グラフマイナー

同義語:graph minorマイナー(グラフ)

概要

グラフマイナー(graph minor)とは、グラフから頂点の削除・辺の削除・辺の縮約を繰り返して得られるグラフのことであり、互いに交わらない連結な頂点集合(分岐集合)の族で言い換えられる。この関係は有限グラフの同型類の上の半順序で、マイナーをとる操作で閉じた族はその族に属さない極小なグラフを禁止マイナーとして特徴づけられる。森の極小な禁止マイナーは $K_3$ だけ、平面グラフでは $K_5$ と $K_{3,3}$ だけであり、木幅はマイナーをとっても増えない。Robertson と Seymour は有限グラフがマイナーの関係で整擬順序であることを証明し、マイナー閉な族はどれも有限個の禁止マイナーで表せることが従う。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: グラフ, 部分グラフ, 森, 平面グラフ, Kuratowskiの定理

グラフから辺や頂点を取り除くと部分グラフが得られる。これに「辺を 1 本つぶして両端を 1 つの頂点にまとめる」操作(縮約)を加え、3 つの操作を繰り返して得られるグラフを、もとのグラフの マイナー という。平面グラフから辺を除いても縮約しても平面グラフのままであるように、多くの自然なグラフの族はマイナーをとる操作で閉じている。そのような族は「この族に属さない極小なグラフ」をマイナーとして含まないことで特徴づけられる。森は三角形 $K_3$ を、平面グラフは $K_5$ と $K_{3,3}$ をマイナーとして含まないグラフである(後者は Wagner の定理)。
N. Robertson と P. Seymour は、20 編を超える論文で、有限グラフの無限列には一方が他方のマイナーになる 2 つが必ずあることを証明した(グラフマイナー定理、Die25 Theorem 12.7.1、p. 397)。その帰結として、マイナーをとる操作で閉じたどんな族も、有限個のグラフを禁止することで特徴づけられる。この記事では、マイナーの 2 通りの定義が一致すること、禁止マイナーによる特徴づけ、森と平面グラフの極小な禁止マイナー、証明で中心的な役割を果たす木幅の基本性質を証明し、グラフマイナー定理の主張と帰結を述べる。

定義

この記事のグラフは有限な単純グラフ(ループも平行辺もない無向グラフ)とし、頂点のないグラフも含める。$\lvert G\rvert$ は頂点の個数、$e(G)$ は辺の本数である。グラフの族はいつも同型で閉じているとする。

削除と縮約

グラフ $G$ の頂点 $v$ について、$v$ とそれに接続する辺を除いたグラフを $G-v$ と書く。辺 $e$ について、$e$ だけを除いたグラフを $G-e$ と書く。辺 $e=uv$ の 縮約 $G/e$ とは、$u,v$ を 1 つの新しい頂点 $v_e$ に置き換え、$u$ または $v$ に隣接していた $u,v$ 以外の頂点を $v_e$ に隣接させたグラフである(ほかの辺はそのまま残す)。

縮約で生じうるループや平行辺は残さない。$u$ と $v$ の共通の隣接頂点 $w$ があると $w$ から $v_e$ への辺は 1 本になる。

マイナー

グラフ $H$ がグラフ $G$ の マイナー(minor)であるとは、$G$ から頂点の削除・辺の削除・辺の縮約を有限回($0$ 回でもよい)繰り返して $H$ と同型なグラフが得られることをいい、$H\preceq G$ と書く。$H\preceq G$ で $H$ が $G$ と同型でないとき、$H$ を $G$ の 真のマイナー という。

定義から、部分グラフはマイナーであり(削除だけを使う)、$H\preceq G$ かつ $G\preceq K$ なら $H\preceq K$ である(操作の列をつなげる)。マイナーは、どの頂点の集合が 1 点につぶれたかを記録することでも表せる。

分岐集合による表示

グラフ $G$ の頂点の空でない部分集合の族 $(V_x)_{x\in V(H)}$ で、次を満たすものを $G$ の中の $H$ の モデル といい、$V_x$ を 分岐集合 という。

  1. $V_x$ たちは互いに交わらない。
  2. 各 $x$ について、誘導部分グラフ $G[V_x]$ は連結である。
  3. $H$ の各辺 $xy$ について、$V_x$ の頂点と $V_y$ の頂点を結ぶ $G$ の辺がある。

これは Kuratowskiの定理 の定義「マイナー」と同じものである。

2 つの定義の一致

グラフ $H,G$ について、$H\preceq G$ であることと、$G$ の中に $H$ のモデルがあることは同値である。

要点:操作を 1 回行うごとにモデルを 1 段もとへ引き戻せる。逆に、モデルがあれば分岐集合の外を除き、余分な辺を除き、各分岐集合の全域木の辺を縮約すればよい。

詳しい証明を開く

($\Rightarrow$)$G'$ が $G$ から操作を 1 回行って得られ、$G'$ の中に $H$ のモデル $(W_x)$ があれば、$G$ の中にも $H$ のモデルがあることを示す。$G'=G-v$ または $G-e$ なら $G'$ は $G$ の部分グラフで、$(W_x)$ がそのまま $G$ の中のモデルになる(連結性と辺の存在は辺を増やしても保たれる)。$G'=G/e$、$e=uv$ とする。$v_e$ を含む $W_{x_0}$ があれば、それを $W_{x_0}':=(W_{x_0}\setminus\{v_e\})\cup\{u,v\}$ に、ほかの $W_x$ はそのままにする。$G/e$ の辺で $v_e$ に接続する辺 $v_ew$ は $G$ の辺 $uw$ か $vw$ から来ており、$u,v$ は隣接するので、$G[W_{x_0}']$ は連結である。分岐集合どうしを結ぶ辺も同じ理由で $G$ の辺に置き換わる。$v_e$ がどの $W_x$ にも属さなければ $(W_x)$ はそのまま $G$ の中のモデルである。$H$ と同型なグラフ $H'$ には 1 点集合からなるモデルがあり、同型で $H$ のモデルに移せる。操作の回数についての帰納法で、$G$ の中に $H$ のモデルがある。

($\Leftarrow$)モデル $(V_x)$ をとる。まず $\bigcup_xV_x$ の外の頂点を除き、次に $x\ne y$、$xy\notin E(H)$ である $V_x$ と $V_y$ を結ぶ辺を除く。各 $G[V_x]$ の全域木(連結だからある)の辺を 1 本ずつ縮約していくと、縮約のたびに $V_x$ の像は 1 点ずつ減り、連結のままなので、最後には各 $V_x$ が 1 頂点 $x$ になる。$V_x$ の中の残りの辺は両端が 1 点にまとまった時点で消える。得られたグラフの頂点は $V(H)$ と対応し、$x,y$ が隣接するのは $V_x$ と $V_y$ を結ぶ辺が残っていたとき、すなわち $xy\in E(H)$ のときに限る(モデルの条件 3 によりそのような辺は必ずある)。よって $H$ と同型なグラフが得られた。$\square$

この同値は Die25 Corollary 1.7.2(p. 20)にある。辺の縮約 $G/e$ は、$\{u,v\}$ だけが 2 点で残りが 1 点の分岐集合をもつモデルにあたる。

マイナーの順序
  1. $H\preceq G$ なら $\lvert H\rvert\le\lvert G\rvert$ かつ $e(H)\le e(G)$ である。
  2. $H\preceq G$ かつ $G\preceq H$ なら、$H$ と $G$ は同型である。したがって $\preceq$ は、グラフの同型類の上の半順序である。
  3. $H$ が $G$ の真のマイナーなら、$G$ のある頂点 $v$ または辺 $e$ について、$H$ は $G-v$、$G-e$、$G/e$ のどれかのマイナーである。

1:どの操作でも頂点の個数と辺の本数は増えない。2:どの操作でも $\lvert G\rvert+e(G)$ は $1$ 以上減る(縮約では頂点が 1 つと辺 $e$ が消える)。$H\preceq G\preceq H$ なら、1 により $\lvert H\rvert+e(H)=\lvert G\rvert+e(G)$ なので、$G$ から $H$ への操作の列は長さ $0$ であり、$H$ は $G$ と同型である。3:$G$ から $H$ と同型なグラフへの操作の列は、$H$ が $G$ と同型でないので長さが $1$ 以上である。その最初の操作で得られるグラフが $G-v$、$G-e$、$G/e$ のどれかで、$H$ はそのマイナーである。$\square$

閉路のマイナー

$n\ge4$ について、$n$ 頂点の閉路 $C_n$ の辺を 1 本縮約すると $C_{n-1}$ になる。よって $3\le m\le n$ なら $C_m\preceq C_n$ である。とくに、閉路を部分グラフとして含むグラフは三角形 $K_3=C_3$ をマイナーとして含む。一方、部分グラフとしては $C_m\subset C_n$ となるのは $m=n$ のときだけである(閉路の部分グラフで閉路であるものは、すべての頂点の次数が $2$ なので全体に一致する)。

マイナーを含むことは、細分を部分グラフとして含むこと(位相的マイナー)より弱い条件である。細分を含めばマイナーとして含むが、Petersenグラフ は $K_5$ をマイナーとして含み、$K_5$ の細分は含まない(平面グラフ の記事の注意「細分を持つこととマイナーとして持つことの違い」)。マイナーとして含まれる側のグラフの最大次数が $3$ 以下なら、2 つの関係は一致する(Kuratowskiの定理 の補題「マイナーから位相的マイナーへ」)。

マイナー閉な族と禁止マイナー

マイナー閉な族

グラフの族 $\mathcal P$ が マイナー閉(minor-closed)であるとは、$G\in\mathcal P$ かつ $H\preceq G$ なら $H\in\mathcal P$ であることをいう。グラフの族 $\mathcal X$ について、$\mathcal X$ のどのグラフもマイナーとして含まないグラフ全体を $\operatorname{Forb}(\mathcal X)$ と書き、$\mathcal X$ の元をこの族の 禁止マイナー(forbidden minor)という。$\mathcal P$ に属さないグラフで、真のマイナーがすべて $\mathcal P$ に属するものの全体を $\mathcal K(\mathcal P)$ と書き、その元を $\mathcal P$ の 極小な禁止マイナー という。

$\mathcal K(\mathcal P)$ は Die25 で $\mathcal P$ の Kuratowski 集合と呼ばれている(p. 397)。

禁止マイナーによる特徴づけ
  1. どんなグラフの族 $\mathcal X$ についても、$\operatorname{Forb}(\mathcal X)$ はマイナー閉である。
  2. $\mathcal P$ がマイナー閉なら $\mathcal P=\operatorname{Forb}(\mathcal K(\mathcal P))$ である。
  3. $\mathcal P=\operatorname{Forb}(\mathcal X)$ なら、$\mathcal K(\mathcal P)$ の各元は $\mathcal X$ のある元と同型である。また、$\mathcal K(\mathcal P)$ のどの 2 つの元も、同型でなければ一方が他方のマイナーになることはない。

要点:1 は推移性による。2 は、$\mathcal P$ に属さないマイナーのうち頂点と辺の数の和が最小のものが極小な禁止マイナーになることによる。3 は極小性から直ちに従う。

詳しい証明を開く

1:$G\in\operatorname{Forb}(\mathcal X)$、$H\preceq G$ とする。$H$ が $X\in\mathcal X$ をマイナーとして含めば、推移性により $G$ も $X$ を含むので矛盾する。

2:$G\in\mathcal P$ が $K\in\mathcal K(\mathcal P)$ をマイナーとして含めば、マイナー閉なので $K\in\mathcal P$ となって矛盾する。よって $\mathcal P\subset\operatorname{Forb}(\mathcal K(\mathcal P))$。逆に $G\notin\mathcal P$ とする。$G$ のマイナーで $\mathcal P$ に属さないもの($G$ 自身がそうである)のうち、$\lvert\cdot\rvert+e(\cdot)$ が最小のもの $K$ をとる。$K$ の真のマイナー $K'$ は prop-gm-order の 2 の証明により $\lvert K'\rvert+e(K')$ がより小さく、$G$ のマイナーでもあるので $K'\in\mathcal P$ である。よって $K\in\mathcal K(\mathcal P)$ で、$G\notin\operatorname{Forb}(\mathcal K(\mathcal P))$ である。

3:$K\in\mathcal K(\mathcal P)$ は $\mathcal P$ に属さないので、ある $X\in\mathcal X$ をマイナーとして含む。$X\preceq X$ なので $X\notin\mathcal P$ であり、$K$ の真のマイナーはすべて $\mathcal P$ に属するから、$X$ は $K$ の真のマイナーではない。よって $X$ は $K$ と同型である。$K,K'\in\mathcal K(\mathcal P)$ で $K$ が $K'$ の真のマイナーなら $K\in\mathcal P$ となり矛盾する。$\square$

2 により、マイナー閉な族はどれも禁止マイナーで表せ、3 により $\mathcal K(\mathcal P)$ はそのための最小の集合である(Die25 Lemma 12.6.1、p. 392、と p. 397)。部分グラフについてだけ閉じた族はこの形に表せないことがある(ex-gm-counterexamples の 1)。

森

森の禁止マイナー

グラフ $G$ が 森 であることと、$G$ が $K_3$ をマイナーとして含まないことは同値である。森の族の極小な禁止マイナーは $K_3$ だけである。

要点:閉路は縮約で三角形になる。逆に、森の辺を縮約して閉路ができたとすると、縮約した頂点を 2 つに戻して森の中の閉路が得られる。

詳しい証明を開く

閉路をもつグラフは ex-gm-cycles により $K_3$ をマイナーとして含む。逆に、森のマイナーが森であることを示す。森から頂点や辺を除いても森である。森 $G$ の辺 $e=uv$ を縮約した $G/e$ が閉路 $C$ をもつとする。$C$ が $v_e$ を通らなければ $C$ は $G$ の閉路である。$C$ が $v_e$ を通るとき、$C$ の上で $v_e$ に隣り合う 2 頂点を $a\ne b$ とし、$C$ から $v_e$ を除いた $a$ から $b$ への道を $P$ とする。$a$ は $G$ で $u$ か $v$ に隣接し、$b$ も同様である。$a$ と $b$ が同じ頂点、たとえば $u$ に隣接すれば $a\,P\,b\,u\,a$ が、$a$ が $u$ に、$b$ が $v$ に隣接すれば $a\,P\,b\,v\,u\,a$ が $G$ の閉路になる($u,v$ は $P$ の上にない)。どちらも $G$ が森であることに反する。よって森の族はマイナー閉で、$K_3$ は森でないので森は $K_3$ をマイナーとして含まない。

後半:prop-gm-order の 3 により、$K_3$ の真のマイナーは $K_3-v=K_2$、$K_3-e$(長さ $2$ の道)、$K_3/e=K_2$ のどれかのマイナーで、これらは森なので森である。よって $K_3\in\mathcal K(\text{森})$ であり、prop-gm-forbidden の 3 により $\mathcal K(\text{森})$ の元はすべて $K_3$ と同型である。$\square$

平面グラフ

平面グラフの禁止マイナー

グラフが平面グラフであることと、$K_5$ も $K_{3,3}$ もマイナーとして含まないことは同値である。平面グラフの族はマイナー閉で、その極小な禁止マイナーは $K_5$ と $K_{3,3}$ だけである。

前半は Wagner の定理で、Kuratowskiの定理 の定理「Kuratowski–Wagner の定理」の 1 ⇔ 2 として証明されている。そこから、平面グラフのマイナーが平面グラフであること(同じ記事の系「マイナーをとる操作と平面性」)も従う。この記事で示すのは後半である。

前半とマイナー閉であることは上に述べたとおりである。$K_5$ と $K_{3,3}$ は平面グラフでない(平面グラフ の記事の命題「$K_5$ は平面グラフでない」「$K_{3,3}$ は平面グラフでない」)。prop-gm-order の 3 と平面グラフの族がマイナー閉であることにより、$X\in\{K_5,K_{3,3}\}$ のすべての真のマイナーが平面グラフであることを示すには、$X-v$、$X-e$、$X/e$ が平面グラフであることを示せば十分である。$K_5$ と $K_{3,3}$ では、どの頂点もどの辺も自己同型で互いに移り合うので、$v,e$ は 1 つずつ調べればよい。

  • $K_5-v=K_4$ と、$K_5/e$($v_e$ は残りの 3 頂点と隣接し、その 3 頂点も互いに隣接する)$\cong K_4$ は平面グラフである(平面グラフ の記事の例「完全グラフ$K_4$」)。
  • $K_5-e$(頂点 $1,\dots,5$、辺 $45$ がない)は、三角形 $123$ を描き、$4$ を三角形の内側、$5$ を外側に置いて $1,2,3$ と結べば交わらずに描ける。
  • $K_{3,3}$ の部を $\{a_1,a_2,a_3\}$、$\{b_1,b_2,b_3\}$ とする。$K_{3,3}-a_1=K_{2,3}$ は、4 頂点の閉路 $a_2b_1a_3b_2$ を描き、$b_3$ を外側に置いて $a_2,a_3$ と結べば描ける。$K_{3,3}-a_1b_1$ は、閉路 $a_2b_2a_3b_3$ を描き、$a_1$ を内側に置いて $b_2,b_3$ と、$b_1$ を外側に置いて $a_2,a_3$ と結べば描ける。
  • $K_{3,3}/a_1b_1$ では、$v_e$ が残りの 4 頂点 $a_2,a_3,b_2,b_3$ のすべてと隣接し、その 4 頂点の間には $a_2a_3$ と $b_2b_3$ 以外のすべての辺がある。これは $K_5-e$ の部分グラフなので平面グラフである。
    よって $K_5,K_{3,3}\in\mathcal K(\text{平面グラフ})$ であり、prop-gm-forbidden の 3 により $\mathcal K(\text{平面グラフ})$ の元は $K_5$ か $K_{3,3}$ と同型である。$\square$

後半から、平面グラフの族をどんな禁止マイナーの集合で表しても、その集合は $K_5$ と $K_{3,3}$ を(同型を除いて)含む。同じ形の特徴づけとして、外平面グラフ は $K_4$ も $K_{2,3}$ もマイナーとして含まないグラフである(同記事の定理「外平面グラフの禁止マイナー」)。$K_4$ をマイナーとして含まないグラフは、次節の木幅が $2$ 以下のグラフに一致する(Die25 Proposition 12.6.2、p. 392)。

木分解と木幅

木は 1 つの頂点や辺で左右に分かれ、分かれた部分ごとに調べられる。この性質を一般のグラフに広げるのが木分解で、グラフがどれだけ木に近いかを測る量が木幅である。木幅はマイナーをとっても増えない。

木分解と木幅

グラフ $G$ の 木分解(tree-decomposition)とは、木 $T$ と、$T$ の各頂点 $t$(ノードと呼ぶ)に対する $V(G)$ の部分集合 $V_t$(袋と呼ぶ)の組 $(T,(V_t)_{t\in V(T)})$ で、次を満たすものをいう。

  • (T1) $V(G)=\bigcup_tV_t$ である。
  • (T2) $G$ の各辺について、両端をともに含む袋がある。
  • (T3) ノード $t_2$ が $T$ の中で $t_1$ と $t_3$ を結ぶ道の上にあれば、$V_{t_1}\cap V_{t_3}\subset V_{t_2}$ である。
    $\max_t\lvert V_t\rvert-1$ を木分解の 幅 といい、$G$ の木分解の幅の最小値を $G$ の 木幅(tree-width)といって $\operatorname{tw}(G)$ と書く。

(T3) は、各頂点 $v$ を含む袋のノードの集合 $T_v:=\{t\mid v\in V_t\}$ が $T$ の連結な部分(部分木)をなすことと同じである。定義は Die25 §12.3–§12.4(pp. 367, 371)による。

袋による分離

$(T,(V_t))$ を $G$ の木分解、$t_1t_2$ を $T$ の辺とし、$T-t_1t_2$ の $t_i$ を含む成分を $T_i$、$U_i:=\bigcup_{t\in T_i}V_t$ とする。

  1. $U_1\cap U_2=V_{t_1}\cap V_{t_2}$ であり、$U_1\setminus U_2$ の頂点と $U_2\setminus U_1$ の頂点を結ぶ $G$ の辺はない。
  2. $G$ の頂点の集合 $W$ で $G[W]$ が連結なものが $U_1$ と $U_2$ の両方と交われば、$W$ は $V_{t_1}\cap V_{t_2}$ と交わる。
  3. $G$ の 完全グラフ である部分グラフの頂点はすべて、ある 1 つの袋に含まれる。

要点:1 は (T3) と (T2)、2 は 1 から連結性で、3 は辺の向き付けで全部の頂点を含む袋へたどり着く。

詳しい証明を開く

1:$v\in V_s\cap V_{s'}$、$s\in T_1$、$s'\in T_2$ なら、$s$ と $s'$ を結ぶ $T$ の道は $t_1,t_2$ を通るので、(T3) により $v\in V_{t_1}\cap V_{t_2}$ である。逆の包含は明らかである。$x\in U_1\setminus U_2$、$y\in U_2\setminus U_1$ を結ぶ辺があれば、(T2) により $x,y$ をともに含む袋 $V_s$ があり、$s\in T_1$ なら $y\in U_1$、$s\in T_2$ なら $x\in U_2$ となって矛盾する。

2:$W$ が $U_1\cap U_2$ と交わらなければ、(T1) により $W$ は $W\cap(U_1\setminus U_2)$ と $W\cap(U_2\setminus U_1)$ に分かれ、仮定から両方とも空でなく、1 によりその間に辺がない。これは $G[W]$ の連結性に反する。

3:完全な部分グラフの頂点集合を $K$ とする。$T$ の各辺 $t_1t_2$ について、1 により $K$ の頂点が $U_1\setminus U_2$ と $U_2\setminus U_1$ の両方にあることはない(あればその 2 頂点は隣接する)ので、$K\subset U_1$ または $K\subset U_2$ である。$K\subset U_i$ となる $i$ を 1 つ選び、辺を $t_i$ に向ける。ノードから出る向きの辺があればそれをたどることを繰り返すと、木の中で同じ辺を逆にたどることはないので道になり、いつか止まる。止まったノード $t$ では、$t$ に接続するどの辺も $t$ に向いている。$w\in K$ をとり、$w\in V_s$ とする。$s\ne t$ なら、$t$ から $s$ への道の最初の辺 $tt'$ は $t$ に向いているので、$w$ は $t$ の側のあるノード $s'$ の袋にも属する。$t$ は $s'$ と $s$ を結ぶ道の上にあるので、(T3) により $w\in V_t$ である。よって $K\subset V_t$ である。$\square$

この補題は Die25 Lemma 12.3.1・Lemma 12.3.4・Corollary 12.3.5(pp. 368–369)にある。

木幅の基本性質
  1. $H\preceq G$ なら $\operatorname{tw}(H)\le\operatorname{tw}(G)$ である。
  2. $n\ge1$ について $\operatorname{tw}(K_n)=n-1$ である。
  3. 頂点を 1 個以上もつグラフ $G$ について、$\operatorname{tw}(G)\le1$ であることと $G$ が森であることは同値である。
  4. $n\ge3$ について、閉路 $C_n$ の木幅は $2$ である。
  5. $\operatorname{tw}(G)\le2$ なら $G$ は $K_4$ をマイナーとして含まない。

要点:1 は各袋に、それと交わる分岐集合の名前を集めた袋を作り、(T3) を袋による分離で確かめる。2 は完全グラフが 1 つの袋に入ることによる。3・4 は木分解を具体的に作る。

詳しい証明を開く

1:$G$ の木分解 $(T,(V_t))$ と、$G$ の中の $H$ のモデル $(V_x)_{x\in V(H)}$(prop-gm-equivalent)をとり、$W_t:=\{x\in V(H)\mid V_x\cap V_t\ne\emptyset\}$ とおく。分岐集合は互いに交わらないので $\lvert W_t\rvert\le\lvert V_t\rvert$ である。$(T,(W_t))$ が $H$ の木分解であることを示す。(T1):$V_x$ は空でなく、その頂点はある袋に属する。(T2):$H$ の辺 $xy$ について $V_x$ と $V_y$ を結ぶ辺 $ab$ があり、$a,b$ をともに含む袋 $V_t$ について $x,y\in W_t$ である。(T3):$x\in W_{t_1}\cap W_{t_3}$ で、$t_2$ が $t_1$ と $t_3$ を結ぶ道の上にあるとする。$t_2\ne t_1,t_3$ としてよい。その道の上で $t_2$ に隣り合い $t_1$ の側にあるノードを $s$ とし、辺 $st_2$ について lem-gm-separation の記号で $s$ の側を $U_1$、$t_2$ の側を $U_2$ とする。$V_x$ は $V_{t_1}\subset U_1$ とも $V_{t_3}\subset U_2$ とも交わり、$G[V_x]$ は連結なので、lem-gm-separation の 2 により $V_x$ は $V_s\cap V_{t_2}\subset V_{t_2}$ と交わる。よって $x\in W_{t_2}$ である。

2:袋が $V(K_n)$ だけの木分解($T$ は 1 点)の幅は $n-1$ である。逆に lem-gm-separation の 3 によりどの木分解にも $V(K_n)$ を含む袋があるので、幅は $n-1$ 以上である。

3:$G$ が木で頂点が 2 個以上のとき、$T$ のノードを $G$ の頂点と辺の全体とし、頂点 $v$ と辺 $e$ を $v$ が $e$ の端点のとき結ぶ($T$ は $G$ の各辺の中点に頂点を置いたグラフで、木である)。袋を $V_v:=\{v\}$、$V_e:=\{u,v\}$($e=uv$)とすると、(T1)(T2) は明らかで、$T_v$ は $v$ と $v$ に接続する辺からなる星形の部分木なので (T3) も成り立つ。幅は $1$ である。頂点が 1 個の木には 1 点の袋 1 つの木分解がある。森なら、各成分の木分解の木を辺で 1 本の木につなげばよい(成分ごとの袋は互いに交わらないので (T3) は保たれる)。逆に $\operatorname{tw}(G)\le1$ なら、1 と 2 により $\operatorname{tw}(K_3)=2$ なので $G$ は $K_3$ をマイナーとして含まず、thm-gm-forest により森である。

4:頂点を $v_1,\dots,v_n$ と並べ、$T$ を $n-2$ 個のノード $t_2,\dots,t_{n-1}$ の道とし、$V_{t_i}:=\{v_1,v_i,v_{i+1}\}$ とする。辺 $v_1v_2$ は $V_{t_2}$ に、辺 $v_iv_{i+1}$($2\le i\le n-1$)は $V_{t_i}$ に、辺 $v_nv_1$ は $V_{t_{n-1}}$ に含まれ、$v_1$ はすべての袋に、$v_i$($2\le i\le n$)は隣り合う高々 2 つの袋に属するので (T3) も成り立つ。よって $\operatorname{tw}(C_n)\le2$ で、$C_n$ は森でないので 3 により $\operatorname{tw}(C_n)\ge2$ である。

5:1 と 2 による($\operatorname{tw}(K_4)=3$)。$\square$

1 は Die25 Lemma 12.4.1(p. 371、証明は Lemma 12.3.2・12.3.3、p. 368)、3 の一方向は同書 p. 371 の注意である。5 の逆、すなわち $K_4$ をマイナーとして含まないグラフの木幅が $2$ 以下であることも成り立つ(Die25 Proposition 12.6.2、p. 392。この記事では証明しない)。$k\times k$ の格子グラフの木幅は $k-1$ 以上である(格子グラフ の節「マイナーと木幅」)。格子グラフとそのマイナーは平面グラフなので、$H$ が平面グラフでなければ、$H$ をマイナーとして含まないグラフの族はすべての格子グラフを含み、その木幅は有界でない。逆に $H$ が平面グラフなら、$H$ をマイナーとして含まないグラフの木幅は有界である(Robertson–Seymour の格子定理による。Die25 Theorem 12.6.3・Corollary 12.6.4、pp. 392–393。この記事では証明しない)。

グラフマイナー定理

整擬順序

集合 $X$ の上の反射的かつ推移的な関係 $\le$ を擬順序という。擬順序 $\le$ が 整擬順序(well-quasi-ordering)であるとは、$X$ の任意の無限列 $x_0,x_1,\dots$ に $i< j$ で $x_i\le x_j$ となる番号があることをいう。

マイナーの関係 $\preceq$ は有限グラフ全体の上の擬順序である。真のマイナーをとると $\lvert\cdot\rvert+e(\cdot)$ が真に減るので、真のマイナーの無限の降下列はない。一般に擬順序が整擬順序であることは、無限の反鎖(どの 2 つも比較できない元の無限列)も無限の真の降下列もないことと同値である(Die25 Proposition 12.1.1、p. 364。証明は Ramseyの定理 による)。したがって $\preceq$ が整擬順序であることは、どの 2 つも同型でなく、どちらも他方のマイナーでないグラフの無限列がないことと同値である。

Robertson–Seymour の定理

有限グラフ全体はマイナーの関係 $\preceq$ について整擬順序である。すなわち、有限グラフの任意の無限列 $G_0,G_1,\dots$ に、$i< j$ で $G_i\preceq G_j$ となる番号がある。

証明の所在と大筋

この定理は Robertson と Seymour が論文の系列 Graph Minors で証明した(Die25 Theorem 12.7.1、p. 397。証明が系列の第 IV–VII、IX–XII、XIV–XXII 編にわたることは同書の注、p. 412)。この記事では証明しない。Die25 第 12 章は、木の場合(Kruskal の定理、Theorem 12.2.1、p. 365)を証明し、木幅が有界なグラフの場合(Theorem 12.4.2、p. 371)の主張を述べている。証明の大筋は、列の最初のグラフ $G_0$ をマイナーとして含まないグラフの構造を使うものである。$G_0$ が平面グラフなら、そのようなグラフの木幅は有界なので木幅が有界な場合に帰着する。一般には $G_0\preceq K_n$($n=\lvert G_0\rvert$)なので、$K_n$ をマイナーとして含まないグラフが曲面にほぼ埋め込める部分に木分解されるという構造定理を使う(Die25 pp. 402–404 の概略)。

禁止マイナーの有限性

マイナー閉なグラフの族 $\mathcal P$ について、$\mathcal K(\mathcal P)$ は同型を除いて有限個のグラフからなる。したがって、$\mathcal P=\operatorname{Forb}(\{X_1,\dots,X_n\})$ となる有限個のグラフ $X_1,\dots,X_n$ がある。

$\mathcal K(\mathcal P)$ が互いに同型でないグラフを無限個含むとし、それらを並べた無限列 $K_0,K_1,\dots$ をとる。thm-gm-rs により $i< j$ で $K_i\preceq K_j$ となる番号がある。$K_i$ は $K_j$ と同型でないので真のマイナーであり、prop-gm-forbidden の 3 に反する。後半は prop-gm-forbidden の 2 による。$\square$

この系は Die25 Corollary 12.7.2(p. 397)である。とくに、各曲面 $S$ について、$S$ に辺を交わらせずに描けるグラフの族はマイナー閉なので、有限個の禁止マイナーで特徴づけられる(同 Corollary 12.7.3、p. 397)。平面ではそれが $K_5$ と $K_{3,3}$ である(thm-gm-planar)。系は禁止マイナーが有限個であることを保証するだけで、それらを求める方法は与えない。

例

族と極小な禁止マイナー
マイナー閉な族極小な禁止マイナー根拠
辺のないグラフ$K_2$辺があれば $K_2$ を部分グラフとして含む
森(木幅 $1$ 以下)$K_3$thm-gm-forest、thm-gm-treewidth の 3
木幅 $2$ 以下$K_4$thm-gm-treewidth の 5 と Die25 Proposition 12.6.2
外平面グラフ$K_4$, $K_{2,3}$同記事の定理「外平面グラフの禁止マイナー」
平面グラフ$K_5$, $K_{3,3}$thm-gm-planar

どの行の族も、表の禁止マイナーをマイナーとして含まないグラフ全体に一致する。外平面グラフの行では、$K_4$ と $K_{2,3}$ のどちらも他方のマイナーでない。$K_{2,3}$ は頂点が 5 個なので、prop-gm-order の 1 により頂点が 4 個の $K_4$ のマイナーでない。$K_{2,3}$ のマイナーで頂点が 4 個のものを得る操作の列には頂点の削除か辺の縮約が少なくとも 1 回入る。その最初の操作より前に辺を除いていれば辺はすでに 5 本以下であり、除いていなければその操作は孤立点のない $K_{2,3}$ に行われるので辺が 1 本以上減る。どちらの場合も辺は 5 本以下で、辺が 6 本の $K_4$ にはならない。

木分解の例

4 頂点の閉路 $v_1v_2v_3v_4$ に辺 $v_1v_3$ を加えたグラフ $G$ は、2 つのノード $t,t'$ を結んだ木と袋 $V_t=\{v_1,v_2,v_3\}$、$V_{t'}=\{v_1,v_3,v_4\}$ による幅 $2$ の木分解をもつ。$G$ は三角形を含むので森でなく、$\operatorname{tw}(G)=2$ である。袋の共通部分 $\{v_1,v_3\}$ は、lem-gm-separation のとおり $v_2$ と $v_4$ を分離する。

条件を外したときの反例

外す条件反例成り立たなくなること
マイナー閉(部分グラフについてだけ閉じているとする)二部グラフの族禁止マイナーで表せること(prop-gm-forbidden の 2)
マイナーの関係(部分グラフの関係に替える)閉路の列 $C_3,C_4,\dots$整擬順序であること(thm-gm-rs)
マイナーの関係(位相的マイナーの関係に替える)閉路の各辺に三角形を付けたグラフの列整擬順序であること
有限グラフ(非可算グラフを許す)Thomas の例整擬順序であること
木幅(最大次数に替える)隣り合う 2 頂点にそれぞれ葉を 2 つ付けた木マイナーをとって増えないこと(thm-gm-treewidth の 1)
反例の確認

1 行目:二部グラフの部分グラフは二部グラフである。一方、二部グラフ $C_4$ の辺を縮約すると $K_3$ になり(ex-gm-cycles)、これは二部グラフでない。よってこの族はマイナー閉でなく、prop-gm-forbidden の 1 により $\operatorname{Forb}(\mathcal X)$ の形にはならない。
2 行目:ex-gm-cycles のとおり、閉路 $C_m$ が閉路 $C_n$ の部分グラフになるのは $m=n$ のときだけなので、どの 2 つも部分グラフの関係で比べられない。
3 行目:閉路 $C_n$ の各辺 $uv$ に新しい頂点を 1 つ加えて $u,v$ と結んだグラフたちは、長さの違うどの 2 つも位相的マイナーの関係で比べられない(Die25 第 12 章の注、p. 412。この記事では証明しない)。マイナーの関係では、短いほうが長いほうのマイナーになる。
4 行目:非可算なグラフの間ではマイナーの関係は整擬順序でない(R. Thomas, 1988。Die25 第 12 章の注、p. 412。この記事では証明しない)。可算なグラフについては未解決である(同所)。
5 行目:この木の最大次数は $3$ だが、中央の辺を縮約すると 4 つの葉をもつ星 $K_{1,4}$ になり、最大次数は $4$ に増える。木幅はどちらも $1$ である。

補足

  • アルゴリズム:各グラフ $H$ について、与えられたグラフが $H$ をマイナーとして含むかを頂点数の 3 乗に比例する時間で判定する方法がある(Robertson–Seymour。Die25 p. 404 と第 12 章の注、p. 416)。cor-gm-finite と合わせると、どのマイナー閉な族についても、属するかどうかを多項式時間で判定できる。ただし禁止マイナーの一覧は一般には知られていない。
  • 位相的マイナーとの比較:$K_5$ と $K_{3,3}$ の組については、マイナーとして含むことと位相的マイナーとして含むことが同値であり、Kuratowski の定理と Wagner の定理は同じ族を表す(Kuratowskiの定理)。一般の族では 2 つの関係は異なり、3 行目の反例のとおり位相的マイナーの関係は整擬順序でない。
  • 彩色との関係:完全グラフ $K_t$ をマイナーとして含まないグラフが $t-1$ 色で塗り分けられるかを問うのが Hadwiger予想 である。$t=5$ の場合は 四色定理 と同値になる。

関連項目

参考文献

[1]
Reinhard Diestel, Graph Theory, 6th ed., Springer, 2025, §1.7(Corollary 1.7.2、p. 20)、Proposition 12.1.1(p. 364)、Theorem 12.2.1(p. 365)、§12.3–§12.4(pp. 367–371:Lemma 12.3.1–12.3.4・Corollary 12.3.5・Lemma 12.4.1・Theorem 12.4.2)、§12.6(pp. 391–393:Lemma 12.6.1・Proposition 12.6.2・Theorem 12.6.3・Corollary 12.6.4)、§12.7(Theorem 12.7.1・Corollary 12.7.2・12.7.3、p. 397、証明の概略 pp. 402–404)、第 12 章の注(pp. 412, 416)

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