Eisenstein多項式

同義語:アイゼンシュタイン多項式Eisenstein polynomial

概要

Eisenstein多項式(Eisenstein polynomial)とは、離散付値環を係数とするモニック多項式で、最高次以外の係数がすべて極大イデアルに属し、定数項の付値がちょうど $1$ であるものである。Eisenstein 多項式は商体上既約で、その根 $\alpha$ を添加した環は $\alpha$ を一意化元とする離散付値環になり、係数環の整閉包に一致するので、根は完全分岐する拡大を生成する。逆に、係数環の整閉包が離散付値環で完全分岐する拡大では、一意化元の最小多項式は Eisenstein 多項式である。代数体では、素数 $p$ について Eisenstein な整数係数のモニック多項式の根を添加すると $p$ が完全分岐し、整数環と生成元の環の指数が $p$ で割り切れないことが従う。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 離散付値環, 整拡大, 整閉包, 既約多項式

Eisenstein 多項式(Eisenstein polynomial)とは、離散付値環 $\mathcal{O}_K$ を係数とするモニック多項式
$$ E(X)=X^n+a_{n-1}X^{n-1}+\dots+a_1X+a_0 $$
で、最高次以外の係数 $a_0,\dots,a_{n-1}$ がすべて極大イデアルに属し、定数項 $a_0$ の付値がちょうど $1$ であるもののことである。たとえば $p$ を素数とすると、$X^n-p$ や $X^2+pX+p$ は $\mathbb{Z}_{(p)}$(p進数体 の整数環 $\mathbb{Z}_p$ でもよい)の上の Eisenstein 多項式である。
この記事の主定理は次の 2 つである。

  1. Eisenstein 多項式 $E$ は $K$ 上既約であり、根 $\alpha$ を添加した環 $\mathcal{O}_K[\alpha]$ はそれ自身が離散付値環で、$\alpha$ がその一意化元、剰余体は $\mathcal{O}_K$ と同じである。$\mathcal{O}_K[\alpha]$ は $\mathcal{O}_K$ の $K(\alpha)$ における整閉包であり、$K$ の一意化元は $K(\alpha)$ では $\alpha^n$ と単元倍の違いしかない。すなわち拡大 $K(\alpha)/K$ は完全分岐する。
  2. 逆に、$\mathcal{O}_K$ の整閉包が離散付値環で完全分岐する拡大では、その一意化元の最小多項式は Eisenstein 多項式である。
    どちらも $\mathcal{O}_K$ が完備であることを仮定しない。$p$ 進数体などの完備な場合には、完全分岐拡大とは Eisenstein 多項式の根で生成される拡大にほかならない(不分岐拡大と完全分岐拡大 で、有限次拡大を不分岐拡大と完全分岐拡大に分ける)。代数体では、ある素数 $p$ について Eisenstein である整数係数のモニック多項式の根 $\alpha$ について、$p$ が $\mathbb{Q}(\alpha)$ で完全分岐し、整数環と $\mathbb{Z}[\alpha]$ の指数が $p$ で割り切れないことが従う。
    一意分解整域上の多項式の既約性の判定法「Eisenstein の判定法」(既約多項式 の記事の定理「Eisenstein の判定法」)のうち、整数係数のモニック多項式の場合は、主定理 1 の既約性の主張を $\mathcal{O}_K=\mathbb{Z}_{(p)}$ に使ったものにあたる。この記事では、既約性に加えて、根が生成する環と分岐の様子までを扱う。

定義

以下、$K$ を体、$v_K\colon K^\times\to\mathbb{Z}$ を全射な離散付値、$\mathcal{O}_K$ をその離散付値環、$\mathfrak{m}_K=(\pi_K)$ を極大イデアル($\pi_K$ は一意化元)、$k=\mathcal{O}_K/\mathfrak{m}_K$ を剰余体とする。$K$ が完備であることも、$k$ が有限体であることも仮定しない。

Eisenstein多項式

次数 $n\ge1$ のモニック多項式 $E(X)=X^n+a_{n-1}X^{n-1}+\dots+a_0\in\mathcal{O}_K[X]$ が Eisenstein 多項式であるとは、
$$ a_0,a_1,\dots,a_{n-1}\in\mathfrak{m}_K,\qquad v_K(a_0)=1 $$
が成り立つことをいう。素数 $p$ と整数係数のモニック多項式について、$\mathcal{O}_K=\mathbb{Z}_{(p)}$($\mathbb{Q}$ の $p$ 進付値の付値環)の上で Eisenstein であるとき、$p$ について Eisenstein であるという。

$p$ について Eisenstein であるとは、最高次以外の係数がすべて $p$ で割り切れ、定数項が $p^2$ で割り切れないことである。
拡大の分岐を、整閉包の言葉で定める。$L/K$ を次数 $n$ の有限次拡大とし、$\mathcal{O}_L$ を $\mathcal{O}_K$ の $L$ における整閉包とする。

離散付値環上の完全分岐

$L/K$ が $\mathcal{O}_K$ 上完全分岐する(totally ramified)とは、$\mathcal{O}_L$ が離散付値環であり、その正規化された付値 $v_L$ について
$$ v_L(\pi_K)=[L:K] $$
が成り立つことをいう。

このとき $a=\pi_K^mu\in K^\times$($u\in\mathcal{O}_K^\times\subset\mathcal{O}_L^\times$)について $v_L(a)=n\,m=n\,v_K(a)$ である。$K$ が完備なら、$\mathcal{O}_L$ はつねに離散付値環で $\mathcal{O}_K$ 上階数 $n$ の自由加群であり、分岐指数 $e$ と剰余次数 $f$ について $ef=n$ が成り立つ(Ser79 Chapter II, §2, Proposition 3 と Corollary 1、pp. 28–29。この記事では証明しない)。したがって完備な場合、上の定義は $e=[L:K]$、すなわち剰余体が大きくならないことと同じであり、局所体 の上では 不分岐拡大と完全分岐拡大 の定義と一致する。

直感

$E(\alpha)=0$ を $\alpha^n=-(a_{n-1}\alpha^{n-1}+\dots+a_1\alpha+a_0)$ と書き直すと、右辺の各項は $\pi_K$ の倍数で、とくに定数項は $\pi_K$ のちょうど単元倍である。したがって大まかには「$\alpha^n$ は $\pi_K$ の単元倍」であり、$\alpha$ は一意化元の $n$ 乗根のようにふるまう。付値でいえば $\alpha$ の付値は $1/n$ で、$K$ の付値の目盛りが $n$ 等分される。これが完全分岐である。
$K=\mathbb{Q}_p$、$E=X^2-p$ なら $\alpha=\sqrt p$ であり、$p=\alpha^2$ と分かれる。Newton多角形 で見ると、Eisenstein 多項式の Newton 多角形は点 $(0,1)$ と $(n,0)$ を結ぶ線分 1 本であり、根の付値がすべて $1/n$ であることを表している。

主定理:Eisenstein 多項式が生成する環

Eisenstein多項式が定める拡大

$E(X)=X^n+a_{n-1}X^{n-1}+\dots+a_0\in\mathcal{O}_K[X]$ を Eisenstein 多項式とし、$B:=\mathcal{O}_K[X]/(E)$、$\alpha\in B$ を $X$ の像とする。このとき次が成り立つ。

  1. $B$ は $1,\alpha,\dots,\alpha^{n-1}$ を基底とする自由 $\mathcal{O}_K$ 加群である。
  2. $B$ は離散付値環で、$\alpha$ がその一意化元であり、剰余体 $B/\alpha B$ は $k$ に等しい。
  3. $E$ は $K$ 上既約である。$B$ の商体 $L$ は $K[X]/(E)=K(\alpha)$ で、$[L:K]=n$ である。
  4. $B=\mathcal{O}_K[\alpha]$ は $\mathcal{O}_K$ の $L$ における整閉包であり、$L/K$ は $\mathcal{O}_K$ 上完全分岐する。さらに $\pi_K=\alpha^n\varepsilon^{-1}$ となる単元 $\varepsilon\in B^\times$ がある。
    とくに、$E$ の根 $\alpha$ を $K$ の代数閉包の中にとると、$\mathcal{O}_K[\alpha]$ は $\mathcal{O}_K$ の $K(\alpha)$ における整閉包で、$\alpha$ を一意化元とする離散付値環である。

段 1:自由加群であること。 $E$ はモニックなので、$\mathcal{O}_K[X]$ の任意の元は $E$ で割った余りとして次数 $n$ 未満の多項式にただ 1 通りに書ける。よって $B=\bigoplus_{i=0}^{n-1}\mathcal{O}_K\alpha^i$ である。とくに $\mathcal{O}_K\to B$ は単射で、$0$ でない $c\in\mathcal{O}_K$ について $c\cdot1\ne0$ である。
段 2:$\alpha B$ は剰余体 $k$ の極大イデアル。
$$ B/\alpha B\cong\mathcal{O}_K[X]/(E,X)=\mathcal{O}_K/(a_0)=\mathcal{O}_K/\mathfrak{m}_K=k $$
である($E\equiv a_0\pmod X$、$v_K(a_0)=1$ より $(a_0)=\mathfrak{m}_K$)。体なので $\alpha B$ は極大イデアルである。
段 3:$B$ は局所環。 $B$ はモニック多項式 $E$ の根 $\alpha$ で $\mathcal{O}_K$ 上生成されるので、$\mathcal{O}_K\subset B$ は整拡大である。$M$ を $B$ の任意の極大イデアルとすると、整拡大 の記事の系「極大イデアルの縮約」により $M\cap\mathcal{O}_K$ は $\mathcal{O}_K$ の極大イデアル $\mathfrak{m}_K$ である。よって $a_0,\dots,a_{n-1}\in M$ で、$\alpha^n=-\sum_{i< n}a_i\alpha^i\in M$ となり、$M$ は素イデアルなので $\alpha\in M$ である。段 2 より $\alpha B$ は極大なので $M=\alpha B$ である。したがって $B$ は $\alpha B$ をただ 1 つの極大イデアルとする局所環であり、$\alpha B$ に属さない元はすべて単元である。
段 4:$\alpha^n$ は $\pi_K$ の単元倍。 $a_0=\pi_Ku_0$($u_0\in\mathcal{O}_K^\times$)、$1\le i\le n-1$ について $a_i=\pi_Kb_i$($b_i\in\mathcal{O}_K$)と書くと
$$ \alpha^n=\pi_K\,\varepsilon,\qquad \varepsilon:=-\Bigl(u_0+\sum_{i=1}^{n-1}b_i\alpha^i\Bigr) $$
である。$\varepsilon\equiv-u_0\pmod{\alpha B}$ で、$-u_0$ の像は $k^\times$ に属するので $\varepsilon\notin\alpha B$、段 3 より $\varepsilon\in B^\times$ である。
段 5:$\bigcap_m\alpha^mB=0$。 段 4 より $\alpha^{nm}B=\pi_K^mB=\bigoplus_i\pi_K^m\mathcal{O}_K\alpha^i$ である。すべての $m$ についてこれに属する元の係数は $\bigcap_m\mathfrak{m}_K^m$ に属し、これは 離散付値環 の記事の命題「離散付値環の基本構造」の 4 により $0$ である。
段 6:$B$ は離散付値環。 $0$ でない $b\in B$ をとる。段 5 により $b\in\alpha^mB$ となる最大の $m\ge0$ があり、$b=\alpha^mw$ と書くと $w\notin\alpha B$ なので $w\in B^\times$ である。また $\alpha$ は冪零でない:$\alpha^{nm}=\pi_K^m\varepsilon^m$ で $\varepsilon^m$ は単元、段 1 より $\pi_K^m\cdot1\ne0$ だからである。したがって $0$ でない 2 元 $b=\alpha^mw$、$c=\alpha^lw'$ の積 $\alpha^{m+l}ww'$ は $0$ でなく、$B$ は整域である。$0$ でないイデアル $I$ は、その元の上の表示に現れる $m$ の最小値を $m_0$ とすると $I=\alpha^{m_0}B$ である。よって $B$ は局所環である単項イデアル整域で、$\alpha$ は単元でないので体でない。離散付値環 の記事の定理「離散付値環の特徴づけ」(2 ⇒ 1)により $B$ は離散付値環で、極大イデアルの生成元 $\alpha$ が一意化元である。
段 7:既約性と商体。 $S:=\mathcal{O}_K\setminus\{0\}$ で局所化すると、段 1 から $S^{-1}B=K[X]/(E)$ であり、これは整域 $B$ の局所化なので整域である。$K$ 上 $n$ 次元の整域は体である($0$ でない元を掛ける写像は単射な $K$ 線形写像なので全射)。よって $K[X]/(E)$ は体で、$E$ は $K$ 上既約であり、$B$ の商体は $L=K[X]/(E)$、$[L:K]=n$ である。
段 8:整閉包と完全分岐。 離散付値環は整閉整域である(離散付値環 の記事の定理「離散付値環の特徴づけ」の 5)。$B$ は $\mathcal{O}_K$ 上整で商体が $L$ なので、$L$ の元で $\mathcal{O}_K$ 上整なものは $B$ 上整、したがって $B$ に属する。よって $B$ は $\mathcal{O}_K$ の $L$ における整閉包である。段 4 から $\pi_K=\alpha^n\varepsilon^{-1}$、$v_L(\pi_K)=n=[L:K]$ である。$\square$

段 1 と段 6 から、$L$ の元 $x=\sum_{i=0}^{n-1}c_i\alpha^i$($c_i\in K$)の付値は
$$ v_L(x)=\min_{c_i\ne0}\bigl(n\,v_K(c_i)+i\bigr) $$
で与えられる。右辺の各項は $n$ を法として互いに異なるので、最小値をとる項はただ 1 つだからである。この式から $x\in B$ と「すべての $c_i$ が $\mathcal{O}_K$ に属すること」の同値性があらためて読み取れる。
この定理は Ser79 Chapter I, §6, Proposition 17 とその系(p. 19)と同じ主張である。上の証明は、局所性・単元・冪零でないことを順に確かめて、離散付値環の特徴づけに帰着させたものである。

逆:完全分岐拡大の一意化元

一意化元の最小多項式

$L/K$ を次数 $n$ の有限次拡大で、$\mathcal{O}_K$ 上完全分岐するものとし、$\Pi$ を $\mathcal{O}_L$ の一意化元とする。このとき $\Pi$ の $K$ 上の最小多項式 $g$ は次数 $n$ の Eisenstein 多項式であり、$L=K(\Pi)$、$\mathcal{O}_L=\mathcal{O}_K[\Pi]$ である。

$v_L$ は $K^\times$ 上で $n\,v_K$ に等しい(定義「離散付値環上の完全分岐」の後の注意)。
$L=K(\Pi)$。 $c_0,\dots,c_{n-1}\in K$ が全部は $0$ でないとき、$0$ でない項 $c_i\Pi^i$ の付値 $n\,v_K(c_i)+i$ は $n$ を法として互いに異なる。最小の付値をとる項がただ 1 つなので、$\sum c_i\Pi^i$ の付値はその最小値に等しく、とくに $0$ でない。よって $1,\Pi,\dots,\Pi^{n-1}$ は $K$ 上 1 次独立で、$[K(\Pi):K]\ge n=[L:K]$ から $L=K(\Pi)$、$\deg g=n$ である。
$g$ の係数は $\mathcal{O}_K$ に属する。 $\Pi\in\mathcal{O}_L$ は $\mathcal{O}_K$ 係数のあるモニック多項式 $h$ の根で、$g$ は $h$ を割り切る。$g$ の分解体の中で $g$ の根はすべて $h$ の根なので $\mathcal{O}_K$ 上整である。$g$ の係数は根の基本対称式の $\pm1$ 倍なので $\mathcal{O}_K$ 上整であり(整拡大 の記事の命題「整な元の和と積」)、しかも $K$ の元である。$\mathcal{O}_K$ は整閉整域なので、係数は $\mathcal{O}_K$ に属する。
$g$ は Eisenstein。 $g=X^n+c_{n-1}X^{n-1}+\dots+c_0$ とする。$g(\Pi)=0$ を $n+1$ 個の項 $c_i\Pi^i$($0\le i\le n$、$c_n:=1$)の和とみると、$c_i\ne0$ の項の付値は $n\,v_K(c_i)+i$ で、$i=n$ の項の付値は $n$ である。$0$ になる和では、最小の付値をとる項が 2 つ以上ある(ただ 1 つなら和の付値がその値になり $0$ でない)。付値が等しい 2 項は $n$ を法として同じ類に属するので、その 2 項は $i=0$ と $i=n$ の項に限る。したがって最小値は $n$ で、$v_L(c_0)=n$、すなわち $v_K(c_0)=1$ である。$1\le i\le n-1$ の項は付値が $n$ 以上で $n$ と異なるので $n\,v_K(c_i)+i>n$、すなわち $v_K(c_i)\ge1$($c_i=0$ も含めて $c_i\in\mathfrak{m}_K$)である。
$\mathcal{O}_L=\mathcal{O}_K[\Pi]$。 thm-eis-main の 4 を $g$ に使うと、$\mathcal{O}_K[\Pi]$ は $\mathcal{O}_K$ の $K(\Pi)=L$ における整閉包、すなわち $\mathcal{O}_L$ である。$\square$

これは Ser79 Chapter I, §6, Proposition 18(pp. 19–20)と同じ主張である。2 つの定理を合わせると、次がいえる。

完備な離散付値体の完全分岐拡大

$K$ が $v_K$ について完備であるとする。$K$ の有限次拡大 $L$ について、次は同値である。

  1. 分岐指数 $e(L/K)$ が $[L:K]$ に等しい(剰余体が大きくならない)。
  2. $L=K(\alpha)$ となる Eisenstein 多項式の根 $\alpha$ がある。
    このとき $\alpha$ は $\mathcal{O}_L$ の一意化元で、$\mathcal{O}_L=\mathcal{O}_K[\alpha]$ である。

$K$ が完備なので、$\mathcal{O}_L$ は離散付値環で $v_L(\pi_K)=e(L/K)$ である(Ser79 Chapter II, §2, Proposition 3、p. 28。この記事では証明しない)。よって 1 は「$L/K$ が $\mathcal{O}_K$ 上完全分岐する」と同じである。1 ⇒ 2 は thm-eis-converse、2 ⇒ 1 と最後の主張は thm-eis-main の 3・4 である。$\square$

代数体での使い方

主定理を $\mathcal{O}_K=\mathbb{Z}_{(p)}$ に使うと、代数体の素数の分解についての情報が得られる。

代数体での分岐と指数

$E\in\mathbb{Z}[X]$ を次数 $n$ のモニック多項式で、素数 $p$ について Eisenstein であるとする。$\alpha\in\mathbb{C}$ を $E$ の根、$F:=\mathbb{Q}(\alpha)$、$\mathcal{O}_F$ をその整数環とする。このとき次が成り立つ。

  1. $E$ は $\mathbb{Q}$ 上既約で、$[F:\mathbb{Q}]=n$ である。
  2. 指数 $[\mathcal{O}_F:\mathbb{Z}[\alpha]\,]$ は $p$ で割り切れない。
  3. $\mathfrak{p}:=p\mathcal{O}_F+\alpha\mathcal{O}_F$ は素イデアルで、$\mathcal{O}_F/\mathfrak{p}\cong\mathbb{F}_p$、$p\mathcal{O}_F=\mathfrak{p}^n$ である。すなわち $p$ は $F$ で完全分岐する。

1。 thm-eis-main の 3 を $\mathcal{O}_K=\mathbb{Z}_{(p)}$ に使えばよい。
2。 $S:=\mathbb{Z}\setminus p\mathbb{Z}$ とする。thm-eis-main の 4 により、$\mathbb{Z}_{(p)}[\alpha]=S^{-1}\mathbb{Z}[\alpha]$ は $\mathbb{Z}_{(p)}=S^{-1}\mathbb{Z}$ の $F$ における整閉包である。一方 整閉包 の記事の命題「整閉包と局所化」により、その整閉包は $S^{-1}\mathcal{O}_F$ である。よって $S^{-1}\mathcal{O}_F=S^{-1}\mathbb{Z}[\alpha]$ であり、各 $x\in\mathcal{O}_F$ について $s\,x\in\mathbb{Z}[\alpha]$ となる $s\in S$ がある。指数 $m:=[\mathcal{O}_F:\mathbb{Z}[\alpha]\,]$ は有限であり(代数体の判別式 の記事の系「指数公式」)、有限アーベル群 $\mathcal{O}_F/\mathbb{Z}[\alpha]$ のすべての元が $p$ と互いに素な整数で消えるので、その位数 $m$ は $p$ で割り切れない。
3。 $um+vp=1$($u,v\in\mathbb{Z}$)とすると、$x\in\mathcal{O}_F$ について $x=u\,(mx)+v\,(px)\in\mathbb{Z}[\alpha]+p\mathcal{O}_F$ である($m\mathcal{O}_F\subset\mathbb{Z}[\alpha]$)。これは 代数体における素イデアルの分解 の記事の定理「Kummer–Dedekindの定理」の条件 (KD) である。$E$ を法 $p$ で還元すると $X^n$ なので、その定理から $\mathfrak{p}=p\mathcal{O}_F+\alpha\mathcal{O}_F$ は剰余次数 $1$ の素イデアルで、$p\mathcal{O}_F=\mathfrak{p}^n$ である。$\square$

例

$p$ 乗根の体 $\mathbb{Q}_p(\zeta_p)$

$p$ を素数、$\zeta_p$ を $1$ の原始 $p$ 乗根とする。$\zeta_p$ は $\Phi_p(X)=X^{p-1}+\dots+X+1$ の根であり、$\zeta_p-1$ は
$$ \Phi_p(X+1)=\frac{(X+1)^p-1}{X}=\sum_{j=0}^{p-1}\binom{p}{j+1}X^j $$
の根である。$1\le j+1\le p-1$ のとき $\binom{p}{j+1}$ は $p$ で割り切れ、定数項は $\binom p1=p$ なので、$\Phi_p(X+1)$ は $p$ について Eisenstein である。$\mathcal{O}_K=\mathbb{Z}_p$ に thm-eis-main を使うと、$\mathbb{Q}_p(\zeta_p)/\mathbb{Q}_p$ は次数 $p-1$ の完全分岐拡大で、$\zeta_p-1$ が一意化元、整数環は $\mathbb{Z}_p[\zeta_p]$ である。$\zeta_p-1$ の付値は $\mathbb{Q}_p$ の付値で測って $1/(p-1)$ であり、Newton多角形 で求めた値と一致する。
$\mathcal{O}_K=\mathbb{Z}_{(p)}$ に cor-eis-number-field を使うと、$p$ は円分体 $\mathbb{Q}(\zeta_p)$ で完全分岐し、その整数環 $\mathcal{O}$ で $p\mathcal{O}=\mathfrak{p}^{p-1}$、$\mathfrak{p}=p\mathcal{O}+(\zeta_p-1)\mathcal{O}$ である。$\mathbb{Q}(\zeta_p)$ の整数環が $\mathbb{Z}[\zeta_p]$ に等しいことは 円分体 の記事の命題「素数冪の円分体」で示されている。

$\mathbb{Q}(\sqrt[3]{2})$ の整数環

$\alpha=\sqrt[3]2$、$F=\mathbb{Q}(\alpha)$ とする。$X^3-2$ は $2$ について Eisenstein である。$\alpha+1$ の最小多項式は
$$ (X-1)^3-2=X^3-3X^2+3X-3 $$
で、これは $3$ について Eisenstein である。cor-eis-number-field の 2 により、指数 $[\mathcal{O}_F:\mathbb{Z}[\alpha]\,]$ は $2$ で割り切れず、$\mathbb{Z}[\alpha+1]=\mathbb{Z}[\alpha]$ なので $3$ でも割り切れない。
一方、$1,\alpha,\alpha^2$ の判別式は、代数体の判別式 の記事の命題「共役による表示」と Vandermonde の行列式から、$X^3-2$ の判別式 $-27\cdot2^2=-108=-2^2\cdot3^3$ に等しい。同じ記事の系「指数公式」により $-108=[\mathcal{O}_F:\mathbb{Z}[\alpha]\,]^2\,d_F$ である。指数の 2 乗が $2^2\cdot3^3$ を割り切り、指数が $2$ でも $3$ でも割り切れないので、指数は $1$ である。よって $\mathcal{O}_F=\mathbb{Z}[\sqrt[3]2]$、$d_F=-108$ で、$2\mathcal{O}_F=\mathfrak{p}_2^{\,3}$、$3\mathcal{O}_F=\mathfrak{p}_3^{\,3}$ と完全分岐する。

関数体の例 $X^n-t$

$k$ を任意の体、$t$ を変数とし、$\mathcal{O}_K=k[t]_{(t)}$($t$ での位数を付値とする $k(t)$ の離散付値環)とする。$X^n-t$ は Eisenstein 多項式なので、$s^n=t$ を満たす $s$ について $k[t]_{(t)}[s]$ は $s$ を一意化元とする離散付値環で、$k(s)/k(t)$ は次数 $n$ の完全分岐拡大である。$k$ の標数が $p$ で $n=p$ のとき、この拡大 $k(s)/k(t)$ は非分離(純非分離)である。thm-eis-main は拡大の分離性を仮定していないので、この場合にも使える。

反例

各行は条件を 1 つだけ外す。1〜4 行は thm-eis-main の条件、5 行は thm-eis-converse の条件である。$p$ は素数とする。

外す条件反例成り立たなくなること
$v_K(a_0)=1$$X^2-p^2$($\mathbb{Z}_{(p)}$ 上)$E$ が既約であること
$v_K(a_0)=1$$X^2-p^3$($\mathbb{Z}_{(p)}$ 上)$\mathcal{O}_K[\alpha]$ が離散付値環で整閉包であること
$a_1\in\mathfrak{m}_K$$X^2+X+p$($\mathbb{Z}_{(p)}$ 上)$\mathcal{O}_K[\alpha]$ が局所環であること($p$ の完全分岐)
係数環が離散付値環$X^2-12$($\mathbb{Z}$ 上、素数 $3$ について)$\mathbb{Z}[\alpha]$ が整閉包であること
完全分岐$\mathbb{Q}(i)/\mathbb{Q}$、$\mathcal{O}_K=\mathbb{Z}_{(3)}$一意化元の最小多項式の次数が $[L:K]$ であること
反例の確認

表の各行は、外した条件以外の仮定を満たし、右の列の結論が破れる。

各行の確認を開く
  1. $X^2-p^2=(X-p)(X+p)$ は可約である。$a_1=0\in\mathfrak{m}$ は満たし、$v_p(-p^2)=2$ である。
  2. $p^3$ は $\mathbb{Q}$ で平方でないので $X^2-p^3$ は $\mathbb{Q}$ 上既約で、根は $\alpha=p\sqrt p$ である。$\sqrt p=\alpha/p$ は $X^2-p$ の根なので $\mathbb{Z}_{(p)}$ 上整だが、$\mathbb{Z}_{(p)}[\alpha]=\mathbb{Z}_{(p)}+\mathbb{Z}_{(p)}\,p\sqrt p$ に属さない($\sqrt p$ の係数 $1$ は $p\mathbb{Z}_{(p)}$ に入らない)。よって $\mathbb{Z}_{(p)}[\alpha]$ は整閉でなく、離散付値環でない(離散付値環は整閉である)。
  3. $X^2+X+p$ は $v_p(p)=1$ を満たすが $a_1=1$ は単元である。判別式 $1-4p< 0$ なので $\mathbb{Q}$ 上既約である。$B=\mathbb{Z}_{(p)}[X]/(X^2+X+p)$ の極大イデアルを考える。法 $p$ で $X^2+X+p\equiv X(X+1)$ なので、$B/pB\cong\mathbb{F}_p[X]/(X)\times\mathbb{F}_p[X]/(X+1)$(中国剰余定理)は体 $\mathbb{F}_p$ を 2 つ並べた積であり、$B$ は $pB$ を含む極大イデアルを 2 つもつ。よって $B$ は局所環でなく、cor-eis-number-field の 3 のような完全分岐も起きない。
  4. $X^2-12$ は $-12=3\cdot(-4)$、$a_1=0$ なので素数 $3$ について Eisenstein である。根は $\alpha=2\sqrt3$ で、$\sqrt3=\alpha/2$ は $\mathbb{Z}$ 上整だが $\mathbb{Z}[\alpha]=\mathbb{Z}+2\sqrt3\,\mathbb{Z}$ に属さない。よって $\mathbb{Z}[\alpha]$ は $\mathbb{Q}(\sqrt3)$ の整数環でない(指数は $2$)。$\mathbb{Z}_{(3)}$ に局所化すれば $2$ は単元になり、$\mathbb{Z}_{(3)}[\alpha]=\mathbb{Z}_{(3)}[\sqrt3]$ は整閉包である(cor-eis-number-field の 2 と合う)。
  5. $L=\mathbb{Q}(i)$ の整数環は $\mathbb{Z}[i]$ で、$-1$ は法 $3$ で平方でないので $X^2+1$ は $\mathbb{F}_3$ 上既約であり、代数体における素イデアルの分解 の記事の定理「Kummer–Dedekindの定理」により $3\mathbb{Z}[i]$ は素イデアルである。$\mathbb{Z}_{(3)}$ の $L$ における整閉包 $\mathbb{Z}_{(3)}[i]$ は、$3$ の上の素イデアルがこれだけなので局所環であり、極大イデアルは $3$ で生成される単項イデアルである。よって離散付値環で、$v_L(3)=1\ne2=[L:\mathbb{Q}]$、すなわち完全分岐でない。一意化元 $\Pi=3$ の最小多項式は $X-3$ で次数 $1$ であり、$K(\Pi)=\mathbb{Q}\ne L$ である。

補足

既約性の判定法との関係

thm-eis-main を $\mathcal{O}_K=\mathbb{Z}_{(p)}$ に使うと、$p$ について Eisenstein である整数係数のモニック多項式が $\mathbb{Q}$ 上既約であることが分かる。最高次の係数が $p$ で割り切れない一般の整数係数の多項式、さらに一意分解整域上の多項式についての既約性の判定法は、既約多項式 の記事の定理「Eisenstein の判定法」が扱い、Gaussの補題(多項式) を通して証明される。既約性だけなら、Newton多角形 の記事の系「線分 1 本で傾きの分母が次数に等しい場合」のように、Newton 多角形が線分 1 本で、両端の高さの差と次数が互いに素な多項式に一般化できる。

類体論での現れ方

局所体の完全分岐アーベル拡大を具体的に作る Lubin–Tate理論 では、$\pi^n$ 等分点のうち $\pi^{n-1}$ 等分点でないものが拡大を生成し、その最小多項式が Eisenstein 多項式として得られて、その点が一意化元になる。不分岐拡大と完全分岐拡大 の記事の定理「最大不分岐部分拡大」と合わせると、局所体の有限次拡大は、1 の冪根で生成される不分岐拡大と、その上の Eisenstein 多項式の根で生成される完全分岐拡大の 2 段に分かれる。

関連項目

参考文献

[1]
Jean-Pierre Serre (translated by Marvin Jay Greenberg), Local Fields, Graduate Texts in Mathematics 67, Springer, 1979, Chapter I, §6, Proposition 17 とその系(p. 19)、Proposition 18(pp. 19–20)。Chapter II, §2, Proposition 3(p. 28)と Corollary 1(p. 29)

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