Riemann–Hurwitzの公式(Riemann–Hurwitz formula)とは、コンパクト連結Riemann面の間の非定数正則写像について、定義域と終域の種数、写像の次数、分岐の総量を結ぶ等式である。局所分岐指数を $e_x$、写像の次数を $d$ とすると $2g_X-2=d(2g_Y-2)+\sum_x(e_x-1)$ となり、非分岐被覆におけるEuler標数の乗法性を分岐写像へ拡張する。帰結として種数は写像で下がらず、Riemann球面への次数 $2$ 以上の写像は必ず分岐する。超楕円曲線や Fermat 曲線の種数の計算に使われる。
コンパクトなRiemann面の間の非定数正則写像は、ほとんどすべての点の上では有限枚の被覆写像である。ただし、有限個の点では複数のシートが合流しうる。Riemann–Hurwitzの公式は、定義域と終域の種数の差を、この「合流の総量」で正確に測る。
写像の次数だけを見れば、分岐しない被覆と分岐する写像は区別できない。公式の補正項
$$
\sum_{x\in X}(e_x(f)-1)
$$
は、各点で失われたシート数を重複度つきで足し合わせたものである。この補正を入れると、Euler標数の乗法性が分岐のある場合にも回復する。
以下、$X,Y$ をコンパクトかつ連結なRiemann面、$f\colon X\to Y$ を非定数正則写像とする。非定数性とコンパクト性から $f$ は全射であり、その 被覆次数 $d:=\deg(f)$ は正の整数として定まる。
$x\in X$ と $y=f(x)$ をとる。$x,y$ の周りに適切な局所座標 $z,w$ を選ぶと、$f$ は
$$
w\circ f=z^{e_x(f)}
$$
と書ける。正の整数 $e_x(f)$ を $x$ における局所分岐指数または局所次数という。$e_x(f)>1$ である点を分岐点といい、その像を分岐値という(被覆次数 の記事の定義「局所次数」)。
分岐点と分岐値は異なる集合である。分岐点は $X$ の点であり、分岐値は $Y$ の点である。また、一つの分岐値の逆像に分岐点と非分岐点が同時に含まれることもある。
$f$ の分岐因子を
$$
\mathcal R_f:=\sum_{x\in X}\bigl(e_x(f)-1\bigr)x
$$
と定める。非定数正則写像の分岐点は孤立し、$X$ はコンパクトなので、この和で非零の項は有限個しかない。したがって $\mathcal R_f$ は有効因子であり、
$$
\deg \mathcal R_f=\sum_{x\in X}\bigl(e_x(f)-1\bigr)
$$
である。
各 $y\in Y$ について、局所次数の和は
$$
\sum_{x\in f^{-1}(y)}e_x(f)=d
$$
に等しい(被覆次数 の記事の命題「局所次数の和」)。この等式は、分岐値の上で逆像の点数が減った分を局所分岐指数が補うことを表す。
$Y$ 上の因子 $D=\sum_yn_yy$ の引き戻しを
$$
f^*D:=\sum_{y\in Y}n_y\sum_{x\in f^{-1}(y)}e_x(f)\,x
$$
で定める。
$Y$ 上の任意の因子 $D$ について $\deg f^*D=d\deg D$ である。
$D=\sum_yn_yy$(有限和)とすると、局所次数の和の等式により
$$
\deg f^*D=\sum_yn_y\sum_{x\in f^{-1}(y)}e_x(f)=\sum_yn_y\,d=d\deg D
$$
である。$\square$
$\eta$ を $Y$ 上の恒等的に $0$ でない有理型 $1$ 形式とする。任意の $x\in X$ について
$$
\operatorname{ord}_x(f^*\eta)=e_x(f)\operatorname{ord}_{f(x)}(\eta)+e_x(f)-1
$$
が成り立つ。したがって因子として $\operatorname{div}(f^*\eta)=f^*\operatorname{div}(\eta)+\mathcal R_f$ である。
$y=f(x)$、$e=e_x(f)$ とし、局所座標で $w\circ f=z^e$ と書く。$y$ の近くで $\eta=h(w)\,dw$ と書き、$h$ の $w=0$ での位数を $m$ とすると $h(w)=w^mu(w)$($u$ は $0$ で正則かつ $u(0)\neq0$)である。引き戻すと
$$
f^*\eta=h(z^e)\,d(z^e)=z^{em}u(z^e)\cdot ez^{e-1}\,dz
$$
であり、$u(z^e)$ は $z=0$ で $0$ でないので、位数は $em+e-1$ である。因子の等式は、各点 $x$ での係数が左辺では $\operatorname{ord}_x(f^*\eta)$、右辺では $e_x(f)\operatorname{ord}_{f(x)}(\eta)+(e_x(f)-1)$ であることから従う($f^*\operatorname{div}(\eta)$ の $x$ での係数は $e_x(f)\operatorname{ord}_{f(x)}(\eta)$)。$\square$
$Y$ 上の恒等的に $0$ でない有理型 $1$ 形式 $\eta$ をとる(コンパクト Riemann 面には非定数有理型関数 $\varphi$ があり、$\eta=d\varphi$ がとれる。標準因子 の記事の定義の後の段落)。$f$ は非定数なので $f^*\eta$ も $X$ 上の恒等的に $0$ でない有理型 $1$ 形式である。$K_Y:=\operatorname{div}(\eta)$、$K_X:=\operatorname{div}(f^*\eta)$ はそれぞれ $Y$、$X$ の標準因子であり、lem-riemann-hurwitz-order により
$$
K_X=f^*K_Y+\mathcal R_f
$$
である。両辺の次数をとり、lem-riemann-hurwitz-pullback-degree と標準因子の次数公式 $\deg K_X=2g_X-2$、$\deg K_Y=2g_Y-2$(標準因子 の記事の定理「標準因子の次数」)を用いると
$$
2g_X-2=d(2g_Y-2)+\deg \mathcal R_f
$$
となる。$\square$
同じ公式は三角形分割からも理解できる。$Y$ をすべての分岐値が頂点になるように三角形分割して $X$ へ引き戻すと、辺と面はそれぞれ $d$ 倍になる。頂点だけは分岐によって $\deg \mathcal R_f$ 個分だけ減るため、
$$
\chi(X)=d\chi(Y)-\deg \mathcal R_f
$$
となる。$\chi(X)=2-2g_X$、$\chi(Y)=2-2g_Y$ を代入すれば同じ公式を得る。この計数の説明は Mil17 の Remark 1.28(p. 23)にある。上の証明は、この計数の補正項を微分形式の局所計算から取り出したものである。
$f$ が非分岐、すなわちすべての $x\in X$ で $e_x(f)=1$ なら、
$$
2g_X-2=d(2g_Y-2)
$$
である。特に、$Y$ が種数 $1$ の複素トーラスなら $X$ も種数 $1$ である。
非分岐なら $\mathcal R_f=0$ であるから、Riemann–Hurwitzの公式に代入すれば最初の等式を得る。$g_Y=1$ なら右辺は $0$ なので $2g_X-2=0$、したがって $g_X=1$ である。
$d=1$ なら $\mathcal R_f=0$ であり、$f$ は双正則写像である。
任意の $y\in Y$ について
$$
1=d=\sum_{x\in f^{-1}(y)}e_x(f)
$$
である。各項は正の整数なので、各ファイバーはただ一つの点からなり、その点で $e_x(f)=1$ である。よって $f$ は全単射かつ局所双正則である。局所逆写像は正則であり、互いに一致して大域的な正則逆写像を与えるので、$f$ は双正則である。
分岐因子の次数 $\deg \mathcal R_f$ は偶数である。
Riemann–Hurwitzの公式を変形すると
$$
\deg \mathcal R_f=2g_X-2-d(2g_Y-2)
=2\bigl(g_X-1-d(g_Y-1)\bigr)
$$
であるから偶数である。
非定数正則写像 $f\colon X\to Y$ があれば $g_X\geq g_Y$ である。さらに $g_Y\geq2$ かつ $d\geq2$ なら $g_X>g_Y$ であり、より精密に $g_X-1\geq d(g_Y-1)$ である。
$g_Y=0$ なら $g_X\geq0=g_Y$ は自明である。$g_Y\geq1$ とする。$\deg\mathcal R_f\geq0$ なので公式から $2g_X-2\geq d(2g_Y-2)$、すなわち $g_X-1\geq d(g_Y-1)$ である。$g_Y-1\geq0$ かつ $d\geq1$ なので $d(g_Y-1)\geq g_Y-1$ であり、$g_X\geq g_Y$ を得る。$g_Y\geq2$、$d\geq2$ なら $d(g_Y-1)\geq2(g_Y-1)>g_Y-1$ なので $g_X>g_Y$ である。$\square$
たとえば種数 $0$ の Riemann 球面から種数 $1$ 以上の Riemann 面への非定数正則写像は存在しない。種数 $2$ の Riemann 面から種数 $2$ の Riemann 面への非定数正則写像は、次数 $1$、すなわち双正則写像に限る。
$f\colon X\to\mathbb{P}^1$ が非分岐な非定数正則写像なら、$d=1$ であり $f$ は双正則である。言い換えると、次数 $2$ 以上の正則写像 $X\to\mathbb{P}^1$ は必ず分岐し、分岐因子の次数は $2d-2+2g_X\geq2d-2$ である。
$g_{\mathbb{P}^1}=0$ なので公式は $2g_X-2=-2d+\deg\mathcal R_f$、すなわち $\deg\mathcal R_f=2g_X-2+2d$ である。非分岐なら左辺の $\deg\mathcal R_f$ は $0$ なので $2g_X=2-2d\leq0$ となり、$g_X\geq0$ と合わせて $g_X=0$、$d=1$ である。cor-riemann-hurwitz-degree-one により $f$ は双正則である。後半は同じ式で $g_X\geq0$ を使えばよい。$\square$
$f\colon\mathbb P^1\to\mathbb P^1$、$f(z)=z^n$($n\ge2$)を考える。$0$ と $\infty$ で局所分岐指数は $n$、それ以外では $1$ である。したがって
$$
\deg \mathcal R_f=(n-1)+(n-1)=2n-2.
$$
両方の種数は $0$、次数は $n$ なので、公式は
$$
-2=n(-2)+(2n-2)=-2
$$
となる。
複素トーラス $X=\mathbb C/\Lambda$ 上の $n$ 倍写像
$$
[z]\longmapsto[nz]
$$
は次数 $n^2$ の非分岐被覆である。$g_X=g_Y=1$ かつ $\mathcal R_f=0$ なので、公式の両辺はともに $0$ になる。これは「次数が $2$ 以上なら必ず分岐する」という含意を破る反例である。
$2g+2$ 個の相異なる複素数 $a_1,\ldots,a_{2g+2}$ に対し、
$$
y^2=\prod_{i=1}^{2g+2}(x-a_i)
$$
の滑らかなコンパクト化 $X$ から $\mathbb P^1$ への $x$ 座標による写像を考える。これは次数 $2$ で、$a_1,\ldots,a_{2g+2}$ の上に各1点の単純分岐をもつ。各点の寄与は $e_x(f)-1=1$ なので、
$$
\deg \mathcal R_f=2g+2.
$$
したがって
$$
2g_X-2=2(-2)+(2g+2)=2g-2,
$$
ゆえに $g_X=g$ である。$g=1$ の場合、すなわち $y^2$ が相異なる $4$ 根をもつ $4$ 次式に等しい曲線は、種数 $1$ の曲線から $\mathbb{P}^1$ への次数 $2$ の写像で、$4$ 点で分岐するものを与える。
$n\geq1$ とし、$\mathbb{P}^2$ の曲線 $X:x^n+y^n=z^n$ を考える。$F=x^n+y^n-z^n$ の偏微分 $nx^{n-1}$、$ny^{n-1}$、$-nz^{n-1}$ が同時に $0$ になるのは $x=y=z=0$ だけなので、$X$ は滑らかで、コンパクトな Riemann 面である。写像 $f\colon X\to\mathbb{P}^1$、$(x:y:z)\mapsto(x:z)$ を考える。$z=0$ の点 $(1:\zeta:0)$($\zeta^n=-1$)では $x\neq0$ なので $f$ は $X$ 全体で定義される。
アフィン座標 $x^n+y^n=1$($z=1$)で見る。$x=a$ を固定すると $y^n=1-a^n$ なので、$a^n\neq1$ なら逆像は $n$ 点、$a^n=1$ なら逆像は $(a,0)$ の $1$ 点である。$b\neq0$ の点 $(a,b)$ では $\partial F/\partial y=nb^{n-1}\neq0$ なので、陰関数定理により $x$ がその近くの局所座標になり、$f$ は局所座標で恒等写像だから $e=1$ である。よって $a^n\neq1$ の上の $n$ 点はどれも $e=1$ で、局所次数の和から $d=n$ であり、$a^n=1$ の点 $(a,0)$ では $e=n$ である(逆像が $1$ 点で局所次数の和が $n$)。$\infty=(1:0)$ の逆像は $z=0$ の $n$ 点 $(1:\zeta:0)$ で、局所次数の和が $n$ なのでどれも $e=1$ である。よって $\deg\mathcal R_f=n(n-1)$ であり、
$$
2g_X-2=n\cdot(-2)+n(n-1),\qquad g_X=\frac{(n-1)(n-2)}{2}
$$
を得る。$n=3$ で $g_X=1$、$n=4$ で $g_X=3$ である。これは次数 $n$ の滑らかな平面曲線の種数の公式と一致する(Riemann–Rochの定理 の記事の例「平面曲線の種数」)。
分岐補正は「分岐点の個数」ではなく $\sum_x(e_x(f)-1)$ である。例えば $z\mapsto z^n$ には分岐点が2点しかないが、補正項は $2$ ではなく $2n-2$ である。したがって
$$
\#\{\text{分岐点}\}=\deg \mathcal R_f
$$
という含意は、高次分岐があると破れる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| コンパクト性 | $\exp\colon\mathbb{C}\to\mathbb{C}^*$ | 有限の次数が定まらず、公式が意味をもたない |
| 非定数性 | 定数写像 | 正の有限次数が定まらない |
| 補正項の重み $e_x-1$ | $z\mapsto z^n$(分岐点 $2$ 個、$\deg\mathcal R_f=2n-2$) | 補正項を分岐点の個数で置き換えた式 |
| 次数 $2$ 以上なら分岐すること(終域が種数 $1$) | 複素トーラスの $n$ 倍写像 | 非分岐でも次数 $n^2$ になりうる |
| 標数 $0$(分離性) | 正標数の曲線の Frobenius 射 | 補正項が有効因子の次数($0$ 以上)になる形の公式 |
1 行目と 2 行目は下の注意、3 行目は rem-riemann-hurwitz-weight、4 行目は ex-riemann-hurwitz-torus で確かめた。5 行目:代数閉体 $k$(標数 $p>0$)上の曲線 $Y$ の $k$ 線形 Frobenius 射 $Y_p\to Y$ は次数 $p$ の有限射で、$Y_p$ と $Y$ は同じ種数をもつ(Har77 第 IV 章 Example 2.4.3、Proposition 2.5、p. 302)。$g\geq2$ の曲線でこの射に $2g_X-2=d(2g_Y-2)+\delta$ の形の式を当てはめると $\delta=(1-p)(2g-2)< 0$ となり、補正項は $0$ 以上の値にはなりえない。分離的でない射には公式がそのままでは当てはまらない(Har77 の Corollary 2.4 は分離的な射についての主張である)。この記事では代数曲線の場合の証明は扱わない。
コンパクト性を外すと、非定数正則写像に有限の被覆次数が定まるとは限らない。指数写像
$$
\exp\colon\mathbb C\longrightarrow\mathbb C^*
$$
は分岐しない全射正則写像だが、各ファイバーは可算無限である。これは「非コンパクトRiemann面の間の任意の非定数正則写像にも、同じ有限次数の公式がそのまま成り立つ」という含意を破る。
定数写像では一般の点の逆像が空で、像の点の逆像は $X$ 全体になるため、正の有限次数 $d$ は定まらない。また $X$ が非連結なら単一の種数 $g_X$ は定義されない。非連結な場合は各連結成分への制限を分けて扱う必要があり、定理の形をそのまま適用してはいけない。
本記事は複素Riemann面について述べている。任意標数の代数曲線へ移すときは、写像の分離性や微分の消滅、野生分岐を考慮する必要がある。正標数で同じ補正項 $e_x-1$ だけを無条件に用いてはいけない。
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