Hermite標準形

同義語:Hermite normal formエルミート標準形

概要

Hermite標準形(Hermite normal form)とは、整数行列に整数の範囲の行基本変形を施して得られる階段形のうち、各行の先頭成分(ピボット)が正で、ピボットの上の成分が $0$ 以上ピボット未満にそろえられたもののことである。どの整数行列 $A$ も、行列式 $\pm1$ の整数行列 $U$ を左から掛けてちょうど 1 つの Hermite 標準形 $UA$ にでき、2 つの行列が同じ標準形をもつことは、行ベクトルが $\mathbb{Z}^n$ の同じ部分群を生成することと同値である。そのため Hermite 標準形は $\mathbb{Z}^n$ の部分群の標準的な基底を与え、部分群の指数はピボットの積として読め、指数 $N$ の部分群の個数も数えられる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 行列, 掃き出し法, 基本変形, Euclid整域

整数を成分とする行列に、整数の範囲で行の基本変形(行の入れ替え、行の $-1$ 倍、ある行の整数倍を別の行に加えること)を施して得られる標準形を Hermite 標準形 という。体の上の 掃き出し法 では先頭成分を $1$ にできるが、整数の範囲では $2$ で割れないので、先頭成分は正の整数のまま残り、その上の成分は先頭成分で割った余りの範囲にそろえる。
行の基本変形は行ベクトルが生成する部分群 $\Lambda\subset\mathbb{Z}^n$(行の格子)を変えない。この記事の主定理は、どの整数行列もちょうど 1 つの Hermite 標準形をもつこと(thm-hnf-existence、thm-hnf-unique)であり、その結果、Hermite 標準形は $\mathbb{Z}^n$ の部分群を表す標準的な基底を与える。部分群の指数は先頭成分の積として読め(cor-hnf-index)、指数 $N$ の部分群の個数も数えられる(cor-hnf-counting)。行と列の両方の変形を使う Smith標準形 と比べると、Hermite 標準形は行の格子そのものを記録している。

定義

以下、行列の成分はすべて整数とし、$M_{m,n}(\mathbb{Z})$ を $m\times n$ 整数行列の全体とする。$\mathrm{GL}_m(\mathbb{Z})$ は $\mathbb{Z}$ 上可逆な $m$ 次整数行列、すなわち行列式が $\pm1$ の整数行列の群である(一般線形群 の記事の命題「行列式による可逆性の判定」)。$\mathbb{Z}^n$ の元は行ベクトルとして扱う。

Hermite標準形

$H\in M_{m,n}(\mathbb{Z})$ が Hermite 標準形(Hermite normal form)であるとは、ある $r$($0\le r\le m$)と列の番号 $1\le j_1< j_2< \cdots< j_r\le n$ について次が成り立つことをいう。

  1. 第 $r+1$ 行から第 $m$ 行までは $0$ である。
  2. $i\le r$ について、第 $i$ 行の成分は第 $j_i$ 列より左ではすべて $0$ で、$p_i:=H_{i,j_i}$ は正の整数である。
  3. $k< i\le r$ について $0\le H_{k,j_i}< p_i$ である。
    $j_i$ を ピボット列、$p_i$ を ピボット という。$A\in M_{m,n}(\mathbb{Z})$ に対し、$UA$($U\in\mathrm{GL}_m(\mathbb{Z})$)の形の Hermite 標準形を $A$ の Hermite 標準形という。

条件 2 と $j_1< \cdots< j_r$ から、ピボットの下の成分はすべて $0$ である($k>i$ なら第 $k$ 行は第 $j_k>j_i$ 列より左で $0$)。したがって Hermite 標準形は階段形で、ピボットの上の成分は $0$ 以上ピボット未満にそろえてある。体の上の簡約階段形(掃き出し法 の記事の定義「行基本変形・行同値・簡約階段形」)では先頭成分が $1$ で、その上は $0$ である。

行の格子

$A\in M_{m,n}(\mathbb{Z})$ の行ベクトル $a_1,\dots,a_m$ が生成する $\mathbb{Z}^n$ の部分群
$$ \Lambda(A):=\{c_1a_1+\cdots+c_ma_m\mid c_1,\dots,c_m\in\mathbb{Z}\}=\{cA\mid c\in\mathbb{Z}^m\} $$
を $A$ の 行の格子 という。

$U\in\mathrm{GL}_m(\mathbb{Z})$ なら $\Lambda(UA)=\Lambda(A)$ である。実際、$UA$ の行は $A$ の行の整数係数の結合なので $\Lambda(UA)\subset\Lambda(A)$ であり、$A=U^{-1}(UA)$ から逆の包含も成り立つ。
基本変形 の記事の系「体と整数環の場合」により、$\mathrm{GL}_m(\mathbb{Z})$ は基本行列で生成される。したがって「$B=UA$ となる $U\in\mathrm{GL}_m(\mathbb{Z})$ がある」ことは「$A$ に整数の範囲の行基本変形を有限回施して $B$ が得られる」ことと同じである。

直感

$\mathbb{Z}^n$ の部分群 $\Lambda$ を、それを生成するベクトルの組で表すと、表し方はいくらでもある。たとえば $(1,0),(0,2)$ と $(1,2),(3,4)$ はどちらも同じ部分群 $\{(a,b)\mid b\text{ は偶数}\}$ を生成する。2 つの表し方が同じ部分群を与えるかどうかを判定するには、表し方を 1 つに決める規則があればよい。
Hermite 標準形はその規則である。第 1 座標に現れる値の全体 $\{x_1\mid x\in\Lambda\}$ は $\mathbb{Z}$ の部分群なので $p_1\mathbb{Z}$ の形をしており、$p_1$ を第 1 座標にもつベクトルを第 1 行に置く。次に第 1 座標が $0$ のベクトルの中で同じことをする。こうして得た階段形の基底のうち、上の行に下の行の整数倍を足しても同じ部分群が得られるので、ピボットの上の成分を余りの範囲にそろえて 1 つに決める。この手順は、各座標で Euclid の互除法を使う掃き出し法である。

簡約階段形(体の上)Hermite 標準形($\mathbb{Z}$ の上)Smith 標準形($\mathbb{Z}$ の上)
使う変形行の基本変形行の基本変形行と列の基本変形
ピボット$1$正の整数対角成分 $d_1\mid d_2\mid\cdots$
ピボットの上$0$$0$ 以上ピボット未満$0$
定まるもの行空間行の格子 $\Lambda(A)$商 $\mathbb{Z}^n/\Lambda(A)$ の同型類

例

3 次の整数行列の Hermite 標準形

$$ A=\begin{pmatrix}2&3&6\\4&5&2\\6&7&2\end{pmatrix} $$
とする。行を $R_1,R_2,R_3$ と書く。

  • 第 1 列:$R_2-2R_1=(0,-1,-10)$、$R_3-3R_1=(0,-2,-16)$。ピボットは $p_1=2$。
  • 第 2 列:第 2・3 行の第 2 成分は $-1,-2$ なので、$R_3-2R_2=(0,0,4)$、$R_2$ を $-1$ 倍して $(0,1,10)$。ピボットは $p_2=1$。上の成分 $3$ を $1$ で割った余りにするため $R_1-3R_2=(2,0,-24)$。
  • 第 3 列:ピボットは $p_3=4$。$R_1+6R_3=(2,0,0)$、$R_2-2R_3=(0,1,2)$ として上の成分を $0$ 以上 $4$ 未満にする。
    結果は
    $$ H=\begin{pmatrix}2&0&0\\0&1&2\\0&0&4\end{pmatrix} $$
    である。$\det A=-8$ で、$\det H=8=2\cdot1\cdot4$ であり、cor-hnf-index により $\Lambda(A)$ の $\mathbb{Z}^3$ での指数は $8$ である。有理数の範囲で掃き出せば $A$ の簡約階段形は単位行列 $I_3$ になるが、それでは $\Lambda(A)\ne\mathbb{Z}^3$ であることが見えない。
階数が行の数より小さい場合

$A=\begin{pmatrix}4&6&2\\6&9&3\end{pmatrix}$ では、第 2 行は第 1 行の $\frac32$ 倍である。第 1 列で互除法を行うと $R_2-R_1=(2,3,1)$、$R_1-2(R_2-R_1)=(0,0,0)$ となり、行を入れ替えて
$$ H=\begin{pmatrix}2&3&1\\0&0&0\end{pmatrix} $$
を得る。$r=1$、$j_1=1$、$p_1=2$ である。$\Lambda(A)=\mathbb{Z}\cdot(2,3,1)$ であり、$(2,3,1)$ は $(4,6,2)$ と $(6,9,3)$ の最大公約数にあたる。

主定理 1:存在

Hermite 標準形の存在

任意の $A\in M_{m,n}(\mathbb{Z})$ に対し、$U\in\mathrm{GL}_m(\mathbb{Z})$ で $UA$ が Hermite 標準形になるものがある。$U$ は基本行列の積としてとれる。

列ごとに互除法で掃き出す

列を左から順に処理し、次の状態を保つ:第 $j-1$ 列まで処理し終えたとき、ある $t$ について、第 $1$ 行から第 $t$ 行までの部分は第 $j-1$ 列までについて定義の条件 2・3 を満たし(ピボット列はすべて $j-1$ 以下)、第 $t+1$ 行から第 $m$ 行までは第 $1$ 列から第 $j-1$ 列まですべて $0$ である。最初は $j=1$、$t=0$ でこの状態にある。
第 $j$ 列を処理する。第 $t+1$ 行から第 $m$ 行までの第 $j$ 成分がすべて $0$ なら、何もしないで次の列に進む。そうでないとき、この成分を並べた列ベクトルに 基本変形 の記事の補題「列の Euclid の互除法」を当てると(成分が 1 つだけなら何もしない)、(iii) 型の基本行列の積 $E$ で第 $j$ 成分が $(d,0,\dots,0)^{\top}$($d\ne0$)になるものがある。$E$ を第 $t+1$ 行から第 $m$ 行までに施す($\operatorname{diag}(I_t,E)$ を左から掛ける)。これらの行は第 $j-1$ 列まで $0$ だったので、その整数係数の結合もそこまで $0$ である。$d<0$ なら第 $t+1$ 行を $-1$ 倍する。こうして第 $t+1$ 行は第 $j$ 列に正の成分 $p:=|d|$ をもち、その左は $0$、その下の第 $j$ 成分は $0$ になる。
次に $k\le t$ について、第 $k$ 行の第 $j$ 成分 $a$ を $a=\lfloor a/p\rfloor p+b$($0\le b< p$)と割り、第 $k$ 行から第 $t+1$ 行の $\lfloor a/p\rfloor$ 倍を引く。第 $t+1$ 行は第 $j-1$ 列まで $0$ なので、第 $k$ 行の第 $j-1$ 列までの成分は変わらず、すでに満たしていた条件 3 は壊れない。第 $j$ 成分は $b$ になる。$j_{t+1}:=j$ とし、$t$ を $t+1$ に進めると、第 $j$ 列まで状態が保たれる。
すべての列を処理すると、第 $t+1$ 行以下は $0$ で、第 $1$ 行から第 $t$ 行は条件 2・3 を満たすので、Hermite 標準形を得る($r=t$)。使った変形はすべて基本行列を左から掛けることなので、その積を $U$ とすればよい。$\square$

主定理 2:一意性

一意性は、Hermite 標準形の行が行の格子からどのように読み取れるかを見ると分かる。$\Lambda\subset\mathbb{Z}^n$ と $1\le j\le n$ について
$$ \Lambda_{\ge j}:=\{x\in\Lambda\mid x_1=\cdots=x_{j-1}=0\} $$
とおく。

Hermite 標準形の行の性質

$H$ を Hermite 標準形、$h_1,\dots,h_r$ をその $0$ でない行とし、$\Lambda=\Lambda(H)$ とする。

  1. $x=\sum_{i=1}^rc_ih_i\ne0$($c_i\in\mathbb{Z}$)について、$c_i\ne0$ となる最小の $i$ を $i_0$ とすると、$x$ の第 $j_{i_0}$ 列より左の成分は $0$ で、第 $j_{i_0}$ 成分は $c_{i_0}p_{i_0}$ である。とくに $h_1,\dots,h_r$ は $\Lambda$ の基底であり、$\Lambda$ は階数 $r$ の自由アーベル群である。
  2. $\Lambda_{\ge j}$ は $j_i\ge j$ となる $h_i$ の全体で生成される。
  3. $\{x_j\mid x\in\Lambda_{\ge j}\}$ は、$j=j_i$ ならば $p_i\mathbb{Z}$、$j$ がピボット列でなければ $\{0\}$ である。
最初の 0 でない係数を見る

1:$i< i_0$ では $c_i=0$ であり、$i\ge i_0$ の $h_i$ は第 $j_i\ge j_{i_0}$ 列より左で $0$ なので、$x$ も第 $j_{i_0}$ 列より左で $0$ である。第 $j_{i_0}$ 列では、$i>i_0$ の $h_i$ の成分はピボットの下なので $0$ であり、$x_{j_{i_0}}=c_{i_0}p_{i_0}\ne0$ である。よって $\sum c_ih_i=0$ ならすべての $c_i=0$ で、$h_1,\dots,h_r$ は線形独立である。$\Lambda$ を生成するので基底である。
2:$x=\sum c_ih_i\in\Lambda_{\ge j}$ で $x\ne0$ なら、1 の $i_0$ について $x_{j_{i_0}}\ne0$ なので $j_{i_0}\ge j$ であり、$c_i\ne0$ となる $i$ はすべて $j_i\ge j_{i_0}\ge j$ を満たす。逆に $j_i\ge j$ なら $h_i\in\Lambda_{\ge j}$ である。
3:2 により $x\in\Lambda_{\ge j}$ は $j_i\ge j$ の $h_i$ の結合である。$j_i>j$ の $h_i$ は第 $j$ 成分が $0$ なので、$j$ がピボット列でなければ $x_j=0$ であり、$j=j_i$ なら $x_j=c_ip_i$ である。$h_i$ 自身が $p_i$ を与えるので、集合は $p_i\mathbb{Z}$ である。$\square$

Hermite 標準形の一意性

$H$、$H'$ を同じ大きさの Hermite 標準形とする。$\Lambda(H)=\Lambda(H')$ なら $H=H'$ である。したがって、$A,B\in M_{m,n}(\mathbb{Z})$ について次の 3 条件は同値である。

  1. $B=UA$ となる $U\in\mathrm{GL}_m(\mathbb{Z})$ がある。
  2. $\Lambda(A)=\Lambda(B)$ である。
  3. $A$ と $B$ の Hermite 標準形は等しい。
    とくに $A$ の Hermite 標準形はただ 1 つである。
ピボットを格子から読み、行の差を余りの範囲で消す

$\Lambda:=\Lambda(H)=\Lambda(H')$ とする。lem-hnf-rows の 3 により、ピボット列の集合は「$\{x_j\mid x\in\Lambda_{\ge j}\}\ne\{0\}$ となる $j$ の全体」であり、ピボットはその部分群の正の生成元である。これは $\Lambda$ だけで決まるので、$H$ と $H'$ は $r$、ピボット列 $j_1< \cdots< j_r$、ピボット $p_1,\dots,p_r$ が一致する。$m-r$ 個の $0$ の行も一致する。
$i\le r$ を固定し、$H$、$H'$ の第 $i$ 行を $h_i$、$h'_i$ として $x:=h_i-h'_i\in\Lambda$ とおく。$h_i$ と $h'_i$ はどちらも第 $j_i$ 列より左で $0$、第 $j_i$ 成分が $p_i$ なので、$x$ は第 $j_i$ 列まで $0$ である。$j_i=n$ ならこれで $x=0$ であり、$j_i< n$ なら $x\in\Lambda_{\ge j_i+1}$ である。lem-hnf-rows の 2 により $x=\sum_{k>i}c_kh_k$ と書ける。$x\ne0$ と仮定し、$c_k\ne0$ となる最小の $k$ を $k_0$ とする。lem-hnf-rows の 1 により $x_{j_{k_0}}=c_{k_0}p_{k_0}$ は $p_{k_0}$ の $0$ でない倍数である。一方 $k_0>i$ なので、定義の条件 3 により $0\le H_{i,j_{k_0}}< p_{k_0}$、$0\le H'_{i,j_{k_0}}< p_{k_0}$ で、差の絶対値 $|x_{j_{k_0}}|$ は $p_{k_0}$ 未満である。これは矛盾なので $x=0$、$h_i=h'_i$ である。よって $H=H'$ である。
同値性:1 ⇒ 2 は定義のあとで示した。2 ⇒ 3:$A$、$B$ の Hermite 標準形 $H_A$、$H_B$ は $\Lambda(H_A)=\Lambda(A)=\Lambda(B)=\Lambda(H_B)$ を満たすので、前半により等しい。3 ⇒ 1:$H=U_1A=U_2B$ なら $B=U_2^{-1}U_1A$ である。$\square$

この定理により、2 つの整数行列の行が同じ部分群を生成するかどうかは、Hermite 標準形を計算して比べれば判定できる。また $v\in\mathbb{Z}^n$ が $\Lambda(A)$ に属するかどうかも判定できる。$v$ の第 $j_1$ 成分が $p_1$ で割り切れれば $h_1$ の整数倍を引いてその成分を $0$ にし、次に第 $j_2$ 成分について同じことを繰り返す。lem-hnf-rows の 1 により、$v\in\Lambda(A)$ であることは、各段で割り切れて最後に $0$ が残ることと同値である。

部分群の指数と個数

$\mathbb{Z}^n$ の部分群 $\Lambda$ が有限生成なら、生成元を行に並べた行列 $A$ について $\Lambda=\Lambda(A)$ であり、thm-hnf-unique により $\Lambda$ は $r$ 行の Hermite 標準形の行をただ 1 組の基底としてもつ。この基底を $\Lambda$ の Hermite 基底 と呼ぶことにする。$\mathbb{Z}^n$ の部分群がつねに有限生成で階数 $n$ 以下の自由アーベル群であることは 自由アーベル群 の記事の命題「有限階数の自由アーベル群の部分群」にある。

部分群の指数とピボットの積

$\Lambda\subset\mathbb{Z}^n$ を階数 $n$ の部分群とし、その Hermite 基底を行とする $n$ 次の Hermite 標準形を $H$ とする。$H$ は対角成分がピボット $p_1,\dots,p_n$ の上三角行列で、
$$ [\mathbb{Z}^n:\Lambda]=p_1p_2\cdots p_n=\det H $$
である。とくに $A\in M_n(\mathbb{Z})$ が $\det A\ne0$ を満たせば $[\mathbb{Z}^n:\Lambda(A)]=|\det A|$ である。

余りの範囲の代表を数える

$r=n$ でピボット列は $n$ 列のうちの $n$ 個なので $j_i=i$ であり、$H$ は上三角で対角成分が $p_i$ である。集合 $R:=\{y\in\mathbb{Z}^n\mid 0\le y_j< p_j\ (1\le j\le n)\}$ が $\mathbb{Z}^n/\Lambda$ の完全代表系であることを示す。
代表の存在:$x\in\mathbb{Z}^n$ に対し、$j=1,2,\dots,n$ の順に、第 $j$ 成分を $p_j$ で割った商の分だけ $h_j$($H$ の第 $j$ 行)を引く。$h_j$ は第 $j$ 列より左で $0$ なので、すでにそろえた第 $1$ 成分から第 $j-1$ 成分は変わらない。最後に $R$ の元 $y$ で $x-y\in\Lambda$ となるものを得る。
一意性:$y,y'\in R$、$y\ne y'$、$y-y'\in\Lambda$ とすると、lem-hnf-rows の 1 により、$y-y'=\sum c_kh_k$ の $0$ でない係数のうち最小の番号 $k_0$ について、第 $k_0$ 成分 $y_{k_0}-y'_{k_0}$ は $p_{k_0}$ の $0$ でない倍数である。しかし $|y_{k_0}-y'_{k_0}|< p_{k_0}$ なので矛盾する。
よって $[\mathbb{Z}^n:\Lambda]=|R|=p_1\cdots p_n=\det H$ である。$\det A\ne0$ なら $\Lambda(A)$ の Hermite 標準形 $H=UA$ は階数 $n$ で、$\det U=\pm1$ から $|\det A|=\det H$ である。$\square$

この等式は 格子(群) の記事の定理「部分格子の指数と体積」で、大きいほうの格子を $\mathbb{Z}^n$、部分格子をこの記事の $\Lambda$ とした場合にあたる。そこでは体積の比として示されている。

指数 $N$ の部分群の個数

$n\ge1$、$N\ge1$ とする。$\mathbb{Z}^n$ の指数 $N$ の部分群の個数は
$$ \sum_{p_1p_2\cdots p_n=N}\ \prod_{j=1}^np_j^{\,j-1} $$
である。和は $p_1\cdots p_n=N$ となる正の整数の組 $(p_1,\dots,p_n)$ の全体にわたる。とくに $n=2$ では、$N$ の正の約数の和 $\sigma(N)$ に等しい。

上三角の成分の選び方を数える

$\Lambda$ の指数が $N$ なら、Lagrangeの定理 の記事の系「元の位数」により $\mathbb{Z}^n/\Lambda$ の元の位数は $N$ を割るので $N\mathbb{Z}^n\subset\Lambda$ であり、$\Lambda$ は階数 $n$ である。thm-hnf-unique と cor-hnf-index により、指数 $N$ の部分群は、対角成分の積が $N$ の $n$ 次 Hermite 標準形と一対一に対応する。対角成分 $p_1,\dots,p_n$ を決めると、第 $j$ 列の対角より上の $j-1$ 個の成分はそれぞれ $0,1,\dots,p_j-1$ の $p_j$ 通りに選べ、ほかの成分は $0$ である。よって個数は $\prod_jp_j^{j-1}$ で、これを和にとればよい。$n=2$ では $p_2$ が $N$ の約数全体を動くので和は $\sigma(N)$ である。$\square$

指数 2 の部分群

$n=2$、$N=2$ のとき、対角成分の積が $2$ の Hermite 標準形は
$$ \begin{pmatrix}1&0\\0&2\end{pmatrix},\qquad\begin{pmatrix}1&1\\0&2\end{pmatrix},\qquad\begin{pmatrix}2&0\\0&1\end{pmatrix} $$
の $3=\sigma(2)$ 個で、それぞれ部分群 $\{b\text{ が偶数}\}$、$\{a\equiv b\pmod2\}$、$\{a\text{ が偶数}\}$($(a,b)\in\mathbb{Z}^2$)に対応する。$n=3$ では、指数 $N=1,2,\dots,8$ の部分群の個数は $1,7,13,35,31,91,57,155$ になる。

仮定を外したときの反例

各行は定理の条件を 1 つだけ外す。

外す条件反例成り立たなくなること
ピボットが正(定義の条件 2)$1\times1$ 行列 $(1)$ と $(-1)$一意性(thm-hnf-unique)
ピボットの上が $0$ 以上ピボット未満(定義の条件 3)$\begin{pmatrix}1&0\\0&2\end{pmatrix}$ と $\begin{pmatrix}1&2\\0&2\end{pmatrix}$一意性(thm-hnf-unique)
$U$ が $\mathbb{Z}$ 上可逆$A=(1)$、$U=(2)$($\mathbb{Q}$ 上でだけ可逆)$UA$ と $A$ の Hermite 標準形が等しいこと(thm-hnf-unique の 1 ⇒ 3)
成分が $\mathbb{Z}$(rem-hnf-variants の Euclid 整域・単項イデアル整域でもよい)の元$R=\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$、列ベクトル $(2,\ 1+\sqrt{-5})^{\top}$左から可逆行列を掛けて階段形 $(d,0)^{\top}$ にできること(thm-hnf-existence の証明の第 1 段)
反例の確かめ
各行の確かめを開く

1 行目:$(-1)=(-1)\cdot(1)$ で $-1\in\mathrm{GL}_1(\mathbb{Z})$ なので行の格子はどちらも $\mathbb{Z}$ であり、条件 2 の「正」を外すと両方が標準形の候補になる。

2 行目:$(1,2)-(0,2)=(1,0)$ なので行の格子は同じ $\{(a,b)\mid b\text{ は偶数}\}$ である。右の行列は条件 3($0\le H_{1,2}< p_2=2$)を満たさない。

3 行目:$(1)$ と $(2)$ はどちらも Hermite 標準形で、行の格子 $\mathbb{Z}$ と $2\mathbb{Z}$ は異なる。

4 行目:可逆な $U$ を左から掛けると、成分はもとの成分の $R$ 係数の結合になり、逆も成り立つので、成分が生成するイデアルは変わらない。$(d,0)^{\top}$ になればイデアル $I=(2,1+\sqrt{-5})$ は単項イデアル $(d)$ になる。$a+b\sqrt{-5}$ の形の元のうち $a\equiv b\pmod2$ を満たすものの全体は加法と $R$ の元の掛け算で閉じ、$2$ と $1+\sqrt{-5}$ を含むので $I$ を含み、$1$ を含まないので $I\ne R$ である。$I=(d)$ なら、ノルム $N(a+b\sqrt{-5})=a^2+5b^2$ について $N(d)$ は $N(2)=4$ と $N(1+\sqrt{-5})=6$ を割るので $N(d)\in\{1,2\}$ であり、$a^2+5b^2=2$ は整数解をもたないので $N(d)=1$、$d$ は単元で $I=R$ となり矛盾する。

補足

列で定める流儀と、単項イデアル整域・Dedekind 整域の上の一般化

列の基本変形(右から $\mathrm{GL}_n(\mathbb{Z})$ の元を掛けること)を使い、列ベクトルが生成する部分群を表す下三角の形を Hermite 標準形と呼ぶ文献も多い。$A$ を転置すればこの記事の形と同じ内容になる。
$\mathbb{Z}$ の代わりに Euclid 整域を使っても、thm-hnf-existence の証明はそのまま通る。ピボットを単元倍の代表系から選び、ピボットの上の成分を剰余の代表系から選ぶと決めれば、thm-hnf-unique の証明も同じように通る。単項イデアル整域では互除法の代わりに、$a,b$ の最大公約元 $d=ua+vb$ について行列式 $1$ の行列 $\begin{pmatrix}u&v\\-b/d&a/d\end{pmatrix}$ を左から掛けて $(a,b)^{\top}$ を $(d,0)^{\top}$ にすればよい。Dedekind 整域の上の格子では基底があるとは限らず、係数のイデアルを付けた三角形の分解が Hermite 標準形の代わりになる(Voi21 Theorem 9.3.6、p. 142。この記事では証明しない)。

文献

Voi21 §17.2.1・Proposition 17.2.2(p. 279)は単項イデアル整域の上の行の変形による Hermite 標準形を、整数行列を含む行列環のイデアルの計算に使っている。この記事の定義・定理・系は、引用した記事の命題を除いてすべて記事の中で証明した。ex-hnf-index-two の $n=3$ の個数は cor-hnf-counting の式から計算した値である。

関連項目

参考文献

[1]
John Voight, Quaternion Algebras (Graduate Texts in Mathematics 288), 1st ed., Springer, 2021, Theorem 9.3.6(§9.3、p. 142:Dedekind 整域の上の格子の三角形の分解と Hermite 標準形)、§17.2.1・Proposition 17.2.2(p. 279:単項イデアル整域の上の行の変形による Hermite 標準形の利用)

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