ホモトピー論(homotopy theory)とは、位相空間と連続写像を、連続的な変形(ホモトピー)で移り合うものを同じとみなして研究する数学の分野であり、写像のホモトピー類の集合とホモトピー群などのホモトピー不変量を調べる。CW 複体・ファイブレーション・コファイブレーションを道具に写像の分類とホモトピー型の判定を行い、安定ホモトピー論やモデル圏・∞ 圏による抽象的な理論へ広がっている。ホモトピー持ち上げ性質をもつ写像(ファイブレーション)では、底の同じ弧状連結成分にある点の上のファイバーは、同相とは限らないが互いにホモトピー同値である。
ホモトピー論(homotopy theory)は、空間と連続写像を、連続的な変形(ホモトピー)で移り合うものを同じとみなして研究する数学の分野である。円板と 1 点、穴のあいた平面と円周のように、形は違っても連続的に縮めたり伸ばしたりして移り合う空間は、ホモトピー論では区別しない。そのかわり、球面を空間の中でどれだけ違う仕方で包めるか(ホモトピー群)、2 つの空間の間に本質的に異なる写像がいくつあるか、といった、変形で変わらない情報を調べる。
この記事では、まずホモトピー論の基本の対象を定義し、主な問いと代表的な定理を、それを扱う記事とともに一覧にする。続いて、ホモトピー論の基本の道具であるファイブレーションについて、底が弧状連結ならどのファイバーも同じホモトピー型をもつことを完全に証明し、仮定を外した反例を示す。最後に、学ぶ順に記事を並べた道筋を示す。
$I:=[0,1]$ とする。連続写像 $f,g\colon X\to Y$ がホモトピックであるとは、連続写像 $H\colon X\times I\to Y$ で $H(x,0)=f(x)$、$H(x,1)=g(x)$ となるものがあることをいい、$f\simeq g$ と書く。連続写像 $f\colon X\to Y$ に、$g\circ f\simeq\mathrm{id}_X$、$f\circ g\simeq\mathrm{id}_Y$ となる連続写像 $g\colon Y\to X$ があるとき、$f$ をホモトピー同値、$X$ と $Y$ をホモトピー同値(同じホモトピー型をもつ)という(ホモトピー、ホモトピー同値)。連続写像 $X\to Y$ のホモトピー類の集合を $[X,Y]$ と書く。
位相空間を対象とし、$[X,Y]$ の元を $X$ から $Y$ への射とし、合成を $[g]\circ[f]:=[g\circ f]$ で定めた圏を、位相空間のホモトピー圏という。位相空間に集合・群などを対応させる関手のうち、ホモトピックな写像に同じ射を対応させるもの、すなわちホモトピー圏からの関手を経由するものをホモトピー不変量という。
ホモトピー論とは、位相空間と連続写像をホモトピー同値・ホモトピーを除いて研究し、とくにホモトピー圏の射の集合 $[X,Y]$ とホモトピー不変量を調べる数学の分野である。
合成が矛盾なく定まって圏になることは ホモトピー の命題「合成との整合性」と「ホモトピーの圏とホモトピー不変量」にある。ホモトピー同値な空間は、この圏で同型な対象である。基本群・ホモトピー群・特異ホモロジーはホモトピー不変量である(基本群、ホモトピー群、特異ホモロジー)。
基点を固定した空間(基点付き空間)と、基点を保つ写像・ホモトピーについても同じ構成をし、その射の集合を $[X,Y]_*$ と書く。$n$ 次元球面からの射の集合 $\pi_n(X,x_0)=[S^n,X]_*$ が $n$ 次のホモトピー群である。基点付き空間の圏で 2 つの空間を基点で貼り合わせたウェッジ和は余積であり、基点付き空間のホモトピー論では直和の役をする。
ホモトピー論は、扱う対象と方法によって、おおよそ次の部分に分かれる。
ホモトピー論の基本となる定理を、それを扱う記事とともに挙げる。
| 定理 | 主張の要点 | 記事 |
|---|---|---|
| 円周の基本群 | $\pi_1(S^1)\cong\mathbb{Z}$ | 基本群 |
| Seifert–van Kampen の定理 | 開集合で分けた空間の基本群は融合積 | Seifert–van Kampenの定理 |
| 高次ホモトピー群の可換性 | $n\ge2$ なら $\pi_n$ はアーベル群 | ホモトピー群 |
| 胞体近似定理 | CW 複体の間の写像は胞体写像にホモトピック | 胞体近似定理 |
| Whitehead の定理 | CW 複体の間の弱ホモトピー同値はホモトピー同値 | Whiteheadの定理 |
| Hurewicz の定理 | 道連結な空間の基本群のアーベル化は 1 次ホモロジー群 | Hurewiczの定理 |
| ファイブレーションの完全列 | ファイバー・全空間・底のホモトピー群は長完全列をなす | ホモトピーファイバー |
| Freudenthal の懸垂定理 | $k$ 連結な CW 複体では、懸垂が $\pi_n$ を $n\le2k$ で同型に移す | ホモトピー群 |
| Brown の表現可能性定理 | Brown 関手は普遍対で表される | Brownの表現可能性定理 |
| Serre の有限性定理 | $k>n$ の $\pi_k(S^n)$ は、$n$ が偶数で $k=2n-1$ の場合を除き有限群 | 球面のホモトピー群 |
ホモトピー論の構成の多くは、「写像を持ち上げる」側と「写像を延ばす」側の 2 つが対になっている。
| 写像を持ち上げる側 | 写像を延ばす側 |
|---|---|
| ファイブレーション(ホモトピー持ち上げ性質) | コファイブレーション(ホモトピー拡張性質) |
| ホモトピーファイバー $F_f$ | 写像錐 $C_f$ |
| ループ空間 $\Omega X$ | 懸垂 $\Sigma X$ |
| 直積 $X\times Y$ | ウェッジ和 $X\vee Y$ |
| 基点付き写像 $f\colon X\to Y$ の列 $\Omega Y\to F_f\to X\to Y$ に $[A,-]_*$ を施すと完全 | 写像 $f\colon X\to Y$ の列 $X\to Y\to C_f$ に $[-,Z]$ を施すと完全 |
最後の行の左右は、それぞれ ホモトピーファイバー の定理「ファイバー列の完全性」と 写像錐(位相) の命題「写像錐への拡張」の 3 にある。懸垂とループ空間は随伴であり、$[\Sigma A,X]_*\cong[A,\Omega X]_*$ が成り立つ(懸垂、ループ空間、スマッシュ積)。
ファイバー束では、定義によりどのファイバーも同相である(ファイバー束)。ホモトピー論では、局所自明性の代わりにホモトピーを持ち上げる性質だけを仮定した写像(ファイブレーション)を使う。このとき、ファイバーは同相とは限らないが、同じホモトピー型をもつ。これは「ファイブレーションはファイバー束のホモトピー論での類似物である」ことを示す最初の定理であり、底の道に沿ってファイバーを運ぶという、ホモトピー論で何度も使われる構成を含んでいる。
連続写像 $p\colon E\to B$ が ファイブレーション(Hurewicz ファイブレーション)であるとは、任意の位相空間 $Z$、連続写像 $g\colon Z\times I\to B$、$p\circ\tilde g_0=g(\cdot,0)$ を満たす連続写像 $\tilde g_0\colon Z\to E$ に対し、連続写像 $\tilde g\colon Z\times I\to E$ で $p\circ\tilde g=g$、$\tilde g(\cdot,0)=\tilde g_0$ となるものがあることをいう。この性質を ホモトピー持ち上げ性質 という。$b\in B$ について $F_b:=p^{-1}(b)$ を $b$ の上の ファイバー という。
この定義は ホモトピーファイバー の節「ファイブレーションのファイバー」と同じである。被覆写像はファイブレーションである(ホモトピーファイバー の例「被覆写像と円周」)。直積の射影 $B\times F\to B$ もファイブレーションである。持ち上げとして $\tilde g(z,t):=(g(z,t),\mathrm{pr}_F\tilde g_0(z))$ をとればよい。
ホモトピー持ち上げ性質は、正方形の 3 辺の上で与えた持ち上げを正方形全体に延ばす形でも使える。以下、$I\times I$ の点を $(t,s)$ と書き、正方形の下・左・上の 3 辺の和を
$$
K:=(I\times\{0\})\cup(\{0\}\times I)\cup(I\times\{1\})
$$
とおく。
$p\colon E\to B$ をファイブレーション、$Z$ を位相空間、$\Phi\colon Z\times I\times I\to B$ を連続写像とする。連続写像 $\tilde\Phi_K\colon Z\times K\to E$ が $p\circ\tilde\Phi_K=\Phi|_{Z\times K}$ を満たすとき、$\tilde\Phi_K$ を延ばす連続写像 $\tilde\Phi\colon Z\times I\times I\to E$ で $p\circ\tilde\Phi=\Phi$ となるものがある。
要点:正方形の自己同相写像で、下の辺 $I\times\{0\}$ を 3 辺の和 $K$ に移すものを使い、ホモトピー持ち上げ性質に帰着する。
同相写像の存在。中心 $(\frac12,\frac12)$ からの放射状の拡大縮小で、正方形 $I\times I$ は閉円板 $D$ と同相になり、境界は境界の円周に移る。この同相写像で、$I\times\{0\}$ と $K$ は円周の 2 つの閉じた弧(1 点でも円周全体でもない)に移る。円周の閉じた弧を別の閉じた弧に移す円周の自己同相写像 $h$ がある(偏角について区分的に 1 次の写像をとればよい)。$h$ を $D$ に $\rho e^{i\varphi}\mapsto\rho\,h(e^{i\varphi})$($0\le\rho\le1$)で延ばすと、これは連続な全単射で、コンパクト空間から Hausdorff 空間への写像なので同相写像である。これらを合成して、$I\times I$ の自己同相写像 $\theta$ で $\theta(I\times\{0\})=K$ となるものを得る。
持ち上げ。$Z':=Z\times I$ とおき、$g\colon Z'\times I\to B$ を $g((z,u),v):=\Phi(z,\theta(u,v))$、$\tilde g_0\colon Z'\to E$ を $\tilde g_0(z,u):=\tilde\Phi_K(z,\theta(u,0))$ で定める。$\theta(u,0)\in K$ なので $\tilde g_0$ は定義され、$p\circ\tilde g_0=g(\cdot,0)$ である。ホモトピー持ち上げ性質から $\tilde g\colon Z'\times I\to E$ を得る。$\tilde\Phi(z,w):=\tilde g((z,u),v)$($(u,v):=\theta^{-1}(w)$)とおくと、$\tilde\Phi$ は連続で $p\circ\tilde\Phi=\Phi$ を満たし、$w=\theta(u,0)\in K$ では $\tilde\Phi(z,w)=\tilde g_0(z,u)=\tilde\Phi_K(z,w)$ である。$\square$
道 $\gamma\colon I\to B$ について、$\bar\gamma(t):=\gamma(1-t)$ を逆の道、$\gamma(1)=\eta(0)$ のときの道の積を $\gamma\cdot\eta$ と書く(基本群 の定義「道の積と逆の道」)。
$p\colon E\to B$ をファイブレーションとし、$b_0,b_1\in B$ を道 $\gamma$ で結ばれた 2 点とする。このとき、連続写像 $L_\gamma\colon F_{b_0}\to F_{b_1}$ で、ホモトピー同値であるものが構成できる。とくに、$B$ の同じ弧状連結成分にある点の上のファイバーは、互いにホモトピー同値である。
証明では、$L_\gamma$ を $\gamma$ に沿ってファイバーの点を運ぶ写像として作り、その性質を 3 つ示す。(a) $L_\gamma$ のホモトピー類は持ち上げの選び方によらず、$\gamma$ を端点を止めて変形しても変わらない。(b) 道の積には合成が対応する。(c) 定値の道には恒等写像が対応する。これらから $L_{\bar\gamma}$ が $L_\gamma$ のホモトピー逆写像になる。
段 1:ファイバーを運ぶ写像。 $Z:=F_{b_0}$ とし、$g(x,t):=\gamma(t)$ と包含 $\tilde g_0\colon F_{b_0}\to E$ にホモトピー持ち上げ性質を使うと、連続写像 $G\colon F_{b_0}\times I\to E$ で $G(x,0)=x$、$p(G(x,t))=\gamma(t)$ となるものがある。このような $G$ を $\gamma$ の持ち上げとよぶ。$p(G(x,1))=b_1$ なので、$L_\gamma:=G(\cdot,1)$ は連続写像 $F_{b_0}\to F_{b_1}$ である。
段 2:(a) 道のホモトピーで変わらない。 $\gamma,\gamma'$ を $b_0$ から $b_1$ への道とし、$\Gamma\colon I\times I\to B$ を $\gamma$ から $\gamma'$ への道のホモトピー($\Gamma(t,0)=\gamma(t)$、$\Gamma(t,1)=\gamma'(t)$、$\Gamma(0,s)=b_0$、$\Gamma(1,s)=b_1$)とする(基本群 の定義「道のホモトピー」)。$G,G'$ を $\gamma,\gamma'$ の持ち上げとする。$Z:=F_{b_0}$、$\Phi(x,t,s):=\Gamma(t,s)$ とおき、$Z\times K$ の上で
$$
\tilde\Phi_K(x,t,0):=G(x,t),\qquad\tilde\Phi_K(x,0,s):=x,\qquad\tilde\Phi_K(x,t,1):=G'(x,t)
$$
と定める。角では $G(x,0)=x=G'(x,0)$ なので値が合い、3 つの式はそれぞれ $Z\times K$ の閉集合の上で連続なので、貼り合わせの補題により $\tilde\Phi_K$ は連続である。$p(G(x,t))=\gamma(t)=\Gamma(t,0)$、$p(x)=b_0=\Gamma(0,s)$、$p(G'(x,t))=\Gamma(t,1)$ なので $p\circ\tilde\Phi_K=\Phi|_{Z\times K}$ である。lem-ht-three-sides により $\tilde\Phi$ を得る。$H(x,s):=\tilde\Phi(x,1,s)$ とおくと $p(H(x,s))=\Gamma(1,s)=b_1$ なので、$H$ は $F_{b_0}\times I$ から $F_{b_1}$ への連続写像で、$H(\cdot,0)=G(\cdot,1)$、$H(\cdot,1)=G'(\cdot,1)$ である。よって、$G$ から作った $L_\gamma$ と $G'$ から作った $L_{\gamma'}$ はホモトピックである。$\gamma'=\gamma$ とすれば、$L_\gamma$ のホモトピー類が持ち上げの選び方によらないことも分かる。
段 3:(b) 道の積と合成。 $\eta$ を $b_1$ から $b_2$ への道とし、$G$ を $\gamma$ の持ち上げ、$G''$ を $\eta$ の持ち上げ($F_{b_1}$ の上の)とする。
$$
G'''(x,t):=\begin{cases}G(x,2t)&(0\le t\le\tfrac12)\\ G''(L_\gamma(x),2t-1)&(\tfrac12\le t\le1)\end{cases}
$$
は $t=\frac12$ で値 $G(x,1)=L_\gamma(x)=G''(L_\gamma(x),0)$ が合うので連続であり、$G'''(x,0)=x$、$p(G'''(x,t))=(\gamma\cdot\eta)(t)$ を満たす。すなわち $G'''$ は $\gamma\cdot\eta$ の持ち上げで、$G'''(\cdot,1)=L_\eta\circ L_\gamma$ である。段 2 により、どの持ち上げから作った $L_{\gamma\cdot\eta}$ も $L_\eta\circ L_\gamma$ とホモトピックである。
段 4:(c) 定値の道。 定値の道 $c_{b_0}$ には $G(x,t):=x$ が持ち上げなので、$L_{c_{b_0}}=\mathrm{id}_{F_{b_0}}$ とできる。
段 5:ホモトピー同値。 $\gamma\cdot\bar\gamma$ は $c_{b_0}$ と道としてホモトピックである(基本群 の定理「基本亜群の公理と基本群の群構造」の 3)。段 3・2・4 により $L_{\bar\gamma}\circ L_\gamma\simeq L_{\gamma\cdot\bar\gamma}\simeq L_{c_{b_0}}=\mathrm{id}_{F_{b_0}}$ である。ここでホモトピーはすべて $F_{b_0}$ の中で動く。同様に $\bar\gamma\cdot\gamma\simeq c_{b_1}$ から $L_\gamma\circ L_{\bar\gamma}\simeq\mathrm{id}_{F_{b_1}}$ である。よって $L_\gamma$ はホモトピー同値で、$L_{\bar\gamma}$ がそのホモトピー逆写像である。$\square$
この定理と証明の筋は Hat02 Proposition 4.61(p. 405)と同じである。同じ箇所は、ファイブレーションでは 3 辺からの持ち上げ(lem-ht-three-sides)ができることを、正方形の 2 つの対が同相であることから導いている。段 2・3 は、道のホモトピー類 $[\gamma]$ にホモトピー類 $[L_\gamma]$ を対応させる規則が、底の基本亜群からホモトピー圏への関手になることを示している。とくに $\gamma$ をループにとれば、基本群 $\pi_1(B,b_0)$ の各元に $F_{b_0}$ の自己ホモトピー同値のホモトピー類が対応する。これがファイバーのコホモロジーに誘導する作用から、Serre スペクトル系列の係数の局所系が作られる(Serreスペクトル系列)。
$E:=\{(x,y)\in\mathbb{R}^2\mid0\le x\le1,\ 0\le y\le x\}$(三角形)とし、$p\colon E\to[0,1]$ を $p(x,y):=x$ とする。$p$ はファイブレーションである。実際、$g\colon Z\times I\to[0,1]$ と $\tilde g_0(z)=(g(z,0),y_0(z))$($0\le y_0(z)\le g(z,0)$)が与えられたとき、
$$
\tilde g(z,t):=\bigl(g(z,t),\ \min\{y_0(z),g(z,t)\}\bigr)
$$
は連続で、$0\le\min\{y_0(z),g(z,t)\}\le g(z,t)$ なので $E$ に値をとり、$p\circ\tilde g=g$、$\tilde g(z,0)=\tilde g_0(z)$ を満たす。ファイバーは $F_0=\{(0,0)\}$(1 点)と $F_x=\{x\}\times[0,x]$($x>0$ で線分)なので同相でないが、どれも可縮で、thm-ht-fiber-transport のとおり互いにホモトピー同値である。
基点付き空間 $(X,x_0)$ の、$x_0$ から出る道の空間 $PX$ と終点の写像 $PX\to X$ はファイブレーションで、$x_0$ の上のファイバーはループ空間 $\Omega X$ である(ループ空間 の定理「道の空間のファイブレーション」)。$X$ が弧状連結なら、thm-ht-fiber-transport により、どの点 $x$ の上のファイバー($x_0$ から $x$ への道の空間)も $\Omega X$ とホモトピー同値である。
thm-ht-fiber-transport の仮定は、(a) $p$ がファイブレーションであること、(b) 2 点が道で結ばれていること、である。1 つずつ外すと、ファイバーがホモトピー同値でなくなる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| (a) $p$ がファイブレーション | 絶対値 $p\colon[-1,1]\to[0,1]$、$p(x)=\lvert x\rvert$ | ファイバー $p^{-1}(0)=\{0\}$ と $p^{-1}(1)=\{-1,1\}$ はホモトピー同値でない |
| (b) 2 点が道で結ばれている | 2 点の離散空間 $B=\{0,1\}$ の上の、離散空間 $E:=\{a\}\sqcup\{b,c\}$ と、$a\mapsto0$、$b,c\mapsto1$ で定まる $p$ | $p$ はファイブレーションだが、ファイバー $\{a\}$ と $\{b,c\}$ はホモトピー同値でない |
1 点と 2 点の離散空間は、弧状連結成分の個数(ホモトピー同値で保たれる。ホモトピー同値 の命題「道成分は保存される」)が違うので、ホモトピー同値でない。
(a):底 $[0,1]$ は弧状連結で、ファイバー $\{0\}$ と $\{-1,1\}$ はホモトピー同値でないので、thm-ht-fiber-transport の対偶により $p$ はファイブレーションでない。直接にも確かめられる。$Z:=[-1,1]$、$g(z,t):=(1-t)\lvert z\rvert+t$、$\tilde g_0(z):=z$ とおくと $p\circ\tilde g_0=g(\cdot,0)$ である。持ち上げ $\tilde g$ があったとすると、$t>0$ では $\lvert\tilde g(z,t)\rvert=g(z,t)>0$ なので、$\tilde g$ の符号は連結な $Z\times(0,1]$ の上で一定である。一方、$t\to0$ で $\tilde g(1,t)\to1$、$\tilde g(-1,t)\to-1$ なので、小さい $t>0$ で $\tilde g(1,t)>0>\tilde g(-1,t)$ となり、矛盾する。
(b):$B$ は離散なので、連続写像 $g\colon Z\times I\to B$ は各 $z$ について $t$ によらない($I$ は連結)。よって $\tilde g(z,t):=\tilde g_0(z)$ が持ち上げであり、$p$ はファイブレーションである。$0$ と $1$ を結ぶ道はない。
ex-ht-triangle とあわせると、ファイブレーションについて言えるのは「ファイバーがホモトピー同値」までで、「同相」までは言えないことが分かる。ファイバー束では逆に、底が弧状連結でなくてもファイバーは定義により同相である。
ホモトピー論の基礎は、次の順に記事をたどると学べる。各段の記事は、前の段の記事の定義と定理を使う。
ホモトピー論の考え方は、Poincaré が 1895 年に基本群を導入したことにさかのぼる。1930 年代に Hopf が $S^3$ から $S^2$ への本質的な写像(Hopf 写像)を見つけ、Hurewicz が高次ホモトピー群を定義した。1949 年に J. H. C. Whitehead が CW 複体を導入し、1951 年に Serre はファイブレーションとスペクトル系列を使って球面のホモトピー群の計算を大きく進めた。1960 年代には安定ホモトピー論とスペクトルの理論が整い、1967 年に Quillen がモデル圏によってホモトピー論を公理化した。その後、単体的集合と ∞ 圏の理論が発展し、1990 年代末には Morel と Voevodsky が代数幾何学の中にホモトピー論($\mathbb{A}^1$ ホモトピー論)を作った。
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する