体のコホモロジーを直接計算する代わりに、もう一方の非輪状性を証明すればよいことを示す。
短完全列が $n<0$ で零の複体からなるとき、左端を入れて
$$ 0\to H^0(A)\to H^0(B)\to H^0(C) \xrightarrow{\delta^0}H^1(A)\to H^1(B)\to\cdots $$
と書ける。$H^0(B)\to H^0(C)$ が全射でないことは矛盾ではない。全射性が失敗した分は $\delta^0$ によって $H^1(A)$ へ送られる。層の大域切断でこの形が現れると、局所的には持ち上げられる切断を大域的には持ち上げられない障害が $H^1$ に入る。

他の文脈への接続と限界

ホモロジーを下付き添字で書く鎖複体 $0\to A_\bullet\to B_\bullet\to C_\bullet\to0$ からも長完全列ができる。この場合、接続準同型は $\partial_n\colon H_n(C)\to H_{n-1}(A)$ と次数を下げる。コチェインの場合の $\delta^n\colon H^n(C)\to H^{n+1}(A)$ と見かけの向きが逆になるのは、元の微分が次数を下げるか上げるかの違いである。位相空間の対に付随する相対ホモロジーの列や、層コホモロジーの列を読み比べるときは、この添字の規約を確かめる。
層の短完全列 $0\to\mathcal F\to\mathcal G\to\mathcal H\to0$ からも、層コホモロジー $H^n(X,-)$ の長完全列が得られる。ただし層の全射は各開集合上の切断の全射を意味しない。従って、各開集合 $U$ の群 $\mathcal F(U),\mathcal G(U),\mathcal H(U)$ に本記事の複体の元による証明をそのまま適用するのは誤りである。入射分解や適切な非輪状分解を用いて長完全列を得る。実際の幾何学的計算では、短完全列そのものは層として確認し、適切な導来関手の長完全列を使う(StacksSheafLES の例を参照)。
導来圏では、複体の短完全列から三角形が作られ、コホモロジーを施して長完全列を得る。写像錐の三角形 $C^\bullet\to D^\bullet\to\operatorname{Cone}(f)\to C^\bullet[1]$ の長完全列からは、$f$ が擬同型であることと錐が非輪状であることの同値性が従う。これは別々の定理に見えて、同じ接続写像の仕組みを異なる形で使っている(StacksDerived Section 13.11)。
長完全列は何でも短完全列にする装置ではない。出発点に短完全列またはそれに相当する三角形が必要であり、接続写像を省いて同じ次数だけをつないだ列が完全になるとは限らない。また長完全列から個々の群の同型型を常に一意に決められるわけでもない。例えば $0\to\mathbb Z/2\mathbb Z\to E\to\mathbb Z/2\mathbb Z\to0$ という情報だけでは $E$ が $\mathbb Z/4\mathbb Z$ か $(\mathbb Z/2\mathbb Z)^2$ かは決まらない。長完全列は像と核を厳密に制約するが、拡大の情報が別に必要な場合がある。

反例:条件を外すと何が崩れるか

この記事の定理・命題の仮定を一つずつ外すと、次のように結論が崩れる。

外す条件反例成り立たなくなること
接続準同型を入れること節「整数を使った接続写像の計算」の複体同じ次数のコホモロジーだけを並べた列が完全であること
$q$ が微分と可換であること$B$:$\mathbb Z\xrightarrow{\mathrm{id}}\mathbb Z$、$C$:$\mathbb Z\xrightarrow{0}\mathbb Z$、$q=\mathrm{id}$コホモロジーに写像 $H^n(q)$ が誘導されること
切断 $s$ が複体の射であること(分裂の命題)同じく節「整数を使った接続写像の計算」の複体各次数で分裂すれば $\delta=0$ となること
命題「複体として分裂すると接続写像は零」の逆次数 $0$ だけに置いた $0\to\mathbb Z\xrightarrow2\mathbb Z\to\mathbb Z/2\mathbb Z\to0$$\delta=0$ なら複体の短完全列が分裂すること
拡大の情報$\mathbb Z/4\mathbb Z$ と $(\mathbb Z/2\mathbb Z)^2$長完全列だけで中央の群の同型類が決まること
反例:接続準同型を省いた列と、各次数だけの分裂

節「整数を使った接続写像の計算」の $A,B,C$ で、次数 $0$ のコホモロジーだけを並べると
$$ 0\longrightarrow H^0(A)=0\longrightarrow H^0(B)=0\longrightarrow H^0(C)=\mathbb Z\longrightarrow0 $$
となり、$H^0(C)$ で完全でない($H^0(B)\to H^0(C)$ の像は $0$、次の零写像の核は $\mathbb Z$)。完全性を回復するのが $\delta^0$ で、定理「複体の短完全列の長完全列」はこの写像を入れて初めて成り立つ。
同じ例は各次数で加群として分裂している(次数 $0$ で $A^0=0$、次数 $1$ で $C^1=0$)が、$\delta^0(c)=2c\ne0$ である。各次数の切断 $s^0=\mathrm{id}:C^0\to B^0$ は $d_B^0s^0=2\ne0=s^1d_C^0$ で微分と可換でなく、複体の射でない。破る仮定は命題「複体として分裂すると接続写像は零」の「$s$ が複体の射」である。

反例:微分と可換でない写像はコホモロジーに写像を誘導しない

$B$ を $B^0=B^1=\mathbb Z$、$d_B^0=\mathrm{id}$、$C$ を $C^0=C^1=\mathbb Z$、$d_C^0=0$ とし(他の項は零)、各次数で $q^n=\mathrm{id}$ と置く。$1\in B^1$ は $d_B^0(1)$ なので $H^1(B)$ で零の類を表すが、$q^1(1)=1$ は $H^1(C)=\mathbb Z$ で零でない類を表す。よって「$[b]\mapsto[q(b)]$」は類の上で値が定まらない。破る仮定は $q^1d_B^0=d_C^0q^0$(ここでは $1\ne0$)であり、節「定義と成立条件」で「さらに」と強調した条件である。

反例:接続写像が全部零でも分裂しない

$A,B,C$ を次数 $0$ だけに $\mathbb Z,\mathbb Z,\mathbb Z/2\mathbb Z$ を置いた複体とし、$0\to\mathbb Z\xrightarrow{2}\mathbb Z\to\mathbb Z/2\mathbb Z\to0$ を複体の短完全列とみる。$H^1(A)=0$ なのですべての $\delta^n$ は零である。しかしこの列は加群として分裂しない。分裂すれば $\mathbb Z\cong\mathbb Z\oplus\mathbb Z/2\mathbb Z$ となり、左辺には位数 $2$ の元がないのに右辺にはあるからである。複体の射としての切断もない。命題「複体として分裂すると接続写像は零」の逆は成り立たない。

反例:長完全列だけでは拡大が決まらない

$0\to\mathbb Z/2\mathbb Z\xrightarrow{\times2}\mathbb Z/4\mathbb Z\to\mathbb Z/2\mathbb Z\to0$ と $0\to\mathbb Z/2\mathbb Z\to(\mathbb Z/2\mathbb Z)^2\to\mathbb Z/2\mathbb Z\to0$(第一成分への包含と第二成分への射影)はどちらも完全で、両端の群は同じである。しかし $\mathbb Z/4\mathbb Z$ には位数 $4$ の元 $1$ があり、$(\mathbb Z/2\mathbb Z)^2$ の非零元はすべて位数 $2$ なので、中央の群は同型でない。長完全列の中で両隣が決まっても、中央の群は拡大の情報なしには決まらない。

参照箇所

原典

複体の短完全列から長完全列ができる定理、接続準同型の蛇の補題による構成、自然性は StacksLES Lemma 12.13.12 に従った。導来圏における長完全コホモロジー列と擬同型の判定は StacksDerived Section 13.11 に対応する。層コホモロジーでの使用例は StacksSheafLES Section 59.28 の Kummer 列を参照した。

関連項目

参考文献

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