楕円曲線の導手

同義語:conductor of an elliptic curve導手(楕円曲線)

概要

楕円曲線の導手(conductor of an elliptic curve)とは、代数体上の楕円曲線 $E$ の悪い還元を、素イデアルごとの指数 $f_{\mathfrak{p}}$ にまとめた整イデアル $\prod_{\mathfrak{p}}\mathfrak{p}^{f_{\mathfrak{p}}}$ である。指数は $\ell$ 進表現への惰性群の作用から順分岐の部分と Swan 導手の部分の和として定まり、良い還元で $0$、乗法的還元で $1$、加法的還元で $2$ 以上になる。剰余体の標数が $5$ 以上なら、加法的還元の指数はちょうど $2$ である。導手は同種な曲線で等しく、L 関数の関数等式やモジュラー性定理のレベルに現れる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 楕円曲線, 半安定還元, Tate加群, 分解群と惰性群, 野性分岐とSwan導手

楕円曲線の導手(conductor of an elliptic curve)は、楕円曲線がどの素数でどの程度悪い還元をもつかを、1 つの整数(代数体の上では整イデアル)にまとめたものである。有理数体上の楕円曲線 $E$ の導手は $N_E=\prod_pp^{f_p}$ の形をしており、指数 $f_p$ は、$p$ で良い還元をもつなら $0$、乗法的還元なら $1$、加法的還元なら $2$ 以上である。判別式も悪い還元の素数を記録するが、極小判別式は同種な曲線のあいだで変わりうるのに対し、導手は同種な曲線で等しい。導手は 楕円曲線のL関数 の関数等式と、モジュラー性定理の保型形式のレベルに現れる。
指数 $f_p$ は、$E$ の $\ell$ 進表現(Tate加群)に $p$ の惰性群がどう作用するかで定義され、順分岐の部分 $\varepsilon$ と野性分岐の部分 $\delta$ の和 $f=\varepsilon+\delta$ である。$\delta$ は 野性分岐とSwan導手 の Swan 導手にあたる。この記事では、$\varepsilon$ が還元の型だけで決まること(良い・乗法的・加法的に応じて $0,1,2$)と、剰余体の標数が $5$ 以上なら $\delta=0$ であることを証明する。あわせて導手が同種写像で変わらないことを示し、Ogg–Saito の公式による計算例を挙げる。

設定と記号

この記事では、$K$ を完備離散付値体、$R$ をその付値環、$v$ を正規付値($v(K^\times)=\mathbb{Z}$)、$\pi$ を一意化元、$k=R/\pi R$ を剰余体とし、$k$ は標数 $p>0$ の完全体とする($\mathbb{Q}_p$ やその有限次拡大では $k$ は有限体である)。$K$ の分離閉包 $K^{\mathrm{sep}}$ を固定して $G_K:=\operatorname{Gal}(K^{\mathrm{sep}}/K)$ とし、$K^{\mathrm{nr}}\subset K^{\mathrm{sep}}$ を最大不分岐拡大、$I:=\operatorname{Gal}(K^{\mathrm{sep}}/K^{\mathrm{nr}})$ を惰性群とする。$K^{\mathrm{nr}}$ の上に延ばした $v$ の値群は $\mathbb{Z}$ のままで、剰余体は $k$ の代数閉包 $\bar k$ である。$K^{\mathrm{sep}}$ の元で $I$ のすべての元に固定されるものは $K^{\mathrm{nr}}$ の元である。
$E$ を $K$ 上の楕円曲線、$\ell\neq p$ を素数とする。$G_K$ は $\ell^n$ 等分点の群 $E[\ell^n]\subset E(K^{\mathrm{sep}})$ に作用し、Tate加群 $T_\ell(E)=\varprojlim_nE[\ell^n]\cong\mathbb{Z}_\ell^2$ と $V_\ell(E):=T_\ell(E)\otimes_{\mathbb{Z}_\ell}\mathbb{Q}_\ell\cong\mathbb{Q}_\ell^2$ への作用が得られる(Galois表現 の例「楕円曲線の $\ell$ 進表現」)。部分群 $H\subset G_K$ で固定される部分を $V_\ell(E)^H$ のように書く。
還元の型(良い還元・乗法的還元・加法的還元)、極小 Weierstrass 方程式、乗法的還元の分裂・非分裂は、半安定還元 の定義「極小Weierstrass方程式と還元の型」のとおりとする。極小方程式の判別式を $\Delta_{\min}$ と書く。整な方程式で $v(\Delta)<12$ または $v(c_4)<4$ のものは極小である(同じ記事の補題「極小性と型の判定」)。

定義

$L:=K(E[\ell])$ は $K$ の有限次 Galois 拡大で、$G:=\operatorname{Gal}(L/K)$ は $E[\ell]$ に忠実に作用する。$G$ の第 $i$ 分岐群を $G_i$、$g_i:=\lvert G_i\rvert$ とする(分解群と惰性群 の定義「高次分岐群」)。$G_0$ は $L/K$ の惰性群で、制限写像 $I\to G$ の像に等しい。$G_1$ は $G_0$ のただ 1 つの Sylow $p$ 部分群である(野性分岐とSwan導手 の節「設定と野性分岐」)。

導手の指数と導手
  1. $\varepsilon(E/K):=\dim_{\mathbb{Q}_\ell}V_\ell(E)-\dim_{\mathbb{Q}_\ell}V_\ell(E)^I$ とおき、順分岐の部分という。
  2. $E[\ell]$ を $G$ の $\mathbb{F}_\ell$ 上の表現とみたときの Swan 導手
    $$ \delta(E/K):=\sum_{i\ge1}\frac{g_i}{g_0}\dim_{\mathbb{F}_\ell}\bigl(E[\ell]/E[\ell]^{G_i}\bigr) $$
    を野性分岐の部分という(野性分岐とSwan導手 の定義「Swan導手」)。
  3. $f(E/K):=\varepsilon(E/K)+\delta(E/K)$ を $E$ の導手の指数(exponent of the conductor)という。
  4. $F$ を代数体、$E$ を $F$ 上の楕円曲線とする。$F$ の各素イデアル $\mathfrak{p}$ での完備化 $F_{\mathfrak{p}}$ について $f_{\mathfrak{p}}:=f(E/F_{\mathfrak{p}})$ とおき、整イデアル $N_{E/F}:=\prod_{\mathfrak{p}}\mathfrak{p}^{f_{\mathfrak{p}}}$ を $E$ の導手(conductor)という。$F=\mathbb{Q}$ のときは正の整数 $N_E:=\prod_pp^{f_p}$ と同一視する。

$\varepsilon$ は $0,1,2$ のどれかで、$\delta\ge0$ である。$\delta=0$ であることは、$G_1$ が $E[\ell]$ に自明に作用すること、すなわち $G_1=1$ と同値である(野性分岐とSwan導手 の命題「Swan導手の基本性質」の 2)。4 の積が有限積であることは、thm-cond-type により $f_{\mathfrak{p}}\neq0$ となるのが悪い還元の素イデアルだけで、それは $E$ の整な方程式の判別式を割るものに限られることからわかる。
定義では素数 $\ell$ を 1 つ選んでいる。$\varepsilon$ が $\ell$ によらないことは thm-cond-type でわかる。$K$ が代数体の完備化のとき、$\delta$ が $\ell$ によらない $0$ 以上の整数であることは、thm-cond-ogg-saito の右辺が $\ell$ を含まない整数であることからわかる(公式はこの記事では証明しない)。$p\ge5$ や半安定還元のときは、どの $\ell$ でも $\delta=0$ であることをこの記事で示す(thm-cond-type、thm-cond-tame)。$\varepsilon$ を有限の $E[\ell]$ ではなく $V_\ell(E)$ で測るのは本質的である(ex-cond-counterexamples の 1 行目)。

還元の型と導手の指数

還元の型と導手の指数

$E$ を $K$ 上の楕円曲線、$\ell\neq p$ を素数とする。

  1. $E$ が良い還元をもつなら、$\varepsilon=\delta=0$ で $f(E/K)=0$ である。
  2. $E$ が乗法的還元をもつなら、$\varepsilon=1$、$\delta=0$ で $f(E/K)=1$ である。
  3. $E$ が加法的還元をもつなら、$\varepsilon=2$ で $f(E/K)=2+\delta\ge2$ である。
  4. 1・2 の場合、惰性群 $I$ の $E[\ell]$ への作用の像は位数 $1$ または $\ell$ の群である。
    とくに、$f(E/K)=0$ は良い還元をもつことと、$f(E/K)\le1$ は半安定還元をもつことと同値である。
3 つの型を別々に調べる

要点:良い還元では、還元写像が $\ell$ 冪等分点を単射に写すので $I$ は自明に作用する。乗法的還元では Tate の一意化 $E(K^{\mathrm{sep}})\cong(K^{\mathrm{sep}})^\times/q^{\mathbb{Z}}$ により、等分点は $1$ の冪根と $q$ の冪根で生成され、$I$ は $1$ の冪根を固定して $q$ の冪根だけを動かす。加法的還元では、$E(K^{\mathrm{nr}})$ の $\ell$ 冪等分点が有限個しかないことを示す。

詳しい証明を開く

1.極小方程式の還元が滑らかなので、$p$ と素な整数 $m$ について $E[m]$ と $T_\ell(E)$ は不分岐、すなわち $I$ は $E[m]$ と $T_\ell(E)$ に自明に作用する(Sil09 Proposition VII.4.1、p. 195)。よって $V_\ell(E)^I=V_\ell(E)$ で $\varepsilon=0$ である。$I$ が $E[\ell]$ に自明に作用するので、$G$ の $E[\ell]$ への作用が忠実であることから $G_0=1$ であり、$G_1=1$、$\delta=0$ である。$I$ の $E[\ell]$ への作用の像は自明で、4 も成り立つ。

2.乗法的還元なので極小方程式で $v(c_4)=0< v(\Delta_{\min})$ であり、$j=c_4^3/\Delta_{\min}$ は $v(j)=-v(\Delta_{\min})<0$ を満たす。分裂乗法的還元なら、$q\in K^\times$、$v(q)=-v(j)>0$ で $E$ が Tate 曲線 $E_q$ と $K$ 上同型になるものがあり、$G_K$ の作用と両立する同型 $(K^{\mathrm{sep}})^\times/q^{\mathbb{Z}}\cong E_q(K^{\mathrm{sep}})$ がある(Sil09 Theorem C.14.1 (a)(b)、p. 445。$\ell$ 冪等分点の座標は $K$ 上分離的である。この記事では証明しない)。非分裂乗法的還元なら、不分岐な 2 次拡大 $K'/K$ の上で $E$ はある $E_q$($v(q)=-v(j)$)と同型になる(同 Theorem C.14.1 (d))。$K'\subset K^{\mathrm{nr}}$ なので $I\subset G_{K'}$ であり、$K'$ 上の同型は $I$ の作用と両立する。どちらの場合も、$I$ の作用については $E=E_q$ としてよい。

$q$ の $\ell^n$ 乗根 $q_n\in K^{\mathrm{sep}}$ を $q_{n+1}^\ell=q_n$($q_0=q$)となるようにとり、$\zeta_n$ を $1$ の原始 $\ell^n$ 乗根で $\zeta_{n+1}^\ell=\zeta_n$ となるものとする。同型により $E[\ell^n]$ は $\{u\mid u^{\ell^n}\in q^{\mathbb{Z}}\}/q^{\mathbb{Z}}$ と対応し、$\zeta_n$ と $q_n$ の類を基底とする $(\mathbb{Z}/\ell^n)^2$ である。$X^{\ell^n}-1$ は剰余体で重根をもたないので $\zeta_n\in K^{\mathrm{nr}}$ であり、$I$ は $\zeta_n$ を固定する。$\sigma\in I$ について $\sigma(q_n)^{\ell^n}=q$ なので $\sigma(q_n)=\zeta_n^{a}q_n$ となる $a=a_n(\sigma)\in\mathbb{Z}/\ell^n$ がある。したがって基底 $(\zeta_n,q_n)$ について $\sigma$ は行列 $\begin{pmatrix}1&a_n(\sigma)\\0&1\end{pmatrix}$ で作用する。とくに $n=1$ では、$I$ の $E[\ell]$ への作用の像は $\sigma\mapsto a_1(\sigma)$ の像と同型で、$\mathbb{Z}/\ell$ の部分群、すなわち位数 $1$ か $\ell$ である(4)。

極限をとると、$\zeta_n$ の列は $T_\ell(E)$ の $I$ で固定される元 $t\neq0$ を定めるので $\dim V_\ell(E)^I\ge1$ である。$\dim V_\ell(E)^I=2$ だったとすると、$I$ は $V_\ell(E)$ とその部分 $T_\ell(E)$ に自明に作用し、$E[\ell^n]=T_\ell(E)/\ell^nT_\ell(E)$ にも自明に作用する。すると $\sigma\in I$ について $\sigma(q_n)/q_n\in q^{\mathbb{Z}}$ であるが、これは $1$ の冪根なので付値が $0$ で、$v(q)\neq0$ から $\sigma(q_n)=q_n$ となる。よって $q_n\in K^{\mathrm{nr}}$ であるが、$v(q_n)=v(q)/\ell^n$ は $n$ が大きいと整数でなく、$K^{\mathrm{nr}}$ の値群が $\mathbb{Z}$ であることに反する。ゆえに $\dim V_\ell(E)^I=1$、$\varepsilon=1$ である。また 4 により $G_0$ の位数は $1$ か $\ell$ で $p$ と素なので、その $p$ 部分群 $G_1$ は自明で、$\delta=0$ である。

3.Sil09 Theorem VII.7.1(p. 201)の証明と同じ道具を使う。$K^{\mathrm{nr}}$ は完備でないので、有限次の不分岐拡大 $K'\subset K^{\mathrm{nr}}$ ごとに考える($K'$ は完備離散付値体で、$v$ の延長が正規付値、剰余体 $k'$ は $k$ の有限次拡大である)。還元の型は不分岐拡大で変わらないので、$E$ は $K'$ の上でも加法的還元をもつ(同 Proposition VII.5.4 (a)、p. 197)。$E_0(K')$ を還元が非特異点になる点の群、$E_1(K')$ を還元が原点になる点の群とすると、完全列 $0\to E_1(K')\to E_0(K')\to\tilde E_{\mathrm{ns}}(k')\to0$ があり(同 Proposition VII.2.1、p. 188)、加法的還元なので $\tilde E_{\mathrm{ns}}(k')\cong k'^+$ である(同 Proposition VII.5.1 (c)、p. 196)。$k'^+$ は標数 $p$ なので位数 $\ell$ の元をもたず、$E_1(K')$ も位数 $\ell$ の元をもたない(同 Proposition VII.3.1 (a)、p. 192)。よって $E_0(K')$ には位数 $\ell$ の元がなく、$E(K')$ の $\ell$ 冪位数の元の群は $E(K')/E_0(K')$ に単射に写る。この群の位数は $4$ 以下である(同 Theorem VII.6.1、p. 200)。$E(K^{\mathrm{nr}})$ の $\ell$ 冪位数の元の有限部分集合は、座標を添えた有限次不分岐拡大 $K'$ の上の点からなるので $4$ 個以下である。したがって $E(K^{\mathrm{nr}})$ の $\ell$ 冪位数の元は有限個である。

$t=(P_n)_n\in T_\ell(E)^I$ とすると、$P_n\in E[\ell^n]$ は $I$ で固定されるので $P_n\in E(K^{\mathrm{nr}})$ である。$t\neq0$ なら、ある $n_0$ で $P_{n_0}\neq O$ となり、$\ell P_{n+1}=P_n$ から $n\ge n_0$ で $P_n$ の位数は $\ell^{n-n_0+1}$ 以上になって、上の有限性に反する。よって $T_\ell(E)^I=0$ である。$x\in V_\ell(E)^I$ なら、ある $m$ で $\ell^mx\in T_\ell(E)\cap V_\ell(E)^I=T_\ell(E)^I=0$ なので $x=0$ であり、$\varepsilon=2$ である。

とくに.還元の型は 3 つのどれか 1 つなので、1〜3 により $f=0$ は良い還元、$f=1$ は乗法的還元、$f\ge2$ は加法的還元にちょうど対応する。$\square$

この定理から、Szpiro予想 の定義「極小判別式と導手」で使われている「$f_p$ は良い還元で $0$、乗法的還元で $1$、加法的還元で $2$ 以上」が、Galois 表現による定義から導かれる。乗法的還元で $\varepsilon=1$ となるのは、$V_\ell(E)$ の中で $1$ の冪根に当たる直線だけが惰性群で固定され、$q$ の冪根の方向は動かされるからである。

有理数体上の導手と半安定性

$E$ を有理数体上の楕円曲線、$\Delta_E$ を大域極小方程式の判別式とする。

  1. 素数 $p$ が $N_E$ を割ることと、$E$ が $p$ で悪い還元をもつこと、$p\mid\Delta_E$ であることは同値である。
  2. $E$ がすべての素数で半安定還元をもつことと、$N_E$ が平方因子をもたないことは同値で、そのとき $N_E=\operatorname{rad}(\Delta_E)$($\Delta_E$ を割る素数の積)である。
指数ごとに読む

1:thm-cond-type により $f_p>0$ は悪い還元と同値で、悪い還元は極小方程式で $v_p(\Delta)>0$ となることである。大域極小方程式は各 $p$ で極小である(Szpiro予想 の「極小判別式と導手」の節)。2:$N_E$ が平方因子をもたないことは、すべての $p$ で $f_p\le1$ となることで、thm-cond-type によりすべての $p$ で半安定還元をもつことと同値である。そのとき $f_p=1$ となる $p$ は 1 により $\Delta_E$ を割る素数なので $N_E=\operatorname{rad}(\Delta_E)$ である。$\square$

剰余体の標数が 5 以上のとき

野性分岐の部分 $\delta$ が正になりうるのは、加法的還元のときだけである(thm-cond-type)。剰余体の標数が $5$ 以上なら、加法的還元でも $\delta=0$ となる。鍵は、基礎体に一意化元の $12$ 乗根を添えると還元が半安定になることで、この拡大の次数 $12$ が $p$ と素なので野性分岐が生じない。

一意化元の 12 乗根を添えると半安定になる

$p\ge5$ とし、$\varpi\in K^{\mathrm{sep}}$ を $\varpi^{12}=\pi$ となる元、$K_1:=K(\varpi)$ とする。このとき、$K$ 上の任意の楕円曲線 $E$ は $K_1$ の上で良い還元か乗法的還元をもつ。

座標を ϖ の冪で縮める

$X^{12}-\pi$ は Eisenstein 多項式なので、$K_1/K$ は次数 $12$ の完全分岐拡大で、$v_1:=12v$ が $K_1$ の正規付値、$\varpi$ が一意化元である。$K$ の標数は $0$ か $p\ge5$ なので、$E$ は短い Weierstrass 形 $y^2=x^3+Ax+B$($A,B\in K$)で表せる。$a:=v(A)$、$b:=v(B)$ とおく($A=0$ なら $a=\infty$。$\Delta\neq0$ なので $a,b$ の少なくとも一方は有限)。整数 $s:=\min(3a,2b)$ をとり、$x=\varpi^{2s}x'$、$y=\varpi^{3s}y'$ と置き換えると $y'^2=x'^3+A'x'+B'$、$A'=\varpi^{-4s}A$、$B'=\varpi^{-6s}B$ となる。$v_1(A')=12a-4s\ge0$、$v_1(B')=12b-6s\ge0$ で、少なくとも一方は $0$ である。$c_4'=-48A'$、$\Delta'=-16(4A'^3+27B'^2)$ であり、$p\ge5$ より $2,3$ は単元である。$v_1(A')=0$ なら $v_1(c_4')=0$ なので、半安定還元 の補題「極小性と型の判定」により $E$ は $K_1$ 上で良い還元か乗法的還元をもつ。$v_1(A')>0$、$v_1(B')=0$ なら $4A'^3+27B'^2\equiv27B'^2\not\equiv0\pmod{\varpi}$ なので $v_1(\Delta')=0$ で、同じ補題により良い還元をもつ。$\square$

剰余体の標数が 5 以上なら野性分岐の部分は 0

$p\ge5$ なら、$K$ 上の任意の楕円曲線 $E$ について $\delta(E/K)=0$ である。したがって $f(E/K)$ は、良い還元・乗法的還元・加法的還元に応じてそれぞれ $0,1,2$ である。

惰性群の像の位数を数える

thm-cond-type により、加法的還元の場合に $\delta=0$ を示せばよい。lem-cond-twelfth-root の $K_1$ をとる。$K_1$ の剰余体は $k$ なので、$K_1$ の最大不分岐拡大は合成体 $K_1K^{\mathrm{nr}}$ であり、$K_1$ の惰性群は $I_1:=\operatorname{Gal}(K^{\mathrm{sep}}/K_1K^{\mathrm{nr}})\subset I$ である。$\varpi$ の付値は $K^{\mathrm{nr}}$ の正規付値で $1/12$ であり、$K^{\mathrm{nr}}$ の値群は $\mathbb{Z}$ なので $[K_1K^{\mathrm{nr}}:K^{\mathrm{nr}}]\ge12$ である。$\varpi$ は $X^{12}-\pi$ の根なので逆の不等式も成り立ち、$[I:I_1]=12$ である。
$\rho\colon I\to\operatorname{Aut}(E[\ell])$ を作用とし、$H:=\rho(I)$、$H_1:=\rho(I_1)$ とおく。lem-cond-twelfth-root により $E$ は $K_1$ 上で半安定還元をもつので、$K_1$ に thm-cond-type の 4 を当てると $\lvert H_1\rvert$ は $1$ か $\ell$ である。$\rho^{-1}(H_1)=I_1\ker\rho$ は $I_1$ を含む部分群なので、$[H:H_1]=[I:I_1\ker\rho]$ は $[I:I_1]=12$ を割る。よって $\lvert H\rvert$ は $12\ell$ を割り、$p\ge5$、$\ell\neq p$ より $p$ と素である。$G_0\cong H$ なので、その Sylow $p$ 部分群 $G_1$ は自明で、$\delta=0$ である。$\square$

剰余体の標数が $2$ か $3$ のときは、加法的還元で $\delta>0$ となる例がある(ex-cond-32、ex-cond-27)。上の証明が使えないのは、半安定にするのに必要な拡大の次数が $p$ で割り切れうるからである。

同種写像での不変性

導手は同種写像で変わらない

$E,E'$ を $K$ 上の楕円曲線とし、$K$ 上定義された同種写像 $\varphi\colon E\to E'$ があるとする。

  1. $\varepsilon(E/K)=\varepsilon(E'/K)$ で、$E$ と $E'$ の還元の型は等しい。
  2. $\deg\varphi$ と素な $\ell\neq p$ で定めた $\delta$ について $\delta(E/K)=\delta(E'/K)$ である。
  3. $K$ が代数体の完備化なら $f(E/K)=f(E'/K)$ であり、代数体上の同種な楕円曲線の導手は等しい。
Tate 加群と等分点の同型

$d:=\deg\varphi$ とし、$\hat\varphi\colon E'\to E$ を双対同種写像とすると $\hat\varphi\circ\varphi=[d]$、$\varphi\circ\hat\varphi=[d]$ である(Sil09 Theorem III.6.1、p. 81、および 同種写像 の節「双対同種写像と同種関係」)。1:$\varphi$ は $K$ 上定義されているので、$\ell$ 冪等分点の上で $G_K$ の作用と可換で、$\mathbb{Z}_\ell$ 線型写像 $\varphi_\ell\colon T_\ell(E)\to T_\ell(E')$ を定める。$\hat\varphi_\ell\circ\varphi_\ell$ と $\varphi_\ell\circ\hat\varphi_\ell$ は $d$ 倍なので、$\mathbb{Q}_\ell$ に係数を広げた $V_\ell(E)\to V_\ell(E')$ は $G_K$ の作用と両立する同型である。よって固定部分の次元が等しく、$\varepsilon(E/K)=\varepsilon(E'/K)$ である。thm-cond-type により還元の型は $\varepsilon$ で決まる(良い・乗法的・加法的で $0,1,2$)ので、1 が従う。
2:$\ell\nmid d$ とする。$\varphi$ の核の元は $\hat\varphi\circ\varphi=[d]$ により位数が $d$ を割るので、位数 $\ell$ の元を含まない。よって $\varphi\colon E[\ell]\to E'[\ell]$ は単射で、両辺とも $\ell^2$ 個の元をもつので $G_K$ の作用と両立する全単射である。したがって $K(E[\ell])=K(E'[\ell])$ で、分岐群 $G_i$ と固定部分の次元がそろい、$\delta(E/K)=\delta(E'/K)$ である。3:$K$ が代数体の完備化なら $\delta$ は $\ell$ によらないので(「定義」の節の注意)、2 の $\ell$ で計算してよく、1 と合わせて $f$ が等しい。代数体上では各素イデアルで指数が等しい。$\square$

極小判別式は同種写像で変わりうるので、この命題は導手を判別式より扱いやすくする(ex-cond-11、ex-cond-32)。良い還元についての部分は Néron–Ogg–Shafarevich の判定法の系として知られている(Sil09 Corollary VII.7.2、p. 202)。

Ogg–Saito の公式と計算例

Ogg–Saitoの公式

$K$ を代数体の完備化、$E$ を $K$ 上の楕円曲線とし、$m$ を $E$ の極小正則モデルの特殊ファイバーの既約成分の個数(重複度は数えない)とする。このとき
$$ f(E/K)=v(\Delta_{\min})+1-m $$
が成り立つ。

Ogg–Saitoの公式の出典

この公式はこの記事では証明しない。剰余体の標数が $2$ で $K$ の標数が $0$ の場合を除いて Ogg が証明し、すべての場合を斎藤毅(Takeshi Saito)が任意の種数の曲線についての結果として示した(Sil09 Proposition C.16.2、p. 450)。

$m$ は小平の記号(小平邦彦(Kunihiko Kodaira)にちなむ。Tateのアルゴリズム で求まる)から次のように読める(Sil09 Table 15.1、p. 448)。

小平の記号$\mathrm{I}_0$$\mathrm{I}_n$$\mathrm{II}$$\mathrm{III}$$\mathrm{IV}$$\mathrm{I}_0^*$$\mathrm{I}_n^*$$\mathrm{IV}^*$$\mathrm{III}^*$$\mathrm{II}^*$
成分の個数 $m$$1$$n$$1$$2$$3$$5$$n+5$$7$$8$$9$

$m\ge1$ なので $f(E/K)\le v(\Delta_{\min})$ であり、有理数体上では $N_E$ は $\Delta_E$ を割る。乗法的還元($\mathrm{I}_n$、$n=v(\Delta_{\min})$)では右辺は $1$ になり、thm-cond-type の 2 と合う。

導手 11 の曲線

$E\colon y^2+y=x^3-x^2$ は $(a_1,a_2,a_3,a_4,a_6)=(0,-1,1,0,0)$ で、$\Delta=-11$、$c_4=16$ である。$11$ 以外の素数 $p$ では $v_p(\Delta)=0$ なので良い還元をもつ。$p=11$ では $v_{11}(\Delta)=1<12$ でこの方程式は極小、$v_{11}(c_4)=0$ なので乗法的還元をもつ(半安定還元 の補題「極小性と型の判定」)。thm-cond-type により $f_{11}=1$ で、$N_E=11$ である。
$E'\colon y^2+y=x^3-x^2-10x-20$ は $\Delta'=-11^5$、$c_4'=496=2^4\cdot31$ で、同じ理由で $11$ でだけ乗法的還元をもち、$N_{E'}=11$ である。$E$ と $E'$ は次数 $5$ の同種写像で結ばれる(Cre97 Table 1、p. 110 の $11\mathrm{A}3$ と $11\mathrm{A}1$)。極小判別式は $-11$ と $-11^5$ で異なるが、導手は prop-cond-isogeny のとおり等しい。

導手 32 の曲線と 2 次の同種写像

$E\colon y^2=x^3-x$ は $\Delta=64=2^6$、$c_4=48=2^4\cdot3$ である。奇素数では良い還元をもつ。$p=2$ では $v_2(\Delta)=6<12$ なので方程式は極小で、$v_2(c_4)=4>0$ より加法的還元をもつ。小平の記号は $\mathrm{III}$($m=2$)なので(Cre97 Table 1、p. 111 の $32\mathrm{A}2$)、thm-cond-ogg-saito から $f_2=6+1-2=5$、$N_E=32$ である。thm-cond-type の 3 から $\varepsilon=2$ なので $\delta=3$ である。
$E'\colon y^2=x^3+4x$ は $E$ と 2 次の同種写像で結ばれる($y^2=x^3+ax^2+bx$ と $Y^2=X^3-2aX^2+(a^2-4b)X$ を $a=0$、$b=-1$ で使う。Sil09 Example III.4.5、p. 70)。$\Delta'=-2^{12}$ で、この方程式は極小、小平の記号は $\mathrm{I}_3^*$($m=8$)である(Cre97 Table 1、p. 111 の $32\mathrm{A}1$)。公式は $f_2=12+1-8=5$ を与え、prop-cond-isogeny と合う。

剰余体の標数が 3 の例

$E\colon y^2+y=x^3$ は $\Delta=-27=-3^3$、$c_4=0$ である。$p\neq3$ では良い還元をもつ。$p=3$ では $v_3(\Delta)=3<12$ で方程式は極小、$v_3(c_4)>0$ で加法的還元をもつ。小平の記号は $\mathrm{II}$($m=1$)で(Cre97 Table 1、p. 111 の $27\mathrm{A}3$)、$f_3=3+1-1=3$、$N_E=27$ である。$\varepsilon=2$ なので $\delta=1$ である。

剰余体の標数が 5 以上の加法的還元

$E\colon y^2=x^3+5$ を $\mathbb{Q}_5$ 上で考える。$\Delta=-16\cdot27\cdot25$、$c_4=0$ なので $v_5(\Delta)=2<12$ で方程式は極小、加法的還元をもつ。thm-cond-tame により $f_5=2$ である。一意化元を $\pi=5$ にとると、lem-cond-twelfth-root の証明の置き換えでは $a=\infty$、$b=1$、$s=2$ となり、$y'^2=x'^3+5\varpi^{-12}=x'^3+1$ は $K_1$ 上で判別式が単元なので、$E$ は $K_1$ 上で良い還元をもつ。

反例:条件を外したとき

条件を外したときの反例
外す条件反例成り立たなくなること
惰性群の固定部分を $V_\ell(E)$ で測る$\mathbb{Q}_{11}$ 上の $E'\colon y^2+y=x^3-x^2-10x-20$ と $\ell=5$$I$ は $E'[5]$ に自明に作用するが、$E'$ は乗法的還元をもつ。$E'[5]$ で $\varepsilon$ を測ると $0$ になり、「$f=0$ は良い還元と同値」が崩れる
剰余体の標数が $5$ 以上$\mathbb{Q}_2$ 上の $y^2=x^3-x$加法的還元で $f_2=5\neq2$、$\delta=3>0$(ex-cond-32)
判別式を極小方程式でとる極小でない方程式 $y^2=x^3-16x$($y^2=x^3-x$ と同型)$v_2(\Delta)=18$ なので Ogg–Saito の公式の右辺は $18+1-2=17$ で、$f_2=5$ と合わない
導手の代わりに極小判別式を使うex-cond-11 の $E$ と $E'$同種な曲線で $-11$ と $-11^5$ と異なり、同種写像での不変性が崩れる
1 行目と 3 行目の確かめ

1 行目:$E'$ は $11$ で乗法的還元をもち、$v_{11}(\Delta_{\min})=5$ である(ex-cond-11)。prf-cond-type の 2 のとおり、$I$ の作用については $E'=E_q$、$v(q)=-v(j)=5$ としてよい。$q=11^5u$($u$ は単元)と書くと、$X^5-u$ は剰余体で重根をもたないので $u$ の $5$ 乗根 $w$ は $K^{\mathrm{nr}}$ に属し、$q_1:=11w$ は $q$ の $5$ 乗根で $K^{\mathrm{nr}}$ の元である。$\zeta_1$ も $K^{\mathrm{nr}}$ に属するので、$E'[5]$ の基底 $\zeta_1,q_1$ はどちらも $I$ で固定される。一方 $V_5(E')^I$ は thm-cond-type により 1 次元である。

3 行目:$y^2=x^3-x$ で $x=x'/4$、$y=y'/8$ とおくと $y'^2=x'^3-16x'$ となる($u=1/2$ の座標変換)。判別式は $u^{-12}=2^{12}$ 倍の $2^{18}$ である。極小方程式の判別式の付値は $6$ であり(ex-cond-32)、公式は極小方程式の付値で成り立つ。

使い所

  • L 関数と関数等式. 有理数体上の楕円曲線の完備化した L 関数 $\xi_E(s)=N_E^{s/2}(2\pi)^{-s}\Gamma(s)L_E(s)$ は全平面に延び、$\xi_E(s)=\pm\xi_E(2-s)$ を満たす(Sil09 Theorem C.16.3、p. 451。楕円曲線のL関数 の定理「関数等式」)。導手はこの式の $N_E^{s/2}$ として現れる。
  • モジュラー性. $E/\mathbb{Q}$ の L 関数の逆 Mellin 変換は、$\Gamma_0(N_E)$ の重さ $2$ の尖点形式である(Sil09 Theorem C.16.4、p. 451)。導手はモジュラー曲線 $X_0(N)$ のレベル $N$ を与える。
  • 判別式との比較. Szpiro予想 は、半安定な曲線について、任意の $\eta>0$ に対し $\lvert\Delta_E\rvert\le C(\eta)N_E^{6+\eta}$ となる定数 $C(\eta)$ があると予想する。半安定な曲線では cor-cond-global の $N_E=\operatorname{rad}(\Delta_E)$ により、判別式の冪の高さと根基の比較になり、abc予想 とつながる。
  • 一般化. 定義の $\varepsilon+\delta$ は、$\ell$ 進表現 $V_\ell(E)$ の Artin導手 にあたる量で、一般の Galois 表現の導手の特別な場合である。

関連項目

参考文献

[1]
Joseph H. Silverman, The Arithmetic of Elliptic Curves, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics 106, Springer, 2009, Example III.4.5(2 次の同種写像)p. 70、Theorem III.6.1(双対同種写像)p. 81、Proposition VII.2.1 p. 188、Proposition VII.3.1 (a) p. 192、Proposition VII.4.1 p. 195、Proposition VII.5.1 p. 196、Proposition VII.5.4 (a) p. 197、Theorem VII.6.1 p. 200、Theorem VII.7.1 と Corollary VII.7.2 pp. 201–202、Theorem C.14.1(Tate 曲線)p. 445、Table 15.1(小平の記号と成分の個数)p. 448、Proposition C.16.2(Ogg–Saito の公式)p. 450、Theorem C.16.3・C.16.4 p. 451

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