有限鏡映群

同義語:有限反射群finite reflection group

概要

有限鏡映群(finite reflection group)とは、Euclid 空間の直交群の有限部分群で、超平面に関する鏡映で生成されるもので、正多角形の対称性の群(二面体群)、座標の置換の群(対称群)、ルート系の Weyl 群がその例である。鏡映の超平面をすべて除いた集合の連結成分を部屋と呼ぶと、群は 1 つの部屋の壁に関する鏡映 $S$ だけで生成され、部屋の全体に単純推移的に作用し、元の長さはその部屋と移した部屋を隔てる超平面の個数に等しい。部屋の閉包は各軌道とちょうど 1 点で交わり、点の安定化群はその点を固定する $S$ の元で生成される。群と $S$ の組は Coxeter 系で、既約なものは $A_n$、$B_n$、$D_n$、$E_6$、$E_7$、$E_8$、$F_4$、$H_3$、$H_4$、$I_2(m)$ の型に分類される。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 直交群, ルート系, Coxeter系, 群の作用

有限鏡映群は、Euclid 空間の直交変換の有限群で、鏡映で生成されるものである。正多角形の対称性の群(二面体群)、座標の置換の群(対称群)、ルート系 の Weyl 群がその例である。鏡映の超平面で空間を切り分けた一片を部屋と呼ぶと、群は部屋の全体に単純推移的に作用し、部屋の閉包はちょうど 1 点ずつ各軌道と交わる。この記事では、整数性(結晶的条件)を仮定しない一般の有限鏡映群について、次のことを示す。

問い答え
群はどんな元で生成されるか1 つの部屋の壁に関する鏡映だけで生成される(thm-frg-main の 1)
部屋と群の元は対応するか群は部屋の全体に単純推移的に作用し、元の長さは部屋を隔てる超平面の個数である(同 2・3)
軌道の代表はどう取れるか部屋の閉包が各軌道とちょうど 1 点で交わり、部屋の閉包の点の安定化群はその点を通る壁の鏡映で生成される(同 4)
群の関係式は何か消去条件を満たし(同 5)、そこから Coxeter 系であること、すなわち生成元の 2 つずつの積の位数だけで決まることが従う(後半は Coxeter系 の定理の引用)

定義

以下、$V$ は $n$ 次元の実ベクトル空間で、正定値の内積 $(\ ,\ )$ をもつもの(Euclid 空間)とし、$\mathrm{O}(V)$ をその 直交群 とする。$0$ でない $\alpha\in V$ に対し、$H_\alpha:=\{x\in V\mid(x,\alpha)=0\}$ と
$$ s_\alpha(x):=x-\frac{2(x,\alpha)}{(\alpha,\alpha)}\alpha $$
を ルート系 の定義「ベクトルに関する鏡映」のとおりとする。$s_\alpha$ は $H_\alpha$ の各点を固定し $\alpha$ を $-\alpha$ に写す $\mathrm{O}(V)$ の位数 $2$ の元で、$t\in\mathrm{O}(V)$ について $ts_\alpha t^{-1}=s_{t(\alpha)}$ が成り立つ(同記事の補題「鏡映の基本性質」)。$s_\alpha$ は超平面 $H=H_\alpha$ だけで決まる($s_{c\alpha}=s_\alpha$)ので $s_H$ とも書く。したがって、$t\in\mathrm{O}(V)$ について $ts_Ht^{-1}=s_{tH}$ である。

有限鏡映群

$\mathrm{O}(V)$ の有限部分群 $W$ で、$W$ に含まれる鏡映の全体で生成されるものを 有限鏡映群(finite reflection group)という。$W$ に含まれる鏡映 $s_H$ の超平面 $H$ の全体を $\mathcal{H}=\mathcal{H}(W)$ と書き、$H\in\mathcal{H}$ を $W$ の 鏡映超平面 という。

$\mathcal{H}$ は有限集合で、$w\in W$、$H\in\mathcal{H}$ について $ws_Hw^{-1}=s_{wH}\in W$ なので $wH\in\mathcal{H}$ である。すなわち $W$ は $\mathcal{H}$ を置換する。
内積を指定しない場合も同じことになる。有限群 $G\subset\mathrm{GL}(V)$ が、$r^2=1$ で固定点の全体が超平面 $H$ になる線形写像 $r$(線形な鏡映)で生成されているとする。任意の内積 $\langle\ ,\ \rangle$ を $G$ の上で平均した $(x,y):=\sum_{g\in G}\langle gx,gy\rangle$ は $G$ で不変な内積である(Dav07 Lemma 6.6.1)。この内積について $r$ は $H$ の直交補空間(1 次元)を保ち、そこに $\pm1$ で作用するが、$+1$ なら $r=1$ となるので $-1$ である。よって $r$ は $s_H$ に等しく、$G$ はこの内積について有限鏡映群である。

部屋と壁

$W$ を有限鏡映群とする。$V\setminus\bigcup_{H\in\mathcal{H}}H$ の 連結成分 を $W$ の 部屋(chamber)という。部屋 $C$ と $H\in\mathcal{H}$ について、$H\cap\overline{C}$ が $H$ の空でない開集合を含むとき、$H$ を $C$ の 壁 という。$C$ の壁に関する鏡映の全体を $S(C)$ と書く。

$H\in\mathcal{H}$ と部屋 $C$ について、$H$ の法線ベクトル $\alpha$ をとると、連続関数 $x\mapsto(x,\alpha)$ は連結な $C$ の上で $0$ をとらないので符号が一定である。そこで $C$ の上で正になる単位法線ベクトル $\alpha_H^C$ をとり、開半空間を $U_H(C):=\{x\mid(x,\alpha_H^C)>0\}$ とおく。2 つの部屋 $C,D$ が $H$ の反対側にある($D\cap U_H(C)=\emptyset$)とき、$H$ は $C$ と $D$ を 隔てる という。$C$ と $D$ を隔てる $H\in\mathcal{H}$ の個数を $d(C,D)$ と書く。ルート系 の定義「部屋」は、Weyl 群の場合のこの部屋と同じ形の定義である。

部屋の基本性質

部屋は半空間の共通部分

$W$ を有限鏡映群、$C$ を部屋とする。

  1. $C=\bigcap_{H\in\mathcal{H}}U_H(C)$ であり、$C$ は凸な開集合で、$\overline{C}=\bigcap_{H\in\mathcal{H}}\{x\mid(x,\alpha_H^C)\ge0\}$、$\overline{C}$ の内部は $C$ である。
  2. $w\in W$ について $wC$ は部屋であり、$w$ は部屋の全体を置換する。$H\in\mathcal{H}$ が $C$ と $D$ を隔てることと、$wH$ が $wC$ と $wD$ を隔てることは同値である。
  3. 部屋 $C\neq D$ を隔てる $H\in\mathcal{H}$ がある。
  4. どの $x\in V$ もある部屋の閉包に属する。
開半空間の共通部分は連結

1:$P:=\bigcap_HU_H(C)$ は凸な開集合で連結であり、どの $H$ とも交わらず、$C\subset P$ である。$P$ は連結なので $C$ を含む連結成分 $C$ に含まれ、$C=P$ である。閉半空間の共通部分 $Q$ は閉集合で $P$ を含み、$y\in Q$、$c\in P$ なら $t\in(0,1]$ で $(1-t)y+tc\in P$ なので $y\in\overline{P}$、よって $\overline{P}=Q$ である。有限個の集合の共通部分の内部は内部の共通部分で、閉半空間の内部は開半空間なので、$\overline{C}$ の内部は $P=C$ である。
2:$w$ は $V$ の同相写像で $\bigcup_{H\in\mathcal{H}}H$ を自身に写すので、連結成分を連結成分に写す。$w\in\mathrm{O}(V)$ なので $(wx,w\alpha)=(x,\alpha)$ で、$w$ は $U_H(C)$ を $U_{wH}(wC)$ に写す。
3:$C$ と $D$ を隔てる $H$ がなければ、各 $H$ について $D\subset U_H(C)$ なので、1 により $D\subset C$、よって $D=C$ である。
4:各 $H$ は内部が空な閉集合で、有限個の和もそうである($U$ が開集合で $U\subset A\cup B$、$A,B$ が内部が空な閉集合なら、$U\setminus A$ は $B$ に含まれる開集合で空、よって $U\subset A$、$U=\emptyset$)。したがって $x$ に収束する正則な点(どの $H$ にも属さない点)の列があり、部屋は有限個なので、ある部屋に無限個の項が入る。その部屋の閉包が $x$ を含む。$\square$

部屋の全体を有限個の超平面が切り分ける様子は、2 次元では原点から出る $2m$ 本の半直線で平面を扇形に分ける図になる(ex-frg-dihedral)。次の補題は、部屋が壁だけで切り出されることを示す。

壁による記述

$C$ を部屋、$z\notin\overline{C}$ とする。$C$ の壁 $H$ で $(z,\alpha_H^C)<0$ となるものがある。とくに $C=\bigcap_{H\text{ は }C\text{ の壁}}U_H(C)$ である。

線分が初めて境界に当たる点

異なる $H,H'\in\mathcal{H}$ について $H\cap H'$ は $n-2$ 次元なので、$H\cap H'$ と $z$ で張られる部分空間 $L_{H,H'}$ は $V$ の真部分空間である。prf-frg-cone の 4 と同じ理由で、開集合 $C$ は有限個の $L_{H,H'}$ に覆われないので、どの $L_{H,H'}$ にも属さない $x\in C$ がとれる。
$x_t:=(1-t)x+tz$、$t_0:=\sup\{t\in[0,1]\mid x_s\in C\ (0\le s\le t)\}$、$p:=x_{t_0}$ とおく。$p\in\overline{C}$ で、$z\notin\overline{C}$ なので $t_0<1$、$C$ は開集合なので $p\notin C$ である。lem-frg-cone の 1 により、すべての $H$ で $(p,\alpha_H^C)\ge0$ で、ある $H$ で $(p,\alpha_H^C)=0$、すなわち $p\in H$ である。$p\in H\cap H'$($H'\ne H$)なら $x=(p-t_0z)/(1-t_0)\in L_{H,H'}$ となり $x$ の選び方に反するので、$p$ を含む $\mathcal{H}$ の元は $H$ だけである。
$H$ が $C$ の壁であることを示す。$H'\ne H$ について $(p,\alpha_{H'}^C)>0$ なので、$p$ の近傍 $B$ でこれらがすべて正のものがある。$q\in B\cap H$ と小さい $\varepsilon>0$ について $q+\varepsilon\alpha_H^C$ はすべての $U_{H'}(C)$ に入り、lem-frg-cone の 1 により $C$ に属するので、$q\in\overline{C}$ である。よって $B\cap H\subset\overline{C}$ で、$H$ は壁である。$t\mapsto(x_t,\alpha_H^C)$ は 1 次関数で、$t=0$ で正、$t=t_0<1$ で $0$ なので、$t=1$ で負、すなわち $(z,\alpha_H^C)<0$ である。
後半:右辺を $P$ とすると $C\subset P$ で、$P$ は開集合である。$y\in P\setminus C$ があれば、$\overline{C}$ の内部は $C$ なので(lem-frg-cone の 1)、$y$ の近傍で $P$ に含まれるものは $\overline{C}$ に含まれず、$P\setminus\overline{C}$ の点 $z$ がある。前半の壁 $H$ について $z\notin U_H(C)\supset P$ となり矛盾する。$\square$

壁の鏡映は隣の部屋へ移す

$C$ を部屋、$H$ を $C$ の壁、$s=s_H$ とする。$sC$ は部屋で、$C$ と $sC$ を隔てる $\mathcal{H}$ の元は $H$ だけである。

壁の内点の小さな球

$H\cap\overline{C}$ が含む $H$ の空でない開集合は、有限個の $H\cap H'$($H'\ne H$、$H$ の真部分空間)では覆われないので、どの $H'\ne H$ にも属さない点 $p\in H\cap\overline{C}$ がある。$p$ を中心とする開球 $B$ で、$H'\ne H$ と交わらないものをとる。$B^{+}:=B\cap U_H(C)$ はすべての $U_{H'}(C)$ に含まれる($p\in\overline{C}\setminus H'$ で $B$ は $H'$ の片側にある)ので $C$ に含まれる。$s$ は $p$ を固定する等長変換なので $s(B)=B$ で、$(sx,\alpha_H^C)=-(x,\alpha_H^C)$ から $s(B^{+})=B^{-}:=B\cap\{(x,\alpha_H^C)<0\}$ である。よって $B^{-}\subset sC$ である。$H'\ne H$ について $B^{+}$ と $B^{-}$ は $H'$ の同じ側にあるので $H'$ は $C$ と $sC$ を隔てず、$H$ は隔てる。$\square$

主定理

$S=S(C)$ に関する長さ $\ell(w)$($w$ を $S$ の元の積で書くときの最短の長さ。$w$ が $S$ で生成されることは主定理の 1 で示す)を Coxeter系 の定義「生成系に関する長さ関数」のとおりとする。

有限鏡映群の基本定理

$W$ を有限鏡映群、$C$ を部屋、$S=S(C)$ とする。

  1. $W$ は $S$ で生成され、部屋の全体に推移的に作用する。$W$ のどの鏡映も $S$ のある元と共役である。
  2. $w\in W$ について $\ell(w)=d(C,wC)$ である。
  3. $W$ は部屋の全体に単純推移的に作用する。とくに $|W|$ は部屋の個数に等しい。
  4. $\overline{C}$ は各軌道とちょうど 1 点で交わる。さらに、$x,y\in\overline{C}$、$w\in W$、$wx=y$ なら $x=y$ で、$w$ は $S_x:=\{s\in S\mid sx=x\}$ の生成する部分群に属する。とくに $x\in\overline{C}$ の安定化群 $W_x$ は $S_x$ で生成される。
  5. $(W,S)$ は消去条件を満たし、Coxeter 系である。

証明の筋は次のとおりである。点を部屋 $C$ の点に最も近づける元をとると、壁の鏡映でさらに近づけられないことから部屋が $C$ に移る(1)。壁の鏡映を順に掛けると、隣り合う部屋の列(ギャラリー)ができ、各段でちょうど 1 枚の超平面をまたぐ。同じ超平面を 2 度またぐと表示から 2 文字を消せるので、簡約表示ではどの超平面も 1 度しかまたがない(2・5)。

距離の最小化とギャラリーの数え上げ

$W_0:=\langle S\rangle$ とおく。
推移性:部屋 $D$ と $y\in D$、$x\in C$ をとる。$W_0$ は有限なので、$\lvert wy-x\rvert$ を最小にする $w\in W_0$ がある。$wy$ はどの $H\in\mathcal{H}$ にも属さない($W$ は $\mathcal{H}$ を置換する)。$wy\notin C$ と仮定すると、$wy$ は別の部屋にあり、$\overline{C}\setminus C$ は $\bigcup H$ に含まれるので $wy\notin\overline{C}$ である。lem-frg-walls により $C$ の壁 $H$ で $\beta:=(wy,\alpha)<0$($\alpha=\alpha_H^C$)となるものがある。$s=s_H\in S$ について $swy=wy-2\beta\alpha$ だから
$$ \lvert swy-x\rvert^2=\lvert wy-x\rvert^2-4\beta(wy-x,\alpha)+4\beta^2=\lvert wy-x\rvert^2+4\beta(x,\alpha)< \lvert wy-x\rvert^2 $$
で、$sw\in W_0$ は最小性に反する。よって $wy\in C$、$wD=C$ である。
生成:$H\in\mathcal{H}$ をとる。$H$ の点 $p$ でほかの $H'\in\mathcal{H}$ に属さないものをとり、$p$ のまわりの開球 $B$ で $H'\neq H$ と交わらないものをとる。$B\setminus H$ の 2 つの半球の一方を含む部屋 $D$ について、$B\cap H\subset\overline{D}$ なので $H$ は $D$ の壁である。推移性により $wD=C$($w\in W_0$)となり、$w$ は線形な同相写像で $H\cap\overline{D}$ を $wH\cap\overline{C}$ に、$H$ の開集合を $wH$ の開集合に写すので $wH$ は $C$ の壁、$s_{wH}\in S$ である。$s_H=w^{-1}s_{wH}w\in W_0$ である。$W$ は鏡映 $s_H$($H\in\mathcal{H}$)で生成されるので $W=W_0$ であり、1 が示された。
ギャラリー:$s_1,\dots,s_k\in S$、$u_i:=s_1\cdots s_i$($u_0=1$)、$C_i:=u_iC$ とする。$C_{i-1}=u_{i-1}C$ と $C_i=u_{i-1}s_iC$ を隔てる $\mathcal{H}$ の元は、lem-frg-adjacent を $u_{i-1}$ で写して(lem-frg-cone の 2)、$H_i:=u_{i-1}H_{s_i}$ だけである。したがって $H\in\mathcal{H}$ について、$C_0$ と $C_k$ が $H$ に隔てられることは、$H_i=H$ となる $i$ の個数が奇数であることと同値である。とくに $d(C,u_kC)\le k$ で、$d(C,wC)\le\ell(w)$ である。
2 文字の消去:$H_i=H_j$($i< j$)とする。$H_i$ の鏡映は $u_{i-1}s_iu_{i-1}^{-1}=u_{j-1}s_ju_{j-1}^{-1}$ である。$u_{j-1}^{-1}u_{i-1}=s_{j-1}\cdots s_i$ なので $s_j=(s_{j-1}\cdots s_{i+1}s_i)\,s_i\,(s_i s_{i+1}\cdots s_{j-1})=s_{j-1}\cdots s_{i+1}s_is_{i+1}\cdots s_{j-1}$ となり、左から $s_i\cdots s_{j-1}$ を掛けて
$$ s_is_{i+1}\cdots s_j=s_{i+1}\cdots s_{j-1},\qquad\text{よって}\qquad s_1\cdots s_k=s_1\cdots\widehat{s_i}\cdots\widehat{s_j}\cdots s_k $$
である。
2 と 5:$w=s_1\cdots s_k$ が簡約表示なら、上の消去で長さ $k-2$ の表示ができてしまうので $H_1,\dots,H_k$ は相異なる。各 $H_i$ はちょうど 1 回またがれるので $C$ と $wC$ を隔て、隔てる超平面はどれかの $H_i$ なので $d(C,wC)=k=\ell(w)$ である。表示 $s_1\cdots s_k$ が簡約でない($k>\ell(w)=d(C,wC)$)なら、$H_i$ が相異なると $d(C,wC)=k$ となって矛盾するので、$H_i=H_j$($i< j$)があり、2 文字を消せる。これが消去条件である。$S$ の元は位数 $2$ で $W$ を生成するので、Coxeter系 の系「Coxeter系の同値な特徴づけ」により $(W,S)$ は Coxeter 系である。ただし、消去条件から Coxeter 系が従うこと(同記事の定理「消去条件からCoxeter系へ」)はこの記事では証明しない(Dav07 Theorem 6.6.3 (i) も参照)。
3:$wC=C$ なら 2 により $\ell(w)=d(C,C)=0$、$w=1$ である。
4:$x\in V$ はある部屋 $D$ の閉包に属し(lem-frg-cone の 4)、$wD=C$ となる $w$ について $wx\in\overline{C}$ である。後半を $\ell(w)$ についての帰納法で示す。$\ell(w)=0$ なら明らかである。$w=s_1\cdots s_k$($k\ge1$)を簡約表示とすると、2 の証明により $H_1=H_{s_1}$ は $C$ と $wC$ を隔てる。$\alpha:=\alpha_{H_1}^C$ とすると、$y\in\overline{C}$ から $(y,\alpha)\ge0$、$y=wx\in\overline{wC}$ から $(y,\alpha)\le0$ なので、$y\in H_1$、$s_1y=y$ である。$s_1w=s_2\cdots s_k$ は長さ $k-1$ で $(s_1w)x=y$ なので、帰納法の仮定から $x=y$、$s_1w\in\langle S_x\rangle$ である。$s_1\in S_y=S_x$ なので $w\in\langle S_x\rangle$ である。$\square$

この証明は Dav07 §6.6(Theorem 6.6.3、Lemma 6.6.8、Corollary 6.6.9)の筋に沿っている。推移性の距離の議論と、2 文字の消去を直接示す部分は、同書が組合せ論の一般論(前鏡映系)に任せている箇所を書き下したものである。

主定理の帰結

$W$ を有限鏡映群、$C$ を部屋、$S=S(C)$ とする。

  1. どの $v\in V$ についても、安定化群 $W_v$ は $W$ の鏡映のうち $v$ を固定するもので生成される。
  2. $-C$ は部屋で、$w_0C=-C$ となる $w_0\in W$ がただ 1 つある。$\ell(w_0)=\lvert\mathcal{H}\rvert$ は $W$ の鏡映の個数に等しく、どの $w\in W$ についても $\ell(w)\le\ell(w_0)$ である。
主定理の 2 と 4 を当てる

1:$wv\in\overline{C}$ となる $w$ をとると、$W_v=w^{-1}W_{wv}w$ で、$W_{wv}$ は $S_{wv}$ で生成されるので、$W_v$ は $w^{-1}sw=s_{w^{-1}H_s}$($s\in S_{wv}$)で生成される。$w^{-1}H_s$ は $v$ を含むので、これらは $v$ を固定する鏡映である。
2:$-1$ は $\bigcup H$ を保つ同相写像なので $-C$ は部屋で、主定理の 3 により $w_0$ がただ 1 つある。すべての $H$ について $-C\subset\{(x,\alpha_H^C)<0\}$ なので、どの $H$ も $C$ と $-C$ を隔て、$\ell(w_0)=d(C,-C)=\lvert\mathcal{H}\rvert$ である。$H\mapsto s_H$ は $\mathcal{H}$ と $W$ の鏡映の全体の全単射である。$\ell(w)=d(C,wC)\le\lvert\mathcal{H}\rvert$ である。$\square$

例

正多角形の対称性 $I_2(m)$

$V=\mathbb{R}^2$、$m\ge2$ とし、$W$ を角 $0$ と角 $\pi/m$ の直線に関する鏡映 $s,t$ で生成される群とする。$st$ は角 $2\pi/m$ の回転なので、$W$ は $m$ 個の回転と、角 $k\pi/m$($0\le k< m$)の直線に関する $m$ 個の鏡映からなる位数 $2m$ の 二面体群 である。$\mathcal{H}$ はこの $m$ 本の直線で、部屋は中心角 $\pi/m$ の $2m$ 個の開いた扇形である。部屋の個数 $2m$ は $\lvert W\rvert$ に等しく(主定理の 3)、扇形 $C=\{r(\cos\theta,\sin\theta)\mid r>0,\ 0< \theta< \pi/m\}$ の壁は 2 本の直線で $S(C)=\{s,t\}$、$st$ の位数は $m$ である。$-C$ を隔てる直線は $m$ 本すべてで、$\ell(w_0)=m$ である(cor-frg-consequences)。$W$ の Coxeter 図形は $I_2(m)$ と書かれる。

座標の置換 $A_{n-1}$

$V=\mathbb{R}^n$ に $n$ 次の 対称群 $S_n$ を座標の置換で作用させる。置換 $\sigma$ の固定点の全体の次元は $\sigma$ の巡回置換分解の巡回の個数(長さ 1 も数える)なので、鏡映になるのは互換 $(i\ j)$ だけで、その超平面は $x_i=x_j$ である。$S_n$ は互換で生成されるので有限鏡映群である。部屋は座標の大小の並び $x_{\sigma(1)}>\cdots>x_{\sigma(n)}$ で決まる $n!$ 個の開集合である。$C=\{x_1>x_2>\cdots>x_n\}$ の壁は $x_i=x_{i+1}$($1\le i< n$)で、$S(C)$ は隣接互換の全体である。$d(C,\sigma C)$ は $x_i=x_j$ のうち $C$ と $\sigma C$ を隔てるもの、すなわち $\sigma$ の転倒数で、主定理の 2 は「長さ=転倒数」を与える。$\overline{C}$ が各軌道と 1 点で交わることは、ベクトルの座標を大きい順に並べ替えた形がただ 1 つであることにほかならない。

$\mathbb{R}^n$ の座標の置換と符号の反転の全体(符号付き置換群、位数 $2^nn!$)も有限鏡映群で、$\mathcal{H}$ は $x_i=0$ と $x_i=\pm x_j$ の $n^2$ 枚、$C=\{x_1>\cdots>x_n>0\}$ が部屋である(ルート系 の例「$B_n$ 型」、Dav07 Example 6.7.2)。一般に ルート系 $R$ の Weyl 群 $W(R)$ は有限鏡映群である(ルート系 の補題「Weyl群の有限性」)。
有限鏡映群は整数性を満たすルート系から来るとは限らない。正五角形の対称性の群 $I_2(5)$ は位数 5 の回転を含むので、平面のどの格子も保たない(壁紙群 の定理「点群の結晶学的制限」の 4 の証明と同じトレースの議論)。ルート系 の注意「反例:ルート系でない有限集合」の 3 も同じ群を扱っている。正二十面体の対称性の群($H_3$ 型、Dav07 Example 6.5.1)も位数 5 の回転を含み、空間のどの格子も保たない(結晶群 の命題「3 次元の点群の元の位数」)。

反例:条件を外すと

thm-frg-main の仮定を 1 つずつ外す。各行は 1 つの条件だけを破る。

外す条件反例成り立たなくなること
$W$ が鏡映で生成される$V=\mathbb{R}^2$、$W=\{\pm1\}$$\lvert W\rvert$ が部屋の個数に等しい(3)
$W$ が有限$V=\mathbb{R}^2$、角 $0$ と角 $\pi\theta$($\theta$ は無理数)の直線に関する鏡映で生成される群部屋の閉包がすべての軌道と交わる(4)
実数体の上の内積空間$V=\mathbb{C}$(複素 1 次元)、$W=\{\pm1\}$$\lvert W\rvert$ が部屋の個数に等しい(3)
反例の確かめ

1 行目:$-1$ は回転で鏡映でないので $\mathcal{H}=\emptyset$、部屋は $V$ だけで、$\lvert W\rvert=2$ である。$\overline{C}=V$ は $x$ と $-x$ をともに含む。
2 行目:2 つの鏡映の積は角 $2\pi\theta$ の回転で位数無限なので、$W$ は無限群で、$W$ が含む鏡映の直線は角 $k\pi\theta$($k\in\mathbb{Z}$)の直線であり、その方向は稠密である。原点を通らない道で方向角が変わると、途中ですべての中間の方向の直線と交わるので、直線の和の補集合の連結成分(部屋)は原点から出る半直線に含まれ、開集合でない。部屋 $C$ を半直線 $\{r(\cos\varphi,\sin\varphi)\mid r>0\}$ とすると、点 $(\cos\psi,\sin\psi)$ の軌道は角 $\pm\psi+2\pi k\theta$ の単位ベクトルの可算集合なので、$\psi$ を適当にとると $\overline{C}$ と交わらない。
3 行目:$z\mapsto-z$ は $\mathbb{C}$ の複素線形写像で、$r^2=1$、固定点の全体は複素超平面 $\{0\}$ である。しかし $\mathbb{C}\setminus\{0\}$ は連結なので部屋は 1 つで、$\lvert W\rvert=2$ と一致しない。実ベクトル空間 $\mathbb{R}^2$ とみると $-1$ は鏡映でなく、1 行目と同じ群である。

分類と Coxeter 群との対応

主定理の 5 により、有限鏡映群は有限 Coxeter 群を与える。逆に、有限 Coxeter 系 $(W,S)$ はどれも、$S$ の元が球面単体の面に関する鏡映になる形で有限鏡映群として実現される(Dav07 Theorem 6.12.9。Coxeter系 の補足「Tits 錐と有限性」も参照)。既約な有限 Coxeter 系の Coxeter 図形は
$$ A_n\ (n\ge1),\quad B_n\ (n\ge2),\quad D_n\ (n\ge4),\quad E_6,\ E_7,\ E_8,\quad F_4,\quad H_3,\quad H_4,\quad I_2(m)\ (m\ge3) $$
のどれかである(Dav07 Theorem C.1.2 と Table 6.1。$I_2(3)$ は $A_2$、$I_2(4)$ は $B_2$ と同じもの。この記事では証明しない)。このうち $H_3$、$H_4$、$I_2(5)$、$I_2(m)$($m\ge7$)は整数性を満たすルート系の Weyl 群でない(Coxeter系 の補足の「Tits 錐と有限性」)。主定理の 3 と 4 は、Coxeter複体 が鏡映超平面による球面の分割として実現されることの基礎になっている。

本質的な作用

$V^W:=\{v\mid wv=v\ (w\in W)\}$ の直交補空間 $V'$ は $W$ で保たれ、$W$ は $V'$ に鏡映群として作用する。$V^W=0$ のとき作用は 本質的 であるといい、このとき部屋は単体錐で $\lvert S\rvert=\dim V$ となる(Dav07 Theorem 6.6.3 (iii)。この記事では証明しない)。ex-frg-symmetric の $\mathbb{R}^n$ は本質的でなく、$V^W$ は対角線、$V'$ は座標の和が $0$ の超平面である。

関連項目

参考文献

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