Euler類(Euler class)とは、向き付けられた階数 $n$ の実ベクトル束 $E\to B$ の Thom 類を零切断に制限して得られる整係数のコホモロジー類 $e(E)\in H^n(B;\mathbb Z)$ である。引き戻しと両立し、向きを逆にすると符号が変わり、階数が奇数なら $2e(E)=0$、どこでも $0$ にならない切断があれば $e(E)=0$ である。底空間が向き付けられた $n$ 次元の閉多様体なら、零点が有限個の切断について、零点の指数の和は Euler 数 $\langle e(E),[B]\rangle$ に等しい。接束では Euler 数が Euler 標数に等しいので、ベクトル場の零点の指数の和が Euler 標数になるという Hopf の指数定理が得られる。
Euler 類(Euler class)とは、向き付けられた階数 $n$ の実ベクトル束 $\pi\colon E\to B$ に対して、Thom 類 $u\in H^n(E,E_0;\mathbb Z)$($E_0$ は零でないベクトル全体)を零切断に制限して得られる整係数のコホモロジー類
$$
e(E)\in H^n(B;\mathbb Z)
$$
である。$B$ が向き付けられた $n$ 次元の閉多様体なら、基本類との対 $e[E]:=\langle e(E),[B]\rangle\in\mathbb Z$ を $E$ の Euler 数という。
Euler 類は「零にならない切断を作ることへの障害」である。零にならない切断があれば $e(E)=0$ であり、切断の零点が孤立していれば、その零点での指数(切断が零点のまわりで何回まわるか)の和が Euler 数に等しい。接束 $TM$ の切断はベクトル場であり、$\langle e(TM),[M]\rangle$ は Euler 標数 $\chi(M)$ に等しいので、ベクトル場の零点の指数の和は $\chi(M)$ になる。これが Hopf の指数定理(Poincaré–Hopf の定理)であり、「Euler 類」という名前の由来でもある(Hat17 p. 93、MS74 p. 98)。
この記事では特異コホモロジーで Euler 類を定義し、自然性・向きの反転による符号の変化・奇数階数での $2e=0$・零にならない切断があれば $0$ になることを証明する。主定理として「零点の指数の和は Euler 数に等しい」ことを Thom 類の局所的な計算から完全に証明し、球面の接束の Euler 数 $1+(-1)^n$ を高さ関数の勾配ベクトル場から求める。
以下、コホモロジーは特異コホモロジーで、係数を書かなければ $\mathbb Z$ である。底空間 $B$ はパラコンパクトとする。ベクトル空間 $V$($\dim V=n\ge1$)の向きは、行列式が正の基底変換で移り合う順序付き基底の類である。向きは $H_n(V,V_0)\cong\mathbb Z$($V_0=V\setminus\{0\}$)の生成元 $\mu_V$ を定め、$\langle u_V,\mu_V\rangle=1$ となる生成元 $u_V\in H^n(V,V_0)$ も定まる(MS74 §9、p. 96)。
階数 $n$ の実ベクトル束 $\pi\colon E\to B$ の向きとは、各ファイバー $E_b$ に向きを与える規則で、各点の近くに、各ファイバーの上で向きを保つ局所自明化 $\pi^{-1}(U)\cong U\times\mathbb R^n$($\mathbb R^n$ には標準の向き)があるものをいう。向きを 1 つ選んだ束を向き付けられた束という。
$E\to B$ を向き付けられた階数 $n$ の実ベクトル束とし、$E_0\subset E$ を零でないベクトルの全体とする。$H^n(E,E_0)$ には、どのファイバー $E_b$ への制限も $u_{E_b}\in H^n(E_b,(E_b)_0)$ になる類 $u$ がただ 1 つある。$u$ を $E$ の Thom 類という。
Thom 類は $B$ のコホモロジー類ではなく、対 $(E,E_0)$ の相対コホモロジー類である。向きが指定されて初めて、各ファイバーで基準になる生成元 $u_{E_b}$ が決まる。向きを逆にすると $u_{E_b}$ の符号が変わるので、Thom 類も符号が変わる。$B$ のコホモロジー類は、あとで零切断で引き戻して得る。
この定理はこの記事では証明しない(MS74 Theorem 9.1、p. 97、証明は §10。Hat02 Theorem 4D.10、p. 442)。de Rham コホモロジーでの対応する定理と Thom 同型は Thom同型 の記事で証明している。
向き付けられた階数 $n$ の実ベクトル束 $E\to B$ の Thom 類 $u$ を $H^n(E)$ に移した類を $u|_E$ と書き、零切断 $s_0\colon B\to E$ で引き戻した
$$
e(E):=s_0^*(u|_E)\in H^n(B)
$$
を $E$ の Euler 類という。$\pi^*\colon H^n(B)\to H^n(E)$ は同型($\pi$ はホモトピー同値)で $s_0^*$ はその逆なので、$e(E)$ は $\pi^*e(E)=u|_E$ となる唯一の類でもある。$B$ が向き付けられた $n$ 次元の閉多様体で基本類を $[B]\in H_n(B)$ とするとき、整数 $e[E]:=\langle e(E),[B]\rangle$ を $E$ の Euler 数という。
MS74 §9(p. 98)は $e(E)$ を $\pi^*$ による同一視で、Hat17 §3.2(p. 88)は零切断への制限で定義しており、両者は上の注意により一致する。$\pi\circ s=\mathrm{id}_B$ となる切断 $s$ ならどれでも $s^*\pi^*=\mathrm{id}$ なので、次が成り立つ。
$$
e(E)=s^*(u|_E)\qquad(s\text{ は }E\text{ の任意の切断}).
$$
この式が以下の議論の出発点である。
$E\to B$ を向き付けられた階数 $n$ の実ベクトル束とする。
要点:どれも Thom 類の一意性から従う。束写像で引き戻した類、$-u$、ファイバーの $-1$ 倍で引き戻した類は、どれもファイバーへの制限が生成元(またはその符号を変えたもの)なので、それぞれ引き戻し束の Thom 類、逆向きの Thom 類、$(-1)^nu$ である。4 は $E_0$ の上で $u|_E$ が $0$ になることによる。
1.$f^*E=\{(b',v)\in B'\times E\mid f(b')=\pi(v)\}$ とし、$\tilde f(b',v)=v$ とおくと、$\tilde f$ は各ファイバーを向きを保って線型同型に写し、対の写像 $(f^*E,(f^*E)_0)\to(E,E_0)$ を与える。よって $\tilde f^*u$ のファイバー $(f^*E)_{b'}$ への制限は $u_{E_{f(b')}}$ を線型同型で引き戻したもの、すなわち $u_{(f^*E)_{b'}}$ であり、thm-eu-thom-class の一意性から $\tilde f^*u$ は $f^*E$ の Thom 類である。零切断について $\tilde f\circ s_0'=s_0\circ f$ なので、$e(f^*E)=s_0'^*\tilde f^*(u|_E)=f^*s_0^*(u|_E)=f^*e(E)$ である。自明束 $B\times\mathbb R^n$ は 1 点上の束の引き戻しで、1 点の $H^n$($n\ge1$)は $0$ だから、その Euler 類は $0$ である。
2.ファイバー $V$ の向きを逆にすると $\mu_V$ も $u_V$ も符号が変わる。$-u$ はどのファイバーへの制限も $\bar E$ の向きでの生成元 $-u_{E_b}$ なので、一意性から $\bar E$ の Thom 類は $-u$ であり、零切断で引き戻せば $e(\bar E)=-e(E)$ である。
3.$A\colon E\to E$、$v\mapsto-v$ とする。$A$ は各ファイバーの上で $-\mathrm{id}$ であり、$-\mathrm{id}\colon(\mathbb R^n,\mathbb R^n_0)\to(\mathbb R^n,\mathbb R^n_0)$ が $H^n$ に引き起こす写像は $(-1)^n$ 倍である(対の完全列の連結準同型による同型 $H^n(\mathbb R^n,\mathbb R^n_0)\cong\tilde H^{n-1}(\mathbb R^n_0)\cong\tilde H^{n-1}(S^{n-1})$(被約コホモロジー) は $-\mathrm{id}$ と可換で、$S^{n-1}$ の対蹠写像の写像度は $(-1)^n$ である。写像度 の命題「直交変換の写像度」)。したがって $A^*u$ はどのファイバーへの制限も $(-1)^nu_{E_b}$ であり、一意性から $A^*u=(-1)^nu$ である。$A\circ s_0=s_0$ だから $e(E)=s_0^*A^*(u|_E)=(-1)^ne(E)$ となり、$n$ が奇数なら $2e(E)=0$ である。
4.$\sigma$ をどこでも $0$ にならない切断とすると、$\sigma=\iota\circ\sigma'$($\sigma'\colon B\to E_0$、$\iota\colon E_0\hookrightarrow E$)と書ける。対 $(E,E_0)$ の完全列 $H^n(E,E_0)\to H^n(E)\to H^n(E_0)$ の最初の写像は $u\mapsto u|_E$ なので $\iota^*(u|_E)=0$ である。$\pi\circ\sigma=\mathrm{id}$ だから、定義の直後の式により $e(E)=\sigma^*(u|_E)=\sigma'^*\iota^*(u|_E)=0$ である。$\square$
これらは MS74 Property 9.2〜9.4・9.7(pp. 98–101)と Hat17 Proposition 3.13 (a)(d)(e)(p. 91)にある。3 は整係数の等式 $2e=0$ であって $e=0$ ではない。$H^n(B)$ に位数 $2$ の元がなければ $e=0$ になり、実係数の de Rham コホモロジーでも $e=0$ である(Thom同型 の命題「Euler 類が消える条件」)。
直和については、$E\oplus F$ に「$E$ の向き付けられた基底に $F$ の向き付けられた基底を続ける」向きを入れると
$$
e(E\oplus F)=e(E)\,e(F)
$$
が成り立つ(MS74 Property 9.6、p. 100。Hat17 Proposition 3.13 (b)、p. 91。この記事では証明しない)。4 は、$E$ が自明な直線束 $\varepsilon$ を直和因子にもてば $e(E)=e(E')\,e(\varepsilon)=0$ という形でも読める。
Euler 類は、向きを使う整係数の類であることが特徴で、ほかの特性類とは次のように結びつく(いずれもこの記事では証明しない)。
| 関係 | 式 | 所在 |
|---|---|---|
| $\bmod 2$ 還元 | $e(E)\bmod 2=w_n(E)$(Stiefel–Whitney類) | MS74 Property 9.5、p. 99 |
| 複素ベクトル束 | 階数 $r$ の複素束 $W$ の実化(複素構造が定める向き)について $e(W_{\mathbb R})=c_r(W)$(Chern類) | MS74 §14 の定義、p. 158。Hat17 Proposition 3.13 (c)、p. 91 |
| Pontryagin 類 | 階数 $2k$ の向き付けられた束について $p_k(E)=e(E)^2$(Pontryagin類) | MS74 Corollary 15.8、p. 179 |
| 障害類 | CW 複体上では、零にならない切断を $n$ 次元骨格の上に作ることへの障害類 $o_n(E)$ に等しい | MS74 Theorem 12.5、p. 147 |
Euler 類は Stiefel–Whitney 類や Pontryagin 類と違い、自明束との直和で変わる(反例の節の 4 行目)。
この節では $M$ を向き付けられた $n$ 次元の閉多様体、$E\to M$ を向き付けられた階数 $n$ の実ベクトル束とする。$M$ の点 $x$ の局所向きを $\mu_x\in H_n(M,M\setminus\{x\})\cong\mathbb Z$ と書く。基本類 $[M]$ は、どの $x$ でも $H_n(M)\to H_n(M,M\setminus\{x\})$ で $\mu_x$ に写る類である(Hat02 Theorem 3.26、p. 236。MS74 Theorem A.8、p. 273)。
$s$ を $E$ の連続な切断、$x\in M$ を $s$ の孤立零点とする。$x$ のまわりの向きを保つ座標 $\varphi\colon U\to\mathbb R^n$($\varphi(x)=0$)と、向きを保つ自明化 $E|_U\cong U\times\mathbb R^n$ をとり、$s$ を関数 $f\colon U\to\mathbb R^n$($s(y)=(y,f(y))$)で表す。$\varepsilon>0$ を、閉球 $\bar D_\varepsilon\subset\varphi(U)$ の中に $s$ の零点が $x$ しかないように小さくとり、
$$
g\colon S^{n-1}\to S^{n-1},\qquad g(v):=\frac{f(\varphi^{-1}(\varepsilon v))}{|f(\varphi^{-1}(\varepsilon v))|}
$$
の写像度(写像度)を、$s$ の $x$ における指数といい、$\operatorname{ind}_x(s)$ と書く。
$\varepsilon$ を $0< \varepsilon'< \varepsilon$ に取り替えても、半径を動かす写像はホモトピーを与えるので写像度は変わらない。座標と自明化の選び方によらないことは、次の定理の証明の中で $\operatorname{ind}_x(s)$ を選び方によらない量で表して示す。
$M$ を向き付けられた $n$ 次元の閉多様体、$E\to M$ を向き付けられた階数 $n$ の実ベクトル束、$s$ を零点が有限個 $x_1,\dots,x_k$ だけの切断とする。このとき各 $\operatorname{ind}_{x_i}(s)$ は座標と自明化の選び方によらず、
$$
\langle e(E),[M]\rangle=\sum_{i=1}^k\operatorname{ind}_{x_i}(s)
$$
が成り立つ。とくに Euler 数が $0$ でなければ、$E$ のどの切断も零点をもつ。
$Z:=\{x_1,\dots,x_k\}$ とする。互いに交わらない開集合 $U_i\ni x_i$ を、向きを保つ座標で開球に写り、その上で $E$ が自明になるようにとる。
第 1 段:$e(E)$ を相対類から得る.$s$ は $M\setminus Z$ を $E_0$ に写すので、対の写像 $s\colon(M,M\setminus Z)\to(E,E_0)$ を与え、$s^*u\in H^n(M,M\setminus Z)$ が定まる。包含 $j\colon(M,\emptyset)\to(M,M\setminus Z)$ について $j^*s^*u=s^*(u|_E)$ であり、定義の直後の式によりこれは $e(E)$ である。よって
$$
\langle e(E),[M]\rangle=\langle j^*s^*u,[M]\rangle=\langle s^*u,j_*[M]\rangle .
$$
第 2 段:切除で零点ごとに分ける.$C:=M\setminus\bigcup_iU_i$ は閉集合で、開集合 $M\setminus Z$ に含まれる。切除により、包含 $\iota\colon\bigsqcup_i(U_i,U_i\setminus\{x_i\})\to(M,M\setminus Z)$ は同型
$$
\bigoplus_{i=1}^kH_n(U_i,U_i\setminus\{x_i\})\xrightarrow{\ \cong\ }H_n(M,M\setminus Z)
$$
を引き起こす。$H_n(M,M\setminus Z)\to H_n(M,M\setminus\{x_i\})$ を合成すると、$l\ne i$ の成分は $U_l\subset M\setminus\{x_i\}$ なので $H_n(U_l,U_l)=0$ を経由して $0$ になり、$i$ の成分は切除による同型 $H_n(U_i,U_i\setminus\{x_i\})\cong H_n(M,M\setminus\{x_i\})$ になる。$j_*[M]$ はこの合成で $\mu_{x_i}$ に写るので、$j_*[M]=\iota_*\bigl(\sum_i\mu^{U_i}_{x_i}\bigr)$ である。ここで $\mu^{U_i}_{x_i}\in H_n(U_i,U_i\setminus\{x_i\})$ は $\mu_{x_i}$ に対応する局所向きである。したがって
$$
\langle s^*u,j_*[M]\rangle=\sum_{i=1}^k\bigl\langle(s|_{U_i})^*u,\ \mu^{U_i}_{x_i}\bigr\rangle .
$$
右辺の各項は、$x_i$ の近くでの $s$ と $u$ だけで決まり、座標や自明化を使っていない。
第 3 段:自明化の上での計算.$U=U_i$、$x=x_i$ とし、向きを保つ自明化 $h\colon U\times\mathbb R^n\cong E|_U$ で $s$ を $f\colon U\to\mathbb R^n$ で表す。$U$ は可縮なので、1 本のファイバーへの制限 $H^n(U\times\mathbb R^n,U\times\mathbb R^n_0)\to H^n(\{x\}\times\mathbb R^n,\{x\}\times\mathbb R^n_0)$ は同型である(対 $U\times(\mathbb R^n,\mathbb R^n_0)$ は $\{x\}\times(\mathbb R^n,\mathbb R^n_0)$ に変形収縮する)。$h^*u$ と $\mathrm{pr}_2^*\nu$($\nu:=u_{\mathbb R^n}$ は標準の向きの生成元)はどちらもファイバーへの制限が $\nu$ なので、$h^*u=\mathrm{pr}_2^*\nu$ である。$s|_U=h\circ(\mathrm{id},f)$ で $\mathrm{pr}_2\circ(\mathrm{id},f)=f$ だから、
$$
\bigl\langle(s|_U)^*u,\ \mu^U_x\bigr\rangle=\langle f^*\nu,\mu^U_x\rangle=\langle\nu,f_*\mu^U_x\rangle ,
$$
ここで $f\colon(U,U\setminus\{x\})\to(\mathbb R^n,\mathbb R^n_0)$ である。
第 4 段:写像度との一致.座標 $\varphi$ で $U$ を $\mathbb R^n$ の開球と同一視し、$x=0$ とする。$D:=\bar D_\varepsilon$ とすると、切除とホモトピー同値により
$$
H_n(U,U\setminus\{0\})\cong H_n(D,D\setminus\{0\})\xrightarrow[\cong]{\ \partial\ }H_{n-1}(D\setminus\{0\})\cong H_{n-1}(S_\varepsilon),
$$
$$
H_n(\mathbb R^n,\mathbb R^n_0)\xrightarrow[\cong]{\ \partial\ }H_{n-1}(\mathbb R^n_0)\xrightarrow[\cong]{\ r_*\ }H_{n-1}(S^{n-1})\qquad(r(y)=y/|y|)
$$
である($H_{n-1}$ は被約ホモロジー $\tilde H_{n-1}$ で読む。$n=1$ でも $\partial$ が同型になるためで、$n\ge2$ では通常のものと同じ。$S_\varepsilon$ は半径 $\varepsilon$ の球面で、$D\setminus\{0\}$ と $\mathbb R^n_0$ はそれぞれ $S_\varepsilon$ と $S^{n-1}$ に変形収縮する)。$f$ は $(D,D\setminus\{0\})\to(\mathbb R^n,\mathbb R^n_0)$ を与え、連結準同型 $\partial$ は対の写像と可換なので、2 つの行の同型のもとで $f_*$ は $r\circ f|_{S_\varepsilon}\colon S_\varepsilon\to S^{n-1}$ の誘導する写像に対応する。$S_\varepsilon$ を $v\mapsto\varepsilon v$ で $S^{n-1}$ と同一視すれば、これは def-eu-index の $g$ である。恒等写像 $\mathrm{id}\colon(D,D\setminus\{0\})\to(\mathbb R^n,\mathbb R^n_0)$ は(座標が向きを保つので)$\mu^U_0$ を $\mathbb R^n$ の標準の向きの生成元 $\mu_{\mathbb R^n}$ に写し、そのとき $g$ は恒等写像である。よって 2 つの行の同型は $\mu^U_0\mapsto\mu_{\mathbb R^n}$ と同じ生成元どうしを対応させ、$f_*\mu^U_0=(\deg g)\,\mu_{\mathbb R^n}$ となる。$\langle\nu,\mu_{\mathbb R^n}\rangle=1$ なので
$$
\langle\nu,f_*\mu^U_x\rangle=\deg g=\operatorname{ind}_x(s)
$$
である。
$x_i\in U'\subset U_i$ となる開集合 $U'$ について、包含 $(U',U'\setminus\{x_i\})\to(U_i,U_i\setminus\{x_i\})$ は切除により局所向きどうしを対応させる同型なので、量 $\langle(s|_{U_i})^*u,\mu^{U_i}_{x_i}\rangle$ は $U_i$ の取り方によらない。def-eu-index の座標 $\varphi$ と自明化が与えられたら、$U_i:=\varphi^{-1}(D_\varepsilon)$(開球。$\bar D_\varepsilon$ の中の零点は $x_i$ だけ)とすれば、第 3・4 段がその座標と自明化で使える。したがって $\operatorname{ind}_{x_i}(s)$ はこの量に等しく、座標と自明化の選び方によらない。第 1・2 段とあわせて $\langle e(E),[M]\rangle=\sum_i\operatorname{ind}_{x_i}(s)$ を得る。零点のない切断なら右辺は空の和 $0$ である。$\square$
$M$ の向きを逆にすると $[M]$ と各 $\mu_x$ の符号が変わり、$E$ の向きを逆にすると $u$ の符号が変わる。どちらの場合も定理の両辺は同じように符号を変える。de Rham コホモロジーでは、BT82 Theorem 11.16(p. 124。球面束の形)と Theorem 11.17(p. 125)が同じ定理を、球面束の大域的な角形式と Stokes の定理で示している。
接束 $E=TM$ の場合は、座標 $\varphi$ の微分が与える自明化 $TU\cong U\times\mathbb R^n$ を使えば、$M$ の向きから定まる $TM$ の向きについて向きを保つ。このとき $s$ はベクトル場 $v$ であり、$f$ は座標で書いたベクトル場 $d\varphi(v)$ である。def-eu-index の指数は、Mil97(p. 32)がベクトル場の零点について定めた指数と同じものである。$\varphi$ を向きを逆にする座標に取り替えると、局所的なベクトル場は鏡映 $\rho$ で $\rho\circ f\circ\rho^{-1}$ に変わり、写像度は $\deg\rho\cdot\deg g\cdot\deg\rho=\deg g$ で変わらない(Mil97 p. 33 の Lemma 1 と同じ議論)。ベクトル場の指数は多様体の向きを使わずに定まる。
$M$ を向き付けられた $C^\infty$ 級の閉多様体とし、$TM$ に $M$ の向きから定まる向きを入れる。このとき
$$
\langle e(TM),[M]\rangle=\chi(M)
$$
である。ここで $\chi(M)=\sum_i(-1)^i\operatorname{rank}H_i(M)$ は Euler 標数(Euler標数)である。
左辺は接束の位相的な不変量で、右辺は $M$ の位相だけで決まる整数である。$\chi(M)\neq0$ ならこの Euler 数は $0$ でなく、たとえば偶数次元球面 $S^{2k}$($\chi=2$)の接束は自明でない。反対に、奇数次元の閉多様体では $\chi(M)=0$ である。
この定理はこの記事では証明しない。MS74 Corollary 11.12(p. 130)は、対角線 $\Delta\subset M\times M$ の法束が $TM$ と同型であることと、対角線の Poincaré 双対の類を $H^*(M)$ の双対基底で書く公式(同 Theorem 11.11、p. 128)から示している。de Rham コホモロジーでは BT82 Proposition 11.24(p. 128)が同じ議論をしている。thm-eu-index-sum と組み合わせると次が得られる。
$M$ を向き付けられた $C^\infty$ 級の閉多様体、$v$ を零点が有限個の連続なベクトル場とする。$v$ の零点の指数の和は $\chi(M)$ に等しい。とくに指数の和はベクトル場の選び方によらず、$\chi(M)\ne0$ ならどのベクトル場も零点をもつ。
thm-eu-index-sum を $E=TM$ に使うと、指数の和は $\langle e(TM),[M]\rangle$ に等しく、thm-eu-tangent-chi によりこれは $\chi(M)$ である。$\square$
これは Poincaré(2 次元)と Hopf(一般次元)による Poincaré–Hopfの定理 の、向き付けられた場合である(BT82 Theorem 11.25、p. 129 も同じ組み合わせで導いている)。Mil97(p. 35)は向きを仮定せず、境界で外を向くベクトル場をもつ境界付きの多様体まで含めて同じ結論を述べ、Gauss 写像の写像度を経由して証明している。ベクトル場の指数が向きによらないことは前節の最後で見た。
$n\ge1$ とし、$S^n\subset\mathbb R^{n+1}$ に向きを 1 つ入れる。このとき
$$
\langle e(TS^n),[S^n]\rangle=1+(-1)^n
$$
である。とくに $n$ が偶数なら $e(TS^n)$ は $H^n(S^n)\cong\mathbb Z$ の生成元の $2$ 倍であり、$n$ が奇数なら $e(TS^n)=0$ である。
$e_{n+1}$ を第 $n+1$ 座標の単位ベクトルとし、$v(p):=e_{n+1}-p_{n+1}\,p$ とおく($e_{n+1}$ の接空間 $T_pS^n=p^\perp$ への直交射影であり、高さ関数 $p\mapsto p_{n+1}$ の勾配である)。$\langle v(p),p\rangle=p_{n+1}-p_{n+1}|p|^2=0$ なので $v$ は接ベクトル場である。$v(p)=0$ なら $e_{n+1}=p_{n+1}p$ であり、両辺の長さから $|p_{n+1}|=1$、よって零点は北極 $N=e_{n+1}$ と南極 $S=-e_{n+1}$ の 2 点だけである。
$N$ の近くでは $\varphi(p)=(p_1,\dots,p_n)$ が座標であり、$p=(y,h)$、$h=\sqrt{1-|y|^2}>0$ と書ける。このとき $v(p)=(-h\,y,\ 1-h^2)$ なので、座標で書いたベクトル場は $f(y)=d\varphi(v)=-h(y)\,y$ である。小さい球面の上で $f/|f|$ は対蹠写像 $y\mapsto-y$ に等しいから、その写像度は $(-1)^n$ である(写像度 の命題「直交変換の写像度」を $S^{n-1}$ に使う)。$S$ の近くでも同じ座標 $\varphi$ が使え、$h=-\sqrt{1-|y|^2}< 0$ なので $f(y)=-h(y)\,y=|h(y)|\,y$ となり、指数は恒等写像の写像度 $1$ である。前節の最後に述べたとおり、ベクトル場の指数は座標が向きを保つかどうかによらない。thm-eu-index-sum により
$$
\langle e(TS^n),[S^n]\rangle=\operatorname{ind}_N(v)+\operatorname{ind}_S(v)=(-1)^n+1
$$
である。$H^n(S^n)\cong\mathbb Z$ で、$\langle\,\cdot\,,[S^n]\rangle$ はこの同型を与える(普遍係数定理)ので、$n$ が偶数なら $e(TS^n)$ は生成元の $2$ 倍、奇数なら $0$ である。$\square$
これは $\chi(S^n)=1+(-1)^n$ と一致し、thm-eu-tangent-chi の特別な場合を独立に確かめている。Hat17 Proposition 3.14(p. 92)は、偶数の $n$ について同じ結論を $S^n\times S^n$ の対角線の議論で示している。偶数次元の球面にどこでも $0$ にならないベクトル場がないこと(毛玉の定理)は 写像度 の定理「毛玉の定理」で写像度だけから証明されているが、ここでは $e(TS^n)\ne0$ と prop-eu-basic の 4 からも従う。
種数 $g$ の向き付けられた閉曲面 $\Sigma_g$ では $\langle e(T\Sigma_g),[\Sigma_g]\rangle=\chi(\Sigma_g)=2-2g$ である。トーラス($g=1$)は $\mathbb R^2/\mathbb Z^2$ で、定数ベクトル場が降りてどこでも $0$ にならないベクトル場を与えるので、prop-eu-basic の 4 からも $e(T\Sigma_1)=0$ が分かる。$g\ge2$ では $\chi< 0$ なので、どのベクトル場も零点をもち、零点の指数の和は $2-2g$ になる。たとえば $\mathbb R^3$ に立てて置いた $\Sigma_g$ の高さ関数の勾配は、最高点と最低点で指数 $1$、$2g$ 個の鞍点で指数 $-1$ をもつ(高さ関数を非退化にとれば、勾配の零点は非退化で、指数は座標で書いたベクトル場の微分の行列式の符号に等しい。Mil97 Lemma 4、p. 37。極大・極小では行列式が正、鞍点では負である)。
複素 $n$ 次元の複素射影空間 $\mathbb{CP}^n$ の接束を複素ベクトル束とみると、Chern類 の例「複素射影空間の接束」により $c_n(T\mathbb{CP}^n)=(n+1)h^n$($h$ は超平面類で $\langle h^n,[\mathbb{CP}^n]\rangle=1$)である。複素束の最高次の Chern 類は実化の Euler 類なので(MS74 p. 158)、$\langle e(T\mathbb{CP}^n),[\mathbb{CP}^n]\rangle=n+1$ であり、これは $\chi(\mathbb{CP}^n)=n+1$ と一致する(MS74 p. 170 の注意もこの一致を確かめている)。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 束の向き付け | 実射影平面の接束 $T\mathbb{RP}^2$ | 整数値の Euler 数 $\langle e(E),[M]\rangle$ が定まること |
| 底空間が閉(コンパクトで境界がない) | $\mathbb R^n$ 上のベクトル場 $y\mapsto y$ と定数ベクトル場 | 零点の指数の和が切断の選び方によらないこと |
| 階数が奇数 | $TS^2$(階数 $2$) | $2e(E)=0$ |
| (Euler 類を)自明束との直和で不変な類に替えること | $TS^2$ と自明な階数 $2$ の束 | 安定同値な束の Euler 類は等しい |
1 行目.$\mathbb{RP}^2$ は向き付けできないので $T\mathbb{RP}^2$ は向き付けできず、整係数の Thom 類がない。$H_2(\mathbb{RP}^2;\mathbb Z)=0$ なので整数の基本類もない。一方、$\mathbb Z/2$ 係数では $w_2(T\mathbb{RP}^2)$ があり、$w_2[\mathbb{RP}^2]\equiv\chi(\mathbb{RP}^2)=1\pmod 2$ である(MS74 Corollary 11.12、p. 130。Stiefel–Whitney類 の記事の例)。Mil97 p. 35 の定理によれば、$\mathbb{RP}^2$ のベクトル場の零点の指数の和は $\chi(\mathbb{RP}^2)=1$ だが、これは Euler 類の値としては読めない。
2 行目.$\mathbb R^n$ 上の $v(y)=y$ は原点に指数 $1$ の零点を 1 つもち、定数ベクトル場は零点をもたない(指数の和 $0$)。$T\mathbb R^n$ は自明で $e=0$ である。コンパクトでない底空間には基本類がなく、指数の和は無限遠での切断のふるまいに左右される。境界付きの閉円板 $D^n$ でも同じ 2 つのベクトル場が同じ食い違いを示す。Mil97 p. 35 は境界で外を向くという条件を課してこれを除いている。
3 行目.ex-eu-sphere により $\langle e(TS^2),[S^2]\rangle=2$ なので $2e(TS^2)\ne0$ である。満たす性質は「向き付けられた束」、破る含意は「$2e=0$」で、prop-eu-basic の 3 の奇数階数の仮定が外せないことを示す。
4 行目.$TS^2\oplus\varepsilon^1$ は $S^2\subset\mathbb R^3$ の法束が自明なので自明である(ベクトル束 の命題「球面の接束は安定的に自明」)。よって $TS^2$ と自明束 $\varepsilon^2$ は $\varepsilon^1$ を足すと同型になるが、$e(TS^2)\ne0=e(\varepsilon^2)$ である。Stiefel–Whitney 類・Pontryagin 類は自明束との直和で変わらないので $TS^2$ と $\varepsilon^2$ を区別できないが、Euler 類は区別する。直和公式で書けば $e(TS^2\oplus\varepsilon^1)=e(TS^2)\,e(\varepsilon^1)=0$ で、$e(\varepsilon^1)=0$ が $e(TS^2)$ の情報を消している(MS74 p. 101 の注意:$e$ は可逆でないので、直和の一方の $e$ を他方から解くことはできない)。
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