ホモトピー仮説(homotopy hypothesis)とは、位相空間のホモトピー論と $\infty$ 亜群のホモトピー論が同値であるという、Grothendieck に由来する考えである。$\infty$ 亜群を Kan 複体で表すときは、幾何学的実現と特異単体的集合の随伴が、単体的集合の Kan–Quillen モデル構造と $k$ 空間の Quillen のモデル構造の Quillen 同値であるという Quillen の定理として成り立つ。次元 $1$ では、$2$ 次以上のホモトピー群が消える Kan 複体(1 型)のホモトピー圏が、亜群と関手の自然同型類のなす圏と脈体によって同値になり、1 型はホモトピー同値を除いて基本亜群で決まる。どの高次亜群をモデルにするかで成否が変わる。
ホモトピー仮説(homotopy hypothesis)は、「位相空間のホモトピー論と $\infty$ 亜群のホモトピー論は同じものである」という Grothendieck に由来する考えである。位相空間 $Y$ には、点を対象、道を射、道のホモトピーを $2$ 射、…とする $\infty$ 亜群が対応し、この対応が両者のホモトピー論の同値を与える、という主張である(Waa25 p. 1)。「$\infty$ 亜群」を何で表すかを決めて初めて定理か予想かが決まる。Kan複体を $\infty$ 亜群のモデルとするときは、幾何学的実現と特異単体的集合の随伴が Quillen 同値であるという Quillen の定理として成り立つ(Waa25 p. 1 の Theorem HH)。
この記事では、Kan 複体による定式化を述べたうえで、次元 $1$ の場合を扱う。高次のホモトピー群がすべて消えている Kan 複体(1 型)は、ホモトピー同値を除いて亜群の脈体と同じものであり、関手の自然同型類と Kan 複体の写像のホモトピー類が一致する。これを「亜群のホモトピー論と 1 型のホモトピー論の同値」として証明する。その際、基本亜群が 1 型の Kan 複体の基本群を正しく取り出すことと、Kan 複体の間の弱同値がホモトピー同値であることは引用する。
Kan 複体は、すべてのホーンが埋まる単体的集合であり、準圏のうちホモトピー圏が亜群になるものと一致する(Kan複体 の定理「Joyal の定理」)。そこで Kan 複体を $\infty$ 亜群のモデルとみなす。位相空間 $Y$ の特異単体的集合 $\operatorname{Sing}Y$ は Kan 複体であり(Kan複体 の定理「特異単体的集合は Kan 複体である」)、$Y$ の「基本 $\infty$ 亜群」の役割を果たす。
$X,Y$ を Kan 複体とする。
Kan 複体 $X$ では、$\pi_n(X,x)$ は実現 $\lvert X\rvert$ のホモトピー群 $\pi_n(\lvert X\rvert,x)$ と同型であり、弱同値であることは実現が弱ホモトピー同値であることと同値である(GJ09 Proposition I.11.1 とその後の説明、p. 60)。
この記事では thm-hohyp-quillen を証明しない。これは Quillen による(GJ09 p. 2、Waa25 p. 1)。位相空間のホモトピー圏は CW 複体とそのホモトピー類の圏とも同値なので(GJ09 p. 63)、定理は「空間のホモトピー型」と「Kan 複体をホモトピー同値で割ったもの」が同じであることを述べる(Waa25 pp. 1–2)。Kan 複体を $\infty$ 亜群とみる立場では、これがホモトピー仮説の定式化になる。
一方、「厳密な」高次亜群(結合律などを等式で課したもの)を $\infty$ 亜群のモデルにすると、ホモトピー型をすべて表すことはできない。たとえば $2$ 次元球面 $S^2$ の基本 $3$ 亜群は厳密な $3$ 圏の言葉では記述できない(HTT09 §1.1.1、p. 5。この記事では証明しない)。ホモトピー仮説を定理とみるか予想とみるかが $\infty$ 亜群のモデルによるのは、このためである(Waa25 p. 1)。
関手 $F,F'\colon\mathcal G\to\mathcal H$ が自然同型であることは、合成について両立する同値関係なので、$\mathrm{ho}(\mathbf{Gpd})$ は圏である。以下、亜群 $\mathcal G$ の脈体を $N\mathcal G$ と書く。
亜群 $\mathcal G$ について、$N\mathcal G$ は Kan 複体であり、
$N\mathcal G$ が Kan 複体であることは Kan複体 の定理「脈体が Kan 複体であるための条件」である。
亜群 $\mathcal G,\mathcal H$ について、$F\mapsto NF$ は全単射
$$
\{\text{関手 }\mathcal G\to\mathcal H\}/(\text{自然同型})\xrightarrow{\ \sim\ }\mathrm{Ho}(\mathbf{Kan})(N\mathcal G,N\mathcal H)
$$
を与える。したがって脈体は充満忠実な関手 $\mathrm{ho}(\mathbf{Gpd})\to\mathrm{Ho}(\mathbf{Kan})$ を誘導する。
脈体 の命題「脈体関手は充満忠実である」により、単体的写像 $N\mathcal G\to N\mathcal H$ は関手 $\mathcal G\to\mathcal H$ と 1 対 1 に対応する。同じ記事の命題「自然変換と $\Delta^1\times N(\mathcal C)$」により、$NF$ から $NF'$ へのホモトピー $\Delta^1\times N\mathcal G\cong N\mathcal G\times\Delta^1\to N\mathcal H$ は自然変換 $F\Rightarrow F'$ と 1 対 1 に対応する。$\mathcal H$ は亜群なので、自然変換の各成分は可逆であり、自然変換はすべて自然同型である。よって $NF$ と $NF'$ がホモトピックであることと $F\cong F'$ は同値であり、主張の写像は定まって全単射である。$N$ は合成を保つので、関手 $\mathrm{ho}(\mathbf{Gpd})\to\mathrm{Ho}(\mathbf{Kan})$ が得られる。$\square$
逆向きには、単体的集合 $X$ に基本圏 $hX$ を対応させる。$hX$ は頂点を対象とし、辺で生成した圏を $2$ 単体の関係で割ったもので、脈体の左随伴である(脈体 の定理「脈体関手の左随伴」)。恒等関手 $hX\to hX$ に対応する単体的写像を $\eta_X\colon X\to N(hX)$ と書く。$\eta_X$ は頂点の上で恒等写像で、辺 $f$ を類 $[f]$ に写す。$X$ が Kan 複体なら $hX$ は亜群である(Kan複体 の命題「Kan 複体のホモトピー圏は亜群である」)。
脈体は圏同値
$$
N\colon\mathrm{ho}(\mathbf{Gpd})\xrightarrow{\ \sim\ }\mathrm{Ho}(\mathbf{Kan})_{\le1}
$$
を誘導する。1 型の Kan 複体 $X$ は、$\eta_X$ により、$\mathrm{Ho}(\mathbf{Kan})$ で基本亜群の脈体 $N(hX)$ と同型である。
prop-hohyp-nerve により $N$ は $\mathrm{Ho}(\mathbf{Kan})_{\le1}$ に値をとり、prop-hohyp-fully-faithful により充満忠実である。あとは、1 型の Kan 複体 $X$ が $N(hX)$ と $\mathrm{Ho}(\mathbf{Kan})$ で同型であることを示せばよい。まず $\eta_X$ が弱同値であることを示す。
$\pi_0$。$\eta_X$ は頂点の上で恒等写像なので、$\pi_0$ の上で全射である。$hX$ の射は辺の有限列 $x=x_0\to x_1\to\cdots\to x_r=y$ の類なので、$x$ から $y$ への射があれば $x,y$ は $X$ の同じ連結成分にある。逆に辺があれば射がある。prop-hohyp-nerve の 1 により、$\pi_0$ の上で単射でもある。
$\pi_1$。Kan 複体 $X$ について、$X\to N(hX)$ に、さらに $hX$ から生成される亜群への写像を合成したものが、すべての頂点 $x$ で $\pi_1(X,x)$ と生成される亜群での自己同型群の同型を誘導する(GJ09 Remark III.1.3、pp. 142–143。そこでの道の圏 $P_*X$ は、脈体の左随伴であることから $hX$ と同型である)。いま $hX$ はすでに亜群なので、生成される亜群は $hX$ 自身であり、$\eta_X$ は同型 $\pi_1(X,x)\cong\operatorname{Aut}_{hX}(x)\cong\pi_1(N(hX),x)$ を誘導する(後半は prop-hohyp-nerve の 2)。この記事ではこの事実を証明しない。
$n\ge2$。$X$ は 1 型なので $\pi_n(X,x)$ は自明であり、prop-hohyp-nerve の 3 により $\pi_n(N(hX),x)$ も自明である。
以上で $\eta_X$ は Kan 複体の間の弱同値である。Kan 複体はすべて Kan–Quillen モデル構造のコファイブラントかつファイブラントな対象であり(Kan–Quillenモデル構造 の定理「Kan–Quillen モデル構造」の 3)、その間の弱同値はホモトピー同値である(GJ09 Theorem II.1.10、p. 73)。さらに、単体的集合のホモトピー圏は Kan 複体と def-hohyp-homotopy の意味のホモトピー類のなす圏 $\mathrm{Ho}(\mathbf{Kan})$ と同値である(GJ09 p. 63)。この記事ではこれらを証明しない。よって弱同値 $\eta_X$ は $\mathrm{Ho}(\mathbf{Kan})$ の同型であり、$N$ は本質的全射である。$\square$
定理は、1 型の Kan 複体が「頂点・辺のホモトピー類・その合成」というデータだけで、ホモトピー同値を除いて決まることを述べている。写像のホモトピーが自然同型に対応し、選択公理のもとでは脈体の間の弱同値が亜群の圏同値に対応する(亜群 の定理「亜群の圏同値の判定」は、$\pi_0$ と自己同型群の全単射による判定であり、prop-hohyp-nerve の 1・2 と合わせればよい)。
thm-hohyp-quillen の 2 と組み合わせると、ホモトピー群が次数 $2$ 以上で消える位相空間のホモトピー論は、亜群のホモトピー論 $\mathrm{ho}(\mathbf{Gpd})$ と同値になる。空間 $Y$ に対応する亜群は $h(\operatorname{Sing}Y)$、すなわち $Y$ の基本亜群である(∞圏のホモトピー圏 の例「Kan複体の基本亜群」、亜群 の例「基本亜群」)。逆向きには、亜群 $\mathcal G$ に脈体の実現 $\lvert N\mathcal G\rvert$ が対応し、群 $G$ では分類空間 $BG$ になる。ここでは $\pi_n(\operatorname{Sing}Y,y)\cong\pi_n(Y,y)$(GJ09 pp. 60、63)を使うので、この記事では細部を証明しない。
群 $G$ を対象が 1 つの亜群とみると、その脈体 $BG$ は頂点が 1 つの Kan 複体で、prop-hohyp-nerve により $\pi_1(BG)\cong G$、$\pi_n(BG)=0$($n\ge2$)である。したがって $BG$ は 1 型であり、Eilenberg–MacLane空間 $K(G,1)$ の単体的なモデルである(GJ09 Proposition I.7.8、p. 32)。prop-hohyp-fully-faithful により、写像 $BG\to BH$ のホモトピー類は準同型 $G\to H$ を $H$ の元による共役で割ったものと 1 対 1 に対応する。共役で割るのは、1 つの対象の亜群の間の自然同型が、$H$ の元 $h$ による $\varphi'(g)=h\varphi(g)h^{-1}$ という関係だからである。
円周 $S^1$ は、普遍被覆 $\mathbb R$ が可縮なので $\pi_n(S^1)=0$($n\ge2$)を満たす(ホモトピー群 の命題「被覆空間と$n$-単純性」)。$\pi_n(\operatorname{Sing}S^1,y)\cong\pi_n(S^1,y)$(rem-hohyp-topological)なので $\operatorname{Sing}S^1$ は 1 型であり、その基本亜群は連結で、自己同型群は $\pi_1(S^1)\cong\mathbb Z$ である。亜群 の定理「連結な亜群は自己同型群と圏同値である」により基本亜群は $\mathbb Z$(対象 1 つの亜群)と $\mathrm{ho}(\mathbf{Gpd})$ で同型なので、thm-hohyp-one-types により $\operatorname{Sing}S^1$ は $\mathrm{Ho}(\mathbf{Kan})$ で $B\mathbb Z$ と同型である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $X$ は Kan 複体 | $X=\Delta^1$ | 基本圏 $hX$ は亜群 |
| $\mathcal G$ は亜群 | $\mathcal G=[1]$($0\to1$ だけをもつ圏) | $N\mathcal G$ は Kan 複体(prop-hohyp-nerve) |
| $X$ は 1 型 | $X=K(\mathbb Z[2])$(Dold–Kan対応 の例「Eilenberg–MacLane 型の単体的加群」) | $\eta_X\colon X\to N(hX)$ は弱同値 |
3 つの行は、それぞれ定理の証明の別の段を止める。
1 行目:$\Delta^1=N[1]$ なので $h\Delta^1\cong[1]$(脈体 の定理「脈体関手の左随伴」の余単位は同型)であり、射 $0\to1$ は可逆でない。$\Delta^1$ が Kan 複体でないことは Kan複体 の例「標準単体は Kan 複体でない」にある。
2 行目:Kan複体 の定理「脈体が Kan 複体であるための条件」により、$N\mathcal G$ が Kan 複体であることと $\mathcal G$ が亜群であることは同値で、$[1]$ の射 $0\to1$ は可逆でない。
3 行目:$X=K(\mathbb Z[2])$ は単体的アーベル群なので Kan 複体であり(GJ09 Lemma I.3.4、p. 12)、$X_0=X_1=0$(全射 $[0]\twoheadrightarrow[2]$、$[1]\twoheadrightarrow[2]$ はない)なので $hX$ は対象 1 つ・射は恒等射だけの亜群で、$N(hX)=\Delta^0$ である。一方 $\pi_2(X)\cong H_2(\mathbb Z[2])=\mathbb Z$(GJ09 Corollary III.2.7、p. 153)なので、$X$ は 1 型でなく、$\eta_X$ は $\pi_2$ で同型にならない。
thm-hohyp-one-types と同じ形で、次数 $n+1$ 以上のホモトピー群が消える Kan 複体($n$ 型)を、何らかの意味の高次の亜群と比べることができる。どの種類の高次亜群を使うかで成否が変わり、厳密な高次亜群では $S^2$ の基本 $3$ 亜群を表せない(rem-hohyp-quillen-source)。空間のPostnikov塔の各段は、ある次数より上のホモトピー群が消える空間であり、ホモトピー型をこうした段の極限として調べる道具になる。層別空間について同じ考えを述べたものが層別ホモトピー仮説である。
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