固有値の交錯定理(eigenvalue interlacing theorem)とは、実対称行列 $A$ と、列が正規直交な行列 $S$ による $B=S^{\mathsf T}AS$ について、固有値を大きい順に並べると $\lambda_i\ge\mu_i\ge\lambda_{n-m+i}$ が成り立つという定理である。$B$ が主小行列の場合は Cauchy の交錯定理と呼ばれ、1 行 1 列を除くと固有値が互い違いに並ぶ。固有値を Rayleigh 商の最大・最小として表す Courant–Fischer の定理から導かれる。グラフの誘導部分グラフの固有値はもとのグラフの固有値と交錯し、そこから独立数の Cvetković の上界と、正則グラフの Hoffman の上界が得られる。行列が対称でない場合や、辺を除いただけの部分グラフでは成り立たない。
固有値の交錯定理(eigenvalue interlacing theorem)とは、実対称行列 $A$ から行と列を同じ番号の組だけ取り除いた行列(主小行列)$B$ の固有値が、$A$ の固有値の間に「互い違いに」並ぶことを述べる定理である。$A$ が $n$ 次で $B$ が $n-1$ 次なら、固有値を大きい順に $\lambda_1\ge\dots\ge\lambda_n$、$\mu_1\ge\dots\ge\mu_{n-1}$ と並べたとき
$$
\lambda_1\ \ge\ \mu_1\ \ge\ \lambda_2\ \ge\ \mu_2\ \ge\ \cdots\ \ge\ \mu_{n-1}\ \ge\ \lambda_n
$$
が成り立つ。主小行列の場合は Cauchy にさかのぼるので、Cauchy の交錯定理(Cauchy の固有値の交互定理)とも呼ばれる。
この記事では、固有値を Rayleigh 商の最大・最小として特徴づける Courant–Fischer の定理を証明し、そこから交錯定理を一般の形($B=S^{\mathsf T}AS$、$S^{\mathsf T}S=I$)で導く。グラフの隣接行列に当てはめると、誘導部分グラフの固有値はもとのグラフの固有値と交錯する。その帰結として、独立数(互いに隣接しない頂点の個数の最大値)の Cvetković の上界と Hoffman の上界を証明する。
この記事の行列はすべて実行列とし、ベクトルは列ベクトルとする。$n$ 次の実対称行列 $A$ は、スペクトル定理 の定理「有限次元の自己共役スペクトル定理」により、固有ベクトルからなる $\mathbb R^n$ の正規直交基底 $u_1,\dots,u_n$ をもち、固有値はすべて実数である(実対称行列は自己共役で、固有ベクトルは実ベクトルにとれる)。以下、固有値は重複度をこめて大きい順に並べ、$Au_i=\lambda_iu_i$、$\lambda_1\ge\dots\ge\lambda_n$ とする。
$n$ 次の実対称行列 $A$ と $0$ でない $x\in\mathbb R^n$ に対し
$$
R_A(x):=\frac{x^{\mathsf T}Ax}{x^{\mathsf T}x}
$$
を $x$ の $A$ に関する Rayleigh 商 という。$c\neq0$ について $R_A(cx)=R_A(x)$ である。
$m< n$ とし、実数の列 $\lambda_1\ge\dots\ge\lambda_n$ と $\mu_1\ge\dots\ge\mu_m$ を考える。すべての $i=1,\dots,m$ について
$$
\lambda_i\ \ge\ \mu_i\ \ge\ \lambda_{n-m+i}
$$
が成り立つとき、$(\mu_i)$ は $(\lambda_i)$ と 交錯する(interlace)という。
$m=n-1$ のとき条件は $\lambda_i\ge\mu_i\ge\lambda_{i+1}$ となり、冒頭の互い違いの不等式そのものである。$m$ が小さいときは、$\mu_i$ は「上から $i$ 番目」と「下から $m-i+1$ 番目」の $A$ の固有値ではさまれる。定義は BH11 §2.5(p. 26)に従った。
$n$ 次の正方行列 $A$ から、添字の集合 $I\subset\{1,\dots,n\}$ に属する行と列だけを残した行列を $A$ の 主小行列(principal submatrix)という。$A$ が対称なら主小行列も対称である。
まず、Rayleigh 商が固有値の間を動くことを確かめる。
$A$ を $n$ 次の実対称行列、$u_1,\dots,u_n$ を上のとおりとし、$1\le i\le n$ とする。
$x=\sum_{j=1}^nc_ju_j$ と書くと、正規直交性から $x^{\mathsf T}x=\sum_jc_j^2$、$x^{\mathsf T}Ax=\sum_j\lambda_jc_j^2$ である。1 では $c_1=\dots=c_{i-1}=0$ なので
$$
\lambda_i\,x^{\mathsf T}x-x^{\mathsf T}Ax=\sum_{j\ge i}(\lambda_i-\lambda_j)c_j^2\ \ge\ 0
$$
であり、等号は $\lambda_j<\lambda_i$ となる $j$ で $c_j=0$ となること、すなわち $x$ が固有値 $\lambda_i$ の固有空間に属することと同値である。2 では $c_{i+1}=\dots=c_n=0$ なので $x^{\mathsf T}Ax-\lambda_i\,x^{\mathsf T}x=\sum_{j\le i}(\lambda_j-\lambda_i)c_j^2\ge0$ で、等号条件も同様である。$\square$
この補題は BH11 §2.4(pp. 25–26)にある。$i=1$ の場合の 1 は、隣接行列 の記事の補題「Rayleigh 商による最大固有値」と同じ内容である。
$A$ を $n$ 次の実対称行列とし、$1\le i\le n$ とする。$W$ が $\mathbb R^n$ の部分空間を動くとき
$$
\lambda_i=\max_{\dim W=i}\ \min_{x\in W,\ x\neq0}R_A(x)=\min_{\dim W=n-i+1}\ \max_{x\in W,\ x\neq0}R_A(x)
$$
が成り立つ。
最大・最小の形.$W_0:=\langle u_1,\dots,u_i\rangle$($u_1,\dots,u_i$ の張る部分空間)とおくと、lem-il-rayleigh-bounds の 2 により $W_0$ の上で $R_A\ge\lambda_i$ であり、$x=u_i$ で $R_A(u_i)=\lambda_i$ となる。よって $W_0$ での最小値は $\lambda_i$ である。
次に、$W$ を任意の $i$ 次元部分空間とする。$U:=\langle u_i,\dots,u_n\rangle$ は $n-i+1$ 次元なので、
$$
\dim(W\cap U)\ \ge\ \dim W+\dim U-n=i+(n-i+1)-n=1
$$
であり、$W\cap U$ は $0$ でない $x$ を含む。$x\in U$ は $u_1,\dots,u_{i-1}$ に直交するので、補題の 1 により $R_A(x)\le\lambda_i$ である。よって $W$ での最小値は $\lambda_i$ 以下である。以上から、$i$ 次元部分空間の上での最小値の最大値は $\lambda_i$ で、$W=W_0$ で達成される。
最小・最大の形.$U=\langle u_i,\dots,u_n\rangle$ の上では補題の 1 により $R_A\le\lambda_i$ で、$x=u_i$ で等号が成り立つので、$U$ での最大値は $\lambda_i$ である。$W$ が任意の $n-i+1$ 次元部分空間なら、$\dim(W\cap W_0)\ge(n-i+1)+i-n=1$ なので $0$ でない $x\in W\cap W_0$ があり、補題の 2 により $R_A(x)\ge\lambda_i$ である。よって $W$ での最大値は $\lambda_i$ 以上であり、最大値の最小値は $\lambda_i$ で、$W=U$ で達成される。$\square$
最小値・最大値が存在するのは、$R_A$ が単位球面 $\{x\in W\mid x^{\mathsf T}x=1\}$ の上の連続関数で($R_A(cx)=R_A(x)$ なので単位ベクトルに限ってよい)、単位球面がコンパクトだからである。証明の中では、最小値を与える $x$ を具体的に示しているので、この事実も使わずに済んでいる。定理は BH11 Theorem 2.4.1(p. 26)に、「$i$ 次元部分空間 $W$ について $\lambda_i\ge\min_{W}R_A$」と「$W^\perp$ の上で $\lambda_{i+1}\le\max R_A$」の形で述べられている。
$i=1$ と $i=n$ では、$\lambda_1=\max_{x\neq0}R_A(x)$、$\lambda_n=\min_{x\neq0}R_A(x)$ である。Courant–Fischer の定理は、この「最大固有値は Rayleigh 商の最大値」という事実を、すべての固有値に広げたものである。
$A$ を $n$ 次の実対称行列とし、固有値を $\lambda_1\ge\dots\ge\lambda_n$ とする。$m< n$ とし、$S$ を $S^{\mathsf T}S=I_m$ をみたす $n\times m$ 実行列(列が正規直交)とする。$B:=S^{\mathsf T}AS$ の固有値を $\mu_1\ge\dots\ge\mu_m$ とすると、$(\mu_i)$ は $(\lambda_i)$ と交錯する。すなわち
$$
\lambda_i\ \ge\ \mu_i\ \ge\ \lambda_{n-m+i}\qquad(i=1,\dots,m)
$$
である。
$B^{\mathsf T}=S^{\mathsf T}A^{\mathsf T}S=B$ なので $B$ は $m$ 次の実対称行列であり、thm-il-courant-fischer を $B$ にも使える。
段 1(Rayleigh 商の移し替え).$s\in\mathbb R^m$、$s\neq0$ に対し $x:=Ss$ とおく。$x^{\mathsf T}x=s^{\mathsf T}S^{\mathsf T}Ss=s^{\mathsf T}s>0$ なので $x\neq0$ であり、
$$
R_A(Ss)=\frac{s^{\mathsf T}S^{\mathsf T}ASs}{s^{\mathsf T}S^{\mathsf T}Ss}=\frac{s^{\mathsf T}Bs}{s^{\mathsf T}s}=R_B(s)
$$
である。また $Ss=0$ なら $s=S^{\mathsf T}Ss=0$ なので、線形写像 $s\mapsto Ss$ は単射であり、$\mathbb R^m$ の $j$ 次元部分空間 $V$ を $\mathbb R^n$ の $j$ 次元部分空間 $SV:=\{Ss\mid s\in V\}$ に写す。
段 2(上からの評価 $\mu_i\le\lambda_i$).thm-il-courant-fischer の最大・最小の形を $B$ に使うと、$\mathbb R^m$ の $i$ 次元部分空間 $V$ があって、$V$ の $0$ でないすべての $s$ で $R_B(s)\ge\mu_i$ である。段 1 により $SV$ は $\mathbb R^n$ の $i$ 次元部分空間で、$SV$ の $0$ でないすべての元 $x=Ss$ について $R_A(x)=R_B(s)\ge\mu_i$ である。したがって
$$
\lambda_i=\max_{\dim W=i}\ \min_{x\in W,\ x\neq0}R_A(x)\ \ge\ \min_{x\in SV,\ x\neq0}R_A(x)\ \ge\ \mu_i
$$
である。
段 3(下からの評価 $\mu_i\ge\lambda_{n-m+i}$).thm-il-courant-fischer の最小・最大の形を $B$ に使うと、$\mathbb R^m$ の $m-i+1$ 次元部分空間 $V'$ があって、$V'$ の $0$ でないすべての $s$ で $R_B(s)\le\mu_i$ である。$SV'$ は $\mathbb R^n$ の $m-i+1$ 次元部分空間であり、$j:=n-m+i$ とおくと $n-j+1=m-i+1$ なので、同じ定理の最小・最大の形を $A$ と番号 $j$ に使って
$$
\lambda_{n-m+i}=\min_{\dim W=m-i+1}\ \max_{x\in W,\ x\neq0}R_A(x)\ \le\ \max_{x\in SV',\ x\neq0}R_A(x)\ \le\ \mu_i
$$
を得る。段 2 と段 3 で主張が示された。$\square$
定理は BH11 Theorem 2.5.1 (i)(p. 26)にある。そこでの証明は、Courant–Fischer の定理を使わずに、$\langle v_1,\dots,v_i\rangle$ と $S^{\mathsf T}u_1,\dots,S^{\mathsf T}u_{i-1}$ の直交補空間の交わりから $0$ でないベクトルを選び、lem-il-rayleigh-bounds を直接当てるものである。同書 p. 27 は、この一般形が古典的な結果であることを述べている。
$S$ として単位行列の列の一部を並べたもの($I_n$ から $n-m$ 本の列を除いた行列)をとると、$S^{\mathsf T}S=I_m$ であり、$S^{\mathsf T}AS$ は残した番号の行と列からなる主小行列である。
実対称行列の主小行列の固有値は、もとの行列の固有値と交錯する。とくに $n$ 次の実対称行列 $A$ から第 $k$ 行と第 $k$ 列を除いた行列の固有値 $\mu_1\ge\dots\ge\mu_{n-1}$ について、$\lambda_1\ge\mu_1\ge\lambda_2\ge\dots\ge\mu_{n-1}\ge\lambda_n$ である。
これは BH11 Corollary 2.5.2(p. 27)であり、同書 pp. 27–28 は、主小行列の場合が Cauchy にさかのぼるので Cauchy の交錯定理と呼ばれることを述べている。$S^{\mathsf T}$ を共役転置 $S^*$ に、実対称行列を Hermite 行列に替えても、同じ証明で定理が成り立つ(BH11 p. 28 の注意)。
$$
A=\begin{pmatrix}2&1&0\\1&2&1\\0&1&2\end{pmatrix}
$$
の固有値は $2+\sqrt2,\ 2,\ 2-\sqrt2$(固有ベクトル $(1,\sqrt2,1)$、$(1,0,-1)$、$(1,-\sqrt2,1)$)である。第 3 行と第 3 列を除いた主小行列 $\begin{pmatrix}2&1\\1&2\end{pmatrix}$ の固有値は $3,\ 1$ なので
$$
2+\sqrt2\approx3.414\ \ge\ 3\ \ge\ 2\ \ge\ 1\ \ge\ 2-\sqrt2\approx0.586
$$
となり、cor-il-cauchy のとおり互い違いに並ぶ。1 次の主小行列(対角成分)$2$ は、$\lambda_1\ge2\ge\lambda_3$ をみたす。
グラフは有限の単純グラフとし、$G$ の隣接行列 $A$ の固有値を $G$ の固有値と呼ぶ。頂点の部分集合 $U$ の上の誘導部分グラフ $G[U]$ の隣接行列は、$A$ の $U$ に対応する主小行列そのものである。したがって cor-il-cauchy から次がしたがう。
$G$ を $n$ 頂点のグラフ、$H$ を $m$ 頂点の誘導部分グラフとすると、$H$ の固有値は $G$ の固有値と交錯する。
この系は BH11 Proposition 3.2.1 (i)(p. 37)にある。
閉路 $C_5$ から 1 頂点を除くと道 $P_4$ になる。固有値は(隣接行列 の記事の例「閉路グラフ」と、$P_4$ の固有値 $\pm\frac{1\pm\sqrt5}2$ から)
$$
C_5:\ 2,\ 0.618,\ 0.618,\ -1.618,\ -1.618,\qquad P_4:\ 1.618,\ 0.618,\ -0.618,\ -1.618
$$
(小数第 3 位まで)であり、$2\ge1.618\ge0.618\ge0.618\ge0.618\ge-0.618\ge-1.618\ge-1.618\ge-1.618$ と互い違いに並ぶ。$P_4$ から端の頂点を除いた $P_3$ の固有値 $\sqrt2,0,-\sqrt2$ も $P_4$ の固有値と交錯する。
Petersen グラフの固有値は $3,\ 1^{(5)},\ (-2)^{(4)}$(右肩は重複度。BH11 §1.4.5、p. 10)である。1 頂点を除いたグラフの固有値は $1+\sqrt3,\ 1^{(4)},\ 1-\sqrt3,\ (-2)^{(3)}$ であり(計算機で確かめた)、交錯定理から、除く前の固有値 $1$ と $-2$ の重複度は除いた後に高々 $1$ しか減らないことがわかる。
グラフ $G$ の 独立集合(coclique)とは、互いに隣接しない頂点の集合のことで、その大きさの最大値を $G$ の 独立数 $\alpha(G)$ という。独立集合 $C$ の上の誘導部分グラフは辺をもたないので、その隣接行列は零行列で、固有値はすべて $0$ である。
$n$ 頂点のグラフ $G$ の固有値を $\lambda_1\ge\dots\ge\lambda_n$ とすると
$$
\alpha(G)\ \le\ \#\{i\mid\lambda_i\ge0\},\qquad \alpha(G)\ \le\ \#\{i\mid\lambda_i\le0\}
$$
である。
$a:=\alpha(G)$ とし、大きさ $a$ の独立集合 $C$ をとる。$a=n$ なら $G$ は辺をもたず、固有値はすべて $0$ なので主張は成り立つ。$a< n$ とする。$G[C]$ の隣接行列は $a$ 次の零行列で、固有値は $\mu_1=\dots=\mu_a=0$ である。cor-il-induced により、$i=1,\dots,a$ について $\lambda_i\ge\mu_i=0$ なので、$\lambda_1,\dots,\lambda_a$ はすべて $0$ 以上であり、$0$ 以上の固有値は $a$ 個以上ある。同じく $\lambda_{n-a+i}\le\mu_i=0$ なので、$\lambda_{n-a+1},\dots,\lambda_n$ はすべて $0$ 以下であり、$0$ 以下の固有値も $a$ 個以上ある。$\square$
この定理は BH11 Theorem 3.5.1(p. 39)にあり、同書は最初の上界を Cvetković によるものとしている。
thm-il-main で $S$ の列を、頂点集合の分割の特性ベクトルを正規化したものにとると、分割ごとの平均を並べた小さな行列の固有値が $A$ の固有値と交錯する(BH11 Corollaries 2.5.3・2.5.4、p. 27)。ここでは、その特別な場合を使って、正則グラフの独立数の上界を証明する。すべての頂点の次数が $k$ のグラフを $k$ 正則 という。
$G$ を $n$ 頂点の $k$ 正則グラフ($k\ge1$)とし、最小の固有値を $\lambda_n$ とする。このとき $\lambda_n< 0$ であり
$$
\alpha(G)\ \le\ \frac{n\,(-\lambda_n)}{k-\lambda_n}
$$
である。
$G$ は辺をもつので $\operatorname{tr}A=0$ かつ $A\neq0$ であり、固有値の和が $0$ で全部が $0$ ではないから、負の固有値がある。よって $\lambda_n< 0$ である。
$a:=\alpha(G)$、$C$ を大きさ $a$ の独立集合とする。$a=n$ なら辺がないので $a< n$ である。$C$ の特性ベクトル($C$ の頂点で $1$、ほかで $0$)を $\mathbf 1_C$、$D:=V\setminus C$ の特性ベクトルを $\mathbf 1_D$ とし、$n\times2$ 行列
$$
S:=\Bigl(\tfrac1{\sqrt a}\mathbf 1_C\ \ \tfrac1{\sqrt{n-a}}\mathbf 1_D\Bigr)
$$
をとる。2 本の列は台が交わらない単位ベクトルなので $S^{\mathsf T}S=I_2$ である。$B:=S^{\mathsf T}AS$ の成分を数える。$\mathbf 1_C^{\mathsf T}A\mathbf 1_C$ は $C$ の中の辺の本数の 2 倍で $0$ である。$C$ の各頂点の $k$ 個の隣接頂点はすべて $D$ にあるので $\mathbf 1_C^{\mathsf T}A\mathbf 1_D=ka$ である。全体では $\mathbf 1^{\mathsf T}A\mathbf 1=kn$ なので $\mathbf 1_D^{\mathsf T}A\mathbf 1_D=kn-2ka$ である。よって
$$
B=\begin{pmatrix}0&\dfrac{ka}{\sqrt{a(n-a)}}\\[2mm]\dfrac{ka}{\sqrt{a(n-a)}}&\dfrac{k(n-2a)}{n-a}\end{pmatrix}
$$
である。$w:=(\sqrt a,\sqrt{n-a})^{\mathsf T}$ とおくと $Sw=\mathbf 1$、$S^{\mathsf T}\mathbf 1=w$ なので、$A\mathbf 1=k\mathbf 1$ から $Bw=S^{\mathsf T}ASw=S^{\mathsf T}(k\mathbf 1)=kw$ であり、$k$ は $B$ の固有値である。もう 1 つの固有値は $\operatorname{tr}B-k=\frac{k(n-2a)}{n-a}-k=-\frac{ka}{n-a}$ である。
thm-il-main($m=2$、$i=2$)により、$B$ の小さいほうの固有値は $\lambda_{n-2+2}=\lambda_n$ 以上なので
$$
-\frac{ka}{n-a}\ \ge\ \lambda_n,\qquad\text{すなわち}\qquad ka\ \le\ -\lambda_n\,(n-a)
$$
である。整理すると $a\,(k-\lambda_n)\le n\,(-\lambda_n)$ で、$k-\lambda_n>0$ で割って主張を得る。$\square$
この上界は BH11 Theorem 3.5.2(p. 39)にあり、同書は Hoffman の未発表の結果(ratio bound)としている。同書は、等号が成り立つとき、独立集合の外の各頂点が独立集合のちょうど $-\lambda_n$ 個の頂点と隣接することも示している(この記事では証明しない)。
独立集合は補グラフのクリーク(互いに隣接する頂点の集合)なので、これらの上界は補グラフのクリークの大きさの上界でもある。また、独立集合で色分けすると $\alpha(G)\,\chi(G)\ge n$ なので(彩色数)、正則グラフでは Hoffman の上界から彩色数の下界 $\chi(G)\ge n/\alpha(G)\ge1-k/\lambda_n$ が得られる。辺をもつ一般のグラフでも $\chi(G)\ge1-\lambda_1/\lambda_n$ が成り立つ(BH11 Theorem 3.6.2、p. 40。この記事では証明しない)。
| 外す条件・替える条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $A$ が対称であること | $A=\begin{pmatrix}2&1\\-1&0\end{pmatrix}$ | 固有値は $1,1$ だが、主小行列 $(2)$ の固有値 $2$ は $\lambda_1=1$ を超え、交錯しない |
| $S$ の列が正規直交であること | $A=I_2$、$S=\begin{pmatrix}2\\0\end{pmatrix}$ | $S^{\mathsf T}AS=(4)$ の固有値 $4$ が $\lambda_1=1$ を超える |
| 誘導部分グラフを、辺を除いた部分グラフに替える | $K_3$ から 1 辺を除いた $P_3$ | 固有値が $2,-1,-1$ から $\sqrt2,0,-\sqrt2$ に変わり、2 番目は増え 3 番目は減る。番号ごとの大小は一定しない |
| 隣接行列を Laplacian 行列に替える | 星 $K_{1,3}$ から中心を除いた 3 個の孤立点 | Laplacian の固有値 $4,1,1,0$ と $0,0,0$ は交錯しない($\mu_1=0<\lambda_2=1$) |
| Hoffman の上界で $G$ が正則であること($k$ を最大次数に替える) | 星 $K_{1,4}$($\lambda_n=-2$、最大次数 $4$) | 右辺は $\frac{5\cdot2}{4+2}=\frac53$ だが $\alpha(K_{1,4})=4$ |
各行で破れている条件と、成り立たなくなることを確かめる。
1 行目:固有多項式は $t^2-2t+1=(t-1)^2$ である。$A$ は対称でないので thm-il-courant-fischer が使えない。$A$ の「Rayleigh 商」$x^{\mathsf T}Ax/x^{\mathsf T}x$ は $A$ の対称部分 $\frac12(A+A^{\mathsf T})=\operatorname{diag}(2,0)$ の Rayleigh 商と同じであり、固有値の情報を持たない。
2 行目:$S^{\mathsf T}S=(4)\neq I_1$ である。$R_B(s)=R_A(Ss)$ の代わりに $R_B(s)=4R_A(Ss)$ となり、段 1 の移し替えが崩れる。列が直交しているが正規でないときは、BH11 Corollary 2.5.3(p. 27)のように尺度を直してから使う。
3 行目:$P_3$ は $K_3$ の 3 頂点すべての上の部分グラフだが、誘導部分グラフではない。隣接行列は主小行列でない(成分が 1 つ $1$ から $0$ に変わる)。同じ大きさの 2 つの列の交錯は等式 $\lambda_i=\mu_i$ を意味するので、それも成り立たない。BH11 §3.2(p. 37)は、辺を除くと隣接行列の固有値は増えることも減ることもあると述べている。
4 行目:$K_{1,3}$ の Laplacian 行列から中心の行と列を除くと $I_3$ で、これは 3 個の孤立点の Laplacian 行列(零行列)とは違う。誘導部分グラフの Laplacian 行列は主小行列にならない。BH11 Proposition 3.2.1 (ii)(p. 37)は、部分グラフの Laplacian の固有値が番号ごとに増えないことだけを述べている($0\le4$、$0\le1$、$0\le1$)。
5 行目:$K_{1,4}$ は正則でなく、証明で使った $A\mathbf 1=k\mathbf 1$ が成り立たない。固有値は $2,0,0,0,-2$ である(隣接行列 の記事の例「完全グラフと完全二部グラフ」)。
注意を 2 つ挙げる。
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