Jannsenの定理(Jannsen's semisimplicity theorem)とは、体 $k$ 上の滑らかな射影多様体の純粋モチーフの圏が、$\mathbb{Q}$ 係数の代数的サイクルを適切な同値関係 $\sim$ で割って作るとき、半単純アーベル圏になるのは $\sim$ が数値的同値のときであり、またそのときに限るという定理である。各多様体の対応の代数が有限次元半単純であることとも同値である。数値的同値の場合の半単純性は、Weil コホモロジー上の超跡と、自己準同型環がすべて半単純な擬アーベル圏は半単純アーベル圏であるという補題から従い、Grothendieck の標準予想を仮定しない。ホモロジー同値で割った圏が半単純アーベル圏であることは、それが数値的同値と一致するという標準予想と同値になる。
前提知識: モチーフ, 数値的同値, Weilコホモロジー, 半単純環, アーベル圏
Jannsenの定理(Jannsen's semisimplicity theorem)とは、滑らかな射影多様体の純粋モチーフの圏が半単純アーベル圏になるのは、代数的サイクルを数値的同値で割ったときであり、またそのときに限る、という定理である(Jan92 Theorem 1)。モチーフの圏は、どの同値関係で割っても $\mathbb{Q}$ 線形な擬アーベル圏であるが、アーベル圏になるとは限らない。かつては、数値的なモチーフの圏の半単純性には Grothendieck の標準予想(標準予想)が必要だと考えられていた。Jannsen は、数値的同値については予想を仮定せずに半単純性が成り立つことを示した。
証明は 3 つの部分からなる。(a) 自己準同型環がすべて半単純な擬アーベル圏は半単純アーベル圏である(Jannsen の補題。thm-jan-lemma)。(b) 数値的同値で割った対応の代数は、Weil コホモロジーの上の超跡を使うと有限次元で半単純である(prop-jan-semisimple)。(c) 圏が半単純なら、単位対象からの射が分裂することから、同値関係は数値的同値でなければならない。この記事ではこれらを証明する。
$k$ を体とし、$\mathcal{V}_k$ で $k$ 上の滑らかな射影スキーム(連結成分は滑らかな射影多様体で、次元の異なる成分があってもよい)の全体を表す。$X\in\mathcal{V}_k$ の余次元 $i$ の代数的サイクルの群を $Z^i(X)$ とし、$Z^i(X)_{\mathbb{Q}}:=Z^i(X)\otimes\mathbb{Q}$ とおく。
$Z^*(-)_{\mathbb{Q}}$ 上の同値関係 $\sim$ が適切(adequate)であるとは、$A^i_\sim(X):=Z^i(X)_{\mathbb{Q}}/{\sim}$ の上で、射による引き戻し・押し出し・交叉積・外積が矛盾なく定まることをいう(Jan92 p. 447)。$X$ が純 $d$ 次元のとき、$X$ から $Y$ への次数 $r$ の対応の空間を $\operatorname{Corr}^r_\sim(X,Y):=A^{d+r}_\sim(X\times Y)$ とし(一般の $X$ では連結成分ごとの直和)、合成を
$$
g\circ f:=p_{13*}\bigl(p_{12}^*f\cdot p_{23}^*g\bigr)
$$
で定める。$\operatorname{Corr}^0_\sim(X,X)$ は対角線の類 $[\Delta_X]$ を単位元とする $\mathbb{Q}$ 代数であり、これを $X$ の対応の代数という。
代表例は有理同値・ホモロジー同値(Weil コホモロジー $H^*$ を 1 つ固定し、サイクル類が等しいこと)・数値的同値(数値的同値。相補的な次元のすべてのサイクルとの交点数が等しいこと)である。数値的同値はもっとも粗い適切な同値関係である(Jan92 p. 448)。適切な同値関係 $\sim$ についてのモチーフの圏 $\mathcal{M}_\sim(k)$ は、モチーフ の定義「純粋モチーフの圏」のとおり、三つ組 $(X,p,m)$($X\in\mathcal{V}_k$、$p\in\operatorname{Corr}^0_\sim(X,X)$ は冪等元、$m\in\mathbb{Z}$)を対象とし、
$$
\operatorname{Hom}\bigl((X,p,m),(Y,q,n)\bigr):=q\circ\operatorname{Corr}^{n-m}_\sim(X,Y)\circ p
$$
を射の集合とする圏である。$h(X):=(X,[\Delta_X],0)$、単位対象を $\mathbb{1}:=(\operatorname{Spec}k,\mathrm{id},0)$ と書く。射 $\varphi\colon Y\to X$ にはグラフの転置 $h(\varphi):={}^t\Gamma_\varphi\colon h(X)\to h(Y)$ が対応し、$h$ は反変関手である(モチーフ の注意「定義の流儀」)。
$\mathcal{M}_\sim(k)$ はどの $\sim$ についても $\mathbb{Q}$ 線形な擬アーベル圏である(モチーフ の定理「モチーフの圏は擬アーベル」)。
$k$ を体、$\sim$ を $\mathbb{Q}$ 係数のサイクルの適切な同値関係とする。次の 3 条件を考える。
証明は下の prf-jan-main にあり、thm-jan-lemma・prop-jan-semisimple を使う。Jan92 Theorem 1(p. 448)は、係数を標数 $0$ の任意の体 $F$ にし、2 を純次元とは限らないすべての $X$ について述べ、任意の体 $k$ で 3 条件の同値を示している。一般の体での 3 ⇒ 2 は、$X\otimes_kk^{\mathrm{sep}}$ の $\ell$ 進コホモロジーを使って示される(Jan92 p. 448)。この記事では証明しない。
半単純環の性質を、以下で使う形にまとめる。
$R$ を半単純環とする。
要点:左イデアルが冪等元で生成されることから 1〜3 が、Jacobson 根基の冪零性から 4 が従う。
1:半単純環 の定理「加群による特徴づけ」の 4 により $L$ は ${}_RR$ の直和因子であり、同じ記事の補題「直和因子である左イデアル」により $L=Re$、$e\in L$、$e^2=e$ である。$x=ye$ なら $xe=ye^2=x$ である。
2:1 により $I=Re'$、$e'\in I$ と書けるので $e'=e'^n\in I^n=0$、よって $I=0$ である。
3:$a=ye$、$e=za$ と書ける。$er=0$ なら $ar=yer=0$、$ar=0$ なら $er=zar=0$ である。$er=0$ は $r=(1-e)r$ と同値なので、前半が従う。後半も $xe=0$ が $x=x(1-e)$ と同値であることによる。
4:後半から示す。有限次元代数は左 Artin 環であり、その Jacobson 根基は冪零な両側イデアルである(半単純環 の定理「Artin 性による特徴づけ」の後の段落。この記事では証明しない)。仮定により Jacobson 根基は $0$ なので、同じ定理により半単純である。前半:$J$ を $eRe$ の冪零な両側イデアルとし、$J^n=0$ とする。$J=eJe$ なので $J R J=J(eRe)J\subset J^2$ であり、$RJR$ は $(RJR)^n\subset RJ^nR=0$ をみたす $R$ の両側イデアルである。2 により $RJR=0$、よって $J=eJe\subset RJR=0$ であり、$eRe$ は半単純である。$\square$
次の定理は、自己準同型環の情報だけから、核と余核の存在と分裂を導く。以下、加法圏の対象 $M$ の直和因子 $N=\operatorname{Im}e$ について、def-jan-categories の 1 の射を $\iota_N\colon N\to M$、$\pi_N\colon M\to N$ と書く。
加法圏 $\mathcal{C}$ が擬アーベルで、すべての対象 $M$ について $\operatorname{End}(M)$ が半単純環であるとする。このとき $\mathcal{C}$ は半単純アーベル圏である。さらに任意の射 $f\colon X\to Y$ について、分解 $X\cong K\oplus X'$、$Y\cong Y'\oplus C$ で、$\iota_K$ が $f$ の核、$\pi_C$ が $f$ の余核であり、$f=\iota_{Y'}\circ f'\circ\pi_{X'}$ となる同型 $f'\colon X'\to Y'$ があるものが存在する。
段 1(核を切り出す冪等元)。 $L:=\{h\circ f\mid h\in\operatorname{Hom}(Y,X)\}$ は $\operatorname{End}(X)$ の左イデアルなので、lem-jan-ring の 1 により $L=\operatorname{End}(X)e$、$e=h_0\circ f$ と書ける。まず $f\circ e=f$ を示す。$m:=f-f\circ e$ とおくと、任意の $h\in\operatorname{Hom}(Y,X)$ について $h\circ f\in L$ なので $h\circ f\circ e=h\circ f$、すなわち $h\circ m=0$ である。$S:=\operatorname{End}(X\oplus Y)$ の元 $\mu:=\iota_Y\circ m\circ\pi_X$ をとると、任意の $\eta\in S$ について $\pi_X\circ\eta\circ\iota_Y\in\operatorname{Hom}(Y,X)$ なので
$$
\mu\circ\eta\circ\mu=\iota_Y\circ m\circ(\pi_X\circ\eta\circ\iota_Y)\circ m\circ\pi_X=0
$$
である。よって両側イデアル $I:=S\mu S$ は $I^2=S\mu S\mu S=0$ をみたし、lem-jan-ring の 2 により $\mu=0$、$m=\pi_Y\circ\mu\circ\iota_X=0$ である。そこで $p:=1-e$ とおくと $f\circ p=0$ であり、任意の対象 $T$ と $t\colon T\to X$ について
$$
f\circ t=0\iff t=p\circ t
$$
が成り立つ。実際 $f\circ t=0$ なら $e\circ t=h_0\circ f\circ t=0$、逆に $t=p\circ t$ なら $f\circ t=f\circ p\circ t=0$ である。
段 2(余核を切り出す冪等元)。 $L':=\{g\in\operatorname{End}(Y)\mid g\circ f=0\}$ は左イデアルなので $L'=\operatorname{End}(Y)q$($q\in L'$ は冪等元)と書け、$q\circ f=0$ である。任意の $s\colon Y\to T$ について $s\circ f=0\iff s=s\circ q$ を示す。$\Leftarrow$ は $q\circ f=0$ による。$s\circ f=0$ とし $m':=s-s\circ q$ とおくと、任意の $h\colon T\to Y$ について $h\circ s\in L'$ なので $h\circ s=h\circ s\circ q$、すなわち $h\circ m'=0$ である。段 1 と同じく $\mu':=\iota_T\circ m'\circ\pi_Y\in\operatorname{End}(Y\oplus T)$ は $\mu'\circ\eta\circ\mu'=0$ をみたすので $\mu'=0$、$m'=0$ である。
段 3(核と余核)。 $K:=\operatorname{Im}p$、$X':=\operatorname{Im}(1-p)$、$C:=\operatorname{Im}q$、$Y':=\operatorname{Im}(1-q)$ とおく。$\iota_K=p\circ\iota_K$ なので $f\circ\iota_K=0$ であり、$f\circ t=0$ なら段 1 により $t=p\circ t=\iota_K\circ(\pi_K\circ t)$ と分解する。$\pi_K\circ\iota_K=\mathrm{id}_K$ なので分解は一意であり、$\iota_K$ は $f$ の核である。同様に $\pi_C=\pi_C\circ q$ なので $\pi_C\circ f=0$ であり、段 2 により $s\circ f=0$ なら $s=(s\circ\iota_C)\circ\pi_C$ と一意に分解するので、$\pi_C$ は $f$ の余核である。
段 4・5(中間の射は同型で、アーベル圏になる)。 要点:$f=\iota_{Y'}\circ f'\circ\pi_{X'}$ と書くと、段 1・2 から、$f'\circ t=0$ なら $t=0$、$s\circ f'=0$ なら $s=0$ である。$\operatorname{End}(X'\oplus Y')$ の左イデアルを冪等元で書き直すと $f'$ の左逆が得られ、同型になる。これから正規性・余正規性と、モノ射の分裂が従う。
段 4(中間の射は同型)。 $f\circ p=0$、$q\circ f=0$ から $f=(1-q)\circ f\circ(1-p)$ であり、$f':=\pi_{Y'}\circ f\circ\iota_{X'}\colon X'\to Y'$ とおくと $f=\iota_{Y'}\circ f'\circ\pi_{X'}$ である。
$f'$ はモノ射である。$f'\circ t=0$ なら $f\circ\iota_{X'}\circ t=\iota_{Y'}\circ f'\circ t=0$ なので、段 1 により $\iota_{X'}\circ t=p\circ\iota_{X'}\circ t$ である。$\iota_{X'}=(1-p)\circ\iota_{X'}$ だから $p\circ\iota_{X'}=0$ であり、$\iota_{X'}\circ t=0$、$t=\pi_{X'}\circ\iota_{X'}\circ t=0$ となる。同様に段 2 から、$s\circ f'=0$ なら $s=0$ である。
$f'$ が左逆をもつことを示す。$R:=\operatorname{End}(X'\oplus Y')$、$a:=\iota_{Y'}\circ f'\circ\pi_{X'}\in R$ とし、$e_{X'}:=\iota_{X'}\circ\pi_{X'}$、$e_{Y'}:=\iota_{Y'}\circ\pi_{Y'}$ とおく($e_{X'}+e_{Y'}=1$)。lem-jan-ring の 1 により $Ra=R\varepsilon$($\varepsilon$ は冪等元)と書ける。$r\in R$ について、$a\circ r=0$ は $f'\circ\pi_{X'}\circ r=0$、すなわち($f'$ はモノ射なので)$\pi_{X'}\circ r=0$ と同値であり、これは $r=e_{Y'}r$ と同値である。よって lem-jan-ring の 3 により $(1-\varepsilon)R=e_{Y'}R$ である。左から零化する元の集合をとると、同じ 3 の後半により $R\varepsilon=\{x\mid x(1-\varepsilon)=0\}=\{x\mid xe_{Y'}=0\}=R(1-e_{Y'})=Re_{X'}$ である。したがって $e_{X'}\in Ra$ であり、$e_{X'}=z\circ a$ と書ける。左から $\pi_{X'}$、右から $\iota_{X'}$ を合成すると $$ \mathrm{id}_{X'}=(\pi_{X'}\circ z\circ\iota_{Y'})\circ f' $$ を得る。$g:=\pi_{X'}\circ z\circ\iota_{Y'}$ とおくと $(f'\circ g-\mathrm{id}_{Y'})\circ f'=0$ であり、上で示したことから $f'\circ g=\mathrm{id}_{Y'}$ となる。よって $f'$ は同型である。
段 5(アーベル圏であり半単純であること)。 核と余核は段 3 で存在する。$f$ がモノ射なら $f\circ\iota_K=0$ から $\iota_K=0$、$K=0$ であり、$p=0$ なので $\pi_{X'}\colon X\to X'$ は同型($\iota_{X'}\circ\pi_{X'}=1-p=\mathrm{id}_X$)で、$f=\iota_{Y'}\circ f'\circ\pi_{X'}$ である。$\pi_C\circ t=0$ なら $q\circ t=\iota_C\circ\pi_C\circ t=0$、$t=(1-q)\circ t=\iota_{Y'}\circ(\pi_{Y'}\circ t)$ と一意に分解するので、$\iota_{Y'}$ は $\pi_C$ の核である。よって $f\cong\iota_{Y'}$ は自身の余核の核であり、さらに $\iota_{X'}\circ(f')^{-1}\circ\pi_{Y'}$ が $f$ の左逆である。$f$ がエピ射の場合も同様に、$f$ は自身の核の余核である。したがって $\mathcal{C}$ は アーベル圏 の定義「アーベル圏」の 3 条件をみたし、すべてのモノ射が分裂するので半単純である。$\square$
Jan92 Lemma 2(p. 449)は、$F$ 線形で自己準同型環が有限次元半単純な場合にこの結論を述べている。上の証明は有限次元性を使わない。
この節では $k$ を代数閉体とし、$H^*$ を標数 $0$ の係数体 $K$ をもつ Weil コホモロジー(たとえば $\ell\neq\operatorname{char}k$ の $\ell$ 進コホモロジー。Weilコホモロジー の例「ℓ 進コホモロジーは Weil コホモロジーである」)、$\gamma$ をサイクル類写像とし、$X$ を純 $d$ 次元とする。$f\in Z^d(X\times X)_{\mathbb{Q}}$ に、$H^*(X)$ の次数を保つ自己準同型 $\phi(f)(b):=p_{2*}(\gamma(f)\cdot p_1^*b)$ を対応させる(Weilコホモロジー の補題「対応の作用とグラフの類」の作用を転置に適用したもの)。次数を保つ $u$ の超跡を $\operatorname{str}(u):=\sum_i(-1)^i\operatorname{Tr}(u\mid H^i(X))$ とおくと、次が成り立つ。
$A:=\operatorname{Corr}^0_{\mathrm{num}}(X,X)$ は有限次元 $\mathbb{Q}$ 代数である。また $f\in Z^d(X\times X)_{\mathbb{Q}}$ が数値的に $0$ であることは、すべての $g\in Z^d(X\times X)_{\mathbb{Q}}$ について $\operatorname{str}(\phi(f)\phi(g))=0$ となることと同値である。
要点:相補的なサイクルは転置 ${}^tg$ の形に書けるので後半は (W2) そのもので、$\phi(g)$ の張る空間の基底との交点数で $A$ が $\mathbb{Q}^N$ に埋め込まれる。
$X\times X$ は $2d$ 次元なので、$Z^d(X\times X)_{\mathbb{Q}}$ と相補的なサイクルはまた $Z^d(X\times X)_{\mathbb{Q}}$ の元で、$w={}^t({}^tw)$ と書ける。よって $f$ が数値的に $0$ であることは、すべての $g$ で $\deg(f\cdot{}^tg)=0$ となることであり、(W2) により後半を得る。$\operatorname{End}_K(H^*(X))$ は有限次元なので、$\phi(g)$($g\in Z^d(X\times X)_{\mathbb{Q}}$)の張る $K$ 部分空間の基底 $\phi(g_1),\dots,\phi(g_N)$ がとれる。$\Theta(f):=(\deg(f\cdot{}^tg_j))_{j}\in\mathbb{Q}^N$ とおく。$\Theta(f)=0$ なら、任意の $g$ について $\phi(g)=\sum_jc_j\phi(g_j)$($c_j\in K$)と書けば (W2) により $\deg(f\cdot{}^tg)=\sum_jc_j\deg(f\cdot{}^tg_j)=0$ なので、$\ker\Theta$ はちょうど数値的に $0$ なサイクルの全体である。よって $A$ は $\mathbb{Q}^N$ に単射し、$\dim_{\mathbb{Q}}A\le N$ である。$\square$
$A=\operatorname{Corr}^0_{\mathrm{num}}(X,X)$ は半単純である。
$A$ は有限次元なので、その Jacobson 根基 $\mathfrak{R}$ は冪零な両側イデアルであり(lem-jan-ring の 4 の証明)、$\mathfrak{R}=0$ を示せばよい。$r\in\mathfrak{R}$ の持ち上げを $f$ とし、$g\in Z^d(X\times X)_{\mathbb{Q}}$ を任意にとる。$w:=f\circ g$ の類は $\mathfrak{R}$ に属するので冪零であり、ある $N$ について $n\ge N$ なら $w^{\circ n}$ は数値的に $0$ である。$u:=\phi(w)$ とおくと、lem-jan-finite を $w^{\circ n}$ と $[\Delta_X]$ に使い (W1) を合わせて、$\operatorname{str}(u^n)=0$($n\ge N$)を得る。
$K$ の代数閉包の上で、$u$ の $0$ でない相異なる固有値を $\lambda_1,\dots,\lambda_s$、$\lambda_j$ の $H^i(X)$ での重複度を $m_i(\lambda_j)$ とし、$c_j:=\sum_i(-1)^im_i(\lambda_j)\in\mathbb{Z}$ とおく。固有値 $0$ は跡に寄与しないので、$n\ge1$ について $\operatorname{str}(u^n)=\sum_{j=1}^sc_j\lambda_j^n$ である。$n=N,\dots,N+s-1$ の $s$ 本の等式 $\sum_jc_j\lambda_j^n=0$ の係数行列 $(\lambda_j^{N+t})_{t,j}$ は、Vandermonde 行列 $(\lambda_j^t)_{t,j}$ と可逆な対角行列 $\operatorname{diag}(\lambda_j^N)$ の積なので可逆である(Vandermonde行列式)。よって $c_j=0$(標数 $0$ なので整数として $0$)であり、$\operatorname{str}(u)=\operatorname{str}(\phi(f)\phi(g))=0$ である。$g$ は任意だったので、lem-jan-finite により $f$ は数値的に $0$、すなわち $r=0$ である。$\square$
2 ⇒ 1。 対象 $M=(X,p,m)$ について $\operatorname{End}(M)$ が半単純環であることを示せば、thm-jan-lemma と擬アーベル性(モチーフ の定理「モチーフの圏は擬アーベル」)により 1 が従う。$X$ の連結成分を $X_a$、その次元を $d_a$、$D:=\max_ad_a$ とし、純 $D$ 次元の $Y:=\coprod_aX_a\times\mathbb{P}^{D-d_a}$ をとる。有理点 $e_a\in\mathbb{P}^{D-d_a}(k)$ による切断 $s\colon X\to Y$、$x\mapsto(x,e_a)$ と射影 $\varpi\colon Y\to X$ は $\varpi\circ s=\mathrm{id}_X$ をみたすので、$h$ の反変性から $h(s)\circ h(\varpi)=h(\mathrm{id}_X)=[\Delta_X]$ である。$h(\varpi)\in\operatorname{Corr}^0_\sim(X,Y)$、$h(s)\in\operatorname{Corr}^0_\sim(Y,X)$ は $(X,[\Delta_X],m)$ と $N:=(Y,[\Delta_Y],m)$ の間の射でもあるので、$i:=h(\varpi)\circ p\colon M\to N$、$r:=p\circ h(s)\colon N\to M$ は $r\circ i=p=\mathrm{id}_M$ をみたす。$\epsilon:=i\circ r$ は $\operatorname{End}(N)$ の冪等元で、$\varphi\mapsto i\circ\varphi\circ r$ は環の同型 $\operatorname{End}(M)\cong\epsilon\operatorname{End}(N)\epsilon$ を与える(逆は $\psi\mapsto r\circ\psi\circ i$)。$\operatorname{End}(N)=\operatorname{Corr}^0_\sim(Y,Y)$ は 2 により有限次元半単純なので、lem-jan-ring の 4 により $\operatorname{End}(M)$ は半単純である。
1 ⇒ 3。 $\sim$ が数値的同値と異なるとする。数値的同値はもっとも粗いので、連結な $X\in\mathcal{V}_k$(次元 $d$)と、$\sim$ では $0$ でないが数値的に $0$ な $z\in A^j_\sim(X)$ がある。$\operatorname{Hom}(\mathbb{1},(X,[\Delta_X],j))=\operatorname{Corr}^j_\sim(\operatorname{Spec}k,X)=A^j_\sim(X)$ なので、$z$ は $0$ でない射 $z\colon\mathbb{1}\to(X,[\Delta_X],j)$ を定める。その核 $\kappa\colon\ker z\to\mathbb{1}$ は半単純性により分裂し、$\kappa\circ\lambda$($\lambda\circ\kappa=\mathrm{id}$)は $\operatorname{End}(\mathbb{1})=\mathbb{Q}$(モチーフ の命題「サイクルの群は Lefschetz モチーフからの射」)の冪等元なので $0$ か $1$ である。$1$ なら $\kappa$ は同型で $z=0$ となり矛盾するので $0$ であり、$\kappa=\kappa\circ\lambda\circ\kappa=0$、$\ker z=0$ である。よって $z$ はモノ射で、左逆 $y\colon(X,[\Delta_X],j)\to\mathbb{1}$ をもつ。$y\in\operatorname{Corr}^{-j}_\sim(X,\operatorname{Spec}k)=A^{d-j}_\sim(X)$ であり、合成の定義から $y\circ z=\deg(z\cdot y)\in A^0(\operatorname{Spec}k)=\mathbb{Q}$ なので $\deg(z\cdot y)=1$ となる。これは $z$ が数値的に $0$ であることに反する(Jan92 p. 448)。
3 ⇒ 2($k$ が代数閉体のとき)。 lem-jan-finite と prop-jan-semisimple による。$\square$
$L/k$ を有限次 Galois 拡大、$G$ をその Galois 群、$X:=\operatorname{Spec}L$ とする。環の同型 $L\otimes_kL\cong\prod_{\sigma\in G}L$、$a\otimes b\mapsto(a\sigma(b))_\sigma$ により $X\times X$ は $|G|$ 個の点の和であり、$\sigma$ に対応する点は $\operatorname{Spec}\sigma\colon X\to X$ のグラフである。$0$ 次元の $X\times X$ の上では、有理同値は余次元 $0$ のサイクルを同一視せず、各点どうしの交点数は自分自身とでは $[L:k]$、異なる点とでは $0$ なので、数値的同値も同一視しない。よって任意の適切な $\sim$ について $\operatorname{Corr}^0_\sim(X,X)=A^0_\sim(X\times X)$ は、これらのグラフ(あるいはその転置)を基底とする $|G|$ 次元の空間である。$h$ の反変性により $h(\operatorname{Spec}\sigma)\circ h(\operatorname{Spec}\tau)=h(\operatorname{Spec}(\sigma\tau))$ なので、$\sigma\mapsto h(\operatorname{Spec}\sigma)$ は群環の同型 $\mathbb{Q}[G]\cong\operatorname{Corr}^0_\sim(X,X)$ を与える。$\mathbb{Q}[G]$ は Maschke の定理(半単純環 の定理「Maschke の定理」)により半単純であり、条件 2 がこの $X$ について $\sim$ によらず成り立つ。
モチーフ の例「射影直線のモチーフ」により、任意の $\sim$ について $h(\mathbb{P}^1)\cong\mathbb{1}\oplus\mathbb{L}$($\mathbb{L}:=(\operatorname{Spec}k,\mathrm{id},-1)$)である。$\operatorname{Hom}(\mathbb{1},\mathbb{L})=A^{-1}(\operatorname{Spec}k)=0$、$\operatorname{Hom}(\mathbb{L},\mathbb{1})=A^1(\operatorname{Spec}k)=0$、$\operatorname{End}(\mathbb{1})=\operatorname{End}(\mathbb{L})=\mathbb{Q}$ なので、$\operatorname{Corr}^0_\sim(\mathbb{P}^1,\mathbb{P}^1)=\operatorname{End}(h(\mathbb{P}^1))\cong\mathbb{Q}\times\mathbb{Q}$ であり、半単純である。2 つの因子は、その例の冪等元 $[\{e\}\times\mathbb{P}^1]$ と $[\mathbb{P}^1\times\{e\}]$ に対応する。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 数値的同値で割ること(有理同値で割る) | $k$ が有限体の代数閉包に含まれないとき、位数無限の有理点をもつ楕円曲線の Chow モチーフ(モチーフ の例「反例:Chow モチーフの圏はアーベル圏でない」) | アーベル圏であること |
| 自己準同型環の半単純性(擬アーベル性は保つ) | 有限生成自由 $\mathbb{Q}[\varepsilon]/(\varepsilon^2)$ 加群の圏(モチーフ の例「反例:自己準同型環が半単純でない擬アーベル圏」、Jan92 Remark 3、p. 451) | アーベル圏であること |
| 擬アーベル性(自己準同型環の半単純性は保つ) | 偶数次元の $\mathbb{Q}$ ベクトル空間の圏 | アーベル圏であること(核の存在) |
偶数次元の $\mathbb{Q}$ ベクトル空間と線形写像のなす圏 $\mathcal{E}$ は、零対象と直和をもつ加法圏で、$\operatorname{End}(\mathbb{Q}^{2n})=M_{2n}(\mathbb{Q})$ は半単純である。階数 $1$ の冪等元 $e\in M_2(\mathbb{Q})$ が $\mathcal{E}$ で核 $\kappa\colon K\to\mathbb{Q}^2$ をもつとする。$e\circ\kappa=0$ なので $\kappa$ の像は直線 $\ell:=\ker e$ に含まれる。$t:=1-e$ は像が $\ell$ の $0$ でない射で $e\circ t=0$ なので、$t=\kappa\circ v$ となる $v\colon\mathbb{Q}^2\to K$ がただ 1 つある。$K\neq0$ なら $\dim K\ge2$ なので $\ker\kappa\neq0$ であり、像が $\ker\kappa$ に含まれる $0$ でない $w\colon\mathbb{Q}^2\to K$ をとれば $\kappa\circ(v+w)=t$ となって一意性に反する。$K=0$ なら $t=0$ となって矛盾する。よって $e$ は核をもたず、$\mathcal{E}$ はアーベル圏でない。同じ理由で $e$ は $\mathcal{E}$ の中に像をもたず、$\mathcal{E}$ は擬アーベルでない。
ホモロジー同値も適切な同値関係なので、thm-jan-main を $\sim_{\mathrm{hom}}$ に当てると、$k$ が代数閉体のとき「$\mathcal{M}_{\mathrm{hom}}(k)$ が半単純アーベル圏であること」は「ホモロジー同値が数値的同値と一致すること」、すなわち標準予想 D(標準予想 の予想「標準予想 D(X)」)がすべての $X$ で成り立つことと同値になる。Weil コホモロジーは $\mathcal{M}_{\mathrm{hom}}(k)$ の上の関手として定まるので、予想 D が分からない限り、半単純な $\mathcal{M}_{\mathrm{num}}(k)$ の上にコホモロジーが関手として載るかは分からない。
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