平坦族(flat family)とは、平坦射 $f\colon X\to T$ をファイバー $X_t$ の族とみたもので、ファイバーが底の点 $t$ について連続的に変わる族の代数的な定式化である。射影空間の閉部分スキーム $X\subset\mathbb{P}^n_T$ の族では、底 $T$ が Noether 整スキームのとき、$X$ が $T$ 上平坦であることと、ファイバーの Hilbert 多項式が $t$ によらないことが同値になる。その帰結として、連結な Noether スキーム上の空でない射影的な平坦族では、ファイバーの次元・次数・算術種数が一定である。Hilbert スキームや変形理論の土台になる概念である。
前提知識: 平坦射, 射影空間, 連接層, Hilbert多項式, Serreの消滅定理
スキームの射 $f\colon X\to T$ は、$T$ の点 $t$ ごとのファイバー $X_t$ を並べた「$T$ をパラメータとする族」とみることができる。ファイバーが $t$ について連続的に変わる族を代数的にとらえたものが平坦族、すなわち平坦な射である。射影空間の閉部分スキームの族では、底が Noether 整スキームのとき、平坦であることはファイバーの Hilbert 多項式がすべて等しいことと同値になる。この記事ではこの定理を証明し、平坦族ではファイバーの次元・次数・算術種数が一定であることを導く。
$T$ をスキームとする。
ファイバーの不変量として、Hilbert 多項式を用いる。
$k$ を体、$\mathcal G$ を $\mathbb P^n_k$ 上の連接層とする。すべての整数 $m$ について $\chi(\mathcal G(m))=\sum_{i\ge0}(-1)^i\dim_kH^i(\mathbb P^n_k,\mathcal G(m))$ と一致する有理係数の多項式がただ 1 つある(算術種数 の補題「Euler 標数の多項式性」)。これを $\mathcal G$ の Hilbert 多項式 $P_{\mathcal G}$ という。Serreの消滅定理 により、十分大きい $m$ では
$$
P_{\mathcal G}(m)=\dim_kH^0(\mathbb P^n_k,\mathcal G(m))
$$
である。閉部分スキーム $Z\subset\mathbb P^n_k$ の Hilbert 多項式 $P_Z$ は、包含 $\iota$ による $\iota_*\mathcal O_Z$ の Hilbert 多項式であり、$Z\ne\emptyset$ なら斉次座標環 $S/I_Z$ の Hilbert 多項式に一致する(算術種数 の定理「Hilbert 多項式の定数項」)。$\mathbb P^n_T$ 上の連接層 $\mathcal F$ と $t\in T$ について、ファイバー $\mathcal F_t$($\mathbb P^n_{\kappa(t)}$ 上の連接層)の Hilbert 多項式を $P_t$ と書く。
$Z=\emptyset$ なら $P_Z=0$ である。逆に $Z\ne\emptyset$ なら $P_Z\ne0$ である。実際、ある $m_0$ 以上のすべての $m$ で $(S/I_Z)_m=0$ なら $I_Z$ は $(x_0,\dots,x_n)^{m_0}$ を含み、$Z=V_+(I_Z)=\emptyset$ となる。
$T$ を Noether 整スキーム、$\mathcal F$ を $\mathbb P^n_T$ 上の連接層とする。次は同値である。
1 から 2 の向きには、$T$ が整である代わりに連結な Noether スキームであれば足りる(cor-flat-family-invariants の 1。証明は連接層 $\mathcal F$ についてもそのまま通る)。2 から 1 の向きには要る(ex-flat-family-nonreduced-base)。証明は、底を局所環に取り替えて、大域切断の加群 $H^0(\mathbb P^n_A,\mathcal F(m))$ が自由であるという条件を仲立ちにする。
この節では、$A$ を Noether 局所環、$\mathfrak m$ をその極大イデアル、$k=A/\mathfrak m$、$X=\mathbb P^n_A$、$S=A[x_0,\dots,x_n]$ とし、$\mathcal F$ を $X$ 上の連接層とする。$X$ の標準的なアフィン開被覆 $\mathcal U=\{D_+(x_i)\}_{0\le i\le n}$ を用いる。$t\in\operatorname{Spec}A$ のファイバー $X_t=\mathbb P^n_{\kappa(t)}$ と $\mathcal F_t$ を考える。
平坦性を仮定しない。各 $t\in\operatorname{Spec}A$ について整数 $m_t$ があり、$m\ge m_t$ なら自然な写像
$$
H^0(X,\mathcal F(m))\otimes_A\kappa(t)\longrightarrow H^0(X_t,\mathcal F_t(m))
$$
は同型である。
要点:閉点では、$\mathfrak m$ の表示 $A^q\to A\to k\to0$ を $\mathcal F$ にテンソルした列に、十分高くひねると $H^0$ が右完全になることを当てる。一般の点では、平坦な $A_{\mathfrak p}$ へ底変換して閉点の場合に帰着する。
閉点の場合. まず次を示す:連接層の完全列 $\mathcal G'\to\mathcal G\to\mathcal G''\to0$ に対し、十分大きい $m$ で $H^0(\mathcal G'(m))\to H^0(\mathcal G(m))\to H^0(\mathcal G''(m))\to0$ は完全である。$\mathcal I$ を $\mathcal G'\to\mathcal G$ の像、$\mathcal K$ をその核とすると、$0\to\mathcal K\to\mathcal G'\to\mathcal I\to0$ と $0\to\mathcal I\to\mathcal G\to\mathcal G''\to0$ は連接層の短完全列である。Serreの消滅定理 により、十分大きい $m$ で $H^1(\mathcal K(m))=H^1(\mathcal I(m))=0$ となる。コホモロジーの長完全列から $H^0(\mathcal G'(m))\to H^0(\mathcal I(m))$ は全射で、$0\to H^0(\mathcal I(m))\to H^0(\mathcal G(m))\to H^0(\mathcal G''(m))\to0$ は完全である。2 つを合わせて主張を得る。
$\mathfrak m$ の生成元 $a_1,\dots,a_q$ をとり、完全列 $A^q\to A\to k\to0$ を考える。これに $\mathcal F\otimes_A-$ を施すと、テンソル積の右完全性により $\mathcal F^q\to\mathcal F\to\mathcal F/\mathfrak m\mathcal F\to0$ は完全で、$\mathcal F/\mathfrak m\mathcal F=\iota_*\mathcal F_t$($\iota\colon X_t\to X$ は閉ファイバーの包含)である。$\mathcal O(m)$ をテンソルしても完全であり、上の主張から、十分大きい $m$ で$H^0(X,\mathcal F(m))^q\to H^0(X,\mathcal F(m))\to H^0(X_t,\mathcal F_t(m))\to0$は完全である(閉埋め込みによる押し出しはコホモロジーを変えない。Har77 III 補題 2.10)。最初の写像は $(s_i)\mapsto\sum a_is_i$ である。一方、$A^q\to A\to k\to0$ に $H^0(X,\mathcal F(m))\otimes_A-$ を施した完全列でも最初の写像は同じなので、2 つの余核は一致し、$H^0(X,\mathcal F(m))\otimes_Ak\cong H^0(X_t,\mathcal F_t(m))$ を得る。
一般の点の場合. $t$ に対応する素イデアルを $\mathfrak p$ とし、$A'=A_{\mathfrak p}$、$X'=\mathbb P^n_{A'}$、$\mathcal F'$ を $\mathcal F$ の $X'$ への引き戻しとする。$H^0$ は Čech 複体の $C^0\to C^1$ の核であり(層の公理)、アフィン開集合 $D_+(x_{i_0}\cdots x_{i_p})$ 上の切断は $-\otimes_AA'$ で引き戻される。$A'$ は平坦 $A$ 加群なので $-\otimes_AA'$ は核を保ち、$H^0(X',\mathcal F'(m))\cong H^0(X,\mathcal F(m))\otimes_AA'$ である。$t$ は $A'$ の閉点で、$\mathcal F'$ のそこでのファイバーは $\mathcal F_t$ である。閉点の場合を $A'$ に当てれば$H^0(X_t,\mathcal F_t(m))\cong H^0(X',\mathcal F'(m))\otimes_{A'}\kappa(t)\cong H^0(X,\mathcal F(m))\otimes_A\kappa(t)$を十分大きい $m$ について得る。$\square$
$A$ を Noether 局所整域、$K$ をその商体とし、$M$ を有限生成 $A$ 加群とする。$\dim_kM\otimes_Ak=\dim_KM\otimes_AK=r$ なら、$M$ は階数 $r$ の自由加群である。
要点:中山の補題で $r$ 個の生成元をとり、生成点で次元を比べると関係式の加群は捩れになるが、自由加群の部分加群なので $0$ である。
中山の補題 により、$M\otimes_Ak$ の基底の持ち上げ $u_1,\dots,u_r$ は $M$ を生成する。全射 $\varphi\colon A^r\to M$、$e_i\mapsto u_i$ の核を $N$ とする。$-\otimes_AK$ は局所化なので完全であり、$K^r\to M\otimes_AK$ は全射である。両辺は $K$ 上 $r$ 次元なのでこれは同型であり、$N\otimes_AK=0$ である。よって $N$ の各元はある $0$ でない $a\in A$ で消える。ところが $N\subset A^r$ で $A$ は整域だから、$N=0$ である。$\square$
この節の設定で、次の条件を考える。
(a)⇒(b):$U_I=D_+(x_{i_0}\cdots x_{i_p})$ をアフィン開集合 $\operatorname{Spec}B_I$ とし、$M_I=\mathcal F(U_I)$ とおく。$M_I$ の素イデアル $\mathfrak q\subset B_I$ での局所化は茎 $\mathcal F_x$ であり、仮定によりこれは $A_{\mathfrak p}$($\mathfrak p$ は $\mathfrak q$ の $A$ への引き戻し)上平坦、$A_{\mathfrak p}$ は $A$ 上平坦なので $A$ 上平坦である(平坦射 の記事の命題「合成と底変換」の証明の前半)。$N'\to N$ を $A$ 加群の単射とし、$L=\ker(N'\otimes_AM_I\to N\otimes_AM_I)$ とおくと、$L$ は $B_I$ 加群で、局所化の完全性からすべての $\mathfrak q$ で $L_{\mathfrak q}=0$、よって $L=0$ である(平坦射 の記事の命題「平坦性の局所性」の 3⇒1 と同じ議論)。ゆえに $M_I$ は $A$ 上平坦である。$U_I$ の上で $\mathcal F(m)\cong\mathcal F$ なので、Čech 複体 $C^\bullet=C^\bullet(\mathcal U,\mathcal F(m))$ の各項は平坦 $A$ 加群の有限直積であり、平坦である。
$X$ は Noether 分離スキームなので、$\mathcal U$ の Čech 複体は層コホモロジーを計算する(Har77 III 定理 4.5)。Serreの消滅定理 により、ある $m_0$ 以上の $m$ で $i\ge1$ の $H^i(X,\mathcal F(m))$ は消えるから、
$$
0\to H^0(X,\mathcal F(m))\to C^0\to C^1\to\cdots\to C^n\to0
$$
は完全である。$Z^i=\ker(C^i\to C^{i+1})$ とおくと、$0\to Z^i\to C^i\to Z^{i+1}\to0$ は完全で $Z^n=C^n$ である。平坦加群への全射の核は平坦である($\operatorname{Tor}$ の長完全列で $\operatorname{Tor}_2(-,Z^{i+1})=0$、$\operatorname{Tor}_1(-,C^i)=0$ から $\operatorname{Tor}_1(-,Z^i)=0$。平坦射 の記事の命題「$\operatorname{Tor}$ による平坦性の特徴づけ」)。$i$ を下げながら、$Z^0=H^0(X,\mathcal F(m))$ は平坦である。この加群は有限生成であり(Har77 III 定理 5.2 (a))、Noether 局所環上の有限生成平坦加群は自由である(平坦射 の記事の注意「イデアルによる判定と局所判定」)。
(b)⇒(a):$M=\bigoplus_{m\ge m_0}H^0(X,\mathcal F(m))$ は次数付き $S$ 加群で、$A$ 加群として自由である。$\Gamma_*(\mathcal F)=\bigoplus_{m\in\mathbb Z}H^0(X,\mathcal F(m))$ について $\Gamma_*(\mathcal F)^\sim\cong\mathcal F$ である(Har77 II 命題 5.15)。$\Gamma_*(\mathcal F)_{(x_i)}$ の元 $s/x_i^e$ は $x_i^js/x_i^{e+j}$ に等しいので、次数の高い部分だけを使って書け、$M_{(x_i)}=\Gamma_*(\mathcal F)_{(x_i)}$、すなわち $\mathcal F(D_+(x_i))\cong M_{(x_i)}$ である。$A$ 加群 $N$ について $N\otimes_AM_{x_i}=(N\otimes_AM)_{x_i}$ であり、$N\mapsto N\otimes_AM$ と局所化はどちらも完全だから、$M_{x_i}$ は $A$ 上平坦である。$M_{(x_i)}$ はその次数 $0$ の部分で、$A$ 加群の直和因子だから平坦である。茎はその局所化なので、$\mathcal F$ は $\operatorname{Spec}A$ 上平坦である。
(b)⇒(c):$m\ge m_0$ で $r_m:=\operatorname{rank}_AH^0(X,\mathcal F(m))$ とおく。各 $t$ について、lem-flat-family-sections-fibre と $P_t$ の定義から、十分大きいすべての $m$ で $P_t(m)=\dim_{\kappa(t)}H^0(X,\mathcal F(m))\otimes_A\kappa(t)=r_m$ である。2 つの多項式が無限個の整数で一致すれば等しいので、$P_t$ は $t$ によらない。
(c)⇒(b):$A$ を整域、$t_0$ を閉点、$\eta$ を生成点とする。lem-flat-family-sections-fibre を $t_0$ と $\eta$ に当て、十分大きい $m$ で
$$
\dim_kH^0(X,\mathcal F(m))\otimes_Ak=P_{t_0}(m)=P_\eta(m)=\dim_KH^0(X,\mathcal F(m))\otimes_AK
$$
を得る。$H^0(X,\mathcal F(m))$ は有限生成なので、lem-flat-family-rank により自由である。$\square$
$t\in T$ をとり、$A=\mathcal O_{T,t}$、$T'=\operatorname{Spec}A\to T$ とする。$T'$ の点は $t$ の一般化($\overline{\{t'\}}\ni t$ となる $t'$)に対応し、剰余体は変わらない。$X'=\mathbb P^n_A=\mathbb P^n_T\times_TT'$ の点は $\mathbb P^n_T$ のうち $T'$ の点の上にある点に対応し、局所環は変わらない(アフィン開集合の上では、局所化の局所化である)。よって $\mathcal F$ の $X'$ への引き戻し $\mathcal F'$ について、
$T$ を連結な Noether スキーム、$X\subset\mathbb P^n_T$ を $T$ 上平坦な閉部分スキームとする。
1:$\mathcal F=\iota_*\mathcal O_X$ とする。$t\in T$ と $A=\mathcal O_{T,t}$ について、prf-flat-family-hilbert と同じく引き戻し $\mathcal F'$ は $\operatorname{Spec}A$ 上平坦であり、prop-flat-family-local の (a)⇒(b)⇒(c) は $A$ が整域でなくても成り立つから、$t$ のすべての一般化 $t'$ で $P_{t'}=P_t$ である。$T$ は Noether なので既約成分 $T_1,\dots,T_s$ は有限個で、$T_j$ の生成点 $\eta_j$ は $T_j$ のすべての点の一般化だから、$P_t$ は各 $T_j$ の上で $P_{\eta_j}$ に等しい。$T_j\cap T_l\ne\emptyset$ なら $P_{\eta_j}=P_{\eta_l}$ である。$P_{\eta_j}$ の値ごとに既約成分を分けると、異なる組の和集合どうしは交わらない閉集合で $T$ を覆う。$T$ は連結だから組は 1 つで、$P_t$ は一定である。
2:$X\ne\emptyset$ なら空でないファイバーがあり、その Hilbert 多項式は $0$ でない(def-flat-family-hilbert の後の注意)。1 によりすべての $P_t$ は $0$ でなく、すべての $X_t$ は空でない。空でない射影スキームの次元は Hilbert 多項式の次数に等しい(Hilbert多項式 の注意「射影多様体の Hilbert 多項式」、Har77 I 定理 7.5 を代数閉包 $\overline{\kappa(t)}$ への底変換で使う。Hilbert 多項式は基礎体の拡大で変わらず、次元も変わらない(EGA4 系 4.1.4(p. 54)・系 5.2.2(p. 90))。この記事では証明しない)。算術種数の式は 算術種数 の定理「Hilbert 多項式の定数項」である。3 つの量はどれも $P_t$ だけで決まるので一定である。$\square$
$X=\emptyset$ のときはすべてのファイバーが空で $P_t=0$ であり、次元と次数は上の式では定まらない。2 で $X\ne\emptyset$ を仮定するのはこのためである。$X\ne\emptyset$ のもとでは、$T$ が連結なのですべてのファイバーが空でないことも結論に含まれる。
平坦族の極限、すなわち 1 次元の底から 1 点を除いた上の平坦族がただ 1 通りに延びることは 平坦極限 で扱う。平坦射の開性 は、平坦族の像が開集合になることを述べる。
$R$ を Noether 整域、$d\ge1$、$F\in R[x_0,\dots,x_n]$ を $d$ 次の斉次多項式とし、$F$ の係数が生成する $R$ のイデアルが $R$ 全体であるとする。$X=V_+(F)\subset\mathbb P^n_R$ の $t\in\operatorname{Spec}R$ でのファイバーは、係数を $\kappa(t)$ に送った $F_t$ の定める超曲面 $V_+(F_t)\subset\mathbb P^n_{\kappa(t)}$ である。係数の仮定から $F_t\ne0$ であり、$F_t$ 倍は $\mathbb P^n_{\kappa(t)}$ の各標準アフィン開集合の座標環(多項式環)で単射なので、層の完全列 $0\to\mathcal O(-d)\xrightarrow{F_t}\mathcal O\to\mathcal O_{X_t}\to0$ がある。Euler 標数の加法性と $\chi(\mathcal O_{\mathbb P^n}(m))=\binom{m+n}{n}$(Har77 III 定理 5.1)から
$$
P_t(m)=\binom{m+n}{n}-\binom{m-d+n}{n}
$$
であり、これは $t$ によらない。thm-flat-family-hilbert により $X$ は $\operatorname{Spec}R$ 上平坦である。たとえば $R=k[s]$、$F=x_0x_1-sx_2^2$ とすると、$s\ne0$ で滑らかな 2 次曲線、$s=0$ で 2 直線の和になる平坦族を得る(Hilbert 多項式は $2m+1$。平坦射 の記事の例「平坦族の例:$xy=t$」と同じ族である)。
係数の仮定を外すと結論は崩れる。$F=sx_0$ のとき、$s\ne0$ のファイバーは超平面だが $s=0$ のファイバーは $\mathbb P^n$ 全体であり、Hilbert 多項式が変わるので平坦でない。
$k$ を体、$T=\mathbb A^1_k=\operatorname{Spec}k[s]$ とし、$\mathbb P^2$ の 3 点 $p_1=(1:0:0)$、$p_2=(0:1:0)$、$p_3(s)=(1:1:s)$ を考える。どの $s$ でも 3 点は相異なるので、3 つの切断 $T\to\mathbb P^2_T$ の像は交わらない閉部分スキームで、その和 $X$ は $T$ の 3 つのコピーの非交和と同型である。よって $X$ は $T$ 上平坦で、どのファイバーも Hilbert 多項式 $3$ をもつ。
各ファイバー $X_s\subset\mathbb P^2_{\kappa(s)}$ の上の射影錐 $C(X_s)\subset\mathbb P^3_{\kappa(s)}$ を、斉次イデアル $I_s$ が $\kappa(s)[x_0,\dots,x_3]$ で生成するイデアルで定める(射影錐)。その斉次座標環は $(S/I_s)[x_3]$ なので、$h_s(j)=\dim(S/I_s)_j$ とおくと $m$ 次の部分の次元は $\sum_{j=0}^mh_s(j)$ である。$h_s(j)$ は $j$ 次形式を 3 点で評価する写像 $S_j\to\kappa(s)^3$ の階数に等しい。
$k$ を体、$T=\operatorname{Spec}k[\varepsilon]/(\varepsilon^2)$ とし、$X=V_+(\varepsilon x_1)\subset\mathbb P^1_T$ とする。$T$ はただ 1 点からなるので Hilbert 多項式の一定性は自明に成り立つ(ファイバーは $\mathbb P^1_k$ で $P=m+1$)。しかし $X$ は $T$ 上平坦でない。アフィン開集合 $x_0\ne0$ の座標環は $B=k[\varepsilon][u]/(\varepsilon u)$($u=x_1/x_0$)である。$B$ が平坦なら、完全列 $0\to k\xrightarrow{\varepsilon}k[\varepsilon]\to k\to0$(左の写像は $1\mapsto\varepsilon$)に $-\otimes B$ を施した $0\to B/\varepsilon B\xrightarrow{\varepsilon}B$ も単射のはずだが、$u\notin\varepsilon B$ かつ $\varepsilon u=0$ である。$T$ は Noether で連結だが整でないので、thm-flat-family-hilbert の 2⇒1 は使えない。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 主定理の 1⇒2 の「$\mathcal F$ が平坦」 | $T=\mathbb A^1_k$、$X=V_+(sx_1,sx_2)\subset\mathbb P^2_T$ | Hilbert 多項式の一定性($s\ne0$ で $1$、$s=0$ で $\binom{m+2}{2}$) |
| 主定理の 2⇒1 の「$T$ が整」 | ex-flat-family-nonreduced-base | 平坦性 |
| 系の「$T$ が連結」 | $T=\operatorname{Spec}(k\times k)$(2 点)、$X$ は一方の点の上の $\mathbb P^n_k$ | Hilbert 多項式の一定性($\binom{m+n}{n}$ と $0$) |
1 行目の $X$ は、$s\ne0$ の上では点 $(1:0:0)$ の定める切断の像、$s=0$ の上ではファイバー全体である。3 行目の $X$ は $T$ の開かつ閉な 1 点の上の $\mathbb P^n$ なので平坦である。
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