連接解析層

同義語:coherent analytic sheaf解析的連接層

概要

連接解析層(coherent analytic sheaf)とは、複素空間 $X$ の正則関数の層 $\mathcal{O}_X$ 上の加群の層のうち、局所的に有限個の切断で生成され、どの有限個の切断の間の関係の層も局所的に有限生成であるものをいう。岡の連接定理により $\mathcal{O}_X$ 自身が連接なので、局所的に正則関数を成分とする行列の余核として書ける層と一致し、核・像・余核・拡大で閉じる。台や各点のファイバーの次元の範囲は表示行列の小行列式で決まる解析的集合である。Stein 空間の上での大域切断による生成とコホモロジーの消滅(Cartan の定理)、コンパクトな空間でのコホモロジーの有限性、GAGA はこの層について成り立つ。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 連接層, 複素解析空間, 正則関数, 層

複素多様体や複素解析空間 $X$ の上では、正則関数の芽の層 $\mathcal{O}_X$ が構造層であり、$\mathcal{O}_X$ 加群の層を解析層(analytic sheaf)という。連接解析層(coherent analytic sheaf)は、解析層のうち、局所的に有限個の切断で生成され、どの有限個の切断の間の関係も局所的に有限個で生成されるものである。定義は環付き空間の連接層と同じだが、複素解析では構造層 $\mathcal{O}_X$ 自身が連接であるという深い事実(岡潔(Kiyoshi Oka)による岡の連接定理)があり、そのおかげで「局所的に正則関数を成分とする行列の余核として書ける層」がそのまま連接解析層になる。正則ベクトル束の切断の層、解析的集合で定まる閉部分空間の構造層などがこの範囲に入り、Stein 空間の上の Cartanの定理A・B、コンパクトな複素空間の上のコホモロジーの有限性、射影的な場合の代数的な連接層との一致(GAGA)が、この層の範囲で成り立つ。
この記事では定義と基本性質をまとめ、台と各点のファイバーの次元が正則関数の小行列式で記述されること、局所自由性の判定、連接でない解析層の例を、証明をつけて述べる。$\mathcal{O}_X$ の連接性そのものの証明は 岡の連接定理 に譲る。

定義

以下 $X$ を複素空間(とくに複素多様体)とし、$\mathcal{O}_X$ をその構造層とする。各点 $x$ で茎 $\mathcal{O}_{X,x}$ は極大イデアル $\mathfrak{m}_x$ をもつ局所 $\mathbb{C}$ 代数で、$\mathcal{O}_{X,x}/\mathfrak{m}_x=\mathbb{C}$ である。開集合 $U$ 上の正則関数 $f$ の点 $x$ での値 $f(x)\in\mathbb{C}$ は、芽 $f_x$ の $\mathbb{C}$ での類である。

解析層の有限型・関係の層

$\mathcal{F}$ を $X$ 上の解析層($\mathcal{O}_X$ 加群の層)とする。

  1. 開集合 $U$ 上の切断 $s_1,\dots,s_p\in\mathcal{F}(U)$ は、層の射 $\sigma\colon\mathcal{O}_U^{\oplus p}\to\mathcal{F}|_U$、$(a_1,\dots,a_p)\mapsto\sum_ia_is_i$ を定める。その核を $s_1,\dots,s_p$ の関係の層といい、$\mathcal{R}(s_1,\dots,s_p)$ と書く。
  2. $\mathcal{F}$ が有限型(局所有限生成)であるとは、各点 $x$ に開近傍 $U$ と切断 $s_1,\dots,s_p\in\mathcal{F}(U)$ があって、$\sigma$ が全射、すなわち各点 $y\in U$ で茎 $\mathcal{F}_y$ が $s_1,\dots,s_p$ の芽で生成されることをいう。
連接解析層

解析層 $\mathcal{F}$ が連接(coherent)であるとは、次の 2 条件をみたすことをいう。

  1. $\mathcal{F}$ は有限型である。
  2. 任意の開集合 $U$ と任意の有限個の切断 $s_1,\dots,s_p\in\mathcal{F}(U)$ について、関係の層 $\mathcal{R}(s_1,\dots,s_p)$ は有限型である。
    連接な解析層を連接解析層という。これは環付き空間 $(X,\mathcal{O}_X)$ 上の連接層(連接層 の定義「連接層の定義」)にほかならない。

条件 2 では $s_1,\dots,s_p$ が $\mathcal{F}|_U$ を生成することを仮定しない。どちらの条件も局所的なので、連接性は局所的な性質である。複素多様体 $X$ の上の連接解析層の定義は Hör90 Definition 7.1.4(p. 183)、一般の環付き空間での定義と基本性質の一覧は GR79 第 A 章 §2(pp. 10–14)にある。

岡の連接定理(引用)

複素多様体 $X$ の構造層 $\mathcal{O}_X$ は連接である。すなわち、開集合 $U$ 上の正則関数 $f_1,\dots,f_p$ の関係の層 $\{(a_1,\dots,a_p)\mid\sum_ia_if_i=0\}$ は局所的に有限個の切断で生成される。より一般に、複素空間の構造層は連接である。

岡の連接定理の所在

$\mathbb{C}^n$ の開集合の場合は Hör90 Theorem 6.4.1(p. 165)であり、Weierstrass の予備定理を用いて変数の個数についての帰納法で証明される。証明は 岡の連接定理 で扱い、この記事では証明しない。複素空間の構造層の連接性は GR79 第 A 章 §3.3(p. 16)に述べられている。

基本性質

環付き空間の連接層の一般論(連接層 の節「核・余核・拡大で閉じること」)と thm-cas-oka から、次がすぐに従う。

連接解析層の基本性質

$X$ を複素空間とする。

  1. $\mathcal{O}_X^{\oplus p}$ は連接である。連接解析層の有限型の部分解析層は連接である。とくに $\mathcal{O}_X^{\oplus p}$ の有限型の部分層、たとえば有限個の正則関数が生成するイデアル層は連接である。
  2. 連接解析層の間の射の核・像・余核は連接であり、有限直和も連接である。短完全列 $0\to\mathcal{F}'\to\mathcal{F}\to\mathcal{F}''\to0$ の 3 項のうち 2 つが連接なら、残りも連接である。
  3. 解析層 $\mathcal{F}$ が連接であるための必要十分条件は、各点に開近傍 $U$ と、$U$ 上の正則関数を成分とする $p\times q$ 行列 $\varphi$ があって、$\mathcal{F}|_U\cong\operatorname{coker}\bigl(\varphi\colon\mathcal{O}_U^{\oplus q}\to\mathcal{O}_U^{\oplus p}\bigr)$ となることである。
  4. 連接解析層 $\mathcal{F},\mathcal{G}$ について、$\mathcal{F}\otimes_{\mathcal{O}_X}\mathcal{G}$ と $\mathcal{H}om_{\mathcal{O}_X}(\mathcal{F},\mathcal{G})$ は連接である。
一般論への帰着

1:thm-cas-oka と 連接層 の補題「有限型の像と部分層」の 3 により $\mathcal{O}_X^{\oplus p}$ は連接であり、同じ補題の 2 により連接層の有限型の部分層は連接である。2:連接層 の定理「連接層の 2 out of 3」と系「連接層の射の核・像・余核」。3:連接層 の命題「連接性と有限表示」により、構造層が連接な環付き空間では連接と局所有限表示は同値である。局所有限表示 $\mathcal{O}_U^{\oplus q}\to\mathcal{O}_U^{\oplus p}\to\mathcal{F}|_U\to0$ の最初の射は、標準基底の像の成分を並べた正則関数の行列 $\varphi$ で与えられる。4:連接層 の命題「テンソル積と内部 Hom」。$\square$

2 のうち「3 項のうち 2 つ」の主張は Serre の three lemma と呼ばれる(GR79 第 A 章 §2.3、p. 11)。Hör90 Theorem 7.1.7(p. 183)は複素多様体の上で同じ主張を述べ、証明を演習としている。

茎での性質の近傍への広がり

$u\colon\mathcal{F}\to\mathcal{G}$ を連接解析層の間の射、$x\in X$ とする。茎の写像 $u_x$ が単射(全射、同型)なら、$x$ の開近傍 $V$ があって $u|_V$ は単射(全射、同型)である。

核と余核の台

$\ker u$ と $\operatorname{coker}u$ は prop-cas-basic の 2 により連接、とくに有限型である。有限型の層の台は閉集合である(連接層 の命題「台と茎」の 1)。$u_x$ が単射なら $(\ker u)_x=0$ なので、$x$ は閉集合 $\operatorname{Supp}\ker u$ の外にあり、その補集合が求める $V$ を与える。全射の場合は $\operatorname{coker}u$ について同じ議論を行い、同型の場合は両方の近傍の交わりをとる。$\square$

台とファイバーの次元

連接解析層 $\mathcal{F}$ と点 $x\in X$ について、ファイバーを $\mathcal{F}(x):=\mathcal{F}_x/\mathfrak{m}_x\mathcal{F}_x=\mathcal{F}_x\otimes_{\mathcal{O}_{X,x}}\mathbb{C}$ とし、$d_{\mathcal{F}}(x):=\dim_{\mathbb{C}}\mathcal{F}(x)$ とおく。$\mathcal{F}_x$ は有限生成なので $d_{\mathcal{F}}(x)$ は有限である。複素空間 $X$ の部分集合 $Z$ が解析的集合であるとは、各点 $x\in X$ に開近傍 $U$ と $U$ 上の有限個の正則関数 $g_1,\dots,g_m$ があって $Z\cap U=\{y\in U\mid g_1(y)=\cdots=g_m(y)=0\}$ となることをいう。解析的集合は閉集合である。

台とファイバーの次元の解析性

$X$ を複素空間、$\mathcal{F}$ を連接解析層とする。

  1. 各整数 $k$ について、$\{x\in X\mid d_{\mathcal{F}}(x)\ge k\}$ は解析的集合である。とくに $d_{\mathcal{F}}$ は上半連続である。
  2. 台 $\operatorname{Supp}\mathcal{F}=\{x\mid\mathcal{F}_x\neq0\}$ は $\{x\mid d_{\mathcal{F}}(x)\ge1\}$ に等しく、解析的集合である。
表示行列の小行列式

1:問題は局所的なので、prop-cas-basic の 3 により、開集合 $U$ 上で $\mathcal{F}|_U=\operatorname{coker}(\varphi\colon\mathcal{O}_U^{\oplus q}\to\mathcal{O}_U^{\oplus p})$、$\varphi=(\varphi_{ij})$ は正則関数を成分とする $p\times q$ 行列、としてよい。点 $y\in U$ で、完全列 $\mathcal{O}_{X,y}^{\oplus q}\to\mathcal{O}_{X,y}^{\oplus p}\to\mathcal{F}_y\to0$ に右完全な関手 $-\otimes_{\mathcal{O}_{X,y}}\mathbb{C}$ を施すと、完全列
$$ \mathbb{C}^q\xrightarrow{\ \varphi(y)\ }\mathbb{C}^p\longrightarrow\mathcal{F}(y)\longrightarrow0 $$
を得る。ここで $\varphi(y)=(\varphi_{ij}(y))$ は値の行列である。よって
$$ d_{\mathcal{F}}(y)=p-\operatorname{rank}\varphi(y) $$
である。$d_{\mathcal{F}}(y)\ge k$ は $\operatorname{rank}\varphi(y)\le p-k$ と同値であり、これは $\varphi$ の $(p-k+1)$ 次の小行列式($U$ 上の正則関数)がすべて $y$ で $0$ になることと同値である。$p-k+1>\min(p,q)$ なら条件は $U$ 全体でみたされ($U$ は空の関数系の零点集合)、$k\le0$ でも同様である。$k>p$ なら集合は空で、定数関数 $1$ の零点集合である。いずれの場合も $U$ との交わりは有限個の正則関数の共通零点であり、解析的集合である。$\{d_{\mathcal{F}}\ge k\}$ が閉集合であることは、$d_{\mathcal{F}}$ の上半連続性にほかならない。
2:$\mathcal{F}_x$ は局所環 $\mathcal{O}_{X,x}$ 上の有限生成加群なので、Nakayamaの補題により $\mathcal{F}_x=0$ と $\mathcal{F}(x)=\mathcal{F}_x/\mathfrak{m}_x\mathcal{F}_x=0$ は同値である。よって $\operatorname{Supp}\mathcal{F}=\{d_{\mathcal{F}}\ge1\}$ であり、1 により解析的集合である。$\square$

台が解析的集合であることは GR79 第 A 章 §3.5(p. 18)にも述べられている。

局所自由性の判定

$X$ を複素多様体、$\mathcal{F}$ を連接解析層、$x\in X$ とする。次は同値である。

  1. $x$ の開近傍 $V$ と整数 $e$ があって $\mathcal{F}|_V\cong\mathcal{O}_V^{\oplus e}$ である。
  2. $d_{\mathcal{F}}$ は $x$ のある開近傍の上で定数である。
    とくに、$\mathcal{F}$ が局所自由であることと $d_{\mathcal{F}}$ が局所定数であることは同値である。
行列の基本変形

1 ならば $V$ 上で $d_{\mathcal{F}}=e$ である。逆を示す。prf-cas-support-rank と同じく、$x$ の開近傍 $V$ 上で $\mathcal{F}|_V=\operatorname{coker}\varphi$($\varphi$ は正則関数を成分とする $p\times q$ 行列)とし、$V$ 上で $d_{\mathcal{F}}$ が定数、すなわち $\operatorname{rank}\varphi(y)=r$($y\in V$)であるとする。
$r=0$ なら、$\varphi$ の成分は $V$ の各点で値 $0$ をとる正則関数なので $0$ であり、$\mathcal{F}|_V\cong\mathcal{O}_V^{\oplus p}$ である。$r\ge1$ とする。行と列の順序を入れ替えて($\mathcal{O}^{\oplus p}$、$\mathcal{O}^{\oplus q}$ の自己同型で余核は変わらない)、左上の $r\times r$ 小行列 $B$ について $\det B(x)\neq0$ としてよい。$V$ を縮めて $\det B$ が $V$ 上で $0$ にならないようにすると、$B^{-1}$ は正則関数を成分とする。$\varphi=\begin{pmatrix}B&C\\D&E\end{pmatrix}$ と区切り、
$$ L:=\begin{pmatrix}I_r&0\\-DB^{-1}&I_{p-r}\end{pmatrix},\qquad R:=\begin{pmatrix}B^{-1}&-B^{-1}C\\0&I_{q-r}\end{pmatrix} $$
とおくと、$L,R$ は $V$ 上で可逆な正則関数の行列であり、
$$ L\varphi R=\begin{pmatrix}I_r&0\\0&\psi\end{pmatrix},\qquad\psi:=E-DB^{-1}C $$
である。$L$ は $\mathcal{O}_V^{\oplus p}$ の自己同型として $\operatorname{im}\varphi=\operatorname{im}(\varphi R)$ を $\operatorname{im}(L\varphi R)$ に移すので、$\operatorname{coker}\varphi\cong\operatorname{coker}(L\varphi R)$ である。各点 $y\in V$ で $\operatorname{rank}\varphi(y)=r+\operatorname{rank}\psi(y)$ なので $\psi(y)=0$ である。$\psi$ の成分は $V$ の各点で値 $0$ をとる正則関数なので $\psi=0$ であり、$\mathcal{F}|_V\cong\operatorname{coker}\begin{pmatrix}I_r&0\\0&0\end{pmatrix}\cong\mathcal{O}_V^{\oplus(p-r)}$ である。$\square$

証明で使った複素多様体の性質は「各点で値が $0$ の正則関数は $0$ である」ことだけである。被約な複素空間では構造層が連続関数の層の部分層なので(GR79 第 A 章 §3.7、p. 20)同じ証明が通る。被約でない複素空間では結論が崩れる(ex-cas-counterexamples の 3 行目)。

例

連接解析層の例

$X$ を複素多様体とする。

  1. 正則ベクトル束の切断の層:階数 $r$ の正則ベクトル束 $E$ の正則切断の芽の層は、局所的に $\mathcal{O}^{\oplus r}$ と同型なので連接である。正則 $p$ 形式の層 $\Omega^p_X$ はその例である(Hör90 p. 183)。
  2. 超曲面の構造層:正則関数 $f\in\mathcal{O}(X)$ について $\mathcal{O}_X/f\mathcal{O}_X$ は $f\colon\mathcal{O}_X\to\mathcal{O}_X$ の余核なので連接であり、台は零点集合 $\{f=0\}$ である。
  3. 摩天楼層:点 $a\in X$ について、$a$ で消える関数の芽のイデアル層 $\mathfrak{m}_a$ は、$\mathbb{C}^n$ の座標近傍で座標関数 $z_1-a_1,\dots,z_n-a_n$ が生成する($a$ 以外の点では単位元を含む)ので有限型であり、prop-cas-basic の 1 により連接である。商 $\mathcal{O}_X/\mathfrak{m}_a$ は、茎が $a$ で $\mathbb{C}$、ほかで $0$ の連接解析層である。そのファイバーの次元は $a$ で $1$、ほかで $0$ であり、thm-cas-support-rank の上半連続性と整合する。
2 つの座標関数の関係の層

$X=\mathbb{C}^2$、$z_1,z_2$ を座標とする。関係の層 $\mathcal{R}(z_1,z_2)=\{(a,b)\mid az_1+bz_2=0\}\subset\mathcal{O}^{\oplus2}$ は、大域切断 $(z_2,-z_1)$ 1 つで生成される。
実際、$(z_2,-z_1)$ が関係であることは明らかである。逆に点 $y$ で $a_y z_1+b_y z_2=0$ とする(芽の等式)。$z_1(y)\neq0$ なら $z_1$ は $y$ で単元なので $(a,b)=c\,(z_2,-z_1)$、$c:=-b/z_1$ と書ける。$z_2(y)\neq0$ の場合も同様である。$y=0$ の場合、$b$ の代表を原点の近くの多重円板で考え、
$$ b(z_1,z_2)=b(0,z_2)+z_1b_1(z_1,z_2),\qquad b_1(z_1,z_2):=\int_0^1\frac{\partial b}{\partial z_1}(tz_1,z_2)\,dt $$
と書く($b_1$ は正則)。$az_1+bz_2=0$ に $z_1=0$ を代入すると $b(0,z_2)z_2=0$ なので、$1$ 変数の正則関数として $b(0,z_2)=0$ であり、$b=z_1b_1$ である。すると $z_1(a+b_1z_2)=0$ であり、原点での正則関数の芽の環は整域(一致の定理)なので $a=-b_1z_2$ である。よって $(a,b)=-b_1\,(z_2,-z_1)$ である。これは prop-cas-basic の 1 と岡の連接定理の内容を、最も簡単な場合に直接確かめたものである。

反例

外す条件反例成り立たなくなること
部分層が有限型であること$X=\mathbb{C}$、開円板 $\omega$ の上で $\mathcal{O}$、外で $0$ となる部分層 $\mathcal{J}\subset\mathcal{O}_X$$\mathcal{J}$ は連接でない(prop-cas-basic の 1)
商の関係の層が有限型であること同じ $\mathcal{J}$ による商 $\mathcal{O}_X/\mathcal{J}$有限型だが連接でない(def-coherent-analytic-sheaf)
被約性1 点の複素空間 $X=(\{0\},\mathbb{C}[\varepsilon]/(\varepsilon^2))$、$\mathcal{F}=\mathcal{O}_X/(\varepsilon)$$d_{\mathcal{F}}$ は定数だが局所自由でない(thm-cas-locally-free)
閉集合が解析的集合であること$X=\mathbb{C}$、$Z=\{0\}\cup\{1/n\mid n\ge1\}$ の消滅イデアル層 $\mathcal{I}_Z$$\mathcal{I}_Z$ は連接でない
反例の確かめ

1 行目:$\omega=\{|z|<1\}$ とし、開集合 $W$ 上の切断を、$W\setminus\omega$ の各点の近くで恒等的に $0$ になる $W$ 上の正則関数とする(条件は局所的なので層であり、$\mathcal{O}_X$ の部分加群の層である)。茎は $\omega$ の点で $\mathcal{O}_z$、それ以外で $0$ である(Hör90 p. 183 の例)。台 $\omega$ は閉集合でないので、有限型の層の台は閉という性質(連接層 の命題「台と茎」の 1)により $\mathcal{J}$ は有限型でない。よって連接でない。$\mathcal{O}_X$ は連接で、外した条件は部分層の有限型性だけである。
2 行目:$\mathcal{Q}:=\mathcal{O}_X/\mathcal{J}$ は切断 $1$ の像で生成されるので有限型である。その切断 $\bar1$ の関係の層は $\{a\mid a\cdot\bar1=0\}=\mathcal{J}$ であり、1 行目により有限型でない。よって $\mathcal{Q}$ は連接でない。
3 行目:$\mathcal{O}_X=\mathbb{C}[\varepsilon]/(\varepsilon^2)$ は 1 点の上の 2 次元の局所環で、$\mathcal{F}=\mathbb{C}$ である。点は 1 つなので $d_{\mathcal{F}}$ は定数 $1$ だが、$\mathcal{F}$ は $\varepsilon$ で消されるので自由加群でない。表示 $\mathcal{O}_X\xrightarrow{\varepsilon}\mathcal{O}_X\to\mathcal{F}\to0$ の行列 $(\varepsilon)$ は値が $0$ なのに $0$ でなく、prf-cas-locally-free の「値が $0$ の関数は $0$」が成り立たない。$X$ は複素空間で $\mathcal{F}$ は連接であり、外した条件は被約性だけである。
4 行目:$\mathcal{I}_Z$ の点 $y$ での茎は、$y$ の近くで $Z$ の上で消える正則関数の芽である。原点では、$1/n\to0$ と一致の定理により芽は $0$ である。$y\notin Z$ では $\mathcal{I}_{Z,y}=\mathcal{O}_y\neq0$ であり、$y=1/n$ では $z-1/n$ の芽を含むので $0$ でない。よって $\operatorname{Supp}\mathcal{I}_Z=\mathbb{C}\setminus\{0\}$ は閉集合でなく、$\mathcal{I}_Z$ は有限型でない。$Z$ は閉集合だが、原点のどの近傍でも有限個の正則関数の共通零点にならない(そうなら一致の定理によりそれらは原点の近くで恒等的に $0$ になり、零点集合は近傍全体になる)ので、解析的集合でない。

$Z$ が解析的集合なら、その消滅イデアル層は連接である(Cartan の連接定理。$\mathbb{C}^n$ の開集合の中の解析的集合について Hör90 Theorem 6.5.2(p. 168)、複素空間については GR79 第 A 章 §3.5(p. 18)。この記事では証明しない)。4 行目は、この定理の仮定「解析的集合」が外せないことを示している。可微分多様体の $C^\infty$ 関数の層が連接でないことは 連接層 の注意「解析空間と可微分多様体」で示されている。

補足

  • 大域的な定理:Stein 空間の上の連接解析層 $\mathcal{F}$ は大域切断で茎が生成され、正の次数のコホモロジーが消える(Stein空間 の定理「Cartan の定理 A・B」。Stein 多様体の場合は Cartanの定理A・B)。コンパクトな複素空間の上の連接解析層のコホモロジー $H^q(X,\mathcal{F})$ はすべて有限次元である(Cartan–Serre の有限性定理、GR79 第 VI 章冒頭、p. 186。この記事では証明しない)。これらのコホモロジーは Stein 開被覆による Čech 複体で計算できる(Lerayの定理(非輪状被覆))。
  • 代数的な連接層との関係:$\mathbb{C}$ 上の射影スキームの上では、連接層の解析化が連接解析層の圏の同値を与え、コホモロジーも一致する(GAGA)。射影空間の上では、代数的な側の Serreの消滅定理 がそのまま連接解析層についての消滅定理になる。

関連項目

参考文献

[1]
Lars Hörmander, An Introduction to Complex Analysis in Several Variables, North-Holland, 1990, Theorem 6.4.1(p. 165)、Theorem 6.5.2(p. 168)、Definition 7.1.4・Theorem 7.1.5–7.1.7 と例(p. 183)
[2]
Hans Grauert, Reinhold Remmert, Theory of Stein Spaces, Springer, 1979, 第 A 章 §2(pp. 10–14、連接層と three lemma)、§3.2–3.3(p. 16、構造層の連接性)、§3.5(p. 18、台と消滅イデアル層)、§3.7(p. 20、被約化)、第 VI 章冒頭(p. 186、有限性定理)

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