余等化子(coequalizer)とは、圏の平行な二本の射 $f,g:A\to B$ に対し、$qf=qg$ を満たす射 $q:B\to Q$ のうち、同じ等式を満たす任意の射 $b$ が $q$ を経由してただ一通りに分解するという普遍性をもつものである。集合では各 $f(a)$ と $g(a)$ を同一視して生成される同値関係による商、群では正規閉包による商、可換環では生成されたイデアルによる剰余環、前加法圏では $f-g$ の余核として現れ、位相空間では商写像になる。余等化子は同型を除いて一意で、構造射はエピ射である。余積とあわせて余極限を構成する基本の材料だが、余等化子をもたない圏もあり、群の忘却関手は余等化子を保たない。
二本の射を等しくするために、終域の側へ必要な同一視を加える構成が余等化子である。
圏 $\mathcal C$ の平行な二本の射 $f,g:A\to B$ の余等化子(coequalizer)は、射 $q:B\to Q$ で $qf=qg$ を満たし、次の普遍性を持つものである。任意の $b:B\to X$ で $bf=bg$ となるものに対し、$uq=b$ を満たす射 $u:Q\to X$ がただ一つ存在する。
$$
\xymatrix{
A \ar@<0.5ex>[r]^{f} \ar@<-0.5ex>[r]_{g} & B \ar[r]^{q} \ar[dr]_{b} & Q \ar@{.>}[d]^{u} \\
& & X
}
$$
図式の意味を等式で書くと、$q\circ f=q\circ g$ であり、$b\circ f=b\circ g$ を満たす各 $b$ に対して $u\circ q=b$ となる $u$ がただ一つある、ということである。$\operatorname{Coeq}(f,g)$ は対象 $Q$ の略記で、構造射 $q$ も普遍性の一部である。$qf=qg$ を満たす組 $(Q,q)$ を $f,g$ の上のフォーク(fork)ということがあり、余等化子は「普遍的なフォーク」である。定義は Rie16 Definition 3.1.23(p. 88)による。
等化子が前合成を調整するのに対し、余等化子は後合成を調整する。余等化子は、二本の平行射からなる図式の余極限(圏論)である。
| 等化子 | 余等化子 | |
|---|---|---|
| 普遍性の向き | $e:E\to A$ へ入ってくる射が一意に分解 | $q:B\to Q$ から出ていく射が一意に分解 |
| 等式 | $fe=ge$ | $qf=qg$ |
| 集合での構成 | 部分集合 $\{a\mid f(a)=g(a)\}$ | 生成された同値関係による商集合 |
| 構造射の性質 | モノ射 | エピ射 |
| 前加法圏では | $f-g$ の核 | $f-g$ の余核 |
$f(a)$ と $g(a)$ を見分けない写像だけを許すように、$B$ を商にする。集合では、各 $a$ について「$f(a)$ と $g(a)$ は同じ点とみなす」という指定を出発点に、それが同値関係になるまで反射律・対称律・推移律で閉じた関係による商を取る。指定は二点の同一視を並べただけで、同値関係の条件を満たすとは限らないからである。
一般の圏では、どの構造を保つ射を考えるかによって商の内容が変わる。群の圏では正規部分群で割る必要があり、位相空間の圏では商集合に商位相を入れる必要がある。いずれも「$qf=qg$ を満たす射のなかで、最も情報を失わないもの」を取るという同じ普遍性から決まる。
$A=\{a,b\}$、$B=\{0,1,2\}$ に対し、$f(a)=0,g(a)=1,f(b)=1,g(b)=2$ とする。$bf=bg$ を満たす写像は $0,1,2$ に同じ値を取るので、余等化子は一点集合になる。二本の射の像の集合を取り除く構成ではない。
線形写像 $f,g:V\to W$ では、商写像 $q:W\to W/\operatorname{im}(f-g)$ が余等化子である。$bf=bg$ は $b$ が $\operatorname{im}(f-g)$ 上で零になる条件であり、線形な商写像の普遍性によって $b$ が一意に降りる。
群と群準同型の圏 $\mathbf{Grp}$ での $f,g:A\to B$ の余等化子は、集合 $\{f(a)g(a)^{-1}\mid a\in A\}$ が生成する正規閉包 $N\trianglelefteq B$ による商 $q:B\to B/N$ である。$b:B\to X$ が $bf=bg$ を満たす群準同型なら、各 $a$ について $b(f(a)g(a)^{-1})=1$ となるので $N\subseteq\ker b$ であり、$b$ は $B/N$ を経由して一意に分解する。$g$ が自明な準同型なら、これは $f$ の像の正規閉包による商、すなわち群の余核である(Rie16 Example 3.1.25, p. 89)。
単位元をもつ可換環と単位元を保つ環準同型の圏で $f,g:A\to B$ を考える。$f(a)-g(a)$($a\in A$)が生成する $B$ のイデアルを $I$ とすると、剰余環への射 $q:B\to B/I$ が余等化子である。実際 $q(f(a))-q(g(a))=q(f(a)-g(a))=0$ である。環準同型 $b:B\to X$ が $bf=bg$ を満たせば、各生成元が $\ker b$ に入り、$\ker b$ はイデアルなので $I\subseteq\ker b$ となる。準同型定理により $b$ は $B/I$ を経由してただ一通りに分解する。群の場合と違い、生成されたイデアルを取る点に環の構造が現れる。
一点空間 $A=\{*\}$ と閉区間 $B=[0,1]$ の間の連続写像 $f(*)=0$、$g(*)=1$ を考える。位相空間の圏での余等化子は、$0$ と $1$ だけを同一視した商集合 $[0,1]/(0\sim1)$ に商位相を入れた空間である(prop-coequalizer-top-quotient)。写像 $e(t)=(\cos2\pi t,\sin2\pi t)$ は $e(0)=e(1)$ を満たすので、商空間から単位円周 $S^1$ への連続な全単射を誘導する。商空間はコンパクト、$S^1$ はHausdorffなので、この全単射は同相写像であり、余等化子は円周 $S^1$ と同相になる。
半順序集合を、$x\le y$ のときだけ射 $x\to y$ がただ一つある圏とみなすと、この圏の平行射 $f,g\colon A\to B$ は必ず $f=g$ である。この場合の余等化子は $\operatorname{id}_B:B\to B$ である。任意の $b:B\to X$ が条件を満たし、その因子化は $b$ 自身に一意に定まる。
一般に $f=g$ なら、どの圏でも $\operatorname{id}_B$ が余等化子である。条件 $bf=bg$ はすべての $b$ で成り立ち、$u\circ\operatorname{id}_B=b$ を満たす $u$ は $b$ しかないからである。
集合の写像 $f,g:A\to B$ に対し、全対 $(f(a),g(a))$ を含む最小の同値関係を $\sim$ とする。商写像 $q:B\to B/{\sim}$ が余等化子である。
指定された対を含む同値関係全体は、少なくとも $B\times B$ を含む非空の集合である。その共通部分は同値関係であり、これが最小の $\sim$ を与える。定義から $qf=qg$。
$b:B\to X$ が $bf=bg$ を満たすとき、$b(y)=b(z)$ で定まる関係は同値関係で、指定されたすべての対を含む。最小性から $y\sim z$ なら $b(y)=b(z)$。従って $u([y])=b(y)$ は代表元によらず定まり、$uq=b$ を満たす。各同値類には代表元が存在するためこの等式は $u$ の全値を固定し、一意性も従う。すべての類の代表元を同時に選択する必要はない。$\square$
$(Q,q)$ と $(Q',q')$ がともに $f,g:A\to B$ の余等化子なら、$uq=q'$ を満たす同型射 $u:Q\to Q'$ がただ一つ存在する。
$q'f=q'g$ なので、$(Q,q)$ の普遍性から $uq=q'$ を満たす $u:Q\to Q'$ がただ一つある。同様に $(Q',q')$ の普遍性から $vq'=q$ を満たす $v:Q'\to Q$ がある。すると $(vu)q=vq'=q=\operatorname{id}_Q\,q$ である。$(Q,q)$ の普遍性を $b=q$ に当てはめると、$wq=q$ を満たす $w$ はただ一つなので $vu=\operatorname{id}_Q$ となる。同じ議論で $uv=\operatorname{id}_{Q'}$ も成り立つ。よって $u$ は同型射である。一意性は最初の普遍性に含まれている。$\square$
余等化子の構造射 $q:B\to Q$ はエピ射である。すなわち $rq=sq$ なら $r=s$ が従う。
$r,s:Q\to X$ に対し $rq=sq=b$ とする。$bf=rqf=rqg=bg$ である。$r,s$ はともに $b$ の余等化子を通じた因子化なので一意性から等しい。この証明は一般の圏で有効であり、射の全射性を集合の全射性と同一視することは使わない。$\square$
ある対の余等化子になっている射を正則エピ射(regular epimorphism)という。上の命題は「正則エピ射はエピ射である」と言い換えられる。逆が成り立つかどうかは圏による。集合の圏では逆が成り立つ。
集合の全射 $p:B\to C$ に対し、$R=\{(y,z)\in B\times B\mid p(y)=p(z)\}$ とし、$r_1,r_2:R\to B$ を第1・第2成分への射影とする。このとき $p$ は $r_1,r_2$ の余等化子である。
$R$ の定義から $pr_1=pr_2$ である。写像 $b:B\to X$ が $br_1=br_2$ を満たすとは、$p(y)=p(z)$ なら $b(y)=b(z)$ となることである。そこで $c\in C$ に対し、$p(y)=c$ となる $y$ を用いて $u(c)=b(y)$ と定める。$p$ は全射なのでそのような $y$ はあり、仮定から値は $y$ の取り方によらない。作り方から $up=b$ である。$u'p=b$ となる $u'$ があれば、$c=p(y)$ に対し $u'(c)=b(y)=u(c)$ なので $u'=u$ である。$\square$
集合の圏のエピ射は全射である(エピ射の命題「集合の圏のエピ射は全射」)。これと上の命題をあわせると、集合の圏ではエピ射と正則エピ射が一致する。対 $r_1,r_2$ は $p$ の核対(kernel pair)とよばれ、$p$ と $p$ 自身の引き戻しである。
位相空間と連続写像の圏で、連続写像 $f,g:A\to B$ の余等化子は存在する。集合としての余等化子 $q:B\to B/{\sim}$(prop-coequalizer-set-quotient)に商位相($U$ が開であることを $q^{-1}(U)$ が開であることで定める位相)を入れたものがそれである。さらに、$f,g$ の任意の余等化子 $q':B\to Q'$ は商写像である。すなわち $q'$ は全射で、$Q'$ の部分集合 $U'$ が開であることと $q'^{-1}(U')$ が開であることは同値である。
商位相の定義から $q$ は連続で、$qf=qg$ である。連続写像 $b:B\to X$ が $bf=bg$ を満たすとき、集合の余等化子の普遍性から、写像 $u:B/{\sim}\to X$ で $uq=b$ となるものがただ一つある。$X$ の開集合 $V$ に対し $q^{-1}(u^{-1}(V))=b^{-1}(V)$ は開なので、商位相の定義から $u^{-1}(V)$ は開である。よって $u$ は連続である。連続写像としての一意性は、写像としての一意性から従う。以上で $(B/{\sim},q)$ が余等化子である。
$q'$ を任意の余等化子とする。一意性(prop-coequalizer-unique)から同相写像 $\varphi:B/{\sim}\to Q'$ で $\varphi q=q'$ となるものがある。$q$ は全射なので $q'$ も全射である。$U'\subseteq Q'$ について、$U'$ が開 $\iff$ $\varphi^{-1}(U')$ が開 $\iff$ $q^{-1}(\varphi^{-1}(U'))=q'^{-1}(U')$ が開、となる。$\square$
合成の双線形性から、任意の $b:B\to X$ について $bf-bg=b(f-g)$ である。よって $bf=bg$ と $b(f-g)=0$ は同値である。また双線形性から $0\circ h=0$、$h\circ0=0$ なので、Hom 群の零元は零射の体系をなす。余核の条件「$q(f-g)=0$ で、$b(f-g)=0$ を満たす任意の $b$ が $q$ を経由してただ一通りに分解する」は、上の同値によって余等化子の条件と文字どおり一致する。$\square$
小さい余積と余等化子をもつ圏は、小さい余極限をすべてもつ(有限余積と余等化子からは、同じ構成で有限余極限が得られる)。これは余極限(圏論)の命題「余積と余等化子による構成」で示されている。特に押し出し $B\leftarrow A\rightarrow C$ は、余積 $B\amalg C$ への二本の射 $A\to B\to B\amalg C$ と $A\to C\to B\amalg C$ の余等化子として得られる。
余等化子にまつわる主張のうち、条件を外すと成り立たなくなるものを並べる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 指定した対から同値関係を生成する | ex-coequalizer-set の対 $(0,1),(1,2)$ だけの関係 | 同値関係であること(推移律が破れる) |
| 余等化子が存在する圏であること | 平行な二本の射だけをもつ圏 | 余等化子の存在 |
| 集合の圏であること | 位相空間の圏の、離散空間から密着空間への恒等写像 | エピ射が正則エピ射であること |
| 関手が左随伴であること | 群の圏から集合の圏への忘却関手 | 余等化子を保つこと |
最初の例で得られる対 $(0,1),(1,2)$ だけを同値関係と呼ぶことはできない。反射律・対称律・推移律が満たされず、特に $0$ と $2$ も同一視されなければならない。同一視の指定と、それで生成される最小の同値関係を区別する必要がある。推移閉包を取らないと関係は同値関係にならず、$qf=qg$ を満たす射の一意な因子化が定まらない。
対象が $A,B$ の二つで、恒等射のほかに平行な射 $f,g:A\to B$($f\ne g$)だけをもつ圏 $\mathcal P$ を考える。合成は恒等射との合成だけなので、圏の公理は満たされる。$B$ から出る射は $\operatorname{id}_B$ しかないから、$qf=qg$ を満たす $q:B\to Q$ の候補は $q=\operatorname{id}_B$ だけだが、$\operatorname{id}_Bf=f\ne g=\operatorname{id}_Bg$ である。よって $f,g$ の上のフォークは一つもなく、余等化子は存在しない。この圏は「任意の圏で余等化子が存在する」という主張を破る。
二点以上をもつ集合 $X$ に離散位相を入れた空間を $X_\delta$、密着位相を入れた空間を $X_\iota$ とし、恒等写像 $i:X_\delta\to X_\iota$ を考える。$i$ は連続な全射なので、位相空間の圏のエピ射である($ri=si$ なら写像として $r=s$)。一方、点 $x\in X$ に対し $i^{-1}(\{x\})=\{x\}$ は $X_\delta$ で開だが、$\{x\}$ は空でも全体でもないので $X_\iota$ で開でない。よって $i$ は商写像でなく、prop-coequalizer-top-quotient により、どの対の余等化子にもならない。この例は「エピ射は正則エピ射である」という含意を位相空間の圏で破る(集合の圏では成り立つ)。
左随伴関手は余極限を保つので、特に余等化子を保つ(余極限(圏論)の命題「左随伴は余極限を保存する」)。左随伴でない関手は余等化子を保つとは限らない。
群準同型 $f,g:\mathbb Z\to\mathbb Z$ を $f(n)=2n$、$g(n)=0$ とする。群の圏での余等化子は、ex-coequalizer-groups により $f(1)g(1)^{-1}=2$ が生成する正規部分群 $2\mathbb Z$ による商 $\mathbb Z\to\mathbb Z/2\mathbb Z$ で、終域は二元集合である。一方、集合の圏で同じ二本の写像の余等化子を取ると、$2n$ と $0$ を同一視して生成される同値関係の類は「偶数全体」と、奇数 $m$ ごとの一元集合 $\{m\}$ である。よって集合としての余等化子は無限集合であり、$\mathbb Z/2\mathbb Z$ の台集合と一致しない。群の圏から集合の圏への忘却関手は余等化子を保たない。これは「任意の関手は余等化子を保つ」という主張を破る。
豊穣的な余等化子では、各 $X$ で $\mathcal C(Q,X)$ が二つのHom対象間の射の等化子になることを要求する。台の通常圏での商だけでは、この対象レベルの普遍性は保証されない(Kel82 §3.8の双対)。
∞-圏では、二射を一致させる比較ホモトピーも保持した余極限を考える。集合の同値関係による商だけで高次情報まで計算したことにはならない。通常圏の脈体への特化と一般のモデル比較は HTT09 §§1.2.13, 4.2.4 にある。
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