正規化(複素空間)

同義語:複素空間の正規化normalization of complex spaces解析的正規化

概要

正規化(複素空間)(normalization of a complex space)とは、被約な複素空間 $X$ に対する、正規な複素空間 $\widehat X$ と有限な全射正則写像 $\nu\colon\widehat X\to X$ の組で、内部をもたない解析集合 $T$ の外で双正則で、$T$ の逆像も内部をもたないもののことである。点 $x$ での局所環の全商環の中の整閉包は有限加群で、芽の既約成分ごとの局所整閉整域の直積になる。正規化は存在して一意であり(岡の正規化定理)、その構造層の直像は整閉包の層に等しい。このことから、普遍分母の存在、非正規点の集合が内部をもたない解析集合であること、$\nu^{-1}(x)$ の点の個数が芽の既約成分の個数に等しいことが従う。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 複素解析空間, 整閉包, 正規環, 連接解析層, Cartanの連接定理

被約な複素解析空間(以下、複素空間)$X$ の正規化とは、正規な複素空間 $\widehat X$ と有限な正則写像 $\nu\colon\widehat X\to X$ で、内部をもたない解析集合 $T$ の外では双正則で、$T$ の逆像も内部をもたないもののことである。直感的には、$X$ の特異点のうち「正規でない」部分をほどいた空間である。たとえば 2 本の直線が交わる $\{zw=0\}$ は 2 本の直線の非交和にほどかれ、尖点 $\{z^2=w^3\}$ は 1 本の直線にほどかれる。スキームの場合の同じ構成は 正規化 にあり、この記事は複素解析の場合を扱う。
局所的には、正規化は点 $x$ での正則関数の芽の環 $\mathcal{O}_{X,x}$ の全商環の中の整閉包 $\overline{\mathcal{O}_{X,x}}$ を構造層の茎とする空間である。この記事では、整閉包が $\mathcal{O}_{X,x}$ 上の有限加群で、芽の既約成分ごとの局所整域の直積になること(thm-ncs-finite)を完全に証明する。正規化の存在と一意性(岡の正規化定理)は引用し(thm-ncs-oka)、そこから普遍分母の存在、非正規点の集合の解析性、正規化のファイバーの点の個数が芽の既約成分の個数に等しいこと(thm-ncs-fiber)を導く。

定義

この記事で複素空間とは 複素解析空間 の定義「複素解析空間と正則写像」の意味のもの(Hausdorff で第 2 可算公理を満たす)とし、構造層の茎がすべて被約なとき被約という(複素空間の被約化)。以下 $X$ は被約な複素空間とする。可換環 $R$ の零因子でない元の全体を $S_R$ とし、局所化 $Q(R):=S_R^{-1}R$ を $R$ の全商環という。$R\to Q(R)$ は単射である。

整閉包と正規点

$x\in X$、$R:=\mathcal{O}_{X,x}$ とする。$Q(R)$ の元で $R$ 上整なもの($R$ 係数のモニック多項式の根)の全体を $\overline R$ と書き、$R$ の整閉包という。$\overline R=R$ のとき $x$ を $X$ の正規点といい、すべての点が正規点のとき $X$ を正規な複素空間という。正規でない点の全体を $N(X)$ と書く。

これは 複素解析空間の特異点 の定義「正規点」と同じ定義である。$x$ が正則点なら $R\cong\mathbb{C}\{z_1,\dots,z_d\}$ は一意分解整域なので整閉整域であり(整閉整域 の定理「一意分解整域の整閉性」)、$x$ は正規点である。
整閉包を層にまとめるために、有理型関数の層を用意する。正則関数 $b$ の芽が零因子でないことは近くの点に広がる。

零因子でない芽

$U\subset X$ を開集合、$b\in\mathcal{O}_X(U)$、$x\in U$ とし、芽 $b_x$ が $\mathcal{O}_{X,x}$ の零因子でないとする。このとき $x$ の開近傍 $V\subset U$ があって、すべての $y\in V$ で $b_y$ は $\mathcal{O}_{X,y}$ の零因子でない。

$b$ を掛ける写像 $u\colon\mathcal{O}_U\to\mathcal{O}_U$ は連接解析層の間の射で(連接解析層 の定理「岡の連接定理(引用)」)、茎の写像 $u_x$ は単射である。連接解析層 の命題「茎での性質の近傍への広がり」により、$x$ の開近傍 $V$ の上で $u$ は単射であり、各 $y\in V$ で $u_y$、すなわち $b_y$ を掛ける写像は単射である。$\square$

有理型関数の層と正規化の層
  1. 開集合 $U\subset X$ 上の有理型関数とは、芽の族 $s=(s_y)_{y\in U}$、$s_y\in Q(\mathcal{O}_{X,y})$ で、各点の開近傍 $W$ と $a,b\in\mathcal{O}_X(W)$ があって、すべての $y\in W$ で $b_y$ が零因子でなく $s_y=a_y/b_y$ となるものをいう。これらは $\mathcal{O}_X$ を含む $\mathcal{O}_X$ 代数の層 $\mathcal{M}_X$ をなす。
  2. 有理型関数 $s$ で、すべての $y\in U$ で $s_y$ が $\mathcal{O}_{X,y}$ 上整なものの全体を $\widehat{\mathcal{O}}_X(U)$ とおく。$\widehat{\mathcal{O}}_X$ を $X$ の正規化の層という。
層の茎

$x\in X$、$R:=\mathcal{O}_{X,x}$ とすると、$s\mapsto s_x$ により $\mathcal{M}_{X,x}\cong Q(R)$、$\widehat{\mathcal{O}}_{X,x}\cong\overline R$ である。

要点:単射は分母を払った等式が近くで成り立つことから、全射は lem-ncs-active による。

証明を開く

単射:$x$ の近くで $s=a/b$、$s'=a'/b'$ と書け、$s_x=s'_x$ とする。$Q(R)$ の中で $a_x/b_x=a'_x/b'_x$ なので、ある $c\in S_R$ について $c_x(a_xb'_x-a'_xb_x)=0$ であり、$c_x$ は零因子でないので $(ab'-a'b)_x=0$ である。よって $x$ の近傍で $ab'=a'b$ となり、そこでは各 $y$ で $s_y=a_y/b_y=a'_y/b'_y=s'_y$ である。全射:$a_x/b_x\in Q(R)$ の代表 $a,b$ を $x$ の近傍でとると、lem-ncs-active により近傍を縮めて $b_y$ はすべて零因子でなく、$(a_y/b_y)_y$ は有理型関数である。整閉包:$\widehat{\mathcal{O}}_{X,x}\subset\overline R$ は定義から明らかである。$h\in\overline R$ が $h^m+\sum_{k< m}c_kh^k=0$($c_k\in R$)を満たすとし、$h$ を代表する有理型関数 $s$ と $c_k$ の代表をとる。$s^m+\sum c_ks^k$ は $x$ での芽が $0$ の有理型関数なので、上の単射性により $x$ の近傍で $0$ であり、そこでは各 $s_y$ が $\mathcal{O}_{X,y}$ 上整である。よって $s\in\widehat{\mathcal{O}}_X$ である。$\square$

複素空間の正規化

被約な複素空間 $X$ の正規化とは、正規な複素空間 $\widehat X$ と正則写像 $\nu\colon\widehat X\to X$ の組で、次を満たすものをいう。

  1. $\nu$ は有限である:閉写像で、各ファイバー $\nu^{-1}(x)$ は有限集合である。また $\nu$ は全射である。
  2. 内部をもたない $X$ の解析集合 $T$ があって、$\nu^{-1}(T)$ は $\widehat X$ の中で内部をもたず、$\nu$ は $\widehat X\setminus\nu^{-1}(T)$ から $X\setminus T$ への双正則写像である。

条件 1・2 を満たす $\nu$ を一葉解析被覆(one-sheeted analytic covering)といい、正規化は源が正規な一葉解析被覆である(GR84 第 8 章 §1、p. 152 と §3.3、p. 161)。Dem12 (7.9)(p. 114)は、$T$ の代わりに $X$ の特異点集合を使い、閉写像の代わりに固有写像を要求する形で正規化を定義している。

整閉包の有限性

点 $x$ での整閉包は、芽の既約成分ごとに分かれ、それぞれが局所的な整閉整域で、全体は $\mathcal{O}_{X,x}$ 上の有限加群になる。これが正規化の局所的な姿である。

整閉包の有限性と分解

$x\in X$、$R:=\mathcal{O}_{X,x}$ とし、$R$ の極小素イデアルを $P_1,\dots,P_s$($s\ge1$)、$L_i:=\operatorname{Frac}(R/P_i)$、$L_i$ の中での $R/P_i$ の整閉包を $\overline R_i$ とする。

  1. $a/b\mapsto(\bar a/\bar b)_i$ は環の同型 $Q(R)\cong L_1\times\dots\times L_s$ を与える。
  2. この同型で $\overline R$ は $\overline R_1\times\dots\times\overline R_s$ に対応する。各 $\overline R_i$ は局所環であり、整閉整域である。
  3. $\overline R$ は $R$ 上の有限生成加群である。$R\subset E\subset Q(R)$ を満たす部分環 $E$ で $R$ 上有限なものは、すべて $\overline R$ に含まれる。
  4. $\overline R$ の極大イデアルはちょうど $s$ 個である。とくに $x$ が正規点なら $s=1$ で、$R$ は整閉整域である。

要点:零因子でない元は極小素イデアルの外の元なので、全商環は成分の商体の直積になる。各成分は Rückert の座標で $\mathbb{C}\{z_1,\dots,z_d\}$ 上有限になり、分離拡大のトレースの議論で整閉包が有限になる。収束冪級数環は Hensel 局所環なので、有限な整域は局所環である。

詳しい証明を開く

零因子。 $R$ は Noether 環なので極小素イデアルは有限個であり(極小素イデアル の定理「Noether環における有限性」)、$R$ は被約なので $P_1\cap\dots\cap P_s=0$ である。$S_R=R\setminus(P_1\cup\dots\cup P_s)$ を示す。$c$ がすべての $P_i$ の外にあり $cx=0$ なら、各 $i$ で $x\in P_i$ なので $x=0$ である。逆に $c\in P_1$ とする。$s=1$ なら $c\in P_1=0$ である。$s\ge2$ なら、極小素イデアルは互いに含まないので $b_j\in P_j\setminus P_1$($j\ge2$)がとれ、$b:=\prod_{j\ge2}b_j$ は $P_1$ に属さず($P_1$ は素イデアル)、$P_2\cap\dots\cap P_s$ に属する。$cb\in\bigcap_iP_i=0$、$b\ne0$ なので $c$ は零因子である。

1。 $b\in S_R$ の像は各 $R/P_i$ で $0$ でないので、写像 $\varphi\colon Q(R)\to\prod_iL_i$ は well-defined な環準同型である。$\varphi(a/b)=0$ なら $a\in\bigcap_iP_i=0$ なので単射である。全射:各 $i$ で $\beta_i\in\bigl(\bigcap_{j\ne i}P_j\bigr)\setminus P_i$ を上と同じようにとる($s=1$ なら $\beta_1=1$)。$a,c\in R$、$c\notin P_i$ に対し $u:=c\beta_i+\sum_{j\ne i}\beta_j$ とおくと、$R/P_i$ での像は $\bar c\bar\beta_i\ne0$、$R/P_j$($j\ne i$)での像は $\bar\beta_j\ne0$ なので $u\in S_R$ であり、$\varphi(a\beta_i/u)$ は第 $i$ 成分が $\bar a/\bar c$ で他の成分が $0$ である。これらの和で $\prod_iL_i$ のすべての元が得られる。

2 の前半。 $\prod_iL_i$ の元 $y=(y_i)$ が $R$ 上整なら、射影により各 $y_i$ は $R/P_i$ 上整である。逆に各 $y_i$ が $R/P_i$ 上整で、$f_i\in R[T]$ がモニックで $\bar f_i(y_i)=0$ とする。第 $i$ 成分だけが $y_i$ の元 $y^{(i)}$ は $Tf_i(T)$ の根である(第 $i$ 成分では $y_if_i(y_i)=0$、他の成分では $0$)。整な元の和は整なので(整拡大 の命題「整な元の和と積」)、$y=\sum_iy^{(i)}$ は $R$ 上整である。

各成分の有限性。 $R$ は局所模型により $\mathcal{O}_n/J$($J$ は根基イデアル)と書け、$R/P_i\cong\mathcal{O}_n/\mathfrak{p}_i$($\mathfrak{p}_i\supset J$ は $\mathcal{O}_n$ の素イデアルで $\mathfrak{p}_i\ne\mathcal{O}_n$)である。$\mathfrak{p}_i=0$ なら $R/P_i=\mathcal{O}_n$ は一意分解整域なので整閉で、$\overline R_i=\mathcal{O}_n$ は局所環である。$\mathfrak{p}_i\ne0$ なら、Rückertの零点定理 の補題「素イデアルに合わせた座標」により、線形な座標変換の後 $A_i:=\mathbb{C}\{z_1,\dots,z_d\}\to R/P_i$ は単射で、$R/P_i$ は $A_i$ 上有限生成である。$A_i$ は Noether 環で一意分解整域なので整閉である。$R/P_i$ の $A_i$ 加群の生成元 $\beta_1,\dots,\beta_r$ は $A_i$ 上整なので $K_i:=\operatorname{Frac}(A_i)$ 上代数的であり、$K_i[\beta_1,\dots,\beta_r]$ は有限次元の整域なので体である。これは $R/P_i$ を含むので $L_i$ に等しく、$L_i/K_i$ は有限次拡大で、標数 $0$ なので分離拡大である。整閉包の有限性 の定理「分離拡大における整閉包の有限性」により、$L_i$ の中での $A_i$ の整閉包 $B_i$ は $A_i$ 上有限である。$B_i=\overline R_i$ である:$B_i$ の元は $A_i\subset R/P_i$ 上整なので $R/P_i$ 上整であり、逆に $R/P_i$ 上整な元は、$R/P_i$ が $A_i$ 上整なので $A_i$ 上整である(整拡大 の命題「整拡大の推移性」)。$A_i$ 上の生成元は $R/P_i$ 上も、したがって $R$ 上も $\overline R_i$ を生成する。

局所性。 $A_i$ は Hensel 局所環であり(Hensel局所環 の例「収束する冪級数の環」。$d=0$ なら $A_i=\mathbb{C}$ は体)、$\overline R_i$ は有限 $A_i$ 代数なので有限個の局所環の直積である(同じ記事の定理「Hensel 局所環の特徴づけ」の 3)。$\overline R_i$ は整域なので $0,1$ 以外の冪等元をもたず、直積の因子は 1 つ、すなわち $\overline R_i$ は局所環である。$\overline R_i$ は $L_i$ の中で整閉な整域である($L_i$ の元で $\overline R_i$ 上整なものは推移性により $R/P_i$ 上整)。

3。 2 により $\overline R\cong\prod_i\overline R_i$ は有限個の有限 $R$ 加群の直和なので有限生成である。$E$ が $R$ 上有限なら、整拡大 の定理「有限生成な加群による判定」(3 ⇒ 1)により $E$ の元は $R$ 上整で、$E\subset\overline R$ である。

4。 局所環 $C_1,\dots,C_s$ の直積の極大イデアルは $C_1\times\dots\times\mathfrak{m}_{C_i}\times\dots\times C_s$ の $s$ 個である(直積のイデアルは成分のイデアルの直積で、商が体になるのは 1 つの成分だけが極大イデアルで他の成分が全体のとき)。$x$ が正規点なら $\overline R=R$ は局所環なので $s=1$ であり、$P_1=0$、$R=\overline R_1$ は整閉整域である。$\square$

4 の後半は 複素解析空間の特異点 の補題「正規な局所環は整閉整域」と同じ主張で、正規点では芽 $(X,x)$ が既約であることを意味する(極小素イデアルと芽の既約成分の対応は thm-ncs-fiber の前に述べる)。整閉包の有限性は GR84 第 6 章 §4.1(p. 123)にも述べられている。

正規化の存在と一意性

岡の正規化定理

$X$ を被約な複素空間とする。

  1. 正規化の層 $\widehat{\mathcal{O}}_X$ は連接な $\mathcal{O}_X$ 加群である。
  2. $X$ の正規化 $\nu\colon\widehat X\to X$ が存在する。
  3. 正規化 $\nu\colon\widehat X\to X$ について、$\nu^\sharp\colon\mathcal{O}_X\to\nu_*\mathcal{O}_{\widehat X}$ は $\mathcal{O}_X$ 代数の層の同型 $\widehat{\mathcal{O}}_X\cong\nu_*\mathcal{O}_{\widehat X}$ に延びる。
  4. $\nu_1\colon\widehat X_1\to X$、$\nu_2\colon\widehat X_2\to X$ が正規化なら、双正則写像 $\phi\colon\widehat X_1\to\widehat X_2$ で $\nu_1=\nu_2\circ\phi$ となるものがただ 1 つある。
所在と証明の筋

この記事では証明しない。1 は GR84 第 8 章 §2.3(主張 p. 158、証明 p. 159)、2 は同じ章 §3.3(p. 161)、3 は一葉解析被覆についての同じ章 §1.3(p. 155)、4 は同じ章 §4.2(p. 164)にある。Dem12 では一意性が (7.11)、存在が (7.12)(pp. 114–115)、3 にあたる同型が (7.14)(p. 115。弱正則関数の層で述べる)であり、(7.12) は Oka normalization theorem と呼ばれている。GR84 の筋は次のとおりである。点 $x$ で $\overline{\mathcal{O}_{X,x}}$ の有限個の生成元(thm-ncs-finite の 3)を近傍の有理型関数 $h_1,\dots,h_k$ に代表させ、$\mathcal{O}'=\mathcal{O}_X[h_1,\dots,h_k]$ を、$(z,h_1(z),\dots,h_k(z))$ の像の閉包として作った一葉解析被覆 $Z\to X$ の構造層の直像として実現する。そのファイバーの点はすべて正規点であり、正規点の集合は開集合なので、$x$ の近くで $\mathcal{O}'=\widehat{\mathcal{O}}_X$ となって 1 が従う。こうして局所的に作った被覆を、生成元のとり方によらない標準的な同型で貼り合わせて 2 を得る。

普遍分母と非正規点

普遍分母

$X$ を被約な複素空間、$x\in X$ とする。$x$ の開近傍 $V$ と $g\in\mathcal{O}_X(V)$ があって、すべての $y\in V$ で $g_y$ は零因子でなく、$g_y\,\widehat{\mathcal{O}}_{X,y}\subset\mathcal{O}_{X,y}$ である。このような $g$ を $V$ 上の普遍分母という。

thm-ncs-oka の 1 により、$x$ の開近傍 $W$ と $s_1,\dots,s_m\in\widehat{\mathcal{O}}_X(W)$ で、すべての $y\in W$ で $\widehat{\mathcal{O}}_{X,y}$ を生成するものがある。def-ncs-sheaves の 1 により、$x$ の開近傍 $V\subset W$ と $a_i,b_i\in\mathcal{O}_X(V)$ で、すべての $y\in V$ で $b_{i,y}$ は零因子でなく $s_{i,y}=a_{i,y}/b_{i,y}$ となるものがある(有限個の $i$ の近傍の共通部分をとる)。$g:=b_1\cdots b_m$ とおくと、零因子でない元の積は零因子でないので $g_y$ は零因子でなく、$g\,s_i=a_i\prod_{j\ne i}b_j\in\mathcal{O}_X(V)$ である。$h\in\widehat{\mathcal{O}}_{X,y}$ は $h=\sum_ic_is_{i,y}$($c_i\in\mathcal{O}_{X,y}$)と書けるので、$g_yh=\sum_ic_i(gs_i)_y\in\mathcal{O}_{X,y}$ である。$\square$

$g$ は値が $0$ になる点をもってよい(ex-ncs-cusp では $g=w$)。$g$ は $y$ と $h$ を選ぶ前に 1 つ固定され、近くのすべての点のすべての整な有理型関数に同時に効く。

非正規点の集合

被約な複素空間 $X$ の非正規点の集合 $N(X)$ は、内部をもたない $X$ の解析集合である。とくに正規点の全体は稠密な開集合である。

包含 $\mathcal{O}_X\subset\widehat{\mathcal{O}}_X$ はどちらも連接な層の間の射なので(thm-ncs-oka の 1)、余核 $\widehat{\mathcal{O}}_X/\mathcal{O}_X$ は連接であり(連接解析層 の命題「連接解析層の基本性質」の 2)、prop-ncs-stalks により $N(X)$ はその台に等しい。台は解析集合である(同じ記事の定理「台とファイバーの次元の解析性」の 2)。正則点は正規点なので $N(X)\subset\operatorname{Sing}X$ であり、$X$ は被約なので $\operatorname{Sing}X$ は内部をもたない(複素解析空間の特異点 の定理「特異点集合の解析性」の 2)。$\square$

ファイバーと芽の既約成分

$x\in X$ の近くの局所模型を $V\subset D\subset\mathbb{C}^n$、$\mathcal{O}_{X,x}=\mathcal{O}_{D,x}/J$ とする。$X$ は被約なので $J$ は根基イデアルで、Rückertの零点定理 の定理「Rückert の零点定理」により $J=I_x(V)$ である。芽 $(V,x)$ の既約分解を $X_1\cup\dots\cup X_s$ とすると、$I_x(V)=\mathfrak{p}_1\cap\dots\cap\mathfrak{p}_s$、$\mathfrak{p}_i:=I_x(X_i)$ は互いに含まない素イデアルである(解析集合(複素解析) の定理「既約分解」と命題「芽とイデアルの対応」の 3)。$J$ を含む素イデアルは $\mathfrak{p}_1\cdots\mathfrak{p}_s$ を含むのでどれかの $\mathfrak{p}_i$ を含み、したがって $\mathcal{O}_{X,x}$ の極小素イデアルはちょうど $\mathfrak{p}_i/J$ の $s$ 個である。この $s$ を芽 $(X,x)$ の既約成分の個数という。

有限写像の直像の茎

$\nu\colon Y\to X$ を Hausdorff 空間の間の連続な閉写像で、ファイバー $\nu^{-1}(x)=\{y_1,\dots,y_t\}$ が有限なものとし、$\mathcal{F}$ を $Y$ 上の環の層とする。このとき制限写像は環の同型 $(\nu_*\mathcal{F})_x\cong\mathcal{F}_{y_1}\times\dots\times\mathcal{F}_{y_t}$ を与える。

要点:ファイバーの点を互いに交わらない近傍で囲むと、閉写像であることから、$x$ の小さい近傍の逆像はそれらの近傍に入る。

証明を開く

$y_i$ の互いに交わらない開近傍 $W_1,\dots,W_t$ をとる。$y_i$ の開近傍 $N_i\subset W_i$ が与えられたとき、$C:=Y\setminus\bigcup_iN_i$ は閉集合で $\nu(C)$ は $x$ を含まない閉集合なので、$V_0:=X\setminus\nu(C)$ は $x$ の開近傍で $\nu^{-1}(V_0)\subset\bigcup_iN_i$ である。よって $x$ の開近傍 $V\subset V_0$ について $\nu^{-1}(V)$ は互いに交わらない開集合 $\nu^{-1}(V)\cap W_i$ の和で、$\mathcal{F}(\nu^{-1}V)=\prod_i\mathcal{F}(\nu^{-1}V\cap W_i)$ である。いま示したことから、$V$ を動かすと開集合 $\nu^{-1}V\cap W_i$ は $y_i$ の近傍の基本系をなすので、帰納極限をとって主張を得る($t=0$ なら両辺は $0$ である)。$\square$

正規化のファイバー

$\nu\colon\widehat X\to X$ を被約な複素空間 $X$ の正規化、$x\in X$ とする。$\nu^{-1}(x)$ の点の個数は、芽 $(X,x)$ の既約成分の個数に等しい。とくに $\nu^{-1}(x)$ が 1 点であることと $(X,x)$ が既約であることは同値であり、すべての点で芽が既約なら $\nu$ は同相写像である。

$\nu^{-1}(x)=\{y_1,\dots,y_t\}$ とする。thm-ncs-oka の 3、prop-ncs-stalks、lem-ncs-direct-image により、環の同型 $\overline{\mathcal{O}_{X,x}}\cong\widehat{\mathcal{O}}_{X,x}\cong(\nu_*\mathcal{O}_{\widehat X})_x\cong\prod_{i=1}^t\mathcal{O}_{\widehat X,y_i}$ がある。右辺は $t$ 個の局所環の直積なので極大イデアルはちょうど $t$ 個で(prf-ncs-finite の 4)、左辺の極大イデアルは $s$ 個である(thm-ncs-finite の 4)。よって $t=s$ である。すべての点で $s=1$ なら $\nu$ は全単射な連続閉写像なので同相写像である。$\square$

GR84 第 8 章 §1.2(p. 154)は一葉解析被覆のファイバーと成分の個数の関係を述べ、Dem12 は (7.12) の証明の後(p. 115)で同じ事実と、局所既約な空間の正規化が同相写像であること((7.13))を述べている。

例

以下の 3 つの例では、$\widehat X$ は $\mathbb{C}$ またはその非交和で、複素多様体なので正規である。$X$ には被約な構造($X$ の上で消える関数の芽で割った構造層)を入れる。$\nu$ は $\mathbb{C}^2$ への正則写像で像が $X$ に入り、源は被約なので($X$ の上で消える関数の引き戻しは値がすべて $0$ なので $0$ である)、$X$ への正則写像である。

2 直線の和(結節点)

$X:=\{zw=0\}\subset\mathbb{C}^2$、$\widehat X:=\mathbb{C}\times\{1,2\}$、$\nu(t,1):=(t,0)$、$\nu(t,2):=(0,t)$ とする。

  1. 正規化であること。 $\nu$ は各 $\mathbb{C}\times\{i\}$ を閉集合である座標軸へ同相に写すので閉写像で、全射、ファイバーは高々 2 点である。$T:=\{0\}$ とすると $\nu^{-1}(T)=\{(0,1),(0,2)\}$ は内部をもたず、$X\setminus T=(\mathbb{C}^\times\times\{0\})\sqcup(\{0\}\times\mathbb{C}^\times)$ の上の逆写像 $(z,0)\mapsto(z,1)$、$(0,w)\mapsto(w,2)$ は正則である。
  2. 原点の局所環。 $R:=\mathbb{C}\{z,w\}/(zw)$ の極小素イデアルは $(z)$、$(w)$ の像で、$R/(w)\cong\mathbb{C}\{z\}$、$R/(z)\cong\mathbb{C}\{w\}$ は整閉である。thm-ncs-finite により $\overline R\cong\mathbb{C}\{z\}\times\mathbb{C}\{w\}$ であり、$R$ は $f\mapsto(f(z,0),f(0,w))$ により、定数項の等しい組の全体と同一視される。$e:=z/(z+w)\in Q(R)$ は $(1,0)$ に対応し、$\overline R=R+Re$ である。$\nu^{-1}(0)$ は 2 点で、芽の既約成分(2 本の軸)の個数に等しい(thm-ncs-fiber)。
  3. 普遍分母。 $g:=z+w$ は零因子でなく、$ge=z\in R$ なので $g\overline R\subset R$ である。原点以外の点は正則点なので、$g$ は $X$ 全体で普遍分母である。
尖点

$X:=\{z^2=w^3\}\subset\mathbb{C}^2$、$\widehat X:=\mathbb{C}$、$\nu(t):=(t^3,t^2)$ とする。

  1. 正規化であること。 $\nu$ は同相写像であり、$w\ne0$ の点での逆写像は $t=z/w$ である(複素解析空間の特異点 の例「尖点」)。$X$ の点で $w=0$ なら $z=0$ なので、$z/w$ は $X\setminus\{0\}$ の上で正則であり、$T:=\{0\}$ について条件 2 が成り立つ。
  2. 原点の局所環。 複素解析空間の特異点 の命題「尖点の局所環」により、$R:=\mathcal{O}_{X,0}$ は $S:=\mathbb{C}\{t^2,t^3\}$ と同型な整域で、$\mathbb{C}\{t\}=S+St$ である。$t=t^3/t^2$ は $S$ の商体に属し、$T^2-t^2=0$ の根なので $S$ 上整である。$\mathbb{C}\{t\}$ は整閉なので、$\overline R\cong\mathbb{C}\{t\}$ であり、$t\notin S$ なので原点は正規点でない。$N(X)=\{0\}$ で、$\nu^{-1}(0)$ は 1 点、芽は既約である。
  3. 普遍分母。 $g:=w$($t^2$ に対応)について $t^2(S+St)\subset S$ なので $g\overline R\subset R$ であり、$g$ は原点で値 $0$ をとるが零因子ではない。
結節点をもつ 3 次曲線

$X:=\{w^2=z^2(1+z)\}\subset\mathbb{C}^2$、$\widehat X:=\mathbb{C}$、$\nu(t):=(t^2-1,\,t^3-t)$ とする。$X$ は大域的には 1 つの曲線だが、原点の芽は 2 つに分かれる。

  1. 正規化であること。 $(t^3-t)^2=t^2(t^2-1)^2$ なので $\nu(\mathbb{C})\subset X$ である。$X$ の点で $z=0$ なら $w=0$ である。$z\ne0$ の点 $(z,w)\in X$ については $t:=w/z$ が $t^2=1+z$、$t^3-t=tz=w$ を満たし、逆に $\nu(t)=(z,w)$ なら $t(t^2-1)=w$ から $t=w/z$ である。よって $\nu$ は $X\setminus\{0\}$ の上で全単射で、逆写像 $w/z$ は正則であり、$\nu^{-1}(0)=\{\pm1\}$ である。$|t|^2=|1+z|\le1+|z|$ なので有界集合の逆像は有界で、$\nu$ は固有写像、したがって閉写像である(固有写像 の系「固有写像は閉写像」)。$T:=\{0\}$ とすればよい。
  2. ファイバーと既約成分。 原点の近くで $1+z=u(z)^2$、$u(0)=1$ となる正則関数 $u$ をとると $w^2-z^2(1+z)=(w-zu)(w+zu)$ である。2 つの因子は原点で勾配が $0$ でないので、零点集合はそれぞれ原点で滑らかな曲線の芽であり、既約である(消滅イデアルは因子が生成する素イデアル)。2 つの芽は $z\ne0$ の点で $w$ の値が異なるので相異なる。よって芽 $(X,0)$ の既約成分は 2 つで、$\nu^{-1}(0)$ の 2 点 $t=\pm1$ がそれぞれに対応する。

反例:仮定を外した場合

thm-ncs-fiber の「ファイバーの点の個数=芽の既約成分の個数」は、正規化の定義の条件を 1 つ外すと成り立たない。

外す条件反例成り立たなくなること
$\widehat X$ が正規$X=\{zw=0\}$、$\nu=\mathrm{id}_X$原点のファイバーは 1 点だが既約成分は 2 つ
$\nu$ が閉写像$X=\{zw=0\}$、$\widehat X=\mathbb{C}\sqcup\mathbb{C}^\times$、$\nu$ は ex-ncs-node の写像を制限したもの原点のファイバーは 1 点だが既約成分は 2 つ
$\nu^{-1}(T)$ が内部をもたない$X=\mathbb{C}$、$\widehat X=\mathbb{C}\sqcup\{p\}$、$\nu(p)=0$、$T=\{0\}$原点のファイバーは 2 点だが既約成分は 1 つ
反例の確かめ
  1. $\mathrm{id}_X$ は有限・全射で、$T=\{0\}$ の外で双正則である。破れているのは $X$ が原点で正規でないこと(ex-ncs-node の 2 で $e\notin R$)だけである。
  2. $\widehat X=(\mathbb{C}\times\{1\})\sqcup(\mathbb{C}^\times\times\{2\})$ は複素多様体なので正規で、$\nu$ は全射、ファイバーは有限、$T=\{0\}$ の逆像 $\{(0,1)\}$ は内部をもたず、その外で双正則である。しかし閉集合 $\{(t,2)\mid 0<|t|\le1\}$ の像 $\{0\}\times\{0<|w|\le1\}$ は $X$ の閉集合でない。
  3. 1 点 $p$ の局所環 $\mathbb{C}$ は体なので正規であり、$\nu$ は閉写像・全射でファイバーは有限、$\widehat X\setminus\nu^{-1}(T)=\mathbb{C}\setminus\{0\}$ から $X\setminus T$ への双正則写像である。しかし $\nu^{-1}(T)=\{0,p\}$ は孤立点 $p$ を含み、内部をもつ。

補足

正規な空間の特異点集合は余次元が $2$ 以上であり(複素解析空間の特異点 の定理「正規点での特異点集合の余次元」)、とくに 1 次元の複素空間の正規化は特異点のない曲線である(同じ記事の系「1 次元以下の正規点」)。正規化の構成には、解析集合の消滅イデアル層の連接性(Cartanの連接定理)と構造層の連接性(岡の連接定理)が基礎として使われる。

関連項目

参考文献

[1]
Hans Grauert, Reinhold Remmert, Coherent Analytic Sheaves, Springer, 1984, 第 6 章 §4.1(p. 123、整閉包);第 8 章 §1(p. 152、一葉解析被覆)、§1.2(p. 154)、§1.3(p. 155、有理型関数の層と整閉包の層の同型)、§2.3(pp. 158–159、正規化の層の連接性)、§3.3(p. 161、正規化の存在)、§4.2(p. 164、一意性)

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