米田埋め込み(Yoneda embedding)とは、局所小圏 $\mathcal C$ の対象 $c$ に表現可能前層 $\operatorname{Hom}_{\mathcal C}(-,c)$ を対応させる、前層の圏 $\operatorname{Fun}(\mathcal C^{\mathrm{op}},\mathbf{Set})$ への関手である。米田の補題により充満忠実であり、$\mathcal C$ に存在する極限を保ち、錐が極限の錐かどうかも判定できるが、余極限は一般に保たない。$\mathcal C$ が小圏なら、前層の圏は $\mathcal C$ に小さい余極限を自由に付け加えた圏であり、余完備な局所小圏への関手は、余極限を保つ関手へ同型を除いて 1 通りに延び、その延長は右随伴をもつ。幾何学的実現はこの延長の典型例である。
圏 $\mathcal C$ の対象 $c$ を、「$c$ へ入る射の全体」という前層 $\operatorname{Hom}_{\mathcal C}(-,c)$ に置き換える対応を 米田埋め込み という。米田の補題 により、この置き換えで射の情報は何も失われず、$\mathcal C$ は前層の圏 $\widehat{\mathcal C}$ の充満部分圏とみなせる。前層の圏は集合の圏と同じくらい扱いやすい(極限も余極限も対象ごとに計算できる)ので、米田埋め込みは「どんな圏も、よく知られた圏の中に忠実に置ける」ことを保証する。
米田埋め込みは $\mathcal C$ にある極限をすべて保つが、余極限は一般に保たない。前層の圏は、$\mathcal C$ に余極限を 自由に 付け加えた圏であり、$\mathcal C$ が小圏なら、余完備な局所小圏への関手は、余極限を保つ関手へ同型を除いてただ $1$ 通りに延びる。この記事では、充満忠実性、極限の保存と反映、余極限を保たない例、自由余完備化としての普遍性を証明し、∞圏の場合の対応する事実を述べる。
記号は 前層(圏論) に従う。$\mathcal C$ を 局所小圏 とする。$\mathcal C$ 上の前層は関手 $P\colon\mathcal C^{\mathrm{op}}\to\mathbf{Set}$ であり、前層とその間の自然変換のなす圏を $\widehat{\mathcal C}=\operatorname{Fun}(\mathcal C^{\mathrm{op}},\mathbf{Set})$ と書く。$\mathcal C$ が小圏なら $\widehat{\mathcal C}$ は局所小圏である。$\mathcal C$ が小圏でないときは、より大きい Grothendieck宇宙 の集合を値にとる前層の圏として扱う。
対象 $c\in\mathcal C$ に前層 $y(c):=\operatorname{Hom}_{\mathcal C}(-,c)$(射 $v\colon d'\to d$ には前合成 $h\mapsto h\circ v$ を対応させる)を、射 $u\colon c\to c'$ に自然変換 $y(u)\colon y(c)\to y(c')$、$y(u)_d(h)=u\circ h$ を対応させる関手
$$
y\colon\mathcal C\longrightarrow\widehat{\mathcal C}
$$
を、$\mathcal C$ の 米田埋め込み(Yoneda embedding)という。前層 $y(c)$ を $c$ の 表現可能前層 という。
$y(u)$ の自然性は結合律 $(u\circ h)\circ v=u\circ(h\circ v)$ であり、$y$ が恒等射と合成を保つことも結合律と単位律からわかる。双対に、$c\mapsto\operatorname{Hom}_{\mathcal C}(c,-)$ は関手 $\mathcal C^{\mathrm{op}}\to\operatorname{Fun}(\mathcal C,\mathbf{Set})$ を定め、これを共変形の米田埋め込みという(米田の補題 の系「米田埋め込みの充満忠実性」は共変形で述べている)。共変形は $\mathcal C^{\mathrm{op}}$ の米田埋め込みにほかならないので、この記事では $y$ だけを扱う。
前層 $P$ と対象 $c$ について、$\alpha\mapsto\alpha_c(\mathrm{id}_c)$ は全単射
$$
\operatorname{Hom}_{\widehat{\mathcal C}}(y(c),P)\ \cong\ P(c)
$$
を与え、$c$ と $P$ について自然である(前層(圏論) の命題「表現可能前層からの射」、米田の補題 の定理「米田の補題」を反対圏に使ったもの)。逆写像は $x\in P(c)$ を $\hat x_d(h)=P(h)(x)$ で定まる自然変換 $\hat x$ に送る。
$y\colon\mathcal C\to\widehat{\mathcal C}$ は充満忠実である。すなわち、すべての対象 $c,c'$ について $u\mapsto y(u)$ は全単射 $\operatorname{Hom}_{\mathcal C}(c,c')\to\operatorname{Hom}_{\widehat{\mathcal C}}(y(c),y(c'))$ である。とくに、$y(c)\cong y(c')$ なら $c\cong c'$ である。
上の全単射で $P=y(c')$ とすると、$\operatorname{Hom}_{\widehat{\mathcal C}}(y(c),y(c'))\cong y(c')(c)=\operatorname{Hom}_{\mathcal C}(c,c')$ である。逆写像は $u\in\operatorname{Hom}_{\mathcal C}(c,c')$ を $\hat u_d(h)=y(c')(h)(u)=u\circ h=y(u)_d(h)$ で定まる $\hat u$、つまり $y(u)$ に送る。よって $u\mapsto y(u)$ は全単射である。
後半:同型 $\alpha\colon y(c)\to y(c')$ と逆 $\beta$ は、前半により $\alpha=y(u)$、$\beta=y(u')$ と書ける。$y(u'\circ u)=\beta\circ\alpha=\mathrm{id}=y(\mathrm{id}_c)$ と単射性から $u'\circ u=\mathrm{id}_c$ で、同様に $u\circ u'=\mathrm{id}_{c'}$ である。$\square$
この定理は 前層(圏論) の系「米田埋め込みは充満忠実」と同じ主張である。対象 $c$ は「$c$ へ入る射の全体とその前合成」から同型を除いて復元でき、射 $c\to c'$ は表現可能前層の間の自然変換と同じものである。
小圏 $\mathcal J$ からの図式 $D\colon\mathcal J\to\mathcal C$ と、$D$ 上の錐 $(L,\lambda_j\colon L\to D(j))$ を考える。この錐が $\mathcal C$ における極限の錐であることと、その像 $(y(L),y(\lambda_j))$ が $\widehat{\mathcal C}$ における $y\circ D$ の極限の錐であることは同値である。とくに $y$ は $\mathcal C$ に存在するすべての小さい極限を保つ。
前層の圏の極限は対象ごとに計算される(関手圏 の命題「関手圏の極限は各点で計算される」)。つまり $\widehat{\mathcal C}$ の錐が極限の錐であることと、各対象 $d$ で値をとった集合の錐が $\mathbf{Set}$ の極限の錐であることは同値である。$d$ で値をとった錐は
$$
\bigl(\operatorname{Hom}_{\mathcal C}(d,L),\ \lambda_j\circ-\bigr)
$$
である。集合 $\operatorname{Hom}_{\mathcal C}(d,D(-))$ の極限は、両立する射の族 $(h_j\colon d\to D(j))_j$、すなわち $d$ を頂点とする $D$ 上の錐の集合なので、この錐が極限の錐であることは、写像 $h\mapsto(\lambda_j\circ h)_j$ が $\operatorname{Hom}(d,L)$ から $d$ を頂点とする錐の集合への全単射であることと同じである。これがすべての $d$ で成り立つことは、$(L,\lambda_j)$ が極限の錐であることの定義そのものである。$\square$
これは Rie16 Theorem 3.5.5(pp. 110–111)の内容である。積なら $y(c\times c')\cong y(c)\times y(c')$、終対象 $t$ があれば $y(t)$ は前層の圏の終対象(各対象で $1$ 点集合)である。
余極限については同じ議論が使えない。$\operatorname{Hom}_{\mathcal C}(d,-)$ は余極限を保たないからである。
$\mathcal C=[1]=\{0\to1\}$ とすると、$0$ は始対象である。前層の圏の始対象はすべての値が空集合の前層だが、$y(0)(0)=\operatorname{Hom}(0,0)$ は $1$ 点集合である。よって $y(0)$ は前層の圏の始対象でない。
$2$ 点の離散空間 $X=\{a,b\}$ の開集合を包含で順序づけた圏で、$U=\{a\}$、$V=\{b\}$ の余積(最小上界)は $X$ である。前層の圏の余積は対象ごとの非交和なので、$(y(U)\amalg y(V))(\emptyset)$ は $2$ 点集合だが、$y(X)(\emptyset)$ は $1$ 点集合である。よって $y(X)\not\cong y(U)\amalg y(V)$ である(前層(圏論) の例「反例:米田埋め込みは余極限を保たない」)。
順序集合 $(S,\le)$ を圏とみなすと、表現可能前層 $y(s)$ は「$t\le s$ なら $1$ 点、そうでなければ空」という前層で、主イデアル $\{t\mid t\le s\}$ と同じ情報をもつ。$y$ は下限(積)を共通部分に移すが、上限(余積)は一般に和集合に移さない。上の $2$ つの例はこの現象である。
前層の圏では、任意の前層 $P$ が表現可能前層の余極限
$$
P\cong\operatorname*{colim}_{(c,x)\in\int P}y(c)
$$
として書ける(前層(圏論) の定理「前層は表現可能前層の余極限」)。ここで $\textstyle\int P$ は要素の圏で、対象は組 $(c,x)$($x\in P(c)$)、$(c',x')$ から $(c,x)$ への射は $P(v)(x)=x'$ を満たす $v\colon c'\to c$ である。$\mathcal C$ が小圏なら $\textstyle\int P$ も小圏である。この表示から、余極限を保つ関手は表現可能前層での値で決まることになる。
$\mathcal C$ を小圏、$\mathcal D$ をすべての小さい余極限をもつ局所小圏、$F\colon\mathcal C\to\mathcal D$ を関手とする。$\mathcal D$ の対象 $e$ に前層 $N_F(e):=\operatorname{Hom}_{\mathcal D}(F(-),e)$ を対応させる関手を $N_F\colon\mathcal D\to\widehat{\mathcal C}$ とする。
(R1) $N_F$ は左随伴 $L_F$ をもち、$L_F(P)=\operatorname*{colim}_{(c,x)\in\int P}F(c)$ と書ける。
(R2) $L_F\circ y\cong F$ である。
(R3) $L_F$ は小さい余極限を保つ。小さい余極限を保つ関手 $G\colon\widehat{\mathcal C}\to\mathcal D$ で $G\circ y\cong F$ となるものは、$L_F$ と同型である。
(i) 前層 $P$ について、$\textstyle\int P$ を添字とする図式 $(c,x)\mapsto F(c)$ の余極限を $L_F(P)$ とする($\mathcal D$ は余完備なので存在する)。対象 $e$ について、余極限の普遍性により $\operatorname{Hom}_{\mathcal D}(L_F(P),e)$ は余錐、すなわち射の族 $\varphi_{(c,x)}\colon F(c)\to e$ で、$\textstyle\int P$ の射 $v\colon(c',x')\to(c,x)$ ごとに $\varphi_{(c,x)}\circ F(v)=\varphi_{(c',x')}$ を満たすものの集合と同じである。一方 $\operatorname{Hom}_{\widehat{\mathcal C}}(P,N_F(e))$ は、写像の族 $\alpha_c\colon P(c)\to\operatorname{Hom}_{\mathcal D}(F(c),e)$ で、$v\colon c'\to c$ ごとに $\alpha_{c'}(P(v)(x))=\alpha_c(x)\circ F(v)$ を満たすものである。$\varphi_{(c,x)}=\alpha_c(x)$ とおけば、$2$ つの条件は $x'=P(v)(x)$ とした同じ式であり、全単射
$$
\operatorname{Hom}_{\mathcal D}(L_F(P),e)\ \cong\ \operatorname{Hom}_{\widehat{\mathcal C}}(P,N_F(e))
$$
を得る。$e$ についての自然性は、どちらも $e\to e'$ との後合成で動くことによる。前層の射 $\beta\colon P\to Q$ は関手 $\textstyle\int P\to\int Q$、$(c,x)\mapsto(c,\beta_c(x))$ を定め、余極限の普遍性から $L_F(\beta)$ が定まる。これで $L_F$ は関手になり、全単射は $P$ についても自然である。よって $L_F\dashv N_F$ である。
(ii) (i) と thm-ye-fully-faithful の前の全単射を続けると、
$$
\operatorname{Hom}_{\mathcal D}(L_F(y(c)),e)\cong\operatorname{Hom}_{\widehat{\mathcal C}}(y(c),N_F(e))\cong N_F(e)(c)=\operatorname{Hom}_{\mathcal D}(F(c),e)
$$
が $e$ と $c$ について自然に成り立つ。米田の補題 の系「表現可能関手による同型判定」により $L_F(y(c))\cong F(c)$ であり、$c$ についての自然性から $L_F\circ y\cong F$ である。
(iii) 左随伴は存在する余極限を保つ(随伴関手 の命題「随伴による保存」)。$G$ が余極限を保ち $G\circ y\cong F$ なら、表現可能前層の余極限としての表示から
$$
G(P)\cong\operatorname*{colim}_{(c,x)\in\int P}G(y(c))\cong\operatorname*{colim}_{(c,x)\in\int P}F(c)=L_F(P)
$$
であり、前層の射 $\beta$ に対して両辺は同じ関手 $\textstyle\int P\to\int Q$ に沿って動くので、この同型は $P$ について自然である。$\square$
これは Rie16 Proposition 6.5.12(p. 248)の内容である。言い換えると、余完備な圏への関手 $F$ を米田埋め込みに沿って延ばす方法は、余極限を保つ限り同型を除いて $1$ 通りであり、$\widehat{\mathcal C}$ は $\mathcal C$ に小さい余極限を「自由に」付け加えた圏である。この延長 $L_F$ は $F$ の $y$ に沿った左 Kan拡張 である(Rie16 Proposition 6.5.12、p. 248。この記事では証明しない)。
群 $G$ を対象 $1$ つの圏 $BG$ とみなすと、$BG$ 上の前層は右 $G$ 集合であり(前層(圏論) の例「群の作用」)、唯一の対象の表現可能前層は、$G$ に右からの積で作用させた右 $G$ 集合 $G$ である。thm-ye-fully-faithful により、この右 $G$ 集合の自己準同型は左からの積 $x\mapsto gx$ だけで、$g\mapsto(x\mapsto gx)$ は群 $G$ と自己同型群の同型を与える。台集合に忘れると、$G$ は対称群の部分群と同型になる(Cayley の定理。Rie16 Corollary 2.2.11、p. 65)。
$\mathcal C$ を単体圏 $\Delta$、$\mathcal D$ を位相空間の圏、$F([n])=\lvert\Delta^n\rvert$(位相的標準単体)とする。$y([n])$ は標準単体 $\Delta^n$ であり、$N_F(Z)$ は $n$ 単体を連続写像 $\lvert\Delta^n\rvert\to Z$ とする特異単体的集合 $\operatorname{Sing}Z$ である。thm-ye-free-cocompletion の $L_F$ は、単体的集合をその単体の位相的標準単体の余極限として貼り合わせる 幾何学的実現 であり、(i) は随伴 $\lvert-\rvert\dashv\operatorname{Sing}$(幾何学的実現 の定理「幾何学的実現と特異単体的集合の随伴」)、(ii) は $\lvert\Delta^n\rvert$ が $\Delta^n$ の実現であることにあたる。
$\mathcal C$ を対象 $1$ つ・恒等射だけの圏とすると、$\widehat{\mathcal C}$ は集合の圏で、$y$ は $1$ 点集合を選ぶ。$F$ が対象 $e$ を選ぶとき $L_F(S)=\coprod_{s\in S}e$ であり、thm-ye-free-cocompletion は「余積を保つ関手 $\mathbf{Set}\to\mathcal D$ は $1$ 点集合の行き先で決まる」ことを述べている。
小さい ∞圏 $\mathcal C$ に対しても、空間の∞圏 $\mathcal S$(空間の∞圏)に値をとる前層の∞圏 $\mathcal P(\mathcal C)=\operatorname{Fun}(\mathcal C^{\mathrm{op}},\mathcal S)$ への米田埋め込み $y\colon\mathcal C\to\mathcal P(\mathcal C)$ がある(前層(∞圏))。次が成り立つ。この記事では証明しない。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| thm-ye-limits の「極限」(余極限に替える) | $[1]$ の始対象 $0$(ex-ye-initial) | $y$ が保つ |
| 同上 | $2$ 点離散空間の開集合の圏の余積(ex-ye-coproduct) | $y$ が保つ |
| thm-ye-free-cocompletion の「$\mathcal D$ が余完備」 | $\mathcal C$ は $1$ 点の圏、$\mathcal D$ は有限集合の圏、$F$ は $1$ 点集合 | 余極限を保ち $G\circ y\cong F$ となる $G$ がある |
3 行目:そのような $G\colon\mathbf{Set}\to\mathcal D$ があれば、$G(\mathbb N)=G(\coprod_{\mathbb N}1)$ は $1$ 点集合の可算個の余積でなければならない。有限集合 $T$ がそのような余積なら、$\operatorname{Hom}(T,\{0,1\})$ は $\{0,1\}^{\mathbb N}$ と全単射になるが、左辺は有限集合、右辺は非可算集合なので矛盾する。$\mathcal C$ は小圏、$\mathcal D$ は局所小圏のままで、外したのは余完備性だけである。
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