Whitneyの近似定理(Whitney approximation theorem)とは、滑らかな多様体 $M$ から $\mathbb{R}^k$ への連続写像 $F$ と正の連続関数 $\delta$ に対し、すべての点で $\lvert G-F\rvert<\delta$ となる滑らかな写像 $G$ が存在し、$F$ が閉集合 $A$ の近傍で滑らかなら $A$ の上で $G=F$ にできるという定理である。証明は、各点の近くで $F$ を定数で近似し、滑らかな 1 の分割で凸結合をとる。終域が球面や多様体のときは近傍からの引き込みで戻す。応用として、$m<n$ なら連続写像 $S^m\to S^n$ は定値写像にホモトピックであることが Sard の定理と合わせて従う。
連続写像は滑らかとは限らないが、滑らかな写像でいくらでもよく近似できる。Whitney の近似定理(Whitney approximation theorem)はこれを多様体の上で述べたもので、多様体 $M$ から $\mathbb{R}^k$ への連続写像 $F$ と、点ごとに変わってよい許容誤差 $\delta\colon M\to(0,\infty)$ が与えられたとき、$\lvert G-F\rvert<\delta$ となる滑らかな写像 $G$ が存在する。しかも、$F$ がすでに滑らかな場所では $G=F$ のままにできる。
証明の考え方は単純である。連続写像は各点の近くでほとんど定数なので、各点の近くでは定数写像で近似できる。それらを滑らかな 1 の分割で平均すると、全体で滑らかな近似が得られる。平均をとれるのは $\mathbb{R}^k$ が凸だからで、終域が球面や一般の多様体のときは、$\mathbb{R}^k$ で近似してから終域へ引き戻す。この定理によって、連続写像についてのホモトピーの問題の多くを滑らかな写像の問題に帰着でき、Sard の定理などの微分の道具が使えるようになる。この記事では主定理を証明し、その応用として「$m< n$ なら球面 $S^m$ から $S^n$ への連続写像は定値写像にホモトピックである」ことを示す。
以下、多様体は Hausdorff かつ第 2 可算な $C^\infty$ 級多様体(可微分多様体)とし、「滑らか」は $C^\infty$ 級を意味する。$\mathbb{R}^k$ には Euclid ノルム $\lvert\cdot\rvert$ を入れる。
$M$ を多様体、$F,G\colon M\to\mathbb{R}^k$ を写像、$\delta\colon M\to(0,\infty)$ を連続関数とする。すべての $p\in M$ で $\lvert G(p)-F(p)\rvert<\delta(p)$ が成り立つとき、$G$ は $F$ の $\delta$-近似であるという。
$\delta$ を定数でなく関数にしておくのは、$M$ がコンパクトでないとき「無限遠に近づくほど誤差を小さくする」近似を扱うためである。$M$ がコンパクトなら、連続関数 $\delta$ は正の最小値をもつので、定数の誤差 $\varepsilon$ で考えても同じである。
$M$ を多様体、$F\colon M\to\mathbb{R}^k$ を連続写像、$\delta\colon M\to(0,\infty)$ を連続関数とする。$A\subset M$ を閉集合とし、$A$ を含むある開集合 $O$ の上で $F$ は滑らかであるとする($A=O=\emptyset$ でもよい)。このとき滑らかな写像 $G\colon M\to\mathbb{R}^k$ で、次を満たすものが存在する。
開被覆を作る. 各点 $q\in M\setminus A$ について
$$
U_q:=\{p\in M\setminus A\mid\lvert F(p)-F(q)\rvert<\delta(p)\}
$$
とおく。$F$ と $\delta$ は連続で $M\setminus A$ は開集合なので、$U_q$ は開集合であり、$\delta(q)>0$ より $q\in U_q$ である。$A\subset O$ なので、$\{O\}\cup\{U_q\mid q\in M\setminus A\}$ は $M$ の開被覆である。
1 の分割で平均する. 1の分割の記事の定理「滑らかな 1 の分割の存在」により、この開被覆に従属する滑らかな 1 の分割 $\rho_O$、$(\rho_q)_{q\in M\setminus A}$ をとる。すなわち各関数は $0$ 以上で、$\operatorname{supp}\rho_O\subset O$、$\operatorname{supp}\rho_q\subset U_q$、台の族は局所有限で、各点で $\rho_O+\sum_q\rho_q=1$ である。
$$
G:=\rho_O\,F+\sum_{q\in M\setminus A}\rho_q\,F(q)
$$
と定める。第 1 項は、$O$ の上で $\rho_OF$、$O$ の外で $0$ と定めたもので、$F$ は $O$ の上で滑らかで $\operatorname{supp}\rho_O\subset O$ なので、隆起関数の記事の定理「隆起関数の存在」の後半(成分ごとに当てる)により $M$ 上の滑らかな写像である。第 2 項の各項は滑らかな関数 $\rho_q$ と定数ベクトル $F(q)$ の積である。台の族が局所有限なので、各点の近くで和は有限和であり、$G$ は滑らかである。
$A$ の上で $G=F$. $p\in A$ なら、$\operatorname{supp}\rho_q\subset U_q\subset M\setminus A$ なのですべての $q$ で $\rho_q(p)=0$ であり、$\rho_O(p)=1$ となる。よって $G(p)=F(p)$ である。
$\delta$-近似であること. $p\in M$ を任意にとる。$\rho_O(p)+\sum_q\rho_q(p)=1$ を使うと
$$
G(p)-F(p)=\rho_O(p)\bigl(F(p)-F(p)\bigr)+\sum_q\rho_q(p)\bigl(F(q)-F(p)\bigr)=\sum_q\rho_q(p)\bigl(F(q)-F(p)\bigr)
$$
である。$\rho_q(p)>0$ となる $q$ については $p\in\operatorname{supp}\rho_q\subset U_q$ なので $\lvert F(q)-F(p)\rvert<\delta(p)$ である。そのような $q$ がなければ右辺は $0$ で、$0<\delta(p)$ である。あれば、三角不等式により
$$
\lvert G(p)-F(p)\rvert\le\sum_{\rho_q(p)>0}\rho_q(p)\,\lvert F(q)-F(p)\rvert<\delta(p)\sum_{\rho_q(p)>0}\rho_q(p)\le\delta(p)
$$
である(和は有限和で、少なくとも 1 項が正なので 2 つ目の不等号は狭義)。$\square$
証明の要は、$G(p)$ が有限個の値 $F(p)$、$F(q)$ の凸結合(係数が $0$ 以上で和が $1$)になっていることである。凸結合は、中心 $F(p)$、半径 $\delta(p)$ の開球から出ない。1 の分割は、局所的に作った近似を「どこでも凸結合」という形で貼り合わせる道具である。
thm-wapx-main の $G$ について、
$$
H\colon M\times[0,1]\to\mathbb{R}^k,\qquad H(p,t):=(1-t)F(p)+tG(p)
$$
は $F$ から $G$ へのホモトピーであり、すべての $t$ で $H(\cdot,t)$ は $F$ の $\delta$-近似で、$A$ の上では $H(p,t)=F(p)$ である。
$H$ は連続で、$H(\cdot,0)=F$、$H(\cdot,1)=G$ である。$\lvert H(p,t)-F(p)\rvert=t\lvert G(p)-F(p)\rvert<\delta(p)$($t>0$)、$t=0$ なら差は $0$ である。$A$ の上では $G=F$ なので $H(p,t)=F(p)$ である。$\square$
$\mathbb{R}^k$ への写像はどれも定値写像にホモトピックなので、cor-wapx-homotopy の意味は「$\delta$ の範囲から出ずに、$A$ の上を動かさずに」ホモトピーがとれることにある。これが次の節で終域を球面に替えるときに効く。
終域が $\mathbb{R}^k$ の部分集合 $N$ のときは、$\mathbb{R}^k$ で近似してから $N$ に戻す写像が要る。単位球面 $S^n=\{x\in\mathbb{R}^{n+1}\mid\lvert x\rvert=1\}$ では、$x\mapsto x/\lvert x\rvert$ がその役をする。
$M$ を多様体、$F\colon M\to S^n$ を連続写像、$\delta\colon M\to(0,\infty)$ を連続関数とする。滑らかな写像 $G\colon M\to S^n$ で、$\lvert G-F\rvert<\delta$ であり、$F$ にホモトピック($S^n$ の中のホモトピーで)であるものが存在する。
$\eta:=\min\{\tfrac12,\ \tfrac12\delta\}$ は正の連続関数である。$F$ を $\mathbb{R}^{n+1}$ への写像とみて thm-wapx-main($A=\emptyset$)を当て、$F$ の $\eta$-近似である滑らかな $G_0\colon M\to\mathbb{R}^{n+1}$ をとる。$\lvert F\rvert=1$ なので $\lvert G_0\rvert\ge1-\lvert G_0-F\rvert>\tfrac12$ であり、$G:=G_0/\lvert G_0\rvert$ は滑らかな写像 $M\to S^n$ である($S^n$ への写像として滑らかなことは はめ込みと埋め込み(可微分多様体)の記事の命題「終域を部分多様体に制限する」による)。
近いこと. $\bigl\lvert\lvert G_0\rvert-1\bigr\rvert=\bigl\lvert\lvert G_0\rvert-\lvert F\rvert\bigr\rvert\le\lvert G_0-F\rvert<\eta$ なので、
$$
\lvert G-F\rvert\le\lvert G-G_0\rvert+\lvert G_0-F\rvert=\bigl\lvert1-\lvert G_0\rvert\bigr\rvert+\lvert G_0-F\rvert<2\eta\le\delta
$$
である($\lvert G-G_0\rvert=\lvert G_0\rvert\cdot\bigl\lvert1/\lvert G_0\rvert-1\bigr\rvert=\bigl\lvert1-\lvert G_0\rvert\bigr\rvert$)。
ホモトピック. $H_0(p,t):=(1-t)F(p)+tG_0(p)$ とおくと、$\lvert H_0(p,t)-F(p)\rvert=t\lvert G_0(p)-F(p)\rvert<\tfrac12$ なので $\lvert H_0(p,t)\rvert>\tfrac12$ である。したがって $H(p,t):=H_0(p,t)/\lvert H_0(p,t)\rvert$ は連続写像 $M\times[0,1]\to S^n$ で、$H(\cdot,0)=F$、$H(\cdot,1)=G$ である。$\square$
$0\le m< n$ とする。連続写像 $F\colon S^m\to S^n$ は、定値写像にホモトピックである。
滑らかにする. thm-wapx-sphere により、$F$ は滑らかな写像 $G\colon S^m\to S^n$ にホモトピックである。
像に入らない点をとる. $S^m$ は $m$ 次元、$S^n$ は $n$ 次元の多様体で $m< n$ なので、$G$ の微分はどの点でも全射になりえず、すべての点が臨界点である。Sardの定理の記事の系「多様体の間の写像に対するSardの定理」により、$G$ の像(臨界値の集合)は $S^n$ の測度零集合であり、その補集合は稠密なので空でない。そこで $q\in S^n\setminus G(S^m)$ をとる。
像を $-q$ に縮める. $K(p,t):=(1-t)G(p)-tq$ とおく。$K(p,t)=0$ となるのは $(1-t)G(p)=tq$ のときで、両辺の長さを比べると $1-t=t$、すなわち $t=\tfrac12$ で $G(p)=q$ のときに限るが、$q$ は像に入らないのでこれは起こらない。よって
$$
L(p,t):=\frac{(1-t)G(p)-tq}{\lvert(1-t)G(p)-tq\rvert}
$$
は連続写像 $S^m\times[0,1]\to S^n$ で、$L(\cdot,0)=G$、$L(\cdot,1)$ は値 $-q$ の定値写像である。ホモトピックであることは同値関係なので、$F$ は定値写像にホモトピックである。$\square$
連続写像のままでは、この議論はそのままでは使えない:連続写像 $[0,1]\to[0,1]^2$ で全射なもの(空間充填曲線)があり(Sardの定理の記事の節「反例」)、次元の低い空間からの連続写像の像が測度零とは限らないからである。滑らかに近似して初めて、Sard の定理により「像に入らない点がある」と言える。
この定理から、とくに $m< n$ なら $S^n$ は「$m$ 次元の球面をどう写しても縮められる」ことが分かる($m=1$、$n\ge2$ なら、$S^n$ の閉曲線は定値写像にホモトピックである)。基点を保つホモトピーについての主張、すなわちホモトピー群 $\pi_m(S^n)$ が自明であることは、Hat02 Corollary 4.9(p. 349)が胞体近似定理を使って示している。基点を保つ版はこの記事では証明しない。
終域が一般の多様体 $N$ のときも同じことが成り立つ。Whitneyの埋め込み定理により $N$ は $\mathbb{R}^k$ の閉部分多様体とみなせる。球面の $x\mapsto x/\lvert x\rvert$ の代わりに、次の滑らかな引き込みを使う。
$M$、$N$ を多様体とし、$N\subset\mathbb{R}^k$ を閉部分多様体、$r\colon W\to N$ を上の滑らかな引き込みとする。任意の連続写像 $F\colon M\to N$ は、滑らかな写像 $G\colon M\to N$ に($N$ の中のホモトピーで)ホモトピックである。
$W=\mathbb{R}^k$ なら $\delta:=1$、そうでなければ $\delta(p):=\min\{1,\ \operatorname{dist}(F(p),\mathbb{R}^k\setminus W)\}$ とおく。距離関数は連続で、$F(p)\in N\subset W$ と $W$ が開集合であることから $\delta(p)>0$ である。thm-wapx-main($A=\emptyset$)により、$F$ の $\delta$-近似である滑らかな $G_0\colon M\to\mathbb{R}^k$ をとる。各 $p$ について、線分 $\{(1-t)F(p)+tG_0(p)\mid0\le t\le1\}$ は中心 $F(p)$、半径 $\delta(p)$ の開球に含まれ、この開球は $W$ に含まれる。したがって
$$
H(p,t):=r\bigl((1-t)F(p)+tG_0(p)\bigr)
$$
は連続写像 $M\times[0,1]\to N$ であり、$H(\cdot,0)=r\circ F=F$、$H(\cdot,1)=r\circ G_0$ である。$G:=r\circ G_0$ は滑らかな写像の合成なので滑らかである。$\square$
近似の精度を指定した形もある(Whitney の原論文の形は Whi36 Theorem 2 (a)、p. 654。$M$、$N$ を Euclid 空間の中の解析的多様体としたうえで、任意の正の連続関数の範囲で近似している)。この形はこの記事では証明しない。
$F(x)=\lvert x\rvert$($M=\mathbb{R}$、$k=1$)は原点で微分できない。$\varepsilon>0$ に対し $G_\varepsilon(x):=\sqrt{x^2+\varepsilon^2}$ は滑らかで、
$$
0< G_\varepsilon(x)-\lvert x\rvert=\frac{\varepsilon^2}{\sqrt{x^2+\varepsilon^2}+\lvert x\rvert}\le\varepsilon
$$
なので、$\varepsilon<\delta$ となる定数 $\delta$ について $F$ の $\delta$-近似である。$A=\{\lvert x\rvert\ge1\}$、$O=\{\lvert x\rvert>\tfrac12\}$ とすると $F$ は $O$ の上で滑らかであり、thm-wapx-main は $\lvert x\rvert\ge1$ で $\lvert x\rvert$ に一致する滑らかな近似を与える。具体的には、隆起関数の記事の例「滑らかな階段関数」の $g$ を使って $\chi(x):=g(2\lvert x\rvert-1)$($\lvert x\rvert\le\tfrac12$ で $0$、$\lvert x\rvert\ge1$ で $1$、原点の近くで $0$ なので滑らか)とおき、$G:=\chi\,\lvert x\rvert+(1-\chi)\,G_\varepsilon$ とすればよい。$G$ は各点で $\lvert x\rvert$ と $G_\varepsilon(x)$ の凸結合なので、$\lvert G-F\rvert\le\varepsilon$ である。
thm-wapx-sphere-null の $m=1$、$n=2$ の場合から、連続写像 $S^1\to S^2$ はすべて定値写像にホモトピックである。たとえば、$S^2$ の赤道を $k$ 回まわる写像 $e^{i\theta}\mapsto(\cos k\theta,\sin k\theta,0)$ は、赤道を北極の側へ持ち上げて縮めることで定値写像にホモトピックになる。一方、同じ写像を $S^1$(赤道)への基点つきの閉曲線とみると、$k\ne0$ なら基点を保って定値写像にホモトピックでない(Hat02 Theorem 1.7(p. 29):$\pi_1(S^1)$ は $1$ 周する閉曲線の類で生成される無限巡回群で、$k$ 周する閉曲線はその $k$ 乗である)。終域の次元が上がると写像が縮められるようになる、という現象の最も簡単な例である。
| 外す条件・強める結論 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $F$ の連続性 | $\mathbb{R}$ 上の階段関数、$\delta\equiv\tfrac14$ | $\delta$-近似である滑らかな(連続な)写像がある |
| 許容誤差が正($\delta(x)=x^2$ のように $0$ になりうる、$\le$ で近似) | $F(x)=\lvert x\rvert$ | 近似である微分可能な写像がある |
| $F$ が $A$ の近傍で滑らか | $F(x)=\lvert x\rvert$、$A=[-1,1]$ | $A$ の上で $G=F$ となる滑らかな $G$ がある |
| 近似を実解析的に強める($A$ の上で $G=F$ も要求) | 平らに立ち上がる関数 $h$、$A=(-\infty,0]$ | $A$ の上で $G=F$ となる実解析的な近似がある |
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