Jacobi–Zariski完全列

同義語:Jacobi–Zariski sequence

概要

Jacobi–Zariski完全列(Jacobi–Zariski sequence)とは、可換環の準同型 $A\to B\to C$ と $C$ 加群 $M$ に対し、André–Quillenホモロジーの間に成り立つ自然な長完全列 $\cdots\to D_n(B/A;M)\to D_n(C/A;M)\to D_n(C/B;M)\to D_{n-1}(B/A;M)\to\cdots$ と、コホモロジー $D^n$ の対応する長完全列である。相対自由セル解像から、各次数で分裂する余接複体の短完全列を構成して得られ、$B\to C$ の平坦性やNoether性は仮定しない。次数零の端は微分加群の右完全列を延長するもので、微分加群の列の左の写像が単射でない場合の不足を $D_1(C/B;M)$ が補う。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 可換環、加群、微分加群、射影加群、完全列、余接複体

環準同型の合成 $A\to B\to C$ では、$C$ の $A$ 上の微分を、$B$ の $A$ 上の微分と $C$ の $B$ 上の微分に分けて考えられる。通常の微分加群は右完全列を与える。関係式とその上の関係まで記録する 余接複体 を用いると、その列は全次数の長完全列へ延びる。これが Jacobi–Zariski 完全列である。
本記事ではホモロジーとコホモロジーの二つの向きを分けて書く。係数は任意の $C$ 加群であり、$B\to C$ の平坦性や Noether 条件を加えない。証明の要点は、相対自由セル解像を使い、微分の項別分裂短完全列を実際に構成することである。その際、基底変更後の対象も解像となる理由を示す。

二つの完全列

$A\to B\to C$ は可換単位環の準同型、$M$ は $C$ 加群とする。$M$ を $B$ 加群として使うときは $B\to C$ に沿って係数を制限する。André–Quillenホモロジーの記号 $D_n(B/A;M)$ と $D^n(B/A;M)$ を用いる。

Jacobi–Zariski ホモロジー完全列

任意の環三角と係数 $M$ に対して自然な長完全列
$$ \cdots\to D_n(B/A;M)\to D_n(C/A;M)\to D_n(C/B;M) \xrightarrow{\partial}D_{n-1}(B/A;M)\to\cdots $$
が存在する。次数零の端は
$$ D_1(C/B;M)\to D_0(B/A;M)\to D_0(C/A;M) \to D_0(C/B;M)\to0 $$
である。

二つの定理の証明を、相対自由セル解像の構成から下でまとめて与える。

Jacobi–Zariski コホモロジー完全列

同じ環三角と係数に対して
$$ 0\to D^0(C/B;M)\to D^0(C/A;M)\to D^0(B/A;M) \to D^1(C/B;M)\to D^1(C/A;M)\to D^1(B/A;M)\to\cdots $$
が存在する。一般段の順序は
$$ D^{n-1}(B/A;M)\to D^n(C/B;M)\to D^n(C/A;M) \to D^n(B/A;M)\to D^{n+1}(C/B;M) $$
となる。

本定理も下の同じ項別分裂短完全列から証明する。

コホモロジー列をホモロジー列と同じ向きに書かない。係数の写像については両群とも順向きだが、複体から係数への Hom は環三角に関する矢印を反転する。$D^0=\operatorname{Der}$、$D^1=\operatorname{Exal}$ であるため、最初の部分は導分と平方零拡大の列としても読める(MatCA §43)。

何を証明すればよいか

$P\to B$ を $A$ 上の標準自由解像とする。$P$ に相対セルを付けて $Q\to C$ を作り、各次数に
$$ P_n=A[T_n],\qquad Q_n=P_n[U_n] $$
という表示を持たせる。必要なのは次の三点である。

  1. $Q\to C$ が $A$ 上の自由セル解像であること。
  2. $Q_B=B\otimes_PQ\to C$ が $B$ 上の自由セル解像であること。
  3. 相対微分 $\Omega_{Q/P}$ が $Q_B$ の $B$ 上の微分と、$C$ 係数で自然に一致すること。
    以下で単体加群や単体代数の写像を加法群の擬同型というときは、台加法群の正規化複体に全次数のホモロジー同型を誘導する意味である。単なる加法群準同型とは区別する。
    ここでテンソルは各単体次数の環の pushout である。二番目は形式的に自明ではない。$P\to B$ の加法群の擬同型を、相対自由セルを付けた後にも保存することを証明する必要がある。「各次数が多項式だから解像である」という推論は使わない。

相対自由セルの構成

次数 $r$ のセルは、全ての顔を与える整合境界 $b_0,\ldots,b_r$ に沿って付加する。次数 $n\ge r$ に単調全射 $\alpha:[n]\to[r]$ ごとの変数を置き、顔を取って全射が保たれれば同じセルの退化変数へ送る。頂点が一つ失われたら、その頂点に対応する指定境界の退化像へ送る。この顔規則は単体恒等式を満たす。二つの頂点が失われる場合の整合性は、指定境界が満たす二顔の等式そのものである。
まず $C$ の全元を零次セルにし、増大を全射にする。増大核の全元 $z$ に顔 $(z,0)$ の一次セルを付ける。次に全 $n$ 次 Moore サイクルに顔 $(z,0,\ldots,0)$ の $(n+1)$ 次セルを付ける。各段はそれより低い次数を変えないため、下の完全性を失わず、対象次数の全サイクルを殺す。各次数が安定する直極限で $Q\to C$ は増大完全となる。
標準 $P$ 自身も非退化生成元を次元順に付ける自由セル表示を持つ。その証明は André–Quillenホモロジーの比較構成にある。従って $P$ に相対セルを付けた $Q$ は $A$ 上でも自由セル解像となる。セルや生成元の数の有限性は要求しない。全元・全サイクルをラベルして付ければ、環三角の写像はラベルをその像へ送るので、この構成を自然に選べる。

対角テンソルと全複体

相対基底変更の完全性に必要な加法的補題を先に証明する。$X,Y$ を単体 $A$ 加群とする。対角複体は次数 $n$ が $X_n\otimes_AY_n$ である。二重複体の全複体は
$$ T_n=\bigoplus_{p+q=n}X_p\otimes_AY_q,\qquad \partial_T=\partial_X\otimes1+(-1)^p1\otimes\partial_Y $$
である。各対角の直和は有限である。ここで $X_p$ などは非正規化複体 $C(X)$ の項で、$\partial_X=\sum_i(-1)^id_i$ である。
正規化複体と非正規化複体の関係を先に確認する。単体 $A$ 加群 $Z$ について、$N_nZ=\bigcap_{i=1}^n\ker d_i$ とし、退化部分を $D_nZ=\sum_{j=0}^{n-1}s_j(Z_{n-1})$ とおく($D_0Z=0$)。以下では単体恒等式
$$ d_id_j=d_{j-1}d_i\ (i< j),\qquad d_is_j=\begin{cases}s_{j-1}d_i&(i< j)\\ \operatorname{id}&(i=j,\ j+1)\\ s_jd_{i-1}&(i>j+1)\end{cases},\qquad s_is_j=s_{j+1}s_i\ (i\le j) $$
を使う。

正規化と退化部分

$N(Z)$ と $D(Z)$ は $C(Z)$ の部分複体で、$C(Z)=N(Z)\oplus D(Z)$ であり、$D(Z)$ のホモロジーは全次数で零である。分解は $Z$ について自然である。特に単体加群の写像 $f\colon Z\to Z'$ について、$N(f)$ が擬同型であることと $C(f)$ が擬同型であることは同値である。

部分複体であること。$x\in N_nZ$ なら $\partial x=d_0x$ であり、$i\ge1$ について $d_id_0x=d_0d_{i+1}x=0$ だから $\partial x\in N_{n-1}Z$ である。$\partial s_jy=\sum_i(-1)^id_is_jy$ では、$i=j$ と $i=j+1$ の項はともに $y$ で符号が逆なので消える。$i< j$ の項は $s_{j-1}d_iy$、$i>j+1$ の項は $s_jd_{i-1}y$ で、どちらも退化部分に入る。
$N_nZ+D_nZ=Z_n$ を示す。$x\in Z_n$ について $d_ix\ne0$ となる最大の $i=k\ge1$ があれば、$x'=x-s_{k-1}d_kx$ とおく。$d_ks_{k-1}=\operatorname{id}$ より $d_kx'=0$ であり、$i>k$ では $d_is_{k-1}d_kx=s_{k-1}d_{i-1}d_kx=s_{k-1}d_kd_ix=0$ だから $d_ix'=0$ のままである。$x-x'\in D_nZ$ なので、この操作を $k$ について降順に繰り返せば $x\in N_nZ+D_nZ$ を得る。
$N_nZ\cap D_nZ=0$ を示す。$x\in N_nZ$ が $x=\sum_{j=0}^ts_jy_j$($t\le n-1$)と書けたとする。$d_{t+1}x=0$ であり、$d_{t+1}s_t=\operatorname{id}$、$j< t$ では $d_{t+1}s_j=s_jd_t$ だから $y_t=-\sum_{j< t}s_jd_ty_j$ となる。すると $s_ts_j=s_js_{t-1}$($j< t$)を使って
$$ s_ty_t=-\sum_{j< t}s_ts_jd_ty_j=-\sum_{j< t}s_j\,s_{t-1}d_ty_j $$
であり、$x$ は $s_0,\dots,s_{t-1}$ の像の和で書ける。$t$ を一つずつ下げると、最後は $x=s_0y_0$ と $0=d_1x=y_0$ になり $x=0$ である。
$D(Z)$ の完全性を示す。$D^p_nZ=\sum_{j\le\min(p,n-1)}s_j(Z_{n-1})$ とおく($D^{-1}Z=0$)。上の計算から $D^pZ$ も部分複体である。$j< p$ なら $s_ps_j=s_js_{p-1}$ なので $s_p$ は $D^{p-1}Z$ を $D^{p-1}Z$ へ、$D^pZ$ を $D^pZ$ へ送る。従って $h=(-1)^ps_p$ は商 $D^pZ/D^{p-1}Z$ 上の写像を定める。商の元は $x=s_py$ の類である。単体恒等式で各項を計算すると、$\partial s_px$ の項のうち $i< p$ のものは $s_{p-1}d_ix\in D^{p-1}Z$、$i=p,p+1$ の二項は相殺し、$i\ge p+2$ のものは $(-1)^is_pd_{i-1}x$ である。$s_p\partial x$ の項のうち $i< p$ のものは $s_ps_{p-1}d_iy=s_{p-1}s_{p-1}d_iy\in D^{p-1}Z$、$i=p,p+1$ の二項はともに $s_py=x$ で相殺し、残りは $(-1)^is_pd_ix$($i\ge p+2$)である。二つを足すと $i=p+2,\dots$ の項が対になって消え、$D^{p-1}Z$ を法として
$$ \partial s_px+s_p\partial x\equiv(-1)^{p+2}s_pd_{p+1}x=(-1)^ps_pd_{p+1}s_py=(-1)^px $$
が残る。よって $\partial h+h\partial=\operatorname{id}$ となり、$D^pZ/D^{p-1}Z$ は完全である。短完全列 $0\to D^{p-1}Z\to D^pZ\to D^pZ/D^{p-1}Z\to0$ の長完全列により、$p$ についての帰納で各 $D^pZ$ は完全である。$D^pZ$ は次数 $p+1$ 以下で $D(Z)$ と一致するので、$H_n(D(Z))=H_n(D^{n}Z)=0$ である。
自然性は $N$ と $D$ が顔と退化だけで定義されることによる。$C(f)=N(f)\oplus D(f)$ で $D$ のホモロジーが零だから、$H(C(f))$ と $H(N(f))$ は同じ写像である。$\square$

次に、対角と全複体を比べる写像のための記号を用意する。$\delta^i\colon[n-1]\to[n]$ を $i$ を値にとらない単調単射、$\sigma^j\colon[n+1]\to[n]$ を $j$ を二度とる単調全射とする。単体加群 $Z$ に対し、単調写像 $\theta\colon[m]\to[n]$ を $\delta$ と $\sigma$ の合成 $\theta=\delta^{i_1}\cdots\delta^{i_s}\sigma^{j_1}\cdots\sigma^{j_t}$ に書き、$\theta^*=s_{j_t}\cdots s_{j_1}d_{i_s}\cdots d_{i_1}\colon Z_n\to Z_m$ とおく。これは単体加群の定義の言い換えであり、新しい仮定は加えていない。実際、単調写像はこの形に書け、二つの書き方は $\delta^j\delta^i=\delta^i\delta^{j-1}$($i< j$)、$\sigma^j\delta^i$ の三場合の式、$\sigma^j\sigma^i=\sigma^i\sigma^{j+1}$($i\le j$)で移り合う(単調写像の標準分解の一意性)。これらの式を $^*$ で裏返したものがちょうど上の単体恒等式 $d_id_j=d_{j-1}d_i$、$d_is_j$ の三場合、$s_is_j=s_{j+1}s_i$ なので、$\theta^*$ は書き方によらない。合成 $\theta\rho$ の書き方として $\theta$ と $\rho$ の書き方を並べたものがとれるから $(\theta\rho)^*=\rho^*\theta^*$ であり、$\operatorname{id}^*=\operatorname{id}$、$(\delta^i)^*=d_i$、$(\sigma^j)^*=s_j$ である。単体加群の写像は $d_i,s_j$ と可換なので、全ての $\theta^*$ と可換である。
$S\subseteq[n]$ が $m+1$ 個の元 $s_0< s_1<\cdots< s_m$ からなるとき、$\theta_S\colon[m]\to[n]$、$k\mapsto s_k$ とおき、$x\in Z_n$ の面を $x|_S=\theta_S^*x\in Z_m$ と書く。単調単射は像で決まるので、$(\theta\rho)^*=\rho^*\theta^*$ から次の二つが従う。

  • $\theta_S\delta^i$ は像が $S\setminus\{s_i\}$ の単調単射だから、$d_i(x|_S)=x|_{S\setminus\{s_i\}}$ である。
  • $x\in Z_n$、$S\subseteq[n-1]$ なら $\delta^i\theta_S$ は像が $\delta^i(S)$ の単調単射だから、$(d_ix)|_S=x|_{\delta^i(S)}$ である。ここで $\delta^i(k)=k$($k< i$)、$\delta^i(k)=k+1$($k\ge i$)である。
    $x\in Z_n$ の前の面を $x|_{\le p}=x|_{\{0,\dots,p\}}$、後ろの面を $x|_{\ge p}=x|_{\{p,\dots,n\}}$ と書く。元の番号を $0$ から数えると、$\{0,\dots,p\}$ の $i$ 番目の元は $i$、$\{p,\dots,n\}$ の $j$ 番目の元は $p+j$ である。

Alexander–Whitney 写像 $\operatorname{AW}\colon C(X\otimes Y)\to T$ を、次数 $n$ の $p+q=n$ の成分ごとに
$$ \operatorname{AW}_{p,q}(x\otimes y)=x|_{\le p}\otimes y|_{\ge p} =(d_{p+1}\cdots d_nx)\otimes d_0^py $$
で定める。第一因子は前の $p$ 次元面、第二因子は後ろの $q$ 次元面である。単体加群の写像は面と可換なので、AW は $X,Y$ について自然である。

Alexander–Whitney 写像は鎖写像

$\partial_T\circ\operatorname{AW}=\operatorname{AW}\circ\partial$ が成り立つ。ここで $\partial=\sum_i(-1)^id_i$ は対角 $X\otimes Y$ の非正規化複体の微分であり、$d_i(x\otimes y)=d_ix\otimes d_iy$ である。

$x\in X_n$、$y\in Y_n$、$n\ge1$ とする($n=0$ では両辺とも零)。$X_0$、$Y_0$ 上の微分は零なので、面の規則の一つ目から
$$ \partial_T\operatorname{AW}(x\otimes y) =\sum_{p=1}^{n}\sum_{i=0}^{p}(-1)^i\,x|_{\{0,\dots,p\}\setminus\{i\}}\otimes y|_{\ge p} +\sum_{p=0}^{n-1}\sum_{j=0}^{n-p}(-1)^{p+j}\,x|_{\le p}\otimes y|_{\{p,\dots,n\}\setminus\{p+j\}} $$
である。第二の和の $(-1)^p$ は $\partial_T$ の第二因子に付く符号である。
一方、$d_ix$、$d_iy$ は次数 $n-1$ なので、面の規則の二つ目から
$$ \operatorname{AW}\partial(x\otimes y)=\sum_{i=0}^{n}\sum_{r=0}^{n-1}(-1)^i\,x|_{\delta^i\{0,\dots,r\}}\otimes y|_{\delta^i\{r,\dots,n-1\}} $$
となる。

  • $i\le r$ のとき、$\delta^i\{0,\dots,r\}=\{0,\dots,r+1\}\setminus\{i\}$、$\delta^i\{r,\dots,n-1\}=\{r+1,\dots,n\}$ である。$p=r+1$ とおくと $1\le p\le n$、$0\le i\le p-1$ であり、この項は第一の和の $(p,i)$ の項に等しい。この対応で第一の和の $i\le p-1$ の項にちょうど一度ずつ当たる。
  • $i>r$ のとき、$\delta^i\{0,\dots,r\}=\{0,\dots,r\}$、$\delta^i\{r,\dots,n-1\}=\{r,\dots,n\}\setminus\{i\}$ である。$p=r$、$j=i-p$ とおくと $0\le p\le n-1$、$1\le j\le n-p$ であり、符号は $(-1)^i=(-1)^{p+j}$ だから、この項は第二の和の $(p,j)$ の項に等しい。この対応で第二の和の $j\ge1$ の項にちょうど一度ずつ当たる。
    従って差 $\partial_T\operatorname{AW}-\operatorname{AW}\partial$ には、第一の和の $i=p$ の項と第二の和の $j=0$ の項だけが残る。$\{0,\dots,p\}\setminus\{p\}=\{0,\dots,p-1\}$、$\{p,\dots,n\}\setminus\{p\}=\{p+1,\dots,n\}$ だから、残りは
    $$ \sum_{p=1}^{n}(-1)^p\,x|_{\le p-1}\otimes y|_{\ge p} +\sum_{p=0}^{n-1}(-1)^p\,x|_{\le p}\otimes y|_{\ge p+1} $$
    である。第一の和で $p$ を $p+1$ に置き換えると第二の和の $-1$ 倍になるので、差は零である。$\square$

逆向きの写像とホモトピーは、標準単体のモデルで作って一般の場合へ移す。$r\ge0$ について $A[\Delta^r]$ を、次数 $m$ が単調写像 $[m]\to[r]$ を基底とする自由 $A$ 加群で、$\rho^*\theta=\theta\rho$ とした単体加群とする。単調写像 $\theta$ を値の列 $(\theta(0),\dots,\theta(m))$ で表すと、$d_i$ は $i$ 番目の値を除き、$s_j$ は $j$ 番目の値を繰り返す。恒等写像を $\iota_r=(0,1,\dots,r)\in A[\Delta^r]_r$ と書く。対角 $A[\Delta^p]\otimes A[\Delta^q]$ の次数 $m$ は $\theta\otimes\theta'$ を基底とする自由加群で、顔は成分ごとに働く。

モデルの収縮

$R=A[\Delta^p]\otimes A[\Delta^q]$ の非正規化複体 $C(R)$ 上で、列の先頭に $0$ を付ける写像 $c(\theta\otimes\theta')=(0,\theta)\otimes(0,\theta')$ と、次数零で $e(\theta\otimes\theta')=(0)\otimes(0)$、正の次数で零となる $e$ をとると、$\partial c+c\partial=1-e$ である。一つの因子 $A[\Delta^r]$ の非正規化複体の同じ写像を $c',e'$ とし、全複体 $T(A[\Delta^p],A[\Delta^q])$ 上で $H=c'\otimes1+e'\otimes c'$ とおくと、$\partial_TH+H\partial_T=1-e'\otimes e'$ である。
特に、正の次数のサイクル $z$ は、$C(R)$ では $z=\partial(cz)$、全複体では $z=\partial_T(Hz)$ を満たす。$C(R)$ の次数零の元 $z$ は、基底に関する係数の総和 $\varepsilon(z)$ が零なら $z=\partial(cz)$ を満たす。

$0\le\theta(0)$ なので $(0,\theta)$ は単調であり、$c$ は定義できる。次数 $m$ の基底元 $w=\theta\otimes\theta'$ について $d_0c(w)=w$ である。$m\ge1$、$1\le i\le m+1$ なら、$i$ 番目の値を除くことは、元の列の $i-1$ 番目の値を除いてから先頭に $0$ を付けることと同じなので、$d_ic(w)=c(d_{i-1}w)$ である。よって
$$ \partial c(w)=w+\sum_{i=1}^{m+1}(-1)^ic(d_{i-1}w)=w-c(\partial w) $$
である。$m=0$ では $\partial c(w)=d_0c(w)-d_1c(w)=w-(0)\otimes(0)=w-e(w)$ であり、次数零では $c\partial=0$ である。正の次数では $e=0$ だから、全次数で $\partial c+c\partial=1-e$ となる。一つの因子でも同じ計算で $\partial c'+c'\partial=1-e'$ である。さらに $e'\partial=0$ である。実際、次数一の基底元 $\theta$ について $e'(\partial\theta)=e'(d_0\theta)-e'(d_1\theta)=(0)-(0)=0$ であり、ほかの次数では $\partial$ の像が正の次数にあるか零である。
全複体では $x\in A[\Delta^p]_a$、$y\in A[\Delta^q]_b$ とする。$e'x$ が零でないのは $a=0$ のときに限るので、$e'x$ を第一因子とする項には $\partial_T$ の符号が付かない。$\partial e'=0$ と合わせて
$$ \partial_TH(x\otimes y)=\partial c'x\otimes y+(-1)^{a+1}c'x\otimes\partial y+e'x\otimes\partial c'y, $$
$$ H\partial_T(x\otimes y)=c'\partial x\otimes y+e'\partial x\otimes c'y+(-1)^ac'x\otimes\partial y+e'x\otimes c'\partial y $$
である。$e'\partial=0$ なので第二式の第二項は消え、第三項は第一式の第二項と相殺する。足すと
$$ (\partial c'+c'\partial)x\otimes y+e'x\otimes(\partial c'+c'\partial)y=(x-e'x)\otimes y+e'x\otimes(y-e'y)=x\otimes y-e'x\otimes e'y $$
となる。
最後の主張を示す。$C(R)$ のサイクル $z$ について $z=\partial cz+c\partial z+ez=\partial cz+ez$ である。正の次数では $ez=0$、次数零では $ez=\varepsilon(z)\,(0)\otimes(0)$ である。全複体でも、正の次数では $e'\otimes e'$ は零だから $z=\partial_T(Hz)$ である。$\square$

モデルから一般の場合へ移るため、次の意味の自然な写像を使う。単体 $A$ 加群の組 $(X,Y)$ と組の写像 $(f,f')$ を考える。$(f,f')$ は $C(X\otimes Y)$ に $C(f\otimes f')$ を、$T$ に $C(f)\otimes C(f')$ を誘導し、どちらも微分と可換である。$G$ をこの二つの一方とする。組ごとに与えた $A$ 線型写像 $\Phi\colon X_p\otimes_AY_q\to G_m(X,Y)$ が全ての組の写像と可換なとき、$\Phi$ を自然という。$C_n(X\otimes Y)=X_n\otimes Y_n$ と、$T_n$ の直和成分 $X_p\otimes Y_q$ がこの形の定義域である。$\partial$、$\partial_T$、AW は自然であり、自然な写像の和と合成も自然である。

普遍元による自然な写像

$u\in G_m(A[\Delta^p],A[\Delta^q])$ に対し、$\Phi(\iota_p\otimes\iota_q)=u$ を満たす自然な写像 $\Phi\colon X_p\otimes Y_q\to G_m(X,Y)$ がただ一つ存在する。特に、二つの自然な写像は $\iota_p\otimes\iota_q$ での値が等しければ一致する。

$x\in X_p$ に対し、$\hat x\colon A[\Delta^p]\to X$ を $\hat x(\theta)=\theta^*x$ で線型に定める。$\hat x(\rho^*\theta)=(\theta\rho)^*x=\rho^*\theta^*x=\rho^*\hat x(\theta)$ だから $\hat x$ は単体加群の写像であり、$\hat x(\iota_p)=x$ である。
一意性:$\Phi$ が自然なら、組の写像 $(\hat x,\hat y)$ との可換性から $\Phi(x\otimes y)=G(\hat x,\hat y)\,\Phi(\iota_p\otimes\iota_q)$ である。$X_p\otimes Y_q$ は $x\otimes y$ の形の元で生成されるので、$\Phi$ は $\iota_p\otimes\iota_q$ での値で決まる。
存在:$u=\sum_ka_k\,\theta_k\otimes\theta'_k$($a_k\in A$、$\theta_k,\theta'_k$ は基底の単調写像)と書き、
$$ \Phi(x\otimes y)=\sum_ka_k\,\theta_k^*x\otimes\theta_k'^*y $$
とおく。右辺は $x,y$ について $A$ 双線型なので $X_p\otimes_AY_q$ 上で定義される。単体加群の写像は $\theta^*$ と可換だから $\Phi$ は自然であり、$\theta^*\iota_p=\theta$ より $\Phi(\iota_p\otimes\iota_q)=u$ である。$\square$

対角と全複体の比較

Alexander–Whitney 写像 $\operatorname{AW}\colon C(X\otimes Y)\to T$ は自然な鎖ホモトピー同値である。特に $X\to X'$ が加法群の擬同型、$Y_n$ が各次数で自由なら、対角 $X\otimes Y\to X'\otimes Y$ も擬同型となる。

前半を示す。lem-jz-aw-chain により AW は自然な鎖写像である。次数零では $T_0=X_0\otimes Y_0=C_0(X\otimes Y)$ であり、$x|_{\le0}=x$ だから $\operatorname{AW}$ は次数零で恒等写像である。
逆向きの鎖写像。 自然な写像 $g_n\colon T_n\to C_n(X\otimes Y)$ で、$g_0=1$ かつ $n\ge1$ で $\partial g_n=g_{n-1}\partial_T$ を満たすものを $n$ の帰納で作る。$T_n$ の成分 $X_p\otimes Y_q$($p+q=n$)ごとに定めて足せばよい。$n\ge1$ とし、$g_k$($k< n$)ができたとする。モデル $R=A[\Delta^p]\otimes A[\Delta^q]$ で
$$ \beta=g_{n-1}\bigl(\partial_T(\iota_p\otimes\iota_q)\bigr)\in C_{n-1}(R) $$
とおく。$n\ge2$ なら、帰納法の仮定 $\partial g_{n-1}=g_{n-2}\partial_T$ から $\partial\beta=g_{n-2}\partial_T\partial_T(\iota_p\otimes\iota_q)=0$ であり、$\beta$ は正の次数のサイクルである。$n=1$ なら $g_0=1$ であり、
$$ \partial_T(\iota_1\otimes\iota_0)=(1)\otimes(0)-(0)\otimes(0),\qquad \partial_T(\iota_0\otimes\iota_1)=(0)\otimes(1)-(0)\otimes(0) $$
だから $\varepsilon(\beta)=0$ である。どちらの場合も lem-jz-model-contraction により $\beta=\partial(c\beta)$ となる。lem-jz-universal-element により、$g_n(\iota_p\otimes\iota_q)=c\beta$ となる自然な $g_n\colon X_p\otimes Y_q\to C_n(X\otimes Y)$ をとる。$\partial g_n$ と $g_{n-1}\partial_T$ はともに $X_p\otimes Y_q\to C_{n-1}(X\otimes Y)$ の自然な写像であり、$\iota_p\otimes\iota_q$ での値はどちらも $\beta$ だから、同じ補題により一致する。
二つのホモトピー。 $T$ 上の $\varphi=\operatorname{AW}\circ g-1$ と、$C(X\otimes Y)$ 上の $\psi=g\circ\operatorname{AW}-1$ は自然な鎖写像であり、次数零では零である。$\varphi$ について、自然な写像 $K_n\colon T_n\to T_{n+1}$ で
$$ \partial_TK_n+K_{n-1}\partial_T=\varphi_n\qquad(K_{-1}=0) $$
を満たすものを $n$ の帰納で作る。$\varphi_0=0$ なので $K_0=0$ とする。$n\ge1$ とし、$K_k$($k< n$)ができたとする。成分 $X_p\otimes Y_q$ の普遍元 $u=\iota_p\otimes\iota_q$ について、恒等写像との差から低い次数のホモトピーの寄与を引いた
$$ z=\varphi(u)-K_{n-1}\partial_Tu\in T_n(A[\Delta^p],A[\Delta^q]) $$
を考える。$\varphi$ は鎖写像であり、帰納法の仮定から $\partial_TK_{n-1}=\varphi_{n-1}-K_{n-2}\partial_T$ だから
$$ \partial_Tz=\varphi\,\partial_Tu-\varphi\,\partial_Tu+K_{n-2}\partial_T\partial_Tu=0 $$
である。$z$ は次数 $n\ge1$ のサイクルなので、lem-jz-model-contraction により $z=\partial_T(Hz)$ である。lem-jz-universal-element により $K_n(u)=Hz$ となる自然な $K_n$ をとる。$\partial_TK_n+K_{n-1}\partial_T$ と $\varphi_n$ はともに自然で、$u$ での値はどちらも $z+K_{n-1}\partial_Tu=\varphi(u)$ だから一致する。
次に $\psi$ について、自然な写像 $K'_n\colon C_n(X\otimes Y)\to C_{n+1}(X\otimes Y)$ で
$$ \partial K'_n+K'_{n-1}\partial=\psi_n\qquad(K'_{-1}=0) $$
を満たすものを $n$ の帰納で作る。定義域 $C_n(X\otimes Y)=X_n\otimes Y_n$ は lem-jz-universal-element の $p=q=n$、$G=C(-\otimes-)$ の場合であり、モデルは対角 $R_n=A[\Delta^n]\otimes A[\Delta^n]$、普遍元は $u'=\iota_n\otimes\iota_n\in C_n(R_n)$ である。次数零では $\operatorname{AW}$ も $g_0$ も恒等写像なので $\psi_0=0$ であり、$K'_0=0$ とおけば $n=0$ の式が成り立つ。
$n\ge1$ とし、$K'_k$($k< n$)ができたとする。普遍元での $\psi$ の値は
$$ \psi(u')=\sum_{p+q=n}g_n\bigl(\iota_n|_{\le p}\otimes\iota_n|_{\ge p}\bigr)-\iota_n\otimes\iota_n $$
である。ここで $\iota_n|_{\le p}=(0,1,\dots,p)\in A[\Delta^n]_p$、$\iota_n|_{\ge p}=(p,p+1,\dots,n)\in A[\Delta^n]_q$ であり、和の $(p,q)$ の項は、$g_n$ の $(p,q)$ 成分の構成で得た元 $c\beta\in C_n(A[\Delta^p]\otimes A[\Delta^q])$ を、この二つの面 $x,y$ が定める単体写像の組 $(\hat x,\hat y)$ で $R_n$ へ移したものである。また
$$ \partial u'=\sum_{i=0}^n(-1)^i\,d_i\iota_n\otimes d_i\iota_n\in C_{n-1}(R_n) $$
である。$\psi(u')$ から低い次数のホモトピーの寄与 $K'_{n-1}\partial u'$ を引いた
$$ z'=\psi(u')-K'_{n-1}\partial u'\in C_n(R_n) $$
を考える。$g$ と AW は鎖写像だから $\psi$ も鎖写像で、$\partial\psi(u')=\psi(\partial u')$ である。帰納法の仮定の次数 $n-1$ の式 $\partial K'_{n-1}=\psi_{n-1}-K'_{n-2}\partial$ を $\partial u'$ に当てると
$$ \partial z'=\psi(\partial u')-\psi(\partial u')+K'_{n-2}\partial\partial u'=0 $$
となる。$n=1$ のときは $K'_0=0$、$\psi_0=0$ なので、直接 $\partial z'=\psi_0(\partial u')-\partial K'_0\partial u'=0$ である。$z'$ の次数は $n\ge1$ なので係数和の条件は要らず、lem-jz-model-contraction により $z'=\partial(cz')$ である($\partial cz'+c\partial z'=z'-ez'$ で、$\partial z'=0$、正の次数では $e=0$)。
lem-jz-universal-element により、$K'_n(u')=cz'$ となる自然な $K'_n\colon X_n\otimes Y_n\to C_{n+1}(X\otimes Y)$ をとる。$\partial K'_n+K'_{n-1}\partial$ と $\psi_n$ はともに $X_n\otimes Y_n\to C_n(X\otimes Y)$ の自然な写像であり、$u'$ での値は
$$ \partial K'_n(u')+K'_{n-1}\partial u'=\partial(cz')+K'_{n-1}\partial u'=z'+K'_{n-1}\partial u'=\psi(u') $$
で一致する。同じ補題により $\partial K'_n+K'_{n-1}\partial=\psi_n$ が全ての $X,Y$ で成り立ち、帰納が進む。
従って $\operatorname{AW}\circ g$ と $g\circ\operatorname{AW}$ はそれぞれ恒等写像と自然に鎖ホモトピックであり、AW は自然な鎖ホモトピー同値である。逆向きの $g$ の具体的な形は以下で使わない。
最後に後半を示す。$f\colon X\to X'$ を加法群の擬同型とし、各 $Y_q$ を自由 $A$ 加群とする。
第一に、lem-jz-normalization により $C(f)\colon C(X)\to C(X')$ は擬同型である。鎖写像 $g\colon K\to K'$ の写像錐を $\operatorname{Cone}(g)_n=K_{n-1}\oplus K'_n$、$d(a,b)=(-da,db-ga)$ とすると、短完全列 $0\to K'\to\operatorname{Cone}(g)\to K[-1]\to0$ の長完全列の接続写像は $-H(g)$ であるから、$g$ が擬同型であることと $\operatorname{Cone}(g)$ が完全であることは同値である。よって $E=\operatorname{Cone}(C(f))$ は負の次数で零の完全な複体である。
第二に、全複体の写像 $\operatorname{Tot}(C(f)\otimes1)\colon T(X,Y)\to T(X',Y)$ が擬同型であることを示す。項と微分を符号まで比べると、$E$ と $C(Y)$ から上と同じ式で作った全複体 $\operatorname{Tot}(E\otimes C(Y))$ は、この写像の写像錐に一致する。実際、$a\in X_{p-1}$、$y\in Y_q$ について $(a\otimes y,0)$ の微分は $(-\partial_T(a\otimes y),-f(a)\otimes y)$ となる。従って $\operatorname{Tot}(E\otimes C(Y))$ の完全性を示せばよい。$F_s=\bigoplus_{q\le s}E\otimes_AY_q$ とおくと、$\partial_Y$ は $q$ を下げるので $F_s$ は部分複体であり、$F_{-1}=0$ である。商 $F_s/F_{s-1}$ は次数を $s$ ずらした $E\otimes_AY_s$ に微分 $\pm\partial_E\otimes1$ を付けたものである。$Y_s$ は自由なので、これは $E$ の直和であり完全である。長完全列による $s$ の帰納で各 $F_s$ は完全となる。全次数 $m$ の成分は $q\le m$ の項しか含まないから、$\operatorname{Tot}(E\otimes C(Y))$ と $F_{n+1}$ は次数 $n+1$ 以下で一致し、$H_n(\operatorname{Tot}(E\otimes C(Y)))=H_n(F_{n+1})=0$ である。
第三に、AW は顔写像だけで定まるので $X,Y$ について自然であり、
$$ \operatorname{Tot}(C(f)\otimes1)\circ\operatorname{AW}_{X,Y}=\operatorname{AW}_{X',Y}\circ C(f\otimes1) $$
が成り立つ。ここで $f\otimes1$ は対角の単体加群の写像 $X\otimes Y\to X'\otimes Y$ である。前半から $\operatorname{AW}_{X,Y}$ と $\operatorname{AW}_{X',Y}$ は鎖ホモトピー同値なので擬同型であり、左辺の $\operatorname{Tot}(C(f)\otimes1)$ も第二段で擬同型である。ホモロジーをとると、$H(C(f\otimes1))$ は三つの同型の合成で書けるから同型である。最後に lem-jz-normalization を対角 $X\otimes Y\to X'\otimes Y$ に適用すれば、その正規化複体の写像も擬同型、すなわち $X\otimes Y\to X'\otimes Y$ は加法群の擬同型である。

この補題では対称冪が擬同型を保存するという命題を使っていない。標数が正の場合にもそのまま通用するように、次のフィルトレーションは比較する変数を固定し、係数側のテンソル比較だけを利用する。

多項式次数フィルトレーション

自由セルの付加は加法群の擬同型を保つ

単体代数 $Z\to Z'$ の加法群の擬同型に沿って、一つの自由セルを pushout すると、そのセル付加後の写像も加法群の擬同型である。

セルの新変数の総多項式次数が $a$ 以下の加法部分を $F_a$ とする。顔は新変数を新変数または次数零の指定境界へ送るため次数を上げず、退化は次数を保つ。従って $F_a$ は単体加群のフィルトレーションとなる。
商 $F_a/F_{a-1}$ の次数 $n$ は $Z_n\otimes_AW^{(a)}_n$ である。$W^{(a)}_n$ は新変数の次数 $a$ の単項式を基底とする自由 $A$ 加群である。顔が因子の一つを境界へ送れば総次数が下がるので、その商での像は零となる。全因子が新変数として残れば対応する単項式へ送る。この規則は係数に依存しない。
pushout 後の比較は、商では $Z\otimes W^{(a)}\to Z'\otimes W^{(a)}$ である。固定した自由単体加群との対角テンソルなので、前補題から擬同型となる。各有限 $a$ の短完全列で帰納し、最後に加群のフィルター付き直極限の完全性を使うとセル全体で擬同型となる。複数セルも同じ議論を繰り返せる。極限段階では一つの元と有限関係が有限段階に現れるため、擬同型性が保持される。

これを $P\to B$ と相対セル付加に適用する。$P\to B$ は加法群の擬同型だから $Q\to Q_B$ もそうである。$Q\to C$ が解像であり、$Q_B\to C$ も解像となる。$Q_B$ は $B$ 上で同じセルを付けた対象なので、標準解像と比較できる自由セル解像である。
ここまでの議論は任意標数である。整数の符号と自由単項式基底しか使わず、有限生成・Noether 条件・平均化を導入していない。基底変更 $B\to C$ 自身の平坦性も、擬同型保存に使う必要がなかった。

微分の分裂短完全列

推移の射影鎖モデル

上の相対解像から、各次数で分裂する短完全列
$$ 0\to L_{B/A}\otimes_B C\to L_Q(C/A)\to L_{Q_B}(C/B)\to0 $$
が得られる。右二項はそれぞれ $L_{C/A}$、$L_{C/B}$ の射影鎖モデルである。

次数 $n$ では $Q_n=P_n[U_n]$ である。$\Omega_{Q_n/A}$ は $dT_n$ と $dU_n$ の自由基底を持つ。$dT_n$ の部分を商すると $\Omega_{Q_n/P_n}$ となるため
$$ 0\to Q_n\otimes_{P_n}\Omega_{P_n/A}\to\Omega_{Q_n/A} \to\Omega_{Q_n/P_n}\to0 $$
は分裂短完全列である。分裂が単体写像と可換する必要はない。二つの矢印は微分の鎖則により顔・退化に両立する。
$C$ への増大でテンソルしても、項別分裂により完全性を保つ。正規化の単射と中間完全性は項別完全性から従う。正規化後の全射は、正規化サイクルとは限らない項の元を持ち上げ、正規化射影 $q_n$ を施せば得られる。$q_n$ の自然性により像は元の正規化された元へ戻る。右項は自由項の直和因子で射影なので、正規化後にも各次数の短完全列が分裂する。
第一項は正規化がテンソルと交換することから $L_{B/A}\otimes_BC$ である。第二項は $Q$ が $A$ 上の自由セル解像なので $L_{C/A}$ を表す。第三項では相対微分と環 pushout の整合を使う。$\Omega_{Q_n/P_n}$ と $\Omega_{Q_{B,n}/B}$ は同じ自由基底 $dU_n$ を持ち、顔・退化の係数である $P_n$ または $B$ の元は相対微分で零となる。従って $C$ 係数での両者は同じ単体加群であり、$Q_B$ が $B$ 上の解像なので $L_{C/B}$ を表す。

第一項は通常の $\Omega_{B/A}\otimes C$ を高次数に置いたものではない。$L_{B/A}$ の全射影複体にテンソルする。平坦性がない場合にもこれを使うことで、必要な高次数を失わない。第三項を $L_{C/B}$ と同一視できるのは、上で基底変更後の解像性を示したからである。

境界写像と完全性の証明

二つの完全列

前命題の短完全列を $0\to X\to Y\to Z\to0$ と書く。任意の $M$ をテンソルしても項別分裂は保たれ、鎖複体の短完全列となる。$z\in Z_n\otimes M$ のサイクルを $y\in Y_n\otimes M$ へ持ち上げる。$dy$ の $Z$ 成分は零なので $X_{n-1}\otimes M$ のサイクルへ戻せる。そのホモロジー類を境界 $\partial[z]$ とする。
持ち上げ差は $X_n\otimes M$ の元で、その微分だけ境界が変わる。$z$ の代表を境界だけ変えたときは $Y$ の持ち上げ微分を引けば同じ類となる。従って境界は well-defined である。$Y$ から来るサイクルでは境界が零。逆に境界が零なら $X$ の境界を引いて $y$ をサイクルにできる。同じ持ち上げ操作を他の位置でも行えば全箇所の完全性を得る。
コホモロジーでは項別分裂から
$$ 0\to\operatorname{Hom}_C(Z,M)\to\operatorname{Hom}_C(Y,M) \to\operatorname{Hom}_C(X,M)\to0 $$
となる。ここでは右の Hom が全射である理由は項別分裂であり、$M$ が入射という仮定ではない。コチェインサイクルを持ち上げ、微分して左へ戻すと次数を一つ上げる境界が得られる。同じ代表変更と完全性の計算が働く。
第一項の係数については、項ごとの自然同型
$$ (L_{B/A}\otimes_BC)\otimes_CM=L_{B/A}\otimes_BM, $$
$$ \operatorname{Hom}_C(L_{B/A}\otimes_BC,M) =\operatorname{Hom}_B(L_{B/A},M) $$
を用いる。$M$ を $B$ 加群へ制限するという意味がこれで正確になる。比較の選択独立性により、他の自由セル解像を使っても同じ群・自然な列となる。全元をラベルしたセル構成と境界持ち上げの自然性から、係数写像と環三角の写像に両立する。

境界の符号は本記事の微分と持ち上げ規約で定まる。平方零拡大を直接貼り合わせて構成した境界について、別の符号規約でも字面が必ず同じになるとは主張しない。完全性と群の同定はこの違いに影響されないが、具体的な代表元を比較するときには規約を固定する。

端点を計算する

次数零のホモロジー列は
$$ \Omega_{B/A}\otimes_BM\to\Omega_{C/A}\otimes_CM \to\Omega_{C/B}\otimes_CM\to0 $$
を含む。通常の微分加群の右完全列は、この全列の最後の部分である。左へ $0$ を付けて短完全列とすることは一般にできない。失われた単射性を記録するのは $D_1(C/B;M)$ からの境界である。
コホモロジーの最初は
$$ 0\to\operatorname{Der}_B(C,M)\to\operatorname{Der}_A(C,M) \to\operatorname{Der}_A(B,M)\to\operatorname{Exal}_B(C,M)\to\cdots $$
となる。$A$ 導分の $B$ への制限が零なら $B$ 導分になるので、最初の完全性は直接確認できる。しかし次の拡大群への境界を消して制限写像を全射とすることはできない。

微分加群列の左単射を破る反例

体 $k$、$A=k$、$B=k[t]$、$C=k$、$t\mapsto0$、$M=k$ とする。$\Omega_{B/k}\otimes_Bk=k\,dt$ だが $\Omega_{C/k}=0$ である。従って微分加群の左の写像は零であり単射でない。全列の完全性により $D_1(C/B;k)\to k\,dt$ は全射となる。

この例の $B\to C$ は非平坦である。単射 $t:B\to B$ に $C$ をテンソルすると零写像になることから分かる。それでも全 Jacobi–Zariski 列は成立する。非平坦な商写像を対象外にすると、推移列が必要な典型的な関係式の例を失う。

導分の制限が全射でない例

同じ環三角で、$B$ から $k$ への $k$ 導分 $\partial(t)=1$ は存在する。一方 $\operatorname{Der}_k(k,k)=0$ なので、この導分は $C$ の導分の制限ではない。その障害は $\operatorname{Exal}_B(k,k)$ に入る。具体的には $k[\varepsilon]/(\varepsilon^2)$ へ $t\mapsto\varepsilon$ と送った平方零拡大が、$t\mapsto0$ の分裂を $B$ 上で持たない。任意の $B$ 代数切断なら $t$ の像は同時に零と $\varepsilon$ になり矛盾する。

平坦性を要求しない理由の整理

証明で使った完全性は三種類ある。第一は自由セル付加後の加法群の擬同型保存であり、固定した自由単項式加群と対角テンソルする比較で証明した。第二は微分の自由基底 $dT,dU$ による項別分裂である。第三は正規化射影の自然性と右項の射影性である。いずれにも $B\to C$ の平坦性は入っていない。
この三箇所を、通常のテンソルが常に左完全であるという誤った理由に置き換えてはいけない。非平坦な係数でもテンソルできるのは、既に分裂した項別短完全列へ適用しているからである。また、任意の Hom が短完全列を保つからでもない。項別分裂が Hom にも全射を与えている。
自由セルの比較独立性は、整合境界の充填と円柱の余接 prism による鎖ホモトピー同値である。これも全係数を許すために必要な強さである。群が一つの係数で一致するだけでは、任意係数に自然なこの完全列を得たことにはならない。

使用できる範囲

列は任意の可換単位環三角と任意の $C$ 加群を対象とする。零環の場合は対応する群が零となり、空変数の多項式環でも同じ構成を使える。$A=B$ または $B=C$ の恒等写像では相対余接複体が零となり、列の残る同型を確認できる。
局所環・有限型・有限表示という仮定は定理にはない。これらを仮定した応用では群の有限性や消滅を別に調べる。正則性を判定する特定次数、完全交叉を判定する次数、完成と形式的滑らかさの判定は、この列の構成だけで証明されるわけではない。定義・推移の完全性と、応用の消滅定理を分けて用いる。
本記事で使う解像は標準解像と自由セル解像である。各次数が多項式環であるだけの任意の単体代数が解像の比較に使える、という広い主張はしない。関係式の低次数二項表示は計算に便利だが、全列の構成では全次数の相対自由解像が必要である。

関連項目

参考文献

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