代数的de Rhamコホモロジー

同義語:algebraic de Rham cohomology

概要

代数的de Rhamコホモロジー(algebraic de Rham cohomology)とは、体 $k$ 上の滑らかなスキーム $X$ の代数的な微分形式の複体 $\Omega^\bullet_{X/k}$ の超コホモロジー $H^n_{dR}(X/k)$ である。$H^q(X,\Omega^p_{X/k})$ から始まる Hodge–de Rham スペクトル系列をもち、有限型の affine スキームでは大域的な微分形式の複体のコホモロジーに等しく、分離的なら affine 開被覆の Čech 複体で計算できる。$k=\mathbb{C}$ では Grothendieck の比較定理により $X^{an}$ の複素係数コホモロジーと同型になり、$X$ が固有ならこれは GAGA から従う。正標数の affine 直線では無限次元になる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: de Rhamコホモロジー, Kähler微分, 超コホモロジー, 層コホモロジー

代数多様体の上では $C^\infty$ 級の微分形式も 1 の分割も使えない。使えるのは多項式・有理関数で書ける代数的な微分形式だけである。それでも、体 $k$ 上の滑らかなスキーム $X$ の代数的な微分形式の複体から、多様体の de Rham コホモロジーに当たる不変量が作れる。それが 代数的 de Rham コホモロジー $H^n_{dR}(X/k)$ である。ただし大域的な微分形式の複体だけでは足りず、複体の超コホモロジーを使う。この記事では、定義のあと、計算の道具(Hodge–de Rham スペクトル系列、affine の場合、Čech 複体、底変換)を証明し、$k=\mathbb{C}$ で複素点のなす複素多様体の複素係数コホモロジーと一致するという Grothendieck の比較定理(Gro66)を述べて、固有な場合に証明する。

定義

$k$ を体、$X$ を $k$ 上局所有限型の滑らかなスキーム(滑らかな射)とし、$\Omega^1_{X/k}$ を Kähler微分 の層、$\Omega^p_{X/k}:=\bigwedge^p_{\mathcal{O}_X}\Omega^1_{X/k}$ とする。$X$ が滑らかなので各 $\Omega^p_{X/k}$ は局所自由な連接層である(滑らかな射 の命題「相対微分の層の局所自由性」)。外微分 $d\colon\Omega^p_{X/k}\to\Omega^{p+1}_{X/k}$ は $d(f\,dg_1\wedge\cdots\wedge dg_p)=df\wedge dg_1\wedge\cdots\wedge dg_p$ で定まる $k$ 線型($\mathcal{O}_X$ 線型ではない)な層の射で、$d\circ d=0$ を満たす。

代数的 de Rham コホモロジー

$k$ ベクトル空間の層の複体
$$ \Omega^\bullet_{X/k}\colon\ 0\to\mathcal{O}_X\xrightarrow{d}\Omega^1_{X/k}\xrightarrow{d}\Omega^2_{X/k}\xrightarrow{d}\cdots $$
を $X$ の($k$ 上の)de Rham 複体 という。その超コホモロジー
$$ H^n_{dR}(X/k):=\mathbf{H}^n\bigl(X,\Omega^\bullet_{X/k}\bigr)\qquad(n\ge0) $$
を $X$ の $n$ 次の 代数的 de Rham コホモロジー(algebraic de Rham cohomology)という。超コホモロジーは、擬同型 $\Omega^\bullet_{X/k}\to I^\bullet$ で入射層の複体 $I^\bullet$ をとり $H^n(\Gamma(X,I^\bullet))$ と定めたもので、$I^\bullet$ のとり方によらない(超コホモロジー の定義「複体の超コホモロジー」)。

増大射 $\Omega^\bullet_{X/k}\to I^\bullet$ から標準写像
$$ \varepsilon_X\colon H^n\bigl(\Gamma(X,\Omega^\bullet_{X/k})\bigr)\to H^n_{dR}(X/k) $$
が得られる。次数 $p$ 以上の項だけを残した部分複体 $\sigma^{\ge p}\Omega^\bullet_{X/k}$ の超コホモロジーの像を $F^pH^n_{dR}(X/k)$ と書き、Hodge フィルトレーション という(Hodgeフィルトレーション)。$H^n_{dR}(X/k)$ は $k$ 上のスキームの射について反変的である。
超コホモロジーを使うのは、Zariski位相では「閉形式は局所的に完全」という Poincaré の補題が成り立たず、de Rham 複体が定数層の分解にならないからである。そこで層の複体そのものの超コホモロジーをとる。

計算の道具

Hodge–de Rham スペクトル系列と affine の場合

Hodge–de Rhamスペクトル系列

$X$ を体 $k$ 上局所有限型で滑らかなスキームとする。

  1. 第 1 象限のスペクトル系列 $E_1^{p,q}=H^q(X,\Omega^p_{X/k})\Rightarrow H^{p+q}_{dR}(X/k)$ があり、$d_1\colon E_1^{p,q}\to E_1^{p+1,q}$ は外微分 $d$ が層コホモロジーに誘導する写像である。到達項のフィルトレーションは Hodge フィルトレーションで、$F^pH^n_{dR}/F^{p+1}H^n_{dR}\cong E_\infty^{p,n-p}$ である。
  2. 行 $q=0$ の $E_1$ 項は複体 $\Gamma(X,\Omega^\bullet_{X/k})$ であり、$E_2^{n,0}=H^n(\Gamma(X,\Omega^\bullet_{X/k}))$ から $H^n_{dR}(X/k)$ への辺写像は $\varepsilon_X$ である。

1:超コホモロジー の定理「超コホモロジーの2つのスペクトル系列」の第 1 の系列を $K^\bullet=\Omega^\bullet_{X/k}$ に当てはめたものである。その系列は、Cartan–Eilenberg 分解 $\Omega^\bullet_{X/k}\to I^{\bullet,\bullet}$ に $\Gamma(X,-)$ を施した二重複体を列 $p$ でフィルターして得られ(Wei94 5.7.9、pp. 149–150)、$E_1^{p,q}=H^q(\Gamma(X,I^{p,\bullet}))=H^q(X,\Omega^p_{X/k})$、$d_1$ は横の微分 $d$ が誘導する写像である。$p$ 列以降の部分 $I^{\ge p,\bullet}$ は $\sigma^{\ge p}\Omega^\bullet_{X/k}$ の Cartan–Eilenberg 分解なので、列によるフィルトレーションは Hodge フィルトレーションに一致する。
2:$I^{p,\bullet}$ は $\Omega^p_{X/k}$ の入射分解で、$\Gamma(X,-)$ は左完全関手なので $E_1^{p,0}=\ker\bigl(\Gamma(X,I^{p,0})\to\Gamma(X,I^{p,1})\bigr)=\Gamma(X,\Omega^p_{X/k})$ であり、$d_1=d$ である。よって行 $q=0$ は複体 $\Gamma(X,\Omega^\bullet_{X/k})$ で、$E_2^{n,0}$ はそのコホモロジーである。第 1 象限型なので $E_\infty^{n,0}=F^nH^n_{dR}\subset H^n_{dR}$ であり、辺写像 $E_2^{n,0}\to H^n_{dR}$ は閉形式 $\omega\in\Gamma(X,\Omega^n_{X/k})$ の類を、増大射 $\Gamma(X,\Omega^\bullet_{X/k})\to\Gamma(X,\operatorname{Tot}I^{\bullet,\bullet})$ による像の類へ送る。これは $\varepsilon_X$ である。$\square$

affine スキームの場合

$X=\operatorname{Spec}A$ を体 $k$ 上有限型で滑らかな affine スキーム(アフィンスキーム)とする。標準写像 $\varepsilon_X$ はすべての $n$ で同型である。すなわち $H^n_{dR}(X/k)$ は、$k$ 代数 $A$ の Kähler 微分の複体 $\Omega^\bullet_{A/k}$ の $n$ 次コホモロジーに等しい。

各 $\Omega^p_{X/k}$ は準連接層であり、Noether な affine スキームの上の準連接層の正の次数の層コホモロジーは消える(Har77 III.3.5)。よって de Rham 複体の各項は $\Gamma(X,-)$ について非輪状であり、超コホモロジー の命題「非輪状な項をもつ複体」により $\varepsilon_X$ は同型である。$\Gamma(X,\Omega^p_{X/k})=\Omega^p_{A/k}$ なので後半を得る。$\square$

スペクトル系列で見れば、affine では $E_1^{p,q}=0$($q\ge1$)なので $E_1$ は行 $q=0$ だけからなり、$E_2=E_\infty$ が $\Gamma(X,\Omega^\bullet_{X/k})$ のコホモロジーになる。affine でないとき、大域切断の複体は $E_1$ の行 $q=0$ しか見ておらず、超コホモロジーは残りの行も取り込む。

Čech 複体と底変換

affine でないスキームは affine 開集合で覆い、交わりの上の計算を Čech 複体で貼り合わせる。

affine 開被覆による Čech 計算

$X$ を体 $k$ 上有限型で滑らかな分離的スキーム(分離射)、$\mathfrak{U}=(U_i)_{i\in I}$ を affine 開被覆とし、$I$ に全順序を入れる。$U_{i_0\cdots i_r}:=U_{i_0}\cap\cdots\cap U_{i_r}$ とおき、交代 Čech 複体 $\check C^r(\mathfrak{U},\Omega^p_{X/k})=\prod_{i_0<\cdots< i_r}\Gamma(U_{i_0\cdots i_r},\Omega^p_{X/k})$ を成分、Čech 微分と外微分を微分とする二重複体の全複体を $\operatorname{Tot}\check C^\bullet(\mathfrak{U},\Omega^\bullet_{X/k})$ と書く。このとき自然な同型
$$ H^n_{dR}(X/k)\cong H^n\bigl(\operatorname{Tot}\check C^\bullet(\mathfrak{U},\Omega^\bullet_{X/k})\bigr) $$
がある。

超コホモロジー の命題「Čech複体による計算」は、各 $K^p$ と各有限個の交わり $U_{i_0\cdots i_r}$ について $H^q(U_{i_0\cdots i_r},K^p)=0$($q\ge1$)なら、Čech 二重複体の全複体のコホモロジーが $\mathbf{H}^n(X,K^\bullet)$ に標準的に同型であることを述べる。$X$ は分離的で $U_i$ は affine なので、有限個の交わりも affine である(Har77 II, Exercise 4.3)。$\Omega^p_{X/k}$ は準連接層なので、その上で正の次数のコホモロジーは消える(Har77 III.3.5)。よって仮定が満たされる。$\square$

体の拡大による底変換

$X$ を体 $k$ 上有限型で滑らかな分離的スキーム、$K/k$ を体の拡大、$X_K:=X\times_{\operatorname{Spec}k}\operatorname{Spec}K$ とする。自然な同型 $H^n_{dR}(X_K/K)\cong H^n_{dR}(X/k)\otimes_kK$ がある。

要点:有限 affine 被覆の Čech 全複体が $-\otimes_kK$ で移り合い、$-\otimes_kK$ が完全であることによる。

詳しい証明を開く

$X$ は準コンパクトなので有限個の affine 開集合 $U_1,\dots,U_m$ で覆える。$U_{i,K}:=U_i\times_kK$ は affine で $X_K$ を覆い、$X_K$ は $K$ 上有限型で滑らかかつ分離的であり、$(U_{i_0\cdots i_r})_K=U_{i_0\cdots i_r}\times_kK$ である。affine な $U=\operatorname{Spec}A$ について $\Omega^1_{A\otimes_kK/K}\cong\Omega^1_{A/k}\otimes_kK$ である。実際、$A\otimes_kK$ 加群 $M$ への $K$ 線型な導分は $A$ への制限で決まり、逆に $k$ 線型な導分 $\delta\colon A\to M$ は $a\otimes c\mapsto c\,\delta(a)$ により $K$ 線型な導分に延びるので、$\operatorname{Der}_K(A\otimes_kK,M)=\operatorname{Der}_k(A,M)$ であり、両辺は同じ関手を表現する(Har77 II.8.2A)。外冪をとって $\Gamma(U_K,\Omega^p_{X_K/K})=\Gamma(U,\Omega^p_{X/k})\otimes_kK$ であり、外微分もこの同一視で対応する。有限個の直積は $\otimes_kK$ と可換なので、Čech 全複体について $\operatorname{Tot}\check C^\bullet(\mathfrak{U}_K,\Omega^\bullet_{X_K/K})=\operatorname{Tot}\check C^\bullet(\mathfrak{U},\Omega^\bullet_{X/k})\otimes_kK$ である。$K$ は $k$ ベクトル空間として自由なので $-\otimes_kK$ は完全であり、コホモロジーと可換である。両辺に prop-algebraic-de-rham-cech を当てはめればよい。$\square$

比較定理

$k=\mathbb{C}$ とし、$X$ を $\mathbb{C}$ 上局所有限型で滑らかなスキーム、$X^{an}$ をその解析化とする。$X^{an}$ は複素多様体である。

微分形式の解析化

$\Omega^p_{X^{an}}$ を $X^{an}$ の正則 $p$ 形式の層とする。自然な射 $(\Omega^p_{X/\mathbb{C}})^{an}\to\Omega^p_{X^{an}}$ は同型であり、外微分と両立する。

問題は局所的である。滑らかな射 の定義「Jacobi判定法による定義」により、閉点 $a$ の近傍で $X$ は $\mathbb{A}^N$ の中で $c$ 個の多項式 $g_1,\dots,g_c$ の零点として書け、Jacobi 行列 $(\partial g_k/\partial z_j)$ の階数が $c$ になる。Kähler微分 の命題「第2基本完全列」により $\Omega^1_{X/\mathbb{C}}=\bigl(\bigoplus_j\mathcal{O}_X\,dz_j\bigr)/(dg_1,\dots,dg_c)$ である。解析化は完全なので $(\Omega^1_{X/\mathbb{C}})^{an}=\bigl(\bigoplus_j\mathcal{O}_{X^{an}}\,dz_j\bigr)/(dg_1,\dots,dg_c)$ である。一方 $X^{an}$ は $a$ の近くで $\mathbb{C}^N$ の複素部分多様体であり(解析化 の命題「滑らかな完全交差の解析化」)、その正則 1 形式の層は、$\mathbb{C}^N$ の正則 1 形式を制限して $dg_1,\dots,dg_c$ で割ったものである。よって $p=1$ で同型であり、外冪をとって一般の $p$ で同型である。外微分はどちらも $f\,dz_{j_1}\wedge\cdots\wedge dz_{j_p}\mapsto df\wedge dz_{j_1}\wedge\cdots\wedge dz_{j_p}$ で与えられる。$\square$

$\phi\colon X^{an}\to X$ を自然な連続写像とすると、層の複体の射 $\phi^{-1}\Omega^\bullet_{X/\mathbb{C}}\to\Omega^\bullet_{X^{an}}$ があり、超コホモロジーの射 $\mathbf{H}^n(X,\Omega^\bullet_{X/\mathbb{C}})\to\mathbf{H}^n(X^{an},\phi^{-1}\Omega^\bullet_{X/\mathbb{C}})\to\mathbf{H}^n(X^{an},\Omega^\bullet_{X^{an}})$ を誘導する。Poincaréの補題 の定理「正則 Poincaré の補題」により $\mathbb{C}_{X^{an}}\to\Omega^\bullet_{X^{an}}$ は擬同型なので、超コホモロジー の命題「擬同型による不変性」から右端は定数層のコホモロジー $H^n(X^{an},\mathbb{C})$ に等しい。こうして比較写像
$$ \rho_X\colon H^n_{dR}(X/\mathbb{C})\longrightarrow H^n(X^{an},\mathbb{C}) $$
が得られる。

Grothendieck の比較定理

$X$ を $\mathbb{C}$ 上局所有限型で滑らかなスキームとする。比較写像 $\rho_X\colon H^n_{dR}(X/\mathbb{C})\to H^n(X^{an},\mathbb{C})$ はすべての $n$ で同型である。$X$ が有限型で分離的なら、右辺は $X^{an}$ の複素係数の特異コホモロジーに一致する。

$X$ が固有な場合

$X$ が $\mathbb{C}$ 上固有な場合に示す。一般の場合は次の注意のとおりこの記事では証明しない。$X$ の既約成分の次元の最大を $m$ とすると、$p>m$ で $\Omega^p_{X/\mathbb{C}}=0$ である。各 $p$ について複体の短完全列
$$ 0\to\sigma^{\ge p+1}\Omega^\bullet\to\sigma^{\ge p}\Omega^\bullet\to\Omega^p[-p]\to0 $$
が $X$ の上と $X^{an}$ の上にあり、超コホモロジー の定理「複体の短完全列と長完全列」により超コホモロジーの長完全列を与える。比較写像は層の複体の射から来るので、2 つの長完全列の間の可換な梯子を与える。$\Omega^p[-p]$ の項は $\mathbf{H}^n(X,\Omega^p[-p])=H^{n-p}(X,\Omega^p_{X/\mathbb{C}})$ であり、その比較写像は連接層 $\Omega^p_{X/\mathbb{C}}$ の比較写像 $H^{n-p}(X,\Omega^p_{X/\mathbb{C}})\to H^{n-p}(X^{an},(\Omega^p_{X/\mathbb{C}})^{an})$ と lem-algebraic-de-rham-analytification の同型の合成である。$X$ は固有なので、これは GAGA の定理「固有スキームへの拡張」により同型である。$p$ についての下降帰納法で、$\sigma^{\ge p}\Omega^\bullet$ の超コホモロジーの比較写像がすべての $n$ で同型であることを示す。$p>m$ では両辺とも $0$ である。$\sigma^{\ge p+1}$ と $\Omega^p[-p]$ で同型なら、五項補題により $\sigma^{\ge p}$ でも同型である。$p=0$ の場合が $H^n_{dR}(X/\mathbb{C})\cong\mathbf{H}^n(X^{an},\Omega^\bullet_{X^{an}})$ であり、正則 Poincaré の補題による同一視と合わせて $\rho_X$ は同型である。
最後の主張:$X$ が有限型で分離的なら $X^{an}$ は Hausdorff で第 2 可算な多様体であり、定数層 $\mathbb{C}$ の層コホモロジーは特異コホモロジーに一致する(de Rhamコホモロジー の定理「de Rham の定理:特異コホモロジーとの同型」の 1 と 2 を合わせ、係数を $\mathbb{C}$ に広げる)。$\square$

比較定理の出典と証明の筋

定理は Grothendieck Gro66 の Theorem 1(affine の場合、p. 95)と Theorem 1′(一般の場合、p. 96)である。Theorem 1′ は、affine 開被覆についての Čech 型スペクトル系列を両側で比べて affine の場合に帰着される(同 p. 96)。affine の場合は、広中平祐(Heisuke Hironaka)による標数 0 の特異点解消を使って $X$ を滑らかな射影多様体から正規交叉因子を除いたものとして実現し、その因子に沿って極をもつ形式の複体の比較に帰着する(同 p. 98 の注 (6)。この比較の一般形が同 Theorem 2、p. 97 である)。固有な場合は上の証明のように GAGA で済み、特異点解消は要らない(同 p. 96)。

比較定理により、複素代数多様体 $X$ の位相的なコホモロジー $H^n(X^{an},\mathbb{C})$ は、$X$ の定義方程式から代数的に計算できる。$X$ が部分体 $k\subset\mathbb{C}$ 上のスキーム $X_0$ から来ていれば、cor-algebraic-de-rham-base-change により $H^n(X^{an},\mathbb{C})$ は $k$ 構造 $H^n_{dR}(X_0/k)$ をもつ。これと特異コホモロジーの $\mathbb{Q}$ 構造を比べる行列の成分が周期(代数多様体)である。

有限次元性と Hodge–de Rhamスペクトル系列の退化
  1. $X$ が体 $k$ 上固有なら、各 $H^q(X,\Omega^p_{X/k})$ は有限次元であり、thm-algebraic-de-rham-hodge-ss により $H^n_{dR}(X/k)$ は有限次元である(標数によらない。Stacks Lemma 50.3.4、Tag 0FLZ)。
  2. $X$ が $\mathbb{C}$ 上滑らかで射影的なら、Hodge–de Rham スペクトル系列は $E_1$ で退化する。実際、Hodge 理論により $X^{an}$ の Betti 数は $b_n=\sum_{p+q=n}\dim H^q(X^{an},\Omega^p_{X^{an}})$ を満たし(Hodge分解 の定理「Hodge 分解定理」の 1 と 3。この記事では証明しない)、GAGA により右辺の各項は $\dim E_1^{p,q}$ に等しい。比較定理により $b_n=\dim H^n_{dR}=\sum_{p+q=n}\dim E_\infty^{p,q}$ であり、$\dim E_\infty^{p,q}\le\dim E_1^{p,q}$ で等号がすべて成り立つのは、すべての $d_r$($r\ge1$)が $0$ のときに限る。

例

有限個の点を除いた直線(標数 0)

$k$ を標数 $0$ の体、$a_1,\dots,a_r\in k$ を相異なる元とし、$X=\mathbb{A}^1_k\setminus\{a_1,\dots,a_r\}=\operatorname{Spec}A$、$A=k[t,h^{-1}]$、$h=\prod_i(t-a_i)$ とする。このとき
$$ H^0_{dR}(X/k)=k,\qquad H^1_{dR}(X/k)=\bigoplus_{i=1}^rk\cdot\Bigl[\frac{dt}{t-a_i}\Bigr],\qquad H^n_{dR}(X/k)=0\ (n\ge2) $$
である。
確かめ. $X$ は affine なので、thm-algebraic-de-rham-affine により複体 $A\xrightarrow{d}A\,dt$ のコホモロジーを求めればよい($\Omega^1_{A/k}=A\,dt$、$\Omega^2_{A/k}=0$)。部分分数分解により、$A$ は $t^m$($m\ge0$)と $(t-a_i)^{-m}$($m\ge1$、$1\le i\le r$)を基底とする $k$ ベクトル空間である。$d(t^m)=mt^{m-1}dt$、$d\bigl((t-a_i)^{-m}\bigr)=-m(t-a_i)^{-m-1}dt$ であり、標数 $0$ なので $m\ne0$ の係数は $0$ でない。よって $d$ は定数以外の基底を $A\,dt$ の相異なる基底の $0$ でない倍に送り、$\ker d=k$ である。$d$ の像は $t^jdt$($j\ge0$)と $(t-a_i)^{-n}dt$($n\ge2$)で張られ、$A\,dt$ の基底のうち $(t-a_i)^{-1}dt$ だけが残る。
$k=\mathbb{C}$ では $X^{an}$ は $r$ 個の点を除いた平面で、$a_j$ を回る小さな円 $\gamma_j$ について $\int_{\gamma_j}\frac{dt}{t-a_i}=2\pi i\,\delta_{ij}$ である。完全形式の閉曲線上の積分は $0$ なので、$r$ 個の正則な閉形式 $dt/(t-a_i)$ は $X^{an}$ の de Rham コホモロジーでも一次独立であり、次元 $r$ は比較定理と合う。代数的な基底を $\gamma_j$ 上の積分で測った周期の行列は、単位行列の $2\pi i$ 倍である。$r=1$、$a_1=0$ は乗法群 $\mathbb{G}_m$ の場合である。

射影空間の de Rham コホモロジー

$X=\mathbb{P}^n_k$($k$ は任意の体)とする。$H^q(X,\Omega^p_{X/k})$ は $0\le p=q\le n$ のとき $k$ と同型な 1 次元空間で、それ以外は $0$ である(Stacks Lemma 50.11.3、Tag 0FMI)。Hodge–de Rham スペクトル系列の $E_1$ 項は対角線 $p=q$ の上にしかなく、$d_r\colon E_r^{p,q}\to E_r^{p+r,q-r+1}$ は対角線の点を対角線の外へ送るので、すべて $0$ である。よって
$$ H^{2i}_{dR}(\mathbb{P}^n_k/k)\cong H^i(\mathbb{P}^n_k,\Omega^i)\cong k\ (0\le i\le n),\qquad H^m_{dR}(\mathbb{P}^n_k/k)=0\ (\text{その他の }m) $$
である。$k=\mathbb{C}$ では複素射影空間の Betti 数と一致する。$n=1$ では大域切断の複体が $k\to0$ であり、$H^2_{dR}=k$ を担うのは $E_1^{1,1}=H^1(\mathbb{P}^1,\Omega^1)$ である。

反例

外す条件反例成り立たなくなること
標数 $0$標数 $p$ の体 $k$ 上の $\mathbb{G}_m=\operatorname{Spec}k[t,t^{-1}]$$H^0_{dR}=k$(連結な $\mathbb{G}_m$ の上で $df=0$ なら $f$ は定数)
affine であること$\mathbb{P}^1_k$標準写像 $\varepsilon_X$ が同型であること
表の確かめ

1 行目:$\mathbb{G}_m$ は affine なので複体 $k[t,t^{-1}]\to k[t,t^{-1}]\,dt$ を見ればよい。$d(t^{pm})=pm\,t^{pm-1}dt=0$ なので $\ker d\supset k[t^p,t^{-p}]$ であり、$H^0_{dR}(\mathbb{G}_m/k)$ は無限次元である。標数 $0$ では ex-algebraic-de-rham-punctured-line の $r=1$ の場合のとおり $H^0_{dR}=k$ である。同様の現象で $\mathbb{A}^1_k$ の $H^0_{dR}$ と $H^1_{dR}$ も無限次元になる(Stacks Example 50.10.6、Tag 0FUJ)。
2 行目:ex-algebraic-de-rham-projective-space により $\Gamma(\mathbb{P}^1,\mathcal{O})=k$、$\Gamma(\mathbb{P}^1,\Omega^1)=0$ なので、大域切断の複体のコホモロジーは $H^2=0$ だが、$H^2_{dR}(\mathbb{P}^1_k/k)=k$ である。$\varepsilon_X$ は $n=2$ で全射でない。

関連項目

参考文献

[1]
Alexander Grothendieck, On the de Rham cohomology of algebraic varieties, Publications Mathématiques de l'IHÉS, 1966, Theorem 1(p. 95、affine の場合)、式 (3)(4) と Theorem 1′(p. 96、Hodge–de Rham スペクトル系列と一般の場合、affine 被覆による帰着、完備な場合の GAGA による証明)、Theorem 2(p. 97、極をもつ形式の複体の比較)、注 (6)(p. 98、正規交叉因子の場合への帰着)
[2]
Robin Hartshorne, Algebraic Geometry, Springer, 1977, II.8.2A(Kähler 微分の底変換)、II, Exercise 4.3(分離的スキームの affine 開集合の交わり)、III.3.5(affine スキーム上の準連接層コホモロジーの消滅)
[3]
Charles A. Weibel, An Introduction to Homological Algebra, Cambridge University Press, 1994, 5.7.9 Cohomology Variant(pp. 149–150、超コホモロジーのスペクトル系列)

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