横断性定理(transversality theorem)とは、写像の族 $F\colon M\times S\to N$ が部分多様体 $Z\subset N$ に横断的なら、ほとんどすべてのパラメータ $s$ で $F(\cdot,s)$ も $Z$ に横断的であるという定理である。写像 $f$ が $Z$ に横断的とは、$f(p)\in Z$ となる各点で微分の像と $Z$ の接空間が $N$ の接空間全体を張ることで、このとき逆像 $f^{-1}(Z)$ は $Z$ と同じ余次元の部分多様体になる。平行移動や管状近傍の引き込みで族を作ると、任意の滑らかな写像はホモトピーで少し動かして $Z$ に横断的にでき、「一般の位置に置く」議論の基礎になる。
前提知識: 正則値定理, Sardの定理, はめ込みと埋め込み(可微分多様体), 接空間
平面の 2 本の直線は、平行でなければ 1 点で交わり、少し動かしても 1 点で交わり続ける。一方、放物線 $y=x^2$ と $x$ 軸は原点で接していて、$x$ 軸を少し上にずらすと交点が 2 つに増え、下にずらすと交点が消える。横断性(transversality)は、前者のような「接していない交わり方」を、多様体の間の写像と部分多様体について定式化したものである。写像 $f\colon M\to N$ が部分多様体 $Z\subset N$ に横断的であるとは、$f(p)\in Z$ となるすべての点 $p$ で、微分 $df_p$ の像と $Z$ の接空間が合わせて $N$ の接空間全体を張ることをいう。
この記事の主題は 2 つの定理である。1 つ目は、横断的な写像による逆像 $f^{-1}(Z)$ が、$Z$ と同じ余次元の部分多様体になること(正則値定理の一般化)。2 つ目は横断性定理である:写像の族 $F\colon M\times S\to N$ が $Z$ に横断的なら、ほとんどすべてのパラメータ $s$ について $f_s=F(\cdot,s)$ は $Z$ に横断的である。これを Euclid 空間の平行移動や、管状近傍定理の与える引き込みと組み合わせると、任意の滑らかな写像はホモトピーで少し動かして $Z$ に横断的にできる。「一般の位置に置く」という微分位相幾何学の基本的な手法は、この定理の形で使われる。
多様体は Hausdorff かつ第 2 可算な境界のない $C^\infty$ 級多様体(可微分多様体)とし、「滑らか」は $C^\infty$ 級を意味する。部分多様体は はめ込みと埋め込み(可微分多様体)の記事の定義「部分多様体」の意味、すなわちスライス座標をもつ部分集合(埋め込まれた部分多様体)とする。$Z\subset N$ が部分多様体で $y\in Z$ のとき、包含写像 $\iota\colon Z\hookrightarrow N$ の微分は単射なので、$T_yZ$ を部分空間 $d\iota_y(T_yZ)\subset T_yN$ と同一視する。以下、$M$、$N$、$Z$ の次元をそれぞれ $m$、$n$、$k$ とし、$n-k$ を $Z$ の余次元という。
$f\colon M\to N$ を滑らかな写像、$Z\subset N$ を部分多様体とする。
定義からすぐ分かることを並べておく。
後で写像の族 $M\times S\to N$ を扱うので、積多様体(可微分多様体の記事の命題「積多様体」)の接空間の見方を決めておく。
$M$、$S$ を多様体、$\mathrm{pr}_1\colon M\times S\to M$、$\mathrm{pr}_2\colon M\times S\to S$ を射影とする。積の座標近傍 $(U\times V,\varphi\times\chi)$ では $\mathrm{pr}_1$、$\mathrm{pr}_2$ の局所表示が座標の射影なので、線形写像
$$
(d\mathrm{pr}_1,d\mathrm{pr}_2)\colon T_{(x,s)}(M\times S)\to T_xM\oplus T_sS
$$
の表現行列は単位行列であり、これは同型である。以下この同型で $T_{(x,s)}(M\times S)=T_xM\oplus T_sS$ と同一視する。$j_s(x):=(x,s)$、$i_x(s):=(x,s)$ とおくと、$\mathrm{pr}_1\circ j_s=\mathrm{id}$、$\mathrm{pr}_2\circ j_s$ は定値写像なので、連鎖律(接空間の記事の定理「連鎖律」)により $d(j_s)_x(u)=(u,0)$ である。同様に $d(i_x)_s(v)=(0,v)$ である。したがって滑らかな写像 $F\colon M\times S\to N$ と $f_s:=F\circ j_s$ について
$$
dF_{(x,s)}(u,v)=d(f_s)_x(u)+dF_{(x,s)}(0,v)
$$
が成り立つ。
横断性は、局所的には「ある写像の $0$ が正則値であること」に言い換えられる。
$f\colon M\to N$ を滑らかな写像、$Z\subset N$ を $k$ 次元の部分多様体とする。$y_0\in Z$ のまわりの $Z$ の $k$ スライス座標 $(V,\psi)$、$\psi=(y^1,\dots,y^n)$ をとり、$g:=(y^{k+1},\dots,y^n)\colon V\to\mathbb{R}^{n-k}$ とおく。このとき次が成り立つ。
要点:1 はスライス座標の定義と正則値定理の接空間の等式から従う。2 は「全射な線形写像 $A$ と部分空間 $L$ について、$A(L)$ が全体であることと $L+\ker A$ が全体であることは同値」という線形代数の事実を $A=dg_y$ に当てたものである。
1.スライス座標の定義 $\psi(V\cap Z)=\psi(V)\cap(\mathbb{R}^k\times\{0\})$ により $V\cap Z=g^{-1}(0)$ である。$g\circ\psi^{-1}$ は座標の射影 $(y^1,\dots,y^n)\mapsto(y^{k+1},\dots,y^n)$ なので、$g$ は沈め込みである。$V$ を開部分多様体とみて 正則値定理の記事の定理「正則値定理」の 2 を $g$ と値 $0$ に当てると、$g^{-1}(0)=V\cap Z$ の接空間は $\ker dg_y$ に等しい。$V\cap Z$ は $Z$ の開集合であり、部分多様体の微分構造はただ 1 つに決まる(はめ込みと埋め込み(可微分多様体)の記事の系「部分多様体の微分構造は一意」)ので、この接空間は $T_yZ$ である。
2.次の線形代数の事実を使う:(*) $A\colon W\to U$ を全射な線形写像、$K:=\ker A$、$L\subset W$ を部分空間とすると、$A(L)=U$ と $L+K=W$ は同値である。実際、$L+K=W$ なら $U=A(W)=A(L+K)=A(L)$ である。逆に $A(L)=U$ なら、任意の $w\in W$ に対し $A(w)=A(l)$ となる $l\in L$ があり、$w=l+(w-l)$、$w-l\in K$ である。
$y:=f(p)$ とし、(*) を $W:=T_yN$、$A:=dg_y$(1 により全射で、核は $T_yZ$)、$L:=df_p(T_pM)$ に当てる。$g\circ f$ は開集合 $f^{-1}(V)$ の上で定義され、連鎖律(接空間の記事の定理「連鎖律」)により $d(g\circ f)_p=dg_y\circ df_p$ である。したがって$$d(g\circ f)_p\text{ が全射}\iff dg_y(L)=\mathbb{R}^{n-k}\iff L+T_yZ=T_yN$$である。$\square$
$f\colon M\to N$ を滑らかな写像、$Z\subset N$ を $k$ 次元の部分多様体とし、$f\pitchfork Z$ とする。このとき次が成り立つ。
3 は $f$ の連続性による。1 と 2 を示す。部分多様体であることは各点のまわりのスライス座標の存在で決まる局所的な性質なので、点 $p\in f^{-1}(Z)$ の近くで示せばよい。
$y:=f(p)$ のまわりに lem-trans-local のスライス座標 $(V,\psi)$ と沈め込み $g$ をとり、開部分多様体 $M':=f^{-1}(V)$ の上で $h:=g\circ f|_{M'}\colon M'\to\mathbb{R}^{n-k}$ とおく。lem-trans-local の 1 により
$$
M'\cap f^{-1}(Z)=(f|_{M'})^{-1}(V\cap Z)=h^{-1}(0)
$$
である。$h^{-1}(0)$ の各点で $f$ は $Z$ に横断的なので、lem-trans-local の 2 により $h$ の微分はそこで全射である。つまり $0$ は $h$ の正則値である。正則値定理の記事の定理「正則値定理」により、$h^{-1}(0)$ は $M'$ の $m-(n-k)$ 次元の部分多様体である。$M'$ は $M$ の開集合なので、そのスライス座標は $M$ のスライス座標でもある。同じ定理の 2 により、$p$ での接空間は
$$
\ker dh_p=\ker(dg_y\circ df_p)=(df_p)^{-1}(\ker dg_y)=(df_p)^{-1}(T_yZ)
$$
である(最後の等号は lem-trans-local の 1)。$\square$
$Z=\{q\}$ の場合が正則値定理そのものであり、$f$ が沈め込みの場合は 正則値定理の記事の系「沈め込みの逆像」の 2 である。$m-n+k<0$ なら、1 により $f^{-1}(Z)=\emptyset$ でなければならない。これは定義の後に述べた「$m+k< n$ なら横断的とは交わらないこと」と同じである。
$X,Z\subset N$ をそれぞれ $x$ 次元、$k$ 次元の部分多様体とし、$X\pitchfork Z$ とする。このとき $X\cap Z$ は空集合であるか、$N$ の $x+k-n$ 次元の部分多様体であり、各点 $y\in X\cap Z$ で $T_y(X\cap Z)=T_yX\cap T_yZ$ である。
包含写像 $\iota\colon X\hookrightarrow N$ に thm-trans-preimage を当てると、$\iota^{-1}(Z)=X\cap Z$ は $X$ の $x-n+k$ 次元の部分多様体で、接空間は $(d\iota_y)^{-1}(T_yZ)=T_yX\cap T_yZ$ である。包含写像 $X\cap Z\hookrightarrow X$ と $X\hookrightarrow N$ はともに埋め込みであり、その合成も埋め込みである(微分は単射の合成で単射であり、部分空間の部分空間は部分空間なので像への同相写像である)。はめ込みと埋め込み(可微分多様体)の記事の定理「埋め込みの像は部分多様体」により、$X\cap Z$ は $N$ の部分多様体である。$\square$
逆像定理は Lee13 Theorem 6.30(p. 144)にあり、境界付き多様体に対して Ben19 Theorem 8.2(p. 166)が、境界のない場合の演習として Nic26 Exercise 2.1.21(p. 35)が述べている。
$\mathbb{R}^3$ の中で、$z$ 軸 $X$ と $xy$ 平面 $Z$ は原点で横断的に交わる:$T_0X+T_0Z=\mathbb{R}e_3+(\mathbb{R}e_1+\mathbb{R}e_2)=\mathbb{R}^3$ である。交わりは 1 点で、次元は cor-trans-intersection のとおり $1+2-3=0$ である。一方、$x$ 軸と $xy$ 平面は交わり($x$ 軸全体)をもつが、接空間の和は $xy$ 平面なので横断的でない。$x$ 軸と $y$ 軸も原点で交わるが横断的でない。$y$ 軸を $(0,0,c)$($c\neq0$)だけ平行移動すると、2 本の直線は交わらなくなり、横断的になる。
$S^1=\{x^2+y^2=1\}$ と $L_c=\{y=c\}$ を $\mathbb{R}^2$ の部分多様体とする。$S^1$ の点 $(x,y)$ での接空間は $(-y,x)$ で張られ、$L_c$ の接空間は $(1,0)$ で張られる。交点 $(x,c)$($x^2+c^2=1$)で 2 つのベクトルが $\mathbb{R}^2$ を張るのは $\det\begin{pmatrix}-c&1\\x&0\end{pmatrix}=-x\neq0$ のとき、すなわち $\lvert c\rvert\neq1$ のときである。したがって
$f\colon M\to M$ を滑らかな写像とし、$M\times M$ の中のグラフ $\Gamma_f:=\{(p,f(p))\}$ と対角線 $\Delta:=\{(p,p)\}$ を考える。$p\mapsto(p,f(p))$ ははめ込みで(第 1 成分の微分が恒等写像)、逆写像 $\mathrm{pr}_1$ が連続なので埋め込みであり、$\Gamma_f$ は $m$ 次元の部分多様体である。$\Delta=\Gamma_{\mathrm{id}}$ も同様である。rem-trans-product の同一視で、不動点 $p=f(p)$ において
$$
T_{(p,p)}\Gamma_f=\{(v,df_p v)\mid v\in T_pM\},\qquad T_{(p,p)}\Delta=\{(w,w)\mid w\in T_pM\}
$$
である。どちらも $2m$ 次元の空間の $m$ 次元の部分空間なので、和が全体であることは共通部分が $0$ であることと同値であり、$(v,df_pv)=(w,w)$ は $v=w$ かつ $df_pv=v$ を意味する。したがって
$$
\Gamma_f\pitchfork\Delta\text{(不動点 }p\text{ で)}\iff 1\text{ は }df_p\text{ の固有値でない}
$$
である。すべての不動点でこれが成り立てば、cor-trans-intersection により不動点の集合 $\Gamma_f\cap\Delta$ は $0$ 次元の部分多様体、すなわち離散集合であり、$M$ がコンパクトなら有限集合である。これは Lefschetz不動点公式 で不動点を数えるときの出発点である。
写像 $f$ を $Z$ に横断的にしたいとき、$f$ を含む写像の族 $f_s$ を用意し、族全体として $Z$ に横断的にしておく。族全体の横断性は、族を十分大きくとれば容易に満たせる。次の定理は、それがほとんどすべての個々の $f_s$ に伝わることを述べる。
$M$、$S$、$N$ を多様体、$Z\subset N$ を部分多様体、$F\colon M\times S\to N$ を滑らかな写像とし、$F\pitchfork Z$ とする。$s\in S$ について $f_s:=F(\cdot,s)\colon M\to N$ とおく。このとき、$f_s$ が $Z$ に横断的でないような $s$ の全体は、$S$ の測度零集合(Sardの定理の記事の定義「多様体の上の測度零集合」)である。とくに、$f_s\pitchfork Z$ となる $s$ は $S$ で稠密に存在する。
逆像と射影. $W:=F^{-1}(Z)$ とおく。$W=\emptyset$ なら、どの $s$ についても $f_s^{-1}(Z)=\emptyset$ なので $f_s\pitchfork Z$ であり、主張は正しい。$W\neq\emptyset$ とする。thm-trans-preimage により $W$ は $M\times S$ の部分多様体であり、
$$
T_{(x,s)}W=(dF_{(x,s)})^{-1}\bigl(T_{F(x,s)}Z\bigr)
$$
である。射影の制限 $\pi:=\mathrm{pr}_2|_W\colon W\to S$ は滑らかで、rem-trans-product の同一視で $d\pi_{(x,s)}$ は $(u,v)\mapsto v$ の $T_{(x,s)}W$ への制限である。
主張:$s$ が $\pi$ の正則値なら $f_s\pitchfork Z$. $x\in f_s^{-1}(Z)$ をとり、$y:=f_s(x)$ とおく。$(x,s)\in W$ である。任意の $w\in T_yN$ をとる。$F\pitchfork Z$ なので、$(u,v)\in T_xM\oplus T_sS$ と $t\in T_yZ$ で
$$
w=dF_{(x,s)}(u,v)+t
$$
となるものがある。$s$ は $\pi$ の正則値なので $d\pi_{(x,s)}$ は全射であり、$(u',v)\in T_{(x,s)}W$ となる $u'\in T_xM$ がある。$T_{(x,s)}W$ の形から $t':=dF_{(x,s)}(u',v)\in T_yZ$ である。rem-trans-product の等式を使うと
$$
w=dF_{(x,s)}(u-u',0)+dF_{(x,s)}(u',v)+t=d(f_s)_x(u-u')+(t'+t)
$$
であり、$w\in d(f_s)_x(T_xM)+T_yZ$ である。$w$ は任意なので、$f_s$ は $x$ で $Z$ に横断的である。
Sard の定理. $W$ は多様体(Hausdorff かつ第 2 可算な空間の部分空間)なので、Sardの定理の記事の系「多様体の間の写像に対するSardの定理」を $\pi$ に当てると、$\pi$ の臨界値の集合は $S$ の測度零集合で、その補集合(正則値の集合)は稠密である。主張により、$f_s$ が $Z$ に横断的でない $s$ は $\pi$ の臨界値なので、その全体は測度零集合に含まれ、測度零である。$\square$
証明の中心は、$W=F^{-1}(Z)$ から $S$ への射影の正則値を見ることにある。$s$ が正則値であることは「$W$ のファイバー方向にどの向きへも動ける」ことで、これが $F$ の横断性を $f_s$ の横断性に移す。同じ定理と証明は Lee13 Theorem 6.35(p. 145)にあり、境界付き多様体の場合は Ben19 Theorem 8.4(p. 167)、証明の中心の主張(射影の正則値なら $f_s$ は横断的)は Nic26 Exercise 2.1.22(p. 35)の演習である。
族全体を横断的にする最も簡単な方法は、終域が $\mathbb{R}^n$ なら平行移動を加えることである。
$f\colon M\to\mathbb{R}^n$ を滑らかな写像、$Z\subset\mathbb{R}^n$ を部分多様体とする。$f+a$ が $Z$ に横断的でないような $a\in\mathbb{R}^n$ の全体は測度零集合である。とくに、任意の $\varepsilon>0$ に対し、$\lvert a\rvert<\varepsilon$ で $f+a\pitchfork Z$ となる $a$ があり、$f+a$ は $(x,t)\mapsto f(x)+ta$ により $f$ にホモトピックである。
$F\colon M\times\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^n$、$F(x,a):=f(x)+a$ とおく。rem-trans-product の同一視で $dF_{(x,a)}(0,v)=v$ なので、$F$ は沈め込みであり、とくに $F\pitchfork Z$ である。thm-trans-parametric を当てればよい。測度零集合の補集合は稠密なので、原点のいくらでも近くに良い $a$ がある。$\square$
$m+k< n$ なら、横断的であることは交わらないことなので、thm-trans-euclid は「ほとんどすべての平行移動で $f(M)$ は $Z$ と交わらない」ことを言っている。$\mathbb{R}^3$ の 2 つの曲線は、一方を少し平行移動すれば交わらなくなる。
終域が一般の多様体 $N$ のときは、$N$ を $\mathbb{R}^K$ に埋め込んで平行移動し、管状近傍定理の引き込みで $N$ に戻す。引き込みが沈め込みであることが、族の横断性を保証する。
$M$、$N$ を多様体、$Z\subset N$ を部分多様体、$f\colon M\to N$ を滑らかな写像とする。このとき、$f$ にホモトピックな滑らかな写像 $g\colon M\to N$ で $g\pitchfork Z$ となるものが存在する。さらに $N$ を $\mathbb{R}^K$ の閉部分多様体とみなすと、$M$ がコンパクトなら、任意の $\varepsilon>0$ に対し $g$ を $\sup_{x\in M}\lvert g(x)-f(x)\rvert<\varepsilon$ となるようにとれる。
$N$ を Euclid 空間に置く. Whitneyの埋め込み定理の記事の定理「Whitneyの埋め込み定理」により、閉埋め込み $N\to\mathbb{R}^K$ がある。その像は閉部分多様体で、$N$ は像と微分同相である(はめ込みと埋め込み(可微分多様体)の記事の定理「埋め込みの像は部分多様体」)。微分同相写像で移しても横断性とホモトピーは変わらないので、$N\subset\mathbb{R}^K$ を閉部分多様体としてよい。
引き込み. 管状近傍定理の記事の定理「管状近傍による引き込み」により、$N$ を含む開集合 $U\subset\mathbb{R}^K$ と、$N$ の上で恒等写像となる滑らかな沈め込み $r\colon U\to N$ がある。
半径をとる. $U=\mathbb{R}^K$ なら $d:=1$、そうでなければ $d(x):=\min\{1,\ \operatorname{dist}(f(x),\mathbb{R}^K\setminus U)\}$ とおく。$d$ は $M$ 上の正の連続関数である($f(x)\in U$ で $U$ は開集合)。Whitneyの近似定理の記事の定理「Whitneyの近似定理」($A=\emptyset$)を $\tfrac12d$ と許容誤差 $\tfrac14d$ に当てると、滑らかな関数 $\eta\colon M\to\mathbb{R}$ で $\lvert\eta-\tfrac12d\rvert<\tfrac14d$、したがって $\tfrac14d<\eta<\tfrac34d$ となるものがある。
族を作る. $B\subset\mathbb{R}^K$ を原点を中心とする半径 $1$ の開球とし、
$$
F\colon M\times B\to N,\qquad F(x,a):=r\bigl(f(x)+\eta(x)a\bigr)
$$
とおく。$\lvert\eta(x)a\rvert<\eta(x)< d(x)$ なので $f(x)+\eta(x)a$ は中心 $f(x)$、半径 $d(x)$ の開球に入り、この開球は $U$ に含まれる。よって $F$ は定義されて滑らかであり、$F(x,0)=r(f(x))=f(x)$ である。
$F$ は沈め込み. $(x,a)$ を固定する。$a'\mapsto f(x)+\eta(x)a'$ の微分は $\eta(x)$ 倍写像で全単射なので、rem-trans-product と連鎖律により $dF_{(x,a)}(0,v)=dr_{f(x)+\eta(x)a}(\eta(x)v)$ である。$r$ は沈め込みなので、$v$ を動かすとこれは $T_{F(x,a)}N$ 全体を動く。よって $F$ は沈め込みで、$F\pitchfork Z$ である。
結論. thm-trans-parametric により、ほとんどすべての $a\in B$ で $f_a:=F(\cdot,a)$ は $Z$ に横断的である。そのような $a$ を 1 つとると、$H(x,t):=F(x,ta)$($0\le t\le1$)は $f$ から $f_a$ への滑らかなホモトピーである。
コンパクトな場合の近さ. $M$ がコンパクトなら、$F$ はコンパクト集合 $M\times\{\lvert a\rvert\le\tfrac12\}$ の上で一様連続なので、ある $\rho\in(0,\tfrac12)$ について $\lvert a\rvert<\rho$ なら $\sup_x\lvert F(x,a)-F(x,0)\rvert<\varepsilon$ となる。良い $a$ は稠密に存在するので、$\lvert a\rvert<\rho$ の中からとれる。$\square$
この定理は「滑らかな写像は、ホモトピーの範囲で一般の位置に置ける」ことを言う(前半は Lee13 Theorem 6.36(p. 146)で、証明の方針も同じである)。たとえば $m+k< n$ なら、どの写像 $f\colon M\to N$ も、$Z$ と交わらない写像にホモトピックである。コンパクトな $M$ については、横断的な写像の全体が写像の空間の中で開かつ稠密であることも知られている($Z$ が閉集合の場合。Hir76 Theorem 2.1 (b)(p. 74)、Ben19 Theorem 8.5 (1)(p. 168、境界付きの場合を含む))。開であること(小さく動かしても横断性が壊れないこと)はこの記事では証明しない。
| 外す条件・強める結論 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $f\pitchfork Z$ | $f(x,y)=xy$、$Z=\{0\}\subset\mathbb{R}$ | $f^{-1}(Z)$ が部分多様体 |
| $X\pitchfork Z$ | $X=Z=\{z=0\}\subset\mathbb{R}^3$ | $X\cap Z$ の次元が $\dim X+\dim Z-3$ |
| 族の横断性 $F\pitchfork Z$ | $F(x,s)=x^2$($M=S=N=\mathbb{R}$)、$Z=\{0\}$ | ほとんどすべての $s$ で $f_s\pitchfork Z$ |
| 「ほとんどすべて」を「すべて」に強める | $F(x,a)=x^2+a$、$Z=\{0\}$ | すべての $a$ で $f_a\pitchfork Z$ |
4 の族は、冒頭の「$x$ 軸を上下にずらすと放物線との交点が変わる」ことを式にしたものである。$a$ が $0$ を通り過ぎるとき、交点の個数は 2 から 0 に変わり、その瞬間だけ横断性が壊れる。
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する